上記特開平7−93028号公報に記載された構成では、ベースステーションとセンシングロボットとは1対1の関係で通信を行なっているため、広い探索範囲を探索する場合に、全てのセンシングロボットに長距離の通信を行なう必要性が生じることがある。そのため、前述のような群ロボットシステムでは、ベースステーションが停止している場合には、センシングロボットそれぞれに最大通信距離が長い通信機構、すなわち、大型化または重量化した通信機構が必要とされていた。
また、通信機構を大きくすると個々のセンシングロボットも大型化または重量化し、センシングロボットの探索機能に支障をきたすことが考えられる。そのため、ベースステーションが停止している状態での群ロボットシステム全体の探索範囲を広げることが困難であった。
また、上記従来の群ロボットシステムのように、ベースステーションとセンシングロボットとが1対1の関係で通信を行なっている場合は、ベースステーションと個々のセンシングロボットとがそれぞれ通信する必要があった。そのため、ベースステーションが停止している状態での群ロボットシステム全体の探索範囲を広げようとすると、ベースステーションにおいてもそれぞれのセンシングロボットと長距離通信できるように大きな通信機構を備える必要があった。この観点からも、ベースステーションが停止している状態での群ロボットシステム全体の探索範囲を広げることが困難であった。
本実施の形態の群ロボットシステムは、上記の問題を解決するためになされたものであり、センシングロボットまたはベースステーションの通信機構の小型化または軽量化を図りながら、ベースステーションが停止している状態での探索範囲を広げることができる群ロボットシステム、それに用いられるセンシングロボットおよびベースステーションを提供することである。
また、さらに、前述の群ロボットシステムの探索範囲を広げるにあったて、センシングロボットの制御をより確実にする必要がある。その場合に、センシングロボットの移動を制限することにより、さらに通信制御によるコントロールを確実にしようとすると、センシングロボットの移動をコントロールするロボット、たとえば、フェロモンロボットが必要であると考えられる。
そこで、本実施の形態の群ロボットシステムの他の目的は、群ロボットシステムの探索範囲を広げるにあったて、センシングロボットの移動を制限して群ロボットシステムにおけるセンシングロボットのコントロールをより確実にすることができるフェロモンロボットを提供することである。
本実施の形態の群ロボットシステム(又は、群ロボットの制御方法)は、対象物の探索に用いられる複数のセンシングロボットと、複数のセンシングロボットを通信により制御するためのベースステーションとを備えた群ロボットシステム(又は、群ロボットシステムに適用される制御方法)であって、群ロボットシステムの通信体系が、ベースステーションを最上層として、複数のセンシングロボット同士で複数層を構成する階層構造をなし、階層構造において、ベースステーションからは、複数のセンシングロボットそれぞれまで階層構造の下層側へ順に、複数のセンシングロボットそれぞれの動作の制御に関する情報が伝達され(ステップ1)、複数のセンシングロボットそれぞれからは、べースステーションまで階層構造の上層側へ順に、複数のセンシングロボットそれぞれの対象物の探索に関する情報が伝達される(ステップ2)。
上記のような構成にすることにより、センシングロボットそれぞれの通信機構の小型化または軽量化を図りながら、ベースステーションが停止している場合の探索範囲を広げることができる。
本実施の形態の群ロボットシステムは、より好ましくは、階層構造の上層から下層へ向かってはベースステーションから複数のセンシングロボットそれぞれへの通信ルートが必ず1つとなるように設定されている。このような構成にすることにより、通信による制御命令の混乱を避けることができる。
本実施の形態の群ロボットシステムは、より好ましくは、ベースステーションとの通信により複数のセンシングロボットのうち階層構造の最下層にあるセンシングロボットの移動を制限する制御を行なうフェロモンロボットをさらに備えている。このような構成にすることにより、階層構造の最下層にあるセンシングロボットがベースステーションの指示が届かない位置に移動してしまうことによって、最下層にあるセンシングロボットの制御が不能となることを抑制することができる。
本実施の形態の群ロボットシステムは、より好ましくは、ベースステーションからフェロモンロボットを経て複数のセンシングロボットそれぞれへ情報を伝達することが可能である。このような構成にすることにより、ベースステーションからの情報の伝達系統が、階層構造の上層側から下層側へ、および、下層側から上層側への2系統となるため、ベースステーションからセンシングロボットへの情報の伝達不能のおそれを低減することができる。
なお、本実施の形態の群ロボットシステムは、フェロモンロボットを使用する場合には、フェロモンロボットとベースステーションとの最大通信距離が、ベースステーションと階層構造の最上層にあるセンシングロボットとの間の最大通信距離、フェロモンロボットと階層構造の最下層にあるセンシングロボットとの間の最大通信距離、および、複数のセンシングロボット同士の間の最大通信距離のいずれかよりも大きくなるように設定されていることが、フェロモンロボットを有効に機能させるための前提条件である。
本実施の形態の群ロボットシステムは、より好ましくは、フェロモンロボットとベースステーションとの最大通信距離が、ベースステーションと階層構造の最上層にあるセンシングロボットとの間の最大通信距離と、フェロモンロボットと階層構造の最下層にあるセンシングロボットとの間の最大通信距離と、複数のセンシングロボット同士の間の最大通信距離の和とを加えた距離よりも大きくなるように設定されている。このような構成にすることにより、階層構造の最下層のセンシングロボットまでのベースステーションからの通信可能距離が最も長くなるように効率的にセンシングロボットを使用することができる。
本実施の形態の群ロボットシステムは、より好ましくは、対象物の探索にあたっては、ベースステーションに対するフェロモンロボットの位置関係を決定することにより、全体の探索範囲が決定されるように設定されている。このような構成にすることにより、対象物の探索範囲の決定が容易になる。
本実施の形態の群ロボットシステムは、さらに好ましくは、全体の探索範囲に基づいて、複数のセンシングロボットの個々の探索範囲が決定されるように設定されている。このような構成にすることにより、センシングロボットの個々の探索範囲の決定が容易になる。
本実施の形態の群ロボットシステムは、またさらに好ましくは、個々の探索範囲に基づいて、複数のセンシングロボット個々の対象物の探索能力および通信強度のうち少なくともいずれか一方が決定されるように設定されている。このような構成にすることにより、対象物の探索能力および通信強度のうち少なくともいずれか一方を的確に決定することができる。
本実施の形態の群ロボットシステムは、より好ましくは、複数のセンシングロボットそれぞれは、階層構造の1つ上層にある、センシングロボットまたはベースステーションからの通信強度が予め決められた基準レベルを下回った場合に、通信強度が基準レベルを上回るような方向へ移動するように設定されている。このような構成にすることにより、あるセンシングロボットとの通信が不能になり、そのセンシングロボットをベースステーションで制御することができないという不都合の発生を抑制することができる。
本実施の形態の群ロボットシステムは、より好ましくは、階層構造の通信においては、互いに隣接する階層の複数のセンシングロボット同士の間の通信、または、最上層のセンシングロボットとベースステーションとの間の通信は、互いに同じ通信強度となるように設定されており、複数のセンシングロボットそれぞれが、階層構造の1つ上層にある、センシングロボットまたはベースステーションからの通信強度が予め決められた基準レベルを下回った場合に、通信強度が基準レベルを上回るまで互いの通信強度を強くするように設定されている。このような構成にすることにより、あるセンシングロボットとの通信が不能になり、そのセンシングロボットをベースステーションで制御することができないという不都合の発生を抑制することができる。
本実施の形態の群ロボットシステムは、より好ましくは、階層構造における通信方式が、スペクトラム拡散通信方式である。このような構成にすることにより、群ロボットシステムの通信体系に混乱を生じさせることなく、群ロボットシステムを機能させることができる。
本実施の形態の群ロボットシステムは、また、スペクトラム拡散通信方式において、階層構造の1つ上層にあるセンシングロボットおよび1つ下層にあるセンシングロボットの識別を、拡散符号により行なうように設定されている。このような構成にすることにより、階層の上下の通信の体系に混乱を生じさせることなく、群ロボットシステムを機能させることができる。
本実施の形態の群ロボットシステムは、また、スペクトラム拡散通信方式において、階層構造の同階層での他のセンシングロボットの識別を、拡散符号により行なうように設定されている。このような構成にすることにより、階層の同層の通信の体系に混乱を生じさせることなく、群ロボットシステムを機能させることができる。
本実施の形態の群ロボットシステムは、スペクトラム拡散通信方式には、同期確定のための通信層および拡散符号、1つ上層にあるセンシングロボットを識別するための通信層および拡散符号、ならびに、1つ下層にあるセンシングロボットを識別するための通信層および拡散符号が用いられる。
本実施の形態の群ロボットシステムは、より好ましくは、ベースステーションが移動する機能を備えている。このような構成にすることにより、群ロボットシステムの探索範囲をベースステーションを移動させることで容易に変更することができる。
本実施の形態の群ロボットシステムは、階層構造がツリー構造である。このような構成にすることにより、ベースステーションからそれぞれのセンシングロボットへの指令系統を1本化することができる。
本実施の形態のセンシングロボットは、ベースステーションにより制御されて対象物の探索を行なうセンシングロボットであって、通信体系が、ベースステーションを最上層として、複数のセンシングロボット同士で複数層を構成する階層構造をなすように設定された群ロボットシステムにおいて用いられ、階層構造の上層側へ自己より下側の階層のセンシングロボットの対象物の探索に関する情報を伝達する機能と、階層構造の1つ下層側へ自己より下側の階層のセンシングロボットの動作に関する情報を伝達する機能とを備えている。
上記のような構成にすることにより、センシングロボットそれぞれの通信機構の小型化または軽量化を図りながら、ベースステーションが停止している場合の探索範囲を広げることができる。
なお、コンピュータに、前述のセンシングロボットを動作させるためのプログラムが実行されて、センシングロボットは群ロボットシステムにおいて機能する。なお、このプログラムは、CDROMなどの記録媒体に記録されていているものがロボットに読込まれてもよいとともに、インターネットなどの情報伝達網からインストールされてロボットに読込まれてもよい。
本実施の形態のベースステーションは、複数のセンシングロボットに対象物を探索させる制御を行なうベースステーションであって、通信体系が、ベースステーションを最上層として、複数のセンシングロボット同士で複数層を構成する階層構造をなすように設定された群ロボットシステムにおいて用いられ、階層構造において、ベースステーションから複数のセンシングロボットそれぞれまで階層構造の下層側へ順に、複数のセンシングロボットそれぞれの動作の制御に関する情報を伝達でき、複数のセンシングロボットそれぞれからベースステーションまで階層構造の上層側へ順に、複数のセンシングロボットそれぞれの対象物の探索に関する情報が伝達される。
上記のような構成にすることにより、全てのセンシングロボットそれぞれと通信できる通信機能を有しなくてもよいため、ベースステーションの通信機構の小型化または軽量化を図りながら、ベースステーションが停止している場合の群ロボットシステムの探索範囲を広げることができる。
なお、コンピュータに、前述のベースステーションを動作させるためのプログラムが実行されて、ベースステーションは群ロボットシステムにおいて機能する。なお、このプログラムは、CDROMなどの記録媒体に記録されていているものがロボットに読込まれてもよいとともに、インターネットなどの情報伝達網からインストールされてロボットに読込まれてもよい。
本実施の形態のフェロモンロボットは、対象物の探索に用いられる複数のセンシングロボットと、通信により該複数のセンシングロボットを制御するためのベースステーションとを備え、ベースステーションとの通信により、複数のセンシングロボットを、ベースステーションによる制御が可能な範囲に位置するように、センシングロボットの移動を制限する制御を行なう。
このような構成にすることにより、複数のセンシングロボットを、ベースステーションによる制御が可能な範囲に位置するように、センシングロボットの移動を制限する制御を行なうことにより、センシングボットがベースステーションの指示が届かない位置に移動してしまうことによって、複数のセンシングロボットうちいずれかのセンシングロボットの制御が不能となることを抑制することにより、ベースステーションが停止している場合の探索範囲を広げることができる。
本実施の形態のフェロモンロボットは、より好ましくは、ベースステーションとの通信により複数のセンシングロボットのうちベースステーションからの距離が最も遠い位置にあるセンシングロボットの移動を制限する制御を行なう。
このような構成にすることにより、複数のセンシングロボットのうちベースステーションからの距離が最も遠い位置にあるセンシングロボットがベースステーションの指示が届かない位置に移動してしまうことによって、複数のセンシングロボットのうちベースステーションからの距離が最も遠い位置にあるセンシングロボットの制御が不能となることを抑制することにより、ベースステーションが停止している場合の探索範囲を広げることができる。
本実施の形態のフェロモンロボットは、より好ましくは、通信体系が、ベースステーションを最上層として、複数のセンシングロボット同士で複数層を構成する階層構造をなすように設定された群ロボットシステムにおいて用いられ、ベースステーションとの通信により複数のセンシングロボットのうち階層構造の最下層にあるセンシングロボットの移動を制限する制御を行なう。
このような構成にすることにより、階層構造の最下層にあるセンシングロボットがベースステーションの指示が届かない位置に移動してしまうことによって、階層構造の最下層にあるセンシングロボットの制御が不能となることを抑制することにより、ベースステーションが停止している場合の探索範囲を広げることができる。
なお、コンピュータに、前述のフェロモンロボットを動作させるためのプログラムが実行されて、フェロモンロボットは群ロボットシステムにおいて機能する。なお、このプログラムは、CDROMなどの記録媒体に記録されていているものがロボットに読込まれてもよいとともに、インターネットなどの情報伝達網からインストールされてロボットに読込まれてもよい。
本実施の形態のフェロモンロボットは、より好ましくは、ベースステーションに対して指向性を有する通信機構を備えている。このような構成にすることにより、全方位に対して通信を行なう必要がないフェロモンロボットにおいて、より容易に正確な通信を実現することができる。
本実施の形態のロボットを含む群ロボットシステムを、図1〜図6を用いて説明する。本実施の形態のロボットを含む群ロボットシステムを、たとえば、1辺、最小数10メートルから最大数キロメートル平方の面積の部分から火事や人などの熱源の探索、COなどの有毒ガスや有毒放射線の探索、地雷などの金属探査、都市設計のためのVRデータ収集のための3次元の画像データの収集などを行なうものを例にして説明する。
本実施の形態においては、都市全体の有毒ガスや有毒放射線の探索を行なう場合には、群ロボットが一度にすべての市街地を探索するのではなく、数分の1に分割された市街地を、ベースステーションを同心円状の中心に据えた、探索羽ばたきロボット群が目的物の探索を行なう。羽ばたきロボット群が、上記の数分の1に分割された市街地の、有毒ガスや有毒放射能の探索を終えると、ベースステーションが次の数分の1に分割された市街地の探索をするために、徐々に移動を始め、目的地の市街地区域に来るとベースステーションを停止する。
ベースステーションの移動に追従して、フェロモンロボット、センシングロボットが移動を始める。ベースステーションが次の市街地区域で移動を停止すると、センシングロボット群は、ベースステーションを同心円状の中心にして、分割された市街地の有毒ガスや有毒放射線の探索を行なう。このようにして、本実施の形態の群ロボットシステムにおいては、分割された区域をロボット群で探索し、探索結果をベースステーションに送りながら、区域の探索終了後、全体のロボット群は、ベースステーション中心に移動しながら次の区域の探索を行なうことにより、この移動の動作を繰返しながら全体面積の探索を行なう。
本実施の形態の群ロボットシステムについては、図1〜図6に基づいて説明すれば以下のとおりである。本実施の形態に使用する群ロボットシステム100は、図1に示すように、ベースステーションBS、複数の羽ばたきセンシングロボットCS、複数の羽ばたきフェロモンロボットFEとで構成されている。
図1は、群ロボットシステムの全体イメージを模式的に描いたものである。図2において、群ロボットシステムのセンシングロボットCS同士およびセンシングロボットCSとベースステーションBSとの間の通信における階層構造と位置の関係を示す。本実施の形態においては、複数の羽ばたきセンシングロボットCSは、ベースステーションBSに最も近いグループ102(CS11〜CS1i)、次に近いグループ103(CS21〜CS2j)、最も遠いグループ104(CS31〜CS3k)の3個のグループに分かれている。本実施の形態では、3個のグループに分かれているが、3個のグループに限るものではなく、複数のグループが存在すればよい。
ベースステーションBSから最も遠い羽ばたきセンシングロボット104(CS31〜CS3k)の時間あたりの移動距離は、次に遠い羽ばたきセンシングロボット103(CS21〜CS2j)に比べて大きい。つまり、羽ばたきセンシングロボット104(CS31〜CS3k)の羽ばたきの周波数が、羽ばたきセンシングロボット103(CS21〜CS2j)の羽ばたき周波数に比べて大きい。
同様にして、センシングロボット103(CS21〜CS2j)の時間あたりの移動距離は、最もベースステーションBSに近いセンシングロボット102(CS11〜CS1i)に比べて大きい。つまり、羽ばたきセンシングロボット103(CS21〜CS2j)の羽ばたきの周波数が、羽ばたきセンシングロボット102(CS11〜CS1i)の羽ばたき周波数に比べて大きい。
センシングの分解能については、すべてのセンシングロボットCSにおいて、センサの精度、サンプリング速度が同じである場合には、上記の単位時間あたりの移動距離との関係から、ベースステーションBS101から最も遠い羽ばたきセンシングロボット104(CS31〜CS3k)の目的物検出のための空間分解能は、次に遠い羽ばたきセンシングロボット103(CS21〜CS2j)が目的検出のための空間分解能に比べて低分解能である。
つまり、ベースステーションBS101から最も遠い羽ばたきセンシングロボット104(CS31〜CS3k)は、次に遠い羽ばたきセンシングロボット103(CS21〜CS2j)に比べて、目的物検出のための位置検出の精度あるいは障害物の大きさの測定値の精度が粗くなる。
同様にして、すべてのセンシングロボットCSにおいて、センサの精度、サンプリング速度が同じである場合には、上記単位時間あたりの移動距離との関係から、羽ばたきセンシングロボット103(CS21〜CS2j)の目的検出のための分解能は、ベースステーションBS101から最も近い位置にある羽ばたきセンシングロボット102(CS11〜CS1i)の目的物検出のための空間分解能に比べて低分解能である。
つまり、センシングロボット103(CS21〜CS2j)は、ベースステーションBS101から最も近い位置にある羽ばたきセンシングロボット102(CS11〜CS1i)に比べて目的物検出のための位置検索の制度あるいは障害物の大きさの測定値の精度は粗くなる。
上記の例では、サンプリング速度が同じで、単位時間あたりの移動距離の大きさから空間分解能に違いを出しているが、すべての羽ばたきセンシングロボットCSが、ほぼ同じ早さで移動している場合には、サンプリングの速度を変えることにより、空間分解能を変える方法ということも考えられる。
あるセンシングロボットCSが目的物を検出すると、後述する方法によりベースステーションBS101に目的物の有無、位置情報などが伝えられる。伝えられた情報により、ベースステーションBS101が、目的物に向けて徐々に移動を始める。ベースステーションBS101の移動に伴い、ほぼ同心円状に存在するセンシングロボットCSも目的物に向かって移動する。ベースステーションBSに近いセンシングロボットCSほど空間分解能が高いため、ベースステーションBSが目的物に近づくに従い目的物検出のための位置検出の精度あるいは障害物の大きさのセンシング情報はより精度の高いものがベースステーションBSに送られる。
あるいは、あるセンシングロボットCSが目的物を検出すると、検出したロボット自身が分解能を上げて、同時に後述する方法によりベースステーションBS101に目的物の有無、位置情報などが伝えられることが考えられる。つまり、検出したセンシングロボットは、目的物検出後、サンプリング速度を速くすることにより空間分解能を高くするあるいは羽ばたき周波数を落として分解能を高くする。その後、目的物検出信号がベースステーションBSに伝わることにより、ベースステーションBSからすべてのセンシングロボットCSに対し、サンプリング速度を速くすることにより分解能を高くするか、または、羽ばたき周波数を落とし分解能を高くすることが伝達され、目的物検出後は、目的物の一致検出の精度、または、障害物の大きさの情報のより精度の高いものがベースステーションBSに送られる。
また、たとえば、センシングロボットCSは、目的物を検出するまでは超音波センサあるいは赤外線センサで検出を行ない、あるセンシングロボットCSが目的物を検出すると、検出したセンシングロボットCSは、センサの種類をCCDあるいはCMOSイメージセンサに変更し、目的物の詳細な全体画像情報を送信することができる。なお、他のセンサを搭載することが可能であれば、音声情報、温度情報、湿度情報、または、飛行区域の雰囲気の状態(ガスの種類など)等の探索に関する情報を送信してもよい。
同時に後述する方法によりベースステーションBS101に目的物の有無、位置情報などが伝えられることにより、検出したセンシングロボットCSが属する上位のセンシングロボットCSに同じように支配される、目的物の周辺のセンシングロボットCSのセンサの種類を、CCDあるいはCMOSイメージセンサに変更することにより、短時間で効率的に目的物の詳細な全体画像情報を送付することができる。
また、たとえば、センシングロボットCSは、目的物を検出するまではエッジ検出の画像処理を行ない、あるセンシングロボットCSが目的物を検出すると、検出したセンシングロボットCSは、色検出処理に変更することも考えられる。つまり、センサのハードウェアは同じで、目的物検出後は、センサ情報の処理の方法を変える結果である。
また、センシングロボットCSが、目的物を検出せずとも、決められたセンシングロボットCS群による予め決められた面積のスキャン作業が終了するまでは、センシングロボットCSの空間分解能やセンサの種類、画像処理の方法は変更せず、予め決められた面積のスキャン作業が終了し、検出信号があった場合に同じ場所を、センシングロボットCS群で、センサの空間分解能やセンサの種類、画像処理の方法を変更して再度目的値の違った情報の検出作業を行なうことも考えられる。
図1〜図3に示すように、ベースステーションBS101と複数のセンシングロボットとの間の通信構造は、階層構造になっている。より具体的には、図3に示すように、1つのセンシングロボットCSにはベースステーションBS101からの通信ルートが必ず1つとなるツリー構造になっている。ベースステーションBS101は、同心円状にベースステーションに最も近いグループであるセンシングロボット102(CS11〜CS1i)の通信を行なう。上流であるベースステーションBSからは、羽ばたきセンシングロボット102(CS11〜CS1i)に対しては、羽ばたき周波数、方向などの羽ばたきの変更点が送信される。下流であるセンシングロボット102(CS11〜CS1i)からは、目的物の有無、位置情報などがベースステーションBSに送信される。
次に、センシングロボット102(CS11〜CS1i)は、隣で接しているグループであるセンシングロボット103(CS21〜CS2j)と通信を行なう。上流であるセンシングロボット102(CS11〜CS1i)からは、センシングロボット103(CS21〜CS2j)に対して、ベースステーションBS101からセンシングロボット102(CS11〜CS1i)に送信されたセンシングロボット103(CS21〜CS2j)用の羽ばたき周波数、方向などの羽ばたきの変更点が送信される。逆に下流であるセンシングロボット103(CS21〜CS2j)からは、目的物の有無、位置情報などがセンシングロボット102(CS11〜CS1i)に送信される。
次に、センシングロボット103(CS21〜CS2j)は、隣で接しているグループであるセンシングロボット104(CS31〜CS3k)と通信を行なう。上流であるセンシングロボット103(CS21〜CS2j)からは、センシングロボット104(CS31〜CS3k)に対して、ベースステーションBS101からセンシングロボット102(CS11〜CS1i)を介してセンシングロボット103(CS21〜CS2j)に送信されたセンシングロボット104(CS31〜CS3k)用の羽ばたき周波数、方向などの羽ばたきの変更点が送信される。逆に下流であるセンシングロボット104(CS31〜CS3k)からは、目的物の有無、位置情報などが上位のセンシングロボット103(CS21〜CS2j)に送信される。
つまり、目的物がセンシングロボットCS31の探索域で検出された場合、検出信号が上位のセンシングロボットCS21に伝えられ、センシングロボットCS21からより上位のセンシングロボットCS11に伝えられる。そして、最後のセンシングロボットCS11からベースステーションBSに目的物の検出が伝えられる。ベースステーションBSの通信強度は、すべての羽ばたきセンシングロボットCSの通信エリアをカバーする通信強度である必要がなく、ベースステーションを取巻く同心円状の最も近いグループのセンシングロボットCS群のみの通信を確保できる通信強度さえあればよい。よって、すべてのセンシングロボットとの通信を確保できる通信強度に比べ、弱い通信強度でよく、通信のための消費電力が少なくて済む。
羽ばたきセンシングロボットCS11とベースステーションBSとの通信強度が予め決められた強度を下回った場合、羽ばたきセンシングロボットCS11は、通信強度が再度予め定められたレベルを超えるまで、ベースステーションBS側に移動する。同様に上位の羽ばたきセンシングロボットCSがセンシングロボット102(CS11〜CS14)であり、下流の羽ばたきセンシングロボットCSがセンシングロボット103(CS21〜CS24)である場合であっても同様に、通信強度が再度予め定められたレベルを超えるまで、センシングロボット103(CS21〜CS24)が移動する。
また、上記の例では、下位用のセンシングロボットCSは通信強度が予め定められたレベルより強くなるまで移動したが、階層構造において互いに上下となる層のセンシングロボットCS同士の間の通信強度またはベースステーションBSとセンシングロボットCSとの間の通信強度が略同一となるように定めておき、互いの通信強度が予め決められたレベルを下回った場合には、センシングロボットCSとその上位のセンシングロボットCSとのお互いの通信強度をある基準値になるまで上げることにより、上位にあるセンシングロボットとそのセンシングロボットCSの支配下にある下位のセンシングロボットCSとの間の通信強度を確保してもよい。
図2において、本実施の形態の群ロボットシステムの、ベースステーション、センシングロボットおよびフェロモンロボットの階層構造およびその位置の関係を示す。
ベースステーションBSを中心として、ベースステーションBSの通信範囲を示す円内(BC2)に、ベースステーションBSが支配するセンシングロボットCS1iが存在する。次に、センシングロボットCS1iを中心として、センシングロボットCS1iの通信範囲を示す円内(C1)にセンシングロボットCS1iが支配するセンシングロボットCS2jが存在する。
同じように、センシングロボットCS2jを中心として、センシングロボットCS2jの通信範囲を示す円内(C2)に、センシングロボットCS2jが支配するセンシングロボットCS3kが存在する。センシングロボットCS2jの通信支配円内には、CS2jが支配する複数のセンシングロボットCS3kが存在することになる。
センシングロボットCS3kが、最も外側に位置するセンシングロボットCSである場合には、センシングロボットCS3kは、フェロモンロボットFEにも支配されることになる。つまり、センシングロボットCS3kは、フェロモンロボットを中心として、フェロモンロボットFEの通信範囲を示す円内(FC2)に存在する。
フェロモンロボットFEとベースステーションBSの通信強度は、他の通信強度に比べて大きなパワーで通信を行なっている。上記のフェロモンロボットFEは、ベースステーションBSを中心にした場合、基本的に探索分割区域の最も外側に存在する。フェロモンロボットFEはベースステーションBSを中心として、ベースステーションBSとフェロモンロボットFE用の強い通信範囲を示す円内(BC1)に存在する。フェロモンロボットFEからベースステーションBSへの通信範囲は、全方位をカバーする必要がないため指向性が強い楕円型になる(FC1)。
フェロモンロボットFE群105について説明する。フェロモンロボットFE群105は、ベースステーションBS101を中心にした場合、センシングロボット群100の外側に位置し、センシングロボットCSの移動制御用であり、また、探索範囲を決定するロボットである。つまり、センシングロボットCSは、ベースステーションBS101とフェロモンロボットFE105との間に存在することになる。フェロモンロボットFE105の上位のロボットは、ベースステーションBS101であり、下位のロボットは、ベースステーションBS101の同心円状で最も外側に位置するセンシングロボット群104(CS31〜CS3k)である。
例では、センシングロボット群104(CS31〜CS3k)である。フェロモンロボットFE105と下流であるセンシングロボット104(CS31〜CS3k)との通信強度は、ベースステーションBSとセンシングロボットCSおよびセンシングロボットCS同士の間の通信強度と同じであるが、フェロモンロボットFE105とベースステーションBS101との通信強度は、他の通信強度に比べて大きなパワーで通信を行なっている。
たとえば、本実施の形態の群ロボットシステムにおいては、フェロモンロボットFEとベースステーションBSとの最大通信距離が、ベースステーションBSと階層構造の最上層にあるセンシングロボット(CS11〜CS1i)との間の最大通信距離と、フェロモンロボットFEと階層構造の最下層にあるセンシングロボット(CS31〜CS3k)との間の最大通信距離と、複数のセンシングロボットCS同士の間の最大通信距離の和とを加えた距離よりも大きくなるように設定することが好ましい。それにより、階層構造の最下層のセンシングロボット(CS31〜CS3k)までのベースステーションBSからの通信可能距離を直線にして、それぞれが有する通信距離を最大限利用して、効率的にセンシングロボットCSを使用することができる。
ベースステーションBS101は、ベースステーションBS101を中心としたほぼ同心円状の探索部分の外径部分に、フェロモンロボットFEnを配置し、探索部分を決定する。次に、階層構造の数に応じて、同心円状の階層範囲を決定する。次に、階層の中の羽ばたきセンシングロボットの数に応じたセルの範囲(階層構造における同層のセンシングロボットそれぞれの探索範囲)を決定し、センシングロボットの探索空間分解能を決定する。最後に下位操作による同心円の半径の差、同心円で表されたセンシングロボット各々が探索する範囲を規定するセルのセル面積に応じたベースステーションBSとセンシングロボットCSおよびセンシングロボットCS同士間の通信強度を決定する。
探索区域を変更する場合、ベースステーションBS101は、ベースステーションBS101の移動距離と移動方向とを、まず、フェロモンロボットFE105に通信する。その後、ベースステーションBS101は、センシングロボット102(CS11〜CS1i)に移動距離と方向を送信する。それにより、図1の矢印の方向にベースステーションBS101が移動することに伴って、群ロボットシステム全体が図1の矢印の方向に移動することになる。
より具体的には、ベースステーションBSから群ロボットシステム全体の移動を示す信号を受信したセンシングロボット102(CS11〜CS1i)は、移動距離と移動方向とを、下位のセンシングロボット103(CS21〜CS2j)に送信後に、図1の矢印の方向に自らが移動する。一方、フェロモンロボットFE105は、移動距離と移動方向とを最下位のセンシングロボット104(CS31〜CS3k)に送信後、ベースステーションBSと同じように図1の矢印の方向に移動する。
このように、探索空間を変更する場合、ベースステーションBSからセンシングロボットCS、上位のセンシングロボットCSから下位のセンシングロボットCSへの上流から下流への移動情報の伝達と、フェロモンロボットFEからセンシングロボットCS、下位のセンシングロボットCSから上位のセンシングロボットCSへの下流から上流への移動情報の伝達がほぼ同時に流れる。
探索エリアの最も外側に位置するフェロモンロボット105は、センシングロボットの最も外側にあるグループ(すなわち、階層構造の最下層)のセンシングロボット104(CS31〜CS3k)を直接の管理下に置く。フェロモンロボットFEは、PN符号で特定されるセンシングロボットFEを常に通信圏内に置く。
たとえば、監視下の羽ばたきセンシングロボットCS3kとフェロモンロボットFE105との通信強度が予め定められたレベルを下回った場合、羽ばたきセンシングロボットCS3kは、通信強度が再度予め決められたレベルを超えるまで、フェロモンロボットFE側105に移動する。また、フェロモンロボット105は、ベースステーションBS101の監視下にあるため、通信の同期遅延によりベースステーションBSからの距離を制御し、常にベースステーションBS101からの決められた距離をほぼ守ることができる。その結果、群全体の探索エリアを、常に同じように定めることができる。
図3において、階層構造の通信体系における信号の流れを示す。
図の実線は、動き制御信号(ダウンストリーム)、検出信号(アップストリーム)、点線は電力信号を示す。
羽ばたきセンシングロボットとベースステーションとの間、羽ばたきセンシングロボット同士の間の通信は、双方向通信である。上流から下流への信号は、ロボット羽ばたき周波数、方向などのセンシングロボットの動き制御信号あるいはセンサ制御のための制御信号である。下流から上流への信号は、目的物の有無、位置情報などの検出信号である。また、コントロールする上流ロボットとコントロールされる下流ロボットとの通信における連鎖の関係は、1対多あるいは1対1、すなわち、全体としてツリー構造の通信ルートとなるようになっている。これにより、ベースステーションBSからのそれぞれのセンシングロボットCSへの通信ルートが必ず1つになるようになるため、通信系統の混乱が生じ難くなっている。
ベースステーションBSとフェロモンロボットFEとの間の通信も、双方向通信である。ベースステーションBSからフェロモンロボットFEへの信号は、ベースステーションBSの移動の早さ、方向信号である。フェロモンロボットFEは、この信号に基づき、自身の移動の早さおよび方向を決定し、センシングロボットCSに羽ばたき周波数、方向などの制御信号を送信する。フェロモンロボットFEからベースステーションBSへの信号は、受信電力測定用の信号である。
ベースステーションBSでフェロモンロボットFEからの送信信号を受信し、その電力を測定することにより、間接的にベースステーションBSとフェロモンロボットFEとの間の距離の大きさを想定し、電力の大きさにより、フェロモンロボットFEを近づけさせたりベースステーションBSからフェロモンロボットFEへの送信信号を強くしたりする。また、ベースステーションBSとフェロモンロボットFEとの数の関係は1対多あるいは1対1である。
フェロモンロボットFEと羽ばたきセンシングロボットCSとの間の通信も、双方向通信である。フェロモンロボットFEからセンシングロボットCSへの信号は、ロボットの羽ばたき周波数および方向などのセンシングロボットCSの動き制御信号あるいはセンサ制御のための制御信号である。羽ばたきセンシングロボットCSからフェロモンロボットFEへの信号は、受信電力測定用の信号である。
フェロモンロボットFEでセンシングロボットCSからの送信信号を受信し、その電力を測定することにより、間接的にフェロモンロボットFEとセンシングロボットCSとの間の距離の大きさを想定し、電力の大きさより、センシングロボットCSをフェロモンロボットFEに近づけさせたりする。また、フェロモンロボットFEとセンシングロボットCSとの数の関係は、1対多あるいは1対1である。
図4に、階層構造の群ロボットシステムにおけるロボット群の移動手順の例をフローで示す。
まず、動き制御信号の流れを図4(a)を用いて説明する。この図4(a)において、横の実線は動き制御信号の流れを示すものであり、点線は電力信号の流れを示すものであり、縦の実線は時間遅延を示すためのものである。
最初に、ベースステーションBSからセンシングロボットCS11とセンシングロボットCS12に、羽ばたきセンシングロボットとしての羽ばたき周波数、方向などのセンシングロボットCSの動き制御信号、または、センサ制御のための制御信号が伝えられる。同時に、ベースステーションBSからフェロモンロボットFEにベースステーションBSの移動の速さ、方向が伝えられる。フェロモンロボットFEからベースステーションBSには、ベースステーションBSとフェロモンロボットFEとの間の距離測定用の電力測定用の信号が送られる。
次に、センシングロボットCS11は、センシングロボットCS20、CS21に、羽ばたきセンシングロボットとしての羽ばたき周波数および方向などのセンシングロボットの動き制御信号、または、センサ制御のための制御信号を伝える。センシングロボットCS12は、センシングロボットCS22に、ロボットの羽ばたき周波数および方向などのセンシングロボットCSの動き制御信号あるいはセンサ制御のための制御信号を伝える。
また、フェロモンロボットFE1は、センシングロボットCS30、CS31に、羽ばたきセンシングロボットとしての羽ばたき周波数および方向などのセンシングロボットCSの動き制御信号あるいはセンサ制御のための制御信号を伝える。
フェロモンロボットFE2は、センシングロボットCS32、CS33、CS34に、羽ばたきロボットとしての羽ばたき周波数および方向などのセンシングロボットCSの動き制御信号あるいはセンサ制御のための制御信号を伝える。センシングロボットCS30、CS31からフェロモンロボットFE1には、センシングロボットCS30、CS31とフェロモンロボットFE1間の距離測定用の電力測定用の信号が送られる。
センシングロボットCS32、CS33、CS34からフェロモンロボットFE2には、センシングロボットCS32、CS33、CS34とフェロモンロボットFE2間の距離測定用の電力測定用の信号が送られる。
最後に、センシングロボットCS20は、センシングロボットCS30、CS31に、ロボットの羽ばたき周波数および方向などのセンシングロボットの動き制御信号またはセンサ制御のための制御信号を伝える。センシングロボットCS21は、センシングロボットCS32、CS33、CS34に、ロボットの羽ばたき周波数および方向などのセンシングロボットCSの動き制御信号またはセンサ制御のための制御信号を伝える。
次に、図4(b)を用いて検出信号の流れを説明する。図4(b)において、横の実線は検出信号の流れを示すものであり、縦の実線は時間遅延を示すためのものである。
まず、センシングロボットCS30、CS31からのセンシングロボットCS20に目的物の有無、位置情報などの検出信号が伝えられる。センシングロボットCS32、CS33、CS34からのセンシングロボットCS21に、目的物の有無、位置情報などの検出信号が伝えられる。
次に、センシングロボットCS20からセンシングロボットCS11に目的物の有無、位置情報などの検出信号が伝えられる。センシングロボットCS21、CS22からセンシングロボットCS12に、目的物の有無および位置情報などの検出信号が伝えられる。
最後に、センシングロボットCS11、CS12からベースステーションBSに、目的物の有無および位置情報などの検出信号が伝えられる。
例では、センシングロボットCS3kの層から、情報が上がってきているが、センシングロボットCS2j、CS1iの層で目的物を検出した場合には、当然その検出した層から情報が始まり、ベースステーションBSに情報が上がってくる。
なお、羽ばたきセンシングロボットCSとベースステーションBSとの間、羽ばたきセンシングロボットCS同士の間、ベースステーションBSとフェロモンロボットFEとの間の通信方式は、同期通信方式であるスペクトラム拡散通信方式により行なう。このスペクトラム拡散通信方式を、図5および図6に基づいて説明すれば以下のとおりである。
本実施の形態の群ロボットシステムのロボット群は、基本的に同期確定のためのA層、上流ロボットとの通信のためのB層、下流ロボットの通信のためのC層の3層の通信層を持っている。A層のPN符号については、ベースステーション101、センシングロボットCS群102,103,104、フェロモンロボットFE105のいずれも同じ符号0である。符号0は、たとえば、256タップのPN(Pseudorandom Noise)符号の1つであるとする。
まず、ベースステーションBS101と下流のセンシングロボット群102(CS11〜CS1i)との通信を説明する。ベースステーションBS101はA層の通信として、スペクトラム拡散によりPN符号0を、センシングロボット群102(CS11〜CS1i)に通信する。センシングロボット102(CS11〜CS1i)は、受信波に同じPN符号である符号0を乗算することにより逆拡散する。マッチドフィルタなどにより逆拡散することにより、PN符号を1周期分逆拡散すると、必ずPN符号がマッチする同期点が見つかる。
図5のIが、ベースステーションBS101の同期時間とすると、センシングロボット群102(CS11〜CS1i)での同期点(時間)が、IIのように、ベースステーションBS101とセンシングロボット群102(CS11〜CS1i)との距離分だけ遅れた時間でマッチドフィルタのピークがあり、同期が見つかる。
同様にして、センシングロボット群102(CS11〜CS1i)が、A層の通信として、スペクトラム拡散によりPN符号0を、センシングロボット群103(CS21〜CS2j)に送信する。ベースステーションBS101とセンシングロボット群103(CS21〜CS2j)との間の距離は、ベースステーションBS101とセンシングロボット102(CS11〜CS1i)との間の距離に、センシングロボット102(CS11〜CS1i)とセンシングロボット103(CS21〜CS2j)との間の距離が加算されるため、センシングロボット102(CS11〜CS1i)よりもさらに遅れたセンシングロボット103(CS21〜CS2j)の同期点は、図5のIIIになる。
また、同様にして、センシングロボット群103(CS21〜CS2j)はA層の通信としてスペクトラム拡散によりPN符号0を、センシングロボット104群(CS31〜CS3k)に通信する。ベースステーションBS101と、センシングロボット群104(CS31〜CS3k)の距離は、ベースステーションBS101とセンシングロボット103(CS21〜CS2j)の距離に、センシングロボット103(CS21〜CS2j)とセンシングロボット104(CS31〜CS3k)との間の距離が加算されるため、センシングロボット103(CS21〜CS2j)よりもさらに遅れたセンシングロボット群104(CS31〜CS3k)の同期点は、図5のIVになる。
ベースステーションBS101と、後で説明する移動制御用のフェロモンロボットFE105の距離は、ベースステーションBS101とセンシングロボットCS群104(CS31〜CS3k)との間の距離よりも大きいため、センシングロボットCS群104(CS31〜CS3k)よりもさらに遅れたフェロモンロボット105の同期点は、図5のVになる。
上記の各々のロボットの同期点の確定は、断続的に繰返され、同期点は常に更新される。センシングロボット102(CS11〜CS1i)の同期点は、図5のIIになる。
センシングロボット102(CS11〜CS1i)は、上流であるベースステーションBS101との通信の確立用に、B層のPN符号10により逆拡散、復調する。B層のPN符号の同期点は、A層の符号0により確定された図5のIIである。また、センシングロボット102(CS11〜CS1i)のB層のPN符号10は、ベースステーションBS101の下流のセンシングロボットとの通信確立用のC層のPN符号10と同じである。つまり、ベースステーションBS101のC層と同じPN符号10を、B層で使っているセンシングロボット(CS11〜CS1i)群102のみが、ベースステーションBSと通信することができる。
図6の例では、CS1(i−2)、CS1(i−1)、CS1iのB層は、符号10であるため、ベースステーションBSと通信ができるが、B層のPN符号が符号10でないセンシングロボットCSは、符号10との相関ピークが検出されないためベースステーションBSとは通信できない。
センシングロボット102(CS11〜CS1i)には、下流であるセンシングロボット103(CS21〜CS2j)との通信の確立用に、C層のPN符号20、符号21、符号22により逆拡散、復調する。C層のPN符号の同期点は、A層の符号0により確定された図5のIIである。また、センシングロボット102(CS11〜CS1i)のC層のPN符号20,21,22は、センシングロボット103(CS21〜CS2j)の上流のセンシングロボットとの通信の確立用のB層のPN符号20,21,22と同じである。
つまり、センシングロボット103(CS21〜CS2j)のB層と同じPN符号を、C層で使っているセンシングロボット102(CS11〜CS1i)のみが、下流であるセンシングロボット103(CS21〜CS2j)と通信することができる。たとえば、CS1(i−2)が、CS2(j−3)と、CS2(j−2)と通信可能であり、CS1(i−1)が、CS2(j−1)と通信可能であり、CS1iは、CS2jと通信可能である。
センシングロボット103(CS21〜CS2j)の同期点は、図5のIIIになる。センシングロボット103(CS21〜CS2j)は、上流であるセンシングロボット102(CS11〜CS1i)との通信の確立用に、B層のPN符号20,21,22により逆拡散、復調する。B層のPN符号の同期点は、A層の符号0により確立された図5のIIIである。センシングロボット103(CS21〜CS2j)とセンシングロボット102(CS11〜CS1i)の通信については、前述で説明しているためここでは省略する。
センシングロボット103(CS21〜CS2j)は、下流であるセンシングロボット104(CS31〜CS3k)との通信の確立用に、C層のPN符号31,32,33により逆拡散、復調する。C層のPN符号の同期点は、A層の符号0により確立された図5のIIIである。また、センシングロボット103(CS21〜CS2j)のC層のPN符号30,31,32,33は、センシングロボット104(CS31〜CS3k)の上流のセンシングロボットCSの通信の確立用のB層のPN符号30,31,32と同じである。
つまり、センシングロボット104(CS31〜CS3k)のB層と同じPN符号を、C層で使っているセンシングロボット103(CS21〜CS2j)のみが、下流であるセンシングロボット104(CS31〜CS3k)と通信することができる。たとえば、CS2(j−3)は、CS3(k−3)、CS3(k−2)、CS3(k−1)と通信可能であり、CS2(j−2)は、CS3kと通信可能であり、CS1iは、CS2jと通信可能である。
センシングロボット104(CS31〜CS3k)の同期点は、図5のIVになる。センシングロボット104(CS31〜CS3k)は、上流であるセンシングロボット103(CS21〜CS2j)との通信の確立用に、B層のPN符号30,31により逆拡散および復調する。B層のPN符号の同期点は、A層の符号0により確立された図5のIVである。センシングロボット104(CS31〜CS3k)とセンシングロボット103(CS21〜CS2j)の通信については、前述で説明しているためここでは省略する。
フェロモンロボットFE105は、上流であるベースステーションBS101と通信の確立用に、B層のPN符号10により逆拡散および復調する。B層のPN符号の同期点は、A層の符号0により確定された図5のVである。A層の同期のためのPN符号は他のセンシングロボットCSと同じ符号0である。B層のPN符号10は、ベースステーションBSの下流のセンシングロボットCSとの通信の確立用のC層のPN符号10と同じである。B層のPN符号が符号10でない場合は、フェロモンロボットFEは、ベースステーションBSの符号10と相関ピークが検出されないため、ベースステーションBSと通信できなくなる。
フェロモンロボットFEnには、下流であるセンシングロボット104(CS31〜CS3k)との通信の確立用に、C層のPN符号40により逆拡散および復調する。C層のPN符号の同期点は、A層の符号0により確立された図5のVである。また、フェロモンロボットFEnのC層のPN符号40は、最も外側に位置するセンシングロボット104(CS31〜CS3k)とフェロモンロボットFEの通信確立用のC層のPN符号40と同じである。
つまり、センシングロボット104(CS31〜CS3k)のC層と同じPN符号を、C層で使っているフェロモンロボットFEnのみが、下流であるセンシングロボット104(CS31〜CS3k)と通信することができる。図6の例では、フェロモンロボットFEnは、センシングロボットCS3(k−3)、CS3(k−2)、CS3(k−1)と通信可能であり、CS3kとは拡散符号が違うため通信できない。
なお、スペクトラム拡散通信の詳細については、著者:山内雪路、出版局:東京電機大学出版局のスペクトラム拡散通信(次世代高性能化に向けて)に記載されており、本実施の形態のスペクトラム拡散通信においては、一例として本願の発明者らにより発明されたスペクトラム拡散通信装置(特開平11−168407号公報)を適用することとする。
次に、上記の群ロボットシステムに用いる羽ばたきセンシングロボット1体を制御するための制御システム(羽ばたきセンシングロボット1体とベースステーションとの関係)を説明する。なお、ここでは、ベースステーションBSによるセンシングロボットCSの制御の一例として、ベースステーションBSが直接センシングロボットCSを制御する場合のみを示すが、ベースステーションBSが階層構造の上層のセンシングロボットCSを介して下層のセンシングロボットCSを制御する場合には、以下の例で示す制御信号を用いて、より上層のセンシングロボットCSからより下層のセンシングロボットCSへと羽ばたき動作等に関する制御信号が伝達されるとともに、より下層のセンシングロボットCSからより上層のセンシングロボットCSへとセンサにより得られた信号が伝達される。
(システム構成)
まず、本実施の形態の羽ばたきセンシングロボット1体におけるシステムの構成を、図7を用いて説明する。
本実施の形態における羽ばたきセンシングロボットの制御システムは、たとえば、図2に示す探索区域Cの一例としての作業空間92と、作業空間92に配置された、この空間内を浮上移動することができ、この空間内における物理量を取得もしくは変更できる羽ばたきセンシングロボットCSの一例としてのロボット90と、ロボット90と情報を交換できるベースステーションBSの一例としてのベースステーション91とからなる。
以下においては、たとえば、本発明の探索の対象物を人として説明する。
たとえば、本実施の形態の羽ばたきセンシングロボットCSの一例としてのロボット90は、自身に搭載された赤外線センサによって赤外線量を取得することによって、探索対象としての人93を検出し、検出された人93に対して発光ダイオード8を用いて可視光を照射することによって人93に何らかの情報を報知することが可能である。
(本実施の形態の羽ばたきセンシングロボットの詳細な説明)
(ロボット90の説明)
(主要な構成と主要な機能)
まず、本発明のセンシングロボットの一例としてのロボット90の主要な構成について図8を用いて説明する。
図8に示すように、ロボット90は支持構造1を主構造とし、これに各構成部品が配されている。支持行動1の上部には、右アクチュエータ21と左アクチュエータ22とが固定されている。右アクチュエータ21には右羽根31が取付けられ、左アクチュエータ22には左羽根32が取付けられている。また、下部に電極61が配されている。
各アクチュエータ21,22はそれぞれ取付けられた羽31,32をアクチュエータの支点をほぼ中心として3自由度をもって回転させることができる。各アクチュエータ21,22の回転は、支持構造1に搭載された制御回路4によって制御される。各アクチュエータの詳細な構造については後述する。
なお、図8の状態におけるロボット90の重心Oは、左右アクチュエータ21,22の回転中心の中点A0よりも鉛直下方にある。また、支持構造1には、加速度センサ51、角加速度センサ52、および、焦電型赤外線センサ53が搭載されている。また、支持構造1には通信装置7が配されている。通信装置7はベースステーション91との情報の送受信を行なう。
制御装置4では、加速度センサ51および角加速度センサ52から送られてくる情報によって羽ばたきセンシングロボットとしのロボット90の浮上の状態が検知されるとともに、焦電型赤外線センサ53から送られてくる情報によって、焦電型赤外線センサ検出領域531内における発熱源の情報が取得される。そして、これらの情報が、通信装置7を介してベースステーション91に送信される。
また、制御装置4は支持構造1に配された発光ダイオード8のON/OFFを制御する。また、通信装置7はベースステーションからの指示信号を受信する。制御装置4は、この指示信号に応じて各アクチュエータ21,22や発光ダイオード8の動作を算出し、それぞれの駆動を決定する。左右アクチュエータ21,22、制御装置4、センサ51〜センサ53、通信装置7、発光ダイオード8などの駆動動力は電源6により供給される。
電源6は、2次電池であり、電極61を経由して供給される電力によって充電される。また、電極61は、位置決めピンの役割も兼ねており、ベースステーション91における位置決め穴に決まった姿勢で定位が可能である。
なお、図7においては、電極61は、正極、負極の2本のピンからなっているが、充電状態検出用ピンなどを含む3本以上のピンからなる構成も可能である。
(支持構造)
次に、支持構造1について図8を用いてより詳細に説明する。
支持構造1は、機械的強度を確保した上で十分軽量であることが好ましい。この羽ばたきセンシングロボットとしてのロボット90の支持構造1では、ほぼ球殻状に整列したポリエチレンテレフタレート(PET)が用いられている。支持構造1下部には、着地の際に転倒せぬよう、支持脚11が配されている。この支持脚11は、着地時の安定性が確保されるか、もしくは、着地時の安定性が機能的に問題にならないのであればこれは必須ではない。
また、支持構造1の材料や形状は飛行に性能を損なわないならば、図8に示すものに限られるものではない。支持構造1の材料は特に、軽量で剛性が高いことが望ましい。
たとえば、カニやエビなどの生物に使われているキトサンなどの有機物と、シリカゲルなどの無機物とを分子レベルでハイブリッド化した複合材料を用いることにより、カニやエビの外骨格が持っている軽くて丈夫な性質を持ってはいるが、形状加工が容易で、生物が本来持っている最適な組成値をそのまま転用することができる。また、環境に対しても害が少ない。
また、貝殻の材料である炭酸カルシウムを前述のキトサンの代わりに用いることでも、剛性の高い支持構造を構築することができる。
また、アクチュエータや羽根の配置形状についても、本実施の形態に示した態様に限られるものではない。
特に、本実施の形態では、浮上の安定性を重視して、自然に図8に示した姿勢となるように、重心の位置を羽根の力学的作用中心点よりも下に位置させたが、重心と力学的作用点の位置とを一致させる方が姿勢制御に必要な左右の羽根の流体力の差が最も小さくて済むので、ロボット90の姿勢を容易に変更することができる。よって、アプリケーションによってはこのような姿勢制御の容易さを優先した設計も考えられる。
(浮上機構)
(羽根とその動作)
次に、羽根とその動作について図9〜図11を用いて説明する。
説明の簡便のため、図8における座標系を定義する。まず、支持構造1のほぼ中央を原点とする。また、重力加速度の方向を下方向、その逆を上方向とする。原点から上方向に向かってz軸を定義する。次に、右アクチュエータ21の形状中心と左アクチュエータ22の形状中心とを結ぶ方向を左右方向とし、原点から左羽根に向かってy軸を定義する。また、原点からy軸とz軸との右手系における外積方向にx軸を定義し、以後これを前方、その反対方向を後方と称する。
また、図8は、右羽根31の右アクチュエータ21に対する力学的作用点A1と、左羽根32の左アクチュエータ22に対する力学的作用点A2の中点A0から重力加速度方向に下ろした線上に羽ばたきセンシングロボットの一例としてのロボット90の重心Oが位置する状態である。本実施の形態においては、左アクチュエータのロータ229はほぼ球状であり、主軸321の延長線上にこのロータ229の球心が位置するように左羽根32が配置されている。左アクチュエータ22に対する力学的作用点A2および主軸321の回転運動の支点はこの球心に位置している。右アクチュエータ21についても同様である。
以後、前述したx軸、y軸、z軸は図8の状態において支持構造1に対して固定された、ロボット90固有の座標系であるとする。
一方、ロボット90の固定された座標系に対して、空間に固定された任意の点を原点とする空間座標としてx′軸、y′軸およびz′軸を定義する。これにより、ロボット90が移動する作業空間92の座標はx′軸、y′軸およびz′軸のそれぞれの座標を用いて表わされ、ロボット90における固有の座標はx軸、y軸およびz軸のそれぞれの座標を用いて表わされる。
次に、羽根の構造について説明する。たとえば、左羽根32は主軸321の枝322が生えた支持部材に、膜323を張ることで形成されている。主軸321は左羽根322において前方寄りの位置に配されている。また、枝322は先に行くほど下方に向いている。
左羽根32は上に凸状の断面形状を有する。これによって、特に打ち下ろしの際に流体から受ける力に対して高い剛性が得られる。主軸321と枝322は軽量化のため、それぞれカーボングラファイトの中空構造となっている。膜323はその内面において収縮する方向に自発的な張力を有しており、羽根全体の剛性を高める働きをしている。
本発明者らが実験に用いた羽根の主軸321の直径は、支持構造1に支持された根元の部分では100μm、先端部では50μmであり、主軸321は根元から先端部へ向かって細くなったテーパ形状である。また、膜323はポリイミドであり、大きさは前後方向約1cm、左右方向約4cm、厚さは約2μmである。
なお、図9に示された左羽根32では、説明のために主軸321はその太さが拡大されている。図示されていない右羽根31はxz平面を挟んで左羽根32と鏡面対称になるように支持構造に取付けられている。
次に、羽根の動作の表現について左羽根32を例に挙げて説明する。
左アクチュエータ22は、左羽根32を回転3自由度で動かすことが可能である。つまり、左羽根32の駆動状態は、その姿勢で表わすことができる。以後説明の簡便のため、左羽根32の姿勢を、図8の状態に基づき以下のように定義する。
まず、図10に示すように、軸の回転運動の支点(力学的作用点A2)と、x軸およびy軸にそれぞれ平行な軸(//x、//y)を含むxy平面に平行な平面を基準として、点A2と左羽根32の主軸321の根元を結ぶ線分がその平面となす角度を、羽ばたきのストローク角θとする。また、軸の回転運動の支点(力学的作用点A2)と、y軸およびz軸それぞれに平行な軸(//y、//z)を含むyz平面に平行な平面を基準として、点A2と左羽根32の主軸321の根元とを結ぶ線分がその平面となす角度を偏角αとする。
このとき、ストローク角θはxy平面に平行に平面より上方では正とし、下方では負とする。また、偏角αはyz平面に平行な平面よりも前方では正とし、後方では負とする。
そして、図11に示すように、左羽根32の主軸321の根元における膜323の接平面p1が、点A2を通りx軸と平行な軸(//x)と主軸321を含む平面p0とをなす角度をねじり角βとする。このときねじり角βは主軸321の根元から先端に向かって見たときの時計回りを正とする。
(アクチュエータ)
次に、アクチュエータについて図12および図13を用いて説明する。
本実施の形態のロボット90の羽部を動作させるアクチュエータについては、トルクが大きいこと、往復運動が簡単に実現できること、構造が単純なことから、圧電素子(ピエゾ素子)を用いて発生した信号波によって駆動する。一般的に超音波モータと呼ばれるアクチュエータを用いる。
図12に示すのは市販の超音波モータ23である。これは、図12(a)に示す、下面に圧電素子230を貼付けてあるアルミニウムの円板231上に突起232〜突起237が、円板の中心を重心とする正六角形をなすように6ヵ所配置され、さらにこの圧電素子230の下面には円周方向に12分割された電極238が配置されている構造をしている。この構造の概略を図12(b)に示す。各電極は1つおきに電気的に短絡されており、それぞれ、円板231を基準に電圧が印加される。
すなわち、圧電素子230は位相の異なる電圧が加えられる。この様子を図12(c)に、ハッチングの部分とのハッチング以外の部分に分けて示す。このそれぞれに異なる時間的パターンで電圧を加えることによって円板231上に信号波が発生し、突起232〜突起237先端が楕円運動を行なう。以上でステータが構成され、このステータはステータ上に接触して配置されたロータ239を上述の突起232〜突起237先端の楕円運動より円周方向に回転するように搬送することができる。
この超音波23のトルクは1.0gf・cmで、無負荷回転速度は800rpmである。また、最大消費電流は20mAである。また、円板231の直径は8mm、突起232〜突起237の配されている間隔は2mmである。円板231の厚さは0.4mm、突起232〜突起237の高さは約0.4mmである。また、圧電素子230の駆動周波数は341kHzであった。
本実施の形態では、このステータの部分を利用したアクチュエータを用いる。右アクチュエータ31は、図13(b)に示すごとく、球殻状のロータ219を、上述のステータと同様のステータ210とベアリング211で挟み込んで保持する構造をしている。
ただし、ステータ210のロータ219との接触部分はロータ表面と一致する形状に加工されている。ロータ219は外形3.1mm、内径2.9mmの球殻で、表面に右羽根主軸311が配されている。ステータ210の突起のある面に向かって見て時計回り(以後、これを正回転、この逆の回転を逆回転と呼ぶ)にロータ219を搬送させる操作を行なうと、右羽根主軸311は図13(b)に示すθの方向に移動する。
さらにこのロータ219を3自由度で駆動するために、上部補助ステータ212と下部補助ステータ213をベアリング214,215とともにステータ210、ベアリング211と同様に図13(a)に示すように配する。各補助ステータの大きさはステータ210の0.7倍である。
各ステータの駆動方向は必ずしも直交していないが、それぞれ独立した要素への回転を与えるため、これらの運動の組合せによってロータ219を3自由度で駆動することができる。
たとえば、ロータ219に対して、上部補助ステータ212によって正回転を、下部補助ステータ213によって同じく正回転を与えれば、ロータ219がこの構成であるβ方向に、上部補助ステータ212によって逆回転を、下部補助ステータ213によって正回転を与えればα方向に回転する。
実際の駆動に際しては、回転中心の異なる2つの回転を行なわせることは摩擦によって効率を低下させてしまうので、たとえば、上部補助ステータ212と下部補助ステータ213をごく短時間周期で交互に動作させ、その間、動作していないステータの突起はロータ219に接触しない、などの駆動方法が望ましい。これは、ステータの電極すべてに圧電素子の収縮方向に電圧を印加することで、特別に構成要素を付加することなく実現できる。
また、圧電素子の周波数が300kHz以上と、せいぜい100Hz程度である羽ばたき周波数に比べて十分高速であるので、交互にアクチュエータを動作させても実質上滑らかな動きを右羽根主軸311に与えることができる。以上により、本発明者らが検討に用いた市販の超音波モータと同等の特性を有する3自由度アクチュエータが構成される。
ステータの発生中信号波の振幅がサブミクロンオーダであり、このロータはこのオーダの真球度であることが要求される。民生用の光学製品に用いられている放物面鏡の加工精度は数十nmであり、また、光学干渉計に用いられている光学部品の加工精度は数nm程度であることからこのようなロータは現在の加工方法技術で作製することが可能である。
当然、これは本発明における3自由度の運動を羽根に与えるアクチュエータを超音波モータで構成した例の1つに過ぎず、各構成要素の配置、サイズ、材質、駆動方法などは、羽ばたき飛行に要求される物理的機能たとえばトルクなどが実現できるならこの限りではない。
また、当然、羽根の駆動機構やそれに用いるアクチュエータの種類についても、特に本実施の形態に示したものにはよらない。たとえば、特開平5−169567号公報に見られるような、外骨格構造とリニアアクチュエータとを組合せて用いた羽ばたき飛行も、本実施の形態に示すアクチュエータと等価な羽根の動作を実現できるため可能である。
また、駆動エネルギとして電力を用いたが、内燃機関を用いることも可能である。さらに、昆虫の筋肉に見られるような、生理的酸化還元反応により、化学的エネルギを運動エネルギに変換するアクチュエータを用いることも可能である。たとえば、昆虫から採取した筋肉をリニアアクチュエータとして用いる方法や、虫の筋肉のタンパク質のアミノ酸と無機物とを材料として分子レベルでこれを複合化させて作った複合材料の人工筋肉をリニアアクチュエータとして用いるなどの方法がある。
なお、基本的な駆動力の上述の内燃機関などのエネルギ効率が高いアクチュエータを得て、これらの制御もしくは補助として電力で駆動するアクチュエータを用いる手法も可能である。
(浮上方法)
次に、浮上方法について図14〜図20を用いて説明する。
なお、ここでは、羽根が流体から受ける力を流体力と呼ぶ。また、説明の簡便のため空気の流れを羽ばたきによってのみ起こる状態、すなわち、無風状態を仮定して説明する。
説明の簡便のため、ロボット90に及ぼされる外力は羽根に流体から作用する力すなわち流体力と重力のみであるとする。
ロボット90が恒常的に浮上するには、1回の羽ばたき動作の間で平均して、(羽根にかかる上方向の流体力の総和)>(ロボット90にかかる重力)であることが必要である。
ここでは、昆虫の羽ばたきを単純化した羽ばたき方により、打ち下ろし時の流体力を、打ち上げ時の流体力よりも大きくする方法について説明する。説明の簡便のため、流体の挙動もしくはそれが羽根に及ぼす力については、その主用成分を挙げて説明する。また、この羽ばたき方によりロボット90に作用する浮上力と重力との大小については後述する。
羽根には、羽根が運動する方向と逆方向の流体力が作用するので、羽根の打ち下ろし時には羽根の上向きに流体力が作用し、打ち上げ時には羽根の下向きに流体力が作用する。そこで、打ち下ろし時に流体力を大きくし、打ち上げ時には流体力を小さくすることで、1回の羽ばたき動作(打ち下ろし動作と打ち上げ動作)の間で時間平均すると上方向の流体力が得られることになる。
そのためには、まず、打ち下ろし時には羽根が移動する空間の体積が最大になるように打ち下ろせば、羽根にはほぼ最大の流体力が作用する。これは、羽根の接する平面とほぼ垂直に羽根を打ち下ろすことに相当する。
一方、打ち上げ時には羽根が移動する空間の体積が最小になるように打ち上げれば、羽根に及ぼされる流体力がほぼ最小となる。これは羽根の断面の曲線にほぼ沿って羽根を打ち上げることに相当する。
このような羽根の動作について羽根の主軸321に垂直な断面を用いて説明する。まず、図14の羽根は移動する空間の体積が最大になるように打ち下ろした場合、図15が羽根の移動する空間の体積が最小になるように打ち上げた場合を示す。
図14および図15では、移動前の羽根の位置が破線で示され、移動後の羽根の位置は実線で示されている。また、羽根の移動方向が一点鎖線の矢印によって示されている。同図に示すように、流体力は羽根の移動方向とは逆向きに羽根に作用する。
このように、打ち上げ時における羽根が移動する空間の体積が打ち下ろし時における羽根が移動する空間の体積よりも大きくなるように羽根の姿勢を羽根の移動方向に対して変化させて、1回の羽ばたき動作の間の時間平均において、羽根に作用する上方向の流体力を羽ばたきセンシングロボットとしてのロボット90に作用する重力よりも大きくすることができる。
本実施の形態においては、羽根のねじり角βが制御可能であり、これを時間的に変化させることによって上述の羽根の運動が実現される。
具体的には、以下のステップS1〜S4が繰返される。まず、ステップS1では、図16に示すように羽根の打ち下ろし(ストローク角θ=+θ0→−θ0)が行なわれる。ステップS2では、図17に示すように羽根の回転1(羽根のねじり角β=β0→β1)動作が行なわれる。ステップ3では、図18に示すように羽根の打ち上げ(ストローク角θ=−θ0→+θ0、ねじり角β=β1→β2(羽根の曲面に沿った運動により、流体力を最小限にとどめる運動))が行なわれる。ステップS4では、図19に示すように、羽根の回転2(羽根のねじり角β=β2→β0)動作が行なわれる。
ステップS1およびステップS3における羽根に作用する流体力を時間平均すると、上述のように羽根の移動する空間の体積の違いから、上向きの流体力となる。この上向きの流体力の鉛直成分と重力との大小関係については後述する。
当然、ステップS2,ステップS4においても、羽根に作用する流体力の時間平均が上向きの流体力であることが望ましい。
ロボット90の羽根においては、図16〜図19に示すように、羽根の前縁近傍に羽根の回転中心(主軸321部分)が位置している。つまり、主軸321から羽根の後縁までの長さの方が主軸321から羽根の前縁までの長さよりも長くなっている。このため、図17および図19に示すように、羽根の回転動作においては羽根の回転方向に沿って生じる流体の流れに加えて、主軸321から羽根の後縁に向かう方向に沿って流体の流れが生じることになる。
そして、羽根にはこのような流体の流れの反作用としてそれぞれの流れの向きとは逆向きの力が作用することになり、図17に示すステップS2では、実質的に上向きの流体力が羽根に与えられ、図19に示すステップS4では、主に下向きの流体力が羽根に与えられることになる。
図18に示すステップS3では、羽根の断面の曲線に沿うように羽根のねじり角βをβ1からβ2に変化させながら打ち上げ動作が行なわれる。また、図17に示すステップS2における羽根の回転角は図19に示すステップS4における羽根の回転角よりも大きい。これによりステップS2およびステップS4においても羽根に上向きに作用する流体力が下向きに作用する流体力に勝って、時間平均すると上向きの流体力が羽根に作用することになる。
なお、図16〜図19では、それぞれのステップS1〜S4における羽根の移動前の姿勢が波線で示され、移動後の姿勢が実線で示されている。各ステップS1〜S4における羽根の移動方向が一点鎖線の矢印によって示されている。また、各ステップS1〜S4において主に発生する流体の流れが実線の矢印によって示されている。
次に、ストローク角θおよびねじり角βの値を時間の関数として表わしたグラフを図20に示す。ただし、図20では、ストローク角θおよびねじり角βのそれぞれの縦軸の比率が異なっている。
本発明者らの行なった実験においては、θ0は、たとえば60°である。β0は、たとえば0°である。β1は、たとえば−120°である。β2は、たとえば−70°である。
上述した説明では、説明の簡便のためステップS1〜S4は独立した動作として記述したがたとえばステップS1において羽根を打ち下ろしながら羽根のねじり角を大きくしていくような動作も可能である。
また、上述した例は第1近似的な考察から説明されるものであり、実際に浮上可能な羽ばたき方法はこれに限定されるものではない。
また、ここでは左羽根について説明したが、右羽根についてもxz平面に関して鏡面対称に左手系に基づくストローク角θ、偏角αおよびねじり角βを定義すれば同一の議論が成り立つ。以下、羽根に作用する上向きの流体力を浮上力とし、羽根に作用する前向きの流体力を推進力とする。
(制御方法)
次に、羽ばたき装置、すなわち、ロボット90に任意の運動を行なわせる制御手法について説明する。ここでは、ロボット90の左羽については右手形に基づくストローク角θ、偏角αおよび捻り角βを用い、そして、右羽についてはxz平面に対して鏡面対称の左手形に基づくストローク角θ、偏角αおよび捻り角βを用いて羽の姿勢を示す。
(制御フロー)
羽ばたきによる浮上移動は羽にかかる流体力によって行なわれるので、羽の運動により直接制御されるのは、ロボット90に与えられる加速度と角加速度である。
まず、Sを目標とする浮上状態と現在の浮上状態との差異、T(S)を浮上状態から加速度、角加速度への変換を表わす関数、sを加速度、角加速度Fα(s)を、加速度センサ51、角加速度センサ53のセンサ応答を含めた制御アルゴリズムを表す関数、sαをアクチュエータ制御量、GW(sα)をアクチュエータと羽の応答を表す関数、sWを羽の運動、GfS(sW)を羽の運動により本羽ばたき装置に及ぼされる加速度もしくは角加速度seを表す関数、Seがこの一連のプロセスにより行なわれる浮上状態の変更とすると、入力Sより出力Seが得られるプロセスは図45に示すようなものとなる。
また、実際には、羽と流体の慣性力により、現在までの羽の運動、流体の運動の時刻歴に依存する影響RWとRfSがGWとGfSに加わることになる。
(動作分割)
当然、Fα以外のすべての関数を正確に求め、これによりS=Seとなる制御アルゴリズムFαを算出する手法もあり得るが、本羽ばたき装置周囲の流体の流れと羽の運動の時刻歴が必要であり、膨大なデータ量と演算速度を必要とする。また、流体と行動の連成した挙動は複雑で、多くの場合カオティックな応答になってしまうため、実用的でない。
そこで、予め基本的な動作パターンを用意しておき、目標とする浮上状態を分割してこれらの基本動作パターンを時系列にて組合わせて実現する手法が簡便で望ましい。
物体の運動にはx方向、y方向、z方向の3自由度の並進自由度と、θx方向、θy方向、θz方向の3自由度の回転自由度、つまり6自由度が存在する。すなわち、前後、左右、上下、そしてこれらの方向を軸とする回転である。
このうち、左右への移動は、θz方向の回転と前後方向への移動を組合わせて行なうことができる。そこで、ここでは、前後方向、すなわちx軸方向への並進移動、上下方向、すなわちz軸方向への並進動作、また、x軸、y軸、z軸回りの回転動作についてそれぞれの実現方法を説明する。
(動作)
(1) 上下方向(z軸方向)の動作
羽が移動することで、羽が流体から受ける力は羽の移動速度に依存するので、羽に及ぼされる上向きの流体力を大きく(小さく)するには、
A:ストローク角θの振幅を大きく(小さく)する
B:羽ばたき周波数を大きく(小さく)する
などの方法がある。これらによってロボット90は上昇(下降)することができる。ただし、流体力には負の値も含まれる。
なお、これらの手法によれば、羽が流体から受ける流体力そのものが大きくなるので、羽が流体力を上下方向以外から受けることによって、羽の力学的支点に羽から上下方向以外の力が及ぼされている際には、上昇とともにその方向へこの支点にかかる力の増加も伴う。たとえば、前方にほぼ等速直線運動を行なっている際に、羽ばたき周波数を大きくすると、ロボット90は速度増加を伴って上昇する。このように、現時点での羽ばたき方によって、副次的にこういった他の運動を伴うが、以後特に断らない限り、停空状態からの制御について説明する。
また、羽の捻り角βを変えて、羽が移動する空間の体積を変化させることによっても浮上力は変化する。たとえば、打ち上げ時における羽が移動する空間の体積がより大きく、もしくは、打ち下ろし時における羽が移動する空間の体積がより小さくなるようなβを与えることで、羽に作用する上向きの流体力の時間平均は小さくなる。
実際には、羽は剛体ではなく変形を伴うため、同一のβによっても羽が移動する空間の体積は変化するが、第1原理的には、羽の移動する方向に垂直なβが最も大きな羽が移動する空間の体積を与える。また、羽が移動する方向に平行なβが最も小さな羽が移動する空間の体積を与える。
なお、この場合、副次的に、羽ばたきと垂直方向にも流体力が作用するため、これが制御上支障を生じるレベルである場合はこれを打ち消す羽の動きを付加する必要がある。最も単純には偏角αの変更により実現できる。
また、前記のステップS2もしくはステップS4において羽の回転角速度を変化させることによってもz軸方向の動作を行なうことは可能である。たとえば、ステップS2において羽の回転角速度(−dβ/dt)を大きくすると、この回転によって生じる流体の下方向への流速が大きくなるため、この反作用によって羽に作用する上向きの流体力が大きくなる。
なお、この場合、ロボット90に及ぼされる、羽の主軸を回転軸とするトルクが副次的に変化する。よって、この変化が制御上支障ない範囲に収まる範囲内でこの回転角速度変化を行なうことが望ましい。
また、この場合、ロボット90に及ぼされる、前後方向への力も副次的に変化する。よって、この変化が制御上支障をきたす場合は、(2)として後述する前後方向への力の制御も同時に行なうことが望ましい。
(2) 前後方向(x軸方向)の動作
前述した羽ばたき方法では、主にステップS2とステップS4にて、x方向の向きへの流体力が羽に作用する。したがって、この羽の動かし方においては前進を伴い浮上する。
また、打ち下ろしの際に偏角αを増加し羽を前方に移動させることで、羽には後向きの流体力が作用することになる。したがって、打ち下ろしの際の、すなわち、ステップS1における偏角αを制御して、ステップS1における羽に作用する後向きの流体力を、他の主にステップS2とステップS4における前向きの流体力よりも大きくすれば後退し、小さくすれば前進することができる。また、この2力がほぼ釣り合えば前後方向に静止することができる。
特に、ロボット90が前後方向に静止しており、左右の羽がほぼ対称な運動を行ない、重力と本羽ばたき装置における浮上力が釣り合っているならば、ホバリング状態が実現できる。
なお、偏角αの変更に伴い副次的に、羽に及ぼされる流体力の鉛直方向成分が変化するので、これが制御上支障を生じるレベルにある場合にはこれを打ち消す羽の動きを付加する必要がある。これは、主に、前述の(1)の上下方向の動作によって行なうのが簡便である。
さらに、前述したステップS2とステップS4において羽の回転動作の角速度を大きくすると前向きの流体力が増加し、小さくすると減少する。これによっても前後方向の動作を変化させることができる。
また、(1)に述べた羽の捻り角βの変更に伴う副次的な流体力のうち、x軸方向成分を利用する手法も可能である。つまり、打ち下ろし時にβ>0なら前方向への、β<0なら後方向への力が働く。
なお、打ち上げ時のβ、α、θの関係はある程度拘束されているが、以上の流体力の制御はステップS3においても可能である。
(3) z軸を回転軸とする回転動作
(2)において述べた前後方向への制御を、左羽と右羽について個別に行ない、これを異ならせることでロボット90にトルクを与えることができる。
すなわち、右羽の前向きの流体力を左羽のそれに対して高くすれば本羽ばたき装置はx軸正の向きに向かって左方向を向き、低くすれば同じく右方向を向く。
(4) x軸を回転軸とする回転動作
(3)と同様に、右羽の上向きの流体力を左羽のそれに対して大きくすれば右側が持ち上がり、小さくすれば左側が持ち上がる。これによって、x軸を回転軸とする回転動作を行なわせることができる。
(5) y軸を回転軸とする回転動作
(2)に述べた、羽の捻り角βの角速度変更によって、ロボット90にかかるy軸周りのトルクを変化させることができる。これにより、y軸を回転軸とする回転動作を行なうことができる。たとえば、ステップS1における捻り角βの回転角速度を大きくすると本羽ばたき装置は機首を下げ、逆に小さくすると機首を上げる。
(6) ホバリング(停空飛翔)
ロボット90を停空させる際のストローク角θおよび偏角αならびに捻り角βの値を時間の関数として表したグラフを図21に示す。ただし、図21ではそれぞれの角度の縦軸の比率と異なっている。
本発明者らが行なった実験においては、θ0はたとえば60°である。β0はたとえば−10°である。α1はたとえば30°である。β1はたとえば−100°である。β2はたとえば−60°である。
各ステップにおける左羽の運動と、それにより左羽の力学的支点A2に生じる加速度、角加速度を図46に示す。ただし、(3)(4)のx軸、z軸を回転軸とする回転動作については略してある。これらは、前述のとおり、左右の羽の運動の非対称によって起こされる。
(制御方法決定手法)
現在の浮上状態は、ロボット90に搭載された加速度センサ51や角加速度センサ52が取得した値を適宜変更した値を用いて求められる。たとえば、速度は、加速度を時間積分した値に速度の初期値を与えることで求められる。また、位置は、速度を時間積分した値に位置の初期値を与えることで求められる。なお、浮上状態に、浮上状態の時刻歴を含む手法も可能である。
制御装置4は、加速度センサ51および角加速度センサ52から得られる現在の浮上状態と、目的とする浮上状態から、ロボット90の動作を決定する。この制御は、三次元で行なわれる点以外は従来から行なわれている制御手法を適用することができる。
ロボット90の動作は、制御装置4にて、アクチュエータの駆動に変換される。この変換には、テーブル参照、もしくはその補完を用いるのが高速である。たとえば、図47に示すように、基本となる動作と、それを実現するアクチュエータの駆動の組合せを予め用意しておく。なお、図47の左端列は目的とする動作、羽ばたきにおけるAとBは、Aは前進時の羽ばたき方、Bは停空時の羽ばたき方であり、より具体的にはそれぞれ図20、図21にグラフで示されるα、β、θの時刻歴を時間的に離散化したものである。制御装置4は、ロボット90の動作から、この駆動もしくはその補完した駆動をこのテーブルより算出する。
ここでは、説明のため一旦ロボット90の動作を算出し、これをアクチュエータの駆動に変換するという手法を用いたが、浮上状態から直接アクチュエータの駆動を選択する手法も可能である。
たとえば、定位制御を行なう場合、現在位置と目標位置との差によって、上述したアクチュエータの駆動のいずれか、もしくはそれを補完した駆動を直接算出する手法も可能である。
また、当然、ロボット90の浮上状態を表す物理量はここに示した位置、速度、加速度などに限らない。
また、当然、アクチュエータの駆動を決定する手法はこの態様に限らない。
(浮上可能重量)
次に、本実施の形態におけるロボット90の構成で浮上が可能な条件を、図22を用いて示す。本発明者の実験環境ではアクチュエータとして進行波アクチュエータを用いた。この進行波アクチュエータによれば、ステータ210が超音波モータ23と同等であるので、θ方向の羽ばたきに関してはトルク1.0gf・cmである。そこで、本発明者らはシミュレーションによりこのトルクで羽ばたいた際の流体力を算出した。
羽根はアクチュエータから離れる方向が長辺で、長辺4cm、短辺1cmの矩形で、羽根の変形は無視する。また、幅8mm、長さ33mmのとんぼの羽根が約2mgであったので、これに倣い、羽根の質量は3mgとした。
さらに、超音波モータ23は、突起先端の微小な楕円運動の累積によってロータを駆動するため、実際の駆動トルクの立上がり立下がりはダイヤモンドの周期オーダ、すなわち105ヘルツオーダであるが、計算の安定性から制約上±250gf・c/secであるとした。すなわち、トルクは0.004秒に1gf・cm上昇する。
この羽根を、一方の短辺をこの辺を回転軸とする回転自由度のみ残して固定し、この回転自由度にトルクを与え、この回転軸にかかる反力を算出した結果が図22である。ただし、前に定義するところの偏角α=0(度)、2次角β=0(度)である。
時刻0においては、羽根は水平すなわちストローク角θ=0(度)である。ここから時刻0.004秒までの間にトルクを1gf・cmまで直線的に向上させ、0.004秒から0.01秒まで、1gf・cmを保つ。そして時刻0.01秒から0.018秒までの間にトルク1gf・cmから−1gf・cmまで直線的に変化させ、同0.018秒から0.03秒までは−1gf・cmを保ち、同0.03秒から0.038秒までの間に再び1gf・cmへと直線的に変化する。
これにより得られた接点反力を、打ち下ろしの間すなわちトルクが負である時間である時刻0.014秒から0.034秒までの間で平均すると約0.29gfであった。
以上のシミュレーションは、1自由端羽ばたきの結果であるため、打ちが上げ時の流体力の作用は不明である。しかし、断面積に比して流体の抵抗が減少するので、打上げ時に働く下向きの始点反力は小さいこと、かつ、打下ろし時と同じトルクで打上げることが可能なため、打上げに要する時間は打下ろしに要する時間よりもはるかに短い。
すなわち、打上げの際の力が作用する時間は短いこと、また、打下ろし以外にも羽根の回転などを用いて浮上力がさらに得られることから、トルク1gf・cmのアクチュエータを用いて、0.29g程度の質量を浮上させることは可能であるといえる。すなわち、実施の形態における羽ばたきセンシングロボット全体の質量が0.58g以下であれば浮上が可能である。以下、装置全体の重量について検討する。
まず、ステータ210の質量は、電極と圧電素子が薄いため、比重2.7、厚さ0.4mm、半径4mmの円板と同等であるので、0.054gである。
また、補助ステータの重量は、ステータの直径が0.7倍であることから0.019gである。
3つのベアリングはいずれも外径4.2mm、内径3.8mm、厚さ0.4mmのドーナツ状のボールベアリングである。材質は比重4.8のチタンで、約30%の空隙があるため、ベアリングの質量は約0.013gである。また、ロータ219は材質がアルミで壁中央半径3mm、厚さが0.2mmであるため、約0.061gである。これらの総和から、アクチュエータ21の質量は0.192gである。また、羽根31は前述のとおり0.003gである。以上の構成が左右系2つあるので、0.390gである。
また、本発明者らが採用した図1に示す指示構造1は、直径1cm、比重0.9、厚さ0.1mmの球体であるので質量が約0.028gである。また、本発明者らが採用した制御装置4、通信装置7、加速度センサ51、角加速度センサ52、焦電型赤外線センサ53はそれぞれ5mm×4mmの半導体ベアチップで、角約0.008gである。すなわちこれらの質量の総和は0.04gである。
また、本発明者らが採用した電源6の重量は0.13gである。
以上、すべての構成要素の重量の合計は0.579gとなる。1対の羽根で浮上力0.58gfを得ているので、この構成で浮上することが可能である。
(通信装置)
次に、通信装置7について説明する。
通信装置7は送信機能を備え、各種センサの測定値を送信する。これにより、ベースステーション91が、ロボット90の情報を得ることができる。
ベースステーション91が得る情報は、ロボット90もしくはその周囲の物理量である。より具体的には、前者の一例としては、加速度センサから得られたロボット90の加速度情報、または、角加速度センサ52が得られたロボット90の角加速度情報、後者の一例としては、焦電型赤外線センサ53より得られた赤外線量情報である。
また、通信装置7は、受信機能を備え、制御信号を受信する。これによりベースステーション91がロボット90に対して制御を行なうことができる。
ベースステーション91より送信される制御信号を、ロボット90の浮上状態に対する制御信号と、ロボット90の周囲に与える物理量変更における制御信号とである。
より具体的には、前者の一例としては、ロボット90に与えられるべき加速度と角加速度とを指定する信号、後者の一例としては、発光ダイオード8の光量を指定する信号である。
なお、本実施の形態においては、ここに例示した情報を送受信するものとして以後の説明を行なう。
もちろん、送受信すべき情報はここに示した限りではない。たとえば、ベースステーション91より発せられた制御信号を、ロボット90が正しく受信したか否か確認する応答信号なども送受信可能な情報である。
(制御装置)
次に、制御装置4について、図8および図24を用いて説明する。
図8に示すように、制御装置4は、演算装置41とメモリ42とからなる。演算装置41は、通信装置7を経て、ロボット90における各種センサによって得られた情報を送信する機能を有する。また、演算装置41は、通信装置7を経て得られた制御信号に基づき、各構成要素の動作を制御する機能を有する。また、メモリ42はこれら送受信されたデータを保持する機能を有する。
本実施の形態においてより具体的には、演算装置41は加速度センサ51および角加速度センサ52からの情報によりロボット90の加速度および角加速度を算出し、通信装置7を経由してベースステーション91にこの情報を送信する。また、ベースステーション91からは現在ロボット90に与えられるべき加速度の情報と、角加速度の情報とが送信される。これらの情報を、通信装置7を経て受信し、演算装置41はこの受信された加速度と角加速度とにより各アクチュエータの動作パラメータを決定する機能を有する。
さらにより具体的には、演算装置41は、ロボット90に与えられるべき代表的な加速度と角加速度との組合せに対応したα、β、θの時系列値をテーブルとして有しており、これらの値、もしくはその補間値を各アクチュエータの動作のパラメータとする。なお、α、β、θの時系列値とは、たとえば、加速度、角加速度ともに0であるホバリングの場合は図20にグラフで示される値を離散化したものである。
当然、ここで挙げるα、β、θは制御パラメータの一例であり、説明の簡便のためこれらのパラメータを指定することでアクチュエータが駆動されることを前提に記述したが、たとえば、より直線的にこれらを実現する各アクチュエータへの駆動電圧や制御電圧に変換したものを用いることが効率的である。しかし、これらが既存のアクチュエータ制御方式と特に異なるものではないので、代表的なパラメータとしてα、β、θを挙げているにすぎず、このパラメータのみに限るものではない。
また、別なる機能の具体例として、演算装置41は、焦電型赤外線センサ53から送られてくる情報を、通信装置7を介して送信する機能を有する。
これによりベースステーション91がロボット90に搭載された焦電型赤外線センサ53における赤外線情報検出領域531における赤外線情報を取得することが可能になる。
また、演算装置41は、ベースステーション91から送信された発光ダイオード8の発光制御信号を、通信装置7を介して受信して、この制御信号に従い発光ダイオード8に流れる電流を制御する機能を有する。これにより、ベースステーション91が発光ダイオード8の発光を制御することが可能になる。なお、制御装置4の機能はここに示したものに限らない。
飛行制御は時間的に連携するものであるので、羽根の動作時刻歴を、制御装置4におけるメモリ42に記憶させておき、ベースステーション91からの制御信号をこの時刻歴情報によって補正する手段も可能である。
また、ロボット90の浮上移動を優先する場合、通信の帯域からの送信不可能なデータが発生することも考えられる。また、通信が途絶する場合も考えられる。これらをはじめとして、重量の増加が浮上移動に障害をもたらさない範囲内ならば、メモリ42を搭載することは有効である。
また、逆に、演算装置41におけるレジスタの類を除き、ロボット90の機能によっては明示的に必須ではない。
(駆動エネルギ源)
次に、駆動エネルギ源、すなわち、電源6について説明する。
左右アクチュエータ21,22、制御装置4、センサ51〜センサ53、を駆動する電力は電源6により供給される。
電源6はリチウムイオンポリマを電解質としているので支持構造1により封入しておけばよい。これにより液漏れを防ぐための余分な構造が不用であり、実質的なエネルギ密度を高めることができる。
なお、現在市販されているリチウムイオン2次電池の一般的な質量エネルギ密度は150Wh/kgであり、本実施の形態においてはアクチュエータにおける消費電流は最大40mAであるので、電源6の電解質重量を約0.1gとすると、本実施の形態においては約7.5分の飛行が可能である。また、本実施の形態におけるアクチュエータの最大消費電流は左右合計40mAである。
また、電源電圧3Vである。電解質重量が0.1gであるので、0.12W/g、つまり、1200W/kgの重量パワー密度を持つ電源6の実現が求められる。市販品で実現されているリチウムイオンポリマ2次電池の重量パワー密度は約600W/kgであるが、これは携帯電話などの情報機器に用いられている10g以上の製品などである。
一般に、電解質質量に対する電極面積の比は正負に反比例するので、実施の形態における電源6は、前述の情報機器用に用いられている2次電池の10倍以上の電極面積比を持つので、10倍程度の質量パワー密度が達成可能であり、冒頭の出力パワー密度は十分達成可能である。
アクチュエータの駆動エネルギを外部から供給する方法も可能である。たとえば、電力エネルギを外部から供給する媒体については温度差、電磁波などが挙げられ、これを駆動エネルギに変換する機構としてはそれぞれ熱電素子およびコイルなどが挙げられる。
当然、異なる種類のエネルギ源を混載する手法も可能である。電力以外のエネルギ源を用いる場合、基本的には制御は制御装置4からの電気的信号を用いることになると考えられている。
(センサ類(物理量入力部))
次にセンサについて説明する。
加速度センサ51は支持構造1の3自由度並進加速度を、角加速度センサ52の支持構造1の3自由度回転加速度、焦電型赤外線センサ53は焦電型赤外線センサ検出領域531における赤外線量を検出する。これらのセンサ51〜センサ53の検出結果は制御装置4に送られる。
本発明者が用いた加速度センサは帯域40Hzである。なお、加速度センサ51や角加速度センサ52は帯域が高いほど時間的に緻密な制御が可能であるが、ロボット90の浮上状態の変更は1回以上の羽ばたきの結果起きるものであると考えられるので、現在市販されている帯域が数10Hz程度のセンサでも実用可能になる。
本実施の形態では加速度センサと角加速度センサとにロボット90の位置および姿勢を検出するものとしたが、ロボット90の位置と姿勢が計測可能な手段であるかどうかは上記センサには限らない。たとえば、互いに直交する3軸方向の加速度を測定可能な加速度センサを少なくとも2つそれぞれ支持構造1の異なる位置に配置させ、角加速度センサから得られる加速度情報に基づいてロボット90の姿勢を算出することも可能である。
また、作業空間92内に地上波を明示的に組込んでおき、これをロボット90が検出して位置および姿勢を算出する方法も可能である。たとえば、作業空間92内に磁場分布を設けておき、磁気センサによりこの磁場分布を検知することで、ロボット90の位置と姿勢を算出する手法も可能である。また、GPSセンサ等を用いる手法も考えられる。
また、後述するベースステーション91など、ロボット90以外においてロボット90の位置と姿勢とを直接検出する手法も考えられる。たとえば、ベースステーション91がカメラを有し、画像処理によってロボット91の位置を算出する手法も可能である。当然この場合ロボット90における加速度センサ51などは必須ではない。
また、加速度センサ51、角加速度センサ52をはじめとするセンサ類は、制御装置4とは別部品として表現されたが、軽量化の観点から、マイクロマシニング技術によって制御装置4と一体で同一のシリコン基板上に形成してもよい。
当然本実施の形態におけるセンサは、アプリケーションすなわち警備の目的を達成する最低限の構成要素であって、センサの種類、個数、構成についてはここに示す限りではない。
たとえば、ロボット90における羽根の駆動には、フィードバックのない制御を用いているが、羽根のつけ根に羽根の角度センサを設け、ここから得られる角度情報によりフィードバックを行ない、より正確に羽根を駆動する方法も可能である。
また、逆に、浮上する領域における気流が既知であり、予め定められた羽ばたき方のみによって目的位置に定位することが可能ならば、ロボット90の浮上状態を検出することは不用となるので加速度センサ51や角加速度センサ52は必須ではない。人体検出については、焦電型赤外線センサ53を用いて、従来のロボットに採用されている手法と同様に行なえる。
なお、本実施の形態で例示する探索対象物としての人93もロボット90に対して移動の障害となるが、焦電型赤外線センサ検出領域531をロボット90の下方に配することで、ロボット90が侵入者の情報を飛行しても人93を検出することが可能であるため、人93を障害とせず、かつ、人93を検出することが可能である。
また、人体検出センサとして、現在広く安価に用いられている焦電型赤外線センサを例として挙げたが、当然これも人体を検出するという機能が達成されるならばこの限りではない。
(発光ダイオード(物理量出力部))
次に、発光ダイオード8について説明する。
発光ダイオード8は、焦電型赤外線センサ53における焦電型赤外線センサ検出領域531を概ね包含する可視光照射領域を有する。また、発光ダイオード8の動作は制御装置4によって制御される。
以上の構成より、焦電型赤外線センサ検出領域531内に検出された赤外線放射源を人93であると制御装置4が判断すれば、これに対して可視光を照射する動作を行なうことができる。なお、本実施の形態では、物理量出力部として発光ダイオード8を例示したが、これに限定されるわけではない。
上述の構成要素の決定の際、ロボット90の機動性を損なわないためには、当該構成要素の機能を損なわない範囲内で軽量であることが望ましい。
(ベースステーションの説明)
(主要な構成と主要な機能)
まず、図23を用いてベースステーション91の主要な構成と機能とを説明する。ただし、ベースステーションの主要な目的はロボット90からの情報取得とこれに基づくロボット90の制御であるので、図23はこれを具体化した一例にすぎず、外観、形状、また付帯的な構成要素の有無については上述の目的を害しない限りここに記す限りではない。
図23に示すように、ベースステーション91は、演算装置911とメモリ912および通信装置917を備えている。通信装置917は、ロボット90より送信された信号を受信する機能を有する。また、ロボット90に信号を送信する機能を有する。
ベースステーション91は、メモリ912に格納された作業空間92のマップデータなどと、ロボット90より通信装置917を介して受信したロボット90の加速度情報を初めとする各種情報から、ロボット90の行動を決定する機能を有する。また、この行動を通信装置917を介してロボット90に送信する機能を有する。
前述の受信機能と行動決定機能と送信機能によってベースステーション91はロボット90自身もしくはその周辺環境情報に基づき通信機能を介してロボット90を制御することができる。
ベースステーション91は、その上面をロボット90の離発着台として用いている。すなわち、ベースステーション91上面には充電器913が備わっており、充電孔914にロボット90における電極61が結合することで電気的に電源6に接続され、充電が可能な状態になる。本実施の形態においては節電のため、充電器913は演算装置911により制御され、ロボット90がベースステーション91に結合している際も動作して充電を行なう。
また、この充電孔914は位置決め孔の役割も兼ねている。さらに、ベースステーション91には電磁石915が備えられており、必要に応じてロボット90を吸着している。すなわち、離陸前のロボット90におけるベースステーション91に対する相対位置は、電磁石915を動作させることにより固定されており、また相対速度は0である。
(動作指示)
本実施の形態においてはベースステーション91は、演算装置911とメモリ912および通信装置917を備えており、メモリ912に格納された作業空間92のマップデータと、予め設定された目的を達成するロボット90の作業空間92における予定経路に対して、ロボット90より受信したロボット90の加速度情報をはじめとする各種情報からロボット90に与えるべき加速度、角加速度を、通信装置917を介してロボット90に送信する機能を有する。たとえば、ロボット90の角加速度情報を2回積分することでロボット90の姿勢を算出することができる。
また、これとロボット90の加速度情報を前出るの姿勢で回転変換して得た絶対座標系における加速度情報を2回積分することでロボット90の位置を算出することができる。なお、これらの積分定数は、離陸前の速度、角速度がともに0であり、位置、姿勢はベースステーション91に対して充電孔914に固定されているためいつでも既知である。このようにして演算装置911はロボット90の位置と姿勢を算出し、上述のロボット90への制御指示を行なうことができる。
以上の機能により、ベースステーション91が、ロボット90に作業空間92内を巡回させるように制御することが可能になる。これらの機能は互いに相関することも当然可能である。たとえば、前述のロボット90における加速度情報と角加速度情報より焦電型赤外線センサ53における赤外線検出領域531の作業空間92における位置を算出することができる。
この位置と赤外線量をマッピングすることで赤外線放射源の位置、形状、動作などを算出し、赤外線放射源の重心付近に向けてダイオードを発光させるといった手法も可能である。当然これらのバリエーションは多岐にわたり、アプリケーションによって最適なものをデザインするものであって、ここに示した形態に限るものではない。
(巡回手法)
ロボット90における巡回手法は、従来から提案されている車輪などで床面を移動するロボットに用いられてきた巡回手法に、高さ方向の自由度を加えて構築することが可能である。
たとえば、まず概ね一定の高さでの巡回を行ない、これが終了した後、ロボット90の高度を変更してまた別の高さで巡回を行なうといった手法で、2次元平面上での巡回の高さ方向の自由度を加え、3次元空間を巡回する手法が実現される。
また、焦電型赤外線センサ53の検出距離によっては、ある高さで巡回すれば作業空間92の全域において人を検出することが実質的に可能な場合も考えられる。この場合は、従来から提案されている2次元平面での巡回を行なうアルゴリズムのみで巡回が可能である。
これら巡回経路は、ある定まった経路をメモリ912内に予め用意していてもよいし、メモリ912におけるマップデータからある情報を基準に演算装置911が算出する方法も可能である。たとえば、作業空間92における監視上の重要度などを指定し、この重要度に応じて巡回頻度を高く設定するなどの手法が考えられる。また、巡回中においても経路の変更は可能である。たとえば、人検出時などに、人を検出した位置でホバリングするなどの変更が考えられる。
以上に示したのはロボット90の作業空間92の巡回手法の単純な一例であり、この限りではない。ベースステーション91の質量はロボット90の浮上には影響しないため、これらの巡回経路や手法の策定を高度に複雑に行なうことは容易である。
(離着陸補助)
羽ばたきの開始もしくは終了時、すなわち、ロボット90の離着陸の際は、羽ばたきによって起こる気流が急激に増加もしくは減少し不安定であるため、ロボット90の位置および姿勢を制御することは難しい。本実施の形態では、離陸前の段階において、ベースステーション91に備えられた電磁石915がロボット90を吸着している。離陸の際は羽ばたきによる気流が安定するまで電磁石915を作動させ、気流が安定した時点で電磁石915による吸着を停止するなどの手法で安定した離陸が可能である。
着陸においては、大まかに電極61が充電孔914の上部に位置するようロボット90を移動させ、この状態で電磁石915を作動させ、ロボット90をベースステーション91に吸着する。しかる後に羽ばたきを停止させれば、気流がG不安定である状態で着陸時の位置と姿勢を安定させることができる。なお、定位を容易にするため、電極61もしくは充電孔914の少なくとも一方がテーパ状をしていることが望ましい。
なお、重量が許すなら、ロボット90が電磁石915を有する構成も可能である。また、この構成により、ロボット90はベースステーション91に限らず、強磁性もしくは軟磁性材料で構成される物質すべてに対して安定した離着陸が可能になる。また、より加速度の小さい離陸を行なうために、電磁石915に力覚センサを配し、この力覚センサにかかる力によって電磁石915の吸引力を制御する手法も可能である。
また、ここに示したのは離着陸時の気流不安定性に伴うロボット90の不安定浮上を防ぐ手法の一例にすぎず、離着陸時にロボット90を一時的に保持する機構であれば他の手段も可能である。たとえば、電磁石915の代わりに空気を用いて吸引する手法も可能である。また、レールなどのガイド機構に沿って離着陸を行なう等の手法も可能である。
(システムの動作)
ロボット90はベースステーション91からの指示により作業空間92を巡回し、人を検出する。これをより具体的に一例として記述したものを例として図24および図25を用いて説明する。なお、以下の記述は一例であり、本願の権利請求の範囲を絞るものではない。
(静止状態)
ロボット90の動作開始前はロボット90はベースステーション91における充電孔914に電極61が接続され固定されている。また、必要に応じて電源6に対して充電が行なわれている。ベースステーション91における演算装置911、メモリ912は既に動作しているものとする。また、ロボット90の巡回経路は既に演算装置911によって算出されているものとする。また、人を検出した際のロボット90のダイオードの発光動作は既に演算装置911によって算出されているものとする。上記巡回経路、ダイオードの発光動作をメモリ912に格納しておくことが望ましい。
(離陸、上昇)
ベースステーション91における電磁石915が動作し、ロボット90はベースステーション91に吸着される。この状態でロボット90は垂直方向への上昇のための羽ばたき動作を開始する。遅くとも電磁石915が吸着を解除するまでには、ロボット90における加速度センサ51、角加速度センサ52、制御装置4、および通信装置7は動作を開始している。また、この際には、ベースステーション91においても通信装置917が動作を開始しており、演算装置911がロボット90の浮上状態を検出できる状態に達している必要がある。
羽ばたきによる気流が安定した時点で、電磁石915はロボット90の吸着を止めていく。電磁石915の吸着力とロボット90の浮力がバランスする点よりさらに電磁石915の吸着力を弱めた時点でロボット90が浮上を開始する。
また、少なくともロボット90が浮上を開始するまでに、ベースステーション91における演算装置911は、ロボット90の位置と姿勢を求める演算を開始している必要がある。
ロボット90はベースステーション91に加速度情報、角加速度情報を送信しつつ上昇する。ベースステーション91はこの情報と目的とする経路より算出されるロボット90の位置と姿勢によりロボット90に現在与えられるべき加速度を算出し、ロボット90に指示する。予め指定された位置にロボット90が到達すると、ベースステーション91の指示によりロボット90はこの高さで巡回を開始する。
(巡回)
巡回開始以前に焦電型赤外線センサ53を動作させる。この赤外線情報が通信によって演算装置911に送られる。巡回は、ベースステーション91はロボット90の移動を指示しつつ、赤外線情報を監視し、赤外線発信源すなわち発熱源の有無を判定することで行なわれる。ロボットは、障害物を避けるために、一般的な侵入者の身長以上の高さ、たとえば、概ね2m程度の高さを巡回する。また、ロボット90は、たとえば、赤外線情報検出領域531の幅の60%程度の幅ずつずらしながら往復するなどの手法を用いて、作業領域92をくまなく巡回する。
(着陸)
巡回終了時以後、ロボット90における焦電型赤外線センサ53は動作を停止する。巡回終了時には、ロボット90における電極61がベースステーション91における充電孔914の鉛直上方に位置するように位置および姿勢を保ちながらロボット90が下降するようにベースステーション91がロボット90を制御する。電磁石915がロボット90の吸着可能な位置にロボット90が位置したと判断した時点で、電磁石915を作動させ、ロボット90をベースステーション91に固定する。
ベースステーション91にロボット90が固定された以後、ロボット90における加速度センサ51、角加速度センサ52は動作を停止する。ベースステーション91にロボット90が固定されて以後、ベースステーション91はロボット90へ羽ばたきの停止を指示する。これ以後、通信装置7、制御装置4などは停止させてもよい。
(フローチャート)
本実施の形態における各情報の流れを図24に示す。また、上記動作のフローチャートを図25に示す。当然これらは一例であり、本実施の形態における対象物の探索を行なうセンシングロボットというアプリケーションを満足するロボット90の動作はこの限りではなく、また、これまでアプリケーションに用いられる場合、当然この動作は異なったものとなり得る。
(通信)
本実施の形態における通信手法について、図26〜図28を用いて説明する。
なお、ここでは通信されるデータに対する解説を主に行なう。たとえば、通信のプロトコル、ハンドシェイクのタイミングといった通信の手法の細部についてはさまざまな手法があるが、ここで説明するデータのやり取りが行なえるものであればよい。
(静止状態、離陸)
まず、静止状態〜離陸時の通信動作について図26を用いて説明する。
まず、ベースステーション91の演算装置911、通信装置917とロボット90の制御装置4、通信装置7を動作させ、ロボット90とベースステーション91のコネクションを確立させる。そしてベースステーション91における電磁石915を動作させ、ロボット90を吸着し、離陸時の不安定な気流によるロボット90の転倒を防止する。
ロボット90における加速度センサ51、角加速度センサ52はロボット90の位置と姿勢を正しく把握するために、ロボットが浮上、すなわち加速度もしくは角加速度が0でなくなる以前に動作している必要があるので、羽ばたき開始以前にセンシングを開始しておく。
ベースステーション91は、ロボット90に浮上用の羽ばたきを指示する。本実施の形態では鉛直上向きに浮上するような羽ばたきを行なうようにロボット90に加速度、角加速度の指示を行なう。
ロボット90においては、予め用意された制御テーブルから、鉛直上向きに上昇するためのα、β、θの時系列のパターンを選び、これに従った羽ばたきを開始するため、左右アクチュエータを駆動する。
ベースステーション91は、タイマで一定時間経過を検出するなどの手法で、ロボットの羽ばたきによる気流が安定するまで待機し、その後、電磁石915の吸着力を低下させていく。
その間、ロボット90は自身の加速度情報と角加速度情報とを通信によってベースステーション91に送信する。電磁石915の吸着力が浮力を下回った時点でロボットは浮上する。これはロボットの速度が0でなくなることによって検出される。浮上が完了すれば、ベースステーション91よりロボット90に浮上完了信号が送信され、巡回モードに入る。
(巡回)
続いて、巡回時における通信動作を図27を用いて説明する。
まず、巡回モードに移行するまでに、ロボット90は赤外線センサを動作させる(図示なし)。
次に、ロボット90は各種センサの情報取得を行なう。そして、取得したセンサ情報を、通信を介してベースステーションに送信する。
ベースステーション91は受信したロボット90のセンサ情報のうち、赤外線情報をマッピングし、作業領域92内での赤外線放射分布を求める。また、加速度情報、角加速度情報から、ロボット90の位置と姿勢を算出する。これらの位置、姿勢算出処理、赤外線マッピング処理は巡回行動中継続的に行なわれているものとする。
得られた赤外線マッピングの結果、メモリ912におけるマップデータに存在しない赤外線放射源が確認されれば人とみなして発光ダイオードによる報知動作を行なうことも可能である。そうでない場合は巡回を継続する。これら次の行動をベースステーション91は決定し、ロボット90に与えるべき加速度、角加速度をロボット90に指示情報として送信する。
ロボット90は受信した指示情報のうちの加速度指示と角加速度指示より、予め用意された制御テーブルより左右アクチュエータの駆動を算出し、これを駆動する。また、報知動作指示が行なわれている場合は、これに従ってLEDの駆動を行なう。報知動作においても、通信態様は、LED駆動を除いて巡回動作と同様である。
ベースステーション91が、ロボット90が巡回終了に達したと判断した場合、ロボット90に巡回終了信号を送信し、着陸モードに移行する。
(着陸)
続いて、図28を用いて着陸における通信について説明する。
ロボット90は、巡回終了後、焦電型赤外線センサ53の動作を停止させる。
ベースステーション91は、着陸地点直上、より具体的には、電磁石915によってロボット90を初期位置に吸着可能な領域にロボット90を誘導する。この誘導は巡回時の制御と同様に、ロボット90より受信した加速度情報、角加速度情報より算出したロボット90の位置と姿勢を用いて行なわれる。すなわち、巡回動作と同様の通信態様によって行なわれる。
ロボット90が着陸地点直上に来たら、電磁石915を動作させ、ロボット90をベースステーションに吸着する。その後、継続して動作させる必要がなければ、ベースステーション91はロボット90に対し動作終了を指示する。これによりロボット90は羽ばたき動作、通信動作、センシングを終了させる。
なお、通信形態は1系であり、ロボット90のセンサ情報によりベースステーションがロボット90の行動指示を行なうのであればここで挙げたものに限られない。
また、実施の形態では、センサは連続して動作するものとしたが、ベースステーション91によりセンサ情報要求信号を受信したときのみセンサを動作させるといったように、センサの動作を、ベースステーション91からの指示により間欠的に行なう手法も可能である。
(機能分担)
本実施の形態におけるロボット90における制御装置4と、ベースステーション91における情報処理の機能分担について以下に示す。
ロボット90とベースステーション91は通信路を通じて情報交換可能なので、各々の機能分担をさまざまな形が可能である。たとえば、上記実施の形態のごとく、ベースステーション91の機能をすべてロボット90に収め、ベースステーション91を廃した、いわゆる、スタンドアロンタイプも可能である。しかし、ロボット90に過剰な質量を搭載すると浮上が困難になる。
また、ロボット90が軽量である方が機敏な動きが可能になり、システム動作効率を上げることができる。つまり、一般に、情報処理の大部分はベースステーション91にて行ない、ロボット90を軽量に設計することが望ましい。特に、作業空間92におけるマップデータはその作業空間の大きさ、障害物の多さに依存して大きくなる。
このため、ロボット90の搭載重量の増加に繋がらないメモリ912が用意されていることが望ましい。先の項で示した、赤外線放射源の位置特定なども、ベースステーション91における演算装置911にて行なえば、ロボット90における制御装置4には簡素なデバイスを用いることができるため、軽量化が可能である。
上述の議論に加え、ロボット90における制御装置4と、ベースステーション91における情報処理の機能分担については、通信速度の向上が重量増加に繋がる点を考慮する必要がある。
たとえば、電波を用いた通信の場合、通信速度が高速になると、キャリアとしてのエネルギの高い、高周波数の電波を用いなくてはならないため消費電力が大きくなる。このため、電源6の重量増加に繋がる。また、補償回路などを用いて信号品質を向上させなくてはならず、構成要素が増えるため、通信機能の重量増加に繋がる。総合的にはこれらのトレードオフを考慮して、実際の機能分担をデザインする必要がある。
たとえば、羽ばたきの細部、すなわち、羽根の角度α、β、θをもベースステーション91が指示する場合を考えると、一般に羽ばたき以降の周波数は数10Hz以上であるため、α、β、θの制御周波数帯域はkHzオーダである。この場合、α、β、θのデータがそれぞれ8ビットであるとして、各々1kHzで制御するには、単一の通信路で8(bit)×1(kHz)×3×2(アクチュエータの個数)=48(kbps)の通信速度が必要である。これは送信のみの速度であり、実際には受信のための帯域も必要となる。これに通信のオーバーヘッド、また、焦電型赤外線センサ53などのセンサからのデータも加わるため、100kbps程度の通信速度を持った通信方法が必要となる。
ところで、ロボット90における前進や後退、左右への旋回といった基本的な動作については、各々の動作に対応した一定のパターンの羽ばたき方を用意することができる。よってこれら基本動作とそれをもたらす羽ばたき方のパターンをロボット90に内包しておき、ベースステーション91が予定経路にふさわしい基本動作を算出し、ロボット90に指示し、ロボット90は指示された基本動作から内包された羽ばたき方のパターンを選択するなどの手法を用いても、ロボット90に所望の経路を飛行させることができる。
このように、ロボット90は羽ばたき方そのものの制御に代表される高い周波数帯域の制御、ベースステーション91は経路制御に代表される低い周波数帯域での制御を受け持つ形態が、制御装置の演算量の軽減、通信経路のトラフィックス軽減の観点から望ましい。なお、これらの基本動作とそれをもたらす羽ばたき方のパターンは、テーブルとして制御装置4に用意しておくのが、処理速度、制御装置4における演算量の低減の観点から望ましい。
当然、特に制御装置4に代表される演算装置の演算能力や通信速度は今後大きく向上することが期待されるので、ここで記したロボット90とベースステーション91における情報処理の態様は、現状をもとに基本となる考えを例示したものであり、具体的な機能分担については、今後ここに記した限りではない。
(高度制御)
本実施の形態においては、高度制御により容易に異なる階への移動が行なえる。すなわち、マップデータに高さ情報を含めれば、従来の床面移動ロボット制御手法に、高さ方向の制御を加えるだけで、巡回経路の高さ変更を行なうことが可能である。すなわち、階段のマップデータに従って、たとえば、階段における鉛直下方面よりほぼ一定の鉛直方向距離を保つなどのアルゴリズムによって高さを変更しながら浮上移動することで、階段の上り下りが容易に実現できる。
当然、先に示した異なる階の移動に階段を用いるのは、異なる階を移動する手法の一例であり、これに限らない。たとえば、通風口や吹きぬけなどを用いることも可能である。
(複数の巡回について)
本実施の形態においては、単一の巡回のみを例示したが、巡回の態様については当然これに限らない。本実施の形態に例示したような巡回行動を繰返し行なうことも可能である。
また、このような巡回方法で新たに巡回を行なうことも可能である。また、本実施の形態においては巡回終了後、ベースステーションに帰還する行動形式を例として示したが、これは一例であり、この限りではない。たとえば、作業空間92に複数のベースステーションを配し、この間を巡回していく手法も可能である。
(エネルギ補充機構について)
当然、電源6の充電方法や形態は、軽量稼働継続使用を両立させるために一般的に用いられるエネルギ補充の一形態を例示したのみで、電源として機能を満たすものであれば電源6とその充電機構の態様はここに例示した限りではない。
たとえば、羽根に金属薄膜スパッタリングによってコイルを構成し、外部から電波を与え、これをそのコイルで電力に変換、整流して電源6を充電する方法も可能である。
また、たとえば、ベースステーション91以外に充電のみを目的とする充電ステーションが存在し、そこで充電を行なうことも可能である。
また、電力以外のエネルギを用いる場合、これに適したエネルギ補充方法が必要となる。もちろん、電極61と充電孔914の形状は本実施の形態に示したものとは限らない。また、本実施の形態に示したように位置決めの役割を兼用していることは必須ではない。
(通信について)
本実施の形態においては、ベースステーション91は常にロボット90の情報を得てこれを制御するものとしたが、ロボット90に自立的動作が可能である場合など、常にベースステーション91がロボット90を制御することは必ずしも必要ではない。
また、メモリ42に情報を一時的に保存しておくことで、ベースステーション91とロボット90の通信の頻度を下げることができる。これは後述するロボットやベースステーションが複数存在する場合など、通信路のトラフィック低減が求められる場合などに有効である。
ロボット90とベースステーション91とのコネクションは、途絶する可能性を前提として設計することが望ましい。ここで、ロボット90に通信路が途絶した場合の行動形式を予め組込んでおけば、コネクションが再開された際通信途絶に起因する悪影響を最小限に抑えることができる。
一例として通信路が途絶した場合、ロボット90はホバリングを行なうことで浮上状態を一定に保つ機能を備えておけば、ホバリングせずに移動し続ける場合に比べて障害物に衝突する可能性が小さくなる。
また、メモリ42にある程度先の動作モデルをバッファリングしておくことで、通信路が途絶した場合でもロボット90が飛行を続けることができ、逆に、メモリ42にセンサの検出した情報をバッファリングしておき、通信路が回復した際にこれをベースステーション91がやることで、通信路が途絶している間のセンサ情報をベースステーションが得ることができる。
また、逆にこういったバッファリングを用いることで、障害物が多く電波がさえぎられやすい環境においてもより微弱な電波で群ロボットシステムの機能を達成することができるため、省電力化が可能であり、電源6の軽量化に繋がるため、ロボット90の機動性を高めることができる。
(環境変化について)
本実施の形態においては説明の簡便のため、作業空間92における環境は変化しないものとしたが、実際の使用においては環境は変化する。主要な環境辺かとしての気流の発生と障害物の変化が挙げられる。なお、これらの環境変化が存在する場合はその補正手段を用意する必要がある。
気流については、羽ばたき飛行であっても一般の航空機と同様の影響を受けるため、この補正は一般的な航空機の経路計画に用いられる手法がそのまま応用可能である。
障害物の変化についても、その対処方法は従来の遠隔操作ロボットのシステムに採用されている手法がそのまま適用可能である。たとえば、光センサなどの障害物検出手段をロボット90に設け、その障害物検出データベースをベースステーション91に送信し、ベースステーション91はその情報からマップデータを更新するなどの手法が考えられる。
(システム構成(台数について))
本実施の形態においては説明の簡便のためベースステーションは1台としたが、複数のベースステーションによってロボット90を制御することも当然可能である。一例として、ベースステーション91とロボット90の通信可能範囲よりも作業空間92が広い場合、作業空間92をカバーするように複数のベースステーションを設け、ロボット90の制御を空間的に分担する手法が挙げられる。
また、本実施の形態においては、ベースステーション91に、ロボット90の制御機能と離着陸補助機能とエネルギ補充機能すなわち充電機能を統合したが、当然これらの機能がベースステーションに統合されていることは必須ではない。たとえば、通信可能範囲に比べ、航続飛行距離、すなわち、外部から駆動エネルギを補充することなく飛び続けることができる距離が短い場合、1台のベースステーションがカバーする通信範囲内に、他のエネルギ補充ステーションが存在するといった形態が考えられる。
逆に、ロボット90も単一である必要はなく、複数のロボットを用いた方が作業空間92の検索効率を高めることができる。たとえば、本実施の形態に示す人の探索の目的の場合、作業空間92をロボット90Aが1回検索するのにかかる時間T1(秒)とすると、ロボット90Aが検索を開始してからT1/2(秒)後にロボット90Bに検索を開始させれば作業空間92におけるある位置の検索頻度は毎秒2/T1(回)となり、2倍の頻度で検索されるため、人を発見する確率が上がる。また、魚群の回遊をモデルとした群行動を行なうロボットを用いてもよい。
また、当然、ベースステーション91の機能すべてをロボット90に内包でき、かつ、浮上が可能な重量であるならばスタンドアロンタイプとしてロボット90単独での使用形態も可能である。逆に、ほとんどの情報処理をベースステーション91が担い、ロボット90の制御部はアクチュエータのみである形態も可能である。
本実施の形態の群ロボットシステムによれば、ロボットは浮力を得て地面を離れて移動することができるので、たとえば家具などのさまざまな物体が置かれ、そしてそのような物体の位置が時間的に変化する屋内において、そのような障害物を避けて移動することができて、各部屋の状態把握などの所定の作業を行なうことができる。また、屋外においては、たとえば、災害地における障害物や一般のフィールドなどにおける地形などに左右されることなく移動することができて情報収集などの作業を容易に行なうことができる。また、既存作業空間への導入を安価に、簡便に実現できる。
本実施の形態の群ロボットシステムによれば、物理量取得手段と通信手段とを有する上記ロボットと、このロボットと通信によりロボットからの情報を得る、もしくはロボットを制御することが可能なベースステーションとの構成により、ロボットにおける情報処理を浮上に影響しない構成要素にて行なうことができるため、ロボットの起動力を損なうことなく情報処理量を増やすことができる。
次に、上記ロボットの別実施の形態を説明する。
(別実施の形態)
別実施の形態に係る羽ばたきセンシングロボットを用いた群ロボットシステムについて説明する。本実施の形態の群ロボットシステムは、前述の実施の形態と略同様であるが、羽ばたきセンシングロボットの構造のみが異なる。すなわち、本実施の形態の羽ばたきセンシングロボットは、前述の実施の形態の群ロボットシステムにおいて用いられ、ベースステーションと通信制御の関係は同様の関係で用いられる。また、羽ばたきセンシングロボットがフェロモンロボットとして用いられる場合も同様である。さらに、本実施の形態では、羽ばたきセンシングロボットの羽ばたき飛行に関してのみ説明するが、羽ばたきセンシングロボットには対象物を検出するためのセンサとして前述の実施の形態と同様のセンサが設けられており、階層構造においてスペクトラム拡散通信を用いて、他の羽ばたきセンシングロボット、フェロモンロボットまたはベースステーションと通信可能な通信機構においても前述の実施の形態と同様の通信機構が設けられている。
図29(a)および図29(b)は、羽部として2本の羽軸を有する羽ばたきセンシングロボットを示す図である。図29(a)では、羽ばたきセンシングロボットの前方正面部分が示され、図29(b)では、羽ばたきセンシングロボットの前方正面に向かって左側面部分が示されている。
なお、図29(a)および図29(b)では羽ばたきセンシングロボットの前方正面に向かって左羽しか示されていないが、実際には、胴体部105の中心軸を挟んで左右対称に右羽も形成されている。また、説明を簡単にするため、胴体部105が延びる方向に沿った軸(胴体軸801)は水平面内にあり、重心を通る中心軸802は鉛直方向に保たれているとする。
図29(a)および図29(b)に示すように、羽ばたきセンシングロボットの胴体部105には、前羽軸103および後羽軸104と、その前羽軸103と後羽軸104との間を渡すように設けられた羽の膜106とを有する羽(左羽)が形成されている。
また、胴体部105には、前羽軸103を駆動するための回転型アクチュエータ101と後羽軸104を駆動するための回転型アクチュエータ102とが搭載されている。このようなアクチュエータ101、102の配置や前羽軸103、後羽軸104および羽の膜106を含む羽の形状は、飛行の性能が損なわれないならばこれに限られるものではない。
さらに、この羽ばたきセンシングロボットの場合、羽の断面形状を鉛直上方に凸となるようにしておけば、水平方向への飛行に際して抗力だけでなく揚力も発生して、より大きな浮上力が得られることになる。
また、この羽ばたきセンシングロボットの重心の位置は、羽ばたきセンシングロボットの安定性を重視するために羽が周囲の流体により受ける力のアクチュエータに対する作用点の位置よりも下方になるように設定されている。一方、羽ばたきセンシングロボットの姿勢を容易に変更する観点からは重心とその作用点を略一致させておくことが望ましく、この場合には、姿勢制御に必要な左右の羽が流体から受ける力の差が小さくなって、羽ばたきセンシングロボットの姿勢変更を容易に行なうことができる。
2つの回転型アクチュエータ101、102は互いに回転軸800を共有している。この回転軸800は胴体軸とは所定の角度(90°−θ)をなしている。前(後)羽軸103、104はアクチュエータ101、102を支点として回転軸800と直交する平面内を往復運動する。この回転軸800と直交する平面と胴体軸801とのなす角度が仰角θとなる。
胴体部105としては、機械的強度を確保するとともに、十分な軽量化を図るために、ポリエチレンテレフタレート(PET)などを円筒状に成形したものが望ましいが、このような材料や形状に限定されるものではない。
アクチュエータ101、102としては、起動トルクが大きいこと、往復運動が簡単に実現できること、構造が単純なことなどから、圧電素子(ピエゾ)を用いた超音波進行波アクチュエータを用いるのが望ましい。これには、回転型アクチュエータとリニア型アクチュエータとの2つの種類がある。図29(a)および図29(b)では、回転型アクチュエータが用いられている。
ここでは、進行波を用いた超音波素子によって羽を直接駆動する方法を中心に説明するが、この羽を駆動するための機構や、それに用いるアクチュエータの種類については特に本実施の形態に示したものに限られない。
回転型アクチュエータとしては、図29(a)および図29(b)に示された回転型アクチュエータ101、102の他に、たとえば、図39に示される回転型アクチュエータ401を用いてもよい。
図39に示された羽ばたきセンシングロボットでは、胴体部404に搭載された回転型アクチュエータ401に羽403が取付けられている。羽403は回転型アクチュエータ401の回転軸402を中心として往復運動をする。
また、羽を駆動するための機構としては、特開平5−1695675号公報に記載されているような外骨格構造とリニアアクチュエータを組合わせた機構を適用して、たとえば図40または図41に示すような羽ばたきセンシングロボットを構成してもよい。
図40に示された羽ばたきセンシングロボットでは、リニアアクチュエータ501の一端に、前羽軸または後羽軸503が接続されている。胴体部504に装着されたヒンジ502を介してリニアアクチュエータ501の運動が前羽軸または後羽軸503に伝えられることで羽ばたき運動が行なわれる。この羽ばたき運動は、羽を直接筋肉で駆動するトンボの羽ばたき運動にヒントを得たものである。
図41に示された羽ばたきセンシングロボットでは、胴体部は上面胴体部603と下面胴体部604に分けられている。下面胴体部604に固定されたリニアアクチュエータ601の運動が上面胴体部603に伝えられる。そして、その上面胴体部603の運動がヒンジ602を介して前羽軸または後羽軸603に伝えられることで羽ばたき運動が行なわれる。この羽ばたき運動は、トンボ以外のハチなどが用いている羽ばたき運動にヒントを得たものである。
図41に示す羽ばたきセンシングロボットの場合、1つのアクチュエータ601によって左右の羽軸603が同時に駆動されるため、左右の羽軸を別々に駆動することができず、細かな飛行制御を行なうことはできないが、アクチュエータの数を減らすことができて、軽量化および消費電力の低減を図ることが可能である。
さて、図29(a)および図29(b)に示された羽ばたきセンシングロボットでは、回転型アクチュエータ101、102には前羽軸103と後羽軸104とがそれぞれ接続されている。前羽軸103と後羽軸104と間には羽の膜106が張られている。羽の膜106はその面内において収縮する方向に自発的な張力を有しており、羽全体の剛性を高める働きをしている。
軽量化のため前羽軸103と後羽軸104は中空構造であり、それぞれカーボングラファイトから形成されている。このため、前羽軸103と後羽軸104には弾力性があり、前羽軸103と後羽軸104とは羽の膜106の張力により変形可能である。
図42は本羽ばたきセンシングの全体の構造を示す図である。なお、前方方向(紙面に向かって上)に向かって左側の羽は省略されている。胴体部700には、超音波センサ701、赤外線センサ702、加速度センサ703および角加速度センサ704が配されている。これらのセンサによる検出結果は羽ばたき制御部705に送られる。
羽ばたき制御部705では、超音波センサ701や赤外線センサ702によって検出された結果から羽ばたきセンシングロボットと周囲の障害物や人間との距離などが情報が処理される。また、加速度センサ703や角加速度センサ704によって検知された結果から、羽ばたきセンシングロボットの浮上状態、目的位置または姿勢などの情報が処理処理されて、左右のアクチュエータ706および重心制御部707の駆動制御が決定される。
なお、ここでは、本羽ばたきセンシングロボットの周囲に存在する障害物を検出する手段として超音波センサ701および赤外線センサ702を用い、本羽ばたきセンシングロボットの位置および姿勢を検出する手段として加速度センサ703および角加速度センサ704を用いたが、本羽ばたきセンシングロボットの周囲環境や位置と姿勢が計測可能なセンサであれば、上記センサに限られない。
たとえば、直交する3軸方向の加速度を測定可能な加速度センサ2つをそれぞれ胴体部700の異なる位置に配して得られる加速度情報からも、本羽ばたきセンシングロボットの姿勢を算出することは可能である。また、本羽ばたきセンシングロボットが移動する空間内に磁場分布を設けておき、磁気センサによってこの磁場分布を検知することで本羽ばたきセンシングロボットの位置と姿勢を算出することも可能である。
また、図42では、加速度センサ703および角加速度センサ704をはじめとするセンサ類は、羽ばたき制御部705とは別部品として示されているが、軽量化の観点から、たとえばマイクロマシニング技術により羽ばたき制御部705と一体で同一基板上に形成してもよい。
また、本羽ばたきセンシングロボットでは羽の駆動をオープンループ制御としているが、羽の付け根に羽の角度センサを設け、この角度センサから得られる角度情報によりクローズドループ制御を行なうことも可能である。
なお、浮上する空間における流体の流れが既知であり、予め定められた羽ばたき方法によって浮上することが可能ならば、ここに挙げたセンサ類は必須ではない。
羽ばたき制御部705はメモリ部708と接続されており、羽ばたき制御に必要な既存のデータをメモリ部708から読出すことができる。また、各センサ701〜704によって得られた情報をメモリ部708に送込み、必要に応じてメモリ部708の情報を書換えることもでき、羽ばたきセンシングロボットとして学習機能を持たせることができる。
なお、各センサ701〜704によって得られた情報をメモリ部708に蓄積するだけであれば、羽ばたき制御部705を介さずにメモリ部708と各センサ701〜704とが直接接続されていてもよい。また、羽ばたき制御部705は通信制御部709と接続されて、通信制御部709とデータの入出力を行なうことができる。通信制御部709は、アンテナ部710を介して外部の装置(他の羽ばたきセンシングロボットやベースステーションなど)とのデータの送受信を行なう。
このような通信機能により、羽ばたきセンシングロボットが取得してメモリ部708に蓄えられたデータを速やかに外部の装置に転送することができる。また、羽ばたきセンシングロボットでは入手できない情報を外部の装置から受取り、そのような情報をメモリ部708に蓄積することで、羽ばたきの制御に利用することもできる。たとえば、大きなマップ情報のすべてを羽ばたきセンシングロボットに記憶さなくても、随時、必要な範囲のマップ情報をベースステーションなどから入手することなどが可能となる。
なお、図42では、アンテナ部710は胴体部700の端から突き出た棒状のものとして示されているが、アンテナの機能を有するものであれば、形状、配置などこれに限られない。たとえば、前羽軸712や後羽軸713を利用して、羽の上にループ状のアンテナを形成してもよい。また、胴体部700にアンテナを内蔵した形態でも、あるいは、アンテナと通信制御部709とを一体化させた形態でもよい。
超音波センサ701、赤外線センサ702、加速度センサ703、角加速度センサ704、羽ばたき制御部705、左右のアクチュエータ706、重心制御部707、メモリ部708、通信制御部709およびアンテナ部710などは、電源部711により供給される電流によって駆動される。
ここでは、駆動エネルギーとして電力を用いたが、内燃機関を用いることも可能である。また、昆虫の筋肉に見られるような、生理的酸化還元反応を用いたアクチュエータを用いることも可能である。あるいは、アクチュエータの駆動エネルギーを外部から取得する方法も採用できる。たとえば、電力については熱電素子、電磁波などが挙げられる。
(浮上方法)
説明の簡便のため、本羽ばたきセンシングロボットに作用する外力は、羽が流体から受ける流体力と羽ばたきセンシングロボットに作用する重力(羽ばたきセンシングロボットの質量と重力加速度との積)のみであるとする。本羽ばたきセンシングロボットが恒常的に浮上するためには1回の羽ばたき動作の間の時間平均において、次の関係、
(羽に作用する鉛直上方向の流体力)>(本羽ばたきセンシングロボットに作用する重力)
を満たすことが必要とされる。1回の羽ばたき動作とは、羽を打ち下ろし次に羽を打ち上げる動作をいう。
さらに、鉛直上向きの流体力を卓越させて上昇させるためには、
(打ち下ろし動作において羽に作用する鉛直上向きの流体力)>(打ち上げ動作において羽に作用する鉛直下向きの流体力)
となる必要がある。
ここでは、昆虫の羽ばたき方を単純化した羽ばたき方法により、打ち下ろし動作において羽に作用する鉛直上向きの流体力(以下「打ち下ろし時の流体力」と記す。)を、打ち上げ動作において羽に作用する鉛直下向きの流体力(以下「打ち上げ時の流体力」と記す。)より大きくする方法について説明する。
説明の簡便のため、流体の挙動もしくは流体が羽に及ぼす力については、その主要成分を挙げて説明する。また、この羽ばたき方法により得られる浮上力と、本羽ばたきセンシングロボットに作用する重力(以下「重量」と記す。)の大小については後述する。
打ち下ろし時の流体力を打ち上げ時の流体力よりも大きくするためには、打ち下ろし時に羽の膜106が移動する空間の体積が最大になるように打ち下ろせばよい。そのためには、羽の膜106を水平面と略平行に打ち下ろせばよく、これにより、ほぼ最大の流体力を得ることができる。
反対に、打ち上げ時には羽の膜106が移動する空間の体積が最小になるように打ち上げればよい。そのためには、羽の膜106を水平面に対して略直角に近い角度で打ち上げればよく、これにより、羽に及ぼされる流体力はほぼ最小となる。
そこで、回転型アクチュエータ101、102により回転軸800の周りに両羽軸103、104を往復運動させる際に、各羽軸103、104が水平面と略一致する位置を中心として上方と下方とにそれぞれ角度γだけ往復運動させるとする。さらに、図30に示すように、前羽軸103の往復運動に対して後羽軸104の往復運動を適当な位相φだけ遅れさせる。
これにより、図31〜図38(ここではφ=20°として描いた)に示す一連の羽の往復運動のうち、図31〜図34に示された打ち下ろし時においては、より高い位置にある回転型アクチュエータ301の前羽軸303が先に打ち下ろされるため、前羽軸303および後羽軸304の先端と羽の膜306が水平に近づく。
一方、図35〜図38に示された打ち上げ時においては、両羽軸103、104の先端の高さの差が拡大されて、羽の膜306も垂直に近づく。この結果、前羽軸303と後羽軸304に張られた羽の膜106が流体を押し下げ、あるいは、押し上げる量に差異が生じ、この羽ばたきセンシングロボットの場合には、打ち下ろし時の流体力の方が打ち上げ時の流体力よりも大きくなって浮上力が得られることになる。
この浮上力のベクトルは、位相差φを変化させることにより前後に傾く。前方に傾けば推進運動、後方に傾けば後退運動、真上に向けば停空飛翔(ホバリング)状態となる。なお、実際の飛行では、位相差φ以外にも、羽ばたき周波数fや羽ばたき角γを制御することが可能である。また、この羽ばたきセンシングロボットでは、羽ばたき仰角θを固定しているが、これを変化させる機能を追加して、自由度を増やしても構わない。
(羽ばたき制御)
実際の羽ばたき制御についてさらに詳細に説明する。上述した羽ばたきセンシングロボットでは、打ち下ろし動作または打ち上げ動作の際に、羽の先端部がなす捻り角αは、羽の長さ(羽の膜の前羽軸および後羽軸に沿った長さ)をl、羽の幅(前羽軸と後羽軸の間隔)をw、羽ばたき角をγ、羽ばたき運動の位相をτ(最も打ち上げた瞬間を0°、最も打ち下ろした瞬間を180°とする)、前羽軸と後羽軸の位相差をφとすれば(図31、37、38を参照)、およそ以下の式で表わされる。
tanα=(w/l)・〔sin(γ・cosτ)−sin{γ・cos(τ+φ)}〕
実際には、前羽軸や後羽軸には弾性があり変形可能であるので、この捻り角αは多少違った値をとる。また、羽軸の根元ほどこの角度は小さい。しかし、以下の議論では簡便のため、上の式のαを用いて説明する。
捻りを加えていない羽に作用する流体力の鉛直方向成分Fは、流体の密度をρ、羽ばたき角度をγ、羽ばたき周波数をfとして、およそ
F=(4/3)・π2ρwγ2f2l3・sin2τ・cos(γ・cosτ)
となる。なお、羽に作用する流体力の水平方向成分は、左右の羽が同じ運動をすれば互いに打ち消し合うことになる。
羽に捻り角αをもたせると、上記成分Fの羽ばたき運動平面に垂直な成分Lと、水平な成分Dはそれぞれ次のようになる。
L=F・cosα・sinα
D=F・cos2α
これに、羽ばたき仰角θを考慮すると、重量と釣り合うべき鉛直方向の成分Aと、前後運動の推力となる水平方向成分Jは、打ち下ろし時では、
A↓=−L・cosθ+D・sinθ
J↓=−L・sinθ−D・cosθ
打ち上げ時では、
A↑=L・cosθ−D・sinθ
J↑=L・sinθ+D・cosθ
となる。実際の浮力や推進力は、羽ばたき運動の1周期分を積分したものとなる。
以上より、この飛行制御の一例として、羽ばたきセンシングロボットの羽の長さl=4cm、羽の幅w=1cm、羽ばたき仰角θ=30°、羽ばたき角γ=60°、羽ばたき周波数f=50Hz、打ち下ろし時の位相差φ↓=4°、打ち上げ時の位相差φ↑=16°とした場合における鉛直方向成分Aと水平方向成分Bの時間変化を各角度の時間変化とともに図43に示す。
横軸は1周期分の時間が位相τとして表わされている。前半が打ち下ろし、後半が打ち上げを示している。各グラフの曲線は前羽軸の羽ばたき角γf、後羽軸の羽ばたき角γb、水平面からの羽の捻り角(α+θ)、流体力の鉛直方向成分Aおよび水平方向成分Jの時間変化をそれぞれ示している。
この例では、単位時間当りの流体力の鉛直方向成分Aにおいては打ち下ろし時の方が打ち上げ時よりも大きいため、1周期の平均で約500dynの鉛直上向きの流体力が1枚の羽で得られる。したがって、2枚の羽では羽ばたきセンシングロボットの重量が約1g以下であれば浮上することができることになる。また、単位時間当りの流体力の水平方向成分Jは、1周期の間にほぼ打ち消されるため、重量1g程度の羽ばたきセンシングロボットであればホバリング可能となる。
ここで、打ち下ろし時の位相差φ↓を大きく、もしくは、打ち上げ時の位相差φ↑を小さくすれば、前進することができる。このとき、水平に前進させるためには、周波数fを少し小さくするのが望ましい。逆に、打ち下ろし時の位相差φ↓を小さくし、もしくは、打ち上げ時の位相差φ↑を大きくすれば後退することができる。このとき、水平に後退させるためには、周波数fを少し大きくすることが望ましい。
この羽ばたきセンシングロボットでは、たとえば、打ち上げ時の位相差φ↑を16°に保ったまま打ち下ろし時の位相差φ↓を7°と大きくするか、打ち下ろし時の位相差φ↓を4°に保ったまま打ち上げ時の位相差φ↑を11°と小さくし、そして、羽ばたき周波数f=48Hzに下げることで、最初の1秒間におよそ1mの速度で水平に前進することができる。
また、たとえば、打ち上げ時の位相差φ↑を16°に保ったまま打ち下ろし時の位相差φ↓を1°と小さくするか、打ち下ろし時の位相差φ↓を4°に保ったまま打ち上げ時の位相差φ↑を24°と大きくし、そして、羽ばたき周波数f=54Hzに上げることで、最初の1秒間におよそ1mの速度で水平に後退することができる。
ホバリング状態のまま、羽ばたきセンシングを上昇または下降させるためには、周波数fを上げるかまたは下げるかすればよい。水平飛行中でも、上昇と下降については、主に周波数fによって制御が可能である。周波数fを上げることで羽ばたきセンシングロボットは上昇し、周波数を下げることで羽ばたきセンシングロボットは下降する。
この例では、打ち上げ動作中もしくは打ち下ろし動作中にも、羽の捻り角αをゆっくり変化させているが、これは、アクチュエータへの負荷を減らすためである。浮力を得るための羽ばたき運動としては、打ち上げ動作中や打ち下ろし動作中は羽の捻り角αを一定の値に設定して、打ち下ろし動作から打ち上げ動作、もしくは、打ち上げ動作から打ち下ろし動作への変化点において捻り角αを急激に変化させるようにしてもよい。
羽ばたき仰角θ=0°とした場合の鉛直方向成分Aと水平方向成分Bの時間変化を各角度の時間変化とともに図44に示す。この場合は、ハチドリのホバリングにヒントを得た羽ばたき運動である。なお、左右への舵取りは、左右の羽の羽ばたき運動を別々に制御できる場合、それぞれの羽による推力に差を持たせればよい。
たとえば、前方へ飛行中に右方向へ旋回するには、右羽の羽ばたき角γを左羽よりも小さくする、または、右羽の前羽軸と後羽軸の位相差を、左羽より大きくする、あるいは、羽ばたき仰角θが制御できるような場合には、右羽のθを左羽よりも小さくするといった制御を行なう。これにより、右羽の推進力が左羽の推進力に比べて相対的に下がり右に旋回することができる。羽ばたきセンシングロボットを左へ旋回させる場合には、その逆の制御を行なえばよい。
一方、図41に示された羽ばたきセンシングロボットのように、左右の羽を別々に制御することができないような場合には、図42に示された羽ばたきセンシングロボットに搭載されているような重心制御部707をこの羽ばたきセンシングロボットに搭載して、羽ばたきセンシングロボットの重心を左右にずらすことで左右への旋回を行なうことができる。
たとえば、重心を右にずらして右羽を下方へ左羽を上方へ傾け、そして、周波数fを大きくすることで、羽ばたきセンシングロボットを右へ旋回させることができる。重心を左にずらして、同様に、周波数fを大きくすることで、羽ばたきセンシングロボットを左に旋回させることができる。なお、この方法は2つの羽を別々に制御することができる場合にも適用することができる。また、いずれの羽ばたきセンシングロボットにおいても、姿勢の安定を保つために、左右のそれぞれの羽ばたきの周波数fを同じ値に設定しておくことが望ましい。
なお、上記2つの実施の形態のおいては、センシングロボットに羽ばたきセンシングロボットを用いた群ロボットシステムを説明したが、リモートコントロール可能なヘリコブター、2脚歩行する人型ロボット、魚型のロボットを用いた魚群ロボットなど、ベースステーションにより群ロボットシステムとして、動作、対象物の検出、および通信等の制御が行なえるものであれば他のロボットであってもよい。
最後に、本実施の形態の群ロボットシステムに用いられる羽ばたきセンシングロボット(または羽ばたきフェロモンロボット)の構成およびその効果をまとめて記載しておく。
本実施の形態の羽ばたきセンシングロボットは、流体が存在する空間を羽ばたくための羽部と駆動部と胴体部とを含む浮上本体部を備えている。駆動部は、羽部を上方から下方に向かって打ち下ろす打ち下ろし動作と、羽部を下方から上方に向かって打ち上げる打ち上げ動作とを行なう。胴体部には羽部が取付けられ、駆動部が搭載される。そして、一連の打ち下ろし動作および打ち上げ動作の間の時間平均では、羽部が流体から受ける力のうち鉛直上向きの力が浮上本体部に作用する重力よりも大きくなる。
この構造によれば、羽部の羽ばたき動作において打ち下ろし動作および打ち上げ動作の間の時間平均では、羽部が流体から受ける力のうち鉛直上向きの力が浮上本体部に作用する重力よりも大きくなることで、浮上本体部に浮力が与えられることになる。その結果、浮上本体部は地面に接することなく移動することができる。
浮上本体部に浮力を与えるためには、打ち下ろしの動作の際に羽部が移動する空間の体積は打ち上げの動作の際に羽部が移動する空間の体積よりも大きいことが望ましく、たとえば、浮力と浮上本体部に作用する重力とを釣り合わせることで地面から離れた状態で空間に留まる停空飛翔(ホバリング)も可能になる。
このような浮上本体部は、屋内において所定の作業を行なうための移動手段として用いられること、または、屋外において所定の作業を行なうための移動手段として用いられることが望ましい。
浮上本体部は浮力を得て地面を離れて移動することができるので、たとえば家具等のさまざまな物体が置かれ、そして、そのような物体の位置が時間的に変化する屋内において、そのような障害物を避けて移動することができて各部屋の状況把握等の所定の作業を容易に行なうことができる。また、屋外においては、たとえば災害地における障害物や一般のフィールドなどにおける地形等に左右されることなくに移動することができて、情報収集等の所定の作業を容易に行なうことができる。
具体的に、羽部は羽本体部と羽本体部を支持する羽軸部とを有し、駆動部は、羽軸部を駆動させることにより羽本体部の先端部と仮想の所定の基準面とのなす捻り角を変化させることが望ましい。
これにより、羽部が流体から浮ける流体力の大きさや向きが変化して、浮上本体部を上昇、下降、前進または後退させることができる。
また、打ち下ろしの動作の際に羽部が移動する空間の体積を打ち上げの動作の際に羽部が移動する空間の体積よりも大きくするために、駆動部は打ち下ろし動作における捻り角と打ち上げ動作における捻り角とを異ならせる必要がある。
さらに、駆動部は捻り角を時間的に変化させることが望ましい。
この場合には、羽部の姿勢を滑らかに変化させることができて、羽部に急激に流体力が作用するのを抑制することができる。
また、羽軸部は一方側羽軸部と他方側羽軸部とを含み、羽本体部は一方側羽軸部と他方側羽軸部との間を渡すように形成された膜部を含み、駆動部は一方側羽軸部と他方側羽軸部とを個々に駆動させることが望ましい。
この場合、一方側羽軸部と他方側羽軸部とを個々に駆動させることで、捻り角を容易に変えることができる。
そして、羽軸部は駆動部を支点として仮想の一平面上を往復運動し、胴体部は一方向に向かって延び、胴体部が延びる方向と仮想の一平面とがなす仰角が変えられることが望ましい。
この場合には、羽ばたき運動の自由度が増えて、より複雑な羽ばたき運動を実現することができる。また、この仰角をより大きくし捻り角を制御することで、より高速な飛行を行なうことができる。さらに、この仰角を実質的に0°にすることで、機動性に優れハチドリのようなホバリングを行なうことができる。
また具体的に、羽部は主軸部とその主軸部から主軸部が延びる方向と略直交する方向に形成された羽本体部とを有し、駆動部は主軸部を駆動させることにより羽本体部に接する仮想の一平面と主軸部を含む仮想の所定の基準面とのなす捻り角を変化させることが望ましい。
これにより、羽部が流体から浮ける流体力の大きさや向きが変化して、浮上本体部を上昇、下降、前進または後退させることができる。
このような主軸部にて羽部の姿勢を変えるためには、駆動部は少なくとも3自由度を有するアクチュエータを含んでいることが望ましい。
また、羽部は胴体部の略中心を挟んで一方側と他方側とにそれぞれ形成され、駆動部は一方側に形成された羽部と他方側に形成された羽部とを個々に駆動させることが望ましい。
この場合には、一方側に形成された羽部と他方側に形成された羽部の姿勢を個々に変化させることができて、容易に浮上本体部の向きを変えることができる。
さらに、周囲の状況を把握するためのセンサ部、情報を記憶するためのメモリ部、あるいは、情報を送受信するための通信部を備えていることが望ましい。
センサ部を備えることで、浮上本体部の位置や姿勢、速度、周囲の障害物の位置や移動速度、温度や明るさなどの環境情報を入手し、より適切な羽ばたき制御を行なうことができる。また、メモリ部を備えることで、得られた環境情報を蓄積することができて、浮上本体部に学習機能をもたせることができる。さらに、通信部を備えていることで、複数の浮上本体部とベースステーションとの間で情報のやり取りを行なうことができ、取得した情報を交換することで複数の浮上本体部間で協調行動などを容易に行なうことができる。
本実施の形態の群ロボットシステムによれば、階層構造において通信を行なうため、それぞれのセンシングロボット同士の間またはベースステーションとセンシングロボットとの間の通信の距離を、ベースステーションとセンシングロボットとが1対1で通信を行なう場合に比較して短くすることができる。そのため、センシングロボットそれぞれの通信機構の小型化または軽量化を図りながら、ベースステーションが停止している状態での探索範囲を広げることができる。
本実施の形態のセンシングロボットによれば、階層構造において通信を行なうため、それぞれのセンシングロボット同士の間またはベースステーションとセンシングロボットとの間の通信の距離を、ベースステーションとセンシングロボットとが1対1で通信を行なう場合に比較して短くすることができる。そのため、センシングロボットそれぞれの通信機構の小型化または軽量化を図りながら、ベースステーションが停止している状態での探索範囲を広げることができる。
本実施の形態のベースステーションによれば、ベースステーションが群ロボットシステムの全てのセンシングロボットそれぞれと通信できる機能を有しなくてもよいため、ベーステーションの通信機構の小型化を図りながら、ベースステーションが停止している状態での群ロボットシステムの探索範囲を広げることができる。
本実施の形態のフェロモンロボットによれば、複数のセンシングロボットを、ベースステーションによる制御が可能な範囲に位置するように、センシングロボットの移動を制限する制御を行なうことにより、センシングロボットがベースステーションの指示が届かない位置に移動してしまうことによって、センシングロボットの制御が不能となるセンシングロボットが発生することを抑制することにより、群ロボットシステムの探索範囲を広げるにあったて、群ロボットシステムにおけるセンシングロボットのコントロールをより確実に行なうことができる。
なお、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなく特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
90 羽ばたきセンシングロボット、100 群ロボットシステム、101 ベースステーション、102,103,104 羽ばたきセンシングロボット群、105 フェロモンロボット群。