JP2018164962A - 表面被覆切削工具 - Google Patents
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Abstract
Description
そして、被覆工具の切削性能改善を目的として、従来から、数多くの提案がなされている。
また、特許文献2に示される従来被覆工具においては、層厚方向に組成変化を形成することで高温硬さと耐熱性、靱性を両立せしめることができるが、層厚方向に形成される層内の異方性によって、層厚と垂直方向のクラックの発生・伝播を十分に防止することはできないという問題がある。
そこで、粒界損傷(微細欠損)の発生を抑制するための方策を検討したところ、TiAlN層を構成する立方晶のTiAlN結晶粒の(001)面の法線が、工具基体表面の法線方向となす角度が5度以下である微細結晶粒(以下、「(001)配向微細結晶粒」という場合がある。)を形成するとともに、さらに、前記(001)配向微細結晶粒の周囲には、工具基体表面の法線方向とのなす角度が5度を超え15度以下である微細結晶粒を形成することによって、前記微細結晶粒は(001)配向性が高い結晶配向集合組織を形成するため、粒界損傷の発生を抑制することができるようになることを見出した。
その結果、本発明の被覆工具は、高熱発生を伴い、しかも、切刃に対して衝撃的・断続的な高負荷が作用する高速断続切削加工条件下で、すぐれた耐欠損性と耐摩耗性を両立することができることを見出したのである。
「(1)WC基超硬合金、TiCN基サーメットおよび立方晶窒化硼素焼結体のいずれかからなる工具基体表面に、0.5〜10.0μmの平均層厚のTiとAlの複合窒化物層を少なくとも含む硬質被覆層が設けられた表面被覆切削工具において、
(a)前記TiとAlの複合窒化物層は、その組成を、
組成式:(TixAl1−x)N
で表した場合、0.10≦x≦0.35(ただし、xは原子比)を満足する平均組成を有し、
(b)前記TiとAlの複合窒化物層は、工具基体表面と平行な方向に結晶粒幅を測定した場合、平均結晶粒幅が30〜100nmである立方晶構造のTiとAlの複合窒化物からなる微細結晶粒を含み、
(c)前記TiとAlの複合窒化物層の縦断面において、工具基体表面の法線と前記立方晶構造の微細結晶粒の(001)面の法線とのなす角度を測定した場合に、そのなす角度が5度以下の立方晶構造を有する(001)配向微細結晶粒が存在するとともに、前記(001)配向微細結晶粒の周囲には、工具基体表面の法線と前記立方晶構造の微細結晶粒の(001)面の法線とのなす角度が5度を超え15度以下の微細結晶粒が存在し、かつ、前記(001)配向微細結晶粒および前記なす角度が5度を超え15度以下の微細結晶粒は、(001)配向性が高い(001)配向集合組織を形成し、該(001)配向集合組織が、前記TiとAlの複合窒化物層の縦断面に占める面積割合は、10面積%以上であり、
(d)前記TiとAlの複合窒化物層をXRD測定したとき、立方晶構造の結晶粒の(200)の回折ピーク強度をIc(200)、また、六方晶構造の結晶粒の(110)の回折ピーク強度をIh(110)とした時、Ic(200)/Ih(110)≧2を満たす、
ことを特徴とする表面被覆切削工具。
(2)前記(001)配向集合組織は、前記TiとAlの複合窒化物層の縦断面の300×500nmの範囲内に、少なくとも、2個以上存在することを特徴とする前記(1)に記載の表面被覆切削工具。」
を特徴とするものである。
硬質被覆層は、少なくともTiAlN層を含むが、該TiAlN層の平均層厚が0.5μm未満では、TiAlN層によって付与される耐摩耗性向上効果、耐欠損性向上効果が十分に発揮されず、一方、平均層厚が10.0μmを超えると、TiAlN層の中の歪みが大きくなり自壊しやすくなるため、TiAlN層の平均層厚は0.5〜10.0μmとする。
TiAlN層を、
組成式:(TixAl1−x)N
で表した場合、0.10≦x≦0.35(ただし、xは原子比)を満足する平均組成を有することが必要である。
Ti成分の平均組成を表すxが0.10未満である場合には、六方晶構造のTiAlN結晶粒が形成されやすくなり、TiAlN層の硬度が低下し十分な耐摩耗性を得ることができない。
一方、Ti成分の平均組成を表すxが0.35を超える場合には、Al成分の組成割合が減少するため、TiAlN層の高温硬さおよび高温耐酸化性が低下する。
したがって、Ti成分の平均組成xは、0.10≦x≦0.35とする。
Ti成分の平均組成xは、SEM−EDSを用いて、TiAlN層の縦断面の複数個所(例えば、5箇所)でTi成分量を測定し、その測定値を平均することによって求めることができる。
なお、前記組成式において、N/(Ti+Al+N)の値は、必ずしも、化学量論比である0.5である必要はなく、工具基体表面の汚染の影響などで不可避的に検出される炭素や酸素などの元素をのぞいてTi、Al、Nの含有割合の原子比を定量し、TiとAlとNの含有割合の原子比の合計に対するNの含有割合の原子比が0.45以上0.65以下の範囲であれば、本発明のTiAlN層において同等の効果が得られ特に問題はない。
また、本発明のTiAlN層は、前述したように、六方晶構造のTiAlN結晶粒を過度に多量に含むことは望ましくないが、XRD測定による回折ピーク強度比によりこれを言い換えれば、TiAlN層をXRD解析した場合に、立方晶構造の結晶粒の(200)の回折ピーク強度をIc(200)、また、六方晶構造の結晶粒の(110)の回折ピーク強度をIh(110)とした時、Ic(200)/Ih(110)≧2を満足すれば、六方晶構造のTiAlN結晶粒による弊害を生じることはないから、Ic(200)/Ih(110)≧2を満足することが望ましい。
本発明のTiAlN層では、工具基体表面と平行な方向に測定したTiAlN結晶粒の幅が30〜100nmである立方晶構造の微細結晶粒を含み、さらに、該立方晶構造の微細結晶粒の(001)面の法線がなす角度と工具基体表面の法線とのなす角度を透過型電子顕微鏡に付属する結晶方位解析装置で測定した場合、そのなす角度が5度以下である(001)配向微細結晶粒が存在する。
さらに、前記(001)配向微細結晶粒の周囲には、工具基体表面の法線と(001)面の法線とのなす角度が5度を超え15度以下である立方晶構造の微細結晶粒が存在し、前記(001)配向微細結晶粒と前記なす角度が5度を超え15度以下の立方晶構造の微細結晶粒は、(001)配向性が高い(001)配向集合組織を形成している。
ここで、TiAlN層中に平均結晶粒幅が30〜100nmである立方晶構造の微細結晶粒を存在させるのは、平均結晶粒幅が100nmを超える粗大なTiAlN結晶粒であると、TiAlN層における粒界の長さが短くなるために、切削加工時に加わる衝撃を分散しにくくなるため、耐欠損性が低下し、一方、平均結晶粒幅が30nm未満の超微粒結晶粒になると粒界が増えるため、切削加工時に被削材と粒界部との接触確率が高くなった結果、結晶粒の脱粒が起きやすくなるため、粗粒結晶粒による耐摩耗性の確保ができなくなるという理由による。
また、前記平均結晶粒幅が30〜100nmである立方晶構造の微細結晶粒について、透過型電子顕微鏡に付属する結晶方位解析装置により、工具基体表面の法線と立方晶構造の微細結晶粒の(001)面の法線とのなす角度を求めた場合に、そのなす角度が5度以下の立方晶構造を有する(001)配向微細結晶粒が存在し、しかも、該(001)配向微細結晶粒の周囲には、工具基体表面の法線と(001)面の法線とのなす角度が5度を超え15度以下の立方晶構造の微細結晶粒が存在し、前記(001)配向微細結晶粒と前記なす角度が5度を超え15度以下の立方晶構造の微細結晶粒は、(001)配向性が高い結晶配向集合組織、即ち、(001)配向集合組織を形成している。
ここで、(001)配向微細結晶粒を存在させるのは、TiAlN層の耐摩耗性向上を図るためであるが、TiAlN層は微細結晶粒を主体として構成されているため、粒界が多く結晶粒の脱粒が起きやすくなるため、切削加工時に微細欠損を発生しやすい。そこで、見掛け上の粒界を少なくし、耐粒界損傷性を高めるために、(001)配向微細結晶粒の周囲に、工具基体表面の法線と(001)面の法線とのなす角度が5度を超え15度以下の立方晶構造の微細結晶粒を形成し、前記(001)配向微細結晶粒と前記なす角度が5度を超え15度以下の立方晶構造の微細結晶粒によって、(001)配向集合組織を形成する。即ち、(001)配向集合組織を形成する立方晶構造の微細結晶粒については、その(001)面の法線と、工具基体表面の法線とのなす角度は、0〜15度の範囲内となる。
この様な(001)配向集合組織を形成することによって、本発明のTiAlN層は微細結晶粒を主体として構成されているにもかかわらず、(001)配向集合組織を構成する微細結晶粒の粒界が少なくなるため、粒界が多いことによるデメリットである切削加工時の微細欠損の発生が低減される。
これは、TiAlN層の縦断面に占める(001)配向集合組織の面積割合が10面積%未満では、高熱発生を伴い、かつ、切刃に衝撃的・断続的な高負荷が作用する合金鋼などの高速断続切削加工において、耐欠損性向上効果が十分に発揮されないためである。
また、(001)配向集合組織は皮膜中に分散して存在することが望ましく、TiAlN層の縦断面の300×500nmの範囲内を透過型電子顕微鏡に付属する結晶方位解析装置で測定した場合に、(001)配向集合組織が、少なくとも、2個以上存在することが望ましい。
TiAlN層の縦断面の300×500nmの範囲内に、(001)配向集合組織が存在しない場合、あるいは、1個しか存在しないような場合には、さらに高負荷が作用する切削加工において(001)配向集合組織よる微細欠損の低減による耐欠損性向上の効果が十分に発揮されないためである。
2層以上の積層構造として構成された硬質被覆層にあっては、該積層構造を構成する層のうちの少なくとも一つの層を前記TiAlN層で形成することが望ましい。
本発明のTiAlN層の微細結晶粒の平均結晶粒幅、結晶構造、結晶方位の測定、(001)配向微細結晶粒および(001)配向集合組織の特定等は、例えば、透過型電子顕微鏡に付属する結晶方位解析装置を用いて、TiAlN層の縦断面(即ち、工具基体表面に垂直な方向の断面)を測定することにより求めることができる。
より具体的には、次のとおりである。
透過型電子顕微鏡で、TiAlN層を含む硬質被覆層の縦断面を観察する方法は以下の通りである。
まず、TiAlN層を含む硬質被覆層の縦断面を切り出した後、結晶粒径と同程度の厚さ(30nm)以下に研磨した切片をセットし、200kVに加速された電子線を前記切片の表面(すなわちTiAlN層を含む硬質被覆層に相当する表面)に照射することで観察を行う。
次にTiAlN層を含む硬質被覆層の縦断面の観察結果から、結晶粒幅、結晶構造、面積割合及び工具基体表面に対する結晶方位の解析範囲を決める方法は以下の通りである。
まず、硬質被覆層の縦断面の観察画像における、硬質被覆層と工具基体との界面上の2点を任意で選定する。その際、2点間を線分でつないだ長さは1000nmになるよう選定する。結晶方位の解析範囲は、前記線分と平行方向に1000nm(この方向を以下「解析範囲の横方向」と定義する)、垂直方向に400nm(この方向を以下「解析範囲の縦方向」と定義する)の長方形の範囲とする。その際、前記の範囲には全てTiAlN層の縦断面のみ含める(工具基体、ならびにTiAlN層以外の硬質被覆層は含めない)。
前記の測定範囲において、結晶方位のマップデータを得る解析方法は以下の通りである。前記切片の表面に、切片の表面の法線方向に対して0.5〜1.0度に傾けた電子線をPrecession(歳差運動) 照射しながら、電子線を任意のビーム径及び間隔でスキャンし、連続的に電子線回折パターンを取り込み、個々の測定点の結晶方位を解析する。なお、本測定に用いた回折パターンの取得条件は、カメラ長20cm、ビームサイズ2.2nmで、測定ステップは2.0nmである。
得られる電子線回折パターンから個々の結晶粒を判別するための解析方法は、以下の通りである。まず、測定点の隣接点同士の結晶方位が5度以上離れている場合、粒界に属する測定点と判断する。次に、粒界に属する測定点同士を線分でつなぎ合わせることで、前記線分に囲まれている部分を結晶粒と定義する。ただし、この線分がTiAlN層表面、TiAlN層と硬質被覆層が接する面、または工具基体表面と接する場合は、それぞれの表面または界面の粒界とみなす。そして解析範囲の横方向に平行な方向における粒界と粒界との距離から結晶粒幅を測定し、5個所の平均から平均結晶粒幅を算出する。
工具基体表面の法線と立方晶構造を有する微細結晶粒の(001)の法線とのなす角度とそれによって得られる(001)配向微細結晶粒の特定、ならびに(001)配向集合組織の特定とその面積割合の算出方法について説明する。
まず前記の結晶方位解析装置を用いて、工具基体表面1aの法線L1(工具基体表面1aと垂直な方向)に対して、測定範囲内に含まれる測定点での結晶面である(001)面の法線L2がなす傾斜角(図1A、図1B参照)を測定する。その傾斜角のうち、法線方向L1に対して0〜15度の範囲内(図1Aの0度から図1Bの15度までの範囲内)にある傾斜角を5度のピッチ毎に区分して、前記方法で測定した結晶粒を0度以上5度以下、5度を超え10度以下、10度を超え15度以下に選別する。このときの法線とのなす角度が0度以上5度以下の結晶粒を(001)配向微細結晶粒とする。また、この(001)配向微細結晶粒に法線とのなす角度が5度を超え10度以下、10度を超え15度以下の結晶粒の一方若しくはその両方が隣接する時、これらを(001)配向集合組織として、これらの結晶粒内に含まれる測定点の全数を結晶粒の測定点の全数で割ることにより、微細結晶粒の面積割合を算出する。なお、1つの測定点が占める面積は一定のため、測定点数の割合から面積割合が求められる。
以上1つの解析範囲において、平均結晶粒幅、結晶構造、結晶方位の測定、(001)配向微細結晶粒および(001)配向集合組織の特定と(001)配向集合組織の面積割合の算出方法について説明したが、実際に観察、解析を行う際には5つの解析範囲を設定し、平均値を算出する。
本発明のTiAlN層は、例えば、スパッタリング装置とアークイオンプレーティング装置を併設した物理蒸着装置(以下、「SP/AIP装置」という)を用いたスパッタリングとアークイオンプレーティングの同時放電によって成膜することができる。
図2(a)、(b)に、本発明のTiAlN層を成膜するための、SP/AIP装置の概略図を示す。
図2(a)、(b)に示すSP/AIP装置の相対向する壁面に、アークイオンプレーティング用の所定組成のTi−Al合金カソード電極(ターゲット)を対向配置するとともに、同じく前記SP/AIP装置の他の相対向する壁面には、スパッタリング用の金属Tiカソード電極(ターゲット)を対向配置し、装置中央に設けられたテーブル上には、Ti−Al合金カソード電極(ターゲット)と金属Tiカソード電極(ターゲット)からほぼ等距離となる位置(例えば、図2(a)に示されるような4箇所)に、工具基体を載置する。
次いで、テーブル上で工具基体を自転させながら、工具基体を所定の温度範囲に加熱し、反応ガスを装置内に導入し、スパッタリングとアークイオンプレーティングを同時に行うことにより、本発明のTiAlN層を成膜することができる。
なお、この場合のスパッタリング条件とアークイオンプレーティング条件は、概ね、以下のとおりである。
・スパッタリング条件
スパッタリングターゲット(カソード電極):金属Ti
スパッタリング電力(kW):2.0〜2.3
・アークイオンプレーティング条件
TiAl合金ターゲット(カソード電極)のTi組成(原子%):5〜30
アーク電流(A):115〜130
・共通する条件
N2ガス圧力(Pa):2〜2.5
工具基体温度(℃):450〜500
バイアス電圧(−V):250〜300
なお、具体的な説明としては、WC基超硬合金を工具基体とする被覆工具について説明するが、TiCN基サーメットあるいは立方晶窒化硼素焼結体を工具基体とする被覆工具についても同様である。
SP/AIP装置内には、装置内を排気して真空に保持しながら、ヒータで工具基体を450℃に加熱した後、前記テーブル上で自転する工具基体に−1000Vの直流バイアス電圧を印加し、かつ、Ti−Al合金カソード電極(ターゲット)に100Aのアーク電流を流してアーク放電を発生させ、もって工具基体表面をボンバード洗浄した。
ついで、装置内に反応ガスとして窒素ガスを導入して表2に示す窒素圧にすると共に、前記テーブル上で自転する工具基体の温度を表2に示す温度範囲に加熱維持し、表2に示すバイアス電圧を工具基体に印加し、表2に示す所定組成のTi−Al合金カソード電極(ターゲット)に表2に示すアーク電流を流してアーク放電を発生させ、アークイオンプレーティングを行った。
さらに、前記アークイオンプレーティングと同時に、工具基体と金属Tiカソード電極(ターゲット)に表2に示すバイアスを印加するとともに、金属Tiカソード電極(ターゲット)に表2に示す電力を印加することにより、スパッタリングを行った。
上記の工程で、スパッタリングとアークイオンプレーティングを同時に行うことにより、本発明のTiAlN層を成膜した表4に示す本発明被覆工具1〜10(以下、本発明工具1〜10という)を製造した。
また、参考のため、表3に示すスパッタリング条件のみでTiN層を形成することにより、表5に示す参考被覆工具1(以下、参考例工具1という)を製造した。
また、本発明工具1〜10、比較例工具1〜5のTiAlN層におけるTi成分の組成を、SEM−EDSにより層厚方向に0.4μm以上、基体表面に平行な方向に1μm以上の視野範囲で測定し、5箇所の測定値の平均値を、TiAlN層のTi成分の平均組成xとして求めた。
表4、表5に、それぞれの値を示す。
具体的には、以下のとおりである。
透過型電子顕微鏡で、TiAlN層を含む硬質被覆層の縦断面を観察する方法は以下の通りである。
まず、TiAlN層を含む硬質被覆層の縦断面を切り出した後、結晶粒径と同程度の厚さ(30nm)以下に研磨した切片をセットし、200kVに加速された電子線を前記切片の表面(すなわちTiAlN層を含む硬質被覆層に相当する表面)に照射することで観察を行う。
次にTiAlN層を含む硬質被覆層の縦断面の観察結果から、結晶粒幅、結晶構造、面積割合及び工具基体表面に対する結晶方位の解析範囲を決める方法は以下の通りである。
まず、硬質被覆層の縦断面の観察画像における、硬質被覆層と工具基体との界面上の2点を任意で選定する。その際、2点間を線分でつないだ長さは1000nmになるよう選定する。結晶方位の解析範囲は、前記線分と平行方向に1000nm(この方向を以下「解析範囲の横方向」と定義する)、垂直方向に400nm(この方向を以下「解析範囲の縦方向」と定義する)の長方形の範囲とする。その際、前記の範囲には全てTiAlN層の縦断面のみ含める(工具基体、ならびにTiAlN層以外の硬質被覆層は含めない)。
前記の測定範囲において、結晶方位のマップデータを得る解析方法は以下の通りである。
前記切片の表面に、切片の表面の法線方向に対して0.5〜1.0度に傾けた電子線をPrecession(歳差運動)照射しながら、電子線を任意のビーム径及び間隔でスキャンし、連続的に電子線回折パターンを取り込み、個々の測定点の結晶方位を解析する。なお、本測定に用いた回折パターンの取得条件は、カメラ長20cm、ビームサイズ2.2nmで、測定ステップは2.0nmである。
得られる電子線回折パターンから個々の結晶粒を判別するための解析方法は、以下の通りである。
まず、測定点の隣接点同士の結晶方位が5度以上離れている場合、粒界に属する測定点と判断する。次に、粒界に属する測定点同士を線分でつなぎ合わせることで、前記線分に囲まれている部分を結晶粒と定義する。ただし、この線分がTiAlN層表面、TiAlN層と硬質被覆層が接する面、または工具基体表面と接する場合は、それぞれの表面または界面の粒界とみなす。そして解析範囲の横方向に平行な方向における粒界と粒界との距離から結晶粒幅を測定し、5個所の平均から平均結晶粒幅を算出する。
工具基体表面の法線と立方晶構造を有する微細結晶粒の(001)の法線とのなす角度とそれによって得られる(001)配向微細結晶粒の特定、ならびに(001)配向集合組織の特定とその面積割合の算出方法について説明する。
まず前記の結晶方位解析装置を用いて、工具基体表面1aの法線L1(工具基体表面1aと垂直な方向)に対して、測定範囲内に含まれる測定点での結晶面である(001)面の法線L2がなす傾斜角(図1A、図1B参照)を測定する。その傾斜角のうち、法線方向L1に対して0〜15度の範囲内(図1Aの0度から図1Bの15度までの範囲内)にある傾斜角を5度のピッチ毎に区分して、前記方法で測定した結晶粒を0度以上5度以下、5度を超え10度以下、10度を超え15度以下に選別する。このときの法線とのなす角度が0度以上5度以下の結晶粒を(001)配向微細結晶粒とする。また、この(001)配向微細結晶粒に法線とのなす角度が5度を超え10度以下、10度を超え15度以下の結晶粒が隣接する時これらを(001)配向集合組織として、これらの結晶粒内に含まれる測定点の全数を結晶粒の測定点の全数で割ることにより、微細結晶粒の面積割合を算出する。なお、1つの測定点が占める面積は一定のため、測定点数の割合から面積割合が求められる。
1つの解析範囲において、前記の方法で、平均結晶粒幅、結晶構造、結晶方位の測定、(001)配向微細結晶粒および(001)配向集合組織の特定と(001)配向集合組織の面積割合の算出を行ったが、同様にして合計5つの解析範囲において測定・算出を行い、これらの値の平均値を算出した。
また、本発明工具1〜10、比較例工具1〜5のTiAlN層について、TiAlN層を表面からXRD測定し、立方晶構造の結晶粒の(200)の回折ピーク強度Ic(200)と六方晶構造の結晶粒の(110)の回折ピーク強度Ih(110)を測定し、Ic(200)/Ih(110)の値を算出した。
表4、表5に、それぞれの値を示す。
切削試験:乾式高速正面フライス、センターカット切削加工、
カッタ径: 125 mm、
被削材: JIS・SCM445 幅100mm、長さ350mmのブロック材、
切削速度: 350 m/min、
切り込み: 2.3mm、
一刃送り量: 0.23mm/刃、
切削時間: 8 分、
表6に、試験結果を示す。
Claims (2)
- WC基超硬合金、TiCN基サーメットおよび立方晶窒化硼素焼結体のいずれかからなる工具基体表面に、0.5〜10.0μmの平均層厚のTiとAlの複合窒化物層を少なくとも含む硬質被覆層が設けられた表面被覆切削工具において、
(a)前記TiとAlの複合窒化物層は、その組成を、
組成式:(TixAl1−x)N
で表した場合、0.10≦x≦0.35(ただし、xは原子比)を満足する平均組成を有し、
(b)前記TiとAlの複合窒化物層は、工具基体表面と平行な方向に結晶粒幅を測定した場合、平均結晶粒幅が30〜100nmである立方晶構造のTiとAlの複合窒化物からなる微細結晶粒を含み、
(c)前記TiとAlの複合窒化物層の縦断面において、工具基体表面の法線と前記立方晶構造の微細結晶粒の(001)面の法線とのなす角度を測定した場合に、そのなす角度が5以下の立方晶構造を有する(001)配向微細結晶粒が存在するとともに、前記(001)配向微細結晶粒の周囲には、工具基体表面の法線と前記立方晶構造の微細結晶粒の(001)面の法線とのなす角度が5度を超え15度以下の微細結晶粒が存在し、かつ、前記(001)配向微細結晶粒および前記なす角度が5度を超え15度以下の微細結晶粒は、(001)配向性が高い結晶配向集合組織を形成し、該結晶配向集合組織が、前記TiとAlの複合窒化物層の縦断面に占める面積割合は、10面積%以上であり、
(d)前記TiとAlの複合窒化物層をXRD測定したとき、立方晶構造の結晶粒の(200)の回折ピーク強度をIc(200)、また、六方晶構造の結晶粒の(110)の回折ピーク強度をIh(110)とした時、Ic(200)/Ih(110)≧2を満たす、
ことを特徴とする表面被覆切削工具。 - 前記(001)配向集合組織は、前記TiとAlの複合窒化物層の縦断面の300×500nmの範囲内に、少なくとも、2個以上存在することを特徴とする請求項1に記載の表面被覆切削工具。
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