JP2008157802A - 熱物性測定方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】被測定物の表面に熱物性値が既知の金の薄膜が形成された被測定試料の表面である測定部に対し,予め定められた周波数で強度変調された加熱光を照射させ(S5),前記測定部に検出光を照射させ(S6),その検出光が前記測定部から反射した反射検出光の強度に基づいて,前記加熱光の強度変化に対する前記反射検出光の強度変化の位相遅れを所定の位相検波手段により測定する(S6)。
【選択図】図2
Description
前記レーザフラッシュ法において,前記試料の温度変化は,その試料の表面における光の反射率の変化として観測(検出)できる。そこで,特許文献1等には,試料における加熱光の照射部に検出光(レーザビーム光)を照射するとともに,その反射光(以下,反射検出光という)の強度を測定し,その測定結果に基づいて試料の熱物性値を求めることが示されている。即ち,特許文献1に示される技術は,試料の温度変化を前記反射検出光の強度変化(即ち,試料表面の反射率の変化)として観測する技術である。特許文献1に示される測定方法は,薄膜熱物性測定法(レーザ熱物性顕微鏡による測定法)として,セラミック,半導体,ガラス等の種々の試料の測定に利用されている。
また,特許文献2には,不透明な基板の表面に成膜された薄膜の熱物性値を求めるため,レーザ熱物性顕微鏡を用いた薄膜熱物性測定方法が示されている。この特許文献2に示される測定方法は,熱物性値が既知の基板の表面に成膜された薄膜に強度変調された加熱光と検出光(レーザビーム光)とを照射し,加熱光の強度変調周波数Hと前記加熱光の強度変化に対する前記反射検出光の強度変化の位相遅れδとの関係(δ−H曲線)を測定し,そのδ−H曲線から位相遅れδの極値(極大値又は極小値)を求め,その位相遅れδの極値に基づいて,前記薄膜と前記基板との熱浸透率比を求めるものである。
また,特許文献3には,被測定物の熱物性値を求めるため,その被測定物の表面に金属薄膜が形成された試料に対し,レーザ熱物性顕微鏡を用いた測定を行う熱物性測定方法が示されている。この特許文献3に示される測定方法は,被測定物の表面に熱物性値が既知の金属薄膜が形成された試料の表面に,前記加熱光及び前記検出光(測温用レーザ光)を照射するとともに,その検出光の反射光(前記反射検出光)の前記位相遅れを検出する。そして,検出された前記位相遅れ(測定値)は,被測定物の熱浸透率とその表面に形成された金属薄膜の熱浸透率との比(熱浸透率比)と高い相関を示すため,その位相遅れの検出結果に基づいて前記被測定物の熱物性値(例えば,熱浸透率)を求めることができる。このように,被測定物の表面に形成された金属薄膜の温度変化を前記位相遅れとして測定することにより,その位相遅れ(測定値)に基づいて,ミクロン単位の高い空間分解能で,かつ高精度で被測定物の熱物性値(熱浸透率)を導出できる。
ところで,特許文献3に示される熱物性測定方法において,S/N比向上のためには前記反射検出光の強度及びその変化が大きいことが望ましい。このため,前記基板の表面に形成される前記薄膜は,特許文献3に示されるように,通常,モリブデンやアルミニウムの薄膜が採用される。モリブデンやアルミニウムは,金属材料の中で比較的反射率が低く,また,温度変化に対する反射率変化が大きいため,前記基板の表面にモリブデンやアルミニウムの薄膜が形成された試料を採用すれば,前記反射検出光の強度及びその変化を大きくできるからである。
一方,昨今は様々な素材や部品について,高い空間分解能で,かつ高精度で熱物性値を測定したいというニーズがあり,金属製の素材や部品もその例外ではない。
従って,本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり,その目的とするところは,金属(銅,アルミニウム,銀等)やダイヤモンド等の熱伝導率が大きい(熱浸透率が大きい)物質からなる被測定物について,熱物性値(特に,熱浸透率)を高感度かつ高精度で導出できる測定値を得るための熱物性測定方法を提供することにある。
(1)前記被測定物の表面に熱物性値が既知の金の薄膜が形成された試料(以下,被測定試料という)の表面である測定部に対し,予め定められた周波数で強度変調された加熱光を照射させる強度変調加熱光照射手順。
(2)前記測定部に所定の光源から出射される検出光を照射させる検出光照射手順。
(3)前記検出光が前記測定部から反射した光(以下,反射検出光という)の強度を光検出手段により測定する反射検出光強度測定手順。
(4)前記反射検出光強度測定手順の測定結果に基づいて,前記加熱光の強度変化に対する前記反射検出光の強度変化の位相遅れを所定の位相検波手段により測定する位相遅れ測定手順。
なお,前記被測定物は,熱伝導率が大きい(熱浸透率が大きい)部材,例えば銅やアルミニウム,銀等の金属又はダイヤモンド等である。
本発明に係る熱物性測定方法は,前記被測定物の表面に形成された前記金の薄膜の温度変化を,前記検出光の反射光に基づく前記位相遅れとして測定する。ここで,前記検出光は,ミクロン単位のごく狭いスポットに容易に集光できるため,高い空間分解能での測定が可能である。また,前記金の薄膜の温度変化を光学的に測定するため,高精度での測定が可能である。その結果,本発明に係る熱物性測定方法により得られる測定値(前記位相遅れ)を用いれば,被測定物の熱物性値(特に,熱浸透率)を高い空間分解能で,かつ高精度で導出することができる。
ここで,金は,比較的熱浸透率が高い金属であるため,被測定物の表面に金の薄膜が形成された前記被測定試料に前記検出光を照射すると,前記被測定物が熱伝導率及び熱浸透率が大きい金属部材やダイヤモンド等であっても,その物性値の違いに応じた前記位相遅れの変化量が比較的大きくなる。しかも,金は,温度変化に対する反射率変化(熱浸透率の変化)が比較的大きい材料であるため,この点においても,前記被測定物の物性値の違いに応じた前記位相遅れの変化量を大きくできる。従って,本発明に係る熱物性測定方法により得られる前記位相遅れ(測定値)に基づけば,熱伝導率及び熱浸透率が大きい前記被測定物について,その物性値を高感度で測定(導出)することができる。
しかも,金は金属の中で特に酸化しにくい安定な材料であるため,経時変化が生じにくい非常に安定な測定結果(前記位相遅れ)を得ることができる。
(5)所定の基準部材に前記被測定試料における前記金の薄膜と熱物性値及び厚みが同じ金の薄膜が形成された基準試料の表面に対し,前記加熱光をその強度変調の周波数を順次変更しながら照射させる可変強度変調加熱光照射手順。
(6)前記可変強度変調加熱光照射手順により前記加熱光の強度変調の周波数が変更されるごとに,前記基準試料について前記検出光照射手順,前記反射検出光強度測定手順及び前記位相遅れ検出手順を実行することにより前記加熱光の強度変調の周波数と前記位相遅れとの関係を測定する強度変調周波数・位相遅れ特性測定手順。
(7)前記強度変調周波数・位相遅れ特性測定手順の測定結果において前記位相遅れが極値となるときの前記加熱光の強度変調の周波数を特定し,特定したその周波数を,前記強度変調加熱光照射手順における前記加熱光の強度変調の周波数として設定する強度変調周波数特定手順。
なお,前記(5)〜(7)に示す手順の実行にあたり,前記金の薄膜の厚みが,前記加熱光の変調周波数の変更可能な範囲において,前記位相遅れの極値が表れるように設定されていることが前提であることはいうまでもない。
前記特許文献2に示されているように,前記位相遅れの大きさは,前記加熱光の強度変調の周波数によって異なる。また,前記基準部材や前記被測定物の物性値にかかわらず,その表面に形成される金属薄膜(ここでは,金の薄膜)の熱物性値及び厚みが同じであれば,前記位相遅れが極値となるときの前記加熱光の強度変調の周波数は同じである。このため,以上に示した(5)〜(7)の手順を予め実行することにより,前記被測定試料の表面温度の変化に対する前記位相遅れの変化の大きさが極大化するような前記加熱光の強度変調周波数が設定され,測定感度をより高めることができる。
ここに,図1は本発明の実施形態に係る熱物性測定方法の実施に用いられる熱物性測定装置Aの概略構成図,図2は熱物性測定装置Aにより試料の熱物性値を測定する手順を表すフローチャート,図3は試料の熱浸透率比と位相遅れとの関係を表すグラフ,図4は試料に形成される反射膜の熱拡散率と膜厚との関係を表すグラフ,図5は3次元熱伝導モデルに基づくシミュレーション計算により得られた被測定物の熱浸透率と位相遅れとの関係を表すグラフである。
まず,図1に示す概略構成図を参照しつつ,本発明の実施形態に係る熱物性測定方法の実施に用いられる熱物性測定装置Aの構成について説明する。
前記熱物性測定装置Aは,熱浸透率が大きい部材(例えば,15000〜37000[J/s0.5m2K]程度の部材),例えば銅やアルミニウム,銀等の金属部材又はダイヤモンド等からなる部材である被測定物7a(熱物性値が未知)の表面に,熱物性値が既知の金の薄膜7bがスパッタリングにより形成された試料(以下,被測定試料7という)の測定を行う。
図1に示されるように,前記熱物性測定装置Aは,加熱用レーザ光源1,交流変調器2,ビームスプリッタ3及び4及,レンズ5,試料載置台6,ドライバ8,検出用レーザ光源9,光学フィルタ10,検出光測定器11,ロックインアンプ12,関数発生器13,ハーフミラー14,光測定器15,モニタ16,計算機17等を備えている。
前記関数発生器13は,前記ドライバ8及び前記ロックインアンプ12のそれぞれに対して同一周波数かつ同位相の発振信号を出力する。ここで,前記関数発生器13は,前記計算機17から設定される周波数の発振信号を生成して出力する。また,前記ドライバ8は,前記関数発生器13から得た発振信号と同期した交流信号を前記交流変調器2に出力する。これにより,加熱光Eは,前記交流変調器2により,前記関数発生器13から出力される発振信号と同じ周波数及び同じ位相で強度変調される。
このように,前記関数発生器13,前記ドライバ8及び前記交流変調器2は,前記計算機17から設定される周波数に従って,前記加熱光Eの強度変調の周波数を所定範囲(例えば,0.1MHz〜5.0MHzの範囲)で任意に変更可能である。
前記被測定試料7に照射された加熱光Eは,その一部が前記金の薄膜7bで反射し,その反射光(以下,反射加熱光E’という)が,前記ビームスプリッタ4により反射され,さらに,その反射加熱光E’一部が前記ハーフミラー14を通過して前記光学フィルタ10の方向へ向かうとともに,残りの一部が前記ハーフミラー14により反射されて前記光測定器15に入射する。
その一つは,金に対する加熱量が,加熱光Eによる加熱量に対して十分小さくなる程度の出力(パワー)及び波長の光を採用することである。二つ目は,加熱光Eによる加熱中心(照射スポットの中心)の温度変化のみを検出できるよう,加熱光Eのビーム径よりも十分に小さなビーム径の光(検出光D)を採用することである。
図1に示されるように,前記ビームスプリッタ3を通過後の前記検出光Dは,前記加熱光Eとほぼ同一の光路(同軸上)を進行する。
また,前記レンズ5の集光機能により,前記測定試料7の表面(測定部)における前記検出光Dのスポット径が,同じくその測定部における前記加熱光Eのスポット径よりも十分小さい径となるように集光される。
前記被測定試料7に照射された検出光Dは,前記金の薄膜7bで反射し,その反射光(以下,反射検出光D’という)が,前記ビームスプリッタ4に反射され,さらにその反射検出光D’一部が前記ハーフミラー14を通過して前記光学フィルタ10の方向へ向かうとともに,残りの一部が前記ハーフミラー14により反射されて前記光測定器15に入射する。
そして,前記光学フィルタ10を通過した前記反射検出光D’は,前記検出光測定器11に入射し,この検出光測定器11により,前記反射検出光D’の強度が測定される。具体的には,前記検出光測定器11は,前記反射検出光D’の強度に応じた信号レベルの電気信号を前記ロックインアンプ12に出力する。
前記ロックインアンプ12(前記位相検波手段の一例)は,前記関数発生器13から得られる発振信号(加熱光Eの強度変調の周波数及び位相に同期した信号)を参照信号として用いることにより,前記加熱光Eの変化に対する前記反射加熱光E’の変化の位相遅れδを測定(検出)する。その測定結果(位相遅れδ)は,前記計算機17に入力される。
もちろん,前記両スポットの位置を自動調節することも考えられる。例えば,前記熱物性測定装置Aが,前記光測定器15により得られる画像情報を処理する画像処理装置と,前記ビームスプリッタ3,4や前記レンズ5等の光学機器の位置や向きを変更するアクチュエータと,前記画像処理装置の処理結果に基づいて,前記加熱光Eの照射スポットの位置との相対的な位置関係が予め定められた位置関係となるように前記アクチュエータを制御する制御装置とを備えることが考えられる。
本発明の実施形態に係る熱物性測定方法は,前記加熱光Eの強度変調の周波数を適切な値に設定するための測定処理(S1〜S4:以下,事前測定処理という)の手順と,その事前測定処理の終了後,前記被測定試料7の熱物性値を求めるための測定処理(S5〜S7:以下,本番測定処理という)の手順とに分かれる。
前記事前測定処理(S1〜S4)は,所定の部材(以下,基準部材という)に,前記被測定試料7の表面に形成された前記金の薄膜7bと同じ材料及び同じ成膜条件で形成された(即ち,金薄膜の熱物性値及び厚みが同じ)試料(以下,基準試料という)を測定対象とする。なお,前記基準部材は,例えば金属やガラス等,前記金の薄膜7bとの間で熱拡散現象が生じる部材であれば,とくにその物性は問わない。
一方,前記本番測定処理は,前記被測定試料7を測定対象とする。
そして,前記事前測定処理は,当該熱物性測定装置Aにおいて1回だけ実施すればよく,以後,複数の前記被測定試料7それぞれについて測定を行う場合には,前記本番測定処理のみを実行すればよい。
まず,前記事前測定処理について説明する。
前記事前測定処理においては,まず,前記計算機17が,前記関数発生器13に対し,予め定められた周波数の範囲(例えば,0.1MHz〜5.0MHzの範囲)において,前記加熱光Eの強度変調の周波数fを初期値から順に所定の刻み幅(例えば,0.1MHz)で順次設定(変更)するよう指示する(S1)。これに応じて,前記関数発生器13,前記ドライバ8及び前記交流変調器2が,前記加熱用レーザ光源1から出射される前記加熱光Eを,前記計算機17からの指示に従って,前記基準試料の表面に対してその強度変調の周波数fを順次変更しながら照射させる(S1,前記可変強度変調加熱光照射手順の一例)。
また,ステップS1の処理によって前記加熱光Eの強度変調の周波数が変更されるごとに,前記基準試料について前記位相遅れδの測定処理(S2)を実行する。
前記位相遅れの測定処理(S2)では,前記検出用レーザ光源9が,前記基準試料における前記加熱光Eの照射部(測定部)に対して前記検出光Dを照射する処理と,前記検出光測定器11が前記反射検出光D’の強度を測定(検出)する処理と,前記ロックインアンプ12が前記位相遅れδを測定(検出)する処理と,前記計算機17が前記位相遅れδとそのときの前記加熱光Eの強度変調周波数fとを関連付けてその記憶部に記録する処理とが実行される。
そして,前記計算機17により,予め定められた周波数の全範囲(例えば,0.1MHz〜5.0MHzの範囲)についての前記位相遅れδの記録が終了したと判別(S3)されるまで,ステップS1及びS2の処理が繰り返される。
以上に示したステップS1〜S3の処理により,前記加熱光Eの強度変調の周波数fと前記位相遅れδとの関係を表すδ−f特性曲線のデータが得られる(前記強度変調周波数・位相遅れ特性測定手順の一例)。なお,前記δ−f特性曲線は,前記特許文献2に記載されたδ−H曲線に相当するものである。
次に,前記計算機17が,前記δ−f特性曲線のデータ(前記強度変調周波数・位相遅れ特性測定手順の測定結果に相当)において,前記位相遅れδが極値(極大値又は極小値)となるときの前記加熱光Eの強度変調の周波数fsを特定し,特定したその周波数fsを,後述する本番測定処理での前記加熱光Eの照射手順(S5,前記強度変調加熱光照射手順に相当)における前記加熱光Eの強度変調の周波数として設定する(S4,前記強度変調周波数特定手順の一例)。
前記特許文献2に示されているように,前記位相遅れδの大きさは,前記加熱光Eの強度変調の周波数fによって異なる。また,前記基準部材や前記被測定物7aの物性値にかかわらず,その表面に形成される反射膜(ここでは,前記金の薄膜7b)の熱物性値及び厚みが同じであれば,前記位相遅れδが極値となるときの前記強度変調の周波数fsは同じである。このため,以上に示したステップS1〜S4の処理を予め実行しておくことにより,前記被測定試料7の表面温度の変化に対する前記位相遅れδの変化の大きさが極大化するような前記強度変調の周波数fsが設定される。なお,このステップS4で設定される周波数fsを,以下,本番測定用変調周波数fsと称する。
なお,反射膜7aの熱拡散率が既知であれば,以上に示した事前測定処理により得られる結果は,周知の熱拡散モデルに基づく理論計算によっても得られる。しかしながら,反射膜7aの実際の熱拡散率は,その材料が同じであってもその成膜条件によって異なり得る。このため,以上に示した事前測定処理により,より高い測定感度が得られる条件(前記本番測定用変調周波数fs)を得る。
次に,前記本番測定処理について説明する。なお,この本番測定処理が開始される前に,前記試料載置台6に前記被測定試料7が載置されているものとする。
まず,前記計算機17が,前記関数発生器13に信号発生指令を出力し,これに応じて,前記関数発生器13,前記ドライバ8及び前記交流変調器2が,前記加熱用レーザ光源1から出射される前記加熱光Eを,前記本番測定用変調周波数fsでの強度変調を行いながら前記被測定試料7の表面(前記金の薄膜7bの一部である測定部)に対して照射させる(S5,前記強度変調加熱光照射手順の一例)。なお,前記本番測定用変調周波数fsは,前述したステップS1〜S4の処理によって予め設定された周波数である。
さらに,強度変調された前記加熱光Eの照射中に,前記被測定試料7について,前記ステップS2と同様に前記位相遅れδの測定処理を実行する(S6)。即ち,このステップS6では,前記検出用レーザ光源9が,前記被測定試料7における前記加熱光Eの照射部(測定部)に対して前記検出光Dを照射する処理と,前記検出光測定器11が前記反射検出光D’の強度を測定(検出)する処理と,前記ロックインアンプ12が前記位相遅れδを測定(検出)する処理と,前記計算機17が前記位相遅れδをその記憶部に記録する処理とが実行される。なお,このステップS6が,前記検出光照射手順,前記反射検出光強度測定手順及び前記位相遅れ測定手順の一例である。
最後に,前記計算機17が,ステップS6で得られた前記位相遅れδに基づいて,前記被測定物7aの熱物性値を算出し,その算出結果を出力する(S7)。なお,算出結果(熱物性値)の出力とは,例えば,液晶ディスプレイ等の表示装置への出力(表示),所定の通信インターフェースを通じた外部装置への出力(送信),ハードディスクドライブ等の記憶部への出力(書込み)等である。また,算出する前記被測定物7aの熱物性値は,例えば熱浸透率である。
特許文献2の(1)式に示されるように,周知の1次元熱拡散の2層モデルの理論により,所定の基材の表面に反射膜(金属薄膜)が形成された試料において,加熱光の強度変調の角周波数ωと,その反射膜の熱浸透率bfに対するその基材の熱浸透率bsの比である熱浸透率比β(=bs/bf)と,その反射膜の熱拡散特性時間τfと,前記位相遅れδとの関係式は理論的に導出できる。さらに,前記反射膜の熱拡散特性時間τfは,その反射膜の厚みdf及び熱拡散率αfによって定まる(τf=df 2/αf)。
ここで,本発明の実施形態に係る熱物性測定方法においては,前記加熱光Eの強度変調の角周波数ω(=2πfs)と,前記反射膜として用いる前記金の薄膜の熱浸透率bf(熱物性値の一例)と,その金の薄膜7bの厚みdf及び熱拡散率αf(熱物性値の一例)と,測定値である前記位相遅れδとが既知である。従って,ステップS7において,前記計算機17は,測定値である前記位相遅れδを熱拡散の2層モデルに基づく理論式に適用することにより,前記被測定物7a(基材)の熱浸透率bsを算出することができる。
図3は,前記加熱光Eの強度変調周波数fに応じた,試料の熱浸透率比βと前記位相遅れδとの関係を表すグラフである。この図3に示すグラフは,前述した周知の熱拡散の2層モデルの理論に基づくものである。
図3に示すグラフにおいて,グラフの傾きが急勾配であるほど,前記位相遅れδの変化が大きく測定感度が高いことを表す。図3に示すグラフからわかるように,前記加熱光Eの強度変調周波数fにかかわらず,前記熱浸透率比βが小さいほど,即ち,反射膜の熱浸透率bfが大きいほど測定感度が高くなることがわかる。
この点,本発明において採用される前記金の薄膜7bの熱浸透率は,2.8×104[J/s0.5m2K]であり,これまで主に反射膜として採用されているモリブデンの熱浸透率1.8×104[J/s0.5m2K]に比べて非常に大きい。従って,本発明に係る熱物性測定によれば,熱浸透率が大きい(熱伝導率が大きいともいえる)被測定物7a(金属やダイアモンド等)について,高感度で前記位相遅れδを測定することができる。なお,上記の熱浸透率の値は,一般的に知られている物性値である。
さらに,本発明に係る熱物性測定では,前述したように,前記δ−f特性曲線のデータにおいて前記位相遅れδが極値(極大値又は極小値)となるときの周波数fsを前記本番用変調周波数として設定するため,前記位相遅れδの測定感度がさらに高まる。
例えば,前記本番測定用変調周波数fsを1MHzとする場合を考える。
この場合,RFスパッタリングにより形成される前記反射膜としてモリブデンの薄膜(熱拡散率=0.44×10-6m2/s)が採用される場合,その膜厚は約0.4μmとなる。
一方,本発明に係る熱物性測定においては,前記反射膜として前記金の薄膜7b(熱拡散率=110×10-6m2/s)が採用されるので,前記本番測定用変調周波数fsを1MHz程度にしたい場合,前記金の薄膜7bの膜厚を約2μmとすればよい。
なお,図4に,試料に形成される反射膜の熱拡散率αfと膜厚dfとの関係を表すグラフを示すが,これは,前記(2)式をfs=1MHzとしてグラフ化したものである。
この点,金は,熱拡散率が金と同等である他の金属に比べ,温度変化に対する反射率の変化の感度が高い。このため,前記金の薄膜7bは,温度変化に対する反射率の変化の感度という観点から見ても反射膜として非常に適している。
さらに,金は金属の中で特に酸化しにくい安定な材料であるため,反射膜として前記金の薄膜7bを採用することにより,経時変化が生じにくい非常に安定な測定結果(前記位相遅れδ)を得ることができる。
しかしながら,この問題は,前記加熱光Eによる試料の加熱効率(熱交換効率)を上げるため,前記加熱用レーザ光源1として,比較的短い波長(例えば,500nm程度)の加熱光Eを出力する光源を採用すること,及び前記加熱用レーザ光源1の出力(前記加熱光Eの強度)を上げることによって解消できる。
図5は,3次元熱伝導モデルに基づくシミュレーション計算により得られた被測定物の熱浸透率と位相遅れとの関係を表すグラフである。
シミュレーション条件は以下の通りである。
[シミュレーション条件]
加熱光の強度変調の周波数が1MHz,反射膜の材質がモリブデン及び金,その反射膜の膜厚が,モリブデンの薄膜については400nm,金の薄膜については2μm,反射膜が形成される被測定物が,シリコン(Si),アルミニウム(Al)及び銅(Cu)である。
また,加熱光の試料表面(測定部)におけるスポット径が5μm,その加熱光の照射スポットにおける光の強度分布はガウス分布であるとした。
また,加熱光の照射スポットにおける中心位置での温度変化(温度波)の熱伝導シミュレーションを行った。
なお,シリコン,アルミニウム,銅,金及びモリブデンの熱浸透率は,それぞれ15023[J/s0.5m2K],24000[J/s0.5m2K],37085[J/s0.5m2K],28000[J/s0.5m2K]及び4200[J/s0.5m2K](モリブデン薄膜の実測値)とした。
例えば,前記被測定物7aがアルミニウムであるときの測定値(位相遅れδ)に対し,前記被測定物7aがシリコン又は銅であるときの測定値の差は,モリブデン薄膜を採用した場合がそれぞれ1.9°及び1.1°であるのに対し,前記金の薄膜7bを採用した場合はそれぞれ2.3°及び2.0°である。一般に,サーマル顕微鏡の測定値の分解能は1°程度であることが一般的であるため,前記被測定物7aがアルミニウムや銅である場合,従来のモリブデン薄膜では実効のある測定が困難であるのに対し,前記金の薄膜7bを採用する本発明によれば,前記被測定物7aがアルミニウムや銅であっても有効な測定が可能である。
2 :交流変調器
3,4:ビームスプリッタ
5 :レンズ
6 :試料載置台
7 :被測定試料
7a :被測定物
7b :金の薄膜
8 :ドライバ
9 :検出用レーザ光源
10 :光学フィルタ
11 :検出光測定器
12 :ロックインアンプ
13 :関数発生器
14 :ハーフミラー
15 :光測定器
16 :モニタ
17 :計算機
A :熱物性測定装置
D :検出光
D’ :反射検出光
E :加熱光
E’ :反射加熱光
S1,S2,〜:処理手順(ステップ)の識別符号
Claims (3)
- 被測定物の熱物性値の導出に用いられる測定値を得るための熱物性測定方法であって,
前記被測定物の表面に熱物性値及び厚みが既知の金の薄膜が形成された被測定試料の表面である測定部に対し,予め定められた周波数で強度変調された加熱光を照射させる強度変調加熱光照射手順と,
前記測定部に所定の光源から出射される検出光を照射させる検出光照射手順と,
前記検出光が前記測定部から反射した光である反射検出光の強度を光検出手段により測定する反射検出光強度測定手順と,
前記反射検出光強度測定手順の測定結果に基づいて,前記加熱光の強度変化に対する前記反射検出光の強度変化の位相遅れを所定の位相検波手段により測定する位相遅れ測定手順と,
を有してなることを特徴とする熱物性測定方法。 - 前記被測定物が,金属又はダイヤモンドである請求項1に記載の熱物性測定方法。
- 所定の基準部材に前記被測定試料における前記金の薄膜と熱物性値及び厚みが同じ金の薄膜が形成された基準試料の表面に対し,前記加熱光をその強度変調の周波数を順次変更しながら照射させる可変強度変調加熱光照射手順と,
前記可変強度変調加熱光照射手順により前記加熱光の強度変調の周波数が変更されるごとに,前記基準試料について前記検出光照射手順,前記反射検出光強度測定手順及び前記位相遅れ検出手順を実行することにより前記加熱光の強度変調の周波数と前記位相遅れとの関係を測定する強度変調周波数・位相遅れ特性測定手順と,
前記強度変調周波数・位相遅れ特性測定手順の測定結果において前記位相遅れが極値となるときの前記加熱光の強度変調の周波数を特定し,特定したその周波数を,前記強度変調加熱光照射手順における前記加熱光の強度変調の周波数として設定する強度変調周波数特定手順と,
を有してなる請求項1又は2のいずれかに記載の熱物性測定方法。
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