以下、本発明の好ましい実施の形態について添付図面を参照して説明する。図1は、本発明の第1実施の形態における車両用制御装置100が搭載される車両1を模式的に示した模式図である。なお、図1の矢印FWDは、車両1の前進方向を示す。
まず、車両1の概略構成について説明する。車両1は、図1に示すように、車体フレームBFと、その車体フレームBFに支持される複数(本実施の形態では4輪)の車輪2と、それら各車輪2を独立に回転駆動する車輪駆動装置3と、各車輪2の操舵駆動及びキャンバー角の調整等を行うキャンバー角調整装置4とを主に備え、車輪2のキャンバー角を車両用制御装置100により制御して、車輪2に設けられた2種類のトレッドを使い分けることで(図5及び図6参照)、走行性能の向上と省燃費の達成とを図ることができるように構成されている。
次いで、各部の詳細構成について説明する。車輪2は、図1に示すように、車両1の進行方向前方側に位置する左右の前輪2FL,2FRと、進行方向後方側に位置する左右の後輪2RL,2RRとの4輪を備え、これら前後輪2FL〜2RRは、車輪駆動装置3から回転駆動力を付与されて、それぞれ独立に回転可能に構成されている。
車輪駆動装置3は、各車輪2を独立に回転駆動するための回転駆動装置であり、図1に示すように、4個の電動モータ(FL〜RRモータ3FL〜3RR)を各車輪2に(即ち、インホイールモータとして)配設して構成されている。運転者がアクセルペダル52を操作した場合には、各車輪駆動装置3から回転駆動力が各車輪2に付与され、各車輪2がアクセルペダル52の操作量に応じた回転速度で回転される。
また、車輪2(前後輪2FL〜2RR)は、キャンバー角調整装置4により舵角とキャンバー角とが調整可能に構成されている。キャンバー角調整装置4は、各車輪2の舵角とキャンバー角とを調整するための駆動装置であり、図1に示すように、各車輪2に対応する位置に合計4個(FL〜RRアクチュエータ4FL〜4RR)が配置されている。
例えば、運転者がステアリング54を操作した場合には、キャンバー角調整装置4の一部(例えば、前輪2FL,2FR側のみ)又は全部が駆動され、ステアリング54の操作量に応じた舵角を車輪2に付与する。これにより、車輪2の操舵動作が行われ、車両1が所定の方向へ旋回される。
また、キャンバー角調整装置4は、車両1の走行状態(例えば、定速走行時または加減速時、或いは、直進時または旋回時)や車輪2が走行する路面Gの状態(例えば、乾燥路面時と雨天路面時)などの状態変化に応じて、車両用制御装置100により作動制御され、車輪2のキャンバー角を調整する。
ここで、図2を参照して、車輪駆動装置3とキャンバー角調整装置4との詳細構成について説明する。図2(a)は、車輪2の断面図であり、図2(b)は、車輪2の舵角及びキャンバー角の調整方法を模式的に説明する模式図である。
なお、図2(a)では、車輪駆動装置3に駆動電圧を供給するための電源配線などの図示が省略されている。また、図2(b)中の仮想軸Xf−Xb、仮想軸Yl−Yr、及び、仮想軸Zu−Zdは、それぞれ車両1の前後方向、左右方向、及び、上下方向にそれぞれ対応する。
図2(a)に示すように、車輪2(前後輪2FL〜2RR)は、ゴム状弾性材から構成されるタイヤ2aと、アルミニウム合金などから構成されるホイール2bとを主に備えて構成され、ホイール2bの内周部には、車輪駆動装置3(FL〜RRモータ3FL〜3RR)がインホイールモータとして配設されている。
タイヤ2aは、車両1の内側(図2(a)右側)に配置される第1トレッド21と、その第1トレッド21と特性が異なり、車両1の外側(図2(a)左側)に配置される第2トレッド22とを備える。なお、車輪2(タイヤ2a)の詳細構成については図4を参照して後述する。
車輪駆動装置3は、図2(a)に示すように、その前面側(図2(a)左側)に突出された駆動軸3aがホイール2bに連結固定されており、駆動軸3aを介して、回転駆動力を車輪2へ伝達可能に構成されている。また、車輪駆動装置3の背面には、キャンバー角調整装置4(FL〜RRアクチュエータ4FL〜4RR)が連結固定されている。
キャンバー角調整装置4は、複数本(本実施の形態では3本)の油圧シリンダ4a〜4cを備えており、それら3本の油圧シリンダ4a〜4cのロッド部は、車輪駆動装置3の背面側(図2(a)右側)にジョイント部(本実施の形態ではユニバーサルジョイント)54を介して連結固定されている。なお、図2(b)に示すように、各油圧シリンダ4a〜4cは、周方向略等間隔(即ち、周方向120°間隔)に配置されると共に、1の油圧シリンダ4bは、仮想軸Zu−Zd上に配置されている。
これにより、各油圧シリンダ4a〜4cが各ロッド部をそれぞれ所定方向に所定長さだけ伸長駆動又は収縮駆動することで、車輪駆動装置3が仮想軸Xf−Xb,Zu−Xdを揺動中心として揺動駆動され、その結果、各車輪2に所定のキャンバー角と舵角とが付与される。
例えば、図2(b)に示すように、車輪2が中立位置(車両1の直進状態)にある状態で、油圧シリンダ4bのロッド部が収縮駆動され、かつ、油圧シリンダ4a,4cのロッド部が伸長駆動されると、車輪駆動装置3が仮想線Xf−Xb回りに回転され(図2(b)矢印A)、車輪2にマイナス方向(ネガティブキャンバー)のキャンバー角(車輪2の中心線が仮想線Zu−Zdに対してなす角度)が付与される。一方、これとは逆の方向に油圧シリンダ4b及び油圧シリンダ4a,4cがそれぞれ伸縮駆動されると、車輪2にプラス方向(ポジティブキャンバー)のキャンバー角が付与される。
また、車輪2が中立位置(車両1の直進状態)にある状態で、油圧シリンダ4aのロッド部が収縮駆動され、かつ、油圧シリンダ4cのロッド部が伸長駆動されると、車輪駆動装置3が仮想線Zu−Zd回りに回転され(図2(b)矢印B)、車輪2にトーイン傾向の舵角(車輪2の中心線が車両1の基準線に対してなす角度であり、車両1の進行方向とは無関係に定まる角度)が付与される。一方、これとは逆の方向に油圧シリンダ4a及び油圧シリンダ4cが伸縮駆動されると、車輪2にトーアウト傾向の舵角が付与される。
なお、ここで例示した各油圧シリンダ4a〜4cの駆動方法は、上述した通り、車輪2が中立位置にある状態から駆動する場合を説明するものであるが、これらの駆動方法を組み合わせて各油圧シリンダ4a〜4cの伸縮駆動を制御することにより、車輪2に任意のキャンバー角及び舵角を付与することができる。
図1に戻って説明する。アクセルペダル52及びブレーキペダル53は、運転者により操作される操作部材であり、各ペダル52,53の踏み込み状態(踏み込み量、踏み込み速度など)に応じて、車両1の走行速度や制動力が決定され、車輪駆動装置3の作動制御が行われる。
ステアリング54は、運転者により操作される操作部材であり、その操作状態(回転角度、回転速度など)に応じて、車両1の旋回半径などが決定され、キャンバー角調整装置4の作動制御が行われる。ワイパースイッチ55は、運転者により操作される操作部材であり、その操作状態(操作位置など)に応じて、ワイパー(図示せず)の作動制御が行われる。
同様に、ウィンカスイッチ56及び高グリップスイッチ57は、運転者により操作される操作部材であり、その操作状態(操作位置など)に応じて、前者の場合はウインカー(図示せず)の作動制御が行われ、後者の場合はキャンバー角調整装置4の作動制御が行われる。
なお、高グリップスイッチ57がオンされた状態は、車輪2の特性として高グリップ性が選択された状態に対応し、高グリップスイッチ57がオフされた状態は車輪2の特性として低転がり抵抗が選択された状態に対応する。
車両用制御装置100は、上述のように構成された車両1の各部を制御するための車両用制御装置であり、例えば、各ペダル52,53の操作状態を検出し、その検出結果に応じて車輪駆動装置3を作動させることで、各車輪2の回転速度を制御する。
或いは、アクセルペダル52、ブレーキペダル53やステアリング54の操作状態を検出し、その検出結果に応じてキャンバー角調整装置4を作動させ、各車輪のキャンバー角を調整することで、車輪2に設けられた2種類のトレッド21,22を使い分けて(図5及び図6参照)、走行性能の向上と省燃費の達成とを図る。ここで、図3を参照して、車両用制御装置100の詳細構成について説明する。
図3は、車両用制御装置100の電気的構成を示したブロック図である。車両用制御装置100は、図3に示すように、CPU71、ROM72及びRAM73を備え、これらはバスライン74を介して入出力ポート75に接続されている。また、入出力ポート75には、車輪駆動装置3等の複数の装置が接続されている。
CPU71は、バスライン74により接続された各部を制御する演算装置である。ROM72は、CPU71により実行される制御プログラムや固定値データ等を格納した書き換え不能な不揮発性のメモリであり、RAM73は、制御プログラムの実行時に各種のデータを書き換え可能に記憶するためのメモリである。なお、ROM72内には、図7に図示されるフローチャート(キャンバ制御処理)のプログラムが格納されている。
車輪駆動装置3は、上述したように、各車輪2(図1参照)を回転駆動するための装置であり、各車輪2に回転駆動力を付与する4個のFL〜RRモータ3FL〜3RRと、それら各モータ3FL〜3RRをCPU71からの命令に基づいて駆動制御する駆動回路(図示せず)とを主に備えている。
キャンバー角調整装置4は、上述したように、各車輪2の舵角とキャンバー角とを調整するための駆動装置であり、各車輪2(車輪駆動装置3)に角度調整のための駆動力を付与する4個のFL〜RRアクチュエータ4FL〜4RRと、それら各アクチュエータ4FL〜4RRをCPU71からの命令に基づいて駆動制御する駆動回路(図示せず)とを主に備えている。
なお、FL〜RRアクチュエータ4FL〜4RRは、3本の油圧シリンダ4a〜4cと、それら各油圧シリンダ4a〜4cにオイル(油圧)を供給する油圧ポンプ4d(図1参照)と、その油圧ポンプから各油圧シリンダ4a〜4cに供給されるオイルの供給方向を切り換える電磁弁(図示せず)と、各油圧シリンダ4a〜4c(ロッド部)の伸縮量を検出する伸縮センサ(図示せず)とを主に備えて構成されている。
CPU71からの指示に基づいて、キャンバー角調整装置4の駆動回路が油圧ポンプを駆動制御すると、その油圧ポンプから供給されるオイル(油圧)によって、各油圧シリンダ4a〜4cが伸縮駆動される。また、電磁弁がオン/オフされると、各油圧シリンダ4a〜4cの駆動方向(伸長又は収縮)が切り換えられる。
キャンバー角調整装置4の駆動回路は、各油圧シリンダ4a〜4cの伸縮量を伸縮センサにより監視し、CPU71から指示された目標値(伸縮量)に達した油圧シリンダ4a〜4cは、その伸縮駆動が停止される。なお、伸縮センサによる検出結果は、駆動回路からCPU71に出力され、CPU71は、その検出結果に基づいて各車輪2の現在の舵角及びキャンバー角を得ることができる。
車両速度センサ装置32は、路面Gに対する車両1の対地速度(絶対値及び進行方向)を検出すると共に、その検出結果をCPU71に出力するための装置であり、前後及び左右方向加速度センサ32a,32bと、それら各加速度センサ32a,32bの検出結果を処理してCPU71に出力する制御回路(図示せず)とを主に備えている。
前後方向加速度センサ32aは、車両1(車体フレームBF)の前後方向(図1上下方向)の加速度を検出するセンサであり、左右方向加速度センサ32bは、車両1(車体フレームBF)の左右方向(図1左右方向)の加速度を検出するセンサである。なお、本実施の形態では、これら各加速度センサ32a,32bが圧電素子を利用した圧電型センサとして構成されている。
CPU71は、車両速度センサ装置32の制御回路から入力された各加速度センサ32a,32bの検出結果(加速度値)を時間積分して、2方向(前後及び左右方向)の速度をそれぞれ算出すると共に、それら2方向成分を合成することで、車両1の対地速度(絶対値及び進行方向)を得ることができる。
接地荷重センサ装置34は、各車輪2の接地面が路面Gから受ける荷重を検出すると共に、その検出結果をCPU71に出力するための装置であり、各車輪2が受ける荷重をそれぞれ検出するFL〜RR荷重センサ34FL〜34RRと、それら各荷重センサ34FL〜34RRの検出結果を処理してCPU71に出力する処理回路(図示せず)とを備えている。
なお、本実施の形態では、各荷重センサ34FL〜34RRがピエゾ抵抗型の3軸荷重センサとして構成されている。これら各荷重センサ34FL〜34RRは、各車輪2のサスペンション軸(図示せず)上に配設され、上述した車輪2が路面Gから受ける荷重を車両1の前後方向(仮想軸Xf−Xb方向)、左右方向(仮想軸Yl−Yr方向)及び上下方向(仮想軸Zu−Zd方向)の3方向で検出する(図2(b)参照)。
CPU71は、接地荷重センサ装置34から入力された各荷重センサ34FL〜34RRの検出結果(接地荷重)より、各車輪2の接地面における路面Gの摩擦係数μを次のように推定する。
例えば、前輪2FLに着目すると、FL荷重センサ34FLにより検出される車両1の前後方向、左右方向および垂直方向の荷重がそれぞれFx、Fy及びFzであれば、前輪2FLの接地面に対応する部分の路面Gにおける車両1前後方向の摩擦係数μは、前輪2FLが路面Gに対してスリップしているスリップ状態ではFx/Fzとなり(μx=Fx/Fz)、前輪2FLが路面Gに対してスリップしていない非スリップ状態ではFx/Fzよりも大きい値であると推定される(μx>Fx/Fz)。
なお、車両1の左右方向の摩擦係数μyについても同様であり、スリップ状態ではμy=Fy/Fzとなり、非スリップ状態ではFy/Fzよりも大きな値と推定される。また、摩擦係数μを他の手法により検出することは当然可能である。他の手法としては、例えば、特開2001−315633号公報や特開2003−118554号に開示される公知の技術が例示される。
車輪回転速度センサ装置35は、各車輪2の回転速度を検出すると共に、その検出結果をCPU71に出力するための装置であり、各車輪2の回転速度をそれぞれ検出する4個のFL〜RR回転速度センサ35FL〜35RRと、それら各回転速度センサ35FL〜35RRの検出結果を処理してCPU71に出力する処理回路(図示せず)とを備えている。
なお、本実施の形態では、各回転センサ35FL〜35RRが各車輪2に設けられ、各車輪2の角速度を回転速度として検出する。即ち、各回転センサ35FL〜35RRは、各車輪2に連動して回転する回転体と、その回転体の周方向に多数形成された歯の有無を電磁的に検出するピックアップとを備えた電磁ピックアップ式のセンサとして構成されている。
CPU71は、車輪回転速度センサ装置35から入力された各車輪2の回転速度と、予めROM72に記憶されている各車輪2の外径とから、各車輪2の実際の周速度をそれぞれ得ることができ、その周速度と車両1の走行速度(対地速度)とを比較することで、各車輪2がスリップしているか否かを判断することができる。
アクセルペダルセンサ装置52aは、アクセルペダル52の操作状態を検出すると共に、その検出結果をCPU71に出力するための装置であり、アクセルペダル52の踏み込み状態を検出する角度センサ(図示せず)と、その角度センサの検出結果を処理してCPU71に出力する制御回路(図示せず)とを主に備えている。
ブレーキペダルセンサ装置53aは、ブレーキペダル53の操作状態を検出すると共に、その検出結果をCPU71に出力するための装置であり、ブレーキペダル53の踏み込み状態を検出する角度センサ(図示せず)と、その角度センサの検出結果を処理してCPU71に出力する制御回路(図示せず)とを主に備えている。
ステアリングセンサ装置54aは、ステアリング54の操作状態を検出すると共に、その検出結果をCPU71に出力するための装置であり、ステアリング54の操作状態を検出する角度センサ(図示せず)と、その角度センサの検出結果を処理してCPU71に出力する制御回路(図示せず)とを主に備えている。
ワイパスイッチセンサ装置55aは、ワイパースイッチ55の操作状態を検出すると共に、その検出結果をCPU71に出力するための装置であり、ワイパースイッチ55の操作状態(操作位置)を検出するポジショニングセンサ(図示せず)と、そのポジショニングセンサの検出結果を処理してCPU71に出力する制御回路(図示せず)とを主に備えている。
ウィンカスイッチセンサ装置56aは、ウィンカスイッチ56の操作状態を検出すると共に、その検出結果をCPU71に出力するための装置であり、ウィンカスイッチ56の操作状態(操作位置)を検出するポジショニングセンサ(図示せず)と、そのポジショニングセンサの検出結果を処理してCPU71に出力する制御回路(図示せず)とを主に備えている。
高グリップスイッチセンサ装置57aは、高グリップスイッチ57の操作状態を検出すると共に、その検出結果をCPU71に出力するための装置であり、高グリップスイッチ57の操作状態(操作位置)を検出するポジショニングセンサ(図示せず)と、そのポジショニングセンサの検出結果を処理してCPU71に出力する制御回路(図示せず)とを主に備えている。
なお、本実施の形態では、各角度センサが電気抵抗を利用した接触型のポテンショメータとして構成されている。CPU71は、各センサ装置52a〜54aの制御回路から入力された検出結果により各ペダル52,53の踏み込み量及びステアリング54の操作角を得ると共に、その検出結果を時間微分することにより、各ペダル52,53の踏み込み速度(操作速度)及びステアリング54の回転速度(操作速度)を得ることができる。
図3に示す他の入出力装置35としては、例えば、雨量を検出するための雨量センサや路面Gの状態を非接触で検出する光学センサなどが例示される。
次いで、図4から図6を参照して、車輪2の詳細構成について説明する。図4は、車両1の上面視を模式的に示した模式図である。図5及び図6は、車両1の正面視を模式的に図示した模式図であり、図5では、車輪2にネガティブキャンバーが付与された状態が図示され、図6では、車輪2にポジティブキャンバーが付与された状態が図示されている。
上述したように、車輪2は、第1トレッド21及び第2トレッド22の2種類のトレッドを備え、図4に示すように、各車輪2(前輪2FL,2FR及び後輪2RL,2RR)において、第1トレッド21が車両1の内側に配置され、第2トレッド22が車両1の外側に配置されている。
本実施の形態では、両トレッド21,22の幅寸法(図4左右方向寸法)が同一に構成されている。また、第1トレッド21は、第2トレッド22に比して、グリップ力の高い特性(高グリップ性)に構成される。一方、第2トレッド22は、第1トレッド21に比して、転がり抵抗の小さい特性(低転がり抵抗)に構成されている。
例えば、図5に示すように、キャンバー角調整装置4が作動制御され、車輪2のキャンバー角θL,θRがマイナス方向(ネガティブキャンバー)に調整されると、車両1の内側に配置される第1トレッド21の接地圧Rinが増加されると共に、車両1の外側に配置される第2トレッド22の接地圧Routが減少される。これにより、第1トレッド21の高グリップ性を利用して、走行性能(例えば、旋回性能、加速性能、制動性能或いは雨天時の車両安定性など)の向上を図ることができる。
一方、図6に示すように、キャンバー各調整装置4が作動制御され、車輪2のキャンバー角θL,θRがプラス方向(ポジティブキャンバー方向)に調整されると、車両1の内側に配置される第1トレッド21の接地圧が減少されると共に、車両1の外側に配置される第2トレッド22の接地圧が増加される。これにより、第2トレッド22の低転がり抵抗を利用して、省燃費性能の向上を図ることができる。
次いで、図7を参照して、キャンバー制御処理について説明する。図7は、キャンバー制御処理を示すフローチャートである。この処理は、車両用制御装置100の電源が投入されている間、CPU71によって繰り返し(例えば、0.2ms間隔で)実行される処理であり、車輪2に付与するキャンバー角を調整することで、上述した走行性能と省燃費性能との2つの性能の両立を図る。
CPU71は、キャンバー制御処理に関し、まず、ワイパースイッチ55がオンされているか否か、即ち、フロントガラスのワイパーによる拭き取り動作が運転者により指示されているか否かを判断する(S1)。その結果、ワイパースイッチ55がオンされていると判断される場合には(S1:Yes)、現在の天候が雨天であり、路面Gに水膜が形成されている可能性があると推定されるので、車輪2にネガティブキャンバーを付与して(S6)、このキャンバー制御処理を終了する。
これにより、第1トレッド21の接地圧Rinが増加されると共に第2トレッド22の接地圧Routが減少されることで(図5参照)、第1トレッド21の高グリップ性を利用して、雨天時の車両安定性の向上を図ることができる。
S1の処理において、ワイパースイッチ55はオンされていないと判断される場合には(S1:No)、雨天ではなく、路面Gの状態は良好であると推定されるので、次いで、アクセルペダル52の踏み込み量は所定値以上であるか否か、即ち、所定以上の加速(急加速)が運転者により指示されているか否かを判断する(S2)。
その結果、アクセルペダル52の踏み込み量が所定値以上であると判断される場合には(S2:Yes)、急加速が運転者より指示されており、車輪2がスリップするおそれがあるので、車輪2にネガティブキャンバーを付与して(S6)、このキャンバー処理を終了する。
これにより、上述した場合と同様に、第1トレッド21の接地圧Rinが増加されると共に第2トレッド22の接地圧Routが減少されることで(図5参照)、第1トレッド21の高グリップ性を利用して、車輪2のスリップを防止することができ、車両1の加速性能の向上を図ることができる。
S2の処理において、アクセルペダル52の踏み込み量が所定値に達していないと判断される場合には(S2:No)、急加速は指示されておらず、緩やかな加速又は定速走行であると推定されるので、次いで、ブレーキペダル53の踏み込み量は所定値以上であるか否か、即ち、所定以上の制動(急制動)が運転者により指示されているか否かを判断する(S3)。
その結果、ブレーキペダル53の踏み込み量が所定値以上であると判断される場合には(S3:Yes)、急制動が運転者より指示されており、車輪2がロックするおそれがあるので、車輪2にネガティブキャンバーを付与して(S6)、このキャンバー処理を終了する。
これにより、上述した場合と同様に、第1トレッド21の接地圧Rinが増加されると共に第2トレッド22の接地圧Routが減少されることで(図5参照)、第1トレッド21の高グリップ性を利用して、車輪2のロックを防止することができ、車両1の制動性能の向上を図ることができる。
S3の処理において、ブレーキペダル53の踏み込み量が所定値に達していないと判断される場合には(S3:No)、急制動は指示されておらず、緩やかな制動か加速又は定速走行であると推定されるので、次いで、車両速度(対地速度)は所定値(例えば、時速15km)以下であるか否か、即ち、低速走行であるか否かを判断する(S17)。
その結果、車両速度が所定値以下(即ち、低速走行中)であると判断される場合には(S17:Yes)、車両速度が所定値を越えている場合と比較して、車両1がその後に減速し停車する可能性や加速する可能性も高いといえる。よって、これらの場合には車両1(車輪2)のグリップ力や停止力を予め確保しておく必要があるので、車輪2にネガティブキャンバーを付与して(S6)、このキャンバー処理を終了する。
これにより、上述した場合と同様に、第1トレッド21の接地圧Rinが増加されると共に第2トレッド22の接地圧Routが減少されることで(図5参照)、第1トレッド21の高グリップ性を利用して、車輪2のグリップ力を増加させることで、そのロックやスリップを防止して、車両1の制動性能や加速性能の向上を図ることができる。
また、車両1が停車した後は、第1トレッド21の高グリップ性を利用して、車両1(車輪2)の停止力を確保することができるので、車両1を安定した状態で停車させておくことができる。更に、その停車後に再発進する場合には、予め第1トレッドの接地圧Rinが増加されていることで、車輪2がスリップすることを防止して、車両1の再発進をスムーズ且つ高レスポンスで行うことができる。
S17の処理において、車両速度が所定値よりも大きいと判断される場合には(S17:No)、車両速度が低速ではなく、加減速の際の駆動力・制動力が比較的小さな値になると推定されるので、次いで、ウィンカスイッチ56はオンであるか否か、即ち、右左折や車線変更を行う旨が運転者により指示されているか否かを判断する(S18)。
その結果、ウィンカスイッチ56がオンであると判断される場合には(S18:Yes)、右左折や車線変更に伴って、車両1の旋回動作やその準備のための減速が行われる可能性が高いので、車輪2にネガティブキャンバーを付与して(S6)、このキャンバー処理を終了する。
これにより、上述した場合と同様に、第1トレッド21の接地圧Rinが増加されると共に第2トレッド22の接地圧Routが減少されることで(図5参照)、第1トレッド21の高グリップ性を利用して、車輪2のスリップを防止することができ、車両1の旋回性能の向上を図ることができる。
S18の処理において、ウィンカスイッチ56はオンされていないと判断される場合には(S18:No)、右左折や車線変更に伴う車両1の旋回動作は行われないと推定されるので、次いで、高グリップスイッチ57はオンであるか否か、即ち、車輪2の特性として高グリップ性を選択する旨が運転者により指示されているか否かを判断する(S19)。
その結果、高グリップスイッチ57がオンであると判断される場合には(S19:Yes)、車輪2の特性として高グリップ性が選択されたということであるので、車輪2にネガティブキャンバーを付与して(S6)、このキャンバー処理を終了する。
これにより、上述した場合と同様に、第1トレッド21の接地圧Rinが増加されると共に第2トレッド22の接地圧Routが減少されることで(図5参照)、第1トレッド21の高グリップ性を利用して、車輪2のスリップを防止することができ、車両1の制動性能や加速性能、或いは旋回性能の向上を図ることができる。
S19の処理において、高グリップスイッチ57はオンされていないと判断される場合には(S19:No)、次いで、ステアリング54の操作角は所定値以上であるか否か、即ち、所定以上の旋回(急旋回)が運転者により指示されているか否かを判断する(S4)。
その結果、ステアリング54の操作角が所定値以上であると判断される場合には(S4:Yes)、急旋回が運転者より指示されており、車輪2がスリップして、車両1がスピンするおそれがあるので、車輪2にネガティブキャンバーを付与して(S6)、このキャンバー処理を終了する。
これにより、上述した場合と同様に、第1トレッド21の接地圧Rinが増加されると共に第2トレッド22の接地圧Routが減少されることで(図5参照)、第1トレッド21の高グリップ性を利用して、車輪2のスリップ(車両1のスピン)を防止することができ、車両1の旋回性能の向上を図ることができる。
一方、S4の処理において、ステアリング54の操作角が所定値に達していないと判断される場合には(S4:No)、急旋回は指示されておらず、緩やかな旋回又は直進走行であり、また、S1からS3の処理より、路面状態は良好であり、急加速や急制動も指示されていないと推定される(S1:No、S2:No、S3:No)。
よって、この場合には(S1:No、S2:No、S3:No、S4:No)、車輪2の性能として高グリップ性を得る必要はなく、低転がり抵抗による省燃費性能を得ることが好ましいと判断できるので、車輪2にポジティブキャンバーを付与して(S5)、このキャンバー処理を終了する。
これにより、第1トレッド21の接地圧Rinが減少されると共に第2トレッド22の接地圧Routが増加されることで(図6参照)、第2トレッド21の低転がり抵抗を利用して、車輪2の転がり効率を向上させることができ、車両1の省燃費性能の向上を図ることができる。
このように、本実施の形態によれば、キャンバー角調整装置4により車輪2のキャンバー角θR,θLを調整して、第1トレッド21における接地圧Rinと第2トレッド22における接地圧Routとの比率を変更することで、加速性能及び制動性能と省燃費性能との互いに背反する2つの性能の両立を図ることができる。
次いで、図8から図11を参照して、第2実施の形態について説明する。図8は、第2実施の形態における車輪202の上面図であり、図9は、車両201の上面視を模式的に示した模式図である。
また、図10は、左旋回状態にある車両201の正面視を模式的に図示した模式図であり、左右の車輪2に左旋回用の舵角が付与されると共に、旋回外輪(右の前輪202FR)にネガティブキャンバーが付与され、旋回内輪(左の車輪202FL)にキャンバー定常角が付与された状態が図示されている。
第1実施の形態では、車輪2の両トレッド21,22の外径が幅方向に一定とされる場合を説明したが、第2実施の形態における車輪2は、第1トレッド221の外径が漸次縮径するように構成されている。なお、上記した第1実施の形態と同一の部分には同一の符号を付して、その説明は省略する。
第2実施の形態における車輪202は、図8及び図9に示すように、車両201の内側(図8右側)に配置される第1トレッド221と、その第1トレッド221と特性が異なり、車両201の外側(図8左側)に配置される第2トレッド22とを備える。
なお、第1トレッド221は、第2トレッド22に比して、グリップ力の高い特性(高グリップ性)に構成され、第2トレッド22は、第1トレッド221に比して、転がり抵抗の小さい特性(低転がり抵抗)に構成されている。
図8及び図9に示すように、車輪202は、両トレッド221,22の幅寸法(図8左右方向寸法)が同一に構成されているが、第2トレッド22における外径が幅方向(図8左右方向)に略一定に構成される一方で、第1トレッド221における外径が第2トレッド22側(図8左側)から車両201の内側(図8右側)に向かうに従って漸次縮径して構成されている。
これにより、図10に示すように、車輪202(左の前輪202FL)に大きなキャンバー角を付与しなくても(即ち、キャンバー角を0°に設定しても)、第1トレッド221が路面Gから離れた状態で、第2トレッド22のみを接地させることができる。その結果、車輪2全体としての転がり抵抗をより小さくして、省燃費性能のより一層の向上を図ることができる。同時に、第1トレッド221が接地せず、かつ、第2トレッド22がより小さなキャンバー角で接地されることより、これら両トレッド221,22の摩耗を抑制して、高寿命化を図ることができる。
一方、図10に示すように、車輪202(右の前輪202FR)にマイナス方向へのキャンバー角(ネガティブキャンバー)を付与して、第1トレッド221を接地させる場合には、かかる第1トレッド221の外径が漸次縮径されていることから、第1トレッド221における接地圧を幅方向(図8左右方向)全域において均等化することができ、トレッド端部に接地圧が集中することを抑制することができる。
よって、高グリップの第1トレッド221を効率的に利用して、走行性能(旋回性能、加速性能、制動性能、雨天時の走行安定性など)のより一層の向上を図ることができると共に、第1トレッド221の偏摩耗を抑制して、高寿命化を図ることができる。
次いで、図11を参照して、第2実施の形態におけるキャンバー制御処理について説明する。図11は、キャンバー制御処理を示すフローチャートである。この処理は、車両用制御装置100の電源が投入されている間、CPU71によって繰り返し(例えば、0.2ms間隔で)実行される処理である。
CPU71は、キャンバー制御処理に関し、ワイパースイッチ55がオンされていると判断される場合(S1:Yes)、アクセルペダル52の踏み込み量が所定値以上であると判断される場合(S1:No、S2:Yes)、ブレーキペダル53の踏み込み量が所定値以上であると判断される場合(S1:No、S2:No、S3:Yes)、車両速度が所定値以下であると判断される場合(S1:No、S2:No、S3:No、S17:Yes)、ウィンカスイッチ56がオンされていると判断される場合(S1:No、S2:No、S3:No、S17:No、S18:Yes)、及び、高グリップスイッチ57がオンされていると判断される場合には(S1:No、S2:No、S3:No、S17:No、S18:Yes)、上述した第1実施の形態で説明したように、路面Gに水膜が形成されている、急加速・急制動が指示されている、大きな駆動力の発生や停車が予測される、右左折や車線変更に伴う旋回動作が予測される、或いは、高グリップ性の選択が指示されているということであり、第1トレッド221の高グリップ性を利用する必要がある。
よって、この場合には、左右の車輪2にネガティブキャンバー(本実施の形態では、少なくとも第2トレッド22が路面Gから離接するキャンバー角、図10に図示する右の前輪202FRを参照)を付与して(S27)、このキャンバー処理を終了する。
これにより、上述した第1実施の形態の場合と同様に、第1トレッド221の接地圧Rinが増加されると共に第2トレッド22の接地圧Routが減少される(本実施の形態では接地圧Routが0となる)ことで、第1トレッド221の高グリップ性を利用して、車輪2のスリップ・ロックを防止することができ、車両201の走行安定性や加速・制動性能の向上を図ることができる。
なお、左右の車輪2に付与するキャンバー角θR,θLは直進走行時であれは同じ角度であることが好ましい。また、そのキャンバー角θR,θLは第2トレッド22が路面Gから離接する以上の角度であることが好ましい。
一方、S4の処理において、ステアリング54の操作角が所定値に達していないと判断される場合には(S4:No)、急旋回は指示されておらず、緩やかな旋回又は直進走行であり、また、S1からS3の処理より、路面状態は良好であり、急加速や急制動も指示されておらず、大きな駆動力の発生や停車は予測されず、右左折や車線変更に伴う旋回動作も予測されず、更に、高グリップ性の選択は指示されていないと推定される(S1:No、S2:No、S3:No、S17:No、S18:No、S19:No)。
よって、この場合には(S1:No、S2:No、S3:No、S17:No、S18:No、S19:No、S4:No)、車輪2の性能として高グリップ性を得る必要はなく、低転がり抵抗による省燃費性能を得ることが好ましいと判断できるので、車輪2にキャンバー定常角を付与して(S25)、このキャンバー処理を終了する。なお、本実施の形態では、キャンバー定常角が0°(図10に図示する左の前輪202FL参照)に設定される。
これにより、第1トレッド221が路面Gから離れた状態で、第2トレッド22のみを接地させることができるので、車輪202全体としての転がり抵抗をより小さくして、省燃費性能のより一層の向上を図ることができる。また、この場合には、第1トレッド221が接地せず、かつ、キャンバー角が0°で第2トレッド22が接地されることで、これら両トレッド221,22の摩耗を抑制して、高寿命化を図ることができる。
また、S4の処理において、ステアリング54の操作角が所定値以上であると判断される場合には(S4:Yes)、急旋回が運転者より指示されており、車輪2がスリップして、車両201がスピンするおそれがある。そこで、本実施の形態では、旋回外輪(図10では右の前輪202FR)にネガティブキャンバーを付与すると共に、旋回内輪(図10では左の前輪202FL)にキャンバー定常角を付与して(S26)、このキャンバー処理を終了する。
これにより、旋回性能を確保しつつ、制御駆動コストの削減を図ることができる。即ち、旋回外輪では、第1トレッド221の接地圧Rinが増加されると共に第2トレッド22の接地圧Routが減少される(本実施の形態では0となる)ことで(図10参照)、第1トレッド221の高グリップ性を利用して、車輪202のスリップ(車両201のスピン)を防止することができ、車両201の旋回性能の向上を図ることができる。一方、旋回内輪では、そのキャンバー角の変化を旋回外輪よりも少なくする(即ち、直進走行時のキャンバー角をそのまま維持する)ことで、車両用制御装置100の制御コスト或いはキャンバー角調整装置4の駆動コストの削減を図ることができる。
次いで、図12から図14を参照して、第3実施の形態について説明する。図12は、第3実施の形態における車輪302の上面図である。また、図13は、左旋回状態にある車両301の正面視を模式的に図示した模式図であり、左右の車輪2に左旋回用の舵角が付与されると共に、旋回外輪(右の前輪202FR)にネガティブキャンバーが付与され、旋回内輪(左の車輪202FL)にポジティブキャンバーが付与された状態が図示されている。
第1実施の形態では、車輪2の両トレッド21,22の外径が幅方向に一定とされる場合を説明したが、第3実施の形態における車輪2は、第1トレッド221の外径と第3トレッド323の外径とが漸次縮径するように構成されている。なお、上記した各実施の形態と同一の部分には同一の符号を付して、その説明は省略する。
第3実施の形態における車輪302は、図12に示すように、第3トレッド323を備え、第1トレッド221が車両301の内側(図12右側)に配置されると共に、第3トレッド323が車両301の外側(図12左側)に配置され、第2トレッド22が第1トレッド221と第3トレッド323との間に配置されている。
そして、第3トレッド323は、少なくとも第2トレッド22に比して、グリップ力の高い特性に構成されると共に、その第3トレッド323の外径は、図12に示すように、第2トレッド22側(図12右側)から車両301の外側(図12左側)に向かうに従って漸次縮径して構成されている。
これにより、車輪302に大きなキャンバー角を付与することなく(例えば、キャンバー角を0°に設定しても)、第1トレッド221及び第3トレッド323が路面Gから離れた状態で、第2トレッド22のみを接地させることができる。これにより、車輪302全体としての転がり抵抗をより小さくして、省燃費性能のより一層の向上を図ることができる。
同時に、第1トレッド221及び第3トレッド323が接地せず、かつ、第2トレッド22がより小さなキャンバー角で接地されることより、これら各トレッド221,22,323の摩耗を抑制して、高寿命化を図ることができる。
一方、車輪302にプラス方向へのキャンバー角(ポジティブキャンバー)を付与して、第3トレッド323を接地させる場合には、かかる第3トレッド323の外径が漸次縮径されていることから、第3トレッド323における接地圧を幅方向(図12左右方向)全域において均等化することができ、トレッド端部に接地圧が集中することを抑制することができる。
よって、高グリップ性の第3トレッド323を効率的に利用して、走行性能(旋回性能、加速性能、制動性能、雨天時の走行安定性など)のより一層の向上を図ることができると共に、偏摩耗を抑制して、高寿命化を図ることができる。
次いで、図14を参照して、第3実施の形態におけるキャンバー制御処理について説明する。図14は、キャンバー制御処理を示すフローチャートである。この処理は、車両用制御装置100の電源が投入されている間、CPU71によって繰り返し(例えば、0.2ms間隔で)実行される処理である。
CPU71は、S4の処理において、ステアリング54の操作角が所定値に達していないと判断される場合には(S4:No)、急旋回は指示されておらず、緩やかな旋回又は直進走行であり、また、S1からS3及びS17からS19の処理より、路面状態は良好であり、急加速や急制動も指示されておらず、大きな駆動力の発生や停車は予測されず、右左折や車線変更に伴う旋回動作も予測されず、更に、高グリップ性の選択は指示されていないと推定される(S1:No、S2:No、S3:No、S17:No、S18:No、S19:No)。
よって、この場合には(S1:No、S2:No、S3:No、S17:No、S18:No、S19:No、S4:No)、車輪302の性能として高グリップ性を得る必要はなく、低転がり抵抗による省燃費性能を得ることが好ましいと判断できるので、車輪2にキャンバー定常角を付与して(S25)、このキャンバー処理を終了する。なお、本実施の形態では、キャンバー定常角が0°(図10に図示する左の前輪202FL参照)に設定される。
これにより、第1トレッド221及び第3トレッド323が路面Gから離れた状態で、第2トレッド22のみを接地させることができるので、車輪302全体としての転がり抵抗をより小さくして、省燃費性能のより一層の向上を図ることができる。また、この場合には、第1トレッド221及び第3トレッド323が接地せず、かつ、キャンバー角が0°で第2トレッド22が接地されることで、これら各トレッド221,22,323の摩耗を抑制して、高寿命化を図ることができる。
また、S4の処理において、ステアリング54の操作角が所定値以上であると判断される場合には(S4:Yes)、急旋回が運転者より指示されており、車輪2がスリップして、車両301がスピンするおそれがある。そこで、本実施の形態では、旋回外輪(図13では右の前輪202FR)にネガティブキャンバーを付与すると共に、旋回内輪(図13では左の前輪202FL)にポジティブキャンバーを付与して(S36)、このキャンバー処理を終了する。
即ち、S36の処理では、図13に示すように、左右の車輪320がいずれも旋回内方側(図13右側)に傾斜するように、キャンバー角θR,θLを付与するので、左右両輪302にそれぞれ横力を発生させて、それら両輪302の横力を旋回力として利用することができるので、旋回性能のより一層の向上を図ることができる。
次いで、図15を参照して、第4実施の形態について説明する。図15は、第4実施の形態におけるキャンバー制御処理を示すフローチャートである。この処理は、車両用制御装置100の電源が投入されている間、CPU71によって繰り返し(例えば、0.2ms間隔で)実行される処理である。
第1実施の形態では、例えば、急加速や急旋回などが運転者により指示された場合に車輪2のキャンバー角を調整する場合を説明したが、第4実施の形態では、スリップした車輪202がある場合にその車輪202のキャンバー角を調整するように構成されている。
なお、上記した各実施の形態と同一の部分には同一の符号を付して、その説明は省略する。また、第4実施の形態では、第2実施の形態における車両201(車輪202)を車両用制御装置100で制御する場合を例に説明する。
CPU71は、キャンバー角S4の処理において、まず、車両速度を検出すると共に(S41)、車輪202の回転速度(周速度)を検出し(S42)、これら車両速度と車輪202の周速度とに基づいて、スリップしている車輪202が有るか否かを判断する(S43)。なお、車両速度及び車輪202の周速度は、上述したように、車両速度センサ装置32及び車輪回転速度センサ装置35により算出される。
その結果、S43の処理において、スリップしている車輪202はない、即ち、全ての車輪202が路面Gにグリップして走行していると判断される場合には(S43:No)、車輪202の性能として高グリップ性を得る必要はなく、低転がり抵抗による省燃費性能を得ることが好ましいと判断できるので、車輪202にキャンバー定常角(第2実施の形態の場合と同様に0°)を付与して(S44)、このキャンバー処理を終了する。
これにより、第1トレッド221が路面Gから離れた状態で、第2トレッド22のみを接地させることができるので、車輪202全体としての転がり抵抗をより小さくして、省燃費性能のより一層の向上を図ることができる。また、この場合には、第1トレッド221が接地せず、かつ、キャンバー角が0°で第2トレッド22が接地されることで、これら両トレッド221,22の摩耗を抑制して、高寿命化を図ることができる。
一方、S43の処理において、スリップしている車輪202があると判断される場合には(S43:Yes)、車両201の加速性能や走行安定性が損なわれるおそれがあるので、スリップしている車輪202にネガティブキャンバーを付与して(S45)、このキャンバー処理を終了する。
これにより、上述した第1実施の形態の場合と同様に、第1トレッド221の接地圧Rinが増加されると共に第2トレッド22の接地圧Routが減少される(本実施の形態では接地圧Routが0となる)ことで、第1トレッド221の高グリップ性を利用して、車輪202のスリップを防止することができ、車両201の加速性能や走行安定性の向上を図ることができる。
次いで、図16から図19を参照して、第5実施の形態について説明する。第1実施の形態では、車輪2にネガティブキャンバー又はポジティブキャンバーを付与する場合に、そのキャンバー角が車両1の走行状態に寄らず一定値である場合を説明したが、第5実施の形態では、車両1の走行状態に応じて、車輪2に付与されるキャンバー角の大きさが増減するように構成されている。
なお、上記した各実施の形態と同一の部分には同一の符号を付して、その説明は省略する。また、第5実施の形態では、第1実施の形態における車両1(車輪2)を車両用制御装置500で制御する場合を例に説明する。
図16は、第5実施の形態における車両用制御装置500の電気的構成を示したブロック図である。車両用制御装置500は、図16に示すように、CPU71、ROM572及びRAM73を備え、これらはバスライン74を介して入出力ポート75に接続されている。第5実施の形態におけるROM572には、摩擦係数マップ572aとキャンバー角マップ572bとが設けられている。なお、これら両マップ572a,572bの詳細については、図17及び図18を参照して後述する。
路面状況スイッチセンサ装置558aは、路面状況スイッチ(図示せず)の操作状態を検出すると共に、その検出結果をCPU71に出力するための装置であり、路面状況スイッチの操作状態(操作位置)を検出するポジショニングセンサ(図示せず)と、そのポジショニングセンサの検出結果を処理してCPU71に出力する制御回路(図示せず)とを主に備えている。
なお、路面状況スイッチは、運転者により操作される操作部材であり、走行路面の状況に応じて、運転者により路面状況スイッチが切り換えられると、その操作状態(操作位置)に応じて、キャンバー角調整装置4の作動制御がCPU71により行われる。具体的には、路面状況スイッチは、3段式(3ポジション式)のロッカースイッチとして構成され、第1位置は走行路面が乾燥舗装路である状態に、第2位置は走行路面が未舗装路である状態に、第3位置は走行路面が雨天舗装路である状態に、それぞれ対応する。
図17は、摩擦係数マップ572aの内容を模式的に図示した模式図である。摩擦係数マップ572aは、アクセルペダル52a及びブレーキペダル53の踏み込み量(操作量)と必要前後摩擦係数との関係を記憶したマップである。
CPU71は、この摩擦係数マップ572aの内容に基づいて、現在の車両1の走行状態において車輪2が発揮すべき摩擦係数(即ち、車輪2にスリップやロックを生じさせないために必要な摩擦係数)を算出する。なお、縦軸に示した必要前後摩擦係数は、車輪2にスリップ又はロックを生じさせないために必要な車両前後方向(図1上下方向)における摩擦係数である。
この摩擦係数マップ572aによれば、図17に示すように、アクセルペダル52及びブレーキペダル53が操作されていない状態(アクセル及びブレーキ操作量=0)では、必要前後摩擦係数が最小値μfminに規定されると共に、アクセルペダル52又はブレーキペダル53の操作量(踏み込み量)に比例して、必要前後摩擦係数が直線的に変化し、アクセルペダル52又はブレーキペダル53の操作量が最大に操作された状態(アクセル操作量=100%)において、必要前後摩擦係数が最大値μfmaxとなるように規定されている。
図18は、キャンバー角マップ572bの内容を模式的に図示した模式図である。キャンバー角マップ572bは、車輪2の摩擦係数及び転がり抵抗とキャンバー角との関係を記憶したマップであり、車輪2を使用した予備試験で実測された値が記憶されている。
CPU71は、このキャンバー角マップ572bの内容に基づいて、車輪2に付与すべきキャンバー角を算出する。
なお、図18において、実線501は摩擦係数に、実線502は転がり抵抗に、それぞれ対応する。また、横軸のキャンバー角は、図18右側(角度0度よりもθa側)がネガティブキャンバー(即ち、高グリップの第1トレッド21の接地圧が増加する側、図5参照)に、図18左側(角度0度よりもθb側)がポジティブキャンバー(即ち、低転がり抵抗の第2トレッド22の接地圧が増加する側、図6参照)に、それぞれ対応する。
ここで、キャンバー角マップ572bには、上述した路面状況スイッチの3種類の操作状態に対応して、3種類のマップが記憶されているが、図18では、図面を簡素化して理解を容易とするべく、1種類のマップ(乾燥舗装路用マップ)のみを代表例として図示し、他の2種類についてはその図示を省略している。
即ち、キャンバー角マップ572bには、乾燥舗装路用マップ、未舗装用マップ及び雨天舗装路用マップの3種類が記憶されており、CPU71は、路面状況スイッチの操作状態を検出し、乾燥舗装路が指示されている場合には乾燥舗装路用マップを、未舗装路が指示されている場合には未舗装路用マップを、雨天舗装路が指示されている場合には雨天舗装路用マップを、それぞれ読み出し、その内容に基づいて、キャンバー角調整装置4の作動制御を行う。
このキャンバー角マップ572bによれば、図18に示すように、キャンバー角が0度の状態(即ち、第1トレッド21と第2トレッド22とが均等に接地している状態)から、キネガティブキャンバー側(θa側)へ向けて変化すると、かかる変化に伴って、高グリップ特性の第1トレッド21の接地圧が漸次増加する(低転がり抵抗の第2トレッド22の接地圧が漸次減少する)ことで、摩擦係数(及び転がり抵抗)が漸次増加するように規定されている。
そして、キャンバー角がθa(以下、「第2キャンバー角θa」と称す。)に達すると、第2トレッド22が走行路面から離間され、第1トレッド21のみが走行路面に接地した状態となることで、摩擦係数が最大値μaに達する。
なお、キャンバー角が第2キャンバー角θaからネガティブキャンバー側へ向けて更に変化しても、第2トレッド22が既に走行路面から離間されているので、摩擦係数の変化はほとんど生じず、摩擦係数は最大値μaに維持される。また、転がり抵抗の変化も同様であり、第2キャンバー角θaで最大値となり、その後はほぼ一定値を維持する。
一方、図18に示すように、キャンバー角が0度の状態(即ち、第1トレッド21と第2トレッド22とが均等に接地している状態)から、ポジティブキャンバー側(θb側)へ向けて変化すると、かかる変化に伴って、低転がり抵抗の第2トレッド22の接地圧が漸次増加する(高グリップ特性の第1トレッド21の接地圧が漸次減少する)ことで、摩擦係数(及び転がり抵抗)が漸次減少するように規定されている。
そして、キャンバー角がθb(以下、「第1キャンバー角θb」と称す。)に達すると、第1トレッド21が走行路面から離間され、第2トレッド22のみが走行路面に接地した状態となることで、摩擦係数が最小値μbに達する。
なお、キャンバー角が第1キャンバー角θbからポジティブキャンバー側へ向けて更に変化しても、第1トレッド21が既に走行路面から離間されているので、摩擦係数の変化はほとんど生じず、摩擦係数は最小値μbに維持される。また、転がり抵抗の変化も同様であり、第1キャンバー角θbで最小値となり、その後はほぼ一定値を維持する。
ここで、図18で図示を省略した未舗装路面用マップ及び雨天舗装路面用マップについては、乾燥路面用マップの実線を摩擦係数が小さくなる方向へ平行移動した特性である。即ち、摩擦係数が最小値又は最大値となるキャンバー角はいずれのマップにおいても第1又は第2キャンバー角θa,θbである。
次いで、図19を参照して、第5実施の形態におけるキャンバー制御処理について説明する。図19は、キャンバー制御処理を示すフローチャートである。この処理は、車両用制御装置500の電源が投入されている間、CPU71によって繰り返し(例えば、0.2ms間隔で)実行される処理である。
CPU71は、キャンバー制御処理に関し、まず、路面状況を判断する(S51)。この処理は、路面状況スイッチセンサ装置558a(図16参照)による検出結果を確認し、運転者による路面状況スイッチの操作状態を取得することで行われる。即ち、CPU71は、上述したように、路面状況スイッチの操作位置を第1位置と確認した場合には、路面状況を乾燥路面と判断し、第2位置であれば未舗装路面と判断すると共に、第3位置であれば雨天舗装路面と判断する。
次いで、S52の処理では、アクセルペダル52及びブレーキペダル53の操作状態を検出し(S52)、その検出した操作状態に対応する必要前後摩擦係数を摩擦係数マップ572a(図17参照)から読み出す(S53)。これにより、車輪2にスリップ又はロックを生じさせないために必要な車両前後方向(図1上下方向)における摩擦係数を得ることができる。
次いで、S54の処理では、車輪2の舵角及び車両1の対地速度(車速)を検出し(S54)、その検出した舵角及び車速から必要横摩擦係数を算出する(S55)。なお、CPU71は、上述したように、ステアリングセンサ装置54a及び車両速度センサ装置32の検出結果に基づいて、車輪2の舵角及び車両1の対地速度を検出する。
ここで、必要横摩擦係数は、旋回走行中の車両1において、その車輪2にスリップが生じさせないために必要な車両左右方向(図1左右方向)における摩擦係数であり、次に説明するように算出される。
即ち、まず、車輪2の舵角σ、アッカーマン旋回半径R0及び車両1のホイールベースIの関係は、tanσ=I/R0により表すことができる。この関係式は、舵角σが微小角の場合、σ=I/R0と近似することができる。これをアッカーマン旋回半径R0について変形することで、R0=I/σを得ることができる。
一方、車両1の実旋回半径R及び車両1の対地速度(車速)vの関係は、車両1について実測したスタビリティファクターKを使用することで、車両1のステア特性より、R/R0=1+K・v2により表すことができる。これを実旋回半径Rについて変形すると共に、先に求めたアッカーマン旋回半径R0を代入することで、R=I(1+K・v2)/σを得ることができる。
ここで、旋回走行中に車両1に作用する遠心力Fは、車両1の重量をmとすれば、F=m・v2/Rとなり、これに先に求めた実旋回半径Rを代入することで、F=m・v2・σ/(I(1+K・v2))を得ることができる。車輪2が横方向(車両1の左右方向)にスリップすることを回避するための摩擦力は、この遠心力Fよりも大きな値であれば良いので、必要横摩擦係数μwは、遠心力Fを重量mで割ることで、μw=F/m=v2・σ/(I(1+K・v2))により表すことができる。
S53及びS55の処理において必要前後摩擦係数及び必要横摩擦係数を得た後は、それら必要前後摩擦係数及び必要横摩擦係数に基づいて(即ち、車両1の前後方向及び左右方向を向くベクトルの合力として)、必要摩擦係数を算出して(S56)、S57の処理へ移行する。
S57の処理では、S56の処理において算出した必要摩擦係数と、車輪2が発揮可能な摩擦係数の最大値μa及び最小値μbとを比較し、必要摩擦係数が最小値μb以上かつ最大値μa以下であるか否かを判断する(S57)。
なお、車輪2が発揮可能な摩擦係数の最大値μa及び最小値μbは、上述したように、キャンバー角マップ572b(図18参照)から読み出される。また、この場合には、CPU71は、S51の処理において判別した路面状況に応じたマップを3種類のマップの中から選択し、その選択したマップの内容に基づいて、最大値μa及び最小値μbを読み出す。
S57において判断した結果、必要摩擦係数が最小値μb以上かつ最大値μa以下であると判断される場合には(S57:Yes)、必要摩擦係数に対応する(即ち、必要摩擦係数と同等の摩擦係数となる)キャンバー角をキャンバー角マップ572bから読み出し(S58)、キャンバー角付与処理として、読み出したキャンバー角を車輪2に付与して(S59)、このキャンバー制御処理を終了する。
具体的には、この場合は、例えば、S56の処理において算出された必要摩擦係数がμxであって、μb≦μx≦μaの関係が成り立つということであるので(S57:Yes)、この必要摩擦係数μxに対応するキャンバー角を図18に示すキャンバー角マップ572bからθxと読み出し(S58)、この読み出したキャンバー角θxを車輪2に付与する(S59)。
これにより、車輪2の発揮する摩擦係数の変更を必要最低限の摩擦係数に制御することができるので、加速制動性能や旋回性能を必要な分だけ確保しつつも、転がり抵抗をより小さな値に抑制して、より一層の省燃費を達成することができる。
一方、S57の処理において、必要摩擦係数が最小値μb以上かつ最大値μa以下ではないと判断される場合には(S57:No)、次いで、必要摩擦係数が最小値μbよりも小さいか否かを判断する(S60)。その結果、必要摩擦係数が最小値μbよりも小さいと判断される場合には(S60:Yes)、第1キャンバー角を車輪2に付与して(S61)、このキャンバー制御処理を終了する。
具体的には、この場合は、S56の処理において算出された必要摩擦係数μyが最小値μbよりも小さい(μy<μb)ということであるが(S60:Yes)、上述の場合のように、必要摩擦係数μyに対応するキャンバー角を図18に示すキャンバー角マップ572bから例えばθyと読み出すのではなく、この場合は、車輪2に付与するキャンバー角を第1キャンバー角θbと決定し、これを車輪2に付与する(S61)。
このように、本実施の形態では、図18に示すように、S56の処理において算出された必要摩擦係数μyが車輪2の発揮できる摩擦係数の最小値μbを下回っている場合、車輪2に第1キャンバー角θbよりも絶対値が大きなキャンバー角を付与しても、それ以上の転がり抵抗の低減(省燃費走行の達成)を見込めないと判断し、車輪2には、最小値μbを発揮可能な範囲内で最も小さい角度(0度に近い角度)、即ち、第1キャンバー角θbを付与する。これにより、キャンバー角が不必要に大きくなることを回避して、車両1の走行安定性を確保することができる。
一方、S60の処理において、必要摩擦係数が最小値μbよりも小さいと判断されない場合には(S60:No)、必要摩擦係数が最大値μaよりも大きいということであるので、この場合には(S60:No)、第2キャンバー角を車輪2に付与すると共に(S62)、報知処理(S63)を実行して、このキャンバー制御処理を終了する。
具体的には、この場合は、S56の処理において算出された必要摩擦係数μzが最大値μaよりも大きい(μb<μz)ということであるが(S60:No)、上述の場合のように、必要摩擦係数μzに対応するキャンバー角を図18に示すキャンバー角マップ572bから例えばθzと読み出すのではなく、この場合は、車輪2に付与するキャンバー角を第2キャンバー角θaと決定し、これを車輪2に付与する(S62)。
このように、本実施の形態では、図18に示すように、S56の処理において算出された必要摩擦係数μzが車輪2の発揮できる摩擦係数の最大値μaを越えている場合、車輪2に第2キャンバー角θaよりも絶対値が大きなキャンバー角を付与しても、それ以上の摩擦係数の増加(グリップ性能の向上)を見込めないと判断し、車輪2には、最大値μaを発揮可能な範囲内で最も小さい角度(0度に近い角度)、即ち、第2キャンバー角θaを付与する。これにより、キャンバー角が不必要に大きくなることを回避して、車両1の走行安定性を確保することができる。
ここで、報知処理(S63)では、急加速や急制動などによって、車輪2がスリップやロックしている(又はするおそれのある)旨をスピーカーから出力すると共にモニター装置へ表示することで、運転者に対して報知する。なお、車両1が加速状態にある場合には、車両1の速度を低下させる手段(例えば、制動装置の作動による車両1の制動やエンジン等の出力を低下させる)をS63の処理において実行しても良い。これにより、車両1の速度を運転者の操作に寄らず機械的に低下させることができ、安全性の向上に寄与できる。
次いで、図20を参照して、第6実施の形態について説明する。第5実施の形態では、車輪2に第1トレッド21及び第2トレッド22が設けられる場合を説明したが、第6実施の形態では、上述した第3実施の形態の場合と同様に、車輪302に第1トレッド221、第2トレッド22及び第3トレッド323が設けられている。
なお、上記した各実施の形態と同一の部分には同一の符号を付して、その説明は省略する。また、第6実施の形態では、第3実施の形態における車両301(車輪302、図12又は図13参照)を第5実施の形態における車両用制御装置500で制御する場合を例に説明する。但し、第6実施の形態では、第5実施の形態に対して、後述するように、キャンバー角マップの構成が異なる。
図20は、第6実施の形態におけるキャンバー角マップの内容を模式的に図示した模式図である。キャンバー角マップは、車輪302の摩擦係数及び転がり抵抗とキャンバー角との関係を記憶したマップであり、車輪302を使用した予備試験で実測された値が記憶されている。CPU71は、上述した第5実施の形態の場合と同様に、このキャンバー角マップの内容に基づいて、車輪302に付与すべきキャンバー角を算出する。
なお、図20において、実線601は摩擦係数に、実線602は転がり抵抗に、それぞれ対応する。また、第6実施の形態におけるキャンバー角マップには、第5実施の形態の場合と同様に、路面状況スイッチの3種類の操作状態に対応して、3種類のマップが記憶されているが、図20では、図面を簡素化して理解を容易とするべく、1種類のマップ(乾燥舗装路用マップ)のみを代表例として図示し、他の2種類についてはその図示を省略している。
第6実施の形態におけるキャンバー角マップによれば、図20に示すように、キャンバー角が0度の状態(即ち、第2トレッド22のみが接地し、第1及び第3トレッド221,323が走行路面から離間している状態)から、ネガティブキャンバー側(θbn側)へ向けて変化した場合、キャンバー角がθbnまでの間は、第2トレッド22のみが接地し、第1トレッド221(及び第3トレッド323)は走行路面から離間しているので、摩擦係数は最小値μbに維持される。なお、転がり抵抗についても同様であり、この区間においては、最小値を維持する。
そして、キャンバー角がθbnから、ネガティブキャンバー側(θan側)へ向けて変化すると、かかる変化に伴って、高グリップ特性の第1トレッド221の接地圧が漸次増加する(低転がり抵抗の第2トレッド22の接地圧が漸次減少する)ことで、摩擦係数(及び転がり抵抗)が漸次増加する。
その後、キャンバー角がθan(以下、「第3キャンバー角θan」と称す。)に達すると、第2トレッド22が走行路面から離間され、第1トレッド221のみが走行路面に接地した状態となることで、摩擦係数が最大値μaに達する。
この場合、キャンバー角が第3キャンバー角θanからネガティブキャンバー側(図20右側)へ向けて更に変化しても、第2トレッド22が既に走行路面から離間されており、走行路面に接地するのは第1トレッド221のみであるので、摩擦係数の変化はほとんど生じず、摩擦係数は最大値μaに維持される。また、転がり抵抗の変化も同様であり、キャンバー角が第3キャンバー角θanに達した時点で最大値となり、その後はほぼ一定値を維持する。
同様に、図20に示すように、キャンバー角が0度の状態(即ち、第2トレッド22のみが接地し、第1及び第3トレッド221,323が走行路面から離間している状態)から、ポジティブキャンバー側(θbp側)へ向けて変化した場合、キャンバー角がθbpまでの間は、第2トレッド22のみが接地し、第3トレッド323(及び第1トレッド221)は走行路面から離間しているので、摩擦係数は最小値μbに維持される。なお、転がり抵抗についても同様であり、この区間においては、最小値を維持する。
そして、キャンバー角がθbpから、ポジティブキャンバー側(θap側)へ向けて変化すると、かかる変化に伴って、高グリップ特性の第3トレッド323の接地圧が漸次増加する(低転がり抵抗の第2トレッド22の接地圧が漸次減少する)ことで、摩擦係数(及び転がり抵抗)が漸次増加する。
その後、キャンバー角がθap(以下、「第4キャンバー角θap」と称す。)に達すると、第2トレッド22が走行路面から離間され、第3トレッド323のみが走行路面に接地した状態となることで、摩擦係数が最大値μaに達する。
この場合、キャンバー角が第4キャンバー角θapからポジティブキャンバー側(図20左側)へ向けて更に変化しても、第2トレッド22が既に走行路面から離間されており、走行路面に接地するのは第3トレッド323のみであるので、摩擦係数の変化はほとんど生じず、摩擦係数は最大値μaに維持される。また、転がり抵抗の変化も同様であり、キャンバー角が第4キャンバー角θapに達した時点で最大値となり、その後はほぼ一定値を維持する。
次いで、図21を参照して、第6実施の形態におけるキャンバー制御処理について説明する。図21は、キャンバー制御処理を示すフローチャートである。この処理は、車両用制御装置500の電源が投入されている間、CPU71によって繰り返し(例えば、0.2ms間隔で)実行される処理である。
第6実施の形態では、CPU71は、キャンバー制御処理に関し、第5実施の形態の場合と同様に、路面状況を判断した後(S51)、アクセルペダル52及びブレーキペダル53の操作状態を検出し(S52)、その検出した操作状態に対応する必要前後摩擦係数を摩擦係数マップ572a(図17参照)から読み出す(S53)。
S53の処理を実行した後は、車輪302の舵角及び車両1の対地速度(車速)を検出し(S54)、その検出した舵角及び車速から必要横摩擦係数を算出した後(S55)、必要前後摩擦係数及び必要横摩擦係数に基づいて、必要摩擦係数を算出し(S56)、その算出した必要摩擦係数が最小値μb以上かつ最大値μa以下であるか否かを判断する(S57)。
その結果、必要摩擦係数が最小値μb以上かつ最大値μa以下であると判断される場合には(S57:Yes)、次いで、ステアリング54の操作角は所定値以上であるか否か、即ち、所定以上の旋回(急旋回)が運転者により指示されているか否かを判断する(S601)。
その結果、ステアリング54の操作角が所定値以上であると判断される場合には(S601:Yes)、急旋回が運転者より指示されており、スリップのおそれがあると判断し、本実施の形態では、必要摩擦係数に対応する(即ち、必要摩擦係数と同等の摩擦係数となる)キャンバー角であって、旋回外輪がネガティブキャンバーとなり、かつ、旋回内輪がポジティブキャンバーとなるキャンバー角を図20に示すキャンバー角マップから読み出し(S658)、キャンバー角付与処理として、読み出したキャンバー角を車輪302に付与して(S59)、このキャンバー制御処理を終了する。
これにより、第3実施の形態の場合と同様に、左右の車輪320がいずれも旋回内方側に傾斜するように、キャンバー角を付与することができる(図13参照)。その結果、左右両輪302にそれぞれ横力を発生させて、それら両輪302の横力を旋回力として利用することができ、旋回性能のより一層の向上を図ることができる。
一方、S601の処理において、ステアリング54の操作角が所定値に達していないと判断される場合には(S601:No)、急旋回は指示されておらず、比較的緩やかな旋回又は直進走行であると判断し、本実施の形態では、必要摩擦係数に対応する(即ち、必要摩擦係数と同等の摩擦係数となる)キャンバー角であって、左右両輪がネガティブキャンバーとなるキャンバー角を図20に示すキャンバー角マップから読み出し(S602)、キャンバー角付与処理として、読み出したキャンバー角を車輪302に付与して(S59)、このキャンバー制御処理を終了する。これにより、車両301の姿勢を安定に保つことができる。
一方、S57の処理において、必要摩擦係数が最小値μb以上かつ最大値μa以下ではないと判断される場合には(S57:No)、次いで、必要摩擦係数が最小値μbよりも小さいか否かを判断し(S60)。必要摩擦係数が最小値μbよりも小さいと判断される場合には(S60:Yes)、キャンバー定常角を車輪302に付与して(S661)、このキャンバー制御処理を終了する。
なお、本実施の形態では、キャンバー定常角が0度に設定される。これにより、第1トレッド221及び第3トレッド323が走行路面から離れた状態で、第2トレッド22のみを接地させることができるので、車輪302全体としての転がり抵抗をより小さくして、省燃費性能のより一層の向上を図ることができる。また、この場合には、第1トレッド221及び第3トレッド323が接地せず、かつ、キャンバー角が0度で第2トレッド22が接地されることで、これら各トレッド221,22,323の摩耗を抑制して、高寿命化を図ることができる。更に、キャンバー角が不必要に大きくなることを回避して、車両1の走行安定性を確保することができる。
一方、S60の処理において、必要摩擦係数が最小値μbよりも小さいと判断されない場合、即ち、必要摩擦係数が最大値μaよりも大きい場合には(S60:No)、次いで、ステアリング54の操作角は所定値以上であるか否か、即ち、所定以上の旋回(急旋回)が運転者により指示されているか否かを判断する(S603)。
その結果、ステアリング54の操作角が所定値以上であると判断される場合には(S604:Yes)、急旋回が運転者より指示されており、スリップのおそれがあると判断し、本実施の形態では、旋回外輪に上述した第3キャンバー角を付与すると共に旋回内輪に上述した第4キャンバー角を付与する(S605)。
これにより、旋回外輪がネガティブキャンバーとなり、かつ、旋回内輪がポジティブキャンバーとなり、第3実施の形態の場合と同様に、左右の車輪320がいずれも旋回内方側に傾斜するように、キャンバー角を付与することができる(図13参照)。その結果、左右両輪302にそれぞれ横力を発生させて、それら両輪302の横力を旋回力として利用することができ、旋回性能のより一層の向上を図ることができる。
一方、S603の処理において、ステアリング54の操作角が所定値に達していないと判断される場合には(S603:No)、急旋回は指示されておらず、比較的緩やかな旋回又は直進走行であると判断し、本実施の形態では、左右両輪に第3キャンバー角を付与する(S604)。これにより、左右両輪にネガティブキャンバーを付与して、車両301の姿勢を安定に保つことができる。
なお、本実施の形態では、上述した第5実施の形態の場合と同様に、S56の処理において算出された必要摩擦係数が車輪2の発揮できる摩擦係数の最大値μaを越えている場合、車輪302に第3又は第4キャンバー角よりも絶対値が大きなキャンバー角を付与しても、それ以上の摩擦係数の増加(グリップ性能の向上)を見込めないと判断し、車輪302には、最大値μaを発揮可能な範囲内で最も小さい角度(0度に近い角度)、即ち、第3又は第4キャンバー角を付与する。これにより、キャンバー角が不必要に大きくなることを回避して、車両301の走行安定性を確保することができる。
S604又はS605の処理を実行した後は、報知処理(S63)を実行して、このキャンバー制御処理を終了する。
次いで、図22から図24を参照して、第7実施の形態について説明する。上記各実施の形態では、4つの車輪2FL〜2RRが全て車輪駆動装置3によって駆動される四輪駆動車(車両1)に対するキャンバー角制御について説明したが、この第7の実施形態は、前左右輪2FL,2FRが車輪駆動装置3によって駆動される駆動輪であり、後左右輪2RL,2RRが駆動輪(車輪2FL,2FR)に従動する従動輪である二輪駆動車に対して行うキャンバー角制御である。
この第7実施の形態における車両(車両1’)は、特に図示しないが、上記した第1実施の形態における車両1において、後左輪2RL及び後右輪2RRをそれぞれ駆動するRLモータ3RL及びRRモータ3RRが省略されると共に、その車両1’を制御する車両制御装置を車両制御装置100から車両制御装置700に変更した車両として構成される。なお、上記した各実施の形態と同一の部分には同一の符号を付して、その説明は省略する。
図22は、第7実施の形態における車両用制御装置700の電気的構成を示したブロック図である。車両用制御装置700は、図22に示すように、CPU71と、摩擦係数マップ572a及びキャンバー角マップ572bを有するROM572と、RAM73とを備え、これらはバスライン74を介して入出力ポート75に接続されている。
この第7実施の形態における車両用制御装置700の入出力ポート75には、機械式ブレーキ制御装置300が接続されている。この機械式ブレーキ制御装置300は、運転者によるブレーキペダル53の操作状態(踏み込み量、踏み込み速度など)に応じた機械ブレーキによる制動力を各車輪2FL〜2RRへ付与するための制御装置である。
ブレーキペダルセンサ装置53aにより運転者によるブレーキペダル53の操作状態が検出されると、その検出結果がCPU71へ出力される。CPU71は、該検出結果に基づき機械ブレーキ(液圧ブレーキ)の付与量を設定し、機械式ブレーキ制御装置300へ出力する。機械式ブレーキ制御装置300は、かかる付与量に基づき、各車輪2FL〜2RRのブレーキアクチュエータ(図示せず)へ付与する液圧を制御する。その結果、各車輪2FL〜2RRには、ブレーキペダル53の操作状態に応じた機械ブレーキによる制動力が付与される。
一方、前左輪2FL及び前右輪2FRをそれぞれ駆動するFLモータ3FL及びFRモータ3FRは、回生回路(図示せず)と共に回生ブレーキ装置を構成し、回生モータとして機能する。図示されない回生回路は、交流電流を直流電流に変換するインバータを内蔵し、CPU71からの制御信号に基づいてこれらのモータ3FL,3FRを回生モータとして機能させることにより、これらのモータ3FL,3FRにより発生された電力をバッテリ(図示せず)へ供給する。即ち、この第7実施の形態の車両1は、モータ3FL,3FRによる回生ブレーキと、機械ブレーキ(液圧ブレーキ)との協調により制動を行う車両である。
ここで、図23は、第7実施の形態における車両1’におけるブレーキペダル53の操作状態と制動力との相関を示す模式図である。図23に示す模式図において、横軸は、ブレーキペダルセンサ装置53aにより検出されたブレーキペダル53の踏力を示し、向かって右(図23における右側)へ向かうほどブレーキペダル53の踏力が大きいことを示す。一方、縦軸は、車両1へ付与される制動力を示し、上へ(図23における上側へ)向かうほど、車両1へ付与される制動力が大きいことを示す。
ここで、図23において、点線701は、全体の制動力に対応する。図23に示すように、運転者によりブレーキペダル53が操作された場合、全体の制動力はブレーキペダル53の踏力に比例して増加する。
また、図23において、実線702は、回生ブレーキによる制動力に対応し、実線703は、機械ブレーキによる制動力に対応する。図23に示すように、運転者によってブレーキペダル53が踏み込まれ始めてから、ブレーキペダル53の踏力が「X」に到達するまでは、全体の制動力がすべて回生ブレーキによる制動力によって賄われる。即ち、ブレーキペダル53の踏力が「0」から「X」までの範囲では、CPU71は、ブレーキペダル53の踏力に応じた制動力を全て回生ブレーキから得るよう車輪駆動装置3(モータ3FL,3FR)へ制御信号を出力する。
そして、運転者によるブレーキペダル53の踏力がさらに大きくなり、ブレーキペダル53の踏力が「X」以上になると、回生ブレーキと機械ブレーキとの協調による制動が行われる。即ち、ブレーキペダル53の踏力が「X」以上の範囲では、CPU71は、ブレーキペダル53の踏力に応じた回生ブレーキの付与量(制動力)と機械ブレーキの付与量(制動力)とをそれぞれ設定し、設定した制動力を車輪駆動装置3(モータ3FL,3FR)及びブレーキ機械式ブレーキ制御装置30へ出力する。よって、従動輪である後左右輪2RL,2RRへは、ブレーキペダル53の踏力が「X」以上となった場合に機械ブレーキによる制動が開始される。
次に、図24を参照して、第7実施の形態におけるキャンバー角付与処理(S59)について説明する。図24は、キャンバー角付与処理(S59)を示すフローチャートである。なお、このキャンバー角付与処理(S59)は、上記した第5実施の形態のキャンバー制御処理の中で実行される処理である。
図24に示すように、このキャンバー角付与処理(S59)によれば、S55の処理により算出された必要横摩擦係数が閾値「M」未満(必要横摩擦係数<M)であるかを確認する(S591)。S591の処理により確認した結果、必要横摩擦係数<Mである場合、即ち、旋回半径が緩やか(直進を含む)であったり低速旋回であったりなどの理由によって車両1’の遠心力が必要横摩擦係数「M」に対応する遠心力より小さい場合には(S591:Yes)、ブレーキ踏力が機械ブレーキを作動させる境界である「X」未満(ブレーキ踏力<X)であるかを確認する(S592)。
S592の処理により確認した結果、ブレーキ踏力<Xである場合、即ち、ブレーキペダル53の踏力に応じた制動力が全て回生ブレーキによって賄われる場合には(S592:Yes)、S58の処理により読み出したキャンバー角を駆動輪2FL.2FRにのみ付与する(S593)。
よって、このキャンバー角付与処理(S59)によれば、駆動輪である前左右輪2FL.2FRにのみ回生ブレーキによる制動力が付与される場合には、前左右輪2FL.2FRに対してのみ、必要摩擦係数に応じたキャンバー角が付与される。
このように、駆動輪である前左右輪2FL.2FRにのみ回生ブレーキによる制動力が付与され、従動輪である後左右輪2RL,2RRに対し制動力が付与されない場合には、後左右輪2RL,2RRに高グリップ力を発揮させることは無駄となる。従って、かかる場合に、動輪である後左右輪2RL,2RRに対し必要摩擦係数に応じたキャンバー角を付与する制御を行わないことにより、これらの従動輪(後左右輪2RL,2RR)に無駄な高グリップ力を発揮させることを抑制することができる。その結果、駆動輪2FL,2FRと従動輪2RL,2RRとを有する車両1’において、より一層の省燃費を達成することができる。
一方で、S592の処理により確認した結果、ブレーキ踏力が「X」以上(ブレーキ踏力≧X)である場合、即ち、ブレーキペダル53の踏力に応じて従動輪2RL,2RRにも制動力が付与されている場合には(S592:No)、S58の処理により読み出したキャンバー角を全ての車輪2(2FL〜2RR)に付与し(S596)、このキャンバー角付与処理(S59)を終了する。
よって、このキャンバー角付与処理(S59)によれば、4つの車輪2(2FL〜2RR)の全てに制動力が付与される場合には、駆動輪2FL.2FRだけでなく、従動輪2RL.2RRにも、必要摩擦係数に応じたキャンバー角が付与されるので、全ての車輪2(2FL〜2RR)について、各車輪2のスリップを抑制するのに必要な摩擦係数を車輪2が確実に発揮させることができる。その結果、駆動輪2FL,2FRと従動輪2RL,2RRとを有する車両1’の制動性能を有効に向上させることができる。
また、S591の処理により確認した結果、必要横摩擦係数がM以上(必要横摩擦係数≧M)である場合、即ち、急旋回であったり高速旋回であったりなどの理由によって車両1’の遠心力が必要横摩擦係数「M」に対応する遠心力以上である場合には(S591:No)、S58の処理により読み出したキャンバー角を全ての車輪2(2FL〜2RR)に付与し(S596)、このキャンバー角付与処理(S59)を終了する。
よって、このキャンバー角付与処理(S59)によれば、急旋回であったり高速旋回であったりなどの理由によって車両1’の遠心力が所定の閾値以上である場合には、駆動輪2FL.2FRだけでなく、従動輪2RL.2RRにも、必要摩擦係数に応じたキャンバー角が付与されるので、全ての車輪2(2FL〜2RR)について、各車輪2のスリップを抑制するのに必要な摩擦係数を車輪2が確実に発揮させることができる。その結果、駆動輪2FL,2FRと従動輪2RL,2RRとを有する車両1’の旋回性能(及び加速・制動性能)を有効に向上させることができる。
また、S593の処理後、従動輪2RL.2RRのキャンバー角は、第1キャンバー角θbよりネガティブキャンバー側(即ち、図18におけるθa側)のキャンバー角であるかを確認し(S594)、従動輪2RL.2RRのキャンバー角が第1キャンバー角θbよりネガティブキャンバー側であれば(S594:Yes)、従動輪2RL.2RRに第1キャンバー角θbを付与し(S595)、このキャンバー角付与処理(S59)を終了する。一方で、従動輪2RL.2RRのキャンバー角が第1キャンバー角θbよりネガティブキャンバー側でなければ(S594:No)、そのまま、このキャンバー角付与処理(S59)を終了する。
よって、このキャンバー角付与処理(S59)によれば、S593の処理により駆動輪2FL.2FRに対してのみ、必要摩擦係数に応じたキャンバー角が付与された場合、即ち、従動輪2RL.2RRに対し、高グリップ力より省燃費性を優先させる場合に、従動輪2RL.2RRのキャンバー角が、第1キャンバー角θbよりネガティブキャンバー側のキャンバー角、即ち、従動輪2RL.2RRの転がり抵抗が第1キャンバー角θbよりも高い転がり抵抗となるキャンバー角であれば、従動輪2RL.2RRのキャンバー角が第1キャンバー角θbとされるので、かかる従動輪2RL.2RRの転がり抵抗が低減される。その結果、駆動輪2FL,2FRと従動輪2RL,2RRとを有する車両1’において、より一層の省燃費を達成することができるのである。
以上説明したように、第7実施の形態によれば、駆動輪2FL,2FRと従動輪2RL,2RRとを有する車両1’において、駆動輪2FL,2FRには必要摩擦係数に応じたキャンバー角を随時付与する一方で、従動輪2RL,2RRへ高グリップ力の付与が不要である場合には、必要摩擦係数に応じたキャンバー角の付与を行わない。よって、従動輪2RL,2RRへは無駄な高グリップ力が与えられないので、その分、より一層の省燃費を達成することができる。
以上、実施の形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。
例えば、上記実施の形態で挙げた数値は一例であり、他の数値を採用することは当然可能である。また、上記各実施の形態における構成の一部又は全部を他の実施の形態における構成の一部又は全部と組み合わせて構成することは当然可能である。
上記第1から第3実施の形態では、運転者によるアクセルペダル52又はブレーキペダル53の操作量(踏み込み量)が所定値以上の場合に車輪2にネガティブキャンバーを付与する場合を説明したが(図7S2、S3及びS6参照)、必ずしもこれに限られるものではなく、他の状態量に基づいて車輪2のキャンバー角を決定するように構成することは当然可能である。同様に、上記第5及び第6実施の形態では、摩擦係数マップ572aのパラメータ(横軸)がアクセルペダル52又はブレーキペダル53の操作量(踏み込み量)により構成される場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、他の状態量によりパラメータを構成することは当然可能である。
ここで、他の状態量としては、例えば、アクセルペダル52又はブレーキペダル53の操作速度が例示される。例えば、アクセルペダル52又はブレーキペダル53の踏み込み量が同一であっても、その操作速度が基準値よりも速い(遅い)場合には、ネガティブキャンバー(ポジティブキャンバー)を付与するように構成しても良い。
或いは、他の状態量としては、例えば、変速機のシフト操作が例示される。例えば、変速機の減速度を上げるシフト操作(シフトダウン操作)が行われた場合に、そのシフト操作により比較的大きな加減速が発生すると判断して、車輪2にネガティブキャンバーを付与するように構成しても良い。これにより、車輪2のスリップやロックを抑制して、車両1の加速性能や制動性能の向上を図ることができる。
上記第1から第3実施の形態では、運転者によるステアリング54の操作角が所定値以上の場合に車輪2にネガティブキャンバーを付与する場合を説明したが(図7S4及びS6参照)、必ずしもこれに限られるものではなく、他の状態量に基づいて車輪2のキャンバー角を決定するように構成することは当然可能である。
ここで、他の状態量としては、例えば、ステアリング54の操作速度が例示される。例えば、ステアリング54の操作角が同一であっても、その操作速度が基準値よりも速い(遅い)場合には、ネガティブキャンバー(ポジティブキャンバー)を付与するように構成しても良い。
上記第1から第3実施の形態では、加速(加減速)の状態を判断する手段として、各ペダル52,53の操作状態に基づいて判断する処理を例示したが、必ずしもこれに限られるものではなく、例えば、車両速度センサ装置32(前後方向加速度センサ32a、左右方向加速度センサ32b)により検出された実際の加減速度に基づいて判断することは当然可能である。即ち、車両に所定値以上の加減速度が発生した場合に、車輪2にネガティブキャンバーを付与し、所定値に達していない場合にポジティブキャンバーを付与するように構成しても良い。この場合には、車両前後方向と車両左右方向との両方向の加減速度に基づいて判断しても良く、或いは、これら両方向のいずれか一方の加減速度のみに基づいて判断しても良い。
上記第1から第3実施の形態では、路面を判断する手段として、ワイパースイッチ55の操作状態に基づいて判断する処理を例示したが、必ずしもこれに限られるものではなく、例えば、雨量センサにより降雨量を検出し、その検出値が所定値以上の場合に、車輪2にネガティブキャンバーを付与するように構成しても良い。或いは、非接触の光学式センサ等で路面の状態を検出し、その検出結果(路面の水膜状態、路面の積雪状態、路面の凍結状態、或いは、舗装状態など)に基づいて、車輪にネガティブキャンバー又はポジティブキャンバーを付与するように構成しても良い。
上記第1から第3実施の形態では、ネガティブキャンバーを付与するか否かの判断順序として、ワイパースイッチ55の状態、アクセルペダル52の状態、ブレーキペダル53の状態、車両速度の状態、ウィンカスイッチ56の状態、高グリップスイッチ57の状態、ステアリング54の状態の順としたが(S1からS4参照)、この順序に限られるものではなく、これらを入れ替えて他の順序とすることは当然可能である。また、これらの判断ステップの一部を省略することも当然可能である。
上記各実施の形態では、左右の車輪2に付与するキャンバー角θR,θLが同じ角度である場合を説明したが(θR=θL)、必ずしもこれに限られるものではなく、左右の車輪2にそれぞれ異なるキャンバー角θR,θLを付与することは当然可能である(θR<θL又はθL<θR)。
上記第1から第3実施の形態では、第1トレッド21,221が車両内側に、第2トレッド22が車両外側に、それぞれ配設される場合を説明したが、この位置関係に限定されるものではなく、各車輪2毎に適宜変更することは当然可能である。
例えば、第1トレッド21,221が車両外側に、第2トレッド22が車両内側に、それぞれ配設されていても良く、前輪では第1トレッド21,221が車両外側に、後輪では第2トレッド22を車両内側に、それぞれ配設されていても良い。或いは、各車輪2毎にこの位置関係が異なっていても良い。
上記第2から第4実施の形態では、キャンバー定常角が0°の場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、キャンバー定常角をポジティブキャンバー又はネガティブキャンバーに設定することは当然可能である。
上記各実施の形態では、車輪が2種類のトレッドを有する場合と3種類のトレッドを有する場合とを説明したが、これらの車輪を組み合わせることは当然可能である。例えば、前輪には2種類のトレッドを有する車輪2、202を使用し、後輪には3種類のトレッドを有する車輪303を使用しても良く、この逆でも良い。
上記各実施の形態では、第1又は第3のトレッド21,221,323が第2のトレッド22に比して高グリップ性の特性を有し、第2のトレッド22が第1又は第3のトレッド21,221,323に比して低転がり性の特性を有する場合を説明したが、これら各トレッド21,221,22,323に他の特性を持たせて構成することは当然可能である。例えば、2種類のトレッドパターン(溝)を設けることで、一のトレッドは排水性の高い特性とし、他のトレッドはノードノイズの小さい特性をするものが例示される。
上記第4実施の形態では、車輪2がスリップしているか否かに応じて車輪2のキャンバー角を制御する場合を説明したが(図15S43からS45参照)、必ずしもこれに限られるものではなく、他の状態に基づいて車輪2のキャンバー角を制御することは当然可能である。
他の状態としては、例えば、車輪2が走行する路面の摩擦係数μが例示される。なお、摩擦係数μは上述したように接地荷重センサ装置34により推定することができる。或いは、車輪2がロックしているか否かに基づいて、車輪2のキャンバー角を制御する(ロック時にネガティブキャンバーを付与する)ようにしても良い。
上記第5及び第6実施の形態では、摩擦係数マップ572aにおいて、アクセル操作量に対する必要前後摩擦係数の変化と、ブレーキ操作量に対する必要前後摩擦係数の変化とが同じ変化となるように構成する場合を説明したが(図17参照)、かかる構成は一例であり、他の構成とすることは当然可能である。
例えば、アクセル操作量100%における必要前後摩擦係数の最大値とブレーキ操作量100%における必要前後摩擦係数の最大値とが異なる値であっても良い。また、アクセル操作量等の変化に対して必要前後摩擦係数が直線的に変化する場合を説明したが、かかる変化を曲線とすることは当然可能である。
上記第5及び第6実施の形態では、車両用制御装置500が1の摩擦係数マップ572aのみを備える場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、複数の摩擦係数マップを備えることは当然可能である。
例えば、路面の状況に対応してそれぞれ異なる内容で構成される複数の摩擦係数マップ(例えば、路面状況スイッチの操作範囲に対応する乾燥舗装路用マップ、未舗装用マップ及び雨天舗装路用マップの3種類)を準備し、図19のS53の処理においては、路面状況スイッチの操作状態に対応するマップから必要前後摩擦係数を読み出すように構成しても良い。
上記第7実施の形態では、駆動輪2FL,2FRと従動輪2RL,2RRとを有する車両1’に対し、図24に示すキャンバー角付与処理(S59)を適用したが、図24に示すキャンバー角付与処理(S59)は、車両1’のように、車両の構成として駆動輪と従動輪とを有する車両に対して適用されることに限定されず、駆動輪の駆動が停止されて従動輪化されている車両に対して適用することも可能である。例えば、第1実施の形態における車両1のように、全ての車輪2が駆動輪である車両において、後左輪2RL及び後右輪2RRをそれぞれ駆動するRLモータ3RL及びRRモータ3RRを停止してこれらの車輪2RL,2RRを従動輪化した場合に、図24に示すキャンバー角付与処理(S59)を適用するように構成してもよい。
上記第7実施の形態では、ブレーキ踏力が機械ブレーキを作動させる境界である「X」を閾値とし、ブレーキ踏力がかかる閾値以上であるか未満であるかによって、必要摩擦係数に応じたキャンバー角を全車輪2(2FL〜2RR)に付与するか、駆動輪2FL,2FRのみに付与するかを決定する構成としたが、かかる閾値は機械ブレーキを作動させる境界に限定されるものではない。制動時における機械ブレーキによる制動力と回生ブレーキによる制動力との比率に基づいて、必要摩擦係数に応じたキャンバー角を全車輪2(2FL〜2RR)に付与するか、駆動輪2FL,2FRのみに付与するかを決定する構成としてもよい。例えば、機械ブレーキにより付与される制動力に対する回生ブレーキにより付与される制動力が所定の閾値以上の比率である場合、即ち、回生ブレーキによる制動力の占める比率が、機械ブレーキによる制動力の占める比率に比べて十分大きい場合に、必要摩擦係数に応じたキャンバー角を駆動輪2FL,2FRのみに付与し、その一方で、機械ブレーキにより付与される制動力に対する回生ブレーキにより付与される制動力が所定の閾値未満の比率である場合、即ち、回生ブレーキによる制動力の占める比率と機械ブレーキによる制動力の占める比率とが大きく異ならない場合には、必要摩擦係数に応じたキャンバー角を全車輪2(2FL〜2RR)Iに付与するように構成してもよい。
また、上記第7実施の形態では、図24に示すキャンバー角付与処理(S59)を、第5実施の形態のキャンバー制御処理の中で実行される処理として説明したが、図24に示すキャンバー角付与処理(S59)を第6実施の形態のキャンバー制御処理の中で実行される処理に適用することも可能である。
上記各実施の形態では、第1及び第2トレッド21,221,22の特性より得られる2つの性能として、高グリップ性より得られる走行性能(加速力・制動力・旋回力)と低転がり性(低転がり抵抗)より得られる省燃費性能との2つの性能を例に説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、他の2つの性能を発揮するように各トレッド21,221,22を構成することは当然可能である。
例えば、他の2つの性能としては、路面にできた水膜の除去に適した溝パターンより得られる排水性能とパターンノイズの低減に適した溝パターンより得られる低ノイズ性能との2つの性能、未舗装路における路面に食い込むブロックパターンより得られる未舗装路でのグリップ性能と溝を有さず接地面積を確保したトレッドより得られる乾燥舗装路でのグリップ性能との2つの性能、或いは、積雪路や凍結路において駆動力・制動力を発揮する性能と常温における舗装路面で駆動力・制動力を発揮する性能との2つの性能などが例示される。