以下に、本願発明を具体化した実施形態を、コンバインに適用した場合の図面(図1〜図14)に基づいて説明する。図1はコンバインの左側面図、図2はコンバインの平面図、図3はコンバインの背面図、図4は走行機体前部の概略正面図、図5は脱穀装置の概略側面断面図、図6は動力伝達系のスケルトン図、図7はグレンタンク下部の拡大背面図、図8はグレンタンク内底部の拡大側面断面図、図9〜図11は操作レバーの操作態様を説明するためのグレンタンク下部の拡大背面断面図、図12は脱穀装置の概略平面図、図13は図12のXIII−XIII視背面断面図、図14は図13のXIV−XIV視拡大側面断面図である。
(1).コンバインの概略構造
まず、図1〜図5を参照しながら、コンバインの概略構造について説明する。
実施形態における6条刈り用のコンバインは、左右一対の走行クローラ2,2にて支持された走行機体1を備えている。走行機体1の前部には、圃場の植立穀稈(未刈穀稈)を刈り取りながら取り込む刈取前処理装置3が単動式の油圧シリンダ4にて昇降調節可能に装着されている。
走行機体1には、フィードチェン6を有する脱穀装置5と、脱穀後の穀粒を貯留するためのグレンタンク7とが横並び状に搭載されている。実施形態では、脱穀装置5が走行機体1の進行方向左側に配置され、グレンタンク7が走行機体1の進行方向右側に配置されている。走行機体1の後部には、グレンタンク7内の穀粒を機外へ排出するための排出オーガ8が旋回可能に設けられている。グレンタンク7内の穀粒は、排出オーガ8の先端籾投げ口から、例えばトラックの荷台やコンテナ等に搬出される。
刈取前処理装置3とグレンタンク7との間には操縦キャビン9が設けられている。操縦キャビン9内には、走行機体1の進行(旋回)方向及び旋回速度を変更操作する操向ハンドル10や、オペレータが着座する操縦座席11等が配置されている。
操縦座席11の一側方に配置されたサイドコラム12には、走行機体1の変速操作を行うための主変速レバー及び副変速レバーと、刈取前処理装置3や脱穀装置5への動力継断操作用のクラッチレバーとが設けられている。
操縦キャビン9の下方には、動力源としてのエンジン17が配置されている。エンジン17の前方には、当該エンジン17からの動力を適宜変速して左右両走行クローラ2に伝達するためのミッションケース18が配置されている。実施形態のエンジン17にはディーゼルエンジンが採用されている。
刈取前処理装置3は、バリカン式の刈刃装置19、6条分の穀稈引起装置20、穀稈搬送装置21及び分草体22を備えている。刈刃装置19は、刈取前処理装置3の骨組を構成する刈取フレーム3aの下方に配置されている。穀稈引起装置20は刈取フレーム3aの上方に配置されている。穀稈搬送装置21は穀稈引起装置20とフィードチェン6の送り始端部との間に配置されている。分草体22は穀稈引起装置20の下部前方に突設されている。走行機体1は、エンジン17にて左右両走行クローラ2を駆動させて圃場内を移動しながら、刈取前処理装置3の駆動にて圃場の未刈穀稈を連続的に刈り取る。
脱穀装置5は、刈取穀稈を脱穀処理するための円筒状の扱胴23と、扱胴23の下方に配置された揺動選別機構24及び風選別機構25と、扱胴23の後部から取り出される脱穀物を再処理する送塵口処理胴26とを備えている。扱胴23は脱穀装置5の扱室130内(図5参照)に配置されている。揺動選別機構24は扱胴23にて脱穀された脱穀物を揺動選別するためのものであり、風選別機構25は前記脱穀物を風選別するためのものである。
扱胴23の回転軸46(図5及び図6参照)は、フィードチェン6による刈取穀稈の搬送方向(走行機体1の進行方向)に沿って延びており、図4では時計回り(図3及び図13では反時計回り)の矢印R方向に回転駆動するように構成されている。扱胴23の外周面には、半径方向外向きに突出した多数個の扱歯47が、扱胴23の円周方向に沿って飛び飛びの間隔で且つ回転軸46の軸線方向(前後方向)に多数列に並べて設けられている。扱胴23は、その上面及びフィードチェン6側の側面を扱胴カバー体48にて覆われている。詳細は図示していないが、扱胴カバー体48は、機体中央側の部位を中心にして上下開閉回動可能に構成されている。
扱胴カバー体48におけるフィードチェン6側の側面には、6条分の刈取穀稈の株元側をフィードチェン6と共に挟持する挟持ガイド部材49が取り付けられている(図1及び図13参照)。刈取前処理装置3から送られてきた穀稈の株元側はフィードチェン6に受け継がれ、フィードチェン6と挟持ガイド部材49とで後方に向けて挟持搬送される。そして、穀稈の穂先側が脱穀装置5内に搬入され、扱胴23にて脱穀される。フィードチェン6と挟持ガイド部材49との組合せが特許請求の範囲に記載した挟持搬送機構に相当する。
脱穀装置5の下部には、両選別機構24,25にて選別された穀粒のうち精粒等の一番物が集まる一番受け樋27と、枝梗付き穀粒や穂切れ粒等の二番物が集まる二番受け樋28とが設けられている。実施形態の両受け樋27,28は、走行機体1の進行方向前側から一番受け樋27、二番受け樋28の順で、側面視において走行クローラ2の後部上方に横設されている。
揺動選別機構24は、扱胴23の下方に張設されたクリンプ網29、クリンプ網29の下方に配置されたフィードパン30及びチャフシーブ31、チャフシーブ31の下方に配置された網状のグレンシーブ32、チャフシーブ31の下流側(後方側)に配置されたストローラック33とを備えている。
風選別機構25は、フィードパン30の下方に配置された唐箕ファン34、及び、一番受け樋27と二番受け樋28との間に配置された選別ファン35とを備えている。唐箕ファン34は、チャフシーブ31を下から上向きに抜け、脱穀装置5の後部に配置された排塵ファン36に向かう選別風を吹き出すように構成されている。
選別ファン35は、グレンシーブ32を通り抜けできない脱穀物(二番物)に対して補助的に選別風を吹き付けるためのものである。選別ファン35からの選別風が二番物中の藁屑を後方へ吹き飛ばすことによって、二番物の風選別効率を向上させている。
扱胴23にて脱穀されクリンプ網29から漏れ落ちた脱穀物は、前後揺動するフィードパン30上に落下して揺動選別を受けながら、後方のチャフシーブ31に送られる。このとき、フィードパン30やチャフシーブ31上の脱穀物は唐箕ファン34から後ろ向きに流れる選別風を受ける。かかる揺動選別と風選別との相互作用によって、脱穀物は穀粒と藁屑とに分離される。
精粒等の一番物は、チャフシーブ31からグレンシーブ32を通り抜けて、流穀板等に案内されながら一番受け樋27内に集められ、ここから一番受け樋27内の一番コンベヤ37及び揚穀筒39内の揚穀コンベヤ40を介してグレンタンク7に送られる。
枝梗付き穀粒等の二番物は、グレンシーブ32を通り抜けできずに、一番受け樋27より後方の二番受け樋28に集められ、ここから二番受け樋28内の二番コンベヤ38及び還元筒41内の還元コンベヤ42を介して二番処理胴43に送られる。二番物は、二番処理胴43にて再脱穀されたのち、脱穀装置5内に戻されて再選別される。藁屑は、排塵ファン36に吸い込まれたのち、脱穀装置5の後部に設けられた排出口(図示せず)から機外へ排出される。
フィードチェン6の後方側(送り終端側)には排稈チェン44が配置されている。フィードチェン6の後端から排稈チェン44に受け継がれた穀稈(排稈、脱粒した稈)は、長い状態で走行機体1の後方に排出されるか、又は脱穀装置5の後方にある排稈カッタ45にて適宜長さに短く切断されたのち、走行機体1の後方に排出される。
(2).コンバインの動力伝達系統
次に、図6を参照しながら、コンバインの動力伝達系について説明する。
エンジン17は前後外向きに突出した出力軸50を備えており、エンジン17からの動力の一方は、出力軸50の前側から自在継手軸51及びミッション入力軸52を経由して、ミッションケース18に伝達される。
ミッションケース18内には、油圧ポンプ油圧モータ式(HST式)の直進用油圧無段変速機53と、同じくHST式の旋回用油圧無段変速機54とを備えている。エンジン17の出力軸50からミッションケース18に向かう分岐動力は、直進用油圧無段変速機53の直進用入力軸53aと、旋回用油圧無段変速機54の旋回用入力軸54aとにそれぞれ伝達される。
そして、操縦キャビン9に配置された操向ハンドル10や主変速レバーの操作量に応じて、各油圧ポンプにおける回転斜板の傾斜角度を調節することにより、油圧ポンプ油圧モータ間の圧油の吐出方向及び吐出量が変更され、直進用出力軸53bや旋回用出力軸(図示せず)の回転方向及び回転数、ひいては左右の走行クローラ2の駆動速度及び駆動方向が任意に調節される。
直進用出力軸53bの回転動力は、プーリ・ベルト伝動系を介して、後述するカウンタケース61から機体中央側に突出した同調入力軸65にも分岐して伝達される。
なお、直進用及び旋回用入力軸53a,54aとミッション入力軸52との間において動力を中継するファン軸56には、ラジエータ用の冷却ファン57が設けられている。実施形態では、ファン軸56から伝達ギヤ機構を介して、直進用及び旋回用入力軸53a,54aの両方に動力伝達するように構成されている。
また、旋回用入力軸54a上には、各油圧ポンプ及び油圧モータに作動油を供給するためのチャージポンプ58が設けられている。チャージポンプ58は、旋回用入力軸54aと連動可能で且つエンジン17の回転動力にて駆動するように構成されている。
他方、エンジン17からの他の動力は、出力軸50の後ろ側から、エンジン17の一側方に配置されたカウンタケース61と排出オーガ8との2方向に分岐して伝達される。
エンジン17の出力軸50からカウンタケース61に向かう分岐動力は、動力継断用の脱穀クラッチ62を介してカウンタケース61の脱穀入力軸63に伝達され、この脱穀入力軸63から更に2つの方向に分岐して伝達される。
脱穀入力軸63に伝達された動力の一部は、プーリ・ベルト伝動系を介して、扱胴23の回転軸46や送塵口処理胴26(図6では図示省略)の回転軸等に伝達され、扱胴23や送塵口処理胴26を回転駆動させる。脱穀入力軸63からの他の動力は、その中途部に設けられたべベルギヤ機構を介してカウンタケース61の定速回転軸64に伝達される。
カウンタケース61は、前述した脱穀入力軸63及び定速回転軸64と、それぞれ定速回転軸64と平行状に延びる同調入力軸65、車速同調軸66、刈取伝動軸67及びFC入力軸68と、同調入力軸65及び車速同調軸66に関連させた刈取変速機構69と、定速回転軸64及び車速同調軸66に関連させた刈取定速機構70と、車速同調軸66及びFC入力軸68に関連させたFC変速機構71とを備えている。
定速回転軸64に伝達された動力の一部は、プーリ・ベルト伝動系を介して、揺動選別機構24、風選別機構25及び排稈チェン44(図6では図示省略)等に伝達される。定速回転軸64からの他の動力は、刈取前処理装置3が車速(走行速度)と同調して駆動しない場合に、刈取定速機構70を介して車速同調軸66に伝達され、車速同調軸66から刈取伝動軸67を介して刈取前処理装置3の各装置19〜21に動力伝達される。
前述したように、同調入力軸65には、直進用出力軸53bの回転動力の一部が刈取クラッチ55を介して伝達される。同調入力軸65に伝わった回転動力は、刈取前処理装置3が車速と同調して駆動する場合に、ワンウェイクラッチ72及び刈取変速機構69を介して車速同調軸66に伝達され、車速同調軸66から刈取伝動軸67を介して刈取前処理装置3の各装置19〜21に動力伝達される。なお、ワンウェイクラッチ72は、直進用出力軸53bが正回転時のみ動力伝達するように構成されている。
車速同調軸66に伝わった動力は、FC変速機構71及びFCクラッチ73を介してFC入力軸68に伝達され、FC入力軸68からの動力伝達にてフィードチェン6が回行駆動するように構成されている。
エンジン17の出力軸50から排出オーガ8に向かう分岐動力は、動力継断用のオーガクラッチ75を介して、グレンタンク7の内底部に配置された底コンベヤ76及び排出オーガ8における縦オーガ筒81内の縦コンベヤ77に動力伝達され、次いで、受継スクリュー78等を介して、排出オーガ8における横オーガ筒82内の排出コンベヤ79に動力伝達される。
(3).排出オーガ及びグレンタンクの構造
次に、図1〜図3及び図7〜図11を参照しながら、排出オーガ8及びグレンタンク7の構造について説明する。
図1〜図3に示すように、排出オーガ8は、走行機体1におけるグレンタンク7の後方に中継ケース83を介して立設された縦オーガ筒81と、縦オーガ筒81の上端に連設された受継ケース84と、受継ケース84の継手部に連結された横オーガ筒82とからなるものである。
縦オーガ筒81は、中継ケース83を介してグレンタンク7の背面下部に連通接続されており、且つ、その長手中途部にある電動モータ(図示せず)の駆動にて縦軸線回りに水平旋回可能に構成されている。この場合、受継ケース84及び横オーガ筒82も、縦オーガ筒81と一体的に水平旋回する。縦オーガ筒81の周囲(背面側)は、グレンタンク7の背面に蝶番(図示せず)を介して開閉可能に設けられた目隠し用の縦オーガカバー85にて覆われている。
横オーガ筒82は、縦オーガ筒81との間に装架された油圧シリンダ(図示せず)の駆動にて、受継ケース84を中心として起伏揺動可能に構成されている。排出オーガ8を使用しない場合は、脱穀装置5の上面に設けられたオーガレスト86に横オーガ筒82が載置(収納)される。
縦オーガ筒81には縦コンベヤ77が内蔵されている。縦コンベヤ77の下端部(送り始端部)が、中継ケース83内の傘歯車機構87(図8参照)を介して、グレンタンク7の内底部に配置された底コンベヤ76に動力伝達可能に連結されている。縦コンベヤ77の上端部(送り終端部)は、受継ケース84内の受継スクリュー78等を介して、横オーガ筒82内の排出コンベヤ79に動力伝達可能に連結されている。
グレンタンク7は中空状のものであり、その下部側は左右の傾斜板7cにて漏斗状(下窄まり状)に形成されている。当該下窄まり状の内底部に、縦オーガ筒81に向けてグレンタンク7内の穀粒を移送する前後長手の底コンベヤ76が配置されている。グレンタンク7の背面上部には、揚穀筒39の上端部(送り終端部)に連通する受け入れ口88が形成されており、精粒等の一番物は受け入れ口88(図3参照)からグレンタンク7内に投入される。
(4).屋根状部材とその周辺の構造
次に、グレンタンク7内にある屋根状部材101とその周辺の構造について説明する。
グレンタンク7内における底コンベヤ76の上方箇所には、当該底コンベヤ76の長手方向(前後方向)に沿って延びる屋根状部材101が配置されている。この屋根状部材101は、グレンタンク7の前後側板7a,7b間に装架されたクランク杆102にて、グレンタンク7底部に位置する傾斜板7cの内面と屋根状部材101(詳しくは後述する庇体104)の下端縁との開口間隔Dを広狭変化させるように、上下2段階に昇降調節可能に吊支されている(詳細は後述する)。
また、屋根状部材101が底コンベヤ76の上方箇所に位置する関係上、屋根状部材101及びクランク杆102と縦オーガ筒81とは、縦オーガ筒81側から見た背面視で互いに重なる位置関係になっている。
屋根状部材101は、前後に長い断面山型の切妻屋根体103と、切妻屋根体103の左右に取り付けられて下向きに延出された一対の庇体104とを備えている。実施形態の各庇体104には、上下幅方向に延びる調節溝穴105が3つ形成されている。そして、各調節溝穴105に差し込んだボルト106及びナット107にて、各庇体104を切妻屋根体103の左右上面に重ねて締結することにより、各庇体104は、調節溝穴105のストロークの範囲内で切妻屋根体103の勾配に沿って、その突出長さを調節し得るように構成されている。
切妻屋根体103における下面側の前後両端部にはそれぞれ妻面板108が固着されている。これら各妻面板108に、クランク杆102を構成する前後長手の偏心軸体112を回動可能に貫通させている。
切妻屋根体103における上面側の前後両端部には、上向き開口状のガイド長溝110を有するガイド板109がそれぞれ上向き突設されている。各ガイド板109のガイド長溝110は、グレンタンク7の前後側板7a,7b間のうち屋根状部材101より上方に位置固定的に装架された案内パイプ100に下方から嵌っている。
ガイド板109の上下長さ及びガイド長溝110の上下深さは、屋根状部材101が下限位置(図11の実線状態参照)にある場合であっても、案内パイプ100がガイド長溝110から外れない程度の大きさに設定されている。なお、案内パイプ100は、中空状に形成されたグレンタンク7の剛性を補完する強度メンバーとしても機能している。
屋根状部材101を吊支するクランク杆102は、グレンタンク7底部に位置する傾斜板7cの内面と庇体104の下端縁との開口間隔Dが広狭変化するように、屋根状部材101を昇降動させるためのものであり、前後妻面板108を回動可能に貫通した偏心軸体112と、偏心軸体112のうち前後妻面板108より更に外側の両端部に固着された一対の回動軸体111とを備えている。なお、以下の説明及び図面では、便宜上、両回動軸体111のうち前側のものに符号aを、後ろ側のものに符号bを付すことがある。
図8に示すように、一対の回動軸体111は互いに前後方向の同心状に延びており、これら両回動軸体111の共通軸線A1と偏心軸体112の長手軸線A2とは互いに平行状になっている。後ろ回動軸体111bはグレンタンク7の後ろ側板7bを回動可能に貫通している。前回動軸体111aはグレンタンク7の前側板7aにボルト締結されたブラケット片113にて回動可能に軸支されている。すなわち、クランク杆102は、両回動軸体111の共通軸線A1回りに回動可能に構成されている。
このため、図7及び図9において共通軸線A1回りの反時計方向に、クランク杆102の両回動軸体111を正回動させた場合は、両回動軸体111と共に偏心軸体112も、図7及び図9において共通軸線A1回りの反時計方向に正回動して、屋根状部材101を左右傾斜板7cに近付くように下降動させる(図10参照)。そして、偏心軸体112が共通軸線A1回りに略180°正回動すると、屋根状部材101は、左右傾斜板7cの内面と庇体104の下端縁との開口間隔Dが狭い(図11にD2で示す)下限位置にセットされ、中・長粒種向けの状態になる。
逆に、図11において共通軸線A1回りの時計方向に、クランク杆102の両回動軸体111を逆回動させた場合は、両回動軸体111と共に偏心軸体112も、図11において共通軸線A1回りの時計方向に逆回動して、屋根状部材101を左右傾斜板7cから離れるように上昇動させる(図10参照)。そして、偏心軸体112が共通軸線A1回りに略180°逆回動すると、屋根状部材101は、左右傾斜板7cの内面と庇体104の下端縁との開口間隔Dが広い(図9にD1で示す)上限位置にセットされ、短粒種向けの状態になる。
なお、クランク杆102における共通軸線A1回りの正逆回動の途次において、前後ガイド板109のガイド長溝110から案内パイプ100が外れることはなく、屋根状部材101は若干左側に位置ずれしながら昇降動することになる(図10参照)。
後ろ回動軸体111bにおいてグレンタンク7の後ろ側板7bから外向きに突出した突端部には、回動操作体としての操作レバー体115が、クランク杆102と一体的に回動するように固着されている。この構成から分かるように、操作レバー体115と屋根状部材101とは、クランク杆102を介して、操作レバー体115における共通軸線A1回りの正逆回動操作に連動して屋根状部材101を上下2段階に昇降動させるように関連付けられている。
実施形態の操作レバー体115は、屈曲回動可能に構成された一対の連結リンク116,117からなるものである。第1連結リンク116は側面視略階段状の板片であり、第2連結リンク117は略L字板状のものである。第1連結リンク116の基端部は、後ろ回動軸体111bの突端部にボルト締結されている。第1連結リンク116の先端部と第2連結リンク117における回動アーム部118の基端部とは、前後横向きの枢支ピン120にて回動可能に枢着されている。第2連結リンク117における回動アーム部118の先端側から後ろ向きに延びる箇所は握り部119になっている。
図7の実線及び図9の一点鎖線にて示す上昇操作位置にある操作レバー体115の第2連結リンク117を、引き上げながら縦オーガ筒81側に押し込むように操作すると、図7及び図9において共通軸線A1回りの反時計方向に、第1連結リンク116ひいてはクランク杆102が正回動する。そして、第1連結リンク116が共通軸線A1回りに略180°正回動する下降操作位置(図11の一点鎖線状態参照)に向けて、第2連結リンク117を押し操作すると、当該押し操作力と屋根状部材101の自重との協働作用により、クランク杆102が共通軸線A1回りに略180°正回動し、その結果、屋根状部材101が下限位置(図11参照)にセットされる。
逆に、図11の一点鎖線にて示す下降操作位置にある操作レバー体115の第2連結リンク117を、引き上げながら縦オーガ筒81側から引き出すように操作すると、図11において共通軸線A1回りの時計方向に、第1連結リンク116ひいてはクランク杆102が逆回動する。そして、第1連結リンク116が共通軸線A1回りに略180°逆回動する上昇操作位置まで、第2連結リンク117を引き操作することによって、クランク杆102が共通軸線A1回りに略180°逆回動し、その結果、屋根状部材101が上限位置(図7及び図9参照)にセットされるのである。
図8に示すように、操作レバー体115のうち第1連結リンク116と第2連結リンク117の回動アーム部118とは、グレンタンク7の後ろ側板7bと縦オーガ筒81との間に位置している。図7及び図9〜図11に示すように、縦オーガ筒81側から見た背面視では、第1連結リンク116は縦オーガ筒81の後ろに常に隠れてしまうが、第2連結リンク117のうち回動アーム部118の一部(握り部119やその近傍)は、操作レバー体115の操作状態に拘らず常に、縦オーガ筒81から横方向にはみ出す(露出する)ように構成されている。このため、操作レバー体115にて屋根状部材101を昇降操作するに際して、縦オーガ筒81から横方向にはみ出した握り部119を握って操作できる。
また、操作レバー体115自体も目隠し用の縦オーガカバー85にて覆われるので、通常は操作レバー体115が人目につかず、美感に優れる。縦オーガカバー85を開き回動すれば、操作レバー体115の握り部119が現れることになる。
操作レバー体115が上昇操作位置(図7の実線状態及び図9の一点鎖線状態参照)及び下降操作位置(図11の一点鎖線状態参照)にある状態において、第2連結リンク117の回動アーム部118とグレンタンク7の後ろ側板7bとは、締結手段121にて連結される。
実施形態の締結手段121は、グレンタンク7における後ろ側板7bの外面のうち背面視で縦オーガ筒81から外れた箇所に後ろ向き突設されたナット部122と、第2連結リンク117の回動アーム部118に形成された係止穴123a(又は123b)を介してナット部122に螺合するノブネジ124とで構成されている。
この場合、係止穴123a,123bは、回動アーム部118のうち基端寄りと先端寄りとの2箇所に貫通形成されている。基端側の係止穴123a(第1連結リンク116寄りのもの)は、操作レバー体115が上昇操作位置にあるときにナット部122に合致し、先端側の係止穴123b(握り部119寄りのもの)は、操作レバー体115が下降操作位置(図11の一点鎖線状態参照)にあるときにナット部122に合致するように設定されている。
グレンタンク7における後ろ側板7bのナット部122に、回動アーム部118におけるいずれか一方の係止穴123a,123bを介してノブネジ124をねじ込み固定することにより、操作レバー体115が上昇又は下降操作位置に位置保持され、ひいては屋根状部材101が上限又は下限位置に選択的に保持されることになる。
このように、操作レバー体115の操作位置をノブネジ124の締め込みにて固定するだけで、屋根状部材101を上限又は下限位置に位置保持できるから、グレンタンク内の穀粒貯留量が増えても、例えば上限位置にある屋根状部材101が穀粒の重みで下限位置に不用意に落下したりしない。すなわち、屋根状部材101の位置が穀粒種に応じた適切な状態で安定化することになり、底コンベヤ76への穀粒の取り込み量、ひいてはグレンタンク7からの排出効率を、穀粒種の違いに拘らず高い状態に維持できるのである。
以上の構成によると、グレンタンク7内における底コンベヤ76の上方箇所に、当該底コンベヤ76の長手方向(前後方向)に沿って延びる屋根状部材101が、グレンタンク7底部に位置する傾斜板7cの内面と庇体104の下端縁との開口間隔Dを広狭変化させるように昇降調節可能に設けられているから、屋根状部材101の位置を穀粒種(短粒種や中・長粒種)に応じた適切な位置に調節できる。換言すると、前記開口間隔Dを穀粒種に応じて広狭切り換えできる。
このため、穀粒による底コンベヤ76への負荷を低減したり穀粒の損傷を防止したりできるものでありながら、穀粒種の違いに拘らず効率よく、グレンタンク7内の穀粒を、排出オーガ8を介して機外へと移送できる。従って、コンバインの汎用性が向上する。
しかも、実施形態では、操作レバー体115と屋根状部材101とは、クランク杆102を介して、操作レバー体115における共通軸線A1回りの正逆回動操作に連動して屋根状部材101を上下2段階に昇降動させるように関連付けられている。すなわち、操作レバー体115の回動運動を屋根状部材101の昇降運動に変換する機構として、構造が簡単なクランク杆102を採用しているから、かかる機構の部品点数が少なくて済み、製造コストの低減に寄与できるのである。
(5).扱室周りの詳細構造
次に、図5及び図12〜図14を参照しながら、脱穀装置5における扱室130周りの詳細構造について説明する。
脱穀装置5における揺動選別機構24の上方には扱室130の骨組を構成する枠フレーム131が配置されている。枠フレーム131は、扱胴23の外周面に沿うように略し字状に湾曲した前後一対の角パイプ部材132a,132bと、これら両角パイプ部材132a,132b間をつなぐ前後長手で複数の梁状部材133とを備えている。前後の角パイプ部材132a,132bの鉛直部分は機体中央側(フィードチェン6から遠い側)に位置している。また、前後両角パイプ部材132a,132bにおける水平部分の間にクリンプ網29が着脱可能に取り付けられている(図5参照)。なお、枠フレーム131における機体中央側の部位には、送塵口処理胴26における回転軸の前端部を回転可能に軸支する支持板134が固着されている(図13参照)。
前後両角パイプ部材132a,132bにおいて相対向する内面には、扱室130の前後を区画するための仕切り側板135a,135bがそれぞれ固着されている。扱胴23は前後仕切り側板135a,135b間に位置しており、各仕切り側板135a,135bに、扱胴23の回転軸46が回転可能に軸支されている。
搬送始端側に位置する前仕切り側板135aのうち扱胴23の回転軸46より下方の部位には、フィードチェン6に向けて開口する供給口136が形成されている一方、搬送終端側に位置する後ろ仕切り側板135bのうち扱胴23の回転軸46より下方の部位には、フィードチェン6に向けて開口する排出口137が形成されている。
この場合、フィードチェン6と挟持ガイド部材49とで挟持搬送される穀稈の穂先側は、前仕切り側板135aの供給口136から扱室130内に入り、扱胴23とクリンプ網29との間を通過して、後ろ仕切り側板135bの排出口137から排稈チェン44へ向けて送り出されることになる。
扱胴23の回転方向(矢印R方向)から見た側面視において、扱胴23の最後部外周に位置する扱歯(以下、最後尾扱歯47eという)と後ろ仕切り側板135bとの間には、この間の隙間G(図14参照)を狭めるか又は塞ぐ遮蔽手段としての遮蔽板140が配置されている。実施形態の遮蔽板140は扁平な金属板製のものであり、後ろ仕切り側板135bの内面のうち扱胴23の回転方向Rから見て排出口137より下流側(奥側)の部位に、最後尾扱歯47eに近接するようにしてボルト止め又は溶接にて固着されている。
従って、最後尾扱歯47eと後ろ仕切り側板135bとにより前後に区画された隙間Gは、遮蔽板140にてほとんど塞がれた状態になっている。但し、扱胴23と共に回転する最後尾扱歯47eと遮蔽板140とは近接するものの、直接接触することはない。実施形態では、扱胴23の回転方向(矢印R方向)から見た側面視において、最後尾扱歯47eと遮蔽板140との間に微小隙間gが空いている。
なお、図14に示すように、扱胴23の後端部には前向きに凹んだ凹み部91が形成されており、凹み部91内にはリング状の中間板部材92が固着されている。中間板部材92の開口縁部には、後ろ向きに突出する環状突起93が全周にわたって形成されている。一方、後ろ仕切り側板135bの内面には、凹み部91の内周壁と中間板部材92の環状突起93との間に隙間を隔てて嵌る皿状部材94が固着されている。
このように、扱胴23における回転軸46の後部外周を、中間板部材92の環状突起93及び皿状部材94にて囲うと共に、凹み部91と中間板部材92の環状突起93と皿状部材94とでラビリンス隙間を形成することにより、従来と同様に、回転軸46に対する脱穀後の穀稈(排稈)の巻き付きを防止している。
以上の構成によると、扱胴23の回転方向Rから見た側面視において、最後尾扱歯47eと後ろ仕切り側板135bとの間に、この間の隙間Gを狭める遮蔽板140が配置されており、最後尾扱歯47eと遮蔽板140との間には微小隙間gしか空いていないから、フィードチェン6と挟持ガイド部材49とで挟持搬送される穀稈の穂先側が後ろ仕切り側板135bの排出口137を通り抜けるに際して、穀稈の穂先側が最後尾扱歯47eと後ろ仕切り側板135bとの間の隙間Gに入り込むのを、遮蔽板140の存在にて効果的に抑制又は防止できる。このため、排出口137の開口縁部に対する穀稈の引っ掛かり、ひいては穀稈詰まりを低減できるか又はなくせるのである。
しかも、実施形態では、遮蔽板140の取り付け位置が、後ろ仕切り側板135bの内面のうち扱胴23の回転方向Rから見て排出口137より下流側(奥側)の部位になっているため、遮蔽板140自体の大きさは、穀稈の侵入防止機能を十分に発揮できるものでありながら、最後尾扱歯47eと後ろ仕切り側板135bとの間の隙間Gよりやや小さい小片程度のコンパクトなもので済むことになる。
ところで、本願発明の遮蔽手段は、例えば合成ゴムや天然ゴム、塩化ビニル樹脂その他の合成樹脂等のように、弾性を有する素材製のものであれば、扱胴23と共に回転する最後尾扱歯47eに接触する大きさに設定してもよい。この場合、最後尾扱歯47eと後ろ仕切り側板135bとの間の隙間Gを閉じ切ることになるが、接触による摩耗で最後尾扱歯47eや遮蔽手段の交換頻度は高くなると考えられる。
これに対して実施形態の遮蔽板140は、扱胴23と共に回転する最後尾扱歯47eに近接させた扁平な金属板製のものであるから、扱胴23の回転にて最後尾扱歯47eと遮蔽板140とが直接接触して摩耗することはなく、前述の接触形式のものに比べて、遮蔽板140の寿命は長くなる。このため、遮蔽板140の交換頻度が低くて済み、メンテナンスコストの低減に寄与できるのである。
なお、本願にて説明した各部の構成は図示の実施形態に限定されるものではなく、本願発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更が可能である。