JP5141568B2 - 液晶ポリマー組成物及びそれを用いてなる成形体 - Google Patents
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Description
また、特許文献1や特許文献2で提案されている電磁波シールド材は磁性フィラーとして導電性材料を使用しているため、得られる成形体の電気絶縁性は乏しく、電気絶縁性を必要とする電子部品、たとえば表面実装部品には不適であった。
そこで本発明は、電磁波シールド効果や電気絶縁性といった特性を有する成形体を製造可能であり、溶融造粒に際し優れた造粒性を有する樹脂組成物(液晶ポリマー組成物)を提供することを目的とする。
<1>以下の成分(A)100重量部に対し、以下の成分(B)100〜450重量部を含む液晶ポリマー組成物
(A)液晶ポリマー
(B)主成分として珪素酸化物を含むセラミック粒子と軟磁性金属粒子とからなる複合材料を、反応基を有する珪素化合物で表面処理してなる変性フィラー
<2>前記複合材料が、前記軟磁性金属粒子を前記セラミック粒子で被覆してなる複合材料である、<1>の液晶ポリマー組成物;
<3>前記軟磁性金属粒子が、鉄又は鉄合金からなる、<1>又は<2>の液晶ポリマー組成物;
<4>前記軟磁性金属粒子が、鉄又は鉄合金からなり、その扁平率が2以上である、<1>又は<2>の液晶ポリマー組成物;
<5>前記成分(B)が、前記複合材料100重量部に対し、前記珪素化合物0.1〜5重量部を用いた変性フィラーである、<1>〜<4>のいずれかの液晶ポリマー組成物;
<6>前記珪素化合物が、シランカップリング剤である、<1>〜<5>のいずれかの液晶ポリマー組成物;
<7>前記珪素化合物が、ポリシロキサンを主鎖構造として有する珪素重合体である、<1>〜<5>のいずれかの液晶ポリマー組成物;
<8>前記珪素化合物が、Si−H結合を分子内に有する化合物である、<1>〜<7>のいずれかの液晶ポリマー組成物;
<9>前記液晶ポリマーが全芳香族液晶ポリエステルである、<1>〜<8>のいずれかの液晶ポリマー組成物;
<10>前記液晶ポリマーが、以下の(i)、(ii)及び(iii)で表される繰り返し単位からなる液晶ポリエステルである、<1>〜<8>のいずれかの液晶ポリマー組成物;
(式中、Ar1は、1,4−フェニレン基、2,6−ナフタレンジイル基又は4,4’−ビフェニリレン基を表す。Ar2及びAr3はそれぞれ独立に、1,4−フェニレン基、2,6−ナフタレンジイル基、1,3−フェニレン基又は4,4’−ビフェニリレン基を表す。また、Ar1、Ar2及びAr3は、その芳香環上の水素原子の一部又は全部が、ハロゲン原子、アルキル基又はアリール基に置換されていてもよい。)
<11>スクリューの有効長さ(L)のスクリュー直径(D)に対する比率(L/D)が20以上(LとDは同一のスケール単位である)の溶融混練押出機を用い、前記溶融混練押出機の押出方向上流部に設けられた上流部供給口から、前記成分(A)を、その全供給量に対する90重量%以上が供給されるように、前記成分(B)を、その全供給量の50重量%以下が供給されるように、前記溶融混練押出機に供給し、前記上流部供給口よりも押出方向下流側に設けられた下流側供給口から、前記成分(A)の残部と前記成分(B)の残部とを前記溶融混練押出機に供給することにより、前記成分(A)と前記成分(B)とを溶融混練して得られる、<1>〜<10>のいずれかの液晶ポリマー組成物;
<12><1>〜<11>のいずれかの液晶ポリマー組成物を成形して得られる、成形体;
<13><12>の成形体からなる、表面実装部品;
まず、成分(B)変性フィラー(以下、場合により「変性フィラー(B)」という)について説明する。
本発明で用いる変性フィラー(B)は、主として珪素酸化物を含むセラミック粒子と軟磁性金属粒子とからなる複合材料(コンポジット)を特定の珪素化合物で表面処理してなることを特徴とする。
該変性フィラー(B)の製造用である複合材料は、体積平均粒径(以下、場合により「平均粒径」という)1〜100μm程度のものが好ましく、後述する液晶ポリマー組成物の製造方法において、成分(A)液晶ポリマーに対して良好な分散性を発現する観点からは、該平均粒径は10〜50μmであると好ましい。ここで軟磁性金属とは、保磁力が小さく、透磁率が大きい金属材料である。
該複合材料を構成している軟磁性金属粒子は、保磁力が小さく、透磁率が大きい金属材料からなる粒子状のものをいう。該軟磁性金属粒子を構成する金属材料の透磁率は、真空の透磁率で除した比透磁率で表して、100以上のものが好ましく、200以上のものがさらに好ましい。
また、かかる軟磁性金属粒子が鉄又は鉄合金からなるものである場合、その扁平率は2以上であることが好ましい。ここでいう扁平率とは、当該軟磁性金属粒子を走査型電子顕微鏡もしくは光学顕微鏡を用いて、100〜300倍程度で外観観察した際、この軟磁性金属粒子1個において最も長い径を長径L、最も短い径を短径Sとしたとき、該長径を該短径で除したもの(L/S)であり、このようにして、軟磁性金属粒子を100個程度観測して求められる平均値である。図1を参照して長径、短径に関して説明する。図1は、楕円状の軟磁性金属粒子1個の外観を表す摸式図である。このような場合、楕円状金属粒子の最も長い径L、最も短い径Sは図1のようになる。このようにして金属粒子外観から、LとSとを求め金属粒子1個当たりの扁平率は求められる。同様にして金属粒子100個程度の扁平率を求めて平均し、扁平率は導出される。この扁平率が2以上であれば、本発明の液晶ポリマー組成物を溶融成形する際、その溶融樹脂の流動方向(MD)に対して、成分(B)の長軸が配向しやすくなる。MDに平行な面を電磁波シールド面とすると、この面のうち、成分(B)が占める面積が増大し易くなり、当該成分(B)の電磁波シールド性能を有効に活かせるので好ましい。この点から、該扁平率は2.5以上が好ましい。
このようなセラミック粒子は、いわゆるシリカ(以下、「シリカ粒子」ということもある)と称されている様々なものを市場から入手することができる。このような市販のシリカとしては、天然シリカ又は合成シリカ(人工シリカ)があり、該合成シリカには、乾式合成シリカ及び湿式合成シリカがある。該天然シリカとしては、酸化珪素の純度が高い点で石英を粉砕して得られるものが好ましく、石英から粉砕と溶融とを組み合わせて製造される天然シリカも酸化珪素の純度が高いものが得られるので好適である。乾式合成シリカとしては、四塩化炭素と水素との混合物を空気中1000〜1200℃程度で焼成させて得られるものや、金属シリコンを溶融し、ノズルから空気中に噴霧して得られるもの等がある。このような製造方法で得られる乾式合成シリカは、当該シリカ中に少量ながらSi−H結合を含んでいることがある。前記セラミック粉には、このように微量のSi−H結合を含むものも使用可能である。また、湿式合成シリカとは、四塩化珪素や珪酸アルコキシド等を加水分解して得られるものである。このような製造方法で得られる湿式合成シリカには、反応不純物である有機物や塩素が混入していたり、分子内にシラノール基(Si−OH)を含んでいたり、することがある。また、かかるシラノール基が水和して水和水を有していることもある。前記変性フィラー(B)製造に用いる複合材料には、そのような湿式合成シリカも使用することができるが、このような湿式合成シリカを、例えば、800℃程度の高温下で処理して、水和水や有機物を除去してなる湿式合成シリカが好ましい。
このようなシリカに関しては、例えば、(株)アドマテックス、東ソー・シリカ(株)等から入手することが可能であり、これらは前記セラミック粒子として好ましく使用される。
軟磁性金属粒子、好ましくは鉄又は鉄合金からなる軟磁性金属粒子とを用いることで前記複合材料は製造される。特に、該軟磁性金属粒子に該セラミック粒子で被覆してなる複合材料が好ましい。
ここでは、軟磁性金属粒子として鉄粉を用いた場合の製造方法に関し簡単に説明する。
鉄粉とシリカ粒子とを、例えば、ボールミル、遊星ボールミル、サンドミル等、乾式で混合できる混合機を用いて混合する。この混合機の中では、遊星ボールミルを使用すると、鉄粉にシリカ粒子が被覆されてなる複合材料を得ることができ、このような複合材料から製造される変性フィラー(B)を用いることにより、本発明の液晶ポリマー組成物から得られる成形体の電気絶縁性はより一層良好となる傾向がある。このような点から、鉄粉とシリカ粒子との使用量も、該シリカ粒子が該鉄粉を被覆するようにして、両者の使用重量比を選択することが好ましい。該鉄粉と該シリカ粒子との使用重量比を振った数点の予備実験を行い、当該予備実験で得られた複合材料の断面について、例えば走査型電子顕微鏡(SEM)観察を行い、シリカ粒子による被覆状態を求めることで、前記使用重量比を求めればよい。また、鉄粉とシリカ粒子とを混合する際には、当該鉄粉が著しく酸化することを防止するため、窒素、アルゴン等の不活性ガスの雰囲気下で実施することが好ましい。
また、シリカ粒子で鉄粉を被覆してなる好適な複合材料は、日立ハイテクノロジーズ(株)から入手することもできる。この日立ハイテクノロジーズ(株)製の複合材料に関しては、文献(電子材料2008年9月号)に記載されている。
なお、前記複合材料としては、前記セラミック粒子が前記軟磁性金属粒子(鉄粉)の表面の一部を被覆していればよく、前記軟磁性金属粒子(鉄粉)の表面を全て被覆していることは必ずしも必要ではない。
当該珪素化合物の典型的な例は、シランカップリング剤又は該シランカップリング剤を加水分解重合等することで得られるポリシロキサンである。該シランカップリング剤はアルコキシシリル基(Si−OR1;R1は1価の炭化水素基を表す)、シラノール基(Si−OH)及びアシルシリル基(Si−OC(O)R1;R1は1価の炭化水素基を表す)からなる群より選ばれる反応基を有しているが、このようなSi−O結合を有する反応基のみならず、Si−H基、アミノ基、エポキシ基、メルカプト基等を反応基として有するものであってもよい。また、該反応基としては、前記複合材料と疎水性相互作用により反応することができる、アルキル基、アリール基又はアラルキル基であってもよい。なお、ここでいうアルキル基とは炭素数1〜10程度のアルキル基を意味し、アリール基とは炭素数6〜10程度のアリール基を意味し、アラルキル基とは炭素数7〜10程度のアラルキル基を意味する。これらの反応基の中でも、本発明の液晶ポリマー組成物の造粒性をより良好にする点では、Si−H基、エポキシ基及びアミノ基ならなる群より選ばれる反応基が好ましく、Si−H基が特に好ましい。
このポリシロキサンを、具体的に例示すると、ポリジメチルシロキサン、ポリジフェニルシロキサン、ポリメチルフェニルシロキサン、ポリメチルハイドロジェンシロキサン等のポリシロキサン、又はこれらのポリシロキサンに、グリシジル基等のエポキシ基含有基、アミノプロピル基等のアミノ基含有基を導入してなるポリシロキサン(変性ポリシロキサン)が挙げられる。また、エステル結合含有化合物等によって変性した変性ポリシロキサン等も挙げられる。上述のように変性フィラー(B)の製造に使用する珪素化合物は、Si−H基を反応基として有するものが好ましいので、分子内にSi−H基を有するようなポリシロキサンが好ましい。このようなSi−H基を有するポリシロキサンは、たとえばハイドロジェン変性ポリシロキサンと呼称されているものが市場から容易に入手することができる。
攪拌装置を備えた攪拌槽に、まず前記複合材料を仕込む。次いで、前記珪素化合物を適当な溶媒に溶解した珪素化合物溶液を準備し、該珪素化合物溶液を前記攪拌槽に投入する。この投入には、珪素化合物溶液を滴下するか、もしくは噴霧することが好ましい。なお、このような珪素化合物溶液を滴下又は噴霧する過程では、攪拌槽内にある複合材料を十分攪拌しておくことが好ましい。このようにして前記複合材料と前記珪素化合物とを十分混合した後、加熱乾燥することで珪素化合物溶液に使用した溶媒を除去することにより変性フィラー(B)を得ることができる。
前記攪拌装置としては、タンブラー、ナウターミキサー、リボン型ブレンダーあるいはヘンシェルミキサーを用いることができる。短時間で変性フィラーを製造できる点では、ヘンシェルミキサーが攪拌装置として好適である。
ここでいうチタネート系カップリング剤を例示すると、イソプロピルトリイソステアロイルチタネート、イソプロピルトリオクタノイルチタネート、イソプロピルトリ(ジオクチルパイロフォスフェート)チタネート、イソプロピルトリジメタクリルイソステアロイルチタネート、イソプロピルトリ(N,N−ジアミノエチル)チタネート、イソプロピルトリドデシルベンゼンスルホニルチタネート、イソプロピルイソステアロイルジアクリルチタネート、イソプロピルトリ(ジオクチルフォスフェート)チタネート、イソプロピルトリクミルフェニルチタネート、テトライソプロピルビス(ジオクチルフォスフェート)チタネート、テトラオクチルビス(ジドデシルフォスフェート)チタネート、テトラ(2,2−ジアリルオキシメチル−1−ブチル)ビス(ジトリデシル)フォスフェートチタネート、ビス(ジオクチルパイロフォスフェート)オキシアセテートチタネート、ビス(ジオクチルパイロフォスフェート)エチレンチタネートを挙げることができる。
次に、本発明に使用する成分(A)液晶ポリマー(以下、場合により「液晶ポリマー(A)」という)について説明する。ここで、液晶ポリマーとは、溶融時に光学異方性を示し、450℃以下の温度で異方性溶融体を形成するポリマーであることを意味する。この光学的異方性は、直交偏光子を利用した通常の偏光検査法によって確認することができる。液晶ポリマーは、その分子形状が細長く、扁平で分子の長鎖に沿って剛性が高い分子鎖(この剛性が高い分子鎖は通常「メソゲン基」と呼称されている)を有するものであり、かかるメソゲン基は高分子主鎖又は側鎖のいずれか一方又は両方に有していればよいが、得られる成形体が、より高耐熱性となることを求めるならば高分子主鎖にメソゲン基を有するものが好ましい。
該液晶ポリマーの具体例としては、液晶ポリエステル、液晶ポリエステルアミド、液晶ポリエステルエーテル、液晶ポリエステルカーボネート、液晶ポリエステルイミド、液晶ポリアミド等が挙げられるが、これらの中でも、より強度に優れた成形体が得られる点で、液晶ポリエステル、液晶ポリエステルアミド又は液晶ポリアミドが好ましく、より低吸水性の成形体が得られる点で、液晶ポリエステル又は液晶ポリエステルアミドが好ましい。
(A1)下記の(i)で表される繰り返し単位からなる液晶ポリエステル;
(A2)下記の(ii)で表される繰り返し単位及び(iii)で表される繰り返し単位からなる液晶ポリエステル;
(A3)下記の(i)で表される繰り返し単位、(ii)で表される繰り返し単位及び(iii)で表される繰り返し単位からなる液晶ポリエステル;
(A4)前記(A1)において、(i)で表される繰り返し単位の一部又は全部を(iv)で表される繰り返し単位に置き換えてなる、液晶ポリエステルアミド又は液晶ポリアミド;
(A5)前記(A2)において、(iii)で表される繰り返し単位の一部又は全部を、(v)で表される繰り返し単位及び/又は(vi)で表される繰り返し単位に置き換えてなる、液晶ポリエステルアミド又は液晶ポリアミド;
(A6)前記(A3)において、(iii)で表される繰り返し単位の一部又は全部を、(v)で表される繰り返し単位及び/又は(vi)で表される繰り返し単位に置き換えてなる、液晶ポリエステルアミド
(式中、Ar1及びAr4はそれぞれ独立に、1,4−フェニレン基、2,6−ナフタレンジイル基又は4,4’−ビフェニリレン基を表す。Ar2、Ar3、Ar5及びAr6はそれぞれ独立に、1,4−フェニレン基、2,6−ナフタレンジイル基、1,3−フェニレン基又は4,4’−ビフェニリレン基を表す。また、Ar1、Ar2、Ar3、Ar4、Ar5及びAr6 は、その芳香環上の水素原子の一部又は全部が、ハロゲン原子、アルキル基又はアリール基に置換されていてもよい。)
アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、tert−ブチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基、デシル基などの、炭素数1〜10の直鎖、分岐又は脂環状のアルキル基が挙げられる。
アリール基としては、フェニル基やナフチル基などの炭素数6〜10のアリール基が挙げられる。
また、ハロゲン原子は、フッ素原子、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子である。
上述のとおり、(A1)の液晶ポリエステルは、(i)単位からなるものであり、複数種の(i)単位を有しているものが好ましい。その理由としては、耐熱性と成形性とのバランスに優れているためである。
ここで、(i)単位が30モル%未満の場合や、(ii)単位及び/又は(iii)単位が35モル%を超える場合は、得られるポリエステルが液晶性を発現し難くなる傾向にある。
一方、(i)単位が80モル%を超える場合や、(ii)単位及び/又は(iii)単位が10モル%未満の場合は、得られる液晶ポリエステルが溶融し難くなり、成形性が低下する傾向にある。
さらに、(i)単位は40〜70モル%であるとより好ましく、45〜65モル%であると、とりわけ好ましい。
一方、(ii)単位及び(iii)単位は、それぞれ15〜30モル%であるとより好ましく、それぞれ17.5〜27.5モル%であると、とりわけ好ましい。
前記プレポリマーを粉末とするには、例えばプレポリマーを冷却固化した後に粉砕すればよい。粉砕して得られる粉末の平均粒径は、0.05mm〜3mm程度の範囲が好ましく、0.05mm〜1.5mm程度の範囲が、液晶ポリエステルの高分子量化がより促進されることからより好ましい。また、この平均粒径は0.1mm〜1.0mm程度の範囲であれば、粒子間のシンタリングを生じることがないため、固相重合の操作性が良好になりやすく、効率的に液晶ポリエステルの高分子量化が促進されるため、さらに好ましい。なお、プレポリマーの平均粒径は、外観観察等により求められる。
次いで、プレポリマーの流動開始温度より20℃以上低い温度から280℃以上の温度まで昇温させる。昇温は、0.3℃/分以下の昇温速度で行うことが好ましく、0.1〜0.15℃/分の昇温速度がより好ましい。該昇温速度が0.3℃/分以下であれば、前記粉末の粒子間のシンタリングがより生じ難くなり、より高分子量の液晶ポリエステルの製造が可能となる。
また、液晶ポリエステルの分子量をより高めるためには、前記固相重合の最終過程において、280℃以上の温度で、好ましくは280℃〜400℃の温度で30分以上反応させることが好ましい。液晶ポリエステルの熱安定性をより良好にする点からは、反応温度280〜350℃で30分〜30時間反応させることが好ましく、反応温度285〜340℃で30分〜20時間反応させることがさらに好ましい。このような加熱条件は、当該液晶ポリエステルの製造に用いた、原料モノマーの種類により、適宜最適化することできる。なお、ここでいう流動開始温度に関し詳細は後述する。
なお、流動開始温度とは、内径1mm、長さ10mmのダイスを取付けた毛細管型レオメーターを用い、9.8MPa(100kg/cm2)の荷重下において昇温速度4℃/分で液晶ポリエステルをノズルから押出すときに、溶融粘度が4800Pa・s(48000ポイズ)を示す温度を意味し、該流動開始温度は当技術分野で周知の液晶ポリエステルの分子量を表す指標である(小出直之編、「液晶性ポリマー合成・成形・応用−」、95〜105頁、シーエムシー、1987年6月5日発行を参照、本発明においては、流動開始温度を測定する装置として、株式会社島津製作所製の流動特性評価装置「フローテスターCFT−500D」を用いる)。
本発明の液晶ポリマー組成物は、得られる成形体の電磁波シールド性や電気絶縁性を著しく損なわない範囲であれば、必要な特性に応じて補強剤等の添加剤が含有されていてもよい。
ここで添加剤としては、例えばガラス繊維、シリカアルミナ繊維、アルミナ繊維、炭素繊維などの繊維状補強剤;ホウ酸アルミニウムウィスカー、チタン酸カリウムウィスカーなどの針状の補強剤;ガラスビーズ、タルク、マイカ、グラファイト、ウォラストナイト、ドロマイトなどの無機充填剤;フッ素樹脂、金属石鹸類などの離型改良剤;染料、顔料などの着色剤;酸化防止剤;熱安定剤;紫外線吸収剤;帯電防止剤;界面活性剤等が挙げられる。これらの添加剤は二種以上を併用してもよい。
次に本発明の液晶ポリマー組成物の製造方法に関し説明する。
当該液晶ポリマー組成物は、前記成分(A)と前記成分(B)とを各種公知の手段で混合することで得ることができるが、より低コストである点で、前記成分(A)と前記成分(B)とを溶融混練して液晶ポリマー組成物を製造することが好ましく、押出溶融混練して液晶ポリマー組成物をペレット状で得るという溶融造粒において、優れた造粒性を発現することができる。
なお、上述のとおり、本発明の液晶ポリマー組成物は、成分(A)100重量部に対し、成分(B)が100〜450重量部であり、成分(B)が100〜300重量部であることがより好ましく、100〜250重量部であると一層好ましく、100〜200重量部であると特に好ましい。成分(B)の成分(A)に対する配合量がこのような範囲であると、電磁波シールド性と造粒性とのバランスが良好となる。なお、成分(B)として複数種の変性フィラー(B)を使用する場合にはその合計量が前記の範囲になるようにし、同様に成分(A)として複数種の液晶ポリマー(A)を使用する場合にはその合計量が前記の範囲になるようにする。
該溶融混練押出機とは、加熱手段を備えたシリンダと当該シリンダ内に加熱溶融体を押出すためのスクリューを備えたものであり、シリンダ内に1本のスクリューが回転駆動されるように設けられている単軸混練押出機、シリンダ内に互いに異なる方向に、あるいは同じ方向に回転駆動されるように設けられている2本のスクリューからなる二軸混練押出機のどちらも使用することができるが、二軸混練押出機の使用が本発明の液晶ポリマー組成物には有利である。
また、この溶融混練押出機は、該押出機に加熱溶融体を形成する各種成分を供給する供給口を複数供えている。前記成分(A)及び前記成分(B)、必要に応じて添加される補強剤や添加剤から加熱溶融体を形成せしめて、本発明の液晶ポリマー組成物をペレット状で得るには、まず該溶融混練押出機の押出方向上流側に設けられた上流側供給口から、成分(A)をその全供給量の90重量%以上が供給されるように、成分(B)をその全供給量の50重量%以下が供給されるようにして、該溶融混練押出機に供給する。そして、成分(A)の残部[成分(A)の全供給量−前記上流側供給口から供給される成分(A)の供給量]及び成分(B)の残部[成分(B)の全供給量−前記上流側供給口から供給される成分(B)の供給量]を、前記上流側供給口よりも押出方向下流側に設けられた下流側供給口から該溶融混練押出機に供給する。こうすることにより、前記加熱溶融体において成分(A)と成分(B)の接触時間が比較的短くてすむようになる。その結果、液晶ポリマー(A)の劣化が抑制される傾向があり、本発明の液晶ポリマー組成物の製造には有利である。このように、液晶ポリマー(A)の劣化を抑制する点では、前記上流側供給口からの成分(A)の供給量は、その全供給量に対して95重量%以上であると好ましい。また、前記上流側供給口からの成分(B)の供給量は、その全供給量に対して20重量%以下がさらに好ましい。特に、前記上流側供給口から成分(A)のみを供給し、前記下流側供給口から成分(B)を供給することが製造時の煩雑さを低減させるという点で好ましい。なお、本発明の液晶ポリマー組成物に、上述のような補強剤を使用する場合、該補強剤は前記下流側供給口から成分(B)とともに供給されることが好ましい。
本発明の液晶ポリマー組成物は、各種公知の成形方法により成形体を製造することができる。当該成形方法としては、射出成形、押出成形、トランスファー成形、ブロー成形、プレス成形、射出プレス成形、押出射出成形等、熱可塑性樹脂の分野で汎用の種々の成形方法が使用可能である。また、これらの成形方法を複数組み合わせてもよい。当業者であれば、目的とする成形品形状に応じて、好ましい成形方法及び成形条件を選択することができる。これらの中でも電子機器に使用される部品の製造には、射出成形又は押出射出成形が好ましく、射出成形が特に好ましい。
射出成形には、例えば日精樹脂工業(株)製油圧式横型成形機PS40E5ASE型といった射出成形機を用い、本発明の液晶ポリマー組成物を溶融せしめて、溶融した液晶ポリマー組成物を、適切な温度に加熱され、所望のキャビティ形状を有する金型内に射出する。射出するために液晶ポリマー組成物を加熱溶融させる温度は、使用する液晶ポリマー組成物の流動開始温度Tp’[℃]を基点として、Tp’+10[℃]以上Tp’+50[℃]以下にする。また、金型の温度は、液晶ポリマー組成物の冷却速度と生産性の点から、通常、室温〜180[℃]の範囲から選択される。
フィラー1
(電磁波吸収フィラー、(株)日立ハイテクノロジーズ製、
体積平均粒径20μm、扁平率2.7)
珪素化合物1
ハイドロジェン変性ポリシロキサン、KF−99、信越化学工業(株)製
珪素化合物2
エポキシ基含有シランカップリング剤、KBM−403、信越化学工業(株)製
珪素化合物3
メチルトリメトキシシランから得られるポリシロキサン、KR−213、
信越化学工業(株)製
珪素化合物4
フェニルトリメトキシシランから得られるポリシロキサン、KR−217、
信越化学工業(株)製
珪素化合物5
両末端カルボキシル変性ポリシロキサン、X−22−162C、信越化学工業(株)製
攪拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計及び還流冷却器を備えた反応器に、パラヒドロキシ安息香酸994.5g(7.2モル)、4,4’−ジヒドロキシビフェニル446.9g(2.4モル)、テレフタル酸299.0g(1.8モル)、イソフタル酸99.7g(0.6モル)及び無水酢酸1347.6g(13.2モル)を仕込み、反応器内を十分に窒素ガスで置換した後、窒素ガス気流下で30分かけて150℃まで昇温し、温度を保持して1時間還流させた。
その後、留出する副生酢酸、未反応の無水酢酸を留去しながら2時間50分かけて320℃まで昇温し、トルクの上昇が認められる時点を反応終了としてプレポリマーを得た。
得られたプレポリマーを室温まで冷却し、粗粉砕機で粉砕して粉末とした。この粉末を、窒素雰囲気下、室温から250℃まで1時間かけて昇温し、250℃から285℃まで5時間かけて昇温し、同温度で3時間保持するという固相重合を行った。冷却して得られた液晶ポリエステルの流動開始温度は327℃であった。このようにして得られた液晶ポリエステルをLCP1とする。
前記の珪素化合物の各々により、フィラー1の表面処理を行った。まず、珪素化合物から、珪素化合物濃度50重量%になるようにメタノールに溶解し、珪素化合物溶液を得た。そして、この珪素化合物溶液とフィラー1とを接触させることで、フィラー1の表面処理を行った。フィラー1の全量をスーパーミキサーに投入し、珪素化合物溶液を、その全重量の1/3を噴霧し、約5秒間スーパーミキサーを攪拌した。このような噴霧・攪拌をさらに2回行った後、5分間スーパーミキサーを攪拌し、フィラー1の表面処理を行った。なお、フィラー1と珪素化合物の使用量比は、フィラー1 100重量部に対して、珪素化合物が1重量部になるようにした。
フィラーA :珪素化合物1を使用して表面処理を行った変性フィラー
フィラーB :珪素化合物2を使用して表面処理を行った変性フィラー
フィラーC :珪素化合物3を使用して表面処理を行った変性フィラー
フィラーD :珪素化合物4を使用して表面処理を行った変性フィラー
フィラーE :珪素化合物5を使用して表面処理を行った変性フィラー
製造例1で得られたLCP1及び前記のようにして得られた変性フィラー(フィラーA〜フィラーE)を表1に示す組成で、同方向2軸押出機(池貝鉄工株式会社PCM−30HS)を用い、溶融温度330℃で溶融させた。そして、以下の造粒性の評価方法により、ストランドの性状を判定して、造粒性を評価した。得られたペレット状の液晶ポリマー組成物を、射出成形機(日精樹脂工業株式会社PS40E5ASE型)を用いて、シリンダ温度340℃、金型温度130℃、射出率30cm3/sで射出成形を行い、成形体を得た。なお、成形体の形状等は、評価項目に合わせたものを成形することとし、具体的には以下のとおりである。
また、ストランドの性状が悪く、造粒性が不十分な比較例の液晶ポリマー組成物は、必要に応じ粉砕を行うことにより、一部が破砕状の形態になるようにして得た。
成形体1:64mm×64mm×1mmの成形体
成形体2:ASTM4号ダンベル
成形体3:126mm×12mm×6mmの成形体
このようにして得た成形体の電磁波シールド値、体積固有抵抗値、Izod衝撃強度、引張強度及び曲げ強度を求めた。結果を表1に示す。
同方向2軸押出機(池貝鉄工株式会社PCM−30HS)を用いて、10kg/時間の速度で溶融混練された樹脂組成物を、ストランド状に押し出し、ペレット化される工程の状態を目視で観察し、次の基準で加工性を判断した。なお、この際、LCP1の全供給量を、該同方向2軸押出機の上流部供給口から供給し、変性フィラーの全供給量を、該同方向2軸押出機の下流側供給口から供給した。
◎ ストランド押出量1kgでペレットを製造する間、ストランド切れが認められな
かった。
○ ストランド押出量1kgでペレットを製造する間、ストランド切れの回数が4回以下
であった。
× ストランド押出量1kgでペレットを製造する間、ストランド切れの回数が5回以上
であった。
成形体1を用いて、ASTM D4935に準拠した同軸管タイプにより、周波数2.5GHzでの電磁波シールド値を測定した。
成形体1を用いてASTMD257に準拠し、東亜電波工業株式会社製 SM−10E型超絶縁計にて、体積固有抵抗を求めた。
成形体3を2等分した試験片を用いて、ASTM D256に準拠して測定した。
成形体2を用いて、ASTM D638に準拠して測定した。
成形体3を用いて、ASTM D790に準拠して測定した。
一方、比較例1の液晶ポリマー組成物は、得られる成形体の電磁波シールド性、電気絶縁性は良好であるものの、溶融造粒時にストランドを安定的に形成することができなかった(ストランド切れが多数発生した)。
L・・・長径 S・・・短径
Claims (13)
- 以下の成分(A)100重量部に対し、以下の成分(B)100〜450重量部を含むことを特徴とする液晶ポリマー組成物。
(A)液晶ポリマー
(B)主成分として珪素酸化物を含むセラミック粒子と軟磁性金属粒子とからなる複合材料を、反応基を有する珪素化合物で表面処理してなる変性フィラー - 前記複合材料が、前記軟磁性金属粒子を前記セラミック粒子で被覆してなる複合材料であることを特徴とする請求項1に記載の液晶ポリマー組成物。
- 前記軟磁性金属粒子が、鉄又は鉄合金からなることを特徴とする請求項1又は2に記載の液晶ポリマー組成物。
- 前記軟磁性金属粒子が、鉄又は鉄合金からなり、その扁平率が2以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の液晶ポリマー組成物。
- 前記成分(B)が、前記複合材料100重量部に対し、前記珪素化合物0.1〜5重量部を用いた変性フィラーであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の液晶ポリマー組成物。
- 前記珪素化合物が、シランカップリング剤であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の液晶ポリマー組成物。
- 前記珪素化合物が、ポリシロキサンを主鎖構造として有する珪素重合体であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の液晶ポリマー組成物。
- 前記珪素化合物が、Si−H結合を分子内に有する化合物であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の液晶ポリマー組成物。
- 前記液晶ポリマーが全芳香族液晶ポリエステルであることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の液晶ポリマー組成物。
- スクリューの有効長さ(L)のスクリュー直径(D)に対する比率(L/D)が20以上(LとDは同一のスケール単位である)の溶融混練押出機を用い、前記溶融混練押出機の押出方向上流部に設けられた上流部供給口から、前記成分(A)を、その全供給量に対する90重量%以上が供給されるように、前記成分(B)を、その全供給量の50重量%以下が供給されるように、前記溶融混練押出機に供給し、前記上流部供給口よりも押出方向下流側に設けられた下流側供給口から、前記成分(A)の残部と前記成分(B)の残部とを前記溶融混練押出機に供給することにより、前記成分(A)と前記成分(B)とを溶融混練して得られることを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載の液晶ポリマー組成物。
- 請求項1〜11のいずれかに記載の液晶ポリマー組成物を成形して得られることを特徴とする成形体。
- 請求項12に記載の成形体からなることを特徴とする表面実装部品。
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