JP2008142890A - 切削工具を用いた精密加工方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】切削抵抗の小さい『シャープエッジ』形状の性能を維持したままで、耐摩耗性に優れた硬質被膜を剥離することなく安定して成膜する。
【解決手段】Tiと、周期律表4a、5a、6a族金属またはAlの1種または2種以上と、炭素、窒素、または酸素から選ばれた1種または2種以上とから構成される膜厚1.0〜3.8μmの硬質被膜を表面に被覆した超硬合金基体の外郭稜線部に切れ刃稜が形成され、前記基体の切れ刃稜部に加工によって幅1〜12μmのホーニングRまたはチャンファを設けた切削工具を用いて、切込み量と送り量が数μm〜数十μmの条件で切削加工を行うことを特徴とする切削工具を用いた精密加工方法である。
【選択図】図1

Description

本発明は切削工具を用いた精密加工方法に関し、特に切込み量と送り量が数μm〜数十μm条件で加工する精密加工に関する。
精密加工用切削工具は、主として精密機械の構成部品や電子機器などに使われる可動ユニットの機械加工などに使用されている。これら加工物の特徴としては、(1)寸法が小さい(外径加工部30mm、内径加工部5mmなど)こと、(2)高い加工精度(数μm〜数十μmオーダーの加工寸法と加工面精度)が要求されること、などがある。
従来、このような用途に用いられる精密加工用切削工具は、加工精度と切削抵抗などの観点から、切れ刃稜を挟む両面をダイヤモンドホイール等で研磨して鋭い切れ刃稜を作製したいわゆる『シャープエッジ』工具が使用されてきた。また、場合によってはこのようにして作製した『シャープエッジ』工具の表面に硬質セラミックの薄膜コーティングを施して使用していた。
しかしながら、加工時間を短縮するために、加工機の主軸回転数は5000rpmから8000rpmへと上昇してきており、最近では12,000rpmの加工機が市販されている。このような主軸回転数の高速化に伴い、切削工具にも高速切削に対応した材種が要求されている。
従来、正面フライスやエンドミル等の高速加工に対応したコーティング工具材種としては、表面を(TiAl1−x)N系硬質被膜で被覆したものがある。これは(TiAl1−x)Nの持つ高温安定性と高硬度という材料特性を利用したものであるが、精密加工用工具ではほとんど利用されておらず、あっても十分な性能が出ているとは言い難かった。
これは『シャープエッジ』で利用される精密加工用工具に問題の要因があった。すなわち、(TiAl1−x)N系硬質被膜は被膜の残留圧縮応力が大きく、これを刃先が鋭い精密加工用工具に成膜しても、残留圧縮応力のために、すぐに剥離してしまうか、わずかな衝撃で剥離してしまう。硬質被膜が剥離すれば、コーティング工具の切削性能は母材以下となるのは周知のことである。
本発明者は、上記の問題点について検討を重ねた結果、切削工具の切れ刃に幅0.1〜20μmのホーニングRまたはチャンファを設け、かつこの表面に、Tiと、周期律表4a、5a、6a族金属またはAlの1種または2種以上と、炭素、窒素、または酸素から選ばれた1種または2種以上から構成される膜厚0.5〜5μmの硬質被膜を成膜することで、切れ刃にシャープエッジ並の低切削抵抗を保持したまま、(TiAl1−x)N系硬質被膜が剥離せずに安定して成膜でき、低切削抵抗と耐摩耗性を両立した精密加工用切削工具が得られることを知見し、本発明に至った。
本発明は上記知見に基づいてなされたものであり、請求項1に係る切削工具を用いた精密加工方法は、Tiと、周期律表4a、5a、6a族金属またはAlの1種または2種以上と、炭素、窒素、または酸素から選ばれた1種または2種以上とから構成される膜厚1.0〜3.8μmの硬質被膜を表面に被覆した超硬合金基体の外郭稜線部に切れ刃稜が形成され、前記基体の切れ刃稜部に加工によって幅1〜12μmのホーニングRまたはチャンファを設けた切削工具を用いて、切込み量と送り量が数μm〜数十μmの条件で切削加工を行うことを特徴とする。
請求項1に係る切削工具を用いた精密加工方法は、切削工具に対して基体の切れ刃稜部に幅1〜12μmのホーニングRまたはチャンファを設けるとともに、Tiと、周期律表4a、5a、6a族金属またはAlの1種または2種以上と、炭素、窒素、または酸素から選ばれた1種または2種以上とから構成される膜厚1.0〜3.8μmの硬質被膜を設けたことから、切削抵抗の小さい『シャープエッジ』形状の性能を維持したまま、耐摩耗性に優れた硬質被膜を剥離することなく安定して成膜することができ、低切削抵抗と耐摩耗性の両立ができる。
以下、各請求項に係る発明を詳述する。請求項1に係る精密加工用切削工具では、基体は超硬合金で構成される。この超硬合金は、K種超硬合金(WC−Co系)、P種超硬合金(WC−β−Co系)のいずれでもよい。精密加工用として、一般的な切削工具よりも鋭い切れ刃形状が要求されるため、硬質相粒子径が1.0μm以下の微粒超硬合金もしくは超微粒超硬合金が望ましい。硬質相粒子が1.0μmより大きいと切れ刃の微小な脱落や塑性変形が発生しやすくなり、所望の切削性能を安定して得ることは困難である。
上記基体は例えば多角形板状を有し、その外郭稜線部が切れ刃稜部となる。この切れ刃稜部に加工によって幅1〜12μmのホーニングRまたはチャンファを設ける。
切れ刃部稜に所望の加工を行なうための手段は、ダイヤモンド砥粒とブラシ加工装置を使って研磨する方法やダイヤモンドホイールを使って平面状や曲面状に研削加工するなどの方法がある。これらの加工方法を利用する場合、特にダイヤモンド砥粒やダイヤモンドホイールの粒径が重要である。
ホーニングR加工はダイヤモンド砥粒を用いたブラシ研磨機などで行う。ダイヤモンド砥粒は、オイルなどに分散したスラリー状にして、ホーニングR加工する被加工物に塗布したり、吹き付けたりする。ブラシの材質としては毛、植物、化学繊維、ワイヤなどがあるが、被加工物の硬度に応じて使用すればよい。ダイヤモンド砥粒径、ブラシの材質、ブラシの回転速度、圧力、加工時間、ブラシの接触長さなどでホーニング量の制御ができる。
ホーニング幅とは、図1に示すように、工具1のすくい面2側からの測定値Waで示している。すくい面2側からの測定幅Waと逃げ面3からの測定幅Wbの比率Wa/Wbは0.5〜3の範囲にあることが望ましい。
また、チャンファ加工は例えば研削盤を用いて行う。曲面の作製が可能な研削盤を用いれば、ホーニングR加工と同様の形状の加工も可能である。
チャンファ幅とは、図2に示すように、工具1のすくい面2側からの測定値Wcで示している。チャンファ角度θcは10〜50°であることが望ましい。
加工したホーニングR部、チャンファ部の幅の測定は、光学式投影機を使えば可能である。三次元測定器を使用したり、断面を電子顕微鏡等で観察して測定してもよい。
ホーニングRまたはチャンファ幅が1μm未満の場合は、切れ刃稜加工の効果が得られず、切削加工の安定化が達成できない。さらに、ホーニングRまたはチャンファ幅が12μmより大きい場合は、切削抵抗が大きく、切削温度上昇に起因する異常摩耗、切れ刃の塑性変形などが発生する。
また、上記のようにホーニングR加工またはチャンファ加工を施した基体の表面は硬質被膜で被覆される。この硬質被膜は、Tiを必須成分とし、Cr、Zr、V等の周期律表4a、5a、6a族金属またはAlから選ばれた1種または2種以上の金属元素と、窒素、炭素、または酸素から選ばれた1種または2種以上の非金属元素で構成される。
全金属元素に占めるTiの比率は50〜75原子%が望ましく、さらには55〜65原子%が望ましい。このTiの比率が75原子%より多いと、硬質被膜の硬度が低下して切削工具として使用した場合に耐摩耗性が不十分となる。また、Tiの比率が50原子%より少ないと、不安定相であるAlNなどが部分的に析出して切削加工時に切れ刃が剥離したり、異常摩耗する原因となりやすい。このような硬質被膜としては、(TiAl1−x)Nを用いることができる。このような硬質被膜は1層設ける場合に限らず、材料を異ならしめて複数層設けてもよい。
上記硬質被膜の膜厚は1.0〜3.8μmが望ましい。この硬質被膜の膜厚が1.0μm未満では超硬合金基体の表面に硬質被膜を成膜する目的である耐摩耗性の向上が実現できず、3.8μmより大きいと被膜が脆化して硬質被膜が剥離したり脱落し、硬質被膜を成膜する意味がなくなる。
上記硬質被膜で被覆された基体は略多角形板状を有し、その外郭稜線部に切れ刃稜が形成される。
(実施例1)
基体としてWC90wt%、Co8%、β2wt%の組成の超硬合金を使用する。ここでβはTiC、TaC、NbC、ZrC、WCから成る固溶体である。WC粒径は0.6μm、β粒径は1.0μmとする。焼結体の上面、側面、底面をダイヤモンドホイールで研削加工して目的の形状、寸法(DCGT070202)とした。その後、ブラシ研磨機でR5μmのホーニングR加工を施した。ダイヤモンド砥粒径は1μm、加工時間は2分とした。ホーニングR量は投影機で測定して確認した。ホーニングR加工後は酸、アルカリ、純水、有機溶剤で洗浄し、表面の油、錆、しみなどの汚れを除去した。
硬質被膜の成膜にはアークイオンプレーティング装置を、蒸発金属にはTi−Al合金を、原料ガスには窒素を使用して複合窒化物を作製した。ここでTi−Al合金の組成で50:50(原子比)、窒素ガスは圧力4Pa(流量1000ml/min)、バイアス電圧は30Vとした。ボンバード時間は合計20分とした。成膜は15分行ない、膜厚2.2μmとした。(サンプル1)
(実施例2)
基体としてWC87wt%、Co13wt%の組成の超硬合金を使用した。WC粒径は0.3μmとした。焼結体の上面、側面、底面をダイヤモンドホイールで研削加工して目的の形状、寸法(DCGT070202)とした。その後、ブラシ研磨機で幅4μmのホーニングR加工を施した。ダイヤモンド砥粒径は1μm、加工時間は2分とした。
ホーニングR量は投影機で測定して確認した。ホーニングR加工後は酸、アルカリ、純水、有機溶剤により洗浄し、表面の油、錆、しみなどの汚れを除去した。
硬質被膜の成膜にはアークイオンプレーティング装置を、蒸発金属にはTi−Al合金を、原料ガスには窒素を使用して複合窒化物を作製する。ここでTi−Al合金の組成で50:50(原子比)、窒素ガスは圧力4Pa(流量1000ml/min)、バイアス電圧は30Vとした。
コーティングの前工程としてアルゴンイオンによるボンバード処理を行ない、コーティング母材の清浄度をさらに向上させた。ボンバード時間は合計20分とした。成膜は18分行ない、膜厚2.0μmとした。(サンプル2)実施例1、2をベースに蒸発金属、膜厚、切れ刃加工法を変更したサンプルを作製した。いずれも所望の範囲の精密加工用切削工具が作製できた。(サンプル3〜14)比較のために、実施例1、2の条件から切れ刃稜の加工を施さないもの、過剰な切れ刃稜加工を行なったものなどのサンプルを作製した。(サンプル15〜22)各々のサンプルについて次の条件で切削条件1のテストを行なった。
(切削条件1)
被削材: 快削性ステンレス SUS430F
工具形状: DCGT070202
切削速度: 200〜470m/min
可変 (主軸回転数 5000rpm一定)
送り速度: 0.03mm/rev
切込み: 0.03mm
切削時間: 45分
切削液: 湿式(油系)
最大45分までの切削加工を行ない、工具摩耗、切れ刃損傷について検証した。その結果を表1に示す。工具摩耗量は、切れ刃先端のノーズ部の平均摩耗幅で示している。45分以下の切削時間で、摩耗、切れ刃欠損等の理由で加工の継続ができなくなった場合はその原因を記した。
Figure 2008142890
表1によれば、サンプル1、2に対して、切れ刃稜の加工を行なわないいわゆる『シャープエッジ』形状のサンプルは、剥離により最初から切削不能であるか、剥離に起因すると思われる突発的な損傷が発生し、異常摩耗が発生している(サンプル18、21、22)。また、切れ刃稜の加工を過剰に行なってホーニングR量やチャンファ量を12μmより大きくした場合は、切削抵抗が増大に起因して切削温度が上昇し、工具摩耗の増大、切れ刃の塑性変形発生を引き起こしている(サンプル19、20)。
これに対して、サンプル1〜14は、いずれも安定した切削性能を発揮することができた。
本発明に係る精密加工用切削工具のホーニングR加工部を示す図である。 本発明に係る精密加工用切削工具のチャンファ加工部を示す図である。
符号の説明
1:略板状基体
2:すくい面
3:逃げ面

Claims (4)

  1. Tiと、周期律表4a、5a、6a族金属またはAlの1種または2種以上と、炭素、窒素、または酸素から選ばれた1種または2種以上とから構成される膜厚1.0〜3.8μmの硬質被膜を表面に被覆した超硬合金基体の外郭稜線部に切れ刃稜が形成され、前記基体の切れ刃稜部に加工によって幅1〜12μmのホーニングRまたはチャンファを設けた切削工具を用いて、切込み量と送り量が数μm〜数十μmの条件で切削加工を行うことを特徴とする切削工具を用いた精密加工方法。
  2. 前記硬質被膜が(TiAl1−x)Nであることを特徴とする請求項1に記載の切削工具を用いた精密加工方法。
  3. 前記切削工具のすくい角が0°であることを特徴とする請求項1に記載の切削工具を用いた精密加工方法。
  4. 前記切削工具のすくい角が10〜15°であることを特徴とする請求項1に記載の切削工具を用いた精密加工方法。
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