JP4038607B2 - ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、耐薬品性、難燃性、優れた機械的特性に加え、成形加工性、耐熱性が要求される電気・電子部品、自動車部品等に適用されるポリアリーレンスルフィド樹脂組成物に関する。特に、従来のポリアリーレンスルフィド(以下、PASという)樹脂では耐熱性が不充分とされる高温環境下に耐える樹脂組成物に関する。本発明の樹脂組成物は、例えば、鉛フリーはんだでのはんだ付けを行う電子部品の材料等に有用である。
【0002】
【従来の技術】
PAS樹脂は、それ自体優れた耐熱性、耐薬品性、難燃性、機械的特性を有しており、中でもガラス繊維などの強化材で強化した成形材料は、電気・電子部品や自動車部品等の分野において、金属代替用にも使用されており、近年大きく需要を伸ばしている。
【0003】
しかし、従来はPAS樹脂を使用していた部品でも、組立工程等の変化により、耐熱性の更なる向上が不可欠となり、従来のPAS樹脂を使用できない事例が生じている。例えば、世界的に環境保護への配慮が重要視され、電気・電子部品の接合に用いるはんだの鉛フリー化が必要な環境下では、はんだ付け工程で部品が曝される温度が高温化するため、従来のPAS樹脂では耐熱性が不充分となる事例が生じている。
【0004】
一方、サーモトロピック液晶樹脂は、パラヒドロキシ安息香酸と6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸との共重合体、パラヒドロキシ安息香酸、4,4’−ジヒドロキシビフェニルおよびテレフタル酸、イソフタル酸の共重合体等の液晶ポリエステル樹脂に代表され、その優れた流動性、耐熱性、剛性、寸法精度等の物性により、近年電気・電子部品用途を中心に重要が拡大している。特に、PAS樹脂よりも耐熱性に優れることから、PAS樹脂よりも高い耐熱性が要求される用途への応用も検討されている。
【0005】
しかしながら、サーモトロピック液晶樹脂は、PAS樹脂よりも一般に価格が高く、また、ウエルド強度が低いという欠点を有しおり、このために用途が制限される現状にある。
【0006】
そこで、PAS樹脂とサーモトロピック液晶樹脂との組成物により、互いの欠点を補い、長所を活かそうとする手法が検討されている。
【0007】
例えば、特開平3−70773号公報や特開平4−353561号公報等には、PAS樹脂とサーモトロピック液晶樹脂のブレンドでバリの低減化や結晶性の改良された組成物が開示されている。
【0008】
加えて、特開平5−230371号公報、特開平7−166056号公報、特開平7−224208号公報等には、PAS樹脂とサーモトロピック液晶樹脂とのブレンドにポリアルキレンエーテルやアルコキシシラン、エポキシ化合物等の第三成分を用いて、PAS樹脂とサーモトロピック液晶樹脂との相溶性を向上させた組成物が開示されている。
【0009】
しかしながら、これらのPAS樹脂とサーモトロピック液晶樹脂からなる樹脂組成物においては、PAS樹脂とサーモトロピック液晶樹脂との相溶性が未だ充分なレベルとは言い難く、この不充分な相溶性に起因して、サーモトロピック液晶樹脂の優れた耐熱性を発現できず、用途が制限される現状にある。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
本発明が解決しようとする課題は、PAS樹脂とサーモトロピック液晶樹脂との相溶性を改善して、耐薬品性、難燃性、優れた機械的特性、成形加工性を有し、特に耐熱性の改善されたPAS樹脂組成物を提供することである。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は、このような事情に鑑み鋭意試験研究を重ねた結果、PAS樹脂とサーモトロピック液晶樹脂からなる組成物にポリイソシアネート化合物を含有せしめることにより、PAS樹脂とサーモトロピック液晶樹脂との相溶性に優れる樹脂組成物が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
即ち本発明は、ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)とサーモトロピック液晶樹脂(B)と、分子量が200以上であって、かつ、引火点が150℃以上であるポリイソシアネート化合物(C)とを含んでなることを特徴とするポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を提供するものである。
また本発明は、上記ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を成形してなる成形物品を提供するものであり、さらに該成形物品を、鉛フリーはんだを用いて表面実装方式にてはんだ付けすることを特徴とする配線基板への固定方法を提供するものである。
【0013】
本発明に使用するPAS樹脂(A)の種類は、特に制限されないが、例えば置換基を有してもよい芳香族環と硫黄原子が結合した構造の繰り返し単位を含むランダム共重合体、ブロック共重合体、およびそれらの混合物あるいは単独重合体との混合物等が挙げられる。
これらのPAS樹脂の代表的なものとしては、ポリフェニレンスルフィド(以下、PPSという)、ポリフェニレンスルフィドケトン、ポリフェニレンスルフィドスルホン、ポリフェニレンスルフィドケトンスルホンなどが挙げられる。これらのPAS樹脂の中でも、繰り返し単位の芳香環の結合がパラ位である構造が耐熱性や結晶性の面で好ましい。
【0014】
特に、下記一般式で示される繰り返し構成単位(式中、芳香族環は置換基を含まない)を70モル%以上含むPPS樹脂が物性面及び経済性の面で好ましい。
【0015】
【化4】
【0016】
上記のPPS樹脂の製造方法としては、特に限定されないが、例えば1)p−ジクロルベンゼンと、更に必要ならばその他の共重合成分とを、硫黄と炭酸ソーダの存在下で重合させる方法、2)p−ジクロルベンゼンと、更に必要ならばその他の共重合成分とを、極性溶媒中で硫化ナトリウム若しくは水硫化ナトリウムと水酸化ナトリウムの存在下に、又は硫化水素と水酸化ナトリウムの存在下に重合させる方法、3)p−クロルチオフェノールと、更に必要ならばその他の共重合成分とを自己縮合させる方法、4)N−メチルピロリドン、ジメチルアセトアミドなどのアミド系溶媒やスルホラン等のスルホン系溶媒中で、硫化ナトリウムとp−ジクロルベンゼンと、更に必要ならばその他の共重合成分とを反応させる方法等が挙げられる。
これらの方法のなかでも、4)の方法が適当である。尚、この時に重合度を調節するためにカルボン酸やスルホン酸のアルカリ金属塩を添加したり、水酸化アルカリを添加しても良い。
【0017】
ここでPPS樹脂中に含有される共重合成分としては、例えば下記の構造式で示されるメタ結合、
【0018】
【化5】
【0019】
下記構造式で示されるエーテル結合、
【化6】
【0020】
下記構造式で示されるスルホン結合、
【化7】
【0021】
下記構造式で示されるスルフィドケトン結合、
【化8】
【0022】
下記構造式で示されるビフェニル結合、
【化9】
【0023】
下記構造式で示される置換フェニルスルフィド結合、
【化10】
(式中、Rはアルキル機、ニトロ基、フェニル基またはアルコキシ基を示す。)
【0024】
下記構造式で示される3官能フェニルスルフィド結合、
【化11】
【0025】
下記構造式で示されるナフチル結合
【化12】
等を含む成分が挙げられる。これらの成分の含有率は、特に制限されないが、好ましくは30モル%未満である。ただし、3官能性以上の結合を含有させる場合は、通常5モル%以下、好ましくは3モル%以下である。
【0026】
本発明に使用するPAS樹脂(A)の溶融粘度は、特に限定されるものではないが、300℃において、せん断速度500sec−1で、キャビラリーレオメーターを用いて測定した粘度が10〜3000Pa・sであることが、力学特性と流動性のバランスの点で好ましい。
【0027】
本発明に使用するPAS樹脂(A)は、特公昭52−12240号公報に記載される製造方法によって製造することが可能であるが、該方法に限定されたものではない。
【0028】
PAS樹脂(A)は、金属含有量、特にNa含有量の低いPAS樹脂であることが好ましい。特にNa含有量は500ppm以下であることが好ましい。Na含有量が低い程、PAS樹脂とサーモトロピック液晶樹脂の相溶性が向上する傾向がある。
【0029】
Na含有量の低いPAS樹脂を得る方法としては、特開昭62−223232号公報や特開平10−45911号公報、特開平10−45912号公報、特公平10−60113号公報等に記載のように、酸処理の後洗浄する手法が挙げられる。この酸処理に使用される酸としては、PAS樹脂を分解する作用を有するものでなければ特に制限はないが、例えば酢酸、塩酸、硫酸、リン酸、珪酸、炭酸、プロピル酸等を挙げることができ、なかでも酢酸、塩酸が好ましく使用される。酸処理の方法としては、酸または酸水溶液にPAS樹脂を浸漬する方法等があるが、この際必要に応じ攪拌または加熱することができる。
【0030】
本発明に使用するPAS樹脂の酸処理に、PAS樹脂の粉粒体、または重合後のスラリ−状態にあるPAS樹脂を使用することもできる。
【0031】
また、PAS樹脂として、末端チオール基の濃度が、5μモル/g以上、50μモル/g以下であるPAS樹脂も好適に使用できる。
【0032】
さらに本発明に使用するPAS樹脂として、カルボキシル基で変性された、即ちカルボキシル基含有ポリアリ−レンサルファイド系樹脂(以下、CPAS系樹脂という)を用いることができる。
CPAS系樹脂としては、例えば、下記一般式
【0033】
【化13】
下記一般式
【0034】
【化14】
(式中、YはO、SO2、CH2、C(CH3)2、CO又はC(CF3)2を示す。)
【0035】
または下記一般式
【化15】
で示される繰り返し構造単位を有するCPASと繰り返し単位が上述した下記一般式
【0036】
【化16】
で表される繰り返し単位を有するPASとの共重合体等が挙げられる。
【0037】
上記CPAS中の繰り返し構造単位の含有率は、使用する目的等々によって異なるため一概に規定できないが、CPAS系樹脂中の0.5〜30モル%、好ましくは、0.8〜20モル%である。このような共重合によるCPAS系樹脂は、ランダムタイプでも、ブロックタイプでも、グラフトタイプでも構わない。最も代表的なものとして、PAS部分がPPSでCPAS部分が下記一般式
【化17】
で示されるカルボキシル基含有ポリフェニレンサルファイド系樹脂(CPPS)である共重合体が挙げられる。
【0038】
共重合によるCPAS系樹脂の製造法としては、次のような方法が挙げられる。すなわち、例えばランダムタイプの場合には特開昭63−305131号公報のように、ジハロゲノ芳香族化合物とアルカリ金属硫化物とジハロゲノ芳香族カルボン酸及び(または)そのアルカリ金属塩とを用いる方法や該製造法において用いたアルカリ硫化物に代えて水硫化アルカリ金属化合物と水酸化アルカリ金属を用いる方法などが挙げられる。またブロックタイプの場合には(1)PASプレポリマーの存在する極性溶媒中で、ジハロゲノ芳香族カルボン酸及び/またはそのアルカリ金属塩とスルフィド化剤(アルカリ硫化物;水硫化アルカリ金属化合物と水酸化アルカリ金属との併用)を反応させる方法、(2)CPASプレポリマーの存在する極性溶媒中で、ジハロゲノ芳香族化合物とスルフィド化剤を反応させる方法、(3)極性溶媒中で、PASプレポリマーとCPASプレポリマーを反応させる方法などがある。
【0039】
さらに本発明のPAS樹脂として、アミノ基で変性された、即ちアミノ基含有ポリアリ−レンスルフィド系樹脂(以下、APAS系樹脂という)を用いることができる。
APAS系樹脂中のアミノ基含有量は、0.1〜30モル%が好ましい。
このAPAS系樹脂は、例えばN−メチルピロリドン等のアミド系溶媒中でアルカリ金属硫化物とジハロベンゼンとを反応させる際に、アミノ基含有芳香族ハロゲン化物を共存させて重合することにより得ることができるが、この方法に限定されるものではない。
【0040】
このAPAS系樹脂の共重合に際して用いることができるアミノ基含有芳香族ハロゲン化物としては、下記一般式
【0041】
【化18】
(式中、Xはハロゲン原子を表し、Zは水素原子、−NH2又はハロゲン原子を表し、R1は炭素数1〜12の炭化水素基を表し、mは0〜4の整数である。)で表される化合物を挙げることができる。
【0042】
その具体的化合物としては、例えばm−フルオロアニリン、m−クロルアニリン、3,5−ジクロルアニリン、2−アミノ−4−クロルトルエン、2−アミノ−6−クロルトルエン、4−アミノ−2−クロルトルエン、3−クロル−m−フェニレンジアミン、m−ブロムアニリン、3,5−ジブロムアニリン、m−ヨ−ドアニリン等が挙げられ、これらの1種又は2種以上の混合物を使用することができる。
【0043】
本発明に使用するサーモトロピック液晶樹脂(B)は、特に限定するものではないが、代表的なものとして、液晶ポリエステル樹脂が挙げられる。
以下、液晶ポリエステル樹脂について説明する。
【0044】
液晶ポリエステル樹脂は、400℃以下の温度で異方性溶融相を形成する樹脂であり、具体的には、例えば▲1▼芳香族ジカルボン酸と芳香族ジオールと芳香族ヒドロキシカルボン酸とを反応させて得られるもの、▲2▼異種の芳香族ヒドロキシカルボン酸を反応させて得られるもの、▲3▼芳香族ジカルボン酸と核置換芳香族ジオールを反応させて得られるもの、▲4▼ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステルに芳香族ヒドロキシカルボン酸を反応させて得られるもの等が挙げられる。また上記の芳香族ジカルボン酸、芳香族ジオール、及び芳香族ヒドロキシカルボン酸の代わりに、それらのエステル形成性誘導体を使用してもよい。
【0045】
本発明に使用する液晶ポリエステル樹脂の繰り返し構造単位としては、下記の芳香族ジカルボン酸に由来する繰り返し構造単位、芳香族ジオールに由来する繰り返し構造単位、芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する繰り返し構造単位などを例示することができるが、これらに限定されるものではない。
【0046】
芳香族ジカルボン酸に由来する繰り返し構造単位の例としては、以下のような構造が挙げられる。
【0047】
【化19】
(式中、X1:ハロゲン原子、アルキル基又はアリール基を表す)
【0048】
【化20】
また、芳香族ジオールに由来する繰り返し構造単位の例としては、以下のような構造が挙げられる。
【0049】
【化21】
(式中、X1:ハロゲン原子、アルキル基又はアリール基を表す)
【0050】
【化22】
(式中、X2:ハロゲン原子又はアルキル基を表す)
【0051】
【化23】
【0052】
更に、芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する繰り返し構造単位の例としては、以下のような構造が挙げられる。
【0053】
【化24】
(式中、X2:ハロゲン原子又はアルキル基を表す)
【0054】
【化25】
【0055】
本発明に使用するサーモトロピック液晶樹脂(B)は、耐熱性、機械的特性、加工性等のバランスから、下記構造式[1]で表される繰り返し構造単位を含む液晶ポリエステル樹脂が好ましい。
【0056】
【化26】
【0057】
上記の繰り返し単位[1]を含む液晶ポリエステル樹脂としては、例えば下記の繰り返し単位の組み合わせを含む液晶ポリエステル樹脂▲1▼〜▲7▼が挙げられる。なお本発明においては、これらの例に限定されるものではない。
【0058】
【化27】
【0059】
【化28】
【0060】
【化29】
【0061】
【化30】
【0062】
【化31】
【0063】
【化32】
【0064】
【化33】
【0065】
本発明に使用する液晶ポリエステル樹脂▲1▼〜▲7▼の製造方法については、例えば、特公昭47−47870号公報、特公昭63−3888号公報、特公昭63−3891号公報、特公昭56−18016号公報、特公平2−51523号公報、特公平7−47625号公報などに記載されている。これらの中で好ましくは▲1▼〜▲3▼の組み合わせであり、より好ましくは▲1▼、▲2▼の組み合せである。
【0066】
上記液晶ポリエステル樹脂は、さらに下記の(グループa)及び/又は(グループb)の繰り返し単位を有するものが好ましい。
(グループa)は、下記構造式[2]及び/又は構造式[3]
【0067】
【化34】
【0068】
からなる繰り返し単位であり、
(グループb)は下記構造式[4]、構造式[5]、構造式[6]及び構造式[7]
【0069】
【化35】
からなる群から選ばれる1種以上の構造式からなる繰り返し単位である。
【0070】
上記グループaについては、構造式[2]からなる繰り返し単位と構造式[3]からなる繰り返し単位とは、加工時の流動性の点で、モル比で構造式[3]/構造式[2]=0〜1.5の範囲であることが好ましい。
また上記グループbについては、構造式[4]からなる繰り返し単位、構造式[5]からなる繰り返し単位、構造式[6]からなる繰り返し単位及び構造式[7]からなる繰り返し単位は、加工時の流動性の点で、モル比で〔構造式[4]+構造式[5]〕/〔構造式[6]+構造式[7]〕が1〜10の範囲であることが好ましい。
【0071】
また、前記(グループb)の合計モル数に対する前記(グループa)の合計モル数が実質的に1:1であり、構造式[5]/構造式[4]が0〜2モル比の範囲であり、構造式[7]/構造式[6]が0〜2モル比の範囲であることが好ましく、更に、上記構造式[1]/(グループa)がモル比で1〜6の範囲であることが好ましい。ここでいう「前記(グループb)の合計モル数に対する前記(グループa)の合計モル数が実質的に1:1」とは、例えば、NaOHに代表されるアルカリ等を用いてポリエステルを加水分解及び/又は加溶媒分解して、NMR(核磁気共鳴)法やGC(ガスクロマトグラフィー)法で構成成分の分析を行った場合に、分子量に依存した末端基量を誤差の範囲として、前記(グループb)の合計モル数に対する前記(グループa)の合計モル数が1:1であると結論づけられることをいう。
モル比が上記の範囲である場合に、特に、力学特性と流動性のバランスが良好となる。
【0072】
特に、本発明に使用する液晶ポリエステル樹脂としては、融点が300℃以上の全芳香族ポリエステル樹脂が好ましい。ここでいう全芳香族ポリエステルとは、用いられている繰り返し構造単位(芳香族ジカルボン酸に由来する繰り返し構造単位、芳香族ジオールに由来する繰り返し構造単位、芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する繰り返し構造単位)の全てが主鎖に芳香族基を有するポリエステルである。かかる融点が300℃以上の全芳香族ポリエステル樹脂を用いた場合には、力学特性や流動性に加え、PAS樹脂(A)との耐熱性レベルが高度にバランスする。
【0073】
サーモトロピック液晶樹脂(B)の溶融粘度については、特に限定するものではないが、同一温度、同一せん断速度で測定した場合のPAS樹脂(A)の粘度をη(A)、サーモトロピック液晶樹脂(B)の溶融粘度をη(B)とした場合に、η(A)/η(B)が0.1〜10の範囲であることが、PAS樹脂(A)とサーモトロピック液晶樹脂(B)の相溶性を良好とする上で好ましい。
【0074】
PAS樹脂(A)とサーモトロピック液晶樹脂(B)の組成比については、特に限定するものではないが、PAS樹脂のウエルド特性や剛性を活かし、PAS樹脂の耐熱性のレベルを上げるといった観点から、PAS樹脂(A)100重量部に対し、サーモトロピック液晶樹脂(B)0.1〜100重量部使用することが好ましい。
【0075】
次に、本発明に使用するポリイソシアネート化合物(C)について説明する。
【0076】
本発明に使用するポリイソシアネート化合物(C)とは、一分子中に2個以上のイソシアネート基および/またはイソチアシアネート基を有する有機化合物をいう。
【0077】
かかるポリイソシアネート化合物(C)の具体例よしては、例えばm−フェニレンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、4,4´−ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4´−ジフェニルプロパンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、3,3´−ジメチル−4,4´−ビフェニレンジイソシアネート、ジメチルフェニルメタンジイソシアネートジフェニルエーテル−4,4´−ジイソシアネート、ジフェニルスルホン−4,4´−ジイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート等の芳香族ポリイソシアネート類;キシレンジイソシアネート類の芳香脂肪族ポリイソシアネート類;4,4´−シクロヘキサンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン−4,4´−ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、1,12−ドデカンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族ポリイソシアネート類等およびこれらの混合物、並びにこれらに対応するイソチアシアネート基を持った化合物を挙げることができる。
【0078】
また、これらイソシアネート化合物の2量体、3量体等の多量体型;カルボジイミド変性型;フェノール類;ラクタム類等によってイソシアネート基をマスクしたブロック型ポリイソシアネート変性体もポリイソシアネート化合物(C)に含まれる。これらのブロック型イソシアネートは、一般的に常温では反応しないため保存安定性に優れるが、通常140〜200℃の加熱によりイソシアネート基が再生され、優れた反応性を示すものである。ブロックポリイソシアネート変性体の中では、特に、多量体型のブロック型ポリイソシアネート変性体が、イソシアネート基再生時に揮散しやすい化合物を発生しないため好ましい。
【0079】
本発明に使用するポリイソシアネート化合物(C)は、分子量が200以上であることが好ましい。ここでいう分子量は、低分子量のポリイソシアネート化合物は分子式に基づき計算される分子量であり、高分子量のポリイソシアネート化合物は数平均分子量での数値を意味する。分子量が200以上であると、本発明のPAS樹脂組成物の製造工程中に揮散しにくいため、PAS樹脂とサーモトロピック液晶樹脂の相溶性向上効果が大きい。
【0080】
また、本発明に使用するポリイソシアネート化合物(C)は、引火点が150℃以上であることが好ましい。
ここで引火点は、ISO2592に準拠したクリーブランド開放引火点測定試験、消防法の危険物の第2類である可燃性固体の試験法であるセタ密閉式引火点測定試験等により、測定することができる。消防法での危険物分類を行う場合と同様、ポリイソシアネート化合物の種類に応じた測定方法を用いることができる。
【0081】
引火点が高い方が、組成物の製造工程中に揮散しにくいため、PAS樹脂とサーモトロピック液晶樹脂の相溶性向上効果が大きく、且つ、熱分解性が小さい傾向にあるので、本発明のPAS樹脂組成物を射出成形等で成形する際の成形性が良好となりやすい。
【0082】
本発明のPAS樹脂組成物には、機械的特性の向上や成形加工性の向上を図る等の目的で、さらに各種の強化材及び/又は充填剤を添加することが好ましい。
本発明に使用することができる強化材及び充填材としては、例えばガラス繊維、炭素繊維、チタン酸カルシウム、チタン酸カリウム、炭化珪素、アラミド繊維、セラミック繊維、金属繊維、窒化珪素、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、カオリン、クレー、ベントナイト、セリサイト、ゼオライト、マイカ、雲母、タルク、ウオラストナイト、PMF、フェライト、珪酸アルミニウム、珪酸カルシウム、炭酸カルシウム、ドロマイト、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、三酸化アンチモン、酸化チタン、酸化鉄、ミルドガラス、ガラスビーズ、ガラスバルーン等がある。
【0083】
さらに本発明のPAS樹脂組成物には、黒鉛、二硫化モリブデン、ポリテトラフルオロエチレン等の潤滑剤及びその安定化剤を含むことができる。又、さらに本発明の目的を損なわない範囲で、酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、離型剤、防錆剤、滑剤、結晶核剤、着色剤、シランカップリング剤等を添加することができる。
【0084】
またさらに本発明のPAS樹脂組成物には、本発明の目的を損なわない範囲で熱硬化性樹脂、及び本発明に使用するPAS樹脂及び液晶ポリエステル樹脂以外のその他の熱可塑性樹脂を添加することができる。これらの熱硬化性樹脂、及びその他の熱可塑性樹脂としては、例えばエポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ポリイミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、スチレンブタジエン共重合体、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリアリレート、ポリアセタール、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、液晶ポリマー、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミドなどを挙げることができる。
【0085】
特に、特開平7−82485号公報に記載されているような、1,6−ジヒドロキシナフタレンのジグリシジルエーテル、及び/または、ナフタレン環含有ヒドロキシ化合物のトリグリシジルエーテルまたはテトラグリシジルエーテル等のナフタレン型多官能エポキシ樹脂が好適に使用される。
【0086】
本発明のPAS樹脂組成物は、種々の公知の方法で調製することができる。
調製方法としては、例えばPAS、サーモトロピック液晶樹脂、ポリイソシアネート、必要により、充填材等をあらかじめヘンシェルミキサー又はタンブラー等で混合した後、1軸又は2軸押出混練機などに供給して200℃〜360℃で混練し、造粒しペレット化することにより得る方法が挙げられる。
【0087】
また、上記の混合に際し必要に応じて他の強化材、充填剤や各種添加剤を添加してもよい。
【0088】
また、上記の混合に際し必要に応じて他の強化材、充填剤や各種添加剤を添加してもよい。
【0089】
また、ペレット化後に、アニーリング処理や、UV照射、プラズマ照射等の加工処理を施すこともできる。
【0090】
上記で得られた本発明のPAS樹脂組成物は、成形することにより、成形物品を得ることができる。
成形方法としては、射出成形が代表として挙げられるが、プレス成形、押出成形、ブロー成形等を用いてもよい。また、これらの成形法を組み合わせても良い。
【0091】
本発明の成形物品は、耐熱性が良好であることから、耐熱性が必要とされる分野に用いることができる。例えば、自動車のエンジン周辺部品、高温熱媒等に曝される工業部品、配線基板へ固定する電子部品等が挙げられる。これらのうち、特に、鉛フリーはんだを用いて表面実装方式(サーフェイスマウント方式;以下SMT方式という)にてはんだ付けを行なう成形部品に特に好ましく適用される。
【0092】
ここで、SMT方式とは、一般にはプリント印刷された配線基板上に、クリーム状のはんだを介して電子部品を載せた後、配線基板を加熱炉(リフロー炉)内に通過させることによって、はんだを溶かして、電子部品を配線基板上に固定する方法をいう。このSMT方式は、配線基板上のスルーホールから電子部品のリード線を通し、電子部品を装着した面とは反対側の面に直接はんだ付け(フリーソルダリングまたはウェーブソルダリング)を行なう従来の挿入実装方式(リードスルー方式)とは異なる方式である。
【0093】
SMT方式は、▲1▼実装密度を大きくすることができること、▲2▼表裏両面の実装が可能であること、▲3▼効率化によって製造コストを低減させることができること等の利点があり、現在はんだ付け方式の主流となりつつある。
この表面実装技術において使用されるはんだは、従来錫−鉛共晶はんだ(融点184℃)が一般的であったが、近年では環境汚染の問題から鉛の使用量の削減、更には全廃が推進されている。
【0094】
その代替材料として、錫をベースに数種類の金属を添加した所謂鉛フリーはんだが提案されているが、何れも錫−鉛共晶はんだよりも融点が高いため(例えば錫−銀共晶はんだの場合は融点220℃)、表面実装時には加熱炉(リフロー炉)の温度を更に上昇させなければならない。この結果、SMT方式を用いてはんだ付けを行なう場合、コネクター等の熱可塑性樹脂成形物品をはんだ付け加熱炉(リフロー炉)内に通過させる際に、当該成形物品が融解または変形を生じる可能性があり、更に耐熱性の高い熱可塑性樹脂の成形物品がこの分野において強く求められている。
【0095】
このような成形物品としては、例えばコネクター、スイッチ、センサー、ソケット、コンデンサー、ジャック、ヒューズホルダー、リレー、コイルボビン、抵抗器、ICやLEDのハウジング、ギア、ベアリングリテーナー、スプリングホルダー、チェインテンショナー、ワッシャー、ウォームホイール、ベルト、フィルター、各種ハウジング、オートテンショナー及びウェイトローラー、ブレーカーパーツ、クラッチパーツ等が挙げられる。
本発明のPAS樹脂組成物は、これらの中でも、SMT方式対応用のコネクター、スイッチ、センサー、抵抗器、リレー、コンデンサー、ソケット、ジャック、ヒューズホルダー、コイルボビン、ICやLEDのハウジング等の材料として有用である。
【0096】
【実施例】
以下に実施例を挙げて本発明を更に説明する。例中の部は、重量部を示す。尚、本発明はこれらの実施例の範囲に限定されるものではない。
【0097】
後記実施例の測定値及び評価基準は以下のとおり測定・評価した。
<測定方法及び評価基準>
・融点;後記参考例で得られたサーモトロピック液晶樹脂を試料として、パーキンエルマー社製の示差走査熱量計であるDSC7を用い、JIS K 7121に準拠して測定した。
・加重たわみ温度;後記参考例で得られたサーモトロピック液晶樹脂を試料として、ASTM D648に準拠して測定した。
・溶融粘度;後記参考例で得られたPAS樹脂を試料として、300℃において、せん断速度500sec−1でキャビラリーレオメーターを用いて測定した。
【0098】
・引火点;後期実施例で用いたポリイソシアネート化合物にちて、セタ密閉式引火点測定装置により求めた。
・曲げ強度;後記実施例で得られた試験片を用い、ASTM D790に準じて初期の曲げ強度と加熱後の曲げ強度を測定した。
加熱は、基体上に上記試験片を乗せた状態で、赤外線リフロー装置を通して行った。この際、加熱条件は、180℃で100秒間予備加熱した後、基体表面が280℃になるように設定した。
・曲げ強度保持率;加熱後の曲げ強度/初期の曲げ強度(%)として計算した。
【0099】
(参考例1)サーモトロピック液晶樹脂の合成
ハイドロキノン55.1g(0.5モル)、4,4’−ジヒドロキシビフェニル93.1g(0.5モル)、テレフタル酸116.3g(0.7モル)、2,6−ナフタレンジカルボン酸64.9g(0.3モル)、4−ヒドロキシ安息香酸621.5g(4.5モル)、無水酢酸612.5g(6モル)を冷却器及び撹拌機を備えた反応容器中に仕込み、窒素ガス雰囲気下で撹拌しながら170℃まで昇温し、この温度で60分間環流した。次いで、副生物の酢酸を除去しながら、4時間かけて反応容器を370℃に徐々に上昇させ、更に、370℃で反応系を25kPaに減圧した。更にその温度で副生成物の酢酸を除去しながら圧力を2時間にわたって0.5〜1kPaまで減圧し重合を行った。
【0100】
次いで370℃で1時間重合を行った。この重合中、副生する酢酸を除去しながら、強力な撹拌を行い、その後、系を徐々に冷却し、200℃で得られたサーモトロピック液晶樹脂を系外へ取出した。この樹脂の融点は、350℃であった。このサーモトロピック液晶樹脂を以下LCP−1という。
【0101】
(参考例2)サーモトロピック液晶樹脂の合成
ハイドロキノン55.1g(0.5モル)、4,4′−ジヒドロキシビフェニル93.1g(0.5モル)、テレフタル酸116.3g(0.7モル)、2,6−ナフタレンジカルボン酸43.3g(0.2モル)、4,4′−ビフェニルジカルボン酸24.2g(0.1モル)、4−ヒドロキシ安息香酸621.5g(4.5モル)、無水酢酸612.5g(6モル)を使用する以外は上記LCP−1と同様の操作を行い、重合を行った。得られたサーモトロピック液晶樹脂を以下LCP−2という。この樹脂の融点は365℃、荷重たわみ温度は270℃であった。
(参考例3)サーモトロピック液晶樹脂の合成
ハイドロキノン110.1g(1モル)、テレフタル酸58.1g(0.35モル)、イソフタル酸58.1g(0.35モル)、2,6−ナフタレンジカルボン酸64.9g(0.3モル)、4−ヒドロキシ安息香酸621.5g(4.5モル)、無水酢酸612.5g(6モル)を使用する以外は上記LCP−1と同様に重合を行った。得られたサーモトロピック液晶樹脂を以下LCP−3という。この樹脂について上記同様に測定した融点は328℃、荷重たわみ温度は238℃であった。
【0102】
実施例1〜9および比較例1〜8
参考例にて製造した各種原料及びその他の原料を、下表に示す割合で均一に混合した後、35mmφの2軸押出機にて330〜370℃で混練しペレットを得た。このペレットを用い、インラインスクリュー式射出成形機によりシリンダー温度330〜370℃、金型温度130℃、射出圧力80〜100MPa、射出スピード中速にて、厚さ1.6mmの試験片を成形した。
【0103】
実施例および比較例中に用いた、他の成分は次の通りである。
【0104】
上記成形物品について、初期曲げ強度、加熱後曲げ強度及び曲げ強度保持率を測定した。この結果を表−1〜表−2に示す。
【0105】
【表1】
【0106】
【表2】
【0107】
実施例10
実施例1の組成物のペレットを用いて、射出成形機により、形状が縦70mm×横10mm×高さ8mm、0.8mm厚さの箱形コネクターを成形した。該成形品に金属端子を挿入し、鉛フリーハンダSn−3.0Ag−0.5Cuを用いてプリント基板と金属端子部位とのはんだ付けを行った。はんだ付け条件は、赤外線リフロー装置にて180℃で100秒間予備加熱した後、プリント基板表面が280℃になるよう設定した。
この結果得られた、プリント基板と箱形コネクターとがはんだ付けされた成形物品は、変形の無い、良好な形状であった。
【0108】
比較例9
比較例3の組成物を用いる以外は、実施例10と同様に成形物品の作製を行った。
この結果得られた、プリント基板と箱形コネクターとがはんだ付けされた成形物品は、ブリスターの発生が観測され、形状は不良であった。
【0109】
【発明の効果】
本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、優れた耐熱性を有し、特に、はんだ付けされる部品又ははんだ付けされる部品の周辺部品に用いられた場合、はんだ付け工程で高温に曝されても強度の低下が非常に小さいので、電気・電子分野におけるコネクター、スイッチ、リレー、コイルボビン等の成形物品に有用である。
Claims (10)
- ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)とサーモトロピック液晶樹脂(B)と、分子量が200以上であって、かつ、引火点が150℃以上であるポリイソシアネート化合物(C)とを含んでなることを特徴とするポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。
- サーモトロピック液晶樹脂(B)の融点が、300℃以上であることを特徴とする、請求項1に記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。
- 前記構造式の繰り返し単位が、モル比で構造式[3]/構造式[2]=0〜1.5の範囲であり、〔構造式[4]+構造式[5]〕/〔構造式[6]+構造式[7]〕=1〜10の範囲である請求項4記載のポリアリレンスルフィド樹脂組成物。
- 前記(グループb)の合計モル数に対する前記(グループa)の合計モル数が実質的に1:1であり、さらに前記構造式[1]/前記(グループa)=1〜6モル比の範囲であり、かつ構造式[5]/構造式[4]=0〜2モル比の範囲であり、構造式[7]/構造式[6]=0〜2モル比の範囲である請求項4又は5記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。
- ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)とサーモトロピック液晶樹脂(B)の合計100重量部に対するポリイソシアネート化合物(C)の含有量が0.01〜10重量部である、請求項1〜6のいずれか1項に記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。
- さらに強化材及び/又は充填材(D)を含んでなる請求項1記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。
- 請求項1〜8のいずれか1項に記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を成形してなる成形物品。
- 請求項9に記載の成形物品を、鉛フリーはんだを用いて表面実装方式にてはんだ付けすることを特徴とする配線基板への固定方法。
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