支持枠を構成するガラス粉末は、下記酸化物換算の質量%表示で、ガラス組成として、Bi2O3 20〜75%、B2O3 8〜35%、ZnO 0〜20%、SiO2 0〜15%、R2O 0〜20%(但し、R2Oは、Li2O、Na2O、K2O、Cs2Oを指す)、Li2O 0〜10%、Na2O 0〜10%、K2O 0〜10%、R’O 0〜40%(但し、R’Oは、MgO、CaO、SrO、BaOを指す)、SrO 0〜25%、BaO 0〜25%を含有する。ガラス粉末のガラス組成を上記のように限定した理由を下記に示す。なお、以下の%表示は、特に限定がある場合を除き、質量%を指す。
Bi2O3は、軟化点を下げるための主要成分であり、必須成分である。その含有量は20〜75%、好ましくは25〜60%、より好ましくは40〜55%である。Bi2O3の含有量が20%より少ないと、ガラスの軟化点が高くなり過ぎ、支持枠の形成に際し、ガラス基板が熱変形しやすくなる。また、Bi2O3の含有量が20%より少ないと、ガラス基板上に支持枠を融着するための温度が高くなり過ぎ、ガラス基板と支持枠を低温で強固に融着し難くなる。一方、Bi2O3の含有量が75%より多いと、ガラスが熱的に不安定になり、溶融時または焼結時にガラスが失透しやすくなる。
B2O3は、ガラスネットワークを形成する成分であり、必須成分である。その含有量は8〜35%、好ましくは10〜30%、より好ましくは15〜25%である。B2O3の含有量が8%より少ないと、ガラスが熱的に不安定になり、溶融時または焼結時にガラスが失透しやすくなる。一方、B2O3の含有量が35%より多いと、ガラスの粘性が高くなり過ぎ、600℃以下の低温で焼結することが困難になる。
ZnOは、溶融時または焼結時のガラスの失透を抑制する効果がある。その含有量は0〜20%、好ましくは1〜15%、より好ましくは1〜9.5%(但し、9.5%は含まない)である。ZnOの含有量が20%より多いと、ガラス組成内のバランスを欠き、逆にガラスの熱的安定性が損なわれ、その結果、ガラスが失透しやすくなる。
Al2O3は、ガラスの耐候性を向上させる成分である。その含有量は0〜7%が好ましく、0〜3%がより好ましい。Al2O3の含有量が7%より多いと、ガラスの軟化点が高くなり過ぎ、600℃以下の低温で支持枠を形成することが困難となる。
SiO2は、ガラスの耐候性を向上させる成分である。その含有量は0〜15%、好ましくは0〜10%、より好ましくは0.1〜5%である。SiO2の含有量が15%より多いと、ガラスの軟化点が高くなり過ぎ、600℃以下の低温で支持枠を形成することが困難となる。
R2Oは、ガラスの軟化点を低下させる成分である。その含有量は0〜20%、好ましくは0〜15%、より好ましくは2〜7%である。R2Oの含有量が20%より多いと、ガラスの熱的安定性が損なわれ、その結果、ガラスが失透しやすくなる。
Li2Oは、ガラスの軟化点を低下させる成分である。その含有量は0〜10%、好ましくは0〜7%、より好ましくは0.1〜5%である。Li2Oの含有量が10%より多いと、ガラスの熱的安定性が損なわれ、その結果、ガラスが失透しやすくなる。また、Li2Oの含有量が10%より多いと、支持枠の形成に際し、ガラス粉末に含まれるLiと高歪点ガラス基板に含まれるアルカリ成分がイオン交換し、高歪点ガラス基板にマイクロクラックが発生しやすくなり、高歪点ガラス基板の機械的強度が低下することに加えて、平面表示装置の気密信頼性を損なうおそれが生じる。
Na2Oは、ガラスの軟化点を低下させる成分である。その含有量は0〜10%、好ましくは0〜7%、より好ましくは0.1〜5%である。Na2Oの含有量が10%より多いと、ガラスの熱的安定性が損なわれ、その結果、ガラスが失透しやすくなる。
K2Oは、ガラスの軟化点を低下させる成分である。その含有量は0〜10%、好ましくは0〜7%、より好ましくは0.1〜5%である。K2Oの含有量が10%より多いと、ガラスの熱的安定性が損なわれ、その結果、ガラスが失透しやすくなる。
なお、Li2O、Na2O、K2Oは、それぞれ0.1%以上含有させると、アルカリ混合効果を享受することができるため、好ましい。
R’Oは、ガラスの熱的安定性を向上させる成分である。その含有量は0〜40%、好ましくは5〜35%、より好ましくは10〜25%である。R’Oの含有量が40%より多いと、ガラス組成のバランスを欠き、逆にガラスの熱的安定性が損なわれ、その結果、ガラスが失透しやすくなる。
MgOは、ガラスの熱的安定性を向上させる成分である。その含有量は0〜15%であり、好ましくは0〜10%であり、より好ましくは0〜7%である。MgOの含有量が15%より多いと、ガラス組成内のバランスを欠き、逆にガラスの熱的安定性が損なわれ、その結果、ガラスが失透しやすくなる。また、ガラスの熱的安定性を向上させる観点から、MgOを含有させる場合、その含有量を0.1〜3%とするのが好ましい。
CaOは、ガラスの熱的安定性を向上させる成分である。その含有量は0〜15%であり、好ましくは0〜10%であり、より好ましくは0〜7%である。CaOの含有量が15%より多いと、ガラス組成内のバランスを欠き、逆にガラスの熱的安定性が損なわれ、その結果、ガラスが失透しやすくなる。また、ガラスの熱的安定性を向上させる観点から、CaOを含有させる場合、その含有量を0.1〜5%とするのが好ましい。
SrOは、ガラスの熱的安定性を向上させる成分である。その含有量は0〜25%であり、好ましくは3〜20%であり、より好ましくは5〜15%である。SrOの含有量が25%より多いと、ガラス組成内のバランスを欠き、逆にガラスの熱的安定性が損なわれ、その結果、ガラスが失透しやすくなる。また、ガラスの熱的安定性を向上させる観点から、SrOを含有させる場合、その含有量を1%以上とするのが好ましい。
BaOは、ガラスの熱的安定性を向上させる成分である。その含有量は0〜25%であり、好ましくは3〜20%であり、より好ましくは5〜15%である。BaOの含有量が25%より多いと、ガラス組成内のバランスを欠き、逆にガラスの熱的安定性が損なわれ、その結果、ガラスが失透しやすくなる。また、ガラスの熱的安定性を向上させる観点から、BaOを含有させる場合、その含有量を1〜15%とするのが好ましい。
ガラス粉末は、ガラス組成中に、上記成分以外にも、下記の成分を含有させることができる。
CuOは、溶融時または焼結時のガラスの失透を抑制する効果があり、5%まで添加することができる。CuOの含有量が5%より多いと、ガラス組成内のバランスを欠き、逆にガラスが失透しやすくなる。また、ガラスの熱的安定性を向上させる観点から、CuOを微量添加するのが好ましく、具体的には、CuOを含有させる場合、その含有量を0.01%以上とするのが好ましい。
Fe2O3は、溶融時または焼結時のガラスの失透を抑制する効果があり、その含有量は0〜3%が好ましく、0〜1.5%がより好ましい。Fe2O3の含有量が3%より多いと、ガラス組成内のバランスを欠き、逆にガラスの熱的安定性が損なわれ、その結果、ガラスが失透しやすくなる。また、ガラスの熱的安定性を向上させる観点から、Fe2O3を微量添加するのが好ましく、具体的には、Fe2O3を含有させる場合、その含有量を0.01%以上とするのが好ましい。
CeO2は、溶融時または焼結時のガラスの失透を抑制する効果があり、その含有量は0〜5%が好ましく、0〜2%がより好ましく、0〜1%が更に好ましい。CeO2の含有量が5%より多いと、ガラスの軟化点が上昇し、ガラスの融着性が損なわれやすくなる。また、ガラスの熱的安定性を向上させる観点から、CeO2を微量添加するのが好ましく、具体的には、CeO2を含有させる場合、その含有量を0.01%以上とするのが好ましい。
Sb2O3は、ガラスの失透を抑制するための成分であり、その含有量は0〜5%が好ましく、0〜2%がより好ましく、0〜1%が更に好ましい。Sb2O3は、ビスマス系ガラスのネットワーク構造を安定化させる効果があり、ビスマス系ガラスにおいて、Sb2O3を適宜添加することによって、Bi2O3の含有量が多い場合であっても、ガラスの熱的安定性の低下を抑制することができる。ただし、Sb2O3の含有量が5%より多いと、ガラス組成内のバランスを欠き、逆にガラスの熱的安定性が損なわれ、その結果、ガラスが失透しやすくなる。また、ガラスの熱的安定性を向上させる観点から、Sb2O3を微量添加するのが好ましく、具体的には、Sb2O3を含有させる場合、その含有量を0.05%以上とするのが好ましい。
WO3は、ガラスの失透を抑制するための成分であり、その含有量は0〜10%が好ましく、0〜2%がより好ましい。ビスマス系ガラスにおいて、ガラスの軟化点を下げるためには、Bi2O3の含有量を多くする必要があるが、Bi2O3の含有量が多くなると、焼結時にガラスから結晶が析出して、ガラスの融着性が阻害される傾向がある。特に、Bi2O3の含有量が多い場合、その傾向が顕著になる。しかし、ビスマス系ガラスにおいて、WO3を適宜添加すれば、Bi2O3の含有量が多い場合であっても、ガラスの熱的安定性の低下を抑制することができる。ただし、WO3の含有量が10%より多いと、ガラス組成内のバランスを欠き、逆にガラスの熱的安定性が損なわれ、その結果、ガラスが失透しやすくなる。
In2O3、Ga2O3は必須成分ではないが、ガラスの失透を抑制するための成分であり、その含有量は合量で0〜5%が好ましく、0〜3%がより好ましい。In2O3、Ga2O3は、ビスマス系ガラスのネットワーク構造を安定化させる効果があり、ビスマス系ガラスにおいて、In2O3、Ga2O3を適宜添加すれば、Bi2O3の含有量が多い場合であっても、ガラスの熱的安定性の低下を抑制することができる。ただし、In2O3、Ga2O3の含有量が合量で5%より多いと、ガラス組成内のバランスを欠き、逆にガラスの熱的安定性が損なわれ、その結果、ガラスが失透しやすくなる。なお、In2O3の含有量は0〜1%がより好ましく、Ga2O3の含有量は0〜0.5%がより好ましい。
P2O5は、溶融時の失透を抑制する成分であるが、添加量が1%よりも多いと、溶融時にガラスが分相しやすいため好ましくない。
MoO3、La2O3、Y2O3およびGd2O3は、溶融時にガラスの分相を抑制する成分であるが、これらの合量が7%よりも多いと、ガラスの軟化点が高くなり、600℃以下の温度で焼結しにくくなる。
また、その他の成分であっても、ガラスの特性を損なわない範囲で15%まで添加することが可能である。
本発明に係る支持枠は、ガラス粉末と耐火性フィラー粉末を含有する粉末材料の焼結物であることが好ましい。ガラス基板と支持枠の熱膨張係数が大きく異なっていると、支持枠を形成する際、ガラス基板と粉末材料の熱収縮挙動が相違し、結果として、支持枠の形成後にガラス基板に反りが生じるおそれがある。また、ガラス粉末と耐火性フィラー粉末を混合して、粉末材料とすれば、支持枠の熱膨張係数を、例えば高歪点ガラス基板(熱膨張係数85×10-7/℃)、ソーダガラス基板(熱膨張係数90×10-7/℃)等の熱膨張係数に整合させることができる。支持枠の熱膨張係数α2は、ガラス基板の熱膨張係数α1に対して、同等または低く設計するのが好ましい。具体的には、ガラス基板の熱膨張係数から支持枠の熱膨張係数を減じた値(α1−α2)が−3×10-7/℃〜15×10-7/℃(好ましくは0〜15×10-7/℃、より好ましくは7〜13×10-7/℃)にすれば、支持枠の形成後に、ガラス基板および支持枠に残留する応力を低減して、ガラス基板および支持枠の応力破壊を防ぐことができる。また、(α1−α2)を−3×10-7/℃〜15×10-7/℃(好ましくは0〜15×10-7/℃、より好ましくは7〜13×10-7/℃)にすれば、支持枠の形成後にガラス基板の反りを低減、具体的には、ガラス基板の反りを50μm以下にすることができる。
耐火性フィラー粉末は、熱膨張係数の調整以外にも、例えば、支持枠の形状維持、機械的強度の向上のために添加することもできる。
ガラス粉末に耐火性フィラー粉末を混合する場合、その混合割合は、ガラス粉末が40〜95体積%、耐火性フィラー粉末5〜60体積%であることが好ましい。両者の割合をこのように規定した理由は、耐火性フィラー粉末が5体積%より少ないと、上記した効果が得られにくい傾向があり、55体積%より多いと、ガラス粉末の含有量が相対的に少なくなるため、緻密な支持枠を形成し難くなるからである。
耐火性フィラー粉末は、ビスマス系ガラス粉末に添加しても熱的安定性を低下させない程度に反応性が低いことが要求され、例えば、熱膨張係数が低く、機械的強度が高いことが要求される。耐火性フィラー粉末として、種々の材料が使用可能であるが、具体的には、アルミナ、コーディエライト、ジルコン、ウイレマイト、ジルコニア、酸化チタン、酸化錫、酸化ニオブ、リン酸ジルコニウム、チタン酸アルミニウム、β−ユークリプタイト、β−スポジュメン、β−石英固溶体、ムライト、[AB2(MO4)3]の基本構造をもつ化合物、
A:Li、Na、K、Mg、Ca、Sr、Ba、Zn、Cu、Ni、Mn等
B:Zr、Ti、Sn、Nb、Al、Sc、Y等
M:P、Si、W、Mo等
若しくはこれらの混合物を目的に応じて適宜選択し使用すればよい。
支持枠の形成に供される粉末材料に、耐火性フィラーとしてアルミナを添加すれば、支持枠の機械的強度を向上させることができ、その含有量は1〜20体積%が好ましく、3〜18体積%がより好ましく、5〜13体積%が更に好ましい。アルミナの含有量が1体積%より少ないと、支持枠の機械的強度が低下し、封着ガラスと支持枠の界面でクラックが発生しやすくなり、平面表示装置等の気密信頼性が損なわれやすくなる。一方、アルミナの含有量が20体積%より多いと、支持枠の熱膨張係数が大きくなり過ぎ、ガラス基板等の熱膨張係数と整合しにくくなり、支持枠の形成後にガラス基板等にクラックが発生しやすくなる。
支持枠の形成に供される粉末材料に、耐火性フィラーとしてコーディエライトを添加すれば、粉末材料の熱的安定性を維持しながら、支持枠の熱膨張係数を低下させることができ、その含有量は1〜40体積%が好ましく、10〜40体積%がより好ましく、15〜35体積%が更に好ましい。コーディエライトの含有量が1体積%より少ないと、支持枠の熱膨張係数が大きくなり過ぎ、ガラス基板等と支持枠の熱膨張係数が整合しにくくなり、支持枠の形成後、ガラス基板等と支持枠の界面にクラックが発生しやすくなる。一方、コーディエライトの含有量が40体積%より多いと、支持枠の熱膨張係数が小さくなり過ぎ、支持枠の形成後にガラス基板等にクラックが発生しやすくなるとともに、ガラス粉末の含有量が相対的に少なくなるため、緻密な支持枠を形成しにくくなる。
耐火性フィラー粉末は、アルミナ、酸化亜鉛、ジルコン、チタニア、ジルコニア等の微粉末で被覆すると、ビスマス系ガラス粉末と耐火性フィラー粉末との間での反応を抑制できるため好ましい。
本発明の平面表示装置において、支持枠は、額縁形状であることが好ましい。支持枠を額縁形状にすれば、平面表示装置の側面フレームとして使用することができる。本発明に係る支持枠は、非晶質のガラス粉末を含有する粉末材料を焼結して作製することから、支持枠を容易に額縁形状にすることができる。例えば、粉末材料をペースト化し、ディスペンサー、或いはスクリーン印刷機等の塗布機で額縁形状になるようにペーストを塗布し、グレーズ、焼結工程を経て、額縁形状の支持枠を形成することができる。
本発明の平面表示装置において、支持枠は、ガラス基板の外周縁上に沿って形成するのが好ましい。このように支持枠を形成すれば、平面表示装置の有効画面を大きくすることができ、平面表示装置の省スペース化、軽量化を図ることができる。
本発明の平面表示装置において、支持枠の頂端部の曲率半径は3.5mm以下が好ましく、2.5mm以下がより好ましい。支持枠の焼結温度を調節、或いは支持枠中の耐火性フィラー粉末の含有量を調節すれば、支持枠の頂端部の曲率半径を上記の値にすることができる。支持枠の頂端部の曲率半径が3.5mmより大きいと、支持枠に低融点封着材料を塗布する面積が小さくなり過ぎ、支持枠とガラス基板等の封着強度を高めることが困難になる。また、支持枠の頂端部の曲率半径は0.1mm以上が好ましく、0.5mm以上がより好ましい。支持枠の頂端部の曲率半径が0.1mmより小さいと、支持枠の焼結温度を低下させなければならず、支持枠とガラス基板等を十分に融着させることが困難になり、支持枠とガラス基板等の接着強度が損なわれる。
平面表示装置は、種々の熱処理工程を経ることから、支持枠には、耐熱性(熱処理で軟化変形し、寸法変化が生じないこと)が要求される。具体的には、平面表示装置は、低融点封着材料を使用することから、支持枠は、低融点封着材料が流動する温度域、例えば430℃程度で軟化変形しないことが要求される。したがって、支持枠の作製に供される粉末材料の軟化点は、490〜560℃が好ましく、500〜550℃がより好ましく、510〜540℃が更に好ましい。支持枠の軟化点を上記範囲とすれば、高歪点ガラス基板の歪点以下の温度(例えば、570℃以下)でガラスを焼結させることができ、寸法精度が高い支持枠を形成することが可能となる。また、粉末材料の軟化点を上記範囲とすれば、高歪点ガラス基板の歪点以下の温度で焼結させることができると同時に、ガラス基板と支持枠を強固に融着させることができる。さらに、通常、支持枠を形成した後に490℃以上の温度で熱処理することはないため、粉末ガラスの軟化点を上記範囲とすれば、後の熱処理工程(封着工程、真空排気工程)で支持枠が軟化変形し、寸法変化が生じ難い。粉末材料の軟化点が490℃未満であると、粉末材料の焼結時にガラスが軟化変形しやすくなり、支持枠の寸法安定性を担保し難くなる。また、粉末材料の軟化点が560℃より大きいと、高歪点ガラスの歪点以下の温度でガラスが焼結し難くなるとともに、ガラス基板と支持枠が強固に融着されず、平面表示装置の気密信頼性を確保し難くなる。
本発明の平面表示装置において、支持枠の熱膨張係数は、67〜86×10-7/℃が好ましく、69〜84×10-7/℃がより好ましく、72〜77×10-7/℃が更に好ましい。支持枠の熱膨張係数を上記範囲とすれば、支持枠の形成の際に、高歪点ガラス基板と粉末材料の熱収縮挙動を整合させることができ、結果として、支持枠の形成後に高歪点ガラス基板の反りを50μm以下まで低減することができる。支持枠の熱膨張係数が67×10-7/℃未満であると、耐火性フィラー粉末の含有量が増加することに起因して、支持枠の緻密性が損なわれるおそれがあると同時に、高歪点ガラス基板に不当な引張応力が残留するおそれがある。支持枠の熱膨張係数が86×10-7/℃より大きいと、高歪点ガラス基板に不当な圧縮応力が残留し、平面表示装置が熱衝撃等で破壊する確率が高まる。
本発明の平面表示装置において、支持枠の抗折強度は、80MPa以上が好ましく、84MPa以上がより好ましく、86MPa以上が更に好ましく、88MPa以上が特に好ましい。本発明者の調査により、支持枠の抗折強度は、支持枠と低融点封着材料の封着強度に影響を与えることが明らかになった。支持枠の抗折強度が80MPaより小さいと、機械的衝撃、熱衝撃等により、支持枠と低融点封着材料の界面にクラックが発生しやすくなる。
支持枠の作製に供される粉末材料は、ビークルと均一に混練し、ペースト加工すると取り扱いやすい。ビークルは、主に有機溶媒と樹脂とからなり、樹脂はペーストの粘性を調整する目的で添加される。また、必要に応じて、界面活性剤、増粘剤等を添加することもできる。作製されたペーストは、ディスペンサーやスクリーン印刷機等の塗布機を用いて塗布される。
有機溶媒としては、N、N’−ジメチルホルムアミド(DMF)、α−ターピネオール、高級アルコール、γ−ブチルラクトン(γ−BL)、テトラリン、ブチルカルビトールアセテート、酢酸エチル、酢酸イソアミル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ベンジルアルコール、トルエン、3−メトキシ−3−メチルブタノール、水、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレンカーボネート、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N−メチル−2−ピロリドン等が使用可能である。特に、α−ターピネオールは、高粘性であり、樹脂等の溶解性も良好であるため、好ましい。
樹脂としては、アクリル樹脂、エチルセルロ−ス、ポリエチレングリコール誘導体、ニトロセルロース、ポリメチルスチレン、ポリエチレンカーボネート、メタクリル酸エステル等が使用可能である。特に、アクリル樹脂、エチルセルロースは、高粘性であるとともに、熱分解性が良好であるため、好ましい。
支持枠は、以下のような方法で形成される。まずスクリーン印刷機やディスペンサー等を用いて、上記のペーストをガラス基板上に塗布し、所定の膜厚の塗布層を形成する。そして、この塗布層を乾燥させ、グレーズした後、焼結させることにより、ガラス基板上に支持枠を形成する。特に、ディスペンサーを用いて、支持枠を形成すれば、一回の塗布で額縁状の支持枠を形成できるため、製造効率の点で好ましい。
また、支持枠の形成方法として、粉末材料を所定形状のタブレット(焼結体)に加工し、これをガラス基板に融着する方法を採用することもできる。この方法を採用すれば、上述のディスペンサー塗布機を用いた方法よりも寸法精度が高い支持枠を形成することができる。さらに、支持枠の形成方法として、支持枠形成用材料を所定のシート状に加工し、これをガラス基板上に支持枠の所定形状になるまで積層し、その後焼結する方法を採用することもできる。この方法を採用すれば、上述のディスペンサー塗布機を用いた方法よりも寸法精度が高い支持枠を形成することができる。
本発明の平面表示装置において、低融点封着材料は、平面表示装置の装置内部の気密性を確保するため、ガラス粉末を含有することが好ましい。ガラス粉末として、種々のガラス組成系のガラス粉末が使用可能である。例えば、ビスマス系ガラス、SnO−P2O5系ガラス、CuO−P2O5系ガラス、PbO−B2O3系ガラス、V2O5系ガラス、Ag2O−P2O5系ガラス等のガラス粉末が使用可能である。特に、ビスマス系ガラスは、熱的安定性が良好であり、低融点であるため、好ましい。なお、低融点封着材料は、ガラス粉末を含有し、必要に応じて耐火性フィラー粉末を混合して使用する。
低融点封着材料を構成するガラス粉末は、ガラス組成として、下記酸化物換算の質量%表示で、Bi2O3 67〜90%、B2O3 2〜12%、Al2O3 0〜5%、ZnO 1〜20%、BaO 0〜10%、CuO 0〜5%、Fe2O3 0〜2%、CeO2 0〜5%、Sb2O3 0〜5%を含有することが好ましい。ガラス粉末のガラス組成を上記のように限定した理由を下記に示す。なお、以下の%表示は、特に限定がある場合を除き、質量%を指す。
Bi2O3は、軟化点を下げるための主要成分である。その含有量は67〜90%、好ましくは70〜89%、より好ましくは72〜88%、更に好ましくは76〜86%である。Bi2O3の含有量が67%より少ないと、ガラスの軟化点が高くなり過ぎ、500℃以下の低温で封着しにくくなる。一方、Bi2O3の含有量が90%より多いと、ガラスが熱的に不安定になり、溶融時または焼成時にガラスが失透しやすくなる。
B2O3は、ビスマス系ガラスのガラスネットワークを形成する成分であり、必須成分である。その含有量は2〜12%、好ましくは3〜10%、より好ましくは4〜10%、更に好ましくは5〜9%である。B2O3の含有量が5%より少ないと、ガラスが熱的に不安定になり、溶融時または焼成時にガラスが失透しやすくなる。一方、B2O3の含有量が12%より多いと、ガラスの粘性が高くなり過ぎ、500℃以下の低温で封着することが困難になる。
Al2O3は、ガラスの耐候性を向上させる成分である。その含有量は0〜5%、好ましくは0〜2%である。Al2O3の含有量が5%より多いと、ガラスの軟化点が高くなり過ぎ、500℃以下の低温で封着し難くなる。
SiO2は、ガラスの耐候性を向上させる成分である。その含有量は0〜10%、好ましくは0〜3%である。SiO2の含有量が10%より多いと、ガラスの軟化点が高くなり過ぎ、500℃以下の低温で封着し難くなる。
ZnOは、溶融時または焼成時のガラスの失透を抑制する効果がある。その含有量は1〜20%、好ましくは3〜18%、より好ましくは4〜17%、更に好ましくは5〜15%である。ZnOの含有量が1%より少ないと、溶融時または焼成時のガラスの失透を抑制する効果が得られにくくなる。ZnOの含有量が20%より多いと、ガラス組成内のバランスを欠き、逆にガラスの熱的安定性が損なわれ、その結果、ガラスが失透しやすくなる。
BaO、SrO、MgO、CaOはガラスの溶融時または焼成時の失透を抑制する効果がある。これらの成分は、合量で15%まで含有させることができる。これらの成分の合量が15%より多いと、ガラスの軟化点が高くなり過ぎ、500℃以下の低温で封着することが困難になる。
BaOの含有量は0〜10%が好ましく、0〜8%がより好ましい。BaOの含有量が10%より多いと、ガラス組成内のバランスを欠き、逆にガラスの熱的安定性が損なわれ、その結果、ガラスが失透しやすくなる。また、ガラスの熱的安定性を向上させる観点から、BaOの含有量を1%以上とするのが好ましい。
SrO、MgO、CaOのそれぞれの含有量は0〜5%が好ましく、0〜2%がより好ましい。各成分の含有量が5%より多いと、ガラスが失透や分相しやすくなる。
CuOは、溶融時または焼成時のガラスの失透を抑制する効果があり、5%まで添加することができる。CuOの含有量が5%より多いと、ガラスが失透しやすくなり、ガラスの流動性が損なわれやすくなる。また、ガラスの熱的安定性を向上させる観点から、CuOを微量添加する場合、具体的には、CuOの含有量を0.01%以上とするのが好ましい。
Fe2O3は、溶融時または焼成時のガラスの失透を抑制する効果があり、その含有量は0〜2%、好ましくは0〜1.5%である。Fe2O3の含有量が2%より多いと、ガラス組成内のバランスを欠き、逆にガラスの熱的安定性が損なわれ、その結果、ガラスが失透しやすくなる。また、ガラスの熱的安定性を向上させる観点から、Fe2O3を微量添加するのが好ましく、具体的には、Fe2O3を含有させる場合、その含有量を0.01%以上とするのが好ましい。
CeO2は、溶融時または焼成時のガラスの失透を抑制する効果があり、その含有量は0〜5%、好ましくは0〜2%、より好ましくは0〜1%である。CeO2の含有量が5%より多いと、ガラスが失透しやすくなり、ガラスの流動性が損なわれやすくなる。また、ガラスの熱的安定性を向上させる観点から、CeO2を微量添加するのが好ましく、具体的には、CeO2を含有させる場合、その含有量を0.01%以上とするのが好ましい。
Sb2O3は、ガラスの失透を抑制するための成分であり、その含有量は0〜5%、好ましくは0〜2%、より好ましくは0〜1%である。Sb2O3は、ビスマス系ガラスのネットワーク構造を安定化させる効果があり、ビスマス系ガラスにおいて、Sb2O3を適宜添加することによって、Bi2O3の含有量が多い場合、例えば76%以上であっても、ガラスの熱的安定性の低下を抑止することができる。ただし、Sb2O3の含有量が5%より多いと、ガラス組成内のバランスを欠き、逆にガラスの熱的安定性が損なわれ、その結果、ガラスが失透しやすくなる。また、ガラスの熱的安定性を向上させる観点から、Sb2O3を微量添加するのが好ましく、具体的には、Sb2O3を含有させる場合、その含有量を0.05%以上とするのが好ましい。
ガラス粉末は、ガラス組成中に、上記成分以外にも、下記の成分を含有させることができる。
WO3は、ガラスの失透を抑制するための成分であり、その含有量は0〜10%、好ましくは0〜2%である。ビスマス系ガラスにおいて、ガラスの軟化点を下げるためには、Bi2O3の含有量を多くする必要があるが、Bi2O3の含有量が多くなると、焼成時にガラスから結晶が析出して、ガラスの流動性が阻害される傾向がある。特に、Bi2O3の含有量が多い場合、例えば76%以上の場合、その傾向が顕著になる。しかし、ビスマス系ガラスにおいて、WO3を適宜添加することによって、Bi2O3の含有量が76%以上であっても、ガラスの熱的安定性の低下を抑止することができる。ただし、WO3の含有量が10%より多いと、ガラス組成内のバランスを欠き、逆にガラスの熱的安定性が損なわれ、その結果、ガラスが失透しやすくなる。
In2O3、Ga2O3は必須成分ではないが、ガラスの失透を抑制するための成分であり、その含有量は合量で0〜5%、好ましくは0〜3%である。In2O3、Ga2O3は、ビスマス系ガラスのネットワーク構造を安定化させる効果があり、ビスマス系ガラスにおいて、In2O3、Ga2O3を適宜添加することによって、Bi2O3の含有量が多い場合、例えば76%以上であっても、ガラスの熱的安定性の低下を抑止することができる。ただし、In2O3、Ga2O3の含有量が合量で5%より多いと、ガラス組成内のバランスを欠き、逆にガラスの熱的安定性が損なわれ、その結果、ガラスが失透しやすくなる。なお、In2O3の含有量は0〜1%がより好ましく、Ga2O3の含有量は0〜0.5%がより好ましい。
Li、Na、KおよびCsの酸化物は、ガラスの軟化点を低くする成分であるが、溶融
時にガラスの失透を促進する作用を有するため合量で2%以下であることが好ましい。
P2O5は、溶融時の失透を抑制する成分であるが、添加量が1%より多いと、溶融時にガラスが分相しやすいため好ましくない。
MoO3、La2O3、Y2O3およびGd2O3は、溶融時にガラスの分相を抑制する成分であるが、これらの合量が3%よりも多いと、ガラスの軟化点が高くなり、500℃以下の温度で焼成しにくくなる。
また、その他の成分であっても、ガラスの特性を損なわない範囲で15%まで添加することが可能である。
以上のガラス組成を有するビスマス系ガラスは、500℃以下の温度で良好な流動性を示す非晶質のガラスであり、30〜250℃における熱膨張係数が約90〜120×10-7/℃である。
ガラス粉末と耐火性フィラー粉末とを混合して複合材料とし、これを低融点封着材料として用いれば、封着材料の熱膨張係数を、例えば、高歪点ガラス(85×10-7/℃)、ソーダガラス基板(90×10-7/℃)等の熱膨張係数に整合させることができる。低融点封着材料の熱膨張係数は、ガラス基板の熱膨張係数に対して、同等または低く設計するのが好ましい。具体的には、ガラス基板の熱膨張係数から低融点封着材料の熱膨張係数を減じた値が−3×10-7/℃〜15×10-7/℃となるように設計するのが好ましい。このようにすれば、封着工程後に、ガラス基板および低融点封着材料に残留する応力を低減して、ガラス基板および低融点封着材料の応力破壊を防ぐことができる。ガラス基板と低融点封着材料の熱膨張係数が大きく異なっていると、封着工程でガラス基板と低融点封着材料の熱収縮挙動が相違し、結果として、封着工程後にガラス基板に反りが生じるおそれがある。本発明者の調査によると、ガラス基板の熱膨張係数から低融点封着材料の熱膨張係数を減じた値を−3×10-7/℃〜15×10-7/℃にすれば、封着工程後のガラス基板の反りを低減、具体的には、ガラス基板の反りを50μm以下にすることができる。なお、熱膨張係数の調整以外にも、例えば機械的強度の向上のために耐火性フィラー粉末を添加することもできる。
耐火性フィラー粉末を混合する場合、その混合割合は、ビスマス系ガラス粉末が45〜95体積%、耐火性フィラー粉末が5〜55体積%であることが好ましい。両者の割合をこのように規定した理由は、耐火性フィラー粉末が5体積%よりも少ないと、上記した効果が得られにくい傾向があり、55体積%より多いと、低融点封着材料の流動性が悪くなり、平面表示装置の気密信頼性が損なわれるおそれがある。
耐火性フィラー粉末は、ビスマス系ガラス粉末に添加しても、熱的安定性を低下させない程度に反応性が低いことが要求され、熱膨張係数が低く、機械的強度が高いことも要求される。耐火性フィラー粉末として、種々の材料が使用可能であるが、具体的には、コーディエライト、ジルコン、ジルコニア、酸化錫、チタン酸アルミニウム、石英、β−スポジュメン、ムライト、チタニア、石英ガラス、β−ユークリプタイト、β−石英固溶体、ウイレマイト、[AB2(MO4)3]の基本構造をもつ化合物、
A:Li、Na、K、Mg、Ca、Sr、Ba、Zn、Cu、Ni、Mn等
B:Zr、Ti、Sn、Nb、Al、Sc、Y等
M:P、Si、W、Mo等
若しくはこれらの混合物を目的に応じて適宜選択し使用すればよい。特に、コーディエライトは、ビスマス系ガラスの熱的安定性を低下させる傾向が最も小さいため、好ましい。また、ウイレマイトは、ビスマス系ガラスの流動性を低下させる傾向が最も小さいため、好ましい。さらに、コーディエライトおよびウイレマイトは、低膨張であり、機械的強度にも優れる特長を有している。なお、酸化錫は、低融点封着材料の機械的強度を向上させる目的で適量添加することが好ましい。
また、耐火性フィラー粉末は、アルミナ、酸化亜鉛、ジルコン、チタニア、ジルコニア等の微粉末で被覆すると、ガラス粉末と耐火性フィラー粉末の反応を調整できるため好ましい。
低融点封着材料は、ビークルを均一に混練し、ペーストに加工すると取り扱いやすい。ビークルは、主に有機溶媒と樹脂とからなり、樹脂はペーストの粘性を調整する目的で添加される。また、必要に応じて、界面活性剤、増粘剤等を添加することもできる。作製されたペーストは、ディスペンサーやスクリーン印刷機等の塗布機を用いて塗布される。
有機溶媒としては、N、N’−ジメチルホルムアミド(DMF)、α−ターピネオール、高級アルコール、γ−ブチルラクトン(γ−BL)、テトラリン、ブチルカルビトールアセテート、酢酸エチル、酢酸イソアミル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ベンジルアルコール、トルエン、3−メトキシ−3−メチルブタノール、水、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレンカーボネート、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N−メチル−2−ピロリドン等が使用可能である。特に、α−ターピネオールは、高粘性であり、樹脂等の溶解性も良好であるため、好ましい。
樹脂としては、アクリル樹脂、エチルセルロ−ス、ポリエチレングリコール誘導体、ニトロセルロース、ポリメチルスチレン、ポリエチレンカーボネート、メタクリル酸エステル等が使用可能である。特に、アクリル樹脂、ニトロセルロースは、熱分解性が良好であるため、好ましい。
本発明の平面表示装置において、支持枠と低融点封着材料に用いられるガラス粉末がともにビスマス系ガラスであれば、支持枠と低融点封着材料の封着強度を飛躍的に高めることができ、支持枠とガラス基板が剥離する事態を有効に回避することができる。
本発明の平面表示装置において、支持枠の形成に供される粉末材料の軟化点をT1、低融点封着材料の軟化点をT2としたとき、(T1−T2)>70℃の関係を満たすことが好ましく、(T1−T2)>90℃の関係を満たすことがより好ましい。(T1−T2)の値が70℃以下であると、粉末材料と低融点封着材料の軟化点の差が小さくなるため、低融点封着材料の軟化流動域で支持枠が軟化変形し、封着工程で支持枠の寸法精度が損なわれる。一方、ガラス基板の歪点以下の温度で緻密な支持枠を形成する観点から、(T1−T2)の値を150℃以下とするのが好ましい。
本発明の平面表示装置において、ガラス基板の熱膨張係数をα1、支持枠の熱膨張係数をα2、低融点封着材料の熱膨張係数をα3としたとき、−3×10-7/℃<(α1−α2)<15×10-7/℃、−3×10-7/℃<(α1−α3)<15×10-7/℃の関係を満たすことが好ましく、3×10-7/℃<(α1−α2)<15×10-7/℃、3×10-7/℃<(α1−α3)<15×10-7/℃の関係を満たすことがより好ましい。(α1−α2)、(α1−α3)の値が上記範囲から外れると、平面表示装置の構成部材に不当な応力が残留し、装置内部の気密性を担保し難くなる。具体的には、(α1−α2)の値が−3×10-7/℃以下であると、支持枠に不当な引張応力が残留し、支持枠が応力破壊しやすくなる。(α1−α2)の値が15×10-7/℃以上であると、ガラス基板に不当な引張応力が残留し、ガラス基板が応力破壊しやすくなる。(α1−α3)の値が−3×10-7/℃以下であると、低融点封着材料に不当な引張応力が残留し、支持枠が応力破壊しやすくなる。(α1−α3)の値が15×10-7/℃以上であると、ガラス基板に不当な引張応力が残留し、ガラス基板が応力破壊しやすくなる。
本発明の平面表示装置において、ガラス基板の反り量は、50μm以下が好ましく、40μm以下がより好ましい。ガラス基板の反り量が50μmより大きいと、前面ガラス基板と背面ガラス基板の間隔が局所的に相違し、平面表示装置の画像特性が劣化するおそれがある。
本発明の平面表示装置において、ガラス基板の最大残留応力は、10MPa以下が好ましく、7MPa以下がより好ましい。ガラス基板の最大残留応力が10MPaより大きいと、ガラス基板が機械的衝撃により破壊する確率が高くなることに加えて、平面表示装置の画像特性が劣化しやすくなる。
本発明の平面表示装置において、ガラス基板に引張応力が0.1〜7MPa残留していることが好ましく、0.5〜4MPa残留していることがより好ましい。本発明者の調査により、支持枠の抗折強度は、支持枠と低融点封着材料の封着強度に影響を与えることが明らかになった。ガラス基板の残留応力が上記範囲内であると、機械的衝撃および熱衝撃等により、ガラス基板と支持枠の界面にクラックが発生しにくくなる。
本発明の平面表示装置は、PDP、FED、無機EL、蛍光表示管のいずれかであることが好ましい。これらの平面表示装置は、支持枠の寸法精度を高める必要性が高く、高画質化、製造効率の向上の要求が大きいため、本発明を適用する実益が大きい。本発明の平面表示装置は、FEDであることがより好ましい。本発明によれば、支持枠の寸法精度を向上できることから、前面ガラス基板と背面ガラス基板の間隔を均一にすることができ、FEDの装置内部で前面板と背面板の間に印加される加速電圧にばらつきが生じたり、蛍光体に衝突する電子の速度が変化したりして、FEDの輝度特性に悪影響を及ぼす事態が生じ難い。また、本発明に係る支持枠は、機械的強度に優れることから、FEDの装置内部が高真空状態であっても、支持枠が衝撃破壊し難く、FEDの信頼性を確保することができる。本発明でいうFEDには、各種の電子放出素子を有する各種形式のFEDがすべて含まれる点は言うまでもない。
支持枠の形成に供される粉末材料および低融点封着材料を示した上で、実施例に基づいて、本発明の平面表示装置を詳細に説明する。
(支持枠)
支持枠の形成に供される粉末材料について説明する。表1、2に記載の各試料a〜jは、次のようにして調製した。
まず、表1、2に示したガラス組成となるように各種酸化物、炭酸塩等の原料を調合したガラスバッチを準備し、これを白金坩堝に入れて1000〜1200℃で2時間溶融した。次に、溶融ガラスの一部を測定用サンプルとしてステンレス製の金型に流し出し、その他の溶融ガラスは、水冷ローラーにより薄片状に成形した。なお、金型に流し出した測定用サンプルは、成形後に所定の徐冷処理(アニール)を行った。最後に、薄片状のガラスをボールミルにて粉砕後、目開き105μmの篩いを通過させて、平均粒子径約10μmの各試料を得た。
以上の試料を用いて、ガラス転移点、屈伏点、熱膨張係数および失透状態を評価した。その結果を表1、2に示す。
ガラス転移点、屈伏点および熱膨張係数は、TMA装置により求めた。熱膨張係数は、30〜300℃の温度範囲にて測定した。
表1、2の試料a〜jは、粉末加圧成形体を焼成炉で560℃20分保持した後、光学顕微鏡(倍率100倍)を用いて試料の表面結晶を目視で観察することにより、失透状態を評価した。全く失透が認められなかったものを「○」、失透が認められたものを「×」とした。なお、昇降温速度は、10℃/分とした。
表1、2の試料a〜jは、熱膨張係数が95〜114×10-7/℃であった。また、ガラス転移点が395〜441℃であり、屈伏点が441〜482℃であった。さらに、失透状態の評価が良好であり、熱的安定性が良好であった。
表1、2に記載のガラス粉末と表中の耐火性フィラー粉末を混合し、表3〜5に示す粉末材料を得た。試料No.1〜12について、熱膨張係数、軟化点、失透状態および流動径を評価した。なお、熱膨張係数、失透状態は、上記と同様の方法で測定した。
軟化点は、DTA装置により求めた。軟化点が550℃以下であれば、560℃20分の焼成で緻密な支持枠を形成できるとともに、ガラス基板に強固に融着させることができる。
流動径は、各試料の合成密度に相当する質量の粉末を金型により外径20mmのボタン状に乾式プレスし、これを40mm×40mm×2.8mm厚の高歪点ガラス基板上に載置し、空気中で5℃/分の速度で昇温した後、560℃20分で焼成した上で室温まで5℃/分で降温し、得られたボタンの直径を測定することで評価した。なお、合成密度とは、ガラスの密度と耐火物フィラーの密度を、所定の体積比で混合させて算出される理論上の密度である。また、流動径が16.6〜17.5mmであると、試験した焼成条件で寸法安定性や形状安定性が良好であることを意味する。
コーディエライトは、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、純珪粉を2MgO・2Al2O3・5SiO2のモル割合になるように調合し、混合後、1400℃で10時間焼成し、次いでこの焼成物を粉砕し、所定の粒度を有する粉末を得た。アルミナは、市販の平均粒子径5.0μmのものを使用した。ウイレマイトは、亜鉛華、純珪粉、酸化アルミニウムを質量%でZnO 70%、SiO2 25%、Al2O3 5%の組成になるように調合し、混合後、1440℃で15時間焼成し、次いでこの焼成物を粉砕し、所定の粒度を有する粉末を得た。ジルコン粉末は、天然ジルコンサンドを一旦ソーダ分解し、塩酸に溶解させた後、濃縮結晶化を繰り返すことによって、α線放出物質であるU、Thの極めて少ないオキシ塩化ジルコニウムにし、アルカリ中和後、加熱して精製ZrO2を得、これに純珪粉、酸化第二鉄を質量比で、ZrO2 66%、SiO2 32%、Fe2O3 2%の組成になるように調合し、混合した後、1400℃で16時間焼成し、次いでアルミナボールミルで粉砕し、所定の粒度を有する粉末を得た。ZWPは、Zr2WO4(PO4)2の組成を有する耐火性フィラーの略称である。Zr2WO4(PO4)2の組成が得られるように、リン酸ジルコニウム(ZrP2O7)、水酸化ジルコニウム(Zr(OH)4)、酸化タングステン(WO3)をそれぞれ1モル%に相当する分量を混合し、結晶化助剤として酸化マグネシウムを3つの原料の総量に対して3質量%添加して、これらの原料をボールミルで粉砕混合した。その後、この混合原料を焼成炉内で1400℃15時間焼結させた。焼結後、焼成炉を200℃以下まで徐冷した後、焼結物を炉内から取り出し、得られたZr2WO4(PO4)2の塊をボールミル等にて粉砕した。粉砕は1時間〜2時間かけて行い、粉砕して作製した粉末を目開き45μmの篩を通過させ、平均粒子径約10μmのZr2WO4(PO4)2フィラー粉末を得た。
表3〜5の試料No.1〜12は、軟化点が516〜549℃であり、ガラス基板と支持枠を強固に融着できるとともに、570℃以下の温度で緻密な支持枠を形成することができ、しかも支持枠を形成した後の熱処理工程で支持枠が軟化変形し難いと判断できる。また、試料No.1〜12は、熱膨張係数が71〜84×10-7/℃であり、高歪点ガラス基板等に適合した熱膨張係数を備えていた。さらに、試料No.1〜12は、表中の焼成条件で流動径が16.9〜17.5mmであるとともに、失透状態の評価が良好であり、支持枠を精度良く形成できると考えられる。
次に、耐火性フィラー粉末として、アルミナおよびコーディエライトを添加したときの効果を表6に示す。
表6で示した試料No.11、2、12、3および4は、表3と表5で示したものと同様のものである。これらの試料について、高歪点ガラス基板の残留応力および支持枠の抗折強度を測定した。
残留応力は、各試料の合成密度に相当する質量の粉末を金型により外径20mmのボタン状に乾式プレスし、これを40mm×40mm×2.8mm厚の高歪点ガラス基板(熱膨張係数85×10-7/℃)上に載置し、空気中で5℃/分の速度で昇温した後、560℃20分で焼成した上で室温まで5℃/分で降温し、得られたボタン直下における高歪点ガラス基板の残留応力をポラリメーターで測定した。表中で「C」は圧縮応力を示し、「T」は引張応力を示している。
抗折強度は、各試料を緻密に焼結させた後、10×10×50mmの角柱に加工したものを測定試料として用い、3点荷重測定法で測定した値であり、JIS R1601に準拠した方法で測定した。
表6から明らかなように、粉末材料中のアルミナの含有量が増加するにつれて、抗折強度が向上することが分かる。また、粉末材料中のコーディエライトの含有量が増加するにつれて、支持枠の熱膨張係数が低下することが分かる。
さらに、表6で示した試料No.11、2、12、3および4を用いて、平面表示装置を作製し、装置内部を加圧したところ、装置内部の気密性を維持できる圧力は、試料No.12>試料No.2、3>試料No.4、11の順であり、平面表示装置の気密信頼性は、ガラス基板に残留する応力を引張応力にしつつ、支持枠の抗折強度を高めることが有効であった。
(低融点封着材料)
本発明に係る低融点封着材料について説明する。表7、8に記載の各試料k〜tは、次のようにして調製した。
まず、表7、8に示したガラス組成となるように各種酸化物、炭酸塩等の原料を調合したガラスバッチを準備し、これを白金坩堝に入れて900〜1000℃で1〜2時間溶融した。次に、溶融ガラスの一部をTMA用サンプルとしてステンレス製の金型に流し出し、その他の溶融ガラスは、水冷ローラーにより薄片状に成形した。なお、熱膨張係数測定用サンプルは、成形後に所定の徐冷処理(アニール)を行った。最後に、薄片状のガラスをボールミルにて粉砕後、目開き45μmの篩いを通過させて、平均粒子径約4μmの各試料を得た。
以上の試料を用いて、熱膨張係数、ガラス転移点、軟化点および失透状態を評価した。その結果を表7、8に示す。
軟化点は、粉末試料を用いて、DTA装置により求めた。
ガラス転移点および熱膨張係数は、TMA装置により求めた。熱膨張係数は、30〜250℃の温度範囲にて測定した。
失透状態は、表7、8の試料k〜tの粉末加圧成形体を焼成炉で500℃30分保持した後、光学顕微鏡(倍率100倍)を用いて、試料の表面結晶を目視で観察することで評価した。全く失透が認められなかったものを「○」、失透が認められたものを「×」とした。なお、昇降温速度は、10℃/分とした。
表7、8の試料k〜tは、熱膨張係数が100〜114×10-7/℃であった。また、ガラス転移点が336〜365℃、軟化点が396〜435℃であり、低融点特性を有していた。さらに、失透状態の評価が良好であり、良好な熱的安定性を備えていた。
表7、8のガラス粉末試料k〜tと表中所定の耐火性フィラー粉末を混合し、表9、10に示す低融点封着材料を得た。試料No.13〜22について、熱膨張係数、軟化点、流動径および失透状態を評価した。なお、熱膨張係数、軟化点および失透状態は、表7,8と同様の方法で測定した。
表9、10に示した耐火性フィラー粉末は、以下のように作製した。コーディエライトは、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化ケイ素を2MgO・2Al2O3・5SiO2のモル割合になるように調合し、混合後、1400℃で10時間焼成し、次いでこの焼成物を粉砕し、平均粒子径10μmの粉末を得た。ウイレマイトは、亜鉛華、酸化ケイ素、酸化アルミニウムを質量%でZnO 70%、SiO2 25%、Al2O3 5%の組成になるように調合し、混合後、1440℃で15時間焼成し、次いでこの焼成物を粉砕し、平均粒子径10μmの粉末を得た。
流動径は、各試料の合成密度に相当する質量の粉末を金型により外径20mmのボタン状に乾式プレスし、これを40mm×40mm×2.8mm厚の高歪点ガラス基板上に載置し、空気中で5℃/分の速度で昇温した後、表4〜6に記載の焼成条件で焼成した上で室温まで5℃/分で降温し、得られたボタンの直径を測定することで評価した。なお、合成密度とは、ガラスの密度と耐火物フィラーの密度を、所定の体積比で混合させて算出される理論上の密度である。また、流動径が19mm以上であると、試験した焼成条件で封着可能であることを意味する。
表9、10の試料No.13〜22は、軟化点が413〜447℃であり、500℃以下の温度で良好に流動する程度の低融点特性を有していた。また、熱膨張係数が67.0〜76.0×10-7/℃であり、高歪点ガラス等に適合した熱膨張係数を備えていた。さらに、表中の焼成条件で流動径が20.0〜21.5mmであり、500℃以下の温度で封着できると考えられる。また、失透状態の評価が良好であり、熱的安定性も良好であった。
(平面表示装置)
本発明の平面表示装置について説明する。表11〜13に記載の各試料A〜Oは、次のようにして調製した。まず、各種配線等を施した前面ガラス基板上に表中に示す各粉末材料からなる支持枠を形成した。具体的には、粉末材料をペースト化した後にディスペンサーで塗布し、グレーズ、焼結を経て、支持枠を形成した。焼結は、560℃20分で行った。次に、支持枠の上面に低融点封着材料をペースト化した後にディスペンサーで塗布し、各種配線等を施した背面ガラス基板の位置合わせを行った上で、背面ガラス基板と支持枠を封着した。封着条件は、表9、表10の流動性試験で示した条件とした。
前面ガラス基板および背面ガラス基板は、日本電気硝子株式会社製PP−8C(熱膨張係数83×10-7/℃、歪点582℃)を使用した。平面表示装置のパネルサイズは、10インチとした。支持枠は、焼結後に高さ0.5mm、幅0.1mmとなるように、ペースト粘度、ディスペンサーのノズルサイズ、塗布量、塗布速度等を調製した。低融点封着材料は、封着後に封着層の厚みが0.1mmとなるように調製した。
このようにして得られた平面表示装置を用いて、ガラス基板の反り量、ガラス基板の最大残留応力およびガラス基板のクラックを評価した。その結果を表11〜13に示す。
ガラス基板の反り量は、ガラス基板に板幅方向に沿って平行にレーザービームを照射し、レーザービームの遮光変化量を測定することで算出した。ガラス基板の反り量が50μm以下のものを「○」、50μmより大きいものを「×」として評価した。
ガラス基板の最大残留応力は、鋭敏色法で測定し、最大残留応力が7MPa以下のものを「○」、最大残留応力が7MPaより大きいものを「×」として評価した。
ガラス基板のクラックは、実体顕微鏡を用いて測定し、ガラス基板にクラックが認められなかったものを「○」、ガラス基板にクラックが認められたものを「×」として評価した。
表11〜13の試料A〜Oは、ガラス基板の反り量、ガラス基板の最大残留応力、ガラス基板のクラックが所定範囲内であり、良好であった。したがって、本発明の平面表示装置は、ガラス基板の反り量が小さいため、前面ガラス基板と背面ガラス基板の間隔を一定に保つことができると考えられる。また、本発明の平面表示装置は、ガラス基板の最大残留応力が小さいので、機械的衝撃により平面表示装置が破損し難いとともに、高精細な画像特性を損ない難いと考えられる。本発明の平面表示装置は、ガラス基板にクラックが生じていないため、装置内部の気密信頼性を維持できると考えられる。