JP2008007742A - 耐熱性樹脂組成物、その製造方法、耐熱性樹脂成形物、及び表面実装用電子部品 - Google Patents

耐熱性樹脂組成物、その製造方法、耐熱性樹脂成形物、及び表面実装用電子部品 Download PDF

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Abstract

【課題】 耐熱性に優れ、リフロー炉を通過させて高温条件下に加熱処理を行っても曲げ強度等の機械的強度が低下することなく、更に優れた難燃性をも兼備した耐熱性樹脂組成物、その製造方法、耐熱性樹脂成形物、及び、表面実装用電子部品を提供すること。
【解決手段】 ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)、テレフタル酸アミドを必須の構造単位とする芳香族ポリアミド(B)を前者/後者の質量比が70/30〜95/5なる割合で含有し、かつ、前記耐熱性樹脂組成物からなる成形物の破断面を有機溶剤でエッチング処理した後、該破断面を走査型電子顕微鏡(2500倍)にて観察した際、該エッチング処理によって形成された空孔の体積平均径が0.1〜1.0μmとなるようにする。
【選択図】なし

Description

本発明はポリアリーレンスルフィド樹脂と芳香族ポリアミド樹脂とを含む樹脂組成物、その製造方法、耐熱性樹脂成形物、及び表面実装用電子部品に関する。
ポリフェニレンスルフィド樹脂に代表されるポリアリーレンスルフィド樹脂は高い融点と、優れた難燃性、耐薬品性を有し、成形時の流動性も良好であるため、主に射出成形用エンジニアリングプラスチックとして各種電子部品、機械部品、自動車部品に広く使われている。
近年、電気・電子工業の分野では、製品の小型化や生産性の向上に伴い、樹脂系電子部品のプリント基板上への実装方式が所謂サーフェスマウント方式(以下「SMT方式」と略記する。)と呼ばれる表面実装方式に移行している。このSMT方式により電子部品を基板上に実装する技術は、従来、錫−鉛共晶はんだ(融点184℃)が一般的であったが、近年、環境汚染の問題から、その代替材料として錫をベースに数種類の金属を添加した所謂鉛フリーはんだが利用されている。
かかる鉛フリーはんだは、錫−鉛共晶はんだよりも融点が高く、例えば、錫−銀共晶はんだの場合には融点220℃にも達する為、表面実装時には加熱炉(リフロー炉)の温度を更に上昇させなければならず、コネクター等の樹脂系電子部品をはんだ付けする際、加熱炉(リフロー炉)内において当該電子部品が融解又は変形を生じてしまうという問題があった。よって、表面実装用電子部品用の樹脂材料には耐熱性の高いものが強く求められていた。
一方、高耐熱性の樹脂材料としてポリアリーレンサルファイドと芳香族ポリアミドとを溶融混練することによって得られる樹脂組成物が知られている(例えば、特許文献1及び特許文献2参照)。しかしながら、ポリアリーレンサルファイドと芳香族ポリアミドとは一般に相溶性が低く、両者を均一混合することが困難な為、芳香族ポリアミド自体の弱点である吸湿性の低さが顕著に現われてしまい、加熱炉(リフロー炉)を通過した電子部品の外観にブリスターが発生し易くなる他、リフロー炉を通過した後の曲げ強度などの機械的物性を低下させてしまうものであった。更に、ポリアリーレンサルファイドと芳香族ポリアミドとの分散性に劣ることに加え、芳香族ポリアミドを多量に用いていることから難燃性が低くなり、電子・電気部品への要求特性を満足することができないものであった。
特開平2−123159号公報 特開平5−5060号公報
従って、本発明が解決しようとする課題は、耐熱性に優れ、リフロー炉を通過させて高温条件下に加熱処理を行っても曲げ強度等の機械的強度が低下することなく、更に優れた難燃性をも兼備した耐熱性樹脂組成物、その製造方法、及び、表面実装用電子部品を提供することにある。
本発明者は上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)と、テレフタル酸アミドを必須の構造単位とする芳香族ポリアミド(B)とを所定割合で配合し、かつ、前記芳香族ポリアミド(B)を前記ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)中に微分散させることによって、その成形物をプリント基板上へ表面実装させる際、加熱炉(リフロー炉)内の高温条件下の熱処理を施しても、曲げ強度等の機械的強度の低下を招くことなく、優れた耐熱性を発現すると共に、優れた難燃性を発現することを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は、ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)、テレフタル酸アミドを必須の構造単位とする芳香族ポリアミド(B)を前者/後者の質量比が70/30〜95/5なる割合で含有し、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)をマトリックスとして前記芳香族ポリアミド(B)が粒子状に分散しており、かつ、前記芳香族ポリアミド(B)の粒子の平均径が0.1〜1.0μmの範囲となるものであることを特徴とする耐熱性樹脂組成物に関する。
本発明は、更に、ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)およびテレフタル酸アミドを必須の構造単位とする芳香族ポリアミド(B)を、2軸押出機に投入し、樹脂成分の吐出量(kg/hr)とスクリュー回転数(rpm)との比率(吐出量/スクリュー回転数)が0.02〜0.2(kg/hr/rpm)なる条件下に溶融混練することを特徴とする耐熱性樹脂組成物の製造方法に関する。
本発明は、更に、ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)、テレフタル酸アミドを必須の構造単位とする芳香族ポリアミド(B)を前者/後者の質量比が70/30〜95/5なる割合で含有する耐熱性樹脂組成物からなる成形物であって、かつ、該成形物の破断面を有機溶剤でエッチング処理した後、該破断面を走査型電子顕微鏡(2500倍)にて観察した際、該エッチング処理によって形成された空孔の平均径が0.1〜1.0μmの範囲の範囲となるものであることを特徴とする耐熱性樹脂成形物に関する。
本発明は、更に、前記耐熱性樹脂組成物の成形物と、金属端子とを必須の構成要素とすることを特徴とする表面実装用電子部品に関する。
本発明によれば、耐熱性に優れ、リフロー炉を通過させて高温条件下に加熱処理を行っても曲げ強度等の機械的強度が低下することなく、かつ、優れた難燃性をも兼備した耐熱性樹脂組成物、その製造方法、耐熱性樹脂成形物、及び、表面実装用電子部品を提供できる。
従って、本発明の耐熱性樹脂組成物は、高温域で優れた耐熱性を発現し、表面実装用の電子部品に用いられる場合、基体へのはんだ付けの際、高温下に曝されてもはんだ付け工程後に該電子部品の機械強度変化、及び外観変化が非常に小さいという特徴を有する。よって、耐熱性樹脂組成物はSMT方式におけるプリント基板上へのはんだ付けに供されるコネクター、スイッチ、リレー、コイルボビン、コンデンサー等に特に有用である。
本発明の耐熱性樹脂組成物は、前記した通り、ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)、テレフタル酸アミドを必須の構造単位とする芳香族ポリアミド(B)を前者/後者の質量比が70/30〜95/5なる割合で含有するものである。該芳香族ポリアミド(B)の存在比が質量比で上記範囲を上回る場合には、該芳香族ポリアミド(B)の分散性が低下して難燃性が充分発現されなくなる他、耐湿性の低下を招いてリフロー処理後の強度低下を招く、一方、該芳香族ポリアミド(B)の存在比が質量比で上記範囲を下回る場合、耐熱性の改善効果が充分に発現されないものとなる。よって、難燃性、リフロー処理後の機械的強度、耐熱性のバランスに優れる点から前記質量比は特に80/20〜95/5の範囲であることが好ましい。
また、本発明の耐熱性樹脂組成物は、前記したとおり、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)をマトリックスとして前記芳香族ポリアミド(B)が粒子状に分散しており、かつ、前記芳香族ポリアミド(B)の粒子の平均径が0.1〜1.0μmの範囲となるものである。このように、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)をマトリックスとして所定量の該芳香族ポリアミド(B)を微分散させることにより、ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)の有する難燃性能を低下させることなく、前記芳香族ポリアミド(B)の持つ優れた耐熱性を発現させることができる。とりわけ、表面実装用電子部品用途において、優れた難燃性を保持させながら、リフロー炉を高温条件下で通過させた後の曲げ強度等の機械的強度に優れるという特異的な性能を発現させることができることは特筆すべき点である。
前記芳香族ポリアミド(B)の粒子の平均径は、前記耐熱性樹脂組成物からなる成形物の破断面を有機溶剤でエッチング処理した後、該破断面を走査型電子顕微鏡(2500倍)にて観察した際、該エッチング処理によって形成された空孔の径を前記粒子の径と見なしてその平均を求めることができる。
即ち、エッチング処理後の破断面の空孔は、前記PAS樹脂(A)をマトリックスとして分散する芳香族ポリアミド(B)の粒子をエッチング処理によって除去して出現する孔状の空隙部であり、その径は芳香族ポリアミド(B)の粒子径に一致する。そこで、本発明では、該エッチング処理によって形成された空孔の径を前記粒子の粒子径と見なしてその平均を求めることにより、前記芳香族ポリアミド(B)の粒子の平均径を算出したものである。
ここで、上記した成形物の破断面を形成する方法は、例えば、耐熱性樹脂組成物を射出成形によって幅12mm×長さ62.5mm×厚さ3mmの試験片に成形し、得られた成形物を−40℃〜−60℃に冷却した後、ASTM D−256(荷重30kg)に準拠してアイゾット衝撃試験を実施して破断面を形成する方法が挙げられる。
また、前記成形物の破断面をエッチング処理する方法は、上記の方法で破断した成形物の破断面を、芳香族ポリアミド(B)を溶解しうる有機溶媒でエッチング処理して該芳香族ポリアミド(B)を除去する方法である。エッチング処理の具体的方法は、耐熱性樹脂組成物の成形物を破断した際の破断面を前記有機溶媒に浸漬し、超音波をあて、次いで、アセトンで前記破断面を洗浄し、その後、該破断面を乾燥させることにより行うことができる。ここで、エッチング処理に使用し得る有機溶剤は、前記芳香族ポリアミド(B)の分散粒子を選択的に溶解除去し得るものであればよく、例えば、クロロホルム、2−プロパノール、トリフロロ酢酸などが挙げられる。これらの中でも特に本発明では芳香族ポリアミド(B)の溶解性に優れる点からトリフロロ酢酸が好ましい。また、エッチング処理は加熱条件下から常温で行うことができ、例えば、10℃〜60℃の温度条件下にて行うことができる。特に、前記したトリフロロ酢酸を有機溶媒として用いる場合、低温での処理が可能で、エッチング処理後の空孔の変形を回避できる為、この場合、具体的には15℃〜30℃にてエッチング処理を行うことが好ましい。このようにしてエッチング処理された成形物の破断面には、芳香族ポリアミド(B)が除去され、エッチング処理前に微分散していた芳香族ポリアミド(B)の粒子部分に同一径の空孔が形成されている。
そして、前記平均径はこのようにしてエッチング処理した破断面の同一面上の2箇所をそれぞれ走査型電子顕微鏡にて2500倍で観察し、1箇所あたり2600μmの範囲に観察される全ての空孔の直径を計測し、2箇所分の空孔の平均、即ち5200μmの範囲に観察される全ての空孔の平均を求めたものである。ここで空孔の直径の計測は、具体的には、2500倍で撮影した走査型電子顕微鏡写真をA3サイズに拡大し、グラフテック(株)製「KD4600」に代表されるグラフィックデジタイザーを用いて行うことができる。
このようにして算出される空孔の平均径は、前記芳香族ポリアミド(B)の粒子の平均径に一致し、0.1〜1.0μmの範囲となるものであり、本発明ではこれを上回る場合には、モルフォルジーの崩れによって難燃性が発現されなくなる他、リフロー処理後の機械的強度が低下する。一方、芳香族ポリアミド(B)の量が不足する場合、前記平均径が上記範囲を下回るものとなって耐熱性が充分に発現されないものとなる。よって、これらの性能バランスに優れる点から、前記空孔の平均径は特に0.1〜0.6μmであることが好ましい。
本発明に使用するポリアリーレンスルフィド樹脂(A)(以下「PAS樹脂(A)」と略記する。)は、芳香族環と硫黄原子とが結合した構造を繰り返し単位とする樹脂構造を有するものであり、具体的には、下記構造式(1)
Figure 2008007742

(式中、R及びRは、それぞれ独立的に水素原子、炭素原子数1〜4のアルキル基、ニトロ基、アミノ基、フェニル基、メトキシ基、エトキシ基を表す。)
で表される構造部位を繰り返し単位とする樹脂である。
ここで、前記構造式(1)で表される構造部位は、特に該式中のR及びRは、前記PAS樹脂(A)の機械的強度の点から水素原子であることが好ましく、その場合、下記構造式(2)で表されるパラ位で結合するもの、及び下記構造式(3)で表されるメタ位で結合するものが挙げられる。
Figure 2008007742
これらの中でも、特に繰り返し単位中の芳香族環に対する硫黄原子の結合は前記構造式(2)で表されるパラ位で結合した構造であることが前記PAS樹脂(A)の耐熱性や結晶性の面で好ましい。
また、前記PAS樹脂(A)は、前記構造式(1)で表される構造部位のみならず、下記の構造式(4)〜(7)
Figure 2008007742

で表される構造部位を、前記構造式(1)で表される構造部位との合計の30モル%以下で含んでいてもよい。特に本発明では上記構造式(4)〜(7)で表される構造部位は10モル%以下であることが、PAS樹脂(A)の耐熱性、機械的強度の点から好ましい。前記PAS樹脂(A)中に、上記構造式(4)〜(7)で表される構造部位を含む場合、それらの結合様式としては、ランダム共重合体、ブロック共重合体の何れであってもよい。
また、前記PAS樹脂(A)は、その分子構造中に、下記構造式(8)
Figure 2008007742

で表される3官能性の構造部位、或いは、ナフチルスルフィド結合などを有していてもよいが、他の構造部位との合計モル数に対して、3モル%以下が好ましく、特に1モル%以下であることが好ましい。
かかるPAS樹脂(A)は、例えば下記(1)〜(3)によって製造することができる。
(1)N−メチルピロリドン、ジメチルアセトアミドなどのアミド系溶剤やスルホラン等のスルホン系溶媒中で硫化ナトリウムとp−ジクロルベンゼンを反応させる方法、
(2)p−ジクロルベンゼンを硫黄と炭酸ソーダの存在下で重合させる方法、
(3)p−クロルチオフェノールの自己縮合による方法
これらの中でも(1)のN−メチルピロリドン、ジメチルアセトアミドなどのアミド系溶剤やスルホラン等のスルホン系溶媒中で硫化ナトリウムとp−ジクロルベンゼンを反応させる方法が反応の制御が容易であり、工業的生産性に優れる点から好ましい。ここで、前記(1)の方法において、前記硫化ナトリウムは市販のものを用いてもよいし、或いは、予めアミド系溶剤やスルホン系溶媒中で、水硫化ナトリウムと水酸化ナトリウムとを反応させるか、又は、硫化水素と水酸化ナトリウムとを反応させて、硫化ナトリウムを生成させて、次いで、p−ジクロルベンゼンを反応系内に加えて重合を行う方法を採用してもよい。また、前記(1)の方法において、硫化ナトリウムとp−ジクロルベンゼンを反応させる際には、重合度を調節するためにカルボン酸のアルカリ金属塩やスルホン酸のアルカリ金属塩を添加したり、水酸化アルカリを添加することが好ましい。
また、前記PAS樹脂(A)の中でも特に成形物の機械的強度、芳香族ポリアミド(B)の分散能に優れ、成形物の耐熱性が飛躍的に向上する点から実質的に線状構造を有する所謂リニア型ポリアリーレンスルフィド樹脂であることが好ましい。具体的には、非ニュートン指数が1.3〜0.9のもの、特に1.2〜1.0であることが好ましい。
ここで、前記非ニュートン指数とは、前記PAS樹脂(A)をキャピラリーレオメーターにて、温度300℃の条件下、直径1mm、長さ40mmのダイスを用いて100〜1000( sec-1 )の剪断速度に対する剪断応力を測定し、これらの対数プロットした傾きから計算した値である。
また、前記PAS樹脂(A)は、芳香族ポリアミド(B)との相溶性の点から、メルトフローレートが、1〜3000g/10分、更に好ましくは10〜1500g/10分の範囲にあるものが好ましい。なお、当該メルトフローレートは、ASTM D1238−86による316℃/5000g荷重下(オリフィス:0.0825±0.002インチ径×0.315±0.001インチ長さ)で測定した値である。
更に、前記PAS樹脂(A)は、バリの発生を抑制して成形性を向上させる点から、前記したリニア型ポリアリーレンスルフィド樹脂に、前記構造式(8)で表されるような多分岐構造を有する分岐状ポリアリーレンスルフィド樹脂を少量配合して粘度調整することが好ましく、この場合、混合物の状態で非ニュートン指数が1.3〜0.9であって、かつ、メルトフローレートが10〜1500g/10分のものであることが好ましい。
ここで、上記したリニア型ポリアリーレンスルフィド樹脂は、例えば、アルカリ金属硫化物又はアルカリ金属過硫化物、酢酸ナトリウム三水和物等のアルカリ金属カルボン酸、有機アミドの混合物に、p−ジハロゲンベンゼンを、加え反応させる方法が挙げられる。
以上詳述したPAS樹脂(A)は、更に、残存金属イオン量を低減して耐湿特性を改善するとともに、重合の際副生する低分子量不純物の残存量を低減できる点から、該PAS樹脂(A)を製造した後に、酸で処理し、次いで、水で洗浄されたものであることが好ましい。
ここで使用し得る酸は、酢酸、塩酸、硫酸、リン酸、珪酸、炭酸、プロピル酸がPAS樹脂(A)の分解することなく残存金属イオン量を効率的に低減できる点から好ましく、なかでも酢酸、塩酸が好ましい。
酸処理の方法は、酸または酸水溶液にPAS樹脂を浸漬する方法が挙げられる。この際、必要に応じさらに攪拌または加熱してもよい。
ここで、前記酸処理の具体的方法は、酢酸を用いる場合を例に挙げれば、まずpH4の酢酸水溶液を80〜90℃に加熱し、その中にPAS樹脂(A)を浸漬し、20〜40分間攪拌する方法が挙げられる。
このようにして酸処理されたPAS樹脂(A)は、残存している酸または塩等を物理的に除去するため、次いで、水または温水で数回洗浄する。このときに使用される水としては、蒸留水または脱イオン水であることが好ましい。
また、前記酸処理に供せられるPAS樹脂(A)は、粉粒体であることが好ましく、具体的には、ペレットのような粒状体でも、重合した後のスラリ−状態体にあるものでもよい。
次に、本発明に使用する芳香族ポリアミド(B)は、テレフタル酸アミドを必須の構造単位として分子構造中に有するものである。本発明では、芳香族ポリアミド(B)においてこのようなテレフタル酸アミドを必須の構造単位とすることから、その剛直な分子構造に起因して優れた耐熱性と機械的強度とを耐熱性樹脂組成物に付与することができる。
ここで、芳香族ポリアミド(B)の必須の構造単位であるテレフタル酸アミド構造は、具体的には、下記構造式a
Figure 2008007742

で表される構造部位が挙げられる。前記構造式a中、Rは炭素原子数2〜12アルキレン基を表す。かかるテレフタル酸アミド構造は、具体的には、テレフタル酸、又はテレフタル酸ジハライドと、炭素原子数2〜12の脂肪族ジアミンとの反応によって形成されるものである。ここで用いる炭素原子数2〜12の脂肪族ジアミンは、具体的には、エチレンジアミン、プロパンジアミン、1,4−ブタンジアミン、1,6−ヘキサンジアミン、1,7−ヘプタンジアミン、1,8−オクタンジアミン、1,9−ノナンジアミン、1,10−デカンジアミン、1,11−ウンデカンジアミン、1,12−ドデカンジアミン等の直鎖状脂肪族アルキレンジアミン;1−ブチル−1,2−エタンジアミン、1,1−ジメチル−1,4−ブタンジアミン、1−エチル−1,4−ブタンジアミン、1,2−ジメチル−1,4−ブタンジアミン、1,3−ジメチル−1,4−ブタンジアミン、1,4−ジメチル−1,4−ブタンジアミン、2,3−ジメチル−1,4−ブタンジアミン、2−メチル−1,5−ペンタンジアミン、3−メチル−1,5−ペンタンジアミン、2,5−ジメチル−1,6−ヘキサンジアミン、2,4−ジメチル−1,6−ヘキサンジアミン、3,3−ジメチル−1,6−ヘキサンジアミン、2,2−ジメチル−1,6−ヘキサンジアミン、2,2,4−トリメチル−1,6−ヘキサンジアミン、2,4,4−トリメチル−1,6−ヘキサンジアミン、2,4−ジエチル−1,6−ヘキサンジアミン、2,2−ジメチル−1,7−ヘプタンジアミン、2,3−ジメチル−1,7−ヘプタンジアミン、2,4−ジメチル−1,7−ヘプタンジアミン、2,5−ジメチル−1,7−ヘプタンジアミン、2−メチル−1,8−オクタンジアミン、3−メチル−1,8−オクタンジアミン、4−メチル−1,8−オクタンジアミン、1,3−ジメチル−1,8−オクタンジアミン、1,4−ジメチル−1,8−オクタンジアミン、2,4−ジメチル−1,8−オクタンジアミン、3,4−ジメチル−1,8−オクタンジアミン、4,5−ジメチル−1,8−オクタンジアミン、2,2−ジメチル−1,8−オクタンジアミン、3,3−ジメチル−1,8−オクタンジアミン、4,4−ジメチル−1,8−オクタンジアミン、5−メチル−1,9−ノナンジアミン等の分岐鎖状脂肪族アルキレンジアミン;シクロヘキサンジアミン、メチルシクロヘキサンジアミン、イソホロンジアミン、ノルボルナンジメチルアミン、トリシクロデカンジメチルアミン等の脂環族ジアミン類が挙げられる。
これらの中でも特に耐湿性と機械的強度の点から炭素原子数4〜8の直鎖状脂肪族アルキレンジアミン、炭素原子数5〜10の分岐鎖状脂肪族アルキレンジアミンが好ましい。
また、前記芳香族ポリアミド(B)は、テレフタル酸アミド構造の他に、下記構造式b
Figure 2008007742
(式中、Rは構造式aのおけるRと同義である。)
で表されるイソフタル酸アミド構造を有することが、前記芳香族ポリアミド(B)自体の融点を下げてPAS樹脂(A)との相溶性を改善できる点から好ましい。
更に、前記芳香族ポリアミド(B)は、テレフタル酸アミド構造の他に、下記構造式c
Figure 2008007742

(式中、Rは構造式aのおけるRと同義であり、Rは、テレフタル酸又はイソフタル酸の他の芳香族炭化水素基又は炭素原子数4〜10の脂肪族炭化水素基を表す。)
で表される酸アミド構造を有していてもよい。
ここで、上記構造式cで表される酸アミド構造は、テレフタル酸若しくはイソフタル酸の他の芳香族ジカルボン酸、又は、炭素原子数4〜10の脂肪族ジカルボン酸、その酸エステル化物、その酸無水物、又はその酸ハライドと、炭素原子数2〜12の脂肪族ジアミンとの反応によって形成されるものである。ここで用いるテレフタル酸若しくはイソフタル酸の他の芳香族ジカルボン酸は、具体的には、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸、9−オキソフルオレンジカルボン酸、アントラセンジカルボン酸、アントラキノンジカルボン酸、ビフェニレンジカルボン酸、テルフェニルジカルボン酸、クアテルフェニルジカルボン酸、アゾベンゼンジカルボン酸等のジカルボン酸類が挙げられる。
また、炭素原子数4〜10の脂肪族ジカルボン酸は、具体的には、マロン酸、ジメチルマロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、2−メチルアジピン酸、トリメチルアジピン酸、ピメリン酸、2,2−ジメチルグルタル酸、3,3−ジエチルコハク酸、アゼライン酸、セバシン酸、スベリン酸等の脂肪族ジカルボン酸;1,3−シクロペンタンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸等の脂肪族ジカルボン酸類が挙げられる。
上記したテレフタル酸若しくはイソフタル酸の他の芳香族ジカルボン酸、又は、炭素原子数4〜10の脂肪族ジカルボン酸の酸エステル化物は、具体的には、メチルエステル体、エチルエステル体、t−ブチルエステル体等が挙げられ、また、前記芳香族ジカルボン酸又は前記脂肪族ジカルボン酸の酸ハライドを構成するハロゲン原子は臭素原子、塩素原子が挙げられる。
前記芳香族ポリアミド(B)は、上述したとおり前記構造式aで表されるテレフタル酸アミド構造を必須の構造部位として有するものであるが、前記芳香族ポリアミド(B)中のテレフタル酸アミド構造の含有率は、該芳香族ポリアミド(B)を構成するジカルボン酸残基の総数に対して、65モル%以上となる割合であることが、耐熱性改善の効果が顕著になる点から好ましい。ここで、ジカルボン酸残基とは、前記芳香族ポリアミド(B)の原料として用いたジカルボン酸に起因する構造部位であり、その総数は前記芳香族ポリアミド(B)を製造する際のジカルボン酸の仕込み総数に等しい。
更に前記芳香族ポリアミド(B)は、耐熱性と耐湿性とのバランスから
前記構造式aで表されるテレフタル酸アミド構造を65〜95モル%、
前記構造式cで表される酸アミド構造を35〜5モル%で構成されるポリアミド(b1)、或いは、
前記構造式aで表されるテレフタル酸アミド構造を65〜75モル%、
前記構造式bで表されるイソフタル酸アミド構造を25〜10モル%、
前記構造式cで表される酸アミド構造を10〜15モル%、
で構成されるポリアミド(b2)が好ましい。
また、前記芳香族ポリアミド(B)は、前記PAS樹脂(A)への分散性の点から融点290〜330℃、また、Tg90〜140℃であることが好ましい。
本発明に使用する芳香族ポリアミド(B)は、例えば、以下の(1)乃至(3)の方法によって製造することができる。
(1)テレフタル酸を含むジカルボン酸成分の酸ハライドと、炭素原子数2〜12の脂肪族ジアミンを含むジアミン成分とを、お互いに相溶しない二種の溶媒に溶解した後、アルカリおよび触媒量の第4級アンモニウム塩の存在下に2液を混合、撹拌して重縮合反応を行う界面重合法。
(2)テレフタル酸を含むジカルボン酸成分の酸ハライドと、炭素原子数2〜12の脂肪族ジアミンを含むジアミン成分とを第3級アミンなどの酸を受容するアルカリ性化合物の存在下、有機溶媒中で反応せしめる溶液重合法。
(3)テレフタル酸を含むジカルボン酸成分のジエステル化物と、芳香族ジアミンを原料として溶融状態でアミド交換反応する溶融重合法。
本発明の耐熱性樹脂組成物は、上記した通り、PAS樹脂(A)、テレフタル酸アミドを必須の構造単位とする芳香族ポリアミド(B)を前者/後者の質量比が70/30〜95/5なる割合で含有するものであるが、本発明では更にエポキシ系シランカップリング剤(C)を併用することが、前記芳香族ポリアミド(B)の分散性が飛躍的に向上し、良好なモルフォルジーを形成することによって耐熱性及び難燃性の改善効果が一層顕著なものとなる点から好ましい。
ここで前記エポキシ系シランカップリング剤(C)は、エポキシ構造含有基と2個以上のアルコキシ基とが珪素原子に結合した構造を有するシラン化合物であり、前記エポキシ構造含有基はグリシドキシアルキル基、3,4−エポキシシクロヘキシルアルキル基が挙げられる。また、これらの構造中に存在するアルキル基は炭素原子数1〜4の直鎖型アルキル基であることが好ましく、一方、前記アルコキシ基は具体的にはメトキシ基及びエトキシ基が挙げられる。このようなエポキシ系シランカップリング剤(C)は、具体的には、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、及びエポキシ系シリコーンオイルが挙げられる。また、前記エポキシ系シリコーンオイルは炭素原子数2〜6アルコキシ基を繰り返し単位として2単位乃至6単位で構成されるポリアルキレンオキシ基を有する化合物が挙げられる。前記エポキシ系シランカップリング剤(C)のなかでも、特に、前記芳香族ポリアミド(B)の分散性向上の効果が顕著である点からγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシランに代表されるグリシドキシアルキルトリアルコキシシラン化合物が好ましい。
前記エポキシ系シランカップリング剤(C)の配合量は、前記PAS樹脂(A)と前記芳香族ポリアミド(B)との合計量100質量部に対し、0.01〜5質量部であることが好ましく、特に0.1〜2質量部であることが好ましい。
また、本発明では、上記各成分に加え、更にハイドロタルサイト類化合物(D)を併用することが前記PAS樹脂(A)と前記芳香族ポリアミド(B)との溶融混練時或いは成形物のリフロー炉における熱処理時におけるポリマー成分の熱分解を抑制して、優れた機械的強度や難燃性の一層の向上が図れる点、及び、熱処理後の成形物外観を改善効果が一層顕著なものとなる点から好ましい。
ここで用いるハイドロタルサイト類化合物(D)は、2価の金属イオンと3価の金属イオンの水酸化物を層状結晶構造として有し、該層状結晶構造の層間に陰イオンを含む構造を有する無機化合物、或いは、その焼成物である。かかるハイドロタルサイト類化合物(D)を構成する2価の金属イオンは、例えば、Mg2+、Mn2+、Fe2+、Co2+、Ni2+、Cu2+、及びZn2+が挙げられ、3価の金属イオンはAl3+、Fe3+、Cr3+、Co3+、及びIn3+が挙げられる。また、陰イオンは、OH、F、Cl、Br、NO 、CO 、SO 2−、Fe(CN) 3−及びCHCOO、モリブテン酸イオン、ポリモリブテン酸イオン、バナジウム酸イオン、ポリバナジウム酸イオンが挙げられる。
これらの中でも、特に、ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)に起因する酸成分とのイオン交換能に優れ、ガス発生防止効果が顕著である点から、3価の金属イオンはAl3+であって、陰イオンはCO であることが好ましく、具体的には、例えば下記式
2+ 1−xAl(OH)・(COX/2mHO 式1
(式1中、M2+はMg,Ca及びZnよりなる群から選ばれた二価金属イオンを示し、そしてx及びmは、0<x<0.5かつ0≦m≦2を満足する数値である。)
で表される化合物であることが好ましい。
前記式1を満足する化合物は、例えば、
Mg2+ Al(OH)16・(CO)・4H
で表される天然ハイドロタルサイトの他、
Mg0.7 Al0.3(OH) (CO0.15・0.54HO、
Mg4.5 Al(OH)13CO・3.5HO、
Mg4.3Al(OH)12.6CO・3.5HO、
Mg4.2Al(OH)12.4CO
ZnAl(OH)16CO・4HO、
CaAl(OH)16CO・4HO等が挙げられる。
これらのなかでも特に本発明ではガス発生防止の点から下記式2
Mg2+ 1−xAl(OH)・(COX/2mHO 式2
(式2中、x及びmは、0<x<0.5かつ0≦m≦2を満足する数値である。)
で表されるMg−Al系ハイドロタルサイト様化合物であることが特に好ましい。
前記ハイドロタルサイト類化合物(D)の配合量は、ガス発生防止効果が顕著なものとなる点から本発明の耐熱性樹脂組成物中0.1〜1.0質量%、或いは、前記PAS樹脂(A)及び前記芳香族ポリアミド(B)の合計質量100質量部に対して0.01〜5質量部であることが好ましく、特に0.1〜2質量部であることが好ましい。
本発明の耐熱性樹脂組成物は、PAS樹脂(A)、テレフタル酸アミドを必須の構造単位とする芳香族ポリアミド(B)、更に望ましくは前記エポキシ系シランカップリング剤(C)の各成分に加え、更に繊維状強化材(E−1)又は無機質フィラー(E−2)を配合することが成形物の機械的強度の点から好ましい。
前記繊維状強化材(E−1)は、例えば、ガラス繊維、PAN系又はピッチ系の炭素繊維、シリカ繊維、シリカ・アルミナ繊維、ジルコニア繊維、窒化ホウ素繊維、窒化ケイ素繊維、ホウ素繊維、ホウ酸アルミニウム繊維、チタン酸カリウム繊維、更にステンレス、アルミニウム、チタン、銅、真ちゅう等の金属の繊維状物の無機質繊維状物質、及びアラミド繊維等の有機質繊維状物質等が挙げられる。
また、無機質フィラー(E−2)は、例えば、マイカ、タルク、ワラステナイト、セリサイト、カオリン、クレー、ベントナイト、アスベスト、アルミナシリケート、ゼオライト、パイロフィライトなどの珪酸塩や炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ドロマイトなどの炭酸塩、硫酸カルシウム、硫酸バリウムなどの硫酸塩、アルミナ、酸化マグネシウム、シリカ、ジルコニア、チタニア、酸化鉄などの金属酸化物、ガラスビーズ、セラミックビーズ、窒化ホウ素、炭化珪素、燐酸カルシウムなどが挙げられる。これらの繊維状強化材(E−1)、無機質フィラー(E−2)は、単独使用でも2種以上を併用してもよい。
本発明に使用する繊維状強化材(E−1)又は無機質フィラー(E−2)の配合量は、PAS樹脂(A)と芳香族ポリアミド(B)との合計量100質量部に対し、1〜200重量部の範囲であること、特に20〜120質量部の範囲であることが好ましい。また繊維状強化材(E−1)又は無機質フィラー(E−2)は、本発明の耐熱性樹脂成形物品の性能を損なわない範囲で、シランカップリング剤あるいはチタンカップリング剤等の表面処理剤で表面処理を施したものであってもよい。
更に、本発明の耐熱性樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、酸化防止剤、加工熱安定剤、可塑剤、離型剤、着色剤、滑剤、耐候性安定剤、発泡剤、防錆剤、ワックスを適量添加してもよい。
更に本発明の耐熱性樹脂組成物は、更に、要求される特性に合わせてその他の樹脂成分を適宜配合してもよい。ここで使用し得る樹脂成分としては、エチレン、ブチレン、ペンテン、ブタジエン、イソプレン、クロロプレン、スチレン、α−メチルスチレン、酢酸ビニル、塩化ビニル、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、(メタ)アクリロニトリルなどの単量体の単独重合体または共重合体、ポリウレタン、ポリエステル、ポリブチレンテレフタレ−ト・ポリエチレンテレフタレ−ト等のポリエステル、ポリアセタ−ル、ポリカ−ボネ−ト、ポリサルホン、ポリアリルサルホン、ポリエ−テルサルホン、ポリフェニレンエーテル、ポリエ−テルケトン、ポリエ−テルエ−テルケトン、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエ−テルイミド、シリコ−ン樹脂、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、液晶ポリマ−、ポリアリ−ルエ−テルなどの単独重合体、ランダム共重合体またはブロック共重合体、グラフト共重合体等が挙げられる。
以上詳述した耐熱性樹脂組成物を製造する方法は、具体的には、前記PAS樹脂(A)およびテレフタル酸アミドを必須の構造単位とする芳香族ポリアミド(B)を、更に必要に応じてその他の配合成分をタンブラー又はヘンシェルミキサーなどで均一に混合、次いで、2軸押出機に投入し、樹脂成分の吐出量(kg/hr)とスクリュー回転数(rpm)との比率(吐出量/スクリュー回転数)が0.02〜0.2(kg/hr/rpm)なる条件下に溶融混練する方法が挙げられる。かかる条件下に製造することによって前記PAS樹脂(A)をマトリックスとして微分酸する前記芳香族ポリアミド(B)の平均径を0.1〜1.0μmに調整することができる。
上記製造方法につき更に詳述すれば、前記した各成分を2軸押出機内に投入し、設定温度330℃、樹脂温度350℃程度の温度条件下に溶融混練する方法が挙げられる。この際、樹脂成分の吐出量は回転数250rpmで5〜50kg/hrの範囲となる。なかでも特に分散性の点から20〜35kg/hrであることが好ましい。よって、樹脂成分の吐出量(kg/hr)とスクリュー回転数(rpm)との比率(吐出量/スクリュー回転数)は、特に0.08〜0.14(kg/hr/rpm)であることが好ましい。また、2軸押出機のトルクは最大トルクが20〜100(A)、特に25〜80(A)となる範囲であることが前記芳香族ポリアミド(B)の分散性が良好となる点から好ましい。
また、前記配合成分のうち繊維状強化材(E−1)は、前記2軸押出機のサイドフィーダーから該押出機内に投入することが該繊維状強化材(E−1)の分散性が良好となる点から好ましい。かかるサイドフィーダーの位置は、前記2軸押出機のスクリュー全長に対する、押出機樹脂投入部から該サイドフィーダーまでの距離の比率が、0.1〜0.6であることが好ましい。中でも0.2〜0.4であることが特に好ましい。
このようにして溶融混練された耐熱性樹脂組成物はペレットとして得られ、次いで、これを成形機に供して溶融成形することにより、目的とする成形物が得られる。
ここで溶融成形する方法は、例えば、射出成形、押出成形、圧縮成形等が挙げられるが、このうち表面実装用電子部品の成型用としては射出成形が特に好ましい。
このようにして得られる成形物は、具体的には、ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)、テレフタル酸アミドを必須の構造単位とする芳香族ポリアミド(B)を前者/後者の質量比が70/30〜95/5なる割合で含有する耐熱性樹脂組成物からなるものであって、かつ、該成形物の破断面を有機溶剤でエッチング処理した後、該破断面を走査型電子顕微鏡(2500倍)にて観察した際、該エッチング処理によって形成された空孔の平均径が0.1〜1.0μmの範囲の範囲となるものであり、耐熱性に優れ、高温域での弾性率が高い為、はんだ付けされる成形物として使用することができる。特に、前記した通り、表面実装用の電子部品用途においては、加熱炉(リフロー炉)内の基体の表面温度が280℃以上の高温になるところ、従来のPAS樹脂では融解又は変形が見られるのに対して、本発明の耐熱性樹脂組成物は、成形物品が融解又は変形を生じることなく該基体にはんだ付けすることが可能である。なお、上記のはんだ付けされる基体の表面温度とは、表面実装方式におけるはんだ付け工程において、実際に測定される基体の表面上の温度である。該基体の具体例としては、SMT方式におけるプリント印刷された配線基板や回路基板等が挙げられる。
また、上記した表面実装方式での加熱炉(リフロー炉)中での加熱方式には、(1)ヒーター上を移動する耐熱ベルトの上に基板を載せて加熱する熱伝導方式、(2)約220℃の沸点を有するフッ素系液体の凝集時の潜熱を利用するベーパーフェイズソルダリング(VPS)方式、(3)熱風を強制的に循環させているところを通す熱風対流熱伝達方式、(4)赤外線により基板の上部又は上下両面から加熱する赤外線方式、(5)熱風による加熱と赤外線による加熱を組み合わせて用いる方式等が挙げられる。
本発明の耐熱性樹脂組成物の成形物品は、例えば、精密部品、各種電気・電子部品、機械部品、自動車用部品、建築、サニタリー、スポーツ、雑貨等の幅広い分野において使用することができるが、特に難燃性、耐熱性、剛性等々に優れるため、とりわけ、前記した通り、表面実装用電子部品として有用である。
ここで、本発明の表面実装用電子部品は、前記した耐熱性樹脂組成物の成形物と、金属端子とを必須の構成要素とするもので、プリント印刷された配線基板や回路基板上に表面実装方式によって固定されるものである。この電子部品を表面実装方式で基板に固定させるには、該電子部品の金属端子がハンダボールを介して基板上の通電部に接するように基板表面に載せて、上記した加熱方式によってリフロー炉内で加熱することによって、該電子部品を基板にハンダ付けする方法が挙げられる。
かかる表面実装用の電子部品は、具体的には、表面実装方式対応用のコネクター、スイッチ、センサー、抵抗器、リレー、コンデンサー、ソケット、ジャック、ヒューズホルダー、コイルボビン、ICやLEDのハウジング等が挙げられる。
また、本発明の製造方法で得られる耐熱性樹脂成形物品は、所謂ハロゲン系銅や酸化アンチモン或いは金属水酸化物といった難燃剤を添加することなく、UL耐炎性試験規格UL−94(アンダーライターズ ラボラトリーズ,インコーポレイテッド,(UL)スタンダード No.94)において、V−0に相当する高い難燃性を達成せしめるものである。
以下に、実施例により本発明を更に詳しく説明する。
実施例1〜9及び比較例1〜5
表1及び表2に記載する配合比率に従い、ポリアリーレンスルフィド樹脂、芳香族ポリアミド及びその他配合材料(ガラス繊維チョップドストランドを除く)をタンブラーで均一に混合した。その後、東芝機械(株)製ベント付き2軸押出機「TEM−35B」に前記配合材料を投入し、また、サイドフィーダー(スクリュー全長に対する樹脂投入部から該サイドフィーダーまでの距離の比率:0.28)から繊維径10μm、長さ3mmのガラス繊維チョップドストランドを上記配合材料60質量部に対して40質量部の割合で供給しながら、樹脂成分吐出量25kg/hr、スクリュー回転数250rpm、樹脂成分の吐出量(kg/hr)とスクリュー回転数(rpm)との比率(吐出量/スクリュー回転数)=0.1(kg/hr/rpm)、最大トルク65(A)、設定樹脂温度330℃で溶融混練して樹脂組成物のペレットを得た。
次いで、このペレットを用いて以下の各種評価試験を行った。
[エッチング処理及び平均径の測定]
樹脂組成物のペレットを、射出成形機を用いて成形し、幅12mm×長さ62.5mm×厚さ3mmの試験片を得た。これを−40℃に冷却した後、ASTM E−256に準拠してアイゾット衝撃試験を行い、該試験片を破断した。この破断された試験片の破断面をトリフロロ酢酸に20℃の温度条件下に浸漬し、超音波で処理して、該破断面に存在する微粒子状の芳香族ポリアミドを除去した。次いで、アセトンで前記破断面を洗浄し、その後、該破断面を30分間乾燥させた。
このようにしてエッチング処理された成形物の破断面の任意の2箇所につき、それぞれ2500倍の走査型電子顕微鏡写真を撮影し、これらをA3サイズに拡大し、拡大されたそれぞれの写真において2600μmの範囲に観察される全ての空孔の直径をグラフテック(株)製グラフィックデジタイザー「KD4600」を用いて空孔の直径を計測し、2箇所分併せて平均を算出した。
その結果を表1及び表2に示す。
なお、実施例8の走査型電子顕微鏡写真を図2に、実施例9の走査型電子顕微鏡写真を図3に、比較例2の走査型電子顕微鏡写真を図4にそれぞれ示す。
〔はんだリフロー加熱後の曲げ強度及び曲げ破断伸び〕
樹脂組成物のペレットを射出成形機を用いて成形し、幅10mm×長さ50mm×厚さ1.6mmの試験片を得た。次いでこの試験片について、ASTM D790に準じてはんだリフロー加熱後の曲げ強度及び曲げ破断伸びを測定した。リフロー加熱は赤外線リフロー装置(アサヒエンジニアリング社製「TPF−2」)で行った。この際の加熱条件としては、それぞれ180℃で100秒間予備加熱した後、基体表面が280℃に到達するまで加熱保持を行った。つまり、200℃以上の領域で100秒間、220℃以上の領域で90秒間、240℃以上の領域で80秒間、260℃以上の領域で60秒間となるように温度プロファイル(温度曲線)をリフロー装置にて設定を行い、加熱保持を行った。
〔耐ブリスタ性試験A〕
樹脂組成物のペレットを、射出成形機を用いて成形し、形状が縦70mm×横10mm×高さ8mm、0.8mm厚さの箱形コネクターを作成した。次いでこの箱形コネクターをプリント基板の上に載せて、前記〔はんだリフロー加熱後の曲げ強度及び曲げ破断伸び〕におけるリフロー条件で加熱した。外観評価は加熱後に箱形コネクターを目視観察し、下記の2段階の基準で評価した。
A:外観に変化なし。 B:ブリスタ又は融解が観察された。
〔耐ブリスタ性試験B〕
樹脂組成物のペレットを射出成形機を用いて成形し、形状が縦50mm×横10mm×高さ8mm、0.8mm厚さの箱形コネクターを作成した。次いでこの箱形コネクターを赤外線加熱炉(山陽精工製、SMTスコープ)を用いて、図1に示す温度プロファイルに従ってリフロー処理を行った。評価は加熱後に箱形コネクターを目視観察し、下記の2段階の基準で評価した。
A:外観に変化なし。 B:ブリスタ又は融解が観察された。
〔燃焼試験〕: UL−94垂直試験に準拠して行った。
Figure 2008007742

Figure 2008007742
なお、表1及び表2中の配合樹脂、材料は下記のものであり、また、表2中の「観測不可」とは、芳香族ポリアミドが粒子形状を形成していなかったことを意味する。
PPS1:大日本インキ化学工業(株)製リニア型PPS「DSP LR−3G」(非ニュートン指数1.2)
PPS2:大日本インキ化学工業(株)製リニア型PPS「LR−100G」(非ニュートン指数1.1)と、大日本インキ化学工業(株)製分岐型PPS「LT−10G」(非ニュートン指数1.5)とを、前者/後者=80/20(質量比)で混合したポリフェニレンスルフィド樹脂(粘度;メルトフローレート 50g/10分、混合物の非ニュートン指数1.2)
PA6T:ソルベイ・アドバンスト・ポリマーズ(株)製「アモデルA−1004」テレフタル酸65〜70モル%、その他イソフタル酸及びヘキサメチレンジアミンを必須の単量体成分として反応させた芳香族ポリアミド(融点310℃、Tg120℃)
エポキシシラン:γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン
ADE−1:チバ・スペシャリティ・ケミカルズ(株)製
ヒンダードフェノール系酸化防止剤「イルガノックス 1098」
ADE−2:チバ・スペシャリティ・ケミカルズ(株)製
リン系加工熱安定剤「イルガフォス 168」
GF:ガラス繊維チョップドストランド(繊維径10μm、長さ3mm)
図1は耐ブリスタ性試験Bにおける赤外線加熱炉内の温度プロファイルを示すグラフである。 図2は実施例8の走査型電子顕微鏡写真(2500倍)である。 図3は実施例9の走査型電子顕微鏡写真(2500倍)である。 図4は比較例2の走査型電子顕微鏡写真(2500倍)である。

Claims (16)

  1. ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)、テレフタル酸アミドを必須の構造単位とする芳香族ポリアミド(B)を前者/後者の質量比が70/30〜95/5なる割合で含有し、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)をマトリックスとして前記芳香族ポリアミド(B)が粒子状に分散しており、かつ、前記芳香族ポリアミド(B)の粒子の平均径が0.1〜1.0μmの範囲となるものであることを特徴とする耐熱性樹脂組成物。
  2. 前記芳香族ポリアミド(B)の粒子の平均径が、前記耐熱性樹脂組成物からなる成形物の破断面を有機溶剤でエッチング処理した後、該破断面を走査型電子顕微鏡(2500倍)にて観察した際、該エッチング処理によって形成された空孔の平均径として算出されるものである請求項1記載の耐熱性樹脂組成物。
  3. 前記ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)およびテレフタル酸アミドを必須の構造単位とする芳香族ポリアミド(B)に加え、更に、エポキシ系シランカップリング剤(C)を含有する請求項1記載の耐熱性樹脂組成物。
  4. 前記(A)〜(C)の各成分に加え、更にハイドロタルサイト類化合物(D)を含有する請求項3記載の耐熱性樹脂組成物。
  5. 前記テレフタル酸アミドを必須の構造単位とする芳香族ポリアミド(B)が、下記構造式a
    Figure 2008007742

    (式中、Rは炭素原子数2〜12アルキレン基を表す。)
    で表されるテレフタル酸アミド構造を、該芳香族ポリアミド(B)を構成する全酸アミド構造単位に対して65モル%以上の割合で含有するものである請求項1記載の耐熱性樹脂組成物。
  6. 前記ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)が、リニア型ポリアリーレンスルフィド樹脂である請求項1記載の耐熱性樹脂組成物。
  7. 前記樹脂組成物が、更に、繊維状強化材(E−1)又は無機質フィラー(E−2)を含有する請求項1記載の耐熱性樹脂組成物。
  8. ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)およびテレフタル酸アミドを必須の構造単位とする芳香族ポリアミド(B)を、二軸混練押出機に投入し、樹脂成分の吐出量(kg/hr)とスクリュー回転数(rpm)との比率(吐出量/スクリュー回転数)が0.02〜0.2(kg/hr/rpm)なる条件下に溶融混練することを特徴とする耐熱性樹脂組成物の製造方法。
  9. 前記(A)及び(B)成分と共に、エポキシ系シランカップリング剤(C)を溶融混練する請求項8記載の製造方法。
  10. 前記(A)〜(C)成分と共に、ハイドロタルサイト類化合物(D)を溶融混練する請求項9記載の製造方法。
  11. 押出機内の最大トルクが20〜100(A)である請求項8記載の製造方法。
  12. 前記テレフタル酸アミドを必須の構造単位とする芳香族ポリアミド(B)が、下記構造式a
    Figure 2008007742

    (式中、Rは炭素原子数2〜12アルキレン基を表す。)
    で表されるテレフタル酸アミド構造を該芳香族ポリアミド(B)を構成する全酸アミド構造単位に対して65モル%以上の割合で含有するものである請求項9記載の製造方法。
  13. 前記ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)が、リニア型ポリアリーレンスルフィド樹脂である請求項8記載の製造方法。
  14. 更に、繊維状強化材(E−1)又は無機質フィラー(E−2)をサイドフィーダーから前記二軸混練押出機内に投入する請求項8〜13の何れか1つに記載の製造方法。
  15. ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)、テレフタル酸アミドを必須の構造単位とする芳香族ポリアミド(B)を前者/後者の質量比が70/30〜95/5なる割合で含有する耐熱性樹脂組成物からなる成形物であって、かつ、該成形物の破断面を有機溶剤でエッチング処理した後、該破断面を走査型電子顕微鏡(2500倍)にて観察した際、該エッチング処理によって形成された空孔の平均径が0.1〜1.0μmの範囲の範囲となるものであることを特徴とする耐熱性樹脂成形物。
  16. 請求項1〜7の何れか一つに記載の耐熱性樹脂組成物の成形物と、金属端子とを必須の構成要素とすることを特徴とする表面実装用電子部品。
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