以下、本発明の実施の形態について図を参照して説明する。図1は、本発明の形態におけるメモリ装置の構成を示す等価回路である。図1に示す等価回路は、一般的なジョセフソン伝送線路(Josephson Transmission Line:JTL)に類似した回路であるが、回路中の抵抗R3(=RM)を、抵抗変化現象が発現する材料から構成していることが全く異なる。JTLについては、非特許文献8を参考にされたい。
図1において、V1,V2,V3,V4,V5は電源、JJ1,JJ2,JJ3,JJ4,JJ5はジョセフソン接合である。また、L12,L23,L34,L45は、コイルであり、R1,R2,R3(=RM),R4,R5は、抵抗であり、T1,T2,T3,T4,T5は、図示しない電圧源より発生する電圧が供給される電圧端子である。
このメモリ装置は、入力端子Tin及び出力端子Iinとの間に直列にコイルL12,L23,L34,L45が接続している。また、所定の電圧が印可される電圧端子T1と入力端子Tin及びコイルL12の間の接続ノードとの間に第1抵抗R1が接続し、この接続ノードにジョセフソン接合JJ1が接続している。ジョセフソン接合JJ1は接続ノードと接地との間に接続されている。また、所定の電圧が印可される電圧端子T2とコイルL12及びコイルL23の間の接続ノードとの間に抵抗R2が接続し、この接続ノードにジョセフソン接合JJ2が接続している。ジョセフソン接合JJ2も接続ノードと接地との間に接続されている。
また、所定の電圧が印可される電圧端子T3とコイルL23及びコイルL34の間の接続ノード(第2接続ノード)との間に抵抗RM(第2抵抗)が接続し、この接続ノードにジョセフソン接合JJ3(第3ジョセフソン接合)が接続している。ジョセフソン接合JJ3も接続ノードと接地との間に接続されている。また、所定の電圧が印可される電圧端子T4とコイルL34及びコイルL45の間の接続ノードとの間に抵抗R4が接続し、この接続ノードにジョセフソン接合JJ4が接続している。ジョセフソン接合JJ4も接続ノードと接地との間に接続されている。また、所定の電圧が印可される電圧端子T5とコイルL45及び出力端子Toutの間の接続ノードとの間に抵抗R5が接続し、この接続ノードにジョセフソン接合JJ5が接続している。ジョセフソン接合JJ5も接続ノードと接地との間に接続されている。
また、図1に示す等価回路において、入力端子Tinから、入力電流Iinが入力される。このとき、入力電流Iinは、三角波の形をなし、単一磁束量子(SFQ)と同一のものである。このSFQが、各々のジョセフソン接合JJ1,JJ2,JJ3,JJ4,JJ5をすり抜けることができれば、示された出力端子Toutに、入力したSFQと同じ大きさの出力信号が現れる。上述した入力端子Tinから出力端子ToutまでのSFQの流れを制御することにより、出力信号が得られる状態、もしくは、出力信号が得られない状態とすることで、メモリ機能を持たせることができる。具体的には、抵抗RM(R3)を抵抗変化現象を発現する材料から構成することで実現する。
抵抗RMは、高抵抗状態(High-Resistance State:HRS)と低抵抗状態(Low-Resistance State:LRS)の2つの状態を持つ。この状態は、後に具体的に説明するが、外部からの電気信号(直流電圧やパルス電圧など)により、抵抗値が、繰り返し高くなりまた低くなるものである。言い換えると、抵抗RMは、HRSとLRSとが、外部からの電気信号により制御可能な素子である。
SFQを制御する図1に示す回路の場合、抵抗RMの抵抗状態がLRSの場合、他の抵抗R1、R2、R4、R5と同じ抵抗値である。また、抵抗RMの抵抗状態が、HRSの場合、LRSの場合の抵抗値よりも数桁大きい。従って、HRSの時の抵抗RMの抵抗値をRM,HRS、LRS時の抵抗RMの抵抗値をRM,LRSとすると、RM,HRS>>RM,LRS=R1=R2=R4=R5=Rという式が成立する。素子を動作させるときは、電圧源(不図示)から発生したV1=V2=V3=V4=V5=Vなる電圧を、電圧端子T1,T2,T3,T4,T5に供給する。
一般的に、超伝導状態は、小さな電流を流した場合は、永久電流が流れるが、ある大きさ以上の電流を流した場合、超伝導状態が崩れ、常伝導状態となることが知られている。この超伝導状態が維持できなくなる電流が、ジョセフソン臨界電流(Josephson critical current)と呼ばれている。なお、ジョセフソン臨界電流を超えて超伝導状態が維持できなくなっても、再びジョセフソン臨界電流以下にすることで、超伝導状態に戻る。
図1に示す等価回路のジョセフソン接合JJ1,JJ2,JJ4,JJ5のジョセフソン臨界電流は、V1=V2=V3=V4=V5=Vなる電圧と、RM,LRS=R1=R2=R4=R5=Rからなる電流IB=V/R以下になり、ジョセフソン接合JJ3のジョセフソン臨界電流は、RM,LRS=RM=Rからなる電流IBM=V/R以下になるように設計してある。つまり、各々のジョセフソン接合JJ1,JJ2,JJ4,JJ5にIBの電流が流れ、ジョセフソン接合JJ3にIBMの電流が流れていても超伝導状態は維持している。しかし、この状態に、入力端子TinにSFQの入力があった場合、つまり、各々のジョセフソン接合JJ1,JJ2,JJ4,JJ5に、IB+Iinの電流が入力され、ジョセフソン接合JJ3にIBM+Iinの電流が入力された場合、ジョセフソン臨界電流以上となり、超伝導状態が維持できなくなるように設計されている。
まず、抵抗RMの抵抗状態が、LRSの場合を考える。電圧端子T1,T2,T3,T4,T5からV1=V2=V3=V4=V5=Vなる電圧が供給され、RM,LRS=R1=R2=R4=R5=Rなので、ジョセフソン接合JJ1,JJ2,JJ4,JJ5には、IB=V/Rという電流が流れ、またRM,LRS=RM=Rなので、ジョセフソン接合JJ3にはIBM=V/Rという電流が流れている。ジョセフソン接合JJ1,JJ2,JJ3,JJ4,JJ5に流れる電流は、ジョセフソン臨界電流以下なので、超伝導状態は維持されている。
この時、入力端子Tinから、入力電流Iinの電流からなるSFQを入力する。入力されたSFQのIinと、電圧端子T1から供給された電圧によるIBにより、ジョセフソン接合JJ1の超伝導状態が維持できなくなり、ジョセフソン接合JJ1は常伝導状態となり、抵抗が発生する。すると、SFQは、抵抗の低いコイルL12に流れ、ジョセフソン接合JJ1を通り抜ける。
ジョセフソン接合JJ1を通り抜けてコイルL12に流れたSFQは、ジョセフソン接合JJ2に入力されるが、入力されたSFQのIinと、電圧端子T2から供給された電圧によるIBにより、ジョセフソン接合JJ2は超伝導状態を維持できなくなり常伝導状態となり、抵抗が発生する。すると、SFQは、抵抗の低いコイルL23に流れ、ジョセフソン接合JJ2を通り抜ける。
ジョセフソン接合JJ2を通り抜けてコイルL23に流れたSFQは、ジョセフソン接合JJ3に入力されるが、入力されたSFQのIinと、電圧端子T3から供給された電圧によるIBMにより、ジョセフソン接合JJ3は超伝導状態を維持できなくなり常伝導状態となり、抵抗が発生する。すると、SFQは、抵抗の低いコイルL34に流れ、ジョセフソン接合JJ3を通り抜ける。
ジョセフソン接合JJ3を通り抜けてコイルL34に流れたSFQは、ジョセフソン接合JJ4に入力されるが、入力されたSFQのIinと、電圧端子T4から供給された電圧によるIBにより、ジョセフソン接合JJ4は超伝導状態を維持できなくなり常伝導状態となり、抵抗が発生する。すると、SFQは、抵抗の低いコイルL45に流れ、ジョセフソン接合JJ4を通り抜ける。
最後に、ジョセフソン接合JJ4を通り抜けてコイルL45に流れたSFQは、ジョセフソン接合JJ5に入力されるが、入力されたSFQのIinと、電圧端子T5から供給された電圧によるIBにより、ジョセフソン接合JJ5は超伝導状態を維持できなくなり常伝導状態となり、抵抗が発生する。すると、SFQは、ジョセフソン接合JJ5を通り抜け、出力端子Toutに出力され、結果的に、出力端子Toutにおいて出力信号が観測できる。SFQが通り抜けた後のジョセフソン接合JJ1,JJ2,JJ3,JJ4,JJ5は、ジョセフソン臨界電流以下となり超伝導状態に戻る。このように、R3=RMの抵抗状態が低抵抗状態(LRS)の場合は、入力端子TinにSFQを入力すると、出力端子Toutに出力信号が観測される。
次に、抵抗RMの抵抗状態が、HRSの場合を考える。この場合、ジョセフソン接合JJ3に流れる電流IBMは、IBM=RM,HRSであるが、RM,HRS>>RM,LRSであるため、V/RM,LRS5>>V/とRM,HRSなり、IBMはほとんど流れなくなる。
この時、入力端子Tinから、入力電流Iinの電流からなるSFQが入力されると、このSFQのIinと電圧端子T1から供給された電圧によるIBにより、ジョセフソン接合JJ1の超伝導状態が維持できなくなり、ジョセフソン接合JJ1は常伝導状態となり、抵抗が発生する。この結果、前述同様に、SFQは、ジョセフソン接合JJ1を通り抜ける。このことは、ジョセフソン接合JJ2においても同様である。
しかしながら、ジョセフソン接合JJ3においては、この状態が異なる。上述したように、抵抗RMの抵抗状態がHRSの場合、電流IBMが十分小さいために、SFQによるIinが入力されてIin+IBMの電流がジョセフソン接合JJ3に入力されても、ジョセフソン接合JJ3は超伝導状態を維持する。このため、コイルL23を経由してきたSFQは、ジョセフソン接合JJ3を通過できずに、反射されてしまう。結果として、出力端子Toutにおいては出力信号が観測できない。このように、R3=RMの抵抗状態が、高抵抗状態(HRS)の場合は、入力端子TinにSFQを入力しても出力端子Toutに出力信号は観測できない。
図2に、図1に示した等価回路における抵抗変化する抵抗RMの抵抗状態と入力信号と出力信号の関係をまとめる。入力信号がない場合は、出力信号は得られない。入力信号を入力しても、抵抗RMの抵抗状態がHRSの場合は、出力信号は得られない。抵抗RMの抵抗状態がLRS(=R1=R2=R4=R5)の場合に初めて出力信号が得られる。つまり、抵抗RMの抵抗状態を制御することにより、SFQの流れを制御し、出力端子Tinの信号の出力する/しないが制御できる。
以下、上述した本実施の形態におけるメモリ装置(回路)を実現する手段について説明する。ジョセフソン接合を形成するのは、ある温度以下になると超伝導状態をなすものである。超伝導体には、単体の元素で最も超伝導転移温度が高いニオブ(Nb)をはじめ、1980年代に発見されたYBa2Cu3O7-x(YBCO:Y123)、Bi2Sr2Ca2Cu3O10(BSCCO:Bi2223ビスコ)、La−Ba−Cu−Oをはじめとする銅酸化物高温超伝導体(ほとんどの場合、ペロブスカイト構造)、また、今世紀になって見つかった2ホウ化マグネシウム(MgB2)などが挙げられる。
一方、抵抗変化現象を発現する材料には、PrCaMnOなどのマンガン酸化物や、SrTiOに金属元素をドープしたもの、NiOやTiO、CuOなどの遷移金属酸化物などがある。発明者らは、強誘電体でもあるチタン酸ビスマス膜中にこの抵抗変化現象を見いだしている。例えば、図3の断面図に示すように、上述した抵抗スイッチ現象を起こす強誘電体よりなる金属酸化物層104を、下部電極層103と上部電極105との間に挟み、上部電極105と下部電極層103との間に電圧を印加することにより、金属酸化物層104の抵抗値が高抵抗状態から低抵抗状態へ、また、低抵抗状態から高抵抗状態へスイッチングする現象が可逆的に安定に現れる。この現象は、巨大電界抵抗変化(Colossalelectro-resistance:CER)効果とも呼ばれ、この現象を応用したRRAM(ResistanceRAM、ReRAM)が、ポストフラッシュメモリとして注目されている。
以下、図1の回路を実現するための抵抗変化現象を起こす抵抗RMについて図3を用いて具体的に説明する。まず、図3に示す素子について説明する。この素子は、例えば、単結晶シリコンからなる基板101の上に絶縁層102,下部電極層103,BiとTiとOとから構成された膜厚30〜200nm程度の金属酸化物層104(抵抗RM),上部電極105を備えるようにしたものである。
基板101は、半導体,絶縁体,金属などの導電性材料のいずれから構成されていてもよい。基板101が絶縁材料から構成されている場合、絶縁層102はなくてもよい。また、基板101が導電性材料から構成されている場合、絶縁層102,下部電極層103はなくてもよく、この場合、導電性材料から構成された基板101が、下部電極となる。
下部電極層103,上部電極105は、例えば、白金(Pt)、ルテニウム(Ru)、金(Au)、銀(Ag)などの貴金属を含む遷移金属の金属から構成されていればよい。また、下部電極層103,上部電極105は、窒化チタン(TiN)、窒化ハフニウム(HfN)、ルテニウム酸ストロンチウム(SrRuO2)、酸化亜鉛(ZnO)、鉛酸スズ(ITO)、フッ化ランタン(LaF3)などの遷移金属の窒化物や酸化物やフッ化物等の化合物、さらに、これらを積層した複合膜であってもよい。
絶縁層102は、二酸化シリコン,シリコン酸窒化膜,アルミナなどをはじめ、リチウム,ベリリウム,マグネシウム,カルシウムなどの軽金属から構成されたLiNbO3などの酸化物、LiCaAlF6、LiSrAlF6、LiYF4、LiLuF4、KMgF3などのフッ化物から構成されていればよい。また、絶縁層102は、スカンジウム,チタン,ストロンチウム,イットリウム,ジルコニウム,ハフニウム,タンタル,及び、ランタン系列を含む遷移金属の酸化物及び窒化物、又は、以上の元素を含むシリケート(金属、シリコン、酸素の三元化合物)、及び、これらの元素を含むアルミネート(金属、アルミニウム、酸素の三元化合物)、さらに、以上の元素を2以上含む酸化物及び窒化物などから構成されていてもよい。さらにまた、これらの絶縁材料からなる膜の多層構造であってもよい。
上記素子の具体例について説明すると、例えば、下部電極層103は、膜厚10nmのTi層と膜厚10nmのPt層との積層構造であり、金属酸化物層104は、膜厚30nmのBi4Ti3O12膜であり、上部電極105は、金から構成されたものである。なお、前述したように、基板101及び絶縁層102の構成は、これに限るものではなく、電気特性に影響を及ぼさなければ、他の材料も適当に選択できる。
以上で説明した、絶縁層102、下部電極層103、金属酸化物層104、及び上部電極105は、具体的な製法については後述するが、図4に示すようなECRスパッタ装置により金属ターゲットや金属ターゲットを、アルゴンガス、キセノンガス、酸素ガス、窒素ガスからなるECRプラズマをプラズマ源で発生させ、発生させたプラズマ中の粒子を用いてスパッタリングして形成すればよい。
ここで、ECRスパッタ装置について、図4の概略的な断面図を用いて説明する。図4に示すECRスパッタ装置は、まず、処理室401とこれに連通するプラズマ生成室402とを備えている。処理室401は、図示していない真空排気装置に連通し、真空排気装置によりプラズマ生成室402とともに内部が真空排気される。
処理室401には、膜形成対象の基板101が固定される基板ホルダ404が設けられている。基板ホルダ404は、図示しない回転機構により所望の角度に傾斜し、かつ回転可能とされている。基板ホルダ404を傾斜して回転させることで、堆積させる材料による膜の面内均一性と段差被覆性とを向上させることが可能となる。また、処理室401内のプラズマ生成室402からのプラズマが導入される開口領域において、開口領域を取り巻くようにリング状のターゲット405が備えられている。
ターゲット405は、絶縁体からなる容器405a内に載置され、内側の面が処理室401内に露出している。また、ターゲット405には、マッチングユニット421を介して高周波電源422が接続され、例えば、13.56MHzの高周波が印加可能とされている。ターゲット405が導電性材料の場合、直流を印加するようにしても良い。なお、ターゲット405は、上面から見た状態で、円形状だけでなく、多角形状態であっても良い。
プラズマ生成室402は、真空導波管406に連通し、真空導波管406は、石英窓407を介して導波管408に接続されている。導波管408は、図示していないマイクロ波発生部に連通している。また、プラズマ生成室402の周囲及びプラズマ生成室402の上部には、磁気コイル(磁場形成手段)410が備えられている。これら、マイクロ波発生部、導波管408,石英窓407,真空導波管406により、マイクロ波供給手段が構成されている。なお、導波管408の途中に、モード変換器を設けるようにする構成もある。
図4のECRスパッタ装置の動作例について説明すると、まず、処理室401及びプラズマ生成室402内を真空排気した後、不活性ガス導入部411より不活性ガスであるArガス又はXeガスを導入し、また、反応性ガス導入部412より反応性ガスを導入し、プラズマ生成室402内を例えば10-5〜10-4Pa程度の圧力にする。この状態で、磁気コイル410よりプラズマ生成室402内に0.0875T(テスラ)の磁場を発生させた後、導波管408,石英窓407,及び真空導波管406を介してプラズマ生成室402内に2.45GHzのマイクロ波を導入し、電子サイクロトロン共鳴(ECR)プラズマを発生させる。なお、1T=10000ガウスである。
ECRプラズマは、磁気コイル410からの発散磁場により、基板ホルダ404の方向にプラズマ流を形成する。生成されたECRプラズマのうち、電子は磁気コイル410で形成される発散磁場によりターゲット405の中を貫通して基板101の側に引き出され、基板101の表面に照射される。このとき同時に、ECRプラズマ中のプラスイオンが、電子による負電荷を中和するように、すなわち、電界を弱めるように基板101側に引き出され、成膜している層の表面に照射される。このように各粒子が照射される間に、プラスイオンの一部は電子と結合して中性粒子となる。
なお、図4の薄膜形成装置では、図示していないマイクロ波発生部より供給されたマイクロ波電力を、導波管408において一旦分岐し、プラズマ生成室402上部の真空導波管406に、プラズマ生成室402の側方から石英窓407を介して結合させている。このようにすることで、石英窓407に対するターゲット405からの飛散粒子の付着が、防げるようになり、ランニングタイムを大幅に改善できるようになる。また、処理対象の基板とターゲット405との間にシャッターなどを設け、基板に対する原料の到達を制御してもよい。
次に、図3を用いて説明した素子の製造方法例について、図5を用いて説明する。まず、図5(a)に示すように、主表面が面方位(100)で抵抗率が1〜2Ω-cmのp形のシリコンからなる基板101を用意し、基板101の表面を硫酸と過酸化水素水の混合液と純水と希フッ化水素水とにより洗浄し、この後、乾燥させる。次いで、洗浄・乾燥した基板101の上に、絶縁層102が形成された状態とする。絶縁層102の形成では、上述したECRスパッタ装置を用い、ターゲット405として純シリコン(Si)を用い、プラズマガスとしてアルゴン(Ar)と酸素ガスを用いたECRスパッタ法により、基板101の上に、表面を覆う程度にSi−O分子によるメタルモードの絶縁層102を形成する。
例えば、10-4〜10-5Pa台の高真空状態の圧力に設定されているプラズマ生成室402内に、不活性ガス導入部411より例えば希ガスであるアルゴン(Ar)ガスを流量20sccm程度で導入する。また、反応性ガス導入部412より反応性ガスである酸素ガスを流量5sccm程度で挿入する。このように各ガスを導入し、ECRスパッタ装置の内部圧力を10-3〜10-2Pa程度にする。この状態で、プラズマ生成室402に、2.45GHzのマイクロ波(500W程度)と0.0875Tの磁場とを供給して電子サイクロトロン共鳴条件とすることで、プラズマ生成室402内にArのプラズマが生成された状態とする。なお、sccmは流量の単位あり、0℃・1気圧の流体が1分間に1cm3流れることを示す。また、T(テスラ)は、磁束密度の単位であり、1T=10000ガウスである。
上述したことにより生成されたプラズマは、磁気コイル410の発散磁場によりプラズマ生成室402より処理室401の側に放出される。また、プラズマ生成室402の出口に配置されたターゲット405に、高周波電源422より13.56MHzの高周波電力(例えば500W)を供給する。このことにより、ターゲット405にArイオンが衝突してスパッタリング現象が起こり、Si粒子が飛び出す。ターゲット405より飛び出したSi粒子は、プラズマ生成室402より放出されたプラズマ、及び導入されてプラズマにより活性化された酸素ガスと共に基板101の表面に到達し、活性化された酸素により酸化され二酸化シリコンとなる。以上のことにより、基板101上に二酸化シリコンからなる例えば100nm程度の膜厚の絶縁層102が形成された状態とすることができる(図5(a))。
なお、絶縁層102は、この後に形成する下部電極層103と上部電極105に電圧を印加した時に、基板101に電圧が漏れて、所望の電気的特性に影響することがないように絶縁を図るものである。例えば、シリコン基板の表面を熱酸化法により酸化することで形成した酸化シリコン膜を絶縁層102として用いるようにしてもよい。絶縁層102は、絶縁性が保てればよく、酸化シリコン以外の他の絶縁材料から構成してもよく、また、絶縁層102の膜厚は、100nmに限らず、これより薄くてもよく厚くてもよい。絶縁層102は、上述したECRスパッタによる膜の形成では、基板101に対して加熱はしていないが、基板101を加熱しながら膜の形成を行ってもよい。
以上のようにして下地絶縁層を形成した後、基板を装置内より大気中に搬出した後、図5(b)に示すように、形成されている絶縁層102の上に、下部電極層103が形成された状態とする。下部電極層103は、以下に説明するように、チタン層と白金層とから構成する。これらチタン層及び白金層は、上述したECRスパッタ装置を用い、処理室401内の基板ホルダ404に基板101を固定し、ターゲット405として純チタン(Ti)及び純白金(Pt)を用い、プラズマガスとしてキセノン(Xe)を用いたECRスパッタ法により、表面を覆う程度にTi層及びこの上にPt層が形成された状態とする。
はじめに、チタン層の形成について詳述すると、前述したECRスパッタ装置において、まず、プラズマ生成室402の内部を10-4〜10-5Pa台の高真空状態に真空排気した後、プラズマ生成室402内に、不活性ガス導入部411より、例えばXeガスを流量26sccm導入し、プラズマ生成室402内の圧力を例えば10-1〜10-2Pa台に設定する。なお、sccmは流量の単位であり、0℃で1気圧の流体が1分間に1cm3流れることを示す。また、プラズマ生成室402内には、磁気コイル410にコイル電流を例えば26Aで供給することで電子サイクロトロン共鳴条件の磁場を与える。
加えて、図示していないマイクロ波発生部より、例えば2.45GHzのマイクロ波(例えば500W)を供給し、これを導波管408,石英窓407,真空導波管406を介してプラズマ生成室402内に導入し、このマイクロ波の導入により、プラズマ生成室402にプラズマ(ECRプラズマ)が生成された状態とする。
この生成されたプラズマは、磁気コイル410の発散磁場によりプラズマ生成室402より処理室401の側に放出される。また、プラズマ生成室402の出口に配置されたTiよりなるターゲット405に、高周波電源422より高周波電力(例えば500W)を供給する。このことにより、ターゲット405にXe粒子が衝突してスパッタリング現象が起こり、Ti粒子がターゲット405より飛び出す。ターゲット405より飛び出したTi粒子は、絶縁層102に到達し、このことにより、絶縁層102の上にTiが堆積してチタン層が形成される。
以上に説明したECRスパッタ法によるTiの堆積で、例えば、膜厚10nm程度のチタン層が形成された状態が得られる。この後、前述したシャッターを閉じた状態としてスパッタされた原料が基板101に到達しないようにすることで、成膜を停止する。この後、マイクロ波電力の供給を停止することなどによりプラズマ照射を停止し、各ガスの供給を停止し、基板101温度を所定の値までに低下させ、処理室401の内部より絶縁層102の上にチタン層が形成された基板101を搬出する。なお、チタン層の膜厚は、膜厚は10nmに限るものではない。
次に、白金層の形成について、詳述すると、前述したECRスパッタ装置において、まず、プラズマ生成室402の内部を10-4〜10-5Pa台の高真空状態に真空排気した後、プラズマ生成室402内に、不活性ガス導入部411より、例えばXeガスを流量10sccm導入し、プラズマ生成室402内の圧力を例えば10-1〜10-2Pa台に設定する。また、プラズマ生成室402内には、磁気コイル410にコイル電流を例えば26Aで供給することで電子サイクロトロン共鳴条件の磁場を与える。
加えて、図示していないマイクロ波発生部より、例えば2.45GHzのマイクロ波(例えば800W)を供給し、これを導波管408,石英窓407,真空導波管406を介してプラズマ生成室402内に導入し、このマイクロ波の導入により、プラズマ生成室402にプラズマ(ECRプラズマ)が生成された状態とする。
この生成されたプラズマは、磁気コイル410の発散磁場によりプラズマ生成室402より処理室401の側に放出される。また、プラズマ生成室402の出口に配置されたPtよりなるターゲット405に、高周波電源422より高周波電力(例えば500W)を供給する。このことにより、ターゲット405にXe粒子が衝突してスパッタリング現象が起こり、Pt粒子がターゲット405より飛び出す。ターゲット405より飛び出したPt粒子は、既に形成されているチタン層に到達し、このことにより、チタン層の上にPtが堆積して白金層が形成される。
以上に説明したECRスパッタ法によるPtの堆積で、例えば、膜厚10nm程度の白金層が形成された状態が得られる。この後、前述したシャッターを閉じた状態としてスパッタされた原料が基板101に到達しないようにすることで、成膜を停止する。この後、マイクロ波電力の供給を停止することなどによりプラズマ照射を停止し、各ガスの供給を停止し、基板101温度を所定の値までに低下させ、処理室401の内部よりチタン層の上に白金層が形成された基板101を搬出する。なお、白金層の膜厚は、膜厚は10nmに限るものではない。以上のことにより、チタン層及びこの上に形成された白金層よりなる下部電極層103が形成された状態が得られる(図5(b))。
以上のようにして、所望の膜厚に下部電極層103が形成された状態とした後、図5(c)に示すように、下部電極層103の上に接して金属酸化物層104が形成された状態とする。金属酸化物層104の形成では、上述同様のECRスパッタ装置を用い、処理室401内の基板ホルダ404に基板101を固定し、ターゲット405としてBiとTiの割合が4:3の焼結体(Bi−Ti−O)を用い、プラズマガスとしてArと酸素(O2)を用いたECRスパッタ法により、下部電極層103の表面を覆う程度に金属酸化物層104が形成された状態とする。
金属酸化物層104の形成について詳述すると、前述したECRスパッタ装置において、まず、プラズマ生成室402の内部を10-4〜10-5Pa台の高真空状態に真空排気した後、基板101が30℃〜700℃に加熱された状態とし、また、プラズマ生成室402内に、不活性ガス導入部411より、例えばArガスを流量20sccm導入し、プラズマ生成室402内の圧力を例えば10-2〜10-3Pa台に設定する。また、プラズマ生成室402内には、磁気コイル410にコイル電流を例えば27Aで供給することで電子サイクロトロン共鳴条件の磁場を与える。
加えて、図示していないマイクロ波発生部より、例えば2.45GHzのマイクロ波(例えば500W)を供給し、これを導波管408,石英窓407,真空導波管406を介してプラズマ生成室402内に導入し、このマイクロ波の導入により、プラズマ生成室402にプラズマ(ECRプラズマ)が生成された状態とする。
この生成されたプラズマは、磁気コイル410の発散磁場によりプラズマ生成室402より処理室401の側に放出される。また、プラズマ生成室402の出口に配置されたターゲット405に、高周波電源422より高周波電力(例えば500W)を供給する。このことにより、ターゲット405にAr粒子が衝突してスパッタリング現象を起こし、Bi粒子とTi粒子がターゲット405より飛び出す。
ターゲット405より飛び出したBi粒子とTi粒子は、プラズマ生成室402より放出されたプラズマ、及び、反応性ガス導入部412より導入されてプラズマにより活性化した酸素ガスとともに、下部電極層103の表面に到達し、活性化された酸素により酸化される。酸素ガスは、反応性ガス導入部412より、例えば1sccm程度で導入されていればよい。ターゲット405は焼結体であり、酸素が含まれるが、酸素を供給することにより堆積している膜中の酸素不足を防ぐことができる。なお、基板101の温度条件は、後述するように、30〜180℃としてもよい。
以上に説明したECRスパッタ法による膜の形成で、例えば、膜厚30nm程度の金属酸化物層104が、下部電極層103の上に形成された状態が得られる(図5(b))。この後、前述したシャッターを閉じた状態としてスパッタされた原料が基板101に到達しないようにすることで、成膜を停止する。この後、マイクロ波電力の供給を停止することなどによりプラズマ照射を停止し、各ガスの供給を停止し、基板101の温度を所定の値までに低下させ、処理室401の内部より金属酸化物層104が形成された基板101を搬出する。
次いで、図5(c)に示すように、金属酸化物層104の上に所定の面積の金からなる上部電極105が形成された状態とする。例えば、よく知られたフォトリソグラフィ技術とエッチング技術とによりパターニングで金膜を加工することで、所定の面積の上部電極105が形成可能である。なお、上部電極105は、金に限らず、例えばRu、Pt、窒化チタンなどの他の金属材料や導電性材料から構成してもよい。
次に、上述したようにECRスパッタ法により形成される金属酸化物層104について、より詳細に説明する。発明者らは、ECRスパッタ法を用いたBiとTiと酸素からなる金属酸化物層の形成について注意深く観察を繰り返すことで、温度によって形成される金属酸化物層の膜特性が制御できることを見い出した。なお、このスパッタ成膜では、BiとTiが4:3の組成を持つように形成された酸化物焼結体ターゲットを用いている。
図6に示す特性は、上記スパッタ成膜における基板温度に対する成膜速度と屈折率の変化を示したものである。図6には、前述したECRスパッタ法による金属酸化物層104の形成時と同じガス条件で成膜した場合が示してある。図6に示すように、成膜速度と屈折率が、温度とともに変化することがわかる。
まず、屈折率に注目すると、約250℃程度までの低温領域では、屈折率は約2と小さくアモルファス的な特性を示している。300℃〜600℃での中間領域では、屈折率は約2.6と論文などで報告されているバルクに近い値となり、Bi4Ti3O12の結晶化が進んでいることがわかる。これらの数値に関しては、例えば、山口らのジャパニーズ・ジャーナル・アプライド・フィジクス、第37号、5166−5170頁、1998年、(M. Yamaguchi, et al. "Effect of Grain Size on Bi4Ti3O12 Thin Film Properties",Jpn.J.Appl.Phys.,37,pp.5166-5170,(1998).)などを参考にしていただきたい。
しかし、約600℃を超える温度領域では、屈折率が大きくなり、表面モフォロジ(表面凹凸)が大きくなってしまい、結晶性が変化しているものと思われる。この温度はBi4Ti3O12のキュリー温度である675℃よりも低いが、成膜している基板表面にECRプラズマが照射されることでエネルギーが供給され、基板表面の温度が上昇して酸素欠損などの結晶性が悪化しているとすれば、上述した結果に矛盾はないものと考える。
成膜速度の温度依存性についてみると、約180℃までは、温度とともに成膜速度が上昇する。しかし、約180℃から300℃の領域で、急激に成膜速度が低下する。約300℃に達すると成膜速度は600℃まで一定となる。この時の各酸素領域における成膜速度は、酸素領域Cが約3nm/minであった。
次に、X線回折により、各温度領域で形成された膜の結晶性の解析を行った。室温約30℃から180℃までの低温領域においては、アモルファス(非晶質)であることが確認された。また、180℃から300℃の温度領域では、微結晶より構成されていることが確認された。また、300℃以上の温度領域では、(117)方向に配向した膜であることがわかった。
300℃以上の温度領域における金属酸化物層の状態について、透過型電子顕微鏡により断面形状を観察すると、図7の構成図及び図8の顕微鏡写真に示すような結果を得た。膜の形成では、420℃の成膜温度で、シリコン基板701の上に直接BiとTiと酸素からなる金属酸化物を堆積した。
図7及び図8に示す結果から、形成された金属酸化物層704は、Bi4Ti3O12の化学量論的組成に比較して過剰なTiを含む基部層の中に、Bi4Ti3O12の化学量論的組成の3nm〜15nm程度の複数の微結晶粒から成り立っていることがわかった。微結晶粒への電子線回折により、微結晶粒はBi4Ti3O12の(117)面を持つことが確認された。
また、図8の写真の詳細な観察により、金属酸化物層704とシリコン基板701と界面に、界面層702及び界面層703の存在が判明した。界面層702は、シリコン基板701が酸化されて形成されたものであり、界面層703は、BiとTiがシリコンと反応して形成されたものであることが確認されている。
次に、上述した420℃程度の成膜温度により形成した金属酸化物層の特性について説明する。この特性は、Ruから構成した下部電極層と上部電極との間に上記金属酸化物層を挟んだ素子を形成し、下部電極層と上部電極との間に、適度な電圧を印加することで調査されたものである。下部電極層と上部電極との間に電源により電圧を印加し、電圧を印加したときの電流を電流計により観測すると、図9に示す結果が得られた。図9において、横軸に上部電極に印加した電圧値を取り、縦軸に電流値の絶対値を対数表示してある。
以下、図9を用いて上述した素子(金属酸化物層)の特性について説明するが、ここで説明する電圧値や電流値は、実際の素子で観測されたものを例として使用している。従って、本現象は、以下に示す数値に限るものではない。実際に素子に用いる膜の材料や膜厚、その他の条件により、他の数値が観測されることがある。また、以下では、上部電極に対する電圧印加を基準に、正の電圧印加と負の電圧印加を説明しているが、下部電極層に対する電圧印加を基準とした場合は、正と負との関係が逆転する。
まず、上部電極に正の電圧を印可すると、図9中の[1]に示すように、0〜0.8Vの範囲では、例えば+0.5Vの印加で10-6Aと電流は少なく、高抵抗の状態である。これに対し、図9中の[2]に示すように、印加する電圧が0.8Vを超えると、急に正電流が流れて低抵抗状態となる。ただし、図9中の[2]に示すような正電流が流れる状態とならないように、0〜0.8Vの範囲で電圧を印可している場合は、[1]に示すような高抵抗状態が維持される。
また、図9中の[2]に示すように低抵抗状態となった後に、上部電極に正電圧を印可すると、図9中の[3]に示すように、0.5V程度の電圧印加で1×10-5A程度の正電流が流れる。この状態より、上部電極に負電圧を印可しても、図9中の[4]に示すように、−0.5V程度の電圧印加で3×10-5A程度の電流が流れ、低抵抗の状態が維持される。
これに対し、上部電極に−0.8Vを超える負の電圧を印可すると、図9中の[5]に示すように、急激に電流が流れなくなり、高抵抗状態へと遷移する。この状態となった後、図9中の[6]に示すように負電圧を印可しても、−0.5Vの電圧印加で流れる電流は10-6A以下であり、高抵抗状態が維持される。
この状態において、今度は上部電極に正電圧を印可すると、図9中の[1]に示すように、+0.8V程度の電圧印加までは高抵抗状態が維持されるが、+0.8Vを超える正電圧の印加により、図9中の[2]に示すように、低抵抗状態へと遷移する。
以上に説明したように、上述した金属酸化物層を用いた素子によれば、高抵抗状態と低抵抗状態とが可逆的にスイッチする現象が安定に観察される。
また、発明者らは、30〜180℃程度の十分低い温度領域での、前述したECRスパッタによる金属酸化物層の成膜について検討した。この低温度の領域は、図6に示すように、屈折率が約2.0〜2.1で、成膜速度が温度上昇により大きくなる領域である。ただし、基板温度が30℃の場合、つまり、基板加熱を行わない場合、成膜される基板表面の実際の温度は、エネルギーを持ったECRプラズマが照射するため、約100℃まで上昇することが確認されている。しかし、基板温度を100℃〜150℃とした場合は、基板加熱する温度とプラズマにより加熱される温度が同程度となり、温度コントローラーの制御により基板加熱が抑制され、基板表面の温度は、約130℃〜180℃程度となる。
この低温領域において、ECRスパッタ法を用いてBiとTiと酸素からなる金属酸化物層をシリコン基板上に形成した。この時の透過型電子顕微鏡の断面観察したものを図10の顕微鏡写真に示す。具体的には、基板加熱は行わず、上記に示したECRスパッタ法を用いた金属酸化物層のガス条件を用いて成膜した。図10に示すように、基板加熱を行わずに堆積したにも拘わらず、形成された金属酸化物層の中に3nm〜5nmの微粒子が存在していることがわかる。
上記微粒子とこの周辺部分について、電子線を照射して照射箇所から発生した特性X線を、直接半導体検出器で検出し、電気信号に変えて分析する手法により組成を分析した結果、基部層(微粒子ではないところ)は、Bi4Ti3O12の化学量論的組成よりもTiが過剰に含まれていること、微粒子は、基部層よりもBiが多く含まれており、Bi4Ti3O12の化学量論的組成に近いことがわかった。測定した微粒子は、3nm〜5nmと極めて小さいために電子線回折での正確な組成を同定するのは難しいが、300℃以上の高温領域において観測された基部層及び微結晶と同様の構造が確認できた。
前述に図6を用いて説明したように、XRDの結果から、低温で成膜したものについては、アモルファス(非結晶)状態であることが確認されている。このような、低温成膜で微粒子が確認されることは今までになく、10〜30eV程度の適度なエネルギーを持つECRスパッタ法により成膜したために観測されたものと考えている。BiとTiと酸素からなる金属酸化物層を30℃〜180℃の低温領域でシリコン基板の上に成膜した場合、図7及び図8に見られたような、界面層702及び界面層703は観測されない。このように低温で成膜した場合、図11の模式的な断面図に示すように、シリコン1101と形成された金属酸化物層1104との界面は、良好な状態であった。
さらに、発明者らは、上述した低温領域で形成したBiとTiと酸素からなる金属酸化物層においても、以下に説明するように2つの抵抗状態が保持される特性を見いだした。この特性は、上述同様に、下部電極層と上部電極との間に低温領域で形成した金属酸化物層を挟んだ素子を形成し、下部電極層と上部電極との間に、適度な電圧を印加することで調査されたものである。下部電極層と上部電極との間に電源により電圧を印加し、電圧を印加したときの電流を電流計により観測すると、図12に示す結果が得られた。図12において、横軸に上部電極に印加した電圧値を取り、縦軸に電流値の絶対値を対数表示してある。
以下、図12を用いて上述した素子(金属酸化物層)の特性について説明するが、ここで説明する電圧値や電流値も、実際の素子で観測されたものを例として使用している。従って、本現象も、以下に示す数値に限るものではない。実際に素子に用いる膜の材料や膜厚、その他の条件により、他の数値が観測されることがある。また、以下でも、上部電極に対する電圧印加を基準に、正の電圧印加と負の電圧印加を説明しているが、下部電極層に対する電圧印加を基準とした場合は、正と負との関係が逆転する。
まず、上部電極に正の電圧を印可すると、図12中の[1]に示すように、0〜1.7Vの範囲では、例えば+0.3Vの印加で10-6A以下と電流は少なく、高抵抗の状態である。これに対し、図12中の[2]に示すように、印加する電圧が1.7Vを超えると、急に正電流が流れて低抵抗状態となる。ただし、図12中の[2]に示すような正電流が流れる状態とならないように、0〜1.7Vの範囲で電圧を印可している場合は、[1]に示すような高抵抗状態が維持される。
また、図12中の[2]に示すように低抵抗状態となった後に、上部電極に正電圧を印可すると、図12中の[3]に示すように、0.1V程度の電圧印加で1×10-4A程度の正電流が流れる。この状態より、上部電極に負電圧を印可しても、図12中の[4]に示すように、−0.5V程度の電圧印加で1×10-3A程度の電流が流れ、低抵抗状態が維持される。
これに対し、上部電極に−0.7Vを超える負の電圧を印可すると、図12中の[5]に示すように、急激に電流が流れなくなり、高抵抗状態へと遷移する。この状態となった後、図9中の[6]に示すように負電圧を印可しても、−0.5V程度の電圧印加で流れる電流は3×10-6A程度であり、高抵抗状態が維持される。
この状態において、今度は上部電極に正電圧を印可すると、図12中の[1]に示すように、+1.7V程度の電圧印加までは高抵抗状態が維持されるが、+1.7Vを超える正電圧の印加により、図12中の[2]に示すように、低抵抗状態へと遷移する。
以上に説明したように、上述した低温で形成した金属酸化物層を用いた素子においても、高抵抗状態と低抵抗状態とが可逆的にスイッチする現象が安定に観察される。
さらに、図1に示す回路を実現するためには、図3を用いて説明した素子が、超伝導体の超伝導状態が維持できる低温において、抵抗変化現象が起きるかどうかを確認する必要がある。そこで、ヘリウム温度までの低温においての抵抗変化現象の観測を行った。
一般的に、測定温度を変えた電気測定では、プローブと電極との間の接触抵抗の変化が問題となる。各々の熱膨張率が異なるために、応力などが変化して接触抵抗がふらついて正確な抵抗測定ができなくなるためである。
このため、発明者らは、図13(a)に示すような4つの端子1301,1302,1303,1304を持つクロスポイント型構造の試料素子を用意した。なお図13(b)は、図13(a)に示す試料素子の等価回路である。この試料素子は、前述した構成の金属酸化物層1340が、端子1302と端子1304を備える下部電極1330と、端子1301と端子1303を備える上部電極1350に挾まれた構成となっている。また、端子1301と端子1304との間に電源1310と電流計1311が直列に接続されている。
また、等価回路において、V1,V2,V3,V4は、端子1301,1302,1303,1304における電圧であり、R1,R2,R3,R4は、各端子に接続する各プローブに関わる寄生抵抗であり、RMは、金属酸化物層1340の抵抗である。また、電源1310より電圧VBが供給される。上述した構成の試料素子を用いた測定システムは、金属酸化物層1340の抵抗RMを性格に測定するためのものである。
一般的な2つの端子を使用した抵抗測定では、例えば、図13(a)中の端子1301と端子1304に電圧を印加して、同時に端子1301と端子1304とで電流を読み取る。この時、図13(b)の等価回路を見ると、寄生抵抗R1と寄生抵抗R4とがあるために、印加した電圧VBは、測定しようとしている抵抗RMだけでなく、寄生抵抗R1及び寄生抵抗R4にも分配されてしまう。つまり、下部電極1330と上部電極1350との間に観測される電流IMは、IM=VB/(R1+R4+RM)となる。測定する温度が変化した場合、寄生抵抗に大きく寄与する接触抵抗が大きく変化するために正確なRMを測定できない。
以上の測定に対し、4端子法を用いて正確なRMを求めた。つまり、端子1301と端子1304の間に電流を流し、端子1302と端子1303と間の電圧を測定する。抵抗RMの直前の電圧をVMI、直後の電圧をVMOとすると、印加した電圧VBは既知なので、求める抵抗は、RM=VM/(VMI−VMO)から求められる。一方、VMI=V3,VMO=V2なので、RM=VM/(V3−V2)となり、端子1303と端子1302で測定される電圧の差を求めることで、抵抗RMを正確に求めることができる。この方法は、4端子法と呼ばれる。ここで、V3−V2=VMとして、試料素子電圧とする。
図13(a)の試料素子を用いて抵抗RMを測定した結果を図14に示す。ビスマスとチタンと酸素からなる金属酸化物層1340は、成膜温度450℃の条件で、Ruよりなる下部電極1330の上に形成した。また、上部電極1350もRuから構成した。また、金属酸化物層1340の膜厚は30nm、上部電極1350の膜厚は20nm、下部電極1330の膜厚は、20nmであった。また、試料素子は、液体ヘリウムに浸すことにより冷却を行った。
図14において、横軸に上部電極1350に印加した試料素子電圧を取り、縦軸に端子1303と端子1302との間で測定される電流値の絶対値を対数表示してある。測定は、250K(−23℃に相当)と4.2K(−269℃に相当)で行った。なお、250Kにおける結果は、白丸で示し、4.2Lにおける結果は黒丸で示している。
以下、図14を説明するが、ここで説明する電圧値や電流値は、実際の素子で観測されたものを例として使用している。従って、本現象は、以下に示す数値に限るものではない。実際に素子に用いる膜の材料や膜厚、その他の条件により、他の数値が観測されることがある。
まず、250Kの測定時に、上部電極1350に正の電圧を印加すると、0〜1.9Vでは、+0.1Vに対し10-7Aと電流は少なく高抵抗状態である。しかし、1.9Vを超えると急に正電流が流れ低抵抗状態となる。なお、急な正電流が流れる低抵抗状態とならないように、0〜1.9Vの電圧を印加している場合は、高抵抗状態が維持される。
1.9Vを超える正電圧印加により低抵抗状態となった状態で、上部電極1350に正電圧を印加すると、0.1V程度で1×10-3A程度の正電流が流れる。この状態で、上部電極1350に負電圧を印加すると、−0.1V程度で1×10-3A程度の電流が流れ、低抵抗状態であることがわかる。しかし、上部電極1350に−0.5Vを超える負電圧を印加すると、急激に電流が流れなくなり、高抵抗状態へと遷移する。
この状態となった後、負電圧を印加しても−0.1Vで1×10-7A程度の高抵抗状態が維持される。さらに続いて、上部電極1350に正電圧を印加すると、+1.9V程度までは高抵抗状態であるが、+1.9Vを超える正電圧の印加によって、低抵抗状態と遷移する。以下、高抵抗状態と低抵抗状態が可逆的にスイッチする現象が安定に観測される。
次に、試料素子を4.2Kまで冷却し、測定を行った。まず、上部電極1350に正の電圧を印加すると、0〜2.6Vでは、+0.1Vに対し10-11A以下と電流は少なく高抵抗状態である。しかし、印加電圧が2.6Vを超えると急に正電流が流れて低抵抗状態となる。急な正電流が流れる低抵抗状態とならないように、0〜2.6Vの電圧を印加している場合は、高抵抗状態が維持される。
2.6Vを超える正電圧印加により低抵抗状態となった状態で、上部電極1350に正電圧を印加すると、0.1V程度で1×10-3A程度の正電流が流れる。この状態で、上部電極1350に負電圧を印加すると、−0.1V程度で1×10-3A程度の電流が流れ、低抵抗状態であることがわかる。しかし、上部電極1350に−0.8Vを超える負電圧を印加すると、急激に電流が流れなくなり、高抵抗状態と遷移する。
この状態となった後、負電圧を印加しても−0.1Vで1×10-11A程度の高抵抗状態を維持される。さらに続いて、上部電極1350に正電圧を印加すると、+2.6V程度までは高抵抗状態であるが、+2。6Vを超える正電圧の印加によって、低抵抗状態と遷移する。以下、高抵抗状態と低抵抗状態が可逆的にスイッチする現象が安定に観測できる。
以上に示したように、特筆すべきは、極低温状態の4.2Kにおいても、安定な抵抗変化現象が観測されることである。
図15に、測定温度を変化させたときの高抵抗状態と低抵抗状態の0.1V時の電流比を示す。この電流比は、On状態とOff状態の抵抗比(On/Off)に相当する。図15より、室温(300K)状態では、4桁程度のOn/Off比であったのに対し、温度を下げてゆくと、On/Off比は上昇し、50K以下では、7桁以上のOn/Off比を得ることができる。つまり、低温化しても抵抗状態を容易に判別することが可能であり、低温にすればするほど容易な判別が可能となることを意味している。
これは、超伝導体が超伝導現象を維持できるだけの十分低温で、上記メモリ素子(金属酸化物層)のメモリ動作が可能であることを示しており、この素子が、図1に示す等価回路による本実施の形態のメモリ装置を実現できることを示している。
抵抗変化現象を発現する金属酸化物層について、製造方法と特性を示したが、本メモリ装置を実現するための製造方法についても説明する。
前述したが、超伝導状態を実現する超伝導体は、一般的なジョセフソン伝送線路(JTL)と同様の作製方法を取り入れればよい。抵抗変化現象を示す抵抗RM(金属酸化物層)を形成するプロセスを追加することにより、本実施の形態におけるメモリ装置が実現できる。
上記に説明したように、抵抗変化現象を示すビスマスとチタンからなる金属酸化物層は、無加熱から600℃付近までの温度領域で成膜することができる。このため、超伝導体材料の成膜条件に合わせて金属酸化物層が形成可能である。さらに、図1の等価回路に示すように、ジョセフソン伝送線路中に抵抗変化現象を示す抵抗RMを配置するだけで良く、大容量化に優位である。図16に、本実施の形態のメモリ装置(セル)を、メモリエリア1501に集積化した場合のNOR型回路の構成図を示す。
この装置では、メモリエリア1501にN×Nのマトリクスのメモリアレイを備え、また、X及びY軸方向のSFQ−NORデコーダ回路、X及びY軸方向のドライバ回路、クロック回路、インプット端子、アウトプット端子、インピーダンスマッチング線を備え、また、図示していないアドレスバッファ回路、図示していないデータの読み出し/書き込みコンバータ回路を備えている。例えば、X軸のSFQ−NORアドレス回路で選択され、X軸のドライバ回路により電圧印加されたワード線上と、Y軸のSFQ−NORアドレス回路で選択され、Y軸のドライバ回路により電圧印加されたビット線上の重なりあったメモリセルが選択され、選択されたメモリセルの状態を読み出すことで、メモリ状態をセンスすることができる。また、同様に選択したメモリセルのメモリ状態を変更することが可能である。
ところで、上述した本発明の実施の形態では、抵抗変化を示す金属酸化物層として、チタン酸ビスマス膜を用いたが、これに限るものではなく、他の金属酸化物からなる層を用いてもよい。例えば、ペロブスカイト構造を持つ材料、又は、擬イルメナイト構造を持つ材料、さらに、タングステン・ブロンズ構造を持つ材料、ビスマス層状構造を持つ材料、パイロクロア構造を持つ材料から構成されていればよい。詳細には、BaTiO3、Pb(Zr,Ti)O3、(Pb,La)(Zr,Ti)O3、LiNbO3、LiTaO3、PbNb3O6、PbNaNb5O15、Cd2Nb2O7、Pb2Nb2O7、Bi4Ti3O12、(Bi,La)4Ti3O12、SrBi2Ta2O9などが挙げられる。
また、上述した本発明の例では、シリコンからなる基板上の下地絶縁層、金属薄膜、ECRスパッタ法で形成するようにした。しかしながら、これらの各層を形成する方法は、ECRスパッタ法に限定するものではない。
例えば、シリコン基板の上に形成する絶縁層は、熱酸化法や化学気相成長(CVD)法、ALD法、従来のスパッタ法、MOCVD法などで形成しても良い。
また、下部電極層は、CVD法、MBE法、IBD法、従来スパッタ法、PDL法等の他の方法で形成しても良い。
ただし、ECRスパッタ法を用いることで、平坦で良好な絶縁膜、金属膜が容易に得られる。
また、上記の実施の形態では、各層を形成した後、一旦大気に取り出していたが、各々のECRスパッタを実現する処理室を、連続的な処理により真空搬送室でつなげてもよい。これらのことにより、処理対象の基板を真空中で搬送できるようになり、水分等の外乱の影響を受けづらくなり、膜質と界面の特性の向上につながる。
また、特開2003−077911号公報に示されているように、各層を形成した後、形成した層の表面にECRプラズマを照射し、特性を改善するようにしても良い。また、各層を形成した後に、特開2004−273730号公報に示されているように、適当なガス雰囲気中でアニールし、特性を改善するようにしても良い。
また、電極や配線を構成するための金属薄膜の厚さは、適便最適な厚さとした方がよい。例えば、膜応力による剥離等を考慮すれば、金属薄膜は100nm以下の厚さが望ましい。また、配線としての抵抗値を考慮すれば、10nmより厚くした方がよい。
また、発明者らの実験の結果、金属酸化物層の厚さが10〜100nmであれば、メモリの動作が確認され、最も良好な状態は、金属酸化物層の厚さを30nmとした時に得られた。
また、以上の実施の形態においては、シリコンという半導体基板を用いた結果について示したが、ガラス基板や石英基板、サファイア基板などの絶縁物を基体(基板)として用いても良い。例えばガラス基板を用いる場合、ガラス基板に穴を開け、基板の裏面より電気的コンタクトを取るようにしてもよい。この構造にすることによって、加工しやすいガラス基板上などへの適用が可能となる。
さらに、金属基板などの導電性のある物質に接触して絶縁層を形成し、これを基体として用いても良い。また、金属基板などの導電性のある物質を基体として用いても良い。