ところで、シール機構は、溝およびシール部材のいずれの断面形状も矩形形状のものが一般的であった。この場合、高圧側と低圧側との間の圧力差がある程度以上に大きくなると、シール部材等の断面形状が矩形形状のままではシール部材が相手方の旋回スクロールに押付けられる押付け荷重が大きくなり、摩擦損失および摩耗が大きくなる。
このため、上述の特許文献1には、シール部材の断面形状のみを段付形状に形成し、押付け荷重を低減した構成が開示されている。しかし、この場合でも、シール部材の面圧は、溝底側に位置するシール部材の背面の圧力と、旋回スクロールとの摺動面となる前面の圧力との間の差圧となる。このため、シール部材の面圧を十分に低減することができず、シール部材の寿命を延ばすことができなかった。
また、特許文献2には、シール部材に圧力導入孔を設け、該圧力導入孔によってシール部材の背面と前面との間の圧力のバランスをとる構成が開示されている。しかし、この場合には、シール部材等の構造が複雑で余分な加工が必要となり、製造コストが上昇するという問題がある。
さらに、特許文献3には、シリンダの内周面(円筒面)に対するシール機構に関して、シール部材の摺動面の荷重を軽減した構成が開示されている。この場合、シール部材の内周面にも一部低圧側の圧力を導いて、高圧側の圧力が作用する面積を減らし、シリンダとの摺動面圧を低減している。確かに、シリンダとの摺動面では面圧が低減するが、この従来技術では本来高圧から低圧まで圧力が分布するはずのシール溝の低圧側壁面にもかなりの面積に亘って低圧側の圧力を導入する必要がある。このため、シール部材はより強い力で高圧側から低圧側に向かって押付けられることになるから、シール部材がシール溝の壁面と強く接触することになり、シール部材の動きが阻害されたり、壁面との摩擦によってシール部材の摩耗が進行するという問題がある。
本発明は上述した従来技術の問題に鑑みなされたもので、本発明の目的は、シール部材の面圧を低減して耐久性を向上させることができるシール装置およびスクロール式流体機械を提供することにある。
上述した課題を解決するために、請求項1の発明は、互いに対向して配置され摺動運動する一側部材および他側部材と、該他側部材のうち一側部材との摺動面に設けられた環状の溝と、該溝内に挿嵌され一面を摺動面とした環状のシール部材とからなり、該シール部材の摺動面と前記一側部材の摺動面とは平面で接触し、高圧側と低圧側とに画成するシール装置であって、前記シール部材と前記溝との間には、高圧側の圧力が低圧側に漏洩するのを遮断する漏洩遮断手段を設け、該漏洩遮断手段、溝の底部側およびシール部材は、高圧側と連通する背圧室を形成し、使用状態において、前記シール部材を一側部材に向けて付勢する該背圧室の有効面積に比べて、前記シール部材の摺動面と一側部材との接触面積を大きくする構成としている。
請求項2の発明では、互いに対向して配置され摺動運動する一側部材および他側部材と、該他側部材のうち一側部材との摺動面に設けられた環状の溝と、該溝内に挿嵌され一面を摺動面とした環状のシール部材とからなり、該シール部材の摺動面と前記一側部材の摺動面とは平面で接触し、高圧側と低圧側とに画成するシール装置であって、前記シール部材と前記溝との間には、前記シール部材の内周側または外周側の低圧側に位置して高圧側の圧力が低圧側に漏洩するのを遮断する漏洩遮断手段を設け、該漏洩遮断手段、溝の底部側およびシール部材は、高圧側と連通する背圧室を形成し、使用状態において、前記背圧室の低圧側の境界部に比べて、前記シール部材の摺動面が低圧側に向けて径方向に延びている構成としている。
請求項3の発明では、前記シール部材は、周方向に向けて切れ目のない連続体によって形成している。
請求項4の発明では、前記シール部材は、前記溝の周壁面に対して垂直な方向に作用する荷重がバランスする構成としている。
請求項5の発明では、前記シール部材の摺動面は、当該摺動面が摩耗することによって前記一側部材との接触面積が増加する構成としている。
請求項6の発明では、前記シール部材の摺動面は、当該摺動面から低圧側に向かって前記一側部材から徐々に離間する部分を有している。
請求項7の発明では、前記シール部材には、その摺動面の高圧側に前記一側部材から離間して前記一側部材に対向する高圧側段部を有している。
請求項8の発明では、前記溝の低圧側には前記底部よりも浅底の浅底部を形成し、前記シール部材には該浅底部に対応した形状の切欠き部を形成し、前記漏洩遮断手段は、前記溝の底部と浅底部との間に位置する低圧側深溝周壁面と前記シール部材の切欠き部との間に配置している。
請求項9の発明では、前記溝の浅底部と開口部との間に位置する低圧側浅溝周壁面を形成し、前記シール部材と溝の低圧側深溝周壁面との間に形成される第1の隙間と、前記シール部材と溝の低圧側浅溝周壁面との間に形成される第2の隙間とでは、第1の隙間は第2の隙間に比して大きい構成としている。
請求項10の発明では、前記漏洩遮断手段は、前記第1の隙間に配置している。
請求項11の発明では、前記シール部材のうち第2の隙間と対面する部分には、深さ方向に向けて延びる隆起または谷を形成する構成としている。
請求項12の発明では、前記一側部材および他側部材のいずれかは旋回運動する構成としている。
請求項13の発明では、前記一側部材および他側部材は、アルミニウムにアルマイト処理を施した部材を用いて形成し、前記シール部材は、ポリテトラフルオロエチレンを主材として形成する構成としている。
請求項14の発明は、一側のスクロールのラップ部と他側のスクロールのラップ部が重なり合って密閉室を形成し、旋回運動する間に外部から吸込んだまたは導入した流体を圧縮または膨脹させるスクロール式流体機械において、前記他側のスクロールのラップ部の外周側に設けられた環状の溝と、該溝内に挿嵌され一面を摺動面とした環状のシール部材とによってシール機構を構成し、該シール機構は、前記シール部材の摺動面と前記一側のスクロールの摺動面とが平面で接触し、高圧側と低圧側とに画成し、前記シール部材と前記溝との間には、前記シール部材の内周側または外周側の低圧側に位置し、高圧側の圧力が低圧側に漏洩するのを遮断する漏洩遮断手段を設け、該漏洩遮断手段、溝の底部側およびシール部材は、高圧側と連通する背圧室を形成し、使用状態において、前記背圧室の低圧側の境界部に比べて、前記シール部材の摺動面が低圧側に向けて径方向に延びている構成としたことを特徴としている。
請求項15の発明では、前記一側のスクロールは旋回運動する旋回スクロールであり、前記他側のスクロールは静止する固定スクロールである構成としている。
請求項16の発明は、ケーシングと、該ケーシングに設けられ鏡板の表面に渦巻状のラップ部が立設された固定スクロールと、前記固定スクロールと対面して設けられ鏡板の表面に前記固定スクロールのラップ部と重なり合って複数の密閉室を画成するラップ部が立設された旋回スクロールとからなるスクロール式流体機械において、前記ケーシングには、前記旋回スクロールの背面に位置して前記旋回スクロールを前記固定スクロールに向けて押圧する旋回背圧室を形成するための背圧室形成部材を設け、該旋回背圧室の外周側または内周側には、該旋回背圧室と外部との間をシールするシール機構を設け、該シール機構は、前記背圧室形成部材のうち前記旋回スクロールとの摺動面に設けられた環状の溝と、該溝内に挿嵌され一面を摺動面とした環状のシール部材とからなり、該シール部材の摺動面と前記旋回スクロールの摺動面とは平面で接触し、高圧側の旋回背圧室と低圧側の外部とに画成する構成とし、前記シール部材と前記溝との間には、前記シール部材の内周側または外周側の低圧側に位置して高圧側の圧力が低圧側に漏洩するのを遮断する漏洩遮断手段を設け、該漏洩遮断手段、溝の底部側およびシール部材は、高圧側の旋回背圧室と連通する背圧室を形成し、使用状態において、前記背圧室の低圧側の境界部に比べて、前記シール部材の摺動面が低圧側に向けて径方向に延びている構成としたことを特徴としている。
請求項17の発明では、前記シール部材の摺動面は、当該摺動面が摩耗することによって前記旋回スクロールとの接触面積が増加する構成としている。
請求項18の発明では、前記シール部材の摺動面は、当該摺動面から低圧側に向かって前記旋回スクロールから徐々に離間する部分を有している。
請求項19の発明では、前記シール部材には、その摺動面の高圧側に前記旋回スクロールから離間して前記旋回スクロールに対向する高圧側段部を有している。
請求項20の発明では、前記溝の低圧側には前記底部よりも浅底の浅底部を形成し、前記シール部材には該浅底部に対応した形状の切欠き部を形成し、前記漏洩遮断手段は、前記溝の底部と浅底部との間に位置する低圧側深溝周壁面と前記シール部材の切欠き部との間に配置している。
請求項21の発明では、前記溝の浅底部と開口部との間に位置する低圧側浅溝周壁面を形成し、前記シール部材と溝の低圧側深溝周壁面との間に形成される第1の隙間と、前記シール部材と溝の低圧側浅溝周壁面との間に形成される第2の隙間とでは、第2の隙間に比して第1の隙間が大きい構成としている。
請求項22の発明では、前記固定スクロールおよび旋回スクロールは、アルミニウムにアルマイト処理を施した部材を用いて形成し、前記シール部材は、ポリテトラフルオロエチレンを主材として形成する構成としている。
請求項1の発明によれば、使用状態において、シール部材を一側部材に向けて付勢する背圧室の有効面積に比べて、シール部材の摺動面と一側部材との接触面積を大きくしている。このとき、シール部材の有効面積とは、シール部材の高圧側の圧力が直接作用する一側部材側の面積と他側部材側の面積との差分をいう。また、使用状態とは、一側部材に対してシール部材が摺動して、シール部材が馴染んだ後の状態をいう。このため、使用状態は、初期は例えば背圧室の有効面積がシール部材の摺動面と一側部材との接触面積と等しいまたは小さいときでも、シール部材が摩耗して馴染んだ後に、背圧室の有効面積がシール部材の摺動面と一側部材との接触面積よりも大きくなった状態を含むものである。
また、背圧室の有効面積には、高圧側の圧力が作用するから、シール部材の背面側には、有効面積に亘って高圧側の圧力を積分した荷重(押付け荷重)が作用する。一方、シール部材と一側部材との接触面積には高圧側の圧力から低圧側の圧力まで連続的に分布した圧力(分布圧力)が作用するから、シール部材の摺動面側には、接触面積に亘ってこの分布圧力を積分した荷重が作用する。このとき、背圧室の有効面積に比べてシール部材の摺動面と一側部材との接触面積を大きくしたから、シール部材の摺動面に作用する圧力による荷重とシール部材の背面に作用する圧力による荷重との差を小さくすることができる。このため、シールする圧力が高圧でもシール部材の押付け力を小さくすることができるから、シール部材の摩耗速度を低下させることができ、シール部材の寿命を延ばして信頼性、耐久性を向上させることができる。
請求項2の発明によれば、使用状態において、背圧室の低圧側の境界部に比べて、シール部材の摺動面が低圧側に向けて径方向に延びている。このとき、シール部材のうち背圧室の低圧側の境界部を越えて低圧側に延びた低圧側延伸部分は、背面には低圧側の圧力が作用するのに対し、摺動面(接触面)には高圧側と低圧側との間の分布圧力が作用する。このため、シール部材の低圧側延伸部分では、背面側に比べて摺動面側の方が作用する圧力が高くなる。
この結果、シール部材の低圧側延伸部分によって、背圧室の有効面積に比べてシール部材の摺動面と一側部材との接触面積を大きくすることができる。このため、シール部材の摺動面に作用する圧力による荷重とシール部材の背面に作用する圧力による荷重との差を小さくすることができる。従って、シールする圧力が高圧でもシール部材の押付け力を小さくすることができるから、シール部材の摩耗速度を低下させることができ、シール部材の寿命を延ばして信頼性、耐久性を向上させることができる。
請求項3の発明によれば、シール部材は周方向に向けて切れ目のない連続体によって形成したから、シール部材の内周面と外周面との間に圧力差が生じても、シール部材自体は、この圧力差を保持し、広がることがない。また、シール部材単体で径方向の荷重がバランスするから、シール部材が径方向に変位することがなく、シール部材が溝の周壁面に押付けられることがない。このため、シール部材と溝の周壁面との摩擦によって、シール部材の動きが阻害されることがないのに加え、摩耗が進行することがないから、シール部材の信頼性、耐久性を高めることができる。
請求項4の発明によれば、シール部材は、溝の周壁面に対して垂直な方向(径方向)に作用する荷重がバランスする構成としたから、シール部材が径方向に変位することがなく、シール部材が溝の周壁面に押付けられることがない。このため、シール部材と溝の周壁面との摩擦によって、シール部材の動きが阻害されることがないのに加え、摩耗が進行することがないから、シール部材の信頼性、耐久性を高めることができる。
請求項5の発明によれば、シール部材の摺動面が摩耗することによって一側部材との接触面積が増加する構成としたから、例えばシール部材が摩耗するに従って、シール部材の背面側には低圧側の圧力しか作用しない領域でシール部材の摺動面の面積を増加させることができる。これにより、シール部材が摩耗するに従って、シール部材の押付け荷重を低減することができるから、シール部材の押付け荷重を摩耗がなくなる程度まで減少させることができ、シール部材の寿命をさらに延ばすことができる。
請求項6の発明によれば、シール部材は、その摺動面から低圧側に向かって一側部材から徐々に離間する部分を有するから、シール部材の摺動面が摩耗することによって、シール部材の背面側には低圧側の圧力しか作用しない領域で、シール部材の摺動面の面積を増加させることができる。このため、シール部材が摩耗するに従って、シール部材の押付け荷重を低減することができ、シール部材の寿命をさらに延ばすことができる。
請求項7の発明によれば、シール部材は、その摺動面の高圧側に一側部材から離間して一側部材に対向する高圧側段部を有するから、高圧側段部と一側部材との間に高圧側の圧力を作用させることができる。これにより、シール部材の背面に作用する力を高圧側段部に作用する力で打ち消すことができるから、シール部材の有効面積を減少させることができ、シール部材の押付け荷重を低減することができる。
請求項8の発明によれば、漏洩遮断手段は、溝の低圧側深溝周壁面とシール部材の切欠き部との間に配置したから、漏洩遮断手段によってシール部材の背面に作用する高圧側の圧力が低圧側に漏洩するのを遮断することができる。
請求項9の発明によれば、シール部材と溝の低圧側深溝周壁面との間に形成される第1の隙間と、シール部材と溝の低圧側浅溝周壁面との間に形成される第2の隙間とでは、第2の隙間に比して第1の隙間が大きい構成としている。これにより、シール部材が径方向に位置ずれしたときでも、第1の隙間よりも先に第2の隙間がなくなる。このため、常に第1の隙間を確保することができるから、例えば第1の隙間に漏洩遮断手段としての各種のパッキンを配置したときでも、該パッキンを押し潰さないようにすることができる。
請求項10の発明によれば、漏洩遮断手段は、第1の隙間に配置したから、漏洩遮断手段によってシール部材の背面に作用する高圧側の圧力が低圧側に漏洩するのを遮断することができる。
請求項11の発明によれば、シール部材のうち第2の隙間と対面する部分には、深さ方向に向けて延びる隆起または谷を形成している。これにより、第2の隙間から低圧側の圧力を導入するときに、シール部材の隆起または谷によってこの低圧側の圧力の導入を容易にすることができる。
請求項12の発明によれば、一側部材および他側部材のいずれかは旋回運動する構成としたから、例えば2つのスクロールが互いに重なり合って旋回運動するスクロール式流体機械に対して、本願発明のシール装置を適用することができる。
請求項13の発明によれば、一側部材および他側部材はアルミニウムにアルマイト処理を施した部材を用いて形成し、シール部材はポリテトラフルオロエチレンを主材として形成する構成としている。このとき、シール部材は、潤滑性、耐摩耗性の高いポリテトラフルオロエチレンを主材として形成するから、シール部材の耐久性、信頼性をさらに高めることができる。
請求項14の発明によれば、使用状態において、背圧室の低圧側の境界部に比べて、シール部材の摺動面が低圧側に向けて径方向に延びている構成としたから、請求項1,2の発明と同様の効果を得ることができる。このため、2つのスクロール間の密閉室と外部との間に大きな圧力差が生じるときでも、密閉室と外部との間をシール機構を用いてシールすることができると共に、該シール機構のシール性を長期間に亘って確保することができる。
請求項15の発明によれば、一側のスクロールは旋回運動する旋回スクロールであり、他側のスクロールは静止する固定スクロールである構成としたから、静止する固定スクロールに対してシール機構を設けることができる。このため、旋回軸受等が取付けられる旋回スクロールにシール機構を設けた場合に比べて、組立性、生産性を高めることができる。
請求項16の発明によれば、使用状態において、背圧室の低圧側の境界部に比べて、シール部材の摺動面が低圧側に向けて径方向に延びている構成としたから、請求項1,2の発明と同様の効果を得ることができる。このため、旋回背圧室と外部との間に大きな圧力差が生じるときでも、旋回背圧室と外部との間をシール機構を用いてシールすることができると共に、該シール機構のシール性を長期間に亘って確保することができる。
請求項17の発明によれば、シール部材の摺動面が摩耗することによって旋回スクロールとの接触面積が増加する構成としたから、例えばシール部材が摩耗するに従って、シール部材の背面側には低圧側の圧力しか作用しない領域でシール部材の摺動面の面積を増加させることができる。これにより、シール部材が摩耗するに従ってシール部材の押付け荷重を低減することができるから、シール部材の押付け荷重を摩耗がなくなる程度まで減少させることができ、シール部材の寿命をさらに延ばすことができる。
請求項18の発明によれば、シール部材は、その摺動面から低圧側に向かって一側部材から徐々に離間する部分を有するから、シール部材の摺動面が摩耗することによって、シール部材の背面側には低圧側の圧力しか作用しない領域で、シール部材の摺動面の面積を増加させることができる。このため、シール部材が摩耗するに従って、シール部材の押付け荷重を低減することができ、シール部材の寿命をさらに延ばすことができる。
請求項19の発明によれば、シール部材は、その摺動面の高圧側に一側部材から離間して一側部材に対向する高圧側段部を有するから、高圧側段部と一側部材との間に高圧側の圧力を作用させることができる。これにより、シール部材の背面に作用する力を高圧側段部に作用する力で打ち消すことができるから、シール部材の有効面積を減少させることができ、シール部材の押付け荷重を低減することができる。
請求項20の発明によれば、漏洩遮断手段は、溝の低圧側深溝周壁面とシール部材の切欠き部との間に配置したから、漏洩遮断手段によってシール部材の背面に作用する高圧側の圧力が低圧側に漏洩するのを遮断することができる。
請求項21の発明によれば、シール部材と溝の低圧側深溝周壁面との間に形成される第1の隙間と、シール部材と溝の低圧側浅溝周壁面との間に形成される第2の隙間とでは、第2の隙間に比して第1の隙間が大きい構成としている。これにより、シール部材が径方向に位置ずれしたときでも、第1の隙間よりも先に第2の隙間がなくなる。このため、常に第1の隙間を確保することができるから、例えばシール部材の高圧側段部が第1の隙間付近まで形成されているときでも、シール部材の有効面積を確保することができ、シール部材を一側部材に押付けることができる。
請求項22の発明によれば、旋回スクロールおよび固定スクロールはアルミニウムにアルマイト処理を施した部材を用いて形成し、シール部材はポリテトラフルオロエチレンを主材として形成する構成としている。このとき、シール部材は、潤滑性、耐摩耗性の高いポリテトラフルオロエチレンを主材として形成するから、シール部材の耐久性、信頼性をさらに高めることができる。
以下、本発明の実施の形態によるスクロール式流体機械として圧縮空気をさらに圧縮するブースタ空気圧縮機を例に挙げ、添付図面を参照して詳細に説明する。
まず、図1ないし図6は第1の実施の形態を示している。図において、1はブースタ空気圧縮機の外枠を形成する筒状のケーシングで、該ケーシング1は、大径筒部1Aと、該大径筒部1Aよりも小径な筒状に形成され該大径筒部1Aの軸方向一側から外側に向けて突出した小径な軸受筒部1Bと、該軸受筒部1Bと前記大径筒部1Aとの間に形成された環状部1Cとにより構成されている。また、環状部1Cには、後述する補助クランク機構23の軸受23Aを収容する筒状の軸受収容部1Dが例えば3個設けられ、該各軸受収容部1Dは周方向に対して互いに等間隔に離間して配置されている。
2は後述のホルダ17を介してケーシング1に設けられた固定スクロールで、該固定スクロール2は、例えばアルミニウムの表面にアルマイト処理を施すことによって形成されている。そして、固定スクロール2は、ケーシング1の大径筒部1Aを軸方向他側から閉塞するように、ホルダ17の取付筒部17Aに取付けられている。これにより、固定スクロール2は、ホルダ17を挟んだ状態で大径筒部1Aの他側(開口側)に固定されている。そして、固定スクロール2は、円板状の鏡板2Aと、該鏡板2Aの表面に中心側が巻始め端となり外周側が巻終り端となって立設された渦巻状のラップ部2Bとにより大略構成されている。
ここで、ラップ部2Bの歯先面には、後述する旋回スクロール8の鏡板9Aとの間をシールするチップシール3が設けられている。また、固定スクロール2の鏡板2Aの表面には環状のシール部材4が設けられている。そして、シール部材4は、旋回スクロール8の鏡板9Aとの間をシールし、圧縮室12内から圧縮空気が漏洩するのを防止している。
さらに、固定スクロール2の鏡板2Aには、その背面側に複数本の冷却フィン2C,2C,…が形成され、これらの冷却フィン2Cは、互いに平行に延びている。そして、各冷却フィン2C間に冷却風を流通させることにより、冷却フィン2Cは、固定スクロール2の鏡板2A等を背面側から冷却するものである。
5はケーシング1の軸受筒部1B内に軸受6,7を介して回転可能に設けられた回転軸としての駆動軸で、該駆動軸5は、その軸方向一側が軸受筒部1Bからケーシング1の外部へと突出し、軸方向他側(先端側)は、ケーシング1の大径筒部1A内へと伸長するクランク部5Aとなっている。ここで、駆動軸5の一側にはプーリ(図示せず)が取付けられ、該プーリを介して駆動軸5は駆動源となる電動モータ(図示せず)に連結されている。これにより、駆動軸5は、電動モータによって回転駆動する。
また、クランク部5Aは、その軸線が駆動軸5の軸線に対し、一定の偏心量だけ偏心して形成されている。そして、クランク部5Aは、後述の旋回軸受22を介して連結部材20のボス部20B内に回転可能に取付けられている。また、駆動軸5には、バランスウエイト部5Bが一体に設けられ、該バランスウエイト部5Bは駆動軸5の回転バランスをとるものである。
8はケーシング1の大径筒部1A内に旋回可能に設けられた旋回スクロールで、該旋回スクロール8は、例えばアルミニウムの表面にアルマイト処理を施すことによって形成され、固定スクロール2と対面する位置に配置されている。そして、旋回スクロール8は、ケーシング1の軸方向で固定スクロール2と対向した旋回スクロール本体9と、該旋回スクロール本体9の背面側に固着して設けられた受圧部材としてのジョイント部材10とにより構成されている。
ここで、旋回スクロール本体9は、略円板状に形成された鏡板9Aと、該鏡板9Aから固定スクロール2側に向けて立設された渦巻状のラップ部9Bとから構成されている。また、ラップ部9Bの歯先面には、固定スクロール2の鏡板2Aとの間をシールするチップシール11が設けられている。
このとき、旋回スクロール8は、固定スクロール2に対し例えば180度ずらして重なり合うように配設され、両者のラップ部2B,9B間には、外径側から内径側(中央)にかけて複数の圧縮室12(密閉室)が画成されている。そして、圧縮機の運転時には、固定スクロール2の外周側に設けられた吸込口13から外径側の圧縮室12内に圧縮空気を吸込みつつ、この圧縮空気を各圧縮室12内で順次圧縮し、最後に、中央側の圧縮室12内に収容された圧縮空気を、固定スクロール2の中央側に設けられた吐出口14から外部に吐出する。
また、旋回スクロール本体9の鏡板9Aには、ジョイント部材10との間に複数本の冷却フィン9C,9C,…が形成され、これらの冷却フィン9Cは、固定スクロール2の冷却フィン2Cと同じ一方向に向けて平行に延び、冷却風によって旋回スクロール8の鏡板9A等を冷却するものである。
また、旋回スクロール8のジョイント部材10は、鏡板9Aの背面側に複数のボルト15を用いて固定されている。また、ジョイント部材10の背面中央側には、略全面に亘って円形状に凹陥した凹陥部10Aが設けられ、該凹陥部10Aは例えばラップ部9B全体を覆う程度の大きさをもって広がっている。そして、凹陥部10A内には後述の背圧プレート16が取付けられている。これにより、ジョイント部材10は、背圧プレート16を介して後述の旋回背圧室18内の圧力を受圧する。また、ジョイント部材10の背面には、凹陥部10A内に位置して網目状のリブ10Bが略全面に亘って設けられ、該リブ10Bは、ジョイント部材10の強度を高めている。
16はジョイント部材10の背面に取付けられた背圧プレート(一側部材)で、該背圧プレート16は、例えばアルミニウムの表面にアルマイト処理を施すことによって形成されている。また、背圧プレート16は、ジョイント部材10の凹陥部10Aとほぼ同じ大きさをもって円板状に形成され、旋回スクロール8の鏡板9Aと離間した状態でジョイント部材10の凹陥部10A内に取付けられている。そして、背圧プレート16は、その正面側が凹陥部10Aの底面に接触すると共に、その背面16A側には後述の旋回背圧室18が形成される。これにより、背圧プレート16は、旋回背圧室18内の圧力を受承し、ジョイント部材10を介して旋回スクロール8全体を固定スクロール2に向けて押圧する。また、背圧プレート16の正面(前面)には、背圧プレート16の強度を高める網目状のリブ16Bが略全面に亘って設けられている。
17は旋回スクロール8の背面に位置してケーシング1側に固定されて設けられた背圧室形成部材としてのホルダ(他側部材)で、該ホルダ17は、例えばアルミニウムの表面にアルマイト処理を施すことによって形成され、ケーシング1と一体的に設けられている。また、ホルダ17は、ケーシング1の大径筒部1Aの開口端に取付けられる取付筒部17Aと、該取付筒部17Aの軸方向他端側に位置して底面となる略円盤状の底板部17Bとによって構成されている。ここで、取付筒部17Aは、その外周側が固定スクロール2とケーシング1の大径筒部1Aとの間に挟持されると共に、その内部に旋回スクロール8のジョイント部材10および背圧プレート16を収容している。
また、底板部17Bの外周側には後述のシール機構24が設けられている。さらに、底板部17Bの中央側にはシール機構24の内径側に位置して背面側に向けて凹陥した有底円形状の圧縮空気収容部17Cが設けられている。このとき、圧縮空気収容部17Cは、背圧プレート16と対向する位置に配置され、背圧プレート16よりも小さい面積をもって背圧プレート16側に開口している。これにより、ホルダ17は、背圧プレート16との間に圧縮空気収容部17C内に位置する円板形状の旋回背圧室18を形成し、該旋回背圧室18の外周側はシール機構24によって気密な状態にシールされている。
また、底板部17Bには、圧縮空気収容部17C内に位置して網目状のリブ17Dが設けられている。これにより、リブ17Dは、底板部17Bの強度を高めている。
さらに、底板部17Bのうちシール機構24の外周側には、3個の逃し穴17Eが軸方向に貫通して設けられている。ここで、各逃し穴17Eは、例えば周方向に向けて互いに等間隔に配置されると共に、後述する連結部材20の連結突起部20Aが挿通されている。そして、逃し穴17Eは、旋回スクロール8が連結部材20と一緒に旋回運動するときに、これらを連結する連結突起部20Aがホルダ17に干渉するのを防止している。
19は旋回スクロール8を構成する旋回スクロール本体9とジョイント部材10との間に例えば2個取付けられた結合部材としての背圧導入管で、該各背圧導入管19は、背圧プレート16およびジョイント部材10を貫通して旋回スクロール8の背面側に螺着されると共に、その内部には軸方向に貫通する背圧導入孔(図示せず)が形成されている。そして、背圧導入管19は、その一端側が旋回背圧室18内に連通すると共に、その他端側が旋回スクロール8の鏡板9Aを貫通して圧縮室12内に連通している。これにより、背圧導入管19は、圧縮室12内の圧縮空気を旋回背圧室18内に向けて導いている。この場合、背圧導入管19は旋回スクロール本体9とジョイント部材10とを強固につなぐ結合部材としても機能している。
20はホルダ17を挟んで軸方向一側に設けられた連結部材で、該連結部材20は、略円板状に形成されると共に、その正面側にはホルダ17に向けて突出した3個の連結突起部20Aが設けられている。このとき、各連結突起部20Aは、周方向に等間隔に配置されると共に、ホルダ17の逃し穴17Eにそれぞれ挿通され、旋回スクロール8のジョイント部材10に連結ボルト21を用いて連結され、旋回スクロール8と一体的に設けられている。
また、連結部材20の背面中央側には、筒状のボス部20Bが一体的に形成されている。そして、このボス部20B内には、後述する駆動軸5のクランク部5Aが旋回軸受22を介して回転可能に取付けられている。これにより、連結部材20は、ホルダ17を挟んで旋回スクロール8と駆動軸5とを連結し、駆動軸5の回転運動に伴って旋回スクロール8と一緒に旋回運動する。
さらに、連結部材20の背面外周側には、後述する補助クランク機構23の軸受23Bを収容する筒状の軸受収容部20Cが例えば3個設けられている。このとき、軸受収容部20Cは、ケーシング1の軸受収容部1Dと対向した位置に配置されると共に、連結突起部20Aの軸方向一側に配置されている。
23は連結部材20とケーシング1との間に設けられた自転防止機構としての補助クランク機構で、該補助クランク機構23は、ケーシング1の軸受収容部1Dに収容された軸受23Aと、連結部材20の軸受収容部20Cに収容された軸受23Bと、これらの軸受23A,23Bに回転可能に取付けられたクランク部材23Cとによって構成されている。そして、これらの補助クランク機構23は、旋回運動時に旋回スクロール8がケーシング1内で自転するのを防止している。
24はホルダ17と背圧プレート16との間に設けられたシール機構で、該シール機構24は、後述するシール取付溝25、シール部材26、Yパッキン27等によって構成されている。
25は底板部17Bの外周側に設けられた円環状のシール取付溝で、該シール取付溝25は、底板部17Bのうち背圧プレート16(旋回スクロール8)との摺動面に開口して設けられている。また、シール取付溝25のうち高圧側(旋回背圧室18側)となる内周側には、深さ寸法の大きな底部25Aが形成されている。一方、シール取付溝25のうち低圧側(外部側)となる外周側には、深さ寸法の小さい浅底となった段付状の浅底部25Bが形成されている。即ち、シール取付溝25には、開口側の内径寸法と外径寸法との間の中間径寸法R0を基準として、中間径寸法R0よりも小さい部分では深さ寸法が大きな底部25Aが形成されるのに対して、中間径寸法R0よりも大きい部分では深さ寸法が小さい浅底部25Bが形成されている。そして、シール取付溝25の低圧側には、底部25Aと浅底部25Bとの間に位置する深溝周壁面25Cと、浅底部25Bと開口部との間に位置する浅溝周壁面25Dとが形成されている。
26はシール取付溝25内に挿嵌された環状のシール部材で、該シール部材26は、例えば潤滑性、耐摩耗性に優れた材料としてポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等の四フッ化樹脂系の材料を主成分として形成されている。また、シール部材26は、周方向に切れ目のない環状の連続体によって形成されている。そして、シール部材26は、内周側に旋回背圧室18の圧力が作用し、外周側に大気圧が作用するときでも、径方向に広がることがなく、シール取付溝25の溝周壁面25C,25Dと垂直な径方向に作用する荷重がバランスする構成となっている。
また、シール部材26は、その軸方向の一面(前面)が背圧プレート16と摺接する摺動面26Aとなる。このとき、シール部材26の摺動面26Aは、背圧プレート16の摺動面となる背面16Aと平面で接触する。一方、シール部材26の背面26Bは、シール取付溝25の奥部に挿入されて底部25Aと対面して配置されると共に、後述の背圧室28を画成する。
さらに、シール部材26のうち摺動面26Aの高圧側(内周側)には、矩形状に切欠かれた高圧側段部26Cが形成されている。このとき、高圧側段部26Cは、背圧プレート16から離間すると共に、背圧プレート16と対向した状態で配置される。即ち、シール部材26の摺動面26Aは前面内径寸法R1と前面外径寸法R2とを有し、高圧側段部26Cは、シール部材26のうち前面内径寸法R1の内径側に位置する。そして、シール部材26の高圧側段部26Cと背圧プレート16との間には、旋回背圧室18内の圧縮空気が供給される構成となっている。
一方、シール部材26のうち背面26Bの低圧側(外周側)には、シール取付溝25の浅底部25Bと対応した矩形状の切欠き部26Dが形成されている。これにより、シール部材26は、その断面形状がクランク状に形成されると共に、切欠き部26Dによって浅溝部25Bに干渉することなく、背面26Bを底部25Aに挿入できる構成となっている。
また、シール部材26の低圧側には、深溝周壁面25Cを超えて外径側に延びる低圧側延伸部26Eが形成されている。このとき、低圧側延伸部26Eは、浅溝周壁面25Dよりも内径側に位置している。これにより、シール部材26は、浅溝周壁面25Dに干渉することなく、シール取付溝25内に挿嵌されている。
さらに、シール部材26と深溝周壁面25Cとの間には第1の隙間S1が形成されると共に、シール部材26と浅溝周壁面25Dとの間には第2の隙間S2が形成されている。そして、第1の隙間S1は、第2の隙間S2よりも大きくなっている。
27はシール取付溝25とシール部材26との間に設けられた漏洩遮断手段としてのYパッキンで、該Yパッキン27は、シール部材26と深溝周壁面25Cとの間に位置して第1の隙間S1に配置されている。また、Yパッキン27は、軸方向の一側から他側に向けてV字状に分岐した2つのリップ部27Aを有している。そして、これら2つのリップ部27Aは、シール取付溝25の底部25Aと対向した状態で拡開し、シール部材26と深溝周壁面25Cとにそれぞれ接触している。このとき、Yパッキン27は、シール取付溝25の底部25A側およびシール部材26と一緒に、高圧側の旋回背圧室18と連通する背圧室28を形成している。このため、Yパッキン27のリップ部27Aには旋回背圧室18の圧力が作用するから、この圧力によって2つのリップ部27Aは拡開する。これにより、Yパッキン27は、高圧側となる旋回背圧室18の圧力が低圧側に漏洩するのを遮断している。
また、Yパッキン27は、シール部材26と深溝周壁面25Cとの間に配置されているから、背圧室28は、シール取付溝25の底部25A内に留まり、浅底部25Bよりも外周側に拡張することはない。このため、シール部材26の摺動面26Aは、背圧室28の低圧側の境界部となる浅溝周壁面25Dに比べて、常に低圧側に向けて径方向外側に延びている。
そして、シール部材26の有効面積は、シール部材26の高圧側の圧力が直接作用する摺動面26A側(背圧プレート16側)の面積と背面26B側(ホルダ17側)の面積との差分をいう。このため、シール部材26の有効面積は、前面内径寸法R1と中間径寸法R0との間に位置する円環状の領域の面積となっている。
本実施の形態によるブースタ空気圧縮機は上述の如き構成を有するもので、次に、その作動について説明する。
まず、電動モータ等の駆動源によって駆動軸5を回転駆動したときには、駆動軸5の回転が旋回軸受22を介して旋回スクロール8に伝えられる。これにより、旋回スクロール8は、補助クランク機構23によって自転を規制された状態で、駆動軸5を中心として旋回運動を行う。
このとき、固定スクロール2のラップ部2Bと旋回スクロール8のラップ部9Bとの間に画成された圧縮室12は、外径側から内径側に向けて連続的に縮小する。これにより、圧縮機は、例えば工場配管等から供給される圧縮空気を吸込口13から吸込むと共に、この圧縮空気を各圧縮室12で順次圧縮し、吐出口14から外部のタンク(図示せず)等に向けて高圧の圧縮空気を吐出する。
また、圧縮室12内で圧縮された圧縮空気は、その一部が背圧導入管19を通じて旋回スクロール8の背面側に画成された旋回背圧室18に導入される。これにより、圧縮空気の圧力によって旋回スクロール8が固定スクロール2から離れる方向に向けて過大なスラスト荷重が生じるときでも、旋回背圧室18内の圧力によって旋回スクロール8を固定スクロール2側に向けて押圧することができ、スラスト荷重を軽減することができる。
次に、シール機構24の作動について図5および図6を参照しつつ詳細に説明する。
まず、シール部材26の摺動面26Aから背面26Bに向かって作用する摺動面26A側の圧力について検討する。シール部材26のうち前面内径寸法R1よりも内径側は、旋回背圧室18と同じ高圧の内部圧力P1が作用する領域である。一方、シール部材26のうち前面外径寸法R2よりも外側は、ケーシング1内と同じ低圧の外部圧力P2が作用する領域である。このとき、シール部材26の摺動面26Aは、前面内径寸法R1と前面外径寸法R2との間に位置する幅aの領域に位置し、背圧プレート16に接触する。このため、シール部材26の摺動面26A(幅aの領域)は、圧力P1から圧力P2まで連続的に変化する。
次に、シール部材26の背面26Bから摺動面26Aに向かって作用する背面26B側の圧力について検討する。シール部材26とシール取付溝25の深溝周壁面25Cとの間にはYパッキン27が設けられている。このため、シール部材26のうちシール取付溝25の中間径寸法R0よりも内径側は、高圧の内部圧力P1が作用する領域である。一方、シール部材26のうちシール取付溝25の中間径寸法R0よりも外径側は、低圧の外部圧力P2が作用する領域である。
このとき、シール部材26の高圧側段部26Cには、摺動面26A側と背面26B側の両方から圧力P2が作用し、互いに相殺する。このため、圧力差によってシール部材26に荷重が生じる領域は、高圧側段部26Cよりも外径側に位置する部分となる。
ここで、シール部材26の摺動面26Aからは、幅aの領域に亘って分布圧力を積分した荷重Ffが作用する。一方、シール部材26の背面26Bからは、前面内径寸法R1と中間径寸法R0との間に位置する幅bの領域(有効面積の領域)に亘って圧力P1を積分した荷重に加えて、前面外径寸法R2と中間径寸法R0との間に位置する幅cの領域に亘って圧力P2を積分した荷重を加算した合力(荷重Fb)が作用する。
もし、前面外径寸法R2が中間径寸法R0と等しい(R2=R0)か小さい(R2<R0)場合には、背面26Bの荷重Fbと摺動面26Aの荷重Ffとの差は、幅bの領域に亘って圧力P1を積分した背面26B側の荷重と圧力P1から圧力P2までの分布圧力を積分した摺動面26A側の荷重との差より小さくなり得ない。幅aの領域で圧力の変化がほぼ直線的であるとすると、シール部材26には、およそ幅bの領域に亘って(P1−P2)/2の圧力を積分した荷重が作用し、シール部材26は背面26Bから摺動面26Aに向けて押付けられる。
これに対し、本実施の形態では、前面外径寸法R2が中間径寸法R0よりも大きく(R2>R0)設定され、摺動面26Aは深溝周壁面25Cを越えて低圧側(外径側)に延びている。このように幅aの領域を外側に拡大すると、摺動面26Aでは圧力P2よりも高い圧力の領域が増加するのに対して、背面26Bでは圧力P2の領域(幅cの領域)が増加するだけである。このため、背面26Bの荷重Fbと摺動面26Aの荷重Ffとの差は小さくなり、幅cの領域に応じてシール部材26の押付け力を小さくすることができる。この結果、シール部材26の摩耗速度を小さくすることができる。
また、シール部材26の外周面の広い範囲に亘って低圧の圧力P2を導入するので、圧力P1との圧力差が生じ、シール部材26を外径側に向けて広げようとする荷重が作用する。これに対し、シール部材26は、切れ目のない連続体として形成されており、シール部材26自身が圧力差を保持して広がらない構成となっている。さらに、シール部材26に作用する径方向の荷重は、シール部材26単体でバランスしているので、シール取付溝25の深溝周壁面25Cおよび浅溝周壁面25Dに押し付けられることはない。この結果、シール部材26の動きが阻害されることはなく、摩擦しないため、シール部材26の外周面で摩耗が進行することもない。
かくして、本実施の形態では、使用状態において、背圧室28の有効面積に比べて、シール部材26と背圧プレート16との接触面積(摺動面26Aの面積)を大きく設定している。このとき、背圧室28の有効面積には高圧側の圧力P1が作用するのに対し、シール部材26の摺動面26Aには高圧側の圧力P1から低圧側の圧力P2までの連続した分布圧力が作用する。このため、シール部材26の摺動面26Aのうち背圧室28の有効面積よりも大きな面積に応じて、シール部材26の摺動面26A側に作用する荷重とシール部材26の背面26B側に作用する荷重との差を小さくすることができる。このため、シールする圧力が高圧でもシール部材26の押付け力を小さくすることができるから、シール部材26の摩耗速度を低下させることができ、シール部材26の寿命を延ばして信頼性、耐久性を向上させることができる。
また、使用状態において、背圧室28の低圧側の境界部となる深溝周壁面25Cに比べて、シール部材26の摺動面26Aが低圧側に向けて径方向外側に延びている。このとき、シール部材26のうち深溝周壁面25Cを越えて低圧側に延びた低圧側延伸部26Eは、背面26Bには低圧側の圧力P2が作用するのに対し、摺動面26Aには高圧側の圧力P1と低圧側の圧力P2との間の分布圧力が作用する。このため、シール部材26の低圧側延伸部26Eでは、背面26B側に比べて摺動面26A側の方が作用する圧力が高くなる。
この結果、シール部材26の低圧側延伸部26Eによって、背圧室28の有効面積に比べてシール部材26の摺動面26Aと背圧プレート16との接触面積を大きくすることができる。このため、シール部材26の摺動面26A側に作用する荷重とシール部材26の背面26Bに作用する荷重との差を小さくすることができるから、シール部材26の押付け力を小さくすることができる。
また、シール部材26は周方向に向けて切れ目のない連続体によって形成したから、シール部材26の内周面と外周面との間に圧力差が生じても、シール部材26自体は、この圧力差を保持し、広がることがない。また、シール部材26単体で径方向の荷重がバランスするから、シール部材26が径方向に変位することがなく、シール部材26がシール取付溝25の深溝周壁面25Cや浅溝周壁面25Dに押付けられることがない。このため、シール部材26とシール取付溝25の周壁面25C,25Dとの摩擦によって、シール部材26の動きが阻害されることがないのに加え、摩耗が進行することがないから、シール部材26の信頼性、耐久性を高めることができる。
さらに、シール部材26は、その摺動面26Aの高圧側に背圧プレート16から離間して背圧プレート16に対向する高圧側段部26Cを有するから、高圧側段部26Cと背圧プレート16との間に高圧側の圧力P1を作用させることができる。これにより、シール部材26の背面26Bに作用する力を高圧側段部26Cに作用する力で打ち消すことができるから、シール部材26の有効面積を減少させることができ、シール部材26の押付け荷重を低減することができる。
また、Yパッキン27は、シール取付溝25の深溝周壁面25Cとシール部材26の切欠き部26Dとの間に位置して第1の隙間S1に配置したから、Yパッキン27によってシール部材26の背面26Bに作用する高圧側の圧力P1が低圧側に漏洩するのを遮断することができる。
また、第2の隙間S2に比して第1の隙間S1を大きくしたから、シール部材26が径方向に位置ずれしたときでも、第1の隙間S1よりも先に第2の隙間S2がなくなる。このため、常に第1の隙間S1を確保することができるから、第1の隙間S1に配置したYパッキン27を押し潰さないようにすることができる。
さらに、背圧プレート16およびホルダ17はアルミニウムにアルマイト処理を施した部材を用いて形成し、シール部材26はポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を主材として形成する構成としている。このとき、シール部材26は、潤滑性、耐摩耗性の高いポリテトラフルオロエチレンを主材として形成するから、シール部材26の耐久性、信頼性をさらに高めることができる。
次に、図7ないし図9は本発明による第2の実施の形態を示し、本実施の形態の特徴は、シール部材の摺動面が摩耗することによって、背圧プレートとの接触面積が増加する構成としたことにある。なお、本実施の形態では、前記第1の実施の形態と同一の構成要素に同一の符号を付し、その説明を省略するものとする。
31はホルダ17と背圧プレート16との間に設けられた第2の実施の形態によるシール機構で、該シール機構31は、第1の実施の形態によるシール機構24と同様に、シール取付溝25、シール部材32、Yパッキン27等によって構成されている。
32はシール取付溝25内に挿嵌された環状のシール部材で、該シール部材32は、第1の実施の形態によるシール部材26とほぼ同様に、例えば潤滑性、耐摩耗性に優れた材料としてポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等の四フッ化樹脂系の材料を主成分として形成されている。また、シール部材32は、周方向に切れ目のない環状の連続体によって形成され、径方向に作用する荷重がバランスする構成となっている。
ここで、シール部材32は、その軸方向の一面(前面)が背圧プレート16と摺接する摺動面32Aとなる。このとき、シール部材32の摺動面32Aは、背圧プレート16の摺動面となる背面16Aと平面で接触する。一方、シール部材32の背面32Bは、シール取付溝25の奥部に挿入されて底部25Aと対面して配置されると共に、背圧室28を画成する。
また、シール部材32のうち摺動面32Aの高圧側(内周側)には、矩形状に切欠かれた高圧側段部32Cが形成されている。このとき、高圧側段部32Cは、背圧プレート16から離間すると共に、背圧プレート16と対向した状態で配置される。一方、シール部材32のうち背面32Bの低圧側(外周側)には、シール取付溝25の浅底部25Bと対応した矩形状の切欠き部32Dが形成されている。
また、シール部材32の低圧側には、深溝周壁面25Cを超えて外径側に延びる低圧側延伸部32Eが形成されている。このとき、低圧側延伸部32Eは、浅溝周壁面25Dよりも内径側に位置している。また、シール部材32と深溝周壁面25Cとの間には第1の隙間S1が形成され、シール部材32と浅溝周壁面25Dとの間には第1の隙間S1よりも小さい第2の隙間S2が形成されている。そして、第1の隙間S1には、Yパッキン27が配置されている。
さらに、シール部材32の外径側には、摺動面32Aから低圧側に向かって背圧プレート16から徐々に離間する面取り状の傾斜部32Fが形成されている。これにより、摺動面32Aが摩耗することによって、背圧プレート16との接触面積が増加する構成となっている。即ち、シール部材32の摺動面32Aは前面内径寸法R1と前面外径寸法R2とを有すると共に、摺動面32Aが摩耗するに従って、前面外径寸法R2は増加する構成となっている。
次に、シール機構31の作動について図7ないし図9を参照しつつ詳細に説明する。なお、図8がシール部材32を取付けたときの初期状態を示し、図7および図9がシール部材32が背圧プレート16に対して摺動して、シール部材32が馴染んだ後の使用状態を示している。
まず、図8はシール取付溝25に摩耗前のシール部材32を取付けた初期状態を示している。この初期状態では、例えばシール部材32の摺動面32Aの前面外径寸法R2は、中間径寸法R0よりも小さく設定してある。従って、前面内径寸法R1と前面外径寸法R2との間に位置する幅aの領域(摺動面32Aの領域)は、前面内径寸法R1と中間径寸法R0との間に位置する幅bの領域(背面32B側の有効面積の領域)よりも大きい。しかも、摺動面32A側の圧力よりも背面32B側の有効面積の圧力P1の方が高い。このため、背面32Bの荷重Fbと摺動面32Aの荷重Ffとの差は大きく、シール部材32は背圧プレート16に向けて強く押付けられる。従って、摺動面32Aの馴染みが早く、摩耗も比較的早く進む。
図9はシール部材32に対してある程度摩耗が進んだ状態を示している。この状態では、摺動面32Aが外径側に広がると共に、幅aが大きくなり、前面外径寸法R2が中間径寸法R0に比べて少し大きくなっている。このように、前面外径寸法R2が中間径寸法R0よりも大きくなると、第1の実施の形態と同様に、前面外径寸法R2と中間径寸法R0との間に位置する幅cの領域の面積に応じて、背面32Bの荷重Fbと摺動面32Aの荷重Ffとの差は小さくなる。従って、シール部材32の押付け力を初期状態に比べて小さくなるから、シール部材32の摩耗の進行速度は徐々に遅くなる。
図7はシール部材32に対して摩耗がさらに進んだ状態を示している。この状態では、幅aがさらに大きくなり、前面外径寸法R2が中間径寸法R0に比べてかなり大きくなっている。この状態になると、背面32Bの荷重Fbと摺動面32Aの荷重Ffとの差はさらに小さくなるから、シール部材32の押付け力は益々小さくなり、シール部材32の摩耗の進行速度は極めて小さいものとなる。
かくして、このように構成される本実施の形態でも、第1の実施の形態とほぼ同様の作用効果を得ることができる。そして、特に本実施の形態では、シール部材32の摺動面32Aが摩耗することによって背圧プレート16との接触面積が増加する構成としている。また、シール部材32は、その摺動面32Aから低圧側に向かって背圧プレート16から徐々に離間する傾斜部32Fを有する構成となっている。このため、シール部材32が摩耗するに従って、シール部材32の背面32B側には低圧側の圧力P2しか作用しない領域(低圧側延伸部32E)でシール部材32の摺動面32Aの面積を増加させることができる。この結果、シール部材32が摩耗するに従って、シール部材32の押付け力を低減することができるから、シール部材32の押付け力を摩耗がなくなる程度まで減少させることができ、シール部材32の寿命をさらに延ばすことができる。
次に、図10ないし図12は本発明による第3の実施の形態を示し、本実施の形態の特徴は、シール部材の外周側には、シール取付溝の浅溝周壁面と対面する部分に深さ方向に向けて延びる隆起部を設ける構成としたことにある。なお、本実施の形態では、前記第1の実施の形態と同一の構成要素に同一の符号を付し、その説明を省略するものとする。
41はホルダ17と背圧プレート16との間に設けられた第3の実施の形態によるシール機構で、該シール機構41は、第1の実施の形態によるシール機構24と同様に、シール取付溝25、シール部材42、Yパッキン27等によって構成されている。
42はシール取付溝25内に挿嵌された環状のシール部材で、該シール部材42は、第1の実施の形態によるシール部材26とほぼ同様に、例えばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等の四フッ化樹脂系の材料を主成分として形成されると共に、周方向に切れ目のない環状の連続体によって形成され、径方向に作用する荷重がバランスする構成となっている。
また、シール部材42は、第1の実施の形態によるシール部材26とほぼ同様に、摺動面42A、背面42B、高圧側段部42C、切欠き部42Dおよび低圧側延伸部42Eを備えている。さらに、シール部材42と深溝周壁面25Cとの間には第1の隙間S1が形成され、シール部材42と浅溝周壁面25Dとの間には第1の隙間S1よりも小さい第2の隙間S2が形成されている。そして、第1の隙間S1には、Yパッキン27が配置されている。
さらに、シール部材42のうち第2の隙間S2と対面する部分には、シール取付溝25の深さ方向(軸方向)に向けて延びる複数の隆起部42Fが形成されると共に、隣合う隆起部42Fの間には谷部42Gが形成されている。即ち、各隆起部42Fは、シール部材42のうちシール取付溝25の浅溝周壁面25Dと対面する低圧側延伸部42Eの外周側に形成されている。そして、隆起部42Fは、シール部材42の全周に亘って設けられ、シール部材42の外周面を取囲んでいる。
かくして、このように構成される本実施の形態でも、第1の実施の形態とほぼ同様の作用効果を得ることができる。そして、特に本実施の形態では、シール部材42のうち第2の隙間S2と対面する低圧側延伸部42Eの外周側には、深さ方向に向けて延びる隆起部42Fを形成している。このため、シール部材42が径方向に位置ずれするときでも、隆起部42Fの先端をシール取付溝25の浅溝周壁面25Dに当接させて第2の隙間S2を確保することができるから、シール部材42の隆起部42Fによってシール部材42の外周側に低圧側の圧力P2を容易に導入することができる。これにより、シール部材42の低圧側延伸部42Eでは、背面42B側には低圧側の圧力P2しか作用しないのに対して、摺動面42A側には高圧側の圧力P1と低圧側の圧力P2との間の圧力が作用する。この結果、シール部材42の低圧側延伸部42Eでは、背面42B側に比べて摺動面42A側の方が作用する圧力が高くなるから、シール部材42の摺動面42Aに作用する荷重Ffとシール部材42の背面42Bに作用する荷重Fbとの差を確実に小さくすることができる。
なお、第3の実施の形態では、シール部材42の外周面に隆起部42Fを設ける構成とした。しかし、本発明はこれに限らず、例えばシール部材42の外周面には、シール取付溝25の外周面には深さ方向に延びる溝状の谷部を設ける構成としてもよい。この場合も、隣合う谷部の間に隆起部が形成されると共に、各谷部によってシール部材42の外周側に低圧側の圧力を導入することができる。
また、第3の実施の形態では、第1の実施の形態によるシール部材26と同様な構成を有するシール部材42に対して、隆起部42Fまたは谷部42Gを設ける構成とした。しかし、本発明はこれに限らず、例えば第2の実施の形態によるシール部材32と同様な構成を有するシール部材に対して、隆起部または谷部を設ける構成としてもよい。
次に、図13は本発明による第4の実施の形態を示し、本実施の形態の特徴は、外周側が環状をなすものの、内周側には周壁面をもたない円形状のシール取付溝を形成したことにある。なお、本実施の形態では、前記第1の実施の形態と同一の構成要素に同一の符号を付し、その説明を省略するものとする。
51はホルダ17と背圧プレート16との間に設けられたシール機構で、該シール機構51は、第1の実施の形態によるシール機構24と同様に、シール取付溝52、シール部材26、Yパッキン27等によって構成されている。
52は底板部17Bの設けられたシール取付溝で、該シール取付溝52は、外周側が環状をなすものの、内周側には周壁面をもたない円形状の窪みによって形成されている。ここで、シール取付溝52は、底板部17Bのうち背圧プレート16との摺動面に開口して設けられている。また、シール取付溝52の内周側には、深さ寸法の大きな底部52Aが形成され、該底部52Aは圧縮空気収容部17Cにつながっている。一方、シール取付溝52の外周側には、深さ寸法の小さい浅底となった段付状の浅底部52Bが形成されている。さらに、シール取付溝52の低圧側には、底部52Aと浅底部52Bとの間に位置する深溝周壁面52Cと、浅底部52Bと開口部との間に位置する浅溝周壁面52Dとが形成されている。
そして、シール取付溝52にはシール部材26が挿嵌されると共に、シール取付溝52とシール部材26との間にはYパッキン27が取付けられている。これにより、シール機構51は、シール部材26の内周側に位置する旋回背圧室18と外部との間を気密にシールする。
かくして、このように構成される本実施の形態でも、第1の実施の形態とほぼ同様の作用効果を得ることができる。即ち、常にシール部材26の内周側に位置する旋回背圧室18が高圧で、シール部材26の外周側(外部)が低圧である場合には、シール部材26をその内周側で支持する必要がない。このため、内周側に周壁面をもたないシール取付溝52を用いた第4の実施の形態でも、第1の実施の形態と同様の作用効果を得ることができる。
なお、第4の実施の形態によるシール機構51では、シール取付溝52は、段付状の浅溝部52Bを有する構成とした。しかし、本発明はこれに限らず、例えば図14に示す第1の変形例によるシール機構51′のように、浅溝部を省いたシール取付溝52′を用いる構成としてもよい。シール部材26の剛性が高い場合には、シール部材26の変形が生じ難い。このため、このようなシール取付溝52′を用いた場合でも、第1の実施の形態と同様の作用効果を得ることができる。
次に、図15は本発明による第5の実施の形態を示し、本実施の形態の特徴は、固定スクロールと旋回スクロールとの間にシール機構を設ける構成としたことにある。なお、本実施の形態では、前記第1の実施の形態と同一の構成要素に同一の符号を付し、その説明を省略するものとする。
61は固定スクロール2と旋回スクロール8との間に設けられたシール機構で、該シール機構61は、第1の実施の形態によるシール機構24と同様に、シール取付溝25、シール部材26、Yパッキン27等によって構成されている。このとき、シール取付溝25は、ケーシング1に固定されて静止する固定スクロール2に設けられている。また、シール取付溝25は、固定スクロール2のうち旋回スクロール8との摺動面側に位置し、圧縮室12(ラップ部2B)を取囲んで鏡板2Aに設けられている。
そして、シール取付溝25にはシール部材26が挿嵌されると共に、シール取付溝25とシール部材26との間にはYパッキン27が取付けられている。これにより、シール機構61は、シール部材26の内周側に位置する圧縮室12と外部との間を気密にシールする。
かくして、このように構成される本実施の形態でも、第1の実施の形態とほぼ同様の作用効果を得ることができる。特に、本実施の形態では、静止する固定スクロール2に対してシール機構61を設けたから、旋回軸受22等が取付けられる旋回スクロール8にシール機構を設けた場合に比べて、組立性、生産性を高めることができる。
なお、第5の実施の形態では、固定スクロール2と旋回スクロール8との間に第1の実施の形態と同様のシール機構61を設ける構成とした。しかし、本発明はこれに限らず、固定スクロール2と旋回スクロール8との間には、例えば第2、第3の実施の形態によるシール機構31,41を設ける構成としてもよい。
また、第5の実施の形態では、旋回スクロール8の背面側には、旋回背圧室18を形成する構成としたが、図16および図17に示す第2の変形例のように、旋回背圧室を省いたブースタ圧縮機またはスクロール膨張機に対して、固定スクロール2と旋回スクロール8との間にシール機構71を設ける構成としてもよい。この場合、旋回スクロール8の背面側には、旋回軸受22および補助クランク機構23が取付けられる。また、シール機構71は、例えば第1の実施の形態によるシール機構24,31,41のいずれかと同様な構成を有するものである。
さらに、スクロール式流体機械を真空ポンプとして使用する場合には、図18に示す第3の変形例のように、固定スクロール2と旋回スクロール8との間には、例えば第1の実施の形態によるシール機構24とは内周側と外周側の構成が逆となったシール機構81を設ける。
この場合、固定スクロール2のラップ部2Bと旋回スクロール8のラップ部9Bとの間に形成される密閉室12は、外部よりも圧力が低くなる。このため、シール取付溝82は、シール取付溝25と同様に、底部82A、浅底部82B、深溝周壁面82C、浅溝周壁面82Dを有するものの、浅底部82B、深溝周壁面82C、浅溝周壁面82Dはシール取付溝82の内周側に配置されている。
また、シール部材83は、シール部材26と同様に、摺動面83A、背面83B、高圧側段部83C、切欠き部83Dおよび低圧側延伸部83Eを備えている。しかし、高圧側段部83Cはシール部材83の外周側に配置され、切欠き部83Dおよび低圧側延伸部83Eはシール部材83の内周側に配置されている。そして、シール部材83の内周側とシール取付溝82の深溝周壁面82Cとの間にはYパッキン84が取付けられるものである。
なお、前記各実施の形態では、漏洩遮断手段として断面Y字状のYパッキン27,84を用いる構成としたが、断面V字状のVパッキン、断面U字状のUパッキンを用いる構成としてもよい。また、シール取付溝の底部や周壁面に切欠きを設け、該切欠きにOリングを取付けることによって漏洩遮断手段を構成してもよい。
また、前記各実施の形態では、シール部材26,32,42,83は高圧側段部26C,32C,42C,83Cを有する構成とした。しかし、本発明では、高圧側段部は必ずしも必要ではなく、高圧側段部を省いた断面L字状のシール部材を用いる構成としてもよい。
また、前記各実施の形態では、シール部材26,32,42,83はPTFEを主成分とする材料を用いて形成する構成とした。しかし、本発明のシール部材に用いる材料は実施の形態に限るものではなく、例えばシール部材はPTFE以外の材料からなる樹脂複合材料を用いて形成する構成としてもよい。
また、前記各実施の形態では、固定スクロール2、旋回スクロール8、背圧プレート16、ホルダ17はアルミニウムにアルマイト処理を施した部材を用いて形成するものとしたが、他の材料を用いて形成してもよい。
また、前記第1ないし第4の実施の形態では、旋回スクロール8側の背圧プレート16とケーシング1側のホルダ17とのうちホルダ17にシール取付溝25,25,52,52′を設ける構成とした。しかし、本発明はこれに限らず、例えば、背面プレート16にシール取付溝を設け、該シール取付溝に挿嵌したシール部材を平面状をなすホルダ17の摺動面に摺接させる構成としてもよい。
さらに、前記第5の実施の形態では、固定スクロール2の鏡板2Aと旋回スクロール8側の鏡板9Aとのうち固定スクロール2の鏡板2Aにシール取付溝25,82を設ける構成とした。しかし、本発明はこれに限らず、例えば、旋回スクロール8の鏡板9Aにシール取付溝を設け、該シール取付溝に挿嵌したシール部材を平面状をなす固定スクロール2の鏡板に摺接させる構成としてもよい。
また、前記各実施の形態では、ケーシング1に固定された固定スクロール2に対して旋回スクロール8を旋回動作させるスクロール式流体機械を例に挙げて説明したが、本発明はこれに限るものではなく、例えば特開平9−133087号公報に示すように、互いに対向して配置された2つのスクロールをそれぞれ回転駆動する全系回転式スクロール流体機械等に適用してもよい。
また、前記各実施の形態では、スクロール式流体機械としてスクロール圧縮機、スクロール膨脹機、真空ポンプ等を例に挙げて説明したが、本発明はこれに限らず、例えば冷媒圧縮機等にも広く適用できるものである。
さらに、前記各実施の形態では、スクロール式流体機械にシール装置としてのシール機構24,31,41,51,51′,61,71,81を適用するものとした。しかし、本発明はこれに限らず、互いに対向した2つの部材が摺動運動すると共に、これら2つの部材の間に外部と圧力が異なる密閉室等を画成するものであれば、広く適用することができるものである。