本発明に係るフィルムの原料について説明する。
[原料]
本発明は、固体電解質としてプロトン供与基をもつポリマーを用いると良い。プロトン供与基をもつポリマーは、特に限定されないが、酸残基をもち、プロトン伝導材料として公知であるものを用いることができる。中でも好ましいポリマーは、酸残基をもつものであり、例えば、側鎖にスルホン酸を有する付加重合高分子化合物、側鎖リン酸基ポリ(メタ)アクリレート、ポリエーテルエーテルケトンをスルホン化したスルホ化ポリエーテルエーテルケトン、スルホ化ポリベンズイミダゾール、ポリスルホンをスルホン化したスルホ化ポリスルホン、耐熱性芳香族高分子化合物のスルホ化物などが挙げられる。側鎖にスルホン酸を有する付加重合高分子化合物としては、ナフィオン(登録商標)に代表されるパーフルオロスルホン酸や、スルホ化スチレン、スルホ化ポリアクリロニトリルスチレン、スルホ化ポリアクリロニトリルブタジエンスチレン等があり、耐熱性芳香族高分子のスルホ化物としてはスルホ化ポリイミド等がある。
パーフルオロスルホン酸の好ましい例としては、例えば特開平4−366137号公報、特開平6−231779号公報、特開平6−342665号公報に記載される物質が挙げられ、中でも、化1に示す物質が特に好ましい。ただし、化1において、mは100〜10000であり、200〜5000が好ましく、500〜2000がより好ましい。そして、nは0.5〜100であり、5〜13.5が特に好ましい。また、xはmに略同等であり、yはnと略同等である。
スルホ化スチレン、スルホ化ポリアクリロニトリルスチレン、スルホ化ポリアクリロニトリルブタジエンスチレンの好ましい例としては、特開平5−174856号公報、特開平6−111834号公報に記載される化合物や化2に示される物質が挙げられる。
耐熱性芳香族高分子のスルホン化物の例としては、例えば、特開平6−49302号公報、特開2004−10677号公報、特開2004−345997号公報、特開2005−15541号公報、特開2002−110174号公報、特開2003−100317号公報、特開2003−55457号公報、特開平9345818号公報、特開2003−257451号公報、特表2000−510511号公報、特開2002−105200号公報に記載される物質が挙げられ、中でも下記化3、4とに示される物質が特に好ましいものとして挙げられる。化3は、式(I)〜(II)で示される各構造単位からなる共重合体である。式(1)中のXはカチオン種を表す。
上記ポリマー重量のうち、スルホン酸基が占める割合は、フィルムの吸湿膨張率とプロトン伝導度に寄与する。ポリマー重量のうち、スルホン酸基が占める割合が小さくなると、プロトン伝導路、いわゆるプロトンチャンネルを十分に形成することができないことがある。そのため、得られるフィルムは実用に十分なプロトン伝導性を発現しないことがある。一方、ポリマー重量のうち、スルホン酸基が占める割合が大きくなると、フィルムの水分吸収性が高くなってしまうため、吸水による膨張率、つまり吸水膨張率が大きくなり、フィルムが劣化しやすくなる。
上記化合物を得る過程におけるスルホン化反応は、公知文献の各種合成法に従って行うことができる。スルホン化剤としては、硫酸(濃硫酸)、発煙硫酸、ガス状あるいは液状物の三硫化硫黄、三硫化硫黄錯体、アミド硫酸、クロロスルホン酸等を用いることができる。溶媒としては、炭化水素(ベンゼン、トルエン、ニトロベンゼン、クロロベンゼン、ジオキセタン等)、ハロゲン化アルキル(塩化メチレン、クロロホルム、ジクロロエタン、四塩化炭素等)等を用いることができる。反応温度は、−20℃〜200℃の範囲でスルホン化剤の活性に応じて決定するとよい。
また、別の方法として、モノマーにメルカプト基、ジスルフィド基、スルフィン酸基を予め導入しておいて、酸化剤による酸化反応によってスルホン化物を合成することもできる。このときには、酸化剤として、過酸化水素、硝酸、臭素水、次亜塩素酸塩、次亜臭素酸塩、過マンガン酸カリウム、クロム酸等を用いることができ、溶媒としては、水、酢酸、プロピオン酸等を用いることができる。この方法における反応温度は、室温(例えば、25℃)〜200℃の範囲で酸化剤の活性に応じて決定するとよい。
また、さらに別の方法として、モノマーにハロゲノアルキル基を予め導入しておいて、亜硫酸塩、亜硫酸水素塩等による置換反応をしてスルホン化物を合成してもよい。このときには溶媒として、水、アルコール類、アミド類、スルホキシド類、スルホン類等を用いることができる。反応温度は、室温(例えば、25℃)〜200℃の範囲で決定するとよい。なお、以上のスルホン化反応における溶媒は、2種以上の物質を混合した混合物であってもよい。
また、スルホン化物への反応工程では、アルキルスルホン化剤を用いてもよく、一般的な方法としてはスルトンとAlCl3 を用いたフリーデルクラフツ反応がある(Journal of Applied Polymer Science,Vol.36,1753−1767,1988)。フリーデルクラフツ反応を行うためにアルキルスルホン化剤を用いた場合は、溶媒として炭化水素(ベンゼン、トルエン、ニトロベンゼン、アセトフェノン、クロロベンゼン、トリクロロベンゼン等)、ハロゲン化アルキル(塩化メチレン、クロロホルム、ジクロロエタン、四塩化炭素、トリクロロエタン、ジクロロエタン、テトラクロロエタン等)等を用いることができる。反応温度は、室温から200℃の範囲で決定するとよい。なお、反応における溶媒は、2種以上の物質を混合した混合物であってもよい。
化3のXが水素原子以外のカチオン種であるポリマー(以降、前駆体と称する)を含む湿潤フィルムをプロトン置換してXをHとすることにより、化3の構造を有するポリマーからなる固体電解質フィルムを製造することができる。
カチオン種とは、電離したときにカチオンを生成する原子または原子団を意味する。このカチオン種は1価である必要はない。水素原子以外のカチオンとしては、アルカリ金属カチオン、アルカリ土類金属カチオン、アンモニウムカチオンが好ましく、カルシウムイオン、バリウムイオン、四級アンモニウムイオン、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオンがより好ましい。なお、化3におけるXをHとせずにカチオン種のままとしてフィルムを製造してもそのフィルムは固体電解質としての機能をもつ。しかし、そのプロトン伝導性は、Xのカチオン種のうちHに置換された割合が多いほど高くなる。その意味では、XはHであることが特に好ましい。
固体電解質としては、以下の諸性能をもつものが好ましい。イオン伝導度は、例えば25℃、相対湿度70%において、0.005S/cm以上であることが好ましく、0.01S/cm以上であるものがより好ましい。さらに、50%メタノール水溶液に18℃で一日浸漬した後のイオン伝導度が0.003S/cm以上であることが好ましく、0.008S/cm以上であるものがより好ましく、特に、浸漬前に対する浸漬後のイオン伝導度の低下率が20%以内であるものが好ましい。そして、メタノール拡散係数が4×10−7cm2 /秒以下であることが好ましく、2×10−7cm2 /秒以下であるものが特に好ましい。
強度については、弾性率が10MPa以上であるものが好ましく、20MPa以上であるものが特に好ましい。なお、弾性率の測定方法については、特開2005−104148号公報の段落[0138]に詳細に記されており、弾性率の上記値は、東洋ボールドウィン社製の引っ張り試験機による値である。したがって、他の試験方法や試験機を用いて弾性率を求める場合には、上記試験方法や試験機による値との相関性を予め求めておくとよい。
耐久性については、50%メタノール中に一定温度で浸漬する経時試験の前後で、重量、イオン交換容量、メタノール拡散係数の各変化率が、それぞれ20%以下であるものが好ましく、15%以下であるものが特に好ましい。さらに過酸化水素中における経時試験の前後でも、同様に重量、イオン交換容量、メタノール拡散係数の各変化率が20%以下であるものが好ましく、10%以下であるものが特に好ましい。また50%メタノール中、一定温度での体積膨潤率が10%以下であるものことが好ましく、5%以下であるものが特に好ましい。
さらに、安定した吸水率および含水率をもつものが好ましい。また、アルコール類、水、アルコールと水との混合溶媒に対し、溶解度が実質的に無視できる程に小さいものであることが好ましい。また上記液に浸漬した時の重量減少、形態変化についても実質的に無視できる程小さいものであることが好ましい。
固体電解質フィルムのイオン伝導性能は、イオン伝導度とメタノール透過係数との比であるいわゆる指数により表される。そして、ある方向における指数が大きいほど、その方向におけるイオン伝導性能が高いといえる。また、固体電解質フィルムの厚み方向においては、イオン伝導度は厚みに比例し、メタノール透過係数は厚みに反比例するので、厚みを変えることにより固体電解質フィルムのイオン伝導性能を制御することができる。燃料電池に用いる固体電解質フィルムでは、一方の面側にアノード電極、他方の面側にカソード電極が設けられることになるので、固体電解質フィルムの厚み方向における指数が他の方向における指数よりも大きいことが好ましい。固体電解質フィルムの厚みは10〜300μmが好ましい。例えば、イオン伝導度とメタノール拡散係数とが共に高い固体電解質の場合には、厚みが50〜200μmとなるようにフィルムを製造することが特に好ましく、イオン伝導度とメタノール拡散係数とが共に低い固体電解質の場合には、厚みが20〜100μmとなるようにフィルムをする製造することが特に好ましい。
耐熱温度については、200℃以上であるものが好ましく、250℃以上のものがさらに好ましく、300℃以上のものが特に好ましい。ここでの耐熱温度は、1℃/分の測度で加熱していったときの重量減少5%に達した温度を意味する。なお、この重量減少は、水分等の蒸発分を除いて計算される。
さらに、固体電解質をフィルムとしてこれを燃料電池に用いる場合には、その最大出力密度が10mW/cm2 以上の固体電解質であることが好ましい。
以上の固体電解質を用いることにより、フィルムの製造に好適な溶液を製造することができるとともに、燃料電池として好適な固体電解質フィルムを製造することができる。フィルムの製造に好適な溶液とは、例えば、粘度が比較的低く、濾過により異物を予め除去しやすい溶液である。なお、以下の説明では、得られる溶液をドープと称する。
ドープに使用する有機溶媒(単に、溶媒と称する場合もある)としては、固体電解質としてのポリマーを溶解させることができる有機化合物であればよい。例としては、芳香族炭化水素(例えば、ベンゼン、トルエンなど)、ハロゲン化炭化水素(例えば、ジクロロメタン、クロロベンゼンなど)、アルコール(例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、n−ブタノール、ジエチレングリコールなど)、ケトン(例えば、アセトン、メチルエチルケトンなど)、エステル(例えば、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピルなど)、エーテル(例えば、テトラヒドロフラン、メチルセロソルブなど)、及び窒素を含有する化合物(N−メチルピロリドン(NMP)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N′−ジメチルアセトアミド(DMAc)、ジメチルスルホキシド(DMSO)などが挙げられる。
ドープの溶媒は、複数の物質を混合した混合物であってもよい。溶媒を混合物とする場合には、固体電解質の良溶媒と貧溶媒との混合物とすることが好ましい。使用した溶剤がその固体電解質の貧溶媒であるか良溶媒であるかは、固体電解質が全重量の5重量%となるように溶剤と固体電解質とを混合した液中に、不溶解物が存在しているか否かにより判断することができる。貧溶媒及び良溶媒の基準は前述したので省略する。貧溶媒を良溶媒に混合するとフィルム製造工程における溶媒除去の効率及び効果を高めることができ、特に、流延膜の乾燥効率について大きく向上させることができる。
良溶媒と貧溶媒との混合物においては、貧溶媒の重量比率が大きいほど好ましく、具体的には10%以上100%未満であること好ましい。より好ましくは、(良溶媒の重量):(貧溶媒の重量)が、90:10〜10:90であることが好ましい。これにより、全溶媒の重量における低沸点成分の割合が大きくなるので、固体電解質フィルムの製造工程における乾燥効率及び乾燥効果をより向上させることができる。
良溶媒成分としてはDMF、DMAc、DMSO、NMPが好ましく、中でも、安全性や沸点が比較的低いという点からDMSOが特に好ましい。貧溶媒成分としては、炭素数が1以上5以下であるいわゆる低級アルコール、酢酸メチル、アセトンが好ましく、中でも炭素数が1以上3以下の低級アルコールがより好ましく、良溶媒としてDMSOを用いた場合にはこれとの相溶性が最も優れる点からメチルアルコールが特に好ましい。
固体電解質をフィルムとしたときの各種フィルム特性を向上させるためには、添加剤をドープに加えることができる。添加剤としては、酸化防止剤、繊維、微粒子、吸水剤、可塑剤、相溶剤等が挙げられる。これら添加剤の添加率は、ドープ中の固形分全体を100重量%としたときに1重量%以上30重量%以下の範囲とすることが好ましい。ただし、添加率及び物質の種類は、イオン伝導性に悪影響を与えないものとする。以下に添加剤について具体的に説明する。
酸化防止剤としては、(ヒンダード)フェノール系、一価または二価のイオウ系、三価のリン系、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、ヒンダードアミン系、シアノアクリレート系、サリチレート系、オキザリックアシッドアニリド系の各化合物が好ましい例として挙げられる。具体的には特開平8−53614号公報、特開平10−101873号公報、特開平11−114430号公報、特開2003−151346号の各公報に記載の化合物が挙げられる。
繊維としては、パーフルオロカーボン繊維、セルロース繊維、ガラス繊維、ポリエチレン繊維等が好ましい例として挙げられ、具体的には特開平10−312815号公報、特開2000−231938号公報、特開2001−307545号公報、特開2003−317748号公報、特開2004−63430号公報、特開2004−107461号の各公報に記載の繊維が挙げられる。
微粒子としては、酸化チタン、酸化ジルコニウム等が好ましい例として挙げられ、具体的には特開2003−178777号、特開2004−217931号の各公報に記載の各種微粒子が挙げられる。
吸水剤、つまり親水性物質としては、架橋ポリアクリル酸塩、デンプン−アクリル酸塩、ポバール、ポリアクリロニトリル、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリグリコールジアルキルエーテル、ポリグリコールジアルキルエステル、合成ゼオライト、チタニアゲル、ジルコニアゲル、イットリアゲルが好ましい例として挙げられ、具体的には特開平7−135003号、特開平8−20716号、特開平9351857号の各公報に記載の吸水剤が挙げられる。
可塑剤としては、リン酸エステル系化合物、塩素化パラフィン、アルキルナフタレン系化合物、スルホンアルキルアミド系化合物、オリゴエーテル類、芳香族ニトリル類が好ましい例として挙げられ、具体的には特開2003−288916号、特開2003−317539号の各公報に記載の可塑剤が挙げられる。
相溶剤としては、沸点または昇華点が250℃以上の物が好ましく、300℃以上のものがさらに好ましい。
ドープにはさらに、(1)フィルムの機械的強度を高める目的、(2)膜中の酸濃度を高める目的で、種々のポリマーを含有させてもよい。
上記の目的のうち(1)には、分子量が10000〜1000000程度であり、固体電解質と相溶性のよいポリマーが適する。例えば、パーフッ素化ポリマー、ポリスチレン、ポリエチレングリコール、ポリオキセタン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、およびこれらのうち2以上のポリマーの繰り返し単位を含むポリマーが好ましい。また、フィルムとしたときの全重量に対し1重量%〜30重量%の範囲となるようにこれらの物質をドープに含有させることが好ましい。なお、相溶剤を用いることにより固体電解質との相溶性を向上させてもよい。相溶剤としては、沸点または昇華点が250℃以上であるものが好ましく、300℃以上のものがさらに好ましい。
上記目的のうち(2)には、プロトン酸部位を有するポリマー等が好ましい。このようなポリマーとしては、ナフィオン(登録商標)等のパーフルオロスルホン酸ポリマー、側鎖にリン酸基を有するスルホン化ポリエーテルエーテルケトン、スルホン化ポリエーテルスルホン、スルホン化ポリスルホン、スルホン化ポリベンズイミダゾールなどの耐熱芳香族高分子化合物のスルホン化物等を例示することができる。また、フィルムとしたときの全重量に対し1重量%〜30重量%の範囲となるようにこれらの物質をドープに含有させることが好ましい。
さらに、得られる固体電解質フィルムを燃料電池に用いる場合には、アノード燃料とカソード燃料の酸化還元反応を促進させる活性金属触媒をドープに添加してもよい。これにより、固体電解質フィルムの中に一方の極から浸透した燃料が他方の極に到達することなく固体電解質中で消費されるので、クロスオーバー現象を防止することができる。活性金属触媒は、電極触媒として機能するものであれば特に限定されないが、白金または白金を基にした合金が特に適している。
次に、本発明の固体電解質フィルムの製造方法について説明する。ただし、以下に示す形態は、本発明に係わる一例であり、本発明を限定するものではない。
図1に示すように、本発明に係る固体電解質フィルムのフィルム製造工程10は、流延膜形成工程12と、剥取工程15と、溶媒置換工程17と、第1伸縮乾燥工程18と、酸処理工程19と、温水処理工程20と、第2伸縮乾燥工程23とを有する。
流延膜形成工程12では、ドープを支持体上に流延して流延膜24を形成させる。ドープとは、固体電解質であるポリマーと溶剤とを含む混合物である。本発明では、ドープ中にてポリマーが溶剤に対し完全に溶解している必要はなく、溶剤中にポリマーが分散している状態でも良いが、溶剤に対するポリマーの溶解度は高いものほど好ましい。流延膜24の厚みは、支持体上における単位面積あたりの流延量とドープの濃度とにより調整される。流延中、ドープを途切れさせることなく安定して流延するためには、ドープの全量に対する固体電解質の濃度が5重量%以上50重量%以下であることが好ましい。より好ましくは10重量%以上40重量%以下である。なお、ドープには用途に応じて添加剤を含ませても良い。
剥取工程15では、支持体から流延膜24を剥ぎ取り湿潤フィルム25とする。支持体から剥ぎ取る際の流延膜24の残留溶剤量は、固形分基準で200重量%〜950重量%であることが好ましい。本発明では、湿潤フィルム25や固体電解質フィルム26中に残留する溶剤量を乾量基準で示したものを残留溶剤量とする。つまり、この残留溶剤量は、測定方法は、採取したサンプルの重量をxとし、サンプルを乾燥した後の重量をyとするとき、{(x−y)/y}×100で算出される。
溶媒置換工程17では、湿潤フィルム25をドープの溶剤とは異なる液体に接触させて溶剤と溶媒とを置換する。以下の説明では、この溶媒置換工程17で湿潤フィルム25に接触させた液体を置換液と称する。置換液は、流延膜24に含まれる溶剤よりも沸点が低く、かつ固体電解質に対して溶解性がない或いは極めて低いものとする。溶媒を溶剤に置換することにより、湿潤フィルム25のゲル化を進行させることができると共に、その後の工程において短時間かつ比較的低温で乾燥を促進させることができる。なお、湿潤フィルム25を溶媒に接触させる方法は特に限定されず、例えば、湿潤フィルム25の表面に置換液を吹き付ける方法も同様の効果を得ることができる。
第1伸縮乾燥工程18では、湿潤フィルム25に所望の向き及び大きさの張力を付与しつつ、湿潤フィルム25の乾燥を促進させる。本工程の詳細は後で説明する。
酸処理工程19では、酸を含む溶液に乾燥後の湿潤フィルム25を接触させる。酸は、電離したときのアニオンの式量が40以上1000以下の化合物とすることが好ましい。上記の化合物として具体的には、硫酸、リン酸、硝酸、有機スルホン酸が挙げられる。中でも、硫酸を使用することが好ましい。また、上記の置換効率を向上させるために、酸を含む溶液の温度は30℃以上120℃以下とすることが好ましい。このような酸に湿潤フィルム25を接触させれば、ポリマー中のカチオン種を水素原子に置換させてプロトン置換効率の高い湿潤フィルム25を得ることができる。ここで、酸を含む溶液の温度が高温であるほど短時間でプロトン置換率の高い湿潤フィルム25が得られるので好ましい。
ポリマー中のカチオン種の総数をxとし、カチオン種を置換した水素原子の総数をyとして(y/x)×100で表される値をプロトン置換率と称する。プロトン置換率はカチオン種全量に対して80%以上とすることが好ましい。より好ましくは、90%以上とすることである。ここで、湿潤フィルム25に酸を含む溶液を接触させる方法は特に限定されないが、湿潤フィルム25に対して出来る限り均一に接触させることが好ましい。本実施形態では、酸を含む溶液に湿潤フィルム25を浸漬させるようにしたので、その全面に対して溶液を均一に接触させることができる。接触方法以外に、例えば、湿潤フィルム25の表面に所望の溶液を塗布する方法や、表面に溶液を吹き付ける方法も好適に用いられる。
温水処理工程20では、酸処理工程19を経た湿潤フィルム25を温水に接触させる。これにより湿潤フィルム25に付着する酸を洗浄することができる。温水の代替として水を使用しても良いが、洗浄効果は劣る。湿潤フィルム25は温水に接触させる方法は、必ずしも浸漬させる必要はなく、温水を均一に接触させる方法であれば特に限定されない。例えば、湿潤フィルム25に対して温水を塗布する方法、温水を吹き付ける方法等が挙げられる。これらの方法は、湿潤フィルム25を連続的に搬送しながら実施することができるので好ましい。
温水を吹き付ける方法の具体的例としては、エクトルージョンあるいは、ファウンテンコーター、フロッグマウスコーター等の塗布ヘッドを用いる方法、空気の加湿や塗装、タンクの自動洗浄などに利用されるスプレーノズルを用いる方法が挙げられる。これらの塗布方式に関しては、「コーティングのすべて」(荒木正義編集、(株)加工技術研究会(1999年))にまとめられており、この記載も本発明に適用することができる。また、スプレーノズルについては、(株)いけうち、スプレーイングシステムズ社の円錐状、扇状などのスプレーノズルを透明樹脂フィルムの幅方向に配列して、全幅に水流が衝突する様に設置することができる。
温水の吹き付け速度は大きいほど、高い洗浄効果を得ることができるが、吹き付け対象とするフィルムを連続的に搬送しながら洗浄処理を行なう場合には、搬送安定性が損なわれるおそれがある。そのため、温水の吹き付け速度は、50〜1000cm/秒であることが好ましく、好ましくは100〜700cm/秒であり、より好ましくは100〜500cm/秒である。
洗浄に使用する温水の量は、少なくとも下記に定義される理論希釈率を上回る量を用いることが好ましい。この理論希釈倍率とは、洗浄に供する液の塗布量[ml/m2 ]÷酸を含む溶液の接触量[ml/m2 ]で算出される値であり、すなわち、洗浄に使用される液の全てが接触させた酸を含む溶液の希釈混合に寄与したという仮定の理論希釈率を定義する。実際には、完全混合は起こらないので、理論希釈率を上回る洗浄液量を使用することとなる。用いた酸を含む溶液の酸濃度や副次添加物、溶媒の種類にもよるが、少なくとも100〜1000倍、好ましくは500〜1万倍、さらに好ましくは1000〜十万倍の希釈が得られる洗浄液を使用する。
洗浄方法としてある決まった液の量を用いる場合には、一度に全量適用するよりも数回に分割して洗浄することが好ましい。この場合、一つの洗浄手段と次の洗浄手段との間に、時間や距離を調整することにより適当な間を設けるようにすると、液を拡散させて酸を含む溶液を希釈させることができるので好ましい。更には、搬送される湿潤フィルムに傾斜を設けるなどして、湿潤フィルム上の液がフィルム面に沿って流れる様にすれば、拡散に加えて、流動による混合希釈効果が得られるので好ましい。最も好ましい方法としては、洗浄手段と洗浄手段の間に液切り手段を設けて湿潤フィルム上の液切りを行なうことである。この方法は、酸を含む溶液の希釈効率を高めることもできる。なお、具体的な液切り手段としては、ブレード、エアナイフ、或いはロール等が挙げられる。洗浄手段の数は、多いほうが洗浄効果を高める上で好ましいが、設置スペース並びに設備コストの観点より、通常は2〜10段、好ましくは2〜5段が使用される。
上記の液切り手段の中では、最も液切り効果を得ることができるためにエアナイフを用いることが好ましい。エアナイフを用いる場合、固体電解質フィルムに対して送り出すエアの風量と風圧とを調整することにより、表面に残存する液量をゼロに近づけることが出来る。ただし、エアの風量が大きすぎると、ばたつきや寄り等が生じて湿潤フィルムの搬送安定性に影響を及ぼすことがある。そのため、エアの風量は10〜500m/秒であることが好ましく、好ましくは20〜300m/秒であり、より好ましくは30〜200m/秒である。なお、上記のエアの風量は、特に限定されるものではなく、湿潤フィルム上に元々あった液量や、湿潤フィルムの搬送速度等により決定すれば良い。
また、均一に液分の除去を行うためには、湿潤フィルムの幅方向の風速分布を、通常は10%以内、好ましくは5%以内になる様、エアナイフの吹出し口やエアナイフへの給気方法を調整する。搬送する湿潤フィルム表面とエアナイフ吹出し口との間隙が狭い方ほど液切り能は増すが、湿潤フィルムと接触して傷付ける可能性が高くなるため、適当な範囲がある。通常は、10μm〜10cm、好ましくは100μm〜5cm、さらに好ましくは500μm〜1cmの間隙をもって、エアナイフを設置する。さらに、エアナイフと対向する様に、固体電解質フィルムの洗浄面と反対側とにバックアップロールを設置することで間隙の設定が安定するとともに、フィルムのバタツキやシワ、変形などの影響を緩和することができるために好ましい。
洗浄を行う際には、純水を用いることが好ましい。本発明に用いられる純水とは、比電気抵抗が少なくとも1MΩ以上であり、特にナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウムなどの金属イオンは1ppm未満、クロル、硝酸などのアニオンは0.1ppm未満を指す。純水は、逆浸透膜、イオン交換樹脂、蒸留などの単体、あるいは組み合わせによって、容易に得ることができる。中でも、溶存酸素がほとんどなく理論上H2 Oに近い超純水であることが好ましい。また、酸をフィルムから除去する高い効果を得るために、使用する水の温度は30℃以上120℃以下とすることが好ましい。ただし、水の温度は、略室温から水が沸騰するまでの温度範囲であれば特に限定されるものではない。
上記のように酸処理と洗浄処理とを行なうと、流延膜を形成する時点でその中に含まれていた無機塩等の不純物を除去する効果も得られる。そのため、得られるフィルムは不純物による劣化等が抑制される。酸処理及び洗浄をした後のフィルムに含まれる金属含有量は1000ppm以下であることが好ましく、より好ましくは100ppm以下である。対象となる金属は、例えば、Na、K、Ca、Fe、Ni、Cr、Zn等が挙げられる。これらの金属の含有量は、例えば、市販の原子吸光光度計により容易に測定され、把握することができる。
第2伸縮乾燥工程23では、温水処理工程20を経た湿潤フィルム25に対して所望の向き及び大きさの張力を付与すると共に、乾燥手段により湿潤フィルム25の乾燥を十分に促進させて固体電解質フィルム26とする。なお、以下の説明では、固体電解質フィルムを単にフィルムと称する。
次に、本発明の特徴である伸縮乾燥工程について詳細に説明する。以下の説明では、伸縮乾燥工程で使用される伸縮乾燥機の一例を具体的に示すが、ここに示す形態はあくまで本発明の一例であり、本発明を限定するものではない。
図2に示すように、本実施形態で使用する伸縮乾燥機28は、1対の無端チェーン80、80bと、このチェーン80a、80bに所定のピッチで取り付けられる複数の固定部材81と、チェーン80a、80bの走行を案内するレール82とを有する。また、伸縮乾燥機28の入口80a及び出口80b付近には、チェーン80a、80bが巻き掛けられるチェーンスプロケット83が設けられている。更に、伸縮乾燥機28の内部には、湿潤フィルム25を乾燥するための乾燥手段として作用する送風装置(図示しない)が備えられている。
固定部材81は、湿潤フィルム25の両側端部を固定するためのものである。レール82は、その対面同士の間隔が入口40aから出口40bまでの間で異なるように配置されている。チェーンスプロケット83のうち入口80a側の2機に回転駆動する駆動部(図示しない)を接続させる。
伸縮乾燥機28では、搬送する湿潤フィルム25に対して送風装置から空気を供給させることにより湿潤フィルム25の乾燥を促進させる。乾燥風の温度は100℃以下とされることが好ましい。このように水の沸点以下の温度に調整された乾燥風を供給すると、溶媒を多量に含む湿潤フィルム25の内部から溶剤が急激に蒸発することがないので、熱ダメージを与えることなく収縮を抑制して乾燥を促進させることができる。
伸縮乾燥機28で湿潤フィルム25を延伸させる場合、湿潤フィルム25に対して付与される張力の向き及び大きさは、予め、湿潤フィルム25の両面に密着される電極部材を吸水させたときに生じる寸法変化の割合、すなわち寸法変化率に応じて決定される。寸法変化率は、吸水させる前の電極部材の面積をA1、吸水させた後の電極部材の面積をA2とするとき、(A2/A1)×100で求められる。上記の面積は、電極部材と固体電解質フィルムとが密着される面のものである。上記の吸水に係る条件は、特に限定されず、実際に電極部材が使用される温度範囲内で、湿度を一定にした状態で、電極部材を一定時間放置すれば良い。
上記の張力の向きは、吸水により電極部材の寸法が変化した向きと直行とされる。張力の向きは、電極部材とフィルム26とを密着させたときを基準にする。例えば、予め、所定の吸水条件下に放置した電極部材が、フィルム26の搬送方向となる向きに膨潤した場合、湿潤フィルム25に対しては幅方向に張力が付与される。これにより、電極部材とフィルム26とは湿度変動による寸法の変化が互いに同じ向きに生じるので、密着している両者は剥離することがない。なお、湿潤フィルム25に対して1軸或いは2軸方向に張力を付与する方法は特に限定されるものではなく、公知の方法を用いることができる。2軸延伸を行なう場合には、所望とする2方向を同時に延伸させる方法、または1軸延伸後に、最初の延伸方向とは異なる方向に延伸させる方法がある。
付与される張力の大きさは、電極部材とフィルム26との寸法変化の大きさが略同等となるように決定される。フィルム26の寸法変化に対応する張力の大きさを決定する方法としては、予め、ラボスケールで湿潤フィルム25に対して任意の張力を付与し、フィルム26の寸法変化率を測定する作業を、張力を変更しながら繰返し行なう。ここで得られる測定値により求められる両者の相関図により容易に決定することができる。
したがって、図2に示すレール82の間隔は、上記に従い任意に調整されている。本実施形態では、一定に保持されている搬入部(A)と、搬送方向に従い次第に間隔が拡がるように調整されている延伸部(B)と、間隔が一定に保持されている搬出部(C)とにより構成される。レール82の間隔は、湿潤フィルム25の幅方向に対して付与させる張力の大きさに応じて決定される。チェーンスプロケット83の動きに応じたチェーン80a、80bの走行に伴い固定部材81が移動される。レール82の間隔に従い搬送されることで、湿潤フィルム25にはその間隔に応じた所定の張力が幅方向に付与される。これにより、湿潤フィルム25を幅方向に対して自在に延伸又は緩和させることができる。
湿潤フィルム25を搬送方向に延伸又は収縮させたい場合には、チェーン80aの間隔を変更することで容易に実施可能である。図3に示すように、チェーン80aの一部を切り欠いて拡大してみると、チェーン80aは一定のピッチP1で配置された複数の鎖86で構成されたものが好適に用いられる。この鎖86の大きさを変更したり、モータで伸縮自在に間隔が制御される機能を備えたものを利用してP1を自在に変更することにより、湿潤フィルム25の搬送方向に対して所望の大きさの張力が付与される。なお、チェーン80a、80bは対称であり同形のため、ここでは代表してチェーン80aを示している。
本発明の伸縮乾燥機で使用される固定部材は、湿潤フィルム25を固定し搬送する形態であれば良く特に限定されるものではない。固定部材としては、例えば、図4に示すようなクリップ95が好適に用いられる。クリップ95は、本体95aと、湿潤フィルム25を把持するための把持片95bと、チェーン80aへの取り付けを可能とする固定冶具95cとから構成される。クリップ95の形態は特に限定されるものではなく、湿潤フィルム25の両側端部を挟持することができれば良い。クリップ95を備える伸縮乾燥機としては、例えば、クリップ型テンタが挙げられる。把持片95bは上下自在になっており、テンタにおける所定の位置で湿潤フィルム25の両側端部が挟持される。これにより、湿潤フィルム25の両側端部はしっかりと固定される。クリップ95は、乾燥が促進されて自己支持性を有する湿潤フィルム25を固定する際に有効である。
また、図5に示すように、複数のピン96も固定部材として好適である。このピン96は、図示しないチェーンに取り付けられたピンプレート97上に設置されており、チェーンの走行に応じて移動する仕組みになっている。湿潤フィルム25の両側端部に複数のピン96が突き刺されることで湿潤フィルム25は固定される。このようなピン96は、溶媒を多量に含むような軟質の湿潤フィルム25を固定する際に有効である。
次に、本発明に係わるフィルム製造工程を利用して、実際にフィルムを製造する流れについて説明する。なお、ここに示す形態は、あくまで本発明に係わる一例であり、本発明を限定するものではない。
図6に示すように、本実施形態で用いるフィルム製造設備30は、流延室32と、溶媒タンク35と、第1伸縮乾燥機37と、第1タンク38と、第2タンク39と、第2伸縮乾燥機40と、巻取室42とを備える。また、このフィルム製造設備30は配管を介してドープ製造設備44と接続されており、適宜適量のドープがフィルム製造設備30に送り込まれる。
流延室32は、その内部に1対のローラ45a、45bに巻き掛けられた流延バンド43と、流延ダイ46と減圧チャンバ47と、送風装置48a、49bと、加熱装置53と、コンデンサ51とを備える。また、その外部には、温度コントローラ50を有する。
ローラ45a、45bのうち少なくとも1機を駆動回転させて、支持体である流延バンド43を連続的に走行させる。流延バンド43の素材は特に限定されるものではなく、例えば、ステンレス等の無機材料であっても良いし、有機材料からなるプラスチックフィルムでも良い。プラスチックフィルムとしては、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、ポリブチレンテレフタレート(PBT)フィルム、ナイロン6フィルム、ナイロン6,6フィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリイミドフィルム等の不織布のプラスチックフィルムが挙げられる。使用する溶剤、製膜温度に対応できるような化学的安定性と耐熱性とをもつ長尺物であることが好ましい。流延バンド43の幅は特に限定されず、ドープの流延幅の1.1倍〜2.0倍の範囲のものが好適に用いられる。流延バンド43の長さは20m〜200mであり、厚みは0.5mm〜2.5mmであり、表面粗さは0.05μm以下となるように研磨されていることが好ましい。
回転ローラ45a、45bの内部には、伝熱媒体流路(図示しない)が形成されている。この流路の中に温度を調整した伝熱媒体を注入し、これを循環又は通過させることで回転ローラ45a、45bの表面温度が所望の範囲に制御され、更に、流延バンド43の表面温度が調整される。ただし、流延バンド43の表面温度は特に限定されず、溶媒の種類、固形成分の種類、ドープの濃度等に応じて適宜設定すれば良い。
回転ローラ45a、45bの相対位置及び少なくともいずれか一方の回転速度を制御して、流延バンド43に生じる張力を103 N/m×106 N/mとする。流延バンド43と回転ローラ45a、45bとの相対速度差は、0.01m/分以下とする。流延バンド43の速度変動は0.5%以下とし、流延バンド43が一周する際に生じる幅方向における蛇行は1.5mm以下とすることが好ましい。この蛇行を抑制するためには、流延バンド43の両端の位置を検出する検出器(図示しない)と、この検出器による検出データに応じて流延バンド43の位置を調整する位置調整機(図示しない)とを設けて、流延バンド43の位置をフィードバック制御することがより好ましい。なお、後述する流延ダイ46の直下における流延バンド43は、回転ローラ45a、45bの回転に伴う上下方向の位置変動が200μm以内とすることが好ましい。
本発明では、回転ローラ45a、45b及び流延バンド43に代わる支持体として回転ドラム(図示しない)を用いることもできる。この場合、回転ドラムは回転速度ムラが0.2%以下となるように高精度で回転できるものが好ましい。回転ドラムは、表面の平均粗さが0.01μm以下であることが好ましく、表面がハードクロムめっき処理等を施されているものが好ましい。これにより、十分な硬度と耐久性とを向上させることができる。なお、回転ドラム、流延バンド43、回転ローラ45a、45bは表面欠陥が最小限に抑制されていることが好ましい。具体的には、30μm以上のピンホールが無く、10μm以上30μm未満のピンホールは1個/m2 以下であり、10μm未満のピンホールは2個/m2 以下であることが好ましい。
流延ダイ46は、ドープ製造設備44から送り込まれるドープの流延口を有する。流延ダイ46の種類及び材質等は特に限定されず、例えば、その材質は析出硬化型のステンレス鋼が好ましく、その熱膨張率は2×10−5(℃−1)以下であることが好ましい。また、電解質水溶液での強制腐食試験でSUS316と略同等の耐腐食性を有し、さらに、ジクロロメタン、メタノール、水の混合液に3ヵ月浸漬しても気液界面にピッティング(孔開き)が生じないような耐腐食性を有するものが好ましい。流延ダイ46は、鋳造後1ヶ月以上経過した素材を研削加工することにより作製されることが好ましい。これにより、流延ダイ46の内部をドープが一様に流れるのでスジ等が少ない流延膜24が形成される。
ドープと接する可能性のある流延ダイ46の面は、その仕上げ精度が表面粗さで1μm以下、真直度がいずれの方向にも1μm/m以下であることが好ましい。流延ダイの流延口のクリアランスは、自動調整により0.5mm〜3.5mmの範囲で調整可能とされるものを用いることが好ましい。また、流延ダイ46のリップ先端の接液部の角部分について、その面取り半径Rは流延ダイ46の全幅にわたり一定であり、かつ50μm以下とされることが好ましい。流延ダイ46はコートハンガー型が好ましい。
流延ダイ46の幅は特に限定されず、最終製品となるフィルム26の幅の1.1倍〜2.0倍程度であることが好ましい。また、製膜の際のドープの温度が所定温度に保持されるように、流延ダイ46の温度を制御する温度コントローラが流延ダイ46に取り付けられることが好ましい。さらに、流延ダイ46には、幅方向に所定の間隔で複数備えられた厚み調整ボルト(ヒートボルト)と、このヒートボルトによりスリットの隙間を調整する自動厚み調整機構が備えられることがより好ましい。ヒートボルトは予め設定されるプログラムによりポンプ(高精度ギアポンプが好ましい)の送液量に応じてプロファイルを設定し製膜を行うことが好ましい。ドープの送り量を精緻に制御するために、ポンプは高精度ギアポンプであることが好ましい。
また、フィルム製造設備30には、例えば赤外線厚み計のような厚み測定機を設け、厚みプロファイルに基づく調整プログラムと厚み測定機による検知結果とにより、自動厚み調整機構へのフィードバック制御を行ってもよい。製品としてのフィルム26の両側端を除く任意の2つの位置での厚み差が1μm以内となるように、先端リップのスリット間隔を±50μm以下に調整することができる流延ダイ46を用いることが好ましい。
流延ダイ46のリップ先端には硬化膜が形成されていることがより好ましい。硬化膜の形成方法は、特に限定されるものではないが、セラミックスコーティング、ハードクロムめっき、窒化処理方法などが挙げられる。硬化膜としてセラミックスを用いる場合には、研削することができ気孔率が低く脆くなく耐腐食性が良く、かつドープとの親和性や密着性がないものが好ましい。具体的には、タングステン・カーバイド(WC)、Al2 O3 、TiN、Cr2 O3 などが挙げられるが、中でも特に好ましくはWCである。WCコーティングは、溶射法で行うことができる。
ドープが流延ダイ46のリップ先端で局所的に乾燥固化することを防止するために、リップ先端に溶媒を供給するための溶媒供給装置(図示しない)をリップ先端近傍に取り付けることが好ましい。溶媒が供給される位置は、流延ビードの両端部とリップ先端の両端部と外気とにより形成される三相接触線の周辺部が好ましい。供給される溶媒の流量は、片側それぞれに対し0.1mL/分〜1.0mL/分とすることが好ましい。これにより、異物、例えばドープから析出した固形成分や外部から流延ビードに混入したものが流延膜24中に混合してしまうことを防止することができる。なお、溶媒を供給するポンプとしては、脈動率が5%以下のものを用いることが好ましい。
減圧チャンバ46は、吐出されるドープの流延バンド43側に設置され、流延口付近を減圧させるためのものである。減圧チャンバ47には、その内部温度を所定の範囲に保持することができる機能を有するものが好ましい。また、その設置箇所は、流延ダイ46の近傍とされる。
送風装置48a、48bのうち、流延ダイ46に最も近い送風装置48aの流延ダイ46側には遮風板49が備えられている。遮風板49は各送風装置から供給される乾燥風が直接的に流延膜24に当たるのを防止するためのものである。その材質、設置箇所等は特に限定されないが、ドープの流延部に近い側に遮風板49を設けるより優れた遮風効果を得ることができるので好ましい。
温度コントローラ50は、流延室32の内部温度を所定の値に保つためのものである。流延膜24を形成させる間、温度コントローラ50によりその内部温度は−10℃〜57℃の範囲で略一定とされることが好ましい。コンデンサ51は、揮発した有機溶媒を凝縮回収するためのものである。なお、コンデンサ51は、凝縮液化した有機溶媒を回収するための回収装置が備えられているものが好ましい。
加熱装置53は、流延膜24の近傍を加熱して乾燥をより促進させるものである。そのため、流延バンド43の下流側であり流延膜24の反流延バンド側であり、流延バンド43の表面近傍に設置される。加熱装置53は特に限定されるものではなく、例えば、赤外線照射、減圧乾燥、遠赤外線、マイクロ波等を利用した装置が好適に使用される。また、流延室32の下流には、流延バンド43から流延膜24を剥ぎ取る際に、それを支持するための剥取ローラ55が設置されている。
溶媒タンク35は、その内部に溶液35aを貯留している。本実施形態では、溶液35aとして水を使用する。ただし、上記の水の他にも溶液35aとしては、例えば、有機溶媒と水との混合物が挙げられる。この有機溶媒は、膜内の溶媒抽出速度を制御するためにドープ調製用の溶媒を用いることが好ましい。溶液35aに浸漬させる時間は特に限定されず、適宜選択した値を用いれば良い。時間を決定する方法としては、例えば、あらかじめ、溶液35aに浸漬させた後の湿潤フィルム25中に含まれる残留溶剤量を測定しゲル化を判断する方法が挙げられる。また、溶媒タンク35の下流側には、湿潤フィルム25の表面に付着している溶液35aを除去するためのエアシャワ(図示しない)が設置されている。
第1伸縮乾燥機37は、湿潤フィルム25の両側端部を固定するための固定部材として、複数のクリップ95(図3参照)を備えるピン型テンタである。なお、下流に配置される第2伸縮乾燥機40も同じものを使用する。
第1伸縮乾燥機37の下流には、耳切装置60が設置されている。耳切装置60は、湿潤フィルム25の両側端部を切除するためのものである。なお、耳切装置60には、カッターブロワ(図示しない)により送り込まれた湿潤フィルム25の切断片を粉砕してチップとするクラッシャ61が接続されている。
第1タンク38には、酸を含む溶液である第1液38aが貯留される。本実施形態の第1液38aは、0.5モル/Lの硫酸が含まれる液であり、約30℃に加熱保温される。また、第2タンク39には、第2液39aが貯留される。本実施形態では、第2液39aとして30℃に調整した温水である。
第2伸縮乾燥機40の下流には、耳切装置66が設置されている。耳切装置66は、フィルム26の両側端部を切除するためのものである。また、巻取室42は、巻取りローラ68を備える。巻取ローラ68は、フィルム26を巻き取るためのものである。フィルム26を巻き取る際には、過度な巻き締めを防止するために、巻取り時の張力は巻取開始時から終了時まで徐々に変化させることがより好ましい。また、巻き取られるフィルム26の幅は100mm以上であることが好ましい。ただし、本発明は、フィルム26の厚みが5μm以上300μm以下の薄いフィルムを製造する際にも本発明は適用される。なお、最終形態はロールにする必要はなく、用途に応じてシート状に裁断する等、特に限定はされない。
次に、本発明の作用について説明する。ドープ製造設備41で調製された適量のドープが適宜流延ダイ46に送り込まれた後、流延口から流延バンド43に向かって吐出される。減圧チャンバ47により流延ダイ46から流延バンド43にかけて形成されるリボン状のドープ、すなわち流延ビードの流延バンド43側が減圧される。減圧チャンバ47による減圧は、流延ビードの上流側が下流側よりも−2500Pa〜−10Paとすることが好ましい。流延ビード周辺の風の流れが低減される。また、流延ビードが流延バンド43に引き付けられるので安定した形状の流延ビードが形成される。これにより、表面に凹凸等のない平面性に優れる流延膜24を形成することができる。流延ビードの形状を所望のものに保つために、流延ダイ46のエッジ部に吸引装置(図示しない)を取り付けてビードの両側を吸引することが好ましい。このエッジ吸引風量は、1L/分〜100L/分の範囲であることが好ましい。
流延膜24に向かって送風装置48a、48bから乾燥風を供給すると共に、加熱装置53により流延膜24の表面近傍を所定の温度範囲で加熱する。送風装置48aに設けられた遮風板49により流延膜24の表面へ直接的に乾燥風が当たることが抑制され、流延膜24の表面に凹凸等が発生することによる面状の乱れが防止される。流延膜24は流延バンド43の走行に伴い流延室32の内部を搬送される間に、その内部から溶剤が蒸発して乾燥が促進される。
自己支持性を持つまで乾燥が促進された流延膜24を剥取ローラ55で支持しながら流延バンド43から剥ぎ取り湿潤フィルム25とする。この湿潤フィルム25を溶媒タンク35に送り溶液35aに浸漬させることで、溶剤と溶媒とを置換させ、乾燥時間の短縮かつ低温化を図る。
第1伸縮乾燥機37に送られた湿潤フィルム25は搬送される間に所望の向きに張力が付与される。このとき、付与される張力の大きさ及び向きは、湿潤フィルム25から得られるフィルム26を燃料電池とする場合、フィルム26の両面に貼り合わせられる電極部材の寸法変化率に応じ、同一の吸水条件下における互いの寸法変化率の差が小さくなるように決定されるので、湿度変動による界面での剥離が抑制される。また、温度が調整された乾燥風が供給されて湿潤フィルム25の乾燥が促進される。
耳切装置60により湿潤フィルム25の両側端部が切断される。切断片はクラッシャ61に送られチップとされる。このチップは、ドープ製造用のポリマー原料として再利用することができる。湿潤フィルム25の両側端部を切断する工程は省略することもできるが、湿潤フィルム25として支持体から剥ぎ取った後、フィルム26を巻き取るまでのいずれかで行うことが好ましい。
第1タンク38に送られた湿潤フィルム25は第1液38aに浸漬され、酸処理が施される。この酸処理した湿潤フィルム25は第2タンク39に送られる。第2液39aである温水に浸漬されることにより湿潤フィルム25のカチオン種と水素原子との置換に使用されることなく残留している酸を含む溶液が除去される。
第2伸縮乾燥機40に送られた湿潤フィルム25は搬送される間に所望の向きに張力が付与される。このとき、付与される張力の大きさ及び向きは、第1伸縮乾燥機37と同様にして決定される。これにより、フィルム26を電解質として燃料電池に使用する際、その両面に密着される電極部材の湿度変動による寸法変化率との差が小さくなる。また、湿潤フィルム25に対して温度が調整された乾燥風を供給することにより、乾燥を十分に促進させてフィルム26が得られる。
フィルム26は巻取室42に送られて、巻取り時の張力が調整されながら巻取りローラ68で巻き取られる。これにより、ロール状のフィルム26が得られる。過度な巻き締めを防止するために、巻取り時の張力は巻取開始時から終了時まで徐々に変化させることがより好ましい。また、巻き取られるフィルム26の幅は100mm以上であることが好ましい。ただし、本発明は、フィルム26の厚みが5μm以上300μm以下の薄いフィルムを製造する際にも本発明は適用される。なお、最終形態はロールにする必要はなく、用途に応じてシート状に裁断する等、特に限定はされない。
伸縮乾燥工程は、フィルムが完成するまでの間のいずれかの工程で行なわれれば、本発明の効果を得ることができる。本実施形態のように、溶媒置換させることにより十分に含水させた後の湿潤フィルム25を伸縮乾燥工程に供すると、効率良くかつ効果的に延伸させることができるので好ましい。また、湿潤フィルム25からフィルム26とする乾燥時に伸縮乾燥させることで、寸法変化が制御された状態を高く保持したままで製品とすることができるので好ましい。
また、伸縮乾燥工程に供する湿潤フィルム25は、そのガラス転位温度をTg(℃)とするとき、(Tg−50)≦Tg≦(Tg+20)の範囲内に加熱させた湿潤フィルム25を供することが好ましい。ガラス転移温度とは、湿潤フィルム25のような高分子物質を加熱した場合に、ガラス状の硬い状態から軟らかい状態に変わるガラス転移が生じる温度である。Tgの測定には、JIS C 6481に定義されているようなガラス転移温度の測定方法として公知の方法(例えば、TMA法、DSC法等)を使用すれば良い。これにより、湿潤フィルム25を軟化させることができるので、湿潤フィルム25に対する延伸の効果を向上させることができる。ここで、(Tg−50)℃未満では低温すぎて湿潤フィルム25を軟化させることができない。一方で、(Tg+20)℃を超えると、温度が高過ぎるので湿潤フィルム25が熱ダメージを受けるおそれがある。上記のTgは、含水させた状態における湿潤フィルム25のみかけのTgである。
溶液製膜方法では、乾燥工程や側端部の切除除去工程などの様々な工程が行われている。これらの各工程内、あるいは各工程間では、フィルムは主にローラにより支持または搬送されている。これらのローラには、駆動ローラと非駆動ローラとがあり、非駆動ローラは、主に、フィルムの搬送路を決定するとともに搬送安定性を向上させるために使用される。
本発明では、図7に示すような、固定部材100として枠103を備える伸縮乾燥機も好適に用いることができる。枠103は、湿潤フィルム25の四方を固定するためのものである。枠103により湿潤フィルム25を挟み、その四方を固定させれば、乾燥した空気を送り込む場合にも、湿潤フィルム25の内部から溶剤が蒸発しても、収縮させずに乾燥することができる。このような乾燥方法は、フィルムの幅方向及び搬送方向のいずれの方向にも寸法の変化がないフィルム26を製造する場合に非常に有効である。枠103の大きさは特に限定されず、対象となる湿潤フィルム25にあわせて適宜選択すれば良い。また、枠103を使用する場合には、該伸縮乾燥機の前に裁断機を配置して湿潤フィルム25を所望の大きさに裁断すれば良い。例えば、図2に示すフィルム製造設備30の第1伸縮乾燥機37として使用する場合には、溶媒タンク35の下流に上記の裁断機を設ける。なお、枠103による固定から湿潤フィルム25を解放するタイミングは特に限定されず、例えば、伸縮乾燥を行なった後、枠103による固定を保持したまま後に続く工程を行なうことによりフィルム26とした時点で、固定を解放しても良い。
本実施形態では、1種類のドープを流延する場合を示したが、本発明では、2種類以上のドープを同時に共流延して複層の流延膜を形成しても良いし、逐次に共流延させて複層の流延膜を形成させても良い。なお、2種類以上のドープを同時に共流延する場合には、フィードブロックを取り付けた流延ダイを用いても良いし、マルチマニホールド型流延ダイを用いても良い。ただし、共流延により多層からなるフィルムは、表面に露出する2層のうちいずれか一層が、フィルム全体の厚みの0.5%〜30%であることが好ましい。また、同時に共流延をする場合には、流延ダイの流延口から支持体にドープを流延する際に、高粘度ドープが低粘度ドープにより包み込まれて流延されるように各ドープの濃度を予め調整しておくことが好ましく、流延口から支持体にかけて形成されるビードのうち、外界と接する、つまり露出するドープが内部のドープよりも貧溶媒の比率が大きい処方とされることが好ましい。
なお、固体電解質の前駆体からなるポリマーをフィルム化する上記方法に代えて、細孔が複数形成されているいわゆる多孔質基材の細孔に固体電解質を保持させて、固体電解質が細孔に入ったフィルムを製造しても、上記実施形態とは異なる固体電解質フィルムを製造することができる。このような固体電解質フィルムの製造方法としては、固体電解質が含まれるゾル−ゲル反応液を多孔質基材上に塗布して細孔に固体電解質を入れる方法、多孔質基材を固体電解質が含まれるゾル−ゲル反応液に浸漬し、細孔内に固体電解質を満たす方法等がある。多孔質基材の好ましい例としては、多孔性ポリプロピレン、多孔性ポリテトラフルオロエチレン、多孔性架橋型耐熱性ポリエチレン、多孔性ポリイミドなどが挙げられる。また、固体電解質を繊維状に加工し、繊維中の空隙を他の高分子化合物等で満たし、その繊維を用いてフィルム状とすることにより固体電解質フィルムを形成することもできる。この場合には、空隙を満たすための他の高分子化合物の例としては、本明細書における添加剤として挙げた物質を挙げることができる。
〔燃料電池〕
以下に、代表してフィルム26を電極膜複合体(Membrane and Electrode Assembly,以下、MEAと称する)に使用する例と、この電極膜複合体を燃料電池に用いる例とを説明する。ただし、ここに示すMEA及び燃料電池の様態は本発明の一例であり、本発明はこれに限定されない。図8に示すうように、MEAの概略を示す断面図を見れば、MEA131は、フィルム26と、このフィルム26を挟んで対向するアノード電極132及びカソード電極133とを備える。
アノード電極132は多孔質導電シート132aとフィルム26に接する触媒層132bとを有し、カソード電極133は多孔質導電シート133aとフィルム26に接する触媒層133bとを有する。多孔質導電シート132a、133aとしては、カーボンペーパー等がある。触媒層132b、133bは、白金粒子等の触媒金属を担持したカーボン粒子をプロトン伝導材料に分散させた分散物からなる。カーボン粒子としては、例えばケッチェンブラック、アセチレンブラック、カーボンナノチューブ等があり、プロトン伝導材料としては、例えばナフィオン(登録商標)等がある。
MEA131の作り方としては、各種方法を適用することができる。
(1)プロトン伝導材料塗布法:活性金属担持カーボン、プロトン伝導材料、溶媒を含む触媒ペースト(インク)をフィルム26の両面に直接塗布し、多孔質導電シート132a、133aを塗布層に熱圧着して5層構成のMEA131を作製する。
(2)多孔質導電シート塗布法:触媒層132b、133bの材料を含んだ液、例えば触媒ペーストを、多孔質導電シート132a、133aの表面に塗布し、触媒層132b、133bを形成させた後、フィルム26と圧着し、5層構成のMEA131を作製する。
(3)Decal法:触媒ペーストをPTFE上に塗布し、触媒層132b、133bを形成させた後、フィルム26に触媒層132b、133bのみをうつし、3層構造を形成し、これに多孔質導電シート132a、133aを圧着し、5層構成のMEA131を作製する。
(4)触媒後担持法:白金未担持カーボン材料をプロトン伝導材料とともに混合したインクをフィルム26、多孔質導電シート132a、133aあるいはPTFE上に塗布・製膜した後、白金イオンを含む液にフィルム26を含浸させ、白金粒子をフィルム中で還元析出させて触媒層132b、133bを形成させる。触媒層132b、133bを形成させた後は、上記(1)〜(3)の方法にてMEA131を作製する。
(5)その他:触媒層12b、13bの材料を含んだ塗布液を予めつくり、この塗布液を支持体に塗布して乾燥する。触媒層132b、133bが形成された支持体を、触媒層132b、133bがフィルム26に接するようにフィルム26の両面にそれぞれ重ねて圧着する。そして、支持体を剥がしてから、触媒層132b、133bが両面に形成されたフィルム26を多孔質導電シート132a、133aで挟み込む方法を適用することにより、触媒層132b、133bをフィルム26に密着させてMEA131を作製する。
ただし、本発明では、フィルム製造工程後に触媒層132b、133bを連続して形成させたフィルムを製造することができるので、MEAの作り方として公知の上記の方法においける触媒層の形成工程を行う必要がない。したがって、固体電解質フィルムの製造から触媒層形成までを連続して行うことができる。そのため、製造時間の短縮および連続大量生産化を実現することができるなどの効果を得ることができる。
図9に示すように、燃料電池の概略を示す断面図を見れば、燃料電池141は、MEA131と、MEA131を挟持する一対のセパレータ142、143と、これらのセパレータ142、143に取り付けられたステンレスネットからなる集電体146と、パッキン147とを有する。アノード極側のセパレータ142にはアノード極側開口部151が設けられ、カソード極側のセパレータ143にはカソード極側開口152が設けられている。アノード極側開口部151からは、水素、アルコール類(メタノール等)等のガス燃料またはアルコール水溶液等の液体燃料が供給され、カソード極側開口部152からは、酸素ガス、空気等の酸化剤ガスが供給される。
アノード電極132およびカソード電極133には、カーボン材料に白金などの活性金属粒子が担持された触媒が用いられる。通常用いられる活性金属の粒子サイズは、2〜10nmの範囲である。ただし、粒子サイズが小さいほど単位重量当りの表面積が大きくなるので活性が高まり有利であるが小さすぎると凝集させることなく分散させることが難しくなるために、2nm程度が小ささの限度といわれている。
水素−酸素系燃料電池における活性分極はアノード極、つまり水素極に比べ、カソード極、つまり空気極の方が大きい。これは、カソード極の反応、つまり酸素の還元反応の速度がアノード極に比べて遅いためである。酸素極の活性向上を目的として、Pt−Cr、Pt−Ni、Pt−Co、Pt−Cu、Pt−Feなどのさまざまな白金基二元金属を用いることができる。アノード燃料にメタノール水溶液を用いる直接メタノール燃料電池においては、メタノールの酸化過程で生じるCOによる触媒被毒を抑制するために、Pt−Ru、Pt−Fe、Pt−Ni、Pt−Co、Pt−Moなどの白金基二元金属、Pt−Ru−Mo、Pt−Ru−W、Pt−Ru−Co、Pt−Ru−Fe、Pt−Ru−Ni、Pt−Ru−Cu、Pt−Ru−Sn、Pt−Ru−Auなどの白金基三元金属を用いることができる。活性金属を担持させるカーボン材料としては、アセチレンブラック、Vulcan XC−72、ケチェンブラック、カーボンナノホーン(CNH)、カーボンナノチューブ(CNT)が好ましく用いられる。
触媒層132b、133bは、(1)燃料を活性金属に輸送すること、(2)燃料の酸化(アノード極)、還元(カソード極)反応の場を提供すること、(3)酸化還元により生じた電子を集電体146に伝達すること、(4)反応により生じたプロトンを固体電解質、つまりフィルム26に輸送すること、という機能をもつ。(1)のために触媒層132b、133bは、液体および気体燃料が奥まで透過できる多孔質性とされる。(2)についてはカーボン材料に担持される活性金属触媒が担い、(3)は同じくカーボン材料が担う。そして、(4)の機能を果たすために、触媒層132b、133bにプロトン伝導材料を混在させる。触媒層のプロトン伝導材料としては、プロトン供与基を持った固体であれば制限はないが、フィルム26に用いられるような酸残基を有する高分子化合物、例えばナフィオン(登録商標)に代表されるパーフルオロスルホン酸、側鎖リン酸基ポリ(メタ)アクリレート、スルホン化ポリエーテルエーテルケトン、スルホン化ポリベンズイミダゾールなどの耐熱性芳香族高分子のスルホン化物等が好ましく用いられる。フィルム26の材料とされる固体電解質を触媒層132b、133bに用いると、触媒層132b、133bとフィルム26とが同種の材料となるため、固体電解質と触媒層との電気化学的密着性が高まり、イオン伝導の点でより有利である。活性金属の使用量を0.03mg/cm2 〜10mg/cm2 の範囲とすることが、電池出力と経済性との観点から適する。活性金属を担持するカーボン材料の量は、活性金属の重量に対して1倍〜10倍であることが好ましい。プロトン伝導材料の量は、活性金属担持カーボンの重量に対して、0.1倍〜0.7倍が好ましい。
触媒層132b、133bは、電極基材、透過層、あるいは裏打ち材とも呼ばれ、集電機能および水がたまりガスの透過が悪化するのを防ぐ役割を担う。通常は、カーボンペーパーやカーボン布を使用し、撥水化のためにポリテトラフルオロエチレン(PTFE)処理を施したものを使用することもできる。
MEAは電池に組み込み、燃料を充填した状態での交流インピーダンス法による面積抵抗値が3Ωcm2 以下のものが好ましく、1Ωcm2 以下のものがさらに好ましく、0.5Ωcm2 以下のものが最も好ましい。面積抵抗値は実測の抵抗値とサンプルの面積の積から得られる。
燃料電池の燃料として用いることのできるものを説明する。アノード燃料としては、水素、アルコール類(メタノール、イソプロパノール、エチレングリコールなど)、エーテル類(ジメチルエーテル、ジメトキシメタン、トリメトキシメタンなど)、ギ酸、水素化ホウ素錯体、アスコルビン酸などが挙げられる。カソード燃料としては、酸素(大気中の酸素も含む)、過酸化水素などが挙げられる。
直接メタノール型燃料電池では、アノード燃料として、メタノール濃度が3重量%〜64重量%のメタノール水溶液が使用される。アノード反応式(CH3 OH+H2 O→CO2 +6H+ +6e− )により、1モルのメタノールに対し、1モルの水が必要であり、この時のメタノール濃度は64重量%に相当する。メタノール濃度が高い程、同エネルギー容量での燃料タンクを含めた電池の重量および体積が小さくできる利点がある。しかしながら、メタノール濃度が高い程、メタノールが固体電解質を透過しカソード側で酸素と反応し電圧を低下させる、いわゆるクロスオーバー現象が顕著となり、出力が低下する傾向にある。そこで、用いる固体電解質のメタノール透過性により、最適濃度が決められる。直接メタノール型燃料電池のカソード反応式は、(3/2)O2 +6H+ +6e− →H2 Oであり、燃料として酸素(通常は空気中の酸素)が用いられる。
上記アノード燃料およびカソード燃料を、それぞれの触媒層132b、133bに供給する方法としては、(1)ポンプ等の補助機器を用いて強制的に送りこむ方法(アクティブ型)と、(2)補助機器を用いない方法、例えば、燃料が液体である場合には毛管現象や自然落下により、気体である場合には大気に触媒層をさらして供給するパッシブ型との2通りの方法があり、また、(1)と(2)とを組み合わせることも可能である。(1)は、カソード側で生成する水を抜き出すことにより、燃料として高濃度のメタノールを使用することができ、空気供給による高出力化ができる等の利点がある反面、燃料供給系を備える事により小型化がし難い欠点がある。(2)は、小型化が可能な利点がある反面、燃料供給が律速となり易く高い出力が出にくい欠点がある。
燃料電池の単セル電圧は一般的に1V以下であるので、負荷の必要電圧に合わせて、単セルを直列スタッキングして用いる。スタッキングの方法としては、単セルを平面上に並べる「平面スタッキング」および、単セルを、両側に燃料流路が形成されたセパレータを介して積み重ねる「バイポーラースタッキング」が用いられる。前者は、カソード極(空気極)が表面に出るため、空気を取り入れ易く、薄型にできることから小型燃料電池に適している。この他にも、MEMS技術を応用し、シリコンウェハー上に微細加工を施し、スタッキングする方法も提案されている。
燃料電池は、自動車用、家庭用、携帯機器用など様々な利用が考えられているが、特に、直接メタノール型燃料電池は、小型、軽量化が可能であり充電が不要である利点を活かし、様々な携帯機器やポータブル機器用エネルギー源としての利用が期待されている。例えば、好ましく適用できる携帯機器としては、携帯電話、モバイルノートパソコン、電子スチルカメラ、PDA、ビデオカメラ、携帯ゲーム機、モバイルサーバー、ウエラブルパソコン、モバイルディスプレイなどが挙げられる。好ましく適用できるポータブル機器としては、ポータブル発電機、野外照明機器、懐中電灯、電動(アシスト)自転車などが挙げられる。また、産業用や家庭用などのロボットあるいはその他の玩具の電源としても好ましく用いることができる。さらには、これらの機器に搭載された2次電池の充電用電源としても有用である。
本発明の効果をより詳細に説明するため、本発明について行なった実施例及び比較例について説明する。なお、以下では、製造条件等の詳細を実施例1で説明するものとし、その他の実施例2〜4及び比較例1、2では、実施例1と異なる条件のみを説明する。