本発明は、微生物を利用して排水中のセレン酸化合物を処理する方法に関する。さらに詳述すると、本発明は、セレン酸化合物を還元する微生物を排水中で機能させて水溶性のセレン酸化合物を不溶性の元素状セレンに還元する方法及びバイオリアクターに関する。
尚、本明細書においては、セレン酸イオンと亜セレン酸イオンを総称してセレン酸化合物と呼ぶこととする。
セレンは光照射により電気伝導度が大きくなる性質を有する元素として知られており、その化合物は、半導体、光電池、コピー機の感光体、ガラス工業における色消し剤、着色ガラスといった幅広い用途がある産業上有用な物質である。しかし、その一方で、生物に対して高い毒性を呈する物質としても知られており、平成5年の水質汚濁防止法改正時に、セレンの一律排水基準は0.1mg/Lと制定された。したがって、排水基準値を満たすべく、セレン酸化合物を効率的に処理する方法が各種提案されている。
例えば、特許文献1では酵母エキスや含硫アミノ酸が存在する条件下でセレン酸イオンを含有する排水に微生物を嫌気的に接触させる排水処理方法が提案されている。具体的には、高濃度のセレン酸存在下で生じる微生物の生物反応の低下を、メチオニンやシステイン等の含硫アミノ酸またはこれらの物質を含む有機物、例えば、酵母エキス、ペプトン、カザミノ酸等を添加することにより抑制して排水中のセレン酸イオンを亜セレン酸イオンに還元するものである。
また、特許文献2では微生物還元処理と物理化学的処理を併用してセレン酸化合物含有排水を処理する方法が提案されている。具体的には、セレン酸化合物含有排水中の6価セレン(セレン酸イオン)をセレン酸還元菌(FERM BP−5662)により4価セレン(亜セレン酸イオン)または元素状セレンに還元した後、塩化鉄や硫酸鉄等の鉄塩を排水中に添加して4価セレンを凝集沈殿させて固液分離するものである。
特開2001−104989
特開平10−309190
しかしながら、酵母エキスや含硫アミノ酸のような高価なエネルギー源物質を微生物に供給し続ける必要がある場合、排水処理にかかるコストは多大なものとなる。したがって、これらに替わる安価で入手が容易なエネルギー源物質を用いて排水処理を行うことが望まれる。
また、セレンは産業上の利用価値が高い有用な元素であるが、年間生産量が1500トンと比較的少量である。したがって、排水中に存在するセレン酸化合物を単に除去するに留まらず、これらを回収して再利用に供することが資源の有効利用や枯渇を防ぐ上で望ましい。ここで、水溶性の亜セレン酸イオンをさらに還元することで得られる元素状セレンは、濾過処理等を行うことで回収可能な不溶性の形態として存在する。したがって、セレン酸化合物を元素状セレンまで還元することができれば、凝集沈殿剤などを添加する物理化学的処理を併用することなく、排水から固液分離して処理することが可能となり、さらに、亜セレン酸イオンの還元を微生物還元処理により行うことができれば、セレン酸イオンから元素状セレンまでの還元処理を微生物還元処理のみで行うことができ、手間やコストの観点からも理想的である。
また、火力発電所などから発生する脱硫排水には、セレン酸化合物と共に高濃度の硝酸態窒素や硫酸イオンが含まれている。このような排水を処理する場合、セレン酸還元微生物の機能が硝酸態窒素や硫酸イオンにより阻害されてしまうという問題がある。したがって、高濃度の硝酸態窒素や硫酸イオンが存在する環境下においてもセレン酸化合物を効率よく処理する方法が望まれる。
そこで、本発明は、酵母エキスや含硫アミノ酸等の高価なエネルギー源物質を用いることなく、セレン酸化合物含有排水を処理する方法を提供することを目的とする。また、微生物還元処理のみによりセレン酸化合物を元素状セレンまで還元する方法及びバイオリアクターを提供し、さらに、セレン酸化合物含有排水に硝酸態窒素や硫酸イオンが高濃度に含まれる場合であってもセレン酸化合物を元素状セレンまで還元できる方法及びバイオリアクターを提供することを目的とする。
かかる課題を解決するため、本願発明者等が微生物を鋭意探索した結果、嫌気条件下でエタノールをエネルギー源として供給することで、硝酸態窒素や硫酸イオンが高濃度に存在する環境下においてもセレン酸イオンを亜セレン酸イオンに還元することができる微生物を単離することに成功した。また、脱窒菌として既知の微生物であるParacoccus denitrificansにエネルギー源としてエタノールを与えたところ、硝酸態窒素や硫酸イオンが高濃度に存在する環境下においても亜セレン酸イオンを元素状セレンに還元するという新規な機能を知見した。したがって、エタノールのような低級アルコールをエネルギー源として微生物還元処理のみでセレン酸化合物を元素状セレンまで還元可能であることを知見し、本願発明に至った。
かかる知見に基づく本発明のセレン酸化合物含有排水の処理方法は、セレン酸化合物含有排水を炭素数1〜3の低級アルコールをエネルギー源とするセレン酸還元微生物に嫌気性条件下で接触させると共に炭素数1〜3の低級アルコールを供給し、セレン酸化合物を亜セレン酸イオンに還元するようにしている。
炭素数1〜3の低級アルコールをエネルギー源とするセレン酸還元微生物は、嫌気条件下でエネルギー源である炭素数1〜3の低級アルコールが供給されることによりセレン酸イオンを亜セレン酸イオンに還元する。したがって、酵母エキスや含硫アミノ酸あるいは乳酸塩等のエネルギー源を用いずとも、炭素数1〜3の低級アルコール、例えばメタノールやエタノール、プロパノールをエネルギー源として供給することにより、嫌気条件下でセレン酸化合物を亜セレン酸イオンまで還元することが可能である。亜セレン酸イオンを回収するためには、塩化鉄や硫酸鉄等の鉄塩を排水中に添加して亜セレン酸イオンを凝集沈殿させて固液分離する物理化学的処理方法を用いる方法がある。
また、亜セレン酸イオンを微生物により不溶性の元素状セレンに還元して回収してもよい。好ましくは、セレン酸化合物含有排水を炭素数1〜3の低級アルコールをエネルギー源とするセレン酸還元微生物と亜セレン酸還元微生物とに嫌気性条件下で接触させると共に炭素数1〜3の低級アルコールを供給して、セレン酸化合物を元素状セレンに還元することである。
上述したように、炭素数1〜3の低級アルコールをエネルギー源とするセレン酸還元微生物は、嫌気条件下でエネルギー源である炭素数1〜3の低級アルコールが供給されることによりセレン酸イオンを亜セレン酸イオンに還元する。また、炭素数1〜3の低級アルコールをエネルギー源とする亜セレン酸還元微生物は、嫌気条件下でエネルギー源である炭素数1〜3の低級アルコールが供給されることにより亜セレン酸イオンを元素状セレンに還元する。したがって、酵母エキスや含硫アミノ酸あるいは乳酸塩等のエネルギー源を用いずとも、炭素数1〜3の低級アルコール、例えばメタノールやエタノール、プロパノールをエネルギー源として供給することにより、嫌気条件下でセレン酸化合物を元素状セレンまで還元することが可能である。また、この場合は、亜セレン酸イオンを亜セレン酸還元微生物により元素状セレンに還元しているので、亜セレン酸イオンを凝集沈殿させるための物理化学的処理を併用することなく、微生物還元処理のみでセレン酸化合物を元素状セレンに還元することができる。
ここで、セレン酸還元微生物としては、炭素数1〜3の低級アルコールをエネルギー源とするものであれば特に限定されないが、例えば、Pseudomonas sp. 4C-C(以下、4C−Cと呼ぶ)が挙げられる。4C−Cは、嫌気条件下でセレン酸イオンを亜セレン酸イオンに還元することができる。そして、この微生物を機能させるエネルギー源としては酵母エキスや含硫アミノ酸あるいは乳酸塩を用いることができるのは勿論のこと、炭素数1〜3の低級アルコール、例えばメタノールやエタノール、プロパノールを用いることも可能である。さらに、この微生物は高濃度の硝酸イオンや亜硝酸イオン、硫酸イオンの存在下においても、セレン酸イオンを亜セレン酸イオンに還元する機能を阻害されることがなく、同時に硝酸イオンや亜硝酸イオンを無害な窒素ガスに還元することができる。尚、この微生物は、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに平成18年3月13日付けで受託番号FERM P−20840として受託されている。
また、亜セレン酸還元微生物としては、炭素数1〜3の低級アルコールをエネルギー源とするものであれば特に限定されないが、例えば、パラコッカス デニトリフィカンス(Paracoccus denitrificans)が挙げられる。Paracoccus denitrificansは嫌気条件下で亜セレン酸イオンを元素状セレンに還元することができる。そして、この微生物を機能させるエネルギー源としては酵母エキスや含硫アミノ酸あるいは乳酸塩を用いることができるのは勿論のこと、炭素数1〜3の低級アルコール、例えばメタノールやエタノール、プロパノールを用いることも可能である。しかも、その機能は、硝酸態窒素や硫酸イオンが高濃度に存在する環境下においても阻害されることが無く、同時に硝酸イオンや亜硝酸イオンを無害な窒素ガスに還元することができる。したがって、セレン酸還元微生物、例えば、4C−Cと併用することで、微生物還元処理のみでセレン酸化合物を元素状セレンに還元することが可能となる。尚、元素状セレンは不溶性であるから、排水を濾過処理等することにより、元素状セレンを排水中から除去・回収することが可能である。
ここで、排水を処理する際には、セレン酸還元微生物と亜セレン酸還元微生物を同一処理槽に遊離させても良いが、セレン酸還元微生物と亜セレン酸還元微生物を担体に担持させて処理することが好ましい。この場合には、元素状セレンの大部分を担体に付着させることができるので、処理後の排水を担体と分離することで、排水中から元素状セレンの大部分を回収できる。ここで、担体としては、活性炭、アルミナ、発泡プラスチックや高分子ゲル等を用いることができるが、これらに限られるものではない。尚、セレン酸還元微生物と亜セレン酸還元微生物は同一の担体に担持させてもよいし、別々の担体に担持させてもよい。また、一方を担体に担持させ、他方を遊離状態で用いてもよい。または、2つの処理槽を設けて、一槽目の処理槽にセレン酸還元微生物を遊離させ、二槽目の処理槽にセレン酸還元微生物を遊離させて排水を処理してもよいが、この場合も、セレン酸還元微生物と亜セレン酸還元微生物を担体に担持させて処理することが好ましい。尚、一槽目の処理槽にセレン酸還元微生物を遊離させ、二槽目の処理槽のセレン酸還元微生物を担体を担持させても良いし、一槽目の処理槽のセレン酸還元微生物を担体に担持させ、二槽目の処理槽にセレン酸還元微生物を遊離させても良い。
また、本発明のセレン酸化合物含有排水の処理方法においては、セレン酸還元微生物や亜セレン酸還元微生物への炭素数1〜3の低級アルコールの供給を、非多孔性膜を少なくとも一部に備える容器中に炭素数1〜3の低級アルコールを密封し、非多孔性膜から容器の周辺に炭素数1〜3の低級アルコールを徐放させて行うようにしている。容器内に密封された低級アルコールは、非多孔性膜の分子透過性能に支配される速度で徐放される。そこで、低級アルコールの非多孔性膜透過速度を、非多孔性膜の分子透過性能を決定する要素である膜材料や膜厚、膜密度などで調整することにより、低級アルコールを常時緩やかに供給して、セレン酸還元微生物や亜セレン酸還元微生物を機能させ続けて、効率良くセレン酸化合物含有排水の処理を行うことができる。
また、セレン酸還元微生物や亜セレン酸還元微生物のエネルギー源として、廃アルコールを使用することが環境的にも経済的にも好ましい。非多孔性膜は「分子ふるい」のような役割を持っており、透過させようとする分子の分子量が大きくなるにつれて、その分子を透過し難くなる。また、分子の極性などの性質によってもその透過性が大きく変化する。したがって、非多孔性膜をポリエチレンやポリプロピレンに代表される疎水性の膜とした場合、廃アルコールの中に不純物例えばカテキンやシアン化合物のように微生物に対して毒性を呈する抗菌性の分子が混入していても、分子サイズの大きなカテキンや極性の高いシアン化合物などは透過し難く、微生物にとって無害な低級アルコールを主成分として透過させることが可能となる。
次に、本発明のセレン酸化合物含有排水処理用バイオリアクターは、炭素数1〜3の低級アルコールをエネルギー源とするセレン酸還元微生物と亜セレン酸還元微生物を担体に担持させ、担体にセレン酸化合物含有排水を接触させると共に、炭素数1〜3の低級アルコールを供給することにより、セレン酸化合物を元素状セレンに還元するものである。
ここで、セレン酸還元微生物としては、例えば、4C−Cが挙げられるが、炭素数1〜3の低級アルコールをエネルギー源とするセレン酸還元微生物であればこれに限られるものではない。また、亜セレン酸還元微生物としては、例えば、Paracoccus denitrificansが挙げられるが、炭素数1〜3の低級アルコールをエネルギー源とする亜セレン酸還元微生物であればこれに限られるものではない。
ここで、本発明のセレン酸化合物含有排水処理用バイオリアクターにおいては、炭素数1〜3の低級アルコールの供給は、非多孔性膜を少なくとも一部に備える容器中に炭素数1〜3の低級アルコールを密封し、非多孔性膜から容器の周辺に炭素数1〜3の低級アルコールを徐放させて行うようにしている。したがって、セレン酸還元微生物や亜セレン酸還元微生物が必要とするエネルギー量を常時緩やかに供給することができる。
また、非多孔性膜を少なくとも一部に備える容器中には、廃アルコールを密封するようにしてもよい。廃アルコールを用いた場合でも、非多孔性膜の「分子ふるい」としての機能により、セレン酸還元微生物や亜セレン酸還元微生物にとって無害かつエネルギー源となる低級アルコールが主成分として供給される。
本発明のセレン酸化合物含有排水の処理方法によれば、セレン酸化合物含有排水を炭素数1〜3の低級アルコールをエネルギー源として機能するセレン酸還元微生物に嫌気条件下で接触させると共にエネルギー源として炭素数1〜3の低級アルコールを供給することで、排水中に含まれているセレン酸化合物を亜セレン酸イオンに還元することができる。したがって、酵母エキスや含硫アミノ酸あるいは乳酸塩などの高価なエネルギー源を用いること無く、入手容易で安価な低級アルコールにより排水処理を行うことができるので排水処理コストを大幅に削減することができる。
さらに、セレン酸化合物含有排水を炭素数1〜3の低級アルコールをエネルギー源として機能するセレン酸還元微生物と亜セレン酸還元微生物とに嫌気条件下で接触させると共にエネルギー源として炭素数1〜3の低級アルコールを供給することで、排水中に含まれているセレン酸化合物を元素状セレンに還元することができる。したがって、酵母エキスや含硫アミノ酸あるいは乳酸塩などの高価なエネルギー源を用いること無く、入手容易で安価な低級アルコールにより排水処理を行うことができるので排水処理コストを大幅に削減することができる。また、亜セレン酸イオンを亜セレン酸還元微生物の作用により元素状セレンに還元しているので、亜セレン酸イオンを凝集沈殿させるための物理化学的処理を併用することなく、微生物還元処理のみでセレン酸化合物を元素状セレンに還元することができる。したがって、排水中に鉄塩などの凝集沈殿剤を投入する手間を省くことができ、排水処理をより一層簡易に行うことが可能となる。
また、本発明の微生物であるセレン酸還元微生物4C−Cによれば、酵母エキスや乳酸塩などをエネルギー源として用いることができるのは勿論のこと、炭素数1〜3の低級アルコール、例えばメタノールやエタノール、プロパノールをエネルギー源として用いた場合でも、嫌気性条件下でセレン酸イオンを亜セレン酸イオンに還元することができ、高濃度の硝酸態窒素や硫酸イオンの存在下においても、その機能が阻害されることなく、同時に硝酸イオンや亜硝酸イオンを無害な窒素ガスに還元することができる。したがって、本発明のセレン酸化合物含有排水の処理方法におけるセレン酸還元微生物として4C−Cを用いることにより、炭素数1〜3の低級アルコールをエネルギー源として、嫌気性条件下でセレン酸イオンを亜セレン酸イオンに還元することができ、高濃度の硝酸態窒素や硫酸イオンの存在下においても、その機能が阻害されることなく、同時に硝酸イオンや亜硝酸イオンを無害な窒素ガスに還元することができる。
また、既知の微生物であるParacoccus denitrificansが、炭素数1〜3の低級アルコール、特にエタノールをエネルギー源として用いた場合でも、嫌気性条件下で亜セレン酸イオンを元素状セレンに還元することができ、高濃度の硝酸態窒素や硫酸イオンの存在下においても、その機能が阻害されることがない上に、硝酸態窒素も同時に還元処理することが可能であるという新規な機能が明らかとなったことから、本発明のセレン酸化合物含有排水の処理方法における亜セレン酸還元微生物としてParacoccus denitrificansを用いることにより、炭素数1〜3の低級アルコールをエネルギー源として、嫌気性条件下で亜セレン酸イオンを元素状セレンに還元することができ、高濃度の硝酸態窒素や硫酸イオンの存在下においても、その機能が阻害されることなく、同時に硝酸イオンや亜硝酸イオンを無害な窒素ガスに還元することができる。
さらに、セレン酸化合物含有排水をセレン酸還元微生物4C−Cと亜セレン酸還元微生物Paracoccus denitrificansとに嫌気条件下で接触させると共にエネルギー源として炭素数1〜3の低級アルコールを供給することで、高濃度の硝酸態窒素や硫酸イオンの存在下においてもセレン酸化合物を元素状セレンに還元することができ、同時に硝酸態窒素も無害な窒素ガスに還元することができる。したがって、硝酸態窒素や硫酸イオンが高濃度で存在する排水、例えば、火力発電所の脱硫排水等から、セレン酸化合物を元素状セレンに還元するのと同時に、硝酸イオンや亜硝酸イオンの様な硝酸態窒素も同時に還元処理して無害な窒素ガスに変換することが可能となる。
また、セレン酸還元微生物と亜セレン酸還元微生物を担体に担持させることで、元素状セレンの大部分を担体に付着させることができる。したがって、処理後の排水を担体と分離するだけで、排水中から元素状セレンを回収することができ、元素状セレンの排水からの除去・回収が非常に容易となる。
次に、本発明のセレン酸化合物含有排水処理用バイオリアクターによれば、炭素数1〜3の低級アルコールをエネルギー源として機能することができるセレン酸還元微生物と亜セレン酸還元微生物を担体に担持しているので、担体にセレン酸化合物含有排水を接触させると共に、炭素数1〜3の低級アルコールを供給することで、セレン酸化合物を元素状セレンに還元することができる。しかも、元素状セレンは担体に付着して、赤色を呈するようになるので、排水中のセレン酸化合物が処理できているかどうかの判断を目視で簡易に行うことができる。そして、バイオリアクターの担体が十分赤色となったときに、バイオリアクターを回収するだけで排水中のセレン酸化合物が元素状セレンに還元された状態で除去でき、その扱いが非常に容易である。さらに、このバイオリアクターは担体に元素状セレンを付着させて回収することができるので、排水中のみならず、活性汚泥のように沈殿物の回収が困難な環境であっても元素状セレンを簡単に回収することができる。
また、本発明のセレン酸化合物含有排水処理用バイオリアクターにおいて、セレン酸還元微生物として4C−Cを用いることにより、炭素数1〜3の低級アルコールをエネルギー源として、嫌気性条件下でセレン酸イオンを亜セレン酸イオンに還元することができ、高濃度の硝酸態窒素や硫酸イオンの存在下においても、その機能が阻害されることなく、同時に硝酸イオンや亜硝酸イオンを無害な窒素ガスに還元することができる。
また、本発明のセレン酸化合物含有排水処理用バイオリアクターにおいて、亜セレン酸還元微生物としてParacoccus denitrificansを用いることにより、炭素数1〜3の低級アルコールをエネルギー源として、嫌気性条件下で亜セレン酸イオンを元素状セレンに還元することができ、高濃度の硝酸態窒素や硫酸イオンの存在下においても、その機能が阻害されることなく、同時に硝酸イオンや亜硝酸イオンを無害な窒素ガスに還元することができる。
さらに、本発明のセレン酸化合物含有排水処理用バイオリアクターにおいて、セレン酸還元微生物として4C−Cを、亜セレン酸還元微生物としてParacoccus denitrificansを用いた場合には、嫌気条件下でエネルギー源として炭素数1〜3の低級アルコールを供給することで、高濃度の硝酸態窒素や硫酸イオンの存在下においてもセレン酸化合物を元素状セレンに還元することができ、同時に硝酸態窒素も無害な窒素ガスに還元することができる。したがって、硝酸態窒素や硫酸イオンが高濃度で存在する排水、例えば、火力発電所の脱硫排水等から、セレン酸化合物を元素状セレンに還元するのと同時に、硝酸イオンや亜硝酸イオンの様な硝酸態窒素も同時に還元処理して無害な窒素ガスに変換することが可能なより好ましい形態となる。
さらに、セレン酸還元微生物や亜セレン酸還元微生物への炭素数1〜3の低級アルコールの供給を、非多孔性膜を少なくとも一部に備える容器中に炭素数1〜3の低級アルコールを密封して、非多孔性膜から容器の周辺に炭素数1〜3の低級アルコールを徐放させて行うようにすることで、微生物が必要とするエネルギー量を常時緩やかに供給することが可能となる。
さらに、非多孔性膜を少なくとも一部に備える容器中に廃アルコールを密封した場合には、非多孔性膜が「分子ふるい」として機能し、ある分子サイズ以上のものは膜を透過せず、分子サイズの小さなものが優先的に透過する。したがって、廃アルコール中に微生物に対して毒性を呈する抗菌性の分子、例えばカテキンが混入している場合であっても、分子サイズの大きなカテキンは透過できず、微生物にとって無害かつエネルギー源となる炭素数1〜3の低級アルコールが主成分として供給される。廃アルコールの再利用は、廃棄物の量を減らすことができて環境にとって好ましいと共に廃棄物の有用化を可能としてエネルギー源のコストを下げることができる。例えば、現在、蒸留、精製等の過程を経て再生されている廃アルコールを、これらの処理を行うことなくそのまま用いることができ、大幅なコストダウンを実現できる。より具体的には、食品、医薬品製造工程などで生じる廃アルコールを、微生物毒性を持つ物質(カテキンなど)を蒸留などの除去工程を経ることなく、セレン酸還元微生物や亜セレン酸還元微生物のエネルギー源として有効利用できる。
以下、本発明を実施するための最良の形態について、図面に基づいて詳細に説明する。
本発明のセレン酸化合物含有排水処理方法は、セレン酸化合物含有排水を炭素数1〜3の低級アルコールをエネルギー源とするセレン酸還元微生物に嫌気条件下で接触させると共に炭素数1〜3の低級アルコールを供給し、排水中のセレン酸化合物を亜セレン酸イオンに還元する。より好ましい形態としては、セレン酸化合物含有排水を炭素数1〜3の低級アルコールをエネルギー源とするセレン酸還元微生物と亜セレン酸還元微生物とに嫌気条件下で接触させると共に炭素数1〜3の低級アルコールを供給し、排水中のセレン酸化合物を不溶性の元素状セレンに還元する。排水とこれら微生物との接触は、例えば、排水処理槽内にセレン酸還元微生物と亜セレン酸還元微生物を投入して、これら微生物を同一環境下に共存させることにより行い、これら微生物のエネルギー源である炭素数1〜3の低級アルコール(以下、単に低級アルコールと呼ぶ)を定期的にあるいは随意に添加する。
セレン酸還元微生物は低級アルコールをエネルギー源として用いることができるものであれば特に限られるものではないが、例えば、4C−Cを用いることができる。4C−Cはシュードモナス属に属するセレン酸還元微生物であり、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに平成18年3月13日付けで受託番号FERM P−20840として受託されている。セレン酸還元微生物4C−Cは以下の化学式に示されるように、セレン酸イオン(6価セレン)を亜セレン酸イオン(4価セレン)に還元する。
[化学式1] SeO4 2−→SeO3 2−
セレン酸還元微生物を機能させてセレン酸イオンを亜セレン酸イオンに還元するためには、セレン酸還元微生物が存在する場所を嫌気条件下、即ち、排水中に溶存酸素が実質的に存在しないことが好ましい。尚、溶存酸素が多く、セレン酸還元の機能が低下する場合には、排水中に窒素ガスや希ガス等の不活性ガスを導入して溶存酸素を減少させる等の処理を行うことにより、セレン酸還元微生物が機能するようにすればよい。
エネルギー源としては、セレン酸還元微生物に対して一般的に用いられる酵母エキスや含硫アミノ酸あるいは乳酸塩を供給してセレン酸イオンを亜セレン酸イオンに還元することも可能ではあるが、本発明では炭素数1〜3の低級アルコールである、メタノール、エタノール及びプロパノールを用いることができる。したがって、セレン酸化合物含有排水の処理コストを大幅に低減できる。
ここで、セレン酸還元微生物4C−Cは、硝酸イオンが高濃度に存在する環境下であっても、セレン酸イオンを亜セレン酸イオンに還元する反応が阻害されることがなく、同時に硝酸イオンや亜硝酸イオンを無害な窒素ガスに還元することができる。さらに、硫酸イオンの存在する環境下であっても、セレン酸イオンを亜セレン酸イオンに還元する反応が阻害されることがない。即ち、火力発電所等から排出される脱硫排水等からセレン酸化合物を処理する場合にも、その機能が低下することがない上に、硝酸イオンや亜硝酸イオンの様な硝酸態窒素を無害な窒素ガスに還元することができる。
尚、セレン酸還元微生物4C−Cはセレン酸イオンを亜セレン酸イオンに還元する非常に優れた能力を有していると共に、亜セレン酸イオンを元素状セレンに還元する能力も有していることが本発明者等の実験により確認されている。したがって、亜セレン酸イオンを元素状セレンに還元する役割も担うことができる。
次に、亜セレン酸還元微生物は低級アルコールをエネルギー源として用いることができるものであれば特に限られるものではないが、例えば、脱窒菌として既知の微生物であるParacoccus denitrificansを用いることができる。Paracoccus denitrificansはエタノールをエネルギー源として用いることで亜セレン酸イオンを元素状セレンに還元することができ、この機能は本発明者らが新たに知見したものである。亜セレン酸還元微生物は以下の化学式に示されるように、亜セレン酸イオン(4価セレン)を元素状セレン(0価セレン)に還元する。
[化学式2] SeO3 2−→Se
亜セレン酸還元微生物を機能させるための条件、環境は上述したセレン酸還元微生物4C−Cの場合と同様である。したがって、これらを共存させた場合でも、双方の微生物を十分に機能させることが可能である。例えば、セレン酸還元微生物として4C−Cを、亜セレン酸還元微生物としてParacoccus denitrificansを用いた場合に、嫌気性条件下で低級アルコールを供給することで、硝酸態窒素や硫酸イオンが高濃度で存在する排水、例えば、火力発電所の脱硫排水等から、セレン酸化合物を元素状セレンに還元するのと同時に、硝酸イオンや亜硝酸イオンの様な硝酸態窒素も同時に還元処理して無害な窒素ガスに変換することが可能となる。
排水中に含まれるセレン酸化合物の還元処理後の最終形態である元素状セレンは不溶性である。したがって、処理後の排水に濾過処理等を行うことで、元素状セレンを排水から除去することができる。
ここで、セレン酸還元微生物と亜セレン酸還元微生物を担体に担持させて排水中に投入してもよい。この場合には、当該微生物により還元されて得られた元素状セレンの大部分が担体に付着するので、処理後の排水から当該担体のみを除去するだけで排水のセレン濃度を大幅に低減することができる。担体としては、当該微生物を担持して元素状セレンを付着することができる材料であれば特に限定されるものではないが、活性炭、アルミナ、発泡プラスチック等の多孔性材料や高分子ゲル等を用いることが好適である。
また、エネルギー源である低級アルコールの供給が過剰であると微生物が消費しきれずに排水中に残留し水質を悪化させる虞がある。その反面、低級アルコールの供給量が少ないと、エネルギー源不足となってこれら微生物が十分に機能せず、セレン酸化合物の処理が十分に行えない虞がある。そこで、低級アルコールの供給は、非多孔性膜を少なくとも一部に備える容器中に低級アルコールを密封し、非多孔性膜から低級アルコールを容器の周辺に徐放させて供給することが好ましい。
図1に非多孔性膜を少なくとも一部に備える容器中に低級アルコール(以下、単にアルコールと呼ぶこともある)を密封した電子供与体供給装置の一実施形態を示す。この電子供与体供給装置1は、アルコール3と、非多孔性膜2を少なくとも一部に備える密封構造の容器4を含み、容器4内にはアルコール3が充填され、アルコール3を容器4の非多孔性膜2の部分から非多孔性膜2の分子透過性能に支配される速度で容器4の周辺に供給し、容器4の周辺のセレン酸還元微生物や亜セレン酸還元微生物にアルコール3を緩やかに供給するものである。本実施形態では、容器4の全体が非多孔性膜2で構成される袋状を成し、周縁をヒートシールで溶着したり、接着剤により接着したりするようにしてアルコール3を密封するようにしているが、形態や構造は特に限定されない。例えば、容器4をチューブ状やシート状としてもよい。また、袋状の容器(単に袋と呼ぶこともある)4は、全体を非多孔性膜で構成するものに特に限られず、片面だけを非多孔性膜で構成したり、1つの面のさらに一部分を非多孔性膜のみで構成するようにしても良い。部分的に非多孔性膜を用いる場合には、その他の部分は金属製やプラスチック製の剛体フレーム、アルコールを透過しない膜を用いても良い。また、容器4を被処理液に入れた際に浮いてしまう場合には、容器4に錘を備えるようにしたり、被処理液に浸からない部分をアルコールを透過させることのない膜として、被処理液に接触している部分以外からのアルコールの徐放を抑えるようにしてもよい。
電子供与体供給装置1に用いられる非多孔性膜2は、アルコール3の分子を少しずつ透過させることによって徐放するものである。この非多孔性膜2は、膜材料、膜厚、封入するアルコール3の分子量や性質、温度、アルコールの濃度により、単位面積当たりを透過するアルコール3の分子量を制御することが可能である。例えば、同じ容器を用いた場合でも、アルコール3の濃度を高めれば、アルコールの透過速度を高めることができる。また、非多孔性膜2の表面積を増減させることで、アルコール3の徐放面を増減することができる。したがって、被処理液の一部に非多孔性膜2を接触させて、被処理液と非多孔性膜の接触面の表面積に応じて、徐放面を増減できる。本発明者等のポリエチレン膜に対する実験によると、同じ膜材料の場合には膜厚によって単位面積当たりの分子透過量が変化することが確認されている。そこで、セレン酸還元微生物や亜セレン酸還元微生物に必要なアルコール供給量に応じて、適宜膜厚などを選定することによって、必要な速度で必要な量のアルコールを供給することができる。このとき、アルコールは、非多孔性膜2の分子透過性能に支配される緩やかな速度で漏れ出る。したがって、直接供給するとセレン酸還元微生物や亜セレン酸還元微生物を死滅させる虞のある原液のアルコールを用いた場合であっても、容器周辺の微生物に対し生存に影響を与えることのない濃度に希釈された状態でセレン酸還元微生物や亜セレン酸還元微生物に供給される。
ここで、非多孔性膜2は、膜構成分子の密度や構造によっても分子透過量が変化する。ポリエチレンを例に挙げて説明すると、JIS K6922‐2により分類される低密度ポリエチレン(密度910kg/m3以上、930kg/m3未満)を用いた場合と比較して、高密度ポリエチレン(密度942kg/m3以上)を用いた場合には、アルコール3の膜外への透過量が減少する。したがって、アルコール3の所望の供給量に応じて、非多孔性膜2の膜厚と膜密度のバランスにより、アルコール3の供給量を制御すればよい。また、膜内部のポリエチレン鎖の分子構造は、例えば延伸処理により可変可能であるから、当該処理により所望の膜材料の膜密度を可変して、アルコール3の供給量を制御することが可能である。
アルコール3の分子は、疎水基であるアルキル基と親水基である水酸基の双方を有している。したがって、非多孔性膜2としては、疎水性の膜、親水性の膜または親水性と疎水性の両方の性質を有する膜のいずれかを用いることで、アルコール3を透過させることができる。疎水性の膜としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンその他のオレフィン系の膜が挙げられる。親水性の膜としては、分子構造中に親水基を有する膜、例えば、ポリエステル、ナイロン(ポリアミド)、ポリビニルアルコール、ビニロン、セロハン、ポリグルタミン酸などが挙げられる。親水性と疎水性の両方の性質を有する膜としては、例えば、エチレンビニルアルコール共重合体(EVOH)、つまり、疎水性のポリエチレン構造と親水性のポリビニルアルコール構造の両方を有する共重合体膜が挙げられる。親水性と疎水性の両方の性質を有する膜は、疎水性のポリエチレンと親水性のポリビニルアルコールの含有比率を変えることにより、疎水性を強めたり、親水性を強めたりすることができる。その他にも上記の非多孔性膜に比べ透過性が劣るが、極めて遅い徐放性能が要求される時には、ポリ塩化ビニリデン、ポリカーボネート、エチレンアクリル酸共重合体、ポリエチレンテレフタレート混合物系などの気液系膜、つまり、その分子構造中の親水基や極性基の状態によって透過性が変化する膜が挙げられる。
尚、ポリエチレンやポリプロピレンは、微生物の活動の場である水領域や土壌、汚泥と、それ以外の領域を良好に区画することが可能である。また、適度な物質の透過性、熱可逆性を有しており、柔軟で成形が容易であるという利点を有している。しかも、ポリエチレンやポリプロピレンは、安価で入手しやすいため、ポリエチレンやポリプロピレンを用いることはコスト面や性能面から考えても非常に好ましい。
ここで、アルコール3の非多孔性膜2の透過は、アルコール3の分子が非多孔性膜2に溶け込み、その溶け込んだ分子が膜内部を拡散して反対側に達することにより起こる。したがって、膜への溶け込みが起こらない程分子量の大きなカテキンなどは非多孔性膜を透過しにくい。また、ポリエチレンやポリプロピレン等は水となじむ官能基が存在しない疎水性の強い膜であると共に低極性であるため、極性分子である水が膜に溶け込みにくい。したがって、水に溶けやすい極性の高い物質であるシアン化合物などもほとんど透過できない。また、水は水分子同士の水素結合が強いため、常温では水が当該膜を透過することはほとんど無い。したがって、非多孔性膜2は、水や極性の高いシアン化合物、分子量の大きなカテキン等の不純物はほとんど透過させずに、アルコール3を主成分として透過させる「分子ふるい」として機能する。したがって、非多孔性膜としてポリエチレンやポリプロピレンに代表される疎水性の膜を用いた場合には、アルコールに不純物例えばカテキンやシアン化合物のように微生物に対して毒性を呈する抗菌性の分子が混入している廃アルコールを用いることができる。アルコールの替わりに廃アルコールを使用することは環境的にも経済的にも好ましい。また、アルコールは、容器内に充填されている状態が液体であっても、揮発した状態であっても、容器外には分子状態で放出される。つまり、アルコールは、非多孔性膜2を透過して、液体のように分子間の引力により凝集することのないガス(気体)の状態で徐放される。したがって、非多孔性膜2はガス透過性膜とも表現できる。また、容器外部の環境が液相(排水、地下水等)である場合にもアルコールを容器外部に分子状態で徐放することが可能である。
次に、図2及び図3に電子供与体供給装置の他の実施形態を示す。この実施形態の電子供与体供給装置は、非多孔性膜2からなる容器4を完全密封された独立したものとはせずに、アルコール3を導入する手段を有する密封構造の袋状とした容器とし、アルコール3を外部から補充可能としたものである。
アルコール3を補給するための機構は、容器4の縁の一部にアルコール3を注入する供給部5を設けてノズルないしパイプ7を装着する構造でも良いし、予め容器4と一体となったノズルないしパイプ7のようなものでも良い。図3に示す電子供与体供給装置1は、容器4の縁に設けられた供給部5に着脱可能に装着された供給ノズル7あるいは容器4と一体となった供給ノズル7と、アルコール3を貯留するタンク6とをチューブ8などで連結し、必要に応じてアルコール3を補充可能としている。この場合、タンク6と容器4とはチューブ8を介して連通されているので、タンク6内にアルコール3’を貯留しておけば、袋4内のアルコール3が減少してきたときに、サイフォンの原理を利用してチューブ両端での圧力の差によりアルコール3’をタンクから補充できる。尚、容器4は供給部5あるいはノズル7を設けているので厳密な意味での密封構造ではないが、供給ノズル7内がタンクから供給されるアルコール3’で満たされている状態では、液面がシールとなって容器内は事実上密封状態にある。このため、液状あるいはガス化したアルコール3が供給部5やノズル7を通って容器4外に漏れ出ることはない。
次に、図4並びに図5に本発明にかかるセレン酸化合物含有排水除去バイオリアクターの一実施形態を示す。このバイオリアクター9は、セレン酸還元微生物と亜セレン酸還元微生物とを担体に担持させ、担体にセレン酸化合物含有排水を接触させると共に、低級アルコールを供給することにより、セレン酸化合物を元素状セレンに還元するものである。本実施形態では、不織布10上にセレン酸還元微生物と亜セレン酸還元微生物とを担持させた担体11を塗布して固定化し、不織布10を表面側として袋状とし、内部空間12に図1〜3に示した容器1を収容して低級アルコール3を担体11に供給するようにしている。図1から図3に示す電子供与体供給装置1を用いた場合には、低級アルコールを原液のまま密封しても、非多孔性膜2から緩やかに徐放されるので微生物が死滅することがない。また、ポンプや供給量を制御する手段を備えなくとも、セレン酸還元微生物や亜セレン酸還元微生物が必要とするエネルギー量を常時緩やかに供給することができる。さらに、この場合には、低級アルコールの替わりに廃アルコールを使用することができるので、環境的にも経済的にも好ましい。尚、バイオリアクター9の構成は図4、図5に示すような、不織布10を袋4の外側表面のみに備える形態には限られず、袋4の内側表面、つまり内部空間12側表面のみに備えても良いし、袋4の外側表面と内側表面の双方に備えるようにしてもよい。また、バイオリアクター9を金属製やプラスチック製の剛体のフレームなどにより強度を向上させてもよいし、不織布10の替わりにナイロンネットなどを用いるようにしてバイオリアクター9の表面を保護するようにしてもよい。ただし、不織布10のような保護材をバイオリアクター9の表面に設けることは必須要件ではない。
ここで、前述した場合と同様、セレン酸還元微生物は低級アルコールをエネルギー源として用いることができるものであれば特に限られるものではないが、例えば、4C−Cを用いることができる。亜セレン酸還元微生物は低級アルコールをエネルギー源として用いることができるものであれば特に限られるものではないが、例えば、Paracoccus denitrificansを用いることができる。
担体11としては、微生物や酵素の固定化に用いられている高分子ゲルを使用することができる。具体的には、コラーゲン、フィブリン、アルブミン、カゼイン、セルロースファイバー、セルローストリアセタート、寒天、アルギン酸カルシウム、カラギーナン、アガロース等の天然高分子、ポリアクリルアミド、ポリ−2−ヒドロキシエチルメタクリル酸、ポリビニルクロリド、γ−メチルポリグルタミン酸、ポリスチレン、ポリビニルピロリドン、ポリジメチルアクリルアミド、ポリウレタン、光硬化性樹脂(ポリビニルアルコール誘導体、ポリエチレングリコール誘導体、ポリプロピレングリコール誘導体、ポリブタジエン誘導体等)等の合成高分子、またはこれらの複合体が挙げられる。また、吸水性ポリマーを用いることも可能である。吸水性ポリマーを用いる場合には高分子ゲルを用いる場合と比べて排水の吸収が起こりやすく、排水中のセレン酸化合物の処理をより効率的に行うことができる。吸水性ポリマーとしては一般的に用いられているものを使用することができるが、具体的には、ポリアクリル酸、ポリアスパラギン酸、ポリグルタミン酸やそれらの改変物、ポリエチレングリコール改変物等が挙げられる。尚、ここで言う改変物とは、イオン性基をもつ高分子を前記高分子の一部に架橋させた物である。
本実施形態のバイオリアクター9は、排水に浸漬して用いることで、担体内に共存しているセレン酸還元微生物と亜セレン酸還元微生物の作用によりセレン酸化合物が元素状セレンに還元される。即ち、排水中のセレン酸イオンがセレン酸還元微生物により亜セレン酸イオンに還元され、当該還元された亜セレン酸イオンと排水中に含まれていた亜セレン酸イオンが共に亜セレン酸還元微生物により還元される。そして、亜セレン酸イオンの還元により生じた元素状セレンは担体に付着する。元素状セレンは赤色を呈する不溶性の物質であり、元素状セレンの付着状況を目視により容易に確認することができる。したがって、バイオリアクター9が十分に赤色を呈するようになった際に排水中から取り出せば、排水中からセレン酸化合物を元素状セレンとして簡易に回収できる。
また、本実施形態のバイオリアクター9は沈殿などの回収が困難な活性汚泥中であっても、元素状セレンを担体に付着させて回収することができる。つまり、本実施形態におけるバイオリアクター9は、場所を選ぶことなく、非常に手軽に用いることができるものである。その使用方法も嫌気条件下であれば、単に対象環境に浸漬するだけでよく、非常に簡易である。しかも、セレン酸化合物が排水中から除去できたか否かは、バイオリアクターの色から判断でき、非常に簡易に用いることができる。
さらに、セレン酸還元微生物として4C−Cを、亜セレン酸還元微生物としてParacoccus denitrificansを用いた場合には、セレン酸化合物除去対象環境に高濃度の硝酸態窒素や硫酸イオンが存在していても、セレン酸化合物の元素状セレンへの還元反応が起こり、同時に硝酸態窒素(硝酸イオンや亜硝酸イオン)を無害な窒素ガスに変換することができる非常に優れた機能を持つバイオリアクターとなる。
ここで、低級アルコールの供給方法に関しては、図1〜図3に示されるものに限られず、例えば、排水中に低級アルコールを直接供給してもよいし、低級アルコールを直接バイオリアクター9の内部空間12に供給するようにしてもよい。尚、上述したように、エネルギー源である低級アルコールの供給が過剰であると微生物が消費しきれずに排水中に残留し水質を悪化させる虞がある。その反面、低級アルコールの供給量が少ないと、エネルギー源不足となってこれら微生物が十分に機能せず、セレン酸化合物の処理が十分に行えない虞がある。したがって、ポンプなどを用いてその供給量とタイミングを制御することが好ましい。
また、低級アルコールを直接バイオリアクター9の内部空間12に供給する場合、低級アルコールを原液のまま使用すると微生物が死滅する虞があるので、微生物が死滅しない程度の濃度、例えば、10容量%程度の濃度に希釈された低級アルコールを用いる必要がある。
尚、バイオリアクター9に付着した元素状セレンを回収する方法としては、バイオリアクター9を燃焼させることにより元素状セレンを蒸発させ、燃焼ガスに同伴したセレンを濃縮させるようにすればよい。または、バイオリアクター9に付着した元素状セレンを酸化して水溶性の形態とした上で水に浸漬して回収すればよい。この場合には、バイオリアクター9を再利用できる。
なお、上述の形態は本発明の好適な形態の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。例えば、上述した実施形態においては、セレン酸還元微生物と亜セレン酸還元微生物を同一環境下に共存させて排水処理を行うようにしているが、第一処理槽でセレン酸還元微生物と排水を接触させた後に第二処理槽で亜セレン酸還元微生物と接触させるような二段階処理を行っても良い。また、バイオリアクター中にこれら微生物を担持させる場合にも、セレン酸還元微生物を担持した担体と亜セレン酸還元微生物を担持した担体の二層構造としてもよい。
また、担体は前述したものに限られず、例えば、容器1の表面にゲル担体を直接塗布して微生物を担持しても良いし、さらには、担体として不織布を起毛処理し、当該起毛部分に微生物を担持して用いたり、低級アルコールあるいは廃アルコールを密封した容器の表面を起毛処理して、当該起毛部分に微生物を担持させるようにしてもよい。
また、被処理液の嫌気性雰囲気を長期間保持するために、非多孔性膜を一部に有する密封構造の容器中に酸素吸収物質を充填した酸素吸収装置を被処理液中に浸漬するようにしてもよい。酸素吸収物質としては、酸素を吸収でき、非多孔性膜を腐食しないものであればよく、還元鉄のような固体還元剤や、還元剤を入れた溶液、例えば亜硫酸ナトリウム溶液などを用いることができるが、これらに限定されない。この酸素吸収装置によれば、非多孔性膜の酸素分子透過性能に支配される緩やかな速度で被処理液中の溶存酸素を吸収できるので、被処理液の嫌気性雰囲気を長期間保持することができる。
また、バイオリアクター9がセレン酸化合物を還元して得られる元素状セレンにより赤色を呈することを利用して、環境中にセレン酸化合物が存在するか否かを判定するための簡易モニターとしてバイオリアクター9を使用することも可能である。
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
セレン酸還元微生物4C−Cは培地としてNB培地を用いて培養した。培地の組成を表1に示す。30℃で振とう(110rpm)培養後、遠心分離により集菌し、リン酸緩衝液(9g/l Na2HPO4・12H2O、1.5g/l KH2PO4、pH=7.5)により3回洗浄した。洗浄菌体は230mg wet wt./mlになるようリン酸緩衝液に懸濁した後に実験に使用した。
亜セレン酸還元微生物Paracoccus denitrificansの培養は以下の手順により行った。培地にはJCM Medium List No.22(Nutrient agar No.2)を基本とし、寒天を除いた液体培地を用いた。培地の組成を表2に示す。30℃で振とう(110rpm)培養後、遠心分離により集菌し、リン酸緩衝液(9g/l Na2HPO4・12H2O、1.5g/l KH2PO4、pH=7.5)により3回洗浄した。洗浄菌体は230mg wet wt./mlになるようリン酸緩衝液に懸濁した後に実験に使用した。
(実施例2)
人工排水中でセレン酸還元微生物4C−Cを培養し、硝酸イオン存在下におけるセレン酸イオンの処理能力について、エネルギー源として酵母エキスを用いて調査した。人工排水の組成を表3に示す。人工排水の初期セレン酸イオン(SeO4 2−)濃度は100mg-Se/L、硝酸イオン(NO3 −)濃度は100mg-N/Lとした。セレン酸還元微生物4C−Cの人工排水中への初期投入量は1.38mg wet wt./mlとした。この人工排水30mlを50ml容バイアル瓶に入れて蓋をし、30℃で振とう(100rpm)培養を行った。1時間、2時間、4時間、18時間、22時間、46時間、70時間培養した際のセレン酸イオン(SeO4 2−)、亜セレン酸イオン(SeO3 2−)、硝酸イオン(NO3 −)、亜硝酸イオン(NO2 −)濃度を測定した。測定はイオンクロマトアナライザ(ICS-1500、DIONEX製)によりおこなった。
結果を図6に示す。(A)はセレン酸イオン(SeO4 2−)濃度、亜セレン酸イオン(SeO3 2−)濃度、SeO4 2−+SeO3 2−濃度を、(B)は硝酸イオン(NO3 −)濃度、亜硝酸イオン(NO3 −)濃度、NO3 −+NO2 −濃度を示す図である。セレン酸イオン濃度は培養から18時間後には0mg-Se/Lとなった。一方、亜セレン酸イオン濃度は18時間後には初期セレン酸イオンとほぼ同濃度である105mg-Se/Lとなった。したがって、セレン酸還元微生物4C−Cは酵母エキスをエネルギー源としてセレン酸イオンを亜セレン酸イオンに還元する微生物であることが確認された。また、硝酸イオン濃度は培養から4時間後に0mg-N/Lとなった。一方、亜硝酸イオン濃度は培養から4時間後に91mg-N/Lとなったが、その後減少し、70時間後には0mg-N/Lとなった。したがって、セレン酸還元微生物4C−Cは酵母エキスをエネルギー源として硝酸イオンと亜硝酸イオンを無害な窒素ガスに還元するのと同時に、セレン酸イオンを亜セレン酸イオンに還元する機能を有することが確認された。
(実施例3)
(a)エネルギー源をエタノールとした場合の4C−Cの処理能力評価
人工排水中でセレン酸還元微生物4C−Cを培養し、硝酸イオン存在下におけるセレン酸イオンの処理能力について、エネルギー源としてエタノールを用いて調査した。人工排水の組成を表4に示す。人工排水の初期セレン酸イオン(SeO4 2−)濃度は50mg-Se/L、硝酸イオン(NO3 −)濃度は50mg-N/Lとした。セレン酸還元微生物4C−Cの人工排水中への初期投入量は0.38mg wet wt./mlとした。この人工排水30mlを50ml容バイアル瓶に入れて蓋をし、30℃で振とう(100rpm)培養を行った。また、エタノールは0.3ml投入した。17時間、41時間、65時間、137時間培養した際のセレン酸イオン(SeO4 2−)、亜セレン酸イオン(SeO3 2−)、硝酸イオン(NO3 −)、亜硝酸イオン(NO2 −)濃度を測定した。測定はイオンクロマトアナライザ(ICS-1500、DIONEX製)によりおこなった。
結果を図7に示す。(A)はセレン酸イオン(SeO4 2−)濃度、亜セレン酸イオン(SeO3 2−)濃度、SeO4 2−+SeO3 2−濃度を、(B)は硝酸イオン(NO3 −)濃度、亜硝酸イオン(NO3 −)濃度、NO3 −+NO2 −濃度を示す図である。セレン酸イオン濃度は培養から137時間後には0mg-Se/Lとなった。一方、亜セレン酸イオン濃度は137時間後には初期セレン酸イオンとほぼ同濃度である53mg-Se/Lとなった。したがって、セレン酸還元微生物4C−Cはエタノールをエネルギー源としてセレン酸イオンを亜セレン酸イオンに還元する微生物であることが確認された。また、硝酸イオン濃度は培養から41時間後に0mg-N/Lとなった。一方、亜硝酸イオン濃度は培養から41時間後に41mg-N/Lとなったが、その後減少し、137時間後には0mg-N/Lとなった。したがって、セレン酸還元微生物4C−Cはエタノールをエネルギー源として硝酸イオンと亜硝酸イオンを無害な窒素ガスに還元するのと同時に、セレン酸イオンを亜セレン酸イオンに還元する機能を有することが確認された。
(b)エネルギー源をメタノールとした場合の4C−Cの処理能力評価
人工排水中でセレン酸還元微生物4C−Cを培養し、硝酸イオン存在下におけるセレン酸イオンの処理能力について、エネルギー源としてメタノールを用いて調査した。人工排水の組成を表5に示す。人工排水の初期セレン酸イオン(SeO4 2−)濃度は20mg-Se/L、硝酸イオン(NO3 −)濃度は500mg-N/Lとした。セレン酸還元微生物4C−Cの人工排水中への初期投入量は0.38mg wet wt./mlとした。この人工排水30mlを50ml容バイアル瓶に入れて蓋をし、30℃で振とう(100rpm)培養を行った。また、メタノールは0.3ml投入した。17時間、41時間、65時間、137時間培養した際のセレン酸イオン(SeO4 2−)、亜セレン酸イオン(SeO3 2−)、硝酸イオン(NO3 −)、亜硝酸イオン(NO2 −)濃度を測定した。測定はイオンクロマトアナライザ(ICS-1500、DIONEX製)によりおこなった。
結果を図8に示す。(A)はセレン酸イオン(SeO4 2−)濃度、亜セレン酸イオン(SeO3 2−)濃度、SeO4 2−+SeO3 2−濃度を、(B)は硝酸イオン(NO3 −)濃度、亜硝酸イオン(NO3 −)濃度、NO3 −+NO2 −濃度を示す図である。セレン酸イオン濃度は培養から137時間後には0mg-Se/Lとなった。一方、亜セレン酸イオン濃度は137時間後には初期セレン酸イオンとほぼ同濃度である18mg-Se/Lとなった。また、硝酸イオン濃度は培養から137時間後に446mg-N/Lとなった。一方、亜硝酸イオン濃度は培養から137時間後に70mg-N/Lとなった。したがって、セレン酸還元微生物4C−Cはメタノールをエネルギー源としてセレン酸イオンを亜セレン酸イオンに還元する機能を有し、この還元機能が初期硝酸イオン濃度が500mg-N/Lと高濃度な場合であっても低下しないことが明らかとなった。また、硝酸イオン濃度の低下と亜硝酸イオンの増加が見られたことから、硝酸イオンの還元は起こっているが、亜硝酸イオンの還元までは起こっていないことが確認された。これは、初期硝酸イオン濃度が高濃度であることが原因である。つまり、処理時間を更に長くして、エネルギー源を更に供給することで、亜硝酸イオンの還元反応も生じるようになる。
(c)エネルギー源をプロパノールとした場合の4C−Cの処理能力評価
人工排水中でセレン酸還元微生物4C−Cを培養し、硝酸イオン存在下におけるセレン酸イオンの処理能力について、エネルギー源としてプロパノールを用いて調査した。人工排水の組成は表5と同様である。人工排水の初期セレン酸イオン(SeO4 2−)濃度は20mg-Se/L、硝酸イオン(NO3 −)濃度は500mg-N/Lとした。セレン酸還元微生物4C−Cの人工排水中への初期投入量は0.38mg wet wt./mlとした。この人工排水30mlを50ml容バイアル瓶に入れて蓋をし、30℃で振とう(100rpm)培養を行った。また、プロパノールは0.3ml投入した。17時間、41時間、65時間、137時間培養した際のセレン酸イオン(SeO4 2−)、亜セレン酸イオン(SeO3 2−)、硝酸イオン(NO3 −)、亜硝酸イオン(NO2 −)濃度を測定した。測定はイオンクロマトアナライザ(ICS-1500、DIONEX製)によりおこなった。
結果を図9に示す。(A)はセレン酸イオン(SeO4 2−)濃度、亜セレン酸イオン(SeO3 2−)濃度、SeO4 2−+SeO3 2−濃度を、(B)は硝酸イオン(NO3 −)濃度、亜硝酸イオン(NO3 −)濃度、NO3 −+NO2 −濃度を示す図である。セレン酸イオン濃度は培養から17時間後には0mg-Se/Lとなった。一方、亜セレン酸イオン濃度は17時間後には初期セレン酸イオンとほぼ同濃度である18mg-Se/Lとなった。また、硝酸イオン濃度は培養から137時間後に359mg-N/Lとなった。一方、亜硝酸イオン濃度は培養から137時間後に119mg-N/Lとなった。したがって、セレン酸還元微生物4C−Cはプロパノールをエネルギー源としてセレン酸イオンを亜セレン酸イオンに還元する機能を有し、この還元機能は、初期硝酸イオン濃度が500mg-N/Lと高濃度な場合であっても低下しないことが明らかとなった。また、硝酸イオン濃度の低下と亜硝酸イオンの増加が見られたことから、硝酸イオンの還元は起こっているが、亜硝酸イオンの還元までは起こっていないことが確認された。これは、初期硝酸イオン濃度が高濃度であることが原因である。つまり、処理時間を更に長くして、エネルギー源を更に供給することで、亜硝酸イオンの還元反応も生じるようになる。
尚、実施例2及び3において用いた人工排水中には、表3〜5に示すように、硝酸塩以外にも種々の化合物、例えば、硫酸塩や塩化物、リン酸塩、炭酸塩、ホウ酸等が含まれているにも関わらず、セレン酸還元微生物4C−Cはセレン酸イオンを亜セレン酸イオンに還元し、硝酸態窒素の還元も行っていた。つまり、セレン酸還元微生物4C−Cはこのような化合物が含まれている排水、例えば、火力発電所などの脱硫排水中であっても十分に機能することが明らかとなった。
(実施例4)
人工排水中で亜セレン酸還元微生物Paracoccus denitrificansを培養し、硝酸イオン存在下における亜セレン酸イオンの処理能力について調査した。人工排水の組成を表6に示す。人工排水の初期亜セレン酸イオン(SeO3 2−)濃度は50mg-Se/L、硝酸イオン(NO3 −)濃度は50mg-N/Lとした。亜セレン酸還元微生物Paracoccus denitrificansの人工排水中への初期投入量は0.38mg wet wt./mlとした。この人工排水30mlを50ml容バイアル瓶に入れて蓋をし、30℃で振とう(100rpm)培養を行った。また、エネルギー源であるエタノールは0.3ml投入した。3日間、14日間培養した際の亜セレン酸イオン(SeO3 2−)、硝酸イオン(NO3 −)、亜硝酸イオン(NO2 −)濃度を測定した。測定はイオンクロマトアナライザ(ICS-1500、DIONEX製)によりおこなった。
結果を図10に示す。培養から3日後には硝酸イオン濃度が0mg-N/Lとなり、人工排水中の硝酸イオンが全て窒素ガスに還元されたことが確認された。亜セレン酸イオン濃度は培養から3日後に46mg-Se/Lまで減少し、14日後には33mg-Se/Lまで減少した。したがって、脱窒菌として既知の微生物であるParacoccus denitrificansはエタノールをエネルギー源として硝酸イオンを窒素ガスに還元すると共に亜セレン酸イオンを元素状セレンに還元する機能を有しており、脱窒菌として機能すると同時に亜セレン酸還元微生物としても機能することが確認された。
尚、実施例4において用いた人工排水中には、表6に示すように、硝酸塩以外にも種々の化合物、例えば、硫酸塩や塩化物、リン酸塩、炭酸塩、ホウ酸等が含まれているにも関わらず、亜セレン酸還元微生物Paracoccus denitrificansは亜セレン酸イオンを元素状セレンに還元し、硝酸態窒素の還元も行っていた。つまり、亜セレン酸還元微生物Paracoccus denitrificansはこのような化合物が含まれている排水、例えば、火力発電所などの脱硫排水中であっても十分に機能することが明らかとなった。
(実施例5)
非多孔性膜としてポリエチレン膜を用いて袋を形成し、その中にメタノール、エタノールを密封した場合の有機物の透過量を測定して、ポリエチレン膜からのメタノール、エタノールの透過性について調査した。
厚さ0.05mm、0.1mm、0.3mm、0.5mmのポリエチレン膜(商品名:ミポロンフィルム、ミツワ(株)製)を袋状として、その中にメタノール(和光純薬工業製、99.8%)、エタノール(和光純薬工業製、99.5%)をそれぞれ密封した。密封した溶液量は全て5mLとした。これを水の中に浸漬し、経過日数に対して分子透過量をTOC濃度を測定することによりメタノールおよびエタノールの透過量を評価した。TOC濃度は燃焼−赤外線式全有機炭素分析計(TOC−650、東レエンジニアリング製)により測定した。この結果を図11の(A)並びに(B)に示す。図中において、Bはバックグラウンド、MeOHはメタノール、EtOHはエタノール、0.05、0.1、0.3、0.5等の数値はポリエチレン膜厚(単位;mm)を表している。この実験から、メタノール、エタノール共に、ポリエチレン膜厚が薄くなるにつれて、TOC濃度も増加していくことから、ポリエチレン膜の膜厚により、メタノール、エタノール等のアルコールの供給量の制御が可能であることが確認された。
(実施例6)
図4並びに図5に示すバイオリアクターを実際に作製して排水処理性能の評価を行った。担体として光硬化性樹脂PVA−SbQ(SPP−H−13、東洋合成工業製)を用いた。光硬化性樹脂PVA−SbQ0.8gに対し、(a)微生物は添加せず、リン酸緩衝液(9g/l Na2HPO4・12H2O、1.5g/l KH2PO4、pH=7.5)0.3mlのみを添加、(b)セレン酸還元微生物4C−Cの菌懸濁液0.1mlとリン酸緩衝液(9g/l Na2HPO4・12H2O、1.5g/l KH2PO4、pH=7.5)0.2mlを添加、(c)P.denitrificansの菌懸濁液0.1mlとリン酸緩衝液(9g/l Na2HPO4・12H2O、1.5g/l KH2PO4、pH=7.5)0.2mlを添加、(d)セレン酸還元微生物4C−Cの菌懸濁液0.1mlとP.denitrificansの菌懸濁液0.1mlとリン酸緩衝液(9g/l Na2HPO4・12H2O、1.5g/l KH2PO4、pH=7.5)0.1mlを添加した4種類の試料を作製し、固定化した。(a)から(d)の混合液はそれぞれ直接不織布に塗布し、メタルハロゲンランプ下で20分間照射することにより不織布の片面にシート状に固定化担体(縦40mm、横20mm、厚さ0.7mm)を成形した。
セレン酸還元微生物4C−C及びP.denitrificansのエネルギー源には、厚さ0.05mmの低密度ポリエチレン膜(商品名:ミポロンフィルム、ミツワ(株)製)中にエタノール(和光純薬工業製、99.5%)0.3mlを密封した袋状ポリエチレンを用い、ポリエチレン膜からエタノールを緩やかに徐放させて微生物に供給した。
上記袋状ポリエチレンは不織布の片面にシート状に固定化した担体で不織布が外側になるように包み込み、バイアル瓶に入れた表4と同様の人工排水中に浸漬した(図14(A))。人工排水はセレン酸イオンの初期濃度を50mg-Se/L、硝酸イオンの初期濃度を50mg-N/Lとした。試験中はバイアル瓶の蓋を閉じてバイアル瓶内を嫌気性条件とした。14時間、36時間、84時間、180時間、300時間、492時間、516時間、660時間、828時間後のセレン酸イオン(SeO4 2−)、亜セレン酸イオン(SeO3 2−)、硝酸イオン(NO3 −)、亜硝酸イオン(NO2 −)濃度を測定した。測定はイオンクロマトアナライザ(ICS-1500、DIONEX製)によりおこなった。また、試験中の人工排水温度は30℃とした。
セレン酸化合物濃度の結果を図12に示す。(A)はセレン酸イオン濃度の経時変化を示す図、(B)は亜セレン酸イオン濃度の経時変化を示す図、(C)はセレン酸イオン濃度と亜セレン酸イオン濃度を合計した濃度(セレン酸化合物濃度)の経時変化を示す図である。尚、図中において、コントロールとは、バイオリアクターを浸漬しない場合の濃度変化を示している。セレン酸還元微生物4C−Cのみを担持させた担体を用いたバイオリアクター(b)の場合、処理開始後36時間でセレン酸イオンを亜セレン酸イオンに還元していることが確認された。一方、セレン酸還元微生物4C−CとParacoccus denitrificansを共存させた場合、処理開始から516時間程度で7mg-Se/L以下のセレン酸化合物濃度となり、828時間後にはセレン酸化合物濃度が0mg-Se/Lとなった。したがって、セレン酸還元微生物4C−Cと亜セレン酸還元微生物Paracoccus denitrificansを共存させることにより、排水中のセレン酸化合物濃度を十分に減少させて元素状セレンとすることが可能であることが確認された。
硝酸態窒素の濃度の結果を図13に示す。(A)は硝酸イオン濃度の経時変化を示す図、(B)は亜硝酸イオン濃度の経時変化を示す図、(C)は硝酸イオン濃度と亜硝酸イオン濃度を合計した濃度(硝酸態窒素濃度)の経時変化を示す図である。ゲル担体のみから作製したバイオリアクター(a)において、硝酸態窒素濃度が180時間後に0mg-N/Lとなったことから、硝酸態窒素が窒素ガスに還元されていることが確認された。この理由は、ゲル担体を滅菌せずに用いており、バイオリアクター作製時に混入した微生物の作用で脱窒反応が生じていることによるものと考えられる。このことから、バイオリアクター作製時に担体をあえて滅菌処理する必要はなく、むしろ滅菌処理しないことで脱窒反応を起こす微生物が混入することにより、硝酸態窒素存在環境下で用いるのに好適なバイオリアクターとなることが明らかとなった。次に、セレン酸還元微生物4C−Cを担持させたバイオリアクター(b)、亜セレン酸還元微生物Paracoccus denitrificansを担持させたバイオリアクター(c)の場合には、硝酸態窒素濃度が36時間後に0mg-N/Lとなったことから、ゲル担体のみから作製したバイオリアクター(a)と比較して、硝酸態窒素処理能が向上していることが確認された。また、セレン酸還元微生物4C−Cと亜セレン酸還元微生物Paracoccus denitrificansを共存させて担持させたバイオリアクター(d)の場合、硝酸態窒素濃度が14時間後に0mg-N/Lとなったことから、(b)及び(c)のバイオリアクターと比較して、さらに硝酸態窒素処理能が向上していることが確認された。つまり、硝酸イオンと亜硝酸イオンの還元反応は、セレン酸還元微生物4C−C、亜セレン酸還元微生物Paracoccus denitrificansにより促進され、セレン酸還元微生物4C−Cと亜セレン酸還元微生物Paracoccus denitrificansを共存させた場合には更に促進されることが明らかとなった。以上より、本発明のバイオリアクターによれば、セレン酸化合物の元素状セレンへの還元と同時に硝酸態窒素(硝酸イオン、亜硝酸イオン)の還元処理も同時に行うことが可能であることが確認された。つまり、セレン酸還元微生物4C−Cと亜セレン酸還元微生物Paracoccus denitrificansが脱窒反応により硝酸態窒素を窒素ガスに変換するのと同時にセレン酸化合物を元素状セレンまで還元することが可能であることが確認された。尚、ゲル担体を滅菌して用いた場合にも、セレン酸還元微生物4C−Cと亜セレン酸還元微生物Paracoccus denitrificansにより、十分に脱窒反応が進行する。
尚、セレン酸還元微生物4C−Cを担持させたバイオリアクター(b)において、亜セレン酸イオン濃度が徐々に減少している傾向が確認された。したがって、セレン酸還元微生物4C−Cには、セレン酸イオンを亜セレン酸イオンに還元する能力のみならず、亜セレン酸イオンを元素状セレンに還元する能力も有していることが示唆された。
次に、セレン酸還元微生物4C−Cと亜セレン酸還元微生物Paracoccus denitrificansを共存させたバイオリアクター(d)の人工排水14への浸漬処理前後のバイオリアクター9の色の変化を図14に示す。バイアル瓶13中のバイオリアクターの不織布10の色は浸漬処理開始直後は白色(A)であったが、処理終了後には赤色に変化した(B)。したがって、元素状セレンをバイオリアクター9の担体中に付着して回収可能なことが確認され、バイオリアクター9を排水14中から取り除くだけで排水14中の元素状セレンの回収が可能であることが確認された。
(実施例7)
実施例3の(b)及び(c)にて行った、4C−Cのエネルギー源としてのメタノールおよびプロパノールの有効性について、4C−Cの菌量を増やし、セレン酸イオン濃度と亜セレン酸イオン濃度を変えて検討を行った。
まず、エネルギー源をメタノールとした場合の4C−Cの処理能力評価を行った。人工排水の組成は表4と同様とした。人工排水の初期セレン酸イオン(SeO4 2−)濃度は50mg-Se/L、硝酸イオン(NO3 −)濃度は50mg-N/Lとした。セレン酸還元微生物4C−Cの人工排水中への初期投入量は0.77mg wet wt./mlとした。この人工排水30mlを50ml容バイアル瓶に入れて蓋をし、30℃で振とう(100rpm)培養を行った。また、メタノールは0.3ml投入した。0時間、26時間、46時間、93時間、141時間、189時間培養した際のセレン酸イオン(SeO4 2−)、亜セレン酸イオン(SeO3 2−)、硝酸イオン(NO3 −)、亜硝酸イオン(NO2 −)濃度を測定した。測定はイオンクロマトアナライザ(ICS-1500、DIONEX製)によりおこなった。
結果を図15に示す。(A)はセレン酸イオン(SeO4 2−)濃度、亜セレン酸イオン(SeO3 2−)濃度、SeO4 2−+SeO3 2−濃度を、(B)は硝酸イオン(NO3 −)濃度、亜硝酸イオン(NO2 −)濃度、NO3 −+NO2 −濃度を示す図である。セレン酸イオン濃度は培養から141時間後には0mg-Se/Lとなった。一方、亜セレン酸イオン濃度は141時間後には初期セレン酸イオンと同濃度となった。また、硝酸イオン濃度は培養から141時間後に0mg-N/Lとなった。一方、亜硝酸イオン濃度は培養から93時間後まで増加し続け、その後一定値となった。以上の結果から、セレン酸還元微生物4C−Cはメタノールをエネルギー源としてセレン酸イオンを亜セレン酸イオンに還元する機能を有していることが再確認された。また、硝酸イオン濃度は0mg-N/Lまで低下したが、亜硝酸イオン濃度の低下はほとんど見られなかった。したがって、初期硝酸イオン濃度が50mg-N/Lの場合、硝酸イオンのほぼ全量を亜硝酸イオンに還元できることが確認された。また、処理時間をさらに長くしたり、エネルギー源となるメタノール供給量をさらに増やすことで、亜硝酸イオンを窒素ガスに還元することが可能となる。
次に、エネルギー源をプロパノールとした場合の4C−Cの処理能力評価を行った。人工排水の組成は表4と同様とした。人工排水の初期セレン酸イオン(SeO4 2−)濃度は50mg-Se/L、硝酸イオン(NO3 −)濃度は50mg-N/Lとした。セレン酸還元微生物4C−Cの人工排水中への初期投入量は0.77mg wet wt./mlとした。この人工排水30mlを50ml容バイアル瓶に入れて蓋をし、30℃で振とう(100rpm)培養を行った。また、メタノールは0.3ml投入した。0時間、26時間、46時間、93時間、141時間、189時間培養した際のセレン酸イオン(SeO4 2−)、亜セレン酸イオン(SeO3 2−)、硝酸イオン(NO3 −)、亜硝酸イオン(NO2 −)濃度を測定した。測定はイオンクロマトアナライザ(ICS-1500、DIONEX製)によりおこなった。
結果を図16に示す。(A)はセレン酸イオン(SeO4 2−)濃度、亜セレン酸イオン(SeO3 2−)濃度、SeO4 2−+SeO3 2−濃度を、(B)は硝酸イオン(NO3 −)濃度、亜硝酸イオン(NO2 −)濃度、NO3 −+NO2 −濃度を示す図である。セレン酸イオン濃度は培養から46時間後まで急激に減少し、93時間後には0mg-Se/Lとなった。一方、亜セレン酸イオン濃度は93時間後には初期セレン酸イオンとほぼ同濃度となった。また、硝酸イオン濃度は培養から26時間後に0mg-N/Lとなった。一方、亜硝酸イオン濃度は培養から26時間増加し続け、その後減少し、培養から46時間後には0mg-N/Lとなった。したがって、セレン酸還元微生物4C−Cはプロパノールをエネルギー源としてセレン酸イオンを亜セレン酸イオンに還元するのと同時に、硝酸イオンを窒素ガスに還元する能力を有していることが明らかとなった。
以上、エネルギー源として、メタノールやプロパノールを用いた場合にも、セレン酸還元微生物4C−Cを機能させて、硝酸イオンを還元するのと同時にセレン酸イオンを亜セレン酸イオンに還元することが可能であることが確認された。また、同量のエネルギー源物質を用いた場合、プロパノール、メタノールの順で、セレン酸還元微生物4C−Cの還元処理能力を高めることができることがわかった。つまり、炭素数の多いアルコールを用いた方が、セレン酸還元微生物4C−Cの還元処理能力を高めることができることがわかった。
(実施例8)
亜セレン酸還元微生物Paracoccus denitrificansにエネルギー源として、メタノール、プロパノールを供給したときの亜セレン酸還元能について調査をおこなった。
(a)エネルギー源をメタノールとした場合の亜セレン酸還元微生物Paracoccus denitrificansの処理能力評価
人工排水中で亜セレン酸還元微生物Paracoccus denitrificansを培養し、硝酸イオン存在下における亜セレン酸イオンの処理能力について、エネルギー源としてメタノールを用いて調査した。人工排水の組成は表6と同様とした。人工排水の初期亜セレン酸イオン(SeO3 2−)濃度は50mg-Se/L、硝酸イオン(NO3 −)濃度は50mg-N/Lとした。亜セレン酸還元微生物Paracoccus denitrificansの人工排水中への初期投入量は1.53mg wet wt./mlとした。この人工排水30mlを50ml容バイアル瓶に入れて蓋をし、30℃で振とう(100rpm)培養を行った。また、エネルギー源であるメタノールは0.3ml投入した。0時間、66時間、144時間、234時間、306時間、473時間培養した際のセレン酸イオン(SeO4 2−)、亜セレン酸イオン(SeO3 2−)、硝酸イオン(NO3 −)、亜硝酸イオン(NO2 −)濃度を測定した。測定はイオンクロマトアナライザ(ICS-1500、DIONEX製)によりおこなった。
結果を図17に示す。(A)はセレン酸イオン(SeO4 2−)濃度、亜セレン酸イオン(SeO3 2−)濃度、SeO4 2−+SeO3 2−濃度を、(B)は硝酸イオン(NO3 −)濃度、亜硝酸イオン(NO2 −)濃度、NO3 −+NO2 −濃度を示す図である。亜セレン酸イオン濃度は培養から473時間後には32mg-Se/Lまで減少した。また、硝酸イオン濃度は、培養から473時間後には0mg-N/Lとなった。尚、全培養期間に亘って、亜硝酸イオン濃度が0mg-N/Lであったが、これは、硝酸イオンがParacoccus denitrificansにより還元されることにより生成された亜硝酸イオンの全量が還元されて窒素ガスとなり、亜硝酸イオンの蓄積が起こらなかったことを意味している。したがって、脱窒菌として既知の微生物であるParacoccus denitrificansはメタノールをエネルギー源として硝酸イオンを窒素ガスに還元すると共に亜セレン酸イオンを元素状セレンに還元する機能を有しており、脱窒菌として機能すると同時に亜セレン酸還元微生物としても機能することが確認された。
(b)エネルギー源をプロパノールとした場合の亜セレン酸還元微生物Paracoccus denitrificansの処理能力評価
人工排水中で亜セレン酸還元微生物Paracoccus denitrificansを培養し、硝酸イオン存在下における亜セレン酸イオンの処理能力について、エネルギー源としてプロパノールを用いて調査した。人工排水の組成は表6と同様とした。人工排水の初期亜セレン酸イオン(SeO3 2−)濃度は50mg-Se/L、硝酸イオン(NO3 −)濃度は50mg-N/Lとした。亜セレン酸還元微生物Paracoccus denitrificansの人工排水中への初期投入量は1.53mg wet wt./mlとした。この人工排水30mlを50ml容バイアル瓶に入れて蓋をし、30℃で振とう(100rpm)培養を行った。また、エネルギー源であるプロパノールは0.3ml投入した。0時間、66時間、144時間、234時間、306時間培養した際のセレン酸イオン(SeO4 2−)、亜セレン酸イオン(SeO3 2−)、硝酸イオン(NO3 −)、亜硝酸イオン(NO2 −)濃度を測定した。測定はイオンクロマトアナライザ(ICS-1500、DIONEX製)によりおこなった。
結果を図18に示す。(A)はセレン酸イオン(SeO4 2−)濃度、亜セレン酸イオン(SeO3 2−)濃度、SeO4 2−+SeO3 2−濃度を、(B)は硝酸イオン(NO3 −)濃度、亜硝酸イオン(NO2 −)濃度、NO3 −+NO2 −濃度を示す図である。亜セレン酸イオン濃度は培養から306時間後には0mg-Se/Lとなった。また、硝酸イオン濃度は、培養から66時間後には0mg-N/Lとなった。尚、全培養期間に亘って、亜硝酸イオン濃度が0mg-N/Lであったが、これは、硝酸イオンがParacoccus denitrificansにより還元されることにより生成された亜硝酸イオンの全量が還元されて窒素ガスとなり、亜硝酸イオンの蓄積が起こらなかったことを意味している。したがって、脱窒菌として既知の微生物であるParacoccus denitrificansはプロパノールをエネルギー源として硝酸イオンを窒素ガスに還元すると共に亜セレン酸イオンを元素状セレンに還元する機能を有しており、脱窒菌として機能すると同時に亜セレン酸還元微生物としても機能することが確認された。
以上、エネルギー源として、メタノールやプロパノールを用いた場合にも、Paracoccus denitrificansを機能させて、硝酸イオンを窒素ガスに還元すると同時に亜セレン酸イオンを元素状セレンに還元することが可能であることが確認された。また、同量のエネルギー源物質を用いた場合、プロパノール、メタノールの順で、Paracoccus denitrificansの還元処理能力を高めることができることがわかった。つまり、炭素数の多いアルコールを用いた方が、Paracoccus denitrificansの還元処理能力を高めることができることがわかった。
(実施例9)
人工排水中で4C−CとParacoccus denitrificansを培養し、硝酸イオン存在下におけるセレン酸イオンの処理能力について、エネルギー源としてプロパノールを用いて調査した。人工排水の組成は表4と同様とした。人工排水の初期セレン酸イオン(SeO4 2−)濃度は50mg-Se/L、硝酸イオン(NO3 −)濃度は50mg-N/Lとした。4C−Cの人工排水中への初期投入量は0.38mg wet wt./mlとした。Paracoccus denitrificansの人工排水中への初期投入量は0.38mg wet wt./mlとした。この人工排水30mlを50ml容バイアル瓶に入れて蓋をし、30℃で振とう(100rpm)培養を行った。また、エネルギー源であるプロパノールは0.3ml投入した。0時間、15時間、39時間、63時間、135時間、240時間、305時間、407時間、544時間、688時間培養した際のセレン酸イオン(SeO4 2−)、亜セレン酸イオン(SeO3 2−)、硝酸イオン(NO3 −)、亜硝酸イオン(NO2 −)濃度を測定した。測定はイオンクロマトアナライザ(ICS-1500、DIONEX製)によりおこなった。
結果を図19に示す。(A)はセレン酸イオン(SeO4 2−)濃度、亜セレン酸イオン(SeO3 2−)濃度、SeO4 2−+SeO3 2−濃度を、(B)は硝酸イオン(NO3 −)濃度、亜硝酸イオン(NO2 −)濃度、NO3 −+NO2 −濃度を示す図である。セレン酸イオン濃度は培養から240時間後には0mg-Se/Lとなった。亜セレン酸イオンは、培養から240時間までは増加し、その後688時間まで減少し続けた。また、硝酸イオン濃度は、培養から63時間後には0mg-N/Lとなった。尚、全培養期間に亘って、亜硝酸イオン濃度がほぼ0mg-N/Lであったが、これは、硝酸イオンが還元されることにより生成された亜硝酸イオンの全量が還元されて窒素ガスとなり、亜硝酸イオンの蓄積が起こらなかったことを意味している。したがって、4C−CとParacoccus denitrificansを組み合わせて用いることにより、セレン酸イオンが亜セレン酸イオンを経て元素状セレンに還元されると共に、硝酸イオンを窒素ガスに還元できることが確認された。
本発明の低級アルコール供給方法の一実施形態である密封タイプの例を示す図で、(A)は斜視図、(B)は縦断面図である。
本発明の低級アルコール供給方法の他の実施形態である補充タイプの例を示す図で、(A)は斜視図、(B)は縦断面図である。
図2の実施形態の低級アルコール供給方法の全体構成を示す概略説明図である。
本発明のバイオリアクターの構成の一例を示す斜視図である。
本発明のバイオリアクターの構成の一例を示す縦断面図であり、(A)は低級アルコール密封タイプである図1の容器を用いた例を、(B)は低級アルコール補充タイプである図3の容器を用いた例をそれぞれ示す。
硝酸イオンとセレン酸イオンを含む人工排水でエネルギー源を酵母エキスとしてセレン酸還元微生物4C−Cを培養した際の各種イオン濃度の経時変化を示す図である。
硝酸イオンとセレン酸イオンを含む人工排水でエネルギー源をエタノールとしてセレン酸還元微生物4C−Cを培養した際の各種イオン濃度の経時変化を示す図である。
硝酸イオン(20mg/L)とセレン酸イオン(500mg/L)を含む人工排水でエネルギー源をメタノールとしてセレン酸還元微生物4C−Cを培養した際の各種イオン濃度の経時変化を示す図である。
硝酸イオン(20mg/L)とセレン酸イオン(500mg/L)を含む人工排水でエネルギー源をプロパノールとしてセレン酸還元微生物4C−Cを培養した際の各種イオン濃度の経時変化を示す図である。
硝酸イオンと亜セレン酸イオンを含む人工排水でエネルギー源をエタノールとして亜セレン酸還元微生物Paracoccus denitrificansを培養した際の各種イオン濃度の経時変化を示す図である。
ポリエチレン膜からの低級アルコールの透過量測定結果を示す図であり、(A)はメタノール、(B)はエタノールの測定結果である。
各種バイオリアクターを用いた場合の(A)セレン酸イオン濃度、(B)亜セレン酸イオン濃度、(C)セレン酸化合物濃度を示す図である。
各種バイオリアクターを用いた場合の(A)硝酸イオン濃度、(B)亜硝酸イオン濃度、(C)硝酸イオン+亜硝酸イオン濃度を示す図である。
本発明のバイオリアクターを人工排水に浸漬処理した前後の色の変化を示す図である。
硝酸イオン(50mg-N/L)とセレン酸イオン(50mg-Se/L)を含む人工排水でエネルギー源をメタノールとしてセレン酸還元微生物4C−Cを培養した際の各種イオン濃度の経時変化を示す図である。
硝酸イオン(50mg-N/L)とセレン酸イオン(50mg-Se/L)を含む人工排水でエネルギー源をプロパノールとしてセレン酸還元微生物4C−Cを培養した際の各種イオン濃度の経時変化を示す図である。
硝酸イオンと亜セレン酸イオンを含む人工排水でエネルギー源をメタノールとして亜セレン酸還元微生物Paracoccus denitrificansを培養した際の各種イオン濃度の経時変化を示す図である。
硝酸イオンと亜セレン酸イオンを含む人工排水でエネルギー源をプロパノールとして亜セレン酸還元微生物Paracoccus denitrificansを培養した際の各種イオン濃度の経時変化を示す図である。
硝酸イオンとセレン酸イオンを含む人工排水でエネルギー源をプロパノールとしてセレン酸還元微生物4C−Cと亜セレン酸還元微生物Paracoccus denitrificansを培養した際の各種イオン濃度の経時変化を示す図である。
符号の説明
2 非多孔性膜
3 低級アルコール
4 容器
9 バイオリアクター
11 担体