JP2012001765A - ステアリングラックバー用棒鋼およびその製造方法 - Google Patents

ステアリングラックバー用棒鋼およびその製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】曲げ強度に優れ、曲げ負荷を与えた時の脆性的な破断の抑制が可能で、ステアリングラックバーの素材として好適に用いることができるステアリングラックバー用棒鋼の提供。
【解決手段】C:0.37〜0.48%、Si:0.15%を超えて0.30%未満、Mn:0.60〜1.10%、P≦0.03%、S:0.020〜0.070%、Cr:0.05〜0.20%、B:0.0005〜0.0050%、N≦0.010%、Ti:0.005〜0.10%、Al:0.005〜0.05%及びO≦0.0020%を含有し、残部がFe及び不純物からなり、特定量のMo及びNbの1種以上を含んでもよい棒鋼であって、表面からの深さがD/4位置の組織が、1)焼入れ処理後のマルテンサイト組織が面積分率で70%以上及び2)旧オーステナイトの平均粒度番号が7番以上、を満足するステアリングラックバー用棒鋼。ただし、Dは棒鋼の直径を表す。
【選択図】なし

Description

本発明は、自動車のステアリング機構に用いられるステアリングラックバー用棒鋼およびその製造方法に関する。
ステアリング機構は自動車の進行方向を制御する装置であり、これが故障すると重大な事故を招く恐れがある。この機構の中で、ステアリングラックバーは左右両輪をつなぐ骨組み的な役割を担っている。このため、ステアリングラックバーには、走行中に大きな荷重が作用した際にも脆性的な破断を生じて操舵不能にならないことが要求される。
上記の要求を満たすため、ステアリングラックバーには走行中の大きな荷重に耐え得る曲げ強度が求められ、熱間加工して得た鋼材を用いて、焼入れ焼戻しの熱処理を施した後に歯形部を切削し、その歯形部に高周波焼入れを施すことによって製造されている。
焼入れ焼戻しの熱処理を施すことによって高靱性化が達成されて高い曲げ強度を確保することができ、さらに、高周波焼入れすることによって、歯形部の耐摩耗性を高めることもできる。
しかしながら、近年の地球温暖化防止を背景とした自動車の軽量化推進に伴うステアリング機構の小型化、また、エンジンの高出力化などにより、ステアリングラックバーの負荷荷重も増大化している。
このため、ステアリングラックバーの強度、靱性などの特性をさらに一層高めることが可能で、ステアリングラックバーの素材として好適なステアリングラックバー用鋼材、なかでも、ステアリングラックバー用棒鋼の開発が望まれている。
このため、例えば、特許文献1〜3に、高周波焼入れを伴い、曲げ強度および/または衝撃特性に優れた鋼材が提案されている。
すなわち、特許文献1に、曲げ特性に極めて優れる「ステアリングラック用鋼」、具体的には、質量%で、C:0.40〜0.60%、Si:0.05〜0.50%、Mn:0.05〜1.50%、およびS:0.004〜0.100%を含有し、さらに他の元素として、Cr:1.5%以下(0%を含まず)、Al:0.0005〜0.10%、およびN:0.002〜0.020%よりなる群から選択される少なくとも1種の元素を含有し、必要に応じて、B:0.0005〜0020%を、単独でまたはTi:0.005〜0.050%と共に含有し、残部はFeおよび不可避的不純物からなる棒鋼であって、焼入れおよび短時間焼戻しによって、棒鋼の表面から深さD/4(Dは棒鋼の直径を示す)の部分の焼入れ・焼戻し組織が、「焼戻しベイナイト組織と焼戻しマルテンサイト組織が合計で20〜100%(面積百分率)」および「再生パーライト組織が0〜50%(面積百分率)」に調整されている、曲げ特性に優れたステアリングラック用鋼が開示されている。さらに、上記の化学成分を有する鋼材を圧延し、得られる棒鋼を温度820℃以上に加熱し、水冷にて室温まで制御冷却した後、温度680℃以上の雰囲気温度に加熱した炉に入れて20分以下の短時間焼戻し処理を行い室温まで空冷する「曲げ特性に優れたステアリングラック用鋼」の製造方法も開示されている。
特許文献2に、静的または動的に過大な荷重が作用しても脆性的に破損することのない、「曲げ特性に優れる高周波焼入れ鋼」、具体的には、質量%で、C:0.30〜0.60%、Si:0.50%以下、Mn:0.20〜2.0%、B:0.0005〜0.0050%、N:0.020%以下、Ti:0.1%以下、かつ、TiとNの含有量の比率が3.42≦Ti/N≦8.0であり、必要に応じて、Ni、Mo、V、Cr、Nb、Zr、Ta、Al、S、Pb、Bi、TeおよびCaのうちの1種以上を含有し、残部Feおよび不可避不純物からなることを特徴とする、曲げ特性に優れる高周波焼入れ用鋼が開示されている。
特許文献3に、高周波焼入れによって浸炭焼入れの場合と同等以上の曲げ疲労強度を確保することができる「高周波焼入れ用鋼材」、具体的には、質量%で、C:0.35〜0.65%、Si:0.50%以下、Mn:0.65〜2.00%、P:0.015%以下、S:0.003〜0.080%、Mo:0.05〜0.50%、Al:0.10%以下、N:0.0070%以下およびO:0.0020%以下を含有し、必要に応じて、B:0.0005〜0.0050%、Ti:0.045%以下でかつ3.4N〜(3.4N+0.02)%、Cu:0.20%以下、Ni:0.20%以下、Cr:0.20%以下、Nb:0.30%以下、V:0.20%以下、Ca:0.01%以下、Pb:0.30%以下、Bi:0.03%以下およびTe:0.10%以下のうちの1種以上を含有し、残部はFeおよび不純物からなり、さらにマルテンサイトが面積分率で70%以上を占める組織であることを特徴とする高周波焼入れ用鋼材が開示されている。
特開2003−166036号公報 特開平10−8189号公報 特開2007−131871号公報
前述の特許文献1で提案されたステアリングラック用鋼および特許文献2で提案された高周波焼入れ用鋼は、曲げ強度に優れ、かつ、曲げ負荷を与えた時の脆性的な破断を安定して抑制できるという性能を必ずしも確保できる技術ではない。
特許文献3で提案された技術は、従来の浸炭焼入れを高周波焼入れに変更して生産効率を高めた場合でも、浸炭焼入れの場合と同等以上の曲げ疲労強度を確保することができるので、自動車部品および建設機械部品の素材として好適に用いることができる。しかしながら、0.05〜0.5%のMoの含有を必須としている。このため、最近のMo価格が高騰した状況下では、多量のMoを含有させる場合には、合金コストが嵩むこととなって、産業界からの合金コスト低減化という要望に対しては必ずしも添えないこともある。
本発明は、上記現状に鑑みてなされたもので、その目的は、Moを必ずしも含有させずとも曲げ強度に優れ、かつ、曲げ負荷を与えた時の脆性的な破断の抑制が可能であり、ステアリングラックバーの素材として好適に用いることができるステアリングラックバー用棒鋼とその製造方法を提供することである。
本発明者らは、前記の目的を達成するためには、特に、曲げ負荷を与えた時に脆性的に破断しない条件を見出すことが第一義であると考えた。そして、ステアリングラックバーに歯形部を切削加工する前の棒鋼の組織を制御すれば、歯形部に高周波焼入れを施して仕上げたステアリングラックバーに曲げ負荷を与えて、き裂を発生させても、き裂の進展が途中で停留し脆性的に破断することを防げるとの結論に達した。
そこで、本発明者らは、ステアリングラックバー用棒鋼の化学組成および組織について種々の調査・検討を行った。
その結果、下記(a)〜(e)の事項が明らかになった。
(a)高周波焼入れを施して表面を硬化したステアリングラックバーに曲げ、衝撃などの外力が加わった際に生ずるき裂は、高周波焼入れした最表層部、特に、歯形部の歯底から発生する。したがって、この初期き裂の発生限界応力を向上させることがステアリングラックバーの曲げ強度向上につながる。
(b)初期き裂の発生限界応力を向上させるには、素材強度の向上と高周波焼入れ部の粒界強化が必要である。上記の素材強度の向上には、C、MnおよびCrによる固溶強化作用および焼入れ性向上作用を活用すること、さらには、Nbを含有させてNbの炭化物、窒化物あるいは炭窒化物による結晶粒微細化作用を活用することが有効である。また、粒界強化には、粒界を脆化するPのオ−ステナイト粒界への偏析を抑制するためにB、さらにはMoを含有させること、上記Bの効果を確保するためにNの含有量を抑制し、Tiの含有量を調整すること、さらには、その含有量が過多になると粒界偏析が顕著になって粒界の強度が低下するSの含有量を調整すること、を考慮すればよい。
(c)外力が加わることで高周波焼入れ最表層部から発生したき裂は、表層から内部へと伝播・進展し、最終的な破損につながる。したがって、き裂の進展を抑制し破損を防止するためには、き裂の伝播速度を小さくするとともに、伝播に対する抵抗性を高める必要がある。このためには、内部組織の靱性を活用することが有効な手段となる。
(d)ステアリングラックバーの歯底における高周波焼入れ部と内部組織の境界は、歯形部を切削加工する前の素材、つまり、焼入れ焼戻しの熱処理を施した後に歯形部を切削加工する前の棒鋼において、Dを棒鋼の直径として、表面からの深さがD/4位置に相当する。このため、初期き裂の進展を停留させるためには、初期き裂直下、すなわち、上記の表面からの深さがD/4位置における靱性を向上させることが必要である。そして、上記の位置における靱性を向上させるためには、焼入れ処理後のマルテンサイト組織の面積分率をより高く、かつ、旧オーステナイト粒をより微細化させることが重要である。これは、マルテンサイトの面積分率が低い場合あるいは旧オーステナイト粒が粗大化している場合は、その後焼戻しを施しても内部組織の靱性が不足するため、初期き裂の進展が停留せずステアリングラックバーは破損することになるからである。
(e)ステアリングラックバーには、歯切りなどの切削加工が施される。このため素材となるステアリングラックバー用棒鋼には、被削性を高めるためにSなどの快削元素を含有させる場合がある。ところが、快削元素は単独あるいは他の元素との化合物として鋼中に存在するため、素材の機械的性質を低下させる恐れがある。したがって、快削元素を含有させる場合にはその量を制御することが重要である。
本発明は、上記の知見に基づいて完成されたものであり、その要旨は、下記[1]〜[3]に示すステアリングラックバー用棒鋼および[4]に示すステアリングラックバー用棒鋼の製造方法にある。
[1]質量%で、
C:0.37〜0.48%、
Si:0.15%を超えて0.30%未満、
Mn:0.60〜1.10%、
P:0.03%以下、
S:0.020〜0.070%、
Cr:0.05〜0.20%、
B:0.0005〜0.0050%、
N:0.010%以下、
Ti:0.005〜0.10%、
Al:0.005〜0.050%および
O:0.0020%以下
を含有し、残部がFeおよび不純物からなる棒鋼であって、
表面からの深さがD/4位置の組織が、下記の1)および2)を満足する、
ことを特徴とするステアリングラックバー用棒鋼。
1)焼入れ処理後のマルテンサイト組織が面積分率で70%以上
2)旧オーステナイトの平均粒度番号が7番以上
ただし、Dは棒鋼の直径を表す。
[2]Feの一部に代えて、質量%で、Mo:0.05%以下を含有する、
ことを特徴とする上記[1]に記載のステアリングラックバー用棒鋼。
[3]Feの一部に代えて、質量%で、Nb:0.20%以下を含有する、
ことを特徴とする上記[1]または[2]に記載のステアリングラックバー用棒鋼。
[4]上記[1]から[3]までのいずれかに記載の化学成分を有する鋼材に、下記〈1〉と〈2〉の処理を順に施す、
ことを特徴とする上記[1]から[3]までのいずれかに記載のステアリングラックバー用棒鋼の製造方法。
〈1〉下記(1)式のDcを満足する丸鋼に加工する。
〈2〉下記(2)式を満足する温度Q℃に加熱した後に焼入れする。
Dx=8.64×C0.5×(1+0.64×Si)×(1+4.1×Mn)×(1+2.33×Cr)×{1+1.50×(0.90−C)}×(1+3.14×Mo)≧5.5×Dc0.7・・・(1)
(Ti−3.4N)/Q≧2.50×10-5・・・(2)
ただし、(1)式および(2)式における元素記号は、その元素の質量%での含有量を、また、(1)式における「Dc」は、丸鋼の直径(mm)を表す。さらに、加熱温度Qは780〜900℃の値とする。
なお、残部としての「Feおよび不純物」における「不純物」とは、鉄鋼材料を工業的に製造する際に、原料としての鉱石やスクラップあるいは環境などから混入するものを指す。
「旧オーステナイトの平均粒度番号」とは、焼入れ後の、表面からの深さがD/4位置の組織に対して、JIS G 0551(2005)に準じて、ピクリン酸アルコール溶液で腐食し、切断法によって求めた粒度番号を指す。
丸鋼に施す「加工」とは、熱間鍛造、熱間圧延などの「熱間加工」、焼ならしなどの「熱処理」およびピーリングなどの「機械加工」のうちの少なくともいずれかの処理を意味する。
本発明のステアリングラックバー用棒鋼は、曲げ強度に優れ、かつ、曲げ負荷を与えた時の脆性的な破断の抑制が可能であるので、ステアリングラックバーの素材として用いるのに好適である。このステアリングラックバー用棒鋼は、本発明の方法によって製造することができる。
実施例で用いた3点曲げ試験片で、引抜き加工した棒鋼から採取した試験片の形状を説明する図で、図中(a)は正面図(全体図)、(b)は側面図、(c)は歯形部の断面ア−アでの拡大図、である。図における寸法の単位は「mm」である。 実施例で行った3点曲げ試験の方法を模式的に説明する図である。 3点曲げ試験における押込ピンの「押込量」と「曲げ荷重」の関係を模式的に説明する図である。
以下、本発明の各要件について詳しく説明する。なお、各元素の含有量の「%」は「質量%」を意味する。
(A)化学組成:
C:0.37〜0.48%
Cは、鋼の強度および焼入れ性を確保し、高周波焼入れ後の硬化層について、所望の表面硬さと硬化層深さを得る作用を有する。しかしながら、その含有量が0.37%未満では、所望の効果が得られない。一方、Cの含有量が0.48%を超えると、表面硬さが飽和するばかりか、硬化層の靱性の劣化を招き、ラックバーの曲げ強度を著しく劣化させてしまう。したがって、Cの含有量を0.37〜0.48%とした。なお、前記の効果を安定して得るためには、Cの含有量は0.42%以上とすることが好ましい。
Si:0.15%を超えて0.30%未満
Siは、脱酸作用および焼入れ性を高める作用を有する。こうした効果を確保するためには、0.15%を超える量のSiを含有させる必要がある。しかしながら、Siの含有量が0.30%以上となるとラックバーの被削性が著しく劣化する。したがって、Siの含有量を0.15%を超えて0.30%未満とした。
Mn:0.60〜1.10%
Mnは、鋼の強度および焼入れ性を確保して、ラックバーの曲げ強度を高める作用を有する。しかしながら、Mnの含有量が0.60%未満では、前記作用による所望の効果が得られない。一方、1.10%を超える量のMnを含有させても前記の効果が飽和してコストが嵩み、ラックバーの被削性が劣化するとともに、高周波焼入れ時に焼割れも生じやすくなる。したがって、Mnの含有量を0.60〜1.10%とした。なお、Mnの含有量は0.70%以上、0.90%以下とすることが好ましい。
P:0.03%以下
Pは、高周波焼入れ時にオ−ステナイト粒界に偏析し、高周波焼入れ後の硬化層の靱性を劣化させてしまう。特に、その含有量が0.03%を超えると前記影響が著しくなる。したがって、Pの含有量を0.03%以下とした。なお、Pの含有量は0.015%以下とすることが好ましく、0.010%以下とすればさらに好ましい。
S:0.020〜0.070%
Sは、Mnと結合してMnSを形成し、ラックバーの被削性を高める作用を有する。しかしながら、その含有量が0.020%未満では、所望の効果が得られない。一方、Sは、結晶粒界に偏析して粒界強度を低下させ、鋼の靱性、すなわちラックバーの曲げ強度を低下させる。特に、Sの含有量が0.070%を超えると、ラックバーの曲げ強度の低下が著しくなる。したがって、Sの含有量を0.020〜0.070%とした。なお、前記の被削性向上効果を発揮させるために、Sの含有量は0.040%以上とすることが好ましい。
Cr:0.05〜0.20%
Crは、CおよびMnと同様に、鋼の強度および焼入れ性を確保し、ラックバーの曲げ強度を高める作用を有する。しかしながら、Crの含有量が0.05%未満では所望の効果が得られない。一方、Crの含有量が0.20%を超えると高周波焼入れ時に焼割れが生じやすくなる。したがって、Crの含有量を0.05〜0.20%とした。
B:0.0005〜0.0050%
Bは、粒界へのPの偏析を抑制して粒界を強化し、鋼の靱性、特に高周波焼入れ時の硬化層の靱性を向上させる作用を有する。また、鋼の高周波焼入れ性を向上させる作用も有する。これらの作用はラックバーの曲げ強度向上に寄与し、その効果はBの含有量が0.0005%以上で顕著である。しかしながら、0.0050%を超えてBを含有させても前記の効果は飽和してコストが嵩む。しかも、Bの含有量が0.0050%を超えると、有害なB系化合物を生成して鋼の靱性、すなわち、ラックバーの曲げ強度を却って低下させてしまう。したがって、Bの含有量を0.0005〜0.0050%とした。Bの含有量は0.0010%以上、0.0030%以下とすることが好ましい。
なお、前記範囲のBを含有する場合であっても、Bが鋼中の不純物として存在するNと結合してBNを形成した場合には、高周波焼入れ性を高めることができない。したがって、Bの高周波焼入れ性向上効果を発揮させるためには、鋼中の不純物として存在するNを可能な限り低減することが好ましい。
N:0.010%以下
Nは、B、AlおよびTiなどとの親和力が大きく、AlNおよびTiNの高周波焼入れ時の結晶粒粗大化防止作用は期待できるものの、鋼中のBと結合してBNを形成した場合には、Bの高周波焼入れ性を高める効果を十分確保することができない。特に、Nの含有量が0.010%を超えると、BN形成による前記の悪影響は顕著になる。したがって、Nの含有量を0.010%以下とした。なお、Bによる良好な高周波焼入れ性の確保という点からは、N含有量は可能な限り低減することが好ましい。
Ti:0.005〜0.10%
Tiは、鋼中の不純物として存在しているNと優先的に結合することでBNの形成を抑制し、Bの高周波焼入れ性向上効果を確保するのに有効な元素である。この効果を得るためには、0.005%以上のTiを含有させる必要がある。また、TiはNと結合してTiNを形成して焼入れ加熱時の結晶粒粗大化を防止する効果も有する。しかしながら、Tiの含有量が多すぎる場合には、鋼中のCと結合して炭化物を形成するため、却って高周波焼入れ性の低下を招くうえに、高周波焼入れされた硬化層の靱性の低下をも招く。特に、Tiの含有量が多くなって、0.10%を超えると、高周波焼入れ性および硬化層の靱性の著しい低下、すなわちラックバーの曲げ強度低下をきたす。したがって、Tiの含有量を0.005〜0.10%とした。なお、Tiの含有量は0.02%以上、0.07%以下とすることが好ましい。
Al:0.005〜0.050%
Alは、Siと同様に脱酸作用を有し、鋼中のNと結合したAlNが高周波焼入れ時の結晶粒粗大化を防止する作用も有する。しかしながら、Alの含有量が0.005%未満では所望の効果が得られない。一方、Alの含有量が0.05%を超えると効果が飽和しコストが嵩むばかりか、鋼の高周波焼入れ性が著しく低下する。したがって、Alの含有量を0.005〜0.050%とした。
O:0.0020%以下
O(酸素)は、鋼中の元素と結合して酸化物を形成し、ラックバーの曲げ強度低下を招く。特に、Oの含有量が0.0020%を超えると、形成される酸化物が多くなるとともにMnSが粗大化してラックバーの曲げ強度低下が顕著になる。したがって、Oの含有量を0.0020%以下とした。
本発明のステアリングラックバー用棒鋼の一つは、その化学成分が上記元素のほか、残部がFeおよび不純物からなるものである。
本発明のステアリングラックバー用棒鋼の他の一つは、その化学成分が、必要に応じてFeの一部に代えて、MoおよびNbのうちの1種以上の元素を含有するものであってもよい。以下、これらの任意元素の作用効果と、含有量の限定理由について説明する。
Mo:0.05%以下
Moは、CおよびMnと同様に、鋼の焼入れ性を高める作用を有する。また、Moは、P等の不純物元素の偏析を抑制して粒界強度を向上させる作用も有する。これらの作用はラックバーの曲げ強度向上に寄与する。しかしながら、Moは高価な元素であるため、その含有によってコストが嵩み、特に、含有量が0.05%を超えるとコスト上昇が著しくなる。したがって、含有させる場合のMoの量は0.05%以下とした。なお、含有させる場合のMoの含有量は0.04%以下であることが好ましい。
Nb:0.20%以下
Nbは、炭化物、窒化物あるいは炭窒化物を形成して結晶粒を微細化し、鋼の強度を高める、すなわち、ラックバーの曲げ強度を高める作用を有する。しかしながら、Nbの含有量が0.20%を超えると、却って結晶粒の粗大化をきたしラックバーの曲げ強度を低下させるとともにラックバーの被削性の劣化を招く。したがって、含有させる場合のNbの量を0.20%以下とした。なお、含有させる場合のNbの含有量は0.10%以下であることが好ましい。
一方、前記したNbの効果を確実に得るためには、含有させる場合のNbの量は、0.02%以上であることが好ましい。
(B)表面からの深さがD/4位置の組織:
ステアリングラックバーの歯底における高周波焼入れ部と内部組織の境界は、歯形部を切削加工する前の素材、つまり、焼入れ焼戻しの熱処理を施した後に歯形部を切削加工する前の棒鋼において、Dを棒鋼の直径として、表面からの深さがD/4位置に相当する。
したがって、ステアリングラックバー歯底における高周波焼入れ部で初期き裂が発生した場合、その初期き裂の進展を停留させるためには、初期き裂直下、すなわち、上記の表面からの深さがD/4位置における靱性を向上させることが必要である。そして、マルテンサイト組織の面積分率を高くするとともに、旧オーステナイト粒をより微細化させることによって、上記の位置における靱性を向上させることができる。
具体的には、
1)焼入れ処理後のマルテンサイト組織が面積分率で70%以上
であり、しかも、
2)旧オーステナイトの平均粒度番号が7番以上
であれば、上述の表面からの深さがD/4位置における靱性を向上させることができるので、高周波焼入れ部で発生した初期き裂を停留させることが可能である。
焼入れ処理後のマルテンサイト組織が面積分率で70%以上あれば、他の組織はどのようなものであってもよい。
なお、上述の表面からの深さがD/4位置における靱性は、焼入れ処理後のマルテンサイト組織の面積分率が高いほど、また、旧オーステナイトの平均粒度番号が大きいほど、換言すれば、オーステナイト粒が小さいほど向上する。
このため、焼入れ処理後のマルテンサイト組織の面積分率は100%であれば最も好ましい。一方、オーステナイト粒については、工業的な生産では平均粒度番号で11番程度が限界である。
(C)ステアリングラックバー用棒鋼の製造方法:
前項で述べた本発明のステアリングラックバー用棒鋼のミクロ組織は、例えば、既に述べた化学成分を有する鋼材に、以下に述べる〈1〉と〈2〉の処理を順に施すことによって容易に得ることができる。
〈1〉(1)式のDcを満足する丸鋼に加工する:
既に述べた化学成分を有する鋼材は、〔Dx=8.64×C0.5×(1+0.64×Si)×(1+4.1×Mn)×(1+2.33×Cr)×{1+1.50×(0.90−C)}×(1+3.14×Mo)≧5.5×Dc0.7・・・(1)〕の式を満足する熱処理用の丸鋼に加工することが好ましい。
ただし、上記の(1)式における元素記号は、その元素の質量%での含有量を、また、「Dc」は、丸鋼の直径(mm)を表す。
(B)項で述べたように、ステアリングラックバー歯底における高周波焼入れ部で発生した初期き裂の進展を停留させるためには、内部組織の靱性を活用することが必要であり、そのためには、表面からの深さがD/4位置における組織が前記の、
1)焼入れ処理後のマルテンサイト組織が面積分率で70%以上
という条件を満たすことが必要である。
そして、マルテンサイト組織の面積分率を高めるためには鋼の焼入れ性向上が必須であるが、ステアリングラックバーは様々なサイズ(直径)で使用されるため、サイズごとに鋼に最低限求められる焼入れ性は異なる。
しかしながら、鋼材が上記(1)式のDcを満足するように加工すれば、後述する〈2〉の処理を施すことによって、十分な焼入れ性が確保されて、表面からの深さがD/4位置における組織が上記1)の条件を満たすことができ、これによって、靱性が向上する。その後焼戻しを施し、高周波焼入れ部で発生した初期き裂を停留させることができるようになる。
なお、丸鋼にする「加工」は、熱間鍛造、熱間圧延などの「熱間加工」、焼ならしなどの「熱処理」およびピーリングなどの「機械加工」のうちの少なくともいずれかの処理を施して行えばよい。
〈2〉(2)式を満足する温度Q℃に加熱した後に焼入れする:
上記〈1〉で(1)式のDcを満足する丸鋼に加工した後、〔(Ti−3.4N)/Q≧2.5×10-5・・・(2)〕の式を満足する温度Q℃に加熱した後に焼入れすることが好ましい。なお、上記1)の条件を満たすためには、焼入れの方法を水焼入れ(以下、「WQ」という。)とすることが望ましいが、この条件を満たすのであれば焼入れの方法に制約はなく、仮に油焼入れ(以下、「OQ」という。)で焼入れてマルテンサイト組織の面積分率を確保できれば、WQで焼入れた場合と同様、ステアリングラックバーに必要な曲げ強度を確保することができる。
ただし、上記の(2)式における元素記号は、その元素の質量%での含有量を、また、加熱温度Qは780〜900℃の値とする。
既に(B)項で述べたように、 ステアリングラックバー歯底における高周波焼入れ部で発生した初期き裂の進展を停留させるためには、内部組織の靱性を活用することが必要であり、そのためには、表面からの深さがD/4位置における組織が前記の、
2)旧オーステナイトの平均粒度番号が7番以上
という条件を満たすことも必要である。
すなわち、靱性に対してはマルテンサイト組織の面積分率の他に、焼入れ後における旧オーステナイトの平均粒度番号も大きく影響し、旧オーステナイトの平均粒度番号が小さくなる、換言すれば、旧オーステナイト粒が大きくなれば、靱性の低下をきたすので、ステアリングラックバー歯底における高周波焼入れ部で発生した初期き裂の進展を停留させることが難しくなる。
しかしながら、(2)式を満足する温度Q℃に加熱した後に焼入れすれば、鋼中のNをTiと結合させたTiNにより結晶粒粗大化を防止でき、さらに、焼入れ温度の過度な上昇による結晶粒粗大化を防いで、靱性を向上させることができるので、高周波焼入れ部で発生した初期き裂を停留させることができるようになる。
なお、加熱温度Qが780℃を下回る場合には、均一なオーステナイト組織が得られないことがある。一方、加熱温度が900℃を超える場合には、加熱温度が高すぎるため粗大化したマルテンサイト組織になりやすく、脆くなり、焼割れも生じやすい。
なお、加熱温度Qでの加熱時間は、D/4位置が炉内温度と等しくなるまで加熱するため30min以上とすることが好ましく、一方、製造コスト増大を抑制するため60min以下とすることが好ましい。
本発明のステアリングラックバー用棒鋼は、さらに焼戻しを施された後に、歯形部を切削加工され、その歯形部に高周波焼入れがされて、ステアリングラックバーが製造される。焼戻しは、500〜600℃の温度域で行うことが好ましい。
上記温度域での焼戻しによって、焼入れ後の硬さが低減して被削性が高まり、さらに、焼入れにより生成したマルテンサイト組織が強靱な焼戻しマルテンサイト組織となって、ステアリングラックバー歯底における高周波焼入れ部で発生した初期き裂の進展を停留させることができる。
なお、上記温度域で焼戻しする際の時間は、D/4位置が炉内温度と等しくなるまで加熱するため30min以上とすることが好ましく、一方、製造コスト増大を抑制するため60min以下とすることが好ましい。
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明する。
表1に示す化学組成を有する鋼A1〜A8および鋼B1〜B4を真空炉溶製して150kg鋼塊を作製した。
上記の鋼のうち鋼A1〜A8は化学組成が本発明で規定する範囲内にある鋼である。
一方、鋼B1〜B4は化学組成が本発明で規定する範囲から外れた比較例の鋼である。なお、上記比較例の鋼のうちで鋼B1は、現在ステアリングラックバー用鋼として一般に用いられている鋼であり、後述のとおりこの鋼B1を曲げ強度を評価する際の基準として用いた。
なお、表1には、Dx、つまり、〔8.64×C0.5×(1+0.64×Si)×(1+4.1×Mn)×(1+2.33×Cr)×{1+1.50×(0.90−C)}×(1+3.14×Mo)〕の値を併記した。
Figure 2012001765
このようにして得た鋼塊を、鋼組成に応じて、1200〜1300℃の温度域の温度に加熱した後、直径35mmの棒鋼に熱間鍛造した。なお、熱間鍛造終了後は大気中で放冷した。
さらに、上記の熱間鍛造後の棒鋼に850℃で30分加熱する焼ならしを行って、熱間鍛造時に粗粒化した組織を均質化した。
次いで、鋼A1〜A7およびB1〜B4の各鋼について、上記の直径35mmの棒鋼を直径29mmに、鋼A8の直径35mmの棒鋼を直径32mmに、それぞれピーリングし、棒鋼(丸鋼)に加工した。また、鋼A1および鋼B1については上記の直径35mmの棒鋼を直径26mmに、鋼A3、鋼A5および鋼B1については上記の直径35mmの棒鋼を直径32mmに、それぞれピーリングすることも行って、棒鋼(丸鋼)に加工した。
上記の加工を行った各棒鋼は、表2に示す条件で焼入れして棒鋼の組織を変化させた。なお、表2に示す加熱温度Qでの加熱時間は、いずれの試験番号についても30minであり、この加熱条件でオーステナイト単相組織にした。
なお、表2には、各鋼についての前記Dxの値を再掲した。また、丸鋼(棒鋼)の直径「Dc」欄には、上記ピーリング後の「mm」単位での値を示した。
さらに、表2の「(1)式の成否」欄に、前記した(1)式を満たす場合および満たさない場合をそれぞれ、記号「○」および「×」で示した。
同様に、表2の「(2)式の成否」欄に、前記した(2)式を満たす場合および満たさない場合をそれぞれ、記号「○」および「×」で示した。
Figure 2012001765
表2に示す条件で焼入れを施した棒鋼を用いて、次に示す方法で表面からの深さがD/4位置の組織を調査した。
すなわち、上述の焼入れを施した各棒鋼について、横断面での状態を観察できるように切断して樹脂に埋め込み、鏡面研磨した後、ナイタルで腐食して組織を現出させ、走査型電子顕微鏡を用いて、表面からの深さがD/4の位置のマルテンサイトの面積分率を測定した。
同様に、鏡面研磨した後、ピクリン酸アルコール溶液で腐食し、表面からの深さがD/4の位置の旧オーステナイト粒度番号を、JIS G 0551(2005)に準じて、切断法によって求めた。
また、上記のピーリングして得た直径32mm、29mmおよび26mmの棒鋼を600℃で1h加熱して焼戻しを行った後、大気中で放冷し、そしてそれぞれ、直径30.5mm、27.5mmおよび24.5mmに引抜き加工した後、歯形部を切削によって加工し、図1に示す3点曲げ試験片を作製した。図1において、(a)は正面図(全体図)、(b)は側面図、(c)は歯形部の断面ア−アでの拡大図、である。なお、3点曲げ試験片の歯形部における歯底の位置は棒鋼の表面から深さD/4である。
次いで、上記の3点曲げ試験片に対し、歯底から深さ1mmの位置におけるビッカース硬さ(以下、ビッカース硬さを「HV硬さ」という。)が450以上となるように、高周波焼入れを行った。なお、焼入れはWQとした。
上記のようにして得た3点曲げ試験片を用いて、曲げ特性、すなわち、曲げ強度および曲げ負荷を与えた時の破損形態を調査した。
具体的には、図2に模式的に示すように支持ピン間の距離、つまり、支点間距離を180mmとして、歯形部歯底の高周波焼入れ部の硬化層に割れが生じるまで、押込ピンを用いて、歯形部の反対側を0.5mm/minで押圧し続けた。なお、押込ピンの「押込量」と「曲げ荷重」の関係は、図3に模式的に示すような形状を呈し、曲げ強度が高いものほど、歯形部歯底の高周波焼入れ部の硬化層に割れが生じる曲げ荷重(以下、「き裂発生荷重」という。)は高くなる。また、き裂発生後の破損形態、つまり、き裂進展の有無によって、「押込量−曲げ荷重」曲線は異なるものとなる。すなわち、き裂の進展が止まった場合には、図3中〔a〕に示すように、再び曲げ荷重は増加し、一方、き裂の進展が止まらない場合には、図3中〔b〕に示すように、破断してしまう。
各試験番号について、上記の条件で3点曲げ試験を行い、き裂発生荷重によって「曲げ強度」を評価し、さらに、「押込量−曲げ荷重」曲線の形状によって曲げ負荷を与えた時の破損形態を評価した。
「曲げ強度」は、現在ステアリングラックバー用鋼として一般に用いられている鋼B1を用いた、試験番号14〜16の曲げ強度を上回ることを目標とした。具体的には、評価対象の試験番号と同じ試験片サイズのものを試験番号14〜16から選び、選んだ試験番号の曲げ強度を評価対象の曲げ強度が上回ればよいこととした。
「曲げ負荷を与えた時の破損形態」は、「押込量−曲げ荷重」曲線の形状が、図3中〔a〕に示すように、き裂の進展が途中で止まり、再び曲げ荷重が増加するものであることを目標とした。
表3に、上記の各調査結果を示す。
なお、表3の「曲げ強度」の「評価」欄における「○」印は、上述した曲げ強度の目標を満足していることを指し、一方、「×」印は上記の目標が満足できていないことを示す。また、試験番号14〜16の「−」は「き裂発生荷重」の基準値であることを指す。同様に、「曲げ負荷を与えた時の破損形態」欄における「○」印は、「押込量−曲げ荷重」曲線の形状が、き裂の進展が途中で止まり、再び曲げ荷重が増加するという、上述した目標を満足していることを指し、一方、「×」印は「押込量−曲げ荷重」曲線の形状が、き裂の進展が途中で止まらず、内部にまで進展・貫通して試験片が2つに脆性破断し、上記の目標が満足できていないことを示す。そして、「総合評価」欄における「○」印は、「曲げ強度」と「曲げ負荷を与えた時の破損形態」の目標の双方を達成できていることを指し、一方、「×」印は上記の目標のうち少なくともいずれか一方が達成できていないことを指す。
Figure 2012001765
表3から、化学組成が本発明で規定する範囲内にあり、しかも、表面からの深さがD/4位置の組織が本発明で規定する条件を満たす本発明例の試験番号1〜10の場合には、曲げ強度に優れ、かつ、曲げ負荷を与えた時の脆性的な破断の抑制が可能であることが明らかである。
これに対して、本発明で規定する条件の全てを同時に満たしていない「比較例」の試験番号11〜13および試験番号17〜19の場合には、「曲げ強度」と「曲げ負荷を与えた時の破損形態」のうちのいずれか一方または双方が劣っている。
化学組成が本発明で規定する範囲内にある鋼A6、鋼A7および鋼8を用いた場合であっても、表面からの深さがD/4位置の組織における「マルテンサイト組織の面積分率」と「旧オーステナイトの平均粒度番号」のうちの少なくともいずれかが本発明で規定する条件から外れた比較例の試験番号11〜13の場合には、「曲げ強度」または「曲げ負荷を与えた時の破損形態」が劣っている。
試験番号11および試験番号12は、マルテンサイト組織の面積分率は本発明で規定する条件を満たすが、旧オーステナイトの平均粒度番号が本発明で規定する条件より小さく旧オーステナイト粒が大きいため、比較基準である試験番号15より「き裂発生荷重」は高く「曲げ強度」には優れているものの、歯形部歯底の高周波焼入れ部の硬化層で発生したき裂の進展を停留できず脆性破断した。
試験番号13は、化学成分は本発明で規定する範囲であるが、(1)式を満足せず、すなわち鋼の焼入れ性が低く、表面からの深さがD/4位置の組織における「マルテンサイト組織の面積分率」が本発明で規定する条件から外れたため、比較基準である試験番号16より「き裂発生荷重」は低く「曲げ強度」が劣っている。
試験番号17は、用いた鋼B2がTiを含まないためBNの形成を抑制できず、Bによる靱性向上効果を発揮できなかったため「き裂発生荷重」は比較基準である試験番号15より低く「曲げ強度」に劣っていた。さらに、表面からの深さがD/4位置の組織における「旧オーステナイトの平均粒度番号」が本発明で規定する条件より小さく旧オーステナイト粒が大きいため、歯形部歯底の高周波焼入れ部の硬化層で発生したき裂の進展を停留できず脆性破断した。なお、試験番号17とほぼ同じき裂発生荷重であった試験番号15では、き裂の進展が停留したが、これは、試験番号15で用いた鋼B1の旧オーステナイト結晶粒度番号が試験番号17で用いた鋼B2よりも大きく、鋼B1の靱性が高かったためである。
試験番号18は、用いた鋼B3のCr含有量が本発明で規定する条件を下回る0.02%と低く(1)式を満足せず、すなわち鋼の焼入れ性が低く、表面からの深さがD/4位置の組織における「マルテンサイト組織の面積分率」が本発明で規定する条件から外れた。また、「旧オーステナイトの平均粒度番号」も本発明で規定する条件から外れているので、Bを含有させたもののCrの含有量が本発明で規定する条件を下回ったため「き裂発生荷重」は増加せず「曲げ強度」の向上は認められなかった。また、歯形部歯底の高周波焼入れ部の硬化層で発生したき裂の進展を停留できず脆性破断した。
試験番号19は、用いた鋼B4のCおよびCrの含有量がそれぞれ、本発明で規定する条件を下回る0.25%および0.03%と低いため鋼の強度が低下し、「き裂発生荷重」は比較基準である試験番号15より低く「曲げ強度」に劣っていた。なお、表面からの深さがD/4位置の組織における「マルテンサイト組織の面積分率」が本発明で規定する条件より小さいにも拘わらず歯形部歯底の高周波焼入れ部の硬化層で発生したき裂の進展が停留したのは、曲げ荷重が低いこと、すなわち、き裂先端の応力が低かったことに起因し、この現象は曲げ強度を評価する際の基準とした鋼B1を用いた試験番号15でも同様に見受けられる。なお、同じく曲げ荷重が低かった試験番号17はき裂の進展が停留せず脆性破断したが、これは前述のように、用いた鋼B2の旧オーステナイト結晶粒度番号が小さく鋼の靱性が低かったためである。
本発明のステアリングラックバー用棒鋼は、曲げ強度に優れ、かつ、曲げ負荷を与えた時の脆性的な破断の抑制が可能であるので、ステアリングラックバーの素材として用いるのに好適である。このステアリングラックバー用棒鋼は、本発明の方法によって製造することができる。

Claims (4)

  1. 質量%で、
    C:0.37〜0.48%、
    Si:0.15%を超えて0.30%未満、
    Mn:0.60〜1.10%、
    P:0.03%以下、
    S:0.020〜0.070%、
    Cr:0.05〜0.20%、
    B:0.0005〜0.0050%、
    N:0.010%以下、
    Ti:0.005〜0.10%、
    Al:0.005〜0.050%および
    O:0.0020%以下
    を含有し、残部がFeおよび不純物からなる棒鋼であって、
    表面からの深さがD/4位置の組織が、下記の1)および2)を満足する、
    ことを特徴とするステアリングラックバー用棒鋼。
    1)焼入れ処理後のマルテンサイト組織が面積分率で70%以上
    2)旧オーステナイトの平均粒度番号が7番以上
    ただし、Dは棒鋼の直径を表す。
  2. Feの一部に代えて、質量%で、Mo:0.05%以下を含有する、
    ことを特徴とする請求項1に記載のステアリングラックバー用棒鋼。
  3. Feの一部に代えて、質量%で、Nb:0.20%以下を含有する、
    ことを特徴とする請求項1または2に記載のステアリングラックバー用棒鋼。
  4. 請求項1から3までのいずれかに記載の化学成分を有する鋼材に、下記〈1〉と〈2〉の処理を順に施す、
    ことを特徴とする請求項1から3までのいずれかに記載のステアリングラックバー用棒鋼の製造方法。
    〈1〉下記(1)式のDcを満足する丸鋼に加工する。
    〈2〉下記(2)式を満足する温度Q℃に加熱した後に焼入れする。
    Dx=8.64×C0.5×(1+0.64×Si)×(1+4.1×Mn)×(1+2.33×Cr)×{1+1.50×(0.90−C)}×(1+3.14×Mo)≧5.5×Dc0.7・・・(1)
    (Ti−3.4N)/Q≧2.50×10-5・・・(2)
    ただし、(1)式および(2)式における元素記号は、その元素の質量%での含有量を、また、(1)式における「Dc」は、丸鋼の直径(mm)を表す。さらに、加熱温度Qは780〜900℃の値とする。
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