JP2007112673A - 酸化物焼結体及びそれを用いて得られる酸化物膜、並びにその酸化物膜を含む積層体 - Google Patents

酸化物焼結体及びそれを用いて得られる酸化物膜、並びにその酸化物膜を含む積層体 Download PDF

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Abstract

【課題】スパッタリングターゲットとして用いた場合、高屈折率の酸化物膜を直流スパッタリング法によって安定かつ高速に成膜することが可能な酸化物焼結体及び酸化物焼結体を用いて得られる非晶質酸化物膜、並びにその非晶質酸化物膜を含む積層体を提供する。
【解決手段】主としてインジウム、セリウム、スズの酸化物を含む酸化物焼結体であって、総金属元素に対するセリウム原子の比率が5〜50原子%であり、総金属元素に対するスズ原子の比率が9〜27原子%であり、残部がインジウム原子比率である。
【選択図】なし

Description

本発明は、主としてインジウム、セリウム、ならびにスズを含む酸化物からなる酸化物焼結体及び酸化物焼結体を用いて得られる非晶質酸化物膜、並びにその非晶質酸化物膜を含む積層体に関する。特に、該酸化物焼結体をスパッタリングターゲットとして用いて直流(以下DCとも記すことがある)スパッタリング法で、屈折率2.05以上の高屈折率を有する酸化物膜を形成することが可能な酸化物焼結体、および該非晶質酸化物膜を形成した積層体に関する。
光学的に有用な酸化物膜は数多く知られており、各酸化物膜の特徴をうまく組み合わせた積層体としての応用がなされている。代表的な応用例としては、特定の波長の光が選択的に反射または透過するように設計した多層の反射防止膜が挙げられる。その他には、反射増加膜、干渉膜、偏光膜など数多くの応用例があり、非常に多岐にわたっている。また、光学特性のみならず、帯電防止性、熱線遮蔽性、電磁波遮蔽性などの付加価値を付けた機能性多層膜も提案されている。
多層構造の反射防止膜の分光特性は、各層の屈折率n、消衰係数kならびに膜厚dによって決定される。したがって、積層体の構成を設計する際には、多層膜を構成する各層のn、k、およびdのデータに基づいた計算によって行う。この場合、高屈折率膜と低屈折率膜を組み合わせることを基本とし、必要に応じて中間屈折率膜も組み入れることによって、より優れた光学特性をもつ多層膜の実現が容易になる。
一般に、高屈折率膜(n>1.9)としては、TiO2(n=2.4)、CeO2(n=2.3)、ZrO2(n=2.2)、Nb25(n=2.1)、Ta25(n=2.1)、WO3(n=2.0)などが知られている。
これら各種の酸化物膜を形成する方法としては、スパッタリング法、蒸着法、イオンプレーティング法、及び溶液塗布法がよく用いられている。その中でも、スパッタリング法は、蒸気圧の低い材料を使用する場合や、精密な膜厚制御を必要とする場合に有効な方法である。
スパッタリング法では、一般にアルゴンガスを使用し、約10Pa以下のガス圧のもとで、基板を陽極とし、成膜する酸化物透明導電膜の原料となるスパッタリングターゲットを陰極として電圧を印加する。電圧を印加された電極間には、グロー放電が起こってアルゴンプラズマが発生し、プラズマ中のアルゴン陽イオンが陰極のスパッタリングターゲットに衝突する。この衝突によって次々と弾き飛ばされる粒子が基板上に順次堆積して薄膜を形成する。
スパッタリング法は、アルゴンプラズマの発生方法によって分類される。高周波プラズマを用いるものは、高周波スパッタリング法といい、直流プラズマを用いるものは、直流スパッタリング法という。特に、直流スパッタリング法は、基板への熱ダメージが少なく、高速成膜が可能であり、電源設備が安価で、操作が簡便であるなどの特徴があるため、最適な成膜方法である。
なお、直流スパッタリング法を用いて酸化物膜を成膜する場合には、導電性スパッタリングターゲットを用いる必要がある。例えば、導電性物質の母体中に高抵抗物質が含まれたスパッタリングターゲットを用いて直流スパッタリングを行うと、アルゴン陽イオンの照射により高抵抗物質の部分が帯電し、アーク放電が発生して、安定して成膜することができない。特に、直流電力を多く投入するほど、高抵抗物質の帯電が起きやすく、成膜中のアーク放電発生頻度が増すため、高電力を投入して高成膜速度を得ることは不可能となってしまう。
しかし、前記した一般的な高屈折率酸化物膜は、いずれも導電性に乏しく、酸化物のスパッタリングターゲットを用いた場合、直流スパッタリング法によって安定した成膜を得ることができない。したがって、直流スパッタリング法による成膜によって、これらの高屈折率膜を得るためには、導電性を有する金属ターゲットを用いて、酸素を多く含む雰囲気で金属粒子と酸素を反応させながらスパッタリング(反応性スパッタリング法)を行うことが必要である。しかし、酸素を多く含む反応性スパッタリング法によって得られる薄膜の成膜速度は極めて遅いため、生産性が著しく損なわれる。その結果、高屈折率膜形成のコストが高くつき、製造上の大きな問題となっていた。
これに対して、特許文献1には、銀系薄膜を狭持する構成の導電膜の透明薄膜を成膜する際に適用されるスパッタリングターゲットにおいて、酸化インジウムと酸化セリウムを基材とする混合酸化物に、各々基材の混合割合より少ない量にて酸化スズを含有せしめた混合酸化物の焼結体であることを特徴とするスパッタリングターゲットが提案されている。このスパッタリングターゲットは、高導電性を示す酸化インジウムと高屈折率を示す酸化セリウムを基材とするため、直流(DC)スパッタリング法が可能であり、かつ高屈折率を示す透明導電膜を形成することが可能である。また、この透明導電膜は、酸化セリウムを基材とすることによって、安定な非晶質相を形成するため、透明電極としてパターニングに必要な酸によるエッチング特性にも優れている。
上記透明導電膜ならびに該スパッタリングターゲットは、そもそも透明電極用途への使用を想定されたものであったが、直流スパッタリング法によって形成可能な高屈折率膜として注目され、導電性の必要ない反射防止膜用途への応用が検討されている。しかし、該透明導電膜は、耐薬品性、とりわけ耐酸性に劣るという問題があった。
例えば、窓ガラスへの反射防止膜コーティングとしての用途を考えた場合、日常生活で最低限必要な耐酸性が求められる。ところが、耐酸性に劣る該透明導電膜を含む反射防止膜を窓ガラスにコーティングした場合、弱酸によって溶解されてしまい、反射防止効果が失われてしまう。
また、上記透明導電膜の他の用途として、反射防止効果に加えて、他の機能を付与した例となるPDP用の電磁波遮蔽シートがあげられる。
特許文献2には、基体と、基体上に形成された導電膜と、導電膜に電気的に接している電極とを有するプラズマディスプレイ用電磁波遮蔽シートであって、導電膜が、基体側から、酸化物層と金属層とが交互に計(2n+1)層[nは1以上の整数]積層された多層構造の導電膜であり、金属層が、Agを主成分としBiを含有することを特徴とするプラズマディスプレイ用電磁波遮蔽シートが提案されている。この電磁波遮蔽シートの酸化物層においても、前記した反射防止膜コーティングの場合と同様、最低限の耐酸性が必要であるが、特許文献2の透明導電膜では十分な耐酸性を得られなかった。
特開平9−176841号公報 特開2005−72255号公報
上記のように、特許文献1に記載のスパッタリングターゲットでは、高屈折率(n>1.9)を有する透明導電膜を直流スパッタリング法により安定かつ高速に成膜することが可能ではあるが、形成された透明導電膜は耐酸性に劣るという問題があった。また、特許文献2に記載の、プラズマディスプレイ用電磁波遮蔽シートに用いられる透明導電膜においても、十分な耐酸性を得られていなかった。
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、スパッタリングターゲットとして用いた場合、高屈折率の酸化物膜を直流スパッタリング法によって安定かつ高速に成膜することが可能な酸化物焼結体及び酸化物焼結体を用いて得られる非晶質酸化物膜、並びにその非晶質酸化物膜を含む積層体を提供することにある。
上記目的を達成するため、本発明による酸化物焼結体は、主としてインジウム、セリウム、スズの酸化物を含む酸化物焼結体であって、総金属元素に対するセリウム原子の比率が5〜50原子%であり、総金属元素に対するスズ原子の比率が9〜27原子%であり、残部がインジウム原子比率であることを特徴とする。
また、本発明による酸化物焼結体は、主としてインジウム、セリウム、スズ、ならびにチタンの酸化物を含む酸化物焼結体であって、総金属元素に対するセリウム原子の比率が5〜50原子%であり、総金属元素に対するスズ原子の比率が9〜27原子%であり、総金属元素に対するチタン原子の比率が5原子%以下であり、残部がインジウム原子比率であることを特徴とする。
また、本発明による酸化物焼結体は、好ましくは、総金属元素に対するセリウム原子の比率が11〜33原子%であり、総金属元素に対するスズ原子の比率が14〜27原子%であり、総金属元素に対するチタン原子の比率が0.1〜2原子%であり、残部がインジウム原子比率であることを特徴とする。
また、本発明による酸化物焼結体は、好ましくは、スパッタリングターゲットとして直流スパッタリング法で成膜することが可能であることを特徴とする。
本発明による酸化物膜は、上記いずれかの酸化物焼結体をスパッタリングターゲットとして用い、直流スパッタリング法で得られる酸化物膜であって、主としてインジウム、セリウム、スズを含む酸化物、または、主としてインジウム、セリウム、スズ、ならびにチタンを含む酸化物からなる非晶質膜であり、かつ屈折率が2.05以上であることを特徴とする。
本発明による積層体は、基体の片面または両面に、上記非晶質の酸化物膜を少なくとも一層以上形成してなることを特徴とする。
また、本発明による積層体は、好ましくは、反射防止膜として用いられることを特徴とする。
また、本発明による積層体は、好ましくは、電磁波遮蔽シートとして用いられることを特徴とする。
本発明によれば、酸化物焼結体ならびに酸化物焼結体をスパッタリングターゲットとして用いた場合に得られる酸化物膜に含まれる酸化スズの比率を、従来のスパッタリングターゲットならびに透明導電膜より高め、本発明の酸化物焼結体をスパッタリングターゲットとして用いた場合には、直流スパッタリング法によって安定かつ高速に成膜できるという特徴を損なうことなく、従来の透明導電膜にはなかった高い耐酸性を得ることができるという新たな効果を得ることができる。
また、本発明により得られる酸化物膜は、高い屈折率を維持し、その酸化物膜を含む積層体は反射防止用途に好適に適用できるので有用である。
さらに、本発明によれば、酸化物膜中のスズ原子の比率を高めることによって、結晶化温度が高められるという新たな効果が得られることが見出されている。結晶化温度は酸化物膜の表面粗さに大きく影響するため、結晶化温度を高めることにより、本発明による非晶質酸化物膜は、合金膜層との積層化においても表面粗さを増長させることなく、光の散乱による損失の抑制が可能であり、ディスプレイへの適用も可能であり有用である。
以下、本発明の実施の形態を説明するが、それに先立ち、本発明に至った経緯と本発明の特徴について説明する。
本発明者らは、前記目的を達成するため、従来のスパッタリングターゲット及びそれによって形成される透明導電膜に対して添加効果を有する多くの元素ならびに最適な添加量を鋭意検討した。数多くのターゲット組成を選択してターゲットを作製し、その中から、主としてインジウム、セリウム、スズの酸化物を含む酸化物焼結体であり、総金属元素に対するセリウム原子の比率が5〜50原子%であり、総金属元素に対するスズ原子の比率が9〜27原子%であり、残部がインジウム原子比率であるか、あるいは、主としてインジウム、セリウム、スズ、ならびにチタンの酸化物を含む酸化物焼結体であって、総金属元素に対するセリウム原子の比率が5〜50原子%であり、総金属元素に対するスズ原子の比率が9〜27原子%であり、総金属元素に対するチタン原子の比率が5原子%以下であり、残部がインジウム原子比率であるターゲットであれば、透明導電膜を直流スパッタリング法により安定かつ高速に成膜することが可能であり、形成された透明導電膜は耐酸性に優れることを見出し、本発明に至った。
すなわち、本第1の発明は、主としてインジウム、セリウム、スズの酸化物を含む酸化物焼結体であって、総金属元素に対するセリウム原子の比率が5〜50原子%であり、総金属元素に対するスズ原子の比率が9〜27原子%であり、残部がインジウム原子比率であることを特徴とする酸化物焼結体を提供する。
本第2の発明は、主としてインジウム、セリウム、スズ、ならびにチタンの酸化物を含む酸化物焼結体であって、総金属元素に対するセリウム原子の比率が5〜50原子%であり、総金属元素に対するスズ原子の比率が9〜27原子%であり、総金属元素に対するチタン原子の比率が5原子%以下であり、残部がインジウム原子比率であり、残部がインジウム原子比率であることを特徴とする酸化物焼結体を提供する。
本第3の発明は、総金属元素に対するセリウム原子の比率が11〜33原子%であり、総金属元素に対するスズ原子の比率が14〜27原子%であり、総金属元素に対するチタン原子の比率が0.1〜2原子%であり、残部がインジウム原子比率であることを特徴とする第2の発明に記載の酸化物焼結体を提供する。
本第4の発明は、スパッタリングターゲットとして直流スパッタリング法で成膜することが可能であることを特徴とする上記第1〜3の発明に記載の酸化物焼結体を提供する。
本第5の発明は、上記第1〜4の発明のいずれかに記載の酸化物焼結体をスパッタリングターゲットとして用い、直流スパッタリング法で得られる酸化物膜であって、主としてインジウム、セリウム、スズを含む酸化物、または、主としてインジウム、セリウム、スズ、ならびにチタンを含む酸化物からなる非晶質膜であり、かつ屈折率が2.05以上であることを特徴とする酸化物膜を提供する。
本第6の発明は、基体の片面または両面に、上記第5の発明に記載の非晶質の酸化物膜を少なくとも一層以上形成してなることを特徴とする積層体を提供する。
本発明の第7の発明は、反射防止膜として用いられることを特徴とする上記第6の発明に記載の積層体を提供する。
本第8の発明は、電磁波遮蔽シートとして用いられることを特徴とする上記第6の発明に記載の積層体を提供する。
次に、本発明の酸化物焼結体、および酸化物焼結体をスパッタリングターゲットとして用いて得られる非晶質酸化物膜、それを用いた積層体の作用効果について説明する。
1.酸化物焼結体
本発明の酸化物焼結体は、主としてインジウム、セリウム、スズの酸化物を含む酸化物焼結体であって、総金属元素に対するセリウム原子の比率が5〜50原子%であり、総金属元素に対するスズ原子の比率が9〜27原子%であり、残部がインジウム原子比率である酸化物焼結体、あるいは、主としてインジウム、セリウム、スズ、ならびにチタンの酸化物を含む酸化物焼結体であって、総金属元素に対するセリウム原子の比率が5〜50原子%、好ましくは11〜33原子%であり、総金属元素に対するスズ原子の比率が9〜27原子%、好ましくは14〜27原子%であり、総金属元素に対するチタン原子の比率が5原子%以下、好ましくは0.1〜2原子%であり、残部がインジウム原子比率である酸化物焼結体を、スパッタリングターゲットして用いた場合に、直流スパッタリング法で安定して放電させることが可能であり、該酸化物焼結体をスパッタリングターゲットとして用いて得られる非晶質酸化物膜は、耐酸性に優れた高屈折率(n>2.05)を有する非晶質酸化物膜となることが確認されている。
本発明の酸化物焼結体は、主としてインジウム、セリウム、スズの酸化物を含む酸化物焼結体であって、総金属元素に対するセリウム原子の比率が5〜50原子%であり、総金属元素に対するスズ原子の比率が9〜27原子%であり、残部がインジウム原子比率であることを特徴としている。
また、本発明の酸化物焼結体は、主としてインジウム、セリウム、スズ、ならびにチタンの酸化物を含む酸化物焼結体であって、総金属元素に対するセリウム原子の比率が5〜50原子%、好ましくは11〜33原子%であり、総金属元素に対するスズ原子の比率が9〜27原子%、好ましくは14〜27原子%であり、総金属元素に対するチタン原子の比率が5原子%以下、好ましくは0.1〜2原子%であり、残部がインジウム原子比率であることを特徴としている。
総金属元素に対するセリウム原子の比率は5〜50原子%、好ましくは11〜33原子%であることが必要である。セリウムを含む酸化物膜は高い屈折率を示し、総金属元素に対するセリウム原子の比率が5原子%以上であることが必要である。5原子%を下回ると、形成された酸化物膜が十分高い屈折率を示さなくなる。また50原子%を超えた場合、高い屈折率を得ることはできるが、安定した直流スパッタリングができなくなってしまう。高屈折率と直流スパッタリングの安定性をバランスよく実現させるためには、総金属元素に対するセリウム原子の比率が11〜33原子%であることが好ましい。
総金属元素に対するスズ原子の比率は9〜27原子%、好ましくは14〜27原子%であることが必要である。スズを多く含む酸化物膜は耐酸性を示し、セリウムと共存することによってより高い結晶化温度を示すため、総金属元素に対するスズ原子の比率が9原子%以上であることが必要である。9原子%を下回ると、形成された酸化物膜が十分な耐酸性を示さず、結晶化温度も十分高くならない。また27原子%を超えた場合、高い耐酸性と結晶化温度は示すものの、安定した直流スパッタリングができなくなってしまう。さらに、耐酸性、結晶化温度ならびに直流スパッタリングの安定性をバランスよく実現させるためには、総金属元素に対するスズ原子の比率が14〜27原子%であることが好ましい。
総金属元素に対するチタン原子の比率は5原子%以下、好ましくは0.1〜2原子%であることが必要である。チタンを全く含まない場合でも十分焼結可能であるが、上記比率とすることによって、焼結体密度の向上、焼結体組織の微細化による靱性向上、導電性の向上などの効果が得られる。これらの効果によって、直流スパッタリング法で成膜するターゲットとして用いた場合に、成膜時に高パワーを投入しても割れにくくすることが可能となる。しかし、チタン原子の比率が5原子%を超えると、耐アルカリ性が低下するため好ましくない。ただし、耐アルカリ性を要求しない用途では、その限りではない。
2.酸化物焼結体、スパッタリングターゲットの製造方法
本発明の酸化物焼結体は、純度4Nの酸化インジウム粉末、酸化セリウム粉末、酸化スズ粉末、および酸化チタン粉末を、総金属元素に対する各原子比率が本発明の範囲の比率となるよう配合し、有機バインダ、分散剤ならびに可塑剤とともにボールミルを48時間混合することが好ましい。上記原料となる酸化物の平均粒径は、適宜選定すれば良いが、それぞれ平均粒径3μm以下にボールミル等を用いて解砕して調整することが望ましい。ボールミルによる混合は、上記平均粒径が得られるように適宜選択すれば良いが、通常48時間程度行うことが好ましい。上記混合によって得られたスラリーを、スプレードライヤーによって噴霧乾燥し、造粒粉末を作製することが好ましい。
成形体を得るための成形方法は特に限定されないが、得られた造粒粉末をゴム型に入れ、静水圧プレス機によって成形体を作製することが好ましい。次に、得られた成形体を酸素気流中にて、所望の密度が得られるよう、常圧で焼結することが好ましい。
次に、得られた焼結体に円周加工ならびに表面研削加工を施し、所望のターゲット形状とした。加工後、焼結体をバッキングプレート用銅板にボンディング加工し、スパッタリングターゲットとする。
3.酸化物膜
上記のように、本発明の酸化物焼結体ならびに酸化物焼結体をスパッタリングターゲットとして用いた場合に得られた酸化物膜は、含まれるスズ原子の比率を、従来のスパッタリングターゲットならびに透明導電膜より高めている。これによって、従来の透明導電膜になかった高い耐酸性を得ることができ、反射防止膜として用いるに好適である。
また、本発明の酸化物焼結体をスパッタリングターゲットとして用いた場合には、直流スパッタリング法によって安定かつ高速に成膜できるという特徴が損なわれることなく、さらに、形成された酸化物膜は、従来の透明導電膜と同等の高い屈折率を維持し、上記酸化物膜を含む積層体では優れた反射防止効果用途に好適であるので有用である。さらに、酸化物膜中のスズ原子の比率を高めることによって、結晶化温度が高められるという新たな効果が得られることが見出されている。結晶化温度は酸化物膜の表面粗さに大きく影響するため、結晶化温度を高めることにより、本発明の非晶質酸化物膜は、合金膜層との積層化においても表面粗さを増長させることなく、光の散乱による損失の抑制が可能であり、ディスプレイへの適用も可能であり有用である。
ITO膜に代表される、一般的なインジウムを含む透明導電膜の結晶化温度は200℃程度であるが、本発明の酸化物膜は、酸化物膜中のスズの比率を高めて、セリウムと共存させることにより、結晶化温度が300〜400℃程度の範囲まで高められる。
結晶化温度は酸化物膜の表面粗さに大きく影響する。結晶化温度が200℃程度の酸化物膜の場合、酸化物膜の表面粗さは、膜厚にもよるが、算術平均高さ(Ra)は、数nmから十数nmである。ここで、算術平均高さ(Ra)は、JIS B0601−2001の定義に基づいている。この表面粗さが、算術平均高さ(Ra)において数nmから十数nmの場合、光学的に悪影響を及ぼす場合がある。
例えば、特許文献2の電磁波遮蔽シートでは、厚さ数十nmのAgを主成分としBiを含有する金属層と酸化物層の積層体を用いているが、この金属層は完全な結晶膜であり、その表面粗さは、算術平均高さ(Ra)において数nmから十数nmである。この金属層と、算術平均高さ(Ra)において数nmから十数nmの酸化物層を組み合わせて数層積層させると、表面粗さは増長されてしまい、光散乱の増加の要因となる。電磁波遮蔽能の要請から、金属層の厚さは数十nm程度必要であるが、この厚い金属層によって、透過させたい光の一部がすでに吸収されてしまい、さらに、酸化物膜の表面粗さに起因する散乱によって、さらに光を損失することとなり、ディスプレイへの適用に問題が生じてしまう。
これに対して、本発明の非晶質酸化物膜は、結晶化温度300〜400℃程度と高くなっており、膜面が極めて平滑となり、表面粗さは算術平均高さ(Ra)において0.5nm未満と低いことが確認されている。すなわち、本発明の非晶質酸化物膜は、合金膜層との積層化において、表面粗さを増長させることなく、光の散乱による損失の抑制が可能となる、という新たな効果を有している。
また、本発明に係る酸化物膜は、上記した酸化物焼結体をスパッタリングターゲットとして用い、直流スパッタリング法で得られる酸化物膜であって、主としてインジウム、セリウム、スズ、ならびにチタンの酸化物を含む酸化物非晶質膜であり、かつ屈折率が2.05以上であることを特徴としている。
上記した本発明の酸化物焼結体をスパッタリングターゲットとして用い、直流スパッタリング法で得られる酸化物膜は、その組成範囲を該酸化物焼結体とほぼ同じにすることで、2.05以上の高い屈折率を示す。そして、上記したように、反射防止膜や電磁波遮蔽シートとして、必要にして十分な耐酸性、ならびに高い結晶化温度に由来する膜表面の平滑性を有する。
3.積層体
本発明に係る積層体は、基体の片面または両面に、本発明の上記非晶質酸化物膜を少なくとも一層以上形成することを特徴とする。基体は、ガラス板、石英板、樹脂板若しくは樹脂フィルムの中から選ばれる基体であることが好ましい。必要に応じて、基体と酸化物膜の間にバリア膜や密着層を設けてもよい。
本発明に係る積層体は、反射防止膜として用いることが可能である。反射防止膜は、高屈折率膜と低屈折率の組み合わせによって形成される。例えば、3層反射防止膜は、基体の片面または両面に、高屈折率膜/低屈折率膜/高屈折率膜の構造となるよう、例えば、高屈折率膜として、屈折率2.05以上の非晶質酸化物膜を、低屈折率膜として、二酸化シリコン膜(屈折率n=1.46)を、および高屈折率膜として、屈折率2.05以上の非晶質酸化物膜を順に形成することによって得られる。高屈折率膜として、本発明の屈折率2.05以上の非晶質酸化物膜が用いられ、本発明の非晶質酸化物膜は耐酸性に優れるため、最表面層に用いた上記構造とすることが可能である。ここで、低屈折率を示す二酸化シリコン膜(屈折率n=1.46)の形成には直流スパッタリング法を用いることができないため高い成膜速度が得られないが、低屈折率膜/高屈折率膜/低屈折率膜の構造ではなく、上記構造とすることで、二酸化シリコン膜の層数を減らすことが可能であることから、製造効率の点でも有利となる。
また、本発明に係る積層体は、電磁波遮蔽シートとして用いることが可能である。電磁波遮蔽シートとしては、酸化物膜と金属膜による多層構造からなる導電膜によって構成されるものが好ましい。
一例として、図1に、9層構造の導電膜を有する電磁波遮蔽シート1を示す。なお、この図は、実際の形状とは異なり、簡略化したものである。電磁波遮蔽シート1は、基体2に導電膜3、次いで保護膜4を積層させた構造である。さらに、導電膜3は、酸化物膜31、33、35、37、39と金属膜32、34、36、38を交互に積層させた構造をとり、酸化物膜31、39は基体2、保護膜4にそれぞれ接している。酸化物膜として、本発明の、2.05以上の高い屈折率を有する非晶質酸化物膜を用いることが好ましい。金属膜としては、屈折率0.5以下の銀系合金膜を用いることが好ましい。特に、耐エレクトロマイグレーションに優れた、銀を主成分とするビスマスを含有する銀合金が好ましい。上記の構成の電磁波遮蔽シートは、その積層体中に、本発明の屈折率2.05以上の、耐酸性に優れる、非晶質酸化物膜が用いられていることから、電磁波遮蔽シートとして好ましい経時特性を有することとなる。
以下、実施例を用いて本発明をより具体的に説明する。
スパッタリングターゲット作製
純度4Nの酸化インジウム粉末、酸化セリウム粉末、酸化スズ粉末、および酸化チタン粉末を、それぞれ平均粒径3μm以下にボールミル解砕して調整した。その後、総金属元素に対する各原子比率が所定の比率となるよう配合し、有機バインダ、分散剤ならびに可塑剤とともにボールミルによって48時間混合し、スラリーを作製した。得られたスラリーを、スプレードライヤーによって噴霧乾燥し、造粒粉末を作製した。
得られた造粒粉末をゴム型に入れ、静水圧プレス機によって191mmφ、厚さ約6mmの成形体を作製した。同様にして得られた成形体を酸素気流中にて、任意の温度で、20時間、常圧焼結した。次に、焼結体に円周加工ならびに表面研削加工を施し、直径約6inch、厚さ約5mmの形状にした。加工後、焼結体を冷却銅板にボンディングし、スパッタリングターゲットとした。
酸化物膜の作製
スパッタリング装置は、アネルバ製特SPF−530Hを使用した。基板にはコーニング社製7059ガラス基板を用い、ターゲット面と平行になるように配置した。基板−ターゲット間距離は60mmとした。スパッタリングガスはアルゴンガスのみ、またはアルゴンと酸素からなる混合ガスとし、酸素を0.5%の比率として、全ガス圧を0.5Paに設定した。投入パワーは200Wとした。以上の条件でDCマグネトロンスパッタリングによる成膜を行った。使用するスパッタリングターゲットによって成膜時間を調整し、膜厚100nmまたは200nmの透明導電膜を形成した。
焼結体および酸化物膜評価
焼結体および酸化物膜の総金属元素に対するインジウム、セリウム、スズ、およびチタンの原子比率は、ICP発光分光分析法(セイコーインスツルメンツ社製SPS4000使用)で求めたインジウム、セリウム、スズ、およびチタンの重量から算出した。酸化物膜の膜厚は、触針式膜厚計(テンコール社製Alpha Step IQ)で測定した。焼結体および酸化物の比抵抗は、四探針法(三菱化学製LORESTA−IP、MCP−T250使用)で測定した表面抵抗から算出した。
基板を含めた酸化物膜の光透過率(TS+F(%))を、分光光度計(日立製作所社製、U−4000)で測定した。同様の条件で基板のみの光透過率(TS(%))も測定し、(TS+F/TS)×100を膜自体の光透過率(TF(%))として算出した。視感度透過率は、JIS Z 8701で規定されている刺激値Yを求めた。
酸化物膜の屈折率は、分光エリプソメトリ(J.A.Woollam製 VASE)を用いて測定した。
酸化物膜の結晶化温度は、X線回折装置(PANalytical製、CuKα線使用)を用いた、薄膜の高温X線回折測定から算出した。すなわち、回折角1°当たり2℃の割合で昇温しながら、回折角2θ=30〜40°の範囲を繰り返しスキャンし、In23(222)の反射によるピークが出現する前後の温度範囲を結晶化温度とした。
算術平均高さ(Ra)は、原子間顕微鏡(AFM、Digital Instruments社製Nanoscope III使用)で測定し、JIS B0601−2001に基づき算出した。
耐酸性評価
本発明に係る酸化物膜を反射膜や電磁波遮蔽シートに適用した場合に、耐酸性が求められる。耐酸性の指標として最も弱い酸の一つであるリン酸による評価を行った。評価試験として、1mlの1%リン酸水溶液を膜表面に滴下し、24時間放置した。試験後、外観の変化を目視にて観察した。この場合の基準は、膜厚の10%以上の溶解痕もしくは着色が認められた場合は「変化あり」と定めた。ただし、10%に満たないリン酸液の滴下痕程度は「変化なし」とした。目視による外観の変化がない場合は表面抵抗と光透過率の変化を調べた。
(実施例1〜6)
総金属元素に対するスズ原子の比率を14原子%、チタン原子の比率を0.1原子%に固定し、セリウム原子の比率を3〜60原子%の範囲となるよう、酸化インジウム粉末、酸化セリウム粉末、酸化スズ粉末、および酸化チタン粉末を配合して、上記方法により酸化物焼結体を作製し、スパッタリングターゲットに加工した。
次に、各組成のスパッタリングターゲットを用いて、直流スパッタリング法によって酸化物膜を成膜した。得られた各焼結体ならびに各酸化物膜の組成は、粉末の配合組成とほぼ同じであることを確認した。
表1に、直流スパッタリングの可否、酸化物膜の屈折率、耐リン酸性評価試験結果を示した。
表1
Figure 2007112673
(実施例7〜9)
総金属元素に対するスズ原子の比率を21原子%、チタン原子の比率を0.4原子%に固定し、セリウム原子の比率を11〜33原子%の範囲となるよう、酸化インジウム粉末、酸化セリウム粉末、酸化スズ粉末、および酸化チタン粉末を配合した点を除いては、実施例1〜6と同様に、酸化物焼結体を作製し、スパッタリングターゲットに加工した。
さらに、得られた各焼結体ならびに各膜の組成は、粉末の配合組成とほぼ同じであることを確認した。
表2に、直流スパッタリングの可否、酸化物膜の屈折率、耐リン酸性評価試験結果を示した。
表2
Figure 2007112673
(実施例10、11)
総金属元素に対するセリウム原子の比率を22原子%、チタン原子の比率を2原子%に固定し、スズ原子の比率を9または27原子%となるよう、酸化インジウム粉末、酸化セリウム粉末、酸化スズ粉末、および酸化チタン粉末を配合した点を除いては、実施例1〜6と同様に、酸化物焼結体を作製し、スパッタリングターゲットに加工した。
さらに、得られた各焼結体ならびに各膜の組成は、粉末の配合組成とほぼ同じであることを確認した。
表3に、直流スパッタリングの可否、酸化物膜の屈折率、耐リン酸性評価試験結果を示した。
表3
Figure 2007112673
(実施例12、13)
総金属元素に対するセリウム原子の比率を22原子%、スズ原子の比率を9原子%に固定し、チタン原子の比率を0または5原子%となるよう、酸化インジウム粉末、酸化セリウム粉末、酸化スズ粉末、および酸化チタン粉末を配合した点を除いては、実施例1〜6と同様に、酸化物焼結体を作製し、スパッタリングターゲットに加工した。さらに、得られた各焼結体ならびに各膜の組成は、粉末の配合組成とほぼ同じであることを確認した。
表4に、直流スパッタリングの可否、酸化物膜の屈折率、耐リン酸性評価試験結果を示した。
表4
Figure 2007112673
(実施例14)
図1の電磁波遮蔽シート1を次のような構成で作製した。基体2を厚さ100μmのPETフィルム基板(東洋紡績社製)とした。基体2上に、導電膜3として、実施例8と同じ酸化物膜と0.5原子%ビスマスを添加した銀合金膜を交互に9層積層させた多層膜を形成した。導電膜3を構成する各膜の膜厚は、酸化物膜31、33、35、37、39を各々、40nm、80nm、80nm、80nm、35nmとし、金属膜32、34、36、38を各々、13nm、16nm、16nm、13nmとした。続いて、保護膜4として、ITO(10重量%酸化スズ添加酸化インジウム)膜を、膜厚が5nmとなるよう形成した。
(比較例1、2)
総金属元素に対するセリウム原子の比率を3または55原子%となるよう、酸化インジウム粉末、酸化セリウム粉末、酸化スズ粉末、および酸化チタン粉末を配合した点を除いては、実施例1〜6と同様に、酸化物焼結体を作製し、スパッタリングターゲットに加工した。さらに、得られた各焼結体ならびに各膜の組成は、粉末の配合組成とほぼ同じであることを確認した。
表5に、直流スパッタリングの可否、酸化物膜の屈折率、耐リン酸性評価試験結果を示した。
表5
Figure 2007112673
(比較例3、4)
総金属元素に対するスズ原子の比率を5または30原子%となるよう、酸化インジウム粉末、酸化セリウム粉末、酸化スズ粉末、および酸化チタン粉末を配合した点を除いては、実施例10、11と同様に、酸化物焼結体を作製し、スパッタリングターゲットに加工した。さらに、得られた各焼結体ならびに各膜の組成は、粉末の配合組成とほぼ同じであることを確認した。
表6に、直流スパッタリングの可否、酸化物膜の屈折率、耐リン酸性評価試験結果を示した。
表6
Figure 2007112673
(比較例5)
総金属元素に対するセリウム原子およびスズ原子の比率を3原子%となるよう、酸化インジウム粉末、酸化セリウム粉末、酸化スズ粉末、および酸化チタン粉末を配合した点を除いては、実施例1〜6と同様に、酸化物焼結体を作製し、スパッタリングターゲットに加工した。さらに、得られた各焼結体ならびに各膜の組成は、粉末の配合組成とほぼ同じであることを確認した。
表7に、直流スパッタリングの可否、酸化物膜の屈折率、耐リン酸性評価試験結果を示した。
表7
Figure 2007112673
(比較例6)
導電膜を構成する酸化物膜をAZO(3重量%酸化アルミニウム添加酸化亜鉛)膜に変更した以外は、実施例14とほぼ同じ電磁波遮蔽シートを作製した。
「評価1」(実施例1〜6、比較例1、2)
実施例1〜6、比較例1、2において、得られたそれぞれの酸化物焼結体をスパッタリングターゲットとして用いた場合について、諸特性を評価した。実施例1〜6ならびに比較例1、2では、酸化物焼結体ならびに酸化物膜に含まれる総金属元素に対するセリウム原子比率による影響を調べた。
はじめに直流スパッタリングの可否を評価した。アーク放電が起きない安定した直流スパッタリングが可能な場合、○と表記し、合格とした。放電状態が安定しない場合、×と表記し、不合格とした。表1ならびに表5の評価結果に示したように、総金属元素に対するセリウム原子比率が50原子%までは安定した放電が可能であるが、比較例2の55原子%では放電状態が不安定となることが明らかとなった。
次に、直流スパッタリングによって得られた酸化物膜の屈折率を調べた。総金属元素に対するセリウム原子比率が5原子%以上の場合は屈折率2.05以上を示すが、比較例1の3原子%では屈折率2.05未満であった。すなわち、十分高い屈折率を得るためには5原子%以上であることが明らかとなった。
さらに、放電状態が不安定となるため、直流スパッタリングで成膜不可能であった、総金属元素に対するセリウム原子比率が55原子%の場合(比較例2)を除き、各組成の酸化物膜のリン酸滴下試験を実施した。リン酸滴下試験前後で、外観変化ならびに比抵抗および光透過率に変化がない場合、○と表記し、合格とした。変化がある場合、×と表記し、不合格とした。いずれの酸化物膜においてもリン酸滴下試験の結果は合格であり、スズ原子が総金属元素に対して14原子%含まれることにより、高い耐酸性を示した。
以上から、総金属元素に対するセリウム原子比率が5〜50原子%である酸化物焼結体をスパッタリングターゲットとして用いた場合に、安定した直流スパッタリングが可能であり、形成されたほぼ同組成の酸化物膜の屈折率が2.05以上であって、かつ高い耐酸性を示すことが明らかとなった。
「評価2」(実施例7〜9)
実施例7〜9では、酸化物焼結体ならびに酸化物膜に含まれる総金属元素に対するセリウム原子比率を特に11〜33原子%とした場合の評価を実施した。
はじめに直流スパッタリングの可否を評価した。表2の評価結果に示したように、総金属元素に対するセリウム原子比率が11〜33原子%において、安定した放電が可能であることが明らかとなった。
次に、直流スパッタリングによって得られた酸化物膜の屈折率を調べた。総金属元素に対するセリウム原子比率が11〜33原子%である膜は、いずれも屈折率2.1以上を示すことが明らかとなった。
さらに、各組成の酸化物膜のリン酸滴下試験を実施した。いずれの酸化物膜においてもリン酸滴下試験の結果は合格であり、スズ原子が総金属元素に対して21原子%含まれることにより、高い耐酸性を示した。特に、実施例8に関して、リン酸滴下試験前後の各特性の値を比較した。その結果、可視域の平均透過率は、試験前87.0%に対し、試験後86.7%を示し、ほとんど変化がなかった。また、比抵抗は試験前1.67×10±0Ω・cmに対し、試験後1.64×10±0Ω・cmであり、ほとんど変化がなかった。したがって、リン酸試験前後で目視による外観変化がない場合、光学特性や電気特性もほとんど変化がないことが示された。
以上から、総金属元素に対するセリウム原子比率が特に11〜33原子%である酸化物焼結体をスパッタリングターゲットとして用いた場合に、安定した直流スパッタリングが可能であり、形成された酸化物膜の屈折率が2.1以上であって、かつ高い耐酸性を示すことが明らかとなった。
「評価3」(実施例10〜13、比較例3、4)
実施例10〜13、比較例3,4では、総金属元素に対するセリウム原子の比率を固定して、酸化物焼結体ならびに酸化物膜に含まれる総金属元素に対するスズ原子比率の影響を調べた。また同時に、総金属元素に対するチタン原子比率の影響も調べた。
はじめに直流スパッタリングの可否を評価した。表2の評価結果に示したように、総金属元素に対するスズ原子比率が9〜27原子%において、安定した放電が可能であったが、スズ原子30原子%では、アーク放電が頻発し、安定した放電はできなかった。
次に、直流スパッタリングによって得られた酸化物膜の屈折率を調べた。総金属元素に対するスズ原子比率に関係なく、膜形成可能であった場合は、いずれも屈折率2.1以上を示した。
さらに、各組成の酸化物膜のリン酸滴下試験を実施した。スズ原子が総金属元素に対して9原子%以上含まれる場合は、リン酸滴下試験の結果は合格となり、高い耐酸性を示した。しかし、それ以下である比較例3の5原子%では不合格であった。
また、総金属元素に対するチタン原子比率が5原子%以下であれば、直流スパッタリングが可能であり、屈折率2.1以上を示し、かつリン酸滴下試験で合格であった。
以上から、総金属元素に対するスズ原子比率が9〜27原子%ならびにチタン原子が5原子%以下である酸化物焼結体をスパッタリングターゲットとして用いた場合に、安定した直流スパッタリングが可能であり、形成された酸化物膜の屈折率が2.05以上であって、かつリン酸滴下試験に合格することが明らかとなった。
「評価4」(実施例1、2、6〜9、比較例5)
酸化物薄膜の総金属元素に対するセリウム原子ならびにスズ原子の比率の違いによる結晶化温度ならびに表面粗さの測定を行った。
実施例1の酸化物膜について高温X線回折測定を実施したところ、測定温度342℃、回折角2θ=31.32°において、最初のIn23(222)の反射によるピークが出現した。すなわち、結晶化は322〜342℃の温度範囲で起こることがわかった。また、表面粗さを測定したところ、算術平均高さがRa=0.41nmであり、膜表面は極めて平滑であることがわかった。実施例2、6〜9についても、同様の測定を行ったところ、結晶化温度範囲は各々、342〜362℃、382〜402℃、362〜382℃、362〜382℃、382〜402℃であり、算術平均高さはRa=0.42、0.32、0.34、0.35、0.34nmであることがわかった。
一方、比較例5の酸化物膜については、結晶化温度は182〜202℃の範囲であることがわかった。また、表面粗さは、算術平均高さがRa=2.75nmであり、膜表面には微結晶が認められ、荒れた表面を呈していることがわかった。
以上から、本発明の非晶質酸化物薄膜は、高結晶化温度に由来して膜面が極めて平滑であることが明らかである。したがって、銀合金膜層との積層化において表面粗さを増長させることなく、光の散乱による損失の抑制が可能である。
「評価5」(実施例14、比較例6)
実施例14ならびに比較例6で作製した電磁波遮蔽シートの表面抵抗値および視感透過率(JIS Z 8701に規定される刺激値Y)を比較した。
表面抵抗値は、実施例14が0.87Ω/□、比較例6が0.84Ω/□を示し、ほぼ同等であった。
視感透過率は、比較例6が60.9%であるのに対し、実施例14は66.1%の高い値を示し、優位性が認められた。
以上から、本発明の2.05以上の高い屈折率を示す酸化物膜を適用した場合、光学特性に優れた電磁波遮蔽シートが作製可能であることが示された。
電磁波遮蔽シートの横断面を示す図である。
符号の説明
1 電磁波遮蔽シート
2 基体
3 導電膜
31、33、35、37、39 酸化物膜
32、34、36、38 金属膜
4 保護膜

Claims (8)

  1. 主としてインジウム、セリウム、スズの酸化物を含む酸化物焼結体であって、総金属元素に対するセリウム原子の比率が5〜50原子%であり、総金属元素に対するスズ原子の比率が9〜27原子%であり、残部がインジウム原子比率であることを特徴とする酸化物焼結体。
  2. 主としてインジウム、セリウム、スズ、ならびにチタンの酸化物を含む酸化物焼結体であって、総金属元素に対するセリウム原子の比率が5〜50原子%であり、総金属元素に対するスズ原子の比率が9〜27原子%であり、総金属元素に対するチタン原子の比率が5原子%以下であり、残部がインジウム原子比率であることを特徴とする酸化物焼結体。
  3. 総金属元素に対するセリウム原子の比率が11〜33原子%であり、総金属元素に対するスズ原子の比率が14〜27原子%であり、総金属元素に対するチタン原子の比率が0.1〜2原子%であり、残部がインジウム原子比率であることを特徴とする請求項2に記載の酸化物焼結体。
  4. スパッタリングターゲットとして直流スパッタリング法で成膜することが可能であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の酸化物焼結体。
  5. 請求項1〜4のいずれかに記載の酸化物焼結体をスパッタリングターゲットとして用い、直流スパッタリング法で得られる酸化物膜であって、主としてインジウム、セリウム、スズを含む酸化物、または、主としてインジウム、セリウム、スズ、ならびにチタンを含む酸化物からなる非晶質膜であり、かつ屈折率が2.05以上であることを特徴とする酸化物膜。
  6. 基体の片面または両面に、請求項5に記載の非晶質の酸化物膜を少なくとも一層以上形成してなることを特徴とする積層体。
  7. 反射防止膜として用いられることを特徴とする請求項6に記載の積層体。
  8. 電磁波遮蔽シートとして用いられることを特徴とする請求項6に記載の積層体。
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