JP2008051243A - ドラムブレーキ - Google Patents

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隆一 榊原
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Abstract

【課題】ブレーキドラムの変形による制動トルクへの影響を低減することができるドラムブレーキを提供する。
【解決手段】一端が開かれているとともに他端に底面が形成されている円筒状のブレーキドラム104の内周面に、複数対のブレーキシューを押し付けることにより制動力を発生するドラムブレーキは、相対的にブレーキドラム104の一端側に配置された一対の第1ブレーキシュー106aと、相対的にブレーキドラムの他端側に配置された一対の第2ブレーキシュー106bとを含む。第1ブレーキシュー106aは、ブレーキ操作に応じて内周面に接触する第1ブレーキライニング112aを有し、第2ブレーキシュー106bは、ブレーキ操作に応じて内周面に接触する第2ブレーキライニング112bを有する。第1ブレーキライニング112aは、第2ブレーキライニング112bに比べてヤング率が低い。
【選択図】図10

Description

本発明は、ブレーキドラムの内周面にブレーキシューを押し付けることにより車両に制動力を発生するドラムブレーキに関する。
従来、タイヤと一緒に回転する円筒状のブレーキドラムの内側に、ペダルの操作に応じてオイルの圧力で広がる帯状のブレーキシューが取り付けられているドラムブレーキが知られている。このドラムブレーキは、ブレーキシューとブレーキドラム(以下、適宜ドラムという)との摩擦により車両の制動を行うことができる。
ドラムブレーキにおいては、製造工程におけるばらつきや繰り返しの制動による熱変形等により、ドラムが楕円に変形する場合がある。この場合、ドラムには短径部分と長径部分が存在することとなり、制動中にドラムとブレーキシューとの間で面圧が変化する。そのため、一対のブレーキシューを位相が180°異なるように配置していた場合、変形したドラムの回転位置により、ブレーキシューの外周に設けられたライニングがドラムの内周に接触する際に発生する摩擦力に変動が生じる。その結果、制動トルクや油圧の変動が発生し、制動時における車両の振動やブレーキペダルにおける脈動の原因となる。
そこで、特許文献1には、ドラムの変形による振動防止を目的に、ドラムの内周面に2対のブレーキシューをそれぞれの対が対向するように配置された車両の制動装置が開示されている。
特開2006−131157号公報
しかしながら、特許文献1に記載の車両の制動装置は、ブレーキシューごとにホイールシリンダが必要となるため部品点数が増加し、コストの増大を招く。
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、ブレーキドラムの変形による制動トルクへの影響を低減することができるドラムブレーキを提供することにある。
上記課題を解決するために、本発明のある態様のドラムブレーキは、一端が開かれているとともに他端に底面が形成されている円筒状のブレーキドラムの内周面に、複数対のブレーキシューを押し付けることにより制動力を発生するドラムブレーキにおいて、前記複数対のブレーキシューは、相対的にブレーキドラムの一端側に配置された一対の第1ブレーキシューと、相対的にブレーキドラムの他端側に配置された一対の第2ブレーキシューとを含む。前記第1ブレーキシューは、ブレーキ操作に応じて前記内周面に接触する第1ブレーキライニングを有する。前記第2ブレーキシューは、前記第1ブレーキライニングに対してブレーキドラムの回転方向に所定角度位相をずらした位置に配置されるとともにブレーキ操作に応じて前記内周面に接触する第2ブレーキライニングを有する。前記第1ブレーキライニングは、前記第2ブレーキライニングに比べてヤング率が低い。
この態様によると、例えば、ブレーキドラムが変形によりわずかに楕円形状となっていた場合、制動時において第1ブレーキライニングが楕円の短径部分と接触することで摩擦による最大制動トルクを発生しているとき、第2ブレーキライニングは、第1ブレーキライニングに対してブレーキドラムの回転方向に所定角度位相をずらした位置に配置されているので、楕円の短径部分より長い径を有する領域と接触することになる。そのため、第2ブレーキライニングは、楕円の短径部分と接触するときに発生する最大制動トルクより小さな制動トルクを発生していることになる。つまり、ブレーキドラムが変形していた場合、第1ブレーキライニングと第2ブレーキライニングとがそれぞれ発生する制動トルクの変動の位相は互いにずれているので、位相がそろっている場合と比較して、重畳した制動トルクの変動幅を小さくすることができる。
また、一端が開かれているとともに他端に底面が形成されている円筒状のブレーキドラムが変形した場合、環状の他端が底面により固定されているため、環状の一端が変形しやすくなる。また、変形により環状の一端のうち所定の径方向が延びると、環状の一端のうち所定の径方向と略直交する径方向は縮む場合がある。そのため、第1ブレーキシューが配置されたブレーキドラムの一端側の径の変動幅は、第2ブレーキシューが配置されたブレーキドラムの他端側の変動幅より大きくなる。そこで、このような場合、径の変動幅が大きい一端側に配置された第1ブレーキライニングのヤング率を第2ブレーキライニングより小さく設定するとよい。これにより、変動幅の大きい一端側の内周面には変形しやすい第1ブレーキライニングが接触し、変動幅の小さい他端側の内周面には変形しにくい第2ブレーキライニングが接触するので、ブレーキ操作に応じた第1ブレーキシューと第2ブレーキシューとの変位量の差を緩和することができる。したがって、簡易な構成によりブレーキドラムの変形による制動トルクへの影響を低減することができる。
前記一対の第1ブレーキシューに押圧力を付与するための第1ホイールシリンダと、前記一対の第2ブレーキシューに押圧力を付与するための第2ホイールシリンダとを更に備えてもよい。前記第2ブレーキシューは、前記第1ブレーキライニングに対してブレーキドラムの回転方向に実質的に90°位相をずらした位置に配置されている第2ブレーキライニングを有してもよい。
一対の第1ブレーキシューと一対の第2ブレーキシューとは互いにブレーキドラムの回転軸方向にずれて配置されているので、第1ホイールシリンダと第2ホイールシリンダとの2つで2対のブレーキシューを押圧することができる。また、第1ブレーキシューと第2ブレーキシューをブレーキドラムの回転方向に交互にほぼ90°ずつ位相をずらした位置に配置することで、ブレーキドラムの変形による制動トルクの周期的な変動をより抑えることができる。
本発明によれば、ブレーキドラムの変形による制動トルクへの影響を低減することができる。
以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための最良の形態について詳細に説明する。
(第1の実施の形態)
[ドラムブレーキの構成]
図1は、第1の実施の形態に係るドラムブレーキの概略構成図である。図2は、図1に示されるドラムブレーキのA−A断面の要部を示す拡大部分断面図である。
これらの図面に示されるドラムブレーキ2は、例えば、車両のリヤブレーキユニットとして適用されると好適なものである。ドラムブレーキ2は、当該車両の図示されない車軸に取り付けられるブレーキドラム4と、ブレーキドラム4の軸方向に並設された複数対のブレーキシュー6とを含む。
ブレーキドラム4は、一端(図2の左側)が開かれているとともに他端(図2に示す右側)に底面が形成されている円筒状である。ブレーキシュー6は、相対的にブレーキドラムの一端側に配置された一対の第1ブレーキシュー6aと、相対的にブレーキドラムの他端側に配置された一対の第2ブレーキシュー6bとを含む。そして、ドラムブレーキ2は、ブレーキドラム4の内周面に一対の第1ブレーキシュー6aおよび一対の第2ブレーキシュー6bを押し付けることにより制動トルクを発生する。
第1ブレーキシュー6aは、1枚のウェブ8a、リム10a、および第1ブレーキライニング12aを有する。同様に、第2ブレーキシュー6bは、1枚のウェブ8b、リム10b、および第2ブレーキライニング12bを有する。第1ブレーキシュー6aの1枚のウェブ8aおよび第2ブレーキシュー6bの1枚のウェブ8bは、バッキングプレート20の板面と平行に延在し、図2に示すように、所定の間隔を隔ててリム10aおよびリム10bの内周面に固定されている。また、第1ブレーキライニング12aおよび第2ブレーキライニング12bは、リム10aおよびリム10bの外周面に固定されており、それぞれブレーキドラム4の内周面4aと対向する。
また、図2に示されるように、ドラムブレーキ2は、ブレーキドラム4の内部の一端側すなわち図2における左側に配置された第1ホイールシリンダ14aと、ブレーキドラム4の内部の他端側すなわち図2における右側(バッキングプレート20側)に配置された第2ホイールシリンダ14bとを含む。第1ホイールシリンダ14aは、シリンダ腔部16aと、当該シリンダ腔部16aの内部に配置された一対のピストン18aとを有する。また、第2ホイールシリンダ14bは、シリンダ腔部16bと、当該シリンダ腔部16bの内部に配置された一対のピストン18bとを有する。
第1ホイールシリンダ14aのシリンダ腔部16aと第2ホイールシリンダ14bのシリンダ腔部16bとは、直接的または間接的に連通されており、油圧が一定となるように作動流体としてのブレーキフルードが移動可能に構成されている。
そして、図1に示すように、一対の第1ブレーキシュー6aおよび一対の第2ブレーキシュー6bのそれぞれの上端部同士は、1本または2本のシューリターンスプリング22を介して互いに連結されている。シューリターンスプリング22の付勢力により、各第1ブレーキシュー6aのウェブ8aの一端は、第1ホイールシリンダ14aの対応するピストン18aの端部に係合させられる。また、シューリターンスプリング22の付勢力により、各第2ブレーキシュー6bのウェブ8bの一端は、第2ホイールシリンダ14bの対応するピストン18bの端部に係合させられる。なお、シューリターンスプリング22は、各第1ブレーキシュー6aのウェブ8a同士の間と、各第2ブレーキシュー6bのウェブ8b同士の間とに1本ずつ設けられるとよい。
さらに、図1に示すように、一対の第1ブレーキシュー6aおよび一対の第2ブレーキシュー6bのそれぞれの下端部同士は、スプリング24を介して互いに連結されている。各第1ブレーキシュー6aのウェブ8aの他端は、スプリング24の付勢力により、バッキングプレート20上に固定されたアンカーブロック26の対応する側面に当接させられる。同様に、各第2ブレーキシュー6bのウェブ8bの他端も、スプリング24の付勢力により、バッキングプレート20上に固定されたアンカーブロック26の対応する側面に当接させられる。
このように構成されるドラムブレーキ2では、運転者によってブレーキペダルが操作されると、図示されないマスタシリンダから、第1ホイールシリンダ14aと第2ホイールシリンダ14bとにブレーキフルードが供給される。これにより、第1ホイールシリンダ14aの一対のピストン18aがそれぞれ外方に突出させられると共に、第2ホイールシリンダ14bの一対のピストン18bがそれぞれ外方に突出させられる。
そして、一対の第1ブレーキシュー6aには第1ホイールシリンダ14aから押圧力が付与され、一対の第2ブレーキシュー6bには第2ホイールシリンダ14bから押圧力が付与され、第1ブレーキシュー6aおよび第2ブレーキシュー6bの一端部がアンカーブロック26を支点としてそれぞれ外側へと(図中左右へと)拡張される。
この結果、車輪と一体に回転するブレーキドラム4の内周面4aに、各第1ブレーキシュー6aおよび第2ブレーキシュー6bの外周面にそれぞれ設けられた第1ブレーキライニング12aおよび第2ブレーキライニング12bが押し付けられる。これにより、制動トルクを得ることができる。
なお、本実施の形態において、第1ホイールシリンダ14aのシリンダ腔部16aおよびピストン18aの断面積は、第2ホイールシリンダ14bのシリンダ腔部16bおよびピストン18bとの断面積と同一とされている。また、シューリターンスプリング22およびアンカーブロック26側に配置されるスプリングは、第1ブレーキシュー6aと第2ブレーキシュー6bとに対して少なくとも各1体づつ設けられている。
このように、第1ブレーキシュー6a、第2ブレーキシュー6bからなる複数対のブレーキシューと、それぞれに個別に対応する第1ホイールシリンダ14aおよび第2ホイールシリンダ14bとを用いれば、各対の第1ブレーキシュー6a、第2ブレーキシュー6bをブレーキドラム4の内面に安定かつ無理なく押し付けることが可能となる。その結果、第1ブレーキライニング12aおよび第2ブレーキライニング12bのドラム軸方向における面圧分布を均一にして、制動力の低下やブレーキの鳴きを良好に抑制することができる。
また、第1ブレーキシュー6a、第2ブレーキシュー6bからなる複数対のブレーキシューを有するドラムブレーキ2では、第1ブレーキシュー6a、第2ブレーキシュー6bごとに第1ブレーキライニング12a、第2ブレーキライニング12bの摩擦係数を変化させてもよい。これにより、第1ホイールシリンダ14aや第2ホイールシリンダ14bの容量を変化させることなく、各第1ブレーキシュー6aおよび第2ブレーキシュー6bによる制動トルクを調整することが可能となる。
[ブレーキライニングの配置]
次に、第1ブレーキシュー6aの外周に設けられた第1ブレーキライニング12aと、第2ブレーキシュー6bの外周に設けられた第2ブレーキライニング12bとの位置関係について詳述する。図3は、図1におけるB−B断面の要部を示す拡大部分断面図である。図4は、図1におけるC−C断面の要部を示す拡大部分断面図である。
図3に示すように、B−B断面においては、第1ブレーキシュー6aの外周には第1ブレーキライニング12aは配置されているが、第2ブレーキシュー6bの外周には第2ブレーキライニング12bは配置されていない。逆に、図4に示すように、B−B断面と位相が約90°ずれているC−C断面においては、第1ブレーキシュー6aの外周には第1ブレーキライニング12aは配置されていないが、第2ブレーキシュー6bの外周には第2ブレーキライニング12bは配置されている。
つまり、第1ブレーキライニング12aおよび第2ブレーキライニング12bは、互いにブレーキドラム4の回転方向への位相が約90°ずつずれた位置で、かつ、ブレーキドラム4の回転軸方向にも互いにずれた位置となるように、第1ブレーキシュー6aおよび第2ブレーキシュー6bの外周に設けられている。このように配置することで、ブレーキドラムに以下のよう変形が生じても、制動トルクの変動幅を小さくすることができる。
[ブレーキドラムの変形による影響]
前述のように、製造工程におけるばらつきや繰り返しの制動による熱変形等によりブレーキドラムが変形することがある。図5は、ブレーキドラムの内周が真円と楕円の場合を比較した模式図である。
図5に示すように、ブレーキドラム4の内周が直径Dの真円の場合、第1ブレーキライニング12aおよび第2ブレーキライニング12bの位置にかかわらず、第1ブレーキシュー6aおよび第2ブレーキシュー6bのいずれにも制動トルクに変動は生じない。一方、ブレーキドラム4が長径D+2Δx、短径D−2Δxの楕円に変形した場合、第1ブレーキシュー6aや第2ブレーキシュー6bとブレーキドラム4の内周との距離が周期的に変動するため、制動トルクも周期的に変動することになる。
図6は、比較例として第1ブレーキライニング12aおよび第2ブレーキライニング12bが同位相で配置されている場合の制動トルクの変動を説明するための図である。図6に示す曲線S1は、一対のブレーキシューごとの制動トルクの変動を示す曲線であり、図6に示す曲線S2は、複数対のブレーキシュー全体の制動トルクの変動を示す曲線である。
図5に示す状態で制動を開始した場合、ブレーキドラム4が矢印のように反時計回りに回転すると、楕円の短径部分が第1ブレーキライニング12aおよび第2ブレーキライニング12bと対向する位置にくる。この場合、第1ブレーキライニング12aおよび第2ブレーキライニング12bはともにブレーキドラム4の内周面に強く接触するため、摩擦力が大きくなり制動トルクが増すとともに、第1ホイールシリンダ14aおよび第2ホイールシリンダ14bの油圧も大きくなる(図6の曲線S1参照)。
その後、楕円の長径部分が第1ブレーキライニング12aおよび第2ブレーキライニング12bと対向する位置にくると、第1ブレーキライニング12aおよび第2ブレーキライニング12bはともにブレーキドラム4の内周面に弱く接触するため、摩擦力が小さくなり制動トルクが減るとともに、第1ホイールシリンダ14aおよび第2ホイールシリンダ14bの油圧も小さくなる。したがって、第1ブレーキライニング12aおよび第2ブレーキライニング12bを同位相で配置してしまうと、ブレーキドラム4の変形による制動トルクや油圧への影響をより顕著に受けてしまう(図6の曲線S2参照)。
一方、本実施の形態のように、第2ブレーキライニング12bを第1ブレーキライニング12aに対してブレーキドラム4の回転方向に位相を所定角度ずらした位置に配置すると、ブレーキドラム4の変形による影響を緩和することができる。
図7は、楕円のブレーキドラムの内周に第1ブレーキライニング12aおよび第2ブレーキライニング12bが逆位相で配置されている状態を示す模式図である。図8は、図7に示すように第1ブレーキライニング12aおよび第2ブレーキライニング12bが逆位相で配置されている場合の制動トルクの変動を説明するための図である。曲線S3は、第1ブレーキシュー6aの制動トルクの変動を示す曲線であり、曲線S4は、第2ブレーキシュー6bの制動トルクの変動を示す曲線であり、直線S5は、複数対のブレーキシュー全体の制動トルクの変動を示す線である。
図7に示す状態で制動を開始した場合、ブレーキドラム4が矢印のように反時計回りに回転すると、楕円の短径部分が第1ブレーキライニング12aと対向する位置にくるとともに、楕円の長径部分が第2ブレーキライニング12bと対向する位置にくる。この場合、第1ブレーキライニング12aはブレーキドラム4の内周面に強く接触するため、摩擦力が大きくなり制動トルクが増すとともに、第1ホイールシリンダ14aの油圧も大きくなる(図7に示す曲線S3参照)。一方、第2ブレーキライニング12bはブレーキドラム4の内周面に弱く接触するため、摩擦力が小さくなり制動トルクが減るとともに、第2ホイールシリンダ14bの油圧も小さくなる(図7に示す曲線S4参照)。
その後、楕円の短径部分が第2ブレーキライニング12bと対向する位置にくるとともに、楕円の長径部分が第1ブレーキライニング12aと対向する位置にくる。この場合、第2ブレーキライニング12bはブレーキドラム4の内周面に強く接触するため、摩擦力が大きくなり制動トルクが増すとともに、第2ホイールシリンダ14bの油圧も大きくなる。一方、第1ブレーキライニング12aはブレーキドラム4の内周面に弱く接触するため、摩擦力が小さくなり制動トルクが減るとともに、第1ホイールシリンダ14aの油圧も小さくなる。したがって、第1ブレーキライニング12aおよび第2ブレーキライニング12bを逆位相で配置することで、ブレーキドラムの変形による制動トルクや油圧への影響をより緩和することができる(図7に示す直線S5参照)。
(第2の実施の形態)
本実施の形態では、第1の実施の形態で説明したブレーキドラム4の変形とは異なる変形の場合でも適切に制動トルクや油圧への影響を緩和することができる。図9は、ブレーキドラム104の一端側と他端側で楕円形状が異なる場合を示す模式図である。なお、第1の実施の形態に係るドラムブレーキ2と重複する説明は適宜省略する。
環状の一端が開かれているとともに環状の他端に底面が形成されている円筒状のブレーキドラム104の場合、製造工程におけるばらつきや繰り返しの制動による熱変形等によりブレーキドラム104の内周が一端側と他端側で同じにならない場合がある。これは、円筒状のブレーキドラム104の一端は開かれており、比較的変形しやすいのに対して、円筒状のブレーキドラム104の他端には底面が形成されており、比較的変形しにくいためである。また、変形により環状の一端のうち所定の径方向が延びると、環状の一端のうち所定の径方向と略直交する径方向は縮む場合がある。
そのため、図9に示すように、ブレーキドラム104の変形しやすい一端側のうち所定の径方向が延びて楕円の長径L=D+2Δxとなると、所定の径方向と直交する方向は縮んで楕円の短径LA’=D−2Δxとなる。また、一端側がこのように変形した場合、ブレーキドラム104の変形しにくい他端側のうち所定の径方向が延びて楕円の長径L=D+2Δxとなり、所定の径方向と直交する方向は縮んで楕円の短径LB’=D−2Δxとなる。ここで、Δx、Δxは、一端側と他端側における楕円の半径と真円の半径D/2との差であり、Δx>Δxである。
図10は、図9に示す変形を説明するためのブレーキドラム104の断面模式図である。図10に示すように、ブレーキドラム104のリム104aのうち所定の径方向が延びて角度αだけ外側に傾いた場合、第1ブレーキシュー106aの外周と対向する位置におけるリム104aの変形量Δxと、第2ブレーキシュー106bの外周と対向する位置におけるリム104aの変形量Δxとの関係は、Δx=(d/d)×Δxとなる。ここで、d、dは、第1ブレーキシュー106aおよび第2ブレーキシュー106bの中心と底面104bとの距離である。その結果、ブレーキドラム104の一端側のうち所定の径方向が延びて長径L=D+2Δxとなると、ブレーキドラム104の他端側のうち所定の径方向は長径L=D+2Δxとなる。
また、図10に示すように、ブレーキドラム104のリム104aのうち所定の径方向と直交する方向が縮んで角度αだけ内側に傾いた場合、ブレーキドラム104の一端側のうち所定の径方向と直交する方向が縮んで短径L=D−2Δxとなると、ブレーキドラム104の他端側のうち所定の径方向と直交する方向は短径L=D−2Δxとなる。なお、本実施の形態においては説明を簡便にするために、所定の径方向の延び量と、所定の径方向と直交する方向の縮み量とを同じとしている。しかし、本実施の形態に係るドラムブレーキ2が対応することができる変形はこれに限られるものではなく、一端側と他端側でのブレーキドラムの変形量が異なる場合であればよい。
前述のように変形した場合、第1ブレーキシュー106aや第2ブレーキシュー106bとブレーキドラム104の内周との距離が周期的に変動するため、制動トルクも周期的に変動することになる。また、第1ブレーキシュー106aとブレーキドラム104の内周との距離の変動幅4Δxは、第2ブレーキシュー106bとブレーキドラム104の内周との距離の変動幅4Δxより大きい。
図11は、比較例として図9に示す変形が生じたブレーキドラム104に対して第1ブレーキライニング12aおよび第2ブレーキライニング12bが逆位相で配置されている場合の制動トルクの変動を説明するための図である。曲線S6は、第1ブレーキシュー106aの制動トルクの変動を示す曲線であり、曲線S7は、第2ブレーキシュー106bの制動トルクの変動を示す曲線であり、曲線S8は、複数対のブレーキシュー全体の制動トルクの変動を示す曲線である。ここで、比較例における第1ブレーキライニング12aおよび第2ブレーキライニング12bは、同じヤング率の材料を用いている。
図9に示す状態で制動を開始した場合、ブレーキドラム104が矢印のように反時計回りに回転すると、一端側の短径部分LA’が第1ブレーキライニング12aと対向する位置にくるとともに、他端側の長径部分Lが第2ブレーキライニング12bと対向する位置にくる。この場合、第1ブレーキライニング12aはブレーキドラム104の内周面に強く接触するため、摩擦力が大きくなり制動トルクが増すとともに、第1ホイールシリンダ14aの油圧も大きくなる(図11に示す曲線S6参照)。一方、第2ブレーキライニング12bはブレーキドラム104の内周面に弱く接触するため、摩擦力が小さくなり制動トルクが減るとともに、第2ホイールシリンダ14bの油圧も小さくなる(図11に示す曲線S7参照)。
その後、一端側の長径部分Lが第1ブレーキライニング12aと対向する位置にくるとともに、他端側の短径部分LB’が第2ブレーキライニング12bと対向する位置にくる。この場合、第2ブレーキライニング12bはブレーキドラム104の内周面に強く接触するため、摩擦力が大きくなり制動トルクが増すとともに、第2ホイールシリンダ14bの油圧も大きくなる。一方、第1ブレーキライニング12aはブレーキドラム104の内周面に弱く接触するため、摩擦力が小さくなり制動トルクが減るとともに、第1ホイールシリンダ14aの油圧も小さくなる。
しかしながら、第1ブレーキシュー106aとブレーキドラム104の内周との距離の変動幅4Δxは、第2ブレーキシュー106bとブレーキドラム4の内周との距離の変動幅4Δxより大きい。そのため、第1ブレーキライニング12aおよび第2ブレーキライニング12bとして同じヤング率の材料を用いている場合、第1ブレーキシュー6aによる制動トルクの変動幅(図11に示す曲線S6参照)は、第2ブレーキシュー6bによる制動トルクの変動幅(図11に示す曲線S7参照)より大きくなる。したがって、第1ブレーキライニング12aおよび第2ブレーキライニング12bを逆位相で配置しても、ブレーキドラムの変形による制動トルクや油圧への影響を完全になくすことはできない(図11に示す曲線S8参照)。
そこで、本実施の形態では、第1ブレーキシュー106aが有する第1ブレーキライニング112a(図10参照)および第2ブレーキシュー106bが有する第2ブレーキライニング112b(図10参照)のヤング率を適切にすることで、ブレーキドラムの変形による制動トルクや油圧への影響をより緩和することができる。
図12は、第2の実施の形態に係る第1ブレーキライニングおよび第2ブレーキライニングの歪み量と応力との関係を示した図である。直線L1は、第2ブレーキライニング112bにおける歪みεと応力σとの関係を表しており、σ=Eεである。ここで、Eは第2ブレーキライニング112bのヤング率である。変形しているブレーキドラム104の長径部分Lが第2ブレーキライニング112bと対向する位置にくると、第2ブレーキライニング112bはブレーキドラム104の内周面に弱く接触するため、歪みε1Bは小さくなり発生する応力σも最小応力σLBとなる。また、変形しているブレーキドラム104の短径部分LB’が第2ブレーキライニング112bと対向する位置にくると、第2ブレーキライニング112bはブレーキドラム104の内周面に強く接触するため、歪みε2Bは大きくなり発生する応力σも最大応力σHBとなる。
変形しているブレーキドラム104の長径部分Lが第2ブレーキライニング112bと対向する位置にくる場合、ブレーキドラム104の短径部分LA’が第1ブレーキライニング112aと対向する位置にくる。そこで、このときに第1ブレーキライニング112aにおいて発生する最大応力σHAおよび第2ブレーキライニング112bにおいて発生する最小応力σLBの和が、ブレーキドラム104の半径Dの部分が第1ブレーキライニング112aおよび第2ブレーキライニング112bと対向する位置において発生する応力σの和に近くなるようにヤング率EおよびEを設定するとよい。
また、変形しているブレーキドラム104の短径部分LB’が第2ブレーキライニング112bと対向する位置にくる場合、ブレーキドラム104の長径部分Lが第1ブレーキライニング112aと対向する位置にくる。そこで、このときに第1ブレーキライニング112aにおいて発生する最小応力σLAおよび第2ブレーキライニング112bにおいて発生する最大応力σHBの和が、ブレーキドラム104の半径Dの部分が第1ブレーキライニング112aおよび第2ブレーキライニング112bと対向する位置において発生する応力σの和に近くなるようにヤング率EおよびEを設定するとよい。より好ましくは、2×σ=σHA+σLB=σHB+σLAを満たすように、第1ブレーキライニング112aのヤング率Eおよび第2ブレーキライニング112bのヤング率Eを決定するとよい。
第1ブレーキシュー106aと対向するリム104aとの距離の変動幅は、第2ブレーキシュー106bと対向するリム104aとの距離の変動幅より大きい。そのため、第1ブレーキライニング112aのヤング率Eを第2ブレーキライニング112bのヤング率Eと同じとすると、第1ブレーキライニング112aにおいて発生する最小応力σLA(最大応力σHA)および第2ブレーキライニング112bにおいて発生する最小応力σLB(最大応力σHB)を同じにするには、それぞれの箇所における歪み量を同じにしなければならない。しかしながら、第1ブレーキライニング112aと第2ブレーキライニング112bとの歪み量が同じであるとすると、制動時における第1ブレーキシュー106aの変位量は第2ブレーキシュー106bの変位量より大きくなるため、第1ホイールシリンダ14aの油圧の低下が増大する。
そこで、第1ブレーキライニング112aは、第2ブレーキライニング112bに比べてヤング率を低く設定することで、第2ブレーキライニング112bより大きな歪みを生じても発生する応力を抑えることができる。具体的には、図12に示す直線L2は、第1ブレーキライニング112aにおける歪みεと応力σとの関係を表しており、σ=Eεである。ここで、E>Eである。
また、制動時において、ブレーキドラム104の直径が真円の直径Dとなる位置に第2ブレーキライニング112bが押圧された場合の第2ブレーキライニング112bの歪み量ε0Bおよび発生する応力σは、σ=Eε0Bの関係を有する。この位置においては、第1ブレーキライニング112aが発生する応力も同じであるとよいので、第1ブレーキライニング112aが押圧された場合の第1ブレーキライニング112aの歪み量ε0Aおよび発生する応力σは、σ=Eε0Aの関係を有する。
次に、ブレーキドラム104の直径が長径部分となる位置に第1ブレーキライニング112aおよび第2ブレーキライニング112bが押圧された場合、それぞれのブレーキライニングが発生する最小応力σLAおよびσLBが同じであることが好ましい。そのため、第1ブレーキライニング112aの歪み量ε1Aおよび発生する応力σLA、第2ブレーキライニング112bの歪み量ε1Bおよび発生する応力σLBは、σLA=Eε1A=σLB=Eε1Bの関係を有することが好ましい。
同様に、ブレーキドラム104の直径が短径部分となる位置に第1ブレーキライニング112aおよび第2ブレーキライニング112bが押圧された場合、それぞれのブレーキライニングが発生する最大応力σHAおよびσHBが同じであることが好ましい。そのため、第1ブレーキライニング112aの歪み量ε2Aおよび発生する応力σHA、第2ブレーキライニング112bの歪み量ε2Bおよび発生する応力σHBは、σHA=Eε2A=σHB=Eε2Bの関係を有することが好ましい。
上述のようにヤング率E、Eを設定することで、第1ブレーキシュー6aによる制動トルクの変動幅(図11に示す曲線S9参照)は、第2ブレーキシュー6bによる制動トルクの変動幅(図11に示す曲線S7参照)と実質的に同じになる。したがって、第1ブレーキライニング12aおよび第2ブレーキライニング12bを逆位相で配置した場合、ブレーキドラムの変形による制動トルクや油圧への影響を最小限にすることができる(図11に示す直線S10参照)。
さらに、第1ブレーキライニング112aにおける歪み量の変動幅ε2A−ε1A、および第2ブレーキライニング112bにおける歪み量の変動幅ε2B−ε1Bが、第1ブレーキシュー6aとブレーキドラム104の内周との距離の変動幅4Δxおよび第2ブレーキシュー6bとブレーキドラム4の内周との距離の変動幅4Δxと同じまたは近くなるように、ヤング率EおよびEを設定するとよい。これにより、例えば、ブレーキドラム104が図9に示すように変形しても、制動時における第1ブレーキシュー106aおよび第2ブレーキシュー106bの変位量の周期的な変動を最小限にすることができる。
したがって、変動幅の大きい一端側の内周面には相対的にヤング率が低く変形しやすい第1ブレーキライニング112aを接触させ、変動幅の小さい他端側の内周面には相対的にヤング率が高く変形しにくい第2ブレーキライニング112bを接触させることができるので、ブレーキ操作に応じた第1ブレーキシュー106aと第2ブレーキシュー106bとの変位量の差を緩和することができる。したがって、簡易な構成によりブレーキドラム104の変形による制動トルクへの影響を低減することができる。
以上、本発明を上述の各実施の形態を参照して説明したが、本発明は上述の各実施の形態に限定されるものではなく、各実施の形態の構成を適宜組み合わせたものや置換したものについても本発明に含まれるものである。また、当業者の知識に基づいて各種の設計変更等の変形を各実施の形態に対して加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施の形態も本発明の範囲に含まれうる。
第1の実施の形態に係るドラムブレーキの概略構成図である。 図1に示されるドラムブレーキのA−A断面の要部を示す拡大部分断面図である。 図1におけるB−B断面の要部を示す拡大部分断面図である。 図1におけるC−C断面の要部を示す拡大部分断面図である。 ブレーキドラムの内周が真円と楕円の場合を比較した模式図である。 比較例として第1ブレーキライニングおよび第2ブレーキライニングが同位相で配置されている場合の制動トルクの変動を説明するための図である。 楕円のブレーキドラムの内周に第1ブレーキライニングおよび第2ブレーキライニングが逆位相で配置されている状態を示す模式図である。 図7に示すように第1ブレーキライニングおよび第2ブレーキライニングが逆位相で配置されている場合の制動トルクの変動を説明するための図である。 ブレーキドラムの一端側と他端側で楕円形状が異なる場合を示す模式図である。 図9に示す変形を説明するためのブレーキドラムの断面模式図である。 比較例として図9に示す変形が生じたブレーキドラムに対して第1ブレーキライニングおよび第2ブレーキライニングが逆位相で配置されている場合の制動トルクの変動を説明するための図である。 第2の実施の形態に係る第1ブレーキライニングおよび第2ブレーキライニングの歪み量と応力との関係を示した図である。
符号の説明
2 ドラムブレーキ、 4 ブレーキドラム、 6 ブレーキシュー、 6a 第1ブレーキシュー、 6b 第2ブレーキシュー、 12a 第1ブレーキライニング、 12b 第2ブレーキライニング、 104 ブレーキドラム、 106a 第1ブレーキシュー、 106b 第2ブレーキシュー、 112a 第1ブレーキライニング、 112b 第2ブレーキライニング。

Claims (2)

  1. 一端が開かれているとともに他端に底面が形成されている円筒状のブレーキドラムの内周面に、複数対のブレーキシューを押し付けることにより制動力を発生するドラムブレーキにおいて、
    前記複数対のブレーキシューは、相対的にブレーキドラムの一端側に配置された一対の第1ブレーキシューと、相対的にブレーキドラムの他端側に配置された一対の第2ブレーキシューとを含み、
    前記第1ブレーキシューは、ブレーキ操作に応じて前記内周面に接触する第1ブレーキライニングを有し、
    前記第2ブレーキシューは、前記第1ブレーキライニングに対してブレーキドラムの回転方向に所定角度位相をずらした位置に配置されるとともにブレーキ操作に応じて前記内周面に接触する第2ブレーキライニングを有し、
    前記第1ブレーキライニングは、前記第2ブレーキライニングに比べてヤング率が低いことを特徴とするドラムブレーキ。
  2. 前記一対の第1ブレーキシューに押圧力を付与するための第1ホイールシリンダと、
    前記一対の第2ブレーキシューに押圧力を付与するための第2ホイールシリンダとを更に備え、
    前記第2ブレーキシューは、前記第1ブレーキライニングに対してブレーキドラムの回転方向に実質的に90°位相をずらした位置に配置されている第2ブレーキライニングを有することを特徴とする請求項1に記載のドラムブレーキ。
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* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
CN109458409A (zh) * 2018-12-30 2019-03-12 河北百龙汽车配件制造有限公司 一种重型汽车用组合式防抱死制动鼓

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