JP2007115854A - 電磁波吸収体 - Google Patents
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Abstract
【課題】電磁波吸収量の高い損失材料を用い、それを少量添加することによって、マトリックスの特性を損なうことなく電磁波吸収性を発揮し得、かつ賦形性が高く、製造コストの低い複合体からなるGHz帯用として有用な電磁波吸収体を提供する。
【解決手段】外径15〜100nmの炭素繊維から構成される3次元ネットワーク状の炭素繊維構造体であって、前記炭素繊維構造体は、前記炭素繊維が複数延出する態様で、当該炭素繊維を互いに結合する粒状部を有しており、かつ当該粒状部は前記炭素繊維の成長過程において形成されてなるものである炭素繊維構造体を、全体の0.01〜25質量%の割合でマトリックス中に含有することを特徴とする電磁波吸収体。
【選択図】図1
【解決手段】外径15〜100nmの炭素繊維から構成される3次元ネットワーク状の炭素繊維構造体であって、前記炭素繊維構造体は、前記炭素繊維が複数延出する態様で、当該炭素繊維を互いに結合する粒状部を有しており、かつ当該粒状部は前記炭素繊維の成長過程において形成されてなるものである炭素繊維構造体を、全体の0.01〜25質量%の割合でマトリックス中に含有することを特徴とする電磁波吸収体。
【選択図】図1
Description
本発明は、電磁波吸収体、特にGHz帯用電磁波吸収体に関するものである。
近年、電子機器の高速処理化が加速的に進んでおり、LSIやマイクロプロセッサなどのICの動作周波数は急速に上昇しており、不要ノイズが放射されやすくなっている。さらに、通信分野では次世代マルチメディア移動通信(2GHz)、無線LAN(2〜30GHz)、光ファイバを用いた高速通信編、ITS(Intelligent Transport System)の分野ではETS(自動料金収受システム)における5.8GHz、AHS(走行支援道路システム)における76GHzなどが利用しており、今後、このようなGHz帯といった高周波の利用範囲は急速に拡大していくことが予想される。
ところで、電磁波の周波数が上昇すれば、ノイズとして放射されやすくなる反面、最近の電子機器の低消費電力化によるノイズマージン低下や、電子機器の小型化、高密度化の流れによる機器内部のノイズ環境の悪化により、EMI(Electro-Magnetic Interference)による誤作動が問題となる。そこで、電子機器内部でのEMIを低減させるために、電子機器内部に電磁波吸収体を配置するなどの対策がとられている。従来、GHz帯用電磁波吸収体としては、ゴムや樹脂などに電気的絶縁性有機物とスピネル結晶構造の軟磁性金属材料、および炭素材料などの損失材料とを複合化してシート状にしたものが主に使用されている。
しかしながら、スピネル結晶構造の軟磁性金属酸化物材料の比透磁率は、スネークの限界則に従い、GHz帯では急激に減少してしまう。そのため、電磁波吸収体としての限界周波数は数GHである。また、軟磁性金属材料については、粒子の厚さを表皮深さ以下の扁平形状とすることによる渦電流の抑制効果および形状磁気異方性の効果によって電磁波吸収体としての限界周波数は10GHz程度まで伸ばすことができるが、これらの時期材料は重量が大きいため、軽量な電磁波吸収体は実現できない。
一方、ミリ波領域に対応する電磁波吸収体としては、従来からカーボンブラック粒子やカーボンファイバー等のカーボン系材料を、ゴムや樹脂などの電気的絶縁性有機物に分散させた電磁波吸収体がある。しかし、電磁波吸収性能としては十分とは言えず、ミリ波領域まで使用できる電磁波吸収特性に優れた電磁波吸収体の開発が望まれている。
さらに、特許文献1では、導電性カーボンナノチューブ粒子を含有した電磁波吸収体が開示され、−13dB(5GHz、厚み0.105mm)、−23dB(5GHz、厚み0.105mm)の減衰率が得られたとの報告がなされている。特許文献2では、アルカリ、アルカリ土類金属、希土類、VIII族金属を担持、もしくは内包したカーボンナノチューブが開示されており、Fe内包カーボンナノチューブを20重量部含有するポリエステルなどの複合体で−28dB(16GHz、厚み1mm)、−34dB(10GHz、厚み1.5mm)、−27dB(7GHz、厚み2mm)の減衰率が得られたとの報告がなされている。特許文献3では、直径1〜100nm、長さ50μm以下のカーボンナノチューブを1〜10重量部含有するポリマー複合体が開示されており、−37dB(9.5GHz、厚み1mm)、−27dB(2.7GHz、厚み0.8mm)、−30dB(2.1GHz、厚み0.8mm)の減衰率が得られたとの報告がなされている。特許文献4では、繊維状炭素やナノカーボン積層構造体により20〜29dBの減衰量が得られたとの報告がなされている。また特許文献5では、繊維状炭素やナノカーボンチューブを含む炭素材料を樹脂被覆紙に挟み、加熱・加圧することにより得られた電磁波吸収体が開示されており、導電層の厚みが9mmにおいて60GHzの電磁波を20〜35dB吸収するとの報告がなされている。
特許文献1に記載の電磁波吸収体は、黒鉛と樹脂をほぼ同量混合してなり、樹脂の靭性など機械的性質を維持することができない。また黒鉛が表面粗度を粗くし、表層脱落の増加や表面導電性の低下の原因となる。
また、特許文献2の担持技術は極めて困難であり、脱離した担持物質とカーボンナノチューブがそれぞれ凝集し、電磁波吸収能が低下する。特に金属類は微小であるがゆえに酸化されやすく、それに伴い電磁波吸収能が低下する。これらの脱離、酸化はカーボンナノチューブに当該担持物質を内包させることで解決できるが、その収率は極めて低いものである。
次に、特許文献3では、電磁波吸収能が1〜10重量部の比較的高濃度のカーボンナノチューブを含有することで発現され、マトリックスの物性、特に機械的性質を変化させてしまう。また用いるカーボンナノチューブにより減衰率が大きく変化してしまうものであった。
特許文献4に記載の電磁波吸収体は、二層のナノカーボン含有層の間に10nm前後のAg、Cu、Au、Ptなどの金属薄膜が必要であり、製造工程が煩雑となり、コストが高くなるものであった。
さらに、特許文献5に記載のものにおいては、相当量の炭素材料を厚く成型することで電磁波吸収能が発現される。従って、電磁波吸収体の賦形性が悪く、用途が限定されるものであった。
特開2005−11878号公報
特開2003−124011号公報
特開2003−158395号公報
特開2005−63994公報
特開2004−327727号公報
従って本発明は、上述したような従来技術における問題点を鑑み、GHz帯用として有用な新規な電磁波吸収体を提供することを課題とする。本発明はまた、電磁波吸収量の高い損失材料を用い、それを少量添加することによって、マトリックスの特性を損なうことなく電磁波吸収性を発揮し得、かつ賦形性が高く、製造コストの低い複合体からなる電磁波吸収体を提供することを課題とするものである。
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、3次元ネットワーク状の炭素繊維構造体であって、前記炭素繊維構造体は、前記炭素繊維が複数延出する態様で、当該炭素繊維を互いに結合する粒状部を有しており、かつ当該粒状部は前記炭素繊維の成長過程において形成されてなるものである炭素繊維構造体を、比較的少量マトリックス中に分散配合してなる複合体を用いることにより、上記課題を解決し得ることを見出し本発明に至ったものである。
すなわち、上記課題を解決する本発明の電磁波吸収体は、外径15〜100nmの炭素繊維から構成される3次元ネットワーク状の炭素繊維構造体であって、前記炭素繊維構造体は、前記炭素繊維が複数延出する態様で、当該炭素繊維を互いに結合する粒状部を有しており、かつ当該粒状部は前記炭素繊維の成長過程において形成されてなるものである炭素繊維構造体を、全体の0.01〜25質量%の割合で含有することを特徴とする。
本発明において、前記炭素繊維構造体は、ラマン分光分析法で測定されるID/IGが、0.2以下であることが望ましい。
本発明はまた、マトリックスが有機ポリマーを含むものである上記電磁波吸収体を示すものである。
本発明はまた、マトリックスが無機材料を含むものである電磁波吸収体を示すものである。
本発明はさらに、金属微粒子、シリカ、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、カーボンブラック、炭素繊維、ガラス繊維およびこれらの2種以上の混合物からなる群から選ばれてなるいずれか1つの充填材をさらに配合するものである電磁波吸収体を示すものである。
本発明の電磁波吸収体中に配合される微細炭素繊維は、GHz帯の電磁波に対して高い損失特性を示すため、それを含有する複合体はマトリックスによらず強い電磁波吸収を発現することができる。従って、この複合体はコンピュータ、通信機器、電磁波利用機器などの電磁波吸収体として好適に用いることができる。
以下、本発明を実施形態に基づき、詳細に説明する。
本発明の電磁波吸収体は、後述するような所定構造を有する3次元ネットワーク状の炭素繊維構造体を、全体の0.01〜25質量%の割合でマトリックス中に含有することを特徴するものである。
まず、本発明に係る電磁波吸収体の作用につき説明する。
一般的に、電磁波吸収体の電波吸収特性は、対象とする電波の周波数、電波吸収体の厚さ、炭素繊維等の配合する損失材料の量および種類等によって大きく影響され、これらの条件の変化に対する複素誘電率を正確に測定し、最適な設計を行うことが望ましいとされている。しかしながら、このような最適設計をより困難なものとする要因として、マトリックス中の損失材料の分散状態というものがある。例えば、絶縁性マトリックス中に、同一種類の損出材料を同一量含有させたとしても、その作製方法の違いにより大きく特性が異なることは従来良く知られているところであった。これは、炭素繊維の誘電体マトリックス中における分散状態が異なり、これが電磁波に対する応答特性の差として現れる。
従来知られる単繊維状のカーボンナノチューブの場合、凝集性が強くその生成時点で既に塊になっており、樹脂等のマトリックス中に配合した場合にも分散が進まず、均一分散せず凝集塊として分布するために、面内に均一な導電パスを形成できず性能不良をきたすおそれがある。従って、樹脂等のマトリックスに導電性等の所定の特性を発揮させようとする場合には、かなりの添加量を必要とし、複合体の機械的強度等が大きく低下してしまう。
さらにこのような単繊維状のカーボンナノチューブ同士は、マトリックス内において相互寄り集まって上記したように凝集してしまうため、細かなネットワーク構造を形成しにくくなり、また、カーボンナノチューブ同士の電気的接続も、カーボンナノチューブ相互間に樹脂が介在するため偶発的にしか起こらず、またその電気的接続は物理的な接触に依存しているため、接触の度合いによっては高抵抗で絶縁されていると近い状態となり、非常に不安定である。このため、その添加量を多くしても、マトリックス内部において、単繊維相互によって繋げられた種々の形状、長さの導電パスが形成されず、損失材料自体の特性を生かした十分な電波吸収効率が発揮されにくい。
これに対し、本発明の電磁波吸収体においては、後述するような所定構造を有する3次元ネットワーク状の炭素繊維構造体をマトリックス中に分散配合するため、電波吸収体内部には、当該3次元ネットワーク構造に起因する、多種多様な形状と長さを持つ導電パスが形成される。そして炭素繊維同士の接続点は、上記したような物理的な接触によるものも含まれるが、その多くは、以下に詳述するように、当該三次元ネットワーク状の炭素繊維構造体が本来的に有している、炭素繊維の成長過程において形成された粒状部であって、低抵抗でかつ極めて安定したものである。また、マトリックスに対する分散性も良好であるため、比較的少量の添加により、系全体としての抵抗値を大きく低下させることなく、効率よく安定な導電パスを形成できる。しかも、分散性が良好であることから、分散条件等にあまり左右されることなく、その添加量に応じた定常的な分散状態を示し得る。
そして、上記したような、3次元ネットワーク構造に起因する導電パスは、レジスタンスとキャパシタンスからなる電流ループの等価回路として描けるが、導電パスが多種多様な形状と長さを有していることから、当該等価回路は多種多様なレジスタンスとキャパシタンスを有し、多様な周波数に対して電磁誘導による電波吸収し得る層が、効率良く形成されたものとなる。
従って、本発明に係る電磁波吸収体は、GHz域の極めて広帯域な波長に対し、安定した吸収特性を発揮するものとなるものである。
次に本発明において用いられる炭素繊維構造体について説明する。
本発明において用いられる炭素繊維構造体は、例えば、図3に示すSEM写真または図4(a)および(b)に示すTEM写真に見られるように、外径15〜100nmの炭素繊維から構成される3次元ネットワーク状の炭素繊維構造体であって、前記炭素繊維構造体は、前記炭素繊維が複数延出する態様で、当該炭素繊維を互いに結合する粒状部を有することを特徴とする炭素繊維構造体である。
炭素繊維構造体を構成する炭素繊維の外径を、15〜100nmの範囲のものとするのは、外径が15nm未満であると、後述するように炭素繊維の断面が多角形状とならず、一方、炭素繊維の物性上直径が小さいほど単位量あたりの本数が増えるとともに、炭素繊維の軸方向への長さも長くなり、高い導電性が得られるため、100nmを越える外径を有することは、樹脂等のマトリックスへ改質剤、添加剤として配される炭素繊維構造体として適当でないためである。なお、炭素繊維の外径としては特に、20〜70nmの範囲内にあることが、より望ましい。この外径範囲のもので、筒状のグラフェンシートが軸直角方向に積層したもの、すなわち多層であるものは、曲がりにくく、弾性、すなわち変形後も元の形状に戻ろうとする性質が付与されるため、炭素繊維構造体が一旦圧縮された後においても、樹脂等のマトリックスに配された後において、疎な構造を採りやすくなる。
なお、2400℃以上でアニール処理すると、積層したグラフェンシートの面間隔が狭まり真密度が1.89g/cm3から2.1g/cm3に増加するとともに、炭素繊維の軸直交断面が多角形状となり、この構造の炭素繊維は、積層方向および炭素繊維を構成する筒状のグラフェンシートの面方向の両方において緻密で欠陥の少ないものとなるため、曲げ剛性(EI)が向上する。
加えて、該微細炭素繊維は、その外径が軸方向に沿って変化するものであることが望ましい。このように炭素繊維の外径が軸方向に沿って一定でなく、変化するものであると、樹脂等のマトリックス中において当該炭素繊維に一種のアンカー効果が生じるものと思われ、マトリックス中における移動が生じにくく分散安定性が高まるものとなる。
そして本発明に係る炭素繊維構造体においては、このような所定外径を有する微細炭素繊維が3次元ネットワーク状に存在するが、これら炭素繊維は、当該炭素繊維の成長過程において形成された粒状部において互いに結合され、該粒状部から前記炭素繊維が複数延出する形状を呈しているものである。このように、微細炭素繊維同士が単に絡合しているものではなく、粒状部において相互に強固に結合されているものであることから、樹脂等のマトリックス中に配した場合に当該構造体が炭素繊維単体として分散されることなく、嵩高な構造体のままマトリックス中に分散配合されることができる。また、本発明に係る炭素繊維構造体においては、当該炭素繊維の成長過程において形成された粒状部によって炭素繊維同士が互いに結合されていることから、その構造体自体の電気的特性等も非常に優れたものであり、例えば、一定圧縮密度において測定した電気抵抗値は、微細炭素繊維の単なる絡合体、あるいは微細炭素繊維同士の接合点を当該炭素繊維合成後に炭素質物質ないしその炭化物によって付着させてなる構造体等の値と比較して、非常に低い値を示し、マトリックス中に分散配合された場合に、良好な導電パスを形成できることができる。
当該粒状部は、上述するように炭素繊維の成長過程において形成されるものであるため、当該粒状部における炭素間結合は十分に発達したものとなり、正確には明らかではないが、sp2結合およびsp3結合の混合状態を含むと思われる。そして、生成後(後述する中間体および第一中間体)においては、粒状部と繊維部とが、炭素原子からなるパッチ状のシート片を貼り合せたような構造をもって連続しており、その後の高温熱処理後においては、図4(a)および(b)に示されるように、粒状部を構成するグラフェン層の少なくとも一部は、当該粒状部より延出する微細炭素繊維を構成するグラフェン層に連続するものとなる。本発明に係る炭素繊維構造体において、粒状部と微細炭素繊維との間は、上記したような粒状部を構成するグラフェン層が微細炭素繊維を構成するグラフェン層と連続していることに象徴されるように、炭素結晶構造的な結合によって(少なくともその一部が)繋がっているものであって、これによって粒状部と微細炭素繊維との間の強固な結合が形成されているものである。
なお、本願明細書において、粒状部から炭素繊維が「延出する」するとは、粒状部と炭素繊維とが他の結着剤(炭素質のものを含む)によって、単に見かけ上で繋がっているような状態をさすものではなく、上記したように炭素結晶構造的な結合によって繋がっている状態を主として意味するものである。
また、当該粒状部は、上述するように炭素繊維の成長過程において形成されるが、その痕跡として粒状部の内部には、少なくとも1つの触媒粒子、あるいはその触媒粒子がその後の熱処理工程において揮発除去されて生じる空孔を有している。この空孔(ないし触媒粒子)は、粒状部より延出している各微細炭素繊維の内部に形成される中空部とは、本質的に独立したものである(なお、ごく一部に、偶発的に中空部と連続してしまったものも観察される。)。
この触媒粒子ないし空孔の数としては特に限定されるものではないが、粒状部1つ当りに1〜1000個程度、より望ましくは3〜500個程度存在する。このような範囲の数の触媒粒子の存在下で粒状部が形成されたことによって、後述するような所望の大きさの粒状部とすることができる。
また、この粒状部中に存在する触媒粒子ないし空孔の1つ当りの大きさとしては、例えば、1〜100nm、より好ましくは2〜40nm、さらに好ましくは3〜15nmである。
さらに、特に限定されるわけではないが、この粒状部の粒径は、図2に示すように、前記微細炭素繊維の外径よりも大きいことが望ましい。具体的には、例えば、前記微細炭素繊維の外径の1.3〜250倍、より好ましくは1.5〜100倍、さらに好ましくは2.0〜25倍である。なお、前記値は平均値である。このように炭素繊維相互の結合点である粒状部の粒径が微細炭素繊維外径の1.3倍以上と十分に大きなものであると、当該粒状部より延出する炭素繊維に対して高い結合力がもたらされ、樹脂等のマトリックス中に当該炭素繊維構造体を配した場合に、ある程度のせん断力を加えた場合であっても、3次元ネットワーク構造を保持したままマトリックス中に分散させることができる。一方、粒状部の大きさが微細炭素繊維の外径の250倍を超える極端に大きなものとなると、炭素繊維構造体の繊維状の特性が損なわれる虞れがあり、例えば、各種マトリックス中への添加剤、配合剤として適当なものとならない虞れがあるために望ましくない。なお、本明細書でいう「粒状部の粒径」とは、炭素繊維相互の結合点である粒状部を1つの粒子とみなして測定した値である。
その粒状部の具体的な粒径は、炭素繊維構造体の大きさ、炭素繊維構造体中の微細炭素繊維の外径にも左右されるが、例えば、平均値で20〜5000nm、より好ましくは25〜2000nm、さらに好ましくは30〜500nm程度である。
さらにこの粒状部は、前記したように炭素繊維の成長過程において形成されるものであるため、比較的球状に近い形状を有しており、その円形度は、平均値で0.2〜<1、好ましくは0.5〜0.99、より好ましくは0.7〜0.98程度である。
加えて、この粒状部は、前記したように炭素繊維の成長過程において形成されるものであって、例えば、微細炭素繊維同士の接合点を当該炭素繊維合成後に炭素質物質ないしその炭化物によって付着させてなる構造体等と比較して、当該粒状部における、炭素繊維同士の結合は非常に強固なものであり、炭素繊維構造体における炭素繊維の破断が生じるような条件下においても、この粒状部(結合部)は安定に保持される。具体的には例えば、後述する実施例において示すように、当該炭素繊維構造体を液状媒体中に分散させ、これに一定出力で所定周波数の超音波をかけて、炭素繊維の平均長がほぼ半減する程度の負荷条件としても、該粒状部の平均粒径の変化率は、10%未満、より好ましくは5%未満であって、粒状部、すなわち、繊維同士の結合部は、安定に保持されているものである。
また、本発明において用いられる炭素繊維構造体は、面積基準の円相当平均径が50〜100μm、より好ましくは60〜90μm程度であることが望ましい。ここで面積基準の円相当平均径とは、炭素繊維構造体の外形を電子顕微鏡などを用いて撮影し、この撮影画像において、各炭素繊維構造体の輪郭を、適当な画像解析ソフトウェア、例えばWinRoof(商品名、三谷商事株式会社製)を用いてなぞり、輪郭内の面積を求め、各繊維構造体の円相当径を計算し、これを平均化したものである。
複合化される樹脂等のマトリックス材の種類によっても左右されるため、全ての場合において適用されるわけではないが、この円相当平均径は、樹脂等のマトリックス中に配合された場合における当該炭素繊維構造体の最長の長さを決める要因となるものであり、概して、円相当平均径が50μm未満であると、導電性が十分に発揮されないおそれがあり、一方、100μmを越えるものであると、例えば、マトリックス中へ混練等によって配合する際に大きな粘度上昇が起こり混合分散が困難あるいは成形性が劣化する虞れがあるためである。
また本発明に係る炭素繊維構造体は、上記したように、本発明に係る炭素繊維構造体は、3次元ネットワーク状に存在する炭素繊維が粒状部において互いに結合され、該粒状部から前記炭素繊維が複数延出する形状を呈しているが、1つの炭素繊維構造体において、炭素繊維を結合する粒状部が複数個存在して3次元ネットワークを形成している場合、隣接する粒状部間の平均距離は、例えば、0.5μm〜300μm、より好ましくは0.5〜100μm、さらに好ましくは1〜50μm程度となる。なお、この隣接する粒状部間の距離は、1つの粒状体の中心部からこれに隣接する粒状部の中心部までの距離を測定したものである。粒状体間の平均距離が、0.5μm未満であると、炭素繊維が3次元ネットワーク状に十分に発展した形態とならないため、例えば、マトリックス中に分散配合された場合に、良好な導電パスを形成し得ないものとなる虞れがあり、一方、平均距離が300μmを越えるものであると、マトリックス中に分散配合させる際に、粘性を高くさせる要因となり、炭素繊維構造体のマトリックスに対する分散性が低下する虞れがあるためである。
さらに、本発明において用いられる炭素繊維構造体は、上記したように、3次元ネットワーク状に存在する炭素繊維が粒状部において互いに結合され、該粒状部から前記炭素繊維が複数延出する形状を呈しており、このため当該構造体は炭素繊維が疎に存在した嵩高な構造を有するが、具体的には、例えば、その嵩密度が0.0001〜0.05g/cm3、より好ましくは0.001〜0.02g/cm3であることが望ましい。嵩密度が0.05g/cm3を超えるものであると、少量添加によって、広帯域の電磁波に対して良好な電磁波吸収特性を発揮することが難しくなるためである。
また、本発明に係る炭素繊維構造体は、3次元ネットワーク状に存在する炭素繊維がその成長過程において形成された粒状部において互いに結合されていることから、上記したように構造体自体の電気的特性等も非常に優れたものであるが、例えば、一定圧縮密度0.8g/cm3において測定した粉体抵抗値が、0.02Ω・cm以下、より望ましくは、0.001〜0.010Ω・cmであることが好ましい。粉体抵抗値が0.02Ω・cmを超えるものであると、樹脂等のマトリックスに配合された際に、良好な導電パスを形成することが難しくなるためである。
また、本発明において用いられる炭素繊維構造体は、高い強度および導電性を有する上から、炭素繊維を構成するグラフェンシート中における欠陥が少ないことが望ましい。誘電体である高分子に上記したような等価電子回路を形成するためには、ラマン分光分析法で測定されるID/IG比が、具体的には、10以下であるべきであるが、好ましくは0.2以下、より好ましくは0.1以下であることが望ましい。ここで、ラマン分光分析では、大きな単結晶の黒鉛では1580cm−1付近のピーク(Gバンド)しか現れない。結晶が有限の微小サイズであることや格子欠陥により、1360cm−1付近にピーク(Dバンド)が出現する。このため、DバンドとGバンドの強度比(R=I1360/I1580=ID/IG)が上記したように所定値以下であると、グラフェンシート中における欠陥量が少ないことが認められるためである。ID/IG比が10を超える場合には、実用上の十分な吸収に相当する等価電子回路を形成し得ない。
本発明に係る前記炭素繊維構造体はまた、空気中での燃焼開始温度が750℃以上、より好ましくは800〜900℃であることが望ましい。前記したように炭素繊維構造体が欠陥が少なく、かつ炭素繊維が所期の外径を有するものであることから、このような高い熱的安定性を有するものとなる。
上記したような所期の形状を有する炭素繊維構造体は、特に限定されるものではないが、例えば、次のようにして調製することができる。
基本的には、遷移金属超微粒子を触媒として炭化水素等の有機化合物をCVD法で化学熱分解して繊維構造体(以下、中間体という)を得、これをさらに高温熱処理する。
原料有機化合物としては、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの炭化水素、一酸化炭素(CO)、エタノール等のアルコール類などが使用できる。特に限定されるわけではないが、本発明に係る繊維構造体を得る上においては、炭素源として、分解温度の異なる少なくとも2つ以上の炭素化合物を用いることが好ましい。なお、本明細書において述べる「少なくとも2つ以上の炭素化合物」とは、必ずしも原料有機化合物として2種以上のものを使用するというものではなく、原料有機化合物としては1種のものを使用した場合であっても、繊維構造体の合成反応過程において、例えば、トルエンやキシレンの水素脱アルキル化(hydrodealklation)などのような反応を生じて、その後の熱分解反応系においては分解温度の異なる2つ以上の炭素化合物となっているような態様も含むものである。
なお、熱分解反応系において炭素源としてこのように2種以上の炭素化合物を存在させた場合、それぞれの炭素化合物の分解温度は、炭素化合物の種類のみでなく、原料ガス中の各炭素化合物のガス分圧ないしモル比によっても変動するものであるため、原料ガス中における2種以上の炭素化合物の組成比を調整することにより、炭素化合物として比較的多くの組み合わせを用いることができる。
例えば、メタン、エタン、プロパン類、ブタン類、ペンタン類、へキサン類、ヘプタン類、シクロプロパン、シクロヘキサンなどといったアルカンないしシクロアルカン、特に炭素数1〜7程度のアルカン;エチレン、プロピレン、ブチレン類、ペンテン類、ヘプテン類、シクロペンテンなどといったアルケンないしシクロオレフィン、特に炭素数1〜7程度のアルケン;アセチレン、プロピン等のアルキン、特に炭素数1〜7程度のアルキン;ベンゼン、トルエン、スチレン、キシレン、ナフタレン、メチルナフタレン、インデン、フェナントレン等の芳香族ないし複素芳香族炭化水素、特に炭素数6~18程度の芳香族ないし複素芳香族炭化水素、メタノール、エタノール等のアルコール類、特に炭素数1〜7程度のアルコール類;その他、一酸化炭素、ケトン類、エーテル類等の中から選択した2種以上の炭素化合物を、所期の熱分解反応温度域において異なる分解温度を発揮できるようにガス分圧を調整し、組み合わせて用いること、および/または、所定の温度領域における滞留時間を調整することで可能であり、その混合比を最適化することで効率よく本発明に係る炭素繊維構造体を製造することができる。
このような2種以上の炭素化合物の組み合わせのうち、例えば、メタンとベンゼンとの組み合わせにおいては、メタン/ベンゼンのモル比が、>1〜600、より好ましくは1.1〜200、さらに好ましくは3〜100とすることが望ましい。なお、この値は、反応炉の入り口におけるガス組成比であり、例えば、炭素源の1つとしてトルエンを使用する場合には、反応炉内でトルエンが100%分解して、メタンおよびベンゼンが1:1で生じることを考慮して、不足分のメタンを別途供給するようにすれば良い。例えば、メタン/ベンゼンのモル比を3とする場合には、トルエン1モルに対し、メタン2モルを添加すれば良い。なお、このようなトルエンに対して添加するメタンとしては、必ずしも新鮮なメタンを別途用意する方法のみならず、当該反応炉より排出される排ガス中に含まれる未反応のメタンを循環使用することにより用いることも可能である。
このような範囲内の組成比とすることで、炭素繊維部および粒状部のいずれもが十分を発達した構造を有する炭素繊維構造体を得ることが可能となる。
なお、雰囲気ガスには、アルゴン、ヘリウム、キセノン等の不活性ガスや水素を用いることができる。
また、触媒としては、鉄、コバルト、モリブデンなどの遷移金属あるいはフェロセン、酢酸金属塩などの遷移金属化合物と硫黄あるいはチオフェン、硫化鉄などの硫黄化合物の混合物を使用する。
中間体の合成は、通常行われている炭化水素等のCVD法を用い、原料となる炭化水素および触媒の混合液を蒸発させ、水素ガス等をキャリアガスとして反応炉内に導入し、800〜1300℃の温度で熱分解する。これにより、外径が15〜100nmの繊維相互が、前記触媒の粒子を核として成長した粒状体によって結合した疎な三次元構造を有する炭素繊維構造体(中間体)が複数集まった数cmから数十センチの大きさの集合体を合成する。
原料となる炭化水素の熱分解反応は、主として触媒粒子ないしこれを核として成長した粒状体表面において生じ、分解によって生じた炭素の再結晶化が当該触媒粒子ないし粒状体より一定方向に進むことで、繊維状に成長する。しかしながら、本発明に係る炭素繊維構造体を得る上においては、このような熱分解速度と成長速度とのバランスを意図的に変化させる、例えば上記したように炭素源として分解温度の異なる少なくとも2つ以上の炭素化合物を用いることで、一次元的方向にのみ炭素物質を成長させることなく、粒状体を中心として三次元的に炭素物質を成長させる。もちろん、このような三次元的な炭素繊維の成長は、熱分解速度と成長速度とのバランスにのみ依存するものではなく、触媒粒子の結晶面選択性、反応炉内における滞留時間、炉内温度分布等によっても影響を受け、また、前記熱分解反応と成長速度とのバランスは、上記したような炭素源の種類のみならず、反応温度およびガス温度等によっても影響受けるが、概して、上記したような熱分解速度よりも成長速度の方が速いと、炭素物質は繊維状に成長し、一方、成長速度よりも熱分解速度の方が速いと、炭素物質は触媒粒子の周面方向に成長する。従って、熱分解速度と成長速度とのバランスを意図的に変化させることで、上記したような炭素物質の成長方向を一定方向とすることなく、制御下に多方向として、本発明に係るような三次元構造を形成することができるものである。なお、生成する中間体において、繊維相互が粒状体により結合された前記したような三次元構造を容易に形成する上では、触媒等の組成、反応炉内における滞留時間、反応温度、およびガス温度等を最適化することが望ましい。
なお、本発明に係る炭素繊維構造体を効率良く製造する方法としては、上記したような分解温度の異なる2つ以上の炭素化合物を最適な混合比にて用いるアプローチ以外に、反応炉に供給される原料ガスに、その供給口近傍において乱流を生じさせるアプローチを挙げることができる。ここでいう乱流とは、激しく乱れた流れであり、渦巻いて流れるような流れをいう。
反応炉においては、原料ガスが、その供給口より反応炉内へ導入された直後において、原料混合ガス中の触媒としての遷移金属化合物の分解により金属触媒微粒子が形成されるが、これは、次のような段階を経てもたらされる。すなわち、まず、遷移金属化合物が分解され金属原子となり、次いで、複数個、例えば、約100原子程度の金属原子の衝突によりクラスター生成が起こる。この生成したクラスターの段階では、微細炭素繊維の触媒として作用せず、生成したクラスター同士が衝突により更に集合し、約3nm〜10nm程度の金属の結晶性粒子に成長して、微細炭素繊維の製造用の金属触媒微粒子として利用されることとなる。
この触媒形成過程において、上記したように激しい乱流による渦流が存在すると、ブラウン運動のみの金属原子又はクラスター同士の衝突と比してより激しい衝突が可能となり、単位時間あたりの衝突回数の増加によって金属触媒微粒子が短時間に高収率で得られ、又、渦流によって濃度、温度等が均一化されることにより粒子のサイズの揃った金属触媒微粒子を得ることができる。さらに、金属触媒微粒子が形成される過程で、渦流による激しい衝突により金属の結晶性粒子が多数集合した金属触媒微粒子の集合体を形成する。このようにして金属触媒微粒子が速やかに生成されるため、炭素化合物の分解が促進されて、十分な炭素物質が供給されることになり、前記集合体の各々の金属触媒微粒子を核として放射状に微細炭素繊維が成長し、一方で、前記したように一部の炭素化合物の熱分解速度が炭素物質の成長速度よりも速いと、炭素物質は触媒粒子の周面方向にも成長し、前記集合体の周りに粒状部を形成し、所期の三次元構造を有する炭素繊維構造体を効率よく形成する。なお、前記金属触媒微粒子の集合体中には、他の触媒微粒子よりも活性の低いないしは反応途中で失活してしまった触媒微粒子も一部に含まれていることも考えられ、集合体として凝集するより以前にこのような触媒微粒子の表面に成長していた、あるいは集合体となった後にこのような触媒微粒子を核として成長した非繊維状ないしはごく短い繊維状の炭素物質層が、集合体の周縁位置に存在することで、本発明に係る炭素繊維構造体の粒状部を形成しているものとも思われる。
反応炉の原料ガス供給口近傍において、原料ガスの流れに乱流を生じさせる具体的手段としては、特に限定されるものではなく、例えば、原料ガス供給口より反応炉内に導出される原料ガスの流れに干渉し得る位置に、何らかの衝突部を設ける等の手段を採ることができる。前記衝突部の形状としては、何ら限定されるものではなく、衝突部を起点として発生した渦流によって十分な乱流が反応炉内に形成されるものであれば良いが、例えば、各種形状の邪魔板、パドル、テーパ管、傘状体等を単独であるいは複数組み合わせて1ないし複数個配置するといった形態を採択することができる。
このようにして、触媒および炭化水素の混合ガスを800〜1300℃の範囲の一定温度で加熱生成して得られた中間体は、炭素原子からなるパッチ状のシート片を貼り合わせたような(生焼け状態の、不完全な)構造を有し、ラマン分光分析をすると、Dバンドが非常に大きく、欠陥が多い。また、生成した中間体は、未反応原料、非繊維状炭化物、タール分および触媒金属を含んでいる。
従って、このような中間体からこれら残留物を除去し、欠陥が少ない所期の炭素繊維構造体を得るために、適切な方法で2400〜3000℃の高温熱処理する。
すなわち、例えば、この中間体を800〜1200℃で加熱して未反応原料やタール分などの揮発分を除去した後、2400〜3000℃の高温でアニール処理することによって所期の構造体を調製し、同時に繊維に含まれる触媒金属を蒸発させて除去する。なお、この際、物質構造を保護するために不活性ガス雰囲気中に還元ガスや微量の一酸化炭素ガスを添加してもよい。
前記中間体を2400〜3000℃の範囲の温度でアニール処理すると、炭素原子からなるパッチ状のシート片は、それぞれ結合して複数のグラフェンシート状の層を形成する。
また、このような高温熱処理前もしくは処理後において、炭素繊維構造体の円相当平均径を数cmに解砕処理する工程と、解砕処理された炭素繊維構造体の円相当平均径を50〜100μmに粉砕処理する工程とを経ることで、所望の円相当平均径を有する炭素繊維構造体を得る。なお、解砕処理を経ることなく、粉砕処理を行っても良い。また、本発明に係る炭素繊維構造体を複数有する集合体を、使いやすい形、大きさ、嵩密度に造粒する処理を行っても良い。さらに好ましくは、反応時に形成された上記構造を有効に活用するために、嵩密度が低い状態(極力繊維が伸びきった状態でかつ空隙率が大きい状態)で、アニール処理するとさらに樹脂への導電性付与に効果的である。
また、微細炭素繊維におけるグラフィト構造の欠陥は、スピンを持つ伝導電子の散乱を引き起こし、上記したような系統的な磁気抵抗効果を乱す。この欠陥の指標を、例えば、ラマン分光分析法で測定される1580cm−1のピーク(Gバンド)と、1360cm−1のピーク(Dバンド)とのシグナル強度比ID/IGとした場合、当該シグナル強度比が、0.2以下、より好ましくは0.1以下であることが望ましい。これより高い値を示す欠陥を有する微細炭素繊維は、電磁波吸収効果と吸収周波数帯域をそれぞれ低下させてしまう虞れがある。
なお、ラマン分光分析によれば、大きな単結晶の黒鉛では1580cm−1のピーク(Gバンド)しか現れない。結晶が有限の微小サイズであることや格子欠陥により、1360cm−1のピーク(Dバンド)が出現する。このため、DバンドとGバンドの強度比(R=I1360/I1580=ID/IG)が上記したように所定値以下であると、グラフェンシート中における欠陥量が少ないと言えるのである。
負の磁気抵抗効果で形成された抵抗性等価体は、マクロ領域にわたり導電パスを形成することで電磁波吸収能が増加する。微細炭素繊維のより低い濃度で導電パスを形成させるために、微細炭素繊維の直径とアスペクト比(長さ/直径)がそれぞれ15〜100nm、50以上であることが好ましい。微細炭素繊維の直径とアスペクト比がこれらの範囲を逸脱した場合、導電パス形成のために、より多くの微細炭素繊維を必要とし、マトリックス本来の性質を損なう虞れが生じるためである。
上記微細炭素繊維は、有機ポリマーや、無機材料などに複合化させることでそれらのマトリックス中でネットワークを形成し、本発明に係る電磁波吸収体を与える。いずれのマトリックスを用いた場合でも誘電率の低い材料から金属まで、上記したような微細炭素繊維を用いることで良好な電磁波吸収性、特にGHz帯域の電磁波に対して良好な電磁波吸収特性を与える。
本発明に係る電磁波吸収体を調製する上において、マトリックスに混合する微細炭素繊維の割合は、使用されるマトリックスの種類や、電磁波吸収体の適用用途等によっても左右されるが、電磁波吸収体全体の約0.01質量%〜25質量%であり、より好ましくは5質量%以下である。マトリックスの特性を損なうことなく複合化させる観点から、さらに好ましくは1質量%以下である。本発明に係る電磁波吸収体は損失材料である微細炭素繊維の含有量がこのように極めて低くても、マトリックス内におけるネットワークの形成のしやすさ、良好な分散性から、十分な電磁波吸収性能を発揮することができる。
マトリックスとして使用される有機ポリマーとして、特に限定されるものではないが、例えばポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリアセタール、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリビニルアセテート、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリビニルアルコール、ポリフェニレンエーテル、ポリ(メタ)アクリレート及び液晶ポリマー等の各種熱可塑性樹脂、エポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フラン樹脂、イミド樹脂、ウレタン樹脂、メラミン樹脂、シリコーン樹脂およびユリア樹脂等の各種熱硬化性樹脂、天然ゴム、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、イソプレンゴム(IR)、エチレン・プロピレンゴム(EPDM)、ニトリルゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)、ブチルゴム(IIR)、ウレタンゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、アクリルゴム(ACM)、エピクロロヒドリンゴム、エチレンアクリルゴム、ノルボルネンゴム及び熱可塑性エラストマー等の各種エラストマーが挙げられる。
これらの有機ポリマーのうち、比誘電率が15以下のものが望ましく、特に、比誘電率が2〜15、さらに好ましくは比誘電率が4〜15であるものが望ましい。比誘電率が15を超える場合には、形成される微細炭素繊維との複合体が、導体として金属的に振る舞い、多くの電磁波が反射され吸収体としてあまり機能しなくなる虞があるためである。なお、有機ポリマーの比誘電率が2未満であると、1〜50GHz帯域の電磁波に係る複素誘電率の実部誘電率が低く当該帯域の電磁波を吸収すべく正接損失を十分に示さない虞れがあるためである。
なお、有機ポリマーは、接着剤、繊維、塗料、インキ等の各種組成物の形態であってもよい。
すなわち、マトリックスが、例えば、エポキシ系接着剤、アクリル系接着剤、ウレタン系接着剤、フェノール系接着剤、ポリエステル系接着剤、塩化ビニル系接着剤、ユリア系接着剤、メラミン系接着剤、オレフィン系接着剤、酢酸ビニル系接着剤、ホットメルト系接着剤、シアノアクリレート系接着剤、ゴム系接着剤及びセルロース系接着剤等の接着剤、アクリル繊維、アセテート繊維、アラミド繊維、ナイロン繊維、ノボロイド繊維、セルロース繊維、ビスコースレーヨン繊維、ビニリデン繊維、ビニロン繊維、フッ素繊維、ポリアセタール繊維、ポリウレタン繊維、ポリエステル繊維、ポリエチレン繊維、ポリ塩化ビニル繊維及びポリプロピレン繊維等の繊維、さらにフェノール樹脂系塗料、アルキド樹脂系塗料エポキシ樹脂系塗料、アクリル樹脂系塗料、不飽和ポリエステル系塗料、ポリウレタン系塗料、シリコーン系塗料、フッ素樹脂系塗料、合成樹脂エマルジョン系塗料等の塗料であってよい。
無機材料としては、例えば、各種金属、セラミックス又は無機酸化物などが挙げられる。好ましい具体例としては、アルミニウム、マグネシウム、鉛、銅、タングステン、チタン、ニオブ、ハフニウム、バナジウム、並びにこれらの合金及び混合物等の金属、カーボンカーボンコンポジットなどの炭素材料、ガラス、ガラス繊維、板ガラス及び他の成形ガラス、ケイ酸塩セラミックス並びに他の耐火性セラミックス、例えば酸化アルミニウム、炭化ケイ素、酸化マグネシウム、窒化ケイ素及び窒化ホウ素が挙げられる。
さらに、本発明の電磁波吸収体には、電磁波吸収材料を適宜改質させるために、上述した微細炭素繊維に加えて他の充填剤を含んでいてもよく、そのような充填剤としては例えば、金属微粒子、シリカ、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、カーボンブラックなどの微粒子、ガラス繊維、炭素繊維などが挙げられ、これらを一種または二種以上組み合わせて用いることができる。これらの充填剤の有無は、機械的特性や熱特性などを変化させ、電磁波吸収特性にはほとんど影響しない。
複合化は、用いるマトリックスに応じて最適な方法、例えば、有機ポリマーでは溶融混練、熱硬化性樹脂組成物中への分散、ラッカーへの分散など、また無機材料では粉体焼結、ゾルゲル法、溶融金属への分散などの公知の方法を用いて行うことができる。いずれの場合でも微細炭素繊維がマトリックス中で良好に分散し、ネットワークを形成することで高い電磁波吸収性能を示すことができる。また、マトリックスとして例えば、可撓性ないし柔軟性を有する有機ポリマー等を用いた場合にも、マトリックス内に配された炭素繊維構造体が前記したように弾性に富む三次元構造を有しているため、当該マトリックスを曲げ変形しても、炭素繊維構造体が破断する危険性が少なく、変形による電波吸収体の特性変動が低減される。
このようにして得られた本発明の電磁波吸収材料は、フィルム、シート、および各種機器の躯体成型品などに加工し、適所に用いることで電磁波による影響を著しく軽減させることができる。
なお、電波吸収材料をフィルム状として形成する場合には、例えば、誘電体基体表面上に、当該電波吸収材料を所定形状でコーティングする等により形成することができる。
基体としては、板状や膜状であっても三次元形状であってもよい。ただし、板状や膜状とすることが、完成した電波吸収体の薄型化、取り扱い性等の観点から好ましい。その他、装置の躯体や仕切り板、プリント基板等を基体として、これにフィルム状の電波吸収層を形成して本発明に係る電波吸収体を構成しても構わない。誘電体基体としては、特に限定されるものではないが、各種ガラス、各種プラスチック、シリコン、アルミナ等のセラミックス、サファイア等の結晶体等を利用することができる。本発明の電磁波吸収体は、可撓性ないし柔軟性を有する基板を基体とした場合にも、その表面に形成された電波吸収層としての炭素繊維構造体が前記したように弾性に富む三次元構造を有しているため、当該基体を曲げ変形しても、炭素繊維構造体が破断する危険性が少なく、変形による電波吸収体の特性変動が低減される。
また、これら基体上に形成されるフィルム状電磁波吸収層の形状としては、特に制限はないが、吸収しようとする電波の周波数によって適宜決定することができる。基体表面上全面に形成することはもちろん可能であるが、複数の所定形状を有する膜状ブロックパターンを、相互に離間して基体表面上に配列することで形成することも可能である。このようなブロックパターンとしては、特に限定されるものではなく、例えば、配置の上で最密充填可能な多角形状(三角形、四角形、六角形)、その他、フラクタル状、シェルピンスキー三角形等とすることも可能である。
例えば、携帯電話や無線LANへの応用を考えた場合、吸収しようとする電波の周波数は、800MHz〜2.5GHzであり、前記電波吸収層1つの形状としては、面積1.2cm2以上10cm2以下で、配置の上で最密充填可能な多角形状(三角形、四角形、六角形)、さらに高周波数のETC等への利用を考えた場合、吸収しようとする電波の周波数は、5.8GHz〜10GHzであり、前記電波吸収層1つの形状としては、面積0.10cm3以上0.25cm3以下の最密充填可能な多角形状とすることなどが例示できる。ただ本発明における電波吸収層は、高周波域で広帯域である特徴とするものであり、携帯電話や無線LAN用に作製した電波吸収層でも、ETC等、より高周波数を対象とする電波吸収体としても利用可能である。また各ブロックパターン相互の間隔は、吸収しようとする電波における最低周波数の電磁波波長の1/2以下とすることが望ましい。
本発明の電波吸収体には、接地電極を設けることも可能である。該接地電極は、前記したような基体表面に電波吸収層をフィルム状にして形成した場合には、基体の前記電波吸収層を支持する表面と異なる表面に設けることができる。また、シート状等にして形成した場合には、一旦誘電体材料を介在させて接地電極を設けることが望ましい。設置電極としては、例えば、金属板ないし金属フィルム等を用いることが可能である。
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、以下の実施例および比較例に記載の特性の測定方法としては次のような条件にて測定した。
<面積基準の円相当平均径>
まず、粉砕品の写真をSEMで撮影する。得られたSEM写真において、炭素繊維構造体の輪郭が明瞭なもののみを対象とし、炭素繊維構造体が崩れているようなものは輪郭が不明瞭であるために対象としなかった。1視野で対象とできる炭素繊維構造体(60〜80個程度)はすべて用い、3視野で約200個の炭素繊維構造体を対象とした。対象とされた各炭素繊維構造体の輪郭を、画像解析ソフトウェア WinRoof(商品名、三谷商事株式会社製)を用いてなぞり、輪郭内の面積を求め、各繊維構造体の円相当径を計算し、これを平均化した。
まず、粉砕品の写真をSEMで撮影する。得られたSEM写真において、炭素繊維構造体の輪郭が明瞭なもののみを対象とし、炭素繊維構造体が崩れているようなものは輪郭が不明瞭であるために対象としなかった。1視野で対象とできる炭素繊維構造体(60〜80個程度)はすべて用い、3視野で約200個の炭素繊維構造体を対象とした。対象とされた各炭素繊維構造体の輪郭を、画像解析ソフトウェア WinRoof(商品名、三谷商事株式会社製)を用いてなぞり、輪郭内の面積を求め、各繊維構造体の円相当径を計算し、これを平均化した。
<嵩密度の測定>
内径70mmで分散板付透明円筒に1g粉体を充填し、圧力0.1Mpa、容量1.3リットルの空気を分散板下部から送り粉体を吹出し、自然沈降させる。5回吹出した時点で沈降後の粉体層の高さを測定する。このとき測定箇所は6箇所とることとし、6箇所の平均を求めた後、嵩密度を算出した。
内径70mmで分散板付透明円筒に1g粉体を充填し、圧力0.1Mpa、容量1.3リットルの空気を分散板下部から送り粉体を吹出し、自然沈降させる。5回吹出した時点で沈降後の粉体層の高さを測定する。このとき測定箇所は6箇所とることとし、6箇所の平均を求めた後、嵩密度を算出した。
<ラマン分光分析>
堀場ジョバンイボン製LabRam800を用い、アルゴンレーザーの514nmの波長を用いて測定した。
堀場ジョバンイボン製LabRam800を用い、アルゴンレーザーの514nmの波長を用いて測定した。
<TG燃焼温度>
マックサイエンス製TG−DTAを用い、空気を0.1リットル/分の流速で流通させながら、10℃/分の速度で昇温し、燃焼挙動を測定した。燃焼時にTGは減量を示し、DTAは発熱ピークを示すので、発熱ピークのトップ位置を燃焼開始温度と定義した。
マックサイエンス製TG−DTAを用い、空気を0.1リットル/分の流速で流通させながら、10℃/分の速度で昇温し、燃焼挙動を測定した。燃焼時にTGは減量を示し、DTAは発熱ピークを示すので、発熱ピークのトップ位置を燃焼開始温度と定義した。
<X線回折>
粉末X線回折装置(JDX3532、日本電子製)を用いて、アニール処理後の炭素繊維構造体を調べた。Cu管球で40kV、30mAで発生させたKα線を用いることとし、面間隔の測定は学振法(最新の炭素材料実験技術(分析・解析編)、炭素材料学会編)に従い、シリコン粉末を内部標準として用いた。
粉末X線回折装置(JDX3532、日本電子製)を用いて、アニール処理後の炭素繊維構造体を調べた。Cu管球で40kV、30mAで発生させたKα線を用いることとし、面間隔の測定は学振法(最新の炭素材料実験技術(分析・解析編)、炭素材料学会編)に従い、シリコン粉末を内部標準として用いた。
<粉体抵抗および復元性>
CNT粉体1gを秤取り、樹脂製ダイス(内寸40リットル、10W、80Hmm)に充填圧縮し、変位および荷重を読み取る。4端子法で定電流を流して、そのときの電圧を測定し、0.9g/cm3の密度まで測定したら、圧力を解除し復元後の密度を測定した。粉体抵抗については、0.5、0.8および0.9g/cm3に圧縮したときの抵抗を測定することとする。
CNT粉体1gを秤取り、樹脂製ダイス(内寸40リットル、10W、80Hmm)に充填圧縮し、変位および荷重を読み取る。4端子法で定電流を流して、そのときの電圧を測定し、0.9g/cm3の密度まで測定したら、圧力を解除し復元後の密度を測定した。粉体抵抗については、0.5、0.8および0.9g/cm3に圧縮したときの抵抗を測定することとする。
<粒状部の平均粒径、円形度、微細炭素繊維との比>
面積基準の円相当平均径の測定と同様に、まず、炭素繊維構造体の写真をSEMで撮影する。得られたSEM写真において、炭素繊維構造体の輪郭が明瞭なもののみを対象とし、炭素繊維構造体が崩れているようなものは輪郭が不明瞭であるために対象としなかった。1視野で対象とできる炭素繊維構造体(60〜80個程度)はすべて用い、3視野で約200個の炭素繊維構造体を対象とした。
面積基準の円相当平均径の測定と同様に、まず、炭素繊維構造体の写真をSEMで撮影する。得られたSEM写真において、炭素繊維構造体の輪郭が明瞭なもののみを対象とし、炭素繊維構造体が崩れているようなものは輪郭が不明瞭であるために対象としなかった。1視野で対象とできる炭素繊維構造体(60〜80個程度)はすべて用い、3視野で約200個の炭素繊維構造体を対象とした。
対象とされた各炭素繊維構造体において、炭素繊維相互の結合点である粒状部を1つの粒子とみなして、その輪郭を、画像解析ソフトウェア WinRoof(商品名、三谷商事株式会社製)を用いてなぞり、輪郭内の面積を求め、各粒状部の円相当径を計算し、これを平均化して粒状部の平均粒径とした。また、円形度(R)は、前記画像解析ソフトウェアを用いて測定した輪郭内の面積(A)と、各粒状部の実測の輪郭長さ(L)より、次式により各粒状部の円形度を求めこれを平均化した。
R=A*4π/L2
さらに、対象とされた各炭素繊維構造体における微細炭素繊維の外径を求め、これと前記各炭素繊維構造体の粒状部の円相当径から、各炭素繊維構造体における粒状部の大きさを微細炭素繊維との比として求め、これを平均化した。
さらに、対象とされた各炭素繊維構造体における微細炭素繊維の外径を求め、これと前記各炭素繊維構造体の粒状部の円相当径から、各炭素繊維構造体における粒状部の大きさを微細炭素繊維との比として求め、これを平均化した。
<粒状部の間の平均距離>
面積基準の円相当平均径の測定と同様に、まず、炭素繊維構造体の写真をSEMで撮影する。得られたSEM写真において、炭素繊維構造体の輪郭が明瞭なもののみを対象とし、炭素繊維構造体が崩れているようなものは輪郭が不明瞭であるために対象としなかった。1視野で対象とできる炭素繊維構造体(60〜80個程度)はすべて用い、3視野で約200個の炭素繊維構造体を対象とした。
面積基準の円相当平均径の測定と同様に、まず、炭素繊維構造体の写真をSEMで撮影する。得られたSEM写真において、炭素繊維構造体の輪郭が明瞭なもののみを対象とし、炭素繊維構造体が崩れているようなものは輪郭が不明瞭であるために対象としなかった。1視野で対象とできる炭素繊維構造体(60〜80個程度)はすべて用い、3視野で約200個の炭素繊維構造体を対象とした。
対象とされた各炭素繊維構造体において、粒状部が微細炭素繊維によって結ばれている箇所を全て探し出し、このように微細炭素繊維によって結ばれる隣接する粒状部間の距離(一端の粒状体の中心部から他端の粒状体の中心部までを含めた微細炭素繊維の長さ)をそれぞれ測定し、これを平均化した。
<炭素繊維構造体の破壊試験>
蓋付バイアル瓶中に入れられたトルエン100mlに、30μg/mlの割合で炭素繊維構造体を添加し、炭素繊維構造体の分散液試料を調製した。
蓋付バイアル瓶中に入れられたトルエン100mlに、30μg/mlの割合で炭素繊維構造体を添加し、炭素繊維構造体の分散液試料を調製した。
このようにして得られた炭素繊維構造体の分散液試料に対し、発信周波数38kHz、出力150wの超音波洗浄器((株)エスエヌディ製、商品名:USK-3)を用いて、超音波を照射し、分散液試料中の炭素繊維構造体の変化を経時的に観察した。
まず超音波を照射し、30分経過後において、瓶中から一定量2mlの分散液試料を抜き取り、この分散液中の炭素繊維構造体の写真をSEMで撮影する。得られたSEM写真の炭素繊維構造体中における微細炭素繊維(少なくとも一端部が粒状部に結合している微細炭素繊維)をランダムに200本を選出し、選出された各微細炭素繊維の長さを測定し、D50平均値を求め、これを初期平均繊維長とした。
一方、得られたSEM写真の炭素繊維構造体中における炭素繊維相互の結合点である粒状部をランダムに200個を選出し、選出された各粒状部をそれぞれ1つの粒子とみなしてその輪郭を、画像解析ソフトウェア WinRoof(商品名、三谷商事株式会社製)を用いてなぞり、輪郭内の面積を求め、各粒状部の円相当径を計算し、このD50平均値を求めた。そして得られたD50平均値を粒状部の初期平均径とした。
その後、一定時間毎に、前記と同様に瓶中から一定量2mlの分散液試料を抜き取り、この分散液中の炭素繊維構造体の写真をSEMで撮影し、この得られたSEM写真の炭素繊維構造体中における微細炭素繊維のD50平均長さおよび粒状部のD50平均径を前記と同様にして求めた。
そして、算出される微細炭素繊維のD50平均長さが、初期平均繊維長の約半分となった時点(本実施例においては超音波を照射し、500分経過後)における、粒状部のD50平均径を、初期平均径と対比しその変動割合(%)を調べた。
<導電性>
得られた試験片を、四探針式低抵抗率計(ロレスタGP、三菱化学製)を用いて表面9箇所の抵抗(Ω)を測定し、同抵抗計により体積抵抗率(Ω・cm)に換算し、平均値を算出した。
得られた試験片を、四探針式低抵抗率計(ロレスタGP、三菱化学製)を用いて表面9箇所の抵抗(Ω)を測定し、同抵抗計により体積抵抗率(Ω・cm)に換算し、平均値を算出した。
<電磁波吸収特性>
平面波減衰特性試験(防衛庁規格「電磁シールド室試験方法」に基づく方法)により1〜20GHzの電磁波に対する電磁波吸収特性を調べた。
平面波減衰特性試験(防衛庁規格「電磁シールド室試験方法」に基づく方法)により1〜20GHzの電磁波に対する電磁波吸収特性を調べた。
R/S SMR20型シグナルジェネレーター(ROHDE&SCHWARZ製)、Agilent E7405型スペクトルアナライザー(Agilent Technology製)および3115(トランスミッタTXおよびレシーバRX)を備え、アンテナ−試料−アンテナ距離間が500mm+500mmに設定された装置構成を用いて測定した。なお前記試料は、両アンテナ間の間に介在する遮蔽壁面に設けられた395mm×395mmの大きさの開口枠部に組み付けることで所定位置に配された。
合成例1
CVD法によって、トルエンを原料として炭素繊維構造体を合成した。
CVD法によって、トルエンを原料として炭素繊維構造体を合成した。
触媒としてフェロセン及びチオフェンの混合物を使用し、水素ガスの還元雰囲気で行った。トルエン、触媒を水素ガスとともに380℃に加熱し、生成炉に供給し、1250℃で熱分解して、炭素繊維構造体(第一中間体)を得た。
なお、この炭素繊維構造体(第一中間体)を製造する際に用いられた生成炉の概略構成を図8に示す。図8に示すように、生成炉1は、その上端部に、上記したようなトルエン、触媒および水素ガスからなる原料混合ガスを生成炉1内へ導入する導入ノズル2を有しているが、さらにこの導入ノズル2の外側方には、円筒状の衝突部3が設けられている。この衝突部3は、導入ノズル2の下端に位置する原料ガス供給口4より反応炉内に導出される原料ガスの流れに干渉し得るものとされている。なお、この実施例において用いられた生成炉1では、導入ノズル2の内径a、生成炉1の内径b、筒状の衝突部3の内径c、生成炉1の上端から原料混合ガス導入口4までの距離d、原料混合ガス導入口4から衝突部3の下端までの距離e、原料混合ガス導入口4から生成炉1の下端までの距離をfとすると、各々の寸法比は、おおよそa:b:c:d:e:f=1.0:3.6:1.8:3.2:2.0:21.0に形成されていた。また、反応炉への原料ガス導入速度は、1850NL/min、圧力は1.03atmとした。
上記のようにして合成された中間体を窒素中で900℃で焼成して、タールなどの炭化水素を分離し、第二中間体を得た。この第二中間体のラマン分光測定のR値は0.98であった。また、この第一中間体をトルエン中に分散して電子顕微鏡用試料調製後に観察したSEMおよびTEM写真を図1、2に示す。
さらにこの第二中間体をアルゴン中で2600℃で高温熱処理し、得られた炭素繊維構造体の集合体を気流粉砕機にて粉砕し、本発明において用いられる炭素繊維構造体を得た。
得られた炭素繊維構造体をトルエン中に超音波で分散して電子顕微鏡用試料調製後に観察したSEMおよびTEM写真を図3、4に示す。
また、得られた炭素繊維構造体をそのまま電子顕微鏡用試料ホルダーに載置して観察したSEM写真を図5に、またその粒度分布を表1に示した。
さらに高温熱処理前後において、炭素繊維構造体のX線回折およびラマン分光分析を行い、その変化を調べた。結果を図6および7に示す。
また、得られた炭素繊維構造体の円相当平均径は、72.8μm、嵩密度は0.0032g/cm3、ラマンID/IG比値は0.090、TG燃焼温度は786℃、面間隔は3.383オングストローム、粉体抵抗値は0.0083Ω・cm、復元後の密度は0.25g/cm3であった。
さらに炭素繊維構造体における粒状部の粒径は平均で、443nm(SD207nm)であり、炭素繊維構造体における微細炭素繊維の外径の7.38倍となる大きさであった。また粒状部の円形度は、平均値で0.67(SD0.14)であった。
また、前記した手順によって炭素繊維構造体の破壊試験を行ったところ、超音波印加30分後の初期平均繊維長(D50)は、12.8μmであったが、超音波印加500分後の平均繊維長(D50)は、6.7μmとほぼ半分の長さとなり、炭素繊維構造体において微細炭素繊維に多くの切断が生じたことが示された。しかしながら、超音波印加500分後の粒状部の平均径(D50)を、超音波印加30分後の初期初期平均径(D50)と対比したところ、その変動(減少)割合は、わずか4.8%であり、測定誤差等を考慮すると、微細炭素繊維に多くの切断が生じた負荷条件下でも、切断粒状部自体はほとんど破壊されることなく、繊維相互の結合点として機能していることが明らかとなった。
なお、合成例1で測定した各種物性値を、表2にまとめた。
生成炉からの排ガスの一部を循環ガスとして使用し、この循環ガス中に含まれるメタン等の炭素化合物を、新鮮なトルエンと共に、炭素源として使用して、CVD法により微細炭素繊維を合成した。
合成は、触媒としてフェロセン及びチオフェンの混合物を使用し、水素ガスの還元雰囲気で行った。新鮮な原料ガスとして、トルエン、触媒を水素ガスとともに予熱炉にて380℃に加熱した。一方、生成炉の下端より取り出された排ガスの一部を循環ガスとし、その温度を380℃に調整した上で、前記した新鮮な原料ガスの供給路途中にて混合して、生成炉に供給した。
なお、使用した循環ガスにおける組成比は、体積基準のモル比でCH4 7.5%、C6H6 0.3%、C2H2 0.7%、C2H6 0.1%、CO 0.3%、N2 3.5%、H2 87.6%であり、新鮮な原料ガスとの混合によって、生成炉へ供給される原料ガス中におけるメタンとベンゼンとの混合モル比CH4/C6H6(なお、新鮮な原料ガス中のトルエンは予熱炉での加熱によって、CH4:C6H6=1:1に100%分解したものとして考慮した。)が、3.44となるように、混合流量を調整された。
なお、最終的な原料ガス中には、混合される循環ガス中に含まれていた、C2H2、C2H6およびCOも炭素化合物として当然に含まれているが、これらの成分は、いずれもごく微量であり、実質的に炭素源としては無視できるものであった。
そして、合成例1と同様に、生成炉において、1250℃で熱分解して、炭素繊維構造体(第一中間体)を得た。
なお、この炭素繊維構造体(第一中間体)を製造する際に用いられた生成炉の構成は、円筒状の衝突部3がない以外は、図9に示す構成と同様のものであり、また反応炉への原料ガス導入速度は、合成例1と同様に、1850NL/min、圧力は1.03atmとした。
上記のようにして合成された第一中間体をアルゴン中で900℃で焼成して、タールなどの炭化水素を分離し、第二中間体を得た。この第二中間体のラマン分光測定のR値は0.83であった。また、第一中間体をトルエン中に分散して電子顕微鏡用試料調製後に観察したところ、そのSEMおよびTEM写真は図1、2に示す合成例1のものとほぼ同様のものであった。
さらにこの第二中間体をアルゴン中で2600℃で高温熱処理し、得られた炭素繊維構造体の集合体を気流粉砕機にて粉砕し、本発明に係る炭素繊維構造体を得た。
得られた炭素繊維構造体をトルエン中に超音波で分散して電子顕微鏡用試料調製後に観察したSEMおよびTEM写真は、図3、4に示す合成例1のものとほぼ同様のものであった。
また、得られた炭素繊維構造体をそのまま電子顕微鏡用試料ホルダーに載置して観察し粒度分布を調べた。得られた結果を表3に示す。
さらに高温熱処理前後において、炭素繊維構造体のX線回折およびラマン分光分析を行い、その変化を調べたところ、図6および7に示す実施例1の結果とほぼ同様のものであった。
また、得られた炭素繊維構造体の円相当平均径は、75.8μm、嵩密度は0.004g/cm3、ラマンID/IG比値は0.086、TG燃焼温度は807℃、面間隔は3.386オングストローム、粉体抵抗値は0.0077Ω・cm、復元後の密度は0.26g/cm3であった。
さらに炭素繊維構造体における粒状部の粒径は平均で、349.5nm(SD180.1nm)であり、炭素繊維構造体における微細炭素繊維の外径の5.8倍となる大きさであった。また粒状部の円形度は、平均値で0.69(SD0.15)であった。
また、前記した手順によって炭素繊維構造体の破壊試験を行ったところ、超音波印加30分後の初期平均繊維長(D50)は、12.4μmであったが、超音波印加500分後の平均繊維長(D50)は、6.3μmとほぼ半分の長さとなり、炭素繊維構造体において微細炭素繊維に多くの切断が生じたことが示された。しかしながら、超音波印加500分後の粒状部の平均径(D50)を、超音波印加30分後の初期初期平均径(D50)と対比したところ、その変動(減少)割合は、わずか4.2%であり、測定誤差等を考慮すると、微細炭素繊維に多くの切断が生じた負荷条件下でも、切断粒状部自体はほとんど破壊されることなく、繊維相互の結合点として機能していることが明らかとなった。
なお、合成例2で測定した各種物性値を、表4にまとめた。
ポリカーボネート樹脂(パンライトL−1225LL、帝人化成(株)製)に対し、合成例1で得られた微細炭素繊維構造体を2、5、10質量%の割合で配合し、射出プレス機(MDIP−1400、(株)名機製作所製)を用いて、射出プレス成型を行って厚さ4.8mmの成形板を得た。この成型板を460mm×460mmの大きさにカットして試料板を得た。
得られた試験板の電磁波吸収特性を前述の方法により調べた。その結果、表5に示すように微細炭素繊維構造体の添加量が2、5、10、25質量%のいずれのものにおいても、測定された1〜20GHzの全範囲の周波数、特に10GHz以上の範囲の電磁波に対し高い電磁波吸収特性を示した。
エポキシ樹脂(アデカレジンEP−4901E、旭電化工業(株)製、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、エポキシ当量170)に、合成例1で得られた微細炭素繊維構造体を配合し、自転−公転型遠心力撹拌機(あわとり練太郎AR−250、シンキー製)にて、自転800rpm、公転2000rpmの条件で2分間混練し、さらに、硬化剤(アデカハードナーEH−3895、旭電化工業(株)製)を添加して同装置にて、自転60rpm、公転2200rpmの条件で2分間混練して、微細炭素繊維構造体の添加量が0.05、0.22、0.5質量%となるエポキシ系樹脂組成物を製造した。
ここで得られたエポキシ系樹脂組成物を、2枚のガラス板を組み合わせたセル中に流し込み、50℃にて3分間減圧下に保持して脱泡処理した後、30℃にて一晩、さらに80℃にて3時間保持して硬化させ、200mm×200mm×3.9mm(0.5質量%のもののみ4.5mm厚)の試料板を得た。
得られた試験板の電磁波吸収特性を前述の方法により調べた。なお、上記試験板は4枚を隙間なく組み合わせて400mm×400mmとし、試験装置の開口部に組み付けた。
その結果、表6に示すように微細炭素繊維構造体の添加量が0.05、0.22、0.5質量%のいずれのものにおいても、測定された1〜20GHzの全範囲の周波数に対し電磁波吸収特性を示した。
1 生成炉
2 導入ノズル
3 衝突部
4 原料ガス供給口
a 導入ノズルの内径
b 生成炉の内径
c 衝突部の内径
d 生成炉の上端から原料混合ガス導入口までの距離
e 原料混合ガス導入口から衝突部の下端までの距離
f 原料混合ガス導入口から生成炉の下端までの距離
2 導入ノズル
3 衝突部
4 原料ガス供給口
a 導入ノズルの内径
b 生成炉の内径
c 衝突部の内径
d 生成炉の上端から原料混合ガス導入口までの距離
e 原料混合ガス導入口から衝突部の下端までの距離
f 原料混合ガス導入口から生成炉の下端までの距離
Claims (5)
- 外径15〜100nmの炭素繊維から構成される3次元ネットワーク状の炭素繊維構造体であって、前記炭素繊維構造体は、前記炭素繊維が複数延出する態様で、当該炭素繊維を互いに結合する粒状部を有しており、かつ当該粒状部は前記炭素繊維の成長過程において形成されてなるものである炭素繊維構造体を、全体の0.01〜25質量%の割合でマトリックス中に含有することを特徴とする電磁波吸収体。
- 前記炭素繊維構造体は、ラマン分光分析法で測定されるID/IGが、0.2以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載の電磁波吸収体。
- マトリックスが有機ポリマーを含むものである請求項1または2に記載の電磁波吸収体。
- マトリックスが無機材料を含むものである請求項1または2に記載の電磁波吸収体。
- 金属微粒子、シリカ、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、カーボンブラック、炭素繊維、ガラス繊維およびこれらの2種以上の混合物からなる群から選ばれてなるいずれか1つの充填材をさらに配合するものである請求項1〜4のいずれか1つに記載の電磁波吸収体。
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