以下に本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
(実施形態1)
本実施形態では、本発明に係る方位検出システムと超音波送波部までの距離を検出する手段を備えて超音波送波部の位置(方位および距離)を検出する位置検出システムを例に説明を行う。
本実施形態の位置検出システムは、図2(a)に示すように、例えば位置検出対象の物体が建物内で床面100上を移動する移動体(例えばショッピングカートなど)Aであり、間欠的に超音波を送波可能な超音波送波部11を有する送信装置1を移動体Aの上面に搭載する一方で、超音波送波部11から間欠的に送波された超音波を受波する超音波受波部21を有する受信装置2を施工面である天井面200の定位置に設置して、移動空間Dにおける移動体Aの位置を検出するものであり、例えば移動体Aが移動空間D内を移動する状況(移動体Aの移動した位置)を追跡する動線計測システムに利用される。
送信装置1には、上述の超音波送波部11と、超音波送波部11を駆動するドライバ12と、光もしくは電波からなるトリガ信号を発信するトリガ信号発信部13と、トリガ信号発信部13を駆動するドライバ14と、固有の識別情報信号を発信する識別情報信号発信部15と、識別情報信号発信部15を駆動するドライバ16と、各ドライバ12,14,16を制御する制御部17とを備えている。ここにおいて超音波送波部11からの超音波の送波開始タイミング、トリガ信号発信部13からのトリガ信号の送信開始タイミング、識別情報信号発信部15からの識別情報信号の送信タイミングは、制御部17により制御される。なお制御部17はマイクロコンピュータを主構成とし、制御部17の各機能はマイクロコンピュータに適宜のプログラムを搭載することにより実現される。
一方、受信装置2は、上述の超音波受波部21と、トリガ信号発信部13から送信されたトリガ信号を受信したときにトリガ受信信号を出力するトリガ信号受信部23と、識別情報信号発信部15から送信された識別情報信号を受信する識別情報信号受信部25と、超音波受波部21から出力される受波信号とトリガ信号受信部23から出力されるトリガ受信信号とを用いて移動体Aが移動する空間に設定した直交座標からなるグローバル座標における送信装置1の位置(方位および距離)を求める位置演算部22と、現在時刻を計時する時計機能を有しトリガ信号受信部23からのトリガ受信信号を受けた時刻(以下、トリガ受信時刻と称す)を出力するタイマ26と、位置演算部22で求めた送信装置1の位置と当該位置に送信装置1が位置していたときの時刻(タイマ26から出力されたトリガ受信時刻)と当該送信装置1の識別情報信号の識別データとを対応付けて時系列的に記憶するメモリ24とを備えている。
ここで、位置演算部22において、超音波受波部21の出力とトリガ信号受信部23の出力とを用いて求められる送信装置1の位置は、受信装置2に対する相対位置であり、図3に示すように受信装置2に設定された直交座標(ローカル座標XL−YL)の座標位置として求められる。本実施形態では、床面100から天井面200までの高さは一定とみなしており、移動空間Dにおいて送信装置1の高さ位置は変化しないから、受信装置2に設定されたローカル座標XL−YLを床面100の上の2次元座標として扱い、移動空間Dに設定したグローバル座標XG−YGも高さについては考慮せず、床面100の上の2次元座標として扱う。さらに説明すれば、位置演算部22は、超音波受波部21の出力とトリガ信号受信部23の出力とを用いて、受信装置2に設定された直交座標からなるローカル座標XL−YLにおける送信装置1の座標位置を求め、グローバル座標XG−YGにおける受信装置2の座標位置とローカル座標XL−YLにおける送信装置1の座標位置とに基づいて、グローバル座標XG−YGにおける送信装置1の座標位置を求めるように構成されている。なお、この構成については後述する。
本実施形態の位置検出システムでは、受信装置2のキャリブレーションが必要であり、キャリブレーションの際には、位置演算部22において、超音波受波部21の出力およびトリガ信号受信部23の出力を用いてローカル座標XL−YLでの送信装置1の座標位置を求め、送信装置1がグローバル座標XG−YGにおける既知の座標位置(基準位置)に位置するときに、両座標位置を用いてグローバル座標XG−YGでの受信装置2の座標位置を求める。またグローバル座標XG−YGでの受信装置2の座標位置を求めた後には、ローカル座標XL−YLでの送信装置1の座標位置を用いてグローバル座標XG−YGでの送信装置1の座標位置を求めることができる。つまり受信装置2には、ローカル座標XL−YLでの送信装置1の座標位置を用いて、グローバル座標XG−YGにおける受信装置2の座標位置を求める動作モード(キャリブレーションモード)と、グローバル座標XG−YGにおける送信装置1の座標位置を求める動作モード(運転モード)とがある。なお、位置演算部22の動作についても後述する。
メモリ24に格納されているトリガ受信時刻と、トリガ受信時刻毎のグローバル座標XG−YGにおける送信装置1の座標位置とは制御部27により出力部28のデータ転送形式のデータ列に変換され出力部28を通して外部のコンピュータなどの管理装置などへ出力される。出力部28としては、例えばTIA/EIA−232−EやUSBなどのシリアル転送方式のインタフェースや、SCSIなどのパラレル転送方式のインタフェースを採用することができる。出力部28から取り出されたデータは、管理装置において利用され、移動体Aが移動した経路を追跡することにより動線を計測することができる。なお、制御部27の機能はマイクロコンピュータに適宜のプログラムを搭載することにより実現される。
送信装置1の超音波送波部11としては、図4に示すように、単結晶のp形のシリコン基板からなる支持基板31の一表面(図4における上面)側に多孔質シリコン層からなる熱絶縁層(断熱層)32が形成され、熱絶縁層32上に金属薄膜(例えばタングステン薄膜)からなる発熱体層33が形成され、支持基板31の上記一表面側に発熱体層33と電気的に接続された一対のパッド34,34が形成された熱励起式の超音波発生素子11aを用いることが望ましい。なお支持基板31の平面形状は正方形状であって、発熱体層33の平面形状も長方形状に形成してある。また、支持基板31の上記一表面側において熱絶縁層32が形成されていない部分の表面にはシリコン酸化膜からなる絶縁膜(図示せず)が形成されている。
熱励起式の超音波発生素子11aでは、発熱体層33の両端のパッド34,34間に通電して発熱体層33に温度変化を生じさせると、発熱体層33に接触している空気に温度変化が生じる。発熱体層33に接触している空気は、発熱体層33の温度上昇時には膨張し発熱体層33の温度下降時には収縮するから、発熱体層33への通電を適宜に制御することによって空気中を伝搬する超音波を発生させることができる。
一方、従来から超音波発生素子として広く用いられている圧電式の超音波発生素子では、共振特性のQ値が高いので、図5(b)に示す超音波波形のように残響時間が長くなってしまうが、上述の熱励起式の超音波発生素子11aでは、一対のパッド34,34を介した発熱体層33への通電に伴う発熱体層33の温度変化に伴って超音波を発生するものであり、発熱体層33へ与える駆動電圧あるいは駆動電流の波形を例えば周波数がf1の正弦波波形とした場合、当該周波数f1の略2倍の周波数の超音波を発生させることができ、例えば正弦波波形の半周期の孤立波を駆動電圧としてドライバ12から一対のパッド34,34間へ与えることによって、図5(a)に示すような残響時間が短く且つ発生期間の短い略1周期の超音波を発生させることができる。要するに、圧電式の超音波発生素子は、固有の共振周波数をもつので周波数帯域が狭いが、熱励起式の超音波発生素子11aでは、発生させる超音波の周波数を広範囲にわたって変化させることができ、駆動電圧もしくは駆動電流の波形を孤立波とすれば、図5(a)に示すような略1周期の超音波を発生させることができる。
上述の熱励起式の超音波発生素子11aは、支持基板31としてp形のシリコン基板を用いており、熱絶縁層32を多孔度が略70%の多孔質シリコン層により構成しているので、支持基板31として用いるシリコン基板の一部をフッ化水素水溶液とエタノールとの混合液からなる電解液中で陽極酸化処理することにより熱絶縁層32となる多孔質シリコン層を形成することができる。ここに、陽極酸化処理の条件(例えば電流密度、通電時間など)を適宜設定することにより、熱絶縁層32となる多孔質シリコン層の多孔度や厚みそれぞれを所望の値とすることができる。多孔質シリコン層は多孔度が高くなるにつれて熱伝導率および熱容量が小さくなり、例えば熱伝導率が148W/(m・K)、熱容量が1.63×106J/(m3・K)の単結晶のシリコン基板を陽極酸化して形成される多孔度が60%の多孔質シリコン層は、熱伝導率が1W/(m・K)、熱容量が0.7×106J/(m3・K)であることが知られている。本実施形態では、上述のように熱絶縁層32を多孔度が略70%の多孔質シリコン層により構成してあり、熱絶縁層32の熱伝導率が0.12W/(m・K)、熱容量が0.5×106J/(m3・K)となっている。なお、熱絶縁層32の熱伝導度および熱容量を支持基板31の熱伝導度および熱容量に比べて小さくし、熱絶縁層32の熱伝導度と熱容量との積を支持基板31の熱伝導度と熱容量との積に比べて十分に小さくすることにより、発熱体層33の温度変化を空気に効率よく伝達することができ発熱体層33と空気との間で効率的な熱交換が起こり、且つ、支持基板31が熱絶縁層32からの熱を効率よく受け取って熱絶縁層32の熱を逃がすことができて発熱体層33からの熱が熱絶縁層32に蓄積されるのを防止することができる。
また、発熱体層33は高融点金属の一種であるタングステンにより形成してあり、熱伝導率が174W/(m・K)、熱容量が2.5×106J/(m3・K)となっている。発熱体層33の材料はタングステンに限らず、例えばタンタル、モリブデン、イリジウムなどを採用してもよい。
なお上述の熱励起式の超音波発生素子11aでは、支持基板31の厚さを525μm、熱絶縁層32の厚さを10μm、発熱体層33の厚さを50nm、各パッド34の厚さを0.5μmとしてあるが、これらの厚さは一例であって特に限定するものではない。また支持基板31の材料としてSiを採用しているが、支持基板31の材料はSiに限らず、例えばGe,SiC,GaP,GaAs,InPなどの陽極酸化処理による多孔質化が可能な他の半導体材料でもよい。
トリガ信号発信部13は、トリガ信号として光を採用する場合には例えば発光ダイオードを用いれば良いし、トリガ信号として電波を採用する場合には例えば電波発信部を用いれば良い。ここにおいて、光や電波は音波に対して十分に高速なので、送信装置1から受信装置2までの超音波の到達時間のレンジでは、光や電波の到達時間はゼロとみなすことができる。
識別情報信号発信部15は、識別情報信号として光を採用する場合には例えば発光ダイオードを用いれば良いし、識別情報信号として電波を採用する場合には例えば電波発信部を用いれば良く、識別情報信号として音波を採用する場合には例えば熱励起式の音波発生素子を用いれば良い。
受信装置2の超音波受波部21は、図2(b)に示すように、超音波送波部11から送波された超音波を受波するとともに受波した超音波を電気信号である受波信号に変換する複数個の受波素子E1〜E8が同一基板21a上で2次元的に配列されたアレイセンサにより構成されている。ここにおいて、受波素子E1の中心間距離(配列ピッチ)Sは超音波送波部11から発生させる超音波の波長程度(例えば超音波の波長の0.5〜5倍程度)に設定することが望ましく、超音波の波長の0.5倍よりも小さいと超音波が隣り合う受波素子E1〜E8それぞれに到達する時間の差が小さくなり、当該時間差の検出が困難となる。受波素子E1〜E8としては、例えば超音波を圧電効果により電気信号に変換する圧電式の受波素子(圧電素子)や、超音波を静電容量の変化に変換する静電容量式の受波素子などの超音波用の受波素子として広く知られているものを採用することが考えられるが、超音波送波部11と同様に残響を少なくするために、静電容量式の受波素子の構造を採用することが望ましい。
本実施形態では受波素子E1として図6に示すような静電容量式のマイクロホンを採用している。なお他の受波素子E2〜E8も受波素子E1と同様の構成を有しているので、以下では受波素子E1について説明を行い、受波素子E2〜E8については説明を省略する。
図6に示す構成の静電容量式のマイクロホンは、マイクロマシニング技術を利用して形成されており、シリコン基板に厚み方向に貫通する窓孔41aを設けることで形成された矩形枠状のフレーム41と、フレーム41の一表面側においてフレーム41の対向する2つの辺に跨る形で配置されるカンチレバー型の受圧部42とを備えている。ここにおいてフレーム41の一表面側には熱酸化膜45と、熱酸化膜45を覆うシリコン酸化膜46と、シリコン酸化膜46を覆うシリコン窒化膜47とが形成されており、受圧部42の一端部がシリコン窒化膜47とを介してフレーム41に支持され、他端部が上記シリコン基板の厚み方向においてシリコン窒化膜47に対向している。また、シリコン窒化膜47における受圧部42の他端部との対向面に金属薄膜(例えばクロム膜など)からなる固定電極43aが形成され、受圧部42の他端部におけるシリコン窒化膜47との対向面とは反対側に金属薄膜(例えばクロム膜など)からなる可動電極43bが形成されている。なおフレーム41の他表面にはシリコン窒化膜48が形成されている。また受圧部42は、上記各シリコン窒化膜47,48とは別工程で形成されるシリコン窒化膜により構成されている。
図6に示した構成の静電容量式のマイクロホンからなる受波素子E1〜E8では、固定電極43aと可動電極43bとを電極とするコンデンサが形成されるから、受圧部42が音波の圧力を受けることによって固定電極43aと可動電極43bとの間の距離が変化すると、固定電極43aと可動電極43bとの間の静電容量が変化する。したがって、固定電極43aおよび可動電極43bに設けたパッド(図示せず)間に直流バイアス電圧を印加しておけば、パッドの間には超音波の音圧に応じて微小な電圧変化が生じるから、超音波の音圧を電気信号に変換することができる。
なお、受波素子E1〜E8として用いる静電容量式のマイクロホンの構造は図6の構造に特に限定するものではなく、例えばシリコン基板などをマイクロマシニング技術などにより加工して形成され、超音波を受けるダイヤフラム部からなる可動電極と、ダイヤフラム部に対向する背板部からなる固定電極との間に、超音波を受けていない状態でのダイヤフラム部と背板部とのギャップ長を規定する絶縁膜からなるスペーサ部が介在し、背板部に複数の排気孔が貫設された構造を有するものでもよい。このような静電容量式のマイクロホンでは、ダイヤフラム部が超音波を受けて変形してダイヤフラム部と背板部との距離が変化することにより、可動電極と固定電極との間の静電容量が変化する。
ところで、図6に示した静電容量式のマイクロホンからなる受波素子E1〜E8の共振特性のQ値は3〜4程度であり、圧電素子に比べてQ値が十分に小さく、従来のように送波素子および受波素子に圧電素子を用いている場合に比べて、超音波送波部11から送波される超音波における残響成分に起因した不感帯を短くすることができるとともに、受波素子E1〜E8で超音波を受波したときに発生する受波信号における残響時間を短くできて受波素子E1〜E8から出力される受波信号における残響成分に起因した不感帯を短くすることができるので、角度分解能を改善することができる。
トリガ信号受信部23は、トリガ信号発信部13から送信するトリガ信号として光を採用する場合には、例えばフォトダイオードを用いれば良く、トリガ信号として電波を採用する場合には例えば電波受信アンテナを用いれば良い。要するに、トリガ信号受信部23は、トリガ信号を受信してトリガ信号を電気信号(トリガ受信信号)に変換して出力できるものであればよい。
識別情報信号受信部25は、識別情報信号発信部15から送信する識別情報信号として光を採用する場合には例えばフォトダイオードを用いれば良いし、識別情報信号として電波を採用する場合には例えば電波受信アンテナを用いれば良く、識別情報信号として音波を採用する場合には例えば静電容量式の受波素子を用いればよい。要するに、識別情報信号受信部25は、識別情報信号を受信して識別情報信号を電気信号からなる識別情報に変換して出力できるものであればよい。
位置演算部22は、超音波受波部21の各受波素子E1〜E8で音波を受波した時刻(以下、受波時刻と称す)の時間差と各受波素子E1の配置位置とに基づいて超音波の到来方向、すなわち送信装置1の存在する方位を求める。ここにおいて、超音波の到来方向は、図3に示す直交座標におけるxz平面とyz平面との各角度として求められる。以下では、xz平面内での角度をθx、yz平面内での角度をθyと記述する。つまり、超音波の到来方向は(θx,θy)の対で表される。
以下に位置演算部22において超音波の到来方向(θx,θy)を求める処理について説明するが、説明を簡単にするために、xz平面内に配列された受波素子E1〜E5からの出力信号を用いてxz平面内での角度θxを求める処理について説明する。なお、yz平面内での角度θyは、yz平面内に配列された受波素子E3,E6,E7,E8からの出力信号を用いて求めることができるが、xz平面内の角度θxを求める場合と同様の処理で求めることができるので、その説明は省略する。
いま受波素子E1〜E5が配列された面(xz平面)に対する超音波の波面の角度がθ0である場合を想定すると(図7参照)、超音波の到来方向(すなわち、超音波受波部21に対して超音波送波部11の存在する方位角)はθ0になる。ここで超音波の速度をc、超音波の波面が隣り合う受波素子(例えば受波素子E1,E2)のうちの一方の受波素子E1に到達する時刻における超音波の波面と他方の受波素子E2の中心との間の距離(遅延距離)をd0、隣り合う受波素子E1の中心間距離をSとすれば、超音波の波面が隣り合う受波素子E1,E2にそれぞれ到達する時間の時間差(この時間を遅延時間と言う。)Δt0(図8参照)は、 Δt0=d0/c=S・sinθ0/cになる。したがって、θ0=sin−1(Δt0・c/S)となるから、時間差Δt0を求めれば、超音波の到来方向θ0を求めることができる。
図8(a)〜(e)は上述の超音波送波部11から略1周期の超音波(図5(a)参照)を送波したときの各受波素子E1〜E5の受波波形を示しており、図8(a)(b)(c)(d)(e)はそれぞれ受波素子E5,E4,E3,E2,E1の受波波形を示している。ここにおいて位置演算部22は、超音波の到来方向(すなわち超音波送波部11の方位)を求める機能を有する信号処理部22cを備えている。信号処理部22cは、各受波素子E1〜E5から出力された電気信号である受波信号の位相を、それぞれ各受波素子の配列位置と超音波の探索方向とで定まる時間差でずらすことによって位相を合わせた受波信号を組にして出力する位相調整手段と、位相調整手段から出力される各組の受波信号同士を掛け合わせる乗算手段と、乗算手段による乗算結果が最大となる組の受波信号に対応した探索方向を超音波の到来方向と判断する方位判定手段とを備えているので、超音波受波部21に対する超音波の到来方向(つまり超音波送波部11の方位)を求めることができる。なお信号処理部22cの位相調整手段と乗算手段と方位判定手段とは、当該信号処理部22cを構成するマイクロコンピュータに適宜のプログラムを搭載することにより実現される。
ここで信号処理部22cの乗算手段が、各組の受信信号同士を掛け合わせる組み合わせとしては、受波素子E1,E2の受波信号、受波素子E1,E3の受波信号、受波素子E1,E4の受波信号、受波素子E1,E5の受波信号、受波素子E2,E3の受波信号、受波素子E2,E4の受波信号、受波素子E2,E5の受波信号、受波素子E3,E4の受波信号、受波素子E3,E5の受波信号、受波素子E4,E5の受波信号の10通りの組み合わせがあり、これらの10通りの組み合わせについて以下の数1を用いて受波信号同士を掛け合わせる。
但し、θは計算中の方位角(例えば(−45)度以上(+45)度以下)、Cm,n(θ)は方位角θにおいて受波素子Em,En(m,nは1〜5までの整数)の受波信号同士を掛け合わせた乗算値、Δtm(θ),Δtn(θ)は受波素子Em,Enの方位角θにおける遅延時間、fm(t),fn(t)は受波素子Em,Enの時刻tにおける受波信号、t0は基準となる受波素子の1周期分の受波波形SPの開始時刻、T2は受波波形SPの周期である。
ここにおいて、t0の値は、基準となる受波素子を中央の受波素子E3とした場合に基準受波素子E3の受波波形SPの負側のピーク値の時刻(基準時刻)を遅延時間ゼロとして、上記基準時刻との時間差から求めている。なお、受波波形SPのサンプリング周期が1μ秒の場合、超音波の周波数が60kHzであれば、周期Tは16となる。またt0の値は理論上((基準時刻)−4)μ秒となる。
ところで、遅延距離d0および遅延時間Δt0は上述のように以下の式で示される。
d0=S・sinθ …(1)
Δt0=d/c=(S・sinθ)/c …(2)
上記の式(1)(2)の関係より、信号処理部22cが数1を用いてサンプリングしたデータを処理する際に、位相調整手段としての信号処理部22cが遅延時間Δt0を変化させることによって超音波の到来方向を走査する事ができるのである。
例えば受波素子の間隔Sを4mm、方位角θを5°として、受波素子E2の受波信号と受波素子E4の受波信号との乗算値C(相関値)を求める場合、遅延距離および遅延時間はそれぞれ以下のようになる。
d0=4×sin5°≒0.34(mm)
Δt0=0.34×10−3/340=1(μ秒)
したがって、Δt2(5)=(−1)、Δt4(5)=(+1)となり、乗算値C2,4(5)は以下のようになる。
ここにおいて、位相調整手段たる信号処理部22cが、受波素子E2の受波信号f2(t)と、受波素子E4の受波信号f4(t)とをそれぞれの遅延時間だけ前後にずらすことによって、両者の位相を基準となる受波素子E3の位相に一致させた後、受波信号f2(t)と受波信号f4(t)とを1周期分掛け合わせることによって乗算値C2,4(θ)を算出しており、その乗算結果C2,4(θ)は受波素子E2の受波波形と受波素子E4の受波波形との相関値を示している。
もし仮に各受波素子E1…の受波波形SPがノイズの無い理想的な正弦波形であるとすると、任意の2つ受波素子Em,Enの受波波形SPm,SPnを素子の配列位置と超音波の探索方向(走査方向)とで決まる遅延時間だけ前後にずらした場合、2つの受波波形SPm,SPnが完全に一致するときのみ(図9(a)参照)、Cm,n(θ)の値は(+1)になる。一方、2つの受波波形SPm,SPnの位相が90度ずれていると(同図(b)参照)、Cm,n(θ)の値はゼロになり、位相が180度ずれていると(同図(c)参照)、Cm,n(θ)の値は(−1)になる。さらに、一方の受波波形SPnの周波数が他方の受波波形SPnの周波数の整数倍であれば(同図(d)参照)、Cm,n(θ)の値はゼロになる。
したがって、信号処理部22cが、方位角θを所定の角度範囲(例えば(−45度)以上且つ45度以下)で変化させながら、各々の方位角θで2つの受波信号fm(t),fn(t)の相関値Cm,n(θ)を計算すれば、相関値Cm,n(θ)の値が最大となる時の方位角θを求めることによって、超音波送波部11の存在する方位を特定することができる。ここで、本実施形態では信号処理部22cが5個の受波素子E1〜E5を全て組み合わせた10通りの相関値Cm,n(θ)を計算して、それらの合計値を算出しており、この合計値を方位θの判定に用いている。具体的には信号処理部22cが以下の式(3)の計算を行って合計値Call(θ)を求め、この合計値Call(θ)が最大となるときの方位角θを超音波送波部11が存在する方位角(つまり超音波の到来方向θx)と判定するのである。
Call(θ)=C1,2(θ)+C1,3(θ)+C1,4(θ)+C1,5(θ)+C2,3(θ)+C1,4(θ)+C1,5(θ)+C3,4(θ)+C3,5(θ)+C4,5(θ) …(3)
このように本実施形態では、位相調整手段および乗算手段としての信号処理部22cが、各受波素子E1〜E5の受波信号の位相を合わせ、位相が調整された各受波素子E1〜E5の受波信号同士を掛け合わせており、受波素子E1〜E5の一部にノイズが重畳した場合はノイズが重畳した受波信号同士を掛け合わせると、ノイズが重畳していない場合に比べて乗算結果が小さくなるので、ノイズ信号をキャンセルすることができ、したがって方位判定手段たる信号処理部22cが、乗算結果(相関値C)が最大となる受波信号の組の探索方向を超音波の到来方向と判断することで、ノイズが重畳した場合でも超音波の到来方向を正確に判定できるのである。
なお、yz平面内における超音波の到来方向θyを求める場合には、yz平面内に配列された受波素子E3,E6,E7,E8の受波信号を用いて同様の計算を行えば良く、その説明は省略する。
また位置演算部22は、上述の信号処理部22cの他に、超音波受波部21の各受波素子E1から出力されるアナログの受波信号をディジタルの受波信号に変換して出力するA/D変換部22aと、トリガ信号受信部23からのトリガ受信信号が入力された時点から所定の受波期間だけA/D変換部22aの出力が格納されるデータ格納部22bとを備えており、上述の信号処理部22cは、データ格納部22bにトリガ受信信号が入力されたときに受波期間を設定し、受波期間にのみA/D変換部22aを作動させ、受波期間にデータ格納部22bに格納された受波信号のデータに基づいて超音波の到来方向を求めるのである。
ところで、本実施形態では超音波送波部11として上述の熱励起式の超音波発生素子11aを用いているので、図10に示すように、超音波受波部21の各受波素子E1〜E5へ2つの到来方向θ1,θ2から超音波が到来する場合、到来方向θ1から到来する超音波の方が到来方向θ2の方向から到来する超音波に比べて先に到達するとすれば、図11(a)〜(e)に示すように各受波素子E1〜E5それぞれから出力される2つの受波信号が重なりにくく、超音波の到来方向θ1,θ2を求めることができる。なお、図11(a)(b)(c)(d)(e)はそれぞれ受波素子E5,E4,E3,E2,E1の受波信号を示しており、(a)〜(e)それぞれにおける左側の受波信号が到来方向θ1から到来した超音波に対応し、右側の受波信号が到来方向θ2から到来した超音波に対応している。ここに、到来方向θ1からの超音波の隣り合う受波素子E1…の間の遅延距離をd1(図10参照)とすれば、超音波の波面が隣り合う受波素子E1…に到達する時間の時間差Δt1(図11参照)は、Δt1=d1/c=S・sinθ1/cとなるから、θ1=sin−1(Δt1・c/S)となり、時間差Δt1を求めれば、超音波の到来方向θ1を求めることができる。同様に到来方向θ2からの超音波の隣り合う受波素子E1…の間の遅延距離をd2(図10参照)とすれば、超音波の波面が隣り合う受波素子E1…に到達する時間の時間差Δt2(図11参照)は、Δt2=d2/c=S・sinθ2/cとなるから、θ2=sin−1(Δt2・c/S)となり、時間差Δt2を求めれば、超音波の到来方向θ2を求めることができる。
なお図7および図10の例では説明を簡単にするために受波素子E1…を一直線上に配列した例で説明したが、実際には一平面上においてx方向とy方向とにそれぞれ複数個の受波素子E1を配列してあるので、xz平面内での到来方向θxと、yz平面内での到来方向θyとを同時に求めることができる。つまり、超音波の到来方向を(θx,θy)の組み合わせで求めることができる。
また、位置演算部22の信号処理部22cは、トリガ信号受信部23によりトリガ信号を受信した時刻と受波素子E1により超音波を受波した時刻との関係から受信装置2と送信装置1との距離(実質的には、受信装置2の超音波受波部21と送信装置1の超音波送波部11との距離)を求める距離演算手段を備えている。上述のようにトリガ信号として光もしくは電波のように超音波に比べて十分に高速な信号を採用しているので、送信装置1から受信装置2までのトリガ信号の到達時間は送信装置1から受信装置2までの超音波の到達時間に比べて十分に短く(無視できる程度に短く)、トリガ信号の到達時間をゼロとみなすことができる。したがって、距離演算手段では、図8に示すようにデータ格納部22bを介してトリガ受信信号STを受信した時刻と当該トリガ受信信号STの受信後に最初に受波素子E1…からの受波波形SPを受信した時刻との時間差T1と、超音波の速度とによって受信装置2と送信装置1との距離を求めるようにしてある。なお信号処理部22cの距離演算手段は、当該信号処理部22cを構成するマイクロコンピュータに適宜のプログラムを搭載することにより実現される。
ここに、データ格納部22bには、〔受波素子E1…の個数〕×〔各受波素子E1…からの受波信号のデータ数〕の数だけデータが格納されることになるので、例えば受波素子E1…の個数を8個、受波期間を30ms、A/D変換部22aのサンプリング周期を1μsとした場合には、1データを1ワードとして240kワードの容量が必要となるから、256kワードのSRAMなどを使用すればよい。
ところで、本実施形態では上述のようにグローバル座標XG−YGでの受信装置2の座標位置を求める必要があり、そのため移動体Aをグローバル座標XG−YGの座標位置が既知である基準位置に位置させる。例えば図12に示すように床面100の上でグローバル座標XG−YGの座標位置が既知である基準位置Psを設定し、基準位置Psに移動体Aを位置させた場合を想定する。ここで、移動体Aに対する送信装置1の位置は変化しないから、移動体Aの位置は送信装置1の位置を表しているものとみなして説明する。基準位置Psのグローバル座標XG−YGにおける座標位置を(XG11,YG11)とする。グローバル座標XG−YGにおける受信装置2の座標位置を求めるには、まず位置演算部22を受信装置2の位置を求めるキャリブレーションモードに設定した状態で、移動体Aを基準位置Psに位置させる。
受信装置2の位置演算部22では、ローカル座標XL−YLにおける送信装置1の座標位置を求めることができるから、この座標位置を(XL11,YL11)とする。ここで、グローバル座標XG−YGとローカル座標XL−YLとの座標軸の向きが一致するという制約条件を設定すれば、基準位置Psについて、グローバル座標XG−YGにおける座標位置(XG11,YG11)とローカル座標XL−YLにおける座標位置(XL11,YL11)との差が、グローバル座標XG−YGにおける受信装置2の座標位置(XR,YR)になる。すなわち、XR=XG11−XL11、YR=YG11−YL11として受信装置2の座標位置を求めることができる。
グローバル座標XG−YGでの受信装置2の座標位置(XR,YR)は座標変換処理部22dに格納され、信号処理部22cでの以後の処理に用いられる。また、座標変換処理部22dには、グローバル座標XG−YGにおける基準位置Psの座標位置(XG11,YG11)も格納されている。ここで、座標変換処理部22dに格納されたデータの変更頻度は少ないから、座標変換処理部22dにはEEPROMのような不揮発性メモリを用いるのが望ましい。座標位置(XG11,YG11)は、グローバル座標XG−YGにおける基準位置Psを実装した結果に基づいて設定される。すなわち、グローバル座標XG−YGでの送信装置1の座標位置を求める運転モードでは、座標変換処理部22dに格納された受信装置2の座標位置を用いることで、送信装置1の座標位置を算出するのである。なお、基準位置Psの計測は床面100の上で行うから作業は容易である。
ところで、上述の説明では、グローバル座標XG−YGの座標軸とローカル座標XL−YLの座標軸との向きが一致しているという制約条件を設定したが、このような制約条件を成立させるには、受信装置2の取付方向がグローバル座標XG−YGの座標軸に対して一定の関係になるように施工しなければならない。したがって、受信装置2の設置施工時に座標位置については考慮しなくてもよいから設置施工が容易になるものの、以前としてグローバル座標XG−YGの座標軸との関係については考慮しなければならない(グローバル座標の座標軸に沿ったラインが天井面200に設けられている場合もあるから、その場合には設置施工は比較的容易である)。
そこで、以下では受信装置2の取付方向についても制約を設けずに設置施工が可能になる技術を説明する。上述の動作ではグローバル座標XG−YGにおける受信装置2の座標位置を求めるだけであり、座標軸の回転角を考慮しないから、未知数は2であって、上述したように1つの基準位置Psについて2式を設定すれば未知数を求めることができる。一方、座標軸の回転角を考慮する場合にはグローバル座標XG−YGの座標軸に対するローカル座標XL−YLの座標軸の回転角θRを求めなければならないから、未知数が3つ(XR,YR,θR)になる。つまり、1つの基準位置Psから得られる2式のみでは未知数を求めることができない。そこで、基準位置を2つ設定する。
いま、図13に示すように、2つの基準位置Ps1,Ps2(Ps2は図示せず)のうちの一方の基準位置Ps1について、受信装置2ではグローバル座標XG−YGにおける座標位置(XG11,YG11)が既知であり、ローカル座標XL−YLにおける座標位置(XL11,YL11)が計測されているものとする。ここで、受信装置2に関する未知数(XR,YR,θR)とこれらの座標位置(XG11,YG11),(XL11,YL11)との関係は、下記数3のように表すことができる。
同様にして、基準位置Ps2についてもグローバル座標XG−YGにおける座標位置(XG12,YG12)とローカル座標XL−YLにおける座標位置(XL12,YL12)との関係を下記数4のように表すことができる。
ここで、数3と数4とから(XR,YR)を消去すれば、θRに関する下記数5が得られる。
さらに、数5を数3、数4に適用すれば、(XR,YR)を求めることができる。
したがって、受信装置2の座標位置を求めるには、まず移動体Aを基準位置Ps1に位置させてローカル座標XL−YLにおける座標位置(XL11,YL11)を求め、次に、移動体Aを基準位置Ps2に位置させてローカル座標XL−YLにおける座標位置(XL12,YL12)を求めると、グローバル座標XG−YGにおける受信装置2の位置をローカル座標XL−YLにおける座標軸の回転角θRを含めて求めることができる。
以上説明した本実施形態の位置検出システムでは、受信装置2が、超音波送波部11から送波された超音波を受波するとともに受波した超音波を電気信号である受波信号に変換する複数個の受波素子E1…が同一基板21a上に配列されたアレイセンサからなる超音波受波部21を有し、位置演算部22が、超音波受波部21の各受波素子E1…で超音波を受波した時刻の時間差と各受波素子E1…の配置位置とに基づいて受信装置2に対して送信装置1の存在する方位を求めるとともに、受信装置2と送信装置1との距離を求め、受信装置2に対する送信装置1の相対位置を求めるように構成されているので、1個の受信装置2の出力に基づいて当該受信装置2に対する送信装置1の相対位置を求めることができるから、施工が容易になる。
なお、上記実施形態では、送信装置1にトリガ信号発信部13を設けるとともに受信装置2にトリガ信号受信部23を設けてあるが、トリガ信号発信部13を受信装置2側に設けるとともにトリガ信号受信部23を送信装置1側に設けて、制御部17がトリガ信号受信部23の出力に基づいて超音波送波部11から超音波が送波されるようにドライバ12を制御するようにし、位置演算部22における信号処理部22cが、トリガ信号発信部13からトリガ信号が発信された時刻と受波素子E1により超音波を受波した時刻との関係から送信装置1までの距離を求めるようにしてもよい。ここにおいて、制御部17は、トリガ信号受信部23から出力されたトリガ受信信号が入力されたときに直ちにドライバ12を制御するようにしてもよいし、所定時間後にドライバ12を制御するようにしてもよい。
上記の方位検出システムでは、位置検出対象の移動体又は定位置に固定される固定体の一方に超音波を送波する超音波送波部を、他方に超音波受波部をそれぞれ配置し、前記超音波受波部は、それぞれ前記超音波送波部から送波された超音波を受波するとともに、受波した超音波を電気信号である受波信号に変換する複数個の受波素子が同一基板上に配列されたアレイセンサからなり、前記各受波素子の配列位置と超音波の探索方向とで定まる時間差で前記各受波素子から出力された受波信号の位相を夫々ずらすことによって得られた受波信号を組にして出力する位相調整手段と、前記位相調整手段から出力される各組の受波信号同士を掛け合わせる乗算手段と、所定の角度範囲内で前記探索方向を複数に変化させ、各々の前記探索方向について前記位相調整手段から出力される各組の受波信号同士を前記乗算手段が掛け合わせて乗算結果を求め、前記乗算手段による乗算結果が最大となる探索方向を超音波の到来方向と判断する方位判定手段とを備えている。このように、位相調整手段が各受波素子の受波信号の位相を合わせ、位相が調整された各受波素子の受波信号同士を乗算手段により掛け合わせており、受波素子の一部にノイズが重畳した場合はノイズが重畳した受波信号同士を掛け合わせると、ノイズが重畳していない場合に比べて乗算結果が小さくなるので、ノイズ信号をキャンセルすることができ、したがって方位判定手段が、乗算手段による乗算結果が最大となる受波信号の組の探索方向を超音波の到来方向と判断することで、ノイズが重畳した場合でも超音波の到来方向を正確に判定できる方位測定システムを実現できる。
(実施形態2)
本発明の実施形態2を図14に基づいて説明する。なお、信号処理部22cおよびメモリ24以外の位置測定システムの構成は実施形態1と同様であるので、共通する構成要素には同一の符号を付してその説明は省略する。
上述の実施形態1では、信号処理部22cが各受波素子E1…からの受波信号を、受波素子E1…の配列位置と超音波の探索方向とで定まる時間差だけずらして位相を合わせた後、受波信号同士を1周期分掛け合わせた相関値C(θ)を求め、この相関値C(θ)が最大となるときの方位角θから超音波の到来方向を求めているのに対して、本実施形態ではメモリ24内に基準となる受波波形(以下、基準波形と言う。)を示す基準受波信号f0(t)を記憶する基準波形記憶部24aを設け、基準波形記憶部24a内に格納された基準受波信号f0(t)と、各受波素子E1〜E5の受信信号とを1周期分掛け合わせて相関値C(θ)を求めている。
ここで、xz平面内で超音波の到来方向θxを求める場合について説明を行う。xz平面内での到来方向θxを求める場合は、xz平面内に配列された受波素子E1〜E5の受波波形SPを用いるのであるが、本実施形態では基準波形としてxz方向の中央に配置された受波素子E3の受波波形を用いており、信号処理部22cはデータ格納部22bから受波素子E3の受波信号f3(t)を読み込んでメモリ24の基準波形記憶部24aに記憶させた後、基準波形記憶部24aから読み込んだ基準波形信号(受波素子E3の受波信号)と、データ格納部22bから読み込んだ他の受波素子E1,E2,E4,E5の受波信号とを用いて方位角の算出を行っている。すなわち信号処理部22cは、受波素子E3の受波信号f3(t)と、他の4個の受波素子E1,E2,E4,E5の受波信号f1(t),f2(t),f4(t),f5(t)との4通りの組み合わせで下記の数6により相関値C1,3(θ),C2,3(θ),C3,4(θ),C3,5(θ)を求めている。
但し、θは計算中の方位角(例えば(−45)度以上(+45)度以下)、Cm,3(θ)は方位角θにおいて受波素子Em(m=1,2,4,5)と受波素子E3の受波信号同士を掛け合わせた乗算値、fm(t)は受波素子Emの時刻tにおける受波信号、Δtm(θ)は受波素子Emの方位角θにおける遅延時間、t0は基準となる受波素子E3の1周期分の受波波形SPの開始時刻、T2は受波波形SPの周期である。
例えば受波素子E1〜E5の間隔Sを4mm、方位角θを5°として、受波素子E2の受波波形(受波信号)と基準波形(すなわち受波素子E3の受波波形(受波信号))との相関値を求める場合、遅延時間Δt2(θ)=−1(μ秒)となり、相関値C2,3(θ)は以下の数7により求められる。
ここにおいて信号処理部22cは、受波素子E2の受波信号f2(t)を遅延時間Δt2(θ)だけずらして受波素子E3の受波信号f3(t)の位相に一致させた後、受波素子E2の受波信号f2(t)と、受波素子E3の受波信号f3(t)とを1周期分掛け合わせることによって乗算値C2,3(θ)を算出しており、その値は受波素子E2の受波波形と基準波形との相関値を示している。
そして、信号処理部22cでは、基準となる受波素子E3の受波信号と、他の4個の受波素子E1,E2,E4,E5の受波信号との4通りの組み合わせについてそれぞれ相関値Cm,3(θ)を計算して、それらの合計値を算出しており、この合計値を方位の判定に用いている。具体的には以下の式(4)の計算を行って合計値Call(θ)を求め、この合計値Call(θ)が最大となるときの方位角θを超音波送波部11が存在する方位角(つまり超音波の到来方向θx)と判定するのである。
Call(θ)=C1,3(θ)+C2,3(θ)+C3,4(θ)+C3,5(θ)…(4)
このように本実施形態では何れかの受波素子(本実施形態では受波素子E3)の受波波形を基準波形とし、信号処理部22cが、受波素子E3の受波信号(つまり基準波形の受波信号)と、他の受波素子の受波信号との相関値を求めることで超音波の到来方向を求めており、基準となる受波素子E3以外の全ての受波素子について受波信号に同じタイミングでノイズが重畳している場合でも、基準となる受波素子E3の受波信号にノイズが重畳していなければ、他の受波素子の受波信号に重畳したノイズをキャンセルすることができ、ノイズによる誤検出を低減することができる。
なお、yz平面内における超音波の到来方向θyを求める場合には、yz平面内に配列された受波素子E3,E6,E7,E8の受波信号を用い、受波素子E2の受波波形を基準波形として同様の計算を行えば良く、その説明は省略する。また本システムの動作は、方位を測定する動作を除いて実施形態1と同様であるので、その説明も省略する。
(実施形態3)
以下に本発明の実施形態3を説明する。尚、位置検出システムの構成は実施形態2と同様であるので、共通する構成要素には同一の符号を付して、その説明は省略する。
上述の実施形態2では基準波形記憶部24aに基準となる受波素子E3の受波信号(基準受波信号)を記憶させ、この基準受波信号と他の受波素子E1,E2,E4,E5の受信信号とを1周期分掛け合わせて相関値C(θ)を求めているのに対して、本実施形態ではコンピュータによりノイズを含まない理論上の受波波形を作成して、この受波波形を示す基準受波信号f0(t)を基準波形記憶部24a内に予め記憶させており、信号処理部22cでは、基準波形記憶部24a内に格納された基準受波信号f0(t)と、各受波素子E1〜E8の受波信号とを互いに掛け合わせ、その乗算結果に基づいて超音波の到来方向を求めている。
ここで位置演算部22において超音波の到来方向(θx,θy)を求める処理について説明するが、説明を簡単にするために、xz平面内に配列された受波素子E1〜E5からの出力信号を用いてxz平面内での角度θxを求める処理について説明する。なお、yz平面内での角度θyは、yz平面内に配列された受波素子E3,E6〜E8からの出力信号を用いて求めることができるが、xz平面内の角度θxを求める場合と同様の処理で求めることができるので、その説明は省略する。
xz方向の方位角θxを求める場合はxz平面内に配列された受波素子E1〜E5の受波信号を用いるのであるが、信号処理部22cの遅延手段が各受波素子E1〜E5の受波信号を所定の遅延時間だけ遅延させた後、信号処理部22cの乗算手段が各組の受波信号同士を掛け合わせる組み合わせとしては、受波素子E1,E2の受波信号、受波素子E1,E3の受波信号、受波素子E1,E4の受波信号、受波素子E1,E5の受波信号、受波素子E2,E3の受波信号、受波素子E2,E4の受波信号、受波素子E2,E5の受波信号、受波素子E3,E4の受波信号、受波素子E3,E5の受波信号、受波素子E4,E5の受波信号の10通りの組み合わせがあり、これらの10通りの組み合わせについて以下の数8を用いて受波信号同士を掛け合わせる。
但し、θは計算中の方位角(例えば(−45)度以上(+45)度以下)、Cm,n(θ)は方位角θにおいて受波素子Em,En(m,nは1〜5までの整数)の受波信号と基準受波信号とを掛け合わせた乗算値、Δtm(θ),Δtn(θ)は受波素子Em,Enの方位角θにおける遅延時間、fm(t),fn(t)は受波素子Em,Enの時刻tにおける受波信号、t0は基準となる受波素子の1周期分の受波波形SPの開始時刻、T2は受波波形SPの周期である。
ここにおいて、t0の値は、基準となる受波素子を中央の受波素子E3とした場合に基準受波素子E3の受波波形SPの負側のピーク値の時刻(基準時刻)を遅延時間ゼロとして、基準時刻との時間差から求めている。なお、受波波形SPのサンプリング周期が1μ秒の場合、超音波の周波数が60kHzであれば、周期Tは16となる。またt0の値は、理論上は((基準時刻)−4)μ秒となる。
したがって、方位角θを5度として受波素子E2,E4の相関値C2,4(5)を求める場合、Δt2(5)=(−1)、Δt4(5)=(+1)となるので、乗算値C2,4(5)は以下のようになる。
ここにおいて信号処理部22cは、受波素子E2の受波信号f2(t)と、受波素子E4の受波信号f4(t)とをそれぞれの遅延時間だけ前後にずらすことによって、両者の位相を基準となる受波素子E3の位相に一致させた後、受波信号f2(t)と受波信号f4(t)と基準受波信号f0(t)とを1周期分掛け合わせることによって乗算値C2,4(θ)を算出しており、その算出値は掛け合わせた受波波形の相関値を示している。
本実施形態では信号処理部22cが、5個の受波素子E1〜E5を全て組み合わせた10通りの相関値Cm,n(θ)を数8を用いて計算し、それらの合計値を算出しており、この合計値を方位θの判定に用いている。具体的には以下の式(5)の計算を行って合計値Call(θ)を求め、この合計値Call(θ)が最大となるときの方位角θを超音波送波部11が存在する方位角(つまり超音波の到来方向θx)と判定するのである。
Call(θ)=C1,2(θ)+C1,3(θ)+C1,4(θ)+C1,5(θ)+C2,3(θ)+C1,4(θ)+C1,5(θ)+C3,4(θ)+C3,5(θ)+C4,5(θ) …(3)
上述のように本実施形態では受波素子E1〜E5のうち何れか2つの受波素子Em,Enについて相関値を求める際に、これらの受波素子Em,Enの受波信号と、ノイズを含まない理想の受波波形を示す基準受波信号とを掛け合わせて相関値を求めているので、全ての受波素子の受波信号に同じタイミングで同様のノイズが重畳したとしても、重畳したノイズをキャンセルすることができる。
本実施形態では、上記基準となる受波波形が、コンピュータにより予め作成された理論上の受波波形である。これにより、コンピュータにより予め作成された理論上の受波波形を基準となる受波波形として用い、この理論上の受波波形の受波信号と各受波素子の受波信号とを乗算手段により掛け合わせているので、全ての受波素子の受波信号に同じタイミングで同様のノイズが重畳した場合でも、このノイズをキャンセルすることができ、ノイズによる誤検出を低減することができる。
なお、yz平面内における超音波の到来方向θyを求める場合には、yz平面内に配列された受波素子E3,E6,E7,E8の受波信号を用いて同様の計算を行えば良く、その説明は省略する。また本システムの動作は、方位を測定する動作を除いて実施形態1と同様であるので、その説明も省略する。
ところで、本実施形態ではコンピュータによりノイズを含まない理論上の受波波形を予め作成し、この受波波形の受波信号f0(t)を基準受波信号として用いているが、無響音室などの低ノイズ環境下で実際に測定した受波波形の受波信号を基準受波信号として基準波形記憶部24aに予め記憶させておき、この基準受波信号を用いて信号処理部22cが上述の演算処理を行い、超音波の到来方向を求めるようにしても良い。この場合、予め低ノイズ環境下で受波した受波波形の信号を基準受波信号として用いることにより、ノイズが混じらず、且つ、実際の受波波形に近い波形を用いて各受波素子の受波信号との相関値を求めることができ、ノイズによる誤検出をさらに低減できるという効果がある。
なお、上述の各実施形態では移動体Aに超音波送波部11を、定位置に設置される受信装置2に超音波受波部21をそれぞれ配置しているが、定位置に超音波送波部11を備える送信装置1を配置するとともに、移動体Aに超音波受波部21を備える受信装置2を配置しても良く、上述と同様に移動体Aの位置を測定することができる。
また、本発明の精神と範囲に反することなしに、広範に異なる実施形態を構成することができることは明白なので、この発明は、特定の実施形態に制約されるものではない。