JP2007323988A - 燃料電池用金属セパレータ、燃料電池用金属セパレータの製造方法及び燃料電池 - Google Patents
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Abstract
【課題】貴金属膜が薄いにも拘わらず十分な耐食性を有し、製造容易な燃料電池用金属セパレータを提供する。
【解決手段】燃料電池用セパレータは、これを構成する金属材料板材が、大気中にて表面に不動態皮膜が形成される金属材料の板状の母材と、該母材の表面を覆い母材からの拡散金属成分を含有する貴金属被覆層とを有する。また、貴金属被覆層の表層側から貴金属濃度をオージェ電子分光分析法により深さ方向に分析したときに、貴金属被覆層は、図の右に示すように、貴金属濃度CNが85質量%以上99.8質量%の範囲内で深さ方向に一定となる主要部と、該主要部の貴金属濃度CAから母材のバルク貴金属濃度CBに向けて貴金属濃度CNを漸減させる貴金属濃度遷移部とが識別される。主要部は、拡散金属成分CFの含有量が0.2質量%以上15質量%以下であり、かつ厚さt1が1nmを超え100nm以下であって貴金属濃度遷移部の厚さt2よりも大きい。
【選択図】 図6
【解決手段】燃料電池用セパレータは、これを構成する金属材料板材が、大気中にて表面に不動態皮膜が形成される金属材料の板状の母材と、該母材の表面を覆い母材からの拡散金属成分を含有する貴金属被覆層とを有する。また、貴金属被覆層の表層側から貴金属濃度をオージェ電子分光分析法により深さ方向に分析したときに、貴金属被覆層は、図の右に示すように、貴金属濃度CNが85質量%以上99.8質量%の範囲内で深さ方向に一定となる主要部と、該主要部の貴金属濃度CAから母材のバルク貴金属濃度CBに向けて貴金属濃度CNを漸減させる貴金属濃度遷移部とが識別される。主要部は、拡散金属成分CFの含有量が0.2質量%以上15質量%以下であり、かつ厚さt1が1nmを超え100nm以下であって貴金属濃度遷移部の厚さt2よりも大きい。
【選択図】 図6
Description
本発明は、燃料電池用金属セパレータ、燃料電池用金属セパレータの製造方法及び燃料電池に関する。
従来、固体高分子形燃料電池、リン酸形燃料電池、溶融炭酸塩形燃料電池あるいは固体酸化物形燃料電池等、種々の燃料電池が提案されている。これらのうち固体高分子形燃料電池は高分子電解質膜を使用するものであり、低温動作が可能であり、小型化及び軽量化も容易なので、燃料電池自動車等への搭載用として検討されている。具体的には、プロトンを輸送するための高分子電解質膜を一対の電極層により挟んで単位電池を形成するとともに、該電極層の表面に燃料ガス(水素ガス)あるいは酸化剤ガス(空気)の流路層を形成するためのセパレータを積層配置する。該セパレータの板面には、電極層との間にガス流路層を形成する凹部が形成される。また、セパレータは、単位電池の電極層から出力を取り出す導電経路を兼ねるため、全体が導電性の材料で構成される必要がある。具体的には、加工性と導電性及び強度を両立させるために、セパレータを金属にて形成する燃料電池構造が種々提案されている(例えば特許文献1〜3)。
高分子電解質膜を用いる燃料電池においては、プロトン導電性を示す電解質として、スルホン酸基など強酸性を示す官能基を有した高分子材料が使用されており、高分子材料に含浸されている水分とともに酸性成分が染み出して、セパレータを酸アタックする問題がある。上記特許文献に例示された金属セパレータは、例えば特許文献1〜3に開示されたものは、SUS316等のステンレス鋼を用いるものであり、強酸性環境、特に硫酸酸性環境での耐食性が十分でなく、セパレータの腐食進行に伴い内部抵抗が経時的に増加しやすい問題がある。
上記特許文献1〜3では、ステンレス鋼製の板材にさらにAu等の貴金属メッキを施して、耐食性を補う工夫がなされているが、効果は必ずしも十分ではない。その理由としては、通常の貴金属メッキでは、貴金属膜と母材との密着力が低く、ピンホール等のメッキ欠陥も少なくないため、腐食による剥離等が生じやすくなっているものと考えられる。これを解決するために、貴金属メッキ層の層厚を増大させることも考えられるが、高価な貴金属の使用量が増えるのでコスト面を考慮すれば現実的でない。他方、母材と貴金属膜との密着性を向上させるために熱処理を行なうと、貴金属膜層の厚さが非常に小さいため、通常の材料では下地のバルクに瞬時に拡散してしまい、表層部に十分な貴金属膜が残留せず、効果が損なわれてしまう問題がある。
本発明の課題は、貴金属膜が薄いにも拘わらず十分な耐食性を有し、しかも製造が容易な燃料電池用金属セパレータとその製造方法、及びそれを用いた燃料電池を提供することにある。
上記の課題を解決するために本発明の燃料電池用金属セパレータは、金属板材からなり、燃料電池の高分子電解質膜を覆う電極層上に片側の板面を積層することにより、電極層との間にガス流路層を形成する凹部が板面に形成されてなり、かつ金属材料板材が、大気中にて表面に不動態皮膜が形成される金属材料にて構成された板状の母材と、該母材の表面を覆うとともに、母材からの拡散金属成分を含有する貴金属被覆層とを有する。また、貴金属被覆層の表層側から貴金属濃度をオージェ電子分光分析法により深さ方向に分析したときに、貴金属被覆層は、図6右に示すように、貴金属濃度CNが85質量%以上99.8質量%の範囲内で深さ方向に一定となる主要部と、該主要部の貴金属濃度CAから母材のバルク貴金属濃度CBに向けて貴金属濃度CNを漸減させる貴金属濃度遷移部とが識別される。主要部は、拡散金属成分CFの含有量が0.2質量%以上15質量%以下であり、かつ厚さt1が1nmを超え100nm以下であって貴金属濃度遷移部の厚さt2よりも大きいことを特徴とする。なお、図中、CNは貴金属濃度、CMは母材金属成分濃度をそれぞれ示す。
また、本発明の燃料電池は、高分子電解質膜と、その第一主表面を覆う第一電極層と、同じく第二主表面を覆う第二電極層と、請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の燃料電池用金属セパレータとして構成され、第一電極層上に積層されるとともに、凹部により燃料ガス用のガス流路層を形成する第一セパレータと、本発明の燃料電池用金属セパレータとして構成され、第二電極層上に積層されるとともに、凹部により酸化剤ガス用のガス流路層を形成する第二セパレータと、を有することを特徴とする。
さらに、本発明の燃料電池用金属セパレータの製造方法は、上記本発明の燃料電池用金属セパレータの製造方法であって、母材となる金属板材の表面に2nm以上100nm以下の厚さで、貴金属含有量が90質量%以上(望ましくは95質量%以上)の貴金属メッキ層を形成する貴金属メッキ層形成工程と、貴金属メッキ層を形成後の母材に対し、真空中又は不活性ガス雰囲気中で100℃以上600℃以下の温度にて5分以内の熱処理を行なう熱処理工程とをこの順序で実施することにより、貴金属メッキ層を主要部と貴金属濃度遷移部とを有する貴金属被覆部となすことを特徴とする。
上記本発明の、燃料電池用の金属セパレータの製造方法においては、大気中にて表面に不動態皮膜が形成される金属材料からなる板状の母材の表面に、1nm以上100nm以下の薄膜にて貴金属メッキ層を形成する。不動態皮膜が形成される母材と貴金属メッキ層との密着性は元来良好ではないが、本発明では、これに、100℃以上600℃以下という低温で5分以内の短時間にて、真空中又は不活性ガス雰囲気中での熱処理を施す。このような低温短時間の特殊な熱処理を施すことにより、貴金属メッキ層は、貴金属含有量を85質量%以上に維持した貴金属被覆層として、これを十分な厚さで残留させることができ、しかも母材との間の金属成分も貴金属被覆層側の一様に拡散して、密着力が飛躍的に高められる。
本発明の燃料電池用金属セパレータは、上記の製法の結果物としてはじめて実現可能となったものであり、貴金属被覆層の表層側から貴金属濃度をオージェ電子分光分析法により深さ方向に分析したときに、貴金属被覆層は、貴金属濃度が85質量%以上99.8質量%の範囲内で深さ方向に一定となる主要部と、該主要部の貴金属濃度から母材のバルク貴金属濃度率に向けて貴金属濃度を漸減させる貴金属濃度遷移部とが明確に識別される。そして、主要部は、拡散金属成分の含有量が0.2質量%以上15質量%以下であって貴金属含有率が85質量%以上99.8質量%以下であり、かつ該主要部の厚さが1nm以上100nm以下であって貴金属濃度遷移部の厚さよりも大きいものとなる。
主要部の貴金属濃度が85質量%未満では硫酸酸性下での耐食性を十分に確保することができなくなり、貴金属濃度が99.8質量%を超えると、大量の貴金属メッキが必要となる。主要部の貴金属濃度は、望ましくは95質量%以上99.5質量%以下であるのがよい。また、主要部の拡散金属成分の含有量は、同様の理由により、0.2質量%以上15質量%以下となっている必要があり、望ましくは0.5質量%以上5質量%以下であるのがよい。
また、主要部の厚さが1nm未満では硫酸酸性下での耐食性を十分に確保することができなくなり、100nmを超えると貴金属被膜の形成コストが高騰する問題を生ずる。主要部の厚さは、望ましくは3nm以上20nm以下、さらに望ましくは5nm以上10nm以下とするのがよい。
本発明の製造方法における前記熱処理の温度が高すぎたり、熱処理時間が長すぎたりした場合、図7に示すように、母材と貴金属メッキ層との間の成分拡散が過度に生じる結果、貴金属被覆層の主要部の厚さが、該主要部の貴金属濃度から母材のバルク貴金属濃度率に向けて貴金属濃度を漸減させる貴金属濃度遷移部の厚さよりも小さくなってしまう(図7では、主要部が成分拡散によりほぼ消失している)。その結果、得られる貴金属被覆層中の貴金属濃度が十分(具体的には、85質量%以上)確保できないか、あるいは貴金属濃度が十分となっている部分の厚さが十分(具体的には1nm以上)確保できなくなってしまうことにつながる。換言すれば、主要部の厚さが貴金属濃度遷移部の厚さよりも大きくなるように熱処理の条件を調整することによって、貴金属被覆層による硫酸酸性下での耐食性付与効果を十分に発揮させることが可能となるのである。
貴金属メッキ層を形成後の母材に対する熱処理の温度が100℃未満になると、得られる貴金属被覆部の密着性が著しく損なわれる。他方、熱処理温度が600℃を超えると、母材から貴金属メッキ層への成分拡散が著しくなり、得られる金属被覆層において、主要部の貴金属濃度を85質量%以上に維持すること、及び主要部の厚さを貴金属濃度遷移部の厚さよりも大きく維持すること、のいずれも不能となり、耐食性が著しく損なわれることにつながる。熱処理の温度は300℃以上500℃以下に設定するのがよい。熱処理の時間が5分を超えると、母材から貴金属メッキ層への成分拡散が著しくなり、得られる貴金属被覆層において、主要部の貴金属濃度を85質量%以上に維持すること、及び主要部の厚さを貴金属濃度遷移部の厚さよりも大きく維持すること、のいずれも不能となり、耐食性が著しく損なわれることにつながる。なお、熱処理時間の下限値は、熱処理の設定温度によっても異なるが、少なくとも10秒以上(望ましくは20秒以上)に設定するのがよい。
熱処理の方法としては、上記温度域での保持時間が過剰とならないように、例えば加熱処理後の急冷が可能な連続炉や、あるいは、貴金属メッキ層側を赤外線加熱源により急速加熱するイメージ炉あるいはハロゲンランプ加熱炉を用いる方法が望ましい。また、本発明の製造方法によれば、不動態皮膜上の貴金属被覆層の密着力を大幅に高めることが可能である。従って、貴金属メッキ層の形成方法は、スパッタリング(グロー放電スパッタリング又は高周波スパッタリング)や真空蒸着などの気相成膜法を採用することも可能であるし、不動態皮膜の形成がより促進される化学メッキ法(電解メッキあるいは無電解メッキ)により貴金属メッキ層を形成することも十分可能である。後者の場合、貴金属メッキ層の形成工程をより簡便かつ安価に実施することができる。
次に、図5に示すように、貴金属被覆層において貴金属濃度遷移部の厚さtTは、母材と貴金属メッキ層との間の成分拡散に由来した拡散層tDの厚さを含むものであり、該拡散層の厚さtD0.5nm以上5nm以下であるのがよい。拡散層の厚さtDが0.5nm未満では貴金属被覆層と母材との密着力が十分に確保できない場合があり、5nmを超えると、本体部の貴金属濃度が不足して硫酸酸性下での耐食性を十分に確保できなくなる場合がある。拡散層の厚さtDは、望ましくは1nm以上3nm以下とするのがよい。
貴金属メッキ層を形成する母材表面の平滑性確保には一定の限界があり、形成する貴金属メッキ層の厚さが100nm以下になると、得られる貴金属被覆層の厚さに対して、母材の表面粗さレベルを無視することができなくなる。この場合、貴金属被覆層を、表面側からスパッタリングにより深さ方向にエッチングしつつ、オージェ電子分光分析法により貴金属濃度を測定した場合、図5の示すように、表面粗さ影響を受ける母材表層近傍では、貴金属が主体となる領域と母材が主体となる領域とがまだらに混在した形で分析され、その区間で貴金属濃度が母材内部に向けて漸減することが考えられる。貴金属濃度遷移部の厚さtTは、上記拡散層の厚さtDと、母材表面粗さの影響を受ける分析上の遷移領域との厚さtRとが合算されたものとして表れる。セパレータとしてのシール性を考慮すれば、母材表面の粗さは、原子間力顕微鏡による1μm×lμm測定面積における面粗さのRMS(二乗平均平方根:Root Mean Square)表示で、100nm以下となっていることが望ましい。これらのことを考慮して、貴金属濃度遷移部の望ましい厚さは、例えば1nm以上10nm以下に設定するのがよい。
上記のことからも明らかなように、図6左に示すように、貴金属メッキ層を形成後において熱処理を施す前であっても、貴金属濃度遷移部は、分析上の遷移領域に対応した厚さで存在している。そして、熱処理を施せば、貴金属濃度遷移部にはさらに拡散層の厚みが加わる。本発明においては、図6右に示すように、熱処理による拡散層の形成は必須であるが、貴金属濃度遷移部の厚さと主要部の厚さとの大小関係に反転が生じないように、その形成厚さを制限する点が重要であり、これを実現可能とするのが、本発明の製造方法に定めた熱処理条件であるといえる。
また、本発明の燃料電池用金属セパレータの製造方法においては、貴金属メッキ層形成工程にて、母材となる金属板材の表面に2nmを超え101nm以下の厚さで貴金属含有量が86質量%以上(100質量%を含む)の貴金属メッキ層を形成する。形成する貴金属メッキ層の厚さが2nm未満では、得られる貴金属被覆層の主要部の厚さを1nm以上に確保することができない。また、貴金属メッキ層の厚さが100nmを超えることはコストアップにつながる。貴金属メッキ層の厚さは、望ましくは4nm以上25nm以下、さらに望ましくは6nm以上15nm以下とするのがよい。
他方、貴金属メッキ層の貴金属含有量が86質量%未満になると、得られる貴金属被覆層の主要部の貴金属濃度を85質量%以上に確保することが困難となり、耐食性確保が難しくなる。貴金属メッキ層の貴金属の含有量は、望ましくは91質量%以上、より望ましくは96質量%以上であるのがよい。
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。
図1は、本発明の燃料電池の一例を積層形態にて模式的に説明するものである。該燃料電池1は、高分子電解質膜3を採用した固体高分子形燃料電池である。具体的に、高分子電解質膜3を挟む形で一対のガス拡散層を含む電極層2,4を有し、該高分子電解質膜3と電極2,4とによりなる単位電池本体5を有する。具体的には、高分子電解質膜3の第一主表面3aを覆う第一電極層2と、同じく第二主表面3bを覆う第二電極層4と、本発明の燃料電池用金属セパレータとして構成され、第一電極層2上に積層されるとともに、凹部21により燃料ガス用のガス流路を形成する第一セパレータ10aと、本発明の燃料電池用金属セパレータとして構成され、第二電極層4上に積層されるとともに、凹部21により酸化剤ガス用のガス流路を形成する第二セパレータ10bとを有する。なお、単位電池本体5とセパレータ10との間に、燃料ガス及び酸化剤ガスのリークを防止するために、ガスケットが配置されるが、図1では省略している。
図1は、本発明の燃料電池の一例を積層形態にて模式的に説明するものである。該燃料電池1は、高分子電解質膜3を採用した固体高分子形燃料電池である。具体的に、高分子電解質膜3を挟む形で一対のガス拡散層を含む電極層2,4を有し、該高分子電解質膜3と電極2,4とによりなる単位電池本体5を有する。具体的には、高分子電解質膜3の第一主表面3aを覆う第一電極層2と、同じく第二主表面3bを覆う第二電極層4と、本発明の燃料電池用金属セパレータとして構成され、第一電極層2上に積層されるとともに、凹部21により燃料ガス用のガス流路を形成する第一セパレータ10aと、本発明の燃料電池用金属セパレータとして構成され、第二電極層4上に積層されるとともに、凹部21により酸化剤ガス用のガス流路を形成する第二セパレータ10bとを有する。なお、単位電池本体5とセパレータ10との間に、燃料ガス及び酸化剤ガスのリークを防止するために、ガスケットが配置されるが、図1では省略している。
高分子電解質膜3は、プロトン導電性を高めるために、スルホン酸基を有する高分子材料により構成することができる。特に、高分子電解質膜自体の導電性と耐久性を向上させる観点から、スルホン酸基を有するフッ素樹脂を採用することが望ましい。この場合、スルホン酸基の由来した硫酸酸性成分が水分とともに溶出しやすくなるが、前述の組成の金属材料は、硫酸酸性雰囲気下での耐食性が非常に良好であり、金属セパレータに適用した場合に、腐食による内部抵抗の経時的増加も十分に抑制され、長期にわたって良好な発電能力を維持できるので、例えば自動車用電源としても好適に採用可能である。なお、スルホン酸基を有する高分子材料としては、市販品であればNAFION(商標名)を代表的なものとして例示でき、また、特開2002−313355号、特開平10−40737号あるいは特開平9−102322号に開示されたものも使用できる。
図2A及び図2Bは、セパレータ10a,10bの概略を示すものである。図2Aに示すように、セパレータ10a,10bは板状に形成され、その主表面に、凸凹が形成されており、凸部14の先端側が電極に接触する形態となっている。他方、凹部21は電極層2,4(図1)との間にガス流路を形成する。本実施形態では、凹部21は、凸部14に挟まれた蛇行溝形態で二形成され、その両端がガス入口22及びガス出口23とされる。
図1に戻り、単位電池本体5とセパレータ10とを単位セルUとして、この単位セルUが、カーボン等の導電体からなる冷却水流通基板11を介して、複数積層されて燃料電池スタック1とされる。単位セルUは例えば50〜400個程度積層され、その積層体の両端に、単位セルUと接触する側から、導電性シート9、集電板8、絶縁シート7及び締め付け板6がそれぞれ配置されて、燃料電池スタック1とされる。集電板8と複数のセパレータ10とは直列に接続され、複数の単位電池本体5からの電流が集められることになる。
図2Bに示すように、セパレータ10a,10bは金属板材からなり、該金属板材は、大気中にて表面に不動態皮膜が形成される金属材料にて構成された板状の母材10Mと、該母材10Mの表面を覆うとともに、母材からの拡散金属成分を含有する貴金属被覆層10Gとを有するものである。また、図6右に示すように、貴金属被覆層10Gの表層側から貴金属濃度をオージェ電子分光分析法により深さ方向に分析したときに、貴金属被覆層10Gは、貴金属濃度CNが85質量%以上99.8質量%の範囲内で深さ方向に一定となる主要部と、該主要部の貴金属濃度CAから母材のバルク貴金属濃度CBに向けて貴金属濃度CNを漸減させる貴金属濃度遷移部とが識別される。主要部は、拡散金属成分CFの含有量が0.2質量%以上15質量%以下であり、かつ厚さt1が1nmを超え100nm以下であって貴金属濃度遷移部の厚さt2よりも大きい。
貴金属被覆層10Gの主成分(最も質量含有率の高い成分)となる貴金属は、例えばAu、Ag、Pt、Pd、Ru及びRhの1種又は2種以上にて構成される。このうち、Au、Ptはいずれも導電性と耐食性の双方に優れ、かつ、メッキ(特に、電解メッキあるいは無電解メッキなどの化学メッキ法)による被覆形成も容易である。特に、Auは耐食性に優れているので好適に採用できる。なお、貴金属被覆層は、最終的に得られる貴金属被覆層の耐食性が過度に損なわれない範囲にて、種々の不純物成分あるいは希釈成分(例えば、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、W、Re、Os、Ir、Pb)などが、10質量%を上限として含有されていてもよい。
他方、母材をなす金属材料は、大気中にて不動態皮膜を形成する金属材料であれば限定されないが、価格及び板材への加工の容易性を考慮して、フェライト系ステンレス鋼(SUS430等)、オーステナイト系ステンレス鋼(SUS304、SUS310、SUS316等)、Ni基耐熱合金(Inconel600、625等)、Ni−Fe基耐熱合金Incoloy800、825等)、及び純Ti又はTi合金(Ti-4Al-6V等)のいずれかで構成される。電極層2,4との間にガス流路層を形成する凹部21は、上記金属板材の板厚方向の屈曲に基づいて形成されたものである。板材の板厚は0.02mm以上0.2mm以下である。
母材の板面は、貴金属被覆層によって全面が覆われていてもよいし、被覆面積率が20%以上確保されている状態であれば、部分的(例えば散点状)に覆われている形態を採用することも可能である。不動態皮膜が形成される素材により母材を構成することで、母材の表面が一部露出する形になっていても、十分な耐食性を確保することができる。これは、貴金属被覆層と母材バルクとの腐食電位差により局部電池が形成され、それによる腐食電流が母材表面の不動態化を促進するためであると考えられる。
以下、セパレータ10a(10b)の製造方法について説明する。
まず、図3Aに示すように、圧延等により製造された母材10Mの板材に、貴金属メッキ層として、例えばAuメッキ層メッキを、厚さ2nm以上100nm以下(望ましくは4nm以上20nm以下、さらに望ましくは5nm以上10nm以下)となるように、スパッタリング、真空蒸着、電解メッキ、あるいは無電解メッキにより形成する。そして、上記母材10M及びAuメッキ層10G’からなる板材に対し、Auメッキ層10Gの側から、赤外線ランプを熱源とするイメージ炉64により、到達目標温度100℃以上600℃以下(望ましくは300℃以上500℃以下)、加熱時間(つまり、赤外線ランプへのパワー供給時間)を5分以下(例えば1分以上3分以下)に設定して熱処理を行なう。なお、図3Bに示すように、上記の板材45を連続炉50により加熱し、加熱後の板材を冷却装置47(個々では、水等の冷媒を噴霧するシャワー式冷却装置を例示しているが、これに限られるものではない)により急冷するようにしてもよい。この場合の加熱時間は、連続炉50の加熱ゾーンの長さと、板材45の搬送速度によって決定される。この熱処理により、前述のごとくAuメッキ層10Gには母材金属成分が拡散し、主要部(母材からの拡散金属成分の濃度が1質量%以上15質量%以下)と貴金属濃度遷移部とからなるAu被覆層となる。
まず、図3Aに示すように、圧延等により製造された母材10Mの板材に、貴金属メッキ層として、例えばAuメッキ層メッキを、厚さ2nm以上100nm以下(望ましくは4nm以上20nm以下、さらに望ましくは5nm以上10nm以下)となるように、スパッタリング、真空蒸着、電解メッキ、あるいは無電解メッキにより形成する。そして、上記母材10M及びAuメッキ層10G’からなる板材に対し、Auメッキ層10Gの側から、赤外線ランプを熱源とするイメージ炉64により、到達目標温度100℃以上600℃以下(望ましくは300℃以上500℃以下)、加熱時間(つまり、赤外線ランプへのパワー供給時間)を5分以下(例えば1分以上3分以下)に設定して熱処理を行なう。なお、図3Bに示すように、上記の板材45を連続炉50により加熱し、加熱後の板材を冷却装置47(個々では、水等の冷媒を噴霧するシャワー式冷却装置を例示しているが、これに限られるものではない)により急冷するようにしてもよい。この場合の加熱時間は、連続炉50の加熱ゾーンの長さと、板材45の搬送速度によって決定される。この熱処理により、前述のごとくAuメッキ層10Gには母材金属成分が拡散し、主要部(母材からの拡散金属成分の濃度が1質量%以上15質量%以下)と貴金属濃度遷移部とからなるAu被覆層となる。
Auメッキ層は薄いため少なからぬ膜欠陥(クラック又はピンホール)が存在し、熱処理が終了した後も該膜欠陥は残留しつづける。そこで、熱処理が終了した後、このクラック又はピンホールからなる膜欠陥に露出している母材表面の不動態皮膜を強化するための酸処理を行なう。該酸処理は、上記板材を、例えば硝酸(濃度20%以上63%以下)や硝酸と硫酸との混酸(硝酸濃度:20%以上50%以下、硫酸の濃度1%以上10%以下)に浸漬することにより実施できる。
酸処理の終了した板材45は、カッター等で切断された後、図5に示すように、プレス用金型51,51を有したプレス装置へ移送して、前述の凹凸を形成するためのプレス加工を行ない、最終的なセパレータ10が得られる。プレス加工は冷間加工によって実施される。
(1)貴金属メッキ層の形成→熱処理→酸処理→プレス加工
の順で実施したが、プレス加工の実施順序はこれに限られるものではなく、
(2)貴金属メッキ層の形成→プレス加工→熱処理→酸処理
(3)貴金属メッキ層の形成→熱処理→プレス加工→酸処理
(4)プレス加工→貴金属メッキ層の形成→熱処理→酸処理
のような実施順も可能である。ただし、プレス加工時の貴金属メッキ層の剥離を生じにくくする観点から、(1)、(3)の工程実施順が推奨される。
(1)貴金属メッキ層の形成→熱処理→酸処理→プレス加工
の順で実施したが、プレス加工の実施順序はこれに限られるものではなく、
(2)貴金属メッキ層の形成→プレス加工→熱処理→酸処理
(3)貴金属メッキ層の形成→熱処理→プレス加工→酸処理
(4)プレス加工→貴金属メッキ層の形成→熱処理→酸処理
のような実施順も可能である。ただし、プレス加工時の貴金属メッキ層の剥離を生じにくくする観点から、(1)、(3)の工程実施順が推奨される。
なお、図2Bでは、貴金属被覆層(貴金属被覆層)10Gをセパレータの両面に形成しているが、図1において、高分子電解質膜3と接しない側の貴金属被覆層を省略することも可能である。
本発明の効果を確認するために、以下の実験を行った。まず、表1に示すごとく、ステンレス鋼(SUS316L、SUS304)あるいはNi−Fe基耐熱合金(Incoloy825)種々の母材(厚さ0.1mm、幅200mm、長さ300mmの薄板材)を用意した。母材の表面には、高周波スパッタリングによりAuメッキ層を種々の厚さにて形成し、図3Bに示すイメージ炉により100℃〜700℃の種々の温度で1分熱処理した(比較のため、熱処理を施さない試験品も作製した)。この母材を200mm角に切断し、冷間プレス加工により図2の形状の凹凸を形成し、セパレータの試験品を得た。また、一部の試験品については、硝酸(濃度30%、温度60℃)に30分浸漬した後水洗・乾燥することにより、酸処理(不動態化処理)を実施した。
上記のようにして得られたセパレータにつき、Au被覆層の側から深さ方向にエッチングしつつオージェ電子分光分析を行ない、Auと母材成分(Fe、Cr、Ni等)の深さ方向の濃度分布を測定するとともに、その測定プロファイルから、Au被覆層の主要部の厚さt1と、濃度遷移部の厚さt2とを測定し、さらに主要部中の母材からの拡散成分濃度を測定した。また、耐食性は、セパレータを1mass%硫酸水溶液600ml中に入れ、沸騰状態で1週間保持し、腐食液中に溶出した金属イオン量をICPプラズマ発光分光分析を用いて分析した。以上の結果を表1に示す。
実施例品については、いずれも良好な耐食性が実現していることがわかる。図8は、それぞれ実施例5,6及び比較例2に係る試験品の、オージェ電子分光分析法による各成分の深さ方向分析プロファイルである。熱処理温度が600℃を超えた比較例2の試験品では、主要部の厚さt1と濃度遷移部t2との大小関係が実施例とは反転していることがわかる。また、実施例5,6はAu被覆層の外観が黄金色を維持していたが、比較例2は黄金色が喪失し、母材と同じ色をしていた。
1 燃料電池
2 第一電極層
3 高分子電解質膜
4 第二電極層
10a 第一セパレータ
10b 第二セパレータ
10G’Auメッキ層(貴金属メッキ層)
10G Au被覆層(貴金属被覆層)
2 第一電極層
3 高分子電解質膜
4 第二電極層
10a 第一セパレータ
10b 第二セパレータ
10G’Auメッキ層(貴金属メッキ層)
10G Au被覆層(貴金属被覆層)
Claims (8)
- 金属板材からなり、燃料電池の高分子電解質膜を覆う電極層上に片側の板面を積層することにより、前記電極層との間にガス流路を形成する凹部が板面に形成されてなり、かつ前記金属材料板材が、大気中にて表面に不動態皮膜が形成される金属材料にて構成された板状の母材と、該母材の表面を覆うとともに、前記母材からの拡散金属成分を含有する貴金属被覆層とを有し、
前記貴金属被覆層の表層側から貴金属濃度をオージェ電子分光分析法により深さ方向に分析したときに、前記貴金属被覆層は、貴金属濃度が85質量%以上99.8質量%の範囲内で深さ方向に一定となる主要部と、該主要部の貴金属濃度から前記母材のバルク貴金属濃度率に向けて貴金属濃度を漸減させる貴金属濃度遷移部とが識別されるとともに、
前記主要部は、前記拡散金属成分の含有量が0.2質量%以上15質量%以下であり、かつ厚さが1nmを超え100nm以下であって前記貴金属濃度遷移部の厚さよりも大きいことを特徴とする燃料電池用金属セパレータ。 - 前記貴金属がAuである請求項1記載の燃料電池用金属セパレータ。
- 前記母材をなす金属材料が、フェライト系ステンレス鋼、オーステナイト系ステンレス鋼、Ni基又はFe基耐熱合金、Ti又はTi合金からなる請求項1又は請求項2に記載の燃料電池用金属セパレータ。
- 請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の燃料電池用金属セパレータの製造方法であって、
前記母材となる金属板材の表面に2nmを超え100nm以下の厚さで、貴金属含有量が86質量%以上の貴金属メッキ層を形成する貴金属メッキ層形成工程と、前記貴金属メッキ層を形成後の前記母材に対し、真空中又は不活性ガス雰囲気中で100℃以上600℃以下の温度にて5分以内の熱処理を行なう熱処理工程とをこの順序で実施することにより、前記貴金属メッキ層を前記主要部と前記貴金属濃度遷移部とを有する前記貴金属被覆部となすことを特徴とする燃料電池用金属セパレータの製造方法。 - 前記貴金属メッキ層形成工程において、前記貴金属メッキ層をスパッタ又は電気メッキにて形成する請求項4記載の燃料電池用金属セパレータの製造方法。
- 前記貴金属被覆部はクラック又はピンホールよりなる膜欠陥を有するものであり、前記熱処理工程の後、該膜欠陥に露出する前記主要部の表面の不動態皮膜を強化する酸処理工程を実施する請求項4記載の燃料電池用金属セパレータの製造方法。
- 前記酸処理において硝酸を含有する酸を使用する請求項5記載の燃料電池用金属セパレータの製造方法。
- 高分子電解質膜と、その第一主表面を覆う第一電極層と、同じく第二主表面を覆う第二電極層と、請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の燃料電池用金属セパレータとして構成され、前記第一電極層上に積層されるとともに、前記凹部により燃料ガス用のガス拡散層を形成する第一セパレータと、請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の燃料電池用金属セパレータとして構成され、前記第二電極層上に積層されるとともに、前記凹部により酸化剤ガス用のガス拡散層を形成する第二セパレータと、
を有することを特徴とする燃料電池。
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