JP2008072951A - Lamp法を用いたサルモネラo4群の血清型迅速検出法 - Google Patents

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Abstract

【課題】 サルモネラO4群を特異的、高感度かつ迅速に検出する方法を提供する。
【解決手段】 食中毒原因菌であるサルモネラO4群のrfbJ遺伝子に由来する塩基配列に注目し、サルモネラO4群の塩基配列と特異的にハイブリダイズするオリゴヌクレオチドプライマーの塩基配列と、その組合せを見出した。このプライマーを用いて、特異的、高感度かつ迅速にサルモネラO4群を検出する方法を確立し、サルモネラO4群検出用キットを開発した。
【選択図】なし

Description

本発明は、LAMP法を利用したサルモネラO4群の検出方法と検出用キットに関するものである。
日本では毎年多くの食中毒が発生し、サルモネラ菌が原因菌の第一位となっている。その内半数以上を占めると考えられるSalmonella Enteritidis (サルモネラ・エンテリディス、以下S.Enteritidis)(2002年では62%)以外に、S.Typhimurium(サルモネラ・ティフィムリウム)による食中毒事例も継続して上位を占めており、特に多剤耐性S.Typhimurium Definitive type 104 (DT104)のヒトおよび食用動物(特に牛)における発生は近年世界的に増加している。最近、原因菌の上位を占めるS.Typhimurium DT104がS.Enteritidis同様に鶏卵、鶏肉から分離される事例も散見され始めたため、食中毒のリスク要因減少を目的として、鶏飼育におけるサルモネラ管理の重要性が注目されている。その重要性に鑑み、農林水産省においてもサルモネラ総合対策指針が示されている。したがって鶏飼育においてサルモネラの感染が疑われた場合、感染のルートや感染源の特定の必要性からも、サルモネラ菌の血清型を迅速に決定する必要がある。
しかしながらサルモネラは、Kauffmann-Whiteの様式によって血清型を菌種名としており、現在、2,500種類以上と非常に多くの種類に分けられている。この血清型別は、OおよびH抗原を決定して抗原構造表に基づいて同定を行うが、煩雑であり、技術を要する(非特許文献1)。さらに同定までの時間も要する。常法では3日以上を要する。
一方、遺伝子検査法の発達でサルモネラ属菌に良く保存されている遺伝子配列を特異的に認識するオリゴヌクレオチドを用いたDNAプローブ法、あるいはハイブリダイゼーション法が試みられるようになってきた。(特許文献1〜3)しかしこの方法では、十分な検出感度と選択性を得るのが難しい。
またサルモネラ属菌に特異的な遺伝子領域を認識し、結合する2種類のプライマーに挟まれる塩基配列を増幅し、増幅産物をアガロース電気泳動で確認するPCR法も行われている。(非特許文献2、特許文献4〜6)PCR法は確定培養法およびハイブリダイゼーション法と比較して、高い感度と簡便な操作性を実現しているが、増幅反応やアガロース電気泳動に長時間を要し、検体数が多くなると煩雑なゲル電気泳動を行うため多大な労力と時間の浪費を伴い、効率良い検出操作を行う上での障害となっている。また、複雑な温度制御が不可欠であり、専用の反応装置を使用しなければならず、したがって設備の整った実験室でなければ実施できない。
本発明者らは、免疫学的測定法やPCR法より高感度で特異的かつ所要時間が短い検出方法であり、近年注目を集めているLAMP法を用いることで、容易にサルモネラ菌の血清型の同定が可能になることを見出した。そこで食中毒の原因として多くの割合を占めるS.Typhimuriumを含むサルモネラO4群を検出する方法を研究したところ、O4群に特異的な遺伝子のオリゴヌクレオチドプライマーが作成され、その検出が容易にできるようになった。
防菌防微vol.29、N0.9、pp587〜594(2001) Japanese Journal of Infectious Diseases 56,pp151-155(2003) 特開平06-090797号公報 特許第2780773号明細書 特公平06-038759号公報 特許第2792462号明細書 特開2000-93181号公報 特開2001-245677号公報
本発明は、サルモネラO4群を高感度に検出させるオリゴヌクレオチドプライマーおよびその検出用のキットを提供することを目的とする。
本発明者らは、上記課題を解決するために研究を行った結果、LAMP法を用いてサルモネラO4群を特異的に検出するために、サルモネラO4群のrfbJ遺伝子に特異的な塩基配列と選択的にハイブリダイズするオリゴヌクレオチドプライマーを作製した。このオリゴヌクレオチドプライマーを用いて、LAMP法によりサルモネラO4群rfbJ遺伝子に特異的な塩基配列を増幅し、サルモネラO4群を高感度に検出できることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は以下の構成からなる。
1.サルモネラO4群が保持するrfbJ遺伝子を標的領域としてLAMP法により特異的に増幅するプライマーセット。
2.配列番号1(IPF)、配列番号2(OPF)、配列番号3(IPB)及び配列番号4(OPB)に示す4種類の塩基配列またはそれぞれの相補鎖を含む前記1に記載のプライマーセット。
3.さらに配列番号5(LPF)、配列番号6(LPB)に示す2種類の塩基配列またはそれぞれの相補鎖を含む前記2に記載のプライマーセット。
4.前記1〜3のいずれかに記載のプライマーセットを用い、サルモネラO4群のrfbJ遺伝子領域を選択的にLAMP法により増幅させ、増幅産物の有無を確認することを特徴とする、検体中におけるサルモネラO4群の検出方法。
5.検体をサルモネラ菌の増殖条件下に増菌培養し、出現菌からDNA試料を分離し、該DNA試料に対して、前記1〜3のいずれかの記載のプライマーセットを用いて、LAMP法により増幅反応を行い、サルモネラO4群のrfbJ遺伝子領域を選択的に増幅させ、この増幅産物の有無を確認することを特徴とする、サルモネラO4群の識別方法。
6.前記1〜3のいずれかに記載のプライマーセット、鎖置換型DNAポリメラーゼ、dNTPs及び反応緩衝液を含むことを特徴とするサルモネラO4群の検出キット。
本発明により、特異的、高感度かつ迅速にサルモネラO4群遺伝子を検出できるだけでなく、サルモネラO4群の検出キットの提供も可能となるので、食中毒の汚染源の迅速な確定が可能となり、食中毒の拡大が防止できる。以下、本発明を詳細に説明する。
本発明において使用される試料は、鶏、鶏卵、養鶏場環境検体あるいは食品検体を接種した増菌培養液などが挙げられ、いずれの試料においても容易に検出が可能である。
増菌培養液などを試料とする場合、タンパク質分解酵素等による組織細胞由来タンパク質を分解後、フェノールおよびクロロホルムを用いた方法など一般的なDNA抽出・精製法はもちろん、既に市販されている抽出キットを用いて得られた抽出核酸も検体となる。もしくは、迅速な検出のため、未精製の状態のままの試料処理液を検体として使用できる場合も含む。
本発明で用いるLAMP法とは、近年、納富らが開発した新しい核酸増幅法であり、ループ媒介等温増幅法(Loop-mediated Isothermal AMPlification)の略である(特許公報国際公開第00/28082号パンフレット)。LAMP法は、鋳型となるヌクレオチドに自身の3'末端をアニールさせて相補鎖合成の起点とするとともに、このとき形成されるループにア二ールするプライマーを組み合わせることにより、等温での相補鎖合成反応を可能とした核酸増幅法である。
また、LAMP法では、プライマーの3'末端が常に試料に由来する領域に対してアニールするために、塩基配列の相補的結合によるチェック機構が繰り返し機能し、その結果として、高感度にかつ特異性の高い核酸増幅反応を可能としている。
LAMP法は従来から用いられている核酸の増幅方法であるPCR法と比較して、温度管理が容易である、特異性及び効率が極めて高い、増幅産物の確認が目視でも可能である等、非常に優れたDNAの増幅方法である。
用いるプライマーは通常のLAMP法の増幅反応と同様である。すなわち鋳型となるヌクレオチドの6領域を認識する少なくとも4種類のプライマー(2種類のインナープライマーFとB : IPFとIPB、2種類のアウタープライマー;OPFとOPB)を使用し、さらにこれとは別のプライマーであるループプライマー(Loop Primer)を用いる事ができる。ループプライマーは、LAMP増幅反応中に出現するダンベル構造を持ったオリゴヌクレオチドを認識するプライマーで、5'末端側ループ構造の一本鎖部分の塩基配列に相補的な塩基配列を持つ。このプライマーを用いることにより、核酸合成の起点が増加し、反応時間の短縮と検出感度の上昇が可能となる(特許文献国際公開第02/24902号パンフレット)。
さらにループプライマーの塩基配列は、上述のダンベル構造における5'末端側のループ構造の一本鎖部分を形成する塩基配列に相補的であれば、標的遺伝子の塩基配列あるいはその相補鎖から選ばれても良く、他の塩基配列でも良い。また、ループプライマーは1種類でも2種類でも良い。なお、各プライマーにおけるFとは、標的塩基配列のセンス鎖と相補的に結合し、合成起点を提供するプライマー表示であり、一方Bとは、標的塩基配列のアンチセンス鎖と相補的に結合し、合成起点を提供するプライマー表示である。ここで、プライマーとして用いられるオリゴヌクレオチドの長さは、10塩基以上、好ましくは15塩基以上で、化学合成あるいは天然のどちらでも良く、各プライマーは単一のオリゴヌクレオチドであってもよく、複数のオリゴヌクレオチドの混合物であってもよい。
本発明では、サルモネラO4群のみを特異的に検出するため、サルモネラO4群に特有のrfbJ遺伝子に由来する塩基配列に着目した。サルモネラO4群のrfbJ遺伝子(GenBank Accession No. AE008792、配列番号1)は、O抗原のなかでもO4群にのみ存在し、O4抗原の合成に必要な遺伝子なので、O4群以外のサルモネラや他の食中毒の原因菌には存在しない。よってrfbJ遺伝子は、サルモネラO4群を特異に検出するプライマーとして最適である。
サルモネラO4群のrfbJ遺伝子は900塩基からなり、プライマーの塩基配列とその組み合わせを研究した結果、その前半部分(66-435番)にF領域およびB領域を設定することで、LAMP反応におけるプライマーとして、サルモネラO4群に特異的な塩基配列を迅速に増幅できることを見いだし、下記のプライマーセットを選定した。
IPF: 5'-GCAGAATCAATTGATAACTCCTCGAGGATTTCAGTTGTCGCAATC-3'(配列番号1)
OPF: 5'-CGAAGCGCTAAAAAAATCGG-3'(配列番号2)
IPB: 5'-AACCATTAAAGCTTCTTGATTTGGCATATAAGGCCGCATATGTTGA-3’(配列番号3)
OPB: 5'-CCCAATTTCATCAAAGTGTCT-3'(配列番号4)
LPF: 5'-ATTATCCCAACTGCACCATCTAACA-3'(配列番号5)
LPB: 5'-TCGGGCGGATATCTTTTTAAATACA-3'(配列番号6)
本発明の核酸合成時に使用する酵素は、鎖置換活性を有する鋳型依存性核酸合成酵素であれば特に限定されない。このような酵素としては、Bst DNAポリメラーゼ(ラージフラグメント)、Bca(exo-)DNAポリメラーゼ、大腸菌DNAポリメラーゼのクレノウフラグメント等が挙げられ、好ましくはBst DNAポリメラーゼ(ラージフラグメント)が挙げられる。
LAMP反応による核酸増幅産物は増幅反応に伴い、ピロリン酸マグネシウムが生成されるために、白濁してくる。よって反応の有無は肉眼でも可能である(特許文献国際公開第01/83817号パンフレット)。またそれだけでなく、核酸増幅産物の検出には公知の技術が適用できる。例えば、増幅された塩基配列を特異的に認識する標識オリゴヌクレオチドや蛍光性インターカレーター法(特許文献特開2001-2421 69号公報)を用いたり、あるいは反応終了後の反応液をそのままアガロースゲル電気泳動にかけても容易に検出できる。アガロースゲル電気泳動法では、LAMP反応における増幅産物は、塩基長が異なるので、多数のバンドがラダー(はしご)状に検出されるという特徴がある。
本発明のプライマーを用いてサルモネラO4群の核酸増幅の検出を行う際に必要な各種の試薬類は、あらかじめパッケージングしてキット化する事ができる。具体的には、本発明のプライマーあるいはループプライマーとして必要な各種のオリゴヌクレオチド、核酸合成の基質となる4種類のdNTP、鎖置換活性を有する鋳型依存性核酸合成酵素、酵素反応に好適な条件を与える緩衝液や塩類、酵素や鋳型を安定化する保護剤、さらに必要に応じて反応生成物の検出に必要な試薬類がキットとして提供される。
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらにより何ら限定されるものではない。
実施例1:検出感度の確認
LAMP法と、PCR法における検出感度の比較を行った。
1.試料及び試薬の調製
1)サルモネラO4群培養液
検出感度の比較には、北里大学獣医畜産学部人獣共通感染症学研究室保存S.Typhimurium DT104 KU-1株を用いた。発育コロニー数個をハートインヒュージョンブロスHeart Infusion Broth(栄研化学(株)製)に懸濁し、37℃で5-6時間震盪培養を行うことにより109CFU/mLまで増殖させ、リン酸緩衝生理食塩水にて当該菌液の10倍段階希釈液を作製し、95℃で5分間加熱処理したものを鋳型DNAを含む検体として用いた。
2)PCR法に用いるプライマー
PCR法で使用するプライマーとして、Limらが開発したrfbJセットを用いた。
3)LAMP法に用いるプライマー
プライマーとして本発明により得られたIPF(配列番号1)、OPF(配列番号2)、IPB(配列番号3)、OPB(配列番号4)、LPF(配列番号5)、LPB(配列番号6)を用いた。
4)LAMP法による反応
LAMP法による増幅のため、最終反応溶液25 μL中の各試薬濃度が下記になるよう調製した。なお、プライマーの合成は株式会社グライナージャパンに依頼し、HPLC(高速液体クロマトグラフィ)精製したものを使用した。
反応溶液組成
・20 mM Tris-HCl pH8.8
・10 mM KCl
・8 mM MgSO4
・1.4 mM dNTPs
・10 mM (NH42SO4
・0.8 M Betaine(SIGMA)
・0.1% Tween20
・1.6 μM IPF (配列番号1)
・1.6 μM IPB (配列番号2)
・0.2 μM OPF (配列番号3)
・0.2 μM OPB (配列番号4)
・0.8 μM LPF (配列番号5)
・0.8 μM LPB (配列番号6)
・8U Bst DNA polymerase (NEB)
LAMP法の反応は上記試薬20μLに、各濃度の試料溶液5μLを加え、最終反応溶液25μLとして、0.2 mLの専用チューブ内で65℃で60分間、リアルタイム濁度測定装置RT-160C(栄研化学(株))を用いて、濁度を測定した。また、反応終了後の反応溶液5μLを1%アガロースゲルで電気泳動を行い、エチジウムブロマイドで染色した。
図1に示したように、LAMP法では、rfbJ遺伝子を保有したS.Typhimurium DT104 KU-1株を60分以内に6.5 CFU/testまで検出することが可能であった。LAMP反応終了後の反応溶液の電気泳動像でも同様の結果が得られた。すなわち、6.5 CFU/test以上でラダー状のLAMP増幅産物が認められた。比較としたPCR法では6.5×102CFU/test以上で663bpの増幅産物が認められ、約2時間の増幅時間の他に電気泳動分析が必要であった(図2)。
以上より、検出感度及び迅速性において、PCR法より今回のLAMP法の方が優れていた。
実施例2:プライマーの特異性試験(各血清型)
サルモネラO4群以外のサルモネラあるいはサルモネラ以外の菌種との交差反応性を確認するため、サルモネラO4群11血清型55菌株、O4群以外のサルモネラ28血清型71菌株、および大腸菌(Escherichia coli)3菌株を用いてLAMP法の特異性試験を行った。その結果、表1および2に示すように試験したO4抗原を有するS.Typhimurium 23株はすべてLAMP反応が陽性であった。S.Typhimurium以外でLAMP反応陽性を示したS.Abony、S.Agona、S.Brandenburg、S,Chester、S.Derby、S.Fyris、S.Haifa、S.Saitpaul、S.Sandiego、S.Schwarzengrundの10血清型32菌株はいずれもS.Typhimuriumと同一のサルモネラO4群に分類されたものであった。
本発明によれば、サルモネラO4群のrfbJ遺伝子に特異的な塩基配列と選択的にハイブリダイズするオリゴヌクレオチドプライマーを作製し、LAMP法によりサルモネラO4群rfbJ遺伝子に特異的な塩基配列を増幅することで、サルモネラO4群を特異的、高感度かつ迅速に検出することができる。
リアルタイム濁度法によるLAMP法の検出感度を示す図。横軸は時間(秒)、縦軸は650nmでの吸光度(濁度)である。 Rfbjセットを用いたPCR法およびLAMP法による検出感度を示す電気泳動図。

Claims (6)

  1. サルモネラO4群が保持するrfbJ遺伝子を標的領域としてLAMP法により特異的に増幅するプライマーセット。
  2. 配列番号1(IPF)、配列番号2(OPF)、配列番号3(IPB)及び配列番号4(OPB)に示す4種類の塩基配列またはそれぞれの相補鎖を含む請求項1に記載のプライマーセット。
  3. さらに配列番号5(LPF)、配列番号6(LPB)に示す2種類の塩基配列またはそれぞれの相補鎖を含む請求項2に記載のプライマーセット。
  4. 請求項1〜3のいずれかに記載のプライマーセットを用い、サルモネラO4群のrfbJ遺伝子領域を選択的にLAMP法により増幅させ、増幅産物の有無を確認することを特徴とする、検体中におけるサルモネラO4群の検出方法。
  5. 検体をサルモネラ菌の増殖条件下に増菌培養し、出現菌からDNA試料を分離し、該DNA試料に対して、請求項1〜3のいずれかの記載のプライマーセットを用いて、LAMP法により増幅反応を行い、サルモネラO4群のrfbJ遺伝子領域を選択的に増幅させ、この増幅産物の有無を確認することを特徴とする、サルモネラO4群の識別方法。
  6. 請求項1〜3のいずれかに記載のプライマーセット、鎖置換型DNAポリメラーゼ、dNTPs及び反応緩衝液を含むことを特徴とするサルモネラO4群の検出キット。
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