JP2008111010A - 液晶ポリエステル樹脂組成物及び電磁波シールド用部材 - Google Patents

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Ayako Sasamoto
綾子 笹本
Sadanobu Iwase
定信 岩瀬
Koji Ichikawa
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Abstract

【課題】高度の電磁波シールド効果と電気絶縁性を有する電磁波シールド材用組成物及び当該組成物を成形してなる電磁波シールド材を提供する。
【解決手段】[1](A)磁性金属等からなるフィラーを液晶ポリエステル(B1)で被覆してなる複合フィラー
(B)液晶ポリエステル(B2)
を含有してなる液晶ポリエステル樹脂組成物であって、前記液晶ポリエステル(B1)の流動開始温度をT1[℃]、前記液晶ポリエステル(B2)の流動開始温度をT2[℃]としたとき、T1>T2の関係を満足する液晶ポリエステル樹脂組成物。
[2]前記液晶ポリエステル樹脂組成物を成形してなる成形品。
【選択図】なし

Description

本発明は、電磁波シールド部材に関する。
近年、携帯電話の爆発的な普及やパーソナルコンピュータ等のOA機器の高性能化により、このような電子機器の動作周波数の高周波数化が進んでいる。一方、かかる高周波の動作周波数で作動する電子機器は、該電子機器にあるプロセッサや通信ケーブルなどの電子部品から高周波の電磁波が放射され、該電磁波による電子機器の誤作動が起きるといった問題が生じている。また、該電磁波は、他の電子機器に対して誤作動を引き起こすといった点や、人体への影響も懸念され、電磁波に対する対策は不可欠なものとなってきている。
従来、電磁波に対する対策としては、電磁波シールド部材として金属ケースなどを用い、前記電子部品を覆うことで、電磁波の放射を抑制する電磁波シールド方法がとられている。しかしながら、金属ケースは小型化あるいは軽量化が困難であり、電子機器の小型化、携帯性に対応できない。この問題を解決する電磁波シールド材として、特許文献1には特定のかさ密度/真密度比を有する鉄を母金属とする軟磁性金属扁平粉末を樹脂バインダーに混合した組成物が開示されているが、該組成物も導電性である鉄粉末を用いていることから前記金属ケースと同様に、絶縁性を必要とする電子部品(例えば、電子機器の内部素子−端子間など)に対する電磁波シールド部材としては不適である。
このように、従来の電磁波シールド部材に替わって、小型部品を成形できる成形加工性、軽量性に優れる樹脂材料を用い、且つ電気絶縁性を有する電磁波シールド部材が求められていた。
特開2003−209010号公報(特許請求の範囲)
本発明の目的は、高度の電磁波シールド効果と電気絶縁性を有する電磁波シールド部材用組成物を提供することにあり、特に成型加工性、軽量性が期待できる樹脂組成物を提供することにある。
本発明者は、上記課題を解決できる電磁波シールド材を見出すべく、鋭意検討を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は、
[1](A)磁性金属、磁性金属の酸化物(磁性金属酸化物)及び磁性金属をイオンとして含む錯体(磁性金属錯体)よりなる群から選ばれる少なくとも1種からなるフィラーを、液晶ポリエステル(B1)で被覆してなる複合フィラー
(B)液晶ポリエステル(B2)
を含有してなる液晶ポリエステル樹脂組成物であって、前記液晶ポリエステル(B1)の流動開始温度をT1[℃]、前記液晶ポリエステル(B2)の流動開始温度をT2[℃]としたとき、T1>T2の関係を満足することを特徴とする液晶ポリエステル樹脂組成物
を提供するものである。
さらに、本発明は上記[1]に係る好適な実施様態として、下記の[2]〜[9]を提供する。
[2]成分(A)が、比透磁率が100以上の磁性金属、比透磁率が100以上の磁性金属酸化物及び比透磁率が100以上の磁性金属錯体よりなる群から選ばれる少なくとも1種からなるフィラーを液晶ポリエステル(B1)で被覆してなる複合フィラーであることを特徴とする[1]の液晶ポリエステル樹脂組成物
[3]成分(A)が、鉄、ニッケル、鉄酸化物、ニッケル酸化物、鉄錯体及びニッケル錯体よりなる群から選ばれる少なくとも1種からなるフィラーを液晶ポリエステル(B1)で被覆してなる複合フィラーであることを特徴とする[1]の液晶ポリエステル樹脂組成物
[4]液晶ポリエステル(B1)の流動開始温度が255℃以上である[1]〜[3]いずれかの液晶ポリエステル樹脂組成物
[5]液晶ポリエステル(B2)の流動開始温度が250℃〜400℃の範囲である[1]〜[4]いずれかの液晶ポリエステル樹脂組成物
[6]液晶ポリエステル樹脂組成物の総量を100容量%としたとき、磁性金属、磁性金属の酸化物及び磁性金属をイオンとして含む錯体からなるフィラーの合計が、15容量%以上40容量%以下である[1]〜[5]いずれかの液晶ポリエステル樹脂組成物
[7]液晶ポリエステル(B1)及び液晶ポリエステル(B2)が、下記の(B−I)、(B−II)又は(B−III)の液晶ポリエステルである[1]〜[6]いずれかの液晶ポリエステル樹脂組成物
(B−I)下記(i)で表される繰り返し単位からなる液晶ポリエステル
(B−II)下記(ii)および(iii)で表される繰り返し単位からなる液晶ポリエステル
(B−III)下記の(i)、(ii)および(iii)で表される繰り返し単位からなる液晶ポリエステル
Figure 2008111010
(式中、Ar1は、1,4−フェニレン基、2,6−ナフタレンジイル基又は4,4’−ビフェニリレン基を表す。Ar2、Ar3は、それぞれ独立に、1,4−フェニレン基、2,6−ナフタレンジイル基、1,3−フェニレン基又は4,4’−ビフェニリレン基を表す。また、Ar1、Ar2、Ar3は、その芳香環上の水素原子の一部または全部が、ハロゲン原子、アルキル基、アリール基に置換されていてもよい。)
[8]液晶ポリエステル(B1)及び液晶ポリエステル(B2)が、前記(B−III)の液晶ポリエステルである[7]の液晶ポリエステル樹脂組成物
[9]成分(A)が、液晶ポリエステル(B1)の流動開始温度T1[℃]を下回る流動開始温度T0[℃](T0<T1)の液晶ポリエステル(B0)にて、磁性金属、磁性金属の酸化物及び磁性金属をイオンとして含む錯体よりなる群から選ばれる少なくとも1種からなるフィラーを被覆し、さらに加熱処理を行うことで、該フィラーを被覆した液晶ポリエステル(B0)を液晶ポリエステル(B1)に転化させて得られた複合フィラーであることを特徴とする[1]〜[8]いずれかの液晶ポリエステル樹脂組成物
また、本発明は上記いずれかの液晶ポリエステル樹脂組成物を用いてなる、下記[10]、[11]を提供する。
[10]前記いずれかの液晶ポリエステル樹脂組成物を、T1[℃]を下回る温度で成形して得られる成形品成形して得られる成形品
[11]体積固有抵抗が108Ωm以上であり、かつ、周波数1GHzの電磁波シールド効果が10dB以上である[10]の成形品
本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物は成形性に優れ、当該液晶ポリエステル樹脂組成物を成形して得られる成形品は、電磁波シールド性、電気絶縁性に優れ、電子機器に係る部材等に有用である。
以下、本発明の好適な実施形態について説明する。
〈(A)複合フィラー〉
まず、成分(A)複合フィラー(以下、「複合フィラー(A)」と呼ぶ)について説明する。
本発明で用いる複合フィラー(A)は、磁性金属、磁性金属の酸化物(磁性金属酸化物)及び磁性金属をイオンとして含む錯体(磁性金属錯体)よりなる群から選ばれる少なくとも1種からなるフィラー(以下、これらを総称して「含磁性金属フィラー」と呼ぶことがある)を特定の流動開始温度の液晶ポリエステルで被覆されてなる複合フィラーである。
ここで、磁性金属とは、(財)日本金属学発行、長崎誠三編、「金属用語集」(昭和48年6月20日、丸善)112頁に記載の、「透磁率が高く、抗磁力の小さい」軟磁性金属を意味し、該透磁率としては、真空の透磁率で除した比透磁率で表して、100以上の磁性金属が好ましく、200以上の磁性金属がさらに好ましい。
ここで、比透磁率100以上の磁性金属は、例えば理化年表(理工図書出版)や難波典之,金子文隆共著「電気材料−誘電材料・磁性材料−」208頁に記載された比透磁率から100以上の磁性金属を選択することもできる。好ましくは、コバルト、鉄又はニッケルを挙げることができ、特に好ましくは、鉄又はニッケルである。なお、本発明の磁性金属とは、難磁性金属を含有する合金も包含する概念であり、該合金を具体的に例示すると、Fe−Si系合金(珪素鋼)、Fe−Al系合金(アルパーム)、Fe−Ni系合金(パーマロイ)、Fe−Co系合金、Fe−V系合金(パーメンジュール)Fe−Cr系合金、Fe−Si系合金(ケイ素鋼)、Fe−Al−Si系合金、Fe−Cr−Al系合金、Fe−Cu−Nb−Si−B系合金、ミューメタルと呼ばれるFe−Ni−Cr系合金が挙げられ、これらの合金も比透磁率が100以上であるものが好ましく用いられる。
前記磁性金属酸化物としては、典型的には鉄酸化物を含むフェライトと総称される酸化物が好ましく、具体的に例示すると、マンガン亜鉛フェライト、ニッケル亜鉛フェライトが挙げられる。
さらに、前記磁性金属錯体としては、例えばカルボニル鉄が挙げられる。
かかる磁性金属酸化物あるいは磁性金属錯体も比透磁率が100以上であるものが好ましく用いられる。
前記含磁性金属フィラーを液晶ポリエステル(B1)で被覆することで、複合フィラー(A)が得られる。ここで、液晶ポリエステルは、溶融時に光学異方性を示し、450℃以下の温度で異方性溶融体を形成する(液晶性を有する)ポリエステルであり、本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物においては、それを成形して得られた成形体の連続相となり得る液晶ポリエステル(B2)と比して、該液晶ポリエステル(B1)の流動開始温度をT1[℃]、該液晶ポリエステル(B2)の流動開始温度をT2[℃]としたとき、T1>T2となることように、2種の液晶ポリエステルを選択する。ここで、流動開始温度とは、内径1mm、長さ10mmのノズルを持つ毛細管レオメータを用い、100kg/cm2の荷重下において、4℃/分の昇温速度で加熱溶融体をノズルから押し出すときに、溶融粘度が48000ポイズを示す温度であり、当該分野で周知の液晶性ポリマーの分子量を表す指標である(小出直之編、「液晶性ポリマー合成・成形・応用−」、95〜105頁、シーエムシー、1987年6月5日発行を参照)。また、液晶ポリエステル分子鎖を剛直にする繰り返し単位を多く含有すると、流動開始温度を向上させることが可能であり、このような液晶ポリエステルにおいて、好適な液晶ポリエステルを構成する繰り返し単位については後述する。
また、複合フィラー(A)としては、前記含磁性金属フィラーの表面積に対して、液晶ポリエステル(B1)の被覆量が100面積%であることを必ずしも必要せず、含磁性金属フィラー同士が成形体中で接触することを妨げる程度であればよい。好ましくは前記含磁性金属フィラーの総表面積に対して、液晶ポリエステル(B1)の被覆量が1面積%以上であり、5面積%以上であると、さらに好ましく、10面積%であると、より好ましい。該被覆量は、複合フィラー(A)を適当な導電性物質で表面処理した後、走査電子顕微鏡(SEM)を用いて、数十個乃至数百個の外観観察を行うことで概算することができる。
前記の流動開始温度T1[℃]と流動開始温度T2[℃]は、前記の式を満足すればよいが、T1としては255℃以上であると好ましく、285℃以上であるとより好ましく、315℃以上であるとさらに好ましい。T1が前記の範囲である液晶ポリエステル(B1)を用いた複合フィラー(A)は本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物から成形体を得る際に塑性変形を生じて、複合フィラー(A)から液晶ポリエステル(B1)が剥離されたり、成形に係る熱処理で溶融剥離する虞がないため好ましい。
一方、T2としては250〜400℃の範囲であると好ましく、280〜370℃の範囲であるとより好ましく、310〜365℃の範囲であるとさらに好ましい。液晶ポリエステル(B2)は、本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物から成形体を得たとき連続相となるものであり、該成形体の実用的な耐熱性を維持できる観点と、該成形体を成形する際の加工性の観点を併せると、前記の範囲が好ましい。
なお、(T1−T2)で表される温度差が5℃以上であると好ましく、30℃以上であるとより好ましく、60℃以上であるとさらに好ましい。(T1−T2)が、この範囲であると前記成形体を得る際の成形時において、複合フィラー(A)にある被覆された液晶ポリエステル(B1)が充分に保持され、得られる成形体の絶縁性が良好となるため好ましい。
本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物は、該組成物の総量を100容量%としたときに、複合フィラー(A)中にある含磁性金属フィラーの総量が、15体積%以上40体積%以下が好ましく、18体積%以上30体積%以下がさらに好ましく、20体積%以上26体積%以下が特に好ましい。
含磁性金属フィラーの含有量を前記の範囲にすると、成形性を維持したまま、高水準の電気絶縁性を有する成形体を得ることができる。
〈液晶ポリエステル(B1)および液晶ポリエステル(B2)〉
本発明に適用する液晶ポリエステル(B1)および液晶ポリエステル(B2)について説明する。かかる液晶ポリエステルは、前記の液晶性を有し、さらに流動開始温度によって選択されるものであるが、得られる成形体が高度の耐熱性を実現するためには、芳香族液晶ポリエステルであると好ましく、具体的には、下記の(B−I)、(B−II)又は(B−III)の液晶ポリエステルが例示される。
(B−I)下記(i)で表される繰り返し単位からなる液晶ポリエステル
(B−II)下記(ii)および(iii)で表される繰り返し単位からなる液晶ポリエステル
(B−III)下記の(i)、(ii)および(iii)で表される繰り返し単位からなる液晶ポリエステル

Figure 2008111010
(式中、Ar1は、1,4−フェニレン基、2,6−ナフタレンジイル基又は4,4’−ビフェニリレン基を表す。Ar2、Ar3は、それぞれ独立に、1,4−フェニレン基、2,6−ナフタレンジイル基、1,3−フェニレン基又は4,4’−ビフェニリレン基を表す。また、Ar1、Ar2、Ar3は、その芳香環上の水素原子の一部または全部が、ハロゲン原子、アルキル基、アリール基に置換されていてもよい。)
本発明に適用する液晶ポリエステル(B1)と液晶ポリエステル(B2)は流動開始温度が前記の式を満足することが必要であり、該流動開始温度の制御の容易さといった観点から、前記(B−III)に示す芳香族ヒドロキシカルボン酸から誘導される繰り返し単位(i)、芳香族ジカルボン酸から誘導される繰り返し単位(ii)および芳香族ジオールから誘導される繰り返し単位(iii)を有する液晶ポリエステルが好ましい。特に、前記(i)において、Ar1が1,4−フェニレンである繰り返し単位は、液晶ポリエステルの高分子鎖を剛直にし、より高温の流動開始温度を有し、機械強度等の諸物性においてバランスの取れた液晶ポリエステルとなり得る。
とりわけ好適な液晶ポリエステルは、(i)、(ii)及び(iii)の合計を100モル%としたとき、(i)で表される芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する構造単位の合計が30〜80モル%であり、(ii)で表される芳香族ジカルボン酸に由来する構造単位の合計が10〜30モル%であり、(iii)で示される芳香族ジオールに由来する構造単位の合計が10〜35モル%である。なお、(ii)で表される繰り返し単位の割合と(iii)で表される繰り返し単位の共重合比は実質的に等しいものであると、ポリエステルを重合する際に、エステル結合を形成し得るカルボキシル基とヒドロキシ基の数が同等とであることから、液晶ポリエステルの末端に反応基が残存するものとなり得る。このような構造を有する液晶ポリエステルは末端の反応基の反応性を制御することで高分子量化が図れ、前記のように高分子量化と流動開始温度の高温化とがほぼ相関することから、すなわち分子量の制御によって流動開始温度を制御することができる。
なお、液晶ポリエステルの重合の容易さからは、該液晶ポリエステルを誘導する芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジカルボン酸および芳香族ジオールを後述のエステル形成性誘導体にすることが好ましく、詳細は後述する。
ここで、前記芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する繰り返し単位が30モル%未満の場合や、前記芳香族ジカルボン酸に由来する繰り返し単位及び前記芳香族ジカルボン酸に由来する繰り返し単位が35モル%を超える場合などは、得られる樹脂が液晶性を発現しにくくなる傾向にある。
一方、前記芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する繰り返し単位が80モル%を超える場合や、前記芳香族ジカルボン酸に由来する繰り返し単位および前記芳香族ジカルボン酸に由来する繰り返し単位が10モル%未満の場合などは、得られる液晶ポリエステルが溶融しにくくなり、加工性が低下する傾向にある。
さらに、前記芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する構造単位は、40〜70モル%であると、より好ましく、45〜65モル%であると、とりわけ好ましい。
一方、前記芳香族ジカルボン酸に由来する構造単位及び前記芳香族ジオールに由来する構造単位は、それぞれ15〜30モル%であると、より好ましく、それぞれ17.5〜27.5モル%であると、とりわけ好ましい。
式(i)で表される構造単位を形成するモノマーとしては、p−ヒドロキシ安息香酸、2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸又は4−(4−ヒドロキシフェニル)安息香酸が挙げられ、式(ii)で表される構造単位を形成するモノマーとしては、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレン−2,6−ジカルボン酸又はビフェニル−4,4’−ジカルボン酸が挙げられ、式(iii)で表される構造単位を形成するモノマーとしては、ハイドロキノン、2,6−ナフトール、レゾルシン又は4,4’−ジヒドロキシビフェニルが挙げられる。さらに、これらのエステル形成性誘導体にして用いてもよい。
前記のように、(i)、(ii)または(iii)で表される構造単位は、いずれも芳香環(ベンゼン環またはナフタレン環)に置換基を有していても良く、これらの置換基を例示すると、ハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子およびヨウ素原子が挙げられ、炭素数1〜10のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基等で代表されるアルキル基であり、これらは直鎖でも分岐していもよく、脂環基でもよい。アリール基としては、例えばフェニル基、ナフチル基等で代表される炭素数6〜20のアリール基が挙げられる。
前記エステル形成性誘導体について説明する。該エステル形成性誘導体とは、エステル生成反応を促進するような基を有するものであり、具体的に例示すると、分子内のカルボキシル基を有する化合物の場合、該カルボキシル基を酸ハロゲン化物、酸無水物に転換してエステル形成性を向上するか、エステル交換反応によりエステル結合を形成しやすい低級アルコールとのエステル基または酸無水物基に転換したものを挙げることができる。分子内にヒドロキシ基を有する化合物の場合、該ヒドロキシ基を低級カルボン酸エステル基に転換することでエステル形成性を向上させることができる。
このようなエステル形成性誘導体を用いた液晶ポリエステルの製造方法において特に好適な製造方法としては、芳香族ヒドロキシカルボン酸および芳香族ジオールのヒドロキシ基を低級カルボン酸エステル基に転換したエステル形成性誘導体を用いた製造方法であり、低級カルボン酸基としては、アシル基が特に好ましい。アシル化は、通常、ヒドロキシ基を有する化合物を、無水酢酸と反応させることで達成できる。これらの、アシル化によるエステル形成性誘導体は、脱酢酸重縮合により重合することができ、容易にポリエステルを製造することができる。
前記の液晶ポリエステル製造方法としては、例えば、特開2002−146003号公報に記載の方法等の、公知の方法が適用できる。すなわち、前記の、(i)、(ii)および(iii)で表される構造単位に対応するモノマーをアシル化、好ましくは無水酢酸でアシル化してエステル形成性誘導体を製造した後、該エステル形成性誘導体を溶融重合せしめ、比較的低分子量の芳香族液晶ポリエステル(以下、「プレポリマー」と略記する)を得、次いで、このプレポリマーを粉末とし、加熱することにより固相重合する方法が挙げられる。このような固相重合においては、重合がより進行して、高分子量化が可能であり、すなわち該固相重合の条件(反応温度、反応時間)によって、流動開始温度を制御することが容易に達成される。
前記に例示した繰り返し単位を有し、好適な流動開始温度を有する液晶ポリエステル(B1)を得るためには、固相重合に反応温度を200〜400℃、好ましくは240〜320℃にし、反応時間を1〜24時間、好ましくは3〜10時間の範囲が選ばれ、液晶ポリエステル(B2)を得るためには、固相重合に反応温度を200〜400℃、好ましくは240〜320℃にし、反応時間を1〜24時間、好ましくは3〜10時間の範囲が選ばれる。
かくして、本発明に適用する液晶ポリエステル(B1)、液晶ポリエステル(B2)が得られる。なお、液晶ポリエステル(B1)を前記含磁性金属フィラーに被覆する手法としては、液晶ポリエステル(B1)を細粒化して、該含磁性金属フィラーとともに造粒する方法が挙げられるが、該含磁性金属フィラーの全表面積に対する、液晶ポリエステル(B1)の被覆割合を向上させる手法として、予め、低流動開始温度T0[℃]の液晶ポリエステル(B0)を製造しておき、該液晶ポリエステル(B0)を該含磁性金属フィラーに被覆した後、この含磁性金属フィラー表面上で、液晶ポリエステル(B0)の分子量を向上させることで、複合フィラー(A)を得る方法が、操作がより簡便である面から好ましい。
流動開始温度T0[℃]の液晶ポリエステル(B0)としては、液晶ポリエステル(B2)の流動開始温度T2[℃]と対比して、T0<T2の関係を満足すると好ましい。液晶ポリエステル(B2)は後述する成形に係る実用的な温度範囲で溶融するものであり、それより低温の流動開始温度T0[℃]の液晶ポリエステル(B0)はさらに溶融流動性に優れ、前記含磁性金属フィラーの表面の被覆が容易である。より具体的には、液晶ポリエステル(B0)として、前記液晶ポリエステルの製造方法にて示したプレポリマーを用いるとよい。該プレポリマーは固相重合前の低分子量の液晶ポリエステルであることから、溶融流動性に優れ、該含磁性金属フィラーを被覆した後、前記固相重合に係る液晶ポリエステル(B1)の製造方法として示した重合条件をそのまま適用することによって、該含磁性金属フィラーの表面に被覆された液晶ポリエステル(B0)が液晶ポリエステル(B1)に転化されて、複合フィラー(A)を得ることを可能とする。
また、低流動開始温度T0[℃]の液晶ポリエステル(B0)は、より低温で溶融樹脂になり得るものであるから、予め液晶ポリエステル(B0)を溶融して溶融樹脂を得て、該溶融樹脂に前記含磁性金属フィラーを投入、混合して液晶ポリエステル(B0)で被覆された複合フィラー(A)の前駆体を得るか、液晶ポリエステル(B0)と該含磁性金属フィラーをともに溶融造粒して液晶ポリエステル(B0)で被覆された複合フィラー(A)の前駆体を得ることができる。
このようにして得られた複合フィラー(A)の前駆体を加熱処理することで、被覆された液晶ポリエステル(B0)の流動開始温度を、T1[℃]にまで上昇させて、複合フィラー(A)を得ることができる。かかる加熱処理も前記の固相重合で液晶ポリエステル(B1)を得る条件と同等の加熱処理を行えば、容易に複合フィラー(A)を製造することができる。
あるいは、液晶ポリエステル(B0)として前記プレポリマーを予め製造しておき、該プレポリマーと前記含磁性金属フィラーを一緒に溶融押出機を用いて、300〜400℃程度の温度で押出成形することによっても、該液晶ポリエステル(B0)が該フィラー前駆体に被覆されながら、液晶ポリエステル(B1)に転化するので、複合フィラー(A)を容易に得ることができる。処理時間の短縮化を考慮すると、このように押出機を用いて複合フィラー(A)を製造することが好ましい。
〈その他の添加物〉
本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物は、前記複合フィラー(A)と液晶ポリエステル(B2)を含むものであるが、その他の諸物性を向上させる目的で、複合フィラー(A)以外の無機充填剤を配合しても良い。無機充填剤としては、ガラス繊維、アスベスト繊維、シリカ繊維、アスベスト繊維、シリカアルミナ繊維などがあげられるが、ガラス繊維が好適に用いられる。
〈液晶ポリステル樹脂組成物の調製方法〉
本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物の調製方法は、種々の慣用の方法によって製造することができる。一般的には前記複合フィラー(A)および前記液晶ポリエステル(B2)、さらに、必要に応じて無機充填剤等の成分をヘンシェルミキサーやタンブラー等を用いて混合しても良いし、押出機で、前記複合フィラー(A)と液晶ポリエステル(B2)を予め加熱溶融させてから、必要に応じて無機充填剤等を投入して混練し、ペレットにしてもよい。また、前記複合フィラー(A)および前記液晶ポリエステル(B2)、さらに、必要に応じて無機充填剤等をヘンシェルミキサーやタンブラー等を用いて、予め混合し、混合物を得た後、さらに、当該混合物を、押出機を用いて溶融混練し、ペレットとしてもよい。なお、前記に例示した液晶ポリエステル樹脂組成物を調製する際には、複合フィラーにある液晶ポリエステル(B1)が溶融して、複合フィラーから剥離するのを抑制するため、混合または溶融混練の際には、液晶ポリエステル(B1)の流動開始温度T1[℃]を下回る温度にて行うことが好ましい。
〈成形方法〉
本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物に係る成形方法は特に制限はない。射出成形、押出成形、トランスファー成形、ブロー成形、プレス成形、射出プレス成形、押出射出成形等、熱可塑性樹脂の分野で汎用の種々の成形法によって各種の形状へと成形することができる。また、これらの成形法を複数組み合わせてもよい。当業者であれば、目的とする成形品形状に応じて、好ましい成形方法及び成形条件を選択することができる。なお、かかる成形においても、前記の液晶ポリステル樹脂組成物の調製と同様の理由で、成形温度は、流動開始温度T1[℃]を下回る温度にて行うことが好ましい。
本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物は、その成形方法を最適化することで、得られる成形品は電子部品における電磁波シールド部材として好適な成形品を得ることができる。具体的には、電気絶縁性を体積固有抵抗で表すと、108Ωm以上であり、且つ電磁波シールド性として、周波数1GHzの高周波に対するシールド効果で表すと、10dB以上の成形品(電磁波シールド部材)を得ることができる。
以下、実施例によって本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
[電磁波シールド値測定方法]
アドバンテスト法にて、周波数1GHzでの電磁波シールド値を測定した。
[体積固有抵抗測定方法]
東亜電波工業株式会社製 SM-10E型 超絶縁計にて、体積固有抵抗を求めた。
製造例1
攪拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計及び還流冷却器を備えた反応器に、p−ヒドロキシ安息香酸828.7g(6.0モル)、4,4’−ジヒドロキシビフェニル372.4g(2.0モル)、テレフタル酸249.2g(1.5モル)、イソフタル酸83.1g(0.5モル)、無水酢酸1223.0(11.0モル)および触媒として1−メチルイミダゾール0.16gを添加し、室温で15分間攪拌した後、攪拌しながら昇温した。内温が145℃となったところで、同温度を保持したまま1時間攪拌した。
次に、留出する副生酢酸、未反応の無水酢酸を留去しながら、145℃から320℃まで3時間かけて昇温した。同温度で40分間保温して液晶ポリエステルを得た。得られた液晶ポリエステルを室温に冷却し、粉砕機で粉砕して、液晶ポリエステル1を粉末(粒子径は約0.1mm〜約1mm)として得た。
この粉末(液晶ポリエステル)についてフローテスター(CFT−500型 島津製作所社製)を用いて、流動開始温度を測定したところ、260℃であった。
得られた粉末を25℃から250℃まで1時間かけて昇温したのち、同温度から300℃まで8時間かけて昇温し、次いで同温度で5時間保温して固相重合させた。その後、固相重合した後の粉末を冷却して液晶ポリエステル2を得た。得られた液晶ポリエステルの流動開始温度は325℃であった。
調製例1
パーマロイ(三菱マテリアル製T3粉、Ni:79〜80重量%、Fe:19〜20%、少量のMoを含有)と、液晶ポリエステルの粉末1とを、パーマロイ/液晶ポリエステルの粉末1=50容量%/50容量%となるように混合して、二軸押出機(IKEGAI社製 PCM30 HS)を用いて、シリンダー温度340℃で造粒し、被覆パーマロイ前駆体を得た。得られた被覆パーマロイ前駆体を、25℃から250℃まで1時間かけて昇温したのち、同温度から300℃まで8時間かけて昇温し、次いで同温度で8時間保温して固相重合させた。その後、固相重合後、冷却して被覆パーマロイを得た。得られた被覆パーマロイ表面にある液晶ポリエステル(B1)の流動開始温度は400℃以上であった。
実施例1
調製例1で得られた被覆パーマロイと、液晶ポリエステルの粉末2とを被覆パーマロイ/液晶ポリエステルの粉末2=50容量%/50容量%になるように混合し、二軸押出機(IKEGAI社製 PCM30 HS)を用いて、シリンダー温度340℃で造粒し、ペレット1を得た。得られたペレット1は日精樹脂工業(株)製のPS−40−E5AE型射出成形機を用いて、シリンダ温度を350℃、金型温度を130℃で射出成形を行い、64mm×64mm×1mmの寸法を有する略直方体の成形品1を得た。得られた成形品1の電磁波シールド値、体積固有抵抗を測定した結果、それぞれ21dB、3.01×1010Ωmであった。
比較例1
調製例1で用いたパーマロイと、液晶ポリエステルの粉末2とを、パーマロイ/液晶ポリエステルの粉末2=25容量%/75容量%となるように混合して、二軸押出機(IKEGAI社製 PCM30 HS)を用いて、シリンダー温度340℃で造粒し、ペレット2を得た。得られたペレット2は日精樹脂工業(株)製のUH1000射出成形機を用いて、シリンダ温度を350℃、金型温度を130℃で射出成形を行い、64mm×64mm×1mmの寸法を有する略直方体の成形品2を得た。得られた成形品2の電磁波シールド、体積固有抵抗を測定した結果、それぞれ64dB、3.53×103Ωmであった。
本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物から得られる成形体は、電磁波シールド効果を有し、更に、電気絶縁性を保つことが判明した。

Claims (11)

  1. (A)磁性金属、磁性金属の酸化物(磁性金属酸化物)及び磁性金属をイオンとして含む錯体(磁性金属錯体)よりなる群から選ばれる少なくとも1種からなるフィラーを、液晶ポリエステル(B1)で被覆してなる複合フィラー
    (B)液晶ポリエステル(B2)
    を含有してなる液晶ポリエステル樹脂組成物であって、前記液晶ポリエステル(B1)の流動開始温度をT1[℃]、前記液晶ポリエステル(B2)の流動開始温度をT2[℃]としたとき、T1>T2の関係を満足することを特徴とする液晶ポリエステル樹脂組成物。
  2. 成分(A)が、比透磁率が100以上の磁性金属、比透磁率が100以上の磁性金属酸化物及び比透磁率が100以上の磁性金属錯体よりなる群から選ばれる少なくとも1種からなるフィラーを液晶ポリエステル(B1)で被覆してなる複合フィラーであることを特徴とする請求項1記載の液晶ポリエステル樹脂組成物。
  3. 成分(A)が、鉄、ニッケル、鉄酸化物、ニッケル酸化物、鉄錯体及びニッケル錯体よりなる群から選ばれる少なくとも1種からなるフィラーを液晶ポリエステル(B1)で被覆してなる複合フィラーであることを特徴とする請求項1記載の液晶ポリエステル樹脂組成物。
  4. 液晶ポリエステル(B1)の流動開始温度が255℃以上である請求項1〜3のいずれかに記載の液晶ポリエステル樹脂組成物。
  5. 液晶ポリエステル(B2)の流動開始温度が250℃〜400℃の範囲である請求項1〜4のいずれかに記載の液晶ポリエステル樹脂組成物。
  6. 液晶ポリエステル樹脂組成物の総量を100容量%としたとき、磁性金属、磁性金属の酸化物及び磁性金属をイオンとして含む錯体からなるフィラーの合計が、15容量%以上40容量%以下である請求項1〜5のいずれかに記載の液晶ポリエステル樹脂組成物。
  7. 液晶ポリエステル(B1)及び液晶ポリエステル(B2)が、下記の(B−I)、(B−II)又は(B−III)の液晶ポリエステルである請求項1〜6のいずれかに記載の液晶ポリエステル樹脂組成物。
    (B−I)下記(i)で表される繰り返し単位からなる液晶ポリエステル
    (B−II)下記(ii)および(iii)で表される繰り返し単位からなる液晶ポリエステル
    (B−III)下記の(i)、(ii)および(iii)で表される繰り返し単位からなる液晶ポリエステル
    Figure 2008111010
    (式中、Ar1は、1,4−フェニレン基、2,6−ナフタレンジイル基又は4,4’−ビフェニリレン基を表す。Ar2、Ar3は、それぞれ独立に、1,4−フェニレン基、2,6−ナフタレンジイル基、1,3−フェニレン基又は4,4’−ビフェニリレン基を表す。また、Ar1、Ar2、Ar3は、その芳香環上の水素原子の一部または全部が、ハロゲン原子、アルキル基、アリール基に置換されていてもよい。)
  8. 液晶ポリエステル(B1)および液晶ポリエステル(B2)が、前記(B−III)の液晶ポリエステルである請求項7に記載の液晶ポリエステル樹脂組成物。
  9. 成分(A)が、液晶ポリエステル(B1)の流動開始温度T1[℃]を下回る流動開始温度T0[℃](T0<T1)の液晶ポリエステル(B0)にて、磁性金属、磁性金属の酸化物及び磁性金属をイオンとして含む錯体よりなる群から選ばれる少なくとも1種からなるフィラーを被覆し、さらに加熱処理を行うことで、該フィラーを被覆した液晶ポリエステル(B0)を液晶ポリエステル(B1)に転化させて得られた複合フィラーであることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の液晶ポリエステル樹脂組成物。
  10. 請求項1〜9のいずれかに記載の液晶ポリエステル樹脂組成物を、T1[℃]を下回る温度で成形して得られる成形品。
  11. 体積固有抵抗が108Ωm以上であり、かつ、周波数1GHzの電磁波シールド効果が10dB以上である請求項10記載の成形品。
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