ところで、図13に示したマトリクス構造のメモリ装置の場合、ワード線W1〜Wmとビット線B1〜Bnにより選択されたメモリセル(「選択メモリセル」という)に読み出すための所望の電圧Vを印加し、選択メモリセルを流れる電流値を観測することで選択メモリセルの状態を読み出すことになる。しかし、実際には、ワード線W1〜Wmとビット線B1〜Bnを介して各メモリセルが相互に接続されているため、選択メモリセルに読み出し電圧Vを印加した際に、選択されていないメモリセル(「非選択メモリセル」という)にも多少の電圧が印加されることになる。
従って、選択メモリセルの情報を読み出す際に、選択メモリセルだけでなく非選択メモリセルにも電流が流れてしまうことになる。このため、実際には、選択メモリセルを流れる電流と非選択メモリセルを流れる電流との合成電流で選択メモリセルの状態を識別しなければならない。非選択メモリセルを流れる電流は、非選択メモリセルの全てが低抵抗状態の場合に最大となり、非選択メモリセルの全てが高抵抗状態の場合に最小となる。
ここで、図14(a)に示すように、メモリセルM11からメモリセルM33を3行×3列のマトリクス状に配列したメモリ装置について、読み出し時に観測される電流値Ireadを求める。なお、図14において、Mij(i,jは整数)はメモリセルの各要素を示す。ここで説明のためにワード線W2に読み出し電圧Vを印加し、ビット線B3を接地電位(つまりV=0)としたとき、ビット線B3に流れる電流Ireadについて求める。ここでは3行2列目のM23が選択メモリセルになり、他のメモリセルM11,M12,M13,M21,M22,M31,M32,M33は非選択メモリセルとなる。
情報読み出し可能条件を明らかにするため、非選択メモリセルが全て同じ抵抗値Rnsであり、選択メモリセルM23の抵抗値がRtgであるとする。回路の対称性より、選択しているビット線以外のビット線(B1とB2)の間での電位は同じとなる(VBとする)。同様に、選択しているワード線以外のワード線(W1とW2)の間も同じ電位となる(Vwとする)。これにより、メモリセルM11,M31,M12,M32の各々に流れる電流は、(VB−Vw)/Rns、となる。また、メモリセルM13及びメモリセルM33に流れる電流は、各々Vw/Rnsとなる。さらに、メモリセルM21及びメモリセルM22に流れる電流は、各々(V−VB)/Rnsとなる。なお、選択メモリセルM23にはV/Rtgの電流が流れる。
ところで、「1点に流れ込む電流の総和は0」というキルヒホッフの法則により、ワード線W2に流れ込む電流は、ビット線B3より流出する電流Ireadに等しくなる。つまり、Ireadは、メモリセルM23,M13,M33に流れる電流の総和、さらには、メモリセルM23、M21、M22に流れる電流の総和と等しくなり、以下の式(1)に示す等式が成り立つ。
Iread=V/Rtg+2VW/Rns=V/Rtg+2(V−VB)/Rns・・・(1)
また、メモリセルM21に流れる電流は、メモリセルM11に流れる電流とメモリセルM31に流れる電流の和に等しくなり、以下の式(2)に示す等式が成り立つ。
(V−VB)/Rns=2(VB−VW)/Rns・・・(2)
さらに、メモリセルM13を流れる電流は、メモリセルM11に流れる電流とメモリセルM12に流れる電流の和に等しい。この関係により、以下の式(3)に示す等式が成り立つ。
VW/Rns=2(VB−VW)/Rns・・・(3)
これらの連立方程式を解くと、VB及びVwの各々の電位は、VB=3/5V、Vw=2/5Vとなる。これより、ビット線B3に流れる電流Ireadは、次の式(4)に示されるものとなる。
Iread=V/Rtg+2VW/Rns=V/Rtg+(4/5)×(V/Rns)・・・(4)
選択メモリセルM23が高抵抗状態(Rtg=RH)の場合の電流値(Iread=IL:HRS)は、他の非選択メモリセル(M11,M12,M13,M21,M22,M31,M32,M33)の抵抗分布に依存して変動するが、全ての非選択メモリセルが低抵抗状態(Rns=RL)と全ての非選択メモリセルが高抵抗状態(Rns=RH)の範囲内になり、次の式(5)に示す不等式が成り立つ。
V/RH+(4/5)×(V/RL)>IL:HRS>V/RH+(4/5)×(V/RH)・・・(5)
式(5)において、V/RH+4V/5RLは、選択メモリセルM23が高抵抗状態で、かつ、全ての非選択メモリセルが低抵抗状態(Rns=RL)である場合の電流値Ireadであり、V/RH+4V/5RHは、選択メモリセルM23が高抵抗状態で、かつ、全ての非選択メモリセルが高抵抗状態(Rns、=RH)である場合の電流値Ireadである。
一方、選択メモリセルM23が低抵抗状態(Rtg=RL)の場合の電流値(Iread=IH:LRS)は、全ての非選択メモリセルが低抵抗状態(Rns,=RL)と全ての非選択メモリセルが高抵抗状態(Rns=RH)の範囲内になり、次の式(6)に示す不等式が成り立つ。
V/RL+(4/5)×(V/RL)>IL:HRS>V/RL+(4/5)×(V/RH)・・・(6)
式(6)において、V/RL+4V/5RLは、選択メモリセルM23が低抵抗状態で、かつ、全ての非選択メモリセルが低抵抗状態(Rns=RL)である場合の電流値Ireadであり、V/RL+4V/5RHは、選択メモリセルM23が低抵抗状態で、かつ、全ての非選択メモリセルが高抵抗状態(Rns=RH)である場合の電流値Ireadである。
電流値Ireadを用いて選択メモリセルが高抵抗状態か低抵抗状態かを判別できるためには、IH:LRS>IL:HRSが成り立つことが要求されるので、「{V/RL+(4/5)×(V/RL)>IH:LRS>V/RL+(4/5)×(V/RH)}>{V/RH+(4/5)×(V/RL)>IL:HRS>V/RH+(4/5)×(V/RH)}」となり、常にIH:LRSとIL:HRSを判別するためには、次の式(7)が成立する必要がある。
V/RL+(4/5)×(V/RH)>V/RH+(4/5)×(V/RL)・・・(7)
式(7)より、RH>RLであれば、常に成立することがわかる。従って、図14(a)の3行×3列のマトリクス状に配列したメモリ装置では、選択メモリセルM23の状態を識別できることがわかる。
次に、図14(b)に示すように、3行×4列のマトリクス状に配列したメモリ装置について読み出し時に観測される電流Ireadを上述と同様の手法で求めることについて説明する。ワード線W2とビット線B3の交点に位置する選択メモリセルM23を選択するために、ワード線W2に読み出し電圧Vを印加し、ビット線B2を接地電位にしたとき、ビット線B2に流れる電流Ireadについて、次の式(8),式(9),及び式(10)に示す連立方程式が成り立つ。
Iread=V/Rtg+2VW/Rns=V/Rtg+3(V−VB)/Rns・・・(8)
(V−VB)/Rns=2(VB−VW)/Rns・・・(9)
VW/Rns=3(VB−VW)/Rns・・・(10)
これらの連立方程式を解くと、VB及びVWの各々の電位は、VB=2/3V、VW=1/3Vとなる。これより、ビット線B3に流れる電流Ireadは、式(8)より次の式(11)に示すものとなる。
Iread=V/Rtg+V/Rns・・・(11)
式(5)と同様に選択メモリセルM23が高抵抗状態であるときの電流IL:HRSを求めると、次の式(12)となる。
V/RH+V/RL>IL:HRS>V/RH+V/RH・・・(12)
また、式(6)と同様に選択メモリセルM23が低抵抗状態であるときの電流IH:LRSを求めると、次の式(13)となる。
V/RL+V/RL>IH:LRS>V/RH+V/RL・・・(13)
ところで、式(12)と式(13)より、「V/RH+V/RL=V/RL+V/RH・・・(14)」となる。これは、選択メモリセルが高抵抗状態時の電流IL:HRSの最高値(選択メモリセルが高抵抗状態で全ての非選択メモリセルが低抵抗状態の場合の電流値)と選択メモリセルが低抵抗状態時の電流IH:LRSの最低値(選択メモリセルが低抵抗状態で全ての非選択メモリセルが高抵抗状態の場合の電流値)とが等しくなり、選択メモリセルが高抵抗状態か低抵抗状態かを判別することが不可能となることを示している。
従って、図14(b)に示すメモリ装置では、選択メモリセルM23の状態を誤ることなく識別することが、非常に困難である。以上のように、抵抗変化型のメモリセルを用いた従来のメモリ装置では、情報の読み出し時に誤りが発生する可能性があった。この情報読み出しに誤りが発生する現象は、3行×3列のマトリクスでは現れなかいが、3行×4列より大規模なマトリクスで発現し、行数と列数が多くなればなるほど顕著になってくる。
次に、上述したような読み出し誤りが発生しない、より汎用的なマトリクス構造のメモリ装置の例を次に示す。図15は、抵抗変化型メモリセルを用いた2次元マトリクス構造のメモリ装置において、読み出しを行う場合の各点における電圧分布を示す図である。図15は、各メモリセルを抵抗変化素子の形で等価的に表している。先ず、図15に示すようにメモリセルをm行×n列(m,nは2以上の整数)のマトリクス状に配列したメモリ装置にいて電流分布を求める。図15において、2行×(n−1)列目のメモリセルを選択メモリセルMtgとし、他の全てのメモリセルは非選択メモリセルとする。また、Itgは選択メモリセルMtgを流れる電流であり、Insは非選択メモリセルを流れる電流である。さらに、W1〜Wmは、各行のメモリセル毎に設けられたワード線、B1〜Bnは、各列のメモリセル毎に設けられたビット線を示している。
非選択メモリセルに接続された配線が開放状態にある場合、回路の対称性により列間あるいは行間の配線の電位は同じになる。また、キルヒホッフの法則により、各々の電位は、図15のような値となる。すなわち、ワード線W2に読み出し電圧Vを印加し、ビット線Bn-1を接地電位にすると、ワード線W1,W3〜Wmの電位は、(n−1)V/(m+n−1)となり、ビット線B1〜Wn-2、Wnの電位は、(n)V/(m+n−1)となる。
選択メモリセルMtgに接続されたビット線Bn-1より流れる電流Ireadは、ビット線Bn-1に接続された各メモリセルより流れ込む電流の和である。このメモリセルを流れる電流は、ワード線の電位をメモリセルの抵抗で割ることで求められる。選択メモリセルMtgの抵抗値をRtgとすると、選択メモリセルMtgに流れる電流Itgは、Itg=V/Rtgとなる。また、非選択メモリセルは、全て同じ抵抗を持つと仮定しているので、非選択メモリセルの抵抗値をRnsとすると、非選択メモリセルの寄与分は各メモリセルの電流(n−1)V/{(m+n−1)Rns}にメモリセルの数(m−1)を乗じたもの、すなわち、(m−1)(n−1)V/{(m+n−1)Rns}となる。
電流Ireadは、ビット線Bn-1に接続された各メモリセルより流れ込む電流の和であるから、以下の式(15)に示されるものとなる。
Iread=V/Rtg+(m−1)(n−1)V/{(m+n−1)Rns}・・・(15)
また、選択メモリセルMtgが低抵抗状態(Rtg=RL)の場合にビット線Wn-1より流れ出る電流IH:LRSが最小値を持つためには、非選択メモリセルが高抵抗状態(Rns=RH)の場合である。すなわち次の式(16)が成り立つ。
IH:LRS>V/RL+(m−1)(n−1)V/{(m+n−1)RH}・・・(16)
一方、選択メモリセルMtgが高抵抗状態(Rtg=RH)の場合に、ビット線Wn-1より流れ出る電流IL:HRSが最大値を持つためには、非選択メモリセルが低抵抗状態(Rns=RL)の場合である。すなわち次の式(17)が成り立つ。
IL:HRS<V/RH+(m−1)(n−1)V/{(m+n−1)RL}・・・(17)
選択メモリセルMtgの状態を正しく識別するためには、常にIH:LRS>IL:HRSが成立しなければならない。すなわち、次の式(18)に示す不等式が成立する。
IH:LRS>V/RL+(m−1)(n−1)V/{(m+n−1)RH}>V/RH+(m−1)(n−1)V/{(m+n−1)RL}>IL:HRS・・・(18)
式(18)において、RLは、低抵抗状態の選択メモリセルMtg及び非選択メモリセルの抵抗値を示し、RHは、高抵抗状態の選択メモリセルMtg及び非選択メモリセルの抵抗値を示している。
式(18)をまとめると、次の式(19)が成立する。
{1−(m−1)(n−1)/(m+n−1)}RH>{1−(m−1)(n−1)/(m+n−1)}RL・・・(19)
これにより、選択メモリセルMtgの状態を正しく識別するためには、式(19)における{}の中が正となる必要があり、次の式(20)の条件が要求される。
{1−(m−1)(n−1)/(m+n−1)}>0,
2(m+n−1)>mn・・・(20)
なお、式(20)において、mとnは各々正の整数である。
m=1又はm=2の場合、いかなるnを持ってきても式(20)が成立するため、選択メモリセルMtgの状態を識別することができる。また、m=3、n=1〜3の場合も、式(20)が成立するため状態を識別できる。しかしながら、m=3、n=1〜3を超える規模になると、式(20)は成立せず、選択メモリセル毎の状態識別に誤りが生じてしまう状況となる。
加えて、従来の抵抗変化型メモリセルを用いたメモリ装置では、書き込みを行う場合にも問題が生じていた。非選択メモリセルに接続された配線が開放状態であると、直列に接続された3つの非選択メモリセルM(例えばビット線B2とワード線W2の交点に位置する非選択メモリセルと、ビット線B2とワード線W1の交点に位置する非選択メモリセルと、ビット線Bn-1とワード線W1の交点に位置する非選択メモリセルのうち1つだけが高抵抗状態で他の2つが低抵抗状態であれば、高抵抗状態の非選択メモリセルにも選択メモリセルMtgとほぼ同じ電圧が加わり、この高抵抗状態の非選択メモリセルの状態が書き換えられてしまう可能性があった。従って、単純に低抵抗状態と高抵抗状態との抵抗比を大きくしても、メモリセルの行と列の数を増やすことはできず、メモリの大容量化は図れなかった。
このような読み出し時と書き込み時の問題を解決するには、メモリ装置の基本構成を示す等価回路図(図16)のように、メモリセル毎に選択スイッチとなるトランジスタ(例えばMOSFET)を設け1トランジスタ1抵抗素子(1T1R)の構造を採用することで、選択メモリセルのみに電流が流れるようにし、選択メモリセルの状態識別を可能としていた。しかしながらメモリセル毎にトランジスタを設ける必要があるために、メモリセルに占めるトランジスタの面積が大きくなり、メモリの大容量化が難しいという問題があった。
図15で示されて式(20)が成り立つような従来の抵抗変化型メモリセルは、ある電圧を印加した場合のワード線からビット線へ流れる電流と、ビット線からワード線へ流れる電流とがほぼ等しいものであった。つまり、メモリセルに整流特性はなく、ワード線からビット線への方向を正(順方向)、その逆を負(逆方向)とすると、正負電圧印加により流れる電流は、メモリセルが高抵抗状態の場合と低抵抗状態の場合とがほぼ同じであった。このため、式(20)を満たさないマトリクス構造において、選択メモリセルMtgの状態を識別するために電圧を印加したときに、非選択メモリセルに選択メモリセルの状態識別に無関係な回り込み電流が流れてしまい、選択メモリセルMtgの状態を識別できなくなる。これに加えて、非選択メモリセルの状態を書き換えてしまう場合があった。
本発明は、以上のような問題点を解消するためになされたものであり、抵抗変化型メモリセルを用いたメモリ装置の大容量化を実現することを目的とする。
本発明に係るメモリ装置は、電気抵抗の変化により情報が記憶される複数のメモリ素子より構成されたメモリ装置であって、メモリ素子は、半導体から構成された半導体基板と、この半導体基板の上に接して形成されて電気抵抗が変化する金属酸化物層と、この金属酸化物層の上に形成された電極とから構成され、金属酸化物層は、Bi 4 Ti 3 O 12 の化学量論的組成に比較して過剰なTiを含むアモルファス状の基部層の中に、Bi 4 Ti 3 O 12 の化学量論的組成の微結晶粒が形成された構造を有する。このメモリ装置において、メモリ素子は、一方の方向への電流が、他方の方向への電流より流れやすい整流特性を備える。このように構成されたメモリ素子によれば、例えばp型とされた半導体基板を用いれば、電極に正電圧を印加した場合に電流は流れやすく、負電圧を印加した場合に電流は流れにくいという整流特性を備える。また、n型とされた半導体を用いれば、逆の整流特性を持つ。
上記メモリ装置において、各々のメモリ素子の一端に接続する複数のワード線と、各々のメモリ素子の他端に接続する複数のビット線と、選択されたワード線に対して読み出し電圧又は書き込み電圧を印加するワード線選択手段と、選択されたビット線に対して読み出し電圧又は書き込み電圧を印加するビット線選択手段と、選択されたワード線と選択されたビット線とに接続するメモリ素子の抵抗値を選択されたビット線に流れる電流値で読み取る読み出し手段とを備える。例えば、読み出し手段は、メモリ素子を流れる電流とメモリ素子に発生する電圧とを同時に検出し、検出した電圧と電流とを比較することでメモリ素子の抵抗値を読み出すものであればよい。
上記メモリ装置において、金属酸化物層は、第1電圧値以上の電圧印加により第1抵抗値を持つ第1状態となり、第1電圧とは極性の異なる第2電圧値以下の電圧印加により第1抵抗値より高い第2抵抗値を持つ第2状態となるものである。
上記メモリ装置において、例えば、金属酸化物層は、スパッタ法により30℃以上180℃未満で形成されたものであるとよい。また、第1金属はチタンであり、第2金属はビスマスであり、基部層は、化学量論的組成に比較して過剰なチタンを含む層からなる非晶質状態であればよい。
以上説明したように、本発明によれば、メモリ装置を構成するメモリ素子を、半導体から構成された半導体基板と、この半導体基板の上に接して形成された電気抵抗が変化する金属酸化物層と、この金属酸化物層の上に形成された電極とから構成したので、抵抗変化型メモリセルを用いたメモリ装置の大容量化が実現できるという優れた効果が得られる。
以下、本発明の実施の形態について図を参照して説明する。図1(a)は、本実施の形態におけるメモリ装置の構成を等価的に示す回路図であり、図1(b)は、メモリセルMを構成するメモリ素子100の構成を模式的に示す断面図である。図1に示すメモリ装置は、整流特性を備えて抵抗値が変化するメモリ素子100よりなるメモリセルMをマトリクス状に配列したメモリセルアレイから構成されたものである。
各メモリセルMの一端は、対応するワード線W1〜Wmに接続され、メモリセルM(メモリ素子100)の他端は、対応するビット線B1〜Bnに接続されている。また、ワード線選択回路110により、選択されたワード線に対して読み出し電圧又は書き込み電圧が印加され、ビット線選択回路111により、選択されたビット線に読み出し電圧又は書き込み電圧が印加される。また、読み出し回路112により、選択されたメモリセルMに記憶された情報(抵抗値)が、選択されたビット線を流れる電流値で読み出される。
次に、メモリ素子100について説明すると、p型の半導体基板101の上に、ビスマス(Bi)とチタン(Ti)と酸素とから構成された例えば膜厚30〜200nmの金属酸化物層102と、上部電極103とを備え、また、半導体基板101の一部にオーミックコンタクト104を備えるようにしたものである。金属酸化物層102は、半導体基板101の上に接して形成されている。また、ワード線Wとなる配線が、例えば図示しない層間絶縁層を介して上部電極103に接続し、ビット線Bとなる配線が、図示しない層間絶縁膜を介してオーミックコンタクト104に接続する。また、図1(a)に示すメモリ装置では、複数のメモリ素子100が配列されるが、半導体基板101において、各々のメモリ素子100の間が、素子分離領域により絶縁分離されている。
半導体基板101は、例えばp型とされた単結晶シリコンである。また、半導体基板101は、シリコンに限らず、ゲルマニウム(Ge)及びダイヤモンドなどの半導体や、GaAs,InP,及びGaNなどの化合物半導体のいずれから構成されていても良い。なお、オーミックコンタクト104は、例えば、シリサイドなどの合金層が形成されている領域である。上部電極103とオーミックコンタクト104との間に電源による電圧を印加することで、半導体基板101と上部電極103とに挟まれた金属酸化物層102に電圧を印加することができる。従って、半導体基板101が、上部電極103と対になる一方の電極となる。
なお、上部電極103は、例えば、白金(Pt),Ru,金(Au),銀(Ag)などの貴金属やタングステン(W)を含む遷移金属から構成されていればよい。また、窒化チタン(TiN),窒化ハフニウム(HfN),窒化タンタル(TaN),ルテニウム酸ストロンチウム(SrRuO2),酸化亜鉛(ZnO),鉛酸錫(IZO)、フッ化ランタン(LaF3)などの遷移金属の窒化物や酸化物、フッ化物などの化合物、さらに、これらを積層した複合層であっても良い。
メモリセルMは、後に詳細を説明するが、印加される電圧に対する整流特性を持ち、ワード線(上部電極103)からビット線(半導体基板101)の方向(順方向)には電流は流れやすく、逆にビット線からワード線の方向(逆方向)には電流は流れにくいものとなっている。なお、半導体基板101の導電型がn型の場合は、逆の整流特性となる。かつ、各メモリセルMは、抵抗変化型メモリセルであり、高抵抗状態(HRS)と低抵抗状態(LRS)の2つの状態を持つ。この2つの抵抗状態は、電圧を印加しない場合安定して存在し、ビット線又はワード線から供給される電圧により、2つのいずれかの抵抗状態を繰り返しスイッチさせ、状態を変化させることができる。
上述したように、整流特性を持った抵抗変化型メモリセルを抵抗変化型メモリセルとして用いることで、従来方法ではできなかった非選択メモリセルへの回り込み電流の抑制が可能となり、式(20)の制限を超えるマトリクス構造においても選択メモリセルの状態を正しく識別することができる。
以上で説明した、金属酸化物層102及び上部電極103は、具体的な製法については後述するが、図2に示すようなECRスパッタ装置により金属ターゲットや金属ターゲットを、アルゴンガス、キセノンガス、酸素ガス、窒素ガスからなるECRプラズマをプラズマ源で発生させ、発生させたプラズマ中の粒子を用いてスパッタリングして形成すればよい。
ここで、ECRスパッタ装置について、図2の概略的な断面図を用いて説明する。図2に示すECRスパッタ装置は、先ず、処理室201とこれに連通するプラズマ生成室202とを備えている。処理室201は、図示していない真空排気装置に連通し、真空排気装置によりプラズマ生成室202とともに内部が真空排気される。
処理室201には、膜形成対象の半導体基板101が固定される基板ホルダ204が設けられている。基板ホルダ204は、図示しない回転機構により所望の角度に傾斜し、かつ回転可能とされている。基板ホルダ204を傾斜して回転させることで、堆積させる材料による膜の面内均一性と段差被覆性とを向上させることが可能となる。また、処理室201内のプラズマ生成室202からのプラズマが導入される開口領域において、開口領域を取り巻くようにリング状のターゲット205が備えられている。
ターゲット205は、絶縁体からなる容器205a内に載置され、内側の面が処理室201内に露出している。また、ターゲット205には、マッチングユニット221を介して高周波電源222が接続され、例えば、13.56MHzの高周波が印加可能とされている。ターゲット205が導電性材料の場合、直流を印加するようにしても良い。なお、ターゲット205は、上面から見た状態で、円形状だけでなく、多角形状態であっても良い。
プラズマ生成室202は、真空導波管206に連通し、真空導波管206は、石英窓207を介して導波管208に接続されている。導波管208は、図示していないマイクロ波発生部に連通している。また、プラズマ生成室202の周囲及びプラズマ生成室202の上部には、磁気コイル(磁場形成手段)210が備えられている。これら、マイクロ波発生部、導波管208,石英窓207,真空導波管206により、マイクロ波供給手段が構成されている。なお、導波管208の途中に、モード変換器を設けるようにする構成もある。
図2のECRスパッタ装置の動作例について説明すると、先ず、処理室201及びプラズマ生成室202内を真空排気して内部の圧力を10-5〜10-4Paとした後、不活性ガス導入部211より不活性ガスであるArガス又はXeガスを導入し、また、反応性ガス導入部212より反応性ガスを導入し、プラズマ生成室202内を例えば10-3〜10-2Pa程度の圧力にする。この状態で、磁気コイル210よりプラズマ生成室202内に0.0875T(テスラ)の磁場を発生させた後、導波管208,石英窓207,及び真空導波管206を介してプラズマ生成室202内に2.45GHzのマイクロ波を導入し、電子サイクロトロン共鳴(ECR)プラズマを発生させる。なお、1T=10000ガウスである。
ECRプラズマは、磁気コイル210からの発散磁場により、基板ホルダ204の方向にプラズマ流を形成する。生成されたECRプラズマのうち、電子は磁気コイル210で形成される発散磁場によりターゲット205の中を貫通して半導体基板101の側に引き出され、半導体基板101の表面に照射される。このとき同時に、ECRプラズマ中のプラスイオンが、電子による負電荷を中和するように、すなわち、電界を弱めるように半導体基板101側に引き出され、成膜している層の表面に照射される。このように各粒子が照射される間に、プラスイオンの一部は電子と結合して中性粒子となる。
なお、図2の薄膜形成装置では、図示していないマイクロ波発生部より供給されたマイクロ波電力を、導波管208において一旦分岐し、プラズマ生成室202上部の真空導波管206に、プラズマ生成室202の側方から石英窓207を介して結合させている。このようにすることで、石英窓207に対するターゲット205からの飛散粒子の付着が、防げるようになり、ランニングタイムを大幅に改善できるようになる。また、処理対象の基板とターゲット205との間にシャッターなどを設け、基板に対する原料の到達を制御してもよい。
次に、図1(b)に示したメモリ素子100の製造方法例について、図3を用いて説明する。先ず、図3(a)に示すように、主表面が面方位(100)で抵抗率が1〜2Ω−cmのp型のシリコンよりなる半導体基板101を用意し、半導体基板101の表面を硫酸と過酸化水素水の混合液、及び純水と希フッ化水素水の混合液により洗浄し、この後で乾燥させる。
次いで、図3(b)に示すように、洗浄・乾燥した半導体基板101の上に、金属酸化物層102が形成された状態とする。金属酸化物層102の形成では、上述したECRスパッタ装置を用い、処理室201内の基板ホルダ204に半導体基板101を固定し、ターゲット205としてBiとTiの割合が4:3の焼結体(Bi−Ti−O)を用い、プラズマガスとしてArと酸素(O2)を用いたECRスパッタ法により、表面を覆う程度に金属酸化物層102が形成された状態とする。
図2に示すECRスパッタ法において、先ず、プラズマ生成室202の内部を10-4〜10-5Pa台の高真空状態に真空排気した後、半導体基板101が30℃〜700℃に加熱された状態とし、また、プラズマ生成室202内に、不活性ガス導入部211より、例えばArガスを流量20sccm導入し、プラズマ生成室202内の圧力を例えば10-2〜10-3Pa台に設定する。なお、sccmは流量の単位であり、0℃で1気圧の流体が1分間に1cm3流れることを示す。また、プラズマ生成室202内には、磁気コイル210にコイル電流を例えば27Aで供給することで電子サイクロトロン共鳴条件の磁場を与える。
加えて、図示していないマイクロ波発生部より、例えば2.45GHzのマイクロ波(例えば500W)を供給し、これを導波管208,石英窓207,真空導波管206を介してプラズマ生成室202内に導入し、このマイクロ波の導入により、プラズマ生成室202にプラズマが生成された状態とする。
この生成されたプラズマは、磁気コイル210の発散磁場によりプラズマ生成室202より処理室201の側に放出される。また、プラズマ生成室202の出口に配置されたターゲット205に、高周波電源222より高周波電力(例えば500W)を供給する。このことにより、ターゲット205にAr粒子が衝突してスパッタリング現象を起こし、Bi粒子とTi粒子がターゲット205より飛び出す。
ターゲット205より飛び出したBi粒子とTi粒子は、プラズマ生成室202より放出されたプラズマ、及び、反応性ガス導入部212より導入されてプラズマにより活性化した酸素ガスとともに、半導体基板101の表面に到達し、活性化された酸素により酸化される。酸素ガスは、反応性ガス導入部212より、例えば1sccm程度で導入されていればよい。ターゲット205は焼結体であり、酸素が含まれるが、酸素を供給することにより堆積している膜中の酸素不足を防ぐことができる。
以上に説明したECRスパッタ法による膜の形成で、例えば、膜厚30nm程度の金属酸化物層102が形成された状態が得られる(図3(b))。この後、前述したシャッターを閉じた状態としてスパッタされた原料が半導体基板101に到達しないようにすることで、成膜を停止する。この後、マイクロ波電力の供給を停止することなどによりプラズマ照射を停止し、各ガスの供給を停止し、半導体基板101温度を所定の値までに低下させ、処理室201の内部より金属酸化物層102が形成された半導体基板101を搬出する。
次いで、図3(c)に示すように、金属酸化物層102の上に所定の面積のAuからなる上部電極103が形成された状態とする。例えば、よく知られたフォトリソグラフィ技術とエッチング技術とによりパターニングでAu膜を加工することで、所定の面積の上部電極103が形成可能である。なお、上部電極103は、ルテニウム、白金、窒化チタンなどの他の金属材料や導電性材料から構成してもよい。この後、図3(d)に示すように、金属酸化物層102の一部を除去して半導体基板101の一部を露出させ、一方の電極となる半導体基板101に配線などを接続するためのオーミックコンタクト104が形成された状態とする。以上のことにより、金属酸化物層102を用いたメモリ素子100が得られる。
次に、上述したようにECRスパッタ法により形成される金属酸化物層102について、より詳細に説明する。発明者らは、ECRスパッタ法を用いたBiとTiと酸素からなる金属酸化物層の形成について注意深く観察を繰り返すことで、温度によって形成される金属酸化物層の膜特性が制御できることを見い出した。なお、このスパッタ成膜では、BiとTiが4:3の組成を持つように形成された酸化物焼結体ターゲットを用いている。
図4に示す特性は、上記スパッタ成膜における基板温度に対する成膜速度と屈折率の変化を示したものである。図4には、前述したECRスパッタ法による金属酸化物層102の形成時と同じガス条件で成膜した場合が示してある。図4に示すように、成膜速度と屈折率が、温度とともに変化することがわかる。
先ず、屈折率に注目すると、約250℃程度までの低温領域では、屈折率は約2と小さくアモルファス的な特性を示している。300℃〜600℃での中間領域では、屈折率は約2.6と論文などで報告されているバルクに近い値となり、Bi4Ti3O12の結晶化が進んでいることがわかる。これらの数値に関しては、例えば、山口らのジャパニーズ・ジャーナル・アプライド・フィジクス、第37号、5166頁、1998年、(Jpn.J.Appl.Phys.,37,5166(1998).)などを参考にしていただきたい。
しかし、約600℃を超える温度領域では、屈折率が大きくなり、表面モフォロジ(表面凹凸)が大きくなってしまい、結晶性が変化しているものと思われる。この温度はBi4Ti3O12のキュリー温度である675℃よりも低いが、成膜している基板表面にECRプラズマが照射されることでエネルギーが供給され、基板表面の温度が上昇して酸素欠損などの結晶性が悪化しているとすれば、上述した結果に矛盾はないものと考える。
成膜速度の温度依存性についてみると、約180℃までは、温度とともに成膜速度が上昇する。しかし、約180℃から300℃の領域で、急激に成膜速度が低下する。約300℃に達すると成膜速度は600℃まで一定となる。この時の各酸素領域における成膜速度は、酸素領域Cが約3nm/minであった。
次に、X線回折により、各温度領域で形成された膜の結晶性の解析を行った。室温約30℃から180℃までの低温領域においては、アモルファス(非晶質)であることが確認された。また、180℃から300℃の温度領域では、微結晶より構成されていることが確認された。また、300℃以上の温度領域では、(117)方向に配向した膜であることがわかった。
300℃以上の温度領域における金属酸化物層の状態について、透過型電子顕微鏡により断面形状を観察すると、図5の構成図及び図6の顕微鏡写真に示すような結果を得た。観察した膜の形成では、420℃の成膜温度で、Si基板501の上に直接BiとTiと酸素からなる金属酸化物を堆積した。
図5及び図6に示す結果から、形成された金属酸化物層504は、Bi4Ti3O12の化学量論的組成に比較して過剰なTiを含む基部層の中に、Bi4Ti3O12の化学量論的組成の3nm〜15nm程度の複数の微結晶粒から成り立っていることがわかった。微結晶粒への電子線回折により、微結晶粒はBi4Ti3O12の(117)面を持つことが確認された。なお、金属酸化物層504が、図1(b)に示すメモリ素子100の金属酸化物層102に対応する。言い換えると、金属酸化物層102も、Bi4Ti3O12の化学量論的組成に比較して過剰なTiを含む基部層の中に、Bi4Ti3O12の化学量論的組成の3nm〜15nm程度の複数の微結晶粒から構成されている。
しかし、図6の写真を詳細に観察することで、金属酸化物層504とシリコン基板501と界面には、シリコン基板501が酸化されて形成された界面酸化層502と、BiとTiがシリコンと反応して形成された界面反応層503が存在することがわかった。界面酸化層502及び界面反応層503などが形成されると、低誘電率の膜が形成されることになり、リーク電流が多く流れるなど、素子の性能を低下させる可能性がある。
そこで、発明者らは、界面酸化層及び界面反応層が形成されないほどの十分低い温度領域での金属酸化物層の成膜について検討した。具体的には、図4に示した30℃から180℃の低温領域、つまり、屈折率は約2.0〜2.1で、成膜速度が温度上昇により大きくなる領域である。ただし、基板温度が30℃の場合、つまり、基板加熱を行わない場合、成膜される基板表面の実際の温度は、エネルギーを持ったECRプラズマが照射するため、約100℃まで上昇することが確認されている。しかし、基板温度を100℃〜150℃とした場合は、基板加熱する温度とプラズマにより加熱される温度が同程度となり、温度コントローラーの制御により基板加熱が抑制され、基板表面の温度は、約130℃〜180℃程度となる。
この低温領域において、ECRスパッタ法を用いてBiとTiと酸素からなる金属酸化物層をシリコン基板上に形成した。この時の透過型電子顕微鏡の断面観察したものを図7の顕微鏡写真に示す。具体的には、基板加熱は行わず、上記に示したECRスパッタ法を用いた金属酸化物層のガス条件を用いて成膜した。図7に示すように、基板加熱を行わずに堆積したにも拘わらず、形成された金属酸化物層の中に3nm〜5nmの微粒子が存在していることがわかる。
上記微粒子とこの周辺部分について、電子線を照射して照射箇所から発生した特性X線を、直接半導体検出器で検出し、電気信号に変えて分析する手法により組成を分析した結果、基部層(微粒子ではないところ)は、Bi4Ti3O12の化学量論的組成よりもTiが過剰に含まれていること、微粒子は、基部層よりもBiが多く含まれており、Bi4Ti3O12の化学量論的組成に近いことがわかった。測定した微粒子は、3nm〜5nmと極めて小さいために電子線回折での正確な組成を同定するのは難しいが、300℃以上の高温領域において観測された基部層及び微結晶と同様の構造が確認できた。
前述に図4を用いて説明したように、XRDの結果から、低温で成膜したものについては、アモルファス(非結晶)状態であることが確認されている。このような、低温成膜で微結晶が確認されることは今までになく、10〜30eV程度の適度なエネルギーを持つECRスパッタ法により成膜したために観測されたと考えている。BiとTiと酸素からなる金属酸化物層を30℃〜180℃の低温領域でシリコン基板の上に成膜した場合、図5及び図6に見られたような、界面酸化層502と界面反応層503は観測されない。このように低温で成膜した場合、図8の模式的な断面図に示すように、シリコン801と形成された金属酸化物層804との界面は、良好な状態であった。
さらに、発明者らは、上述したような低温領域で成膜したBiとTiと酸素からなる金属酸化物層を用いた図1(b)に示すメモリ素子100の電気的特性を詳細に調べることによって、新しい現象が現れることを発見した。言い換えると、前述したような低温のスパッタ法により形成され、Bi4Ti3O12の化学量論的組成に比較して過剰なTiを含む基部層の中に、Bi4Ti3O12の化学量論的組成の3nm〜15nm程度の複数の微結晶粒から構成された金属酸化物層を用いた素子(メモリ素子100)によれば、以降に説明するように、2つの状態が保持される機能素子が実現できることが判明した。
図1(b)に示すメモリ素子100の特性について説明する。半導体基板101(オーミックコンタクト104)と上部電極103との間に、適度な電圧を印加することで調査されたものである。オーミックコンタクト104と上部電極103との間に電源により電圧を印加し、電圧を印加したときの電流を電流計により観測すると、図9に示す結果が得られた。図9において、横軸に上部電極103に印加した電圧値を取り、縦軸に電流値の絶対値を対数表示してある。
以下、図9を用いて図1に示すメモリ素子100の特性について説明するが、ここで説明する電圧値や電流値は、実際の素子で観測されたものを例として使用している。従って、本現象は、以下に示す数値に限るものではない。実際に素子に用いる膜の材料や膜厚、その他の条件により、他の数値が観測されることがある。
先ず、上部電極103に負の電圧を印加すると、図9中の(1)に示すように、0〜−6Vでは、−1Vに対し10-13Aと電流は少なく高抵抗状態である。しかし、(2)に示すように、−6V(V- H-Lとする)を超えると急に正電流が流れ低抵抗状態となる。(2)に示すように急に負電流が流れないように0〜−6Vの電圧を印加している場合は、(1)に示すように高抵抗状態を維持する。
(2)示すように低抵抗状態となった後に、再び上部電極103に正電圧を印加すると、(3)に示すように−1V程度で1×10-10A程度の負電流が流れ、低抵抗状態であることがわかる。しかし、上部電極103に−9Vを超える負電圧(V- L-Hとする)を印加すると、(5)に示すように急激に電流が流れなくなり、高抵抗状態と遷移する。
この後、(1)に示すように、負電圧を印加しても−1Vで3×10-13A程度の高抵抗状態を維持する。さらに続いて、上部電極103に正電圧を印加すると、(5)に示すように+3V程度までは高抵抗状態であるが、+3Vを超える正電流(V+H-Lとする)によって、低抵抗状態へと遷移する。以下、高抵抗状態と低抵抗状態が可逆的にスイッチする現象が安定に観測できる。
ここで注目すべきは、上部電極103に、負の電圧を印加ときの高抵抗状態の電流値と、正の電圧印加した時の高抵抗状態の電圧値とが、大きく異なる整流特性が、図1(b)に示すメモリ素子100にみられることである。このことは、低抵抗状態においても同様である。
整流特性を示す素子としては、一般的にダイオードが知られている。ダイオードは電流を片方向のみ流す半導体素子である。半導体には、もともとこの性質があるが、ダイオードは特にこのような片方向に電流を流す目的に作製された素子である。半導体の材料としてはシリコンが多いが、他にゲルマニウムやセレンなどを用いたダイオードがある。
一般的なシリコンダイオードの電気特性を図10に示す。図10(a)は縦軸を線形表示したもので、図10(b)は縦軸を対数表示したものである。一般的に整流特性は、半導体と金属とのショットキー障壁から現れるもので、図10も順方向電圧印加時には電流は流れやすく、逆方向電圧印加時には流れ難い特性が表れている。しかしながら、図9に示した特性は、このダイオードの整流特性とは全く異なり、図9で示した電圧電流特性は、ダイオードの電気特性には見られない、電圧印加により抵抗値の変化が起きていることが決定的に異なる。
図1(a)で示したメモリ装置の抵抗変化型メモリセルとして、図1(b)に示すメモリ素子100を用いることで、図9に示す抵抗変化特性を用いることができる。先ず、V- H-L〜V- L-Hの負電圧を印加することにより、上記メモリ素子100の抵抗変化膜である金属酸化物層102は低抵抗状態に遷移する。一方、V- L-Hを超える負電圧を印加することにより、金属酸化物層102は高抵抗状態に遷移する。
金属酸化物層102には、これらの低抵抗状態と高抵抗状態の2つの安定状態が存在し、各々の状態は、前述した抵抗状態が変化しない程度の電圧を印加しない限り、いずれかの状態を維持する。また、V- H-Lを超えない十分小さい電圧(V-又はV+)を印加した場合、選択されたメモリセルが高抵抗状態では小さい電流値IL:HRSが、低抵抗状態では大きい電流値IH:LRSが流れる。このようにして、読み取り電圧Vを印加し、読み取り電圧を印加したときの電流値を観測することで、メモリされた状態を抵抗値として読み出すことができる。
このような電流電圧特性を持つ金属酸化物層102により、図1(a)に示すメモリ装置の構成では、読み出し時における非選択メモリセルに流れる回り込み電流の寄与は、次に説明するように問題ではなくなる。例えば、ワード線W2とビット線Wn-1の交点に位置する選択メモリセルMtg=M2,n-1の情報を読み出す場合、図11(a)に示すように、ワード線選択回路(不図示)からワード線W2に読み出し電圧Vを印加し、ビット線選択回路(不図示)からビット線Bn-1に読み出し電圧−Vを印加し、これ以外のワード線W1,W3〜Wmとビット線B1〜Bn-2,Bnを接地電位にすると、ビット線Bn-1に流れる電流Ireadは、選択メモリセルMtg(ワード線W2とビット線Bn-1の交点のメモリセル)と非選択メモリセル(選択メモリセルMtg以外の全てのメモリセル)に流れる電流の和で決められる。
この時、図11に示されるように非選択メモリセルに流れる電流は、回り込む電流の向きによりIns -とIns +とがある。Ins +は順方向電流であり、Ins -は逆方向電流である。図9の特性図に示されるように、Ins -とIns +とには、Ins -≫Ins +の関係がある。また、整流特性から順方向時の抵抗値(Rns -)は小さく、逆方向時の抵抗値(Rns +)は大きい。つまり、Rns -≫Rns +の関係がある。このため、回り込む電流の経路に一か所でも逆方向があると、この経路での抵抗値が桁的に大きくなり、電流は流れ難くなる。実際には、m行×n列のマトリクス構造において、選択メモリセルMtg以外の非選択メモリセルを通る電流の経路には、必ず逆方向電流があり非選択メモリセルの情報を無視でき、正しく選択メモリセルMtgの情報を識別することが可能となる。
一方、ワード線W2とビット線Bn-1の交点に位置する選択メモリセルMtg=M2,n-1に情報を書き込む場合を考える。図11(b)に示すように、ワード線選択回路(不図示)からワード線W2に書き込み電圧−VLRSを印加し、ビット選択回路(不図示)からビット線Bn-1に書き込み電圧VLRSを印加し、これ以外のワード線W1,W3〜Wmとビット線B1〜Bn-2,Bnを接地電位にすると、選択メモリセルMtgを、例えば、低抵抗状態とすることができる。この時、VLRSは、図9で示される特性図において、低抵抗状態から高抵抗状態へ遷移するV- L-Hの半分程度の電圧である。この場合、非選択メモリセルに印加される電圧を選択メモリセルMtgに印加される電圧2VHRSの半分とすることができ、誤って非選択メモリセルの情報を書き換えることが防止できる。
また、ワード線選択回路(不図示)からワード線W2に書き込み電圧−VHRSを印加し、ビット選択回路(不図示)からビット線Bn-1に書き込み電圧VHRSを印加し、これ以外のワード線W1,W3〜Wmとビット線B1〜Bn-2,Bnを接地電位にすると、選択メモリセルMtgを、例えば、高抵抗状態とすることができる。この時、VHRSは、図9で示される特性図において、高抵抗状態から低抵抗状態へ遷移するV- H-Lの半分程度の電圧である。
以上のように、図1に示すメモリ装置によれば、選択されたメモリセルMに記憶された情報を正しく読み出すことができる。また、トランジスタなどの選択素子を設ける必要がないので、チップ面積をメモリセルに効率よく割り当てられ、メモリを大容量化することが可能となる。また、図1に示すメモリ装置によれば、メモリセルMに記憶された情報を正しく読み出すことができ、メモリ装置を大容量化することが可能となる。なお、図1に示すメモリ装置では、メモリ素子100の上部電極103の側にワード線を接続し、半導体基板101の側にビット線を接続するようにしたが、これに限るものではなく、これらを逆に接続してもよいことはいうまでもない。
ところで、抵抗変化型メモリセルを用いたメモリ装置では、配線抵抗がメモリセルに直列に接続されているため、配線抵抗により選択メモリセルの読み出しが不可能となる可能性があった。メモリセルの電流はメモリセルに接続されたワード線やビット線、あるいはプレート電極線を通じて流れるため、読み出し回路で観測される電流値は、これらの配線抵抗が加わった状態で観測される。メモリサイズは配線の幅にも影響されるため、メモリの大容量化による配線の細線化は、配線の高抵抗化を引き起こし、読み出し回路で観測される抵抗値における配線抵抗の割合はより大きくなる。
例えば、50nmのパターン幅で厚み100nmの銅配線では、メモリの占める長さを1cmとすると、配線抵抗は40kΩとなってしまう。また、選択メモリセルと読み出し回路との距離が遠いほど配線抵抗は大きくなる。結果として、配線抵抗は、選択メモリセルの位置に応じて、例えば、0から40kΩの範囲で変化することになり、メモリセル本体の抵抗値測定が難しくなり、読み出しが不正確になる可能性がある。
この問題を解消するためには、例えば、4端子法の原理を活用することにより、配線抵抗の影響を除去すればよい。図12(a)は、読み出し回路の原理を説明するための回路図である。選択ワード線Wにはワード線選択回路(不図示)から読み出し電圧−Vが印加され、選択ビット線Bにはビット線選択回路(不図示)から読み出し電圧Vが印加される。読み出しにおいては、選択メモリセルMtgを流れる電流を電流計1201により測定し、選択メモリセルMtgの両端に生じる電圧を電圧計1202により測定する。電圧計1202の入力抵抗は、例えば、1MΩ以上と配線抵抗より大きい。このため、選択メモリセルMtgと電圧計1202との間の選択ワード線W及び選択ビット線Bには電流はほとんど流れない。結果として、選択メモリセルMtgの両端に生じる電圧を正確に求めることができる。この電圧を電流計1201で測定した電流値で除することにより、選択メモリセルMtgの抵抗値を配線抵抗に影響されることなく、正確に測定することができる。
また、図12(b)のようにすることで、図12(a)と同様の効果を得ることができる。選択ワード線Wには、ワード線選択回路(不図示)により電圧を印加してトランジスタTをオンし、選択ビット線Bにはビット線選択回路(不図示)から読み出し電圧−Vが印加され、選択プレート電極線Pにはプレート電極線選択回路(不図示)から読み出し電圧Vが印加される。読み出し回路(不図示)は、選択メモリセルMtgを流れる電流を電流計1201により測定し、選択メモリセルMtgの両端に生じる電圧を電圧計1202により測定し、電圧計1202で測定した電圧を電流計1201で測定した電流で除することにより選択メモリセルMtgの抵抗値を求めることができる。このように、4端子法の原理を活用することにより、配線抵抗の影響を除去することができ、選択メモリセルの状態を正しく識別することができる。
ところで、上述した例では、金属酸化物層102を、主にBi4Ti3O12(チタン酸ビスマス)よりなるBiとTiと酸素とから構成されたものとしたが、これに限るものではない。例えば、ペロブスカイト構造を持つ材料、又は、擬イルメナイト構造を持つ材料、さらに、タングステン・プロンズ構造を持つ材料、ビスマス層状構造を持つ材料、パイロクロア構造を持つ、少なくとも2つの金属を含む金属酸化物から構成されたものでもよい。
詳細には、ランタンとチタンと酸素からなる金属酸化物(La2Ti2O7),バリウムとチタンと酸素からなる金属酸化物(BaTiO3),鉛とチタンと酸素からなる金属酸化物(PbTiO3),鉛とジルコニアとチタンと酸素からなる金属酸化物(Pb(Zr1-xTix)O3),鉛とランタンとジルコニアとチタンと酸素からなる金属酸化物((Pb1-yLay)(Zr1-xTix)O3)などが挙げられる。
また、図3を用いた製造方法の説明では、金属酸化物層102を形成した後、一旦大気に取り出していたが、金属酸化物層102と上部電極103となる層を形成する処理室を、連続的な処理により真空搬送室でつなげてもよい。これらのことにより、処理対象の半導体基板101を真空中で搬送できるようになり、水分などの外乱の影響を受けづらくなり、膜質と界面の特性の向上につながる。
また、特開2003−077911号公報に示されているように、各層を形成した後、形成した層の表面にECRプラズマを照射し、特性を改善するようにしても良い。また、各層を形成した後に、特開2004−273730号公報に示されているように、適当なガス雰囲気でアニールし、形成した層の特性を改善してもよい。なお、発明者らの実験の結果、金属酸化物層102の厚さが10〜100nmであれば、図1(b)に示すメモリ素子100における2つの状態が保持される機能(メモリの動作)が確認された。
100…メモリ素子、101…半導体基板、102…金属酸化物層、103…上部電極、104…オーミックコンタクト、110…ワード線選択回路、111…ビット線選択回路、112…読み出し回路112、M…メモリセル。