以下、本発明の実施の形態のいくつかについて図面を参照しながら説明する。
まず、本発明に係る電子線描画システムの第1の実施の形態について説明する。本実施形態の特徴は、図1ないし図4のフローチャートに示すように、CADデータから変換された描画用データを用いて複数のチップを結合することにより、新たな領域の1チップとして再定義した上で基板上に連続描画する点にある。
図5は、本実施形態である電子線描画システム5の概略構成を示すブロック図である。
同図に示す電子線描画システム5は、電子ビームを基板11に照射する電子光学系2と、この電子光学系2を制御する描画制御部3aと、システム全体を制御する制御部4とを備えている。
電子光学系2は、電子光学鏡筒20と試料室10とを備えている。電子光学鏡筒20は、電子銃21、各種レンズ系22a〜22e、各種偏向系23〜26、ブランキング板27aおよびビーム成形用アパーチャマスク27b,27cを備えている。また、試料室10は、ウェーハやマスク等の基板11とこれを上面にて支持するステージ12とを備えている。本実施形態において基板11はレチクルである。
また、描画制御部3aは、ステージ12の移動等を制御する試料台駆動回路部31、レーザ測長系32、偏向制御回路部33、ブランキング制御回路部34、可変成形ビーム寸法制御回路部35、バッファメモリおよび制御回路36、照射量データ選択回路43および照射量データ用メモリ44を備えている。
さらに、制御部4は、描画すべき図形パターンを作成するCADシステム39と、このCADシステム39で作成された図形データを電子光学系2で描画するためのデータ形式でなる描画用データに変換するデータ変換用計算機38と、ワークステーション等の制御計算機37とを備えている。さらに、データ変換用計算機38は、近接効果補正回路42を備えている。
電子光学系2の動作について簡単に説明する。電子銃21から放出された電子線(電子ビーム)は、ブランキング用偏向器23により、ON−OFFされる。このON−OFFの制御は、照射量データ選択回路43から供給される照射量データに基づいて行なわれる。この際のON−OFFによって、照射時間を調整し、照射位置に応じて照射量を変化させることを可能にしている。ブランキング板27aを通過した電子ビームは、ビーム成形用偏向器24および、ビーム成形用アパーチャマスク27b,27cにより矩形ビームに成形され、また、その矩形の寸法が可変される。そして、この成形された電子ビームは走査偏向器25,26によりターゲットである基板11上で偏向走査され、このビーム走査により基板11に所望の図形パターンが描画されるものとなっている。走査偏向器25,26は、それぞれ主偏向器、副偏向器と呼ばれる。主偏向器25、副偏向器26はそれぞれ最大の偏向幅を有しており、本実施形態ではそれぞれ約1,200μm、60μmである。主偏向器25は、副偏向領域(サブフィールド)間の長い距離について電子線を偏向する。副偏向器26は、サブフィールド内の図形パターンを描画するために電子線を偏向する。
一般的な描画進行状況を図6の模式図を用いて簡単に説明する。主偏向器25でサブフィールド17間を移動し(y方向)、副偏向26でサブフィールド17内の図形パターン、例えば、図形パターン101を描画する(x方向)。このとき、電子光学系2のステージ12はx方向に進行しており、y方向に主偏向器25による最大の偏向幅が存在する。これをフレーム幅と呼ぶ。電子光学系2はステージ11をx方向に移動させながらフレーム単位で描画し、例えばフレーム16aの描画が終了するとステージ11がy方向に移動して次のフレーム16bの描画を行なう。
以上のような電子光学系2の走査上の特徴は、描画用データの構造にも反映される。即ち、データの定義においても、フレーム、サブフィールドが存在する。図7にデータ構造を簡略的に示す。同図に示すように描画用データは階層構造をとり、チップデータはn個のフレームでなり、各フレームはm個のサブフィールドで構成される。さらに、各サブフィールドに描画すべき図形パターン1〜lが含まれる。
図5に示す電子線描画システム5の動作について、本発明に係る電子線描画システムの制御方法の第1の実施の形態として図面を参照しながら説明する。
図1は、本実施形態の制御方法を説明するフローチャートである。まず、図57に示す従来の技術と同様の手順で、CADシステム39で図形パターンが作成され、この図形パターンデータを受けたデータ変換用計算機37がデータ変換1およびデータ変換2を行い、これにより中間フォーマット1および中間フォーマット2の作成を経てデータ変換3により描画用データを出力する(ステップS60〜ステップS63)。次に、チップレイアウト情報に基づいて隣接するチップ間の距離Dを算出し、予め定めた基準値と比較する(ステップS66)。チップ間距離Dが基準値よりも小さい場合は(ステップS66)、隣接するチップについて描画用データのマージ処理を行い(ステップS68)、マージ処理後の描画用データをチップレイアウト情報とともに描画制御部3に供給し、描画制御部3の制御により電子光学系2は連続描画を行う(ステップS69)。隣接するチップ間の距離が基準値以上である場合は(ステップS686、マージ処理を行うことなく、描画制御部3を介して電子光学系2により通常の描画を行う(ステップS69)。
ここで、フレームやサブフィールドの各サイズは、各チップで任意に選ぶことができる。このため、複数チップの描画用データをマージして1チップの描画用データを形成するためには、これらのサイズを揃える必要がある。従って、本実施形態のマージ処理では、まず、複数のチップ間でフレームおよびサブフィールドを揃える処理を行い、その後座標の変更を行なう。これにより、複数チップは、データ構造上で1チップとなる。
次に、本発明に係る電子線描画システムの制御方法の第2の実施の形態について図2のフローチャートを参照しながら説明する。
まず、CADシステム39で図形パターンを作成した後、この図形パターンデータを受けたデータ変換用計算機38がデータ変換1およびデータ変換2を行い、これにより中間フォーマット1および中間フォーマット2を作成する(ステップS60〜ステップS62)。
次に、チップレイアウト情報に基づいて隣接するチップ間の距離Dを算出し(ステップS70)、予め定めた基準値と比較する(ステップS72)。チップ間距離Dが基準値よりも小さい場合は(ステップS72)、隣接するチップについて中間フォーマット2のマージ処理を行い(ステップS74)、その後、マージ後の中間フォーマット2についてデータ変換3の処理を行って描画用データを作成し(ステップS75)、描画制御部3を介して電子光学系2により連続描画を行う(ステップS76)。隣接するチップ間の距離Dが基準値以上である場合は(ステップS72)、マージ処理を行うことなく、描画制御部3および電子光学系2により通常の描画を行う(ステップS76)。
次に、本発明に係る電子線描画システムの制御方法の第3の実施の形態について図3のフローチャートを参照しながら説明する。本実施形態は、データマージ処理を行うか否かの判断における手順が上述した第1の実施形態と異なる。その他の点については、第1の実施形態と同一である。
即ち、第1の実施の形態と同様にして、CADシステム39で図形パターンを作成した後、この図形パターンデータについてデータ変換1およびデータ変換2を行い、これにより中間フォーマット1および中間フォーマット2を経てデータ変換3により描画用データを出力する(ステップS60〜ステップS63)。
次に、チップレイアウト情報に基づいて隣接するチップの描画領域について描画時間を予測し(ステップS65)、隣接するチップの描画用データを結合させることにより描画時間を短縮できるか否かを判断する(ステップS67)。結合させることにより描画時間を短縮できると判断した場合は(ステップS67)、隣接するチップについて描画用データのマージ処理を行い(ステップS68)、描画制御部3を介して電子光学系2により連続描画を行う(ステップS69)。描画用データを結合しても描画時間を短縮できないと判断した場合は(ステップS67)、マージ処理を行うことなく、描画制御部3を介して電子光学系2により通常の描画を行う(ステップ69)。
次に、本発明に係る電子線描画システムの制御方法の第4の実施の形態について図4のフローチャートを参照しながら説明する。本実施形態についても、データマージ処理を行うか否かの判断における手順が上述した第2の実施形態と異なり、その他の点については、第2の実施形態と同一である。
まず、第2の実施形態と同様にして、CADシステム39で図形パターンを作成した後、この図形パターンデータについてデータ変換1およびデータ変換2を行い、これにより中間フォーマット1および中間フォーマット2を形成する(ステップS60〜ステップS62)。
次に、チップレイアウト情報に基づいて隣接するチップの描画領域について描画時間を予測し(ステップS71)、隣接するチップの描画用データを結合させることにより描画時間を短縮できるか否かを判断する(ステップS73)。結合させることにより描画時間を短縮できると判断した場合は(ステップS73)、隣接するチップについて中間フォーマット2のマージ処理を行い(ステップS74)、マージ後の中間フォーマット2についてデータ変換3の処理を行って描画用データを作成し(ステップS75)、描画制御部3を介して電子光学系2により連続描画を行う(ステップS76)。マージ処理を行っても描画時間を短縮できないと判断した場合は(ステップS73)、マージ処理を行うことなく、それぞれのチップについてデータ変換3の処理を行って描画用データを作成し(ステップS75)、描画制御部3を介して電子光学系2により通常の描画を行う(ステップS76)。
このような複数チップのマージ処理の具体例のいくつかを図8および図9の模式図に示す。これらは近接する2つのチップについてマージ処理を行った場合であり、図8および図9の(a),(b)にマージ前のチップを示し、図8および図9の(c),(d)にそれぞれのマージ処理後のチップを示す。また、DHは x方向でのチップ間距離、DVはy方向でのチップ間距離、さらに、FHはフレーム幅を示す。
図8および図9に示す4つの例ではいずれの場合も、第2の領域である新たな領域のチップ形状がマージ前の各チップの全領域(第1の領域)を含むとともに最小面積の矩形状をなすようにマージ処理を行う。なお、本実施形態の電子線描画システム5の電子線の標準の加速電圧は50kVである。この場合の近接効果の及ぶ範囲である後方散乱径σbは約10μmである。
本発明にかかる電子線描画システムの制御方法により、チップの図形パターンを描画した場合の効果について、従来の電子線描画装置用データ作成過程による描画結果と対比して説明する。描画にあたっては、遮光用マスク基板である、クロム(Cr)を蒸着したガラス(Qz)を利用した。レジストはポジ型の電子線用レジストを用いた。各チップ内の評価用図形パターンと各チップの配置図をそれぞれ図10(a)〜(C)に示す。図10(a)に示された評価用チップ図形パターンは、1:1のライン・アンド・スペースの図形パターン102であり、その設計寸法は、2.0μm、そのピッチは4.0μmであった。チップのサイズは、高さ(x方向)100μm、幅(y方向)100μmである。
後方散乱径σbは約10μmなので、評価用チップの中心部は、隣接した各チップからの近接効果の影響を受けない。即ち、各評価用チップの中心部は、それぞれ自己のチップ内図形パターンからのみ、それぞれ同じ量の後方散乱電子を受けるため、各図形パターンは同じ寸法に仕上がる。図10(b)は従来の方法によるチップ配置状況を示す。同図における各チップはそれぞれ独立に定義され、独立して近接効果補正が行われた。図10(c)は本発明にかかる電子線描画システムの制御方法で作成されたチップ配置状況を示す。同図に示すように、すべてのチップは1つのチップ110として定義されている。従って、近接効果補正も1チップ定義のもとで行われた。データ作成は、チップデータ作成後、各チップをマージする第1の実施形態(図1)の方法を用いた。図10(b)、(c)上で配置された各チップのチップ間距離DHは、0.5μm〜20.0μmの間とし た。描画した図形パターンを現像し、クロム(Cr)をウエット系エッチングによりパターニングした後、測長SEM(Scanning Electron Microscope)でガラ ス(Qz)部を測定した。各チップの端部での図形パターン寸法と各チップの中心での図形パターン寸法とを測定し、その寸法差を算出することにより近接効果補正における精度の検証を行なった。この測定結果を図11に示す。同図において横軸は隣接チップ間距離DHを表し、また縦軸は各チップの端部での図形パターン寸法と各チップの中心での図形パターンの寸法差を表している。図11から分かるように、従来の技術による方法では、後方散乱径σb程度の隣接チップ間 距離において、寸法差が最大で約40nm生じている。これに対して、本発明ではすべての隣接チップ間距離で、寸法差がほとんど無く数nm程度以下となった。この結果、本発明を用いることで高精度の近接効果補正を行うことができることが確認された。
次に、本発明にかかる電子線描画システムの第2の実施の形態について図面を参照しながら説明する。本実施形態は専用回路で近接効果補正を行なう形態である。
図13は、本実施形態である電子線描画システム8の概略構成を示すブロック図である。
同図に示す電子線描画システム8は、電子ビームを基板11に照射する電子光学系2と、この電子光学系2を制御する描画制御部3bと、システム全体を制御する制御部4とを備えている。
電子光学系2は、電子光学鏡筒20と試料室10とを備えている。電子光学鏡筒20は、電子銃21、各種レンズ系22a〜22e、各種偏向系23〜26、ブランキング板27aおよびビーム成形用アパーチャマスク27b,27cを備えている。また、試料室10は、ウェーハやマスク等の基板11とこれを上面にて支持するステージ12とを備えている。本実施形態において基板11はレチクルである。
また、制御部4は、描画すべき図形パターンを作成するCADシステム39と、このCADシステム39で作成された図形データを電子光学系2で描画できる描画用データに変換するとともに、後述するチップマージ処理を行うデータ変換用計算機38と、ワークステーション等の制御計算機37とを備えている。
さらに、描画制御部3bは、ステージ12の移動等を制御する試料台駆動回路部31、レーザ測長系32、偏向制御回路部33、ブランキング制御回路部34、可変成形ビーム寸法制御回路部35と、バッファメモリ及び制御回路36と、本発明において特徴的な近接効果補正回路60と、照射量データ選択回路43とを備えている。
バッファメモリ及び制御回路36は、照射量データ用メモリ44を備え、また近接効果補正回路60は、補正パラメータ入力部68を備えている。
本実施形態の電子線描画システム8の動作について、本発明にかかる電子線描画システムの制御方法の第5の実施の形態として図面を参照しながら説明する。
図12は、本実施形態の電子線描画システムの制御方法の概略を示すフローチャートである。
まず、CADデータを電子光学系2により電子線で描画するための描画用データであるチップデータに変換し(ステップS80)、このチップデータを、チップレイアウト情報とともにデータ変換用計算機38へ供給する(ステップS81)。チップレイアウト情報には、チップの配置、照射量、電子光学系2、近接効果パラメータなどに関する情報が含まれる。ここで近接効果補正パラメータの算出のための係数、即ち後方散乱係数ηと後方散乱径σbはチップ毎に設定されて いる。
次に、データ変換用計算機38は、チップデータとチップレイアウト情報に基づいてチップマージ処理を行う(ステップS82からS85)。このチップマージ処理は、主に後方散乱径σbよりも近接して配置された複数チップを1チップ として定義し直すことにより行う。
即ち、まず、チップレイアウト情報に基づいて各チップ間の距離Dを算出し(ステップS82)、この距離Dを後方散乱径σbと比較する(ステップS83) 。チップ間距離Dが後方散乱径σbよりも小さい場合は(ステップS83)、マージ対象となるチップについて設定パラメータを照合する(ステップS84)。これは、再定義された1チップについても単一の近接効果補正パラメータしか設定できないので、マージ対象となるチップのうちに異なる近接効果補正パラメータが設定されているチップが含まれる場合は、これらのチップをマージ(結合)することができないからである。従って、このように設定パラメータ間で矛盾がある場合には(ステップS84)、警告信号を出力する(ステップS86)。データ変換計算機38はこの警告信号に基づいて、チップレイアウトを変更する(ステップS87)。これにより、相互に異なる近接効果補正パラメータが設定されたチップは、相互の間隔が後方散乱径σb以上になるようにチップレイアウト が変更され、同一の近接効果補正パラメータを有するチップ同士でマージ処理が行われる。設定パラメータ間で矛盾がない場合は(ステップS84)、これらのチップについてチップマージ処理を行い(ステップS85)、後述のとおり電子線描画を行う(ステップS88)。
チップ間距離Dが後方散乱径σb以上である場合は(ステップS83)、マー ジ処理を行うことなく電子線描画を行う(ステップS88)。
このようなチップマージ処理により必要なすべての描画図形パターンを取込んで最適照射量を計算することにより高い精度で近接効果補正を行うことができる。
図13へ戻り、チップマージ処理後、チップデータとチップレイアウト情報は制御計算機37へ供給され、制御計算機37が備える図示しないメモリに格納される。
制御計算機37に格納されたチップデータとチップレイアウト情報は、制御ソフトによってバッファメモリ及び制御回路36へ供給される。近接効果補正回路60は、チップごとのデータとともに各チップに対応するそれぞれの近接効果補正パラメータ情報を受ける。補正パラメータは、近接効果補正回路60の補正パラメータ入力部68ヘセットされる。さらに、近接効果補正回路60は、それぞれのチップについて、それぞれ割当てられた近接効果補正パラメータに基づいて最適照射量を算出する。補正後に得られた最適照射量データは、照射量データ用メモリ44に記憶される。照射量データ選択回路43は、照射量データ用メモリ44から供給される照射量データに基づいてブランキング制御回路34を介してブランキング用偏向器23を制御することにより電子銃21から放出された電子線(電子ビーム)のON−OFFを制御する。この電子線のON−OFFによって、照射時間が調整され、照射位置に応じて照射量を変化させることができる。ブランキング板27aを通過した電子ビームは、ビーム成形用偏向器24と、ビーム成形用アパーチャマスク27b,27cにより矩形ビームに成形され、また、その矩形の寸法が増減される。
さらに、この成形されたビームは走査偏向器25,25によりターゲットである基板11上で偏向走査され、このビーム走査により基板11に所望図形パターンが描画される。なお、本実施形態では電子光学系2の加速電圧は50kVであった。
図13に示す電子線描画システム8を上述した制御方法で制御して後方散乱係数η、後方散乱径σbを確認することにより、評価を行なった。評価に当っては 本発明と従来技術との間でプロセス変動差を見極めるための実験を行なった。プロセス変動差は、一つの基板上で複数の後方散乱係数η1〜η5を振って実験した場合(本実施形態)と、一つの基板に対してそれぞれ一つの後方散乱係数η1〜η5を用いて、複数基板341〜345を用いて描画した場合(従来法)とを比較することにより測定した。図14に評価に用いた図形パターンを示す。評価用図形パターン103〜105は、それぞれスペース、ライン・アンド・スパース、および2−ラインの図形パターンである。これらの図形パターンに対して、後方散乱係数(η1,η2,η3,η4,η5)=(0.2,0.25,0.30,0.3 5,0.40)を割振って補正描画を行なった。本実施形態の制御方法の評価では、図15(a)に示すように、複数チップ141〜145を同一基板11上に配置した。この一方、従来法の評価では、同図(b)に示すように、複数基板341〜345の中心にそれぞれ1チップずつ配置した。後方散乱径σbは、10 μmに固定した。また、設計寸法は、0.5μmとした。基板11には、遮光用マスク基板である、クロム(Cr)を蒸着したガラス(Qz)を利用した。用いたレジストはポジ型の電子線用レジストである。描画した図形パターンを現像した後、測長SEMにより寸法を測長した。測定箇所は、すべてクロム(Cr)の場所である。測定結果を図16(a),(b)に示す。同図に示すように、密度が高い図形パターン105(2−ライン)は後方散乱係数ηの変化に対してほとんど変化することなく、鈍感であった。この一方、密度が低い図形パターン103(スペース)は後方散乱係数ηの変化に対して敏感であり、ηの増大に対して仕上がり寸法が急激に大きくなった。図形パターン104(ライン・アンド・スペース)のη依存性は、図形パターン105(2−ライン)と図形パターン103(スペース)のη依存性の中問程度である。
このような図形パターン密度に依存した寸法変動量のη依存特性は、スペース、ライン・アンド・スパース、2ラインのいずれについてもη=約0.35の値の付近で交差する。これが求めるべき後方散乱係数ηの値である。従って、このηを用いた場合、スペース、ライン・アンド・スペース、2−ラインはすべて同じ寸法に仕上がる。しかしながら、図16の(a),(b)間では、ばらつきに相違が生じている。同図(a)に示すように、本実施形態の制御方法で一つの基板に複数パラメータのチップを描画した場合は、寸法ばらつきが約±5nm程度であった。
この一方、同図(b)に示すように、従来技術の方法により複数の基板に分けてそれぞれ近接効果補正パラメータが異なるチップを描画した場合は、約±20nmもの寸法ばらつきが生じていた。即ち、単一の基板で求めた後方散乱係数ηの精度は、複数の基板に跨って求めたものに比べ約4倍向上する。この寸法ばらつきの差異が前述したプロセス要因によるものである。このように、本実施形態の制御方法によれば、プロセスの変動要因を分離した上で、一枚の基板で近接効果補正パラメータを確認し、評価することができた。さらに、一枚の基板のみで評価できることから基板枚数および評価時間も節約できることが示された。
上記実施形態では、チップ毎に異なる近接効果補正パラメータが設定され、それぞれ個別に処理された場合を示したが、これに限ることなく、例えば、同一の図形パターンの場合は最適照射量算出結果を記憶しておき、これを用いてチップの図形パターンを描画してもよい。
次に、本発明にかかる電子線描画システムの第3の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
図19は、本実施形態である電子線描画システム9の概略を示すブロック図である。同図に示す電子線描画システム9は、電子ビームを基板11に照射する電子光学系2と、この電子光学系2を制御する描画制御部3cと、システム全体を制御する制御部4とを備えている。
電子光学系2は、電子光学鏡筒20と試料室10とを備えている。電子光学鏡筒20内には、電子銃21、各種レンズ系22a〜22e、各種偏向系23〜26、ブランキング板27aおよびビーム成形用アパーチャマスク27b,27cを備えている。また、試料室10は、ウェーハやマスク等の基板11とこれを上面にて支持するステージ12とを備えている。
また、描画制御部3は、ステージ12の移動等を制御する試料台駆動回路部31、レーザ測長系32、偏向制御回路部33、ブランキング制御回路部34、可変成形ビーム寸法制御回路部35、および本実施形態において特徴的な近接効果補正回路及び制御回路66を備えている。
さらに、制御部4は、ワークステーション等の制御計算機37とデータ変換用計算機38およびCADシステム39とを備えている。
本実施形態の電子線描画システム9は、ステージ連続移動方式を採用している。すなわち、ステージ11を連続移動させながら、ビームを偏向してビーム位置を制御しながら図形パターンを描画する。
図21は描画領域の説明図である。描画領域15中のフレーム(ストライプ)16は、1回のステージ連続移動で描画する領域であり、目的の図形パターンは、このような連続移動の描画を繰返すことですべて描画される。連続移動中、ビーム位置の制御は主偏向器25と副偏向器26とによって行われる。
図19に戻り、電子銃21から放出された電子ビームはブランキング用偏向器23によりON−OFFされる。本実施形態の電子線描画システム9は、このON−OFFの際の照射時間を調整することにより、照射位置に応じて照射量を変化させることを可能としている。ブランキング板27aを通過した電子ビームはビーム成形用偏向器24およびビーム成形用アパーチャマスク27b,27cにより矩形ビームに成形され、またその矩形の寸法が可変される。そして、この成形された電子ビームは主偏向器25と副偏向器26によりターゲット11上で偏向走査され、このビーム走査によりターゲット11が所望の図形パターンに描画されるものとなっている。なお、電子線描画システム9において電子ビームの加速電圧は50kVであり、また発生し得る可変成形ビームの最大サイズは高さ2μm、幅2μmの矩形である。
図20は、近接効果補正回路及び描画回路66のより詳細な構成を示すブロック図である。同図に示すように、近接効果補正回路及び描画回路66は、近接効果補正回路171と描画回路69とを備え、また、描画回路69は、照射量データメモリ161〜163、キャッシュメモリ164、バッファメモリ165、ショット分割回路166、照射量選択回路167、照射時間算出回路168および制御回路160を備えている。
上記の構成を有する電子線描画システム9の動作を図17および図18のフローチャートを用いて説明する。
制御計算機37には、全描画領域の照射量データを図21に示すフレームに相当する1重描画用のストライプで分割した場合の各ストライプ内の照射量データ(以下、データストライプという)と、全描画領域の図形パターンデータをストライプで分割した場合の各ストライプ内の図形パターンデータ(以下、描画ストライプという)が図示しないメモリに予め格納されている。まず、図17に示すように、制御計算機37は、各データストライプ内の小領域であるメッシュの2次元配置を特定するための基準位置(以下、メッシュ原点という)を算出し(ステップS91)、このメッシュ原点のデータとともに照射量データを近接効果補正回路171と描画回路69に供給する(ステップS92)。
近接効果補正回路171は、これらのデータを受けて予め供給された図形パターンのデータに基づいてメッシュ毎に最適照射量データを算出する(ステップS101)。即ち、近接効果補正回路171は、ストライプ内の図形パターンをメッシュに分割し、そのメッシュ毎の面積を求め、この面積に基づいてコンボリューション計算を実行し、その計算値を利用して、メッシュ毎の照射量データを算出する。ここで、予め制御計算機37から転送されたストライプ毎のメッシュ原点を次の計算式3)、4)を用いてメッシュ境界を設定することにより、照射量メッシュの連続性を保証することができる。
メッシュ境界のx座標=チップ原点からの該ストライプのメッシュ原点x1+(メッシュのx方向サイズX)×n・・・・・・・・・・・・・・・・・・3)
メッシュ境界のy座標=チップ原点からの該ストライプのメッシュ原点y1+(メッシュのy方向サイズY)×m・・・・・・・・・・・・・・・・・・4)
ここで、n,mはメッシュを特定するための番号である。例えば、図24に示すように、チップ原点をOCとする2次元座標において、ストライプRSのメッシュ原点OMの座標は(x1,y1)であり、同図に示すメッシュサイズはX×Yで あるため、メッシュ原点から起算してx方向にn番目、y方向にm番目のメッシュ(n,m)のメッシュ境界の座標は、(x1+Xn,y1+Ym)となる。
図17に戻り、近接効果補正回路171は、以上のようにして1ストライプ分の最適照射量データを算出し、その算出結果を、バッファメモリ181に格納した後(図25参照)、描画用回路69の照射量データ用メモリ161〜163に転送する(ステップS102)。
近接効果補正回路171で最適照射量データの算出が行われている間に、制御計算機37は、多重描画における各描画回数での描画ストライプの位置を特定するための基準となる位置である描画ストライプのメッシュ原点の算出を行い(ステップS93)、このデータを描画回路69に転送する(ステップS94)。
次に、制御計算機37は、データストライプ上の照射量データを利用する手順を算出する(ステップS95)。これは、各描画ストライプ毎に行われる。この結果は、描画回路69に転送される(ステップS96)。
次に、描画回路69は、描画すべきストライプに対応する照射量データの再構成を行う。1回目の描画(1重描画)のように、データストライプをそのまま利用して描画する場合には、1重描画における描画ストライプに対応する照射量データをそのまま利用すればよい。この一方、2回目以降の描画において中間のストライプを描画する場合には、照射量データ用メモリ161〜163に格納されている2つの1重描画用ストライプのメッシュデータから中間ストライプの図形パターンに対応する照射量データを1mm×1mmの領域(以下、ブロックという)毎に作成し(ステップS103)、このブロック毎の照射量データをステップS96で予め転送されているメッシュデータの利用手順に基づいてキャッシュメモリ164に転送して格納する(ステップS104)。なお、このステップS103の手順を実行している間に、既に作成したブロック内図形パターンについての描画が並列処理で行われている。
キャッシュメモリ164に格納される照射量データの2次元的配置を図22の模式図に示す。同図において、例えば照射量データのメッシュ位置(n,m)は、描画ストライプのメッシュ原点Odに位置するメッシュの位置を(0,0)と した場合の相対的位置である。各メッシュの照射量データは、図23に示すように、キャッシュメモリ164内で照射量データテーブルの形式で格納される。
図17に戻り、上述したブロック毎の照射量データの作成(ステップS103)および転送(ステップS104)に並行して、描画回路69のショット分割回路166は、ショット毎に最適照射量データを設定し、ショットデータを作成する(ステップS111)。
キャンシュメモリ164に格納された最適照射量データは次のように利用する。 即ち、図18に示すように、あるショットに対応する最適照射量データのメッシュ位置(k,l)を照射量選択回路167が次式5)、6)に従って算出する(ステップS112)。
(k)=〔{(ショットの中心のX座標)−(描画ストライプのメッシュ原点OdのX座標)}/(メッシュのX方向のサイズ)〕の整数部分・・・・5)
(l)=〔{(ショットの中心のY座標)−(描画ストライプのメッシュ原点OdのY座標)}/(メッシュのY方向のサイズ)〕の整数部分・・・・6)
例えば、図26に示すショットについて説明すると、この対応する最適照射量のメッシュ位置は、ショットの中心の座標を(x2,y2)、描画ストライプのメッシュ原点Odの座標を(x1,y1)とすると、
(k)=〔(x2−x1)/X1〕の整数部分
(l)=〔(y2−y1)/Y1〕の整数部分
となる。
図18に戻り、このメッシュ(k,l)に対応する最適照射量がそのショットの照射量であるため、描画回路69は、キャッシュメモリ164内のデータを照合し、メッシュ位置に該当する最適照射量のデータがキャッシュメモリ164内に格納されているか否かを調べる(ステップS113)。一致する最適照射量データがある場合は(ステップS113)、これをそのショットデータとともに照射時間算出回路168に転送する(ステップS115)。一致する最適照射量データがない場合は(ステップS113)、描画回路69は、メッシュ位置(k,l)に基づいてメッシュが属するブロックを算出し、算出されたブロックのデータをキャッシュメモリ164に転送し(ステップS114)、そのショットデータとともに照射時間算出回路168に転送する(ステップS115)。
照射時間算出回路168は、ショット毎に設定された最適照射量データを照射時間のクロック数のデータに変換する(ステップS116)。クロック数のデータはブランキング制御回路部34へ転送される(ステップS117)。ブランキング制御回路部34は、ショット毎に、このクロック数だけビームをONした後OFFすることにより描画する(ステップS118)。クロック数は、ユーザが指定する基準照射量(塗りつぶし部の照射量)D0および電流密度I、並びに照射 時間の制御単位Δに基づいて、次のように算出される。
クロック数=D0×(ショットの照射量データ)/(電流密度I×制御単位Δ)
これにより、照射量をショット毎に制御できるので、精度の高い照射量補正を実行することができる。以上の手順を各描画ストライプ毎に全領域について所定回数の多重描画が終了するまで実行することによって(ステップS119)、近接効果補正と多重描画とを両立させることができる。
次に、本発明にかかる電子線描画システムの制御方法の第6の実施の形態について図面を参照しながら説明する。本実施形態は、汎用計算機を利用したソフトウェアにより近接効果補正をリアルタイムで処理する点に特徴がある。従って、専用の補正回路を備えていない電子線描画システムでもリアルタイムで近接効果の補正処理を行いながら多重描画による高精度の描画を短時間で行うことができる。
図29は、本実施形態に用いる電子線描システムの概略構成を示すブロック図であり、また、図30は、図29に示す電子線描画システムが備える描画回路のより詳細な構成を示すブロック図である。図19に示す電子線描画システム9との対比において、図29に示す電子線描画システム50は、データ変換用計算機、CADシステムおよび近接効果補正回路を備えていない点のみが相違する。その他の点は、電子線描画システム9と略同一である。
図27および図28は、本実施形態の電子線描画システムの制御方法を説明するフローチャートである。
図27に示すように、まず、外部の汎用計算機145(図29参照)を用いてデータストライプのメッシュ原点をデータストライプ毎に算出し、これをメモリディスク146(図29参照)に格納しておく(ステップS121)。また、このデータストライプのメッシュ原点に基づいて、データストライプ毎に近接効果の影響を考慮した補正計算を行い、メッシュ毎の最適照射量を算出し、データストライプ毎のメッシュ原点とともに、メモリディスク146に格納しておく(ステップS122)。
次に、汎用計算機145のメモリディスク146から、メッシュ毎の最適照射量データとデータストライプ毎のメッシュ原点を図形パターンデータとともに、電子線描画システム50に入力する(ステップS123)。制御ソフトにより、図形パターンデータに記述されるストライプ原点とメッシュ原点のデータとから多重描画時の描画ストライプのメッシュ原点が描画ストライプ毎に算出され(ステップS125)、このデータは描画回路69に転送される(ステップS126)。また、最適照射量のデータは、データストライプ毎に描画回路69の照射量データ用メモリ161〜163へ転送される(ステップS127)。
さらに、制御計算機37は、データストライプ上の照射量データを利用する手順を算出する。これは、各描画ストライプ毎に行われる。この結果は、描画回路69に転送される。
これ以降は、上述した第3の実施形態とほぼ同様の手順で処理される。
即ち、描画回路69により、描画すべきストライプに対応する照射量データの再構成を行う。1重描画の場合は、1重描画における描画ストライプに対応する照射量データをそのまま利用するが、2回目以降の描画において中間のストライプを描画する場合には、照射量データ用メモリ161〜163に格納されている2つの1重描画用ストライプのメッシュデータから中間ストライプの図形パターンに対応する照射量データをブロック毎に作成し(ステップS130)、このブロック毎の照射量データ−をステップS128で予め転送されているメッシュデータの利用手順に基づいてキャッシュメモリ164に転送して格納する(ステップS131)。このステップS103の手順を実行している間に、既に作成したブロック内図形パターンについての描画を並列処理で行う。キャッシュメモリ164に格納された最適照射量データは次のように利用する。即ち、あるショットに対応する最適照射量データのメッシュ位置(k,l)を照射量選択回路167が上述した式5)、6)に従って算出する(ステップS133)。次に、図28に示すように、描画回路69により、キャッシュメモリ164内のデータを照合し、メッシュ位置に該当する最適照射量のデータがキャッシュメモリ164内に格納されているか否かを調べる(ステップS134)。一致する最適照射量データがある場合は(ステップS134)、これをそのショットデータとともに照射時間算出回路168に転送し(ステップS136)、この一方、一致する最適照射量データがない場合は(ステップS134)、メッシュ位置(k,l)に基づいてメッシュが属するブロックを算出し、算出されたブロックのデータをキャッシュメモリ164に転送し(ステップS135)、そのショットデータとともに照射時間算出回路168に転送する(ステップS136)。次に、照射時間算出回路168により、ショット毎に設定された最適照射量データを照射時間のクロック数のデータに変換し(ステップS116)、クロック数のデータをブランキング制御回路34へ転送する(ステップS138)。次に、ブランキング制御回路34により、ショット毎に、クロック数だけビームをONした後OFFすることにより描画する(ステップS139)。以上の手順を各描画ストライプ毎に全領域について所定回数の多重描画が終了するまで実行することによって(ステップS140)、近接効果補正と多重描画とを両立させることができる。
本実施形態の制御方法において、前述した電子線描画システム9の動作との相異点は、リアルタイムの処理回路の代替として出力データがメモリディスク上にあることに起因する点だけである。即ち、リアルタイムの近接効果補正回路を使用する替りに、最適照射量データをメモリディスクから描画回路69の照射量データ用メモリ161〜163へ転送する点が異なっている。これは、制御計算機37により制御し、実行することができる。
このように、本実施形態の電子線描画システムの制御方法によれば、多重描画時の中間ストライプ毎に近接効果補正データを作成しておく必要がないので、システム全体の処理時間を短縮しつつ、高精度の描画を実現することができる。上述した第6の実施形態では、補正計算は制御ソフトを利用してデータストライプ毎に処理を行い、また、このデータに基づく中間の描画ストライプ用照射量データの算出は、電子線描画システムにより処理した。しかし、この中間の描画ストライプ用照射量データの算出を上記手順に従って補正ソフトにより処理しても良い。即ち、補正計算そのものは、データストライプ毎にのみ行い、中間の描画ストライプ用照射量データの算出を、隣接するストライプの照射量データの選択・結合により実行し、その結果を電子線描画システムに転送しても良い。この場合は、照射量データの転送をメモリディスクから描画回路へ描画ストライプの数量だけ行うことになるため、データ転送のロスタイムが発生するという問題がある。しかし、この問題も高速の転送手段や高速アクセス可能なメモリディスク(R AMディスク)などを用いることにより回避することができる。
上述した本発明の効果を近接効果補正時間について従来技術と対比することにより説明する。
データストライプおよび描画ストライプのいずれについても同様のことであるが、まず、1重描画するときの1ショットに要する時間(以下、ショット時間という)を照射量から換算し、例えばこれを1μsとする。これと同一の照射量条件で多重描画をする場合のショット時間は、2重描画で0.5μs、4重描画では0.25μsである。
また、1個のストライプの全領域を描画するときに要する時間(以下、描画時間という)は、ショットの全時間を1sとし、その他照射量に関係なく一定量付加される時間を0.3sとして、1重描画の場合で合計1.3sとする。同様にして、2重描画の描画時間を0.8s、4重描画の描画時間を0.55sとする。
この一方、1個のストライプについて近接効果補正処理に要する時間(以下、補正時間という)は、リアルタイムで描画処理と並行して処理するために描画時間より短くなければならない。従って、補正時間を例えば1sとする。このような設定で1重描画、2重描画および4重描画の3つの場合で補正時間を従来技術と本発明のそれぞれについて算出した結果を表1に示す。
表1に示すように、従来の技術によれば、2重描画や4重描画の場合では補正時間が長いため、描画を待たせることになる。これは、上述したとおり、多重描画において1個のデータストライプに対して多重度に比例した個数の描画ストライプを描画するからである。従来は、近接効果補正回路の処理速度を向上させることによりこの問題を解消しなければならなかったが、このような回路を単純な構成で実現することは困難であった。
これに対して、上述した本発明にかかる電子線描画システムの第3の実施の形態および本発明にかかる電子線描画システムの制御方法の第6の実施の形態によれば、1重描画用のデータストライプのみについて近接効果の影響を考慮して照射量を補正して最適照射量を算出し、この最適照射量のデータを選択・結合して多重描画時の中間フレームに対応するように処理するので、表1に示すように、多重度が大きくなっても、補正時間は常に1sのままである。従って、描画を待たせることがない。
上述したとおり、本発明によれば、描画の多重度に影響されることなく、1重描画の場合の処理速度で多重描画に対応した近接効果補正を処理することができる。これにより、単純な回路構成で、近接効果補正と多重描画とを両立させ、高精度かつ高速で図形パターンを描画することができる。
次に、本発明にかかる電子線描画システムの第4の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
図31は、本実施形態である電子線描画システムの概略を示すブロック図である。同図に示す電子線描画システム7は、電子ビームを基板11に照射する電子光学系2と、この電子光学系2を制御する描画制御部3dと、システム全体を制御する制御部4とを備えている。
電子光学系2は、電子光学鏡筒20と試料室10とを備えている。電子光学鏡筒20内には、電子銃21、各種レンズ系22a〜22e、各種偏向系23〜26、ブランキング板27aおよびビーム成形用アパーチャマスク27b,27cを備えている。また、試料室10は、ウェーハやマスク等の基板11とこれを上面にて支持するステージ12とを備えている。
また、描画制御部3dは、ステージ12の移動等を制御する試料台駆動回路部31、レーザ測長系32、偏向制御回路部33、ブランキング制御回路部34、可変成形ビーム寸法制御回路部35、および本実施形態において特徴的なバッファメモリ及び制御回路部59とを備えている。また、近接効果補正回路部171はバッファメモリ及び制御回路部59内に備えられる。
さらに、制御部4は、ワークステーション等の制御計算機37とデータ変換用計算機38およびCADシステム39とを備えている。
本実施形態の電子線描画システム7は、ステージ連続移動方式を採用している。すなわち、ステージ11を連続移動させながら、ビームを偏向してビーム位置を制御しながら図形パターンを描画する。
図21に描画領域の説明図を示す。描画領域15中のフレーム16は、1回のステージ連続移動で描画する領域であり、目的の図形パターンは、このような連続移動の描画を繰返すことですべて描画される。連続移動中、ビーム位置の制御は主偏向器25と副偏向器26とによって行われる。副偏向器26は約60μm×60μmの副偏向領域(サブフィールド17)にビームの位置を制御する。このサブフィールド17の位置決めは、主偏向器25によって行い、フレーム16の幅は、主偏向位置を決めることができる範囲で決まる。
図31に戻り、電子銃21から放出された電子ビームはブランキング用偏向器23によりON−OFFされる。本実施形態の電子線描画システム7は、このON−OFFの際の照射時間を調整することにより、照射位置に応じて照射量を変化させることを可能としている。ブランキング板27aを通過した電子ビームはビーム成形用偏向器24およびビーム成形用アパーチャマスク27b,27cにより矩形ビームに成形され、またその矩形の寸法が可変される。そして、この成形された電子ビームは偏向器25,26によりターゲットである基板11上で偏向走査され、このビーム走査により基板11が所望の図形パターンに描画されるものとなっている。なお、電子線描画システム7において電子ビームの加速電圧は50kVであり、また発生し得る可変成形ビームの最大サイズは高さ2μm、幅2μmの矩形である。
バッファメモリおよび制御回路部59のより詳細な構成を図32のブロック図に示す。同図に示すように、 バッファメモリおよび制御回路部59は、制御計 算機37から図形パターンデータと照射量データの供給を受けて近接効果の影響を考慮して照射量を補正する近接効果補正回路部171と、この近接効果補正回路部171の演算結果と制御計算機37から供給される図形レイアウト情報を受けて、描画用データを作成して偏向制御回路部33などの各種制御回路部に供給する描画用回路52とを備えている。
図33は、近接効果補正回路部171のより詳細な構成を示すブロック図である。同図に示すように、近接効果補正回路部171は、図形パターンのデータを格納するバッファメモリ181〜186と、図形パターンデータ間で後述する領域結合処理を行う領域結合回路172と、近接効果補正回路173と、照射量データメモリ187,188とを備えている。近接効果補正回路173は入力および出力のいずれについてもダブルバンク方式を採用し、これによりパイプライン方式で入力・計算・出力を並列処理できるようになっている。
図34は、描画用回路52のより詳細な構成を示すブロック図である。同図に示すように、描画用回路52は、照射量データメモリ161〜163、本実施形態において特徴的な中間フレーム用照射量データ作成回路174、キャッシュメモリ164、バッファメモリ165、ショット分割回路166、照射量選択回路167、照射時間算出回路168および制御回路160を備えている。
以上の構成を有する電子線描画システム7の動作について、本発明にかかる電子線描画システムの制御方法の第7の実施の形態として図面を参照しながら説明する。本実施形態は、第1のフレームである元フレームに所定の補助領域である余白領域と後方散乱領域を付加して第2のフレームである拡大フレームを形成し、これに基づいて近接効果の補正演算を行う点に特徴がある。本実施形態は、また、上記方法で演算された補正照射量データについて、重複部分を除去して中間フレームを形成する点に特徴がある。
まず、上述した拡大フレームについて図35から図38を参照しながら説明する。図35に示すように、フレームの高さ方向(y方向)にサブフイールド1個と同一の高さを有し、横方向(x方向)にフレームの長さと同一の長さを有する長方形でなる領域(以下、余白領域という)を元フレームに付加し、さらに元フレームと余白領域の外側の高さ方向に、後方散乱電子の影響を回避するための領域(以下、後方散乱領域という)をそれぞれ付加する。余白領域は、飛出図形パターンを分割することなく全領域についていずれかのフレームに帰属させるための補助領域である。また、後方散乱領域の高さは、後方散乱径をσとしたとき、2σである。本実施形態においては上述したように電子ビームの加速電圧が50kVなのでσ=10μmである。以上のように、本来のフレームに余白領域と2つの後方散乱領域を付加した領域を拡大フレームと定義し、この拡大された領域で図形パターンを分割した上で近接効果補正を行う。この拡大フレームに基づく図形パターンのデータを分割する方法を図62に示した飛出図形パターン151を用いて説明する。本実施形態においては、サブフィールドの全領域がある拡大フレーム内に含まれている場合は、その拡大フレームに帰属するものとし、サブフィールドの一部でも隣接する拡大フレームの領域にある場合は、隣接する拡大フレームに帰属するものとする。
図36は、図62に示す図形パターンに拡大フレームを当てはめたものである。同図に示すように、サブフィールドA,B,Cは、それぞれ全領域が元フレーム1、余白領域RM1および後方散乱領域Rb1に含まれている。従って、サブフィールドA〜Cは図37に示すように、拡大フレーム1に帰属する。この一方、サブフィールドDについては、内部に含む図形パターン157も拡大フレーム1内に位置するが、図形パターン158は余白領域RMおよび後方散乱領域Rbから外れるため、拡大フレーム1に含まれず、図38に示すように拡大フレーム2に帰属する。
このような拡大フレームを用いて分割された図形パターンは近接効果補正回路部171で処理される。LSIの図形パターンに対応する照射量データは、元フレーム単位で制御計算機37からバッファメモリ181〜184に元フレームの順番に従って転送される。例えば、図33に示すように、制御計算機37は、元フレーム1に後方散乱領域Rb1を付加したデータをバッファメモリ181に格納し、また、元フレーム2のデータをバッファメモリ182に格納する。さらに、バッファメモリ183には、元フレーム3に余白領域RM2と後方散乱領域Rb2を付加したデータを格納する。ここで制御計算機37からバッファメモリ181ヘ元フレーム4のデータが転送されると、これと同時に、領域結合回路172は、バッファメモリ181〜183からそれぞれの図形パターンに対応する照射量データを選択して引出し、拡大フレーム2を形成する。すなわち、バッファメモリ181から後方散乱領域Rb1の図形パターンの照射量データ、バッファメモリ182から元フレーム2の図形パターンの照射量データ、バッファメモリ183から余白領域RM2と後方散乱領域Rbの図形パターンの照射量データをそれぞれ引 出し、これらの領域の図形パターンの照射量でーたを結合させて拡大フレーム2を形成し、これをバッファメモリ185に転送する。各バッファメモリ181〜183,185に格納された図形パターンの照射量データを図39に模式的に示す。
拡大フレーム2のデータが領域結合回路172からバッファメモリ185(ま たは、バッファメモリ186)に転送されるとき、バッファメモリ186(または、バッファメモリ185)から、既に形成され格納された拡大フレーム1のデー タが近接効果補正回路173に転送される。近接効果補正回路173では、入力された拡大フレーム1の図形パターンに対応する照射量データに基づいて近接効果補正計算を行い、最適照射量を出力する。本実施形態ではこの計算に簡単な近似解の公式を利用する方法(例えば、前述した、Journal of Vacuum Science and Techno1ogy B4, 159(1986)(J.M.Parkovich)に記載の方法)を用いた。この計算結果を近接効果補正回路173は照射量データメモリ187(または、照射量デ ータメモリ188)に出力して格納する。
次に、図34に示すように、近接効果補正回路171から各拡大フレームの照射量データがメッシュごとに描画用回路52の照射量データメモリ161〜163に転送される。なお、後方散乱領域Rbの照射量メッシュは描画では使用されないので、これを除いた元フレームと余白領域RMの照射量メッシュのデータが描画用回路52に転送される。
本実施形態では、1重(初回)描画については、データ上の元フレームをそのまま描画するので、これに対応する照射量データが利用される。一方、中間フレームの描画時には、中間フレーム用照射量データ作成回路174が照射量データメモリ161〜163に格納されている照射量メッシュのデータから中間フレームを作成する。図40は、中間フレーム用照射量データ作成回路174が中間フレームを作成するまでの各段階のデータを示す模式図である。同図(a)は、例えば照射量データメモリ162に格納された元フレーム2および余白領域RM2のデータを示し、また、同図の(b)は、例えば照射量データメモリ161に格納された元フレーム1および余白領域RM1のデータを模式的に示す。同図(c)は、従来の技術により2つの元フレームを単純に並べたときの模式図であり、また、同図(d)は本実施形態の制御方法により余白領域RM1を除去したときの2つの元フレームの模式図である。さらに、同図(e)は元フレーム1の領域の一部と元フレーム2の領域の一部で構成される中間フレームの模式図である。なお、この中間フレームは、同図(d)に示す距離DSだけフレーム設定の基準 位置をシフトさせた場合の中間フレームである。
図40(c)に示すように、2フレームを単純に並べて中間フレームを作成すると、元フレーム2と余白領域RM2で照射量メッシュの座標がずれてしまう。これは、図37と図38との対比から明らかなように、余白領域RM1と、元フレーム2の底辺付近の照射量メッシュが本来同じ物であるため、その分ずれることになるからである。このことは、図40の(c)と(d)の模式図を対比することにより、余白領域RM1の高さだけ元フレーム2が高さ方向にずれていることからもわかる。同図(d)のフレームイメージは、照射量データメモリ161から元フレーム1の領域を読み出し、照射量データメモリ162から元フレーム2の領域と余白領域RM2の領域とを読み出して構成したものである。実際には、中間フレームの描画時に中間フレーム全体の照射量データを作成するのではなく、中間フレーム用照射量データ作成回路174が中間フレームの照射量データを1mm×1mmの領域毎に作成する。即ち、照射量メッシュの座標の範囲を指定して照射量データメモリ161から、例えば、図40(b)に示す領域βを読み出す。同様にして照射量データメモリ162から例えば図40(a)に示す領域δとεを読み出す。これにより、キャッシュメモリ164には、同図(e)に示すように、1mm×1mmの領域を構成する領域(β十δ十ε)が転送される。以上の読出および転送を処理する間に、既に作成したブロック内の描画が並列処理で行われている。
キャッシュメモリ164ヘのデータ転送は、予め格納されたメッシュデータの利用手順のデータに基づいて行われる。照射量データの設定はショット毎に行うわれるが、本実施形態では、キャッシュメモリ164に格納された照射量データを次のように利用する。
まず、あるショットに対応する照射量メッシュの位置(k,l)を次式により算出する。その照射量メッシュが有する照射量がそのショットの値に該当する。
(k)=(ショットの中心のX座標−描画ストライプのメッシュ原点のX座標)/メッシュサイズX
(l)=(ショットの中心のY座標−描画ストライプのメッシュ原点のY座標)/メッシュサイズY
描画用回路52の照射時間算出回路168は、ショット毎に設定された照射量データを照射時間のクロック数のデータに変換する。このクロック数はブランキング制御回路部34へ供給される。ブランキング制御回路部34は、ショット毎にこのクロック数だけビームをONした後OFFする。クロック数は、ユーザが指定する、基準照射量(塗りつぶし部の照射量)D0と電流密度I、照射時間の 制御単位Δから次の様に算出される。
クロック数=D0×(ショットの照射量データ)/(電流密度I×制御単位Δ)
以上の方法により、照射量をショット毎に制御でき、照射量補正が実行される。この操作を各描画ストライプ毎に行うことによって、近接効果補正と多重描画とを両立して行うことができる。
次に、本発明にかかる電子線描画システムの第5〜第7の実施の形態について図面を参照しながら説明する。第5の実施の形態は、近接効果の補正に際する計算エラー等の異常の有無を電子線描画システム内部に備えるハードウェアにより自己診断する形態であり、第6の実施の形態は、上記ハードウェアまたは制御ソフトに含まれるソフトウェアにて自己診断する形態である。また、第7の実施の形態は、計算エラー等の異常が発見された場合に、CRT等の表示手段から容易に異常箇所を特定できるデータ検証支援システムを備えた実施形態である。
まず、本発明に係る電子線描画システムの第5の実施の形態について図面を参照しながら説明する。本実施形態の特徴は、近接効果の補正に際する計算エラー等の異常の有無を診断する演算結果自己診断手段を備えた点にある。
図41は、本実施形態である電子線描画システム1の概略構成を示すブロック図である。
同図に示す電子線描画システム1は、電子ビームを基板11に照射する電子光学系2と、この電子光学系2を制御する描画制御部3eと、システム全体を制御する制御部4とを備えている。
電子光学系2は、電子光学鏡筒20と試料室10とを備えている。電子光学鏡筒20内には、電子銃21、各種レンズ系22a〜22e、各種偏向系23〜26、ブランキング板27aおよびビーム成形用アパーチャマスク27b,27cを備えている。また、試料室10は、ウェーハやマスク等の基板11とこれを上面にて支持するステージ12とを備えている。
また、描画制御部3eは、ステージ12の移動等を制御する試料台駆動回路部31、レーザ測長系32、偏向制御回路部33、ブランキング制御回路部34、可変成形ビーム寸法制御回路部35、バッファメモリ及び制御回路36とを備えている。
さらに、制御部4は、ワークステーション等の制御計算機37とデータ変換用計算機38およびCADシステム39とを備えている。
本実施形態の電子線描画システム1は、ステージ連続移動方式を採用している。すなわち、ステージを連続移動させながら、ビームを偏向してビーム位置を制御しながら図形パターンを描画する。
図21に描画領域の説明図を示す。描画領域15中のフレーム16は、1回のステージ連続移動で描画する領域であり、目的の図形パターンは、このような連続移動の描画を繰返すことですべて描画される。連続移動中、ビーム位置の制御は主偏向器25と副偏向器26とによって行われる。副偏向器26は約60μm×60μmの領域面(サブフィールド17)にビームの位置を制御する。このサブフィールド17の位置決めは、主偏向器25によって行い、フレーム16の幅(x方向の長さ)は、主偏向位置を決めることができる範囲で決まる。
図41に戻り、電子銃21から放出された電子ビームはブランキング用偏向器23によりON−OFFされる。本実施形態の電子線描画システム1は、このON−OFFの際の照射時間を調整することにより、照射位置に応じて照射量を変化させることを可能としている。ブランキング板27aを通過した電子ビームはビーム成形用偏向器24およびビーム成形用アパーチャマスク27b,27cにより矩形ビームに成形され、またその矩形の寸法が可変される。そして、この成形された電子ビームは偏向器25,26により基板11上で偏向走査され、このビーム走査により基板11の表面に所望の図形パターンが描画されるものとなっている。
制御部4の制御計算機37は、描画用データの書込みと保管、精度管理や描画手順の制御などを行う。電子線描画システム1に入力できるEB(Electron Beam)データの構造の概念図を図42に示す。これは、代表図形法を利用した近接 効果補正用データ圧縮を実現させる構造である。(参考文献、Japanese Journal of Applied Physics;T.Abe,S.Yamasaki,T.Yamaguchi,R.Yoshikawa&T.Takigawa, Vol.30,p2965(1991))。
同図(a)に示すように、各フレーム毎に図形パターンデータDPが格納され 、各図形パターンデータDPには、サブフィールド毎にその位置情報及びアレイ 情報が格納されている。これらの情報のうちには、例えば、各サブフィールド内の図形情報が含まれる。なお、図形情報は、ショット分割前の図形が定義され、繰返し配列の定義等でデータ圧縮されて格納される。
また、各フレーム毎にそれぞれの図形パターンデータに対応した照射量データDSが格納される。即ち、照射量は、図形データとは別個に小さな領域(例えば 1μm×1μm、同図(b)参照)毎に設定される。
バッファメモリ及び制御回路36の詳細な構成を図43を参照しながら説明する。同図に示すバッファメモリ及び制御回路36aは、補正照射量算出回路40と描画制御回路51を含み、制御ソフト49を有する制御計算機37とともに、本発明において特徴的な演算結果自己診断手段を構成する。
補正照射量算出回路40は、計算回路41と入力バッファ45,46と出力バッファ47,48とを備えている。また、描画制御回路51は、バッファ55〜58を備えている。
補正照射量算出回路40の入力バッファ45,46は、制御計算機37に接続され、図示しないメモリに格納された各フレーム毎の照射量データ(図42参照)の供給を受ける。計算回路41は、回路間の専用線とは独立に設けられた専用のバス配線59を介して制御計算機37に接続されている。制御ソフト49により計算回路41を制御する場合は、制御計算機37がこのバス配線59を経由して制御信号を送り、制御ソフト49により回路状態を把握するためにもこのバス配線59を利用する。また、出力バッファ47,48もバス配線59を介して制御計算機37に接続され、出力バッファの内容もまたバス配線59を経由して制御計算機37が制御ソフト49により読込むことができる構成となっている。
描画制御回路51の入力バッファ55,56は、制御計算機37に接続され、各フレーム毎の図形パターンデータDP(図42参照)を受取る。また、描画制 御回路51の入力バッファ57,58は、バス配線59を介して補正照射量算出回路40の出力バッファ47,48に接続され、演算結果としての補正照射量データDSの転送を受ける。さらに、描画制御回路51は、図示しない出力部が電 子光学系2に接続されている。
図43に示すバッファメモリ及び制御回路36aの動作は、以下のとおりである。
即ち、制御計算機37が制御信号を補正照射量算出回路40の計算回路41に供給し、各フレーム毎の照射量データDSを入力バッファ45,46に供給する とともに、この照射量データDSに対応して各フレーム毎の図形パターンデータ DPを描画制御回路51に供給する。
補正照射量算出回路40の計算回路41は、1フレーム毎に補正照射量を算出し、この補正照射量データDSの供給を受けた出力バッファ47,48がバス配 線59を介して描画制御回路51に転送する。
描画制御回路51は、補正照射量算出回路40から供給された照射量データDSを利用し、予め制御計算機37から供給された各フレーム毎の図形パターンデ ータDPに基づいて、電子ビームの各ショット18(図21参照)毎に照射時間 を算出し、ショット18のサイズや位置とともに、照射時間データを電子光学系2に送る。
電子光学系2では、これらのデータに基づいて電子ビームを成形し、照射位置や照射時間等を調整する。
図43に示すように、補正照射量算出回路40では、入力、出力ともに、ダブルバンク方式を採用しており、そのためパイプライン方式で計算・入力・出力を並列処理できる。また、描画制御回路51も同様にダブルバンク方式により、照射量データの入力と描画用制御とを並列処理できる形態となっている。
このような構成により、本実施形態の電子線描画システム1は、補正照射量の算出と描画を並列に処理する。即ち、描画制御回路51は、補正照射量のデータを利用しながら、描画の制御を行い、この間、補正照射量算出回路40は、次に描画するフレームの補正照射量を算出している。
本実施形態の電子線描画システム1は、規格化した補正照射量D(x)を図形に対してではなく、描画領域を等分割した第1の小領域であるメッシュ毎に算出する。このメッシュのサイズは、図42(b)に示すように、後方散乱の広がり(10μm×10μm)よりも充分に小さな1μm×1μm程度である。
この補正照射量の演算は、図43に示す計算回路41により以下のように処理される。
(1)補正照射量算出回路40の計算回路41に、制御計算機37から図形パターンデータDPが送られる。この図形パターンデータDPを用いて、計算回路41は、描画領域を第2の小領域に区分し、この第2の小領域内部に含まれる図形パターンの面積と重心を求める。ここで、小領域は後方散乱の広がりと同程度の10μmとする。
または、描画領域をメッシュに区分し、このメッシュに含まれる図形パターンの面積を求める。
メッシュのサイズは、上述したとおり後方散乱の広がりよりも充分小さな1μmとすれば良い。システム上は、0.7×0.7μm〜5×5μmの範囲で可変である。
(2)各小領域の面積または面積および重心から、次の式に従って、コンボリューション計算を行う。
U(x,y)=[erf{(x−x′+a)/σb}−erf{(x−x′− a)/σb}]×[erf{(y−y′+b)/σb}−erf{(y−y′−b)/σb}]・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・7)
ここで、x,yは照射量を設定すべきメッシュの中心座標である。また、x′,y′およびa,bの定義は以下のとおりである。
I.(1)で、面積と重心を利用する場合
x′,y′はx,yから3σ程度以内に存在する第2の小領域での図形パターンの重心座標a,bは次式であらわされる。
a(b)=(第2の小領域での図形パターンの面積)1/2
II.(2)で、面積のみを利用する場合
x′,y′はx,yから3σ程度以内に存在する第2の小領域の中心座標であり、a,bはメッシュの長さの半分である。
(3) (2)のコンボリューション値Uから各メッシュ毎の(規格化した)補正照射量dを以下の式にしたがって算出する。
d(x,y)=(1/2+η)/(1/2+η×U(x,y))・・8)
(4) (3)で得られたd(x)から以下の式により、照射量データDSを 1メッシュあたりに256階調すなわち1バイトにて表現しなおす。
D(x,y)=255×(INT(d(x,y)/(1+η)+0.5) ・・9)
これにより、最小の(規格化された)照射量が0で表現され、最大の(規格化された)照射量が255で表現される。
このようにして得られた補正照射量のデータは、描画制御回路51に送られ、描画制御回路51はこの照射量データDSと図形パターンデータDPとから、ショット毎の照射量を算出し、ショット毎に照射時間を変更しながら図形パターンを描画するための制御を行う。
本実施形態の電子線描画システム1では、このデータを用い、以下の式で照射時間Tを算出する。
T=(DO/I)×(1.0+k×D(x)/256.0)・・・10)
ここで、DOは最小の照射量(μC/cm2)、Iは電流密度(A/cm2)、kは照射を換算するための定数であり、(規格化された)最大照射量が1+kとなるよう調整してある定数である。
補正照射量の算出は、1回のフレーム連続移動で描画する領域即ち1フレーム毎に行われ、補正照射量が算出された後、場所によって照射時間を調整されながら該フレーム内の図形パターンが描画される。
次に、補正照射量の演算結果を自己診断する動作を本発明に係る電子線描画システムの制御方法の第8の実施の形態として図44ないし図46のフローチャートを参照しながら説明する。
まず、制御計算機37の図示しないハードディスクの内部に数種類〜数十種類の図形パターンデータDP(図42参照)を予め格納しておく。この図形パター ンデータDPには、1:1のライン・アンド・スペースや、孤立のライン図形パ ターン、スペース図形パターンなどの各種のテスト図形パターンが含まれる。これらの図形パターンデータDPは、外部の汎用の計算機によりデータ変換ソフト などを用いて予め作成しておく。
また、制御計算機37のハードディスクの内部には、これらの図形パターンに対応する基準値としての最適照射量のデータが格納されている。この最適照射量データは、補正照射量算出回路40が正常動作している際に得られた出力結果である。
ここで、上記一つの図形パターンに対しては、一つ以上の最適照射量のデータが格納されている。これは、一つの図形パターンに対して、メッシュの大きさを0.7μm×0.7μmから5μm×5μmまでの5種類(0.7μm×0.7μm、1.0μm×1.0μm、1.5μm×1.5μm、2.0μm×2.0μm、3.0μm×3.0μm、5.0μm×5.0μm)の条件で算出された結果が格納され、また、補正計算用のパラメータη、σの組合わせが3種類(η=0.3、σ=10.0μm:η=0.8、σ=8.0μm:η=1.2、σ=10.0μm)セットされているためである。
また、この最適照射量データは、フレーム毎に算出して格納しておく。
さらに、制御計算機37のハードディスクの中には、システムのチェック時間を記述するファイル(ファイルA)と、チェック終了の有無およびエラーの内容を記述するファイル(ファイルB)とが格納されている。チェック時間ファイルAには、例えば、1:00などが記述されている。
制御ソフト49は、レチクル等の基板の描画開始前に必ず上記2つのファイルA,Bを読込み、また、制御計算機37内部の現在時刻を読出す。図44に示すように、(1)現在の時刻が、チェック時間に至っていない場合(ステップS30)、および、(2)チェック時間を過ぎているが、ファイルBにより(ステップS31)、チェック終了していることが確認された場合には(ステップS32)、次のレチクルの描画準備を開始する(ステップS33)。ここで、ファイルBのエラー内容に、高精度描画不可の記述がある場合(ステップS34)、これから描画する図形パターンが高精度の描画を要するパターンであるか否かの判断を行い(ステップS35)、もし高精度描画が必要ない場合は、描画を開始し(ステップS36)、この一方、高精度描画を要する場合には本レチクルの描画を中断し(ステップS37)、高精度でない図形パターンを探して描画を行う(ステップS38)。
これに対し、(3)チェック時間を過ぎており(ステップS30)、ファイルBにより(ステップS31)、当日のチェックが終了していないことが確認された場合には(ステップS32)、次のレチクルの描画を開始せず、図45のフローチャートに示すように、チェック用動作を開始する。
まず、補正照射量算出回路40にメッシュサイズや、補正計算用パラメータをセットする。次に図形パターンデータ1をハードディスクから補正照射量算出回路40の入力バッファ45,46にデータを供給し(ステップS40)、その後、計算回路41に起動をかける(ステップS41)。計算回路41は、その演算結果を出力バッファ47,48に出力して格納し、入力データをすべて処理した後は処理終了信号を制御計算機37に供給して処理を終える。制御ソフト49は、この処理終了信号を受けて、出力データをバス配線59経由で読取り、読取結果をハードディスクに格納する。次に、格納された出力結果を予め算出しておいた補正照射量の基準値データと比較し(ステップS42)、比較結果をハードディスクの内部にファイルの形で格納する(ステップS43)。以上のステップS400〜ステップS430の動作を繰返し(ステップS44)、比較結果をすべてファイルに出力する。
次に、比較結果の判断を行う。すべての比較で完全に一致した場合には(ステップS45)、問題ない旨のメッセージを出力するとともに、完全一致の旨をファイルに格納しておき、レチクルの描画を開始する(ステップS46)。
比較結果が異常な場合には(ステップS45)、処理は2つのケースに別れる。
もし、誤差が1単位程度の軽微なものである場合(ステップS47)、ワーニングとメンテナンスコールのメッセージを表示して、その旨をファイルBに出力した上で(ステップS48)、レチクルの描画を開始する(ステップS49)。
もし、誤差が2単位以上4単位未満の場合には(図46ステップS50)、超高精度の描画は不可能とし、その旨のメッセージを表示するとともにファイルBに出力し(ステップS51)、高精度でない図形パターンを探して描画を行う(ステップS52)。
もし、差が4単位以上の場合は(ステップS50)、すべての描画は不可能とし、その旨のメッセージを表示するとともにファイルBに出力し(ステップS53)、描画システムを終了させる(ステップS54)。
このように、本実施形態の電子線描画システム1は、補正照射量算出回路40の演算結果を所定の基準値と比較してシステムの動作を制御する演算結果自己診断手段を備えているので、レチクルの製造(図形パターン描画、レジスト現像、エッチング等)を完了した後に寸法測定等の処理により演算結果を確認する必要なく、システム単体で演算結果を検証することができる。このため、演算結果自己診断手段を定期的あるいは不定期に起動することにより、わずかな時間で演算結果の検証と補正照射量算出回路40の状態のチェックを終了させることができる。
従来、現実的ではないが、例えば仮に、すべての場所の寸法を測定したとしても、レジスト、または、クロム等の寸法測定において測定精度は数十nmからせいぜい数nmの測定精度しか得られなかった。これに対し、本実施形態の電子線描画システム1によれば、計算回路41等の動作を直接検知してチェックできるため、照射量の5%以下の誤差まで検知することができる。これは、誤差2nm〜3nmの測定誤差に相当する高精度のものである。しかも、算出された照射量すべてをチェックできることになる。
次に、本発明に係る電子線描画システムの第6の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
まず、本実施形態に適用される補正照射量の算出方法とその演算誤差を算出する原理について説明する。
図47は、本実施形態である電子線描画システム30に用いられる、照射量補正により近接効果の影響を抑制する方法を説明する模式図である。即ち、同図(a)は描画する図形パターンの例201〜203を示し、同図(b)は補正をしなかった場合の図形パターン201〜203に対応する照射量分布とエネルギー分布を示し、さらに、同図(c)は、補正した場合の図形パターン201〜203に対応する照射量分布とエネルギー分布を示している。同図(b)に示すように、密度の高い図形パターン201に対応する部分ではエネルギーの蓄積が大きく、また、粗な部分、即ち密度の低い図形パターン203の部分ではエネルギーの蓄積が少ない。従って、近接効果の影響は、基板から生じるエネルギーをも考慮に加え、同図(c)に示すように、全体のエネルギーを一定に保つような照射量補正を行うことにより抑制する。
図48は、描画する図形パターンの他の一例253について、本実施形態における照射量補正の方法を説明する模式図である。
同図において、それぞれa×bの面積を有する小領域に分割された描画領域215中のメッシュ252に描画すべき図形パターン253が示されている。図形パターン213および214は、いずれも電子ビームで図形パターン253を描画した場合のエネルギー分布の境界を示し、図形パターン214のエネルギー強度は、図形パターン213のエネルギー強度よりも小さい。
まず、位置(x′,y′)での照射量の寄与を考慮した、メッシュ252の補正照射量D(x,y)は下記の式で近似できる。ここで、U(x,y),V
n( x,y)は、位置(x′,y′)が小領域(x,y)に及ぼす寄与分である。
D(x,y)=Σd
n(x,y) ・・・・・・・・・・・・・・・・11) n
n:繰返し回数
d
0(x,y)=(Fterm+η)/{Fterm+η×U(x,y)}
…12)
Fterm:定数
η :定数
即ち、レチクル上に蓄積するエネルギー分布は、図形パターンの面積の大小にかかわらず一定となることが理想であり、この時もっとも良好な図形パターンを描画すると考えられる。照射量補正は、この場所毎・面積毎のエネルギー分布の調整を行う。つまり、この理論値と算出された補正照射量データに基づいて、補正誤差を算出することにより、補正計算をおこなう。
場所(x′,y′)近傍に存在する図形パターンの端辺でのエネルギーをE(x′,y′)とし、照射量メッシュサイズを(a,b)とすると、
ここで、(xj,yj)はメッシュ(xi,yi)の近傍3σb程度以内のメッシ ュ中心である。このとき、もし照射量が完全に正確で、誤差が無い場合、このE(x′,y′)は1.0となる。つまり、この値からのズレが補正誤差となり、 Err(x′,y′)=E(x′,y′)−1.000 ・・・・・・・17 )
で表される。
本実施形態の電子線描画システム30はこの点に注目し、16)、17)を制御計算機37の制御ソフト49に含まれるソフトウェアにより、自動的に計算する機能を設けたものである。
本実施形態の電子線描画システム30の基本的構成は、図41に示す電子線描画システム1と略同一である。従って、その動作も補正照射量の演算処理および演算結果に対する自己診断処理を除いて同一である。本実施形態の特徴は、電子線描画システム30のバッファメモリ及び制御回路36bに含まれる補正照射量算出回路130にある。
図49に電子線描画システム30が備える補正照射量算出回路130を含むブロック図を示す。同図に示すように、補正照射量算出回路130は、メッシュ毎に面積または重心を算出する面積・重心算出部131と、コンボリューション演算を行うコンボリューション回路132と、制御計算機37および面積・重心算出部131に接続されるバッファ141,142と、面積・重心算出部131およびコンボリューション回路132に接続されるバッファ143,144とを備えている。補正照射量算出回路130は、バス配線59を介して制御計算機37と接続され、また、補正照射量算出回路の出力データである補正照射量データDSは、転送回路134により描画制御回路51に供給される。
補正照射量算出回路130の動作は、次のとおりである。なお、以下では、説明を簡略化するため、メッシュ毎の重心のデータは利用しないものとする。
まず、制御計算機37からメッシュ毎の描画図形のパターンデータD
Pがバッ ファ141または142に供給されると、面積・重心算出部131が制御計算機37から供給される起動信号により、メッシュ毎の面積S(x′)を算出し、算 出結果である面積データD
aをバッファ143または144に出力する。制御計 算機37は、この面積データD
aを引出して図示しないハードディスクに格納す る。コンボリューション回路132は、バッファ143または144から面積データD
aを引出して以下の計算式に従ってコンボリューション計算を行い、補正 照射量D(x)を算出して補正照射量データD
Sとして転送回路134に出力す る。
転送回路134は、補正照射量データDSを描画制御回路51に供給するとと もに制御計算機37にも供給し、制御計算機37は、これをハードディスクに格納する。
制御計算機37は、これらの面積データDaと補正照射量データDSとを用いて面積×照射量、即ちS※(x)=D(x)×S(x)を算出して補正照射量算出回 路130のバッファ143または144に供給した後、コンボリューション回路132を起動させる。コンボリューション回路132は、計算式18)に従って照射量D※(x)を出力する。この出力データは、転送回路134により制御計算機37へ転送され、ハードディスクに保管される。制御計算機37は、この照射量D※(x)から次のようにコンボリューション結果を逆算する。
ηU(x)=(1/2+η)/D※(x)−1/2・・・・・・・・・19)
このU(x)が補正照射量算出回路130で得られたD(x)で図形パターンを描画した場合の後方散乱電子によるレジストの感光量である。
また、前方散乱電子によるレジストの感光量は、
1/2D※(x)=1/2D(x)×S(x)
であるため、全感光量E(x)は、次式
E(x)=1/2D※(x)+ηU(x)
=1/2D(x)×S(x)+(1/2+η)/D※(x)−1/2
…20)
となる。制御計算機37は、制御ソフト49により上式20)に従って全感光量E(x)を算出する。
E(x)の理論値は1であるため、E(x)の所定値1からのずれが補正計算の誤差を意味する。即ち、E(x)−1で得られる。従って、補正計算誤差が所定値を超える場合は、補正照射量算出回路にエラーがあることがわかる。
このように、理論に基づく場合は、発生する誤差の上限は数%である。従って、ハードウェアおよびソフトウェアに異常がなければ補正誤差がこれを超えることはない。よって、制御計算機37は、制御ソフト49によりこの補正誤差が上限値を超えるか否かを判断し、超えた場合には、最適照射量算出回路130に異常があることを認識できたことになり、その旨のメッセージ信号を出力する。
ここで、面積の算出結果は面積・重心算出部131から出力されたものを使用したが、別途ソフトウェアにより算出しておいても良いし、他の同様の回路により算出されたものを利用しても良い。
また、本実施形態では、補正照射量算出回路130の内部で照射量テータを算出したが、コンボリューション結果そのものを出力させても良いし、誤差そのものを出力させても良い。これらは、補正照射量算出回路130内の、コンボリューション結果から照射量データを算出する部分をテーブル参照方式にすることで容易に実現可能である。
さらに、上記実施形態では補正照射量算出回路のチェックを描画とは別に行ったが、同時に行っても良い。
図50は、本実施形態の電子線描画システム30の一変形例における補正照射量算出回路140を含むブロック図である。
同図に示す補正照射量算出回路140は、図49との対比において明らかなように、コンボリューション回路の出力側に2段の出力バッファ145,146を備え、このうち1段を描画制御回路51への転送用に用い、他の1段をチェック用に利用する。チェック用バッファの後段には、補正照射量算出回路に備えられたコンボリューション回路132と同一のコンボリューション回路133がさらに備えられている。
同図に示す変形例では、制御計算機37から供給される面積×照射量のデータに対するコンボリューション計算はこのコンボリューション回路133が実行する。
また、この結果得られた照射量データD※(x)から誤差を算出する回路をさらに備え、この誤差算出回路で誤差が所定値以上になるか否かを検知させ、異常時には、これを制御計算機37に通知させるようにしても良い。
以上は、近接効果補正の計算をハードウェアが行ったが、ソフトによって計算を行う場合にも、同様に実現が可能である。
このソフトウェアにより演算結果の自己診断を行うプロセスを図51のフローチャートを参照しながら説明する。
まず、補正照射量の演算の過程でメッシュデータと図形パターンデータに基づいて図形パターンの面積分割の結果得られた各小領域の面積データを制御計算機37のメモリに格納しておく(ステップS10)。次に、補正演算を実行して各小領域毎に補正照射量のデータをディスクに格納する(ステップS11)。
次に、このようにして得られた補正照射量と面積のデータから各小領域毎に面積×補正照射量のデータを作成し(ステップS12)、所定のコンボリューション演算を実行して(ステップS13)、補正誤差を算出する(ステップS14)。
次に、この補正誤差を所定の理論値と比較する(ステップS16)。その結果、すべての比較で完全に一致した場合には(ステップS20)、問題ない旨のメッセージを出力して、レチクルの描画を開始する(ステップS21)。
比較結果が理論値と合致しない場合には(ステップS20)、処理は2つのケースに別れる。
もし、誤差が第1の範囲内に属するような軽微なものである場合には(ステップS22)、ワーニングとメンテナンスコールのメッセージを表示して(ステップS23)、レチクルの描画を開始する(ステップS24)。
もし、誤差が第1の範囲に属さず、第2の範囲に属する場合には(ステップS25)、高精度の描画は不可能とし、その旨のメッセージを表示するとともに(ステップS26)、高精度でない図形パターンを探して描画を行う(ステップS27)。
もし、誤差が第2の範囲にも属さない大きな値である場合は(ステップS25)、すべての描画は不可能とし、その旨のメッセージを表示するととともに(ステップS28)、描画システムを終了させる(ステップS29)。
このように、本実施形態の電子線描画システムによれば、近接効果補正のためのハードウェアまたはソフトウェアの演算過程に異常がある場合に、自らこの異常を検知することができるので、トラブルやエラーの有無を早期に発見することができる。これにより、描画後のチェックの負担を大幅に低減することができる。
次に、本発明に係る電子線描画システムの第7の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
図52は、本実施形態である電子線描画システム60の基本的構成を示すブロック図である。同図に示すように、本実施形態の特徴は、補正照射量の演算過程に異常が発見された場合に、CRT(Cathode Ray Tube)等の表示手段から 容易に異常箇所を特定できるデータ支援システム61をさらに備えた点にある。
同図に示す電子線描画システム60は、ハードメモリ66を有しシステム全体を制御する制御計算機37と、制御計算機37から図形パターンデータDPを受 けて近接効果の影響を考慮して補正した電子線照射量である補正照射量データDSをバッファメモリ65に出力する補正照射量算出回路40と、バッファメモリ 65から供給された補正照射量データDSと制御計算機37から供給された図形 パターンデータDPに基づいて電子光学系2を制御する描画制御回路51と、描 画制御回路51の出力信号を受けてレチクル等の基板に目的の図形パターンを描画する電子光学系2と、補正照射量データDSなどを表示するCRT67と、本 発明において特徴的なデータ検証支援システム61とを備えている。
データ検証支援システム61は、専用のバス配線59により制御計算機37と接続されている。バッファメモリから出力された補正照射量データDSは、描画 とは別個にバス配線59を経由して、制御計算機37のハードディスクに格納される。さらに、この補正照射量データDSは、制御計算機37からデータ検証支 援システム61に入力され、CRT67にグラフィック出力することにより異常箇所のチェックが目視にて行われる。
制御計算機37は、図示しないメモリ内に上述の第5の実施形態の制御ソフト49に含まれる補正照射量自己診断用ソフトと同一のソフトウェアを格納しており、描画領域中のフレーム毎にリアルタイムで描画直前の補正照射量データの誤差の有無をチェックする。
図53は、電子線描画システム60に備えられたデータ検証支援システム61の一構成例である。同図に示す構成例において、データ検証支援システム61は、オペレーションを行うメインタスク62と、表示を行う子タスク63を備えている。また、メモリのデータファイル領域には、制御計算機37から供給された各種のデータがファイル65a〜65nに格納されている。各ファイルには、メッシュデータDMや描画の図形パターンデータDPが描画領域中の小領域毎の情報として個々に格納されている。
メッシュデータDMのファイルは、例えば、メッシュの大きさ、メッシュの配 置、格納データ数値、表示色しきい値等の情報から構成されている。
また、図形パターンデータDPは、例えば、その配置情報・図形形状コード・ 図形辺長さ等の情報から構成されている。
電子線描画システム60のデータ検証支援システム61は、メインタスク62の要求により、対象となるデータファイルを選び、必要な情報をファイルから取出して子タスク63へ出力する。子タスク63ではメインタスク62のオペレーションにより、配置、色等に編集された補正照射量データDSを、表示スピード 等、メインタスク62の要求に応じた出力方法でCRT67にグラフィク表示する。
本実施形態におけるデータ検証支援システム61は、メッシュデータDMのフ ァイルから、メッシュサイズ73、総数、データ並び方向74、X方向個数75、Y方向個数76、開始座標および格納データ数値等を読取り、各メッシュに該当する補正照射量データDSの数値と、この数値を色階調化した色を、各座標に 配置されたメッシュに記入し、図54(a)に示す画像91のように、メッシュデータを可視化してCRT67に表示する。
また、描画図形パターンデータDPは、本実施形態においてチップサイズおよ び配置位置83、各図形のパターンおよび配置位置85等の情報を読取り、パレット上に用意した色とハッチを用いて、図54(b)に示す画像92のように、描画図形パターンを可視化して表示する。
さらに、本実施形態におけるデータ検証支援システム61では、メッシュデータDM、図形パターンデータDP等のファイルを同時に読込み、これらの重ね合わせ等、所望の要求に合致した表示画面を出力する。
図54(c)に示す画像93は、メッシュデータと図形パターンデータとを重ね合せてCRT67に表示した一具体例である。同図に示すように、図54(a)の画像91のメッシュデータDMと図54(b)の画像92の図形パターンデータDPとが重畳されることにより、補正照射量データDSが、描画する図形パターンに対応しているか否かを目視にて点検することが容易になる。同図からは、垂直方向に帯形状をなす図形パターン95に対応する小領域(メッシュ)では、その周辺の小領域と比較して補正照射量データDSが小さくなっており、また、 矩形状の一部をなす図形パターン96に対応する小領域では、表示画像93の中央部から端部にかけて補正照射量が徐々に小さくなっていく様子がわかる。従って、ある小領域で図形パターンに対応して概ね期待される数値およびその階調色と大きく逸脱した数値・階調色が発見された場合は、その小領域を演算エラーの発生箇所と特定することが可能になる。
また、前述したとおり、照射量の全データはきわめて膨大であるため、異常箇所の特定に当っては、全図形パターンについて概略的に把握した後、異常と思われる箇所の拡大表示・縮小表示を繰返して特定する必要がある。データ検証支援システム61では、子タスク63側の表示画面をマウスでドラッグすることにより、表示画面上から座標指定や領域指定を行い、目的の領域の拡大、縮小、スクロール等の表示を行うことができる。これは、表示画面上で指示された位置および領域情報に基づいてメインタスク62がデータファイル65から必要な情報を呼出し、要求されたデータを子タスク63へ送って画面表示することにより実現する。
このような画面表示の一具体例を図55に示す。同図(a)は紙面右方向に画面をスクロールすることにより図形パターン97の近傍の図形パターン88,87とともに表示した例を示し、また、同図(b)は図形パターン97の一部をマウスで領域指定することにより画面全体に拡大表示した例を示し、さらに、同図(c)は図形パターン97の全体をマウスで領域指定することにより縮小表示した例を示す。
また、同様の操作により、表示画面上のカーソルで示す座標の単位系を切替えることもできる。例えば、X方向及びY方向の個数で示すメッシュ座標の単位から所定の基準位置からの距離、例えば(Xμm,Yμm)等の単位や、16進法に基づく座標単位系に変更することもできる。
なお、データファイルはメインタスク62によりリアルタイムでアクセスされる。
また、本実施形態のデータ検証支援システム61は、ダンプツール64をも備えているので、従来技術でのダンプ表示への表示切替えや上述したグラフィック表示との重ね合せ表示も可能である。
図56は、このようなダンプ表示を実現する構成を説明するブロック図である。同図に示すように、子タスク63側の表示画面であるメッシュデータ表示画像91に対し、マウスでドラッグすることにより目的の領域98を指定すると、子タスク63は、この指定に基づいてダンプ表示の指令をメインタスク62に供給する。メインタスク62は、この指令を受けてダンプツール64を起動させ、該当するデータファイル65から指定された領域の座標データと補正照射量データDSを引出して、目的の領域だけのダンプ表示94を出力する。
本実施形態の電子線描画システム60は、上述した第6の実施の形態である電子線描画システム30と同様に、ソフトウェアによる演算結果自己診断機能を有するので、自己診断の結果エラー出力がされた場合に、さらに備えるデータ検証支援システム61により、メッシュの補正照射量の数値をこの数値を階調化した色とともに可視化した画像で表示されるので、データを広く同時に捕らえることができ、数値を羅列したダンプ表示のみの場合に比べ、補正照射量データDSの 確認や異常箇所の検出が容易になる。また、画面上からのアクセスによる、データ表示画像の拡大、縮小、スクロール等が可能であるためデータ検索の操作性を高めることができる。さらに、補正照射量データDSと図形パターンデータDPとを同時に読込み、重ね合わせて出力する場合は、データ同士の比較が非常に容易になり、データ検証がより一層容易になる。これにより、電子線描画システムの精度および効率をさらに高めることができる。
以上、本発明の実施の形態のいくつかについて説明したが、本発明は上記形態に限るものでなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変形して適用することができる。例えば、上述した第5ないし第7の実施形態においては、補正照射量の算出をフレーム毎に行い、動作確認もこれに対応してフレーム単位で行ったが、レチクルに描画する図形パターンに対して一度にすべての補正照射量を算出するタイプの電子線描画システムについては、これに対応してレチクル毎にシステムの動作確認をしても良い。
逆に、そのようなシステムであっても、敢てフレーム毎に、また、さらに小さな領域毎に動作確認をしても良い。
さらに、上記第6の実施形態においては、補正照射量算出回路40のみをチェックしたが、描画制御回路51においても同様の処理を行い、システムの安定性をさらに確認することも可能である。