JP2008156714A - 表面被覆工具 - Google Patents

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【課題】 耐摩耗性が高く、かつ高い耐欠損性を有する表面被覆工具を提供する。
【解決手段】 基体の表面に、Ti1−a−bAl(C1−x)(ただし、MはTiを除く周期表4、5、6族元素、希土類元素およびSiから選ばれる1種以上であり、0.40≦a≦0.65、0.05≦b≦0.3、0≦x≦1である。)からなる被覆層を被覆してなる表面被覆工具において、前記被覆層の表面に複数の突起部が分散し、該突起部がTiまたはAlを主成分とする第1の突起部とMを主成分とする第2の突起部とからなり、優れた耐摩耗性と耐欠損性を有するものである。
【選択図】 なし

Description

本発明は基体の表面に被覆層を成膜してなる表面被覆工具に関する。
現在、切削工具や耐摩部材、摺動部材といった耐摩耗性や摺動性、耐欠損性を必要とする表面被覆工具では、WC基超硬合金、TiCN基サーメット等の硬質材料の表面に様々な被覆層を成膜して耐摩耗性、摺動性、耐欠損性を向上させる手法が使われている。
かかる被覆層として、TiCN層やTiAlN層が一般的に広く採用されているが、より高い耐摩耗性と耐欠損性の向上を目的として種々な被覆層が開発されつつある。
例えば、特許文献1では、成膜条件を調整してTiAlN系の硬質被膜中に存在する膜厚以上の大きさを持った粗大粒子を低減することによって、被削材の耐溶着性や耐摩耗性が改善されることが開示されている。また、特許文献2では、TiAlN系硬質膜中に膜の素地と組成の異なるTiAlN複合窒化物分散粒子を分散強化した複合硬質膜が記載され、素地と分散粒子が同種の結晶構造であるために特性向上のシナジー効果を発揮させることができて切削性能が向上することが開示されている。さらに、特許文献3では、TiAlN系硬質被覆層を成膜した後に加熱酸化処理を施して、TiAlN系の素地中にTi酸化物やAl酸化物等が分散分布した組織とすることによって、被覆層の耐摩耗性が向上することが開示されている。
特開2002−346812号公報 特開2002−129306号公報 特開平10−251831号公報
しかしながら、上記特許文献1のような粗大粒子を低減した被覆層では被覆層表面の平滑性が高くなって被削材の溶着抑制や耐摩耗性向上の効果はあるものの、被覆層の耐欠損性が低くなってしまうとともに被覆層中に大きな残留応力が発生してしまい、被覆層自身が自己破壊してしまう恐れがあった。また、特許文献2や特許文献3のように、単に被覆層内を被覆層の主成分であるTi系やAl系の分散粒子で分散強化しただけの被覆層では、被覆層の耐欠損性は向上するものの十分でなく、また、残留応力が依然として高くて残留応力を低減する必要があった。
そこで、本発明の表面被覆工具は、上記問題を解決するためのものであり、その目的は、耐摩耗性が高く、かつ高い耐欠損性を有する表面被覆工具を提供することである。
本発明の表面被覆工具は、基体の表面に、Ti1−a−bAl(C1−x)(ただし、MはTiを除く周期表4、5、6族元素、希土類元素およびSiから選ばれる1種以上であり、0.4≦a≦0.65、0.05≦b≦0.3、0≦x≦1である。)からなる被覆層を被覆してなり、前記被覆層の表面に複数の突起部が分散しており、該突起部が、TiまたはAlを主成分とする第1の突起部と、Mを主成分とする第2の突起部とからなることを特徴とする。
ここで、上記構成において、前記突起部は、径が0.1〜0.8μmの微細突起部と、径が1〜5μmの粗大突起部との2つのグループからなることが望ましい。
また、上記構成において、前記被覆層の表面における前記突起部の存在比率は1〜30面積%であることが望ましい。
さらに、上記構成において、前記被覆層の表面の25μm×18μmの領域において、前記第1の突起部が30〜100個、前記第2の突起部が3〜20個の割合で存在することが望ましい。
本発明の表面被覆工具は、Ti1−a−bAl(C1−x)(ただし、MはTiを除く周期表4、5、6族元素、希土類元素およびSiから選ばれる1種以上であり、0.4≦a≦0.65、0.05≦b≦0.3、0≦x≦1である。)からなる被覆層からなり、前記被覆層の表面に複数の突起部が分散しており、該突起部がTiまたはAlを主成分とする第1の突起部とMを主成分とする第2の突起部とからなることによって、被覆層内に発生する残留応力を低減する効果が高い。その結果、被覆層は自己破壊することなく耐チッピング性が良く、かつ被覆層の厚膜化も可能となる。
ここで、上記構成において、前記突起部は、径が0.1〜0.8μmの微細突起部と、径が1〜5μmの粗大突起部との2つのグループからなることによって、より大きな被覆層の残留応力の低減効果を発揮させることができる。
また、上記構成において、前記被覆層の表面における前記突起部の存在比率は1〜30面積%であることが、被覆層の耐欠損性を高めることができるとともに、被覆層の耐摩耗性を維持できる点で望ましい。
さらに、上記構成において、前記被覆層の表面の25μm×18μmの領域において、前記第1の突起部が30〜100個、前記第2の突起部が3〜20個の割合で存在することが、被覆層の耐欠損性を高めることができるとともに、被覆層の耐摩耗性を維持できる点で望ましい。
本発明の表面被覆工具の好適例である表面被覆切削工具の一例について説明する。
本発明の表面被覆切削工具(以下、単に工具と略す)は、すくい面と逃げ面との交差稜線が切刃である形状をなし、かつ基体の表面に被覆層を成膜した構成となっている。被覆層は、基体の表面に、Ti1−a−bAl(C1−x)(ただし、MはTiを除く周期表4、5、6族元素、希土類元素およびSiから選ばれる1種以上であり、0.4≦a≦0.65、0≦b≦0.3、0≦x≦1である。)からなる被覆層を被覆してなる。
そして、本発明によれば、前記被覆層の表面に複数の突起部が分散しており、該突起部がTiまたはAlを主成分とする第1の突起部とMを主成分とする第2の突起部との少なくとも2種を具備することによって、少ない存在量で被覆層内に発生する残留応力を効果的に低減することができる。ここで、第1の突起部中には被覆層全体のM元素の含有量と同じか、または少ない含有量のM元素が含まれていてもよく、また、第2の突起部中には被覆層全体のTiおよびAl元素のそれぞれの含有量と同じか、または少ない含有量のTiおよびAl元素が含まれていてもよい。
上記構成によって、被覆層の内部に発生する残留応力を低減できて被覆層の厚みを厚くしても自己破壊することなく安定した成膜が可能であるとともに、被覆層の靭性が高くて耐欠損性が向上する。具体的には、上記被覆層は厚膜化しても被覆層がチッピングしにくく、被覆層の膜厚が0.5〜6μmであっても、被覆層が剥離やチッピングすることを防止できて十分な耐摩耗性を維持することができる。
また、被覆層の組成については、上記組成の中でも、Ti1−a−b−c−dAlSi(C1−x)(ただし、MはNb、Mo、Ta、Hf、Yから選ばれる1種以上、0.45≦a≦0.55、0.01≦b≦0.1、0.01≦c≦0.1、0.01≦d≦0.05、0≦x≦1)からなることが望ましく、この組成領域では、酸化開始温度が高くなって耐酸化性が高くて切削時の耐摩耗性が向上するとともに切刃先端に発生しやすいチッピングが抑制できて耐欠損性が高いものとなる。なお、MはNb、Mo、Ta、Hf、Yから選ばれる1種以上であるが、中でもNbまたはMoを含有することが耐摩耗性・耐酸化性に最も優れる点があるから望ましい。
また、上記被覆層の非金属成分であるC、Nは切削工具に必要な硬度および靭性に優れたものであり、被覆層表面に発生するドロップレット(粗大粒子)が過度に発生するのを抑制するために、x(N含有量)の特に望ましい範囲は0≦x≦0.5である。ここで、本発明によれば、上記被覆層の組成は、エネルギー分散型X線分析法(EDX)またはX線光電子分光分析法(XPS)にて測定できる。
ここで、上記構成において、前記突起部は、径が0.1〜1μmの微細突起部と、径が1.5〜5μmの粗大突起部との2つのグループからなることによって、被覆層の残留応力を低減させ、より大きな効果を発揮させることができる。
また、前記被覆層の表面における前記突起部の存在比率は1〜30面積%であることが、被覆層の耐欠損性を高めることができるとともに、被覆層の耐摩耗性を維持できる点で望ましい。
さらに、前記被覆層の表面の25μm×18μmの領域において、前記第1の突起部が30〜100個、前記第2の突起部が3〜20個の割合で存在することが、被覆層の耐欠損性を高めることができるとともに、被覆層の耐摩耗性を維持できる点で望ましい。
なお、被覆層は、前記基体の表面に対して垂直な方向に成長した柱状結晶を主体として構成されることが被覆層の硬度や靭性を高めるために望ましい。そして、第1の突起部は、成膜時にターゲットから飛散したTiまたはAlを主成分とするドロップレット(粗大粒子)が被覆層の表面に付着したものと、被覆層の内部に被覆層の成分のいずれかからなるドロップレット(粗大粒子)が付着した後、該粗大粒子を起点として被覆層成分の柱状結晶が成長し、粗大粒子の上方の被覆層の表面に外側に突出した柱状(扇状)結晶によって構成されると推定される。一方、第2の突起部は、成膜時にターゲットから飛散したM元素(MはTiを除く周期表4、5、6族元素、希土類元素およびSiから選ばれる1種以上である。)のドロップレットによって形成されると推定される。また、被覆層の内部にもM元素(MはTiを除く周期表4、5、6族元素、希土類元素およびSiから選ばれる1種以上である。)のドロップレットは存在する場合が多い。
なお、上記構成において、柱状結晶の平均幅が0.05〜0.5μmであることが、被覆層の硬度および強度を高めて耐摩耗性を向上させるために望ましい。また、粗大粒子の平均粒径が0.05〜0.2μmであることが、被覆層の靭性を高めることができる点で望ましい。
なお、基体としては、炭化タングステンや、炭窒化チタンを主成分とする硬質相とコバルト、ニッケル等の鉄族金属を主成分とする結合相とからなる超硬合金やサーメットの他、窒化ケイ素や、酸化アルミニウムを主成分とするセラミックス、多結晶ダイヤモンドや立方晶窒化ホウ素からなる硬質相と、セラミックスや鉄族金属等の結合相とを超高圧下で焼成する超高圧焼結体等の硬質材料が好適に使用される。また、鋼や高速度鋼も使用可能である。鋼や高速度鋼も使用可能である。
(製造方法)
次に、本発明の表面被覆工具の一例である表面被覆切削工具の製造方法について説明する。
まず、工具形状の基体を従来公知の方法を用いて作製する。次に、前記基体表面に、被覆層を成膜する。被覆層の成膜方法として、イオンプレーティング法やスパッタリング法等の物理蒸着(PVD)法が好適に適応可能である。成膜方法の一例についての詳細について説明すると、被覆層をイオンプレーティング法で作製する場合には、金属チタン(Ti)、金属アルミニウム(Al)、金属タングステン(W)、金属シリコン(Si)、金属M(MはNb、Mo、Ta、Hf、Yから選ばれる1種以上)をそれぞれ独立に含有する金属ターゲットまたは複合化した合金ターゲットに用い、アーク放電やグロー放電などにより金属源を蒸発させイオン化すると同時に、窒素源の窒素(N)ガスや炭素源のメタン(CH)/アセチレン(C)ガスと反応させて成膜する。
このとき、ターゲットとして、金属元素M(MはTiを除く周期表4、5、6族元素、希土類元素およびSiから選ばれる1種以上である。)を含む特定の金属元素のみを含有する第1ターゲットと、残りの成分を供給するための第2ターゲットとの2種類のターゲットを用いて、イオンプレーティング法またはスパッタリング法によって被覆層を成膜することによって、上述した柱状結晶中に第1の突起部と第2の突起部の2種類の突起部が分散した被覆層を作製することができる。また、被覆層の成膜条件については、窒素に対するアルゴンガス流量が1:9〜4:6の割合の窒素(N)ガスとアルゴン(Ar)ガスの混合ガスを用いて、イオンプレーティング法またはスパッタリング法によって被覆層を成膜するが、被覆層を成膜するためのメインターゲットである第1ターゲットと、M(MはTiを除く周期表4、5、6族元素、希土類元素およびSiから選ばれる1種以上である。)元素を含む特定元素のみからなる第2ターゲットを用いて、第1ターゲットに直流電源を、第2ターゲットにパルス電源をそれぞれ印加することにより、上述した本発明の被覆層を具備する表面被覆工具が得られる。
なお、イオンプレーティング法やスパッタリング法で上記被覆層を成膜する際には、被覆層の結晶構造および配向性を制御して高硬度な被覆層を作製できるとともに基体との密着性を高めるためにバイアス電圧30〜200Vを印加することが好ましい。
平均粒径0.5μmの炭化タングステン(WC)粉末に対して、金属コバルト(Co)粉末を10質量%、炭化バナジウム(VC)粉末と炭化クロム(Cr)粉末を合計で1質量%の割合で添加、混合し、エンドミル形状に成型して焼成した。そして、研削工程を経た後、アルカリ、酸、蒸留水の順によって表面を洗浄して、外径16mmの4枚刃エンドミル基体を作製した。
そして、表1に示すターゲットを装着したアークイオンプレーティング装置またはスパッタリング装置内に上記基体をセットし550℃に加熱した後、各ターゲットに表1に示すバイアス電圧を印加して表1の条件で被覆層を成膜した。なお、成膜条件は窒素ガスとアルゴンガスの混合ガスを総圧力4Paの雰囲気中、第1ターゲットのアーク電流を直流で150Aとし、第2ターゲットのパルス電流は被覆層が所定の組成になるように80〜150Aの範囲で調整して被覆層の組成を制御した。なお、バイアス電圧は50V、加熱温度は550℃とした。
Figure 2008156714
得られたエンドミルの被覆層の表面について、キーエンス社製走査型電子顕微鏡(VE8800)を用いて倍率500倍(25μm×18μmの領域)にて観察を行い、同装置に付随のEDAXアナライザ(AMETEK EDAX-VE9800)を用いて加速電圧15kVにてエネルギー分散型X線分光分析(EDX)法の一種であるZAF法により被覆層および突起部の組成の定量分析を行った。また、この方法で測定できなかった元素については、PHI社製X線光電子分光分析装置(Quantum2000)を用い、X線源はモノクロAlK(200μm、35W、15kV)を測定領域約200μmに照射して測定を行った。突起部についてはそれぞれ組成を分析して第1の突起部と第2の突起部に分類し、存在個数を数えた。結果は表2に示した。
Figure 2008156714
さらに、被覆層の表面における突起部の直径をそれぞれ測定し、その直径の分布を測定した。そして、その直径分布が2つのピークを持つ場合には、そのピークトップの直径を小さいほうを微細突起部、大きいほうを粗大突起部として表2に記載した。
次に、得られた硬質被膜被覆エンドミルを用いて以下の切削条件にて切削試験を行った。結果は表3に記載した。
切削方法:ダウンカット
被削材 :SCM440
切削速度:75m/min
送り :0.04mm/刃
切り込み:切り込み深さd=18mm×横切込みw=1.6mm
切削状態:湿式
評価方法:90分間切削後のチッピングの有無、逃げ面摩耗幅測定
Figure 2008156714
表1〜3より、粒状結晶が分散しないNo.12では、切刃にチッピングが発生して早期に欠損に至った。また、1種類のみの粒状結晶が分散したNo.11でも、切刃にチッピングが発生して早期に欠損に至った。さらに、いずれもTiを主成分とする2種類の突起部からなる試料No.9でもチッピングが発生した。
これに対し、2種類の粒状結晶が分散した試料No.1〜8、10、13では、耐欠損性が向上して切削性能に優れたものであった。

Claims (4)

  1. 基体の表面に、Ti1−a−bAl(C1−x)(ただし、MはTiを除く周期表4、5、6族元素、希土類元素およびSiから選ばれる1種以上であり、0.4≦a≦0.65、0.05≦b≦0.3、0≦x≦1である。)からなる被覆層を被覆してなる表面被覆工具において、前記被覆層の表面に複数の突起部が分散しており、該突起部が、TiまたはAlを主成分とする第1の突起部と、Mを主成分とする第2の突起部とのからなることを特徴とする表面被覆工具。
  2. 前記突起部は、径が0.1〜0.8μmの微細突起部と、径が1〜5μmの粗大突起部との2つのグループからなることを特徴とする請求項1記載の表面被覆工具。
  3. 前記被覆層の表面における前記突起部の存在比率は1〜30面積%であることを特徴とする請求項1または2記載の表面被覆工具。
  4. 前記被覆層の表面の25μm×18μmの領域において、前記第1の突起部が30〜100個、前記第2の突起部が3〜20個の割合で存在することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか記載の表面被覆工具。
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