JP2007248160A - 車両の重量と路面勾配を推定する装置 - Google Patents

車両の重量と路面勾配を推定する装置 Download PDF

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Abstract

【課題】 Gセンサなどの経年変化や周囲環境に影響されやすいセンサを利用せずに、運転支援型・予防安全型の制御のために有利に用いられる車両の重量と路面勾配を迅速に且精度良く推定する装置を提供すること。
【解決手段】 本発明の車両重量及び路面勾配推定装置12は、車両100の走行中に、車両の制駆動力制御のための目標加減速度αと車両の実加減速度αとの差分に基づいて車両重量Mと路面勾配θを推定することを特徴とする。車両の制駆動力制御装置が目標加減速度と実加減速度との差分を実質的にゼロにするフィードバック補償制御を含む場合には、車両の重量と路面の勾配は、制駆動力制御装置のフィードバック制御量KFBに基づいて推定される。
【選択図】 図1

Description

本発明は、自動車等の車両の走行中に車両の重量と路面の勾配を推定する装置に係り、より詳細には、車両の制駆動力制御のパラメータとして用いるのに適した車両重量と路面勾配を推定する装置に係る。
当業者にとって周知の如く、車両の重量や路面勾配の大きさは、車両へ或る制駆動力を与えた場合にその車両に生ずる加(減)速度を決定する。従って、自動車等の車両の制駆動力制御を、より精度よく、或いは、より高い安全性にて実行するためには、車両の重量や路面勾配等のパラメータを、より正確に検出できることが好ましい。特に、運転支援型・予防安全型の制御、例えば、ACC(Adaptive Cruising Control)、PCS(PreCrash Safety System)、LKA(Lane Keeping Assist)、DABC(Driver Assist Braking Control)、IPA(Intelligent Parking Assist)といった運転者の運転操作を補助し又は代行する制御に於いては、運転者によるアクセル/ブレーキ操作と伴に自車速度や先行車又は障害物との相対速度・距離情報を用いて、駆動・制動装置を自動的に制御し、車両の速度、目標加(減)速度又は制駆動力を適正に調節することを目的としているので、以前にも増して、走行中の車両の重量、路面の勾配等のパラメータをできるだけ正確に且迅速に検出することが望まれる。
車両の重量は、車両の乗員数や積載量等により変動し、車両の走行する路面の勾配は、当然ながら、路面によって異なり、これらのパラメータの値は、車両の設計時又は製造時には決定し得ないので、好ましくは、車両の走行中に某かの方法により検出される。車両の走行している路面の勾配については、例えば、車両に備えられたGセンサ又は傾斜計などを用いて計測されている。車両の前後加速度が車輪速から見積もることができるので、路面の勾配は、かかる車両の前後加速度とGセンサの読みとの差分から、逐次的に算出又は推定されるようになっている(下記特許文献1及び2)。一方、車両の重量は、端的に言えば、車両の走行中に於ける車両に与えられた駆動力(エンジントルク等から推定)と車両の前後加速度との比から決定されている。駆動力と前後加速度との関係には、路面の勾配や車両の走行抵抗による寄与が含まれるので、例えば、特許文献3(車両重量推定装置)に於いては、駆動力と前後加速度の実測値から路面の勾配や車両の走行抵抗の寄与を周波数によるフィルタリングにより除去し(路面勾配や走行抵抗は駆動力に比して変動が遅いので、これらの寄与は、前後加速度の検出データ中に於いて低周波数成分となると仮定されている)、しかる後に、駆動力値と前後加速度値とをそれぞれ時間積分して得た値の比から車両の重量値が推定されるようになっている(時間積分を取るのは、S/N比を向上するため)。また、特許文献4(質量推定装置又は勾配推定装置)では、連続的に計測した駆動力値と前後加速度値とから回帰直線を作成し、しかる後に、その直線の傾きから車両の重量を推定し、その直線の切片(0補外点)から路面勾配を推定するといったことが行われている。
特開2000−79828 特開2002−162225 特開2004−301576 特開2004−37255
上記の如き従前の路面勾配の推定方法又は装置に於いて、車輪速から求めた車両の前後加速度とGセンサの読みとの差分を用いる場合には、その推定精度は、Gセンサの読みの精度に依存にしてしまう。車輪速から求めた車両の前後加速度、即ち、車輪速微分値については、車輪速を検出する車輪速センサの分解能が、比較的高く、又、検出値のS/N比も悪くないので、その微分値も比較的良好な精度が得られる。しかしながら、Gセンサは、一般に弾性振子(錘)の振れを利用したデバイスであるため、経年劣化があり、又、温度や電圧のドリフトにより零点がずれたり、また、車両の加減速中に車両のピッチ運動によっても値がずれることがあるので、その読みは、必ずしも安定的に十分な精度が得られないことがある。そのような場合、推定された路面勾配の値も不正確となり得る。
他方、従前のエンジンの駆動力と車両の前後加速度との比から車両の重量を推定する方法又は装置は、演算処理がやや煩雑で冗長的である。例えば、特許文献4の場合、前後加速度値と(やや大雑把な演算により得られる)駆動力値との回帰直線を得るなどの冗長な演算処理を含んでいる。また、特許文献3に記載の方法又は装置に於いては、車両の発進時の駆動力と前後加速度の値が安定しない期間に集中的に、路面の勾配や車両の走行抵抗による影響の除去処理をしつつ、駆動力と前後加速度の値の算出を実行するため、車両重量の推定に係る演算処理がやや煩雑なものとなっている。
車両の重量と路面勾配は、車両に与えられた制駆動力とそれによる前後加速度に同時に寄与するので、車両の重量と路面勾配のうち、いずれか一方の推定値が不正確になると、これらの推定値に基づく制駆動力の制御も不正確となり得る。車両の重量は、通常、車両の走行中に一旦決定されれば、その後大きな変動が生ずることは殆どないと想定されるが、路面勾配は、走行中に頻繁に且逐次的に変動するので、これらのパラメータは、車両の走行中又は制御中に、随時推定できるようになっていることが望ましいであろう(車両重量を推定したときに路面勾配が巧く推定できていないことも起こり得るし、その場合には推定された車両重量の精度も怪しくなる。)。特に、上記の如き、運転支援型・予防安全型の制御に於いて、制御の目的をより高精度に且迅速に達成し、そして、車両の走行中の安全性をより高くするためには、そこで用いられるパラメータは、一度だけ推定した値をその後利用し続けるよりは、車両の走行中、逐次的に推定し更新できる方が望ましい。そのような場合、パラメータの逐次的な推定処理は、精度が良いだけでなく、できるだけ迅速に行える方が有利である。
本発明によれば、端的に述べれば、Gセンサなどの経年変化や周囲環境に影響されやすいセンサを利用せずに、特に、運転支援型・予防安全型の制御のために有利に用いられる車両の重量と路面勾配を推定する装置が提供される。
一つの態様に於いて、本発明の装置では、車両の走行中に、車両の任意の制駆動力制御のために与えられる目標加減速度と、車両の実加減速度との差分に基づいて車両の重量と路面の勾配との双方が推定される。
車両に於いて、某かの運転支援型・予防安全型の制御を実行する際、多くの場合、車速を調節するべく、車両の加減速度が増減されることとなる。かかる加減速度の制御に於いて、実際の車両重量と路面勾配が分からない段階では、予め設定された車両重量と路面勾配の値(又は既知の値のうち最新の値)を用いて、任意の方法により決定された加減速度の制御目標値(目標加減速度)に対応する制駆動力(要求量)が決定される。従って、その制駆動力の結果である実加減速度と目標加減速度との差分には、予め設定された車両重量及び路面勾配と、実際の車両重量及び路面勾配との差が反映されることになるので、上記の如く、目標加減速度と実加減速度との差分を用いることにより、実際の車両重量及び路面勾配が得られることとなる。
上記の本発明の態様に於ける目標加減速度と実加減速度に基づく推定処理は、車両の発進時に限らず、通常走行中に於いても実行することができる。従って、車両の重量と前記路面の勾配は、好ましくは、車両の走行中、所定時間の間に於いて目標加減速度及び実加減速度の各々の変動幅が所定の範囲内にあるときの目標加減速度と実加減速度との差分に基づいて推定されてよい。即ち、目標加減速度及び実加減速度の値が比較的安定しているときを狙って推定処理を実行することにより、車両の走行中の種々のノイズや一時的な外乱の影響を排除し、推定値の精度を向上することが可能となる。
上記の態様の作動に於いて、車両の重量と路面の勾配は、任意の少なくとも二つの時点に於ける目標加減速度と実加減速度との差分さえ得られれば、推定が可能である。勿論、後に詳しく説明する如く、推定のための目標加減速度と実加減速度をサンプリングする時点が多いほど、推定誤差を低減することができる。しかしながら、少なくとも二つの時点での目標加減速度と実加減速度のサンプリングにて推定処理が行えることは、車両の走行中にできるだけ迅速に推定処理を行いたい場合に有利である。また、この点に関し、サンプリングを、目標加減速度が少なくとも一組の互いに符号が逆で絶対値が等しい二つの時点に於いて実行するようにすると、車両の重量と路面の勾配の推定演算式が、「発明を実施するための最良の形態」の欄に記載される如く、著しく簡単化され、装置の演算負荷が軽減されて有利である。その場合、好適には、少なくとも一組の前記目標加減速度が互いに符号が逆で絶対値が等しい二つの時点の目標加減速度と前記実加減速度との差分の和と差が演算され、和に基づいて路面勾配が推定され、差に基づいて車両の重量が推定されてよい。
ところで、車両の制駆動力制御系又は装置に於いて、目標加減速度が算出され、これに基づき制駆動力を制御する場合、しばしば、フィードバック補償制御又はフィードバック補償手段が設けられる。その場合、目標加減速度と実加減速度との間に差が生ずると、速やかに目標加減速度と実加減速度との差分がフィードバック補償手段を介して制駆動力制御系にフィードバックされ、目標加減速度と実加減速度との差分が実質的にゼロとなる。そのような場合、前記の如き態様にて、目標加減速度と実加減速度との差分を安定的にサンプリングすることが難しくなり得る(かかる差分が直接検出できる状態は、フィードバック制御の過渡期のみとなる。)。しかしながら、かかるフィードバック補償制御に於いて、目標加減速度と実加減速度との差分は、フィードバック制御量に反映されているので(フィードバック制御量は、当業者にとって理解される如く、例えば、目標加減速度と実加減速度との差分の積分項、比例項又は微分項が含まれていてよい。)、制駆動力制御系に於いて、かかるフィードバック補償制御が行われている場合には、車両の重量と路面の勾配は、目標加減速度と実加減速度との差分に基づいて決定されるフィードバック制御量に基づいて推定されるようになっていてよい。なお、車両の制駆動力を制御する制駆動力制御装置がフィードバック補償制御を含んでいる場合であっても、目標加減速度が少なくとも一組の互いに符号が逆で絶対値が等しい二つの時点が検出して、目標加減速度と実加減速度との差分に基づいて、車両重量と路面勾配の推定が行われてもよい。その場合、絶対値が等しく符号が逆の二つの目標加減速度が検出されないときにはフィードバック制御量に基づく車両重量と路面勾配の推定が行われてよい。
車両重量と路面勾配の推定を目標加減速度と実加減速度とに基づいて行う場合の一つの重要な利点は、車両の走行中の任意の時点で車両重量と路面勾配の推定を、何度でも繰り返し行うことができる点である(車両重量と路面勾配の推定に於いては、必ずしも目標加減速度と実加減速度との差分を抽出しなくても良いことは理解されるべきである。ただし、目標加減速度と実加減速度とは、通常であれば、比較的値が近いので、それらの差分を抽出することにより、推定処理に於ける演算上の精度(有効数字など)が確保され、従って、推定値の精度も向上する。)。従って、車両の走行中に推定処理を繰り返し行い、推定値を逐次的に更新又は平均化処理をすれば、推定値の精度を更に向上することができることとなる。この点に関し、推定値を車両の制駆動力制御に利用しようとする場合には、推定値は、平均化処理を行っている場合でも、逐次利用できるようになっていることが好ましい。そこで、本発明のもう一つの態様に於いては、車両の重量と路面の勾配の推定処理が少なくとも二回実行され、最新の車両の重量と路面の勾配の推定値が、前回の車両の重量と路面の勾配の推定値を用いて推定されるようになっていてよい。かかる構成によれば、推定値は、一度切りの値ではなく、時事刻々、平均化されていくと伴に、制駆動力制御に、適時、任意に利用できることとなる。
上記の最新の車両の重量と路面の勾配の推定に、前回の推定値を用いる構成に於いては、例えば、最新の車両の重量と路面の勾配の推定値が、前回の車両の重量と路面の勾配の推定値と、最新の目標加減速度及び実加減速度及び前回の車両の重量と路面の勾配の推定時に於いて最新であった目標加減速度及び実加減速度に基づいて推定される車両の重量と路面の勾配の推定値と用いて推定されるようになっていてよい。また、目標加減速度と実加減速度との差分又はフィードバック制御量に基づいて推定を行う場合に於いても、最新の車両の重量と路面の勾配の推定を行う際に前回の車両の重量と路面の勾配の推定値を加味して推定値を算出するようになっていてよい。
更に、路面勾配の推定処理に前回の推定値を用いる場合について、好ましくは、車両の車速に応じて変化するゲインを用いて推定処理が実行される。理解されるように、車速が高いほど、単位時間当たりの車両の移動距離は長くなるので、路面の勾配が変化し、過去の推定値が現在の勾配からずれている可能性も高くなる。従って、路面勾配の推定処理に於いて、車速を考慮して、現在の推定値に於ける過去の、即ち、前回の推定値の寄与が低減されるようになっていることが好ましい。
上記の本発明の車両重量及び路面勾配推定装置によれば、Gセンサ又は傾斜計等の弾性部材の偏倚を利用した検出器を用いていないので、検出器の経年変化や周囲環境の変化に影響されずに、車両重量及び路面勾配の推定値が得られることとなる。Gセンサの場合、既に述べた如く、車両の加減速時には、車両のピッチ運動がセンサの弾性振子の運動に重畳して適正な検出値が得られないことから路面勾配の推定値の精度が十分に得られない場合があった。しかしながら、本発明の装置によれば、車両の加減速時に路面勾配の推定値が得られるので、制駆動力の制御に利用する上でリアルタイムに路面勾配の値が与えられることになり非常に有利である。
また、理解されるべきことは、本発明の装置では、推定処理のパラメータとして、やや煩雑な又は不確かな演算過程を要する制駆動力ではなく、目標加減速度と実加減速度が用いられるので、推定処理が迅速で且精度良く実行される点である。推定処理の速度を向上するために一度の推定処理に用いられる目標加減速度と実加減速度のサンプリング数を減らすと、推定精度が落ちることとなり得るが、上記の如く、処理速度が迅速であるが故に、繰り返して実行することが容易であるので、逐次的に得られる推定結果を平均化しつつ更新することにより、推定精度は向上することが可能であり、しかも、最新の推定値が逐次利用可能であるので、制駆動力の制御に利用する上でリアルタイムに重量と路面勾配の値が与えられることになり非常に有利である。
なお、本明細書に於いて、本発明は、制駆動力制御のパラメータとして用いられる車両重量と路面勾配を推定するものとして説明されているが、ここで推定される車両重量と路面勾配は、制駆動力制御以外の用途のために利用でき、そのような場合も本発明の範囲に属するものと理解されるべきである。
本発明のその他の目的及び利点は、以下の本発明の好ましい実施形態の説明により明らかになるであろう。
以下に添付の図を参照しつつ、本発明を幾つかの好ましい実施形態について詳細に説明する。図中、同一の符号は、同一の部位を示す。
装置の構成
図1は、自動車等の車両の制御部に搭載される車両の制駆動力制御装置10と伴に用いられる本発明による車両重量及び路面勾配推定装置12の好ましい実施形態と、その他の関連機器を模式的に示している。同図に於いて、制駆動力制御装置10は、この分野に於いて知られている任意の車両の制駆動力を制御するための装置であってよく、運転支援型・予防安全型の制御、例えば、ACC、PCS、LKA、DABC、IPAといった運転者の運転操作を補助し又は代行する制御を実行する装置であってよい。制駆動力制御装置10は、図には詳細には記載されていないが、当業者にとって理解される如く、車両の各部に備えられた各種センサにて取得される運転者によるアクセル/ブレーキ操作、車速、加減速度、ヨーレート、先行車又は障害物との相対距離等の情報を用いて、車速、加(減)速度又は制駆動力を適正に調節するようエンジン、電動発電機の駆動装置及び制動装置を自動的に制御する。特に、本発明の車両重量及び路面勾配推定装置12が用いられる制駆動力制御装置10は、その制御に於いて、上記の各種の情報から目標加減速度を決定し、その目標加減速度が達成されるのに必要な制駆動力を決定するようになっている。車両重量及び路面勾配推定装置12は、以下の説明する第一の実施形態の場合には、制駆動力制御装置10の目標加減速度と、車両の各輪(図示せず)に設けられた車輪速センサ14からの車輪速信号を時間微分することにより得られる実加減速度とを用いて、第二の実施形態の場合には、目標加減速度とフィードバック制御量とを用いて、車両重量と路面勾配を以下に詳細に説明する処理により推定し、推定結果は、制駆動力制御装置10及び図示していないその他の任意の制御装置の制御処理に利用できるようになっている。
なお、図に於いては、制駆動力制御装置10と車両重量及び路面勾配推定装置12とが別々のユニットとして記載されているが、車両重量及び路面勾配推定装置12が、制駆動力制御装置10の内部で実現されてもよく、そのような場合も本発明の範囲に属すると理解されるべきである。また、本発明の車両重量及び路面勾配推定装置12は、制動装置又は駆動装置のための制御装置と通信するように構成されてもよく、或いは、又は制動装置又は駆動装置のための制御装置の内部にて実現されてもよい。その場合には、目標加減速度は、運転者のブレーキペダルやアクセルペダルの操作量に対応して、任意に決定された量であってよい。制駆動力制御装置10と車両重量及び路面勾配推定装置12は、当業者にとって公知の形式の双方向性のコモンバスにより互いに接続されたCPU、ROM、RAM及び入出力ポート装置を有する一般的な構成のマイクロコンピュータ及び駆動回路(図示せず)を含む電子制御装置であってよい。
本発明の実施形態1
推定の原理
図1(B)に示されている如き車両100に於いて、車両重量Mが、既知の値であるとき、例えば、設計時又は製造時に設定される重量(設計値M)或いはその後何等かの方法により得られた値(以下、重量が既知の場合は、未知の場合と区別する目的で、設計値Mと表記する。)に一致しているとき、車両が平坦路、即ち、勾配θが0°の路面上を走行している場合には、図2(A)の如く、制駆動力制御装置10により制御された制駆動力により発生される実加減速度α(破線)は、制駆動力制御装置10により決定された目標加減速度α(実線)に一致する(もし一致しないとすると、車両重量又は路面勾配以外のその他の要因を考慮する必要がある。)。しかしながら、例えば、実際の車両重量が設計値よりも軽い場合には、目標加減速度と実加減速度との間にずれが生じ、図2(B)に例示されている如く、実加減速度の大きさ(絶対値)が目標加減速度よりも大きくなる。また、路面が車両の進行方向に下降しているとき、即ち、路面勾配θ<0°のときには、車両の進行方向に重力が作用するので、目標加減速度αが0であっても実加減速度α>0となり、図2(C)の如く、実加減速度は、目標加減速度よりも常に正側に(車両の進行方向に)シフトすることとなる。かくして、例えば、車両重量が設計値より軽く、しかも路面が車両の進行方向に下降しているときには、図2(D)に例示する如く、図2(B)及び図2(C)に於ける目標加減速度と実加減速度とのずれが、重畳して現れることとなる。かかる目標加減速度と実加減速度とのずれ、即ち、差分は、車両重量或いは路面勾配の影響であるので、これらの差分を解析すれば、実際の車両重量及び路面勾配が推定できることとなる。
一般に、制駆動力制御装置10に於いては、車両重量Mを設計値Mと仮定し、車両が平坦路を走行する場合に、実加減速度αが目標加減速度αに一致するよう制駆動力Fが発生するよう設定される。即ち、F=M・αである。しかしながら、図2(D)のように、車両重量Mが設計値Mからずれ(M≠M)、また、路面に勾配がある場合(θ≠0)には、車両の前後方向の運動方程式は、
M・α=M・α−Mg・sinθ …(1a)
となる(gは重力加速度)。これを目標加減速度と実加減速度との差分δ=α−αを用いて表記すると、
δ=α−α=(M/M−1)・α−g・sinθ …(1b)
となる。なお、上記の式に於いては、通常、車両の走行抵抗が考慮されることがある。しかしながら、車両の走行抵抗は、車両の制駆動力制御にて要求される程度の十分な精度にて推定可能な量であり、後に詳細に説明する如く、既知の値として取り扱うことができるので、ここでは、簡単のため表式を省略している。
かくして、例えば、図2(D)の表示されている任意の二点a、bに於いて差分δ及びδをサンプリングすると、式(1b)より、
M=M・{(δ−δ)/(α −α )+1}−1
sinθ={(M/M−1)(α +α )−(δ+δ)}/2g …(2)
が得られ、従って、差分δ及びδから、重量Mと勾配θが推定できることとなる。特に、差分δ及びδをサンプリングするタイミングとして、α =−α となる二つの時点を選択すると、式(2)は簡単化されて、
M=M・{(δ−δ)/2α +1}−1
sinθ=−(δ+δ)/2g …(3)
となる。
推定処理の手順
本実施形態の車両重量及び路面勾配推定装置12(以下、推定装置12とする。)に於いては、目標加減速度と実加減速度の差分δを少なくとも2つの時点にてサンプリングし、上記の式(2)又は(3)を用いて、車両重量Mと路面勾配θを同時に推定する。目標加減速度αは、制動力制御装置10に於いて決定された値を用い、実加減速度は、車輪速信号から得られる車輪速(例えば、全輪の平均若しくは従動輪の平均であってよい。)を任意の方法で微分した値が用いられてよい。また、好適には、差分δのサンプリングは、目標加減速度と実加減速度の双方の値が安定しているときに実行され、更に好適には、目標加減速度と実加減速度の値が差分δを算出するのに十分な精度にて決定され又は検出される程度の大きさを有するときに行われてよい。
差分δのサンプリング及び推定演算処理は、例えば、図3(A)にフローチャートの形式で記載された手順により行われてよい。なお、推定処理は、車両の運転又は走行中、制動力制御装置の起動と同時に開始されてよい。同図を参照して、まず、差分δのサンプリングに適した時点を決定するべく、目標加減速度及び実加減速度の値が安定した定常状態を検出する(ステップ10)。目標加減速度及び実加減速度が定常状態(図2(D)参照)になっているか否かは、当業者に於いて任意の手法にて決定されてよい。例えば、図3(B)に示されている如く、目標加減速度及び実加減速度の値を逐次的に読み込み(ステップ100)、最新の目標加減速度α 及び実加減速度αと一つの前の目標加減速度α t−1及び実加減速度αt−1との差が所定値Δi未満であるか否か(ステップ110)を、反復して所定値Δiの値をΔk(>0)ずつ低減しながら(ステップ140)検出し、上記処理が所定回数繰り返された後、目標加減速度及び実加減速度の各々の差が、所定値Δs(>0)以下になったとき(ステップ130)に、定常状態に達したと判断するようになっていてよい(ΔiがΔsになることにより、所定時間、αとαがそれぞれ或る値に安定することが計測されることになる。)。なお、任意に、目標加減速度及び実加減速度が推定演算に十分なほどの大きさ(絶対値、αref)を有しているか否かが判断されてよい(ステップ105)。ステップ110、105に於いて、目標加減速度及び実加減速度の各々の差が所定値Δi以上である場合又は目標加減速度及び実加減速度が推定演算に十分なほどの大きさを有していない場合には、所定値Δiは、初期値Δi(>0)に戻される(ステップ150)。また、図示していないが、所定値Δiは、ステップ10のスタート時に初期値Δiに設定される。
かくして、目標加減速度及び実加減速度の定常状態が検出されると、推定装置12の作動開始後、初めて目標加減速度及び実加減速度の定常状態が検出された場合には、そのときの目標加減速度及び実加減速度の値がそれぞれ第一のサンプリング点の値α 、αとして記憶され、また、そのときの時間tが第一のサンプリング点の時間t1として記憶される(ステップ30)。この段階では、まだ、推定演算処理はできないので、再び、ステップ10の定常状態の検出ルーチンが実行される。
次いで、次の定常状態が検出されると、ステップ20を介して、そのときの目標加減速度及び実加減速度の値がそれぞれ第二のサンプリング点の値α 、αとして記憶され、また、そのときの時間tが第二のサンプリング点の時間t2として記憶される(ステップ40)。かくして、目標加減速度と実加減速度との差分、δ及びδを算出し、上記の式(2)により、車両の重量Mと路面勾配θを推定することが可能となる(ステップ70)。ただし、この際、第一及び第二のサンプリング点の時間間隔t2−t1が長過ぎると、路面勾配の値が変化している可能性があるので、t2−t1が所定時間ΔT未満であるか否かが好ましくは判断されてよい(ステップ50)。また、第一及び第二のサンプリング点の目標加減速度α 、α が近すぎると良好な精度にて推定演算ができないので、α −α の大きさ(絶対値)が所定値Δα以上であることが判断されてよい(ステップ60)。
かくして、推定演算が為されるか、又はt2−t1が所定時間ΔT以上であるか、α −α の大きさ(絶対値)が所定値未満であり推定演算ができないことが判定されると、第二のサンプリング点の値が第一のサンプリング点の値に置き換えられて(ステップ80)、新たな第二のサンプリング点の検出と推定演算が繰り返される。
上記のステップ60に於いて、判断の基準を、α =−α (若しくは|α +α |<Δγ:Δγは、所定の正の微小量)が充足していることにすると、推定演算式として、式(3)を用いることができる。式(3)にて演算される場合には、演算負荷が著しく低減され、推定装置12の作動に於いて要求されるメモリ消費量を低減することができ有利である。
ところで、上記のステップ70の推定演算処理に於いては、最新の二つのサンプリング点のデータのみを使用しているが、路面勾配が変化しなければ、更に多くのサンプリング点の値を用いることにより、推定値の誤差を低減することができる。そこで、式(2)又は(3)の車両の重量Mと路面勾配θを逐次平均した推定値
=Mn−1+K(M−Mn−1
sinθ=sinθn−1+K(sinθ−sinθn−1) …(4)
により与えられる値を制駆動力制御又はその他の制御に用いられる車両の重量と路面勾配の推定値とするようになっていてもよい。ここで、M、sinθは、式(2)又は(3)にて与えられる最新の二つのサンプリング点のデータを用いた推定値であり、Mn、sinθは、最新のM、sinθの逐次平均推定値であり、Mn−1、sinθn−1は、前回のサイクルにときの逐次平均推定値である。かかる演算処理によれば、図3(C)に例示されている如く、目標加減速度及び実加減速度が経時的に変化する場合に、定常状態が検出されるごとに、そのときの目標加減速度及び実加減速度の差分が車両の重量と路面勾配の平均化された推定値に随時反映されて行くこととなる。
式(4)に於いて、K及びKは、それぞれ車両重量推定値更新用ゲイン、路面勾配推定値更新用ゲインであり、要するに、最新の二つのサンプリング点のデータを用いた推定値M、θと、それ以前の逐次平均推定値との寄与の割合を調節するためのゲインである。式(4)より容易に理解される如く、ゲインK及びKを増大すると、最新の二つのサンプリング点のデータを用いた推定値の寄与を大きくすることができる。車両重量は、通常、一走行中に変動しないと想定されるので、ゲインKは、通常は、適宜設定された1未満の固定値であってよい。しかしながら、逐次平均推定値が安定しない場合には、逐次平均推定値の収束性を確保するために時間と伴に単調減少するよう設定されてよい。一方、ゲインKも、適宜設定された1未満の固定値であってよい。しかしながら、路面勾配は、走行中に逐次変動し、変動する確率又は可能性は、車速が高いほど大きくなるので、ゲインKを車速に応じて増大し、車速が高くなるほど、相対的に最新の二つのサンプリング点のデータを用いた推定値の寄与を大きくなるよう構成されていることが好ましい。
かくして、式(4)によれば、常に車両の重量と路面勾配の推定値の推定誤差を低減させつつ、逐次、それらの推定値を利用できることとなり、車両の制駆動力制御に利用する上で非常に有利である。なお、式(4)を用いて推定値を算出する場合には、ステップ50又はステップ60は、省略されてよい。また、式(4)を用いる場合には、同式中の車両の重量Mと路面勾配θは、目標加減速度と実加減速度との差分δ及びδを算出せずに、式(1a)から二つのサンプリング点に於けるデータを用いて、
M=M・(αn−1−α)/(α n−1−α
θ={(α n−1α−αn−1α )/(α n−1−α )}/2g …(5)
により与えられてよい。
式(4)によらず、二つのサンプリング点に於けるデータから得られた推定値のいくつかの平均値を随時算出して、重量と路面勾配の推定値として利用できるようになっていてもよく、そのような場合も本発明の範囲に属するものと理解されるべきである。
本発明の実施形態2
「発明の開示」の欄に於いて触れたように、一般に、車両の制駆動力制御装置に於いては、フィードバック補償手段又はフィードバック補償器、即ち、目標加減速度と実加減速度との間に差が生ずると、目標加減速度と実加減速度との差分を制駆動力制御系にフィードバックし、目標加減速度と実加減速度との差分をゼロにするための手段が設けられている。そのような場合、目標加減速度と実加減速度との差分が生ずるのは、フィードバック制御の過渡期のみであるので、仮にそのような状態で目標加減速度と実加減速度との差分を直接算出して車両重量と路面勾配の推定を実行しても精度の良い結果は得られない可能性が高い。そこで、制駆動力制御装置10に目標加減速度と実加減速度との差を解消するフィードバック補償器が設けられている場合には、以下に説明する如く、制駆動力制御装置のフィードバック補償器にて算出されるフィードバック制御量に基づいて、車両重量と路面勾配の推定値を算出するようになっていてよい。
推定の原理
図4(A)は、制駆動力制御装置に於ける目標加減速度に基づいて制駆動力の要求量を決定するフィードフォワード制御及びフィードバック制御に係る部分の構成例を制御ブロック図の形式で示したものである。同図を参照して、フィードフォワード制御部に於いては、制駆動力制御装置の別の部位で任意に決定される目標加減速度αに、路面勾配による加減速度に対する項g・sinθが加算され(θは、既知の値)、それに車両重量Mが乗算されて、制駆動力のフィードフォワード制御量が、KFF=M(α+g・sinθ)として与えられる。なお、一般的には、図示されているように、フィードフォワード制御量には、更に、転がり抵抗、空気抵抗、コーナリングドラッグ等の和である走行抵抗Rに対するフィードフォワード制御項が追加されるが、後に説明される如く、かかる走行抵抗に対する項は、既知量として演算処理することができるので、簡単のため、表記上省略する。他方、フィードバック補償器では、目標加減速度αと実加減速度αとの差分α−αが、積分器、比例器、微分器(図示せず)により演算され、それらの演算値がフィードバック制御量、KFB=K・∫(α−α)dt+K(α−α)+…などとして与えられ、KFFの値に加算されて、制駆動力の要求量が与えられる。
上記の如きフィードバック制御が実行される系に於いて、車両重量がその設計値よりも軽く(M<M)、路面勾配が車両の進行方向に下降しているとき(θ<0°)を例にとると、目標加減速度と実加減速度は、図4(B)の如く変化する。同図を参照して、目標加減速度が0の場合(t<0)、フィードバック制御がないときでは、路面勾配により、実加減速度が0とならないが(図2(C)参照)、フィードバック制御があるときには、路面勾配により発生する加速度を打ち消すようフィードバック制御量又は補償量(図では、積分項のみ示されている。)が制駆動力制御系に与えられて実加減速度も0となっている。(より厳密に言えば、図4(A)に例示されたシステムに於いては、フィードフォワード制御量に、路面勾配に対する項が付加されているので、フィードバック制御量が生ずるのは、路面勾配が既知の値からずれている場合である。)その後、例えば、目標加減速度が増大すると、過渡的に実加減速度が目標加減速度からずれるが、そのずれ、即ち、差分がフィードバック制御量に反映され、実加減速度は目標加減速度に収束する。目標加減速度が低減する場合も、上記と同様に、目標加減速度と実加減速度の差分がフィードバック制御量に反映され、実加減速度は目標加減速度に収束することとなる。かかる状況を運動方程式で表すと、
Mα=KFF+KFB−Mg・sinθ
=M(α+g・sinθ)+K・∫(α−α)dt+K(α−α)+…−Mg・sinθ …(6)
となり、定常状態では、即ち、実加減速度が目標加減速度に収束すると、α=αである。
かかる目標加減速度、実加減速度及びフィードバック制御量の変化に於いて理解されるべきことは、フィードバック制御量に於ける路面勾配による寄与は、路面勾配が変化しない限り、常に一定である一方(図中、一点鎖線にて示された量に維持される。)、車両重量のずれによる寄与は、目標加減速度の変位と伴に変動するということである。従って、フィードバック制御量を、路面勾配が変化しない程度の周期に対応する周波数により分けると、路面勾配による寄与は、低周波側成分(KFBνl)に反映され(図4(C))、高周波側成分(KFBνh)には、実質的に車両重量のずれによる寄与が残ることとなる(図4(D))。即ち、式(6)より、定常状態に於いて、左辺にα=αを代入して、
FB=−KFF+Mα+Mg・sinθ
=(M−M)α+Mg・sinθ−Mg・sinθ …(7)
ここで、KFBを高周波側成分KFBνhと低周波側成分KFBνlに分離すると(KFB=KFBνh+KFBνl)、
FBの高周波側成分KFBνhは、
FBνh=(M−M)α
FBの低周波側成分KFBνlは、
FBνl=Mg・sinθ−Mg・sinθ
となる。
従って、KFBの高周波側成分KFBνhより、
M=M+KFBνh/α …(8a)
また、KFBの低周波側成分KFBνlより、
sinθ=KFBνl/Mg+(M/M)sinθ …(8b)
となる。なお、路面勾配の初期値θは、通常、0に設定されていてよい。従って、フィードバック制御量KFBを路面勾配が変化しない程度の周期に対応する周波数νにてローパスフィルタに通し、その際の高周波側成分KFBνhと低周波側成分KFBνlとから、各々、車両重量Mと、路面勾配θが推定できることとなる。
推定処理の手順
本実施形態の推定装置12は、端的に述べれば、制駆動力制御装置10からフィードバック制御量KFBを取得して、フィードバック制御量KFBを路面勾配が変化しない程度の周期に対応する周波数νにてローパスフィルタに通し、高周波側成分KFBνhと低周波側成分KFBνlを取得する。そして、高周波側成分KFBνhが定常状態となったときに、そのときの目標加減速度αと、高周波側成分KFBνhとから車両重量Mを推定し、同時に路面勾配θを推定する。なお、理解されるように、フィードバック制御量が定常状態となったときには、その値は、目標加減速度と実加減速度との差分の積分項のみが残るので、推定処理に用いるフィードバック制御量は、かかる積分項だけでよい。なお、推定処理は、車両の運転又は走行中、制動力制御装置の起動と同時に開始されてよい。
推定演算処理は、例えば、図5にフローチャートの形式で記載された手順の如く、制駆動力制御装置から取得したフィードバック制御量又はそのうちの積分項をローパスフィルタに用いて高周波側成分と低周波数側成分とに分離する(ステップ200)。しかる後に、フィードバック制御量の高周波側成分が定常状態になったか否かが判断される(ステップ210)。かかる判断は、当業者にとって任意の手法で実行されてよい。例えば、本発明の第一の実施形態に於いて図3(B)に於いて説明した目標加減速度の定常状態の検出の手順と同様に実行されてよい。そして、フィードバック制御量の高周波側成分が定常状態になったことが検出されると、式(8a)及び(8b)により、車両重量Mと路面勾配θとが推定される。(ステップ220)。
上記の処理により得られた推定値は、更に、任意に逐次的に平均化されてよい。その場合には、第一の実施形態に於いて説明した式(4)を用いて、フィードバック制御量の高周波側成分の定常状態が検出される毎に、式(8a、b)で得られたM、θを用いて、逐次的に平均された推定値を更新できるようになっていてよい。
本実施形態による推定処理に於いて特記すべきことは、定常状態となっていることを検出すべきパラメータは、フィードバック制御量の高周波側成分だけでよく、また、一回の定常状態が検出されるだけで、推定値が得られるので、推定処理が非常に迅速に行われることである。また、一度の推定処理が迅速に行われることで、逐次的に平均された推定値の算出の速度も向上でき、従って、迅速に且精度良く推定結果が利用できるようになっている。
走行抵抗の寄与について
既に述べた如く、一般的には、車両の制駆動力に関する運動方程式(1a)に於いて、更に走行抵抗Rの寄与が考慮される。現在のところ、走行抵抗Rは、車速の2乗に比例する関数として相当程度に十分な精度にて推定することが可能であり、従って、本発明に於いては、既知数として取り扱うことができる。
例えば、本発明の第一の実施形態に於いて、式(1b)が、走行抵抗Rを考慮して、
δ=α−α=(M/M−1)・α−g・sinθ−R/M …(9)
と修正されると、
M={M−(R−R)/(α −α )}・{(δ−δ)/(α −α )+1}−1
sinθ={(M/M−1)(α +α )−(δ+δ)−(R+R)/M}/2g
…(10)
により、車両重量Mと路面勾配θが与えられる。上記の式で、RとRとの差が殆ど無い場合には、走行抵抗Rは、路面勾配と一体的に処理することができることとなる。また、第二の実施形態においては、走行抵抗Rは変動が遅いので、その寄与は、フィードバック制御量の低周波数側成分に反映されると考えられる。従って、KFF=M(α+g・sinθ)+Rと修正した場合に、式(8b)を
sinθ=KFBνl/Mg+(M/M)sinθ+R/Mg
と修正すればよい。
以上の説明は、本発明の実施の形態に関連してなされているが、当業者にとつて多くの修正及び変更が容易に可能であり、本発明は、上記に例示された実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の概念から逸脱することなく種々の装置に適用されることは明らかであろう。
図1Aは、本発明による車両重量及び路面勾配推定装置12及びその他の関連機器を模式図である。図1Bは、車両の走行中に車両重量と路面勾配を推定する際の状況を説明する図である。 図2は、種々の状況に於ける車両の目標加減速度と実加減速度の時間変化を例示する図である。 図3Aは、本発明による車両重量及び路面勾配推定装置の第一の実施形態に於ける推定処理手順をフローチャートの形式にて表したものであり、図3Bは、図3Aのステップ10に於いて目標加減速度と実加減速度の定常状態を検出するための手法の一つの例をフローチャートの形式にて表したものである。図3Cは、目標加減速度と実加減速度の定常状態が検出される毎に車両重量と路面勾配を推定していく過程を説明する図である。 図4Aは、典型的な制駆動力制御装置に於いて構成されるフィードフォワード制御部とフィードバック補償部の制御ブロック図の例である。図4B〜Dは、フィードバック補償が実行される場合の目標加減速度、実加減速度及びフィードバック制御量(目標加減速度と実加減速度との差分の積分項)の時間変化を例示する図である。 図5は、本発明による車両重量及び路面勾配推定装置の第二の実施形態に於ける推定処理手順をフローチャートの形式にて表したものである。
符号の説明
10…制駆動力制御装置
12…車両重量・路面勾配推定装置
14…車輪速センサ
100…車両

Claims (12)

  1. 車両の重量と該車両の走行している路面の勾配を推定する装置であって、前記車両の走行中に、前記車両の制駆動力制御のための目標加減速度と前記車両の実加減速度との差分に基づいて前記車両の重量と前記路面の勾配を推定することを特徴とする装置。
  2. 請求項1の装置であって、前記車両の重量と前記路面の勾配が、所定時間の間に於いて前記目標加減速度及び前記実加減速度の各々の変動幅が所定の範囲内にあるときの前記目標加減速度と前記実加減速度との差分に基づいて推定されることを特徴とする装置。
  3. 請求項1の装置であって、少なくとも二つの時点に於ける前記目標加減速度と前記実加減速度との差分に基づいて前記車両の重量と前記路面の勾配を推定することを特徴とする装置。
  4. 請求項3の装置であって、前記少なくとも二つの時点が、前記目標加減速度が少なくとも一組の互いに符号が逆で絶対値が等しい二つの時点を含むことを特徴とする装置。
  5. 請求項4の装置であって、前記少なくとも一組の前記目標加減速度が互いに符号が逆で絶対値が等しい二つの時点の前記目標加減速度と前記実加減速度との差分の和と差が演算され、前記和に基づいて路面勾配が推定され、前記差に基づいて車両の重量が推定されることを特徴とする装置。
  6. 請求項1の装置であって、前記車両の制駆動力を制御する制駆動力制御装置が前記目標加減速度と前記実加減速度との差分を実質的にゼロにするフィードバック補償制御を含み、前記車両の重量と前記路面の勾配が前記目標加減速度と前記実加減速度との差分に基づいて決定される前記車両の制駆動力制御装置のフィードバック制御量に基づいて推定されることを特徴とする装置。
  7. 請求項6の装置であって、前記フィードバック制御量が前記目標加減速度と前記実加減速度との差分の積分値を含むことを特徴とする装置。
  8. 請求項1の装置であって、前記車両の制駆動力を制御する制駆動力制御装置が前記目標加減速度と前記実加減速度との差分を実質的にゼロにするフィードバック補償制御を含み、前記目標加減速度が少なくとも一組の互いに符号が逆で絶対値が等しい二つの時点が検出されないときには、前記車両の重量と前記路面の勾配が前記目標加減速度と前記実加減速度との差分に基づいて決定される前記車両の制駆動力制御装置のフィードバック制御量に基づいて推定されることを特徴とする装置。
  9. 請求項3乃至8の装置であって、前記車両の重量と前記路面の勾配の推定処理が少なくとも二回実行され、最新の車両の重量と路面の勾配の推定値が前回の車両の重量と路面の勾配の推定値を用いて推定されることを特徴とする装置。
  10. 車両の走行中に、前記車両の制駆動力制御のための目標加減速度と前記車両の実加減速度とに基づいて車両の重量と該車両の走行している路面の勾配を推定する装置であって、前記車両の重量と前記路面の勾配の推定処理が少なくとも二回実行され、最新の車両の重量と路面の勾配の推定値が、前回の車両の重量と路面の勾配の推定値を用いて推定されることを特徴とする装置。
  11. 請求項10の装置であって、前記最新の車両の重量と路面の勾配の推定値が、前記前回の車両の重量と路面の勾配の推定値と、最新の目標加減速度及び実加減速度及び前記前回の車両の重量と路面の勾配の推定時に於いて最新であった目標加減速度及び実加減速度に基づいて推定される車両の重量と路面の勾配の推定値と用いて推定されることを特徴とする装置。
  12. 請求項9乃至11の装置であって、前記路面勾配の推定値が前記車両の車速に応じて変化するゲインを用いて推定されることを特徴とする装置。
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