JP2008001785A - 漆系塗料、その製造方法及び漆塗装材 - Google Patents

漆系塗料、その製造方法及び漆塗装材 Download PDF

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Abstract

【課題】従来品よりも乾燥時間が短く、光沢度及び耐久性に優れた漆塗膜を与える漆系塗料を製造する方法を提供すること。また、インクジェット用漆インクの製造に適した漆系塗料を製造する方法を提供すること。
【解決手段】本発明の漆系塗料の製造方法は、生漆又は精製漆の油性成分に対して水分が5〜15重量%となるように調節する含水率調節工程を好ましくは経た後に、漆系塗料を媒体撹拌ミルを用いて、好ましくは20〜40℃において、微細化して油中水滴型エマルションに含まれる水滴の平均粒径を約100nmの大きさまで小さくする微細化工程、を含むことを特徴とする。
【選択図】図1

Description

本発明は、漆系塗料の製造方法、漆系塗料、インクジェット用漆インク及び漆系塗料の塗装方法に関する。
漆は、古くから利用されてきた植物由来の天然塗料である。漆の木から得られる樹液を利用した漆工芸品の製造は、まさに日本を代表する文化芸術であり、伝統工芸である。最近、生活様式の変化に伴い生活用品や家具・内装材の塗装は合成樹脂塗料が多用されている。その影響によるシックハウス症候群や有機溶媒によるVOC(揮発性有機化合物)やホルムアルデヒドが社会的な問題になっている。漆は天然塗料であり、ホルムアルデヒドを含まない塗料である。環境に優しい漆塗料の一層の性能向上と幅広い利用が望まれている。
漆は、ウルシ(Rhus verniciflua)の樹液から得られる油中水球型エマルションであり、ウルシオール(油成分)、多糖質(ゴム質)、含窒素物(糖蛋白)、ラッカーゼ酵素及び水で構成されている。漆は、ラッカーゼ酵素で酸化重合が進む特異な高分子塗料である。そのため漆液の乾燥硬化には高湿度環境が好ましく、ラッカーゼ酵素の作用でゆっくり酸化重合が進み、塗膜ができる。漆塗膜の特徴は、独特の光沢、美しさ、深み感、ふっくらした感じ、しっとりした質感と堅牢さにある。この漆の特性を有し、しかも自然乾燥する漆液を開発することは漆の用途や応用範囲を広げることになる。
生漆エマルションの水滴粒径は約10マイクロメータ(μm)であるが、「ナヤシ」によるかき混ぜて練る操作及び「クロメ」による加熱処理をして水分を低減した精製漆の平均水滴粒径は約1μmである。これを塗膜にして高湿度の漆室中に静置すると、水滴中に含まれるラッカーゼ酵素がウルシオールを酸化し、ウルシオールキノンの生成、ジベンゾフランの生成、キノン−オレフィン付加重合物の生成などが進行する。また、これらの反応による抗酸化力の減少により側鎖の不飽和結合の自動酸化反応も進行し、乾燥硬化した漆塗膜が得られる。ここで、側鎖の自動酸化反応は、実際には、ウルシオールオリゴマーやウルシオールポリマーの状態で進行する。得られた漆塗膜は粒子構造を有している。漆液の化学については、多くの報告があり、非特許文献1〜4の報告が含まれる。また、本発明者らは、漆系塗料及びその製造方法に関する研究開発を行いその内容は出願公開されている(特許文献1〜4)。
漆塗膜は数千年の保存に耐えることは周知の事実であるが、エマルションの分散粒径が比較的大きいために塗膜の光沢は低くなる。このために重合えの油やロジン変性重合アマニ油などを混合したり、乾燥塗膜表面の水研ぎ、胴刷りによる蝋色仕上げにより漆塗膜に光沢を付与することが行われている。
特開2002−177754号公報 特開2003−055558号公報 特開2003−306640号公報 特開2004−256696号公報 永瀬喜助、神谷幸男、木村徹、穂積賢吾、宮腰哲雄、日化、No.10, 587(2001) 永瀬喜助、神谷幸男、穂積賢吾、宮腰哲雄、日化、No.3, 377(2002) 永瀬喜助著、「漆の本」(研成社)昭和61(1986)年9月発行 宮腰哲雄、永瀬喜助、吉田孝編・著「漆化学の進歩」、(株式会社アイピーシー)平成12(2000)年5月発行
本発明が解決しようとする1つの課題は、従来品よりも乾燥時間が短く、光沢度及び耐久性に優れた漆塗膜を与える漆系塗料を製造する方法を提供することである。
本発明が解決しようとする他の1つの課題は、インクジェット用漆インクの製造に適した漆系塗料を製造する方法を提供することである。
上記の課題は、<1>、<9>、<11>又は<12>に記載の手段によって解決された。好ましい実施態様である<2>〜<8>、<10>及び<13>と共に以下に記載する。
<1>生漆又は精製漆を媒体撹拌ミルにより微細化する微細化工程を含むことを特徴とする漆系塗料の製造方法、
<2>20〜40℃において微細化する微細化工程である<1>記載の漆系塗料の製造方法、
<3>生漆又は精製漆の油性成分に対し水分が5〜15重量%となるように含水率を調節する水分調節工程の後に前記微細化工程を含む<1>又は<2>に記載の漆系塗料の製造方法、
<4>油中水滴型エマルションに含まれる水滴の粒径範囲を50〜150nmにする微細化工程である<1>〜<3>いずれか1つに記載の漆系塗料の製造方法、
<5>0.5kg以上の生漆又は精製漆を微細化する<1>〜<4>いずれか1つに記載の漆系塗料の製造方法、
<6>媒体として比重が4.5以上で直径が0.3〜0.8mmのビーズを使用する<1>〜<5>いずれか1つに記載の漆系塗料の製造方法、
<7>精製漆が無油透漆又は有油透漆である<1>〜<6>いずれか1つに記載の漆系塗料の製造方法、
<8>生漆又は精製漆に、重合アマニ油、重合アマニ油及びロジン、エチレングリコール、グリセリン並びに界面活性剤よりなる群から選ばれた添加剤を添加して微細化する、<1>〜<7>いずれか1つに記載の漆系塗料の製造方法、
<9><1>〜<8>いずれか1つに記載の製造方法により製造された漆系塗料、
<10>アルコキシシラン類、ウレタン樹脂及びエポキシ樹脂よりなる群から選ばれた添加剤を含む<9>に記載の漆系塗料、
<11><9>又は<10>に記載の漆系塗料を有機溶剤により希釈して得られるインクジェット用漆インク、
<12><11>に記載の漆インクを基材にインクジェット方法により吐出する印刷工程を含む漆系塗料の塗装方法、
<13>基材上に吐出された漆インクから有機溶剤を揮発させる乾燥工程、及び、漆インクの指触乾燥前に金属粉、金属箔、金属蒸着フィルム粉若しくは積層フィルム粉を蒔き付けるか又は金属箔を貼り付ける加飾工程を更に含む<12>に記載の漆系塗料の塗装方法。
本発明の漆系塗料の製造方法によれば、従来よりも乾燥硬化時間が短く、油中水滴型エマルションの水滴の直径が約100nm以下である漆系塗料を大きいスケールで提供することができた。本発明によれば、漆艶(深み感、肉持ち感、しっとり感)を向上させて、高機能、高意匠性及び高品位を発現させることのできる漆系塗料を提供できた。特に、本発明の漆系塗料は伝統的な漆塗装に用いる他に、新しい塗装方法にも使用でき、具体的にはインクジェットプリンター用インクに用いると、ノズルヘッドが目詰まりすることのない優れた吐出性能を発現した。
本発明の漆系塗料の製造方法は、生漆又は精製漆の油性成分に対して水分が5〜15重量%となるように調節する含水率調節工程を好ましくは経た後に、漆系塗料を媒体撹拌ミルを用いて、好ましくは20〜40℃において、微細化して油中水滴型エマルションに含まれる水滴の平均粒径を約100nmの大きさまで小さくする微細化工程、を含むことを特徴とする。
約100nmの大きさまで微細化された漆液をナノ漆液ともいう。また、ナノ漆液により得られた漆塗膜をナノ漆塗膜ともいう。
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の漆系塗料の製造に使用する原料の生漆液(生漆)としては、国産生漆液又は外国産生漆液を使用できる。外国産には、中国産、ベトナム産、及びミャンマー産等が含まれる。
生漆液は、通常20〜30重量%の水分を含み、その水滴サイズも大きく、ウルシオールの重合率も低い。
本発明の漆系塗料の製造に使用する原料の精製漆としては、「ナヤシ」処理を施した精製漆及びさらに「クロメ」処理を施した脱水精製漆(クロメ漆)が使用できる。クロメ漆は、ラッカーゼ酵素の活性を維持して、約3〜5重量%の水分を含んでいる。
脱水精製漆は、そのまま透漆(すきうるし)として使用することが好ましい。脱水精製した漆に、鉄粉又は水酸化鉄で黒く着色した後固形分を除いて、黒漆として使用することもできる。透漆又は黒漆のいずれもそのまま無油漆(「すぐろめ漆」ともいう。)として使用できる他に、又、アマニ油やえの油(重合えの油やロジン変性重合アマニ油を含む。)などの乾性油を加えた有油漆としても使用することができる。
本発明には、無油透漆又は、有油透漆を好ましく用いることができる。無油透漆には、梨地漆、木地蝋漆(きじろううるし)、箔下漆、中塗漆、艶消漆、及び釦漆(いつかけうるし)が含まれるが、箔下漆がより好ましく用いられる。有油透漆としては、春慶漆、朱合漆(しゅあいうるし)、中花漆、並花漆、塗立漆(ぬりたてうるし)、及び留漆が含まれる。
精製漆の含水率は、通常、漆液の油性成分に対して3〜5重量%であり、これに水分を加えて5〜15重量%、好ましくは8〜12重量%の含水率の精製漆液とした後に、微細化工程に付することが好ましい。含水率が上記の範囲であると、漆液が適度の粘度を有し、微細化が十分に進行する。
本発明の漆系塗料の製造方法において、微細化した漆系塗料の含水率を再度3〜8重量%に戻すことが好ましい。なお、後述のアルコキシシラン類等を併用する場合には、併用直前の含水率を更に少なくして、3〜5重量%とすることが好ましい。
本発明の製造方法により得られる漆系塗料は、油中水球型エマルションにおける水滴の粒子径を約100nmとすることにより漆液を構成する油成分であるウルシオールと、水溶性成分でありラッカーゼ酵素を含むゴム質との接触面積が広くなり、優れた性質、特性の塗膜が得られたと推定される。
生漆塗膜、すぐろめ漆塗膜の光沢度は、それぞれ68〜70%、72〜73%であるが、ナノ漆塗膜の光沢度は100%であった。それらに紫外線を16時間(2年分)照射した後の光沢度は、生漆塗膜で20%近くに、すぐろめ漆塗膜で50%前後に減少するが、ナノ漆塗膜は85%前後に留まり、極めて耐光性に富むことが分かった。
本発明では、漆塗料の工業的なスケールでの使用を目的とし、0.5kg以上、好ましくは1kg以上、より好ましくは1〜100kgのスケールで漆系塗料を微細化させる分散方法を種々検討した。
漆塗料の油中水滴型エマルションにおける水滴粒径を約100nm以下にすること、すなわち、水滴粒径の中央80個数%を約50〜約150nmに微細化することを目的とする。このためには、漆液を高剪断力下に分散することが必要である。「分散」には「撹拌」又は「混合」を含む。
前述の「微細化」とは、漆エマルションにおける水滴粒径を約50〜約150nmにすること、好ましくは、約50〜約100nmにすることを言う。ここで水滴粒径は、大きい粒径の粒子を個数で10%及び小さい粒径の粒子を個数で10%取り除いた粒子群が属する粒子範囲を意味する。漆液中の水滴粒径は、その乾燥塗膜の走査電子顕微鏡(SEM)観察により決定できる。走査電子顕微鏡観察は、10万倍、15万倍又は20万倍の倍率で行う。
本発明においてナノ漆液の製造のために使用することのできる分散機としては、分散媒体を使用する媒体撹拌ミルが好ましく使用できる。媒体撹拌ミルは、撹拌槽内に挿入した撹拌機構を介して分散媒体に高速回転運動を与え、主として分散媒体間に生じる摩擦、せん断作用によって微細化する分散機である。(社)化学工学会編、「改訂六版 化学工学便覧」(丸善、平成11年出版)の16・1・6粉砕機によれば、媒体撹拌ミルは、一般に4種類に分類され、(1)垂直円筒状の撹拌槽内に垂直に挿入されたスクリュー状の撹拌翼を回転させることにより媒体を循環運動させる塔式、(2)分散ピン等を装着した回転軸を回転させることにより媒体を撹拌する撹拌槽式、(3)長い円筒状の撹拌槽に分散媒体を流通させながら多数のディスクを装着した回転軸を回転させることにより媒体を撹拌する流通槽式、及び(4)二重円筒容器の間隙を粉砕室として内塔を回転させて粉砕室の媒体に強いせん断作用を加えて粉砕を行うアニュラー(環状)型、がある。
その他にもこれらの4分類の2つ以上を併用する方式があり、例えば、上記の(2)と(4)とを併用する分散機があり、本発明の製造方法において好ましく使用できる。この型の媒体撹拌ミルは、媒体を収納したバスケットを撹拌槽に没入し、撹拌翼機構を介して媒体に高速回転運動を与えると同時に、回転軸の周囲に設けられた、撹拌翼が接続された駆動粉砕室を有している。
媒体撹拌ミルは公知であり、具体例としては「リングミル」(商標)分散機BRG−100型〜BRG800型(荒木鉄工社製)が例示できる。図1にその概要を示す。
媒体撹拌ミルの一例として、リングミル分散機について以下説明する。リングミル分散機は、特開2000−350930号公報及び特開2004−255345号公報に開示されているように、配合物(漆液)を充填した撹拌槽内に、分散媒体が収納されたバスケットを没入し、このバスケット内で複数の分散ピンが突出された回転軸を回転して配合物を分散する分散機である。バスケットの側壁は図2に示すようにワイヤ及びワイヤ支持体で構成されており、分散媒体の流出を防ぎつつ微細化された被分散物を流出させることができる。バスケットの断面構造としては、図3及び図4に示す構造が例示できる。
図3に示すリングミル分散機において、前記分散ピンは、分散ピン支持体を介して前記回転軸に取り付けられており、前記分散ピン支持体は、前記回転軸が挿入されて回転軸の外周に固着される内筒部と、複数の分散ピンを前記回転軸と反対方向に突出して成る外筒部、及び前記内筒部と前記外筒部の前記回転軸方向間に分散媒体が通過可能な間隔を画定する連結部より成り、前記外筒部及び連結部又は前記外筒部又は連結部に、前記分散媒体が通過可能な開口を設けたことを特徴とする。具体的にはリングミル分散機RG−200(撹拌槽の容量85リットル)〜RG−800(撹拌槽の容量3,000リットル)を例示できる。
また、図4に示すリングミル分散機において、前記分散ピンに該当する撹拌翼が前記回転軸に取り付けられており、前記撹拌翼の外周に位置するバスケット内壁面にフィンが固着されている。この分散機は、前記駆動粉砕室を有していない。バスケット外部の底板には流動用羽根を取り付けることができバスケット下方の被分散物(漆液)を流動させることができる。具体的にはリングミル分散機RG−100(撹拌槽の容量8リットル)が例示できる。
前記の2種類のバスケットの構造は、漆液の量に応じて適宜選択できる。
リングミル分散機は、従来の撹拌層式媒体撹拌ミルと比較して多量の分散媒体をバスケット内に収容することができ、分散媒体をバスケット底部に沈降させることなく、活発な移動及び循環を維持できるため短時間で効率良く漆系塗料を微細化させることができる。
本発明の製造方法において、リングミル分散機を好ましい回転数である1,800〜1,200rpmで運転すると発熱するので、漆系塗料の液温を酵素が失活しない20〜40℃となるように撹拌槽を冷却することが好ましい。
冷却する方法は、撹拌槽の外側に二重円筒状に設けられた冷却部に冷媒を循環させても良く、撹拌槽を浸漬した外槽タンクの水温を冷媒循環コイルで冷却しても良い。リングミル分散機が、撹拌槽及びバスケット上部に形成されたロッド部に冷却水等の冷却媒体を循環することができる場合には、これを利用することができる。また、リングミル分散機の撹拌槽上部を開口にして、大気と接触が可能なようにして、空気を取り込んで分散させてもよい。この場合、漆の硬化反応が部分的に進行する。また、漆系塗料の含水率を調節することができる。
媒体撹拌ミルを使用して微粉体を粉砕する場合には、一般に、使用する媒体(ビーズ)の密度が大きいほど、ミル回転速度が速いほど、又ビーズ径が小さいほど粉砕速度が大きいとされている。
本発明において、漆液のエマルションを微細化する場合には、比重が4.5以上であり、直径が約0.3〜約0.8mmの分散媒体(ビーズ)を使用することが好ましく、約0.5mmの分散媒体がより好ましい。ミル回転数は、1,800〜1,200rpmであることが好ましい。
分散媒体は、従来公知のものを用いることができ限定されないが、鋼球(SWRM、SUJ2、SUS440)、セラミック(ハイアルミナ、ステアタイト、ジルコニア、炭化ケイ素、窒化ケイ素)、ガラス(一般ソーダガラス、無アルカリガラス、ハイビー)、超硬球(WC)、天然石(フリントSiO2)などを例示できる。
分散媒体の比重は、4.5以上が好ましく、4.5〜6.0がより好ましい。また、媒体のビッカーズ硬度は1,000〜2,000であることが好ましい。上記の数値範囲であると、媒体の摩耗や損傷がなく、繰り返し使用できる。比重が上記の範囲であると、媒体が撹拌状態で浮き上がることがなく、又効率良く漆液を微細化することができる。なかでも、直径が約0.5mmのジルコニア製ビーズを使用することが好ましい。ジルコニア製ビーズは適度な硬度を有する点でも優れている。ジルコニア(酸化ジルコニウム)は、比重は5.5〜5.6であり、ビッカーズ硬度は1250である。
本発明の漆系塗料には、公知の種々の添加剤を添加することができる。添加剤として、油溶性である乾性油、水溶性であるポリオール類、並びに界面活性剤及び高分子物質などの分散安定剤が挙げられる。
乾性油とは、ヨウ素価が130以上の脂肪油をいう。本発明に用いることができる乾性油は、従来公知のものが使用でき、特に限定されないが、例えばアマニ油、ケシ油、胡桃油、紅花油、ひまし油、えの油、きり油及び大豆油などが挙げられる(これらの中には、重合させたものも含む)。なかでも、アマニ油及び重合アマニ油(煮アマニ油)を好ましく用いることができる。
また、天然樹脂を用いて変性させた乾性油も添加剤として用いることができる。天然樹脂は、従来公知のものが使用でき、特に限定されないが、ロジンを好ましく用いることができる。(重合)乾性油と天然樹脂の混合比は添加剤全量に対し、(重合)乾性油が30〜70重量%であることが好ましく、40〜60重量%であることがより好ましい。乾性油と天然樹脂の組み合わせとして、(重合)アマニ油とロジンの組み合わせが好ましく例示できる。乾性油、並びに、変性させた乾性油の使用量は、漆系塗料全量に対し、10〜30重量%が好ましく、15〜25重量%がより好ましい。上記の数値の範囲内であると、効率的に微細化することができる。
本発明の製造方法において、ポリオールを添加剤とすることができる。
ポリオールとしては、従来公知のものが使用でき、特に限定されないが、エチレングリコール、プロパンジオール、グリセリン、ブタンジオール、ペンタンジオール及びグルシトールなどが挙げられる。なかでも、エチレングリコール、グリセリンを好ましく用いることができる。水溶性の添加剤の使用量は、生漆又は精製漆の油性成分に対し、1〜20重量%が好ましく、5〜15重量%がより好ましい。上記の数値の範囲内であると、効率的に微細化することができる。
分散安定剤に用いられる界面活性剤は、従来公知のものであり、特に限定されないが、親油性の界面活性剤を好ましく使用できる。親油性の界面活性剤は、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンステアリン酸アミド、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレントリデシルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、モノオレイン酸ポリエチレングリコール、ジオレイン酸ポリエチレングリコール、モノステアリン酸ポリエチレングリコール、ジステアリン酸ポリエチレングリコール、親油型モノステアリン酸グリセリン、テトラオレイン酸ポリオキシエチレンソルビット、モノラウリン酸ソルビタン、モノパルミチン酸ソルビタン、ジステアリン酸ソルビタン、モノオレイン酸ソルビタン、セスキオレイン酸ソルビタン、トリオレイン酸ソルビタン、モノラウリン酸ポリオキシエチレンソルビタン、モノパルミチン酸ポリオキシエチレンソルビタン、モノステアリン酸ポリオキシエチレンソルビタン、モノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン及びトリオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタンなどを例示できる。なかでもポリオキシエチレンステアリルエーテル(東邦化学株製ペグノールS−4D)及び親油性モノステアリン酸グリセリン(東邦化学(株)製ソルボンMg−100)を好ましく使用できる。以下、親油性の界面活性剤を逆ミセル系界面活性剤ともいう。
逆ミセル系界面活性剤の使用量は、漆液の油性成分に対し、0.1〜10重量%が好ましく、1〜5重量%がより好ましい。上記の数値範囲内であると、効率的に微細化することができる。
分散安定剤に用いられる高分子物質は従来公知のものであり、特に限定されないが極性高分子が望ましい。ここで「高分子」とは分子量が1万以上の化合物をいい、1万以上数十万以下が好ましい。極性高分子の極性基は、酸性基(カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基など)、塩基性基(第3級アミノ基、第4級アンモニウム基、塩基性窒素原子を有する複素環基など)及び中性基(ポリアルキレンオキシ基、エポキシ基など)を例示できる。以下、「分散安定剤に用いられる高分子物質」を「樹脂系界面活性剤」ともいう。
樹脂系界面活性剤の使用量は、漆液の油性成分に対し、0.1〜10重量%が好ましく、1〜5重量%がより好ましい。上記の数値範囲内であると、効率的に微細化することができる。
漆液の逆ミセル系は安定であるが、油溶性の添加剤や、水溶性の添加剤を加えると、逆ミセル系に構造変化が起こり、それと分散効果が加わり微細化の効率が向上したと考えられる。
油や樹脂成分を含有する箔下漆や朱合漆の場合は、含水率を5〜15重量%に調節して、同様に分散させることで効率よくナノ漆液を調製することができる。水分量の比較的多い生漆は強いせん断力とトルクをかけた分散で微粒化が進行する。このようにして調製したナノ漆液は粘度が低く、乾燥硬化が早く、その塗膜は高光沢度で、高い塗膜硬度を有し、耐光性及び耐水性に富んでいた。
また、本発明の漆系塗料には、硬化速度を調節する目的で、公知の種々の添加剤を添加することができる。
日本産漆の硬化速度を遅らせるためには、有機酸を加えることにより塗料のpHを酸性(pH=4〜5)にすることが好ましい。有機酸としては、酢酸、プロピオン酸、シュウ酸、クエン酸、酒石酸などが例示でき、クエン酸が好ましい。その添加量は、pH調節に必要十分な量である。ベトナム産の漆は、アルカリ性側で硬化速度が遅くなる逆の傾向を有する。
また、硬化速度を促進するためには、有機ケイ素化合物、特にアルコキシシラン類が有効である。このアルコキシシラン類を主成分とする硬化促進剤の一つは、本発明者らが開示したテトラアルコキシシラン及び/又はその縮合物を成分とする。この硬化促進剤は、特開2003−306640号公報に開示されている。本発明に好ましく使用できる硬化促進剤は、漆類のフェノール性水酸基を変性して、その硬化を促進させるためのものであり、下記式(1)で表わすことができる:
Figure 2008001785
(但し、式中、Rは互いに同じであっても異なっていてもよいアルキル基であり、nは1以上の整数である。)
具体的には、Rは、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基などの炭素数1〜12のアルキル基が好適に挙げられ、このうち炭素数1〜4のアルキル基が更に好ましく、メチル基が特に好ましい。このアルコキシシラン類としては、具体的には、オルトケイ酸アルキルエステル(n=1)、その加水分解縮合生成物(n=2〜10)、又はこれらの混合物が好ましく、オルトケイ酸メチルエステル及びその加水分解物が特に好ましい。このアルコキシシラン類は、単独で使用できるだけではなく、2種以上を混合して使用することができる。混合使用した場合、耐水性の向上や乾燥速度の調節も容易となる。
上記のアルコキシシラン類は市販品を入手することができる。市販のオルトケイ酸メチルエステルの加水分解生成物としては、シリコーンレジンメトキシオリゴマー2327(信越化学工業(株)製)が例示できる。
本発明に好ましく使用できる他の硬化促進剤としてのアルコキシシラン類は、漆類のフェノール性水酸基を変性して、その硬化を促進させるためのものであり、下記式(2)で表わす化合物及び/又はその縮合物である。
nSi(OR)m (2)
(式中、Xはアミノ基、アルキルアミノ基、アミノアルキル基、エポキシ基、アクリロキシ基、メタクリロキシ基及びビニル基からなる群から選ばれる基であり、Rはアルキル基であり、nとmはそれぞれ同じであっても異なっていてもよい1〜3の整数であり、かつ、nとmの合計は4である。)
上記のアルコキシシラン類は、特開2003−55558号公報に記載されており、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシランなどが例示できる。また、N,N−ビス[3−(トリメトキシシリル)プロピル]エチレンジアミンとN,N’−ビス[3−(トリメトキシシリル)プロピル]エチレンジアミン、3−グリシドキシメチルジエトキシシランなども好ましく例示できる。
アルコキシシラン類を配合すると、漆塗料の乾燥促進、塗膜の耐水性向上、及び紫外線照射に対する耐久性向上の硬化が得られる。
上記の硬化促進剤の配合量は、ナノ漆系塗料中の水や油を除く漆成分100gに対して、アルコキシシラン類1〜30gであることが好ましく、1〜10gであることがより好ましい。
上記の硬化促進剤と、微細化漆液とを混合させる際に、さらに撹拌装置を用いて混合、撹拌させてもよい。この操作により、さらに乾燥性が向上する。
また、本発明の漆系塗料には、硬化速度を調節する目的で、エポキシ樹脂及びウレタン樹脂を添加することができる。本発明に用いることができるエポキシ樹脂及びウレタン樹脂は従来公知のものを用いることができ限定されないが、具体的にはカシュー(株)製の二液ウレタン樹脂やアイレジン(株)製の二液系エポキシ樹脂等を例示できる。エポキシ樹脂及びウレタン樹脂の使用量は、ナノ漆系塗料中の水や油を除く漆成分100gに対して、1〜30gであることが好ましく、1〜20gであることがより好ましい。
本発明の漆系塗料は、種々の基材に塗布して塗膜を形成することができる。基材としては、木材、金属、ガラス、合成樹脂等特に限定されないが、ガラス、木材が好ましい。木材としては、天然材及び合板のいずれも使用できる。
塗布の方法は特に限定されず、従来行われている通常の方法が使用できる。高級木製品への漆塗りに本発明の漆系塗料を使用すると特にその効果が顕著である。これらの木製品としては、紫檀板、黒檀板、ケヤキ材、唐木、ヒノキ材等が例示できる。塗装品への応用の例としてわが国伝統の調度品、工芸品、美術品が含まれ、応用例には、各種の仏具も対象とすることができる。
板ガラスを基材とする上記の漆塗装材はステンドグラス用材料として使用することができる。その他ワイングラス等のガラス食器の装飾に本発明の漆系塗料を使用することができる。特に、金コロイドを含有し、オルトケイ酸メチルエステルの加水分解物を含む漆塗料は、美しいワインレッドの塗膜を生じ、ガラスとの密着性に優れるので、ガラス製食器等の着色に好ましく使用することができる。
本発明の漆系塗料は高級塗装の用途に使用することが好ましい。
本発明の漆系塗料は、漆塗膜特有の漆艶、深み感、肉持ち感、しっとり感を一層高めた高意匠性及び高品位性を発現した塗膜を与える。
また、本発明の漆系塗料は、インクジェットプリンタ用の漆インクの原料として用いることができる。従来の生漆液及び精製漆液のエマルションには、直径1〜数10μmの水溶性のゴム成分を含む水滴が分散しており、インクジェット用の漆インクとして使用した場合、直径5μm程度の微細口径からなるノズルヘッドに目詰まりするという問題があった。本発明の漆インクは、微細化漆液を有機溶剤により希釈して、その粘度を約10〜100mPa・secに調節したものである。この漆インクは、直径5μm程度の微細口径のノズルヘッドであっても、インクの目詰まりが生じない。
漆系塗料の希釈に用いることのできる有機溶剤は、従来公知のものであり、漆系塗料を希釈することができるものであれば限定されるものではないが、トルエンなどの芳香族系有機溶媒、リグロインなどの非芳香族系有機溶媒及びテレピン油などの植物油、などを好ましく用いることができる。また、アラビヤゴム、デキストリン、カルボキシメチルセルローズ等の水溶性糊剤などを添加剤として用いても良い。
本発明の漆インクの塗装方法は、塗装基材上に所望の形状に吐出した漆インクから溶剤を揮発させる乾燥工程及び漆インクの指触乾燥前に金属粉、金属箔、金属蒸着フィルム粉若しくは積層フィルム粉を蒔き付けるか又は金属箔を貼り付ける加飾工程を更に含むことを特徴とする。
蒔き付けに用いられる金属粉、金属箔若しくは金属蒸着フィルム粉は公知のものを用いることができ限定されないが、金粉、銀粉、金箔の他に光輝性顔料が代表的である。光輝性顔料としては、有機顔料、無機顔料、体質顔料、金属粉末などを用いることができる。また、光輝性顔料として、光沢塗料、めっき、金属蒸着及びフィルムのラミネート等により表面が着色・加飾された樹脂フィルム及び金属箔を細かく切断して得られる顔料を好ましく用いることができる。例えばホログラムフィルムをラミネートしたPETフィルムを細かく切断したホログラムフレーク(ホログラムサプライ(株)製)を好ましく例示できる。光輝性の顔料の形状は特に限定されるものではなく、粉末状、ビーズ状、鱗片型、短冊型、星型及び亀甲型など種々の形状のものを用いることができる。
塗装基材に貼り付ける金属箔は公知のものを用いることができ限定されないが、金箔、銀箔及び銅箔などを用いることができるが、金箔が好ましい。
塗装基材は、木材、金属、ガラス、合成樹脂等限定されるものではないが、本発明の漆系塗料を塗装したものが好ましく、黒ナノ漆を塗装したものがより好ましく、シランカップリング剤、エポキシ樹脂及びウレタン樹脂を添加した黒ナノ漆を塗装した基材がさらに好ましい。
本発明の漆インクを基材にインクジェット方法により吐出する印刷工程を含む漆系塗料の塗装方法及び加飾工程を含む塗装方法により、従来職人が手書きで行っていた文字などの印刷に限られず、パソコンに保存・編集されたデザイン、レイアウト、写真や絵画をあらゆる基材に印刷することが可能となる。黒漆の塗装を施した基材の上に、漆インクを使インクジェット方式で吐出した後、文字部分にを金粉で加飾した表札、黒漆塗装した平板に社寺仏閣のデザインを漆インクを使インクジェット方式で吐出した後、ホログラムフレークで加飾した美術品などが例示できる。
また、本発明の漆系塗料は、インクジェットインク以外の実施態様として、シルクスクリーン印刷用インキ、パッド印刷用インキ、デジタルオフセット印刷用インキ、紫外線硬化型印刷用インキなどの原料として使用できる。
以下に実施例により発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
以下の添加剤等の添加量は漆液に含まれる油性成分100重量%に対する値である。
(実施例1)
BRG−100型リングミル分散機(荒木鉄工社製)に、−10℃の冷媒を流して温度制御を行うことができる冷却装置を接続し、分散媒体としてジルコニア製ビーズ0.65mmφを用い、精製漆(中国城口産生漆から調製したもの)1.2kgを入れ、回転速度1,200〜1,800rpmで、撹拌槽内の漆液の温度を約40℃以下の温度に保ちながら分散を1時間行った。容器は大気と接触が可能なように開口し、空気を巻き込むようにして分散した。得られた漆塗料の乾燥硬化時間と光沢度を評価し、その結果を表1に示した。乾燥硬化条件は、20〜25℃/60〜65%RHとして各種の乾燥時間を評価した。乾燥時間は、息乾燥(DF:Dust−free dry)、指触乾燥(TF:Touch−free dry)及び硬化乾燥(HD:Hardened dry)により評価した。得られた漆塗膜の光沢度は、測定角度60°でスペクトロ−ガイド(BYK−Gardner社製)を用いて測定した。
(実施例2〜7)
実施例1と同様にリングミル分散機を使用して、精製漆に煮アマニ油(20重量%)、煮アマニ油とロジン(1:1を20重量%)、エチレングリコール(10重量%)、樹脂系界面活性剤(5重量%)、逆ミセル系界面活性剤(1重量%)あるいは水(5重量%)を添加した以外は、実施例1と同様に漆系塗料を得た。
(実施例8〜10)
精製漆を生漆、箔下漆及び朱合漆に変更した以外は実施例1と同様に漆系塗料を得た。
(比較例1)
原料を生漆に変更し、微細化工程を施さない以外は、実施例1と同様に漆系塗料を得た。
(表1)
リングミル分散装置で調製したナノ漆の乾燥性(h)と光沢度(60°)
漆の種類 添加物 添加量(重量%) DF(h) TD(h) HD(h) Gloss
実施例1 精製漆 − − 2:30 3:50 6:40 75
実施例2 精製漆 煮アマニ油 20 3:00 4:10 6:20 100
実施例3 精製漆 煮アマニ油 20 2:10 3:50 5:30 100
+ロジン(1:1)
実施例4 精製漆 EG 10 3:10 4:20 6:30 100
(エチレングリコール)
実施例5 精製漆 樹脂系 5 2:20 3:50 6:00 100
界面活性剤
実施例6 精製漆 逆ミセル系 1 2:30 4:30 6:40 90
界面活性剤
実施例7 精製漆 水 5 1:40 3:00 5:30 75
実施例8 生漆 − − 3:00 6:10 9:50 90
実施例9 箔下漆 − − 2:10 3:50 5:20 100
実施例10 朱合漆 − − 2:50 4:10 6:00 100
比較例1 生漆(blank)− − 3:50 9:40 23:30 62
(乾燥硬化条件:20〜25℃/60〜65%RH)
DF : Dust-free dry, TF : Touch-free dry, HD : Hardened dry
(実施例11)
ナノ生漆から黒ナノ漆の調製
BRG−100型リングミル分散機を用いて調製したナノ生漆10gにナフテン酸鉄溶液(日本化学産業(株)製ナフテックス鉄5%溶液)(5重量%)を添加して、混練り撹拌装置ニーダーミキサーを用いて混練り撹拌しながら水分を蒸発させて、水分量を3〜5重量%に調整して、黒ナノ漆液をつくった(A法)。乾燥硬化条件は、20〜25℃/60〜65%RHの下で、各種の乾燥時間を評価した。得られた漆塗膜の光沢度は、測定角度60°でスペクトロ−ガイド(BYK−Gardner社製)を用いて測定した。その性状を表2に示した。
(実施例12)
ナノ精製漆から黒ナノ漆の調製
BRG−100型リングミル分散機を用いて調製したナノ精製漆10gに、水(5重量%)及びナフテン酸鉄溶液(5重量%)を添加して、混練り撹拌装置ニーダーミキサーを用いて混練り撹拌しながら水分を蒸発させて、水分量を3〜5重量%に調整して、黒ナノ漆液を作製した(B法)。乾燥硬化条件は、20〜25℃/60〜65%RHの下で、各種の乾燥時間を評価した。得られた漆塗膜の光沢度は、測定角度60°でスペクトロ−ガイド(BYK−Gardner社製)を用いて測定した。その性状を表2に示した。その性状を表2に示した。
(表2)
黒ナノ漆の乾燥性(h)と光沢度(60°)
漆の種類 方法 DF(h) TD(h) HD(h) Gloss
実施例11 黒ナノ漆 A 3:10 4:20 6:30 96
実施例12 黒ナノ漆 B 3:30 4:30 7:00 95
比較例1 生漆(blank) 3:50 9:40 23:30 62
(乾燥硬化条件:20〜25℃/60〜65%RH)
DF : Dust-free dry, TF : Touch-free dry, HD : Hardened dry
(実施例13)
ウレタン変性ナノ漆
BRG−100型リングミル分散機を用いて調製したナノ精製漆70gに、ウレタン主剤(カシュー(株)製)(15重量%)及びウレタン硬化剤(カシュー(株)製)(15重量%)を添加して、混練り撹拌装置ニーダーミキサーを用いて混練り撹拌してウレタン変性ナノ漆液を作製した。乾燥硬化条件は、20〜25℃/60〜65%RHの下で、各種の乾燥時間を評価した。得られた漆塗膜の光沢度は、測定角度60°でスペクトロ−ガイド(BYK−Gardner社製)を用いて測定した。その性状を表3に示した。
(実施例14)
エポキシ変性ナノ漆
BRG−100型リングミル分散機を用いて調製した精製漆70gに、エポキシ主剤(アイレジン(株)製)(15重量%)及びエポキシ硬化剤(アイレジン(株)製)(15重量%)を添加して、混練り撹拌装置ニーダーミキサーを用いて混練り撹拌してエポキシ変性ナノ漆液をつくった。乾燥硬化条件は、20〜25℃/60〜65%RHの下で、各種の乾燥時間を評価した。得られた漆塗膜の光沢度は、測定角度60°でスペクトロ−ガイド(BYK−Gardner社製)を用いて測定した。その性状を表3に示した。
(表3)
合成樹脂変性ナノ漆の乾燥性(h)と光沢度(60°)
漆の種類 DF(h) TD(h) HD(h) Gloss
実施例13 ウレタン変性ナノ漆 1:20 3:20 5:20 90
実施例14 エポキシ変性ナノ漆 1:10 2:30 4:50 95
比較例1 生漆(blank) 3:50 9:40 23:30 62
(乾燥硬化条件:20〜25℃/60〜65%RH)
DF : Dust-free dry, TF : Touch-free dry, HD : Hardened dry
(実施例15)
ナノ漆のハイブリッド化
BRG−100型リングミル分散機を用いて調製したナノ精製漆60gに、N,N−ビス[3−(トリメトキシシリル)プロピル]エチレンジアミン及びN,N’−ビス[3−(トリメトキシシリル)プロピル]エチレンジアミンとの(15:35)混合物(2.5重量%)にさらに3−グリシドキシメチルジエトキシシラン(2.5重量%)を添加した混合溶液を5重量%加えて、混練り撹拌装置ニーダーミキサーを用いて混練り撹拌を30分行った(C法)。乾燥硬化条件は、20〜25℃/55〜60%RHの下で、各種の乾燥時間を評価した。得られた漆塗膜の光沢度は、測定角度60°でスペクトロ−ガイド(BYK−Gardner社製)を用いて測定した。その結果を表4に示した。
(実施例16)
BRG−100型リングミル分散機を用いて調製したナノ精製漆60gに、N,N−ビス[3−(トリメトキシシリル)プロピル]エチレンジアミンとN,N’−ビス[3−(トリメトキシシリル)プロピル]エチレンジアミンとの(15:35)混合物(2.5重量%)にさらにアミノ変性シリコーン(2.5重量%)を添加した混合溶液を5重量%加えて混練り撹拌装置ニーダーミキサーを用いて混練り撹拌を30分行った(D法)。乾燥硬化条件は、20〜25℃/55〜60%RHの下で、各種の乾燥時間を評価した。得られた漆塗膜の光沢度は、測定角度60°でスペクトロ−ガイド(BYK−Gardner社製)を用いて測定した。それらの結果を表4に示した。
(実施例17)
ナノ精製漆をナノ箔下漆に変更した以外は、実施例15と同様にして漆系塗料を得た。
(実施例18)
ナノ精製漆をナノ箔下漆に変更した以外は、実施例16と同様にして漆系塗料を得た。
(表4)
漆の種類*1 方法 DF(h) TD(h) HD(h) Gloss
実施例15 HBナノ精製漆 C 1:20 2:20 3:50 90
実施例16 HBナノ精製漆 D 1:20 2:40 4:10 85
実施例17 HBナノ箔下漆 C 1:20 2:10 2:40 99
実施例18 HBナノ箔下漆 D 1:40 2:30 2:50 98
生漆(blank)*1 ND
比較例1 生漆(blank)*2 3:50 9:40 23:30 62
(*1:乾燥硬化条件:20〜25℃/55〜60%RH)
(*2:乾燥硬化条件:20〜25℃/60〜65%RH)
DF : Dust-free dry, TF : Touch-free dry, HD : Hardened dry, ND : Non-drying
シランカップリング剤としてN,N−ビス[3−(トリメトキシシリル)プロピル]エチレンジアミンとN,N’−ビス[3−(トリメトキシシリル)プロピル]エチレンジアミンとアミノ変性シリコーンの組み合わせ使用した漆系塗料は乾燥が早く、得られた塗膜は、艶消し効果があり、耐水性が高い特徴が認められた。またN,N−ビス[3−(トリメトキシシリル)プロピル]エチレンジアミンとN,N’−ビス[3−(トリメトキシシリル)プロピル]エチレンジアミンと3−グリシドプロピルメチルジエトキシシランの組み合わせ使用した漆系塗料でも乾燥が早く、得られた塗膜は、艶有りの特徴があり、耐光性も高いことが分かった。
(実施例19)
微細化した漆系塗料をトルエンで希釈して、その粘度を室温で約20mPa・secとし、インクジェット用漆インクとした。
次に当該漆インクを株式会社マスターマインド社製の厚物・素材ダイレクトプリンタのインク容器に充填し、予めパソコンによってレイアウトしてあった名前を黒漆塗装したネームプレートにインクジェット方式で印字した。印字を施した表札を温度20〜25℃、湿度70〜80%RHに静置し、指触乾燥直前にまで乾燥した。印刷を施したネームプレートに金粉を蒔き付け、室温で2時間放置した。付着した金粉を拭き取ったところ、金文字の名前が形成された名札が完成した。
(実施例20)
微細化した漆系塗料をトルエンで希釈して、その粘度を室温で約20mPa・secとし、インクジェット用漆インクとした。
次に当該漆インクを株式会社マスターマインド社製の厚物・素材ダイレクトプリンタのインク容器に充填し、予めパソコンによってレイアウトしてあった仏像の絵画を、エポキシ変性黒ナノ漆を塗装し硬化乾燥させた木製プレート表面に印刷した。印刷を施した木製プレートを温度20〜25℃、湿度70〜80%RHに静置し、指触乾燥直前にまで乾燥した。印刷を施した木製プレートに厚み12μm、カットサイズ0.05mmのホログラムフレーク(ホログラムサプライ(株)製)を蒔き付け、室温で2時間放置した。付着したホログラムフレークを拭き取ったところ、虹色に輝く仏像の絵画が形成された。
媒体撹拌ミルの一例の概要を示す図である。 媒体撹拌ミルのバスケットの側壁を示す拡大図である。 媒体撹拌ミルのバスケットの一例の断面図である。 媒体撹拌ミルのバスケットの他の一例の断面図である。
符号の説明
10・・・リングミル分散機本体
11・・・回転軸
12・・・バスケット
13・・・撹拌槽
14・・・ロッド
20・・・バスケット側壁
21・・・ワイヤ
22・・・ワイヤ支持体
23・・・側壁
30・・・バスケット
31・・・分散媒体
32・・・分散ピン
33・・・分散ピン支持体
34・・・内筒部
35・・・外筒部
36・・・連結部
37・・・開口
40・・・バスケット
41・・・撹拌翼
42・・・フィン
43・・・流動用羽根

Claims (13)

  1. 生漆又は精製漆を媒体撹拌ミルにより微細化する微細化工程を含むことを特徴とする
    漆系塗料の製造方法。
  2. 20〜40℃において微細化する微細化工程である請求項1記載の漆系塗料の製造方法。
  3. 生漆又は精製漆の油性成分に対し水分が5〜15重量%となるように含水率を調節する水分調節工程の後に前記微細化工程を含む請求項1又は2に記載の漆系塗料の製造方法。
  4. 油中水滴型エマルションに含まれる水滴の粒径範囲を50〜150nmにする微細化工程である請求項1〜3いずれか1つに記載の漆系塗料の製造方法。
  5. 0.5kg以上の生漆又は精製漆を微細化する請求項1〜4いずれか1つに記載の漆系塗料の製造方法。
  6. 媒体として比重が4.5以上で直径が0.3〜0.8mmのビーズを使用する請求項1〜5いずれか1つに記載の漆系塗料の製造方法。
  7. 精製漆が無油透漆又は有油透漆である請求項1〜6いずれか1つに記載の漆系塗料の製造方法。
  8. 生漆又は精製漆に、重合アマニ油、重合アマニ油及びロジン、エチレングリコール、グリセリン並びに界面活性剤よりなる群から選ばれた添加剤を添加して微細化する、請求項1〜7いずれか1つに記載の漆系塗料の製造方法。
  9. 請求項1〜8いずれか1つに記載の製造方法により製造された漆系塗料。
  10. アルコキシシラン類、ウレタン樹脂及びエポキシ樹脂よりなる群から選ばれた添加剤を含む請求項9に記載の漆系塗料。
  11. 請求項9又は10に記載の漆系塗料を有機溶剤により希釈して得られるインクジェット用漆インク。
  12. 請求項11に記載の漆インクを基材にインクジェット方法により吐出する印刷工程を含む漆系塗料の塗装方法。
  13. 基材上に吐出された漆インクから有機溶剤を揮発させる乾燥工程、及び、
    漆インクの指触乾燥前に金属粉、金属箔、金属蒸着フィルム粉若しくは積層フィルム粉を蒔き付けるか又は金属箔を貼り付ける加飾工程を更に含む請求項12に記載の漆系塗料の塗装方法。
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