JP2008214168A - 透光性ジルコニア焼結体及びその製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】従来のイットリア含有ジルコニア焼結体で、イットリアが2〜4モル%の範囲のものは高強度である程度の全光線透過性を有していたが、直線光線の透過性が高く審美性の高いものはなかった。相対密度99%以上、結晶粒径が0.15μm以下、600nmの可視光に対する吸収散乱係数が5.0mm−1以下の透光性ジルコニアを提供する。
【解決手段】2〜4モル%のイットリアを含有するジルコニア粉末からなる原料成形体を真空容器中に封入し、1200℃以下、圧力50MPa以上の条件下で熱間静水圧プレス(HIP)処理することによって高強度で直線透過性が高く、審美性に優れたジルコニア焼結体が得られる。
【選択図】 図2

Description

本発明は透光性ジルコニア焼結体に関し、特に義歯、歯列矯正ブラケット等の歯科材料又はそれに用いるミルブランクに好適な高強度でなおかつ直線透過性が高く、審美性に優れたジルコニア焼結体に関するものである。
イットリアを含有するジルコニア焼結体(Y−TZP)は、高強度、高靭性であることからエンジン材料、切断工具、ダイス、シール材、ベアリングなどの機械構造用材料や人工骨等の生体材料として広く利用されている。このY−TZPの微細構造はジルコニアにイットリアを2〜4mol%添加し、正方晶ジルコニアの安定領域である1350〜1600℃の温度で焼結し結晶粒径を0.4〜1.5μmの結晶粒径とすることにより、高強度化を実現している(例えば、非特許文献1)。しかし得られる焼結体は透光性が低いものであった。
一般に正方晶ジルコニアは結晶異方性による粒界面での複屈折により可視光を散乱し、特に直線透過率が低いものしか得られていなかった。そのため、ジルコニアの透光性を向上させる為に、キュービックジルコニアの様に単結晶とするか、結晶異方性のない立方晶結晶構造を有する焼結体を作製する必要があった。(例えば、特許文献1参照)しかし、その様なジルコニアでは、破壊靭性や曲げ強度といった機械的特性が低いという問題があった。
イットリアの含有量の低いY−TZPは、高強度である反面、透光性が高いものは得られず、ある程度の全光線透過率を有するものは得られていたが、直線透過率はほとんどなく、審美性が十分な焼結体は得られていなかった。
Ceramics Bulletin 第64巻、310頁(1985) 特開昭62−91467号公報
本発明は、部分安定化ジルコニアの高強度(高靭性)という機械的強度と、透光性、特に直線透過率をあわせもち、加工及び使用時の耐久性、審美性に優れたジルコニア焼結体を提供するものである。
本発明者は、Yを含有するジルコニア焼結体の透光性と強度の両立について鋭意検討を重ねた結果、2〜4モルのYを含むジルコニア焼結体において、高密度でなおかつ高い直線透過率を併せ持つ焼結体が得られることを見出し、本発明を完成した。
本発明の透光性ジルコニア焼結体は、2モル%〜4モル%のイットリアを含有するジルコニアからなり、相対密度99%以上、結晶粒径が0.15μm以下、600nmの吸収散乱係数が5.0mm−1以下の焼結体である。
イットリア(Y)含有量が2モル%未満の場合、ジルコニア中の正方晶が室温において安定化されないため単斜晶の存在比率が多くなり、高強度が達成できない。4モルを超えると、透光性は向上するが、やはり強度が低下する。
本発明の透光性ジルコニアは焼結粒径が0.15μm以下であり、なおかつ焼結体の相対密度は99%以上のものである。結晶粒径を0.15μm以下に超微細化することにより直線透過率は向上する。結晶粒径の下限は特に限定されないが、概ね0.05μmまでである。
本発明の透光性ジルコニア焼結体の焼結密度は、相対密度で99%以上である。相対密度が99%を下回ると、焼結体中に残存する残留する気孔によって光透過率が低下する。焼結体の相対密度は、さらに99.5%以上であることが好ましい。
本発明の透光性ジルコニア焼結体は、600nmの可視光に対する吸収散乱係数が5.0mm−1以下のものである。また、本発明の透光性ジルコニア焼結体は、好適には、0.5mm厚みにおける600nmの直線透過率が7%以上のものであり、好適には、0.5mm厚みにおける全光透過率が43%以上のものである。
本発明の透光性ジルコニア焼結体は、全光線透過率が高いだけでなく、直線光線の透過性が高いものであり、7%以上であることが好ましい。直線光線の透過性が高いことは、吸収散乱係数が小さいことにつながる。吸収散乱係数が小さいことにより、義歯や歯列矯正ブラケットに用いた場合、口の中に異種材を装着していることが目立たないという利点がある。
本発明の透光性ジルコニア焼結体は、さらに破壊靭性が4.0MPa・m0.5以上であることが好ましい。さらに本発明の透光性ジルコニア焼結体は、2〜4モル%のYを含有するジルコニア焼結体である。
次に本発明の透光性ジルコニア焼結体の製造法を説明する。
本発明の透光性ジルコニア焼結体は、2モル%〜4モル%のイットリアを含有するジルコニア粉末からなる成形体を真空容器中に配し、1200℃以下、圧力50MPa以上の条件下で熱間静水圧プレス(HIP)処理することによって製造できる。
通常のHIP法の場合、1300℃以上の高温にしないと焼結が進まないため、このような高温で得られる焼結体の結晶粒径は0.3〜2μmと比較的大きな結晶粒径となってしまい、本発明のYを含有する範囲で高い直線透過率の焼結体が得られない。
本発明の透光性ジルコニア焼結体は、0.15μm以下の微細な結晶粒径を有する焼結体とするために、ジルコニア粉末の成形体をガラスや金属製容器に充填後、真空封入してカプセル化し、その後HIP法によって温度1200℃以下(好適には1000〜1100℃)、圧力50MPa以上(好適には50〜200MPa)の条件で焼結させる。
ジルコニア粉末の成形体の成型法は特に限定されないが、金型プレス、冷間静水圧プレスなどのプレス成形法、射出成形法によるものが挙げられる。プレス成型法では、例えば100MPa以下の圧力での一軸金型プレスで予備成型の後、ゴム型を用いて200MPa程度の圧力で冷間静水圧プレス処理する方法が例示でき、射出成型では、原料粉末に有機バインダー、分散剤、水を添加し、金型に射出して成型、乾燥、脱脂する方法等が例示できる。
容器材質としてはHIP処理温度(例えば1200℃)以下で軟化したり、ジルコニア焼結体中に溶融浸透しない材質であれば良く、パイレックス(登録商標)などのガラスや軟鋼などの金属が例示できる。また容器と成形体の隙間を埋める材料としては低熱膨張のBN粉末などを圧力媒体粉末として用いることができる。
ジルコニア粉末の成形体を配した容器を真空にするが、その真空度は特に限定はないが低い方が好ましく、例えば通常の汎用のロータリーポンプを用いて達成される真空度で5×10−1Pa以下が好ましい。
容器中に水分が残存すると、強度、透光性に悪影響があるため、容器壁及びジルコニア表面の吸着水を除去することが好ましく、容器が破壊、軟化しない800℃以下、特に500〜600℃の温度で1〜3時間程度真空加熱することが好ましい。
本発明で用いるジルコニア粉末は、イットリアを含有するジルコニア粉末が純度99%以上でBET比表面積が5〜20m/g、一次粒子の平均粒径が10〜70nmの微細なジルコニア粉末を用いる事が好ましい。
本発明の透光性ジルコニア焼結体には、本発明の焼結体特性を損なわない範囲で、焼結助剤としてアルミナ化合物のうち少なくとも1種類以上を総量で1wt%以下含有してもよい。アルミナ化合物としては、アルミナ(Al)、スピネル(MgO・Al)、YAG(5Al・3Y)、ムライト(3Al・2SiO)、ホウ酸アルミ化合物(nB・Al n=0.5、1、2)等が例示できる。
本発明の透光性ジルコニア焼結体は、従来の部分安定化ジルコニアの高強度・高靭性という機械的強度を有し、なおかつ従来のジルコニア焼結体にはない優れた直線光線の透過性を併せもつため、加工及び使用時の耐久性と審美性の両方が要求される義歯、歯列矯正ブラケット、それに用いるミルブランクに好適に用いられる。
以下、実施例及び比較例により本発明を具体的に説明する。
本発明の透光性ジルコニア焼結体の特性評価は以下に示す方法で行った。
(1)平均結晶粒径
ジルコニア焼結体の平均結晶粒径(D)は、焼結体の研磨エッチング面の走査電子顕微鏡観察から測定する、J. Am. Ceram. Soc., 52[8]443−6(1969)に記載されている方法に従い、以下の式により求めた。
D=1.56L
D:平均結晶粒径 L:任意の直線を横切る粒子の平均長さ
(2)相対密度
ジルコニア焼結体の相対密度(R)は、電子天秤(メトラー社製、型式:AT261)を使用して、アルキメデス法によりその密度を測定し以下の式より算出した。なお、理論焼結体密度は以下の式より算出した。
R(%)=Dobs/Dtheo x 100
theo = −0.2Y +6.15
P:相対密度(%) Dobs:焼結体密度(実測値)(g/cm
theo:焼結体密度(理論値)、Y:Yモル%
(3)光透過性(直線透過率及び全光線透過率)
直線線透過率は、日本分光製の分光光度計(V−650)を用いて測定した。試料はその両面を鏡面研磨加工した厚み0.5mmの円盤形状ものを用いた。
全光線透過率は、試料を通過する可視光を積分球で集光した時の可視光強度(I)と試料を置かずに測定した時の可視光強度(I)の比率(=I/I)より算出した。
(4)吸収散乱係数
吸収散乱係数(α)は通常測定される直線透過率から、以下の式により求めた。
α・t=−ln(T/(1−R)
α:吸収散乱係数(mm−1)、t:試料厚さ(mm)、T:直線透過率
R:反射率(波長600nmの値として、0.140を代入)
(5)機械的強度(破壊靭性)
破壊靭性の測定は試験片の表面にビッカース圧痕を入れ、そのとき発生する亀裂の長さを測定するMI法(微小圧子圧入法)にて行った。測定した亀裂長さを新原の式に代入して靭性値を算出した。
実施例1
比表面積14.5m/g、1次結晶粒子径29nmの3.0mol%のYを含むジルコニア粉末(東ソー製TZ−3Y、99.9%)を用い、一軸プレス装置と金型を用い、圧力70MPaを加えて、厚さ5mmの板状予備成形体とし、当該予備成形体をゴム型を用いて冷間静水圧プレス(CIP)処理(圧力200MPa)して成形体とした。
当該成形体をBN粉末を敷き詰めたパイレックス(登録商標)製の筒状のガラス容器に入れ、さらにBN粉末をさらに詰めこみ圧粉体とした。
ガラス容器をロータリーポンプで減圧とした真空封入(ゲージ圧目盛確認で7×10−2Pa)し、600℃2時間真空中で処理後、ガラス封入し、その後封入したガラス容器をHIP処理にセットし、アルゴンガス媒体中、温度1100℃、圧力150MPaで処理した。得られた焼結体の物性を表1に示す。
実施例2
HIP温度を1050℃にした以外は、実施例1と同様な条件で焼結体を得た。
実施例3
比表面積15m/g、一次結晶粒子径28nmの4.0mol%のYを含むジルコニア粉末(東ソー製TZ−4Y、99.9%)を用い、その他は実施例1と同様な条件で焼結体を得た。
実施例4
東ソー(株)製3mol%イットリア含有ジルコニア粉末(製品名TZ−3YE、99.6%)で、比表面積15.5m/g、結晶子径は23nm、アルミナが0.25wt%含有された粉末を用い、実施例1と同様な条件で焼結体を得た。
比較例1
3.0mol%のYを含むジルコニア粉末(東ソー製TZ−3Y)を用い、成形体を1350℃で1時間焼成して一次焼結体とし、その後アルミナこう鉢に入れて1350℃、150MPaの圧力下でHIP処理して焼結体を得た。
全光線透過率はある程度あるものが得られたが、直線透過率が低い焼結体であった。
比較例2
4.0mol%のYを含むジルコニア粉末(東ソー製TZ−4Y)を用いた成形体を1350℃で1時間焼成して一次焼結体とし、その後アルミナこう鉢に入れて1200℃、150MPaの圧力下でHIP処理して焼結体を得た。
得られた焼結体に直線透過性は認められなかった。
Figure 2008214168
実施例1のジルコニア焼結体のSEM写真である。 実施例1及び比較例1の焼結体の直線透過率の測定データである。

Claims (7)

  1. 2モル%〜4モル%のイットリアを含有するジルコニアからなり、相対密度99%以上、結晶粒径が0.15μm以下、600nmの吸収散乱係数が5.0mm−1以下であることを特徴とする透光性ジルコニア焼結体。
  2. 0.5mm厚みでの600nmの直線透過率が7%以上であることを特徴とする請求項1記載の透光性ジルコニア焼結体。
  3. 破壊靭性が4.0MPa・m0.5以上であることを特徴とする請求項2に記載の透光性ジルコニア焼結体。
  4. 2モル%〜4モル%のイットリアを含有するジルコニア粉末からなる成形体を真空容器中に封入し、1200℃以下、圧力50MPa以上の条件下で熱間静水圧プレス(HIP)処理することを特徴とする透光性ジルコニアの製造方法。
  5. 2モル%〜4モル%のイットリアを含有するジルコニア粉末からなる成形体を800℃以下で真空容器中に配し、1000〜1100℃、圧力50〜200MPaで熱間静水圧プレス(HIP)処理することを特徴とする請求項4記載の製造方法。
  6. イットリアを含有するジルコニア粉末が純度99%以上、BET比表面積が5〜20m/g、一次粒子の平均粒径が10〜70nmのジルコニア粉末を用いることを特徴とする請求項4〜5に記載の製造方法。
  7. イットリアを含有するジルコニア粉末が焼結助剤としてアルミナ化合物を総量で1wt%以下含有する請求項4〜6に記載の製造方法。
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