JP2007245340A - 焼結希土類磁石合金の切断法 - Google Patents

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Abstract

【課題】比較的大きな金属間化合物の結晶からなる非常に硬質な強磁性結晶粒が粒界相で囲われている金属組織を有した硬質な焼結希土類磁石合金を歩留りよく且つ滑らかな表面をもつ小さな部品に切断する。
【解決手段】強磁性結晶粒の周囲にそれより易被削性の粒界相を有する焼結希土類磁石合金1に線径1.2mm以下の可撓性線材2を押し付け,砥粒4を分散媒に分散させてなる砥液3を該合金と線材との間に介在させつつ,該線材をその軸方向に移動させることを特徴とする焼結希土類磁石合金の切断法。
【選択図】図4

Description

本発明は硬質の強磁性相の周囲に粒界相を有する焼結希土類磁石合金の切断方法および装置に関する。
Nd−Fe−Bを主体とする焼結希土類磁石合金は,Fe14Nd2Bを主相とする強磁性相とその周囲にNdリッチの粒界相(軟磁性相)とからなる金属組織を有するとされており,エネルギー積(BHmax)が35(MGOe)以上の高性能磁石となり得るものであり,この磁石の問題とされていた耐食性や耐酸化性が劣りキュリー点が低く磁気特性の温度依存性が大きい等の諸性質についても種々の改良が重ねられ,組成的にも,希土類としてのNdの一部を他の軽希土類や重希土類で置換したもの,Coを合金元素としたもの,C(炭素)を含有させたもの,その他の合金成分を含有させたもの等,様々な提案がなされ,今日に至っている。
また,その製造法についても多くの改良がなされ,品質のよい焼結希土類磁石合金を経済的に製造する技術が蓄積されつつあり,最近の精密電気製品等の心臓部を構成する機器類に焼結希土類磁石合金が多用されるようになってきた。
本発明はこのような焼結希土類磁石合金を対象とするものであるが,本明細書で言う「焼結希土類磁石合金」とは,Nd−Fe−Bを主体とする焼結希土類磁石合金はもとより,組成的には,Ndの一部を他の希土類元素で置換したもの,さらにCoを合金元素とするもの,さらにC(炭素)を含有させたもの,その他の合金元素を含有させたもの等の希土類磁石の焼結体の全体を指す。それらを総称して本明細書ではNd系焼結希土類磁石合金と呼ぶこともあるが,これを略して焼結希土類磁石合金と呼ぶ。代表的には(Nd,R)−(Fe,Co)−(B,C)系の焼結磁石合金である。RはNd以外の希土類元素である。いずれにしても,この焼結希土類磁石合金は,金属間化合物からなる磁性結晶粒を有しており,この磁性結晶粒の周囲に(Nd,R)リッチの粒界相,さらにはBリッチ,Coリッチ或いはCリッチの相を含む粒界相を有しており,これらの粒界相は,前記の金属間化合物からなる磁性結晶粒よりも一般に軟質である。磁性結晶粒を形成している金属間化合物は,厳密には含有する合金成分によって相違するが,通説ではほぼFe(Co)14Nd(R)2(B,C)の組成比をもつとされている。
このような焼結希土類磁石は,代表的には図1のような製造工程を経て製造される。焼結に先立つ合金粉末のプレス成形工程では,最終磁石形状に成形されることもあるが,生産性の関係から,ロッド状や円筒状に成形し,その焼結品を切断加工することが通常行われている。
例えば厚みが数2mm程度で直径10mm程度の円盤状の焼結希土類磁石を製造する場合の例を挙げると,まず,粒径10μm以下に粉砕された当該合金の微粉末を直径10mm程度で長さが10数cm程度の丸棒状にプレス成形する。この成形は磁場中で行い,粉末合金粒子を配向させる。その配向方向は丸棒の軸方向とする場合と軸に直交する方向とする場合があり,また半径方向とする場合もある。この配向処理は異方性磁石を得る場合に行われるが,焼結希土類磁石は異方性磁石として高性能を発揮することが多いので,この配向処理は殆んどの場合に実施される。等方性磁石を得る場合には配向は行わず,結晶方位はランダムとなる。得られたロッド状の焼成品は,熱処理するかまたは熱処理せずに,厚みが2mm程度に輪切り状に切断することにより,前記の円盤状の形状となり,さらに必要に応じて,中央部に穴ぐり加工が施されたあと,着磁して所望形状の磁石を得る。
前記の切断加工はロッドから薄片を輪切りにするスライス加工であるが,従来より焼結希土類磁石合金のスライス加工には,金属円板の外周面に砥粒を固着させた外周刃,または金属円板の中央穴の内周縁部に砥粒を固着させた内周刃が使用されてきたが,外周刃によるものが最も普通に行われている。焼結希土類磁石合金は硬さがHvで500以上,通常は600〜1000Hvといった非常に硬質であり,このために,ウエハスライス等において最も技術開発が進んでいる外周刃(ソーブレード)による切断加工を焼結希土類磁石合金の切断に採用することが普通に行われてきた。
特開平9−248821号公報 特開平10−324889号公報 特開平10−278040号公報 特開平11−77663号公報 特開平3−10760号公報 特開2000−108010号公報
焼結希土類磁石合金は,その硬さが前記のようにHv500〜1000程度と非常に硬質であり,しかも硬質の磁性結晶粒が粒界相中に分散した状態の組織を有しているために磁性結晶粒が切り欠けやすく,いわゆる硬脆な性質を有している。したがって,切断効率を挙げながら良好な切断面が得られるように切断することは,ウエハのような単結晶を切断する場合とは別の問題があり,刃の材質はもとより切断条件についてもそれなりの工夫が必要である。
これまで焼結希土類磁石合金に対して採用されてきた外周刃による切断法においても様々な改善がなされ,それなりの成果が得られているが,外周刃の厚みを薄くするには限界がある。このために,切削屑の発生量が多くなって,高価な焼結希土類磁石の製造歩留りが低下するという基本的な問題がある。
また,前記のようにロッド状や筒状の焼結品を外周刃で輪切り状にスライスする場合に,切断効率を上げるために,通常は一つの回転軸に複数の外周刃を所定の間隔をあけて配置したマルチ刃方式で一度に多数の輪切りを行うことが行われているが,この外周刃の数が多くなるに従って不良切断品が多くなるという問題があり,一本のロッドから同時に輪切り出来る数にも制限があると共に,外周刃同士の間隔(輪切りの厚みに相当)を狭くするにも限界がある。
さらに,外周刃は摩耗すると取替えを必要としてその作業管理が怠れず,またマルチ外周刃では摩耗の程度が相互に異なると切断面が不均一となったり,切断面で磁性結晶粒の欠落した組織となったりして,不良品の発生が顕著となるので切断作業工程は熟練を要するものとなっている。
このようなことから,多数の工程からなる焼結希土類磁石合金の製造においては,焼結品から小部品に切断する工程が最も負荷のかかる工程となっているのが実状である。したがって,この切断工程での合理化と歩留り向上を図ることが焼結希土類磁石合金の製造にとって大きな課題となっていたが,前記のように,外周刃を用いる方法では,多くの改善がなされてきているものの,その改善には前記のような理由から限界があり,特に,薄物を歩留りよく同時に多数切断することが困難であった。本発明の課題とするところは,このような問題を解決し,合理的且つ歩留りよく焼結希土類磁石合金を切断する方法および装置を提供しようとするものである。
本発明者らは,前記の課題を解決すべく種々の試験研究を重ねてきたが,適切な可撓性線材と砥液を用いると焼結希土類磁石合金を良好に切断できること,つまり,前記のように非常に硬質な焼結希土類磁石合金に比べると軟質な可撓性線材であっても,その線材が破断することなく焼結希土類磁石合金側が切断されることがわかった。軟質な線材側が切断され難く,硬質な焼結希土類磁石合金側が切断される要因の一つとして,焼結希土類磁石合金特有の金属組織が関与しているものと考えられる。本発明は,この知見事実に基づいてなされたものであり,硬質の強磁性結晶粒の周囲にそれより易被削性の粒界相を有する焼結希土類磁石合金に対して線径1.2mm以下の可撓性線材を押し付け,砥粒を分散媒に分散させてなる砥液を該合金と線材との間に介在させつつ,該線材をその軸方向に移動させることを特徴とする焼結希土類磁石合金(Nd系焼結希土類磁石合金)の切断法を提供するものである。
また,本発明は,硬質の強磁性結晶粒の周囲にそれより易被削性の粒界相を有し且つ該強磁性結晶の方位が所定の方向に配向している磁気異方性の焼結希土類磁石合金に対して,線径1.2mm以下の可撓性線材を,該結晶の配向方法とほぼクロスする方向またはほぼ沿う方向に押し付け,砥粒を分散媒に分散させてなる砥液を該合金と線材との間に介在させつつ,該線材をその軸方向に移動させることを特徴とする焼結希土類磁石合金の切断法を提供する。
さらに本発明によれば,硬質の強磁性結晶粒の周囲にそれより易被削性の粒界相を有する焼結希土類磁石合金からなるロッド状焼結品の複数本を軸を平行にして束ね,この焼結品の束に対し,線径1.2mm以下の可撓性線材を,各ロッドの軸方向とは直交する方向に押し付け,砥粒を分散媒に分散させてなる砥液を該焼結品と線材との間に介在させつつ,該線材をその軸方向に移動させることを特徴とする焼結希土類磁石合金の切断法を提供する。
ここで,可撓性線材は線径0.06〜1.2mmの金属線を使用することができ,砥液としては,オイル中に炭化ケイ素,アルミナ,ダイヤモンドの一種または二種以上の砥粒を分散させたものが好適である。また,切断中においては焼結希土類磁石合金の切断面と金属線とが実質的に非接触状態に維持できるに十分な砥粒が該金属線と切断面との間に介在しているように切断するのが肝要である。この場合,砥液の粘度は10〜1000mPa・sであるのが好ましい。
この切断法によれば,ロッド状の焼結希土類磁石合金に対して,一本の連続した線材の軸方向への移動で複数箇所の切断を同時に行うことができる。また,線材の軸方向の移動は,往路移動とそれより短距離の復路移動とを繰り返し,往路移動および復路移動とも磁石に接する前の線材表面にその都度砥液を供給する方式が望ましい。
このような切断法を実施する装置として,本発明によれば,可撓性の線材を軸方向に走行させる線材走行手段と,焼結希土類磁石合金からなる被切断材と走行中の線材とを互いに押し付けるための切断深さ調整手段と,切断中の該被切断材の切削面と線材外周面との間に砥粒を供給する手段と,からなる焼結希土類磁石合金の切断装置を提供するものである。
本発明によれば,非常に硬質な金属間化合物の結晶を磁性相とする焼結希土類磁石合金を,その金属組織の特徴を利用することによって簡易且つ精密な切断加工ができるようになり,当該磁石の生産性の向上に大きく貢献することができる。
焼結希土類磁石合金のうち,Nd−Fe−Bを主体とした焼結磁石合金の組織は,図2(A)に図解的に示したように,直径が10μm前後のFe14Nd2Bの強磁性結晶粒(マトリックス)の周囲に,Ndリッチ相(bccのFe−Nd相:軟磁性相)とボロンリッチ相(Nd1+eFe44, Nd2Fe76などの非磁性相) が粒界相として存在した金属組織を有するとされている。そして,例えば焼結後の熱処理によって, Fe14Nd2B相の周囲にNdリッチ相が一様な界面をもって安定した状態で形成されると,逆磁場を与えた場合に,Ndリッチ相内でまず逆磁区の核が発生し,この逆磁区の核が粒界を超えてFe14Nd2B相に侵入成長することが防止される結果,高い保磁力が維持されると説明されている。
同様に,図2の(B)には,Ndの一部をDyで置換し且つCoとCを含有した(Nd,Dy)−(Fe,Co)−(B,C)系の焼結磁石合金の組織を図解的に示したが,このものも,直径が10μm前後のFe(Co)・Nd(Dy)・B・Cの磁性結晶粒(化合物相)の周囲に,Nd,Dy,Fe,Co,B,Cを含有した粒界相(合金相)が存在し,前記と同様に,この粒界相の存在が磁性結晶粒に高い保磁力を付与する上で重要な役割を果たすと共に,C(炭素)の存在が耐食性・耐酸化性の向上に寄与するとされている。
このような特徴的な金属組織によって高いエネルギー積を有することができるNd系焼結磁石は,非常に硬質な金属間化合物からなる大きな磁性結晶粒が,各成分を含むより粒界相(合金相)中に分散した硬脆な性質を有するので,加工の面からみると,滑らかな切断面をもって切断することが非常に困難な金属組織を有すると言い得る。事実,従来から採用されている外周刃による切断においても切断速度を速くすれば切欠が発生して不良切断面が生じ,また薄物に切断することにも困難を伴っていた。すなわち,硬質の磁性結晶粒を切断するには刃先の損耗はさけられず,また結晶粒の剥がれ落ちも発生するので亀裂の発生を誘発する。このため,切断面に刃先を介して高応力を与える外周刃による切断では,不良品が必然的に発生しやすく,滑らかな破断面をもつ薄物を高い歩留りで得ることには困難を伴っていた。
前記の問題は,Fe14Nd2Bの金属間化合物をもつとされているNd−Fe−B系の焼結磁石合金のみならず,Ndの一部を他の軽希土類および/または重希土類で置換したもの,Coを含有させてそのキューリー点を高めたもの,Cを含有させて耐食性および耐熱性を高めたもの,その他の合金成分を含有させて諸特性の改善を図ったもの等であっても,その金属組織状態が,硬質の強磁性結晶粒の周囲にそれより軟質の粒界相を有するものである以上,同様の加工上の問題を有している。ここで「それより軟質」とは,実際にはその硬さを図ることは困難であるが,強磁性結晶粒に比べると結合が緩やかでもろい性質を意味し,したがって磁性結晶粒に比べると摩耗や衝撃によって除去されやすい性質を意味しており,このような粒界相の性質を本明細書では『易被削性』と呼ぶ。
したがって本発明が切断対象とする焼結希土類磁石合金は,Nd−Fe−B系はもとより,これと実質的に同様の金属組織状態,すなわち硬質の強磁性結晶粒の周囲にそれより易被削性の粒界相を有した金属組織状態をもつ前記のような各種成分組成の焼結希土類磁石合金の全てを含むものである。
本発明者らは,この焼結希土類磁石合金の切断加工上の問題は,この磁石合金に対して可撓性線材を押し付け,砥粒を分散媒に分散させてなる砥液を該合金と線材との間に介在させつつ,該線材をその軸方向に,切断面に直接的に接触させずに移動させることによって解決できることを見い出した。該線材が焼結希土類磁石合金よりも硬くはない可撓性であっても,線材は切断されないで硬質な合金側が切断されるのである。
例えば図3に示すように,前記したような金属組織を有する焼結希土類磁石合金1に対し,可撓性線材2を押し付け,図4に図解的に示したように,分散媒3に砥粒4を分散させてなる砥液を,該磁石合金1と線材2との間に介在させつつ,線材2を軸方向に移動させる。図3の例では,線材長手方向をほぼ水平とし且つその軸方向に移動する可撓性線材2に対して,その上から焼結希土類磁石合金1を押し当てることによって,焼結希土類磁石合金1を下から上に向かう方向に切断する(切断の進行方向を下から上に向かう方向とする)ようにした例を示している。
図4は,図3の切断途中の切断箇所を線材2と直交する面で模式的に描いたものであるが,図4に示すように,線材2と磁石合金側の切断面5とは直接的な接触が生じないように,その間に砥液を介在させた状態で,線材2を軸方向(図4において紙面の表裏方向)に移動させる。もちろん,線材2が,焼結希土類磁石合金1の切羽部分6(図4においては,切断面5のうちの上面部分)に対して押圧が作用するようにして,その軸方向に移動させるのであるが,その軸方向の移動の間も砥液が切羽部分6と線材2との間に存在する状態が維持されることが肝要である。砥液が存在しなくなると線材2が摩耗して破断に至るからである。このためには,砥液が適正な粘性を有すると共に砥粒が適正な濃度と粒度分布を有することが望ましい。
この焼結希土類磁石合金1の切断において,線材2は線径が1.2mm以下,好ましくは1.0mm以下で0.1mm以上,さらに好ましくは0.6mm以下で0.1mm以上の可撓性の金属線を使用する。ここで,可撓性とは巻取リールに自由に巻取でき且つプーリ間や溝付きガイドローラ間を任意の角度変化をもって方向転換しながら自由に移動させることができるような性質を言う。所定の張力下で且つ焼結希土類磁石合金1に対して所定の押圧を与えながら所定速度で線材2を軸方向に移動させる装置を実際に構成するには,このような可撓性の性質を線材2が有することが必要であるからである。このために,線材2は必然的に焼結希土類磁石合金1よりも軟質な材料となる。前述した金属組織をもつ焼結希土類磁石合金1は通常その硬さが500Hv以上,場合によっては1000Hvを示すが,それと同等若しくはそれ以上の硬さをもつ線材では前記のような可撓性を具備することは実質的に不可能である。実際の線材2の例としては,スチール線,ピアノ線,ステンレス鋼線等を使用することができ,これらにブラスメッキや銅メッキ等の表面処理を施したものも使用できる。
図4に図解的に示すように,軟質側の線材2と硬質側の切羽面6との間で両者を紙面の表裏方向に相対移動させると,線材2の表面と切羽面6に砥粒が作用する力は作用・反作用の法則によりほぼ同等となって同一の応力が両者に作用する場合には,軟質側の表面が研削される筈である。ところが,本発明法によると,実際には,軟質側の線材2の表面は切削されることが少なく,硬質側の焼結希土類磁石合金1の切羽面6が研削されて切断が進行する。その理由は必ずしも明確ではないが,砥粒4のうち,粒径の小さいものが焼結希土類磁石合金1の金属組織のうちの粒界相(より易被削性の軟質相)を削り取り(剥ぎ落とし),この粒界相の研削がおきると,硬質の磁性結晶粒が浮き出してきて,やがて壁面から離脱する結果,研削が進行するのではないかと考えられる。すなわち,粒界の切断または除去が優先的に起きる結果,磁性結晶粒は粒界から分離される。他方,砥粒4のうち,粒径の大きなものは,線材2の表面と切羽面6との間隔を維持するためのスペーサの機能を果たして両者の表面が接触するのを妨げる。他方,線材2の表面に砥粒4が作用するとしても,線材2は円形表面を有するうえ,水平方向に移動している図4の線材2ではその下方は開放空間となっているので砥液が下方に回り込むと共に,砥液の粘性が適正であると砥粒も線材の移動方向に移動するので砥粒と線材間に作用する応力は砥粒と切羽面6に作用するものよりも低くなって,線材の単位面積当りに砥粒が作用する応力が緩和される結果,線材2の切削は殆んど生じないのではないかと考えられる。
このような現象で切削が進行すると,当然のことながら砥液中には焼結希土類磁石合金1の粉粒状の切削屑が同伴するようになる。前記のような現象で切削が進行すると,この切削屑は粒界相の削り屑(微粉状)と,粒界から剥離した磁性結晶粒の粒子とからなる。後者の磁性結晶粒の粒子の表面には粒界相が被覆してこともあり得る。いずれにしても,焼結希土類磁石合金の切削が起きるとその切削屑は砥液中に移行し,この砥液中の切削屑も次の切削面では砥粒として作用すると考えられる。しかし,この場合も,切削屑とりわけ粒界から剥離した硬質の磁性結晶粒が線材2の表面を研削するような現象は殆んど起きないことが確認された。その理由としては,粒界から剥離した磁性結晶粒は比較的粒径が大きいこと,および,線材2の下方の開放空間に重力によってすぐに排出されることなどが考えられる。
本発明で使用する砥液は,砥粒を線材の移動に伴って移動させながら切削面に作用させて切削を進行させるものであるから,その特性は非常に重要であり,切断対象とする焼結希土類磁石合金の種類や寸法,使用する線材の材質や線径,切削速度などの様々な要因に応じて適切なものを選定する必要がある。分散媒としてオイル例えば鉱物系オイルや炭化水素系オイルが使用でき,砥粒としては例えば炭化ケイ素,アルミナ,窒化ほう素(C・BN),ダイヤモンドなどが使用できる。
この場合,砥液の粘度はE型粘度計で測定して30〜1000mPa・sの範囲であるのが良い。砥粒は平均粒径が1〜100μmの範囲であるのがよく,分散媒中の砥粒の濃度は10〜90wt%の範囲,好ましくは30〜80wt%の範囲として,前記の粘性を確保するのがよい。また,この粘性を維持するために,増粘剤を添加したり,切削中の砥液温度が一定となるように砥液の温度管理を行うのが望ましい。また,必要に応じて分散剤や流動化剤を砥液に添加することも望ましい。使用中の砥液は温度管理を行うことが望ましく,固化しない程度の温度以上,例えば20℃以上で,且つ出来るだけ低い温度例えば50℃以下に維持するのがよい。
このような砥液を使用し,線材の移動に伴って砥液中の砥粒を移動させながら切削面に作用させて焼結希土類磁石合金の切削を進行させる場合,線材の移動速度は,最高速度が100〜2000m/minの範囲となるように制御するのがよい。また,そのさい,切断面を平滑にするためには,線材に対して可能な限り高い張力を維持するのが好ましい。しかし,線材の材質によって付与する張力にも自ずと限界がある。本発明者らの実験では巻取ローラ側付近で線材に付与した張力は25±10Nであった。
本発明の実施にさいし,強磁性結晶の方位を所定の方向に配向させた磁気異方性の焼結希土類磁石合金を切断する場合には,その結晶の配向方向とほぼクロスする方向もしくはその配向方向にほぼ沿う方向に該線材を押し付け,前記と同様に砥液を該合金と線材との間に介在させつつ,該線材をその軸方向に移動させて切断するのがよい。磁気異方性の焼結希土類磁石合金は,図1で説明したように,合金粉末のプレス成形時に強力な磁界中で成形すると,磁性結晶粒の磁化容易軸が磁束の方向に揃った状態で圧粉成形品が得られ,これを焼結すると,磁性結晶粒の方位が一定の方向をもつ磁気異方性の焼結希土類磁石合金が得られる。ロッド状の焼結希土類磁石合金に焼結する場合には,ロッドの軸方向が配向方向となるようにするのが一般であり,これを軸に直交する方向に薄く輪切り切断(配向方向を横切るように切断)すれば,表裏方向に配向した板状磁石が得られる。また,配向方向に沿う方向に切断すれば,切断面に沿う方向に配向した磁石を得ることができる。
そして,磁気異方性の焼結希土類磁石合金に対して,その配向方向を横切る方向または配向方向に沿う方向に切断することは,結晶粒の各々に方向の規則性をもった切断面を得ることを意味しており,このような切断の態様は,良好な表面品質をもつ磁気異方性磁石製品を得ることができる点で,好都合である。
図5は,焼結希土類磁石合金1からなるロッド状焼結品の複数本を軸を平行にして束ね,この焼結品の束に対し,前記同様の可撓性線材2を,各ロッドの軸方向とは直交する方向に押し付け,砥粒を分散媒に分散させてなる砥液を該焼結品と線材との間に介在させつつ,該線材をその軸方向に移動させることによって,同時に多数本のロッドを切断する本発明の態様を示している。
各ロッドを束ねる場合,図6に示したように,台座7に第1段目のロッド群aを平行に敷き詰め,その上に第二段目のロッド群bを平行に敷き詰め,さらにその上に第3段目のロッド群cを敷き詰めるといった方法(但し,図面では逆さにした状態にある)で積み上げるのが好ましく,台座7と第1断面のロッド群aとの接合点,並びにロッド群a〜cの各ロッド間の接合点には接着剤を介在させて互いに固定するか,ロッド間に接着テープを巻き込むことによって互いに接着固定するのが好ましい。接着テープを用いてロッドを接着固定しながら束ねた場合には,切断品も互いにその接着固定状態が維持されるので,切断途中や切断終了後も切断品が互いに離れることなく,切り込みが入っているだけで,ロッド束の原形をそのまま維持することができる。切断終了後に接着剤や接着テープを除去するには,剥離剤溶液に切り込みが入っている原形品を台座ごと浸漬すればよい。台座7としてはステンレス鋼材やカーボン材等が使用でき,台座7の厚みの一部にまで切り込みが入るまで切断操作を行うと,第1段目のロッド群aの輪切り切断を完全に行うことができる。
また,本発明の実施にあたり,切断の生産性を上げるために,図5に示すように,焼結希土類磁石合金1のロッドに対し,同時に複数箇所の切断を行うのが好ましい。図5では,6か所で線材2を互いに平行にしてロッドに押し当てながら切断する状態を示しているが,実際には,一定間隔でロッドの全長に対して多数箇所で線材2を押し当てながら同時に切断するのがよい。その場合,線材2は一本の連続したものであることができる。すなわち,図5には示されていないが,一本の長い線材を,平行に対向配置した一対の溝付きガイドローラ間に,一本の線材を互いに一定の間隔を開けながら巻付けることよって,図5のように互いに平行な線材2の列を作り,この線材2の列を同時に同方向に移動させるようにすればよい。
より具体的には,図6に示すように,所定の間隔を開けて平行に対向配置した一対の溝付きガイドローラ8aと8bに対して,一本の線材1を,例えば紙面の表側から裏側に向けて順々その溝に嵌まるように巻付けてゆき,例えばガイドローラ8aでは紙面表の側に線材2の送り出し端9が,ガイドローラ8bでは紙面裏の側に巻取端10が位置するようにすればよい。このようにしてガイドローラ8aと8bの間で一本の線材2によって多数の平行な列が形成されるが,この列の上に,焼結希土類磁石合金1のロッド束を,矢印11の方向に所定圧力で押し当てながら,線材2を軸方向に移動させると,一本の連続した線材の軸方向への移動で複数箇所の切断を同時に行うことができる。
そのさい,線材2の軸方向の移動を,往路移動とそれより短距離の復路移動とを繰り返すことによって行うのが望ましく,往路移動および復路移動とも焼結希土類磁石合金2に接する前の線材表面に砥液供給ヘッダー12aと12bとからその都度砥液を供給するのが望ましい。例えば,図6では,左側のガイドローラ8aから右側のガイドローラ8bに向けて線材2を距離Xだけ移動させたら,次に反対方向に,Xよりαだけ短い距離Y(=X−α)だけ移動させるという往復動を繰り返し,一回の往復動について長さαだけ巻取リール(図示しないが,線材2の巻取端10に接続している)に巻取るようにする。このステップ移動により,砥液は両側の砥液供給ヘッダー12aと12bから切断面に交互に供給されることになるで,線材2と焼結希土類磁石合金1の切羽面6との間に砥粒と切削屑が良好な状態で存在し得ることになる。
以上のような本発明法は,可撓性の線材を軸方向に走行させる線材走行手段と,焼結希土類磁石からなる被切断材と走行中の線材とを互いに押し付けるための切断深さ調整手段と,切断中の該被切断材の切削面と線材外周面との間に砥粒を供給する手段と,からなる焼結希土類磁石の切断装置を用いて実施することができる。ここで,前記の線材走行手段は,例えば図6に示したように,所定の間隔を開けて平行に対向配置した一対のガイドローラ8aと8bに懸け渡した線材2を軸方向に移動させることができるものであればよく,図示しないけれども線材の巻取りリール,巻戻しリールおよび線材のドライブローラ等から構成することができる。前記の切断深さ調整手段は,焼結希土類磁石合金1を固定する台座7を線材2の方向に所定の圧力で押しつけるプレス機構を採用すればよい。また,砥粒を供給する手段としては,分散媒に砥粒を分散させた砥液が所定量づつ吐出する砥液供給器12を使用し,これを切断部近傍に設置して切断部に送り込まれる直前の線材表面に対して砥液を供給するようにするのがよい。
〔実施例1〕
同一出願人に係る特許第2779654号の実施例8に記載した製法に従って該実施例8と同等の組成すなわち18Nd−61Fe−15Co−1B−5Cを有し,同特許公報の第2図に示したものと同等の金属組織すなわちほぼ10μmの磁性結晶粒の周囲にNdリッチの粒界相を有する金属組織を有する焼結希土類磁石合金からなる30mm×25mm×厚み8mmの板状焼結体(板厚方向に配向させたもの)を供試材とし,この供試体に対して,線径0.2mmのスチール線(表面にブラスメッキが施されている)と,炭化ケイ素系の砥粒を鉱物油に分散させた砥液を用いて切断試験を行った。試験条件は次のとおりである。
〔試験条件〕
被切断材:前記の焼結希土類磁石合金(硬さ650Hv)。
線材:ブラスメッキした線径0.2mmのスチール線(引張強度=3000N/mm2 ,切断荷重=80N)。
砥液:平均粒径17μmの炭化ケイ系砥粒(#700)を鉱物油(商品名リカラッピングオイルFB−10)に65wt%の濃度で分散させてなる粘度が110mPa・sの粘稠液。
切断方向:被切断材の板裏面に対し,線材を25mmの辺に平行に押し当てて線材を軸方向に移動させる。
線材移動速度:
線材の往路速度:加速度3.0m/sec2で初速を与え,速度が700m/minとなった時点でその速度を10秒間維持し,その速度から4秒間で停止させる。
線材の復路速度:前記の往路が停止したら引き続いて反対方向に加速度3.0m/sec2で初速を与え速度が700m/minとなった時点でその速度を5秒間維持し,その速度から4秒間で停止させる。
砥液の供給:線材の往路および復路とも,切断部から100mm離れた位置で線材表面に砥液を供給し,線材表面が完全に砥液で覆われた状態で切断部に進行するようにする。
被切断材のスライス厚み:1.0mm
前記の試験条件で長さ25mm×幅8mmで厚み1.0mmの短冊状の切断片をほぼ35分間で切り出した。その間,線材に供給する砥液の温度は25℃の一定となるように管理した。得られた切断片の切断面は非常に滑らかであり,ソーマークも切欠も見られなかった。切断面を電子顕微鏡観察したところ,粒界で切断されていることがわかった。
〔実施例2〕
供試材として,組成が18Nd−76Fe−6Bからなり,平均粒径5.0μmの磁性結晶粒がNdリッチの粒界相に囲まれた金属組織を有する焼結希土類磁石合金を使用した以外は,実施例1を繰り返した。その結果,ほぼ35分間で25mm×幅8mmで厚み1.0mmの短冊状の切断片が切り出され,その切断面は非常に滑らかでソーマークも切欠も見られなかった。
〔実施例3〕
砥液として,SiC系の砥粒(平均粒径=17.0μm,700)を鉱物油に65wt%の濃度で分散させた粘度が280mPa・sのものを使用した以外は,実施例1を繰り返した。その結果,ほぼ40分間で25mm×幅8mmで厚みが1.0mmの短冊状の切断片が切り出され,その切断面は非常に滑らかでソーマークも切欠も見られなかった。
〔実施例4〕
供試材の配向方向が板幅方向である以外は,実施例1を繰り返した。その結果,ほぼ35分間で25mm×幅8mmで厚み1.0mmの短冊状の切断片が切り出され,その切断面は非常に滑らかでソーマークも切欠も見られなかった。
〔比較例〕
砥液の砥粒濃度が10wt%で粘度が28mPa・sのものを使用した以外は,実施例1を繰り返した。その結果,切断途中で線材が破断した。
焼結希土類磁石合金の一般的な製造法の例を示す工程図である。 (A)および(B)とも,焼結希土類磁石合金の一般的な金属組織状態を図解して示した組織説明図である。 本発明に従う焼結希土類磁石合金の切断法の例を示す斜視図である。 本発明に従って焼結希土類磁石合金を切断するさいの切断部の状態を模式的に示した略断面図である。 本発明に従う焼結希土類磁石合金の切断法の態様例を示す斜視図である。 本発明に従う焼結希土類磁石合金の切断法の態様例を示す略断面図である。
符号の説明
1 焼結希土類磁石合金
2 可撓性線材
3 砥液
4 砥粒
5 切断面
6 切羽
7 台座
8 ガイドローラ
9 線材の送り出し端
10 線材の巻取端
11 押圧方向
12 砥液供給ヘッダー

Claims (7)

  1. Nd−Fe−Bを主体とし強磁性結晶粒の周囲にそれより易被削性の粒界相を有し且つ該強磁性結晶の方位が板幅方向に配向している磁気異方性の焼結希土類磁石合金板状体に、線径1.2mm以下の可撓性線材を、該結晶の配向方向とほぼクロスする方向に該板面に押し付け、砥粒を分散媒に分散させてなる砥液を該合金板状体と線材との間に介在させつつ、該線材をその軸方向に移動させ前記合金板状体を前記粒界相で切断することを特徴とする焼結希土類磁石合金の切断法。
  2. 可撓性線材は線径0.06〜1.2mmの金属線からなり、砥液は、オイル中に炭化ケイ素、アルミナ、窒化ほう素(C・BN)、ダイヤモンドの一種または二種以上の砥粒を分散させてなり、切断中において該磁石合金の切断面と金属線とが実質上非接触状態に維持できるに十分な砥粒が該金属線と切断面との間に介在している請求項1に記載の焼結希土類磁石合金の切断法。
  3. 砥液の粘度が30〜1000mPa・sである請求項1または2に記載の焼結希土類磁石合金の切断法。
  4. 一本の連続した線材の軸方向への移動で複数箇所の切断を同時に行う請求項1〜3のいずれかに記載の焼結希土類磁石合金の切断法。
  5. 線材の軸方向の移動は、往路移動とそれより短距離の復路移動との繰り返しからなり、往路移動および復路移動とも磁石に接する前の線材表面にその都度砥液が供給される請求項1〜4のいずれかに記載の焼結希土類磁石合金の切断法。
  6. 線材の長手方向がほぼ水平となるように配置された可撓性線材に対してその上から焼結希土類磁石合金板状体を押し当て、該合金板状体に対する切断の進行方向を下から上に向かう方向とする請求項1〜5のいずれかに記載の焼結希土類磁石合金の切断法。
  7. 前記焼結希土類磁石合金はNd−Fe−Bを主体とし、Coを含有しさらにCを含有させたものである請求項1〜6のいずれかに記載の焼結希土類磁石合金の切断法。
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