JP2008100321A - 高硬度鋼の高速断続切削加工で硬質被覆層がすぐれた耐チッピング性を発揮する表面被覆切削工具 - Google Patents

高硬度鋼の高速断続切削加工で硬質被覆層がすぐれた耐チッピング性を発揮する表面被覆切削工具 Download PDF

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Abstract

【課題】 高硬度鋼の高速断続切削加工で硬質被覆層がすぐれた耐チッピング性を発揮する表面被覆切削工具を提供する。
【解決手段】 WC基超硬合金またはTiCN基サーメットで構成された工具基体表面に、硬質被覆層として、(a)下部層が、TiとCrの合量に対するCrの含有割合(Cr/(Ti+Cr))が0.005〜0.05(ただし、原子比)であるTiとCrの複合炭窒化物層、(b)中間層が、X線による結晶構造回折において、(0002)面からの相対X線回折強度I(0002)が最大のピークを示す六方晶CrN層、(c)上部層が、AlとCrの合量に対するCrの含有割合(Cr/(Al+Cr))が0.01〜0.10(ただし、原子比)であるAlとCrの複合酸化物層、を化学蒸着で形成する。
【選択図】 なし

Description

この発明は、特に合金鋼、軸受鋼の焼入れ材などのような高硬度鋼の高速断続切削加工で、硬質被覆層がすぐれた耐チッピング性を発揮する表面被覆切削工具(以下、被覆工具という)に関するものである。
従来、一般に、炭化タングステン(以下、WCで示す)基超硬合金または炭窒化チタン(以下、TiCNで示す)基サーメットで構成された基体(以下、これらを総称して工具基体という)の表面に、
(a)下部層が、いずれも化学蒸着形成された、Tiの炭化物(以下、TiCで示す)層、窒化物(以下、同じくTiNで示す)層、炭窒化物(以下、TiCNで示す)層、炭酸化物(以下、TiCOで示す)層、および炭窒酸化物(以下、TiCNOで示す)層のうちの1層または2層以上からなり、かつ3〜20μmの全体平均層厚を有するTi化合物層、
(b)上部層が、1〜15μmの平均層厚を有し、かつ、アルミニウムとクロムの合量に対するクロムの含有割合が0.01〜0.10(ただし、原子比)であるアルミニウムとクロムの複合酸化物[以下、(Al,Cr)23で示す]層、
以上(a)および(b)で構成された硬質被覆層を化学蒸着で形成してなる被覆工具が知られており、この被覆工具が、例えば各種の鋼や鋳鉄などの連続切削や断続切削に用いられることも良く知られるところである。
上記の従来被覆工具において、これの硬質被覆層の構成層は、一般に粒状結晶組織を有し、さらに、下部層であるTi化合物層を構成するTiCN層を、層自身の強度向上を目的として、通常の化学蒸着装置にて、反応ガスとして有機炭窒化物、例えばCHCNを含む混合ガスを使用し、700〜950℃の中温温度域で化学蒸着することにより形成して縦長成長結晶組織をもつようにすることも知られている。
また、上記の従来被覆工具の硬質被覆層を構成する(Al,Cr)23層が、
反応ガス組成:容量%で、AlCl:2.3〜4%、CrCl:0.04〜0.26%、CO:6〜8%、HCl:1.5〜3%、H2S:0.05〜0.2%、H2:残り、
反応雰囲気温度:1020〜1050℃、
反応雰囲気圧力:6〜10kPa、
の条件で蒸着形成されることも知られている。
特開昭52−66508号公報 特開平6−8010号公報
近年の切削装置の高性能化はめざましく、一方で切削加工に対する省力化および省エネ化、さらに低コスト化の要求は強く、これに伴い、切削効率の向上を目的として、切削速度を高速化する傾向にあるが、上記の従来被覆工具においては、これを鋼や鋳鉄などの通常の条件での連続切削や断続切削に用いた場合には問題はないが、特にこれを合金鋼、軸受鋼の焼入れ材などの高硬度鋼の、切削条件の厳しい高速断続切削加工、すなわち切刃部にきわめて高い機械的負荷が加わる高速断続切削加工に用いた場合、硬質被覆層の下部層(Ti化合物層)の高温強度が不十分であるとともに、上部層((Al,Cr)23層)と下部層(Ti化合物層)間の接合強度も十分とはいえないため、前記の機械的高負荷に対して満足に対応することができず、この結果硬質被覆層にはチッピング(微小欠け)が発生し易くなることから、比較的短時間で使用寿命に至るのが現状である。
そこで、本発明者等は、上述のような観点から、上記の被覆工具の硬質被覆層の耐チッピング性向上をはかるべく、これの下部層であるTi化合物層を構成するTiCN層、すなわちTi化合物層のうちで相対的に高い高温強度を有するTiCN層に着目し研究を行うとともに、さらに、上部層と下部層間の接合強度を向上させる中間層について研究を行った結果、以下の知見を得た。
<下部層について>
(a)まず、従来被覆工具の硬質被覆層において、下部層を構成するTi化合物層のうちのTiCN層(以下、従来TiCN層という)は、例えば、通常の化学蒸着装置にて、
反応ガス組成:容量%で、TiCl:2〜10%、CHCN:0.5〜3%、N2:10〜30%、H2:残り、
反応雰囲気温度:800〜900℃、
反応雰囲気圧力:6〜20kPa、
の条件(通常条件という)で蒸着形成されるが、
反応ガス組成:容量%で、TiCl:2〜10%、CrCl:0.01〜0.5%、CHCN:0.5〜3%、N2:30〜45%、Ar:残り、
反応雰囲気温度:900〜1020℃、
反応雰囲気圧力:6〜20kPa、
の条件、すなわち上記の通常条件に比して、反応ガスのキャリアガスであるH2ガスをArガスに代えると共に、N2ガスの相対量を増加させ、かつCrClガスをきわめて少量加え、さらに反応雰囲気温度を相対的に高くした条件で蒸着形成して、チタンとクロムの合量に対するクロムの含有割合(ただし、原子比)が0.005〜0.05であるチタンとクロムの複合炭窒化物(以下、「(Ti,Cr)CN」で示す)層を形成すると、この結果の(Ti,Cr)CN層は、上記の従来TiCN層と同様の結晶構造、すなわち格子点にTi、Cr、炭素(C)および窒素(N)からなる構成原子がそれぞれ存在するNaCl型面心立方晶の結晶構造を有するが、前記従来TiCN層に比して一段とすぐれた高温強度を有すること。
(b)上記の従来TiCN層と上記(a)の(Ti,Cr)CN層について、
電界放出型走査電子顕微鏡を用い、図1(a),(b)に概略説明図で例示される通り、表面研磨面の測定範囲内に存在する立方晶結晶格子を有する結晶粒個々に電子線を照射して、前記表面研磨面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である{112}面の法線がなす傾斜角を測定し、前記測定傾斜角のうち、0〜45度の範囲内にある測定傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分すると共に、各区分内に存在する度数を集計してなる傾斜角度数分布グラフを作成した場合、前記従来TiCN層は、図3に例示される通り、{112}面の測定傾斜角の分布が0〜45度の範囲内で不偏的な傾斜角度数分布グラフを示すのに対して、前記(Ti,Cr)CN層は、図2に例示される通り、傾斜角区分の特定位置にシャープな最高ピークが現れ、このシャープな最高ピークは、グラフ横軸の傾斜角区分に現れる高さおよび傾斜角区分位置が前記(Ti,Cr)CN層におけるCrの含有割合を調整することにより変化すること。
(c)上記の通り、上記(Ti,Cr)CN層の形成に際して、層中のCr含有割合を、上記の通りTiとの合量に占める原子比で0.005〜0.05とすることによって、前記(Ti,Cr)CN層の傾斜角度数分布グラフで、シャープな最高ピークが傾斜角区分の0〜10度の範囲内に現れ、かつ、前記0〜10度の範囲内に存在する度数割合が、傾斜角度数分布グラフにおける度数全体の45%以上の割合を占める傾斜角度数分布グラフを示すようになるのであり、したがって、前記(Ti,Cr)CN層中のCr含有割合が前記の範囲から低い方に外れても、あるいは高い方に外れても、傾斜角度数分布グラフにおけるシャープな最高ピークが傾斜角区分の0〜10度の範囲から外れ、かつ、前記0〜10度の範囲内に存在する度数数割合も45%未満になってしまい、この場合は一段の高温強度の向上を図ることができないこと。
さらに、上記(Ti,Cr)CN層のCr成分には、上記の作用の他に、層中にCr成分を含有しない上記従来TiCN層に比して、層自体の高温強度を向上させる作用もあり、この場合その含有割合がTiとの合量に占める原子比で0.005未満では所望の高温強度向上効果が現れず、一方その含有割合が同0.05を越えると、急激に軟化し、高熱発生を伴う高速断続切削では切刃部に偏摩耗の原因となる熱塑性変形が発生し易くなることからも、その含有割合はTiとの合量に占める原子比で0.005〜0.05とする必要があること。
<中間層について>
つぎに、上部層と下部層間の接合強度を向上させる中間層について種々検討を行ったところ、中間層としては、六方晶窒化クロム(以下、「CrN」で示す)層からなり、かつ、X線による結晶構造解析において、六方晶窒化クロムの(hkil)面(但し、i=−(h+k))からの測定回折強度をI(hkil)とし、ICDD PDF No.35−803(注)に記載される標準X線回折強度I(hkil)とI(hkil)との比として計算される相対回折強度I(hkil)=I(hkil)/I(hkil)を、回折面(11−20)、(0002)、(11−21)、(11−22)、(30−30)、(11−23)について求めた場合、I(0002)が最大値を示すCrN層が最適であることを見出した。
(注)「ICDD PDF」は、International Center for Diffraction Data(ICDD)のPowder Diffraction File(PDF)の略号。
具体的に言えば、次のとおりである。
(d)硬質被覆層の下部層を(Ti,Cr)CN層で構成した場合、下部層および中間層であるCrN層はいずれもCrを含有する窒化物系化合物であるために、下部層と中間層の界面には化学的な親和力が十分に働き、一方、中間層であるCrN層と上部層である(Al,Cr)層は、いずれも六方晶の結晶構造を有し、かつ、a軸の格子定数がほぼ等しいため結晶格子のミスマッチがなく、さらに熱膨張係数も比較的近い値であることから、その界面は、極めて安定な界面として形成され、結晶レベルでの密着性にすぐれること。
(e)CrN層は、その化学蒸着条件によって、X線による結晶構造解析において、六方晶窒化クロムの(hkil)面(但し、i=−(h+k))からの測定回折強度をI(hkil)とし、ICDD PDF No.35−803に記載される標準X線回折強度I(hkil)とI(hkil)との比として計算される相対回折強度I(hkil)=I(hkil)/I(hkil)を、回折面(11−20)、(0002)、(11−21)、(11−22)、(30−30)、(11−23)について求めた場合、I(0002)が最大値を示すようになる。標準X線回折強度I(hkil)は、CrN粉末粒子の(hkil)面からの回折強度として示されているもので、測定試料が特定の結晶面に集合せずに、等方的である場合の回折強度に相当することから、測定X線回折強度I(hkil)と標準X線回折強度I(hkil)との比であるI(hkil)は、測定試料の各(hkil)面への集合度を示すと考えられる。従って、I(hkil)の値が大きいほど、(hkil)面が基体の接線方向に集合していることを示すことになるから、I(0002)が最大値を示すCrN層は、六方晶の底面である(0001)面に平行な面が基体の接線方向に最も強く集合していることになる。中間層であるCrN層の、基体の接線方向への(0001)面の集合度を高めると、上部層である(Al,Cr)層は、
電界放出型走査電子顕微鏡を用い、表面研磨面の測定範囲内に存在する六方晶結晶格子を有する結晶粒個々に電子線を照射して、前記表面研磨面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(0001)面の法線がなす傾斜角を測定し、前記測定傾斜角のうち、0〜45度の範囲内にある測定傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分すると共に、各区分内に存在する度数を集計してなる傾斜角度数分布グラフを作成した場合、0〜10度の範囲内にシャープな最高ピークが現れ、かつ0〜10度の範囲内に存在する度数割合が45%以上を占める傾斜角度数分布グラフを示すようになり、その結果として、上部層である(Al,Cr)層が一段とすぐれた高温強度を備えるようになること。
(f)以上のとおり、硬質被覆層の下部層を(Ti,Cr)CN層で構成し、かつ、(Al,Cr)層からなる上部層と前記下部層との間に、基体の接線方向への(0001)面の集合度の高い六方晶CrN層を中間層として蒸着形成すると、上部層ばかりでなく、下部層もすぐれた高温強度特性を備え、さらに、中間層は、上部層および下部層と強固に密着し、高い接合強度を有することから、硬質被覆層全体として格段にすぐれた高温強度を備えるようになり、特にきわめて高い負荷のかかる高硬度鋼の高速断続切削加工においても、前記硬質被覆層がすぐれた耐チッピング性を発揮し、長期に亘ってすぐれた耐摩耗性を示すようになること。
以上(a)〜(f)に示される研究結果を得たのである。
この発明は、上記の研究結果に基づいてなされたものであって、
「(1) 炭化タングステン基超硬合金または炭窒化チタン基サーメットで構成された工具基体の表面に、
(a)下部層として、2.5〜150μmの平均層厚を有し、かつ、チタンとクロムの合量に対するクロムの含有割合(Cr/(Ti+Cr))が0.005〜0.05(ただし、原子比)であるチタンとクロムの複合炭窒化物層、
(b)中間層として、0.1〜3μmの平均層厚を有する六方晶窒化クロムからなり、かつ、X線による結晶構造解析において、六方晶窒化クロムの(hkil)面(但し、i=−(h+k))からの測定回折強度をI(hkil)とし、ICDD
PDF No.35−803に記載される標準X線回折強度I(hkil)とI(hkil)との比として計算される相対回折強度I(hkil)=I(hkil)/I(hkil)を、回折面(11−20)、(0002)、(11−21)、(11−22)、(30−30)、(11−23)について求めた場合、I(0002)が最大値を示す六方晶窒化クロム層、
(c)上部層として、1〜15μmの平均層厚を有し、かつ、アルミニウムとクロムの合量に対するクロムの含有割合(Cr/(Al+Cr))が0.01〜0.10(ただし、原子比)であるアルミニウムとクロムの複合酸化物層、
以上(a)〜(c)で構成された硬質被覆層を化学蒸着で形成してなる、高硬度鋼の高速断続切削加工で硬質被覆層がすぐれた耐チッピング性を発揮する表面被覆切削工具。
(2)前記(1)の表面被覆切削工具において、
前記(a)のチタンとクロムの複合炭窒化物層からなる下部層は、
電界放出型走査電子顕微鏡を用い、表面研磨面の測定範囲内に存在する立方晶結晶格子を有する結晶粒個々に電子線を照射して、前記表面研磨面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である{112}面の法線がなす傾斜角を測定し、前記測定傾斜角のうち、0〜45度の範囲内にある測定傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分すると共に、各区分内に存在する度数を集計してなる傾斜角度数分布グラフにおいて、0〜10度の範囲内の傾斜角区分に最高ピークが存在すると共に、前記0〜10度の範囲内に存在する度数の合計が、傾斜角度数分布グラフにおける度数全体の45%以上の割合を占める傾斜角度数分布グラフを示すこと、
を特徴とする前記(1)の表面被覆切削工具。
(3)前記(1)の表面被覆切削工具において、
前記(c)のアルミニウムとクロムの複合酸化物層からなる上部層は、
電界放出型走査電子顕微鏡を用い、表面研磨面の測定範囲内に存在する六方晶結晶格子を有する結晶粒個々に電子線を照射して、前記表面研磨面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(0001)面の法線がなす傾斜角を測定し、前記測定傾斜角のうち、0〜45度の範囲内にある測定傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分すると共に、各区分内に存在する度数を集計してなる傾斜角度数分布グラフにおいて、0〜10度の範囲内の傾斜角区分に最高ピークが存在すると共に、前記0〜10度の範囲内に存在する度数の合計が、傾斜角度数分布グラフにおける度数全体の45%以上の割合を占める傾斜角度数分布グラフを示すこと、
を特徴とする前記(1)の表面被覆切削工具。
(4)前記(1)の表面被覆切削工具において、
前記(a)のチタンとクロムの複合炭窒化物層からなる下部層は、
電界放出型走査電子顕微鏡を用い、表面研磨面の測定範囲内に存在する立方晶結晶格子を有する結晶粒個々に電子線を照射して、前記表面研磨面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である{112}面の法線がなす傾斜角を測定し、前記測定傾斜角のうち、0〜45度の範囲内にある測定傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分すると共に、各区分内に存在する度数を集計してなる傾斜角度数分布グラフにおいて、0〜10度の範囲内の傾斜角区分に最高ピークが存在すると共に、前記0〜10度の範囲内に存在する度数の合計が、傾斜角度数分布グラフにおける度数全体の45%以上の割合を占める傾斜角度数分布グラフを示し、また、
前記(c)のアルミニウムとクロムの複合酸化物層からなる上部層は、
電界放出型走査電子顕微鏡を用い、表面研磨面の測定範囲内に存在する六方晶結晶格子を有する結晶粒個々に電子線を照射して、前記表面研磨面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(0001)面の法線がなす傾斜角を測定し、前記測定傾斜角のうち、0〜45度の範囲内にある測定傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分すると共に、各区分内に存在する度数を集計してなる傾斜角度数分布グラフにおいて、0〜10度の範囲内の傾斜角区分に最高ピークが存在すると共に、前記0〜10度の範囲内に存在する度数の合計が、傾斜角度数分布グラフにおける度数全体の45%以上の割合を占める傾斜角度数分布グラフを示すこと、
を特徴とする前記(1)の表面被覆切削工具。
(5)前記(1)〜(4)の表面被覆切削工具において、
工具基体表面と、前記(a)のチタンとクロムの複合炭窒化物層からなる下部層との間に、0.1〜5μmの合計平均層厚を有し、かつ、Tiの炭化物層、窒化物層、炭窒化物層、炭酸化物層、および炭窒酸化物層のうちの1層以上からなる化学蒸着で形成された密着性Ti化合物層を介在させること、
を特徴とする前記(1)〜(4)のいずれかに記載の表面被覆切削工具。」
に特徴を有するものである。
つぎに、この発明の被覆工具の硬質被覆層の構成層について、上記の通りに数値限定した理由を以下に説明する。
(a)下部層の(Ti,Cr)CN層
(Ti,Cr)CN層の傾斜角度数分布グラフの傾斜角区分における最高ピーク位置および前記最高ピークが存在する所定の傾斜角区分内に存在する度数割合は、上記の通り層中のCr含有割合をTiとの合量に占める原子比で、0.005〜0.05とすることによって、0〜10度の範囲内の傾斜角区分に最高ピークを存在させ、かつ前記0〜10度の範囲内に存在する度数割合を、傾斜角度数分布グラフにおける度数全体の45%以上とすることができるものであり、したがって、その含有割合が0.005未満でも、0.05を越えても、前記最高ピーク位置の現れる傾斜角区分が0〜10度の範囲内から外れ、さらに前記0〜10度の範囲内に存在する度数割合は45%未満となってしまい、高速断続切削加工で、硬質被覆層にチッピングが発生しない、すぐれた高温強度向上効果を確保することができないものとなる。
このように下部層の(Ti,Cr)CN層は、従来TiCN層に比して、一段とすぐれた高温強度を有するようになるが、その平均層厚が2.5μm未満では所望のすぐれた高温強度向上効果を硬質被覆層に十分に具備せしめることができず、一方その平均層厚が15μmを越えると、偏摩耗の原因となる熱塑性変形が発生し易くなり、摩耗が加速するようになることから、その平均層厚を2.5〜15μmと定めた。
(b)中間層のCrN層
X線回折において、I(0002)が最大値を示す、いわば基体の接線方向への(0001)面の集合度の高い六方晶の結晶構造を有するCrN層は、例えば、通常の化学蒸着装置にて、上記下部層((Ti,Cr)CN層)上に、
反応ガス組成:容量%で、CrCl:0.1〜5%、N:20〜70%、HCl:0.3〜2%、H:残り
反応雰囲気温度:900〜1040℃、
反応雰囲気圧力: 6〜20kPa、
の条件で蒸着することによって形成されるが、
蒸着条件が上記の範囲を外れた場合には、形成されるCrN層の基体の接線方向への(0001)面の集合度が低下し、その結果として、CrN層上に蒸着形成される上部層((Al,Cr)層)の(0001)面の度数割合も減少し、上部層の高温強度を改善する効果も低下する。
また、中間層としてのCrN層は、その平均層厚が0.1μm未満では、下部層と上部層間の密着性向上、接合強度の改善を期待できず、一方、その平均層厚が3μmを超えると、硬質被覆層の高温硬さの低下を招くことになるので、その平均層厚を0.1〜3μmと定めた。
(c)上部層の(Al,Cr)
AlとCrの合量に対するCrの含有割合(Cr/(Al+Cr))が0.01〜0.10(ただし、原子比)である(Al,Cr)層は、CrN層からなる中間層の上に、例えば、通常の蒸着装置により、
反応ガス組成:容量%で、AlCl:2.3〜4%、CrCl:0.04〜0.26%、CO:6〜8%、HCl:1.5〜3%、H2S:0.05〜0.2%、H2:残り、
反応雰囲気温度:1020〜1050℃、
反応雰囲気圧力:6〜10kPa、
の条件で蒸着することによって形成され、すぐれた高温硬さと耐熱性を有し、硬質被覆層の耐摩耗性向上に寄与するばかりか、すぐれた高温強度も備え、耐チッピング性の向上にも寄与する。
即ち、上記条件で蒸着形成された(Al,Cr)層について、
電界放出型走査電子顕微鏡を用い、表面研磨面の測定範囲内に存在する六方晶結晶格子を有する結晶粒個々に電子線を照射して、前記表面研磨面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(0001)面の法線がなす傾斜角を測定し、前記測定傾斜角のうち、0〜45度の範囲内にある測定傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分すると共に、各区分内に存在する度数を集計してなる傾斜角度数分布グラフにおいて、0〜10度の範囲内の傾斜角区分に最高ピークが存在すると共に、前記0〜10度の範囲内に存在する度数の合計が、傾斜角度数分布グラフにおける度数全体の45%以上の割合を占める傾斜角度数分布グラフを示すようになり、したがって、層中のCr含有割合が上記範囲から外れると、傾斜角度数分布グラフで0〜10度の範囲内の傾斜角度数の割合が45%未満になってしまい、所望の高温強度向上効果が得られなくなる。
また、(Al,Cr)層は、その平均層厚が1μm未満では、硬質被覆層に十分な耐摩耗性を発揮せしめることができず、一方その平均層厚が15μmを越えて厚くなりすぎると、チッピングが発生し易くなることから、その平均層厚を1〜15μmと定めた。
(d)密着性Ti化合物層
工具基体表面と硬質被覆層の下部層((Ti,Cr)CN層)との間の密着性をさらに改善するために、0.1〜5μmの合計平均層厚を有し、かつ、Tiの炭化物層、窒化物層、炭窒化物層、炭酸化物層、および炭窒酸化物層のうちの1層以上からなる化学蒸着で形成された密着性Ti化合物層を介在させることができる。密着性Ti化合物層は、工具基体と下部層である(Ti,Cr)CN層のいずれにも強固に密着し、よって硬質被覆層の工具基体に対する密着性向上に寄与する作用をもつが、その合計平均層厚が0.1μm未満では、所望の密着性を確保することができず、一方前記密着性は5μmまでの合計平均層厚で充分であることから、その合計平均層厚を0.1〜5μmと定めた。
なお、切削工具の使用前後の識別を目的として、黄金色の色調を有するTiN層を最表面層として、必要に応じて蒸着形成してもよいが、識別効果の観点からすれば、その平均層厚は0.1〜1μmで十分である。
この発明の被覆工具は、切刃に対して大きな負荷がかかる、例えば、合金鋼、軸受鋼の焼入れ材などのような高硬度鋼の高速断続切削加工でも、硬質被覆層の下部層である(Ti,Cr)CN層が一段とすぐれた高温強度を有し、上部層である(Al,Cr)層はすぐれた高温硬さとともにすぐれた高温強度を有し、さらに、下部層と上部層が中間層であるCrN層を介して強固に接合していることによって、硬質被覆層全体として、格段にすぐれた耐チッピング性、耐摩耗性を有し、長期に亘ってすぐれた工具特性を発揮するものである。
つぎに、この発明の被覆工具を実施例により具体的に説明する。
原料粉末として、いずれも1〜3μmの平均粒径を有するWC粉末、TiC粉末、ZrC粉末、VC粉末、TaC粉末、NbC粉末、Cr32粉末、TiN粉末、TaN粉末、およびCo粉末を用意し、これら原料粉末を、表1に示される配合組成に配合し、さらにワックスを加えてアセトン中で20時間ボールミル混合し、減圧乾燥した後、98MPaの圧力で所定形状の圧粉体にプレス成形し、この圧粉体を5Paの真空中、1370〜1470℃の範囲内の所定の温度に1時間保持の条件で真空焼結し、焼結後、切刃部にR:0.05mmのホーニング加工を施すことによりISO・CNMG120412に規定するスローアウエイチップ形状をもったWC基超硬合金製の工具基体A〜Fをそれぞれ製造した。
また、原料粉末として、いずれも0.5〜2μmの平均粒径を有するTiCN(質量比で、TiC/TiN=50/50)粉末、Mo2C粉末、ZrC粉末、NbC粉末、TaC粉末、WC粉末、Co粉末、およびNi粉末を用意し、これら原料粉末を、表2に示される配合組成に配合し、ボールミルで20時間湿式混合し、乾燥した後、98MPaの圧力で圧粉体にプレス成形し、この圧粉体を1.3kPaの窒素雰囲気中、温度:1540℃に1時間保持の条件で焼結し、焼結後、切刃部分にR:0.07mmのホーニング加工を施すことによりISO規格・CNMG120412のチップ形状をもったTiCN基サーメット製の工具基体a〜fを形成した。
つぎに、これらの工具基体A〜Fおよび工具基体a〜fの表面に、通常の化学蒸着装置を用い、硬質被覆層の下部層として(Ti,Cr)CN層を、表3に示される条件で、表7に示される目標層厚で蒸着形成し、ついで、表4に示される条件にて、中間層としてのCrN層を表7に示される目標層厚で蒸着形成し、その後、上部層としての(Al,Cr)層を、表5に示される条件にて、表7に示される目標層厚で蒸着形成することにより、本発明被覆工具1〜13をそれぞれ製造した。
なお、上記本発明被覆工具のうち、本発明被覆工具2〜7、9〜13については、まず、表6に示される条件で、表7に示される合計目標層厚になるように密着性Ti化合物層を化学蒸着した後、密着性Ti化合物層上に下部層((Ti,Cr)CN層)を化学蒸着で形成した。
また、比較の目的で、硬質被覆層の下部層として、従来TiCN層を、表3に示される条件で、表8に示される目標層厚で蒸着形成し、さらに、上部層としての(Al,Cr)層を、表5に示される条件で、かつ同じく表8に示される目標層厚で蒸着形成することにより従来被覆工具1〜13をそれぞれ製造した。
(下部層の種類、中間層としてのCrN層の有無で、本発明被覆工具と従来被覆工具は硬質被覆層が異なる。)
ついで、上記本発明被覆工具の硬質被覆層について、通常の粉末X線回折装置を用いて2θ−θ法によりCrN層の測定X線回折強度を求めた。X線源にはCuのKα1線を用い、装置付属の解析ソフトウエアによりKα2線からの回折ピークを除去して測定した。なお、本発明の硬質被覆層の一部にTiN層を設ける場合、CrNの(11−21)面の2θ値(42.61度)とTiNの(200)面の2θ値(42.60度)とはほぼ等しいため、両者のX線回折ピークは分離することができない。この場合、TiNの(200)面の回折強度を、(111)面の回折強度との標準X線回折強度における強度比を利用して計算により求め、この値を42.6度近傍の測定回折強度から差し引くことにより、CrN層の(11−21)面の測定X線回折強度を求めた。TiNの標準X線回折強度はICDD PDF No.38−1420に記載された値を採用した。
TiNのI(200)=I(111)×I(200)/I(111)
=I(111)×100/72
CrNのI(11−21)=I[42.6°]−TiNのI(111)×100/72
ついで、上記の本発明被覆工具と従来被覆工具の硬質被覆層の下部層を構成する(Ti,Cr)CN層および従来TiCN層について、電界放出型走査電子顕微鏡を用いて、傾斜角度数分布グラフをそれぞれ作成した。
すなわち、上記傾斜角度数分布グラフは、上記の改質TiCN層および従来TiCN層の表面を研磨面とした状態で、電界放出型走査電子顕微鏡の鏡筒内にセットし、前記研磨面に70度の入射角度で15kVの加速電圧の電子線を1nAの照射電流で、前記表面研磨面の測定範囲内に存在する立方晶結晶格子を有する結晶粒個々に照射して、電子後方散乱回折像装置を用い、30×50μmの領域を0.1μm/stepの間隔で、前記表面研磨面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である{112}面の法線がなす傾斜角を測定し、この測定結果に基づいて、前記測定傾斜角のうち、0〜45度の範囲内にある測定傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分すると共に、各区分内に存在する度数を集計することにより作成した。
この結果得られた各種の(Ti,Cr)CN層および従来TiCN層の傾斜角度数分布グラフにおいて、{112}面が最高ピークを示す傾斜角区分、並びに0〜10度の範囲内の傾斜角区分内に存在する傾斜角度数の傾斜角度数分布グラフ全体の傾斜角度数に占める割合を表7、8にそれぞれ示した。
上記の各種の傾斜角度数分布グラフにおいて、表7に示される通り、本発明被覆工具1〜13の(Ti,Cr)CN層は、いずれも{112}面の測定傾斜角の分布が0〜10度の範囲内の傾斜角区分に最高ピークが現れ、かつ0〜10度の範囲内の傾斜角区分内に存在する傾斜角度数の割合が45%以上である傾斜角度数分布グラフを示すのに対して、表8に示される通り、従来被覆工具1〜13の従来TiCN層は、いずれも{112}面の測定傾斜角の分布が0〜45度の範囲内で不偏的で、最高ピークが存在せず、0〜10度の範囲内の傾斜角区分内に存在する傾斜角度数の割合も30%以下である傾斜角度数分布グラフを示すものであった。
なお、図2は、本発明被覆工具6の(Ti,Cr)CN層の傾斜角度数分布グラフ、図3は、従来被覆工具6の従来TiCN層の傾斜角度数分布グラフをそれぞれ示すものである。
上記と同様にして、本発明被覆工具1〜13と従来被覆工具1〜13の硬質被覆層の上部層を構成する(Al,Cr)層についても、電界放出型走査電子顕微鏡を用いて、傾斜角度数分布グラフをそれぞれ作成した。
表7に示される通り、本発明被覆工具1〜13のすべての(Al,Cr)層について、(0001)面の測定傾斜角の分布が0〜10度の範囲内の傾斜角区分に最高ピークが現れ、かつ0〜10度の範囲内の傾斜角区分内に存在する傾斜角度数の割合が45%以上である傾斜角度数分布グラフを示すのに対して、表8に示されるように、従来被覆工具1〜13の(Al,Cr)層については、0〜10度の範囲内の傾斜角区分に(0001)面の測定傾斜角の分布のピークが必ず現れるわけではなく、また、0〜10度の範囲内の傾斜角区分内に存在する傾斜角度数の割合も常に45%以上となるわけではないことから、従来被覆工具1〜13においては、すぐれた高温強度の(Al,Cr)層が安定的に形成されてはいない。このことから、本発明被覆工具1〜13で、(0001)面配向度の高い六方晶構造のCrN層からなる中間層を介して(Al,Cr)層を蒸着形成したことによって、(Al,Cr)層の(0001)面の0〜10度の度数割合が高められたことがわかる。
なお、図5は、本発明被覆工具6の(Al,Cr)層の傾斜角度分布グラフ、図6は、従来被覆工具6の(Al,Cr)層の傾斜角度分布グラフをそれぞれ示すものである。
さらに、上記の本発明被覆工具1〜13および従来被覆工具1〜13について、これの硬質被覆層の各構成層を電子線マイクロアナライザー(EPMA)およびオージェ分光分析装置を用いて観察(層の縦断面を観察)したところ、前者および後者とも目標組成と実質的に同じ組成を有する層からなることが確認された。また、これらの被覆工具の硬質被覆層の構成層の厚さを、走査型電子顕微鏡を用いて測定(同じく縦断面測定)したところ、いずれも目標層厚と実質的に同じ平均層厚(5点測定の平均値)を示した。
つぎに、上記の各種の被覆工具をいずれも工具鋼製バイトの先端部に固定治具にてネジ止めした状態で、本発明被覆工具1〜13および従来被覆工具1〜13について、
被削材:JIS・SKD5の焼入れ材(HRC51)の長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度: 300 m/min、
切り込み: 0.8 mm、
送り: 0.20 mm/rev、
切削時間: 10 分、
の条件(切削条件Aという)での合金工具鋼の湿式断続高速切削試験(通常の切削速度は、140m/min)、
被削材:JIS・SKT6の焼入れ材(HRC54)の長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度: 250 m/min、
切り込み: 1.2 mm、
送り: 0.25 mm/rev、
切削時間: 10 分、
の条件(切削条件Bという)での合金工具鋼の湿式断続高速切削試験(通常の切削速度は、100m/min)、
被削材:JIS・SUJ2の焼入れ材(HRC52)の長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度: 260 m/min、
切り込み: 0.9 mm、
送り: 0.18 mm/rev、
切削時間: 10 分、
の条件(切削条件Cという)での軸受鋼の湿式断続高速切削試験(通常の切削速度は、130m/min)、
を行い、いずれの切削試験(水溶性切削油使用)でも切刃の逃げ面摩耗幅を測定した。この測定結果を表9に示した。
Figure 2008100321
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表7〜9に示される結果から、本発明被覆工具1〜13では、硬質被覆層の下部層((Ti,Cr)CN層)が、いずれも、{112}面の傾斜角が0〜10度の範囲内の傾斜角区分で最高ピークを示すと共に、前記0〜10度の範囲内の度数割合が45%以上を占める傾斜角度数分布グラフを示し、また、中間層として、基体の接線方向の(0001)面の集合度が高い六方晶の結晶構造を有するCrN層を介在させたことによって、硬質被覆層の上部層((Al,Cr)層)について、(0001)面の傾斜角が、0〜10度の範囲内の傾斜角区分に最高ピークを示すと共に、前記0〜10度の範囲内の度数合計が45%以上を占める傾斜角度数分布グラフを示すようになり、その結果として、切刃に対して大きな負荷がかかる、例えば、合金鋼、軸受鋼の焼入れ材などのような高硬度鋼の高速断続切削加工でも、前記(Ti,Cr)CN層が一段とすぐれた高温強度を有し、また、前記CrN層がすぐれた密着性と接合強度を有し、さらに、前記(Al,Cr)層がすぐれた高温硬さと高温強度を有することによって、硬質被覆層全体としてチッピング発生が著しく抑制され、すぐれた耐摩耗性を示す。
しかるに、硬質被覆層の下部層が、{112}面の測定傾斜角の分布が0〜45度の範囲内で不偏的で、最高ピークが存在しない傾斜角度数分布グラフを示す従来TiCN層で構成された従来被覆工具1〜13においては、高硬度鋼の高速断続切削では硬質被覆層の高温強度不足が原因で、硬質被覆層にチッピング、欠損が発生し、比較的短時間で使用寿命に至ることが明らかである。
上述のように、この発明の被覆工具は、各種鋼や鋳鉄などの通常の条件での連続切削や断続切削は勿論のこと、例えば、合金鋼、軸受鋼の焼入れ材などのような高硬度鋼の、特に高い高温強度が要求される高速断続切削加工でも硬質被覆層がすぐれた耐チッピング性を示し、長期に亘ってすぐれた切削性能を発揮するものであるから、切削装置の高性能化並びに切削加工の省力化および省エネ化、さらに低コスト化に十分満足に対応できるものである。
硬質被覆層の下部層を構成する(Ti,Cr)CN層および従来TiCN層における結晶粒の{112}面の傾斜角の測定範囲を示す概略説明図である。 本発明被覆工具6の硬質被覆層の下部層を構成する(Ti,Cr)CN層の{112}面の傾斜角度数分布グラフである。 従来被覆工具6の硬質被覆層の下部層を構成する従来TiCN層の{112}面の傾斜角度数分布グラフである。 硬質被覆層の上部層を構成する(Al,Cr)層における結晶粒の(0001)面の傾斜角の測定範囲を示す概略説明図である。 本発明被覆工具6の硬質被覆層の上部層を構成する(Al,Cr)層の(0001)面の傾斜角度数分布グラフである。 従来被覆工具6の硬質被覆層の上部層を構成する(Al,Cr)層の(0001)面の傾斜角度数分布グラフである。

Claims (5)

  1. 炭化タングステン基超硬合金または炭窒化チタン基サーメットで構成された工具基体の表面に、
    (a)下部層として、2.5〜15μmの平均層厚を有し、かつ、チタンとクロムの合量に対するクロムの含有割合(Cr/(Ti+Cr))が0.005〜0.05(ただし、原子比)であるチタンとクロムの複合炭窒化物層、
    (b)中間層として、0.1〜3μmの平均層厚を有する六方晶窒化クロムからなり、かつ、X線による結晶構造解析において、六方晶窒化クロムの(hkil)面(但し、i=−(h+k))からの測定回折強度をI(hkil)とし、ICDD PDF No.35−803に記載される標準X線回折強度I(hkil)とI(hkil)との比として計算される相対回折強度I(hkil)=I(hkil)/I(hkil)を、回折面(11−20)、(0002)、(11−21)、(11−22)、(30−30)、(11−23)について求めた場合、I(0002)が最大値を示す六方晶窒化クロム層、
    (c)上部層として、1〜15μmの平均層厚を有し、かつ、アルミニウムとクロムの合量に対するクロムの含有割合(Cr/(Al+Cr))が0.01〜0.10(ただし、原子比)であるアルミニウムとクロムの複合酸化物層、
    以上(a)〜(c)で構成された硬質被覆層を化学蒸着で形成してなる、高硬度鋼の高速断続切削加工で硬質被覆層がすぐれた耐チッピング性を発揮する表面被覆切削工具。
  2. 請求項1記載の表面被覆切削工具において、
    前記(a)のチタンとクロムの複合炭窒化物層からなる下部層は、
    電界放出型走査電子顕微鏡を用い、表面研磨面の測定範囲内に存在する立方晶結晶格子を有する結晶粒個々に電子線を照射して、前記表面研磨面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である{112}面の法線がなす傾斜角を測定し、前記測定傾斜角のうち、0〜45度の範囲内にある測定傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分すると共に、各区分内に存在する度数を集計してなる傾斜角度数分布グラフにおいて、0〜10度の範囲内の傾斜角区分に最高ピークが存在すると共に、前記0〜10度の範囲内に存在する度数の合計が、傾斜角度数分布グラフにおける度数全体の45%以上の割合を占める傾斜角度数分布グラフを示すこと、
    を特徴とする請求項1記載の表面被覆切削工具。
  3. 請求項1記載の表面被覆切削工具において、
    前記(c)のアルミニウムとクロムの複合酸化物層からなる上部層は、
    電界放出型走査電子顕微鏡を用い、表面研磨面の測定範囲内に存在する六方晶結晶格子を有する結晶粒個々に電子線を照射して、前記表面研磨面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(0001)面の法線がなす傾斜角を測定し、前記測定傾斜角のうち、0〜45度の範囲内にある測定傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分すると共に、各区分内に存在する度数を集計してなる傾斜角度数分布グラフにおいて、0〜10度の範囲内の傾斜角区分に最高ピークが存在すると共に、前記0〜10度の範囲内に存在する度数の合計が、傾斜角度数分布グラフにおける度数全体の45%以上の割合を占める傾斜角度数分布グラフを示すこと、
    を特徴とする請求項1記載の表面被覆切削工具。
  4. 請求項1記載の表面被覆切削工具において、
    前記(a)のチタンとクロムの複合炭窒化物層からなる下部層は、
    電界放出型走査電子顕微鏡を用い、表面研磨面の測定範囲内に存在する立方晶結晶格子を有する結晶粒個々に電子線を照射して、前記表面研磨面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である{112}面の法線がなす傾斜角を測定し、前記測定傾斜角のうち、0〜45度の範囲内にある測定傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分すると共に、各区分内に存在する度数を集計してなる傾斜角度数分布グラフにおいて、0〜10度の範囲内の傾斜角区分に最高ピークが存在すると共に、前記0〜10度の範囲内に存在する度数の合計が、傾斜角度数分布グラフにおける度数全体の45%以上の割合を占める傾斜角度数分布グラフを示し、また、
    前記(c)のアルミニウムとクロムの複合酸化物層からなる上部層は、
    電界放出型走査電子顕微鏡を用い、表面研磨面の測定範囲内に存在する六方晶結晶格子を有する結晶粒個々に電子線を照射して、前記表面研磨面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(0001)面の法線がなす傾斜角を測定し、前記測定傾斜角のうち、0〜45度の範囲内にある測定傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分すると共に、各区分内に存在する度数を集計してなる傾斜角度数分布グラフにおいて、0〜10度の範囲内の傾斜角区分に最高ピークが存在すると共に、前記0〜10度の範囲内に存在する度数の合計が、傾斜角度数分布グラフにおける度数全体の45%以上の割合を占める傾斜角度数分布グラフを示すこと、
    を特徴とする請求項1記載の表面被覆切削工具。
  5. 請求項1乃至4記載の表面被覆切削工具において、
    工具基体表面と、前記(a)のチタンとクロムの複合炭窒化物層からなる下部層との間に、0.1〜5μmの合計平均層厚を有し、かつ、Tiの炭化物層、窒化物層、炭窒化物層、炭酸化物層、および炭窒酸化物層のうちの1層以上からなる化学蒸着で形成された密着性Ti化合物層を介在させること、
    を特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の表面被覆切削工具。
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