JP2007228686A - 磁気浮上装置 - Google Patents

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Abstract

【課題】浮上体の動揺がコイル抵抗推定値に与える影響を考慮して常に安定した浮上制御を行なうことのできる磁気浮上装置を提供する。
【解決手段】センサ部123で検出する磁石ユニット107のコイル119,119’に流れる電流値izと、前記センサ部123から得られるコイル電流値に基づいて前記磁石ユニットが形成する磁気回路を安定化させるための励磁電圧値を演算する励磁電圧演算部125の出力と、ガイド113に対向する磁石ユニット107の空隙の変動速度を検出する速度検出部としての姿勢推定部133で推定される前記変動速度に基づいて抵抗測定部140で前記コイルの抵抗値を演算する。この演算結果に基づいて姿勢推定部133および励磁電圧演算部125において浮上制御が行なわれる。これにより、浮上体111が動揺してもコイル抵抗推定値が揺らぐことがなく、その値に基づいて常に安定した浮上制御を行なうことができる。
【選択図】 図1

Description

本発明は、常電導吸引式磁気浮上により浮上体を非接触で支持する磁気浮上装置に関する。
常電導吸引式磁気浮上装置は、騒音や発塵がなく、超高速地表輸送機(以下、HSST―High Speed Surface Transport―)やトランスラピッド等の鉄道や半導体工場でのクリーンルーム内搬送システムにおいて、既に実用化が図られている。また、この磁気浮上装置をエレベータの乗りかごの案内装置に適用すること(特許文献1参照)や、ドアへ適用することも試みられている。
このような磁気浮上装置は、電磁石を強磁性部材に対向させ、電磁石の励磁によって強磁性部材との間に生じる吸引力を利用して浮上体を浮上させる。このため、基本的に磁気浮上系が不安定であり、それを安定化させるための対策が必要となる。一般的には、ギャップセンサにより浮上ギャップ長を検出し、それを駆動系へフィードバック制御することで安定化を図っている。しかし、ギャップセンサにて浮上ギャップ長を検出する場合、使用するギャップセンサに適したセンサターゲットが必要であり、そのセンサターゲットを強磁性部材に付随して敷設しなければならない。
このように、磁気浮上系の安定化を図るためには、ギャップセンサやセンサターゲットといった部品が必要であり、その分コストが掛かると共に、その設置スペースを確保するために装置が大型化するといった問題があった。また、鉄道や搬送システムにおいては、強磁性ガイドで構成される軌道に分岐個所が設けられるため、センサターゲットとガイドが交差してギャップ長の検出を妨げないような仕組みが必要であり、システムが複雑化するといった問題もある。
このような問題を解決するため、ギャップセンサを必要としない様々な手法が提案されている。例えば、電磁石の励磁電流からオブザーバ(状態観測器)によりギャップ長を推定する方法(非特許文献1参照)や、磁気浮上により生じる電磁石の励磁電圧と励磁電流の位相差にギャップ情報を含ませ、これを励磁電圧にフィードバックする方法(非特許文献2参照)がある。また、電磁石の励磁電流値をヒステリシスコンパレータで基準値と比較し、励磁電流が基準値より大きい場合には励磁電圧を負に、小さい場合には励磁電圧を正に切替えることで、スイッチング周波数を浮上ギャップ長に比例させる方法(非特許文献3参照)がある。
しかし、このような解決策であっても、オブザーバを使用する場合にあっては、オブザーバが浮上状態における磁気浮上系の線型モデルから導出されるため、浮上状態にないときの浮上ギャップ長を推定することができない。そのため、浮上開始時の制御が困難となるという問題や、また、浮上体が他の構造物に一旦接触した場合に、再び浮上状態に復帰できないといった問題がある。また、ギャップ情報を含む物理量で電磁石の励磁電圧を制御する場合には、浮上制御系が非線形制御系になる。このため、制御系の安定判別が困難であり、浮上体の質量の変化や励磁による温度上昇で電磁石コイルに電気抵抗の変動があると、浮上状態の維持ができなくなるなどの問題がある。
このような問題に対処するため、電磁石の励磁電流からオブザーバによりギャップ長を推定するセンサレス化方法において、浮上体が浮上状態にない場合に浮上体の接触を検出してオブザーバの積分器を初期化すると共に、浮上体の接触状態から幾何学的に接触時のギャップ長を推定し、このギャップ長推定値に基づいてオブザーバの積分器に初期値を与えることで、浮上状態への復帰を行なう手法(特許文献2参照)がある。しかしながら、この手法をゼロパワー制御(特許文献4参照)に適用した場合には、以下のような問題が生じる。
すなわち、浮上体が定常浮上状態にあるときは、電磁石の励磁電流がゼロに収束しているため、何ら問題はないが、浮上体に大きな外力が長時間加えられた場合に、電磁石のコイルに過渡的な制御電流が流れ続け、コイルの温度が上昇することになる。この温度の上昇に伴い、コイルの電気抵抗が大きくなり、励磁電流から浮上ギャップ長を推定するオブザーバの出力誤差が大きくなる。その結果、浮上状態の維持が次第に困難になり、浮上体が接触してしまう。
なお、浮上体が接触した場合には、浮上状態への復帰制御が試みられるが、浮上状態に復帰しても浮上時の浮上ギャップ長推定値の誤差が大きいため、再び浮上体は接触し、接触状態と浮上状態が交互に繰返されることになる。こうした状態では、電磁石には大きな制御電流が流れ続けるため、電磁石のコイル抵抗値がさらに上昇し、ついには浮上体が接触したままで励磁電流が流れ続けることになる。その流れ続ける励磁電流が大きいと、浮上状態の信頼性が損なわれるばかりでなく、電磁石が発火する可能性がある。
一方、このようなセンサレスの磁気浮上における電磁石のコイル抵抗値の変動に関し、コイルの抵抗値を測定しながら浮上制御を行ない、その測定される抵抗値に基づいて、ギャップ長を推定するオブザーバのパラメータを変更する方法(特許文献3参照)が提案されている。また、電磁石に過渡的な励磁電流が流れ続ける場合に、コイル抵抗値の増加に加え、オフセット電圧が温度の上昇に伴って変動する問題がある。このオフセット電圧の変動は、前記コイル抵抗値の変動と同様に、浮上ギャップ長を推定するオブザーバの出力誤差を大きくする。
このような問題に対して、オブザーバの速度推定値の直流分をゼロにするための補償、すなわち、オブザーバに入力される励磁電圧にオフセット補償量を加算することで、オブザーバの出力誤差を抑制することができる。しかし、上述の対策を用いたとしても、オブザーバ中で用いるコイルの抵抗値については、これを励磁電圧と励磁電流の直流成分から算出すると、励磁電圧にオフセット電圧が混入して、正確な抵抗値を測定できなといった問題がある。
この問題に対しては、電流目標値がゼロのときの励磁電圧がその時点での磁気浮上制御系の閉ループに混入する全オフセット電圧の総和で表せることから、この励磁電圧値を記憶し、抵抗推定時に使用する励磁電圧値から記憶した励磁電圧値を減算すれば抵抗推定の精度を向上させることができる。
特開2001−19286号公報 特開2003−204609号公報 特開2005−117705号公報 特開昭61−102105号公報 水野,他:「変位センサレス磁気軸受の実用化に関する研究」,電気学会論文集D分冊,116,No.1,35(1996) 森山:「差動帰還形パワーアンプを用いたAC磁気浮上」1997年電気学会全国大会予稿集,No.1215 水野,他:「ヒステリシスアンプを利用したセルフセンシング磁気浮上」,計測自動制御学会論文集,32,No.7,1043(1996)
上述したように、従来の磁気浮上装置にあっては、浮上体の安定な浮上状態を実現するために、ギャップセンサおよびセンサターゲットを必要とした。このため、装置が大型化して複雑になり、コストアップを招くなどの問題があった。
また、このような問題を避けるために、ギャップセンサを用いずにギャップ長の情報をフィードバック制御したとしても、浮上系の安定性がコイル抵抗値とオフセット電圧に依存するため、浮上体が大きく揺れると、それに伴うコイル電流および励磁電圧の変動により、コイル抵抗推定の精度が低下し、安定した制御を行なうことができなかった。
本発明は、かかる事情に基づきなされたもので、浮上体の揺れを考慮して常に良好な精度でコイル抵抗推定を行ない、浮上体の動揺にかかわらず安定した浮上制御を行なうことのできる磁気浮上装置を提供することを目的とする。
上記課題を解決するための手段として、本発明の基本構成に係る磁気浮上装置は、強磁性部材で構成されるガイドと、このガイドに空隙を介して対向する電磁石で構成される磁石ユニットと、前記ガイドに作用する前記磁石ユニットの吸引力により非接触で支持される浮上体と、前記電磁石のコイルに流れる電流値を検出するセンサ部と、前記センサ部により得られるコイル電流値に基づいて前記磁石ユニットが形成する磁気回路を安定化させるための励磁電圧値を演算する励磁電圧演算部と、前記空隙の変位の変動速度を検出する速度検出部と、前記励磁電圧演算部により得られた前記励磁電圧値、前記センサ部により得られた前記コイル電流値、前記速度検出部により得られた前記変動速度に基づいて、前記電磁石のコイル抵抗値を演算する抵抗測定部と、前記抵抗測定部により得られた前記コイル抵抗値を前記励磁電圧演算部にフィードバックして前記浮上体の浮上を制御する制御部とを具備したことを特徴とする。
このような基本構成によれば、浮上体の揺れに対して変動の少ないコイル抵抗値を得ることができる。このため、励磁電圧演算部の演算結果が変動せず、外乱で浮上体に動揺が生じても、常に安定した浮上制御を行なうことができる。
第1構成に係る磁気浮上装置は、基本構成によるものにおいて、前記空隙内で前記電磁石と磁路を共有する永久磁石を備えた磁石ユニットと、前記電磁石の前記コイル電流の目標値をゼロ値または非ゼロ値に交互に設定する前記目標値設定部と、前記目標値設定部により設定された目標値に前記電磁石の前記コイル電流を収束させるコイル電流収束部と、前記コイル電流収束部による収束動作に伴い、前記センサ部により得られる前記コイル電流値に基づいて前記磁石ユニットが形成する磁気回路を安定化させるための励磁電圧値を演算する励磁電圧演算部と、前記目標値がゼロ値に設定されているときに前記励磁電圧演算部により得られた前記励磁電圧値、前記センサ部により得られた前記コイル電流値、前記速度検出部により得られた前記変動速度に基づいて前記励磁電圧値の直流分を演算するオフセット演算部と、前記オフセット演算部の演算結果を保存する電圧保存部と、前記電磁石の励磁電圧値から前記電圧保存部に保存された励磁電圧値をオフセット電圧値として減算することにより前記励磁電圧値の補償値を求める励磁電圧補償部と、をさらに具備したことを特徴とする。
第2構成に係る磁気浮上装置は、基本構成によるものにおいて、少なくとも前記コイル電流値と前記励磁電圧値とに基づいて前記強磁性部材に対する前記浮上体の姿勢および姿勢変化速度を推定する姿勢推定部をさらに備え、前記速度検出部は前記姿勢推定部により推定された前記姿勢変化速度に基づいて前記変動速度を演算することを特徴とする。
第3構成に係る磁気浮上装置は、第2構成によるものにおいて、前記浮上体が浮上状態にないときに前記浮上体と前記ガイドの位置関係を所定の状態に維持する補助支持部と、前記浮上体と前記ガイドとの接触を検出する接触検出部と、この接触検出部の出力に基づき接触時の前記ガイドに対する前記浮上体の姿勢を出力する姿勢演算部と、この接触検出部の出力に基づき接触時に前記姿勢推定部を初期化する推定初期化部と、前記姿勢推定部が初期化される際に前記姿勢演算部の出力値を前記姿勢推定部の初期値として設定する初期値設定部とをさらに備えたことを特徴とする。
第4構成に係る磁気浮上装置は、第2構成によるものにおいて、前記姿勢推定部によって得られる姿勢変化速度の推定値に所定のゲイン乗じて積分し、その積分結果を前記励磁電圧値に加算すると共に、その加算結果を新たな励磁電圧値として前記姿勢推定部にフィードバックする推定誤差補正部を備えたことを特徴とする。
第5構成に係る磁気浮上装置は、第2構成によるものにおいて、前記浮上体の運動の自由度に寄与する吸引力を発生させるための励磁電圧を所定のモード毎に演算するモード励磁電圧演算部と、前記浮上体の運動の自由度に寄与する吸引力を発生させるための励磁電流を所定のモード毎に演算するモード励磁電流演算部をさらに備え、前記姿勢推定部は、少なくとも前記モード励磁電流演算部と前記モード励磁電圧演算部の出力とに基づいて、前記浮上体の前記強磁性部材に対する姿勢および当該姿勢の時間変化を前記浮上体の運動の自由度毎に推定することを特徴とする。
第6構成に係る磁気浮上装置は、第5構成によるものにおいて、前記姿勢推定部によって得られる姿勢変化速度の推定値に所定のゲイン乗じて積分し、その積分結果を前記モード別励磁電圧値に加算すると共に、その加算結果を新たなモード別の励磁電圧値として前記姿勢推定部にフィードバックするモード推定誤差補正部を備えたことを特徴とする。
第7構成に係る磁気浮上装置は、基本構成によるものにおいて、前記抵抗測定部が、少なくとも前記励磁電圧値と前記コイル電流値の線形結合に前記コイル電流を乗じた電力演算結果を積分する積分器を備えていることを特徴とする。
本発明に係る磁気浮上装置によれば、何らかの外乱で浮上体に揺れが生じても、コイル抵抗値を正確に測定することができ、その測定値に基づいて浮上状態の安定性が維持できるように浮上制御パラメータを適応させることができる。これにより、磁気浮上系の安定性や外乱に対する過渡応答を常に設計時の状態に維持することができ、装置の信頼性が向上する。
以下、添付図面を参照しながら本発明に係る磁気浮上装置の実施形態について詳細に説明する。まず、本発明の基本的な原理について、図2を参照して説明する。図2は本発明の原理を説明するための磁気浮上装置の基本構成を示す図であり、一質点系の磁気浮上装置の全体構成が符号1で示されている。
磁気浮上装置1は、永久磁石103および電磁石105で構成される磁石ユニット107と、磁石ユニット107と負荷荷重109からなる浮上体111と、図示せぬ構造部材で地上に対して固定されるガイド113とを備える。また、この磁気浮上装置1は、磁石ユニット107の吸引力を制御して、浮上体111を安定に非接触支持するための吸引力制御部115と、この吸引力制御部115の出力に基づいて電磁石105を励磁するためのドライバ116とを備える。なお、131は補助支持部である。この補助支持部131は、コの字形状の断面を持ち、下部内側上面に磁石ユニット107が固定されると共に、例えば図示せぬリニアガイド等の上下方向に力が作用しない案内部で地上側から案内される防振台のテーブルを兼ねている。
ここで、磁石ユニット107の磁気的吸引力で浮上体111を非接触で支持するため、ガイド113は強磁性部材で構成されている。電磁石105は鉄心117a,117bにコイル119,119’を巻装して構成され、永久磁石103の両磁極端部にそれぞれ鉄心117a,117bが配置されている。コイル119,119’は電磁石105の励磁によってガイド113〜鉄心117a〜永久磁石103〜鉄心117b〜ガイド113で形成される磁路の磁束が強まる(弱まる)ように直列に接続されている。また、吸引力制御部115は、励磁電圧演算部125を備えている。励磁電圧演算部125は、ギャップセンサ121で得られる浮上ギャップ長および電流センサ123で得られるコイル電流値に基づいて電磁石105を励磁する電圧を演算する。ドライバ116は、この励磁電圧演算部125によって演算された励磁電圧に基づいて、リード線128を介してコイル119,119’に励磁電流を供給している。
このとき、磁気浮上装置1の磁気浮上系は、磁石ユニット107の吸引力が浮上体111の重量と等しくなるときの浮上ギャップ長z0 の近傍で線型近似でき、以下の微分方程式で記述される。
Figure 2007228686
z は磁石ユニット107の吸引力、mは浮上体111の質量、Rはコイル119,119’とリード線128とを直列に接続したときの電気抵抗(以下、コイル抵抗と記載する)、zは浮上ギャップ長、iz は電磁石105の励磁電流、φは磁石ユニット107の主磁束、ez は電磁石105の励磁電圧、Δは定常浮上状態(z=z0 ,iz =iz0(定常浮上状態でコイル電流がゼロの場合はiz =Δiz ))からの偏差、記号“・”はd/dt、偏微分∂/∂h(h=z,iz )は定常浮上状態(z=z0 ,iz =iz0)における被偏微分関数のそれぞれの偏微分値である。Lz0は、L∞をzが∞のときの電磁石105の自己インダクタンス、Nをコイル119、119’の総巻回数として、以下のように表わせる。
Figure 2007228686
また、前記数1の浮上系モデルは、下記のような状態方程式となる。
Figure 2007228686
ただし、状態ベクトルx、システム行列A、制御行列bおよび外乱行列dは、以下のように表される。なお、us は外力である。
Figure 2007228686
ここで、数4中の各パラメータは、以下のようになる。
Figure 2007228686
数3中のxの各要素が浮上系の状態量であり、Cは出力行列であり、励磁電圧ez の計算に用いる状態量の検出方法により決定される。磁気浮上装置1では、ギャップセンサ121と電流センサ123を使用しており、ギャップセンサ121の信号を微分して速度を得る場合に、Cは単位行列となる。ここで、Fをxの比例ゲイン、KiをΔizの積分ゲインとして励磁電圧ez を例えば、
Figure 2007228686
で与えれば、浮上体111はゼロパワー制御で浮上することになる。
なお、ゼロパワー制御については、例えば特許文献4に開示されているため、ここでは詳しい説明は省略する。また、励磁電圧演算部125において、前記数6が演算されることは言うまでもない。
また、磁気浮上装置1においてギャップセンサ121を使用せずに、励磁電流Δiz から浮上ギャップ長偏差Δzおよびその速度d(Δz)/dtを推定するための推定手段として、例えば同一次元状態観測器(以下、オブザーバと称す)を適用する場合を考える。このとき、線型制御理論によれば、オブザーバは、以下のような式で表される。
Figure 2007228686
で与えられる。ただし、
Figure 2007228686
はオブザーバの推定値状態ベクトル,α1,α2,α3はオブザーバの極を決定するパラメータ
Figure 2007228686
である。
この場合、数7の状態観測器の推定誤差は、数3および数7の演算開始時の初期値をそれぞれ、
Figure 2007228686
および
Figure 2007228686
とすれば、
Figure 2007228686
このとき、励磁電圧演算部125においては、例えば、
Figure 2007228686
が演算され、磁気浮上系の安定化が達成される.ただし、Tは転置行列であり、
Figure 2007228686
である。
一般に、常電導吸引式磁気浮上系は不安定なため、状態観測器の推定値に誤差があると安定化が非常に困難となるが、数12から明らかなようにあらかじめオブザーバが動作を開始するときの
Figure 2007228686
すなわち、浮上ギャップ長偏差Δz、その速度dΔz)/dtおよび励磁電流Δiの値が既知であればオブザーバの初期値
Figure 2007228686
をできるだけ
Figure 2007228686
に等しく設定することで推定当初から誤差が少ない状態で励磁電流Δizから浮上ギャップ長偏差Δzおよびその速度d(Δz)/dtを推定することができる。
ここで、推定当初の誤差が大きいと、数9で異常な励磁電圧が演算されるため、浮上状態の安定化ができなくなる。
以下、本発明の具体的な実施形態について、図面を参照して詳しく説明する。
(第1実施形態)
図1は本発明の第1実施形態に係る磁気浮上装置の構成を示す図であり、その全体構成が1’で示されている。この磁気浮上装置1’にあっては、ギャップセンサ121が省略されている。その代わりに、浮上体111およびその浮上体111の近傍に接触検出部130が備えられる。接触検出部130は、浮上体111が非接触状態から接触状態になったことを、例えば圧電ゴム129を用いて検出する。
また、吸引力制御部115には、前記接触検出部130に加えて、姿勢推定部133、姿勢演算部135、推定初期化部137、初期値設定部139が備えられている。姿勢推定部133は、励磁電流Δiz から浮上ギャップ長偏差Δzおよびその速度d(Δz)/dtを推定するものであり、例えばオブザーバで構成される。姿勢演算部135は、補助支持部131で維持された姿勢から浮上状態へ移行する場合のオブザーバの初期値となるべきx0 を演算する。推定初期化部137は、接触によりオブザーバの出力値を初期状態に戻す。初期値設定部139は、初期化されたオブザーバに姿勢演算部135で計算されたx0 を初期値として設定する。
励磁電流Δizおよび姿勢推定部133によって推定された浮上ギャップ長偏差Δzおよびその速度d(Δz)/dtは励磁電圧演算部125に入力され、この励磁電圧演算部125の出力によりドライバ116を介して電磁石105が励磁される。
このように、オブザーバを初期化すると共に所定の初期値を与えることにより、浮上体111が停止状態から浮上する場合や、外力やその他の理由により浮上状態から接触状態になった場合でも、励磁電流Δiz から浮上ギャップ長偏差Δzおよびその速度d(Δz)/dtを推定当初から誤差を抑えて推定することができる。その結果、浮上体111を確実に浮上状態へ移行させて、その浮上状態を維持することができる。
しかしながら、浮上状態にある浮上体111に過渡的な外力が持続的に加えられると、その外力に対して浮上状態を保つための吸引力制御がなされるため、コイル119,119’には励磁電流が持続的に流れて、コイル119,119’の温度が上昇し、それに伴いコイル抵抗Rが増加する。すると、数4中のパラメータa33が増大するが、その一方で数7により説明したオブザーバでは、パラメータa33が設定時のままとなる。このため、実際の磁気浮上系とオブザーバの間に差異が生じ、励磁電流Δiz 、浮上ギャップ長偏差Δzおよびその速度d(Δz)/dtの実際の値と推定値が乖離することになる。本来不安定な常電導吸引式磁気浮上系では、実際の値と推定値の乖離はフィードバック制御による浮上状態の安定化を非常に困難なものにする。
ここで、例えば特許文献4のように、磁気浮上装置1’には、コイル119,119’の抵抗Rを測定するための抵抗測定部140が備えられている。この抵抗測定部140は以下のようにしてコイル抵抗Rを測定する。
励磁電圧ez がコイルに印加された場合の電圧方程式は、
Figure 2007228686
であるから両辺にコイル電流izを掛けると次の電力方程式を得る。
Figure 2007228686
Rがある時刻に測定値r0として測定された場合、数16の右辺には次式で示す残差εが発生する。
Figure 2007228686
残差εは測定値r0がRより大きい場合には正、小さい場合には負となるから、λrを適当な残差ゲインとして測定値rを
Figure 2007228686
で新たに定義すると、残差εが正の場合はrが小さくなり、負の場合はrが大きくなるように調整され、最終的に残差εはゼロとなり、r=Rが成立して測定値は真値に等しくなる。このとき、数11ではギャップ長zの変化速度
Figure 2007228686
による磁石ユニットの発電エネルギーが含まれており、浮上体111の揺れで速度
Figure 2007228686
が変化しても残差εが揺れの影響を受けることはない。数12を数13に代入し、最終的に測定値rは次式で計算することができる。
Figure 2007228686
ここで、数20の演算には速度
Figure 2007228686
が必要となるが、本実施例では速度
Figure 2007228686
を検出する手段がない。しかし、速度
Figure 2007228686
は浮上ギャップ長偏差Δzの変化速度に等しいので、姿勢推定部133において推定される速度推定値
Figure 2007228686
を用いて数14が演算できる。そして、数20の入力(コイル電流、速度推定値、励磁電圧)や出力に、例えば、低域通過フィルタや平均値演算等の適当なノイズ除去処理を施せば、コイル抵抗Rの値を高精度で測定することができる。
このようにして得られたコイル抵抗値を抵抗測定部140から出力し、前記姿勢推定部133に導入して数7中のパラメータa33を変更すれば、温度上昇により増大した数4中のパラメータa33の値と数7中のパラメータa33の値が一致する。よって、実際の磁気浮上系とオブザーバの間に構造上の差異が生じることがなく、励磁電流Δiz 、浮上ギャップ長偏差Δzおよびその速度d(Δz)/dtの実際の値と推定値が乖離することもない。
さらに、本発明では、過渡的な外力の印加等により励磁電流が増加し、その影響でドライバ116にオフセット電圧が発生しても、当該オフセット電圧の発生が浮上ギャップ長偏差の推定値や速度推定値に誤差を生じないように推定誤差補正部142が備えられている。
この推定誤差補正部142は、姿勢推定部133の速度推定値に所定のゲインλOSを乗じるゲイン補償器144と、ゲイン補償器144の出力を積分する積分器146と、積分器146の出力と励磁電圧演算部125の励磁電圧値を加算する加算器148とからなる。そして、加算器148の出力を前記姿勢推定部133に導入される励磁電圧値として出力する。このような構成により、温度変動によりオフセット電圧が変化したとしても、姿勢推定値への影響を最小限に抑えることができる。
これに加えて本発明においては、図3に示すように、コイル抵抗値を測定する際に、前記オフセット電圧が測定値に影響しないように、励磁電圧演算部125に目標値設定部150とコイル電流収束部152が備えられている。目標値設定部150は、コイル電流の目標値を所定の時間間隔でゼロまたは非ゼロの値に交互に設定する。コイル電流収束部152は、センサ出力であるコイル電流値を前記目標値設定部150によって設定される目標値に収束させる。また、抵抗値測定部140においては、電圧保存部154と、電圧入力補償部156と、抵抗演算部158とが備えられている。
電圧保存部154は、前記目標値設定部150が目標値をゼロ設定しているときの励磁電圧値を保存する。電圧入力補償部156は、センサ出力であるコイル電流値に基づいて得られる電磁石105の励磁電圧値から電圧保存部154の出力であるオフセット電圧値を減算した値を励磁電圧の補償値として出力する。抵抗演算部158は、その励磁電圧補償値およびコイル電流値を用いて、前記数14に従ってコイル抵抗Rを測定する。
このような構成において、電圧保存部154は、目標値設定部150がゼロを出力する度に、その間の励磁電圧値の直流成分を検出し、前記目標値設定部150がゼロから非ゼロ値に出力を変更する度に、前記直流成分の値を電圧入力補償部156に出力する。したがって、抵抗演算部158から出力されるコイル抵抗値は目標値設定部150がゼロから非ゼロ値に出力を変更する度に前記直流成分の最新値に基づいて演算されることになる。
一般に、常電導吸引式の磁気浮上装置では、前記励磁電流iz を検出するために電流センサ123を使用する。今、電流センサ123およびドライバ116でそれぞれの温度に依存する出力オフセットを考える。前者のオフセットを電流オフセットizoff、後者のオフセットを電圧オフセットezoffとする。
浮上体111が浮上状態にあり、目標値設定部150からゼロが出力されている場合には、ドライバ116への励磁電圧の値をezz、電流センサ123の検出電流をim0とすれば、以下の電圧方程式が成立する。
Figure 2007228686
この間、電圧保存部154は、目標値設定部150よりゼロが出力されていることを報知する信号を受けて、ezzの直流成分値を抽出すると共に前回の抽出結果を出力する。
ここで、ezzの直流成分値は次のようにして抽出される。
数15中、直流成分をeDCとすれば、
Figure 2007228686
であるから、数22は
Figure 2007228686
と変形できる。
DCがある時刻に測定値edc0として測定された場合、数24の右辺には次式で示す残差εが発生する。
Figure 2007228686
残差εは測定値edc0がeDCより大きい場合には正、小さい場合には負となるから、λdcを適当な残差ゲインとして測定値edc
Figure 2007228686
で新たに定義すると、残差εが正の場合はedcが小さくなり、負の場合はedcが大きくなるように調整され、最終的に残差εはゼロとなり、edc=eDCが成立して測定値は真値に等しくなる。このとき、数17ではギャップ長zの変化速度
Figure 2007228686
による磁石ユニットの発電エネルギーが含まれており、浮上体111の揺れで速度
Figure 2007228686
が変化しても残差εが揺れの影響を受けることはない。数25を数26に代入し、最終的に測定値edcは次式で計算することができる。
Figure 2007228686
数27は数5の記号を用いれば、
Figure 2007228686
と表せる。
ここで、数20および数21の演算には速度
Figure 2007228686
が必要となるが、本実施例では速度
Figure 2007228686
を検出する手段がない。しかし、速度
Figure 2007228686
は浮上ギャップ長偏差Δzの変化速度に等しいので、姿勢推定部133において推定される速度推定値
Figure 2007228686
を用いて数27および数28が演算できる。そして、数27の入力(コイル電流、速度推定値、励磁電圧)や出力に、例えば低域通過フィルタや平均値演算等の適当なノイズ除去処理を施せば、目標値設定部150からゼロが出力されている場合の励磁電圧ezzの直流成分eDCを高精度で測定することができる。この直流成分 eDCを演算する電圧保存部154の構成を図4に示す。
電圧保存部154は、抵抗演算部158より入力される抵抗値Rと電流センサ123より入力される電流値im0を乗算する乗算器160と、乗算器160が出力するコイル抵抗部の電圧降下Rim0からコイル電流収束部152より導入される励磁電圧ezzを減じる減算器162と、姿勢推定部133から得られる速度推定値
Figure 2007228686
にゲインa32/b31を乗じるゲイン補償器164と、減算器162の出力からゲイン補償器164の出力および励磁電圧ezzの直流成分edcの演算結果を減じる減算器166と、減算器166の出力を積分する積分器168と、電流値im0にゲイン1/b31を乗じてコイルの自己インダクタンスによる逆起電力を出力するゲイン補償器170と、ゲイン補償器170および積分器168の出力を加算する加算器172と、加算器172の出力に直流成分edcの収束の速さにかかわる収束ゲインλdcを乗じるゲイン補償器174と、直流成分edcの初期値を出力する初期値設定器176と、ゲイン補償器174の出力と初期値設定器176の出力を加算して加算結果を直流成分edcの演算結果とするとともに前記減算器166にその出力結果が導入される加算器177と、目標値設定部150から導入される電流目標値を2乗する乗算器178と、乗算器178の出力がゼロから立ち上がる時刻でのみ1を出力する立ち上がり検出器180と、前記検出器180の出力を参照し当該出力が1になる時のみ接点bを選択し、他の場合は接点aを選択するスイッチ182と、スイッチ182の出力を記憶するメモリ184とで構成されている。ここで、スイッチ182の接点aにはメモリ184の出力が導入され、接点bにはノイズ除去用のローパスフィルタ186を介して加算器177の出力が導入されている。このような構成により電圧保存部154は目標設定部の出力がゼロから非ゼロ値に移行する瞬間の直流成分edcをメモリ184から出力する。これにより、目標設定部150がゼロを出力する間に数27の演算が収束し、励磁電圧ezzの直流成分eDCが電圧入力補償部156に出力される。また、ローパスフィルタ186は入力信号の入力端に挿入しても良い。
次に、目標値設定部150が非ゼロの値を出力しているとき、ドライバ116へ入力される電圧信号ez について、以下の電圧方程式が成立する。
Figure 2007228686
数29の両辺から直流成分eDCを減じると、
Figure 2007228686
より、
Figure 2007228686
となる。
目標値設定部150が非ゼロの値を出力しているとき、電圧保存部154では、目標値設定部150がゼロを出力しているときに抽出された電圧値edcが電圧保持部154に記憶されると共に、その値がオフセット電圧として電圧入力補償部156に出力される。励磁電圧補償部156では、入力される電圧保存部154の出力値edcおよびドライバ116への電圧信号ez を用いて、次式に従って補償励磁電圧ezmを演算する。
Figure 2007228686
数31はezmを用いて、
Figure 2007228686
と表せる。また、数5の記号を用いれば、次式となる。
Figure 2007228686
zoffは電流センサのオフセット電流であるからその時間微分値はゼロであり、数15においてezをezmに、izをiz +izoffに置き換えたものが数33に一致する。電流センサ123のオフセットを含む検出値imは、
Figure 2007228686
であるから、抵抗演算部158では、励磁電圧補償部156から出力される補償励磁電圧ezmと、電流センサ123の検出値imに基づいて上述の数20に関わるアルゴリズムでコイル抵抗Rが演算される。すなわち、数20は
Figure 2007228686
となり、数36でコイル抵抗を演算すれば、測定結果はコイル抵抗値Rに一致する。ここで、数36の演算には速度
Figure 2007228686
が必要となるが、本実施例では速度
Figure 2007228686
を検出する手段がない。しかし、速度
Figure 2007228686
は浮上ギャップ長偏差Δzの変化速度に等しいので、姿勢推定部133において推定される速度推定値
Figure 2007228686
を用いて数36が演算できる。そして、数36の入力(コイル電流、速度推定値、励磁電圧)や出力に、例えば、低域通過フィルタや平均値演算等の適当なノイズ除去処理を施せば、コイル抵抗Rの値を高精度で測定することができる。コイル抵抗Rを演算する抵抗演算部158の構成を図5に示す。
抵抗演算部158は、電流センサ123より入力される電流値imとコイル抵抗の演算結果である測定値rを乗算する乗算器188と、乗算器188の出力から電圧入力補償部156の補償電圧ezmを減じる減算器190と、姿勢推定部133から得られる速度推定値
Figure 2007228686
にゲインa32/b31を乗じるゲイン補償器192と、減算器190の出力からゲイン補償器192の出力を減じる減算器194と、減算器194の出力に前記電流値imを乗算する乗算器196と、乗算器196の出力を積分する積分器198と、電流値imにゲイン1/(2b31)を乗じてコイルに蓄えられる磁気エネルギーを出力するゲイン補償器200と、ゲイン補償器200および積分器198の出力を加算する加算器202と、加算器172の出力に測定値rの収束の速さにかかわる収束ゲインλrを乗じるゲイン補償器204と、測定値rの初期値を出力する初期値設定器206と、ゲイン補償器204の出力と初期値設定器206の出力を加算して加算結果を測定値rの演算結果とするとともに前記乗算器188にその出力結果が導入される加算器207と、加算器207の出力からノイズを除去するローパスフィルタ208とで構成されている。このような構成により、抵抗演算部158は数36に基づいた演算を行ない、演算結果である測定値rは真のコイル抵抗値Rに収束する。そして、演算結果はローパスフィルタ208を介して姿勢推定部133およびコイル電流収束部152に出力される。なお、ローパスフィルタ208を介して入力信号を抵抗演算部158に導入しても何ら差し支えない。
以上述べたように、抵抗演算部158において、電圧入力補償部156の出力値ezmを用いてドライバ116に接続されるコイル抵抗の値を測定すると、電流オフセットizoff、および電圧オフセットezoffが変動したとしても、浮上体111のギャップ変動にかかわらず測定結果を常に真値に一致させることができる。言い換えれば、温度変動等より電流検出部(電流センサ123)や励磁部(ドライバ116)にオフセット電圧が発生しても、そのオフセット電圧に応じた励磁電圧の補償値を用いて常に正しい抵抗値を測定することができる。また、浮上開始前に目標値設定部150よりゼロを出力して直流成分eDCを測定すれば、目標値設定部150よりゼロが出力されていることからim0はゼロで、速度
Figure 2007228686
および速度推定値
Figure 2007228686
もゼロであり、このときの直流成分eDCはコイル抵抗Rや自己インダクタンスLz0に依存しない。その後、目標値設定部150より非ゼロ値を出力すれば、浮上開始前の直流成分eDCを用いてもコイル抵抗Rは精度の良く測定できる。その後再び目標値設定部150からはゼロ目標値が出力され、励磁電圧ezzの直流成分eDCの測定が開始されるが、その場合はコイル抵抗値Rが既に測定済みであるため、浮上開始後であっても抵抗演算部158の出力を用いて数27もしくは数29に基づく直流成分eDCが測定されることは言うまでもない。
さらに、姿勢推定部133では、その抵抗値に基づいて常に正しいギャップ長推定値およびその速度推定値を出力することができる。これにより、温度変動や浮上体111への外乱に対して常に安定した浮上状態を維持することが可能となる。
また、本発明では、抵抗測定部140で測定されたコイル抵抗Rは励磁電圧演算部125に導入されている。励磁電圧演算部125では、外乱に対して所定の過渡応答が得られるように、例えば数13中のフィードバック定数Fが決定されている。制御系設計時のコイル抵抗Rの関数でFが与えられるときには、コイル抵抗Rに基づいてFの値を変更すれば、外乱に対する浮上体の過渡応答が温度変動に対して一定になる。
以上のように、本発明では、抵抗測定部140で測定されたコイル抵抗Rに基づいてコイル電流収束部152中でフィードバック定数Fの値を変更しているので、浮上体111の応答が温度変動に対して一定となり、浮上状態の安定性が確保できる。また、抵抗測定の際には浮上体111の浮上ギャップ長の変化速度が考慮されており、その結果、信頼性の向上が図れると共に、ギャップセンサを不要として装置の簡素化や小型化、コストの低減化を実現できる。
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態について説明する。
第2実施形態では、浮上体の運動座標系のモード毎に励磁電圧、励磁電流を演算することを特徴とする。ここでは、本発明の磁気浮上装置をエレベータに適用した場合を例にして説明する。
図6は本発明の第2実施形態に係る磁気浮上装置の構成を示す図であり、この磁気浮上装置をエレベータに適用した場合の構成が全体として符号10で示されている。また、図7はその磁気浮上装置のフレーム部の構成を示す斜視図、図8はその磁気浮上装置の磁石ユニット周辺の構成を示す斜視図、図9はその磁気浮上装置の磁石ユニットの構成を示す立面図である。
図6に示すように、エレベータシャフト12の内面にガイドレール14,14’と、移動体16と、4つの案内ユニット18a〜18dが構成されている。ガイドレール14,14’は、強磁性部材で構成され、エレベータシャフト12内に所定の取り付け方法で敷設されている。
移動体16は、上述した磁気浮上装置の浮上体に相当する。この移動体16は、ガイドレール14,14’に沿って、例えばロープ15の巻上げ機等の図示しない駆動機構を介して上下方向に移動する。案内ユニット18a〜18dは、移動体16に取り付けられており、この移動体16をガイドレール14,14’に対して非接触で案内する。
移動体16には、乗りかご20と案内ユニット18a〜18dが取り付けられる。移動体16は、案内ユニット18a〜18dの所定の位置関係を保持可能な強度を有するフレーム部22を備えている。図5に示すように、このフレーム部22の四隅には、ガイドレール14,14’と対向する案内ユニット18a〜18dが所定の方法で取り付けられている。
案内ユニット18は、図8に示すように、非磁性材料(例えばアルミやステンレス)もしくはプラスチック製の台座24にx方向近接センサ26(26b,26b’)、y方向近接センサ28(28b,28b’)および磁石ユニット30を所定の方法で取り付けて構成されている。近接センサ26,28は案内ユニット18とガイドレール14,14’の接触を検出する接触検出部として機能する。
磁石ユニット30は、中央鉄心32、永久磁石34,34’、電磁石36,36’で構成されており、図9にも示されているように、永久磁石34,34’の同極同士が中央鉄心32を介して向かい合う状態で全体としてE字形状に組み立てられている。
電磁石36,36’は、L字形状の鉄心38(38’)をコイル40(40’)に挿入後、鉄心38(38’)の先端部に平板形状の鉄心42を取り付けて構成されている。中央鉄心32および電磁石36,36’の先端部には、個体潤滑部材43が取付けられている。この個体潤滑部材43は電磁石36,36’が励磁されていない時に永久磁石34,34’の吸引力で磁石ユニット30がガイドレール14(14’)に吸着して固着することを防止し、かつ、吸着状態でも移動体16の昇降に支障が出ないようにするために設けられている。この個体潤滑部材43としては、例えばテフロン(登録商標)や黒鉛あるいは二硫化モリブデン等を含有する材料がある。
以下では、簡単のために、主要部分を示す番号に案内ユニット18a〜18dのアルファベット(a〜d)を付して説明する。
磁石ユニット30bでは、コイル40b,40b’を個別に励磁することでガイドレール14’に作用する吸引力をy方向とx方向に関して独立に制御することができる。この制御方式の詳細は特許文献1に記載されているため、ここでは詳しい説明を省略する。
案内ユニット18a〜18dの各吸引力は、上述した吸引力制御部として用いられる制御装置44により制御され、乗りかご20およびフレーム部22がガイドレール14,14’に対して非接触に案内される。
なお、制御装置44は図6の例では分割されているが、例えば図10に示すように、全体として1つに構成されていても良い。
図10は同実施形態における制御装置内の構成を示すブロック図、図11はその制御装置内のモード制御電圧演算回路の構成を示すブロック図である。なお、ブロック図において、矢印線は信号経路を、棒線はコイル40周辺の電力経路を示している。
制御装置44は、センサ部61と、演算回路62と、パワーアンプ63a,63a’〜63d,63d’とで構成されており、これらで4つの磁石ユニット30a〜30dの吸引力をx軸,y軸について独立に制御している。
センサ部61は、乗りかご20に取付けられて磁石ユニット30a〜30dによって形成される磁気回路中の起磁力あるいは磁気抵抗、もしくは、移動体16の運動の変化を検出する。
演算回路62は、このセンサ部61からの信号に基づいて移動体16を非接触案内させるべく、各コイル40a,40a’〜40d,40d’を励磁するための印加電圧を演算する吸引力制御部として用いられる。パワーアンプ63a,63a’〜63d,63d’は、この演算回路62の出力に基づいて各コイル40に電力を供給する励磁部として用いられる。
また、電源46は、パワーアンプ63a,63a’〜63d,63d’に電力を供給すると同時に定電圧発生装置48にも電力を供給している。なお、この電源46は、照明やドアの開閉のために図示せぬ電源線でエレベータシャフト12外から供給される交流をパワーアンプへの電力供給に適した直流に変換する機能を有している。
定電圧発生装置48は、パワーアンプ63への大電流の供給などによって電源46の電圧が変動しても、常に一定の電圧で演算回路62および近接センサ26a,26a’〜26d,26d’,28a,28a’〜28d,28d’に電力を供給する。これにより、演算回路62および近接センサ26a,26a’〜26d,26d’,28a,28a’〜28d,28d’は常に正常に動作する。
センサ部61は、前述した近接センサ26a,26a’〜26d,26d’,28a,28a’〜28d,28d’と、各コイル40の励磁電流を検出する電流検出器66a,66a’〜66d,66d’で構成されている。
演算回路62は、図6に示される運動座標系の各モードで移動体16の案内制御を行なっている。ここで、前記各モードとは、移動体16の重心のy座標に沿った前後動を表すyモード(前後動モード)、x座標に沿った左右動を表すxモード(左右動モード)、移動体16の重心回りのローリングを表すθモード(ロールモード)、移動体16の重心回りのピッチングを表すξモード(ピッチモード)、移動体16の重心回りのヨーイングを表すψモード(ヨーモード)である。
また、これらのモードに加えて、演算回路62は、ζモード(全吸引モード)、δモード(ねじれモード)、γモード(歪モード)についても案内制御を行なっている。すなわち、磁石ユニット30a〜30dがガイドレール14,14’に及ぼす「全吸引力」、磁石ユニット30a〜30dがフレーム部22に及ぼすz軸周りの「ねじれトルク」、磁石ユニット30a,30dがフレーム部22に、磁石ユニット30b,30cがフレーム部22に及ぼす回転トルクでフレーム部22をz軸に対して左右対称に歪ませる「歪力」に関する3つのモードである。
以上のような8つのモードに対し、磁石ユニット30a〜30dのコイル電流をゼロに収束させることで、積荷の重量に関わらず永久磁石34の吸引力だけで移動体を安定に支持する、いわゆる「ゼロパワー制御」にて案内制御を行なっている。
演算回路62は、浮上体である移動体16の運動の自由度に寄与する吸引力を発生させる励磁電流の線形結合で表させるモード別励磁電流を演算する機能と、同じく励磁電圧の線形結合で表させるモード別励磁電圧を演算する機能を備える。具体的には、次のように構成される。
すなわち、図10に示すように、演算回路62は、目標値設定部74と、抵抗測定部64と、電流偏差座標変換回路83と、制御電圧演算回路84、制御電圧座標逆変換回路85と、速度推定値座標逆変換回路87とで構成されている。
目標値設定部74は、前記8つの各モードのうち、ζモード(全吸引モード)の励磁電流目標値として所定の周期で交互にゼロまたは非ゼロの値を出力すると共に、yモードおよびxモードにおいては後述の装置停止の際に所定の値を出力する。
抵抗測定部64は、各コイル40a,40a’〜40d,40d’の励磁電流検出値と演算回路62の各パワーアンプ63a,63a’〜63d,63d’への励磁電圧信号ea,ea’〜ed,ed’と前記目標値設定部74の出力値および速度推定値座標逆変換回路87の出力値に基づいて、それぞれのコイルの電気抵抗値を出力する。
電流偏差座標変換回路83は、モード励磁電流演算部として、電流偏差信号Δia,Δia’〜Δid,Δid’により移動体16の重心のy方向の運動に関わる電流偏差Δiy、x方向の運動に関わる電気偏差Δix、同重心のまわりのローリングに関わる電流偏差Δiθ、移動体16のピッチングに関わる電流偏差Δiξ、同重心のまわりのヨーイングに関わる電流偏差Δiψ、フレーム部22に応力をかけるζ,δ,γに関する電流偏差Δiζ,Δiδ,Δiγを演算する。
制御電圧演算回路84は、モード励磁電圧演算部として、前記抵抗測定部64、前記目標値設定部74および前記電流偏差座標変換回路83の出力Δiy,Δix,Δiθ,Δiξ,Δiψ,Δiζ,Δiδ,Δiγよりy,x,θ,ξ,ψ,ζ,δ,γの各モードにおいて移動体16を安定に磁気浮上させるモード別電磁石制御電圧ey,ex,eθ,eξ,eψ,eζ,eδ,eγを演算する。
制御電圧座標逆変換回路85は制御電圧演算回路84の出力ey,ex,eθ,eξ,eψ,eζ,eδ,eγより前記磁石ユニット30a〜30dのそれぞれの電磁石励磁電圧ea,ea’〜ed,ed’を演算する。この制御電圧座標逆変換回路85の演算結果つまりea,ea’〜ed,ed’はパワーアンプ63a,63a’〜63d,63d’に与えられる。
速度推定値座標逆変換回路87は、制御電圧演算回路84のy,x,θ,ξ,ψの各モード別制御電圧演算回路86で演算されるモード別変位速度推定値
Figure 2007228686
Figure 2007228686
Figure 2007228686
Figure 2007228686
Figure 2007228686
より前記磁石ユニット30a〜30dのそれぞれのギャップ長変位速度推定値
Figure 2007228686
Figure 2007228686
を演算する。この速度推定値座標逆変換回路87の演算結果つまり
Figure 2007228686
Figure 2007228686
は、抵抗測定部64に与えられる。
なお、目標値設定部74は、前記第1実施形態における少なくとも1つの目標値設定部140で構成することでも良い。また、複数の目標値設定部140で当該目標値設定部74を構成する場合には、それぞれの出力値がゼロになる周期に位相のずれが存在しないことは言うまでもない。
また、非ゼロ値を出力する周期においては、すべてのコイルに抵抗測定用の微小電流を供給するという目的から少なくとも1つのモードの目標値が非ゼロ値であれば良く、目標値設定部74が励磁電流目標値として常にゼロを出力するモードがあっても何ら差し支えない。
ここで、本実施形態では、ζモード(全吸引モード)が非ゼロ値になるように目標値設定部74を構成しており、この場合、すべてのコイルに同じ値の励磁電流を供給することができる。しかも、その際に発生する吸引力は前記フレーム部22への応力として作用するので、移動体16の姿勢が変化することがなく、目標値設定部74の出力値の変化に対して乗り心地が悪化することはない。
なお、後述の説明のため、図10の電流偏差座標変換回路83、制御電圧演算回路84および制御電圧座標逆変換回路85を浮上制御演算部65とする。
さらに、制御電圧演算回路84は、前後動モード制御電圧演算回路86a、左右動モード制御電圧演算回路86b、ロールモード制御電圧演算回路86c、ピッチモード制御電圧演算回路86d、ヨーモード制御電圧演算回路86e、全吸引モード制御電圧演算回路88a、ねじれモード制御電圧演算回路88b、歪モード制御電圧演算回路88cで構成されている。
前後動モード制御電圧演算回路86aは、Δiyよりyモードの電磁石制御電圧eyを演算する。左右動モード制御電圧演算回路86bは、Δixよりxモードの電磁石制御電圧exを演算する。ロールモード制御電圧演算回路86cは、Δiθよりθモードの電磁石制御電圧eθを演算する。ピッチモード制御電圧演算回路86dは、Δiξよりξモードの電磁石制御電圧eξを演算する。ヨーモード制御電圧演算回路86eは、Δiψよりψモードの電磁石制御電圧eψを演算する。
全吸引モード制御電圧演算回路88aは、Δiζよりζモードの電磁石制御電圧eζを演算する。ねじれモード制御電圧演算回路88bは、Δiδよりδモードの電磁石制御電圧eδを演算する。歪モード制御電圧演算回路88cは、Δiγよりγモードの電磁石制御電圧eγを演算する。
これらモードの制御電圧演算回路が図2および図3に示す吸引力制御部115と同様の構成を備えている。
すなわち、前後動モード制御電圧演算回路86aは、図11に示すように、抵抗値平均化部90、ゲイン補償器91、抵抗値アンバランス補正部92、減算器93、積分補償器94、加算器95、減算器96、推定誤差補正部142、姿モード姿勢推定部97、推定初期化部98、姿勢演算部99、初期値設定部100および加算器101で構成されている。
抵抗値平均化部90は抵抗測定部64で測定されたコイル40a,40a’〜40d,40d’の抵抗値の平均値を演算する。ゲイン補償器91は、Δy,Δyの推定値(図中^で表示)およびΔiyに適当なフィードバックゲインを乗じる。抵抗値アンバランス補正部92は、当該前後動モード以外の7つのモード別励磁電流(Δix〜Δiγ)に抵抗測定部64の出力に基づいて、各コイル抵抗値の線形結合で得られるモード別抵抗補正ゲインを乗算すると共にそれら7つの乗算結果の総和を出力する。
減算器93は、Δiyを目標値設定部74の出力より減じる。積分補償器94は、減算器93の出力値を積分し適当なフィードバックゲインを乗じる。加算器95は、ゲイン補償器91の出力値の総和を演算する。減算器96は、加算器95の出力値を積分補償器94の出力値より減じてyモード(前後動モード)の第1のモード別励磁電圧ey1を出力する。
推定誤差補正部142は、モード推定誤差補正部として、モード毎の第1のモード別励磁電圧におけるパワーアンプ63のオフセット電圧成分を補正する。モード姿勢推定部97は、姿勢推定部133と同様に推定誤差補正部142の出力値とモード別電流偏差ΔiyからΔy,Δy,Δiyの推定値を演算する。
推定初期化部98は、16個の近接センサ信号のON/OFFに基づいてモード姿勢推定部97中の積分演算を初期化する。姿勢演算部99は、16個の近接センサ信号のON/OFFに基づいて移動体16の接触時の姿勢を演算して各磁石ユニット30のモード別位置偏差を出力する。初期値設定部100は、姿勢演算部99の演算結果をモード姿勢推定部97の初期化時に積分動作の初期値として設定する。加算器101は、前記第1のモード別励磁電圧ey1と前記抵抗値アンバランス補正部92の出力を加算し、その加算結果を第2のモード別励磁電圧eyとして出力する。
なお、モード姿勢推定部97、推定初期化部98、姿勢演算部99および初期値設定部100については特許文献4に詳細に開示されている。また、推定誤差補正部142および抵抗値アンバランス補正部92については本願発明の特徴的な構成の前提となる構成要素であり、本願出願人の先願に詳細に記述されているので詳しい説明は省略する。
また、左右動モード制御電圧演算回路86b、ロールモード制御電圧演算回路86c、ピッチモード制御演算回路86dおよびヨーモード制御演算回路86eについても、前記上下動モード制御電圧演算回路86aと同様の構成であり、対応する入出力信号を信号名で示し、その説明は省略するものとする。
一方、ζ,δおよびγの3つの各モード制御電圧演算回路88a〜88cはすべて同じ構成であり、また、上下動モード制御電圧演算回路86aと同じ構成要素を有するので、同一部分に同一符号を付すと共に、区別するために「’」を付して図12にその構成を示す。本実施形態では、図12に示した減算器93,93’、ゲイン補償器91,91’、積分補償器94,94’、減算器96,96’および加算器95がモード励磁電流収束部を形成している。
次に、以上のように構成された磁気浮上装置の動作について説明する。
装置が停止状態にあるときは、磁石ユニット30a,30dの中央鉄心32の先端が、固体潤滑部材43を介してガイドレール14の対向面に、電磁石36a’,36d’の先端が固体潤滑部材43を介してガイドレール14の対向面にそれぞれ吸着している。このときに固体潤滑部材43の働きにより、移動体16の昇降が妨げられることはない。
この状態でこの装置を起動させると、制御装置44は浮上制御演算部65の働きにより永久磁石34が発生する磁束と同じ向きまたは逆向きの磁束を各電磁石36a,36a’〜36d,36d’に発生させると共に、磁石ユニット30a〜30dとガイドレール14,14’の間に所定の空隙長を維持させるべく各コイル40に流す電流を制御する。
これによって、図9に示すように、永久磁石34〜鉄心38,42〜空隙G〜ガイドレール14(14’)〜空隙G”〜中央鉄心32〜永久磁石34の経路からなる磁気回路Mcおよび永久磁石34’〜鉄心38、42〜空隙G’〜ガイドレール14(14’)〜空隙G”〜中央鉄心32〜永久磁石34の経路からなる磁気回路Mc’が形成される。
このとき、空隙G,G’,G”におけるギャップ長は、永久磁石34の起磁力による各磁石ユニット30a〜30dの磁気的吸引力が移動体16の重心に作用するy軸方向前後力、同x方向左右力、移動体16の重心を通るx軸回りのトルク、同y軸回りのトルクおよび同z軸回りのトルクと丁度釣合うような長さになる。
制御装置44はこの釣合いを維持すべく移動体16に外力が作用すると電磁石36a,36a’〜36d,36d’の励磁電流制御を行なう。これによって、いわゆるゼロパワー制御がなされる。今、ゼロパワー制御で非接触案内されている移動体16が図示せぬ巻上げ機によってガイドレール14,14’に沿って昇降を開始した場合に、ガイドレール14,14’の歪曲等により移動体16に揺れが生じたとする。このよう場合でも、磁石ユニット30a〜30dが空隙中で電磁石と磁路を共有する永久磁石を備えているため、電磁石コイルの励磁により速やかに磁石ユニット30a〜30dの吸引力を制御して揺れを抑えることができる。
また、人員や積荷の偏った移動、もしくは地震等に起因するロープの揺れ等が原因で移動体16に過大な外力が加えられたとする。このような場合、磁石ユニット30a〜30dの電磁石の温度が上昇し、電磁石コイルの電気抵抗およびパワーアンプや電流検出器のオフセット電圧が変動する。特に、電力消費を極端に抑制できるゼロパワー制御が用いられている場合には、過大な外力で大きな励磁電流が流れると各電磁石コイルやパワーアンプが急激に発熱し、ギャップ長一定制御などの他の制御方式よりも抵抗値の変動が大きくなる。こうなると、各運動モードでギャップ長推定値とその速度推定値の誤差が増大し、乗り心地が極端に悪化する。
しかし、本発明によれば、による目標値設定部74および抵抗測定部64の作用によりパワーアンプおよび電流検出器のオフセット電圧が数28で正確に演算されるとともに、数36に基づいて移動体16の動揺を考慮した上でコイル40の抵抗値が正確に測定される。
したがって、抵抗測定部64の出力値で調整されるモード姿勢推定部97や抵抗値アンバランス補正部92,92’のパラメータが正確に調整されると共にゲイン補償器91,91’、積分補償器94,94’で抵抗値をパラメータとしたゲイン設定が可能である。よって、前記オフセット電圧やコイル抵抗値の変動に対して非接触案内の安定性が維持されるばかりでなく、良好で常に一定な乗り心地を持続させることができる。
また、パワーアンプのオフセット電圧の変動に対してはモード別変位およびモード別変位速度において、推定誤差が生じるが、推定誤差補正部142の動作によってもこれらの誤差はゼロになる。しかし、モード姿勢推定部97の推定値が真値に収束する速さはコイル抵抗測定値の正確性に依存しているため、抵抗測定部67でオフセット電圧を考慮した正確な抵抗測定を行なうことにより、モード姿勢推定部97の推定値が真値に迅速に収束する。さらに、推定誤差補正部142の動作でモード別変位速度の推定値に誤差が生じないため、数28および数36においても正確な演算を行なうことができる。
本装置が運転を終えて停止する場合には、目標値設定部74において、yモードおよびxモードの目標値をゼロから徐々に負の値とする。これにより、移動体16は、y軸、x軸方向に徐々に移動し、最終的に磁石ユニット30a,30dの中央鉄心32の先端が、固体潤滑部材43を介してガイドレール14の対向面に電磁石36a’,36d’の先端が固体潤滑部材43を介してガイドレール14の対向面にそれぞれ吸着する。この状態で装置を停止させると、目標値設定部74の出力がすべてゼロにリセットされると共に移動体16がガイドレールに吸着する。
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態について説明する。
前記第1および第2実施形態では、磁石ユニットが浮上体側に取付けられていたが、これは磁石ユニットの取付け位置をなんら限定するものでなく、図13に示すように、磁石ユニットを地上側に配置しても良い。なお、説明の簡単化のために、以下、第1および第2実施形態と共通する部分には同一の符号を用いて説明する。
図13は本発明の第3実施形態に係る磁気浮上装置の構成を示す図であり、その全体の構成が符号300で示されている。
磁気浮上装置300は、補助支持部302、磁石ユニット107、ガイド304、防振台テーブル306、リニアガイド308、吸引力制御部115、パワーアンプ313、電流センサ123を備えている。
補助支持部302は、断面がコ字形状をなし、例えばアルミ部材などの非磁性体で形成される。この補助支持部302は地上に設置されており、磁石ユニット107は補助支持部302の上部下面に下向きに取付けられている。ガイド304は、磁石ユニット107に対向する断面がコ字形状をなし、例えば鉄などの強磁性部材で形成されている。防振台テーブル306は、このガイド304を底部上面に備えており、全体としてコ字形状に形成されている。リニアガイド308は、防振台テーブル306の側面に取付けられ、地上に対して垂直方向にのみ動きの自由度を防振台テーブル306に付与する。
吸引力制御部115は、磁石ユニット107の吸引力を制御して防振テーブル306を非接触で支持するための制御を行なう。パワーアンプ313は、吸引力制御部115の出力に基づいて磁石ユニット107を励磁するための図示せぬ電源に接続されている。電流センサ123は、磁石ユニット107の励磁電流を検出する。
ここで、吸引力制御部115は以下のような構成を有する。すなわち、吸引力制御部115は、抵抗測定部140、接触検出部130、姿勢演算部135、姿勢推定部133、初期値設定部139、推定初期化部137、励磁電圧演算部125を備えている。
抵抗測定部140は、磁石ユニット107への励磁電流および励磁電圧からリード線128およびコイル119および119’の直列抵抗値を測定する。接触検出部130は、補助支持部302の底部上面に取付けられたマイクロスイッチ310と磁石ユニット107の磁極面に貼られた圧電ゴム312を備える。
姿勢演算部135は、接触検出部130の接触検出信号から防振テーブル306の補助支持部302もしくは磁石ユニット107への接触時の浮上ギャップ長を計算する。姿勢推定部133は、抵抗測定部130の出力および磁石ユニット107への励磁電流、励磁電圧から防振テーブル306の浮上姿勢を推定する。
初期値設定部139は、姿勢演算部135の出力に基づいて姿勢推定部133に推定初期値を設定する。推定初期化部137は、接触検出部130の出力に基づいて姿勢推定部133を初期化する。励磁電圧演算部125は、姿勢推定部133の出力に基づいて防振テーブル306を磁気浮上させるための磁石ユニット107への励磁電圧を演算する。
このような構成によれば、磁石ユニット107を地上側に配置したことにより、可動部である防振テーブル306からの配線がなくなり、装置の信頼性が向上するといった利点がある。
(第4実施形態)
次に、第4実施形態について説明する。前記第1ないし第3実施形態では、ギャップセンサを必要としないセンサレス磁気浮上装置に本発明を適用した場合について説明した。しかしながら、本発明はセンサレス磁気浮上装置への適用を限定するものではなく、図14に示すように、ギャップセンサを用いた吸引式磁気浮上装置に適用することでも良い。なお、説明の簡単化のために、以下、第1ないし第3実施形態と共通する部分には同一の符号を用いて説明する。
図12は第4実施形態に係る磁気浮上装置の構成を示す図であり、その全体の構成が符号400で示されている。第4実施形態における磁気浮上装置400では、磁気浮上系の安定化のために用いられる浮上ギャップ長およびその速度の情報を前記第1実施形態の姿勢推定部133ではなく、ギャップセンサ121および擬似微分器402を用いて取得する。ギャップセンサ121の出力は、浮上ギャップ長の情報として励磁電圧演算部125に直接入力されると共に、擬似微分器402を介して速度信号に変換されて励磁電圧演算部125に入力される。また、電流センサ123によりコイル119,119’の励磁電流が励磁電圧演算部125に入力される。
ここで、励磁電圧演算部125中の目標値設定部150および抵抗測定部140の機能により、本実施形態においても前記第1実施形態と同様にして浮上体111の動揺やパワーアンプ313および電流センサ123のオフセット電圧を考慮したコイル抵抗値の測定がなされる。そして、コイル電流収束部125において、そのコイル抵抗値に基づいて浮上体111を安定かつ一定の過渡応答で浮上させる励磁電圧が演算される。このような構成によれば、簡便な制御装置にて温度変動に対して常に安定した浮上状態を維持することができる。
なお、前記各実施形態では、磁気浮上を行なう制御装置(吸引力制御部115)がアナログ的な構成として説明されているが、本発明は、アナログの制御方式に限定されるものではなく、デジタル制御にて構成することも可能である。また、励磁部の構成としてパワーアンプを用いているが、これはドライバの方式を何ら限定するものではなく、例えばパルス幅変調(PWM―Pulse Width Modulation―)形のものでも何ら差し支えない。
この他、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。要するに、本発明は前記各実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、前記各実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の形態を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を省略してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
本発明の第1実施形態に係る磁気浮上装置の構成を示す図である。 本発明の原理を説明するための磁気浮上装置の基本構成を示す図である。 第1実施形態の装置の吸引力制御部の詳細な構成を示すブロック図である。 第1実施形態の装置の吸引力制御部の詳細な構成を示すブロック図である。 第1実施形態の装置の吸引力制御部の詳細な構成を示すブロック図である。 本発明の第2実施形態に係る磁気浮上装置の構成を示す図である。 第2実施形態の磁気浮上装置のフレーム部の構成を示す斜視図である。 第2実施形態に係る装置の磁石ユニット周辺の構成を示す斜視図である。 第2実施形態に係る装置の磁石ユニットの構成を示す立面図である。 第2実施形態に係る装置の制御装置の詳細構成を示すブロック図である。 第2実施形態の制御装置内のモード制御電圧演算回路の構成を示すブロック図である。 第2実施形態による磁気浮上装置の制御装置内の他のモード制御電圧演算回路の構成を示すブロック図である。 第3実施形態に係る磁気浮上装置の構成を示す図である。 第4実施形態に係る磁気浮上装置の構成を示す図である。
符号の説明
107 磁石ユニット
111 浮上体
113 ガイド
115 制御部(吸引力制御部)
119 コイル
123 センサ部
125 励磁電圧演算部
133 姿勢推定部
140 抵抗測定部

Claims (8)

  1. 強磁性部材で構成されるガイドと、
    このガイドに空隙を介して対向する電磁石で構成される磁石ユニットと、
    前記ガイドに作用する前記磁石ユニットの吸引力により非接触で支持される浮上体と、
    前記電磁石のコイルに流れる電流値を検出するセンサ部と、
    前記センサ部により得られるコイル電流値に基づいて前記磁石ユニットが形成する磁気回路を安定化させるための励磁電圧値を演算する励磁電圧演算部と、
    前記空隙の変位の変動速度を検出する速度検出部と、
    前記励磁電圧演算部により得られた前記励磁電圧値、前記センサ部により得られた前記コイル電流値、前記速度検出部により得られた前記変動速度に基づいて、前記電磁石のコイル抵抗値を演算する抵抗測定部と、
    前記抵抗測定部により得られた前記コイル抵抗値を前記励磁電圧演算部にフィードバックして前記浮上体の浮上を制御する制御部と
    を具備したことを特徴とする磁気浮上装置。
  2. 前記空隙内で前記電磁石と磁路を共有する永久磁石を備えた磁石ユニットと、
    前記電磁石の前記コイル電流の目標値をゼロ値または非ゼロ値に交互に設定する目標値設定部と、
    前記目標値設定部により設定された目標値に前記電磁石の前記コイル電流を収束させるコイル電流収束部と、
    前記コイル電流収束部による収束動作に伴い、前記センサ部により得られる前記コイル電流値に基づいて前記磁石ユニットが形成する磁気回路を安定化させるための励磁電圧値を演算する励磁電圧演算部と、
    前記目標値がゼロ値に設定されているときに前記励磁電圧演算部により得られた前記励磁電圧値、前記センサ部により得られた前記コイル電流値、前記速度検出部により得られた前記変動速度に基づいて前記励磁電圧値の直流分を演算するオフセット演算部と、
    前記オフセット演算部の演算結果を保存する電圧保存部と、
    前記電磁石の励磁電圧値から前記電圧保存部に保存された励磁電圧値をオフセット電圧値として減算することにより前記励磁電圧値の補償値を求める励磁電圧補償部と、
    を具備したことを特徴とする請求項1に記載の磁気浮上装置。
  3. 少なくとも前記コイル電流値と前記励磁電圧値とに基づいて前記強磁性部材に対する前記浮上体の姿勢および姿勢変化速度を推定する姿勢推定部をさらに備え、前記速度検出部は前記姿勢推定部により推定された前記姿勢変化速度に基づいて前記変動速度を演算することを特徴とする請求項1に記載の磁気浮上装置。
  4. 前記浮上体が浮上状態にないときに前記浮上体と前記ガイドの位置関係を所定の状態に維持する補助支持部と、
    前記浮上体と前記ガイドとの接触を検出する接触検出部と、
    この接触検出部の出力に基づき接触時の前記ガイドに対する前記浮上体の姿勢を出力する姿勢演算部と、
    この接触検出部の出力に基づき接触時に前記姿勢推定部を初期化する推定初期化部と、
    前記姿勢推定部が初期化される際に前記姿勢演算部の出力値を前記姿勢推定部の初期値として設定する初期値設定部と
    をさらに備えたことを特徴とする請求項3に記載の磁気浮上装置。
  5. 前記姿勢推定部によって得られる姿勢変化速度の推定値に所定のゲイン乗じて積分し、その積分結果を前記励磁電圧値に加算すると共に、その加算結果を新たな励磁電圧値として前記姿勢推定部にフィードバックする推定誤差補正部を備えたことを特徴とする請求項3に記載の磁気浮上装置。
  6. 前記浮上体の運動の自由度に寄与する吸引力を発生させるための励磁電圧を所定のモード毎に演算するモード励磁電圧演算部と、
    前記浮上体の運動の自由度に寄与する吸引力を発生させるための励磁電流を所定のモード毎に演算するモード励磁電流演算部をさらに備え、
    前記姿勢推定部は、少なくとも前記モード励磁電流演算部と前記モード励磁電圧演算部の出力とに基づいて、前記浮上体の前記強磁性部材に対する姿勢および当該姿勢の時間変化を前記浮上体の運動の自由度毎に推定することを特徴とする請求項3に記載の磁気浮上装置。
  7. 前記姿勢推定部によって得られる姿勢変化速度の推定値に所定のゲイン乗じて積分し、その積分結果を前記モード別励磁電圧値に加算すると共に、その加算結果を新たなモード別の励磁電圧値として前記姿勢推定部にフィードバックするモード推定誤差補正部を備えたことを特徴とする請求項6に記載の磁気浮上装置。
  8. 前記抵抗測定部が、少なくとも前記励磁電圧値と前記コイル電流値の線形結合に前記コイル電流を乗じた電力演算結果を積分する積分器を備えていることを特徴とする請求項1に記載の磁気浮上装置。
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