本発明は、車両の走行制御装置に係り、更に詳細には運転者の操舵に依存せずに操舵輪を転舵可能な操舵輪舵角可変装置を備えた車両の走行制御装置に係る。
自動車等の車両の走行制御装置の一つとして、例えば下記の特許文献1に記載されている如く、制動装置が故障したときには前輪又は後輪の舵角を制御することにより左右輪の制動力差の影響を低減するよう車両の走行運動を制御する走行制御装置が従来より知られている。かかる走行制御装置によれば、制動装置が故障し左右輪に不必要な制動力差が発生しても、これに起因する車両の走行性能、特に直進走行性能の低下を低減することができる。
特開2004−237927号公報
しかし上述の如き従来の走行制御装置に於いては、前輪又は後輪の舵角の制御により前輪又は後輪の横力が変化し、これに伴って操舵反力が変動するため、運転者が違和感を覚えることが避けられないという問題がある。特に上記特許文献1に記載された走行制御装置の如く、前輪の舵角がパワーステアリング装置により転舵される場合には、前輪を転舵すべく操舵アシスト力自体が大きく変化されるため、運転者が不自然な操舵反力の変動を感じることが避けられない。
本発明は、制動装置が故障したときには前輪又は後輪の舵角を制御することにより左右輪の制動力差の影響を低減するよう構成された従来の走行制御装置に於ける上述の如き問題に鑑みてなされたものであり、本発明の主要な課題は、制動装置の故障に対処すべく操舵輪の舵角を制御する際には舵角の制御に伴う操舵反力の変動を低減することにより、操舵反力の変動に起因して運転者が違和感を覚える虞れを低減することである。
〔課題を解決するための手段及び発明の効果〕
上述の主要な課題は、本発明によれば、請求項1の構成、即ち各車輪に制動力を付与する制動手段と、運転者の操舵に依存せずに操舵輪を転舵可能な操舵輪舵角可変手段と、少なくとも操舵反力に応じて操舵アシスト力を発生する操舵アシスト力発生手段とを有する車両の走行制御装置であって、左右の車輪に不必要な制動力差が生じる異常が前記制動手段に発生したときには、前記制動力差に起因する余分なヨーモーメントに対抗するに必要なヨーモーメントを発生するよう前記操舵輪舵角可変手段により前記操舵輪の舵角を制御すると共に、前記操舵輪舵角可変手段による前記操舵輪の舵角の制御に起因する操舵反力の変動を抑制するよう前記操舵アシスト力発生手段による操舵アシスト力を制御する制御手段を有することを特徴とする車両の走行制御装置によって達成される。
上記請求項1の構成によれば、制動力差に起因する余分なヨーモーメントに対抗するに必要なヨーモーメントを発生するよう操舵輪舵角可変手段により操舵輪の舵角が制御されると共に、操舵輪舵角可変手段による操舵輪の舵角の制御に起因する操舵反力の変動を抑制するよう操舵アシスト力発生手段による操舵アシスト力が制御されるので、制動手段に異常が発生し左右の車輪の不必要な制動力差に起因して車輌に余分なヨーモーメントが作用する場合にも、操舵輪の舵角の制御によって余分なヨーモーメントに対抗するヨーモーメントが発生されることにより、車両に作用する不必要なヨーモーメントを確実に低減することができると共に、操舵輪の舵角の制御に伴う操舵輪の横力の変動に起因する操舵反力の変動を確実に低減することができる。
また本発明によれば、上述の主要な課題を効果的に達成すべく、上記請求項1の構成に於いて、前記制御手段は前記余分なヨーモーメントを推定し、推定された余分なヨーモーメントに基づいて前記必要なヨーモーメントを発生するための前記操舵輪の舵角の制御量を演算するよう構成される(請求項2の構成)。
上記請求項2の構成によれば、余分なヨーモーメントが推定され、推定された余分なヨーモーメントに基づいて必要なヨーモーメントを発生するための操舵輪の舵角の制御量が演算されるので、左右の車輪の不必要な制動力差に起因して車両に作用する不必要なヨーモーメントを操舵輪の舵角の制御によって確実に低減することができる。
また本発明によれば、上述の主要な課題を効果的に達成すべく、上記請求項1又は2の構成に於いて、前記制御手段は前記余分なヨーモーメントを推定し、推定された余分なヨーモーメントに基づいて前記操舵反力の変動を抑制するための前記操舵アシスト力の制御量を演算するよう構成される(請求項3の構成)。
上記請求項3の構成によれば、余分なヨーモーメントが推定され、推定された余分なヨーモーメントに基づいて操舵反力の変動を抑制するための操舵アシスト力の制御量が演算されるので、操舵輪の舵角の制御に伴う操舵反力の変動を確実に低減することができると共に、操舵輪の舵角の制御量に基づいて操舵アシスト力の制御量が演算される場合に比して、操舵アシスト力の制御量を簡便に演算することができ、操舵アシスト力の制御を効率的に行うことができる。
また本発明によれば、上述の主要な課題を効果的に達成すべく、上記請求項1乃至3の何れかの構成に於いて、前記操舵輪は前輪及び後輪であり、後輪は前輪とは左右反対側に転舵されるよう構成される(請求項4の構成)。
上記請求項4の構成によれば、操舵輪は前輪及び後輪であり、後輪は前輪とは左右反対側に転舵されるので、後に詳細に説明する如く、操舵輪の舵角の制御に伴う車両の横方向への不必要な移動を防止することができ、また後輪の舵角が制御されない場合に比して前輪の舵角の制御量を低減し、これにより操舵輪舵角可変手段の作動による前輪の中立位置オフセットの虞れを低減することができる。
〔課題解決手段の好ましい態様〕
本発明の一つの好ましい態様によれば、上記請求項1乃至4の何れかの構成に於いて、制御手段は左右の車輪の制動力差に起因する余分なヨーモーメントを相殺するに必要なヨーモーメントを発生するよう操舵輪舵角可変手段により操舵輪の舵角を制御するよう構成される(好ましい態様1)。
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項2乃至4又は上記好ましい態様1の何れかの構成に於いて、制御手段は推定された余分なヨーモーメント及び車速に基づいて必要なヨーモーメントを発生するための操舵輪の舵角の制御量を演算するよう構成される(好ましい態様2)。
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項2乃至4又は上記好ましい態様1又は2の何れかの構成に於いて、制御手段は各車輪の制動力に基づいて余分なヨーモーメントを推定するよう構成される(好ましい態様3)。
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項1乃至4又は上記好ましい態様1乃至3の何れかの構成に於いて、制御手段は車両の目標ヨーモーメントを演算し、各車輪の制動力に基づいて左右輪の制動力差に起因するヨーモーメントを演算し、目標ヨーモーメントと左右輪の制動力差に起因するヨーモーメントとの偏差として余分なヨーモーメントを推定するよう構成される(好ましい態様4)。
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項4又は上記好ましい態様1乃至4の何れかの構成に於いて、後輪の転舵量の大きさは前輪の転舵量の大きさよりも小さいよう構成される(好ましい態様5)。
以下に添付の図を参照しつつ、本発明を幾つかの好ましい実施例について詳細に説明する。
図1は前輪の舵角の制御が可能な車両に適用された本発明による車両の走行制御装置の実施例1を示す概略構成図である。
図1に於いて、10FL及び10FRはそれぞれ車両12の操舵輪としての左右の前輪を示し、10RL及び10RRはそれぞれ左右の後輪を示している。操舵輪である左右の前輪10FL及び10FRは運転者によるステアリングホイール14の操作に応答して駆動されるラック・アンド・ピニオン型の電動式パワーステアリング装置16によりラックバー18及びタイロッド20L及び20Rを介して転舵される。
ステアリングホイール14はアッパステアリングシャフト22、転舵角可変装置24、ロアステアリングシャフト26、ユニバーサルジョイント28を介してパワーステアリング装置16のピニオンシャフト30に駆動接続されている。図示の実施例に於いては、転舵角可変装置24はハウジング24Aの側にてアッパステアリングシャフト22の下端に連結され、回転子24Bの側にてロアステアリングシャフト26の上端に連結された補助転舵駆動用の電動機32を含んでいる。
かくして転舵角可変装置24はアッパステアリングシャフト22に対し相対的にロアステアリングシャフト26を回転駆動することにより、ステアリングギヤ比の制御及び車両の走行制御の目的で左右の前輪10FL及び10FRをステアリングホイール14に対し相対的に補助転舵駆動する自動転舵装置として機能し、電子制御装置34の舵角制御部により制御される。
尚アッパステアリングシャフト22に対し相対的にロアステアリングシャフト26を回転駆動することができない異常が転舵角可変装置24に発生すると、図1には示されていないロック装置が作動し、アッパステアリングシャフト22に対するロアステアリングシャフト26の相対回転角度が変化しないよう、ハウジング24A及び回転子24Bの相対回転が機械的に阻止される。
図示の実施例1に於いては、電動式パワーステアリング装置16はラック同軸型の電動式パワーステアリング装置であり、電動機36と、電動機36の回転トルクをラックバー18の往復動方向の力に変換する例えばボールねじ式の変換機構38とを有する。電動式パワーステアリング装置16は電子制御装置34の電動式パワーステアリング装置(EPS)制御部によって制御され、ハウジング42に対し相対的にラックバー18を駆動する補助操舵力を発生することにより、運転者の操舵負担を軽減する補助操舵アシスト力発生装置として機能する。尚補助操舵アシスト力発生装置は当技術分野に於いて公知の任意の構成のものであってよい。
各車輪の制動力は制動装置42の油圧回路44によりホイールシリンダ46FL、46FR、46RL、46RR内の圧力Pi(i=fl、fr、rl、rr)、即ち制動圧が制御されることによって制御されるようになっている。図には示されていないが、油圧回路44はオイルリザーバ、オイルポンプ、種々の弁装置等を含み、各車輪の制動圧は通常時には運転者によるブレーキペダル48の踏み込み操作に応じて駆動されるマスタシリンダ50の圧力Pmに基づいて電子制御装置34の制動力制御部によって増減圧制御弁等が制御されることにより制御される。尚、オイルポンプの如き全ての車輪に共通の部材に異常が生じたときには、ホイールシリンダ46FL〜46RRがマスタシリンダ50に接続され、これにより各車輪の制動圧はマスタシリンダ50により直接制御される。
図示の実施例に於いては、アッパステアリングシャフト22には該アッパステアリングシャフトの回転角度を操舵角θとして検出する操舵角センサ60及び操舵トルクTsを検出する操舵トルクセンサ62が設けられており、操舵角θ及び操舵トルクTsを示す信号は電子制御装置34へ入力される。電子制御装置34には回転角度センサ64により検出された転舵角可変装置24の相対回転角度θre、即ちアッパステアリングシャフト22に対するロアステアリングシャフト26の相対回転角度を示す信号、車速センサ66により検出された車速Vを示す信号、圧力センサ68により検出されたマスタシリンダ圧力Pmを示す信号及び圧力センサ70FL〜70RRにより検出された各車輪の制動圧Piを示す信号が入力される。
尚電子制御装置34の各制御部はそれぞれCPUとROMとRAMと入出力ポート装置とを有し、これらが双方向性のコモンバスにより互いに接続されたマイクロコンピュータを含むものであってよい。また操舵角センサ60、操舵トルクセンサ62、回転角度センサ64はそれぞれ車両の左旋回方向への操舵又は転舵の場合を正として操舵角θ、操舵トルクTs、相対回転角度θreを検出する。
後述の如く、電子制御装置34は、通常時には運転者の制動操作量を示すマスタシリンダ圧力Pmに基づいて各車輪の目標制動圧Ptiをマスタシリンダ圧力Pm以上の値に演算し、各車輪の制動力がそれぞれ目標制動圧Ptiに対応する制動力になるよう各車輪の制動圧Piを制御する。
また電子制御装置34は、通常時には車速Vに基づき所定の操舵特性を達成するための目標ステアリングギヤ比Rgtを演算すると共に、目標ステアリングギヤ比Rgtに基づいて前輪の目標舵角δftを演算し、前輪の舵角δfが目標舵角δfになるよう転舵角可変装置24を制御する。
更に電子制御装置34は、通常時には操舵トルクTs及び車速Vに基いて運転者の操舵負担を軽減する操舵アシスト力を発生するための目標アシストトルクTaを演算し、アシストトルクが目標アシストトルクTaになるよう電動式パワーステアリング装置16を制御することにより操舵アシスト力の制御を実行する。
尚、上述の通常時の制動力の制御、操舵輪の舵角の制御、操舵アシスト力の制御自体は本発明の要旨をなすものではなく、これらの制御は当技術分野に於いて公知の任意の要領にて実行されてよい。
これに対し圧力センサ68は正常であるが、何れかの車輪について正常な制動圧の制御が不可能である異常が制動装置42に発生すると、電子制御装置34は、異常な車輪の制動圧の制御を中止し、当該車輪のホイールシリンダをマスタシリンダ50と接続するが、正常な他の車輪の制動圧の制御を継続する。
そして電子制御装置34は、左右輪の制動力差に起因する余分なヨーモーメントMadを演算し、余分なヨーモーメントMad及び車速Vに基づき余分なヨーモーメントMadを相殺するに必要なヨーモーメントを発生するための前輪の舵角の補正量Δδftを演算し、所定の操舵特性を達成するための前輪の目標舵角δftと前輪の舵角の補正量Δδftとの和になるよう前輪の目標舵角δftを補正することにより、所定の操舵特性を達成すると共に余分なヨーモーメントMadに対抗するに必要なヨーモーメントを発生するよう前輪の舵角δfを制御する。
更に電子制御装置34は、余分なヨーモーメントMadに基づき前輪の舵角の制御に起因する操舵反力の変動を抑制するための操舵アシストトルクの補正量ΔTaを演算し、運転者の操舵負担を軽減する操舵アシスト力を発生する目標アシストトルクTaと補正量ΔTaとの和になるよう目標アシストトルクTaを補正し、補正後の目標アシストトルクTaに基づいて電動式パワーステアリング装置16を制御することにより、運転者の操舵負担を軽減すると共に前輪の舵角の制御に伴う操舵反力の変動を防止する。
次に図2乃至図4に示されたフローチャートを参照して図示の実施例1に於ける車両の走行制御について説明する。尚図2乃至図4はそれぞれ制動力の制御ルーチン、前輪の舵角の制御ルーチン、操舵アシストトルクの制御ルーチンを示すフローチャートであり、各制御は図には示されていないイグニッションスイッチの閉成により開始され、所定の時間毎に繰返し実行される。
図2に示された制動力の制御ルーチンのステップ210に於いては、マスタシリンダ圧力Pmを示す信号等の読み込みが行われ、ステップ220に於いては各車輪の正の係数Kbiとマスタシリンダ圧力Pmとの積として各車輪の目標制動圧Ptiが演算される。
ステップ230に於いては全ての車輪について正常な制動圧の制御が可能であるか否かの判別が行われ、否定判別が行われたときはステップ250へ進み、肯定判別が行われたときにはステップ235に於いてフラグFbが0にリセットされた後ステップ240へ進む。
ステップ240に於いては各車輪の制動圧Piがそれぞれ対応する目標制動圧Ptiになるようフィードバック(FB)制御されることにより、各車輪の制動力がそれぞれ目標制動圧Ptiに対応する制動力になるよう制御され、しかる後ステップ210へ戻る。
ステップ250に於いては圧力センサ70FL〜70RRが正常であるか否かの判別が行われ、肯定判別が行われたときはステップ265へ進み、否定判別が行われたときにはステップ255に於いてフラグFbが1にセットされた後ステップ260へ進む。
ステップ260に於いては圧力センサ(70FL〜70RR)が正常である車輪の制動圧Piがそれぞれ対応する目標制動圧Ptiになるようフィードバック(FB)制御されることにより、それらの車輪の制動力がそれぞれ目標制動圧Ptiに対応する制動力になるよう制御されると共に、圧力センサ(70FL〜70RR)が異常である車輪の制動圧が左右反対側の車輪の制動圧と同一になるようフィードフォワード(FF)制御されることにより、当該車輪の制動力が左右反対側の車輪の制動力と同一の制動力になるよう制御され、しかる後ステップ210へ戻る。
ステップ265に於いてはフラグFbが2にセットされ、ステップ270に於いては圧力センサ(70FL〜70RR)が異常である車輪の制動圧は制御されず、当該車輪のホイールシリンダがマスタシリンダ50に接続されるが、圧力センサ(70FL〜70RR)が正常である車輪の制動圧Piがそれぞれ対応する目標制動圧Ptiになるようフィードバック(FB)制御されることにより、それらの車輪の制動力がそれぞれ目標制動圧Ptiに対応する制動力になるよう制御され、しかる後ステップ210へ戻る。
図3に示された前輪の舵角の制御ルーチンのステップ310に於いては、操舵角θを示す信号等の読み込みが行われ、ステップ320に於いては車速Vに基づき図5に示されたグラフに対応するマップより目標ステアリングギヤ比Rgtが演算され、下記の式1に従って所定の操舵特性を達成するための前輪の目標舵角δftが演算される。
δft=θ/Rgt ……(1)
尚標準のステアリングギヤ比をRgo(正の定数)として、目標舵角δftは運転者の操舵操作に対応する舵角δw(=θ/Rgo)と所定の操舵特性を達成するための制御転舵角δcとの和である。また操舵特性の制御自体は本発明の要旨をなすものではなく、目標ステアリングギヤ比Rgtは当技術分野に於いて公知の任意の要領にて演算されてよく、例えば操舵に対する車両の過渡応答性を向上させるべく操舵速度(操舵角θの変化率)によっても変化されてよい。
ステップ330に於いてはフラグFbが2であるか否かの判別、即ち何れかの車輪について正常な制動圧の制御を行うことができない状況であるか否かの判別が行われ、否定判別が行われたときはステップ370へ進み、肯定判別が行われたときにはステップ340へ進む。
ステップ340に於いてはWを車両のトレッドとし、Kbwiを各車輪の制動圧より制動力への変換係数として、各車輪の制動圧Piに基づき下記の式2に従って左右輪の制動力差に起因する余分なヨーモーメントMadが演算される。尚この場合、圧力センサ(70FL〜70RR)が異常である車輪の制動圧Piはマスタシリンダ圧力Pmに設定される。
Mad=(KbwflPfl+KbwrlPrl−KbwfrPfr−KbwrrPrr)W/2 ……(2)
ステップ350に於いては余分なヨーモーメントMad及び車速Vに基づき図6に示されたグラフに対応するマップより余分なヨーモーメントMadを相殺するに必要なヨーモーメントを発生するための前輪の舵角の補正量Δδftが演算される。
ステップ360に於いてはステップ320に於いて演算された前輪の目標舵角δftとステップ350に於いて演算された前輪の舵角の補正量Δδftとの和になるよう前輪の目標舵角δftが補正される。
ステップ370に於いては前輪の目標舵角δftに基づき当技術分野に於いて公知の要領にて前輪の舵角δfを目標舵角δftにするための転舵角可変装置24の目標相対回転角度θretが演算され、ステップ380に於いては転舵角可変装置24の相対回転角度θreが目標相対回転角度θretになるよう転舵角可変装置24が制御されることにより、前輪の舵角δfが目標舵角δftになるよう制御される。
図4に示された操舵アシストトルクの制御ルーチンのステップ410に於いては、操舵トルクTsを示す信号等の読み込みが行われ、ステップ420に於いては操舵トルクTsに基づき図7に示されたグラフに対応するマップより基本アシストトルクTabが演算され、ステップ430に於いては車速Vに基づき図8に示されたグラフに対応するマップより車速係数Kvが演算され、ステップ440に於いては車速係数Kvと基本アシストトルクTabとの積として目標アシストトルクTaが演算される。
ステップ450に於いてはフラグFbが2であるか否かの判別、即ち何れかの車輪について正常な制動圧の制御を行うことができない状況であるか否かの判別が行われ、否定判別が行われたときはステップ490へ進み、肯定判別が行われたときにはステップ460へ進む。
ステップ460に於いては上記ステップ340の場合と同様、各車輪の制動圧Piに基づき上記式2に従って左右輪の制動力差に起因する余分なヨーモーメントMadが演算される。尚余分なヨーモーメントMadとして上記ステップ340に於いて演算される値が使用されてもよい。
ステップ470に於いては余分なヨーモーメントMadに基づき図9に示されたグラフに対応するマップより前輪の舵角の補正量Δδftに基づく前輪の舵角の制御に起因する操舵反力の変動を抑制するための操舵アシストトルクの補正量ΔTaが演算される。
ステップ480に於いてはステップ440に於いて演算された目標アシストトルクTaとステップ470に於いて演算された操舵アシストトルクの補正量ΔTaとの和になるよう目標アシストトルクTaが補正され、ステップ490に於いては目標アシストトルクTaに対応する制御信号がモータ36へ出力され、これによりアシストトルクが目標アシストトルクTaになるようアシストトルクの制御が実行される。
次に上述の如く構成された実施例1に於ける制動力の制御、前輪の舵角の制御、操舵アシストトルクの制御を種々の場合について説明する。
(1)全ての車輪について正常な制動圧の制御が可能である場合
まずステップ220に於いてマスタシリンダ圧力Pmに基づいて各車輪の目標制動圧Ptiが演算され、ステップ230に於いて肯定判別が行われ、ステップ235に於いてフラグFbが0にリセットされ、ステップ240に於いて各車輪の制動力がそれぞれ目標制動圧Ptiに対応する制動力になるよう制御される。
またステップ320に於いて車速Vに基づいて目標ステアリングギヤ比Rgtが演算されると共に、目標ステアリングギヤ比Rgtに基づいて所定の操舵特性を達成するための前輪の目標舵角δftが演算され、ステップ330に於いて否定判別が行われ、ステップ370及び380に於いて前輪の舵角δfが目標舵角δftになるよう転舵角可変装置24が制御されることにより、ステアリングギヤ比が目標ステアリングギヤ比Rgtになるよう制御される。
またステップ420乃至440に於いて操舵トルクTs及び車速Vに基づいて目標アシストトルクTaが演算され、ステップ450に於いて否定判別が行われ、ステップ490に於いてアシストトルクが目標アシストトルクTaになるよう操舵アシストトルクの制御が実行される。
(2)圧力センサが異常であり、正常な制動圧の制御が不可能である場合
何れかの車輪の圧力センサ70FL〜70RRが異常であることにより、当該車輪について正常な制動圧の制御が不可能である場合には、ステップ230及び250に於いて否定判別が行われ、これによりステップ255に於いてフラグFbが1にセットされ、ステップ260に於いて圧力センサ(70FL〜70RR)が正常である車輪の制動力がそれぞれ目標制動圧Ptiに対応する制動力になるよう制御されると共に、圧力センサ(70FL〜70RR)が異常である車輪の制動力が左右反対側の車輪の制動力と同一の制動力になるよう制御される。
またこの場合には左右輪間の制動力差は実質的に発生しないので、転舵角可変装置24による前輪の舵角δfの制御及び操舵アシストトルクの制御は上述の(1)の場合と同様に実行される。
(3)圧力センサは正常であるが、正常な制動圧の制御が不可能である場合
圧力センサ70FL〜70RRは正常であるが、何れかの車輪の増減圧制御弁等が異常であることにより、当該車輪について正常な制動圧の制御が不可能である場合には、ステップ230に於いて否定判別が行われるが、ステップ250に於いて肯定判別が行われ、これによりステップ265に於いてフラグFbが2にセットされ、ステップ270に於いて圧力センサ(70FL〜70RR)が異常である車輪の制動力は制御されず、当該車輪のホイールシリンダがマスタシリンダ50に接続されるが、圧力センサ(70FL〜70RR)が正常である車輪の制動力がそれぞれ目標制動圧Ptiに対応する制動力になるよう制御される。
またステップ330に於いて肯定判別が行われ、ステップ340に於いて左右輪の制動力差に起因する余分なヨーモーメントMadが演算され、ステップ350に於いて余分なヨーモーメントMad及び車速Vに基づき余分なヨーモーメントMadを相殺するに必要なヨーモーメントを発生するための前輪の舵角の補正量Δδftが演算され、ステップ360に於いて目標ステアリングギヤ比Rgtを達成するための前輪の目標舵角δftと前輪の舵角の補正量Δδftとの和になるよう前輪の目標舵角δftが補正される。
そしてステップ370及び380に於いて前輪の舵角δfが目標舵角δftになるよう転舵角可変装置24が制御されることにより、ステアリングギヤ比が目標ステアリングギヤ比Rgtになると共に余分なヨーモーメントMadを相殺するに必要なヨーモーメントを発生するよう前輪の舵角δfが制御される。
またステップ450に於いて肯定判別が行われ、ステップ460に於いて左右輪の制動力差に起因する余分なヨーモーメントMadが演算され、ステップ470に於いて余分なヨーモーメントMadに基づき前輪の舵角の制御に起因する操舵反力の変動を抑制するための操舵アシストトルクの補正量ΔTaが演算される。
そしてステップ480に於いて目標アシストトルクTaと操舵アシストトルクの補正量ΔTaとの和になるよう目標アシストトルクTaが補正され、ステップ490に於いてアシストトルクが目標アシストトルクTaになるようアシストトルクの制御が実行され、これにより運転者の操舵負担が軽減されると共に、前輪の舵角の制御に起因する操舵反力の変動が抑制される。
従って図示の実施例1によれば、何れかの車輪の増減圧制御弁等に異常が生じ、当該車輪の制動圧を正常に制御することができない状況に於いては、左右輪の制動力差に起因する余分なヨーモーメントMadを相殺するに必要なヨーモーメントを発生するよう前輪の舵角が制御されるので、余分なヨーモーメントに起因して制動時に車両がステアリングホイール14の回転位置に対応する方向とは異なる方向へ走行することを確実に防止することができ、また前輪の舵角の制御に起因する操舵反力の変動を相殺するよう操舵アシストトルクが制御されるので、前輪の舵角の制御に伴う操舵反力の不自然な変動を防止し、これにより操舵反力の不自然な変動に起因して運転者が違和感を覚えることを確実に防止することができる。
例えば図10は右前輪10FRに制動力を付与することができない異常が発生した状況を示している。この場合には左右後輪の制動力Fbrl及びFbrrは互いに同一であるが、左前輪の制動力Fbflは右前輪の制動力Fbfr(説明の便宜上0とされている)とは異なるので、車両100の制動時に左右前輪の制動力差に起因する余分なヨーモーメントMadが作用し、ステアリングホイール14が直進位置にあっても車両100は左方向へ旋回走行しようとする。
図10(A)に示された従来の走行制御装置の場合には、前輪(又は後輪)が車両の右旋回方向へ転舵されることにより右旋回方向へのヨーモーメントMctが車両に付与され、これにより車両100が左旋回方向へ旋回することが阻止される。しかし前輪が車両の右旋回方向へ転舵されると、前輪に左方向へのセルフアライメントトルクTsaが作用し、そのためステアリングホイール14に左旋回方向のトルクが作用し、運転者は直進位置を維持するよう保舵トルクを増大させなければならない。尚このことは前輪(又は後輪)が車両の左旋回方向へ転舵される場合にも左右方向が逆になる点を除き同様である。
これに対し図示の実施例1によれば、前輪が車両の右旋回方向へ転舵されることにより右旋回方向へのヨーモーメントMctが車両に付与され、これにより車両100が左旋回方向へ旋回することが阻止され、車両の直進状態が維持されるだけでなく、図10(B)に於いて矢印Tcsaにて示されている如く、セルフアライメントトルクTsaを相殺するよう操舵アシストトルクが制御されるので、運転者が直進位置を維持するよう保舵トルクを増大させる必要もなければ、前輪の転舵制御に伴う操舵反力の不自然な変動に起因して運転者が違和感を覚えることもない。
特に図示の実施例1によれば、前輪の舵角のみが制御されるので、後輪の舵角の制御は不要であり、従って後輪操舵装置も不要である。また後輪の舵角も制御される場合に比して、操舵輪の舵角の制御を簡便に行うことができる。
尚図示の実施例1に於いては、余分なヨーモーメントMadを相殺するに必要なヨーモーメントを発生するための前輪の舵角の補正量Δδftが演算され、所定の操舵特性を達成するための前輪の目標舵角δftと前輪の舵角の補正量Δδftとの和になるよう前輪の目標舵角δftが補正されるようになっているが、所定の操舵特性を達成するための前輪の舵角の制御が省略され、余分なヨーモーメントMadを相殺するに必要なヨーモーメントを発生させる必要がある場合にのみ前輪の舵角が制御されるよう修正されてもよい。
図11は前輪及び後輪の舵角の制御が可能な車両に適用された本発明による車両の走行制御装置の実施例2を示す概略構成図である。尚図11に於いて図1に示された部材と同一の部材には図1に於いて付された符号と同一の符号が付されている。
この実施例2に於いては、左右の後輪10RL及び10RRは左右の前輪10FL及び10FRの操舵とは独立に、後輪操舵装置52の油圧式又は電動式のパワーステアリング装置54によりタイロッド56L及び56Rを介して操舵され、後輪操舵装置52は電子制御装置34の舵角制御部により制御される。
電子制御装置34は、上述の実施例1の場合と同様、所定の操舵特性が達成されるよう車速Vに基づいて前輪の目標舵角δftを演算すると共に、操舵角θ及び車速Vに基づいて当技術分野に於いて公知の要領にて後輪の目標舵角δrtを演算する。そして電子制御装置34は、全ての車輪について正常な制動圧の制御が可能である通常時には、前輪及び後輪の舵角がそれぞれ前輪の目標舵角δft及び後輪の目標舵角δrtになるよう転舵角可変装置24及び後輪操舵装置52を制御する。
またこの実施例2に於いては、圧力センサ(70FL〜70RR)は正常であるが、何れかの車輪について正常な制動圧の制御が不可能である異常が制動装置42に発生すると、電子制御装置34は左右輪の制動力差に起因する余分なヨーモーメントMadを演算し、余分なヨーモーメントMad及び車速Vに基づき余分なヨーモーメントMadを相殺するに必要なヨーモーメントを発生するための前輪の舵角の補正量Δδft及び後輪の舵角の補正量Δδrtを演算する。
そして電子制御装置34は、所定の操舵特性を達成するための前輪の目標舵角δftと前輪の舵角の補正量Δδftとの和になるよう前輪の目標舵角δftを補正すると共に、所定の操舵特性を達成するための後輪の目標舵角δrtと後輪の舵角の補正量Δδrtとの和になるよう後輪の目標舵角δrtを補正し、前輪及び後輪の舵角がそれぞれ補正後の前輪の目標舵角δft及び補正後の後輪の目標舵角δrtになるよう制御することにより、所定の操舵特性を達成すると共に余分なヨーモーメントMadを相殺するに必要なヨーモーメントを発生させる。
更に電子制御装置34は、余分なヨーモーメントMadに基づき前輪及び後輪の舵角の制御に起因する操舵反力の変動を抑制するための操舵アシストトルクの補正量ΔTaを演算し、上述の実施例1の場合と同様、運転者の操舵負担を軽減する操舵アシスト力を発生する目標アシストトルクTaと補正量ΔTaとの和になるよう目標アシストトルクTaを補正し、補正後の目標アシストトルクTaに基づいて電動式パワーステアリング装置16を制御することにより、運転者の操舵負担を軽減すると共に前輪及び後輪の舵角の制御に伴う操舵反力の変動を防止する。
尚この実施例2に於いては、各車輪の制動力は上述の実施例1の場合と同様、図2に示された制御ルーチンに従って制御される。また後輪の舵角の補正量Δδrtの大きさは前輪の舵角の補正量Δδftの大きさよりも小さい。更に大きさが同一の余分なヨーモーメントMadについて見て実施例2に於ける前輪の舵角の補正量Δδftの大きさは上述の実施例1に於ける前輪の舵角の補正量Δδftの大きさよりも小さいので、実施例2に於ける操舵アシストトルクの補正量ΔTaの大きさは上述の実施例1に於ける操舵アシストトルクの補正量ΔTaの大きさよりも小さい。
図12は実施例2に於ける前輪及び後輪の舵角の制御ルーチンを示すフローチャートであり、図13は実施例2に於ける操舵アシストトルクの制御ルーチンを示すフローチャートである。尚図12及び図13に示されたフローチャートによる制御も図には示されていないイグニッションスイッチの閉成により開始され、所定の時間毎に繰返し実行される。また尚図12及び図13に於いてそれぞれ図3及び図4に示されたステップと同一のステップには図3及び図4に於いて付されたステップ番号と同一のステップ番号が付されている。
この実施例2の前輪及び後輪の舵角の制御ルーチンに於いては、ステップ320に於いて上述の実施例1の場合と同一の要領にて所定の操舵特性を達成するための前輪の目標舵角δftが演算されると共に、操舵角θ及び車速Vに基づいて当技術分野に於いて公知の要領にて所定の操舵特性を達成するための後輪の目標舵角δrtが演算される。
またステップ350に於いて余分なヨーモーメントMad及び車速Vに基づき図14に示されたグラフに対応するマップより余分なヨーモーメントMadに対抗するに必要なヨーモーメントを発生するための前輪の舵角の補正量Δδftが演算され、ステップ355に於いて余分なヨーモーメントMadに基づき図15に示されたグラフに対応するマップより余分なヨーモーメントMadに対抗するに必要なヨーモーメントを発生するための後輪の舵角の補正量Δδrtが演算される。この場合前輪の舵角の補正量Δδft及び後輪の舵角の補正量Δδrtは、前輪の舵角の補正量Δδftにより発生されるヨーモーメントと後輪の舵角の補正量Δδrtにより発生されるヨーモーメントとの和が余分なヨーモーメントMadを相殺するよう演算される。
またステップ360に於いてはステップ320に於いて演算された前輪の目標舵角δftとステップ350に於いて演算された前輪の舵角の補正量Δδftとの和になるよう前輪の目標舵角δftが補正されると共に、ステップ320に於いて演算された後輪の目標舵角δrtとステップ355に於いて演算された後輪の舵角の補正量Δδrtとの和になるよう後輪の目標舵角δrtが補正される。
更にステップ380の次に実行されるステップ385に於いて、後輪操舵装置52が制御されることにより、後輪の舵角δrが目標舵角δrtになるよう制御される。尚前輪及び後輪の舵角の制御ルーチンの他のステップは上述の実施例1の場合と同一の要領にて実行される。
またこの実施例2の操舵アシストトルクの制御ルーチンに於いては、ステップ410〜460及びステップ480、490は上述の実施例1の場合と同一の要領にて実行されるが、前輪及び後輪の舵角の制御に起因する操舵反力の変動を抑制するための操舵アシストトルクの補正量ΔTaはステップ470に於いて余分なヨーモーメントMadに基づき図15に示されたグラフに対応するマップより演算される。
かくして図示の実施例2によれば、上述の(3)の場合には、即ち圧力センサ(70FL〜70RR)は正常であるが、正常な制動圧の制御が不可能である場合には、ステップ340に於いて左右輪の制動力差に起因する余分なヨーモーメントMadが演算され、ステップ350に於いて余分なヨーモーメントMad及び車速Vに基づき余分なヨーモーメントMadに対抗するに必要なヨーモーメントを発生するための前輪の舵角の補正量Δδftが演算され、ステップ355に於いて余分なヨーモーメントMadに基づき余分なヨーモーメントMadに対抗するに必要なヨーモーメントを発生するための後輪の舵角の補正量Δδrtが演算される。
またステップ360に於いて所定の操舵特性を達成するための前輪の目標舵角δftと前輪の舵角の補正量Δδftとの和になるよう前輪の目標舵角δftが補正されると共に、所定の操舵特性を達成するための後輪の目標舵角δrtと後輪の舵角の補正量Δδrtとの和になるよう後輪の目標舵角δrtが補正される。
そしてステップ370及び380に於いて前輪の舵角δfが目標舵角δftになるよう転舵角可変装置24が制御され、ステップ385に於いて後輪の舵角δrが目標舵角δrtになるよう後輪操舵装置52が制御されることにより、所定の操舵特性が達成されると共に余分なヨーモーメントMadを相殺するに必要なヨーモーメントを発生するよう前輪の舵角δf及び後輪の舵角δrが制御される。
またステップ460に於いて左右輪の制動力差に起因する余分なヨーモーメントMadが演算され、ステップ470に於いて余分なヨーモーメントMadに基づき前輪及び後輪の舵角の制御に起因する操舵反力の変動を抑制するための操舵アシストトルクの補正量ΔTaが演算される。
そしてステップ480に於いて目標アシストトルクTaと操舵アシストトルクの補正量ΔTaとの和になるよう目標アシストトルクTaが補正され、ステップ490に於いてアシストトルクが目標アシストトルクTaになるようアシストトルクの制御が実行され、これにより運転者の操舵負担が軽減されると共に、前輪及び後輪の舵角の制御に起因する操舵反力の変動が抑制される。
従って図示の実施例2によれば、何れかの車輪の増減圧制御弁等に異常が生じ、当該車輪の制動圧を正常に制御することができない状況に於いては、左右輪の制動力差に起因する余分なヨーモーメントMadを相殺するに必要なヨーモーメントを発生するよう前輪及び後輪の舵角が制御されるので、余分なヨーモーメントに起因して制動時に車両がステアリングホイール14の回転位置に対応する方向とは異なる方向へ走行することを確実に防止することができ、また前輪及び後輪の舵角の制御に起因する操舵反力の変動を相殺するよう操舵アシストトルクが制御されるので、前輪及び後輪の舵角の制御に伴う操舵反力の不自然な変動を防止し、操舵反力の不自然な変動に起因して運転者が違和感を覚えることを確実に防止することができる。
また図示の実施例2によれば、左右輪の制動力差に起因する余分なヨーモーメントMadを相殺するに必要なヨーモーメントを発生するよう前輪及び後輪の舵角が制御されるので、前輪又は後輪の舵角のみが制御される場合に発生する車両の横方向への不必要な移動を確実に低減することができ、これにより車両の走行性能を上述の実施例1の場合よりも向上させることができる。
例えば図17(A)に示されている如く、右前輪10FRに制動力を付与することができない異常が発生し、これに対処すべく前輪10FL及び10FRの舵角が右旋回方向へ転舵制御される場合には、前輪10FL及び10FRに右方向への横力が作用し、そのため車両100は左方より横風を受けた場合の如く直進方向へ向いた状態で走行しながら右方向へ移動する。尚図には示されていないが、前輪10FL及び10FRの舵角が左旋回方向へ転舵制御される場合には、前輪10FL及び10FRに左方向への横力が作用し、そのため車両100は右方より横風を受けた場合の如く直進方向へ向いた状態で走行しながら左方向へ移動する。
また図17(B)に示されている如く、右前輪10FRに制動力を付与することができない異常が発生し、これに対処すべく後輪10RL及び10RRの舵角が車両の右旋回方向へ転舵制御される場合には、後輪10RL及び10RRに左方向への横力が作用し、そのため車両100は右方より横風を受けた場合の如く直進方向へ向いた状態で走行しながら左方向へ移動する。尚図には示されていないが、後輪10RL及び10RRの舵角が車両の左旋回方向へ転舵制御される場合には、後輪10RL及び10RRに右方向への横力が作用し、そのため車両100は左方より横風を受けた場合の如く直進方向へ向いた状態で走行しながら右方向へ移動する。
これに対し図示の実施例2によれば、前輪が右方向へ転舵されると共に後輪が左方向へ転舵されることにより右旋回方向へのヨーモーメントMctが車両に付与され、これにより車両100が左旋回方向へ旋回することが阻止されると共に、前輪及び後輪に作用する横力が互いに逆向きになるので、車両の横方向への移動を低減しつつ車両を直進走行させることができる。
また図示の実施例2によれば、大きさが同一の余分なヨーモーメントMadについて見て実施例2に於ける前輪の舵角の補正量Δδftの大きさは上述の実施例1に於ける前輪の舵角の補正量Δδftの大きさよりも小さいので、実施例2に於ける操舵アシストトルクの補正量ΔTaの大きさは上述の実施例1に於ける操舵アシストトルクの補正量ΔTaの大きさよりも小さくてよく、従って前輪及び後輪の舵角の制御に伴う操舵反力の不自然な変動を低減するために必要な操舵アシストトルクの制御量の大きさを小さくすることができる。
特に図示の実施例2によれば、後輪の舵角の補正量Δδrtの大きさは前輪の舵角の補正量Δδftの大きさよりも小さいので、後輪の舵角の補正量Δδrtの大きさが前輪の舵角の補正量Δδftの大きさと同一である場合に比して、後輪操舵装置52の後輪の舵角の制御量の大きさを小さくすることができ、従って後輪操舵装置52を小型化することができる。
尚図示の実施例2に於いては、余分なヨーモーメントMadを相殺するに必要なヨーモーメントを発生するための前輪の舵角の補正量Δδft及び後輪の舵角の補正量Δδrtが演算され、所定の操舵特性を達成するための前輪の目標舵角δftと前輪の舵角の補正量Δδftとの和になるよう前輪の目標舵角δftが補正されると共に、所定の操舵特性を達成するための後輪の目標舵角δrtと後輪の舵角の補正量Δδrtとの和になるよう後輪の目標舵角δrtが補正されるようになっているが、所定の操舵特性を達成するための前輪の舵角の制御が省略され、余分なヨーモーメントMadを相殺するに必要なヨーモーメントを発生させる必要がある場合にのみ前輪及び後輪の舵角が制御されるよう修正されてもよい。
また上述の実施例1及び2によれば、前輪の舵角を制御する転舵角可変装置24は操舵アシストトルクを制御する電動式パワーステアリング装置16とは別の手段であるので、前輪の舵角の制御とそれに伴う操舵反力の変化低減制御との間に於ける制御干渉を確実に防止することができ、左右輪の制動力差に起因する余分なヨーモーメントMadを相殺するに必要なヨーモーメントを前輪の舵角の制御によって確実に発生させつつ、前輪の舵角の制御に伴う操舵反力の不自然な変動を確実に低減することができる。
また上述の実施例1及び2によれば、左右輪の制動力差に起因する余分なヨーモーメントMadが演算され、余分なヨーモーメントMadに基づき前輪の舵角の制御に起因する操舵反力の変動を抑制するための操舵アシストトルクの補正量ΔTaが演算されるので、例えば前輪の舵角の補正量Δδft及び車速Vに基づいて操舵アシストトルクの補正量ΔTaが演算される場合に比して、操舵アシストトルクの補正量ΔTaを簡便に演算することができ、操舵反力の不自然な変動を防止するための操舵アシスト力の制御を効率的に行うことができる。
また上述の実施例1及び2によれば、舵角の補正量Δδftは余分なヨーモーメントMad及び車速Vに基づいて演算されるので、車速Vが考慮されることなく舵角の補正量が演算される場合に比して舵角の補正量を正確に演算することができ、これにより車両に実際に作用する余分なヨーモーメントに応じて正確に操舵輪の舵角を制御することができる。尚車速Vが考慮されることなく舵角の補正量が演算される場合にも、左右輪の制動力差に起因する余分なヨーモーメントに対抗するヨーモーメントを車両に付与し車両に作用する不必要なヨーモーメントを低減することができるので、車速Vの考慮が省略されてもよい。
また上述の実施例1及び2によれば、目標舵角δft(及びδrt)は所定の操舵特性を達成するための目標舵角と余分なヨーモーメントMadを相殺するに必要なヨーモーメントを発生させるための補正量との和として演算されるようになっているので、所定の操舵特性を達成しつつ、不必要なヨーモーメントに起因して制動時に車両がステアリングホイール14の回転位置に対応する方向とは異なる方向へ走行することを確実に防止することができる。
また上述の実施例1及び2によれば、目標アシストトルクTaは車速に応じた所定の操舵アシストを達成するための目標アシストトルクと操舵輪の舵角の制御に起因する操舵反力の変動を抑制するための操舵アシストトルクの補正量ΔTaとの和として演算されるようになっているので、所定の操舵アシストを達成しつつ、操舵輪の舵角の制御に伴う操舵反力の不自然な変動を確実に低減することができる。
更に上述の実施例1及び2によれば、何れかの車輪の圧力センサ70FL〜70RRが異常であることにより、当該車輪について正常な制動圧の制御が不可能である場合には、圧力センサが正常である車輪の制動力がそれぞれ目標制動圧Ptiに対応する制動力になるよう制御されると共に、圧力センサが異常である車輪の制動力が左右反対側の車輪の制動力と同一の制動力になるよう制御されるので、車両に余分なヨーモーメントが作用する虞れを効果的に低減すると共に、余分なヨーモーメントに対抗するヨーモーメントが発生するよう操舵輪の舵角を制御する必要性を排除することができる。
以上に於いては本発明を特定の実施例について詳細に説明したが、本発明は上述の実施例に限定されるものではなく、本発明の範囲内にて他の種々の実施例が可能であることは当業者にとって明らかであろう。
例えば上述の各実施例に於いては、舵角の補正量Δδft(及びΔδrt)は余分なヨーモーメントMadを相殺するに必要なヨーモーメントMctを発生するための補正量として演算され、必要なヨーモーメントMctの大きさは余分なヨーモーメントMadの大きさと同一であるが、必要なヨーモーメントMctの大きさが余分なヨーモーメントMadの大きさよりも小さくなるよう舵角の補正量が演算されてもよい。
また上述の各実施例に於いては、通常時には左右の車輪の制動圧が同圧に制御され、各車輪の制動圧Piに基づき上記式2に従って左右輪の制動力差に起因する余分なヨーモーメントMadが演算されるようになっているが、例えば車両の走行運動を制御する目的で車両の目標ヨーモーメントMtが演算され、車両のヨーモーメントが目標ヨーモーメントになるよう各車輪の制動力が制御される場合には、左右輪の制動力差に起因する余分なヨーモーメントMadは下記の式3に従って演算されてよい。
Mad=Mt−(KbwflPfl+KbwrlPrl−KbwfrPfr−KbwrrPrr)W/2……(3)
また上述の各実施例に於いては、転舵角可変装置24はアッパステアリングシャフト22に対し相対的にロアステアリングシャフト26を回転させることにより運転者の操舵操作に依存せずに左右の前輪10FL及び10FRを自動的に転舵するようになっているが、運転者の操舵操作とは独立に操舵輪を操舵し得る限り、例えばタイロッド20L及び20Rを伸縮させる型式の転舵角可変装置の如く当技術分野に於いて公知の任意の構成のものであってよい。
前輪の舵角の制御が可能な車両に適用された本発明による車両の走行制御装置の実施例1を示す概略構成図である。
実施例1に於ける制動力の制御ルーチンを示すフローチャートである。
実施例1に於ける前輪の舵角の制御ルーチンを示すフローチャートである。
実施例1に於ける操舵アシストトルクの制御ルーチンを示すフローチャートである。
車速Vと目標ステアリングギヤ比Rgtとの間の関係を示すグラフである。
余分なヨーモーメントMad及び車速Vと余分なヨーモーメントMadに対抗するに必要なヨーモーメントを発生するための前輪の舵角の補正量Δδftとの間の関係を示すグラフである。
操舵トルクTsと目標アシストトルクTaとの間の関係を示すグラフである。
車速Vと車速係数Kvとの間の関係を示すグラフである。
余分なヨーモーメントMadと前輪の舵角の制御に起因する操舵反力の変動を抑制するための操舵アシストトルクの補正量ΔTaとの間の関係を示すグラフである。
右前輪に制動力を付与することができない異常が発生した状況について、従来の走行制御装置の場合の車両の状態(A)及び実施例1の走行制御装置の場合の車両の状態(B)を示す説明図である。
前輪及び後輪の舵角の制御が可能な車両に適用された本発明による車両の走行制御装置の実施例2を示す概略構成図である。
実施例2に於ける前輪及び後輪の舵角の制御ルーチンを示すフローチャートである。
実施例2に於ける操舵アシストトルクの制御ルーチンを示すフローチャートである。
余分なヨーモーメントMad及び車速Vと余分なヨーモーメントMadに対抗するに必要なヨーモーメントを発生するための前輪の舵角の補正量Δδftとの間の関係を示すグラフである。
余分なヨーモーメントMadと余分なヨーモーメントMadに対抗するに必要なヨーモーメントを発生するための後輪の舵角の補正量Δδrtとの間の関係を示すグラフである。
余分なヨーモーメントMadと前輪の舵角の制御に起因する操舵反力の変動を抑制するための操舵アシストトルクの補正量ΔTaとの間の関係を示すグラフである。
右前輪に制動力を付与することができない異常が発生した状況に於いて、前輪の舵角のみが制御される場合の車両の状態(A)及び後輪の舵角のみが制御される場合の車両の状態(B)を示す説明図である。
符号の説明
14 ステアリングホイール
16 電動式パワーステアリング装置
24 転舵角可変装置
34 電子制御装置
42 制動装置
60 操舵角センサ
62 トルクセンサ
64 回転角度センサ
66 車速センサ
68 圧力センサ
70FL〜70RR 圧力センサ