以下に添付の図を参照しつつ、本発明を好ましい実施例について詳細に説明する。
図1は転舵角可変装置を備えた後輪駆動車に適用された本発明による車輌の走行制御装置の一つの実施例を示す概略構成図である。
図1に於いて、10FL及び10FRはそれぞれ車輌12の従動操舵輪としての左右の前輪を示し、10RL及び10RRはそれぞれ車輌の駆動輪としての左右の後輪を示している。操舵輪である左右の前輪10FL及び10FRは運転者によるステアリングホイール14の操作に応答して駆動されるラック・アンド・ピニオン型のパワーステアリング装置16によりラックバー18及びタイロッド20L及び20Rを介して転舵される。
ステアリングホイール14はアッパステアリングシャフト22、転舵角可変装置24、ロアステアリングシャフト26、ユニバーサルジョイント28を介してパワーステアリング装置16のピニオンシャフト30に駆動接続されている。図示の実施例に於いては、転舵角可変装置24はハウジング24Aの側にてアッパステアリングシャフト22の下端に連結され、回転子24Bの側にてロアステアリングシャフト26の上端に連結された補助転舵駆動用の電動機32を含んでいる。
かくして転舵角可変装置24はアッパステアリングシャフト22に対し相対的にロアステアリングシャフト26を回転駆動することにより、ステアリングホイール14の回転角度に対する操舵輪である左右の前輪10FL及び10FRの舵角の比、即ち操舵伝達比(ステアリングギヤ比の逆数に対応)を変化させる操舵伝達比可変装置として機能し、電子制御装置34により制御される。
特に転舵角可変装置24は、通常時にはアッパステアリングシャフト22の回転に対するロアステアリングシャフト26の回転の増速比が車速Vに応じた所定の増速比になるよう電動機32によってロアステアリングシャフト26がアッパステアリングシャフト22に対し相対的に回転され、これによりステアリングギヤ比が所定の操舵特性を達成するギヤ比になるよう制御される。
尚増速比が所定の増速比になるようアッパステアリングシャフト22に対し相対的にロアステアリングシャフト26を回転駆動することができない異常が転舵角可変装置24に発生すると、図1には示されていないロック装置が作動し、アッパステアリングシャフト22に対するロアステアリングシャフト26の相対回転角度が変化しないよう、ハウジング24A及び回転子24Bの相対回転が機械的に阻止される。
またパワーステアリング装置16は油圧式パワーステアリング装置及び電動式パワーステアリング装置の何れであってもよいが、転舵角可変装置24による前輪の補助転舵駆動により発生されステアリングホイール14に伝達される反力トルクを低減する補助操舵トルクが発生されるよう、例えば電動機と、電動機の回転トルクをラックバー18の往復動方向の力に変換するボールねじ式の如き変換機構とを有するラック同軸型の電動式パワーステアリング装置であることが好ましい。
各車輪の制動力は制動装置36の油圧回路38によりホイールシリンダ40FL、40FR、40RL、40RR内の圧力Pi(i=fl、fr、rl、rr)、即ち制動圧が制御されることによって制御される。図には示されていないが、油圧回路38はオイルリザーバ、オイルポンプ、種々の弁装置等を含み、各ホイールシリンダの制動圧は通常時には運転者によるブレーキペダル42の踏み込み操作に応じて駆動されるマスタシリンダ44により制御され、また必要に応じて後に詳細に説明する如く電子制御装置34により個別に制御される。
図示の実施例に於いては、アッパステアリングシャフト22には該アッパステアリングシャフトの回転角度を操舵角θとして検出する操舵角センサ50が設けられており、転舵角可変装置24にはハウジング24A及び回転子24Bの相対回転角度をアッパステアリングシャフト22に対するロアステアリングシャフト26の相対回転角度θreとして検出する回転角度センサ52が設けられており、これらのセンサの出力は電子制御装置34へ供給される。尚操舵角センサ52はロアステアリングシャフト28Bの回転角度θsを検出するセンサに置き換えられ、相対回転角度θreは操舵角の差θs−θとして求められてもよい。
また電子制御装置34には車速センサ54により検出された車速Vを示す信号、圧力センサ56により検出されたマスタシリンダ圧力Pmを示す信号、圧力センサ58FL〜58RRにより検出された各車輪の制動圧Piを示す信号、アクセルペダル60に設けられたアクセル開度センサ62よりアクセル開度φを示す信号が入力される。
尚図1には詳細に示されていないが、電子制御装置34は転舵角可変装置24を制御する転舵制御部と、各車輪の制動力を制御する制動力制御部と、エンジン64を制御するエンジン制御部とよりなり、各制御部はそれぞれCPUとROMとRAMと入出力ポート装置とを有し、これらが双方向性のコモンバスにより互いに接続されたマイクロコンピュータを含むものであってよい。また操舵角センサ50及び回転角度センサ52はそれぞれ車輌の左旋回方向への操舵又は転舵の場合を正として操舵角θ、相対回転角度θreを検出する。
後述の如く、操舵制御装置34は車速Vが低い領域に於いては転舵角可変装置24の目標増速比Kvgtが正の値になり、車速Vが高い領域に於いては目標増速比Kvgtが負の値になるよう、車速Vに基づいて転舵角可変装置24の目標増速比Kvgtを演算し、目標増速比Kvgtに基づいて目標相対回転角度θretを演算し、目標相対回転角度θretと相対回転角度θreとの偏差が0になるよう転舵角可変装置24の電動機32を制御する。
また電子制御装置34は転舵角可変装置24が正常に作動する通常時には、アクセル開度センサ62により検出されるアクセル開度φ及びマスタシリンダ圧力Pmに基づき当技術分野に於いて公知の要領にて車輌の目標制駆動力Fvtを演算し、目標制駆動力Fvtが駆動力であるときには、アクセル開度φに基づいてエンジン64の目標スロットル開度φtを演算し、目標スロットル開度φtに基づいてエンジン64を制御する。
また電子制御装置34は転舵角可変装置24が正常に作動する通常時には、目標制駆動力Fvtが制動力であるときには、マスタシリンダ圧力Pmに所定の増圧係数Ki(i=fl、fr、rl、rr)を乗算した値を各車輪の目標制動圧Pti(i=fl、fr、rl、rr)として演算し、制動圧Piがそれぞれ対応する目標制動圧Ptiになるよう制御する。
これに対し転舵角可変装置24に異常が生じロック装置が作動されたときには、電子制御装置34は目標相対変位量と転舵角可変装置24に異常が生じた時点の相対変位量との偏差及び車速Vに基づいて車輌に作用する余分なヨーモーメントに対抗するヨーモーメントを車輌に付与するに必要なヨーモーメントMtを演算する。尚ヨーモーメントMtは余分なヨーモーメントと方向が反対で大きさが余分なヨーモーメントと同一又はそれよりも小さいモーメントとして演算される。
そして電子制御装置34は目標制駆動力Fvt及びヨーモーメントMtを達成するための各車輪の目標制動力Fbti及び車輌の目標駆動力Fvdtを演算し、目標制動力Fbtiに基づいて各車輪の目標制動圧Ptiを演算し、制動圧Piがそれぞれ対応する目標制動圧Ptiになるよう制御すると共に、目標駆動力Fvdtに基づいてエンジン64の目標スロットル開度φtを演算し、目標スロットル開度φtに基づいてエンジン64を制御する。
尚、上述の転舵角可変装置24の制御、制動力の制御、エンジンの制御自体は本発明の要旨をなすものではなく、これらの制御は当技術分野に於いて公知の任意の要領にて実行されてよい。
次に図2に示されたフローチャートを参照して図示の実施例に於ける転舵角可変装置の制御ルーチンについて説明する。尚図2に示されたフローチャートによる制御は図には示されていないイグニッションスイッチの閉成により開始され、所定の時間毎に繰返し実行される。
まずステップ10に於いては、操舵角センサ60により検出された操舵角θを示す信号等の読み込みが行われ、ステップ20に於いては車速Vに基づいて図3に示されたグラフに対応するマップより転舵角可変装置30の目標増速比Kvgtが演算され、ステップ30に於いては目標増速比Kvgtと操舵角θとの積として転舵角可変装置24の目標相対回転角度θretが演算され、ステップ40に於いては目標相対回転角度θretと転舵角可変装置30の相対回転角度θreとの偏差として回転角度偏差Δθreが演算される。
ステップ50に於いては回転角度偏差Δθreの微分値Δθredが例えば時間微分値として演算されると共に、Kp及びKdをそれぞれ比例項ゲイン及び微分項ゲイン(何れも正の定数)として、下記の式1に従って転舵角可変装置30の電動機36に対する目標制御電圧Vstが演算される。
Vst=KpΔθre+KdΔθred ……(1)
ステップ60に於いては転舵角可変装置30についての異常判定条件が成立したか否かの判別が行われ、肯定判別が行われたときにはステップ80へ進み、否定判別が行われたときにはステップ70へ進む。尚異常判定条件自体は本発明の要旨をなすものではないので、当技術分野に於いて公知の任意の条件であってよく、例えば回転角度偏差Δθreの絶対値が基準値Δθreo(正の定数)以上である状態が基準時間To(正の定数)以上継続したときに転舵角可変装置30についての異常判定条件が成立したと判別されてよい。
ステップ70に於いては転舵角可変装置24の電動機32に対し目標制御電圧Vstにて制御電流が通電されることにより、転舵角可変装置24の相対回転角度θreが目標相対回転角度θretになるよう制御され、ステップ80に於いては転舵角可変装置24がそのロック装置によりロックされ、アッパステアリングシャフト28Aに対するロアステアリングシャフト28Bの相対回転が機械的に阻止されると共に、その時点に於ける相対回転角度θreaがRAMの如き記憶手段に記憶される。
次に図4に示されたフローチャートを参照して実施例に於ける転舵角可変装置の異常時の走行制御ルーチンについて説明する。尚図4に示されたフローチャートによる制御も図には示されていないイグニッションスイッチの閉成により開始され、所定の時間毎に繰返し実行される。また図4に示されたフローチャートによる制御の開始時には、フラグFe、Fc及びカウンタのカウント値nが0に初期化される。
まずステップ110に於いては、回転角度センサ52により検出された相対回転角度θreを示す信号等の読み込みが行われ、ステップ120に於いては転舵角可変装置24に異常が発生しロック装置が作動されたか否かの判別が行われ、否定判別が行われたときにはステップ110へ戻り、肯定判別が行われたときにはステップ130へ進む。
ステップ130に於いては相対回転角度θreの絶対値が基準値θreo(正の定数)以上であるか否かの判別、即ちヨーモーメントの制御が必要であるか否かの判別が行われ、否定判別が行われたときにはヨーモーメントの制御が不要であるので図4に示されたフローチャートによる制御が終了され、肯定判別が行われたときにはステップ140へ進む。
ステップ140に於いては上述のステップ20及び30の場合と同一の要領にて転舵角可変装置24の目標相対回転角度θretが演算され、転舵角可変装置24に異常が発生した時点に於ける相対回転角度θreaと目標相対回転角度θretとの偏差Δθreが演算され、相対回転角度の偏差Δθre及び車速Vに基づいて図5に示されたグラフに対応するマップより車輌に作用する余分なヨーモーメントに対抗するヨーモーメントを車輌に付与するに必要なヨーモーメントMtが演算される。
ステップ150に於いては例えば操舵角θの変化に基づき運転者により切り戻し操舵が行われているか否かの判別が行われ、肯定判別が行われたときにはステップ160に於いてフラグFeが1にセットされ、否定判別が行われたときにはステップ170へ進む。
ステップ170に於いてはフラグFeが1であるか否かの判別、即ち転舵角可変装置24に異常が発生した後に運転者によって切り戻し操舵が行われることにより、上述のステップ150に於いて既に肯定判別が行われたことがあるか否かの判別が行われ、肯定判別が行われたときにはステップ200へ進み、否定判別が行われたときにはステップ140へ戻る。
ステップ180に於いては操舵角θの絶対値が基準値θo(正の定数)以下であるか否かの判別、即ちステアリングホイール14が実質的に中立位置にあるか否かの判別が行われ、否定判別が行われたときにはステップ200へ進み、肯定判別が行われたときにはステップ190に於いてフラグFcが1にセットされた後ステップ220へ進む。
ステップ200に於いてはフラグFcが1であるか否かの判別、即ち転舵角可変装置24に異常が発生した後に上述のステップ180に於いて既に肯定判別が行われたことがあるか否かの判別が行われ、否定判別が行われたときにはステップ210に於いて必要なヨーモーメントMtが前回値Mtに設定された後ステップ250へ進み、肯定判別が行われたときにはステップ220へ進む。
ステップ220に於いてはカウンタのカウント値nが1インクリメントされ、ステップ230に於いてはΔMtを小さい正の定数とし、signMtを必要なヨーモーメントMtの符号として、必要なヨーモーメントMtがnΔMt signMtデクリメントされることにより、必要なヨーモーメントMtの大きさが漸減される。
ステップ240に於いては必要なヨーモーメントMtの絶対値が基準値Mto(小さい正の定数)以下であるか否かの判別、即ち必要なヨーモーメントMtの大きさが実質的に0であり、必要なヨーモーメントMtの大きさのそれ以上の漸減が不要であるか否かの判別が行われ、肯定判別が行われたときには図4に示されたフローチャートによる制御が終了され、否定判別が行われたときにはステップ250へ進む。
ステップ250に於いては目標制駆動力Fvt及びヨーモーメントMtを達成するための各車輪の目標制動力Fbti及び車輌の目標駆動力Fvdtが演算され、ステップ260に於いては目標制動力Fbtiに基づいて各車輪の目標制動圧Ptiが演算され、制動圧Piがそれぞれ対応する目標制動圧Ptiになるよう制御されると共に、目標駆動力Fvdtに基づいてエンジン64の目標スロットル開度φtが演算され、目標スロットル開度φtに基づいてエンジン64が制御される。
尚ステップ250に於いては、前輪のトレッドTfとして、ヨーモーメントMtが正の値であるときには、各車輪の目標制動力Fbti及び車輌の目標駆動力Fvdtが下記の式2〜4に従って演算され、ヨーモーメントMtが負の値であるときには、各車輪の目標制動力Fbti及び車輌の目標駆動力Fvdtが下記の式5〜7に従って演算されてよい。
Fbtfl=Mt/Tf ……(2)
Fbtfr=Fbtrl=Fbtrr=0 ……(3)
Fvdt=Fvt+Fbtfl ……(4)
Fbtfr=−Mt/Tf ……(5)
Fbtfl=Fbtrl=Fbtrr=0 ……(6)
Fvdt=Fvt+Fbtfr ……(7)
かくして図示の実施例によれば、ステップ20に於いて車速Vに基づいて転舵角可変装置30の目標増速比Kvgtが演算され、ステップ30に於いて目標増速比Kvgtと操舵角θとの積として転舵角可変装置24の目標相対回転角度θretが演算され、ステップ40に於いて目標相対回転角度θretと転舵角可変装置30の相対回転角度θreとの偏差として回転角度偏差Δθreが演算され、ステップ50に於いて回転角度偏差Δθreに基づいて電動機36に対する目標制御電圧Vstが演算され、転舵角可変装置24が正常であるときにはステップ60に於いて否定判別が行われ、ステップ70に於いて転舵角可変装置30の相対回転角度θreが目標相対回転角度θretになるよう制御される。
これに対し転舵角可変装置24に異常が生じたときにはステップ60に於いて肯定定判別が行われ、ステップ80に於いて転舵角可変装置24がそのロック装置によりロックされ、アッパステアリングシャフト28Aに対するロアステアリングシャフト28Bの相対回転が機械的に阻止されると共に、その時点に於ける相対回転角度θreaがRAMの如き記憶手段に記憶される。
例えば転舵角可変装置24に異常が生じた時点に於ける操舵角θと目標相対回転角度θretとの関係が図6に示された関係にあるとし、転舵角可変装置24に異常が生じた時点に於ける操舵角θがθ1とすると、操舵角θがθ1であるときの相対回転角度θreが相対回転角度θreaとなる。
転舵角可変装置24に異常が生じた後に運転者により切り戻し操舵操作が行われ、操舵角θの大きさが低減されても、アッパステアリングシャフト28A及びロアステアリングシャフト28Bは相対回転しないので、転舵角可変装置24の相対回転角度θreは図6に於いて矢印にて示されている如く相対回転角度θreaのまま変化しない。従って切り戻し操舵操作による操舵角θの大きさの減少につれて目標相対回転角度θretと実際の相対回転角度θreとの偏差Δθreの大きさが漸次増大し、操舵角θが0になったときの相対回転角度の偏差Δθreはθreaになる。
従って図7(A)に示されている如く、運転者が車輌を直進走行させようとしてステアリングホイール14を中立位置に操作しても、操舵角θは0であるにも拘らず、左右の前輪10FL及び10FRが相対回転角度θreaに対応する角度δa左旋回方向へ転舵された状態になり、車輌12に余分なヨーモーメントMaが作用し、車輌は直進せずに左方向へ旋回してしまう。
図示の実施例によれば、転舵角可変装置24に異常が生じたときには、図4に示されたフローチャートのステップ120に於いて肯定定判別が行われ、相対回転角度θreの絶対値が基準値θreo以上であるときにはステップ130に於いて肯定判別が行われ、ステップ140に於いて転舵角可変装置24に異常が発生した時点に於ける相対回転角度θreaと目標相対回転角度θretとの偏差Δθreが演算され、相対回転角度の偏差Δθre及び車速Vに基づいて車輌に作用する余分なヨーモーメントMaに対抗するヨーモーメントを車輌に付与するに必要なヨーモーメントMtが演算される。
そしてステップ150に於いて運転者により切り戻し操舵操作が行われていると判別されると、ステップ180に於いて操舵角θの大きさが基準値θo以下になりステアリングホイール14が実質的に中立位置へ戻されたと判別されるまで、ステップ250及び260に於いて余分なヨーモーメントMaに対抗するヨーモーメントMc(=Mt)が車輌に付与され、これにより転舵角可変装置24に相対回転角度θreaが残存し、車輌の走行方向がステアリングホイール14の位置に対応する走行方向と一致しないことに起因して運転者が違和感を覚える虞れが確実に低減される。
図7(B)は図示の実施例によるヨーモーメントの制御が行われた場合に於ける車輌の状況を示しており、右前輪に目標制動力Fbtflに対応する制動力Fbflが付加され、左右前輪の制駆動力差によって余分なヨーモーメントMaに対抗するヨーモーメントMcが車輌に付与されるので、ステアリングホイール14の中立位置に対応する直進方向に車輌を走行させることができる。
またこの場合右前輪に制動力Fbflが付加されるが、左右の後輪10RL及び10RRの付加駆動力の和が制動力Fbflと等しくなるよう、エンジン64の出力が増大されることによって左右の後輪10RL及び10RRの駆動力Fdrl及びFdrrが増大され、これによりヨーモーメントの制御に起因する不必要な車輌の減速が防止される。
尚転舵角可変装置24に異常が発生すると、運転者により切り増し操舵操作が行われる場合にも転舵角可変装置24に相対回転角度θreaが残存するが、運転者はステアリングホイール14の操作により車輌を所望の旋回状態にすることができるので、運転者がアッパステアリングシャフト28Aよりロアステアリングシャフト28Bへ確実に回転が切り増し操舵操作時に過剰の違和感を覚えることはない。
また図示の実施例によれば、一旦ステップ180に於いて操舵角θの大きさが基準値θo以下であると判別されると、ステップ200〜240に於いて必要なヨーモーメントMtの大きさが実質的に0になるまで必要なヨーモーメントMtの大きさが漸減されるので、ステアリングホイール14が実質的に中立位置へ戻された直後にヨーモーメントMtの大きさが0に急激に低減される場合に比して、ヨーモーメントMtの変化に起因して運転者が覚える違和感を低減することができ、また図7(C)に示されている如く、運転者は相対回転角度θreaとは反対の方向へステアリングホイール14を徐々に転舵することにより、車輌の走行方向を確実に自ら欲する走行方向にすることができる。
図8は車輌の左旋回時に転舵角可変装置24に異常が発生し、運転者によりステアリングホイール14が中立位置へ切り戻され、車輌が直進走行状態に操舵操作される場合に於ける操舵角θ、相対回転角度の偏差Δθre、ヨーモーメントMtの変化の一例を示している。
図8に示されている如く、時点t1に於いて転舵角可変装置24に異常が発生し、時点t2に於いて運転者により切り戻し操舵操作が開始され、時点t3に於いて操舵角θの大きさが基準値θo以下になり、時点t4に於いて操舵角θが0になったとする。相対回転角度の偏差Δθreの大きさは時点t2より時点t4まで増大し、時点t4以降は目標相対回転角度θretに応じて変化する。この相対回転角度の偏差Δθreの変化に対応してヨーモーメントMtは時点t2より時点t3まで右旋回方向に増大し、これにより切り戻し操舵操作時に車輌の走行方向がステアリングホイール14の位置に対応する走行方向と一致しないことに起因して運転者が違和感を覚える虞れが確実に低減される。
またヨーモーメントMtの大きさは時点t3よりヨーモーメントMtの大きさが基準値Mto以下になる時点t5まで漸減されるので、運転者は車輌を直進走行させるべくステアリングホイール14を徐々に左旋回方向へ転舵する。時点t5以降はヨーモーメントMtに基づくヨーモーメントMcの付与は行われなくなるので、少なくとも時点t5以降に於いては運転者はステアリングホイール14を転舵せず、僅かに左旋回方向に操舵した状態を維持する。
特に図示の実施例によれば、ステップ140に於いて目標相対回転角度θretと実際の相対回転角度θreとの偏差として相対回転角度の偏差Δθreが演算され、ヨーモーメントMtは相対回転角度の偏差Δθreに基づいて演算されるので、転舵角可変装置24に異常が発生した直後にヨーモーメントMcの大きさが急激に大きくなること及びこれに起因する違和感を確実に防止することができる。
また図示の実施例によれば、ヨーモーメントMtは相対回転角度の偏差Δθreの大きさが大きくなるほど大きさが大きくなるよう演算されると共に、車速Vが高いほど大きさが大きくなるよう演算されるので、車速Vに拘らず転舵角可変装置24に残存する相対回転角度θreaに対応する角度分左右の前輪10FL及び10FRが転舵された状態にあることに起因して車輌に作用する余分なヨーモーメントに応じた値としてヨーモーメントMtを演算することができる。
また図示の実施例によれば、ヨーモーメントMtに対応するヨーモーメントMcは切り戻し操舵時にのみ車輌に付与され、運転者が違和感を覚えることが少ない切り増し操舵時には付与されないので、運転者が違和感を覚えることが少ない切り増し操舵時には左右前輪の制駆動力差の制御は行われず、従って切り増し操舵時にもヨーモーメントMcが車輌に付与される場合に比して、車輌の走行制御に消費されるエネルギーを低減することができる。
また図示の実施例によれば、運転者の制駆動操作量に基づいて車輌の目標制駆動力Fvtが演算され、目標制駆動力Fvt及びヨーモーメントMtを達成するための各車輪の目標制動力Fbti及び車輌の目標駆動力Fvdtが演算され、目標制動力Fbtiに基づいて各車輪の制動力が制御され、目標駆動力Fvdtに基づいてエンジン64の出力が制御されるので、車輌にヨーモーメントMcを付与することに起因して車輌の制駆動力が目標制駆動力Fvtにならなくなることを確実に回避することができる。
また図示の実施例によれば、ステップ150に於いて肯定判別が行われると、ステップ160に於いてフラグFeが1にセットされることにより、その後運転者により保舵又は切り増し操舵が行われても、ステップ170に於いて肯定判別が行われ、ステップ200以降が実行されるので、ヨーモーメントMtの大きさが不必要に増大することを確実に防止することができる。
また図示の実施例によれば、ステップ180に於いて肯定判別が行われると、ステップ190に於いてフラグFcが1にセットされ、ステップ200に於いて肯定判別が行われるので、一旦ステップ180に於いて肯定判別が行われた後に運転者の操舵により操舵角θの絶対値が基準値θoよりも大きくなっても、ヨーモーメントMtの大きさを確実に漸減することができる。
また図示の実施例によれば、転舵角可変装置24に異常が発生しても、増速比Kvgが実質的に0である状況に於いて転舵角可変装置24に異常が発生した場合の如く、相対回転角度θreの絶対値が基準値θreo未満であるときには、ステップ130に於いて否定判別が行われ、ステップ140以降は実行されないので、車輌に作用する余分なヨーモーメントMaが軽微である状況に於いて、不必要な左右輪の制駆動力差の制御が行われることを確実に防止することができる。
以上に於いては本発明を特定の実施例について詳細に説明したが、本発明は上述の実施例に限定されるものではなく、本発明の範囲内にて他の種々の実施例が可能であることは当業者にとって明らかであろう。
例えば上述の実施例に於いては、ヨーモーメントMtは相対回転角度の偏差Δθre及び車速Vに基づいて図5に示されたグラフに対応するマップより演算されるようになっているが、転舵角可変装置24の目標相対回転角度θretは車速Vに基づいて演算されるので、ヨーモーメントMtは車速V及び転舵角可変装置24に異常が生じた時点に於ける車速Vcに基づいて演算されるよう修正されてもよい。
また上述の実施例に於いては、操舵角θの絶対値が一旦基準値θo以下になると、その後の操舵角θの値に関係なくヨーモーメントMtの大きさが漸減されるようになっているが、操舵角θの絶対値が一旦基準値θo以下になると、操舵角θの絶対値が基準値θo以下であるとき又は操舵角θが余分なヨーモーメントMaに対抗するヨーモーメントを発生する方向に増大するときにのみヨーモーメントMtの大きさが漸減されるよう修正されてもよい。
また上述の実施例に於いては、操舵伝達比可変手段はアッパステアリングシャフト28Aに対し相対的にロアステアリングシャフト28Bを回転駆動することにより操舵伝達比を変更する転舵角可変装置24であるが、操舵伝達比可変手段は操舵伝達比を変更し得るものである限り当技術分野に於いて公知の任意の構成のものであってよく、例えば操舵入力手段側部材が操舵入力手段側のタイロッド部材であり、操舵輪側部材が操舵輪側部材側のタイロッド部材であり、操舵伝達比制御手段は操舵入力手段側のタイロッド部材に対し相対的に操舵輪側部材側のタイロッド部材を直線変位させることにより操舵伝達比を変更するよう構成されたものであってもよい。
また上述の実施例に於いては、車速Vに基づいて転舵角可変装置24の目標増速比Kvgtが演算され、目標増速比Kvgtと操舵角θとの積として転舵角可変装置24の目標相対回転角度θretが演算されるようになっているが、転舵角可変装置24の目標相対回転角度θretは例えば図9に示されたグラフに対応するマップより目標ステアリングギヤ比Rsgtが演算され、目標ステアリングギヤ比Rsgtに基づいて当技術分野に於いて公知の要領にて演算されるよう修正されてもよい。尚図9に於いて、Rsgoは増速比が0になるステアリングギヤ比である。
また上述の実施例に於いては、車輌は後輪駆動車であり、ヨーモーメントMcは左右前輪の一方に制動力が付加されることにより車輌に付与されるようになっているが、車輌が前輪駆動車である場合には、ヨーモーメントMcは左右後輪の一方に制動力が付加されることにより車輌に付与されてよく、また車輌が四輪駆動車である場合には、ヨーモーメントMcは左前後輪又は右前後輪に制動力が付加されることにより車輌に付与されてよい。