以下、本発明を更に具体的に明らかにするために、本発明の実施形態について説明する。図1には、本発明の一実施形態としての自動車用エンジンマウント10が示されている。このエンジンマウント10は、第一の取付部材としての第一の取付金具12と第二の取付部材としての第二の取付金具14が本体ゴム弾性体16で連結された構造とされている。第一の取付金具12がパワーユニット側に取り付けられると共に、第二の取付金具14が車両ボデー側に取り付けられることにより、パワーユニットがボデーに対して防振支持されるようになっている。
なお、図1では、自動車に装着する前のエンジンマウント10の単体での状態が示されているが、本実施形態では、装着状態において、パワーユニットの分担支持荷重がマウント軸方向(図1中、上下)に入力される。従って、マウント装着状態下では、本体ゴム弾性体16の弾性変形に基づき第一の取付金具12と第二の取付金具14が軸方向で互いに接近する方向に変位する。また、かかる装着状態下、防振すべき主たる振動は、略マウント軸方向に入力されることとなる。以下の説明中、特に断りのない限り、上下方向は、マウント軸方向となる図1中の上下方向をいう。
より詳細には、第一の取付金具12は、下方に細くなる略円錐台形状を呈している。第一の取付金具12の中央部分には、上方に延びる固定用ボルト18が設けられている。
一方、第二の取付金具14は、大径の略段付き円筒形状を有しており、軸方向中間部分に形成された段部20を挟んで、上方が大径筒部22とされていると共に、下方が大径筒部22よりも径寸法が小さな小径筒部24とされている。また、第一の取付金具12が第二の取付金具14の一方(図1中、上)の開口部側に離隔配置されて、両金具12,14の中心軸が略同一線上に位置せしめられていると共に、第一の取付金具12と第二の取付金具14の間には、本体ゴム弾性体16が配されている。
本体ゴム弾性体16は、大径の略円錐台形状を有しており、その小径側端面には、第一の取付金具12が、固定用ボルト18を除く略全体を埋設された状態で加硫接着されている。本体ゴム弾性体16の大径側端部外周面には、第二の取付金具14の大径筒部22および段部20が、内周面において加硫接着されている。
要するに、本体ゴム弾性体16が、第一の取付金具12と第二の取付金具14を備えた一体加硫成形品として形成されている。これにより、第一の取付金具12と第二の取付金具14が、本体ゴム弾性体16によって相互に弾性的に連結されていると共に、第二の取付金具14の大径筒部22側における一方(図1中、上)の開口部が本体ゴム弾性体16で流体密に閉塞されている。
本体ゴム弾性体16の大径側端面には、下方に開口する略すり鉢形状の大径凹所26が形成されている。また、第二の取付金具14の小径筒部24の内周面には、本体ゴム弾性体16と一体形成されたシールゴム層28が、略一定の厚さ寸法で、全体に亘って被着形成されている。更に、第一の取付金具12の固定用ボルト18の周りの上部には、本体ゴム弾性体16と一体形成された緩衝ゴム30が上方に向かって突設されている。
また、第一及び第二の取付金具12,14を備えた本体ゴム弾性体16の一体加硫成形品には、第二の取付金具14の他方(小径筒部24側であって、図1中、下)の開口部側から仕切部材としての仕切金具32が組み付けられている。
仕切金具32は、全体として逆カップ形状を有していると共に、その外径寸法は、第二の取付金具14の小径筒部24の内径寸法よりも小さくされている。仕切金具32には、凹所としての下面中央に開口する大径の下凹所34が設けられている。
仕切金具32の周壁部には、外周面に開口して周方向や軸方向に所定長さで延びる、周溝36が形成されている。周溝36の一方の端部は、仕切金具32の外周側の上端部分を貫通して上方に開口している。周溝36の他方の端部は、仕切金具32の周壁部を貫通して下凹所34の内側に開口している。
仕切金具32の外周面における軸方向上端近くと下端近くには、それぞれ周方向の全周に亘って連続して延びる上側嵌着溝38と下側嵌着溝40が形成されている。
仕切金具32の上壁部の上面には、上方に開口する上凹所42が形成されており、上凹所42の周壁部は、上方に突出する円環形状の環状突部44とされている。環状突部44の外周面には、基端部分を周方向の全周に亘って連続して延びる嵌着溝46が形成されている。
また、仕切金具32の環状突部44には、可動部材としてのゴム弾性板48が組み付けられている。ゴム弾性板48は、薄肉の略円板形状を呈している。ゴム弾性板48の外周縁部(本実施形態では外周面)には、嵌着リング50が加硫接着されている。
嵌着リング50は、薄肉の略円筒形状を呈しており、鉄やアルミニウム合金等の金属材によって形成されている。嵌着リング50の軸方向下端部には、全周に亘って径方向内方に拡がる係止突起52が一体形成されている。
嵌着リング50におけるゴム弾性板48の加硫接着部位が、嵌着リング50の軸方向中央よりも上方に偏倚せしめられている。そして、嵌着リング50の軸方向下端部が、ゴム弾性板48の外周面から軸方向下方に向かって延び出している。この延び出した嵌着リング50の下端部には、内周面を弾性に亘って覆うようにして薄肉のシールゴム層54が被着形成されている。
このような嵌着リング50が仕切金具32の環状突部44に外挿されている。更に、嵌着リング50に対して八方絞り等の縮径加工が施されて、係止突起52が環状突部44の嵌着溝46に係止固定されている。これにより、シールゴム層54が嵌着リング50と環状突部44の間で径方向に圧縮変形されて流体密にシールされていると共に、嵌着リング50の環状突部44からの抜け出しが防止されるようになっている。
そして、環状突部44の開口部分がゴム弾性板48で覆われており、環状突部44の底部とゴム弾性板48の間に流体封入領域としての作用空気室56が形成されている。即ち、環状突部44とゴム弾性板48の組付部位における流体密性がシールゴム層54で高度に確保されて、作用空気室56の流体密性が維持されている。このことからも、明らかなように、ゴム弾性板48が、弾性ゴム膜として構成されている。
また、仕切金具32の内部には、接続通路としての空気通路58が貫通して形成されている。空気通路58の一方の端部が、上凹所42の底面に開口して作用空気室56に接続されていると共に、空気通路58の他方の端部が、仕切金具32の外周面に開口している。空気通路58の外周面の開口部位は、外周面に開口する円形の凹所内に円筒形状をもって突出形成されたポート部60とされている。本実施形態に係るポート部60の先端は、仕切金具32の外周面よりも径方向内方に位置せしめられている。このことからも明らかなように、空気通路58の開口部分の周囲が筒状とされている。
また、嵌着リング50には、浅底の逆皿形状を有する蓋部材62が取り付けられている。嵌着リング50の軸方向上端部から中間部にかけて蓋部材62の周壁部に圧入固定されて、蓋部材62の中央底部とゴム弾性板48が軸方向に所定距離を隔てて対向位置せしめられていると共に、蓋部材62の外周側の鍔状部と仕切金具32の嵌着リング50周りの上端部が軸方向に所定距離を隔てて対向位置せしめられている。蓋部材62の底部には、多数の小孔からなる透孔64が形成されている。蓋部材62の鍔状部には、連通窓66が形成されている。
蓋部材62や嵌着リング50が固定された仕切金具32が、第二の取付金具14の小径筒部24側の開口部から軸方向に差し入れられている。更に、第二の取付金具14の下開口端部に形成された内フランジ状の嵌着突部68が、仕切金具32の上側嵌着溝38の外周面に位置せしめられていると共に、第二の取付金具14の小径筒部24に対して縮径加工が施されて、嵌着突部68が上側嵌着溝38に係止固定されている。
これにより、小径筒部24の内周面に被着形成されたシールゴム層28が、蓋部材62の外周面と仕切金具32の上部外周面に対して密着されて、蓋部材62の外周側と仕切金具32の外周側の軸方向対向面間における略円環形状の領域が、流体密に閉塞されていると共に、仕切金具32と蓋部材62が、シールゴム層28を介して、小径筒部24に固定されている。従って、仕切金具32の軸方向上部だけが第二の取付金具14に嵌め入れられた状態となり、軸方向中央部分から下端部は、第二の取付金具14から軸方向外方に突出して外部空間に露出されている。この外部空間に露出された仕切金具32の外周面には、ポート部60が設けられた円形凹所が開口している。
また、第二の取付金具14から露出せしめられた仕切金具32の下端部には、可撓性膜としてのダイヤフラム70が組み付けられている。ダイヤフラム70は、中央部分に十分な弛みをもたせて変形容易とした薄肉の略円板形状のゴム弾性膜によって構成されている。ダイヤフラム70の外周縁部(本実施形態では、外周面)には、大径の円筒形状の固定金具72が加硫接着されている。固定金具72の上端開口部には、全周に亘ってフランジ状に延びる嵌着突部74が一体形成されている。固定金具72の内周面には、ダイヤフラム70と一体形成された薄肉のシールゴム層76が被着形成されており、ダイヤフラム70は、固定金具72から下方に向かって延び出している。
このような固定金具72が軸方向上端部から仕切金具32に外挿されて、その後、固定金具72に縮径加工が施されている。それによって、固定金具72の上端部分の内周面が、シールゴム層76を介して、第二の取付金具14から軸方向外方に突出した仕切金具32の軸方向他方(図1中、下)の端部の外周面に対して、固定的に外嵌固定されている。固定金具72の嵌着突部74は、仕切金具32の下側嵌着溝40に係止固定されている。
これにより、仕切金具32の下凹所34の開口がダイヤフラム70で流体密に覆蓋されている。また、第二の取付金具14の他方の開口部(図1中、下)は、ダイヤフラム70で流体密に閉塞されている。更に、本体ゴム弾性体16とダイヤフラム70の軸方向の対向面間には、蓋部材62およびゴム弾性板48が固定された仕切金具32が配設されている。
本体ゴム弾性体16とダイヤフラム70の対向面間は、外部空間に対して密閉されており、そこに非圧縮性流体が封入された流体室78が形成されている。かかる非圧縮性流体としては、例えば水やアルキレングリコール, ポリアルキレングリコール, シリコーン油等が採用されるが、特に流体の共振作用等の流動作用に基づく防振効果を有効に得るためには、0.1Pa・s以下の低粘性流体を採用することが望ましい。
また、流体室78への非圧縮性流体の封入は、例えば、第一及び第二の取付金具12,14を備えた本体ゴム弾性体16の一体加硫成形品に対して、上述の仕切金具32やダイヤフラム70の組み付けを、非圧縮性流体中で行うことによって、有利に実現される。
より具体的には、かかる非圧縮性流体の封入工程は、例えば、本体ゴム弾性体16の一体加硫成形品に対して、蓋部材62やゴム弾性板48が固定された仕切金具32の組み付け体を嵌め入れて第二の取付金具14を縮径加工する工程と、仕切金具32にダイヤフラム70を組み付けて固定金具72を縮径加工する工程とを、何れも、非圧縮性流体中に行うことによって、実現され得る。或いは、仕切金具32の組み付け体を嵌め入れて第二の取付金具14を縮径加工するまでは、大気中で行い、その後に、非圧縮性流体中で、仕切金具32にダイヤフラム70を組み付けることによっても実現可能である。また、予め仕切金具32の組付体に対してダイヤフラム70を大気中で組み付けておいてから、非圧縮性流体中で、かかる仕切金具32およびダイヤフラム70の組付体を第二の取付金具14に嵌め入れて流体封入することも可能である。
流体室78は、その内部に仕切金具32が軸直角方向に拡がるように配設されていることによって、これら仕切金具32を挟んで軸方向上下に二分されている。この仕切金具32を挟んだ軸方向一方(図1中、上)の側には、壁部の一部が本体ゴム弾性体16で構成されて、第一の取付金具12と第二の取付金具14の間への振動入力時に、本体ゴム弾性体16の弾性変形に基づいて圧力変動が生ぜしめられる受圧室80が形成されている。一方、仕切金具32を挟んだ軸方向他方(図1中、下)の側には、壁部の一部がダイヤフラム70で構成されて、該ダイヤフラム70の弾性変形に基づいて容積変化が容易に許容される平衡室82が形成されている。
また、嵌着リング50および第二の取付金具14に固定されてゴム弾性板48の上方で軸直角方向に広がる蓋部材62が、受圧室80内に位置せしめられている。ゴム弾性板48の上面には、蓋部材62の透孔64を通じて受圧室80の圧力が及ぼされるようになっている。そして、振動入力時には、これら受圧室80と、ゴム弾性板48を挟んで受圧室80と反対側に形成された作用空気室56との相対的な圧力差の変動に基づいて、受圧室80の圧力変動を、ゴム弾性板48の弾性変形に基づき作用空気室56に逃がすようになっている。なお、ゴム弾性板48の変形量ひいては受圧室80から作用空気室56に逃がされる圧力変動の大きさは、ゴム弾性板48の仕切金具32の上凹所42の底部や蓋部材62への当接でゴム弾性板48の変形量が制限されることに基づいて、制限されることとなる。また、受圧室80から作用空気室56に逃がされる圧力変動の大きさは、例えば、蓋部材62の底部とゴム弾性板48の間の離隔距離や透孔64の形状や大きさ、数等の設計変更によって調整される。
また、前述の如く、嵌着リング50の径方向外方における蓋部材62と仕切金具32の軸方向対向面間に係る円環形状の領域が、シールゴム層28を介して第二の取付金具14に流体密に閉塞されていると共に、仕切金具32の周溝36が、シールゴム層76を介して固定金具72に流体密に閉塞されていることによって、これら円環形状の領域や周溝36が協働して、オリフィス通路84を構成している。オリフィス通路84の一方の端部は、蓋部材62の連通窓66を通じて、受圧室80に接続されている。また、オリフィス通路84の他方の端部は、仕切金具32の周溝36における仕切金具32の周壁部を貫通した端部を通じて、平衡室82に接続されている。これにより、受圧室80と平衡室82がオリフィス通路84で相互に接続されており、それら両室80,82間で、オリフィス通路84を通じての流体流動が許容されるようになっている。
特に本実施形態では、オリフィス通路84を流動せしめられる流体の共振周波数が、該流体の共振作用に基づいてエンジンシェイク等に相当する10Hz前後の低周波数域の振動に対して有効な防振効果(高減衰効果)が発揮されるようにチューニングされている。なお、オリフィス通路84のチューニングは、例えば、受圧室80や平衡室82の各壁ばね剛性、即ちそれら流体室78を単位容積だけ変化させるのに必要な圧力変化量に対応する本体ゴム弾性体16やダイヤフラム70、ゴム弾性板48の各弾性変形量に基づく特性値を考慮しつつ、オリフィス通路84の通路長さと通路断面積を調節することによって行うことが可能であり、一般に、オリフィス通路84を通じて伝達される圧力変動の位相が変化して略共振状態となる周波数を、当該オリフィス通路84のチューニング周波数として把握することが出来る。
また、第二の取付金具14には、アウタブラケット86が取り付けられている。アウタブラケット86は、略段付き円筒形状を有しており、軸直角方向に円環形状に広がる段部88を挟んで上方が小径筒部90とされていると共に、下方が小径筒部90よりも大径の大径筒部92とされている。小径筒部90の開口部分には、内フランジ状のストッパ部94が一体形成されている。大径筒部92の外周面には、下方に延びる複数の脚部96が固着されている。脚部96の先端には固定用ボルト98が設けられている。
アウタブラケット86が第一の取付金具12の上方から被せられて、第二の取付金具14の大径筒部22がアウタブラケット86の大径筒部92に圧入固定されている。アウタブラケット86の段部88が第二の取付金具14の大径筒部22の上端部分に重ね合わせられていることによって、アウタブラケット86の第二の取付金具14への固定位置が規定されている。また、アウタブラケット86のストッパ部94と第一の取付金具12が緩衝ゴム30を挟んで軸方向に所定距離を隔てて対向位置せしめられている。これにより、第一の取付金具12と第二の取付金具14が軸方向で互いに接近するバウンド方向の振動が両金具12,14の間に入力された際に、第一の取付金具12とストッパ部94が緩衝ゴム30を介して当接することによって、第一の取付金具12と第二の取付金具14のバウンド方向の変位が緩衝的に制限されるようになっている。このようなアウタブラケット86の組み付け状態下、仕切金具32のポート部60を備えた円形凹所が、アウタブラケット86の大径筒部92よりも下方に位置せしめられている。
本実施形態では、蓋部材62やゴム弾性板48が固定された仕切金具32やダイヤフラム70が、第一の取付金具12と第二の取付金具14を備えた本体ゴム弾性体16の一体加硫成形品に組み付けられて、受圧室80や平衡室82、オリフィス通路84が形成されることで、防振装置本体100が構成されており、その後、アウタブラケット86が防振装置本体100の第二の取付金具14に対して取り付けられるようになっている。
そこにおいて、防振装置本体100には、特性制御ユニット102が取り付けられている。特性制御ユニット102は、巻着された通電コイルとしてのコイル部材104が円筒形状を有する合成樹脂製のボビン106に対して埋設配置された構造を呈している。ボビン106の軸方向一方(図1中、右)の端面には、薄肉の略円環板形状を有する端部金具108が重ね合わせられて固着されている。端部金具108の内周部分が、ボビン106の内周部分よりも径方向内方に突出していると共に、端部金具108の外周部分が、ボビン106の外周部分よりも径方向外方に突出している。
ボビン106には、内周部材110が設けられている。内周部材110は、略円筒形状を有していると共に、ボビン106の内孔よりも僅かに小さな外径寸法とされており、ボビン106の内孔に対して嵌着固定されている。また、内周部材110の軸方向一方(図1中、右)の端部が、端部金具108の内周部分に重ね合わせられている。内周部材110の内径寸法が端部金具108の内径寸法よりも小さくされていることによって、内周部材110と端部金具108が重ね合わせられた部位が、略円環状の段差形状とされている。
また、小径の円筒形状を有する嵌着筒部112が、内周部材110の端部金具108に重ね合わせられた側から、内周部材110に圧入固定されている。このことからも、嵌着筒部112の内孔114が内周部材110の内孔よりも小さくされていることが明らかである。また、嵌着筒部112の軸方向一方(図1中、右)の端部が内周部材110のそれよりも軸方向外方に突出していることによって、嵌着筒部112と端部金具108の径方向対向面間には、底部が内周部材110の軸方向端部で構成された円形凹所が設けられている。
嵌着筒部112には、取付筒部116が取り付けられている。取付筒部116は、嵌着筒部112や仕切金具32のポート部60の周りの円筒状部よりも大径の円筒形状を有していると共に、ゴム弾性材により形成されている。また、取付筒部116の軸方向中間部分の内側には、薄肉の隔壁ゴム膜118が一体形成されており、それによって、取付筒部116の軸方向中間部分が流体密に閉塞されている。取付筒部116が嵌着筒部112に嵌着固定されていることで、嵌着筒部112、延いては内周部材110の軸方向一方(図1中、右)の開口部が流体密に閉塞されている。換言すれば、特性制御ユニット102の隔壁ゴム膜118の外周縁部を固着する部位が、取付筒部116の軸方向中間部分によって構成されていると共に、かかる隔壁ゴム膜118を備えた特性制御ユニット102から軸方向外方に延び出すように取付筒部116が設けられている。
さらに、ボビン106には、外周金具120が取り付けられている。外周金具120は、大径の有底円筒形状を有していると共に、底部の中央には、嵌着孔122が設けられている。そして、嵌着孔122を覆蓋するようにして外部ゴム膜124が加硫接着されている。外部ゴム膜124は、中央部分に十分な弛みを持たせて変形容易とした薄肉の略円板形状のゴム弾性膜で構成されている。
ボビン106が、その端部金具108が重ね合わせられた端部と反対側から外周金具120に圧入固定されて、該端部と反対側の軸方向他方(図1中、左)の端部が外周金具120の底部に重ね合わせられている。また、外周金具120の軸方向一方(図1中、右)の端部が端部金具108の外周縁部に重ね合わせられていると共に、外周金具120の底部が内周部材110に重ね合わせられている。これにより、内周部材110の軸方向他方の開口部分が外部ゴム膜124で流体密に覆蓋されている。
その結果、外部ゴム膜124と内周部材110の間の領域、内周部材110や嵌着筒部112の内側および取付筒部116の内側における嵌着筒部112と隔壁ゴム膜118の間の領域が、隔壁ゴム膜118や外部ゴム膜124で流体密に閉塞されることとなり、それら両膜118,124で閉塞された領域には、磁性流体封入室126が形成されている。この磁性流体封入室126には、磁性流体が封入されている。磁性流体としては、例えば水やケシロン等の溶媒中に鉄やフェライト等の磁性微粒子を分散させたものが採用される。かかる磁性流体の封入作業は、例えば磁性流体中において、隔壁ゴム膜118が一体形成された取付筒部116や外周金具120を備えた外部ゴム膜124の一体加硫成形品が、コイル部材104を備えたボビン106や内周部材110、嵌着筒部112、端部金具108の組み付け体に組み付けられることによって、好適に実現される。
また、端部金具108や外周金具120が鉄等の強磁性材料にて形成されており、それらがコイル部材104の外周側および軸方向両側を囲むように配設されている。また、内周部材110や嵌着筒部112が、合成樹脂等の非磁性材料や常磁性の金属材料、或いはそれらの複合材を用いて形成されており、内周部材110がコイル部材104の内周側を囲むように配設されている。これにより、コイル部材104の周りに閉磁路が形成されるのが防止されて、コイル部材104の通電時に、コイル部材104の内側の磁性流体封入室126に磁界が及ぼされるようになっている。なお、内周部材110とコイル部材104のボビン106の間にギャップが形成されても良い。また、コイル部材104の給電用リード線128が、ボビン106や外周金具120等を貫通して外部に延びている。要するに、特性制御ユニット102を構成するコイル部材104や内周部材110、外周金具120、磁性流体封入室126、隔壁ゴム膜118,外部ゴム膜124等における形状や大きさ、構造等は、要求される磁性流体封入室126への磁界を及ぼす作用や製作性等に応じて、当業者が適宜に設計変更し得る事項であり、例示の如きものに限定されない。
特に本実施形態では、隔壁ゴム膜118のばね剛性や外部ゴム膜124のばね剛性が、防振装置本体100のゴム弾性板48のばね剛性に比して十分に小さくされている。要するに、特性制御ユニット102内に形成された後述する磁性流体封入室126は、その軸方向両側の壁部を構成する隔壁ゴム膜118および外部ゴム膜124の変形に基づいて容易に容積変化が許容されたり、内部での流体流動が許容され得るようになっている。
このような特性制御ユニット102の取付筒部116の先端部分が、防振装置本体100の仕切金具32のポート部60周りの円筒状部に嵌着固定されている。特に本実施形態では、取付筒部116の先端部分が、仕切金具32の該円筒状部の周りの円形凹所の周壁部に対しても嵌着固定されている。これにより、取付筒部116とポート部60の接続部位に係る流体密性が高度に確保されている。また、特性制御ユニット102の端部金具108や外周金具120が、必要に応じてアウタブラケット86等に支持されている。これにより、特性制御ユニット102が仕切金具32を介して第二の取付金具14に取り付けられて、本実施形態に係る自動車用エンジンマウント10が構成されている。なお、特性制御ユニット102と防振装置本体100を繋ぐ取付筒部116がゴム弾性材で構成されていることによって、その弾性に基づき、特性制御ユニット102と防振装置本体100の位置ずれが許容されるようになっている。
それによって、特性制御ユニット102の隔壁ゴム膜118が、防振装置本体100のポート部60の開口部分を流体密に覆蓋せしめて、空気通路58を介して作用空気室56の壁部の一部を構成している。その結果、隔壁ゴム膜118を挟んだ一方の側に作用空気室56が位置せしめられていると共に、隔壁ゴム膜118を挟んだ他方の側に磁性流体封入室126が位置せしめられている。また、上述の説明からも明らかなように、特性制御ユニット102と防振装置本体100の組み付け作業が大気中でなされることによって、作用空気室56には空気が流体密に封入されている。
また、第一の取付金具12の固定用ボルト18が、図示しないパワーユニット側の取付部材に螺着固定されると共に、第二の取付金具14に固定されたアウタブラケット86の固定用ボルト98が、図示しない車両ボデー側の取付部材に螺着固定されるようになっている。これにより、自動車用エンジンマウント10が、パワーユニットと車両ボデーの間に装着されて、パワーユニットを車両ボデーに防振支持せしめるようになっている。
かかる装着状態下において、特性制御ユニット102の給電用リード線128が、図示しない制御装置と接続されている。制御装置では、自動車に備え付けられた各種センサ等から、自動車の速度やエンジン回転数、減速機選択位置、スロットル開度など、自動車の状態を表す各種情報のうち、必要なものが入力されるようになっており、かかる情報に基づいて、予め設定されたプログラムに従って、マイクロコンピュータのソフトウエア等により、コイル部材104に通電するようになっている。そして、コイル部材104の通電を、自動車の走行状態等の各種条件下で入力される振動に応じて適当に制御することにより、目的とする防振効果を得るための作用空気室56の圧力制御が行われる。
すなわち、本実施形態では、作用空気室56を圧力制御しない場合とする場合とで、作用空気室56の壁部を構成するゴム弾性板48のばね特性が変化する。
先ず、コイル部材104に通電しないで作用空気室56を圧力制御しない場合には、ゴム弾性板48の弾性変形により惹起される作用空気室56の圧力変動が、隔壁ゴム膜118の弾性変形と外部ゴム膜124の弾性変形に基づく磁性流体封入室の容積変化によって容易に吸収される。特に、隔壁ゴム膜118と外部ゴム膜124には、オリフィス通路84のチューニング周波数よりも高周波数のアイドリング振動が入力された際に惹起される作用空気室56の圧力変動の程度はそれらの弾性変形に基づいて十分に吸収せしめ得る程度に柔らかいばね特性が設定されている。
従って、例えば、オリフィス通路84よりも高周波数域のアイドリング振動等が入力されて、オリフィス通路84が、反共振的な作用により流体流通抵抗が著しく大きくなって、実質的に閉塞状態とされた場合にも、ゴム弾性板48による受圧室80の液圧吸収作用に基づき、該閉塞状態に起因する受圧室80の高動ばね化が回避されることから、高周波振動に対する良好な防振効果(低動ばね特性に基づく振動絶縁効果)が発揮され得るのである。
一方、コイル部材104に通電することで、コイル部材104の周囲に磁界が発生し、かかる磁界(磁場)が磁性流体封入室126に封入された磁性粘性流体に対して作用せしめられることにより、磁性粘性流体の磁性流体封入室126内での流体流動が阻止される。これにより、隔壁ゴム膜118が実質的に剛性壁となり作用空気室56が容積不変の密閉空間となる。かかる状態では、ゴム弾性板48の弾性変形が、作用空気室56の圧力によって阻止されて著しく高ばね化し、硬いばね剛性が発揮される。
従って、例えば、エンジンシェイク等の低周波大振幅振動が入力されて、受圧室80に大きな圧力変動が及ぼされることによって、ゴム弾性板48に変形力が及ぼされる場合に、コイル部材104への通電で作用空気室56の圧力による拘束力をゴム弾性板48に作用せしめてゴム弾性板48の変形を阻止すると、ゴム弾性板48による受圧室80の液圧吸収が実質的になくなる。その結果、受圧室80と平衡室82の間に生ぜしめられる相対的な圧力変動によりオリフィス通路84を通じての流体流動量が効果的に確保されて、オリフィス通路を通じて流動せしめられる流体の共振作用に基づいて、エンジンシェイクに対して有効な防振効果(高減衰効果)が発揮されるのである。
なお、本実施形態のエンジンマウントでは、上述の制御とは別に、或いは上述の制御に加えて、車両の走行状態等に応じてコイル部材104への通電を制御することで、マウント防振特性を一層高度に制御することも可能である。具体的には、例えば、車両におけるトランスミッションの切換状態等に伴うパワーユニット固有振動数の変化等を考慮して、トランスミッションの切換状態等に応じてコイル部材104への印加電圧を調節制御することで、磁性流体封入室126内での磁性粘性流体の流動抵抗を増減変更することが考えられる。このような制御により、低周波数域で(例えば、数Hz〜数十Hzの範囲で)周波数が変化するエンジンシェイク振動に対して、それに追従するようにゴム弾性板48のばね剛性を変化させることが可能となる。その結果、受圧室80の壁ばね剛性ひいてはオリフィス通路84のチューニング周波数を、防振すべきエンジンシェイク振動の変化に対応して変化させることが可能となって、オリフィス通路84による目的とする防振効果を、一層有利に得ることが可能となるのである。
そこにおいて、本実施形態に係る自動車用エンジンマウント10においては、磁性流体封入室126が防振装置本体100と別体構造の特性制御ユニット102に設けられている。これにより、防振装置本体100における磁性流体封入室126やコイル部材104、隔壁ゴム膜118、外部ゴム膜124等の配設を考慮する必要がなくなり、防振装置本体100の構造が簡略化されることに加えて、防振装置本体100において作用空気室56や流体室78、仕切金具32等の設計変更自由度が大きくされて、防振効果の向上が有利に図られ得る。しかも、それぞれ種類の異なる流体が封入される磁性流体封入室126と流体室78が互いに別体のデバイスに設けられることによって、シール構造の簡略化が有利に図られ得ると共に、流体の封入作業が容易となる。更に、かかる磁性流体封入室126が隔壁ゴム膜118および外部ゴム膜124によって流体密に閉塞されているので、特性制御ユニット102の取り扱いが容易となる。
そして、特に本実施形態では、特性制御ユニット102の取付筒部116が、防振装置本体100の仕切金具32に設けられた円筒状部に嵌着固定されるという比較的に簡単な作業で、隔壁ゴム膜118を挟んだ両側に作用空気室56と磁性流体封入室126が位置せしめられることとなる。換言すると、弾性変形に基づき作用空気室56を圧力制御する隔壁ゴム膜118が、特性制御ユニット102に設けられて磁性流体封入室126を閉塞すると共に、特性制御ユニット102の第二の取付金具14への取り付けに伴い作用空気室56と磁性流体封入室126のシール部材としても機能する。それ故、優れた防振効果を奏する防振装置が、比較的に簡単な構造や製造工程によって有利に実現され得るのである。
以上、本発明の一実施形態について詳述してきたが、かかる実施形態における具体的な記載によって、本発明は、何等限定されるものでなく、当業者の知識に基づいて種々なる変更、修正、改良等を加えた態様で実施可能であり、また、そのような実施態様が、本発明の趣旨を逸脱しない限り、何れも、本発明の範囲内に含まれるものであることは、言うまでもない。
例えば、特性制御ユニット102や作用空気室56における形状や大きさ、構造、配置、数等の形態は、例示の如きものに限定されるものでない。
具体的には、前記実施形態では、大気中において特性制御ユニット102が防振装置本体100に取り付けられることで、流体封入領域が、空気を封入した作用空気室として構成されていたが、例えば、水やアルキレングリコール等の非圧縮性流体中で特性制御ユニット102と防振装置本体100が組み付けられることによって、流体封入領域が、非圧縮性流体を封入した非圧縮性流体室として構成されるようにしても良い。
また、前記実施形態においては、可動部材が、ゴム弾性板48で構成されて、流体封入領域としての作用空気室56と流体室の一部を構成する受圧室80とを流体密に仕切るようになっていたが、例えば、可動部材を、特開2005−172172号公報や特開2005−282823号公報に示されているような上下の金具の間の拘束領域に変位可能に収容配置された可動板で構成すると共に、流体封入領域を、非圧縮性流体を封入した非圧縮性流体室で構成し、かかる可動板を受圧室と非圧縮性流体室の間に配設して、非圧縮性流体の圧力変動を特性制御ユニットで制御することによる可動板の変位に基づき、受圧室の圧力変動を制御することも可能である。
さらに、特開平10−184771号公報にも示されているように、防振装置に設けられた複数の作用空気室に対して、それぞれ特性制御ユニットを配設しても良い。
また、前記実施形態において、磁性流体封入室126の内部に設けられていた嵌着筒部112の内孔114の形状や通路長さ、断面積等を、防振すべき振動の周波数域に応じてチューニング変更して、かかる内孔114を通じての流体の共振作用に基づいて磁性流体封入室126の容積変化の効率を高めることにより、ゴム弾性板48による受圧室80の液圧吸収作用が一層向上されるようにすることも可能である。
また、受圧室80や平衡室82、オリフィス通路84の形態についても、要求される防振特性や製作性などに応じて設定変更されるものであり、例示の如きものに限定されるものでない。例えば、オリフィス通路84や平衡室82は、本発明において必須のものでない。
仮に、平衡室82を形成しない場合には、オリフィス通路84も形成しないで、ゴム弾性板48や作用空気室56だけを採用するようにしても良い。
また、例えば、特開2005−172172号公報や特開2005−282823号公報にも示されているように、仕切金具に中間室を形成して、中間室に非圧縮性流体を封入すると共に、中間室や受圧室、平衡室を相互に連通せしめる第二のオリフィス通路が形成する構造を採用することも可能である。このような構造によれば、オリフィス通路と第二のオリフィス通路を通じての各流体の流動作用に基づき、複数の乃至は広い周波数域の振動に対してより有効な防振効果が得られる。
また、本発明は、例示の如きお椀型の流体封入式防振装置への適用に限定されるものでなく、例えば特開平5−149372号公報や特開平6−74287号公報にも示されている如き円筒型の流体封入式防振装置に対して適用することも可能である。
加えて、本発明の適用範囲は、例示の如き自動車用エンジンマウントに限らず、自動車用のサスペンションブッシュやボデーマウント、デフマウント等、或いは自動車以外の各種装置に用いられる流体封入式防振装置に対して有効である。
10:自動車用エンジンマウント、12:第一の取付金具、14:第二の取付金具、16:本体ゴム弾性体、48:ゴム弾性板、78:流体室、102:特性制御ユニット、104:コイル部材、118:隔壁ゴム膜、124:外部ゴム膜、126:磁性流体封入室