以下に、本発明の実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明はここに挙げる実施形態に限定されるものではない。まず、本発明に係る固体電解質フイルムについて説明し、その後、その固体電解質フイルムの製造方法について説明する。
〔原料〕
(第1のポリマー)
後述の製造方法に供するドープのポリマー成分として、カチオン種や水素原子を有する化合物を用いる。中でもカチオン種を有するポリマー、特に、後述する化3の一般式(I)〜(II)に示される各構造単位からなる共重合体において、Xが水素原子以外のカチオン種であるポリマー(以下、第1のポリマーと称する)は、Xが水素原子に置換されることを前提とすると固体電解質のいわゆる前駆体といえる。この前駆体を含むフイルム(以下、前駆体フイルムと称する)にプロトン置換を施すことにより、前駆体フイルム内の前駆体から固体電解質が生成する。こうして、プロトン置換により、前駆体フイルムから固体電解質を有するフイルム(以下、固体電解質フイルムと称する)を製造することができる。
なお、本明細書におけるプロトン置換とは、ポリマー中の水素原子以外のカチオン種を、水素原子に置換することである。また、カチオン種とは、電離したときにカチオンを生成する原子または原子団を意味する。このカチオン種は1価である必要はない。また、本明細書では、特に断らない限り、カチオンは、プロトンを除く陽イオンを指し、カチオン種は、水素原子を除く、カチオンとなり得る原子のことを指す。
例えば、前駆体フイルムを製造する場合には、第1のポリマーを含むドープをつくり、このドープを支持体上に流延し、支持体上に形成された流延膜を剥ぎ取ることにより、前駆体フイルムを製造することができる。そして、この前駆体フイルムをプロトン置換し、前駆体フイルムに含まれる化3に示す物質のXをHに置換することにより、固体電解質フイルムを製造することができる。
化3に示す物質において好ましいカチオンとしては、アルカリ金属カチオン、アルカリ土類金属カチオン、アンモニウムカチオンが好ましく、カルシウムイオン、バリウムイオン、四級アンモニウムイオン、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオンがより好ましい。なお、化3に示す化合物おけるXをH(水素原子)に置換せずにカチオン種のままフイルムを製造しても、このフイルムはプロトン伝導性をもち、固体電解質フイルムとしての機能をもつ。従って、本発明において、後述する第2のポリマーのみならず、第1のポリマーをフイルム化して燃料電池等に用いることができる。しかし、プロトン伝導度は、Hに置換されたXの割合(以下、プロトン置換率と称する)が高いほど高くなる傾向にあるので、この観点では、XはHであることが特に好ましい。すなわち、前駆体フイルムから固体電解質フイルムを生成するプロトン置換において、プロトン置換率が高いことが好ましい。なお、本発明では、化3に示す一般式においてXがHであるポリマーを溶媒に溶かしてドープとして流延を実施してもよく、この場合にはプロトン置換をしなくてよい。
(第2のポリマー)
後述の製造方法に供するドープのポリマー成分として、上述した第1のポリマーに代えて、または加えて、固体電解質であるポリマー(以下、第2のポリマーと称する)を用いることもできる。この第2のポリマーは、プロトン供与基をもつ。プロトン供与基をもつポリマーとしては、特に限定されないが、酸残基をもち、プロトン伝導材料として公知であるものを用いることができる。中でも好ましいポリマーは、酸残基をもつものであり、例えば、側鎖にスルホン酸を有する付加重合高分子化合物、側鎖リン酸基ポリ(メタ)アクリレート、ポリエーテルエーテルケトンをスルホン化したスルホ化ポリエーテルエーテルケトン、スルホ化ポリベンズイミダゾール、ポリスルホンをスルホン化したスルホ化ポリスルホン、耐熱性芳香族高分子化合物のスルホ化物などが挙げられる。側鎖にスルホン酸を有する付加重合高分子化合物としては、ナフィオン(登録商標)に代表されるパーフルオロスルホン酸や、スルホ化ポリスチレン、スルホ化ポリアクリロニトリルスチレン、スルホ化ポリアクリロニトリルブタジエンスチレンなどがあり、耐熱性芳香族高分子のスルホ化物としてはスルホ化ポリイミド等がある。
パーフルオロスルホン酸の好ましい例としては、例えば特開平4−366137号公報、特開平6−231779号公報、特開平6−342665号公報に記載される物質が挙げられ、中でも、化1に示す物質が特に好ましい。ただし、化1において、mは100〜10000であり、200〜5000が好ましく、500〜2000がより好ましい。そして、nは0.5〜100であり、5〜13.5が特に好ましい。また、xはmに略同等であり、yはnと略同等である。
スルホ化ポリスチレン、スルホ化ポリアクリロニトリルスチレン、スルホ化ポリアクリロニトリルブタジエンスチレンの好ましい例としては、特開平5−174856号公報、特開平6−111834号公報に記載される化合物や化2に示される物質が挙げられる。
耐熱性芳香族高分子のスルホン化物の例としては、例えば、特開平6−49302号公報、特開2004−10677号公報、特開2004−345997号公報、特開2005−15541号公報、特開2002−110174号公報、特開2003−100317号公報、特開2003−55457号公報、特開平9−245818号公報、特開2003−257451号公報、特表2000−510511号公報、特開2002−105200号公報に記載される物質が挙げられ、中でも、プロトン置換により前記第1のポリマーから生成する化3の化合物や、以下の化4に示される物質が特に好ましいものとして挙げられる。化3は、式(I)〜(II)で示される各構造単位からなる共重合体である。式(I)中のXはカチオン種を表す。
上記各化合物を得る過程におけるスルホン化反応は、公知文献の各種合成法に従って行うことができる。スルホン化剤としては、硫酸(濃硫酸)、発煙硫酸、ガス状あるいは液状物の三酸化硫黄、三酸化硫黄錯体、アミド硫酸、クロロスルホン酸等を用いることができる。溶媒としては、炭化水素(ベンゼン、トルエン、ニトロベンゼン、クロロベンゼン、ジオキセタン等)、ハロゲン化アルキル(塩化メチレン、クロロホルム、ジクロロエタン、四塩化炭素等)等を用いることができる。反応温度は、−20℃〜200℃の範囲でスルホン化剤の活性に応じて決定するとよい。また、別の方法として、モノマーにメルカプト基、ジスルフィド基、スルフィン酸基を予め導入しておいて、酸化剤による酸化反応によってスルホン化物を合成することもできる。このときには、酸化剤として、過酸化水素、硝酸、臭素水、次亜塩素酸塩、次亜臭素酸塩、過マンガン酸カリウム、クロム酸等を用いることができ、溶媒としては、水、酢酸、プロピオン酸等を用いることができる。この方法における反応温度は、室温(例えば、25℃)〜200℃の範囲で酸化剤の活性に応じて決定するとよい。また、さらに別の方法として、モノマーにハロゲノアルキル基を予め導入しておいて、亜硫酸塩、亜硫酸水素塩等による置換反応をしてスルホン化物を合成してもよい。このときには溶媒として、水、アルコール類、アミド類、スルホキシド類、スルホン類等を用いることができる。反応温度は、室温(例えば、25℃)〜200℃の範囲で決定するとよい。なお、以上のスルホン化反応における溶媒は、2種以上の物質を混合した混合物であってもよい。
また、スルホン化物への反応工程では、アルキルスルホン化剤を用いてもよく、一般的な方法としてはスルホンとAlCl3 を用いたフリーデルクラフツ反応がある(Journal of Applied Polymer Science,Vol.36,1753−1767,1988)。フリーデルクラフツ反応を行うためにアルキルスルホン化剤を用いた場合は、溶媒として炭化水素(ベンゼン、トルエン、ニトロベンゼン、アセトフェノン、クロロベンゼン、トリクロロベンゼン等)、ハロゲン化アルキル(塩化メチレン、クロロホルム、ジクロロエタン、四塩化炭素、トリクロロエタン、テトラクロロエタン等、)等を用いることができる。反応温度は、室温から200℃の範囲で決定するとよい。なお、反応における溶媒は、2種以上の物質を混合した混合物であってもよい。
上記第1及び第2のポリマーについて、ポリマーの全重量のうち、スルホン酸基が占める割合は、フィルムの吸湿膨張率とプロトン伝導度に寄与する。ポリマー重量のうち、スルホン酸基が占める割合が小さくなると、プロトン伝導路、いわゆるプロトンチャンネルを十分に形成することができないことがある。そのため、得られるフィルムは実用に十分なプロトン伝導性を発現しないことがある。一方、ポリマー重量のうち、スルホン酸基が占める割合が大きくなると、フィルムの水分吸収性が高くなってしまうため、含水による膨張率、つまり寸法変化率が大きくなり、フィルムが劣化しやすくなる。
固体電解質としては、以下の諸性能をもつものが好ましい。イオン伝導度は、例えば25℃、相対湿度70%において、0.005S/cm以上であることが好ましく、0.01S/cm以上であるものがより好ましい。さらに、64重量%メタノール水溶液に18℃で一日浸漬した後のイオン伝導度が0.003S/cm以上であることが好ましく、0.008S/cm以上であるものがより好ましく、特に、浸漬前に対する浸漬後のイオン伝導度の低下率が20%以内であるものが好ましい。そして、メタノール拡散係数が4×10−7cm2 /s以下であることが好ましく、2×10−7cm2 /s以下であるものが特に好ましい。
強度については、弾性率が10MPa以上であるものが好ましく、20MPa以上であるものが特に好ましい。なお、弾性率の測定方法については、特開2005−104148号公報の段落[0138]に詳細に記されており、弾性率の上記値は、東洋ボールドウィン社製の引っ張り試験機による値である。したがって、他の試験方法や試験機を用いて弾性率を求める場合には、上記試験方法や試験機による値との相関性を予め求めておくとよい。
耐久性については、64重量%メタノール水溶液中に一定温度で浸漬する経時試験の前後で、重量、イオン交換容量、メタノール拡散係数の各変化率が、それぞれ20%以下であるものが好ましく、15%以下であるものが特に好ましい。さらに過酸化水素中における経時試験の前後でも、同様に重量、イオン交換容量、メタノール拡散係数の各変化率が20%以下であるものが好ましく、10%以下であるものが特に好ましい。また、64重量%メタノール水溶液中、一定温度での体積膨潤率が10%以下であるものことが好ましく、5%以下であるものが特に好ましい。
さらに、安定した吸水率および含水率をもつものが好ましい。また、アルコール類、水、アルコールと水との混合溶媒に対し、溶解度が実質的に無視できる程に小さいものであることが好ましい。また上記液に浸漬した時の重量減少、形態変化についても実質的に無視できる程小さいものであることが好ましい。
固体電解質フイルムのイオン伝導性能は、イオン伝導度とメタノール透過係数との比であるいわゆる指数により表される。そして、ある方向における指数が大きいほど、その方向におけるイオン伝導性能が高いといえる。また、固体電解質フイルムの厚み方向においては、イオン伝導度は厚みに比例し、メタノール透過係数は厚みに反比例するので、厚みを変えることにより固体電解質フイルムのイオン伝導性能を制御することができる。燃料電池に用いる固体電解質フイルムでは、一方の面側にアノード電極、他方の面側にカソード電極が設けられることになるので、固体電解質フイルムの厚み方向における指数が他の方向における指数よりも大きいことが好ましい。固体電解質フイルムの厚みは10〜300μmが好ましい。例えば、イオン伝導度とメタノール拡散係数とが共に高い固体電解質の場合には、厚みが50〜200μmとなるように固体電解質フイルムを製造することが特に好ましく、イオン伝導度とメタノール拡散係数とが共に低い固体電解質の場合には、厚みが20〜100μmとなるように固体電解質フイルムをする製造することが特に好ましい。
耐熱温度については、200℃以上であるものが好ましく、250℃以上のものがさらに好ましく、300℃以上のものが特に好ましい。ここでの耐熱温度は、1℃/分の加熱速度で加熱し、重量減少が5%に達したときの温度を意味する。なお、この重量減少は、水分等の蒸発分を除いて計算される。
さらに、固体電解質フイルムを燃料電池に用いる場合には、その最大出力密度が10mW/cm2以上である固体電解質であることが好ましい。
以上の前駆体である第1ポリマーや固体電解質である第2のポリマーを用いることにより、固体電解質フイルムの製造に好適なドープを製造することができる。
ドープの溶媒としては、前述した第1のポリマーまたは、第2のポリマーを溶解させることができる有機化合物であればよい。例としては、芳香族炭化水素(例えば、ベンゼン,トルエンなど)、ハロゲン化炭化水素(例えば、ジクロロメタン,クロロベンゼンなど)、アルコール(例えば、メタノール,エタノール,n−プロパノール,n−ブタノール,ジエチレングリコールなど)、ケトン(例えば、アセトン,メチルエチルケトンなど)、エステル(例えば、酢酸メチル,酢酸エチル,酢酸プロピルなど)、エーテル(例えば、テトラヒドロフラン,メチルセロソルブなど)、及び窒素を含有する化合物(N−メチルピロリドン(NMP)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N’−ジメチルアセトアミド(DMAc)など)、ジメチルスルホキシド(DMSO)などが挙げられる。
ドープの溶媒は、複数の液体を混合した混合物であってもよい。溶媒を混合物とする場合には、溶質となるポリマーの良溶媒と貧溶媒との混合物とすることが好ましい。
溶媒がそのポリマーの貧溶媒であるか良溶媒であるかの判断方法は、ポリマーが全重量の5重量%となるように当該溶媒とポリマーとを混合し、その混合物中に不溶解物が有るか否かより行うことができる。ポリマーの良溶媒、つまりポリマーを溶解する物質は、溶媒として一般的に用いられる化合物の中でも沸点が比較的高い方であり、一方、貧溶媒は溶媒として一般的に用いられる化合物の中でも沸点が比較的低い方である。したがって、貧溶媒を良溶媒に混合することにより、フイルム製造工程における溶媒除去の効率及び効果を高めることができ、特に、流延膜の乾燥効率について大きく向上することができる。
良溶媒と貧溶媒との混合物においては、貧溶媒の重量比率が大きいほど好ましく、具体的には、j/(j+k)の値が、0.1以上1未満であること好ましい。より好ましくは、j/(j+k)の値が、0.3以上0.9以下であることが好ましい。ここで、jは良溶媒の重量であり、kは貧溶媒の重量である。これにより、全溶媒の重量における低沸点成分の割合が大きくなるので、固体電解質フイルムの製造工程における乾燥効率及び乾燥効果をより向上させることができる。
第1のポリマー及び第2のポリマーの良溶媒成分としてはDMF、DMAc、DMSO、NMPが好ましく、中でも、安全性や沸点が比較的低いという点からDMSOが特に好ましい。第1のポリマー及び第2のポリマーの貧溶媒成分としては、炭素数が1以上5以下であるいわゆる低級アルコール、酢酸メチル、アセトンが好ましく、中でも炭素数が1以上3以下の低級アルコールがより好ましく、良溶媒としてDMSOを用いた場合にはこれとの相溶性が最も優れる点からメチルアルコールが特に好ましい。
固体電解質フイルムの各種特性を向上させるためには、添加剤をドープに加えることができる。添加剤としては、酸化防止剤、繊維、微粒子、吸水剤、可塑剤、相溶剤等が挙げられる。これら添加剤の添加率は、ドープ中の固形分全体を100重量%としたときに1重量%以上30重量%以下の範囲とすることが好ましい。ただし、添加率及び物質の種類は、プロトン伝導性に悪影響を与えないものとする。以下に添加剤について具体的に説明する。
酸化防止剤としては、(ヒンダード)フェノール系、一価または二価のイオウ系、三価のリン系、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、ヒンダードアミン系、シアノアクリレート系、サリチレート系、オキザリックアシッドアニリド系の各化合物が好ましい例として挙げられる。具体的には、特開平8−53614号公報、特開平10−101873号公報、特開平11−114430号公報、特開2003−151346号の各公報に記載の化合物が挙げられる。
繊維としては、パーフルオロカーボン繊維、セルロース繊維、ガラス繊維、ポリエチレン繊維等が好ましい例として挙げられ、具体的には、特開平10−312815号公報、特開2000−231938号公報、特開2001−307545号公報、特開2003−317748号公報、特開2004−63430号公報、特開2004−107461号の各公報に記載の繊維が挙げられる。
微粒子としては、酸化チタン、酸化ジルコニウム等が好ましい例として挙げられ、具体的には、特開2003−178777号、特開2004−217931号の各公報に記載の各種微粒子が挙げられる。
吸水剤、つまり親水性物質としては、架橋ポリアクリル酸塩、デンプン−アクリル酸塩、ポバール、ポリアクリロニトリル、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリグリコールジアルキルエーテル、ポリグリコールジアルキルエステル、合成ゼオライト、チタニアゲル、ジルコニアゲル、イットリアゲルが好ましい例として挙げられ、具体的には、特開平7−135003号、特開平8−20716号、特開平9−251857号の各公報に記載の吸水剤が挙げられる。
可塑剤としては、リン酸エステル系化合物、塩素化パラフィン、アルキルナフタレン系化合物、スルホンアルキルアミド系化合物、オリゴエーテル類、芳香族ニトリル類が好ましい例として挙げられ、具体的には、特開2003−288916号、特開2003−317539号の各公報に記載の可塑剤が挙げられる。
相溶剤としては、沸点または昇華点が250℃以上の物が好ましく、300℃以上のものがさらに好ましい。
ドープにはさらに、(1)フイルムの機械的強度を高める目的、(2)固体電解質フイルム中の酸濃度を高める目的で、第1のポリマーや第2のポリマーと異なる種々のポリマーを含有させてもよい。
上記(1)の目的のためには、分子量が10000〜1000000程度であり、第1のポリマーや第2のポリマーと相溶性のよいポリマーをドープに含めることが好ましい。が適する。例えば、パーフッ素化ポリマー、ポリスチレン、ポリエチレングリコール、ポリオキセタン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、およびこれらのうち2以上のポリマーの繰り返し単位を含むポリマーが好ましい。また、フイルムとしたときの全重量に対し1〜30重量%の範囲となるようにこれらの物質をドープに含有させることが好ましい。なお、相溶剤を用いることにより第1のポリマーや第2のポリマーとの相溶性を向上させてもよい。相溶剤としては、沸点または昇華点が250℃以上であるものが好ましく、300℃以上のものがさらに好ましい。
上記(2)の目的のためには、プロトン酸部位を有するポリマー等をドープに含めることが好ましい。このようなポリマーとしては、ナフィオン(登録商標)等のパーフルオロスルホン酸ポリマー、側鎖にリン酸基を有するスルホン化ポリエーテルエーテルケトン、スルホン化ポリエーテルスルホン、スルホン化ポリスルホン、スルホン化ポリベンズイミダゾールなどの耐熱芳香族高分子化合物のスルホン化物等を例示することができる。また、フイルムとしたときの全重量に対し1〜30重量%の範囲となるようにこれらの物質をドープに含有させることが好ましい。
さらに、得られる固体電解質フイルムを燃料電池に用いる場合には、アノード燃料とカソード燃料との酸化還元反応を促進させる活性金属触媒をドープに添加してもよい。これにより、固体電解質フイルムの中に一方の極から浸透した燃料が他方の極に到達することなく固体電解質中で消費されるので、クロスオーバー現象を防止することができる。活性金属触媒は、電極触媒として機能するものであれば特に限定されないが、白金または白金を基にした合金が特に適している。
[ドープ製造]
以下に、本発明のフイルムの製造に用いるドープについて説明する。図1は、本発明に係るドープ製造設備であり、第1のポリマーを用いる場合の例に挙げて説明する。ただし、このドープ製造設備は、第1のポリマーを用いる場合に限られず、例えば第2のポリマーを用いる場合等にも適用可能である。
ドープ製造設備10は、溶媒11aを貯留するための溶媒タンク11と、前駆体12aを供給するためのホッパ12と、添加剤を貯留するための添加剤タンク15と、溶媒11aと前駆体12aと添加剤とを混合して混合液16とする混合タンク17と、混合液16を加熱するための加熱装置18と、加熱された混合液16の温度を調整するための温度調整器21と、温度調整器21を出た混合液16をろ過してドープ24とする第1ろ過装置22と、ドープ24の濃度を調整するためのフラッシュ装置26と、濃度調整されたドープ24をろ過するための第2ろ過装置27とを備える。更に、ドープ製造設備10には、フラッシュ装置26内で揮発する溶媒を回収するための回収装置28と、回収された溶媒を再生するための再生装置29とが備えられている。また、ドープ製造設備10は、ストックタンク32を介してフイルム製造設備33に接続されている。なお、送液量を調節するためのバルブ36〜38と、送液用のポンプ41,42とがドープ製造設備10には設けられているが、これらが配される位置及び数の増減については適宜変更される。
ドープ製造設備10を用いてドープ24を製造する工程を以下に説明する。バルブ37を開とすることにより、溶媒11aは溶媒タンク11から混合タンク17に送られる。次に、前駆体12aがホッパ12から混合タンク17に送り込まれる。このとき、前駆体12aは、計量と送出とを連続的に行う送出手段により混合タンク17に連続的に送りこまれてもよいし、計量して所定量を送出するような送出手段により混合タンク17に断続的に送り込まれてもよい。また、添加剤溶液は、バルブ36の開閉操作により必要量が添加剤タンク15から混合タンク17に送り込まれる。
添加剤は、溶液として送り込む方法の他に、例えば添加剤が常温で液体である場合には、その液体状態のままで混合タンク17に送り込むことができる。また、添加剤が固体の場合には、ホッパ等を用いて混合タンク17に送り込む方法も可能である。添加剤を複数種類添加する場合には、添加剤タンク15の中に複数種類の添加剤を溶解させた溶液を入れておくこともできる。または、複数の添加剤タンクを用いて、それぞれに添加剤が溶解している溶液を入れ、それぞれ独立した配管により混合タンク17に送り込むこともできる。
なお、前述した説明においては、混合タンク17に入れる順番が、溶媒11a、前駆体12a、添加剤であったが、この順番に限定されるものではない。例えば、前駆体12aを混合タンク17に送り込んだ後に、好ましい量の溶媒11aを送液することもできる。また、添加剤は必ずしも混合タンク17で前駆体12aと溶媒11aと混合することに限定されず、後の工程で前駆体12aと溶媒11aとの混合物にインライン混合方式等で混合されてもよい。
混合タンク17には、その外表を包み込み、混合タンク17との間に伝熱媒体が供給されるジャケット46と、モータ47により回転する第1攪拌機48と、モータ51により回転する第2攪拌機52とを備えている。混合タンク17は、ジャケット46の内側に伝熱媒体を供給し、これを循環させることにより、その内部の温度が調整される。混合タンク17の内部温度は、−10℃〜55℃の範囲であることが好ましい。第1攪拌機48,第2攪拌機52のタイプを適宜選択して使用することにより、前駆体12aが溶媒11aにより膨潤した混合液16を得る。なお、第1攪拌機48は、アンカー翼を有するものであることが好ましく、第2攪拌機52は、ディゾルバータイプの偏芯型攪拌機であることが好ましい。
次に、混合液16は、ポンプ41により加熱装置18に送られる。加熱装置18は、管本体(図示しない)とこの管本体との間に伝熱媒体を通すためのジャケット(図示しない)とを有するジャケット付き管であることが好ましく、さらに、混合液16を加圧する加圧部(図示しない)を有することが好ましい。このような加熱装置18を用いることにより、加熱条件下または加圧加熱条件下で混合液16中の固形分を効果的かつ効率的に溶解させることができる。以下、このように加熱により固形成分を溶媒11aに溶解する方法を加熱溶解法と称する。加熱溶解法においては、混合液16を60℃〜250℃となるように加熱することが好ましい。
なお、加熱溶解法に代えて冷却溶解法により固形成分を溶媒11aに溶解させてもよい。冷却溶解法とは、混合液16を温度保持した状態またはさらに低温となるように冷却しながら溶解を進める方法である。冷却溶解法では、混合液16を−100℃〜−10℃の温度に冷却することが好ましい。以上のような加熱溶解法または冷却溶解法により前駆体12aを溶媒11aに十分溶解させることが可能となる。
混合液16を温度調整器21により略室温とした後に、第1ろ過装置22によりろ過して不純物や凝集物等の異物を取り除きドープ24とする。第1ろ過装置22に使用されるフィルタは、その平均孔径が10μm以下であることが好ましい。
ろ過後のドープ24は、バルブ38によりストックタンク32に送られて一旦貯留された後、フイルムの製造に用いられる。
ところで、上記のように、固形成分を一旦膨潤させてから、溶解して溶液とする方法は、前駆体12aの溶液における濃度を上昇させる場合ほど、ドープ製造に要する時間が長くなり、製造効率の点で問題となる場合がある。そのような場合には、目的とする濃度よりも低濃度のドープを一旦つくり、その後に目的の濃度とする濃縮工程を実施することが好ましい。例えば、バルブ38により、第1ろ過装置22でろ過されたドープ24をフラッシュ装置26に送り、このフラッシュ装置26でドープ24の溶媒11aの一部を蒸発させることによりドープ24を濃縮することができる。濃縮されたドープ24はポンプ42によりフラッシュ装置26から抜き出されて第2ろ過装置27へ送られる。ろ過の際のドープ24の温度は、0℃〜200℃であることが好ましい。第2ろ過装置27で異物を除去されたドープ24は、ストックタンク32へ送られ一旦貯留されてからフイルム製造に用いられる。なお、濃縮されたドープ24には気泡が含まれていることがあるので、第2ろ過装置27に送る前に予め泡抜き処理を実施することが好ましい。泡抜き方法としては、例えばドープ24に超音波を照射する超音波照射法等の、公知の種々の方法が適用される。
また、フラッシュ装置26でのフラッシュ蒸発により発生した溶媒ガスは、凝縮器(図示せず)を備える回収装置28により凝縮されて液体となり回収される。回収された溶媒は、再生装置29によりドープ製造用の溶媒として再生されて再利用される。このような回収及び再生利用により、製造コストの点での利点があるとともに、ドープ24の製造工程が閉鎖系で実施されるため、人体及び環境への悪影響を防ぐ効果がある。
また、ドープ24中に粗大な微粒子や異物等の不純物が含まれていると、このドープ24を用いて固体電解質フイルムとした場合、固体電解質フイルムのプロトン伝導度が低下したり、固体電解質フイルム自体が劣化したりするおそれがある。そのため、ドープ24を製造する途中の段階で、少なくとも1回以上はろ過装置を用いてドープ24をろ過することが好ましい。なお、ドープ製造設備10内でのろ過装置の設置個数や設置箇所及びドープをろ過する回数は特に限定されるものではなく、必要に応じて決定すれば良い。
以上の製造方法により、前駆体12aの濃度が、全重量に対し5重量%以上50重量%以下であるドープ24を製造することができる。ドープ24の前駆体12aの濃度を全重量に対し10重量%以上40重量%以下の範囲とすることがより好ましい。また、添加剤の濃度をドープ中の固形分全体を100重量%とすると1重量%以上30重量%以下の範囲とすることが好ましい。なお、ドープ24中において、溶媒11aに固形分が溶解しているかどうかは、ろ過した後のドープ24を蛍光灯に照らすことで確認することができる。
前駆体12aに代えて、第2のポリマーである固体電解質を用いる場合にも、上述したドープ製造設備10を用いてドープを製造することもできる。
[固体電解質フイルム製造工程]
次に、本発明の固体電解質フイルムの製造方法について説明する。図2に、本発明に係る、第1のポリマーを含むドープを用いる場合の固体電解質フイルム製造工程60の流れを示す。図2では、工程の流れのみを簡単に説明するものとし、各工程の詳細は図3を用いて説明する。なお、以下の説明では、固体電解質フイルムをフイルムと称する。
固体電解質フイルム製造工程60は、ドープ24から流延膜61を形成する流延膜形成工程63と、形成した流延膜61を液に浸漬させて溶媒置換を行う浸漬工程64と、支持体から流延膜61を剥ぎ取って前駆体フイルム65とする剥取工程66と、前駆体フイルム65を乾燥する第1乾燥工程67と、プロトン供与体である酸を含む液を前駆体フイルム65に接触し、前駆体フイルム65から水素置換フイルム68を生成する酸処理工程69と、酸処理工程69を経た水素置換フイルム68を1対の電極間に配してこの電極間に電圧を印加する電圧印加工程70と、この電圧印加工程70を経た水素置換フイルム68を洗浄する水洗工程71と、洗浄後の水素置換フイルム68を乾燥して固体電解質フイルム72とする第2乾燥工程73とを有する。
[固体電解質フイルム製造設備]
図3は本実施形態で用いるフイルム製造設備33の概略図であり、図4はフイルム製造設備33の中の酸処理室84の概略図である。フイルム製造設備33は、固体電解質フイルム製造工程60に基づく設備である。ただし、このフイルム製造設備33は本発明を実施するための一例であり、本発明を限定するものではない。
フイルム製造設備33は、支持体上にドープ24を流延して流延膜61を形成する流延室80と、走行する支持体により搬送される流延膜61を乾燥手段により乾燥する搬送室81と、支持体から流延膜61を剥ぎ取って前駆体フイルム65とした後、この前駆体フイルム65の乾燥を進めるテンタ83と、前駆体フイルム65に酸処理及び電圧印加処理を行って水素置換フイルム68とする酸処理室84と、前駆体フイルム65の乾燥をさらに行いフイルム72とする乾燥室85と、フイルム72を調湿する調湿室86と、調湿後のフイルム72をロール状に巻き取る巻取室87を備えている。
フイルム製造設備33は、ストックタンク32を介してドープ製造設備10と接続されている。ストックタンク32には、モータ90により回転する攪拌機91が備えられている。ドープ製造設備10でつくられたドープ24は、ストックタンク32に貯留される。攪拌機91は、常時回転し、これにより、ドープ24の中に固形分の析出や凝集が発生するのを抑制してドープ24の状態を均一に保持することができる。なお、このようにドープ24を攪拌している際に、ドープ24に対して、各種添加剤を適宜混合させることもできる。
流延室80には、ドープ24を流出する流延ダイ93と、走行する支持体である流延バンド94とを備える。流延ダイ93の材質としては、析出硬化型のステンレス鋼が好ましく、その熱膨張率は2×10−5(℃−1)以下であることが好ましい。そして、電解質水溶液での強制腐食試験でSUS316と略同等の耐腐食性を有することが好ましい。流延ダイ93はコートハンガー型のダイが好ましい。
流延ダイ93の幅は特に限定されるものではないが、最終製品となるフイルム72の幅の1.1倍〜2.0倍程度であることが好ましい。また、製膜の際のドープ24の温度が所定温度に保持されるように、流延ダイ93の温度を制御する温度コントローラが流延ダイ93に取り付けられることが好ましい。
また、流延ダイ93の上流側には、ポンプ95が設けられている。さらに、流延ダイ93には、幅方向に所定の間隔で複数備えられた厚み調整ボルト(ヒートボルト)と、このヒートボルトによりスリットの隙間を調整する自動厚み調整機構が備えられることがより好ましい。ヒートボルトは予め設定されるプログラムによりポンプ(高精度ギアポンプが好ましい)95の送液量に応じてプロファイルを設定し製膜を行うことが好ましい。ドープの送り量を精緻に制御するために、ポンプ95は高精度ギアポンプであることが好ましい。また、フイルム製造設備33中には、例えば赤外線厚み計のような厚み測定機を設け、厚みプロファイルに基づく調整プログラムと厚み測定機による検知結果とにより、自動厚み調整機構へのフィードバック制御を行ってもよい。製品としてのフイルム72の両側端を除く任意の2つの位置での厚み差が1μm以内となるように、先端リップのスリット間隔を±50μm以下に調整できる流延ダイ93を用いることが好ましい。なお、流延ダイ93のリップ先端には硬化膜が形成されていることがより好ましい。硬化膜の材質としては、タングステン・カーバイド(WC)、Al2 O3 、TiN、Cr2 O3 などが挙げられるが、中でも特に好ましくはWCである。
ドープ24が流延ダイ93のリップ先端で局所的に乾燥固化することを防止するために、リップ先端に溶媒を供給するための溶媒供給装置(図示しない)をリップ先端近傍に取り付けることが好ましい。溶媒が供給される位置は、流延ビードの両端部とリップ先端の両端部と外気とにより形成される三相接触線の周辺部が好ましい。供給される溶媒の流量は、片側それぞれに対し0.1mL/分〜1.0mL/分とすることが好ましい。これにより、異物、例えばドープ24から析出した固形成分や外部から流延ビードに混入したものが流延膜61中に混合してしまうことを防止することができる。
また、ポンプ95の下流側には、ろ過装置96を設けることが好ましい。このろ過装置96により、ドープ24に含まれる所定粒径よりも大きな微粒子や異物、及びゲル状の異物などを取り除くことができる。
流延ダイ93は、回転ローラ97,98に掛け渡される支持体としての流延バンド94の上方に設けられる。流延バンド94は、少なくともいずれか一方の回転ローラの駆動回転により連続的に搬送される。この流延バンド94は、流延室80、搬送室81及び後述するタンクを巡るように無端で搬送される。
流延バンド94の幅は特に限定されるものではないが、ドープ24の流延幅の1.1倍〜2.0倍の範囲であることが好ましい。また、長さは20m〜200m、厚みは0.5mm〜2.5mmであり、表面粗さは0.05μm以下となるように研磨されていることが好ましい。
流延バンド94の素材は特に限定されるものではなく、例えば、ステンレス等の無機材料であっても良いし、有機材料からなるプラスチックフイルムでも良い。プラスチックフイルムとしては、ポリエチレンテレフタレート(PET)フイルム、ポリブチレンテレフタレート(PBT)フイルム、ナイロン6フイルム、ナイロン6,6フイルム、ポリプロピレンフイルム、ポリカーボネートフイルム、ポリイミドフイルム等の不織布のプラスチックフイルムが挙げられる。使用する溶媒、製膜温度に対応できるような化学的安定性と耐熱性とをもつ長尺物であることが好ましい。なお、本実施形態では、流延バンド94としてプラスチックフイルムであるPETフイルムを使用している。
回転ローラ97,98の内部には、伝熱媒体である流体が通る流路(図示なし)が形成されている。所定の温度に調整された流体が流路を通ることにより回転ローラ97,98の周面の温度が調整され、周面に接触する流延バンド94の表面温度が調整される。流延バンド94の表面温度は、溶媒の種類、固形成分の種類、ドープ24の濃度等に応じて適宜設定する。
回転ローラ97,98、及び流延バンド94に代えて回転ドラム(図示しない)を支持体として用いることもできる。この場合には、回転速度ムラが0.2%以下となるように高精度で回転できるものであることが好ましい。回転ドラム、流延バンド94、回転ローラ97,98は、表面に欠陥が無く、平滑であるものが好ましい。
流延ダイ93の近傍には、流延ダイ93から流延バンド94にかけて形成されるリボン状のドープ24、すなわち流延ビードの流延バンド94走行方向における上流側を圧力制御するために減圧チャンバ(図示しない)を設けることが好ましい。また、流延バンド94の近傍には送風装置(図示しない)を設けて、流延膜61の溶媒を蒸発させるために風を吹き付けることが好ましい。なお、上記の送風装置には遮風板を設けて、流延膜61の形状を乱すような風が流延膜61にあたるのを抑制することが好ましい。その他に、流延室80には、その内部温度を所定の値に保つための温度コントローラと、蒸発した有機溶媒を凝縮回収するための凝縮器(コンデンサ)(共に図示しない)とが設けられる。このコンデンサは、凝縮液化した有機溶媒を回収するための回収装置が備えられている形態であることが好ましい。
搬送室81の内部には、所望の温度になるよう調整した乾燥風を送り出して流延膜61の乾燥を促進させる送風機(図示しない)が備えられている。また、搬送室81は、複数の区画に分け、更に各区画内に乾燥装置を取り付ける等して、各区画の乾燥温度が異なるように調整することが好ましい。これにより、流延膜61を徐々に乾燥することができるので、急激に溶媒が揮発してしわやつれなどの形状変化が発生するのを抑制することができる。搬送室81における区画の個数等は特に限定されるものではないが、搬送室81内の乾燥温度を30℃以上60℃以下の範囲となるように調整することが好ましい。また、搬送室81には、流延膜61を乾燥する際に発生する気化した有機溶剤を回収するための凝縮器(コンデンサ)99を設けている。凝縮器99は、凝縮液化した有機溶媒を回収するための回収装置が備えられている形態であることが好ましい。
搬送室81の下流には、剥取ローラ100を備えるタンク101が設けられている。本実施形態のタンク101には、浸漬液102が貯留されており、この剥ぎ取りローラ100と流延バンド94を支持する支持ローラとはともに浸漬液102の中に配される。そして、流延バンド94は流延バンド94とともに浸漬液102の中に案内されて浸漬される。このようにして、タンク101にて浸漬工程64(図2参照)が行われ、流延膜61及び前駆体フィルム65の中の溶媒が、浸漬液102に置き換えられ溶媒置換される。浸漬液102としては、流延膜61に含まれる溶媒よりも沸点が低く、有機溶媒の良溶媒であることが好ましい。このような浸漬液102に流延膜61を浸漬すると、流延膜61内に含まれる有機溶媒が抽出される速度が向上するとともに、後の乾燥工程において流延膜61に残留した有機溶媒の除去をすることが容易になる。
この溶媒置換により、流延膜61は自己支持性を発現する。流延膜61が自己支持性を発現する要因としては、次のとおりである。
(1)浸漬液102と流延膜61中に含まれる溶媒の一部との置換により、残留溶媒量が低減する。
(2)前駆体の貧溶媒である浸漬液102に浸漬することにより、流延膜61が固化する。
こうして、剥取ローラ100により、自己支持性を有する流延膜61を前駆体フイルム65として容易に剥ぎ取ることができると同時に、後の第1乾燥工程67における、前駆体フイルム65の残留溶媒の除去に要する時間を短縮することができる。
この浸漬液102として、純水を用いることが好ましい。本発明に用いられる純水とは、比電気抵抗が少なくとも1MΩ以上であり、特にナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウムなどの金属イオンは1ppm未満、クロル、硝酸などのアニオンは0.1ppm未満を指す。純水は、逆浸透膜、イオン交換樹脂、蒸留などの単体、あるいは組み合わせによって、容易に得ることができる。
なお、浸漬液102に前駆体フイルム65を接触させる浸漬工程64を複数回行っても良い。浸漬工程64を複数回行う場合は、後の浸漬工程64になるに従って沸点が低くなるように各工程の浸漬液102を選択することが好ましい。この複数回の浸漬工程64により、前駆体フイルム65に含まれる残留溶媒の沸点を低下させることが可能になるため、浸漬工程64の後に行う第1乾燥工程67や第2乾燥工程73を容易にすることができる。また、剥取工程66は、流延膜61が浸漬液102に浸漬している間に行っても良いし、浸漬液102から流延膜61を取り出した後に行っても良い。また、浸漬工程64の代わりに、流延膜形成工程63において流延膜61に乾燥した風をあてることにより、流延膜61に自己支持性を発現させて、これを剥ぎ取ったものを前駆体フイルム65としてもよい。
また、流延膜61の溶媒置換の方法としては、流延膜61を浸漬液102に浸漬する方法に限られず、例えば、流延膜61に浸漬液102を接触させる方法を用いても良い。この浸漬液102を接触させる方法の具体的なものとして、例えば、支持体上の流延膜61に浸漬液102を吹付ける或いは塗布する方式等が挙げられる。
タンク101の下流でありテンタ83の上流には、前駆体フイルム65の両面方向に向けられた送風口を備える一対のエアナイフ103が設けられている。また、テンタ83には、乾燥風を送り出す乾燥装置と、チェーン(図示しない)の走行に伴い走行する多数のクリップ104とが備えられている。そして、テンタ83の下流には、前駆体フイルム65の両端部(耳部)を切り落とす耳切装置105が設けられている。耳切装置105には、切り取られた前駆体フイルム65の両側端部(耳と称される)の屑を細かく切断処理するためのクラッシャ105aが接続されている。
(酸処理室)
酸処理室84には、図4に示すとおり、酸浸漬槽110と電圧印加槽111と水槽112とが、上流側から順に設けられる。
(酸浸漬槽)
酸浸漬槽110には、プロトン供与体である酸を含む液(以下、第1液と称する)300が貯留する。酸浸漬槽110には、温調機115が備えられ、温調機115は、酸浸漬槽110に貯留する第1液300の温度を所定の範囲に保持する。さらに、酸浸漬槽110には、第1液300中に浸漬するようにローラ116、117が設けられる。ローラ116は、耳切装置105から送られる前駆体フイルム65を、第1液300内へ案内する。こうして、前駆体フイルム65と第1液300との接触により、前駆体フイルム65に酸処理が施され、前駆体が固体電解質となり、水素置換フイルム68が得られる。そして、ローラ117は、水素置換フイルム68を第1液300の外へ案内する。なお、図4には、2つのローラ116、117が酸浸漬槽110内に設けられる様子を示しているが、これに限らず、1つまたは3つ以上のローラを酸浸漬槽110に設けても良い。
(第1液)
第1液300に含まれる酸として、例えば、硫酸、リン酸、硝酸や各種の有機酸を用いることができる。このうち、次工程である電圧印加工程での効果を高めるためには、有機酸、中でも、酢酸、プロピオン酸、酪酸、ギ酸、コハク酸、イソ酪酸、吉草酸、イソ吉草酸、カプロン酸、ベンゼンスルホン酸、安息香酸、アクリル酸、マロン酸、クエン酸、シュウ酸、イタコン酸、フマル酸、一般式(1)で表される化合物のいずれかひとつであることが好ましい。
R−AR−SO3H ・・・(1)
(ただし、Rは炭素数1〜6のアルキル基、アルコキシ基、アミド基のいずれかひとつであり、ARはベンゼン環とナフタレン環とのいずれか一方である)
有機酸を第1液300として用いてプロトン置換度が低いようであれば、有機酸に代えて他の上記酸のうち、アニオンの式量が40以上1000以下である酸を使用すると、プロトン置換を阻害するアニオンが前駆体フイルム65に侵入しにくくなるため、プロトン置換を高効率で行うことができる。具体的には、硫酸、リン酸、硝酸などを挙げることができるが、中でも、アニオンの式量が大きい硫酸を使用することが好ましい。第1液300として、上述した酸を水、或いは以下に示す有機溶剤と水との混合液に酸を溶解させたものを用いることができる。第1液300で用いることのできる有機溶剤として、第2液301と同様の有機溶剤を用いることができる。この有機溶剤及び第2液301の詳細については後述する。
第1液300に含まれるプロトンの濃度(以下、プロトン濃度と称する)は、0.05mol/リットル以上である。第1液300のプロトン濃度が0.05mol/リットル未満であると、前駆体フイルム65におけるプロトン置換が十分に行われず好ましくない。なお、プロトン濃度とは、従来用いられていた「規定度」と同一の概念の単位であり、第1液300のプロトン濃度とは、第1液300中に含まれ、プロトンとなりうる水素原子の濃度を表す。
温調機115により第1液300の温度は、前駆体フイルム65のガラス転移温度Tgに等しいことが望ましい。しかしながら、使用する第1液300の種類によっては、Tgが第1液300の沸点を越えてしまうことがある。安定した酸処理を行うためには、第1液300の沸点未満、好ましくは沸点(℃)の90%未満、更に好ましくは沸点(℃)の80%未満の温度に設定する。また、フイルムの製造環境を考慮すると、第1液300の温度は室温以上であることが好ましく、30度以上に調整することがより好ましい。
ポリマーのガラス転移温度Tgは、DTA(示差熱分析)やDSC(示差走査熱量測定)を用いて求めることができる。ガラス転移温度Tgは、DTA曲線またはDSC曲線から求めることができる。ここで、得られたDTA曲線或いはDSC曲線からガラス転移温度Tgを求める方法として、中間点ガラス転移温度(Tmg)、補外ガラス転移開始温度(Tig)、補外ガラス転移終了温度(Teg)のいずれを用いても良い。なお、DTAやDSCの実施方法などガラス転移温度Tgの測定方法の詳細は、JIS K 7121による。
第1液300は、酸性の水溶液に限られず、プロトン置換において、前駆体のプロトン受容体にプロトンを与え得るものであればよい。例えば、酸がアニオンとプロトンに電離した際、アニオンよりもプロトン受容性が大きいものを前駆体として用いる場合には、第1液300に酸を用いてもよい。
この酸処理工程69において、前駆体フイルム65に高効率のプロトン置換を行うためには、前駆体フイルム65の残留溶媒量が、乾量基準に対して1重量%以上100重量%以下であることが好ましい。残留溶媒量が乾量基準に対して1重量%以下まで乾燥を進めると乾燥時間が長くなり、好ましくなく、残留溶媒量が乾量基準に対して100重量%以上の前駆体フイルム65に酸処理を行うと膜の空隙率が大きくなってしまい、好ましくない。なお、この乾量基準による残留溶媒量は、サンプリング時におけるフイルム重量をx、そのサンプリングフイルムを乾燥した後の重量をyとするとき{(x−y)/y}×100で算出される値である。
この酸処理工程69において、前駆体フイルム65の前駆体がプロトンに置換された割合(以下、プロトン置換率と称する)が80モル%以上であることが好ましく、プロトン置換率が90モル%以上であることがより好ましい。このような高いプロトン置換率のプロトン置換を行なうことにより、優れたプロトン伝導度の固体電解質フイルム72を製造することができると同時に、酸処理工程69の後に行う電圧印加工程70においてプロトン伝導度をより向上させることが可能になる。
(電圧印加槽)
電圧印加槽111には、第2液301が貯留し、1対の電極120,121と、ローラ122,123とが設けられる。第2液301には、水素置換フィルム68とともに導かれてきた第1液300が含まれている。第2液302に導かれた第1液300は水素置換フイルム68の中に含まれたものであり、水素置換フイルムの表面に付着していたものも含まれる。なお、製造開始時には、第2液301中における酸の濃度が薄すぎて電圧印加をしても電流が流れない場合もあるので、このような場合には、第1液301と同じあるいは他の酸を予め加えておいてもよい。第1液300に有機酸以外の上記酸を用いた場合には、有機酸を第2液中に入れておくとよい。この有機酸としては、第1液300の成分としての各種有機酸が挙げられる。
また、電圧印加槽111は、温調機125を備える。温調機125は、電圧印加槽111に貯留する第2液301の温度を所定の範囲に保持する。電極120は、電圧印加槽111の内側の底面111a側に設けられる。また、電極121は、第2液301の液面301a側に設けられる。電極120及び電極121は、配線を介して、電源127と接続する。水素置換フィルム68は両電極120,121の間に配され、電源127により電極120と電極121との間に所定の電圧V1が印加される。こうして、第2液301には、電流が流れる。第2液301中に配されたローラ122は、酸浸漬槽110から送られる水素置換フイルム68を、第2液301内へ案内するとともに、ローラ123とともに、水素置換フイルム68を両電極120,121の間に案内する。そして、水素置換フィルム68は、下流側の水槽112へ案内される。
電極120と電極121との距離L1は300mm以下であることが好ましく、150mm以下、更に100mm以下であることがより好ましい。距離L1が300mmより大きい場合には、水素置換フイルム68のまわりの第2液301に十分な電流を流すことが困難になり、結果的に処理時間を長くせざるを得なくなる。この距離L1の調節により水素置換フイルム68のまわりの第2液301に流れる電流の大きさを調節することも可能である。
電源127は、電極120、121間の第2液301に電流が流れているか否かを検出する電流検出計(図示しない)を備える。電流が流れない場合には、電圧印加槽111に備えられたプロトン濃度調節器に信号をオンにして送る。プロトン濃度調節器は、有機酸の水溶液である第3液を貯留するタンクと、タンクに貯留する第3液を電圧印加槽111に供給する配管やバルブなどを有する。また、図示しない制御部は、電流検出計とプロトン濃度調節器と接続する。酸濃度調節器は、電圧印加槽111へ第3液を供給し、電圧印加槽111内の第2液301のプロトン濃度を調節することができる。制御部は、電流検出計から送られてきた信号に基づいて、電圧印加槽111への第3液の供給を開始する。そして、電流検出計からの信号がオフにされると、制御部は、電圧印加槽111への第3液の供給を停止する。こうして、電圧印加槽111は、電圧印加を維持することができる。
また、シフト部140は、電極120及び電極121と接続する。シフト部140は、電極120または電極121を所定の位置に移動して、電極120及び電極121との間の距離L1を所望の範囲に調節する。また、制御部141が、温調機125、シフト部140や電源127に接続する。この制御部141の制御の下、所望の条件の電圧印加工程が行われる。この制御部141により、電圧印加工程の進行度に応じて、距離L1、電圧V1、電流A1、第2液301の温度などを調節することが好ましい。
電極120と電極121との間に印加する電圧V1は、第2液301から電気分解によるアニオンが生成しない程度とし、電極120と電極121との間の電流密度は1mA/cm2以上20mA/cm2以下が好ましい。1mA/cm2未満の電流密度であると、電圧の印加効果がほとんどない。一方、20mA/cm2よりも大きい電流密度の場合については、バッチ式の予備実験によると、効果はみられなかった。特に、水酸化物イオンのような式量の小さいアニオンは、水素置換フイルム68内に浸入して、水素置換フイルム68内のプロトンや水素原子と結合してしまうため好ましくない。
この電圧印加工程により、水素置換フイルム68の内部に、プロトンが通る道筋、すなわちプロトンチャンネルが形成され、結果として、プロトン伝導度が向上する。また、交流電圧を印加することにより、プロトン伝導度をさらに向上させることができ、1Hz以上1000Hz以下の交流電圧とすると特に好ましい。なお、バッチ式の予備実験では、厚みが50μmの水素置換フイルム68を用いて交流電圧を検証してみたところ、50Hzで効果がピークになっていた。
(第2液)
第2液301として、酸を含む液を用いることができる。第2液301のプロトン濃度の調節により、上述した電圧印加条件を満足させることができる。第2液301に含まれるプロトン濃度は、特に限定されるものではない。なお、第2液301としては、有機酸を含む液を用いることが好ましい。
第2液301として用いる有機酸を含む液のうち、アニオンの式量が40未満である場合には、水素置換フイルム68内に入り込みやすいこと、また、アニオンの式量が1000を超えると、水素置換フイルム68内に入りにくいが、一旦入り込んでしまうとそのまま水素置換フイルム68内に残留しやすい。水素置換フイルム68に残留するアニオンは、水素置換フイルム68のプロトン伝導度を低下させる原因となるためである。したがって、第2液301として、アニオンの式量が40以上1000以下である酸を使用することにより、不要なアニオンが水素置換フイルム68内で残留せず、プロトン伝導度が低下しないため好ましい。
また、第2液301として水を用いる場合には、純水を用いることが好ましい。この場合には、未洗浄の酸処理工程後の水素置換フイルム68、すなわち、余剰の酸が残留する水素置換フイルム68を電圧印加している第2液301に浸漬する。第2液301として水を用いる場合には、直前の酸処理工程69で用いられる第1液300が、上述した第1液300の条件とともに、第2液301の条件を満たす必要がある。また、酸浸漬槽110と電圧印加槽111との間隔は、できるだけ小さいほうが好ましい。電圧印加槽111における電圧印加処理は、水素置換フイルム68に残留する酸を介して行うことにより、本発明の効果が発現するからである。
温調機125により第2液301の温度は、水素置換フイルム68内に形成されたプロトンチャンネルが破壊されない程度、或いは再構成しない程度の温度に保持することが好ましく、具体的には、10℃以上120℃以下であることが好ましく、20℃以上80℃以下であることがより好ましい。
水槽112には、洗浄液305が貯留されている。水槽112は、温調機130を備える。温調機130は、水槽112に貯留する洗浄液305の温度を所定の範囲に保持する。また、水槽112は、ローラ131、132を備える。ローラ131は、電圧印加槽111から送られる水素置換フイルム68を、洗浄液305内へ案内する。そして、ローラ132により、水素置換フイルム68は洗浄液305中を案内された後、水素置換フイルム68は洗浄液305から取り除かれ、水槽112の下流に配される1組のエアナイフ(図示しない)へ案内される。こうして、水素置換フイルム68に水洗処理が行われる。1組のエアナイフ(図示しない)は、水素置換フイルム68の搬送路に対し、対向するようにそれぞれ配され、エアナイフの間を通過する水素置換フイルム68に水切処理を行う。その後、水素置換フイルム68は、乾燥室85に案内される。
洗浄液305として、純水を用いることが好ましい。また、酸を洗い流す高い効果を得るために、使用する洗浄液305の温度は30℃以上洗浄液の沸点以下とすることが好ましい。ただし、洗浄液305の温度は、略室温から沸騰するまでの温度範囲であれば特に限定されるものではない。
水洗工程69における水素置換フイルム68の水洗方法としては、水素置換フイルム68を連続搬送しながら実施することを考慮すると、上記方法の他、洗浄液305を塗布する方法、洗浄液305を吹き付ける方法が挙げられ、これらの方法のうちいずれの方法を用いても良い。
水洗に使用する洗浄液305の量は、少なくとも下記に定義される理論希釈率を上回る量を用いなければならない。すなわち、水洗に使用される洗浄液305の全てが第1液300の希釈混合に寄与したという仮定の理論希釈率を定義する。実際には、完全混合は起こらないので、理論希釈率を上回る洗浄液量を使用することとなる。用いた第1液のプロトン濃度や副次添加物、溶媒の種類にもよるが、少なくとも100〜1000倍、好ましくは500〜1万倍、さらに好ましくは1000〜十万倍の希釈が得られる洗浄液305を使用する。
理論希釈倍率 = 洗浄液305の塗布量[ml/m2]÷第1液300の塗布量[ml/m2]
水洗方法は、ある決まった洗浄液305の量を用いる場合、一度に全量適用するよりも数回に分割して適用する回分式洗浄方法が好ましい。即ち、洗浄液305の量を幾つかに分けて、水素置換フイルム68の搬送方向にタンデムに設置した複数の水洗手段に供給する。一つの水洗手段と次の水洗手段との間には適当な時間(距離)を設けて、拡散による第1液300の希釈を進行させる。さらに好ましくは、搬送される水素置換フイルム68に傾斜を設けるなどして、水素置換フイルム68上の洗浄液305がフイルム面に沿って流れる様にすれば、拡散に加えて、流動による混合希釈が得られる。最も好ましい方法としては、水洗手段と水洗手段の間に水素置換フイルム68上の洗浄液305の膜を除去する水切り手段を設けることで、更に水洗希釈効率を高められる。具体的な水切り手段としては、ブレードコータに用いられるブレード、エアナイフコーターに用いられるエアナイフ、ロッドコータに用いられるロッド、ロールコータに用いられるロールが挙げられる。こうしたタンデムに配置された水洗手段の数は、多いほうが有利であるが、設置スペースならびに設備コストの観点より、通常は2〜10段、好ましくは2〜5段が使用される。
水切り手段後の洗浄液305の膜(以下、水膜と称する)の厚みは、薄い方が好ましいが、用いる切り手段の種類によって、水素置換フイルム68に残留する水膜の厚みが異なる。ブレード、ロッド、ロールなど、物理的に固体を水素置換フイルム68に接触させる方法においては、例え固体がゴムなどの硬度の低い弾性体であったとしても、水素置換フイルム68の表面にキズを付けたり、弾性体が磨り減ったりするので有限の水膜を潤滑流体として残す必要がある。通常は、数μm以上、好ましくは10μm以上の水膜を潤滑流体として残存させる。
極限まで水膜厚みを減少させられる水切り手段としては、エアナイフを用いることが好ましい。十分な風量と風圧を設定することにより、水膜厚みをゼロに近づけることが出来る。ただし、エアナイフからのエアの吹出し量が大きすぎると、ばたつきや寄りなど、水素置換フイルム68の搬送安定性に影響を及ぼすことがあるので、好ましい範囲が存在する。水素置換フイルム68上の元の水膜厚み、水素置換フイルム68の搬送速度にもよるが、通常は10〜500m/秒、好ましくは20〜300m/秒、より好ましくは30〜200m/秒の風速を使用する。また、均一に水膜除去を行うためには、水素置換フイルム68の幅方向の風速分布を、通常は10%以内、好ましくは5%以内になる様、エアナイフの吹出し口やエアナイフへの給気方法を調整する。搬送する透明樹脂フイルム表面とエアナイフ吹出し口の間隙が狭くなるほど、その水切り能力が増すが、水素置換フイルム68と接触して傷付ける可能性が高くなるため、適当な範囲がある。通常は、10μm〜10cm、好ましくは100μm〜5cm、さらに好ましくは500μm〜1cmの間隙をもって、エアナイフを設置する。さらに、エアナイフと対向する様に、水素置換フイルム68の水洗面と反対側にバックアップロールを設置することで、間隙の設定が安定するとともに、水素置換フイルム68のバタツキやシワ、変形などの影響を緩和することができるために好ましい。
また、上記のように酸処理工程69と水洗工程71とを行なうことにより、水素置換フイルム68に含まれる固体電解質中の無機塩等の不純物を除去する効果も得ることができるため、製造するフイルム72の劣化を防止することもできる。なお、酸処理工程69及び水洗工程71を行なうことにより、水洗工程71後の水素置換フイルム68に含まれる金属の含有量が1000ppm以下であることが好ましく、より好ましくは100ppm以下である。上記の金属としては、Na、K、Ca、Fe、Ni、Cr、Zn等が挙げられる。これらの金属の含有量は、例えば、市販の原子吸光光度計により測定することで把握することができる。
乾燥室85には、多数のパスローラと、乾燥室85の内部の揮発溶媒を回収するために吸着回収装置と、乾燥風を供給する乾燥装置(図示しない)とが備えられている。乾燥室85では、乾燥風を水素置換フイルム68にあてて、水素置換フイルム68に含まれる溶媒を除去する乾燥処理を行う。水素置換フイルム68に乾燥処理を施すことにより、フイルム72が生成する。
また、乾燥室85の下流に配される調湿室86には、乾燥室85と同じパスローラと温度制御装置と湿度制御装置(共に図示しない)とが備えられている。調湿室86の下流には、除電バー等の除電装置(図示しない)を設けて、水素置換フイルム68の帯電圧を所定の範囲(例えば、−3kV〜+3kV)となるように調整することが好ましく、更には、ナーリング付与ローラ対(図示しない)を設けて、フイルム72の両側端部にエンボス加工でナーリングを付与することが好ましい。巻取室87の内部には、フイルム72を巻き取るための巻取ロール145と、巻き取り時のテンションを制御するためのプレスローラ146とが備えられている。
次に、上記のフイルム製造設備33を用いてフイルム72を製造する方法の一例を説明する。
図3のように、ストックタンク32に貯留されているドープ24をポンプ95によりろ過装置96に送り込み、ろ過することによりドープ24中に含まれる所定粒径よりも大きい微粒子や異物、及びゲル状の異物等を取り除く。
ろ過後のドープ24を流延ダイ93に送り込んだ後、流延ダイ93から流延ビードを形成させながら流延バンド94の上に流延する。この場合、流延バンド94に生じるテンションが103 N/m×106 N/mとなるように、回転ローラ97,98の相対位置、及び少なくともいずれか一方の回転速度が調整する。また、流延バンド94と回転ローラ97,98との相対速度差は、0.01m/分以下となるように調整する。なお、流延時においては、使用するドープ24の濃度及び所望のフイルム製品の厚みを考慮して、ドープ24の流延量を決定する。
流延バンド94の速度変動を0.5%以下とし、流延バンド94が一周する際に生じる幅方向における蛇行は1.5mm以下とすることが好ましい。なお、この蛇行を抑制するためには、流延バンド94の両端の位置を検出する検出器(図示しない)と、この検出器による検出データに応じて流延バンド94の位置を調整する位置調整機(図示しない)とを設けて、流延バンド94の位置をフィードバック制御することがより好ましい。その他にも、流延ダイ93の直下における流延バンド94について、回転ローラ97,98の回転に伴う上下方向の位置変動が200μm以内となるようにすることが好ましい。流延室80には温度コントローラ(図示しない)を設けて、これにより−10℃〜57℃とされることが好ましい。流延室80の内部で蒸発した溶媒は回収装置(図示しない)により回収した後、再生させてドープ製造用の溶媒として再利用すると、製造コスト低減を実現できる等の効果を得る上でも好ましい。
流延ビードの形態を安定させるために、このビードに関し上流側のエリアが所定の圧力値となるように減圧チャンバで制御することが好ましい。減圧チャンバによる減圧値は、ビードに関し下流側のエリアよりも−2500Pa〜−10Paとすることが好ましい。なお、減圧チャンバにジャケット(図示しない)を取り付けて、内部温度が所定の温度を保つようにすることが好ましい。また、流延ビードの形状を所望のものに保つために、流延ダイ93のエッジ部に吸引装置(図示しない)を取り付けて流延ビードの両側を吸引することが好ましい。このエッジ吸引風量は、1L/分〜100L/分の範囲であることが好ましい。
流延バンド94上の流延膜61を、回転ローラ97,98を駆動させることにより流延バンド94を走行させて流延室80及び搬送室81内を搬送する。搬送室81内では、乾燥装置(図示しない)から乾燥風を供給して流延膜61の乾燥を促進させる。また、コンデンサ99は、搬送室81の内部の揮発溶媒を凝縮して回収する。
続けて、流延膜61が形成された流延バンド94をタンク101に送り込んで、浸漬液102に浸漬させる。溶媒置換により、前駆体フイルム65の残留溶媒量が低下し、流延膜61に自己支持性が発現する。そして、流延バンド94から流延膜61を剥取ローラ100により剥ぎ取って前駆体フイルム65を得る。前駆体フイルム65は、ガイドローラにより所定の方向に案内される。また、流延膜61が剥ぎ取られた後の流延バンド94は、回転ローラ97,98の駆動に伴い無端で走行しているため、再度流延室80内に送り込まれる。
なお、タンク101内において、流延膜61を水に浸漬させる形態は特に限定されるものではないが、流延膜61を水溶液に浸漬させる時間を1分以上60分以下とすることにより、流延膜61の自己支持性を発現させ、流延バンド94から前駆体フイルム65を剥ぎ取ることができる。
続けて、ガイドローラによって、前駆体フイルム65がタンク101から送り出される。エアナイフ103により前駆体フイルム65の表面にエアーを吹き付けて、前駆体フイルム65の表面に付着している水分を除去する。この前駆体フイルム65をテンタ83に送り込む。テンタ83では、クリップ104で前駆体フイルム65の両側端部を把持して、チェーンの走行に伴い搬送する。この前駆体フイルム65の搬送の間に、所望の温度に調整した乾燥風を前駆体フイルム65にあてて、前駆体フイルム65の乾燥を促進させる。ただし、クリップ104をピンに代えて、このピンを前駆体フイルム65の両側端部に突き刺すことにより保持してから搬送させても良い。このとき、乾燥風の温度を調整することにより、テンタ83の内部の温度を80℃以上140℃以下とすることが好ましい。本実施形態では、その内部の温度を約120℃となるように調整する。また、本実施形態ではテンタ83の内部を搬送方向で異なった温度ゾーンとして4分割して、そのゾーン毎に乾燥条件を適宜調整することが好ましい。
テンタ83では、前駆体フイルム65を幅方向に延伸させることが可能とされている。テンタ83に送り込む前の前駆体フイルム65に付与する搬送方向における張力を調整することにより、前駆体フイルム65を搬送方向に延伸することも可能である。また、前駆体フイルム65を延伸する場合には、前駆体フイルム65の搬送方向と幅方向との少なくとも1方向を、延伸前の寸法に対し100.5%〜300%の寸法となるように延伸することが好ましい。これにより、前駆体フイルム65に含まれるポリマーの分子配向を調整することができる。
前駆体フイルム65を耳切装置105に送り込み、ここでその両側端部を切断除去する。このようにクリップで傷ついた前駆体フイルム65の両側端部を切除することで、平面性に優れる前駆体フイルム65を得ることができる。なお、切断された両側端部は、カッターブロワ(図示しない)によりクラッシャ105aに送り込られ、ここで粉砕してチップとなる。このチップを、ドープ製造用のポリマー原料として再利用すると、原料の有効利用或いは製造コストの低減を図ることが出来る。なお、前駆体フイルム65の両側端部を切断する工程は省略することもできるが、前駆体フイルム65として支持体から剥ぎ取った後、フイルム72として巻き取るまでのいずれかで行うことが好ましい。
図4のように、耳切装置105から案内される前駆体フイルム65は、ローラ116、117により、酸浸漬槽110に貯留する第1液300に浸漬する。前駆体フイルム65と第1液300との接触により、前駆体フイルム65にプロトン置換が行われ、水素置換フイルム68が生成する。この水素置換フイルム68は、ローラ117により、第1液300から取り除かれる。
酸浸漬槽110から案内される水素置換フイルム68は、ローラ122、123により、電圧印加槽111に貯留する第2液301に浸漬し、電極120と電極121との間を案内される。電極120と電極121との間には所定の電圧が印加されているため、第2液301及び水素置換フイルム68を介して、電極120と電極121との間で電圧印加する。その後、水素置換フイルム68は、ローラ122、123により、第1液300から取り除かれ、電圧印加槽111に案内される。
電圧印加している電極間に水素置換フイルム68を配することにより、水素置換フイルム68中のプロトン伝導度が向上する。酸を介する電圧印加がどのようなプロセスでプロトン伝導度を向上させているかは不明であるが、次のように推測することできる。第1に電圧印加により、水素置換フイルム68におけるプロトンの拡散が促進される。そしてこのプロトンの拡散の促進により、水素置換フイルム68内のプロトン置換が十分に行われると同時に、電圧印加によるエネルギーがプロトン置換を活性化させるため、結果として、水素置換フイルム68のプロトン伝導度が向上する。
電圧印加工程無しに炭化水素系ポリマーフィルムのプロトン伝導度を向上させるためには、高い温度、例えばTg(ガラス転移点)近くの温度にまでフィルムを加熱してプロトンチャンネルを形成することが必要となる。しかし、本発明のように酸の溶液中の電圧印加された電極にフィルムを配することにより低温でもプロトン伝導度を上げることができる。したがって、エネルギー消費量を大幅に低減することができる。また、パーフルオロ系ポリマーフィルムの場合にはTgが低いものが多く、そのため加熱によるプロトン伝導度の十分な向上を見込むことはできないのに対し、本発明のように酸の溶液中の電圧印加された電極間にフィルムを配することにより、低温でもプロトン伝導度を上げることができる。なお、前記Tgは、溶媒や水等を含んだ状態でのTgである。したがって、電圧印加工程無しにプロトンチャンネル形成のための加熱を実施する場合には、この加熱工程に供するときの状態のポリマーについて測定するTgであり、一方、本発明のように電圧印加工程を実施する場合には、電圧印加工程を開始するときの状態のポリマーについて測定するTgである。
電圧印加槽111から案内される水素置換フイルム68は、ローラ131、132により、水槽112に貯留する洗浄液305に浸漬される。こうして、洗浄液305により、水素置換フイルム68に残留する酸を洗い流すことができる。水洗処理を十分に行った後、水素置換フイルム68は、ローラ132により、洗浄液305から取り除かれ、乾燥室85に案内される。
続けて、水素置換フイルム68を乾燥室85に送り込む。乾燥室85では、パスローラ140に巻き掛けながら水素置換フイルム68を搬送する間に乾燥装置から乾燥風を供給して乾燥させる。乾燥室85の内部温度は、特に限定されるものではないが、固体電解質の耐熱性(ガラス転移点Tg、熱変形温度、融点Tm、連続使用温度等)に応じて決定され、Tg以下とすることが好ましく、本発明では、乾燥室85の内部温度は80℃以上200℃以下とすることが好ましく、フイルム72の残留溶媒量が乾量基準に対して10重量%未満となるまで乾燥することが好ましい。なお、フイルム72からの蒸発により発生した溶媒ガスは、吸着回収装置141により吸着回収してから、溶媒成分を除去した後、再度、乾燥風として乾燥室85の内部に送りこむ。
乾燥室85は、送風温度を変えるために、搬送方向で複数の区画に分割されていることがより好ましい。また、耳切装置105と乾燥室85との間に予備乾燥室(図示しない)を設けて水素置換フイルム68を予備乾燥すると、乾燥室85で水素置換フイルム68の温度が急激に上昇することが防止されるので、乾燥室85での水素置換フイルム68の大幅な形状変化を抑制して、形状変化の少ないフイルム72を得ることができる。
フイルム72を調湿室86に搬入する。調湿室86では、乾燥室85と同様にパスローラ140に巻き掛けながらフイルム72を搬送する間に、温度制御装置と湿度制御装置により所望の温度及び湿度となるように調整することにより調湿して、その含水量を制御する。なお、調湿室86内の温度及び湿度は特に限定されるものではないが、温度は20℃以上30℃以下であることが好ましく、湿度は40RH%以上70RH%以下であることが好ましい。これにより、フイルム72の表面にカールが発生したり、巻き取る際に巻取り不良が発生したりするのを抑制することができる。なお、乾燥室85と調湿室86との間に冷却室(図示しない)を設けてフイルム72を略室温まで冷却すると、温度変化によりフイルム72が形状変化するのを抑制することができるので好ましい。
調湿室86と巻取室87との間に除電装置(図示しない)を設けて、フイルム72が搬送されている間に帯電圧を所定の値とする。除電後の帯電圧は、−3kV〜+3kVとされることが好ましい。更に、フイルム72は、ナーリング付与ローラ対を設けて、ナーリングが付与されることが好ましい。なお、ナーリングを付与した箇所の凹凸の高さが1μm〜200μmであることが好ましい。
最後に、フイルム72を巻取室87に送り込んで、プレスローラ131で張力を付与しながら巻取ロール130に巻き取る。これにより、しわやつれ等の発生を抑制しながらロール状のフイルム72を得ることができる。このようにプレスローラ131で所望のテンションをフイルム72に付与しつつ巻き取ると、平面性に優れるロール状のフイルム製品を得ることができるので好ましい。なお、フイルムロールにおける過度な巻き締めを防止するために、上記のテンションは巻取開始時から終了時まで徐々に変化させることがより好ましい。また、巻き取られるフイルム72の幅は100mm以上であることが好ましいが、本発明は、フイルム72の厚みが5μm以上300μm以下の薄いフイルムを製造する際にも本発明は適用される。
本発明の固体電解質フイルムの製造方法によれば、酸処理工程69直後に電圧印加工程を行うため、プロトン置換率が高く、プロトン伝導度に優れたフイルム72を製造することができる。
上記実施形態では、前駆体フイルム65に酸処理工程69を行った後に、酸処理工程69により生成する水素置換フイルム72に電圧印加工程70を行うが、本発明はこれに限らず、酸処理工程69と電圧印加工程70を同時に行っても良い。酸処理工程69と電圧印加工程70とを同時に行う場合には、複数の電圧印加工程を実施して、そのうち最後の電圧印加工程における第2液を有機酸の水溶液とするとよい。すなわち、酸処理工程のプロトン置換度を優先する場合の酸は無機酸とし、電圧印加効果を優先する場合の酸は有機酸とすることが好ましい。また、この電圧印加工程70は複数回行ってもよい。
上記実施形態では、前駆体フイルム65を第2液301へ浸漬して電圧印加工程70を行うが、本発明はこの態様に限られず、前駆体フイルム65と第2液301との他の接触方法電圧印加工程70を行っても良い。前駆体フイルム65と第2液301とを接触させる方法として、前駆体フィルム65に第2液301を塗布する方法があり、前駆体フィルム65上の第2液301が塗布された領域を介して電圧を印加することにより電圧印加工程70を行うことができる。また、前駆体フィルム65を第2液301に一旦浸漬し、取り出した後、未洗浄のまま、前駆体フィルム65上の第2液301が残留する領域を介して電圧を印加することにより電圧印加工程70を行うこともできる。
上記実施形態では、前駆体フイルム65を第1液300へ浸漬して酸処理工程69を行うが、本発明はこの態様に限られず、前駆体フイルム65と第1液300との接触により酸処理工程69を行っても良い。酸処理工程69における第1液300と前駆体フイルム65との接触方式としては、(1)前駆体フイルム65に第1液300を均一に接触させることができること(2)前駆体フイルム65の片面に接触する第1液300の量の調節が容易であること、の条件を満たす方式が好ましい。この接触方式としては、エクストルージョン、スライドなどのダイコータ、順転ロール、逆転ロール、グラビアなどのロールコータ、細い金属線を巻いたロッドコータ等が好ましく利用できる。これらの接触方式に関しては、Modern Coating and Drying Technology ,Edward Cohen and Edgar B.Gutoff,Edits., VCH Publishers, Inc, 1992にまとめられている。前駆体フイルム65と接触する第1液300は、その後、水洗除去するため、環境保護のための廃液処理を考えた場合、極力塗布量を抑えることが望ましい。この観点では、少ない塗布量域でも安定に操作できるロッドコータ、グラビアコータ、ブレードコータが好ましく利用できる。更に、第1液300と接触した前駆体フイルム65を加熱する加熱手段を用いることにより、酸処理工程69を効率よく行うことができる。前駆体フイルム65の加熱手段として、前駆体フイルム65の片面への熱風の衝突、加熱ロールによる接触伝熱、マイクロ波による誘導加熱、赤外線ヒータによる輻射熱加熱等が好ましく利用できる。特に赤外線ヒータは、非接触、かつ空気の流れを伴わずに行えるので、第1液300が塗布された片面の影響を最小にできるため好ましい。赤外線ヒータの種類としては、例えば(株)ノリタケカンパニーリミテド製の電気式、ガス式、オイル式、スチーム式などの各種遠赤外セラミックヒータが利用できる。特に熱媒体がオイル、またはスチームを用いるオイル式ならびにスチーム式は、有機溶剤が共存する雰囲気では防爆の観点で好ましい。前駆体フイルム65の温度は、25℃以上150℃未満、好ましくは25℃以上100℃未満、更に好ましくは40℃以上80℃未満である。フイルム温度の検出には、一般に市販されている非接触の赤外線温度計が利用でき、上記温度範囲に制御するために、加熱手段に対してフィードバック制御を行ってもよい。
前駆体フイルム65への酸の塗布後の加熱を行う際、前駆体フイルム65の両側端部に配され、前駆体フイルム65の両側端部を保持して、所定方向に案内するローラ対を用いて、このローラ対を電極として電圧印加してもよい。
パーフルオロ系ポリマーフィルムを酸処理室に導いて、酸処理工程と電圧印加工程とを実施すると、パーフルオロ系ポリマーフィルムのプロトン伝導度を上昇させることができる。したがって、本発明は、流延工程や乾燥工程によりドープから薄膜を形成する態様に限定されず、市販の固体電解質フィルムとされるポリマーフィルムのプロトン伝導度のアップに効果がある。
本実施形態では、1種類のドープを流延する場合を示したが、本発明では、2種類以上のドープを同時に共流延して積層タイプの流延膜を形成しても良いし、逐次に共流延させて積層タイプの流延膜を形成させても良い。なお、2種類以上のドープを同時に共流延する場合には、フィードブロックを取り付けた流延ダイを用いても良いし、マルチマニホールド型流延ダイを用いても良い。ただし、共流延により多層からなるフイルムは、表面に露出する2層のうちいずれか一層が、フイルム全体の厚みの0.5%〜30%であることが好ましい。また、同時に共流延をする場合には、ダイスリットから支持体にドープを流延する際に、高粘度ドープが低粘度ドープにより包み込まれて流延されるように各ドープの濃度を予め調整しておくことが好ましく、ダイスリットから支持体にかけて形成されるビードのうち、外界と接する、つまり露出するドープが内部のドープよりも貧溶媒の比率が大きい処方とされることが好ましい。
なお、前駆体フイルムを製造する方法を上記方法に代えて、細孔が複数形成されている、いわゆる多孔質基材の細孔に前駆体を保持させて、上記実施形態とは異なる前駆体フイルムを製造することができる。このような前駆体フイルムの製造方法としては、前駆体が含まれるゾル−ゲル反応液を多孔質基材上に塗布して細孔に前駆体を入れる方法、多孔質基材を前駆体が含まれるゾル−ゲル反応液に浸漬し、細孔内に前駆体を満たす方法等がある。多孔質基材の好ましい例としては、多孔性ポリプロピレン、多孔性ポリテトラフルオロエチレン、多孔性架橋型耐熱性ポリエチレン、多孔性ポリイミドなどが挙げられる。また、前駆体を繊維状に加工し、繊維中の空隙を他の高分子化合物等で満たし、その繊維を用いてフイルム状とすることにより前駆体フイルムを形成することもできる。この場合には、空隙を満たすための他の高分子化合物の例としては、本明細書における添加剤として挙げた物質を挙げることができる。これらの各前駆体フイルムについて、上述した酸処理工程69及び電圧印加工程70を行うことにより、プロトン伝導度に優れた固体電解質フイルムを製造することができる。
上記実施形態では、第1のポリマーを含むドープ24を用いる場合の固体電解質フイルムの製造方法について記載したが、本発明はこれに限られず、例えば、第1のポリマーを含むドープ24に代えて、第2のポリマーを含むドープを用いて、固体電解質フイルムを製造することができる。次に、第2のポリマーを含むドープを用いた固体電解質フイルムの製造方法について説明する。なお、上述した実施形態と同様の装置、部材、工程などは同一の符号を用いて説明し、その詳細の説明を省略する。
図5のように、固体電解質フイルム製造工程160は、第2液301の中で電圧印加する電圧印加工程70と、第1固体電解質フイルム162に残留する第2液301を洗い流す水洗工程71とを備える。電圧印加工程70と水洗工程71とにより、第1固体電解質フイルム162から、第1固体電解質フイルム162よりも高いプロトン伝導度の第2固体電解質フイルム163を生成することができる。なお、必要に応じて、水洗工程71の後に乾燥工程を設けても良い。
第1固体電解質フイルム162としては、第2のポリマーを含むドープを用いた公知の固体電解質フイルムの製造方法、或いは、前述の固体電解質フイルム製造工程60によって製造された固体電解質フイルムであればよい。固体電解質フイルム製造工程60にて、第1のポリマーに代えて、第2のポリマーを用いたドープを用いることにより、第1固体電解質フイルム162を作ることができる。
第2液301として、酸を含む液または水を用いることができる。第2液301として、酸を含む液を用いる場合は、前述した第2液301と同様のものを用いることができる。一方、第2液301として水を用いる場合には、第1液301と同質の酸を含む液に接触させた第1固体電解質フイルム162に電圧印加工程70を行えばよい。なお、第1固体電解質フイルム162にプロトン置換が十分に施されていない場合には、この第1固体電解質フイルム162に、電圧印加工程70と共に、前述した酸処理工程69を行ってもよい。
本発明の固体電解質フイルムの製造方法は、前述した固体電解質フイルム製造工程60や固体電解質フイルム製造工程160のような各工程を連続的に行う、いわゆるオンライン方式手法の他、各工程を逐一行う、いわゆるオフライン方式にも適用可能である。このオフライン方式の固体電解質フイルムの製造方法も、図2に示す固体電解質フイルム製造工程60に基づいて行われる。
以下、オフライン方式の固体電解質フイルム製造工程における電圧印加工程70の概要について説明する。なお、上述した実施形態と同様の装置、部材、工程などは同一の符号を用いて説明し、その詳細の説明を省略する。本発明に用いられる電圧印加装置は、以下に限られるものではない。
(電圧印加装置)
電圧印加工程70では、図6に示す電圧印加装置210を用いる。電圧印加装置210は、容器211と温調機212と水素置換フイルム213を保持するホルダ対214と電源127とからなる。容器211は、第2液301を貯留する。温調機212は、容器211と接続し、容器211に貯留する第2液301の温度を所望の範囲に保持する。温調機212は、第2液301の温度を10℃以上120℃以下の範囲に保持することが好ましい。水素置換フイルム213は、上述した固体電解質フイルムの製造工程並びにこれと同様の製造工程によってつくられる水素置換フイルム68から所定の寸法に切り出したものである。
ホルダ対214は、第1ホルダ216と第2ホルダ217とからなる。図7のように、第1ホルダ216は、絶縁体である支持板220とスペーサ221、222と電極223と電極ホルダ224とからなる。支持板220は、板状に形成され、片面に第1嵌合面220aが、他面に第2嵌合面220bが形成される。また、支持板220は、第1嵌合面220aと第2嵌合面220bとを貫通するように形成される貫通孔220cを有する。絶縁体のスペーサ221、222は、棒状に形成される。導電体である電極223は、板状に形成される。電極ホルダ224は板状に形成される。電極223の片面223aは、スペーサ221、222を介して、第2嵌合面220bの側端部近傍と固着する。電極223の他面223bは、電極ホルダ224の片面224aと固着する。このスペーサ221,222により、電極223と支持板220との間に開口部216aが形成される。
同様にして、第2ホルダ217は、絶縁体である支持板230とスペーサ231、232と電極233と電極ホルダ234とからなる。支持板230は、板状に形成され、片面に第1嵌合面230aが、他面に第2嵌合面230bが形成される。また、支持板230は、第1嵌合面230aと第2嵌合面230bとを貫通するように形成される貫通孔230cを有する。絶縁体のスペーサ231、232は、棒状に形成される。導電体である電極233は、板状に形成される。電極ホルダ234は板状に形成される。電極233の片面233aは、スペーサ231、232を介して、第2嵌合面230bの側端部近傍と固着する。電極233の他面233bは、電極ホルダ234の片面234aと固着する。このスペーサ231,232により、電極233と支持板230との間に開口部217aが形成される。
こうして、ホルダ対214には、開口部216a、217a、貫通孔220c、230cから構成される中空部が形成される。この中空部には、所定量の第2液301が充填する。この中空部は、密閉構造や開放構造のいずれであってもよい。ここで、密閉構造とは、中空部に充填される第2液301が容器211に自由に行き来できない構造を指し、開放構造とは、中空部に充填される第2液301が容器211に自由に行き来できる構造を指す。
水素置換フイルム213を介して、第1ホルダ216の第1嵌合面220aと第2ホルダ217の第1嵌合面230aとを当接し、第1ホルダ216、水素置換フイルム213及び第2ホルダ217をネジなどの固定部材で固定することにより、ホルダ対214が形成される。このとき、電極223と電極233との距離L2が、300mm以下であることが好ましい。
水素置換フイルム213を保持するホルダ対214を、容器211に貯留し、所定の範囲の温度に保持される第2液301へ浸漬する。第2液301は、開口部216a、217a、220c、230cを介して、水素置換フイルム213と接触する。電極223及び電極233と電源127とを配線で接続した後、電源127により、電極223と電極233との間に所定の電圧V1を印加する。こうして、電極223と電極233との間で電流が流れる。
なお、上記実施形態では、水素置換フイルム68から所定の寸法に切り出したものを水素置換フイルム213としたが、これに限らず、前駆体フイルム65から所定の寸法に切り出したフィルム片を水素置換フイルム213の替わりに用いてもよい。この場合において、このフィルム片に電圧印加工程とともに酸処理工程を施すことが好ましく、酸処理工程は、電圧印加工程の前に、或いは電圧印加工程と同時に行うことが好ましい。
本発明の固体電解質フイルムは、燃料電池用、特に特に直接メタノール型燃料電池用のプロトン伝導膜として好適に利用することができる他に、燃料電池の2つの電極に挟まれる固体電解質フイルムとして用いることができる。さらに、各種電池(レドックスフロー電池、リチウム電池等)における電解質、表示素子、電気化学センサー、信号伝達媒体、コンデンサ、電気透析、電気分解用電解質膜、ゲルアクチュエーター、塩電解膜、プロトン交換樹脂としても本発明の固体電解質フイルムを用いることができる。
(燃料電池)
以下に、固体電解質フイルムを電極膜複合体(Membrane and Electrode Assembly,以下、MEAと称する)に使用する例と、この電極膜複合体を燃料電池に用いる例とを説明する。ただし、ここに示すMEA及び燃料電池の形態は本発明の一例であり、本発明はこれに限定されない。本実施形態に用いる固体電解質フイルムは、前述したフイルム72でも第2固体電解質フイルム163いずれでもよい。以下、フイルム72を用いる場合を例に挙げて、MEA及び燃料電池の形態について説明する。図8は、MEAの断面概略図である。MEA261は、フイルム72と、このフイルム72を挟んで対向するアノード電極262及びカソード電極263とを備える。
アノード電極262は多孔質導電シート262aとフイルム72に接する触媒層262bとを有し、カソード電極263は多孔質導電シート263aとフイルム72に接する触媒層263bとを有する。多孔質導電シート262a,263aとしては、カーボンペーパー等がある。触媒層262b,263bは、白金粒子等の触媒金属を担持したカーボン粒子をプロトン伝導材料に分散させた分散物からなる。カーボン粒子としては、例えばケッチェンブラック、アセチレンブラック、カーボンナノチューブ等があり、プロトン伝導材料としては、例えば、ナフィオン(登録商標)等がある。
MEA261の製造方法としては、次の4つの方法が好ましい。
(1)プロトン伝導材料塗布法:活性金属担持カーボン、プロトン伝導材料、溶媒を含む触媒ペースト(インク)をフイルム72の両面に直接塗布し、多孔質導電シート262a,263aを(熱)塗布層に圧着して5層構成のMEAを作製する。
(2)多孔質導電シート塗布法:触媒層262b,263bの材料を含んだ液、例えば触媒ペーストを、多孔質導電シート262a,263aの表面に塗布し、触媒層262b,263bを形成させた後、フイルム72と圧着し、5層構成のMEA261を作製する。
(3)Decal法:触媒ペーストをPTFE上に塗布し、触媒層262b,263bを形成させた後、フイルム72に触媒層262b,263bのみをうつし、3層構造を形成し、これに多孔質導電シート262a,263aを圧着し、5層構成のMEA261を作製する。
(4)触媒後担持法:白金未担持カーボン材料をプロトン伝導材料とともに混合したインクをフイルム72、多孔質導電シート262a,263aあるいはPTFE上に塗布・製膜した後、白金イオンを含む液にフイルム72を含浸させ、白金粒子をフイルム中で還元析出させて触媒層262b,263bを形成させる。触媒層262b,263bを形成させた後は、上記(1)〜(3)の方法にてMEA261を作製する。
ただし、MEAの作り方としては、上記の方法には限定されず、公知の各種方法を適用することができる。例えば、上記の(1)〜(4)の方法の他に次の方法がある。触媒層262b,263bの材料を含んだ塗布液を予めつくり、この塗布液を支持体に塗布して乾燥する。触媒層262b,263bが形成された支持体を、触媒層262b,263bがフイルム72に接するようにフイルム72の両面にそれぞれ重ねて圧着する。そして支持体を剥がしてから、触媒層262b,263bが両面に形成されたフイルム72を多孔質導電シート262a,263aで挟み込む。そして、多孔質導電シート262a,263aと触媒層262b,263bとを密着させてMEAを製造することができる。
図9は、燃料電池を分解した概略図である。燃料電池271は、MEA261と、MEA261を挟持する一対のセパレータ272,273と、これらのセパレータ272,273に取り付けられたステンレスネットからなる集電体276と、パッキン277とを有する。アノード極側のセパレータ272にはアノード極側開口部281が設けられ、カソード極側のセパレータ273にはカソード極側開口282が設けられている。アノード極側開口部281からは、水素、アルコール類(メタノール等)等のガス燃料またはアルコール水溶液等の液体燃料が供給され、カソード極側開口部282からは、酸素ガス、空気等の酸化剤ガスが供給される。
アノード電極262およびカソード電極263には、カーボン材料に白金などの活性金属粒子が担持された触媒が用いられる。通常用いられる活性金属の粒子サイズは、2〜10nmの範囲である。ただし、粒子サイズが小さいほど単位重量当りの表面積が大きくなるので活性が高まり有利であるが小さすぎると凝集させることなく分散させることが難しくなるために、2nm程度が小ささの限度といわれている。
水素−酸素系燃料電池における活性分極はアノード極、つまり水素極に比べ、カソード極、つまり空気極の方が大きい。これは、カソード極の反応、つまり酸素の還元反応の速度がアノード極に比べて遅いためである。酸素極の活性向上を目的として、Pt−Cr、Pt−Ni、Pt−Co、Pt−Cu、Pt−Feなどのさまざまな白金基二元金属を用いることができる。アノード燃料にメタノール水溶液を用いる直接メタノール燃料電池においては、メタノールの酸化過程で生じるCOによる触媒被毒を抑制するために、Pt−Ru、Pt−Fe、Pt−Ni、Pt−Co、Pt−Moなどの白金基二元金属、Pt−Ru−Mo、Pt−Ru−W、Pt−Ru−Co、Pt−Ru−Fe、Pt−Ru−Ni、Pt−Ru−Cu、Pt−Ru−Sn、Pt−Ru−Auなどの白金基三元金属を用いることができる。活性金属を担持させるカーボン材料としては、アセチレンブラック、Vulcan XC−72、ケチェンブラック、カーボンナノホーン(CNH)、カーボンナノチューブ(CNT)が好ましく用いられる。
触媒層262b,263bは、(1)燃料を活性金属に輸送すること、(2)燃料の酸化(アノード極)、還元(カソード極)反応の場を提供すること、(3)酸化還元により生じた電子を集電体276に伝達すること、(4)反応により生じたプロトンを固体電解質、つまりフイルム72に輸送すること、という機能をもつ。(1)のために触媒層262b,263bは、液体および気体燃料が奥まで透過できる多孔質性とされる。(2)についてはカーボン材料に担持される活性金属触媒が担い、(3)は同じくカーボン材料が担う。そして、(4)の機能を果たすために、触媒層262b,263bにプロトン伝導材料を混在させる。触媒層のプロトン伝導材料としては、プロトン供与基を持った固体であれば制限はないが、酸残基を有する高分子化合物、例えばナフィオン(登録商標)に代表されるパーフルオロスルホン酸、側鎖リン酸基ポリ(メタ)アクリレート、スルホン化ポリエーテルエーテルケトン、スルホン化ポリベンズイミダゾールなどの耐熱性芳香族高分子のスルホン化物等が好ましく用いられる。フイルム72に含まれる固体電解質を触媒層262b,263bに用いると、触媒層262b,263bとフイルム72とが同種の材料となるため、固体電解質と触媒層との電気化学的密着性が高まり、プロトン伝導の点でより有利である。活性金属の使用量を0.03〜10mg/cm2 の範囲とすることが、電池出力と経済性との観点から適する。活性金属を担持するカーボン材料の量は、活性金属の重量に対して1〜10倍であることが好ましい。プロトン伝導材料の量は、活性金属担持カーボンの重量に対して、0.1〜0.7倍が好ましい。
アノード電極532、カソード電極533は、集電機能および水がたまりガスの透過が悪化するのを防ぐ役割を担う。通常は、カーボンペーパーやカーボン布を使用し、撥水化のためにポリテトラフルオロエチレン(PTFE)処理を施したものを使用することもできる。
MEAは電池に組み込み、燃料を充填した状態での交流インピーダンス法による面積抵抗値が3Ωcm2 以下のものが好ましく、1Ωcm2 以下のものがさらに好ましく、0.5Ωcm2 以下のものが最も好ましい。面積抵抗値は実測の抵抗値とサンプルの面積の積から得られる。
燃料電池の燃料として用いることのできるものを説明する。アノード燃料としては、水素、アルコール類(メタノール、イソプロパノール、エチレングリコールなど)、エーテル類(ジメチルエーテル、ジメトキシメタン、トリメトキシメタンなど)、ギ酸、水素化ホウ素錯体、アスコルビン酸などが挙げられる。カソード燃料としては、酸素(大気中の酸素も含む)、過酸化水素などが挙げられる。
直接メタノール型燃料電池では、アノード燃料として、メタノール濃度3〜64重量%のメタノール水溶液が使用される。アノード反応式(CH3 OH+H2 O→CO2 +6H+ +6e− )により、1モルのメタノールに対し、1モルの水が必要であり、この時のメタノール濃度は64重量%に相当する。メタノール濃度が高い程、同エネルギー容量での燃料タンクを含めた電池の重量および体積が小さくできる利点がある。しかしながら、メタノール濃度が高い程、メタノールが固体電解質フイルムを透過しカソード側で酸素と反応し電圧を低下させる、いわゆるクロスオーバー現象が顕著となり、出力が低下する傾向にある。そこで、用いる固体電解質フイルムのメタノール透過性により、最適濃度が決められる。直接メタノール型燃料電池のカソード反応式は、(3/2)O2 +6H+ +6e− →H2 Oであり、燃料として酸素(通常は空気中の酸素)が用いられる。
上記アノード燃料およびカソード燃料を、それぞれの触媒層262b,263bに供給する方法としては、(1)ポンプ等の補助機器を用いて強制的に送りこむ方法(アクティブ型)と、(2)補助機器を用いない方法、例えば、燃料が液体である場合には毛管現象や自然落下により、気体である場合には大気に触媒層をさらして供給するパッシブ型との2通りの方法があり、また、(1)と(2)とを組み合わせることも可能である。(1)は、カソード側で生成する水を抜き出すことにより、燃料として高濃度のメタノールを使用することができ、空気供給による高出力化ができる等の利点がある反面、燃料供給系を備える事により小型化がし難い欠点がある。(2)は、小型化が可能な利点がある反面、燃料供給が律速となり易く高い出力が出にくい欠点がある。
燃料電池の単セル電圧は一般的に1V以下であるので、負荷の必要電圧に合わせて、単セルを直列スタッキングして用いる。スタッキングの方法としては、単セルを平面上に並べる「平面スタッキング」および、単セルを、両側に燃料流路の形成されたセパレータを介して積み重ねる「バイポーラースタッキング」が用いられる。前者は、カソード極(空気極)が表面に出るため、空気を取り入れ易く、薄型にできることから小型燃料電池に適している。この他にも、MEMS技術を応用し、シリコンウェハー上に微細加工を施し、スタッキングする方法も提案されている。
燃料電池は、自動車用、家庭用、携帯機器用など様々な利用が考えられているが、特に、直接メタノール型燃料電池は、小型、軽量化が可能であり充電が不要である利点を活かし、様々な携帯機器やポータブル機器用エネルギー源としての利用が期待されている。例えば、好ましく適用できる携帯機器としては、携帯電話、モバイルノートパソコン、電子スチルカメラ、PDA、ビデオカメラ、携帯ゲーム機、モバイルサーバー、ウエラブルパソコン、モバイルディスプレイなどが挙げられる。好ましく適用できるポータブル機器としては、ポータブル発電機、野外照明機器、懐中電灯、電動(アシスト)自転車などが挙げられる。また、産業用や家庭用などのロボットあるいはその他の玩具の電源としても好ましく用いることができる。さらには、これらの機器に搭載された2次電池の充電用電源としても有用である。