以下、本発明を具体化したスイングレジスタのブレード駆動装置の一実施形態について、図1〜図12を参照して説明する。
図1は、車載空調装置の一部分(下流側部分)を構成し、かつ2組のスイングレジスタ11が組み込まれたレジスタユニット12を示している。レジスタユニット12は、左右(車幅方向)に細長いパネル13を自身の最下流部に備えている。パネル13にはスイングレジスタ11毎のダクト15が連結されている。各ダクト15は、その内部に空調用の通風路14を有している。各ダクト15における通風路14の下流端は、上記パネル13において、左右に所定の間隔を隔てた箇所で開口されており、この開口が通風路14の出口である吹出口16を構成している。
次に、左右の各スイングレジスタ11の構成、特にそのブレード駆動装置の構成について説明するが、両スイングレジスタ11は基本的に同一の構成を有しているため、一方のスイングレジスタ11についてのみ説明する。
図1及び図2の少なくとも一方に示すように、ダクト15の吹出口16の上流側近傍には、それぞれ板状をなす縦及び横のブレード20,17が配設されている。より詳しくは、ダクト15の吹出口16の直上流には、左右方向に延びる複数枚の横ブレード17が、上下方向に互いに平行に離間した状態で配置されている。各横ブレード17は、その左右両端面に設けられた揺動軸18(図2参照)により、ダクト15の左右の側壁部15aに上下方向への揺動可能に支持されている。各横ブレード17は、リンク機構(図示略)を介して互いに機械的に連結されており、一体となって同期して揺動されるようになっている。
また、ダクト15内において、各横ブレード17の直上流には、上下方向(図2において紙面と直交する方向)に延びる複数枚の縦ブレード20が、左右方向に互いに平行に離間した状態で配置されている。各縦ブレード20は、その上下両端面に設けられた揺動軸21により、ダクト15の上壁部15b(図1参照)及び底壁部(図示略)に対し左右方向への揺動可能に支持されている。縦ブレード20毎の揺動軸21は上壁部15bから上方へ突出しており、同上壁部15b上に配置されたリンク機構22を介して互いに機械的に連結されている。そのため、いずれかの縦ブレード20が揺動すると、その揺動はリンク機構22を通じて他の縦ブレード20にも伝達され、全ての縦ブレード20が一体となって同期して揺動する。なお、図2では説明の便宜上、横ブレード17が各縦ブレード20から実際よりも離間した箇所に図示されている。図4、図6及び図10についても同様である。
上記各横ブレード17及び各縦ブレード20の手動による揺動を可能とするために、図3に示すように、いずれかの横ブレード17には、操作ノブ23が左右方向へのスライド(往復動)可能に装着されている。この操作ノブ23の往復動を縦ブレード20の揺動運動に変換するために第1運動変換機構24が設けられている。第1運動変換機構24は、ラックギア25及びピニオンギア26を備えている。ラックギア25は、操作ノブ23の上流側の面に形成されている。ピニオンギア26は、いずれかの縦ブレード20の下流側に設けられており、上記ラックギア25に噛み合わされている。このようにして、操作ノブ23が第1運動変換機構24を介して縦ブレード20に手動操作可能に連結されている。
そのため、操作ノブ23が把持されて上方又は下方へ変位されると、各横ブレード17が揺動軸18(図2参照)を支点として上方又は下方へ揺動される。空気は横ブレード17,17間等を通過する際に、上記のように揺動された横ブレード17に沿って流れ、送風方向を上方又は下方へ変えられて吹出口16(図1参照)から吹き出す。また、操作ノブ23が把持されて図5に示すように左方(又は右方)へ変位されると、その変位がラックギア25及びピニオンギア26によって回動運動に変換されて所定の縦ブレード20に伝達され、同縦ブレード20が揺動軸21を支点として左方(又は右方)へ揺動する。空気は縦ブレード20,20間等を通過する際に、上記のように揺動された縦ブレード20に沿って流れ、送風方向を左方(又は右方)に変えられて吹出口16から吹き出す。このように、操作ノブ23が操作されて縦ブレード20が揺動されると、吹出口16から吹き出される空気の送風方向が変更される。
上記各縦ブレード20のアクチュエータによる自動揺動(スイング動作)を可能とするために、次の構成が採用されている。図1及び図2の少なくとも一方に示すように、ダクト15の上側であって、上記リンク機構22よりも上流側には、高さの低い四角箱状をなすケース30が配設されている。このケース30の下流側の面には開口部31が設けられている。詳しくは、ケース30内の下流側部分には左右一対の支持壁32が設けられており、両支持壁32,32間が上記開口部31を構成している。
図4に示すように、両支持壁32,32間にはシャフト33が架設されるとともに、往復動部材34が左右方向への往復動可能に配置されている。往復動部材34は、アクチュエータ及び縦ブレード20間においてアクチュエータによって往復駆動される部材であり、アクチュエータにより直接往復動させられる本体部としてのラック35と、ラックギア38とを備えている。ラック35は、互いに左右方向に離間配置された一対の腕部36,36と、両腕部36,36を繋ぐ接続部37とを備えている。ラックギア38は、ラック35の両腕部36,36間に配置されている。
上記両腕部36,36及びラックギア38には上記シャフト33が挿通されている。そのため、ラック35及びラックギア38は、両支持壁32,32間の空間を可動領域とし、シャフト33に沿ってそれぞれ左右方向へ往復動可能である。シャフト33上であって、ラックギア38の往復動方向についての両側、より詳しくは、ラックギア38と各腕部36との間には、弾性部材としてのコイルばね39が圧縮された状態で介装されている。このようにして、ラックギア38は両コイルばね39,39によりラック35の腕部36に弾性支持されている。これらのコイルばね39,39としては、以下の条件が満たされる弾性付勢力を有するものが用いられている。
条件1:操作ノブ23の操作に伴う外力がラックギア38に加わらず、アクチュエータの作動に伴う力(駆動力)がラック35に加わった場合にも、その逆にアクチュエータの作動に伴う力(駆動力)がラック35に加わらず、操作ノブ23の操作に伴う外力がラックギア38に加わった場合にも、両コイルばね39,39が弾性変形しないこと。
条件2:アクチュエータの作動に伴う力(駆動力)がラック35に加わっているときに、操作ノブ23の操作に伴う力がラックギア38に加わった場合に、一方のコイルばね39が圧縮し、それに伴い他方のコイルばね39が伸長すること。
従って、上記条件1が満たされているときには、ラックギア38がラック35の両腕部36,36間の中間位置(以下、中立位置という)に保持された状態で、ラックギア38及び両コイルばね39がラック35と一体となって移動する。
また、上記条件2が満たされているときには、ラックギア38がラック35に対し相対移動し、上記中立位置から変位する。
図2に示すように、上記ラック35は、通電により作動するアクチュエータによって左右方向へ往復駆動される。本実施形態では、このアクチュエータとして、通電に伴う加熱により収縮する形状記憶合金(SMA:Shape Memory Alloy)からなる2組の線状部材が用いられている。一方の組の線状部材として2本のSMAワイヤ41a,41bが用いられ、他方の組の線状部材として2本のSMAワイヤ41c,41dが用いられている。これらのSMAワイヤ41a〜41dは、いずれもチタン・ニッケル系合金によって形成されている。各組において線状部材として用いるSMAワイヤの本数は、上記の2本に限られない。1本又は3本以上のSMAワイヤが用いられてもよい。
なお、図2では、一方の組のSMAワイヤ41a,41bと他方の組のSMAワイヤ41c,41dとを区別して表現するために、後者が前者よりも太く図示されている。
一方の組のSMAワイヤ41a,41bの各一端はともにラック35の左側の端部に連結され、他方の組のSMAワイヤ41c,41dの各一端はともにラック35の右側の端部に連結されている。
一方の組のSMAワイヤ41a,41bについても、他方の組のSMAワイヤ41c,41dについても、ケース30内の複数箇所に配置されたプーリ42にそれぞれ巻き掛けられている。
ここで、いずれの組のSMAワイヤ41a,41b及び41c,41dについても、各プーリ42に巻き付けられた部分において略90度に曲げられている。これは、次の点を考慮したものである。限られた配設スペースにおいてSMAワイヤ41a〜41dの収縮量を最大限に確保するためには、同SMAワイヤ41a〜41dを曲げて配設することが望ましい。この際、SMAワイヤ41a〜41dの曲げ量が大きいと、例えばその曲げ角度が90度よりも極端に大きいと、SMAワイヤ41a〜41dの伸縮の際に曲げ部分に大きな曲げ応力が加わる。一方、曲げ角度を90度より小さくすることで上記曲げ応力を緩和することができるものの、その場合にはSMAワイヤ41a〜41dを規則的に配設することが困難となる。そこで、本実施形態では、上述したようにSMAワイヤ41a〜41dを隣り合うプーリ42,42間において略90度に曲げた態様で配設することにより、曲げ応力の集中の抑制と規則的な配設との双方を両立させるようにしている。
また、本実施形態では、SMAワイヤ41a〜41dにおいて、ラック35との連結部分から最も近い箇所に位置するプーリ42までの部位は、ラック35の往復動方向(左右方向)と略平行となるように配設されている。これは、SMAワイヤ41a〜41dがラック35との連結部分においてラックギア38の往復動方向に対して斜めに配置されている場合と比較して、SMAワイヤ41a〜41dの伸縮をラックギア38に効率よく伝達するためである。
そして、上記のように配設された一方の組のSMAワイヤ41a,41bの各他端はともに通電部43Lに連結されている。他方の組のSMAワイヤ41c,41dの各他端はともに通電部43Rに連結されている。
各通電部43L,43Rを通じて対応する組のSMAワイヤ41a,41b(又は41c,41d)に通電すると、その通電対象となった組のSMAワイヤ41a,41b(又は41c,41d)が加熱収縮して緊張し、ラック35に対し側方から引っ張り力が作用する。また、上記通電が停止されると、その通電停止対象となった組のSMAワイヤ41a,41b(又は41c,41d)が冷却弛緩し、ラック35に対する上記引っ張り力が減少又は消失する。
なお、通電部43L,43Rの両方に同時に通電は行われず、往復動方向に応じてこれらへの通電が切り替えられるようになっている。すなわち、通電部43L,43Rの一方に通電されるときには他方には通電が行われない。そして、通電(又は通電停止)の対象となる通電部43L,43Rが一定周期毎に切り替えられるようになっている。
こうした通電態様により、ラック35に対し一側方から作用する引っ張り力が大きいときには、他側方から作用する引っ張り力は小さい。そのため、ラック35は、通電された通電部43L,43Rに対応する側、すなわち通電対象となって大きな引っ張り力を発生した組のSMAワイヤ41a,41b(又は41c,41d)側へ変位する。また、通電部43L,43Rへの通電が交互に行われることにより、上記ラック35に作用する引っ張り力大の方向が交互に切り替わることとなり、ラック35が左右方向へ往復動する。このように、縦ブレード20の左右といった双方向へのスイング動作が、いずれも通電加熱によるSMAワイヤ41a,41b及び41c,41dの伸縮によって行われるほか、通電の対象となる組のSMAワイヤ41a,41b及び41c,41dが一定周期毎に切り替えられることで、縦ブレード20が周期的に左右にスイング動作させられる。
ここで、各SMAワイヤ41a〜41dは、非通電時には冷却弛緩し、通電時には加熱収縮するようにラック35に連結されている。2組のSMAワイヤ41a,41b及び41c,41dが用いられた本実施形態では、一方の組のSMAワイヤ41a,41b及び他方の組のSMAワイヤ41c,41dは、それらに通電されないときにはいずれの組についても弛緩するようにラック35に連結されている。また、一方の組のSMAワイヤ41a,41b(又は41c,41d)にのみ通電されたときには、その組のSMAワイヤ41a,41b(又は41c,41d)が加熱収縮し、他方の組のSMAワイヤ41c,41d(又は41a,41b)が弛緩するようにラック35に連結されている。
このように非通電時に弛緩するSMAワイヤ41a〜41dは、同SMAワイヤ41a〜41d及び縦ブレード20間の駆動連結状態を解除する。このことは、SMAワイヤ41a〜41dによる縦ブレード20の揺動時に操作ノブ23が操作されるときには、同SMAワイヤ41a〜41d側から縦ブレード20に加わる力が極めて小さくなり、操作ノブ23に要求される操作荷重が小さくなることを意味する。
SMAワイヤ41a〜41d及び縦ブレード20間には、SMAワイヤ41a〜41dにより往復駆動される上述した往復動部材34に加え、その往復動部材34の往復運動を縦ブレード20の揺動運動に変換するための第2運動変換機構40が設けられている。より詳しくは、図4に示すように、上述したラックギア38の下流側の面にはギア38aが形成されており、このギア38aが上記ケース30の開口部31からケース30の外(図4の下側)に露出している。一方、上記複数枚の縦ブレード20の1つ(図4では中央に配設された縦ブレード20)の揺動軸21上には、ピニオンギア44が一体回動可能に設けられている。そして、ラックギア38のギア38aがピニオンギア44に噛み合わされている。そのため、ラックギア38が左右方向へ往復動すると、ピニオンギア44が回動され、縦ブレード20が揺動軸21を支点として左右方向に揺動される(図6参照)。そして、ラックギア38及びピニオンギア44によって上記第2運動変換機構40が構成されている。上記のように、SMAワイヤ41a〜41dの伸縮により縦ブレード20が揺動されると、通風路14の出口である吹出口16から吹き出される空気の送風方向が変更される。
このように、縦ブレード20については、操作ノブ23の手動操作により、又はSMAワイヤ41a〜41dの伸縮により揺動が可能である。すなわち、上記横ブレード17及び縦ブレード20のうち、縦ブレード20が操作ノブ23及びSMAワイヤ41a〜41dにより揺動される対象となる。
図7は、上記のように構成されたスイングレジスタ11のブレード駆動装置の電気的構成を示している。同図に示すように、ブレード駆動装置は、縦ブレード20の揺動のために各SMAワイヤ41a〜41dの通電制御を司る中央演算処理装置(CPU)50を備えている。CPU50による通電制御を通じて実現される縦ブレード20の揺動態様としては、操作ノブ23による縦ブレード20の揺動を可能とする「手動揺動モード」と、SMAワイヤ41a〜41dの伸縮により縦ブレード20を自動的に揺動させる「自動揺動モード」とがスイングレジスタ11毎に設定されている。
CPU50には、選択スイッチとしてスイングレジスタスイッチ(SW)51が電気的に接続されるとともに、表示器として左右一対のインジケータ52が電気的に接続されている。また、CPU50には、車載空調装置の全体的な制御を司る空調コントローラ53からの指令信号が入力されるようになっている。
スイングレジスタスイッチ51は、図1に示すように上記レジスタユニット12のパネル13において、左右両スイングレジスタ11,11に共通のスイッチとして、左右両吹出口16,16間の上部にオン操作及びオフ操作可能に設けられている。スイングレジスタスイッチ51は、左右両方のスイングレジスタ11,11について、上記「自動揺動モード」及び「手動揺動モード」の一方を選択するためのものである。左右両スイングレジスタ11について「自動揺動モード」を選択する際には、スイングレジスタスイッチ51をオン操作する。また、左右両スイングレジスタ11について「手動揺動モード」を選択する際には、スイングレジスタスイッチ51をオフ操作する。
インジケータ52は、上記スイングレジスタスイッチ51の上部に左右に並設されている。左側のインジケータ52は、左側のスイングレジスタ11における揺動モードを車両搭乗者に報知するためのものであり、右側のインジケータ52は、右側のスイングレジスタ11における揺動モードを車両搭乗者に報知するためのものである。これらの報知のために、両インジケータ52は、「手動揺動モード」及び「自動揺動モード」について実行されている揺動モードと実行されていない揺動モードとで異なる表示態様にて作動する。両インジケータ52は、異なる表示態様として、実行されている揺動モードに応じて点灯又は消灯する。ここでは、各インジケータ52は、「手動揺動モード」が実行されているときに消灯し、「自動揺動モード」が実行されているときに点灯する。
また、図7に示すように空調コントローラ53は、外気や車室内の温度の検出結果や車両搭乗者の操作に応じて送風温度や送風量を決定して空調装置を制御するとともに、縦ブレード20のスイング動作態様を決定してCPU50に指令する。
また、CPU50には、各SMAワイヤ41a〜41dの駆動回路54L,54Rが接続されている。これらの駆動回路54L,54Rは、CPU50からの指令に基づいて各々対応するSMAワイヤ41a〜41dに対する通電を実行する。各SMAワイヤ41a〜41dは、それぞれ通電部43L,43Rを介して駆動回路54L,54Rに電気的に接続されている。
本実施形態のスイングレジスタ11のブレード駆動装置では上述したように、細線状に形成されたチタン・ニッケル系の形状記憶合金からなるSMAワイヤ41a〜41dの通電加熱による収縮を利用して縦ブレード20をスイング動作させるようにしている。ここで採用するSMAワイヤ41a〜41dは、形状回復時の変形の方向がその長さ方向、すなわち伸縮方向に限定されるように、素材の組織構造に異方性を持たせて形成されている。こうしたSMAワイヤ41a〜41dは、冷却すれば柔らかく弛緩して外力による引っ張りに応じて弾性的に伸張する一方、加熱すれば形状回復により収縮して硬化する。図8に、こうしたSMAワイヤ41a〜41dの温度−ひずみ線図の一例を示す。同図に示すようにSMAワイヤ41a〜41dは、加熱時には約75℃から収縮を開始するとともに、冷却時には約70℃から弛緩、伸張し始める。こうしたSMAワイヤ41a〜41dの収縮の開始温度、及び弛緩−伸張の開始温度は、合金の成分調整によりある程度変更することが可能となっている。なお、SMAワイヤ41a〜41dは比較的大きい電気抵抗を有しており、通電により容易に加熱することができるようになっている。因みに、上記のようなSMAワイヤ41a〜41dとしては、通電加熱による形状回復を通じて、最大で全長の5%以上の運動ひずみを安定して繰り返し発生可能なものが開発され、実用化されている。
次に、上記SMAワイヤ41a〜41dの通電加熱に伴う収縮を利用して縦ブレード20をスイング動作させる本実施形態のブレード駆動装置の動作原理について説明する。
図3及び図4は、ラック35がその可動領域における中間箇所に位置しているときに、操作ノブ23の手動操作及びSMAワイヤ41a〜41dの通電がともに行われていない状態を示している。この状態では、ラックギア38がラック35における両腕部36,36間の中立位置に保持されている。縦ブレード20はダクト15の左右両側壁部15a(図1参照)に対し略平行となっており、通風路14を流れる空気は、各縦ブレード20に沿って流れ、吹出口16から真っ直ぐ吹き出す。
上記の状態から、通電部43L,43R(図2参照)のうち通電部43Rに対してのみ通電を行うと、その通電により加熱された一方の組のSMAワイヤ41c,41dが収縮するとともに、他方の組、すなわち非加熱(冷却)状態にある組のSMAワイヤ41a,41bが弛緩して、引っ張りにより弾性的に伸長可能となる。このことから、図5及び図6の少なくとも一方に示すように、ラック35がその往復動の右方に変位される。そして、このラック35の変位はコイルばね39を介してラックギア38にも伝達されて、同ラックギア38がラック35と一体となって同方向(右方)へ変位する。このラックギア38の直線的な変位はピニオンギア44に伝達され、このピニオンギア44が時計回り方向へ回動する。縦ブレード20が揺動軸21を支点として同方向へ揺動(スイング動作)される。この揺動は、リンク機構22を介して他の縦ブレード20にも伝達されて、全ての縦ブレード20が同期してスイング動作される。このため、通風路14を流れる空気は、各縦ブレード20に沿って流れる過程で送風方向を変えられ、吹出口16から左方へ吹き出す。
これに対し、上記図3及び図4の状態から通電部43Lに対してのみ通電を行うと、その通電により加熱された他方の組のSMAワイヤ41a,41bが収縮するとともに、一方の組、すなわち非加熱(冷却)状態にある組のSMAワイヤ41c,41dが弛緩して弾性伸張可能となる。このことから、図示はしないが、ラック35がその往復動の左方に変位され、この変位がコイルばね39を介してラックギア38にも伝達されて、同ラックギア38がラック35と一体となって同方向(左方)へ変位する。このラックギア38の直線的な変位はピニオンギア44に伝達され、このピニオンギア44が反時計回り方向へ回動する。縦ブレード20が揺動軸21を支点として同方向へ揺動(スイング動作)される。この揺動は、リンク機構22を介して他の縦ブレード20にも伝達され、全ての縦ブレード20が同期してスイング動作される。このため、通風路14を流れる空気は、各縦ブレード20に沿って流れる過程で送風方向を変えられ、吹出口16から右方へ吹き出す。
従って、一方の組のSMAワイヤ41a,41bと他方の組のSMAワイヤ41c,41dとに交互に通電することにより、縦ブレード20を周期的に左右交互にスイング動作させることができる。また、収縮ひずみ率が適宜に維持されるように、SMAワイヤ41a,41bとSMAワイヤ41c,41dとに対する通電を適宜に継続することにより、縦ブレード20のスイング角を保持し、吹出口16からの送風方向を所望とする方向に保持することも可能となる。
なお、一方の組のSMAワイヤ41a,41bと他方の組のSMAワイヤ41c,41dとが同時に収縮するとラック35が左右両方向へ同時に引っ張られることとなり、SMAワイヤ41a〜41dに大きな負荷が作用するため、通電部43L,43Rは同時には通電されないようになっている。また、この状態では、ラックギア38がラック35の中立位置に保持されていることからリミットスイッチ45はオフ状態となっている。
ところで、上記スイングレジスタ11では、SMAワイヤ41a〜41dの作動(伸縮)により縦ブレード20が揺動されているときには、それらのSMAワイヤ41a〜41d及び縦ブレード20間の動力伝達経路においてSMAワイヤ41a〜41dの伸縮に伴う大きな駆動力が伝達される。このように、SMAワイヤ41a〜41d側から大きな駆動力が伝達されているときに、図9において実線で示すように、操作ノブ23を手動操作することで縦ブレード20を揺動させようとすると、同駆動力に打ち勝つ大きさの力で同操作ノブ23を操作しなければならず、操作ノブ23の操作荷重が大きくなって操作性が悪化する問題がある。
そこで、こうした不具合を解消するために、本実施形態では次の手段が講じられている。
まず、SMAワイヤ41a〜41dによる縦ブレード20の揺動中における操作ノブ23の操作を検出する操作検出手段が設けられている。より詳しくは、図10に示すようにラック35の接続部37には、機械的接触によって接点の開閉を行う小型のスイッチであるリミットスイッチ45が設けられている。
リミットスイッチ45は、本体部46と、その本体部46に設けられて、上記ラックギア38の切欠き部47に係合された可動検出部48とを備えている。可動検出部48は、ばね等の弾性部材(図示略)により、本体部46から突出する方向(図10の下方)に常に付勢されている。可動検出部48は、上記条件1の成立に応じ、ラックギア38が両腕部36,36間の上記中立位置に保持されているときには切欠き部47内に大きく入り込む。このときには、リミットスイッチ45は接点を閉じてオフ状態となる(図4及び図6参照)。また、可動検出部48は、上記条件2の成立に応じ、ラックギア38がラック35に対し相対移動して、上記中立位置から右方又は左方へ変位したときには、ラックギア38によって押される。リミットスイッチ45は、可動検出部48が押されて本体部46内に所定量没入すると、上記接点を開いてオン状態となる(図10参照)。
従って、このリミットスイッチ45の状態(オン状態又はオフ状態)に基づき、SMAワイヤ41a〜41dによる縦ブレード20の揺動中に操作ノブ23が操作されたかどうかを検出することが可能である。すなわち、リミットスイッチ45がオフ状態(図4及び図6参照)のときには操作ノブ23が操作されていないことを検出でき、オン状態(図10参照)のときには操作ノブ23が操作されていることを検出できる。
上記リミットスイッチ45は上記CPU50に接続されており(図7参照)、同リミットスイッチ45による上記操作ノブ23の操作に応じた信号がCPU50に入力される。
また、CPU50では、リミットスイッチ45からの検出信号に基づき図11のフローチャートで示される制御が行われる。同フローチャートは、CPU50によって実行される「ブレード駆動制御ルーチン」を示している。このルーチンは、車載エンジンの作動中、所定のタイミングにて繰り返し実行される。
ブレード駆動制御ルーチンでは、CPU50はまずステップ110において、スイングレジスタスイッチ(SW)51がオンされているかどうかを判定する。この判定条件が満たされていないと、すなわち上記スイッチ51がオフされていると、ステップ160において、両スイングレジスタ11に手動揺動モードを設定する。この揺動モードでは、スイングレジスタ11毎の両組の全SMAワイヤ41a〜41dに対する通電を停止する。この通電停止に応じ、両組の全てのSMAワイヤ41a〜41dが冷却弛緩する。SMAワイヤ41a〜41dによるラック35に対する引っ張り力がラック35に対し左右のいずれの方向からも作用せず、SMAワイヤ41a〜41d及び縦ブレード20間の駆動連結状態が解除される。そのため、この揺動モードでは、手動により操作ノブ23を操作することで、縦ブレード20を揺動させることが可能となる。この際、上記のようにSMAワイヤ41a〜41dの弛緩により駆動連結状態が解除されていることから、各スイングレジスタ11において、縦ブレード20を揺動させるために操作ノブ23に必要な操作荷重は小さい。
また、ステップ160では、左右両インジケータ52,52に対する通電を停止して、同インジケータ52,52を消灯させる。これらの消灯により、左右のスイングレジスタ11のいずれもが「手動揺動モード」であることを車両搭乗者に報知する。そして、上記ステップ160の処理を経た後にブレード駆動制御ルーチンを終了する。
一方、上記ステップ110の判定条件が満たされていると、すなわち、スイングレジスタスイッチ51がオンされていると、ステップ120へ移行し、左右の両スイングレジスタ11,11について「自動揺動モード」を設定する。この揺動モードの設定に応じ、スイングレジスタ11毎に、一方の組のSMAワイヤ41a,41b又は他方の組のSMAワイヤ41c,41dに対し交互に通電する。すなわち、通電の対象となる組のSMAワイヤ41a,41b(41c,41d)と、非通電の対象となる組のSMAワイヤ41c,41d(41a又は41b)とを一定周期的に交互に変更する。通電された組のSMAワイヤ41a,41b(又は41c,41d)が加熱収縮し、通電の停止された組のSMAワイヤ41c,41d(又は41a,41b)が冷却弛緩する。そのため、左右両側から各組のSMAワイヤ41a,41b及び41c,41dの連結されたラック35が、通電により加熱収縮した組のSMAワイヤ41a,41b(又は41c,41d)に応じた方向に引っ張られて移動する。通電・非通電が交互に行われることから、上記のようにラック35に加わるSMAワイヤ41a〜41dによる引っ張り力の方向が周期的に変更され、その結果として、上記通電・非通電が繰り返されている期間中、ラック35が左右方向に一定周期毎に繰り返し往復動する。
上述したように、このラック35の往復動が両コイルばね39,39を介してラックギア38に伝達されて、同ラックギア38がラック35と一体となって、ラック35に追従して左右方向に往復動する。ラックギア38の往復動に伴いピニオンギア44が回転し、この回転が揺動軸21を通じて特定の縦ブレード20に伝達され、同縦ブレード20が揺動軸21を支点として左右に自動的に揺動する。なお、この特定の縦ブレード20の揺動は、リンク機構22を介して他の縦ブレード20にも伝達され、結果として、全ての縦ブレード20が同期して左右方向に自動的に揺動する。
続いて、ステップ130において、リミットスイッチ45がオンされたかどうかを判定する。上述したように、リミットスイッチ45は、ラックギア38がラック35と一体で変位しているとき(相対移動していないとき)にはオフされており、ラックギア38がラック35に対し相対移動したとき、すなわち、SMAワイヤ41a〜41dによる縦ブレード20の自動揺動中に操作ノブ23が操作されたときにオンされる。
上記ステップ130の判定条件が満たされていない(オフ)と、ブレード駆動制御ルーチンを終了する。従って、スイングレジスタスイッチ51のオン中(自動揺動モードの設定中)に操作ノブ23が操作されない限り、ステップ130の判定条件が満たされず、ステップ120の処理が繰り返されることとなる。
これに対し、自動揺動モードの実行中に操作ノブ23が操作されることが起こり得る。こうした操作は、主として、SMAワイヤ41a〜41dによる縦ブレード20の自動揺動を止めて、手動により縦ブレード20を所定の傾きにしたいときに行われるものと考えられる。
この点、本実施形態では、自動揺動モードの実行中に操作ノブ23が操作されて上記ステップ130の判定条件が満たされると、ステップ140へ移行する。ステップ140では、対応するスイングレジスタ11について、すなわち操作ノブ23が操作された側のスイングレジスタ11について、手動揺動モードを設定する。この場合、揺動モードを、自動揺動モードから手動揺動モードに強制的に切り替える。この揺動モードの切り替えに応じ、対応するスイングレジスタ11における両組の全てのSMAワイヤ41a〜41dに対する通電を強制的に停止するとともに、対応するインジケータ52への通電を停止して、同インジケータ52を消灯させる。ここでの「対応する」とは、操作ノブ23が操作された側という意味である。このように、自動揺動モード実行中における操作ノブ23の操作が、スイングレジスタスイッチ51による揺動モードの切り替え(自動揺動モードから手動揺動モードへの切り替え)と同様の機能を発揮する。
なお、スイングレジスタスイッチ51の操作によらずに揺動モードが自動揺動モードから手動揺動モードに切り替えられるが、この場合の切り替えは、上述したように車両搭乗者が操作ノブ23を操作する意図に沿ったものである。そのため、上記揺動モードの切り替えは、車両搭乗者による揺動モードの切り替え操作を軽減することはあっても、不具合を生ずることはない。
ここで、アクチュエータとしてSMAワイヤ41a〜41dとは異なるものを用いた場合を想定する。この場合、アクチュエータによる縦ブレード20の揺動駆動中であっても操作ノブ23の手動操作により縦ブレード20を揺動させて送風方向を任意の方向に変えるために、アクチュエータ及び縦ブレード20間の動力伝達経路に摩擦クラッチを介在させることが考えられる。ところが、この場合には、摩擦クラッチの摩擦力に打ち勝つ大きな荷重で操作ノブ23を操作しなければならず、図12において特性線L2で示すように操作荷重が大きくなって操作しにくい問題がある。
この点、本実施形態では、上記強制的な通電停止(ステップ140)により、加熱収縮していたSMAワイヤ41a〜41dが伸長し、全てのSMAワイヤ41a〜41dが弛緩した状態となる。SMAワイヤ41a〜41dによるラック35に対する引っ張り力が、ラック35に対し左右のいずれの方向からも作用しなくなり、SMAワイヤ41a〜41d及び縦ブレード20間の駆動連結状態が解除される。この解除により、動力伝達経路を経由して縦ブレード20に伝達されるSMAワイヤ41a〜41d側からの駆動力(引っ張り力)が小さくなる。これに伴い、上記SMAワイヤ41a〜41d側からの駆動力に抗して縦ブレード20を揺動させるために操作ノブ23に必要な力が図12において特性線L1で示すように小さくなる。
また、上記のように動力伝達経路に摩擦クラッチを介在させた場合、その摩擦クラッチが滑り始めた後には、摩擦状態として静摩擦状態と動摩擦状態とが繰り返される。この繰り返しにより、図12において特性線L2で示すように操作荷重が変動し、操作フィーリングがよくないという問題がある。
しかし、本実施形態では、SMAワイヤ41a〜41d及び縦ブレード20間の駆動連結状態が解除されるため、上記のような静摩擦状態と動摩擦状態とが繰り返されて操作荷重が変動するといった不具合が生じにくい。この場合の操作荷重は図12において特性線L1で示すように、時間の経過に拘わらず略一定となる。
なお、ラックギア38はSMAワイヤ41a〜41dと揺動軸21との間に介在されているため、操作ノブ23の操作に伴う外力がSMAワイヤ41a〜41dに伝達される前に、まず同ラックギア38が変位する。そしてこのラックギア38の変位量が大きいとリミットスイッチ45がオン作動するため、ラックギア38に瞬間的に大きな負荷が作用した場合には、SMAワイヤ41a〜41dに上記外力が伝達される以前にリミットスイッチ45のオン作動に応じて同SMAワイヤ41a〜41dへの通電を停止することも可能である。
次に、図11のステップ150において、スイングレジスタスイッチ51が一旦オフされて、引き続きオンされたかどうかを判定する。この判定条件が満たされていないと上記ステップ140へ戻り、満たされているとブレード駆動制御ルーチンを終了する。従って、スイングレジスタスイッチ51が、オフ及びオンされない限り、ステップ140の処理が繰り返し行われることとなる。また、同スイングレジスタスイッチ51がオフ及びオンされると、次回の制御周期では、ステップ110の判定条件が満たされて、両スイングレジスタ11に自動揺動モードがともに設定されることとなる。
本実施形態においては、ブレード駆動制御ルーチン中、CPU50によるステップ120,160の処理が通電制御手段に相当し、ステップ140の処理がアクチュエータ停止手段に相当する。
以上詳述した本実施形態によれば、次の効果が得られる。
(1)アクチュエータとして、通電に応じて加熱収縮し、通電停止に応じて冷却弛緩するSMAワイヤ41a〜41dを用い、同SMAワイヤ41a〜41dによる縦ブレード20の揺動中における操作ノブ23の操作を検出し、その操作検出に応じてSMAワイヤ41a〜41dへの通電を強制的に停止させる。この通電停止により、SMAワイヤ41a〜41dの加熱収縮を停止させて弛緩させ、同SMAワイヤ41a〜41dによる縦ブレード20の揺動駆動を停止するようにしている。
従って、選択スイッチ(スイングレジスタスイッチ51)をオフ操作してアクチュエータによる縦ブレード20の揺動駆動を停止しなくても、操作ノブ23の手動操作による縦ブレード20の揺動(傾き調整)が可能となる。アクチュエータによる縦ブレード20の揺動から手動による揺動に切り替える際に、選択スイッチ(スイングレジスタスイッチ51)の操作が不要となり、その分、スイングレジスタ11の操作性向上を図ることができる。
(2)また、上記SMAワイヤ41a〜41dの弛緩により、SMAワイヤ41a〜41d及び縦ブレード20間の駆動連結状態を解除するようにしている。この解除により、動力伝達経路を経由して縦ブレード20に伝達されるSMAワイヤ41a〜41d側からの駆動力を小さくし、同駆動力に抗して縦ブレード20を揺動させるために操作ノブ23に必要な力(操作荷重)を小さくすることができる(図12の特性線L1参照)。そのため、操作ノブ23に小さな力を加えるだけでラックギア38、コイルばね39、ラック35等を変位させて縦ブレード20を揺動させることができる。
(3)また、上記のようにSMAワイヤ41a〜41dの弛緩により、SMAワイヤ41a〜41d及び縦ブレード20間の駆動連結状態が解除されるため、摩擦クラッチを用いた場合とは異なり、時間によらず操作ノブ23の操作荷重を略一定にし、操作フィーリングの向上を図ることができる(図12の特性線L1参照)。
(4)SMAワイヤ41a〜41d及び縦ブレード20間に、往復動部材34及び第2運動変換機構40を設けている。そのため、SMAワイヤ41a〜41dによる縦ブレード20の駆動時には、同SMAワイヤ41a〜41dの収縮により往復動部材34を往復駆動させることができる。また、その往復動部材34の往復運動を第2運動変換機構40によって、揺動軸21の回動運動を通じて縦ブレード20の揺動運動に変換し、揺動軸21を支点として同縦ブレード20を左右方向へ確実に揺動させることができる。
(5)第2運動変換機構40として、揺動軸21に連結されたピニオンギア44と、往復動部材34に設けられ、かつピニオンギア44に噛合されたラックギア38とを有する構成を採用している。そのため、SMAワイヤ41a〜41dによる往復動部材34の往復駆動に伴ってラックギア38を往復動させることができる。同往復動をピニオンギア44によって回動運動に変換して縦ブレード20の揺動軸21に伝達し、その揺動軸21を支点として縦ブレード20を確実に揺動させることができる。
(6)往復動部材34として、SMAワイヤ41a〜41dによって直接往復駆動されるラック(本体部)35に対し、ラックギア38をコイルばね39によって往復動方向に弾性支持する構成を採用している。そして、ラックギア38がラック35に対し往復動方向へ相対移動することをリミットスイッチ45によって検出している。そのため、このリミットスイッチ45の検出結果から、SMAワイヤ41a〜41dによる縦ブレード20の揺動中に操作ノブ23が操作されたことを確実に高い精度で検出することができる。
(7)アクチュエータとして、形状記憶合金からなり、かつラック35に連結されたSMAワイヤ41a〜41dを用い、通電によりこれを加熱収縮させることによりラック35の往復動を通じて縦ブレード20を揺動駆動するようにしている。SMAワイヤ41a〜41dの通電加熱による収縮に際しては、動作音を伴わない。そのため、格別な遮音対策を行わずとも、縦ブレード20の駆動に伴う騒音を容易、かつ的確に低減することができる。そしてその結果、遮音部材の設置が不要となることから、ブレード駆動装置の軽量化、省スペース化、部品点数の削減等も併せて図ることができる。
(8)アクチュエータとして、スイングレジスタ11毎に2組のSMAワイヤ41a,41b及び41c,41dを用い、その一方の組に対する通電によりラック35を往復動方向についての一方に移動させ、他方の組に対する通電によりラック35を往復動方向についての他方に移動させるようにしている。このように、縦ブレード20の左右といった双方向へのスイング動作を2組のSMAワイヤ41a,41b及び41c,41dの伸縮によって行うことができるため、縦ブレード20のスイング速度や送風方向の調整をより容易かつ的確に行うことが可能となる。
(9)スイングレジスタ11毎の一方の組のSMAワイヤ41a,41b(又は41c,41d)に通電するときには他方の組のSMAワイヤ41c,41d(又は41a,41b)に対する通電を停止し、さらに通電の対象となるSMAワイヤ41a〜41dについての組を一定周期毎に切り替えるようにしている。こうした態様の通電制御を行うことで、縦ブレード20を周期的に左右にスイング動作させることができる。
(10)スイングレジスタ11毎に2組のSMAワイヤ41a,41b及び41c,41dを用いる本実施形態では、全SMAワイヤ41a〜41dに通電されないときには、一方の組のSMAワイヤ41a,41b及び他方の組のSMAワイヤ41c,41dを、ともに弛緩するようにラック35に連結している。また、一方の組のSMAワイヤ41a,41b(又は41c,41d)にのみ通電されたときには、その組のSMAワイヤ41a,41bが加熱収縮し、他方の組のSMAワイヤ41c,41dが弛緩するようにSMAワイヤ41a〜41dの各組をラック35に連結している。そして、SMAワイヤ41a〜41dによる縦ブレード20の揺動中に操作ノブ23の操作が検出されて、全てのSMAワイヤ41a〜41dに対する通電を停止する際には、各組のSMAワイヤ41a,41b及び41c,41dを弛緩させ、SMAワイヤ41a〜41d及び縦ブレード20間の駆動連結状態を解除するようにしている。
そのため、上記各組での駆動連結状態の解除により、各動力伝達経路を経由して縦ブレード20に伝達される各組のSMAワイヤ41a,41b(又は41c,41d)の駆動力を小さくし、同駆動力に抗して縦ブレード20を揺動させるために操作ノブ23に必要な力を小さくすることができ、操作ノブ23の操作荷重を低減することができる。
また、上記のようにSMAワイヤ41a〜41d自身が連結状態を解除する手段として機能するため、同機能を発揮する手段を別途設けなくてもすむ。
(11)操作ノブ23による縦ブレード20の揺動を可能とする手動揺動モードと、SMAワイヤ41a〜41dにより縦ブレード20を揺動させる自動揺動モードとを選択するためのスイングレジスタスイッチ51を設けている。スイングレジスタスイッチ51により自動揺動モードが選択されたときにはSMAワイヤ41a〜41dに通電し、手動揺動モードが選択されたときにはSMAワイヤ41a〜41dへの通電を停止する。このため、スイングレジスタスイッチ51の手動操作を通じて任意の揺動モードを選択することができる。
また、スイングレジスタスイッチ51による自動揺動モードの選択時に操作ノブ23の操作がリミットスイッチ45によって検出されたときには、自動揺動モードを手動揺動モードに強制的に切り替えるようにしている。このように、自動揺動モード実行中における操作ノブ23の操作が、スイングレジスタスイッチ51による揺動モードの切り替えと同様の機能を発揮する。そのため、操作ノブ23の操作後に、スイングレジスタスイッチ51の選択操作を通じて、揺動モードを手動揺動モードに切り替える操作が不要となり、その分、少ない操作で揺動モードの切り替えが可能となり、車両搭乗者による揺動モードの切り替え操作を軽減することができる。
(12)手動揺動モード及び自動揺動モードについて、実行されている揺動モードと実行されていない揺動モードとで異なる表示態様にて作動するインジケータ52を設けている。従って、インジケータ52の表示態様を通じ、スイングレジスタ11において現在実行されている揺動モードを報知することができる。
特に、本実施形態では、点灯及び消灯を上記異なる表示態様としていて、自動揺動モードが実行されているときにはインジケータ52を点灯させ、手動揺動モードが実行されているときにはインジケータ52を消灯させるようにしている。そのため、スイングレジスタ11において現在実行されている揺動モードを明瞭に区別した状態で報知することができる。
(13)レジスタユニット12にスイングレジスタ11が2つ設けられた本実施形態では、それぞれのスイングレジスタ11についてレジスタ駆動装置を適用している。この適用に際しては、1つのスイングレジスタスイッチ51を、両スイングレジスタ11,11に共通の選択スイッチとしている。そして、スイングレジスタスイッチ51の操作により、操作ノブ23による縦ブレード20の揺動を両スイングレジスタ11について可能とする手動揺動モードと、両スイングレジスタ11についてSMAワイヤ41a〜41dにより縦ブレード20を揺動させる自動揺動モードとを選択可能としている。
また、スイングレジスタスイッチ51により自動揺動モードが選択されたときには両スイングレジスタ11における全てのSMAワイヤ41a〜41dを通電対象とする一方、手動揺動モードが選択されたときには両スイングレジスタ11の全てのSMAワイヤ41a〜41dへの通電を停止するようにしている。
そのため、両スイングレジスタ11とも同じ揺動モードとなるといった多少の制約はあるものの、スイングレジスタスイッチ51の手動操作を通じて任意の揺動モードを選択することができる。
(14)スイングレジスタスイッチ51による自動揺動モードの選択時に、特定のスイングレジスタ11における操作ノブ23の操作がリミットスイッチ45によって検出されたときには、その特定のスイングレジスタ11における自動揺動モードのみを手動揺動モードに強制的に切り替えるようにしている。
このように、自動揺動モード実行中における特定のスイングレジスタ11の操作ノブ23の操作が、スイングレジスタスイッチ51による揺動モードの切り替えと同様の機能を発揮する。そのため、特定のスイングレジスタ11における操作ノブ23の操作後に、スイングレジスタスイッチ51の選択操作を通じて、揺動モードを手動揺動モードに切り替える操作が不要となり、その分、少ない操作で揺動モードの切り替えが可能となり、車両搭乗者による揺動モードの切り替え操作を軽減することができる。
また、スイングレジスタ11が2つ用いられているシステムでありながら、スイングレジスタスイッチ51として、2つのスイングレジスタ11に共通の選択スイッチを用いることが可能となり、スイングレジスタ11毎にスイングレジスタスイッチ51を設けなくてもすむ。また、この場合、共通のスイングレジスタスイッチ51によって、2つのスイングレジスタ11について共通に自動揺動モード及び手動揺動モードを任意に選択することができるほか、自動揺動モード実行中における操作ノブ23の操作に応じた揺動モードの強制切替えを、スイングレジスタ11毎に独立して行うことができる。
(15)操作ノブ23の手動操作に応じて揺動モードを自動揺動モードから手動揺動モードに強制的に切り替えた場合には、スイングレジスタスイッチ51をオフ操作及びオン操作することで、その手動揺動モードを自動揺動モードに復帰させることができる。
なお、本発明は次に示す別の実施形態に具体化することができる。
・アクチュエータとしてSMAワイヤ41a〜41dとは異なるタイプを用いてもよい。例えば、図13に示すように、通電により出力軸55aが回転され、その回転が運動変換機構60により往復運動に変換されてラック35に伝達される電動モータ55を、上記アクチュエータとして採用してもよい。
この場合、電動モータ55による縦ブレード20の揺動駆動時には、電動モータ55に通電する。この通電により電動モータ55の出力軸55aが回転すると、その回転が運動変換機構60により往復運動に変換されてラック35に伝達される。ラック35の往復動は、コイルばね39を介してラックギア38に伝達されて、同ラックギア38がラック35と一体となって往復動し、ピニオンギア44が回転し、縦ブレード20が揺動軸21を支点として揺動する。また、電動モータ55への通電が停止されると出力軸55aの回転が停止され、同回転による縦ブレード20の揺動が停止される。
上記電動モータ55による縦ブレード20の揺動中に操作ノブ23が操作されて、コイルばね39が弾性変形されると、往復動部材34においてはラックギア38がラック35に対し往復動方向へ相対移動する。この相対移動がリミットスイッチ45によって検出されると、電動モータ55への通電を強制的に停止する。
・アクチュエータとして上記のように電動モータ55を採用した場合には、縦ブレード20及び電動モータ55間の連結状態を解除する手段として、例えば図13に示す電磁クラッチ56を用い、これを電動モータ55(運動変換機構60)及びラック35間の動力伝達経路57に設けることができる。この場合、操作ノブ23の操作がリミットスイッチ45によって検出されないときには電磁クラッチ56によって上記動力伝達経路57を接続し、検出されたときには同動力伝達経路57を切断させる。
上記のように構成すると、電動モータ55による縦ブレード20の揺動中にリミットスイッチ45によって操作ノブ23の操作が検出されないと、電動モータ55及びラック35間の動力伝達経路57が電磁クラッチ56によって接続される。そのため、電動モータ55の出力軸55aの回転が第2運動変換機構40により往復運動に変換されてラック35に伝達される。ラック35の往復動は、コイルばね39を介してラックギア38に伝達されて、同ラックギア38がラック35と一体となって往復動し、ピニオンギア44が回転し、縦ブレード20が揺動軸21を支点として揺動する。
これに対し、電動モータ55による縦ブレード20の揺動中に操作ノブ23が操作されて、そのことがリミットスイッチ45によって検出されると、電動モータ55及びラック35間の動力伝達経路57が電磁クラッチ56によって切断される。このようにして電動モータ55及び縦ブレード20間の駆動連結状態が解除されることにより、上記動力伝達経路57を経由して縦ブレード20に伝達される電動モータ55の駆動力が小さくなる。これに伴い、上記駆動力に抗して縦ブレード20を揺動させるために操作ノブ23に必要な力が小さくなり、操作ノブ23の操作荷重が低減される。
・アクチュエータとして上記のように電動モータ55を採用した場合には、縦ブレード20及び電動モータ55間の連結状態を解除する手段として、図13に示す上記電磁クラッチ56に代えてワンウェイクラッチ58を用い、これを電動モータ55(運動変換機構60)及びラック35間の動力伝達経路57に設けることができる。この場合、ワンウェイクラッチ58としては、電動モータ55からラック35に向かう方向のみ動力を伝達するタイプを用いる。
上記のように構成すると、電動モータ55による縦ブレード20の揺動中にリミットスイッチ45によって操作ノブ23の操作が検出されないときには、電動モータ55への通電に応じた出力軸55aの回転がワンウェイクラッチ58に伝達される。このワンウェイクラッチ58は、電動モータ55からラック35に向かう方向へは動力を伝達する。そのため、上記出力軸55aの回転は運動変換機構60によって往復運動に変換された後、ワンウェイクラッチ58を介してラック35に伝達される。ラック35の往復動は、コイルばね39を介してラックギア38に伝達されて、同ラックギア38がラック35と一体となって往復動し、ピニオンギア44が回転し、縦ブレード20が揺動軸21を支点として揺動する。
これに対し、電動モータ55による縦ブレード20の揺動中に操作ノブ23が操作されて、そのことがリミットスイッチ45によって検出されると、電動モータ55への通電が停止されて、出力軸55aが回転駆動されなくなる。ここで、ワンウェイクラッチ58は、電動モータ55からラック35に向かう方向のみ動力を伝達するものであって、その逆方向の力は伝達しない。そのため、電動モータ55の駆動力に抗して縦ブレード20を揺動させるために操作ノブ23に必要な力が小さくなり、操作ノブ23の操作荷重が低減される。
・左右のいずれかに対する縦ブレード20の揺動のみをSMAワイヤ41a〜41dの伸縮によって行い、もう一方に対する揺動をばね等の弾性部材の弾性反発力によって行うように変更してもよい。
・ピニオンギア44を縦ブレード20の揺動軸21に一体に固定する構成に代え、ギア等の動力伝達機構を用いてピニオンギア44と揺動軸21とを同期回動可能に駆動連結してもよい。
・形状記憶合金を用いて縦ブレード20を揺動させる構成としては、上記SMAワイヤ41a〜41dのほかにも、コイル状等の他の形状に形成された形状記憶合金を用いてもよい。要は、通電加熱により収縮する形状記憶合金を用い、その形状記憶合金の収縮に応じて縦ブレード20が揺動されるように形状記憶合金とブレードとを駆動連結する構成とすれば、低騒音でのブレード駆動が可能なブレード駆動装置を具現化することができる。
・形状記憶合金を用いて縦ブレード20を揺動させる場合には、通電及び通電停止に応じて十分に大きな収縮量及び収縮力を発生する形状記憶合金であることを条件に、チタン・ニッケル系以外の形状記憶合金を採用してもよい。
・ラックギア38のラック35に対する相対位置の変化に限らず、操作ノブ23の操作に応じて位置が変化する部位であれば、この部位の変位量から、アクチュエータによる縦ブレード20の揺動中における操作ノブの操作を検出することが可能である。
・ラックギア38をラック35に弾性支持する弾性部材として、上記コイルばね39とは異なる弾性体を用いてもよい。
・ラックギア38を弾性部材によりラック35に弾性支持する構成に代え、ラックギア38とラック35とを一体的に形成した構造を採用することもできる。この場合であっても、操作ノブ23の操作を検出する操作検出手段を別途設けるとともに、その操作検出手段の検出結果に基づいてSMAワイヤ41a〜41dに対する通電を制御することにより、上記実施形態と同様の効果が得られる。
・ブレード駆動装置による揺動対象となるブレードを、上記縦ブレード20に代えて横ブレード17としてもよい。すなわち、本発明に係るスイングレジスタ11のブレード駆動装置は、横ブレード17を上下方向へスイング動作させるための装置として実現することもできる。
・SMAワイヤ41a〜41dの伸縮による往復動部材34の直線運動を縦ブレード20の揺動運動に変換するために、上記実施形態とは異なる機構を採用してもよい。
例えば、ラック35及びコイルばね39を省略し、SMAワイヤ41a〜41dの伸縮によりラックギア38を直接往復運動させるとともに、縦ブレード20の揺動軸21に同期回動可能に連結されたピニオンギア44をそのラックギア38に噛み合わせることで、縦ブレード20を揺動させるように構成してもよい。
・SMAワイヤ41a〜41d及びラックギア38をケース30から露出させた状態でスイングレジスタ11内に配設する構成を採用してもよい。
・往復運動を回動運動に変換する第2運動変換機構40としては、上述したラック&ピニオン方式以外にも、例えば既知のすべり子クランク機構等を利用することもできる。
・アクチュエータとして、通電に応じて作動し、かつ通電停止に応じて作動を停止するものとは異なるタイプを採用してもよい。
・本発明は、レジスタユニット12にスイングレジスタ11を1つのみ有するシステム、又は3つ以上有するシステムにも適用可能である。
スイングレジスタ11を1つのみ有するシステムの場合、SMAワイヤ41a〜41dを、非通電時には弛緩し、通電時には収縮して緊張するようにラック35に連結する。そして、SMAワイヤ41a〜41dによる縦ブレード20の揺動中に操作ノブ23が操作されたときには、SMAワイヤ41a〜41dへの通電を強制的に停止させることにより、同SMAワイヤ41a〜41dを弛緩させ、SMAワイヤ41a〜41d及び縦ブレード20間の駆動連結状態を解除する。このようにすることで、動力伝達経路を経由して縦ブレード20に伝達されるSMAワイヤ41a〜41dの駆動力(引っ張り力)を小さくすることができ、上記駆動力に抗して縦ブレード20を揺動させるために操作ノブ23に必要な力を小さくし、操作ノブ23の操作荷重を確実に低減することができる。
・アクチュエータによる縦ブレード20の揺動駆動中における操作ノブ23の操作を検出できるものであることを条件に、操作検出手段を上記リミットスイッチ45とは異なるものに変更してもよい。例えば、タッチセンサ、近接センサ等がこれに該当する。操作検出手段としてタッチセンサを用いると、乗員の指が操作ノブ23に接触した場合に、そのことを検出することができる。また、操作検出手段として近接スイッチを用いると、乗員の指が操作ノブ23にある距離以内に近づいた場合に、そのことを非接触で検出することができる。
11…スイングレジスタ、14…空調用通風路、16…吹出口(空調用通風路の出口)、17…横ブレード、18,21…揺動軸、20…縦ブレード、23…操作ノブ、26,44…ピニオンギア、34…往復動部材、35…ラック(本体部)、38…ラックギア、39…コイルばね(弾性部材)、40…第2運動変換機構(運動変換機構)、41a〜41d…SMAワイヤ(アクチュエータ、線状部材)、45…リミットスイッチ(操作検出手段)、50…中央演算処理装置(CPU、通電制御手段、アクチュエータ停止手段)、51…スイングレジスタスイッチ(選択スイッチ)、52…インジケータ(表示器)、55…電動モータ(アクチュエータ)、55a…出力軸、56…電磁クラッチ、57…動力伝達経路、58…ワンウェイクラッチ、60…運動変換機構。