JP2008115461A - Co−Fe−Zr系合金スパッタリングターゲット材およびその製造方法 - Google Patents

Co−Fe−Zr系合金スパッタリングターゲット材およびその製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】 垂直磁気記録媒体に用いられるCo−Fe−Zr系合金の軟磁性膜を成膜するためのCo−Fe−Zr系合金ターゲット材に関して、良好なスパッタリング特性を有する低透磁率のCo−Fe−Zr系合金ターゲット材およびその製造方法を提供する。
【解決手段】 原子比における組成式が(Co−Fe100−X100−(Y+Z)−Zr−M、20≦X≦70、2≦Y≦15、2≦Z≦10で表され、前記組成式のM元素が(Ti、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Si、Al、Mg)から選ばれる1種または2種以上の元素であるスパッタリングターゲット材であって、ミクロ組織におけるHCP−Coからなる相とFeを主体とする合金相とが微細に分散しているCo−Fe−Zr系合金スパッタリングターゲット材である。
【選択図】 図1

Description

本発明は、軟磁性膜を形成するためのCo−Fe−Zr系合金スパッタリングターゲット材およびその製造方法に関するものである。
近年、磁気記録技術の進歩は著しく、ドライブの小型化と大容量化のため、磁気記録媒体の高密度化の検討が盛んに行われている。しかしながら、現在、世の中に広く普及している面内磁気記録方式の磁気記録媒体でドライブの小型化と高記録密度化を同時に実現しようとすると、1ビットの記録に用いる領域が小さくなり、周囲の磁区と打ち消しあって磁力を失ってしまう。そこで、更なる高記録密度化を実現できる方式として、垂直磁気記録方式が開発され、現在、実用化に至っている。
垂直磁気記録方式とは、垂直磁気記録媒体の磁性膜を媒体面に対して磁化容易軸が垂直に配向するように形成したものであり、記録密度を上げて行ってもビット内の反磁界が小さく、記録再生特性の低下が少ない高記録密度化に適した方式である。垂直磁気記録媒体は、基板/軟磁性裏打ち層/Ru中間層/CoPtCr−SiO磁性層/保護層からなる多層構造が一般的である(例えば、非特許文献1参照)。
垂直記録媒体の軟磁性裏打ち層には優れた軟磁気特性が要求されることから、アモルファス軟磁性合金が採用されている。代表的な軟磁性裏打ち層用アモルファス合金として、Fe−Co−B合金膜(例えば、特許文献1参照)、Co−Zr−Nb合金膜(例えば、非特許文献2参照)などが既に実用化されている。しかしながら、Fe−Co−B合金膜は耐食性が低い問題があり、Co−Zr−Nb合金膜は飽和磁束密度が低い問題が指摘されている。
このため、最近では、上記合金膜の代替候補としてCo−Fe−Zr系合金膜が特に有望視されている。
一般的に、軟磁性裏打ち層の成膜にはマグネトロンスパッタリング法が用いられる。マグネトロンスパッタリング法とは、ターゲット材と呼ばれる母材の背面に永久磁石を配置し、ターゲット材の表面に磁束を漏洩させて、漏洩磁束領域にプラズマを収束し、高速成膜を可能とする方法である。マグネトロンスパッタリング法はターゲット材の表面に磁束を漏洩させることに特徴があるため、ターゲット材自身の透磁率が高い場合にはターゲット材のスパッタ表面にプラズマを収束させるのに必要な漏洩磁束を得ることが難しくなる。そこで、ターゲット材自身の透磁率を極力低減することが望まれている。
しかしながら、マグネトロンスパッタ法では、プラズマが収束する部分が集中的に侵食されるため、ごく一部しか消費されないままターゲット材を交換しなければならない。特に、Co−Fe−Zr系合金のような強磁性体からなるターゲット材では、ターゲット材の背面に設置した磁石から発生する磁束の大半がターゲット材内部に侵入し、ターゲット材の表面には僅かな磁束しか発生しないため、局部的に深く消耗し、ターゲット材の寿命が極端に短くなるという問題がある。とりわけ、膜厚が150〜200nmと極端に厚い前記垂直磁気記録媒体の軟磁性裏打ち層の形成に際しては、ターゲット材寿命が極端に短いことは深刻な問題となっており、ターゲット材の交換頻度を減らすために、出来る限りターゲット材の厚さを厚く設定しつつ十分な漏洩磁束を得るという矛盾した要求を満たさなければならない。
以上の背景に基づいたターゲット材の低透磁率化の事例として、本発明者らはFe−Co−B系合金ターゲット材の金属組織において、第二相として存在しているホウ化物相を微細に均一分散させることでターゲット材として低透磁率を実現できることを開示している(特許文献2参照)。
特開2004−030740号公報 特開2004−346423号公報 竹野入俊司 富士時報 Vol.77 No.2 2004年 p.121 D.H.Hong,S.H.Park and T.D.Lee,"Effects of CoZrNb Surface Morphology on Magnetic Properties and Grain Isolation of CoCrPt Perpendicular Recording Media",IEEE Trans.Magn.,Vol.41,No.10,P.3148−3150,Oct.,2005
前記Co−Fe−Zr系合金ターゲット材は、一般的に溶解鋳造法で製造されているが、ターゲット材の透磁率が高く、十分な漏洩磁束が得られない問題が指摘されていた。
本発明の目的は、強い漏洩磁束が得られる透磁率が低く使用効率が高いCo−Fe−Zr系合金ターゲット材およびその製造方法を提供することである。
本発明者は、Co−Fe−Zr系合金スパッタリングターゲット材の透磁率を低減するために種々の検討を行った結果、Co−Fe−Zr系合金スパッタリングターゲット材の組織をHCP−Coからなる相とFeを主体とする合金からなる相とを分散させた組織とすることにより、ターゲット材の透磁率を低減でき、強い漏洩磁束が得られることを見出し本発明に到達した。
すなわち、本発明は原子比における組成式が(Co−Fe100−X100−(Y+Z)−Zr−M、20≦X≦70、2≦Y≦15、2≦Z≦10で表され、前記組成式のM元素が(Ti、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Si、Al、Mg)から選ばれる1種または2種以上の元素であるスパッタリングターゲット材であって、ミクロ組織においてHCP−Coからなる相とFeを主体とする合金相とが微細に分散しているCo−Fe−Zr系合金スパッタリングターゲット材である。
また、本発明は、原子比における組成式が(Co−Fe100−X100−(Y+Z)−Zr−M、20≦X≦70、2≦Y≦15、2≦Z≦10で表され、前記組成式のM元素が(Ti、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Si、Al、Mg)から選ばれる1種または2種以上の元素であるスパッタリングターゲット材であって、組織におけるHCP−Coからなる主相に、Feを主体とする合金相が微細に分散しているCo−Fe−Zr系合金スパッタリングターゲット材である。
前記Co−Fe−Zr系合金スパッタリングターゲット材は、Co粉末と、Fe、ZrおよびM元素を合金化処理した合金粉末とを混合した混合粉末を加圧焼結することにより作製が可能となる。
また、前記合金粉末は、Fe、Co、ZrおよびM元素を合金化処理したものでもよい。
また、前記合金化処理は、合金溶湯の急冷凝固処理であることが好ましい。
本発明は、安定したマグネトロンスパッタリングが行える軟磁性膜形成用のCo−Fe−Zr系合金ターゲット材を提供でき、垂直磁気記録媒体のようにCo−Fe−Zr系合金の軟磁性膜を必要とする工業製品を製造する上で極めて有効な技術となる。
上述したように、本発明の最も重要な特徴は、Co−Fe−Zr系合金ターゲット材の透磁率を低減するために、そのミクロ組織を制御した点にある。すなわち、ターゲット材のミクロ組織において、HCP−Coからなる相とFeを主体とする合金相とを微細に分散するように制御する点にある。
本発明のCo−Fe−Zr系合金スパッタリングターゲット材の組織をHCP−Coからなる相と、Feを主体とする合金相とが微細に分散するように制御する理由を以下に説明する。
従来、強磁性体であるCoあるいはFeを多量に含む合金の透磁率を低減するには、非磁性元素を添加し合金化する手法が採られている。また、FeとCoの両方を含む合金の場合には、FeとCoとの合金化によって磁気モーメントが増加するのを防止するため、FeとCoとの合金化を抑制した焼結組織とすることも考えられている。
本発明者は、Co−Fe−Zr系合金ターゲットの漏洩磁束向上のため、上述の手法の適用を試みたが、透磁率を十分に低減することが出来ず、また強い漏洩磁束を得ることが出来なかった。
そこで、本発明者は更なる検討を行い、本来強磁性体であるCoに対してはターゲット材の構成元素であるZr等を合金化させずに純Co粉末とし、一方、Feに対しては積極的にターゲット材の構成元素を添加して合金化した合金粉末とし、これらを混合して焼結した組織とすることで、従来では到達しえなかった極めて低い透磁率を持ったターゲットとなることを見出し、本発明に到達したのである。
本発明は、上述した従来の手法とは全く異なる手法を採用して低い透磁率を持ったターゲットが得られたものであり、その低透磁率化の理由は、以下のように考えられる。
一般的に、多結晶体の透磁率には磁気モーメントと磁気異方性が大きく影響し、「磁気モーメント大、磁気異方性小」の場合は高透磁率になり、「磁気モーメント小、磁気異方性大」の場合は低透磁率になることが知られている。
他方、CoとFeとを含む合金相の結晶構造には、HCP(六方最密格子)、FCC(面心立方格子)、BCC(体心立方格子)があり、これらの中で最も結晶磁気異方性が大きいのはHCP相である。また、純Coは約422℃付近の結晶構造変態点を境として変態点以下ではHCP、変態点以上ではFCCとなることが知られているが、Coに他の元素を添加して合金化すると室温領域でも結晶磁気異方性が小さいFCCやBCCとなる場合がある。
本発明では、Co−Fe−Zr系合金ターゲット材のミクロ組織を、Coを他のターゲット材構成元素と合金化させずHCP−Co相として存在させることで磁気異方性を高め、さらに、Feを他の元素との合金相として存在させることでターゲット材全体の磁気モーメントを低減することにより、これらの相乗効果により低い透磁率、強い漏洩磁束を実現できたものと考えられる。
なお、本発明においてHCP−Coからなる相とは、不可避的不純物と周囲の拡散層を除いてCoからなり結晶構造はHCPからなる相のことである。HCP−Co相の結晶構造は、例えば、X線回折法によって判定できる。
また、本発明においてFeを主体とする合金相とは、原子比で50%以上のFeと、Zr、M元素から構成される合金相、あるいは原子比で50%以上のFeと、Zr、M元素、Coから構成される合金相である。
なお、本発明のCo−Fe−Zr系合金ターゲット材のミクロ組織において、HCP−Co相とFeを主体とする合金相の比率はターゲット材の化学組成によって変化する。
例えば、Coの組成比率が低い場合、HCP−Coからなる相とFeを主体とする合金相とが分散した組織となり、Coの組成比率が高い場合、HCP−Coからなる主相に、Feを主体とする合金相が分散した組織となる。いずれの場合も上述の効果が得られることは言うまでもない。
また、HCP−Coからなる相とFeを主体とする合金相とはそれぞれスパッタリング率が異なる場合があり、粗大な部分が存在するとスパッタリング成膜時に異常放電やパーティクルなどの問題が生じる場合がある。このため、それぞれを微細に分散させることにより、安定したスパッタリングが可能となる。よって、Feを主体とする合金相とHCP−Coからなる相の平均粒径は200μm以下とすることが好ましい。
また、本発明のスパッタリングターゲット材の化学組成は、原子比における組成式が(Co−Fe100−X100−(Y+Z)−Zr−M、20≦X≦70、2≦Y≦15、2≦Z≦10で表され、前記組成式のM元素が(Ti、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Si、Al、Mg)から選ばれる1種または2種以上の元素からなるものである。
CoとFeとの組成比Xを20≦X≦70としたのは、Co−Fe二元系合金膜において、Co含有量を原子比で20〜70%にすることで高い飽和磁化を持ち軟磁気特性に優れた薄膜を生成できるためである。
Zrの添加量Yを2≦Y≦15としたのは、Zrをこの範囲で添加することで、軟磁気特性に優れたアモルファス相の薄膜を生成できるためである。この理由はZrの添加量が2原子%未満であると薄膜が結晶化して、優れた軟磁気特性が得られ難く、15原子%を越えると飽和磁化が低下するためである。さらに高い飽和磁化を得るためには、Zrの添加量Yを2≦Y≦8とすることがより好ましい。
M元素(Ti、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Si、Al、Mg)から選ばれる1種または2種以上の元素の添加量Zを2≦Z≦10としたのは、M元素から選ばれる1種または2種以上の元素をこの範囲で添加することで、薄膜の磁歪を低減し、軟磁気特性を向上させる効果や、耐食性を向上させる効果があるためである。M元素の中でもNb、Taは、特に薄膜の磁歪を低減し、軟磁気特性を向上させる効果がある元素である。また、Ti、V、Cr、Mo、W、Si、Al、Mgは、特に薄膜の耐食性を向上させる効果がある元素である。
上述の本発明のターゲット材は、所定の組成となるよう調整したCo粉末とFe、ZrおよびM元素を合金化処理した合金粉末とを混合した混合粉末を加圧焼結することで得ることができる。Co粉末は上述のように室温領域ではHCPであるが、Fe、ZrやM元素との合金化が進むとFCCやBCCとなる場合があるため、純Co粉末のまま他の元素と混合して加圧焼結することで、焼結後のターゲット材の組織にCo相をHCPとして残存させることが重要である。同じく、Fe、ZrおよびM元素を合金化処理した合金粉末を加圧焼結することで、焼結後のターゲット材の組織にFeを主体とする合金相を効率よく生成することができる。
また、Fe、ZrおよびM元素からなる合金の液相温度が高く、合金粉末の製造が困難な場合は、Coの一部を含め、Fe、Co、ZrおよびM元素を合金化処理したものでもよい。これは、Coを合金粉末に含有させることによって液相温度が低下するためである。
なお、この場合でも、合金粉末に含まれるCo量はターゲット全体の10原子%程度である。
また、混合粉末の加圧焼結方法としては、ホットプレス、熱間静水圧プレス、通電加圧焼結、熱間押し出しなどの方法を適用することができる。中でも熱間静水圧プレスは加圧圧力が高く、最高温度を低く抑えて拡散層の生成を抑制しても、緻密な焼結体が得られるため、特に好ましい。
なお、加圧焼結時の最高温度は800℃以上、1200℃の以下の温度に設定することが好ましい。この理由は焼結温度が800℃を下回ると、緻密な焼結体が得られ難く、1200℃を超えると焼結中に合金粉末が溶解する場合があるためである。さらに、最高温度が高過ぎると混合粉末同士の拡散が進み過ぎて、HCP−Co相を十分に残存させづらくなるため、さらに好ましくは900℃から1100℃の範囲に設定すると良い。
また、加圧焼結時の最高圧力は20MPa以上に設定することが好ましい。その理由は最高圧力が20MPaを下回ると緻密な焼結体が得られないためである。
本発明の合金化処理としては、微細な組織を得ることができる急冷凝固処理を用いることが好ましい。なお、Co粉末も合金粉末と同様に微細な粉末を得るために急冷凝固処理を用いて作製することが好ましい。急冷凝固処理方法としては、不純物の混入が少なく、充填率が高く焼結に適した球状粉末が得られるガスアトマイズ法が好ましい。また、酸化を抑制するには、アトマイズガスとして不活性ガスであるアルゴンガスもしくは窒素ガスを用いると良い。
以下の実施例で本発明を更に詳しく説明する。
以下の実施例では合金組成は全てCo−27.6Fe−4Zr−4Nb(原子%)とした。表1に示す各粉末をArガスを用いたガスアトマイズ法によって作製した後、得られたアトマイズ粉末を60メッシュのふるいで分級した。それぞれのアトマイズ粉末を表1の組み合わせで混合粉末の組成がCo−27.6Fe−4Zr−4Nb(原子%)となるように、秤量し、混合した後、軟鋼カプセルに充填して脱気封止した。次いで、圧力122MPa、温度950℃、保持時間1時間の条件で熱間静水圧プレス法により焼結体を作製し、機械加工により直径190mm、厚さ12mmのCo−Fe−Zr系合金ターゲット材を得た。
また、溶解鋳造により同一組成のインゴットを作製した後、機械加工を施して直径190mm、厚さ12mmのCo−Fe−Zr系合金ターゲット材を得た。
上記試料1と試料4のターゲット材の端材から10mm×10mmの試験片を2個採取しバフ研磨を施した後、一つの試験片はArガスを用いたフラットミリングを施し、走査型電子顕微鏡を用いてミクロ組織観察を行った。もう一つの試験片はX線回折測定による相同定を行った。なお、X線回折測定には(株)リガク製X線回折装置RINT2500Vを使用し、線源にCoを用いて測定を行った。
図1に試料1のミクロ組織の走査型電子顕微鏡像を、図2に試料1のX線回折パターンを示す。図1から試料1(本発明例1)のミクロ組織は、薄灰色のCo相と白色のFe合金相からなることがわかる。また、図2から試料1(本発明例1)のX線回折パターンは、HCP−Co相、αFe相、その他FeZr金属間化合物に近い相をそれぞれ反映したピークを呈していることから、ミクロ組織中のCo相はHCP−Co相であり、同じくFe合金相はαFe相と金属間化合物相からなると同定できる。
また、図3に試料4のミクロ組織の走査型電子顕微鏡像を、図4に試料4のX線回折パターンを示す。図3から試料4(比較例3)のミクロ組織は典型的な溶解鋳造組織を示し、濃灰色の初晶部と薄灰色の共晶部からなることがわかる。さらに、図4に示す試料4(比較例3)のX線回折パターンは、α(Co−Fe)相とその他CoNb金属間化合物に近い相をそれぞれ反映したピークを呈していることから、ミクロ組織の初晶部はα(Co−Fe)相であり、同じく共晶部はα(Co−Fe)相と金属間化合物相とからなると同定できる。なお、α(Co−Fe)は主にCoとFeからなる固溶体でBCC構造の相である。
次に、作製した各ターゲット材の端材から長さ30mm、幅10mm、厚さ5mmの試験片を採取した。さらに東英工業(株)製直流磁気特性測定装置TRF5Aを使用してこれらの試験片の磁化曲線を測定した。得られた磁化曲線から最大透磁率を求め、表2に示した。表2から、試料1の本発明例のターゲット材が、最も低い最大透磁率を示していることがわかる。
次に、作製した各ターゲット材の漏洩磁束(Pass−Through−Flux:以下、PTFと記す)を測定し表3に示した。PTF測定はターゲット材の裏面に永久磁石を配置し、ターゲット材表面に漏洩する磁束を測定する方法で、マグネトロンスパッタ装置に近い状態の漏洩磁束を定量的に測定できる方法である。実際の測定はASTM F1761−00(Standard Test Method for Pass Through Flux of Circular Magnetic Sputtering Targets)に基づいて行い、PTFは次式より求めた。
(PTF)=100×(ターゲット材を置いた状態での磁束の強さ)÷(ターゲット材を置かない状態での磁束の強さ) (%)
PTFの測定結果を示した表3より、試料1(本発明例)のPTFは、板厚が薄い試料2(比較例1)とほぼ同等であり、さらに、板厚が同じ12mmである試料3(比較例2)、よりも高い値を示しており、上述した最大透磁率の測定結果と対応し、板厚を厚く設定しても非常に強い漏洩磁束が得られることがわかる。
以上より、HCP−Coからなる相とFeを主体とする合金相とが微細に分散したミクロ組織からなる本発明のCo−Fe−Zr系合金ターゲット材は、他の製法のターゲット材に比べ著しく低い透磁率を有し、強い漏洩磁束が得られることが確認できた。
以下の実施例では、合金組成は全てCo−27Fe−5Zr−5Ta原子%)とした。表4に示す各粉末を使用して、実施例1と同様の方法によって直径190mm、厚さ15mmのCo−Fe−Zr系合金ターゲット材を得た。また、溶解鋳造により同一組成のインゴットを作製した後、機械加工を施して直径190mm、厚さ15mmのCo−Fe−Zr系合金ターゲット材も得た。
上記試料11のターゲット材の端材から実施例1と同様に試験片を採取し、走査型電子顕微鏡を用いたミクロ組織観察およびX線回折測定による相同定を行った。なお、上記のミクロ組織観察およびX線回折測定は、実施例1と同一の方法、同一の装置を使用して実施した。
図5に試料11のミクロ組織の走査型電子顕微鏡像を、図6に試料11のX線回折パターンを示す。図5から試料11(本発明例2)のミクロ組織は、薄灰色のCo相と白色のFe合金相からなることがわかる。また、図6から試料11(本発明例2)のX線回折パターンは、HCP−Co相、αFe相、その他FeZr金属間化合物に近い相をそれぞれ反映したピークを呈していることから、ミクロ組織中のCo相はHCP−Co相であり、同じくFe合金相はαFe相と金属間化合物相からなると同定できる。
次に、作製した各ターゲット材の端材から試験片を採取し、実施例1と同一の方法で、試験片の磁化曲線を測定し、得られた磁化曲線から最大透磁率を求めた。また、作製した各ターゲット材のPTFも実施例1と同一の方法で測定した。測定した最大透磁率を表5に、PTFを表6にそれぞれ示す。
表5および表6から、HCP−Coからなる相とFeを主体とする合金相とが微細に分散したミクロ組織を有する試料11のターゲット材が最も低い最大透磁率を示しているこことがわかる。また、試料11のPTFは最も高い値を示しており、最大透磁率の測定結果と対応し、非常に強い漏洩磁束が得られることがわかる。
以下の実施例では、合金組成は全てCo−36.8Fe−5Zr−3Ta(原子%)とした。表7に示す各粉末を使用して、実施例1と同様の方法によって直径190mm、厚さ15mmのCo−Fe−Zr系合金ターゲット材を得た。また、溶解鋳造により同一組成のインゴットを作製した後、機械加工を施して直径190mm、厚さ15mmのCo−Fe−Zr系合金ターゲット材を得た。
上記試料21のターゲット材の端材から実施例1と同様に試験片を採取し、走査型電子顕微鏡を用いたミクロ組織観察およびX線回折測定による相同定を行った。なお、上記のミクロ組織観察およびX線回折測定は、実施例1と同一の方法、同一の装置を使用して実施した。
図7に試料21のミクロ組織の走査型電子顕微鏡像を、図8に試料21のX線回折パターンを示す。図7から試料21(本発明例3)のミクロ組織は、薄灰色のCo相と白色のFe合金相からなることがわかる。また、図8から試料21(本発明例3)のX線回折パターンは、HCP−Co相、αFe相、その他FeZr金属間化合物に近い相をそれぞれ反映したピークを呈していることから、ミクロ組織中のCo相はHCP−Co相であり、同じくFe合金相はαFe相と金属間化合物相からなると同定できる。
次に、作製した各ターゲット材の端材から試験片を採取し、実施例1と同一の方法で、試験片の磁化曲線を測定し、得られた磁化曲線から最大透磁率を求めた。また、作製した各ターゲット材のPTFも実施例1と同一の方法で測定した。測定した最大透磁率を表8に、PTFを表9にそれぞれ示す。
表7および表8から、HCP−Coからなる相とFeを主体とする合金相とが微細に分散したミクロ組織を有する試料21のターゲット材が最も低い最大透磁率を示しているこことがわかる。また、試料21のPTFも比較的高い値を示しており、最大透磁率の測定結果と対応し、非常に強い漏洩磁束が得られることがわかる。
以下の実施例では、合金組成は全てFe−27.6Co−5Zr−3Ta(原子%)とした。表10に示す各粉末を使用して、Co粉末として溶解粉砕Co粉末を使用した以外は、実施例1と同様の方法によって直径190mm、厚さ15mmのCo−Fe−Zr系合金ターゲット材を得た。また、溶解鋳造により同一組成のインゴットを作製した後、機械加工を施して直径190mm、厚さ15mmのCo−Fe−Zr系合金ターゲット材を得た。
上記試料31、33のターゲット材の端材から実施例1と同様に試験片を採取し、走査型電子顕微鏡を用いたミクロ組織観察およびX線回折測定による相同定を行った。なお、上記のミクロ組織観察およびX線回折測定は、実施例1と同一の方法、同一の装置を使用して実施した。
図9に試料31のミクロ組織の走査型電子顕微鏡像を、図10に試料31のX線回折パターンを示す。図9から試料31(本発明例4)のミクロ組織は、薄灰色のCo相と白色のFe合金相からなることがわかる。また、図10から試料31(本発明例4)のX線回折パターンは、HCP−Co相、αFe相、その他FeZr金属間化合物に近い相をそれぞれ反映したピークを呈していることが確認された。また、試験片をX線マイクロアナライザー(EPMA:Electron Probe Micro−Analyzer)で確認したところ、Co相の存在が確認されたことから、ミクロ組織中のCo相はHCP−Co相であり、同じくFe合金相はαFe相と金属間化合物相からなると同定できる。
また、図11に試料33のミクロ組織の走査型電子顕微鏡像を、図12に試料33のX線回折パターンを示す。図11から試料33(比較例9)のミクロ組織は、典型的な溶解鋳造組織を示し、薄灰色の初晶部と白色の共晶部からなることがわかる。さらに、図12に示す試料33(比較例9)のX線回折パターンは、α(Co−Fe)相とその他FeZr金属間化合物に近い相をそれぞれ反映したピークを呈していることから、ミクロ組織の初晶部はα(Co−Fe)相であり、同じく共晶部はα(Co−Fe)相と金属間化合物相とからなると同定できる。
次に、作製した各ターゲット材の端材から試験片を採取し、実施例1と同一の方法で、試験片の磁化曲線を測定し、得られた磁化曲線から最大透磁率を求めた。また、作製した各ターゲット材のPTFも実施例1と同一の方法で測定した。測定した最大透磁率を表11に、PTFを表12にそれぞれ示す。
表11および表12から、HCP−Coからなる相とFeを主体とする合金相とが微細に分散したミクロ組織を有する試料31のターゲット材が最も低い最大透磁率を示していることがわかる。また、試料31のPTFも比較的高い値を示しており、最大透磁率の測定結果と対応し、非常に強い漏洩磁束が得られることがわかる。
本発明では、Co−Fe−Zr系合金ターゲット材のミクロ組織をHCP−Coからなる相とFeを主体とする合金からなる相とを分散させた組織にすることにより、透磁率が低く、漏洩磁束が強いCo−Fe−Zr系合金ターゲット材が得られる。この結果、軟磁性膜形成に際して、安定したマグネトロンスパッタリングを行うことができる。
実施例における試料1のミクロ組織の走査型電子顕微鏡像である。 実施例における試料1のX線回折パターンである。 実施例における試料4のミクロ組織の走査型電子顕微鏡像である。 実施例における試料4のX線回折パターンである。 実施例における試料11のミクロ組織の走査型電子顕微鏡像である。 実施例における試料11のX線回折パターンである。 実施例における試料21のミクロ組織の走査型電子顕微鏡像である。 実施例における試料21のX線回折パターンである。 実施例における試料31のミクロ組織の走査型電子顕微鏡像である。 実施例における試料31のX線回折パターンである。 実施例における試料33のミクロ組織の走査型電子顕微鏡像である。 実施例における試料33のX線回折パターンである。

Claims (6)

  1. 原子比における組成式が(Co−Fe100−X100−(Y+Z)−Zr−M、20≦X≦70、2≦Y≦15、2≦Z≦10で表され、前記組成式のM元素が(Ti、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Si、Al、Mg)から選ばれる1種または2種以上の元素であるスパッタリングターゲット材であって、ミクロ組織においてHCP−Coからなる相とFeを主体とする合金相とが微細に分散していることを特徴とするCo−Fe−Zr系合金スパッタリングターゲット材。
  2. 原子比における組成式が(Co−Fe100−X100−(Y+Z)−Zr−M、20≦X≦70、2≦Y≦15、2≦Z≦10で表され、前記組成式のM元素が(Ti、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Si、Al、Mg)から選ばれる1種または2種以上の元素であるスパッタリングターゲット材であって、ミクロ組織においてHCP−Coからなる主相中にFeを主体とする合金相が微細に分散していることを特徴とするCo−Fe−Zr系合金スパッタリングターゲット材。
  3. 前記HCP−Coからなる相および前記Feを主体とする合金相は平均粒径が200μm以下であることを特徴とする請求項1または2に記載のCo−Fe−Zr系合金スパッタリングターゲット材。
  4. 請求項1または2に記載のCo−Fe−Zr系合金スパッタリングターゲット材の製造方法において、Co粉末と、Fe、ZrおよびM元素を合金化処理した合金粉末とを混合した混合粉末を加圧焼結することを特徴とするCo−Fe−Zr系合金スパッタリングターゲット材の製造方法。
  5. 請求項1または2に記載のCo−Fe−Zr系合金スパッタリングターゲット材の製造方法において、Co粉末と、Fe、Co、ZrおよびM元素を合金化処理した合金粉末とを混合した混合粉末を加圧焼結することを特徴とするCo−Fe−Zr系合金スパッタリングターゲット材の製造方法。
  6. 前記合金化処理は、合金溶湯の急冷凝固処理であることを特徴とする請求項4または5に記載のCo−Fe−Zr系合金スパッタリングターゲット材の製造方法。
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