(実施形態1)
本実施形態では、位置検出システムとして、図1(a)に示すように、位置検出対象の物体が建物内で床面100上を移動する移動体(例えば、ショッピングカートなど)Aであり、間欠的に超音波を送波可能な超音波送波部11を有する送信装置1を移動体Aの上面に搭載する一方で、超音波送波部11から間欠的に送波された超音波を受波する超音波受波部21を有する受信装置2を施工面である天井面200の定位置に設置し、移動体Aの移動状況(移動体Aの移動した位置)を追跡する動線計測システムを例示する。
送信装置1には、上述の超音波送波部11と、超音波送波部11を駆動するドライバ12と、光もしくは電波からなるトリガ信号を発信するトリガ信号発信部13と、トリガ信号発信部13を駆動するドライバ14と、固有の識別情報信号を発信する識別情報信号発信部15と、識別情報信号発信部15を駆動するドライバ16と、各ドライバ12,14,16を制御する制御部17とを備えている。ここにおいて、超音波送波部11からの超音波の送波開始タイミング、トリガ信号発信部13からのトリガ信号の送信開始タイミング、識別情報信号発信部15からの識別情報信号の送信タイミングは、制御部17により制御される。なお、制御部17は、マイクロコンピュータを主構成とし、上述の制御部17の機能はマイクロコンピュータに適宜のプログラムを搭載することにより実現される。
一方、受信装置2は、上述の超音波受波部21と、トリガ信号発信部13から送信されたトリガ信号を受信したときにトリガ受信信号を出力するトリガ信号受信部23と、識別情報信号発信部15から送信された識別情報信号を受信する識別情報信号受信部25と、超音波受波部21から出力される受波信号とトリガ信号受信部23から出力されるトリガ受信信号とを用いて移動体Aが移動する空間に設定した直交座標(グローバル座標XG−YG)における送信装置1の位置を求める位置演算部22と、現在時刻を計時する時計機能を有しトリガ信号受信部23からのトリガ受信信号を受けた時刻(以下、トリガ受信時刻と称す)を出力するタイマ26と、位置演算部22で求めた送信装置1の位置と当該位置に送信装置1が位置していたときの時刻(タイマ26から出力されたトリガ受信時刻)と、当該送信装置1の識別情報信号の識別データとを対応付けて時系列的に記憶するメモリ24とを備えている。
ここで、位置演算部22において、超音波受波部21から出力とトリガ信号受信部23の出力とを用いて求められる送信装置1の位置は、受信装置2に対する相対位置であり、図3に示すように受信装置2に設定された直交座標(ローカル座標XL−YL)の座標位置として求められる。ここに、本実施形態では、床面100から天井面200までの高さは一定とみなしている。したがって、移動体Aの移動する移動空間Dにおいて送信装置1の高さ位置は変化しないから、受信装置2に設定されたローカル座標XL−YLを床面100の上の2次元座標として扱い、移動体Aの移動する移動空間Dに設定したグローバル座標XG−YGも高さについては考慮せず、床面100の上の2次元座標として扱う。さらに説明すれば、位置演算部22は、超音波受波部21から出力とトリガ信号受信部23の出力とを用いて、受信装置2に設定されたローカル座標XL−YLにおける送信装置1の座標位置を求め、グローバル座標XG−YGにおける受信装置2の座標位置とローカル座標XL−YLにおける送信装置1の座標位置とに基づいて、グローバル座標XG−YGにおける送信装置1の座標位置を求めるように構成されている。
本実施形態の位置検出システムでは、受信装置2のキャリブレーションが必要であり、キャリブレーションの際には、位置演算部22において、超音波受波部21の出力およびトリガ信号受信部23の出力を用いてローカル座標XL−YLでの送信装置1の座標位置を求め、送信装置1がグローバル座標XG−YGにおける既知の座標位置(基準位置)に位置するときに、両座標位置を用いてグローバル座標XG−YGでの受信装置2の座標位置を求める。また、グローバル座標XG−YGでの受信装置2の座標位置を求めた後には、ローカル座標XL−YLでの送信装置1の座標位置を用いてグローバル座標XG−YGでの送信装置1の座標位置を求めることができる。つまり、受信装置2には、ローカル座標XL−YLでの送信装置1の座標位置を用いて、グローバル座標XG−YGにおける受信装置2の座標位置を求める動作モード(キャリブレーションモード)と、グローバル座標XG−YGにおける送信装置1の座標位置を求める動作モード(運転モード)とがある。なお、位置演算部22の動作については後述する。
メモリ24に格納されているトリガ受信時刻、トリガ受信時刻毎のグローバル座標XG−YGにおける送信装置1の座標位置は制御部27により出力部28のデータ転送形式のデータ列に変換され出力部28を通して外部のコンピュータなどの管理装置などへ出力される。出力部28としては、例えば、TIA/EIA−232−EやUSBなどのようなシリアル転送方式のインタフェースや、SCSIなどのようなパラレル転送方式のインタフェースなどを採用することができる。出力部28から取り出されたデータは、管理装置において利用され、移動体Aが移動した経路を追跡することにより動線を計測することができる。なお、制御部27の機能はマイクロコンピュータに適宜のプログラムを搭載することにより実現される。
送信装置1の超音波送波部11としては、図4に示すように、単結晶のp形のシリコン基板からなる支持基板31の一表面(図4における上面)側に多孔質シリコン層からなる熱絶縁層(断熱層)32が形成され、熱絶縁層32上に金属薄膜(例えば、タングステン薄膜)からなる発熱体層33が形成され、支持基板31の上記一表面側に発熱体層33と電気的に接続された一対のパッド34,34が形成された熱励起式の超音波発生素子11aを用いることが望ましい。なお、支持基板31の平面形状は矩形状であって、発熱体層33の平面形状も矩形状に形成してある。また、支持基板31の上記一表面側において熱絶縁層32が形成されていない部分の表面にはシリコン酸化膜からなる絶縁膜(図示せず)が形成されている。
熱励起式の超音波発生素子11aでは、発熱体層33の両端のパッド34,34間に通電して発熱体層33に温度変化を生じさせると、発熱体層33に接触している空気に温度変化が生じる。発熱体層33に接触している空気は、発熱体層33の温度上昇時には膨張し発熱体層33の温度下降時には収縮するから、発熱体層33への通電を適宜に制御することによって空気中を伝搬する超音波を発生させることができる。
一方、従来から超音波発生素子として広く用いられている圧電式の超音波発生素子では、共振特性のQ値が高いので、図5(b)に示す超音波波形のように残響時間が長くなってしまうが、上述の熱励起式の超音波発生素子11aでは、一対のパッド34,34を介した発熱体層33への通電に伴う発熱体層33の温度変化に伴って超音波を発生するものであり、発熱体層33へ与える駆動電圧あるいは駆動電流の波形を例えば周波数がf1の正弦波波形とした場合、当該周波数f1の略2倍の周波数の超音波を発生させることができ、例えば正弦波波形の半周期の孤立波を駆動電圧としてドライバ12から一対のパッド34,34間へ与えることによって、図5(a)に示すような残響時間が短く且つ発生期間の短い略1周期の超音波を発生させることができる。要するに、圧電式の超音波発生素子は、固有の共振周波数をもつので周波数帯域が狭いが、熱励起式の超音波発生素子11aでは、発生させる超音波の周波数を広範囲にわたって変化させることができ、駆動電圧もしくは駆動電流の波形を孤立波とすれば、図5(a)に示すような略1周期の超音波を発生させることができる。
上述の熱励起式の超音波発生素子11aは、支持基板31としてp形のシリコン基板を用いており、熱絶縁層32を多孔度が略70%の多孔質シリコン層により構成しているので、支持基板31として用いるシリコン基板の一部をフッ化水素水溶液とエタノールとの混合液からなる電解液中で陽極酸化処理することにより熱絶縁層32となる多孔質シリコン層を形成することができる。ここに、陽極酸化処理の条件(例えば、電流密度、通電時間など)を適宜設定することにより、熱絶縁層32となる多孔質シリコン層の多孔度や厚みそれぞれを所望の値とすることができる。多孔質シリコン層は、多孔度が高くなるにつれて熱伝導率および熱容量が小さくなり、例えば、熱伝導率が148W/(m・K)、熱容量が1.63×106J/(m3・K)の単結晶のシリコン基板を陽極酸化して形成される多孔度が60%の多孔質シリコン層は、熱伝導率が1W/(m・K)、熱容量が0.7×106J/(m3・K)であることが知られている。本実施形態では、上述のように熱絶縁層32を多孔度が略70%の多孔質シリコン層により構成してあり、熱絶縁層32の熱伝導率が0.12W/(m・K)、熱容量が0.5×106J/(m3・K)となっている。なお、熱絶縁層32の熱伝導度および熱容量を支持基板31の熱伝導度および熱容量に比べて小さくし、熱絶縁層32の熱伝導度と熱容量との積を支持基板31の熱伝導度と熱容量との積に比べて十分に小さくすることにより、発熱体層33の温度変化を空気に効率よく伝達することができ発熱体層33と空気との間で効率的な熱交換が起こり、且つ、支持基板31が熱絶縁層32からの熱を効率よく受け取って熱絶縁層32の熱を逃がすことができて発熱体層33からの熱が熱絶縁層32に蓄積されるのを防止することができる。
また、発熱体層33は、高融点金属の一種であるタングステンにより形成してあり、熱伝導率が174W/(m・K)、熱容量が2.5×106J/(m3・K)となっている。発熱体層33の材料はタングステンに限らず、例えば、タンタル、モリブデン、イリジウムなどを採用してもよい。
なお、上述の熱励起式の超音波発生素子11aでは、支持基板31の厚さを525μm、熱絶縁層32の厚さを10μm、発熱体層33の厚さを50nm、各パッド34の厚さを0.5μmとしてあるが、これらの厚さは一例であって特に限定するものではない。また、支持基板31の材料としてSiを採用しているが、支持基板31の材料はSiに限らず、例えば、Ge,SiC,GaP,GaAs,InPなどの陽極酸化処理による多孔質化が可能な他の半導体材料でもよい。
トリガ信号発信部13は、トリガ信号として光を採用する場合には、例えば、発光ダイオードを用いればよく、トリガ信号として電波を採用する場合には、例えば、電波発信部を用いればよい。ここにおいて、光や電波は音波に対して十分に高速なので、送信装置1から受信装置2までの超音波の到達時間のレンジでは、光や電波の到達時間はゼロとみなすことができる。
識別情報信号発信部15としては、識別情報信号として光を採用する場合には、例えば、発光ダイオードを用いればよく、識別情報信号として電波を採用する場合には、例えば、電波発信部を用いればよく、識別情報信号として音波を採用する場合には、例えば、熱励起式の音波発生素子を用いればよい。
受信装置2の超音波受波部21は、図2(b)に示すように、超音波送波部11から送波された超音波を受波するとともに受波した超音波を電気信号である受波信号に変換する複数個の受波素子21aが同一基板21b上で2次元的に配列されたアレイセンサにより構成されている。ここにおいて、受波素子21aの中心間距離(配列ピッチ)Lは超音波送波部11から発生させる超音波の波長程度(例えば、超音波の波長の0.5〜5倍程度)に設定することが望ましく、超音波の波長の0.5倍よりも小さいと超音波が隣り合う受波素子21aそれぞれへ到達する時間の時間差が小さくなり、当該時間差の検出が困難となる。受波素子21aとしては、例えば、超音波を圧電効果により電気信号に変換する圧電式の受波素子(圧電素子)や、超音波を静電容量の変化に変換する静電容量式の受波素子などの超音波用の受波素子として広く知られているものを採用することが考えられるが、超音波送波部11と同様に残響を少なくするために、静電容量式の受波素子の構造を採用することが望ましい。
本実施形態では、受波素子21aとして、図6に示すような静電容量式のマイクロホンを採用している。図6に示す構成の静電容量式のマイクロホンは、マイクロマシニング技術を利用して形成されており、シリコン基板に厚み方向に貫通する窓孔41aを設けることで形成された矩形枠状のフレーム41と、フレーム41の一表面側においてフレーム41の対向する2つの辺に跨る形で配置されるカンチレバー型の受圧部42とを備えている。ここにおいて、フレーム41の一表面側には熱酸化膜45と熱酸化膜45を覆うシリコン酸化膜46とシリコン酸化膜46を覆うシリコン窒化膜47とが形成されており、受圧部42の一端部がシリコン窒化膜47とを介してフレーム41に支持され、他端部が上記シリコン基板の厚み方向においてシリコン窒化膜47に対向している。また、シリコン窒化膜47における受圧部42の他端部との対向面に金属薄膜(例えば、クロム膜など)からなる固定電極43aが形成され、受圧部42の他端部におけるシリコン窒化膜47との対向面とは反対側に金属薄膜(例えば、クロム膜など)からなる可動電極43bが形成されている。なお、フレーム41の他表面にはシリコン窒化膜48が形成されている。また、受圧部42は、上記各シリコン窒化膜47,48とは別工程で形成されるシリコン窒化膜により構成されている。
図6に示した構成の静電容量式のマイクロホンからなる受波素子21aでは、固定電極43aと可動電極43bとを電極とするコンデンサが形成されるから、受圧部42が音波の圧力を受けることにより固定電極43aと可動電極43bとの間の距離が変化し、固定電極43aと可動電極43bとの間の静電容量が変化する。したがって、固定電極43aおよび可動電極43bに設けたパッド(図示せず)間に直流バイアス電圧を印加しておけば、パッドの間には超音波の音圧に応じて微小な電圧変化が生じるから、超音波の音圧を電気信号に変換することができる。
なお、受波素子21aとして用いる静電容量式のマイクロホンの構造は図6の構造に特に限定するものではなく、例えば、シリコン基板などをマイクロマシニング技術などにより加工して形成され、超音波を受けるダイヤフラム部からなる可動電極と、ダイヤフラム部に対向する背板部からなる固定電極との間に、超音波を受けていない状態でのダイヤフラム部と背板部とのギャップ長を規定する絶縁膜からなるスペーサ部が介在し、背板部に複数の排気孔が貫設された構造を有するものでもよい。このような静電容量式のマイクロホンでは、ダイヤフラム部が超音波を受けて変形してダイヤフラム部と背板部との距離が変化することにより、可動電極と固定電極との間の静電容量が変化する。
ところで、図6に示した静電容量式のマイクロホンからなる受波素子21aの共振特性のQ値は3〜4程度であり、圧電素子に比べてQ値が十分に小さく、従来のように送波素子および受波素子に圧電素子を用いている場合に比べて、超音波送波部11から送波される超音波における残響成分に起因した不感帯を短くすることができるとともに、受波素子21aで超音波を受波したときに発生する受波信号における残響時間を短くできて受波素子21aから出力される受波信号における残響成分に起因した不感帯を短くすることができるので、角度分解能を改善することができる。
トリガ信号受信部23は、トリガ信号発信部13から送信するトリガ信号として光を採用する場合には、例えば、フォトダイオードを用いればよく、トリガ信号として電波を採用する場合には、例えば、電波受信アンテナを用いればよい。要するに、トリガ信号受信部23は、トリガ信号を受信してトリガ信号を電気信号(トリガ受信信号)に変換して出力できるものであればよい。
識別情報信号受信部25は、識別情報信号発信部15から送信する識別情報信号として光を採用する場合には、例えば、フォトダイオードを用いればよく、識別情報信号として電波を採用する場合には、例えば、電波受信アンテナを用いればよく、識別情報信号として音波を採用する場合には、例えば、静電容量式の受波素子を用いればよい。要するに、識別情報信号受信部25は、識別情報信号を受信して識別情報信号を電気信号からなる識別情報に変換して出力できるものであればよい。
位置演算部22は、超音波受波部21の各受波素子21aで音波を受波した時刻(以下、受波時刻と称す)の時間差と各受波素子21aの配置位置とに基づいて超音波の到来方向、すなわち、送信装置1の存在する方位を求める。ここにおいて、超音波の到来方向は、図3に示す直交座標におけるxz平面とyz平面との各角度として求められる。以下では、xz平面内での角度をθx、yz平面内での角度をθyと記述する。つまり、超音波の到来方向は(θx,θy)の対で表される。
以下、位置演算部22において超音波の到来方向(θx,θy)を求める処理について説明するが、説明を簡単にするために、超音波受波部21の受波素子21aが図7に示すように同一平面上において1次元的に等間隔で配列されているものとする(実際には上述のように2次元的に配列されている)。受波素子21aが配列された面に対する超音波の波面の角度がθ0である場合を想定すると、超音波の到来方向(すなわち、超音波受波部21に対して超音波送波部11の存在する方位角)はθ0になる。ここにおいて、超音波の速度をc、超音波の波面が隣り合う受波素子21aのうちの一方の受波素子21aに到達する時刻における超音波の波面と他方の受波素子21aの中心との間の距離(遅延距離)をd0、隣り合う受波素子21aの中心間距離をLとすれば、超音波の波面が隣り合う受波素子21a間に到達する時間差Δt0(図8参照)は、Δt0=d0/c=L・sinθ0/cになる。したがって、θ0=sin-1(Δt0・c/L)となるから、時間差Δt0を求めれば、超音波の到来方向θ0を求めることができる。
図8(a)〜(c)は上述の超音波送波部11から略1周期の超音波(図5(a)参照)を送波したときの図7の各受波素子21aそれぞれの受波信号を示しており、図8(a)が図7の一番上の受波素子21aの受波信号、図8(b)が図7の真ん中の受波素子21aの受波信号、図8(c)が図7の一番下の受波素子21aの受波信号を示している。ここにおいて、位置演算部22は、超音波の到来方向を求める機能を有する信号処理部22cを備えている。信号処理部22cは、超音波受波部21の各受波素子21aから出力された電気信号である受波信号をそれぞれ各受波素子21aの配列パターンに応じた遅延時間で遅延させた受波信号を組にして出力する遅延手段と、遅延手段により遅延された受波信号の組を加算する加算器と、加算器の出力波形のピーク値と適宜の閾値との大小関係を比較し閾値を超えるピーク値が得られたときに遅延手段で設定されている遅延時間に対応する方向を超音波の到来方向と判断する判断手段とを備えているので、超音波受波部21に対する超音波の到来方向を求めることができる。ここで、位置演算部22は、上述の信号処理部22cの他に、超音波受波部21の各受波素子21aから出力されるアナログの受波信号をディジタルの受波信号に変換して出力するA/D変換部22aと、トリガ信号受信部23からのトリガ受信信号が入力された時点から所定の受波期間だけA/D変換部22aの出力が格納されるデータ格納部22bとを備えており、上述の信号処理部22cは、データ格納部22bにトリガ受信信号が入力されたときに受波期間を設定し、受波期間にのみA/D変換部22aを作動させ、受波期間にデータ格納部22bに格納された受波信号のデータに基づいて超音波の到来方向を求める。
ところで、本実施形態では、超音波送波部11として上述の熱励起式の超音波発生素子11aを用いているので、図9に示すように、超音波受波部21の各受波素子21aへ2つの到来方向θ1,θ2から超音波が到来する場合、到来方向θ1から到来する超音波の方が到来方向θ2の方向から到来する超音波に比べて先に到達するとすれば、図10(a)〜(c)に示すように各受波素子21aそれぞれから出力される2つの受波信号が重なりにくく、超音波の到来方向θ1,θ2を求めることができる。ここで、図10は、(a)が図9の一番上の受波素子21aの2つの受波信号、(b)が図9の真ん中の受波素子21aの2つの受波信号、(c)が図9の一番下の受波素子21aの2つの受波信号を示しており、(a)〜(c)それぞれにおける左側の受波信号が到来方向θ1から到来した超音波に対応し、右側の受波信号が到来方向θ2から到来した超音波に対応している。なお、到来方向θ1からの超音波の波面が隣り合う受波素子21aのうちの一方の受波素子21aに到達する時刻における超音波の波面と他方の受波素子21aの中心との間の距離(遅延距離)をd1(図9参照)とすれば、超音波の波面が隣り合う受波素子21a間に到達する時間差Δt1(図10参照)は、Δt1=d1/c=L・sinθ1/cとなるから、θ1=sin-1(Δt1・c/L)となり、時間差Δt1を求めれば、超音波の到来方向θ1を求めることができる。同様に、到来方向θ2からの超音波の波面が隣り合う受波素子21aのうちの一方の受波素子21aに到達する時刻における超音波の波面と他方の受波素子21aの中心との間の距離(遅延距離)をd2(図9参照)とすれば、超音波の波面が隣り合う受波素子21a間に到達する時間差Δt2(図10参照)は、Δt2=d2/c=L・sinθ2/cとなるから、θ2=sin-1(Δt2・c/L)となり、時間差Δt2を求めれば、超音波の到来方向θ2を求めることができる。
図7、図9の例では説明を簡単にするために受波素子21aを一直線上に配列した例で説明したが、実際には一平面上においてx方向とy方向とにそれぞれ複数個の受波素子21aを配列してあるので、xz平面内での到来方向θxと、yz平面内での到来方向θyとを同時に求めることができる。つまり、超音波の到来方向を(θx,θy)の組み合わせで求めることができる。
また、位置演算部22の信号処理部22cは、トリガ信号受信部23によりトリガ信号を受信した時刻と受波素子21aにより超音波を受波した時刻との関係から受信装置2と送信装置1との距離(実質的には、受信装置2の超音波受波部21と送信装置1の超音波送波部11との距離)を求める距離演算手段を備えている。ここにおいて、上述のようにトリガ信号として光もしくは電波のように超音波に比べて十分に高速な信号を採用していることにより、送信装置1から受信装置2までのトリガ信号の到達時間は送信装置1から受信装置2までの超音波の到達時間に比べて十分に短く(無視できる程度に短く)、トリガ信号の到達時間をゼロとみなすことができるので、距離演算手段では、図11(a)〜(c)に示すようにデータ格納部22bを介してトリガ受信信号STを受信した時刻と当該トリガ受信信号STの受信後に最初に受波素子21aからの受波信号SPを受信した時刻との時間差Tと、超音波の速度とによって受信装置2と送信装置1との距離を求めるようにしてある。なお、信号処理部22cの距離演算手段は、当該信号処理部22cを構成するマイクロコンピュータに適宜のプログラムを搭載することにより実現される。また、データ格納部22bには、〔受波素子21aの個数〕×〔各受波素子21aからの受波信号のデータ数〕の数だけデータが格納されることになる。
ところで、本実施形態では、上述のように、グローバル座標XG−YGでの受信装置2の座標位置を求める必要があり、そのため、移動体Aをグローバル座標XG−YGの座標位置が既知である基準位置に位置させる。
いま、図12に示すように床面100の上でグローバル座標XG−YGの座標位置が既知である基準位置Psを設定し、基準位置Psに移動体Aを位置させた場合を想定する。ここで、移動体Aに対する送信装置1の位置は変化しないから、移動体Aの位置は送信装置1の位置を表しているものとみなして説明する。基準位置Psのグローバル座標XG−YGにおける座標位置を(XG11,YG11)とする。グローバル座標XG−YGにおける受信装置2の座標位置を求めるには、まず、位置演算部22を受信装置2の位置を求めるキャリブレーションモードに設定した状態で、移動体Aを基準位置Psに位置させる。
受信装置2の位置演算部22では、ローカル座標XL−YLにおける送信装置1の座標位置を求めることができるから、この座標位置を(XL11,YL11)とする。ここで、グローバル座標XG−YGとローカル座標XL−YLとの座標軸の向きが一致するという制約条件を設定すれば、基準位置Psについて、グローバル座標XG−YGにおける座標位置(XG11,YG11)とローカル座標XL−YLにおける座標位置(XL11,YL11)との差が、グローバル座標XG−YGにおける受信装置2の座標位置(XR,YR)になる。すなわち、XR=XG11−XL11、YR=YG11−YL11として受信装置2の座標位置を求めることができる。
グローバル座標XG−YGでの受信装置2の座標位置(XR,YR)は座標変換処理部22dに格納され、信号処理部22cでの以後の処理に用いられる。また、座標変換処理部22dには、グローバル座標XG−YGにおける基準位置Psの座標位置(XG11,YG11)も格納されている。ここで、座標変換処理部22dに格納されたデータの変更頻度は少なくから、座標変換処理部22dにはEEPROMのような不揮発性メモリを用いるのが望ましい。座標位置(XG11,YG11)は、グローバル座標XG−YGにおける基準位置Psを実装した結果に基づいて設定される。すなわち、グローバル座標XG−YGでの送信装置1の座標位置を求める運転モードでは、座標変換処理部22dに格納された受信装置2の座標位置を用いることで、送信装置1の座標位置を算出するのである。なお、基準位置Psの計測は床面100の上で行うから作業は容易である。
ところで、上述の説明では、グローバル座標XG−YGの座標軸とローカル座標XL−YLの座標軸との向きが一致しているという制約条件を設定したが、このような制約条件を成立させるには、受信装置2の取付方向がグローバル座標XG−YGの座標軸に対して一定の関係になるように施工しなければならない。したがって、受信装置2の設置施工時に座標位置については考慮しなくてもよいから設置施工が容易になるものの、依然としてグローバル座標XG−YGの座標軸との関係については考慮しなければならない(グローバル座標の座標軸に沿ったラインが天井面200に設けられている場合もあるから、その場合には設置施工は比較的容易である)。
そこで、以下では受信装置2の取付方向についても制約を設けずに設置施工が可能になる技術を説明する。上述の動作ではグローバル座標XG−YGにおける受信装置2の座標位置を求めるだけであり、座標軸の回転角を考慮しないから、未知数は2であって、上述したように1つの基準位置Psについて2式を設定すれば未知数を求めることができる。一方、座標軸の回転角を考慮する場合にはグローバル座標XG−YGの座標軸に対するローカル座標XL−YLの座標軸の回転角θRを求めなければならないから、未知数が3つ(XR,YR,θR)になる。つまり、1つの基準位置Psから得られる2式のみでは未知数を求めることができない。そこで、基準位置を2つ設定する。
いま、図13に示すように、2つの基準位置Ps1,Ps2(Ps2は図示せず)のうちの一方の基準位置Ps1について、受信装置2ではグローバル座標XG−YGにおける座標位置(XG11,YG11)が既知であり、ローカル座標XL−YLにおける座標位置(XL11,YL11)が計測されているものとする。ここで、受信装置2に関する未知数(XR,YR,θR)とこれらの座標位置(XG11,YG11),(XL11,YL11)との関係は、下記数1のように表すことができる。
同様にして、基準位置Ps2についてもグローバル座標XG−YGにおける座標位置(XG12,YG12)とローカル座標XL−YLにおける座標位置(XL12,YL12)との関係を下記数2のように表すことができる。
ここで、数1と数2とから(XR,YR)を消去すれば、θRに関する下記数3が得られる。
さらに、数3を数1、数2に適用すれば、(XR,YR)を求めることができる。
したがって、受信装置2の座標位置を求めるには、まず移動体Aを基準位置Ps1に位置させてローカル座標XL−YLにおける座標位置(XL11,YL11)を求め、次に、移動体Aを基準位置Ps2に位置させてローカル座標XL−YLにおける座標位置(XL12,YL12)を求めると、グローバル座標XG−YGにおける受信装置2の位置をローカル座標XL−YLにおける座標軸の回転角θRを含めて求めることができる。
ところで、受信装置2には、超音波受波部21の指向性を調整する指向性調整部28が設けられており、指向性調整部28は、マイクロコンピュータなどにより構成されており、超音波受波部21の各受波素子21aそれぞれの出力の有効と無効とを選択することにより超音波受波部21の指向性を調整する。ここで、受波素子21aの出力が有効とは、位置演算部22の信号処理部22cでの演算に利用することを意味し、受波素子21aの出力が無効とは、信号処理部22cでの演算に利用しないことを意味する。要するに、指向性調整部28は、超音波受波部21の各受波素子21aのうち、出力を位置演算部22の信号処理部22cでの演算に用いる受波素子21aを有効な受波素子21aとして選択し、出力を位置演算部22の信号処理部22cでの演算に用いない受波素子21aを無効な受波素子21aとして選択する。
ここにおいて、受信装置2の位置演算部22のA/D変換器22aのサンプリング周期を1μsとした場合、上述の時間差Δt0が1μsとなる遅延距離d0は0.34mmとなる。一方、移動体Aの移動範囲に応じた超音波受波部21の視野範囲E(グローバル座標XG−YG上での視野範囲E)に基づいて指向性調整部28に図3におけるxz平面内での超音波受波部21の視野角θxm(図15(a)参照)の値、yz平面内での超音波受波部21の視野角θym(図15(a)参照)の値などを図示しない操作部により入力すると、指向性調整部28では、まず、上述の図3にて説明したxz平面内での超音波の到来方向θx、yz平面内での超音波の到来方向θyそれぞれに関する角度の分解能を設定し、続いて、超音波の到来方向θx,θyそれぞれについて設定された分解能を得るために必要な受波素子21aのx方向の配列ピッチ(中心間距離)Lxおよびy方向の配列ピッチ(中心間距離)Lyそれぞれを求める。ここで、例えば、超音波の到来方向θxに関する分解能が2°であるときに、遅延距離d0が0.34mmとなるときのx方向における受波素子21aの配列ピッチLxは9.74mmとなる(つまり、x方向に9.74mm以上の配列ピッチLxで受波素子21aを並べれば到来方向θxに関して2°以下の分解能を得ることができる)。同様に、例えば、超音波の到来方向θyに関する分解能が10°であるときに、遅延距離dが0.34mmとなるときのy方向における受波素子21aの配列ピッチLyは1.96mmとなる(つまり、y方向に1.96mm以上の配列ピッチLyで受波素子21aを並べれば到来方向θyに関して10°以下の分解能を得ることができる)。次に、指向性調整部28は、x方向、y方向それぞれについて求めた受波素子21aの配列ピッチLx,Lyに基づいて各受波素子21aの出力の有効と無効とを選択して信号処理部22cに指示し、信号処理部22cでは有効とされた受波素子21aの出力を用いて超音波の到来方向θx,θyを求めるための演算処理を行う。なお、指向性調整部28は、マイクロコンピュータに適宜のプログラムを搭載することにより実現される。
ところで、本実施形態では、図2(b)に示すように、受波素子21aがx方向およびy方向それぞれについて同じ配列ピッチLで配列されており、配列ピッチLが2mmに設定されている。したがって、図14(a)において斜線を施した4個の受波素子21aについてのみ出力を有効とするように選択すれば、x方向における受波素子21aの配列ピッチLxが2mm、y方向における受波素子21aの配列ピッチLyが2mmとなるので、超音波の到来方向θx,θyそれぞれについて約10°の分解能を得ることができる。また、図14(b)において斜線を施した4個の受波素子21aについてのみ出力を有効とするように選択すれば、超音波の到来方向θxについて約10°の分解能が得られ、超音波の到来方向θyについて約2°の分解能を得ることができる。そこで、図15に示すように移動体Aが比較的狭い通路を図15(b)中の矢印Bの方向に沿って移動するような場合に、例えば、超音波の到来方向θxの分解能が約10°、超音波の到来方向θyの分解能が約2°に設定されることにより、超音波受波部21の視野範囲Eの最小検知領域(図15(b)中の1つの升目)のx方向、y方向それぞれの幅を視野範囲Eのx方向、y方向それぞれの幅に比べて小さくすることができる(図15(b)の例では、最小検知領域のx方向、y方向それぞれの幅が視野範囲Eのx方向、y方向それぞれの幅の8分の1になっている)。
以上説明した本実施形態の位置検出システムでは、受信装置2が、超音波送波部11から送波された超音波を受波するとともに受波した超音波を電気信号である受波信号に変換する複数個の受波素子21aが同一基板21b上に配列されたアレイセンサからなる超音波受波部21と、超音波受波部21の各受波素子21aで超音波を受波した時刻の時間差と各受波素子21aの配置位置とに基づいて受信装置2に対して送信装置1の存在する方位を求めるとともに、受信装置2と送信装置1との距離を求める位置演算部22とを備えているので、1個の受信装置2の出力に基づいて当該受信装置2に対する送信装置1の相対位置を求めることができるから、施工が容易になる。
また、超音波受波部21の指向性を調整する指向性調整部28を備えているので、超音波受波部21の指向性を調整することにより、移動体Aの移動空間Dに応じて超音波受波部21の検知エリアを変更することができ、移動体Aの移動空間Dがある程度決まっているような場合に、移動空間D外に存在する壁や物体などからの反射波などの影響を抑制できて位置検出の精度を高めることが可能になる。しかも、指向性調整部28は、各受波素子21aそれぞれの出力の有効と無効とを選択することにより超音波受波部21の指向性を調整するので、位置演算部22において必要以上の個数の受波素子21aの出力を用いて演算が行われるのを抑制でき、位置演算部22での演算処理の負荷を軽減することが可能になる。また、移動空間Dの平面形状などに合わせて超音波受波部21の指向性を設計した複数種の受信装置2を用意しておく必要もなく、施工時に受信装置2ごとに指向性調整部28を利用して超音波受波部21の指向性を調整すればよいから、受信装置2の配置設計が容易になるとともに、低コスト化を図れるという利点もある。
なお、上述の実施形態では、指向性調整部28が位置演算部22に対して受波素子21aの出力の有効と無効とを指示するようになっているが、各受波素子21aと位置演算部22との間で各受波素子21aの出力の有効と無効とを選択するための切替スイッチを各受波素子21aごとに設けておき、指向性調整部28によって各切替スイッチの状態を制御することで各受波素子21aの出力の有効と無効とを選択するようにしてもよい。
また、上述の実施形態では、送信装置1にトリガ信号発信部13を設けるとともに受信装置2にトリガ信号受信部23を設けてあるが、トリガ信号発信部13を受信装置2側に設けるとともにトリガ信号受信部23を送信装置1側に設けて、制御部17がトリガ信号受信部23の出力に基づいて超音波送波部11から超音波が送波されるようにドライバ12を制御するようにし、位置演算部22における信号処理部22cが、トリガ信号発信部13からトリガ信号が発信された時刻と受波素子21aにより超音波を受波した時刻との関係から送信装置1までの距離を求めるようにしてもよい。ここにおいて、制御部17は、トリガ信号受信部23から出力されたトリガ受信信号が入力されたときに直ちにドライバ12を制御するようにしてもよいし、所定時間後にドライバ12を制御するようにしてもよい。
(実施形態2)
実施形態1においては送信装置1を移動体Aに搭載し、受信装置2を天井面などの定位置に固定する例を示したが、本実施形態の位置検出システムでは、図16に示すように、受信装置2がジャイロセンサ29を備え、図17(a)に示すように、送信装置1を天井面200の定位置に固定し、受信装置2を移動体Aに搭載する点などが相違する。なお、実施形態1と同様の構成要素には同一の符号を付して説明を省略する。
本実施形態においても、受信装置2の超音波受波部21の出力を用いて得られる送信装置1の位置は、受信装置2に対する送信装置1の相対位置であり、受信装置2に設定されたローカル座標XL−YLの座標位置として求められる。ここに、本実施形態においても、床面100から天井面200までの高さは一定とみなしており、移動体Aの移動空間Dにおいて受信装置2の高さ位置は変化しないから、ローカル座標XL−YLを床面100の上の二次元座標として扱う。後述するように、受信装置2にはグローバル座標XG−YGにおける送信装置1の座標位置が格納されており、超音波受波部21の出力を用いてローカル座標XL−YLにおける送信装置1の座標位置を求めることにより、グローバル座標XG−YGにおける受信装置2の座標位置を求めることができるようにしてある。グローバル座標XG−YGも高さについては考慮せず、床面100の上の二次元座標として扱う。
本実施形態においても、受信装置2のキャリブレーションが必要であって、キャリブレーションの際には、位置演算部22において、超音波受波部21の出力を用いてローカル座標XL−YLでの送信装置1の座標位置を求め、受信装置2がグローバル座標XG−YGにおける既知の座標位置に位置するときに、両座標位置を用いてグローバル座標XG−YGでの送信装置1の座標位置を求める。また、グローバル座標XG−YGでの送信装置1の座標位置を求めた後には、ローカル座標XL−YLでの送信装置1の座標位置を用いることにより、グローバル座標XG−YGでの受信装置2の座標位置を求めることができる。
つまり、受信装置2には、ローカル座標XL−YLでの送信装置1の座標位置を用いて、グローバル座標XG−YGにおける送信装置1の座標位置を求める動作モード(キャリブレーションモード)と、グローバル座標XG−YGにおける受信装置2の座標位置を求める動作モード(運転モード)とがある。
メモリ24には、位置演算部22で求めたグローバル座標XG−YGにおける受信装置2の座標位置と、当該座標位置に位置していたときの時刻(トリガ信号受信部23でトリガ信号を受信した時刻)と、当該受信装置2の識別データとが対応付けられて格納される。メモリ24に格納されたデータは制御部27において必要に応じて読み出され、出力部28を通して外部の管理装置などに出力される。出力部28から取り出された検出結果は、別に設けた管理装置において利用され、本実施形態では、移動体Aが移動した経路を追跡することにより動線を計測する。ここに、受信装置2は移動体Aに搭載されているから、出力部28から取り出された検出結果は無線により管理装置に伝送するのが望ましい。
本実施形態においても、受信装置2に対する送信装置1の相対的な距離を知ることができる。つまり、送信装置1の方向と距離とを知ることができるから、受信装置2では送信装置1の三次元位置を求めることができる。ただし、上述したように本実施形態では床面100の上の二次元座標での座標位置を求める。つまり、三次元位置に対して既知の高さ寸法を用いることにより床面100の上での二次元座標を求めることができる。なお、この演算は信号処理部22cにおいて行う。
以上説明したように、受信装置2では送信装置1からのトリガ信号を受信すると、超音波の到来方向および送信装置1までの距離を算出し、移動体Aの床面100の上の二次元座標(ローカル座標XL−YL)での座標位置を求める。また、実施形態1と同様、トリガ信号を受信した時刻およびトリガ信号に対応する識別データをメモリ24に格納する。
上述した処理によってローカル座標XL−YLでの送信装置1の座標位置を求めることができる。すなわち、位置演算部22のうちデータ格納部22b、信号処理部22cによりローカル座標XL−YLでの受信装置2の座標位置を求めることができる。一方、本実施形態では、グローバル座標XG−YGでの送信装置1の座標位置を求める必要があり、そのため、移動体Aをグローバル座標XG−YGの座標位置が既知である基準位置に位置させる。
受信装置2の位置演算部22では、ローカル座標XL−YLにおける送信装置1の座標位置を求めることができるから、この座標位置を(XL1,YL1)とする。ここで、グローバル座標XG−YGとローカル座標XL−YLとの座標軸との向きが一致するという制約条件を設定すれば、図18に示すように、送信装置1のグローバル座標XG−YGにおける座標位置(XG1,YG1)と、送信装置1のローカル座標XL−YLにおける座標位置(XL1,YL1)と、グローバル座標XG−YGにおける受信装置2の座標位置(XR,YR)との間には、XG1=XR+XL1、YG1=YR+YL1の関係が成立する。つまり、受信装置2が座標位置(XR,YR)に位置するときに、送信装置1のローカル座標XL−YLにおける座標位置(XL1,YL1)を用いて、グローバル座標XG−YGにおける送信装置1の座標位置(XG1,YG1)を求めることができる。逆に、送信装置1についてグローバル座標XG−YGにおける座標位置(XG1,YG1)が既知であれば、ローカル座標XL−YLにおける座標位置(XL1,YL1)を計測することにより、グローバル座標XG−YGにおける受信装置2の座標位置(XR,YR)を求めることができる。
ここで、移動体Aに対する受信装置2の位置は変化しないから、以下では移動体Aの位置は受信装置2の位置を表しているものとみなして説明する。
グローバル座標XG−YGにおける受信装置2の座標位置(XR,YR)を求めるには、位置演算部22をキャリブレーションモードとし、グローバル座標XG−YGにおける送信装置1の座標位置(XG1,YG1)を求める必要がある。つまり、床面100の上でグローバル座標XG−YGの座標位置が既知である基準位置を設定し、位置演算部22をキャリブレーションモードに設定した状態で、移動体Aを基準位置に位置させる。基準位置に移動体Aを位置させると、グローバル座標XG−YGにおける受信装置2の座標位置(XR,YR)が既知であり、ローカル座標XL−YLにおける送信装置1の座標位置(XL1,YL1)を計測することができるから、グローバル座標XG−YGにおける送信装置1の座標位置(XG1,YG1)を求めることができる。
グローバル座標XG−YGでの送信装置1の座標位置(XG1,YG1)は座標変換処理部22dに格納され、信号処理部22cでの以後の処理に用いられる。また、座標変換処理部22dには、グローバル座標XG−YGにおける基準位置の座標位置も格納されている。なお、グローバル座標XG−YGでの基準位置の座標位置は実測により設定される。また、基準位置の計測は床面100の上で行うから作業は容易である。
グローバル座標XG−YGでの送信装置1の座標位置(XG1,YG1)を求めた後には、位置演算部22を動作モードとしてグローバル座標XG−YGでの受信装置2の座標位置(XR,YR)を求めることができる。動作モードでは、座標変換処理部22dに格納された送信装置1の座標位置(XG1,YG1)を用いることで、受信装置2の座標位置(XR,YR)を算出する。
ところで、上述の説明では、グローバル座標XG−YGとローカル座標XL−YLとの座標軸との向きが一致しているという制約条件を設定したが、この制約条件があると移動体Aの移動にも制約が生じる。そこで、上述の制約条件を取り除くために、本実施形態では、移動体Aに搭載される受信装置2に、上記基板21bに平行な面内における移動体Aの向きを検出する向き検出手段としてのジャイロセンサ29を設けている。ジャイロセンサ29の出力はA/D変換器22eを介して信号処理部22cに入力される。
上述の動作ではグローバル座標XG−YGに対するローカル座標XL−YLの回転角、すなわち移動体Aの向きを考慮していないから未知数は2であって、上述したように1個の基準位置について2式を設定すれば未知数を求めることができる。一方、座標軸の回転角を考慮する場合にはグローバル座標XG−YGの座標軸に対するローカル座標XL−YLの座標軸の回転角θRを求めなければならないから未知数が3個(XR,YR,θR)になる。つまり、1個の基準位置から得られる2式のみでは未知数を求めることができない。そこで、回転角θRを求めるためにジャイロセンサ29を設けている。
座標軸の回転角θRを考慮すると、図19に示すように、送信装置1のグローバル座標XG−YGにおける座標位置(XG1,YG1)と、送信装置1のローカル座標XL−YLにおける座標位置(XL1,YL1)と、グローバル座標XG−YGにおける受信装置2の座標位置(XR,YR)との間には、下記数4の関係が成立する。
回転角θRを考慮する場合であっても演算式が異なるだけであって、上述した処理と同様の処理になる。すなわち、キャリブレーションモードでグローバル座標XG−YGにおける送信装置1の座標位置(XG1,YG1)を求めて座標変換処理部22dに格納し、動作モードにおいてグローバル座標XG−YGにおける受信装置2の座標位置(XR,YR)を求める際には、座標変換処理部22dに格納した送信装置1の座標位置(XG1,YG1)を用いるのである。なお、受信装置2では識別情報信号によって各送信装置1を識別する。
また、本実施形態においても、例えば、図20に示すように移動体Aが比較的狭い通路を図20(b)中の矢印Bの方向に沿って移動するような場合に、例えば、超音波の到来方向θxの分解能が約10°、超音波の到来方向θyの分解能が約2°に設定されることにより、超音波受波部21の視野範囲Eの最小検知領域(図20(b)中の1つの升目)のx方向、y方向それぞれの幅を視野範囲Eのx方向、y方向それぞれの幅に比べて小さくすることができる(図20(b)の例では、最小検知領域のx方向、y方向それぞれの幅が視野範囲Eのx方向、y方向それぞれの幅の8分の1になっている)。なお、超音波受波部21の視野範囲Eの平面分解能によりグローバル座標における受信装置2の座標位置が決まるので、図20(b)では超音波受波部21の視野範囲の平面分解能を示す升目をグローバル座標XG−YG上に示してある。
以上説明した本実施形態の位置検出システムにおいても、実施形態1と同様に、1個の受信装置2の出力に基づいて当該受信装置2に対する送信装置1の相対位置を求めることができるから、施工が容易になり、また、超音波受波部21の指向性を調整する指向性調整部28を備えているので、位置検出の精度を高めることが可能になるとともに、位置演算部22での演算処理の負荷を軽減することが可能になる。