しかし、上述のような従来のワイピングを行っても、1μm以下程度の微細な付着物がノズルプレートの表面に残留している場合がある。この原因は、ワイピング前から付着していた付着物をワイピングによって排除できなかったためというわけではなく、ワイピング前にノズルプレートの表面を濡らしたインクのうち、目視不能なレベルの微量のインクがノズルプレートの表面に残留し、その残留した微量のインクが乾燥・固化したために1μm以下程度の付着物が発生したためであると考えられる。すなわち、ワイピング前から存在した付着物は除去できるものの、ワイピング自体によって新たに付着物を生成するという課題がある。
上述の課題は、特にインクジェットヘッドのワイピングによってワイパが当接する面に段差がある場合、その段差部の近傍にインクが溜まりやすくなるので特に顕著に現れる。
付着物がノズル孔近傍に存在すれば、吐出するインクと付着物とが干渉して、インクの着弾精度が劣化する。
ノズル孔の直径は、所望とするインク吐出量に応じて設定されるが、一般的には概ね10μm〜100μm程度である。1μm以下程度の付着物が着弾精度に及ぼす影響は大きくはないが、高精度の着弾精度が要求されつつある状況においては、微細な付着物の発生をも抑止するべきである。
また、付着物がノズル孔の近傍に発生していれば、インクミストなどのインク成分が、ノズルプレートに飛着した際に付着物にトラップされて乾燥・固化し、徐々に付着物が増大し、早期に着弾精度の急激な劣化を招く危険性もある。
ワイピングにおいては、ワイパの進行方向の前面にのみノズルプレートを濡らしたインクが存在するのではなく、ワイパの側方などを伝ってワイパの後面にインクが回り込む場合がある。従来のワイピングでは、ワイパの進行方向の後面に回り込んだインクはノズルプレートの表面に残留するが、ワイパの後面に回りこんだインクがワイパに追随して動くようにすることによって、微量のインクの残留を抑制し、ノズルプレートの表面における付着物の発生を抑制できると考えられる。
この発明の目的は、ノズルプレートの表面における付着物の発生を抑制することで、インクの着弾精度の劣化を抑制できるインクジェットヘッド、インク吐出装置、及び、インクジェットヘッドの製造方法を提供することにある。
この発明のインクジェットヘッド装置は、上述の課題を解決するために以下のように構成される。
(1)インクを吐出するノズル孔を有するノズルプレートを備え、
前記ノズルプレートは、1.5μLの純水滴に対する転落角が40度以下であるとともに、水平面から40度の傾斜をつけられた際に4μLの純水滴が1分間に移動する距離が2mm以上である撥水性を有する撥水膜を表面に備えることを特徴とする。
この構成においては、撥水膜は、1.5μLの純水滴に対する転落角が40度以下であるという撥水性を有するので、撥水膜上の純水滴は低負荷で移動を開始できる。また、撥水膜は、水平面から40度の傾斜をつけられた際に4μLの純水滴が1分間に移動する距離が2mm以上であるという撥水性を有するので、撥水膜上の純水滴は迅速に移動できる。このため、ノズルプレートの表面にある微量のインクは、低負荷で移動を開始できるとともに、移動を開始した後も引き続き迅速に移動できる。
したがって、ノズルプレートの表面をワイピングするワイパの進行方向の前面にあるインクは、ワイピングによってノズルプレートの表面から容易に排除される。また、ワイパの進行方向の後面に回り込んだインクは、ワイパにともなわれて容易に移動を開始するとともにワイパに追随して移動し、ノズルプレートの表面から排除される。
(2)前記撥水膜は、フッ素系シランカップリング剤で形成されていることを特徴とする。
この構成においては、撥水膜は、フッ素系シランカップリング剤で形成される。シランカップリング剤は一般的に、YnSiX4−n(n=1,2,3)で表される化合物であり、Xは、ハロゲン、メトキシ基、エトキシ基などであり、加水分解されることでシラノール基(Si−OH)となる。シラノール基がノズルプレートの基材の表面の水酸基などと縮合反応を起こすことで、撥水膜は基材と強固に結合する。
フッ素系シランカップリング剤とは、上述のシランカップリング剤のうち、Yがフッ素を含む分子構造を持つものであり、高い撥水性を有する。また、フッ素系シランカップリング剤は、基材と化学的に結合するため、優れた耐摩耗性を有する。
(3)前記ノズルプレートは、高分子材料からなる基材をさらに備え、
前記撥水膜は、層厚が30nm以下である密着層を挟んで前記基材の表面に形成されていることを特徴とする。
この構成においては、基材が高分子材料からなるので、ノズル孔の加工をエキシマレーザによって、精度良く、かつ、比較的簡易に行うことが可能となる。
また、フッ素系シランカップリング剤が結合しやすい密着層をあらかじめ基材表面に形成した後にフッ素系シランカップリング剤によって撥水膜を形成することで、撥水膜が基材に、より結合しやすくなる。
さらに、密着層を30nm以下という極薄にすることで、エキシマレーザによる加工精度が高く維持される。
(4)前記密着層の層厚は、5nm以上であることを特徴とする。
この構成においては、密着層の層厚を5nm以上にすることで、基材が密着層によって、満遍なく且つ再現性よく被覆される。
(5)前記密着層は、無機酸化物からなることを特徴とする。
(A)密着層は撥水膜にわずかに染み込み、密着層にインクが到達する場合があること、(B)撥水膜に微細なピンホールが存在した場合に、密着層にインクが接する場合があること、(C)撥水膜を形成した後にノズル孔の加工が行われ、密着層の断面が露出した場合に、その露出した密着層にインクが接すること、などのため、密着層として、インクと接触しても化学的に侵されないものを選択する必要がある。
この構成においては、密着層は、無機酸化物からなり、無機酸化物は酸化反応が進行して化学的に安定であるため、化学反応を起こしにくい。このため、無機酸化物からなる密着層は、耐薬品性に優れ、多様なインクに対して安定的である。
また、ノズルプレートの製造工程において、基材に密着層が形成された後、フッ素系シランカップリング剤によって表層に撥水膜が形成されるまでの間、通常の保管状態では密着層が大気に晒されることとなる。密着層が無機酸化物でない場合は、徐々に密着層の表層が酸化し、密着層の表面状態が経時的に変化してしまうのに対して、密着層が無機酸化物である場合は、密着層の表面状態を一定に保つことができる。このため、密着層は、フッ素系シランカップリング剤と良好に化学結合することが可能である。
さらに、密着層に有機分子が吸着する、即ち、有機汚染が起きた場合でも、簡易なアッシング処理によって、有機分子を密着層から除去できる。密着層は既に酸化が進行しているので、密着層から有機分子を除去した後の密着層の表層状態は、アッシング処理する前の初期の状態と変わりない。したがって、ノズルプレートの表面に良好に撥水膜が形成される。
この発明のインク吐出装置は、上述の課題を解決するために以下のように構成される。
(6)前記請求項1から5のいずれかに記載のインクジェットヘッドと、
インクを吐出する吐出部をワイピングするワイパと、を備え、
前記インクは、粒子分散系インクであることを特徴とする。
この構成においては、インクの吐出部がワイパによってワイピングされる。粒子分散系インクが吐出部から吐出された場合、吐出部をワイピングして乾燥・固化した付着物を吐出部から除去する必要性が高くなるが、(1)〜(5)に記載のインクジェットヘッドを用いることで、微量なインクまでもがノズルプレートの表面から除去される。
(7)前記吐出部は、段差を有することを特徴とする。
インクジェットヘッドは一般的に、ヘッド保持部材に接着剤などによって固定される。このとき、接着剤がインクジェットヘッドのノズルプレートへ回り込み、ノズル孔が接着剤で塞がれるという問題が発生し得る。この問題を回避するためには、ヘッド保持部材からインクジェットヘッドの前面が突き出すように構成することが望ましいが、このように構成した場合は、ワイパが当接するインクジェットヘッドの吐出部が段差を有することになる。
インクジェットヘッドの吐出部が段差を有している場合、段差の部分にインクが溜まりやすいので、ワイピング時にワイパの進行方向の後面にインクが回り込みやすくなる。
しかし、この構成においては、吐出部が段差を有し、ワイピング時にワイパの進行方向の後面にインクが回り込んだ場合でも、微量なインクまでもがノズルプレートの表面から除去される。
(8)前記ワイパは、1mm/秒以上の速度で前記吐出部をワイピングすることを特徴とする。
この構成においては、低負荷で移動を開始できるとともに、移動を開始した後も引き続き迅速に移動できるような撥水膜がノズルプレートの表面に備えられるので、1mm/秒以上という比較的高速のワイピング速度の場合であっても、ワイパの進行方向の後面に回り込んだインクがワイパに追随できる。このため、ワイパのワイピング速度を落とすことなく、ノズルプレートへのインクの残留が抑制される。
この発明のインクジェットヘッドの製造方法は、上述の課題を解決するために以下のように構成される。
(9)ヘッド本体に接着されたノズルプレートのノズル孔からインクを吐出するインクジェットヘッドの製造方法において、
前記ノズルプレートの基材の表面に密着層を形成する密着層形成工程と、
前記密着層の表面に、1.5μLの純水滴に対する転落角が40度以下であるとともに、水平面から40度の傾斜をつけられた際に4μLの純水滴が1分間に移動する距離が2mm以上である撥水性を有する撥水膜を形成する撥水膜形成工程と、
前記ノズル孔を形成するノズル孔形成工程と、を備え、
前記ノズル孔形成工程は、少なくとも前記密着層形成工程より後に行われることを特徴とする。
この構成においては、撥水膜は、1.5μLの純水滴に対する転落角が40度以下であるという撥水性を有するので、撥水膜上の純水滴は低負荷で移動を開始できる。また、撥水膜は、水平面から40度の傾斜をつけられた際に4μLの純水滴が1分間に移動する距離が2mm以上であるという撥水性を有するので、撥水膜上の純水滴は迅速に移動できる。このため、ノズルプレートの表面にある微量のインクは、低負荷で移動を開始できるとともに、移動を開始した後も引き続き迅速に移動できる。
したがって、ノズルプレートの表面をワイピングするワイパの進行方向の前面にあるインクは、ワイピングによってノズルプレートの表面から容易に排除される。また、ワイパの進行方向の後面に回り込んだインクは、ワイパにともなわれて容易に移動を開始するとともにワイパに追随して移動し、ノズルプレートの表面から排除される。
また、この構成においては、ノズル孔形成工程が密着層形成工程より後に行われるので、密着層がノズル孔の内壁に形成されない。このため、撥水膜形成工程においてノズル孔の内壁に撥水膜が形成されないので、ノズル孔の内壁の撥水性がばらつくことによるノズル孔の吐出性のばらつきが生じない。
(10)前記ノズル孔形成工程は、前記撥水膜形成工程より後に行われることを特徴とする。
この構成においては、ノズル孔形成工程が撥水膜形成工程より後に行われるので、ノズル孔の内壁に撥水膜が形成されない。このため、ノズル孔の内壁の撥水性がばらつくことによるノズル孔の吐出性のばらつきが生じない。
(11)前記ノズル孔形成工程では、エキシマレーザ加工が行われることを特徴とする。
この構成においては、ノズル孔形成工程が密着層形成工程より後に行われた場合であっても、エキシマレーザ加工によってノズル孔が良好な形状に形成される。
この発明によれば、以下の効果を奏することができる。
(1)ノズルプレートの表面にあるインクが、低負荷で移動を開始できるとともに、移動を開始した後も引き続き迅速に移動できるような撥水膜をノズルプレートの表面に備えたことによって、ノズルプレートの表面をワイピングするワイパの進行方向の前面にあるインクを、ワイピングによってノズルプレートの表面から容易に排除することができる。また、ワイパの進行方向の後面に回り込んだインクを、ワイパに追随して移動させることで、ノズルプレートの表面から排除することができる。このため、目視不能なレベルの微量のインクがノズルプレートの表面に残留することを抑制できるので、ノズルプレートの表面における微小な付着物の発生をも抑制できる。したがって、ノズル孔から吐出されたインクの着弾精度の劣化を抑制することができる。
(2)撥水膜をフッ素系シランカップリング剤で形成することで、ノズルプレートの表面は、高い撥水性を有するとともに、優れた耐摩耗性を有する。したがって、ワイピングに対するノズルプレートの耐摩耗性を向上させることができ、ノズルプレートの耐久性を向上させることができる。
(3)フッ素系シランカップリング剤が結合しやすい密着層を挟んで撥水膜を基材の表面に形成することで、ノズルプレートの表面の耐摩耗性をより向上させることができる。
また、基材を高分子材料で形成し、密着層を30nm以下という極薄にすることで、ノズルプレートのノズル孔を高精度に形成することができる。したがって、ノズル孔から吐出されたインクの着弾精度を高くすることができる。
(4)密着層の層厚を5nm以上にすることで、基材を密着層によって満遍なく且つ再現性よく被覆できるので、ノズルプレートの表面に撥水膜を満遍なく且つ再現性よく設けることができる。したがって、ノズルプレートの表面に満遍なく且つ再現性よく高い撥水性を生じさせることができる。
(5)密着層は酸化反応が進行して化学的に安定な無機酸化物からなるので、密着層がインク又は空気によって化学的に侵されることを抑制することができる。また、密着層が有機汚染された場合でも、密着層の表層状態を変化させることなく、簡易なアッシング処理によって有機分子を密着層から除去することができる。したがって、ノズルプレートの表面に、密着層を挟んで基材に強固に固定された撥水膜を形成することができる。
(6)吐出部をワイピングして乾燥・固化した付着物を吐出部から除去する必要性が高くなる粒子分散系インクを吐出部から吐出した場合でも、(1)〜(5)に記載のインクジェットヘッドを用いることで、微量なインクをもノズルプレートの表面から除去することができる。したがって、インクの着弾精度の劣化を抑制することができる。
(7)吐出部が段差を有し、ワイピング時にワイパの進行方向の後面にインクが回り込んだ場合でも、微量なインクまでをもノズルプレートの表面から除去することができる。したがって、ノズルプレートの表面における微小な付着物の発生を抑制し、インクの着弾精度の劣化を抑制することができる。
(8)低負荷で移動を開始できるとともに、移動を開始した後も引き続き迅速に移動できるような撥水膜をノズルプレートの表面に備えることで、1mm/秒以上という比較的高速のワイピング速度の場合であっても、ワイパの進行方向の後面に回り込んだインクをワイパに追随させることができる。このため、ワイパのワイピング速度を落とすことなく、ノズルプレートへのインクの残留を抑制できる。したがって、ワイピングなどのメンテナンス作業を短時間で行うことができるので、インク吐出装置による生産効率(又は画像形成効率)を低下させずにノズルプレートの表面へのインクの残留を抑制することができる。
(9)ノズルプレートの表面にあるインクが、低負荷で移動を開始できるとともに、移動を開始した後も引き続き迅速に移動できるような撥水膜をノズルプレートの表面に備えたことによって、ノズルプレートの表面をワイピングするワイパの進行方向の前面にあるインクを、ワイピングによってノズルプレートの表面から容易に排除することができる。また、ワイパの進行方向の後面に回り込んだインクを、ワイパに追随して移動させることで、ノズルプレートの表面から排除することができる。このため、目視不能なレベルの微量のインクがノズルプレートの表面に残留することを抑制できるので、ノズルプレートの表面における微小な付着物の発生をも抑制できる。したがって、ノズル孔から吐出されたインクの着弾精度の劣化を抑制することができる。
また、ノズル孔形成工程を密着層形成工程より後に行うことで、密着層がノズル孔の内壁に形成されない。このため、撥水膜形成工程においてノズル孔の内壁に撥水膜が形成されないので、ノズル孔の内壁の撥水性がばらつくことによるノズル孔の吐出性のばらつきを防止することができる。
(10)ノズル孔形成工程を撥水膜形成工程より後に行うことで、ノズル孔の内壁に撥水膜が形成されない。このため、ノズル孔の内壁の撥水性がばらつくことによるノズル孔の吐出性のばらつきを防止することができる。
(11)ノズル孔形成工程を密着層形成工程より後に行う場合であっても、エキシマレーザ加工によってノズル孔を良好な形状に形成することができる。
以下に、この発明の実施形態について図面に基づいて説明する。図1は、この発明の実施形態に係るインク吐出装置に備えられたインクジェットヘッド10の構成を示す一部分解斜視図である。インクジェットヘッド10は、ヘッド本体20及びノズルプレート30を備えている。
ヘッド本体20は、複数のインク流路21を備え、各インク流路21からインクを吐出する。インクの吐出方向におけるヘッド本体20の下流側の面に、ノズルプレート30が接着剤によって接着されている。
ノズルプレート30は、複数のノズル孔31を備えている。ノズル孔31のそれぞれは、ノズルプレート30がヘッド本体20に接着された際にインク流路21のそれぞれと貫通する位置に設けられている。
図2は、インクジェットヘッド10のノズルプレート30の構成を示す断面図である。ノズルプレート30は、基材32、密着層33及び撥水膜34から構成されている。
基材32は、エキシマレーザによる加工性に優れた高分子材料で形成されている。この実施形態では具体的には、基材32は、ポリイミドフィルムで形成されている。ポリイミドフィルムは、アブレーションを利用したエキシマレーザ加工性に優れているので、基材32が高精度に形成される。また、ポリイミドフィルムは、耐薬品性に優れるので、種々の材料のインクをインクジェットヘッド10で吐出することが可能になる。
基材32の表面には密着層33が形成され、その後に、密着層33の表面に極薄の撥水膜34が形成される。撥水膜34として、フッ素系シランカップリング剤が用いられる。フッ素系シランカップリング剤は、加水分解によってシラノール基を形成し、密着層33と縮合反応して強固な撥水膜34を形成する。
ポリイミドフィルムなどに対して紫外線照射を行う、又は、軽度のアッシング処理を行うことによって、反応基をポリイミドフィルムの表層に出現させ、上述の縮合反応を促進させれば、密着層33を形成することなく基材32上に直接撥水膜34を形成することも可能ではあるが、一般的には紫外線照射やアッシングなどの処理を行っても、生成する反応基の密度が低く、十分な撥水性を得ることが難しい。
従って、シラノール基と縮合反応する水酸基が表層に多く存在する密着層33、具体的にはSiO2、TiO2、Al2O3などの無機酸化物の薄膜層を、密着層33として基材32と撥水膜34との間に形成することが望ましい。上述のような無機酸化物は、酸化反応が進行しており化学的に安定な材料であるので、耐薬品性に優れており、各種のインク材料を使用することができる。
しかし、上述の無機酸化物は、化学的に安定な材料であるがゆえに、構成原子間の結合エネルギーが高く、層厚が大きい場合はエキシマレーザによる加工が困難な材料である。従って、密着層33の層厚は、30nm以下にされている。密着層33の層厚が30nm以下であれば、ノズル孔31の形状を劣化させることなくエキシマレーザによって容易にノズル孔31を加工することができる。
また、密着層33の層厚は、5nm以上にされている。基材32の表面に密着層33の連続膜を形成するためには5nm以上の層厚が必要であると考えられる。密着層33の連続膜を形成するための条件は基材32の表面粗さと関わるが、一般的に市販されているポリイミドフィルムの表面粗さは、概ね3nm以下であるので、5nm以上の膜厚があれば、連続膜を形成できると考えられるからである。密着層33の層厚を5nm以上にすることで、基材32を密着層33によって満遍なく被覆できるので、ノズルプレート30の表面に撥水膜34を満遍なく設けることができる。したがって、ノズルプレート30の表面に満遍なく高い撥水性を生じさせることができる。
密着層33は例えば、一般的なスパッタ法によって形成される。この場合、無機酸化物をターゲットとして、スパッタ成膜を行えばよい。また、Si、Ti、Alなどの未酸化状態の無機ターゲットを用い、酸素を導入しながらスパッタ成膜を行う反応性スパッタ法によって形成してもよい。または、Si、Ti、Alなどをスパッタ法により基材32の表面に成膜後、酸化プラズマなどによって酸化処理を行ってもよい。
撥水膜34は、フッ素系シランカップリング剤を用いて形成される。フッ素系シランカップリング剤とは、YnSiX4−n(n=1,2,3)で表されるSi化合物であり、Yはフッ素を含む物質である。シランカップリング剤の特性を有していれば、密着層33と化学的に結合しやすいため、ワイピング耐性に優れた撥水膜となる。Xは、ハロゲン、メトキシ基、エトキシ基などであり、加水分解されることでシラノール基(Si−OH)となる。シラノール基がノズルプレート30の密着層33の表面の水酸基などと縮合反応を起こすことで、撥水膜34は密着層33を挟んで基材32と強固に結合する。
具体的にはフッ素系シランカップリング剤として例えば、YSiX3で表されるSi化合物であって、Yは、CF3(CF2)3(CH2)2、CF3(CF2)5(CH2)2、CF3(CF2)7(CH2)2、CF3(CF2)9(CH2)2、(CF3)2CF(CF2)4(CH2)2、(CF3)2CF(CF2)6(CH2)2、又は、(CF3)2CF(CF2)8(CH2)2などが挙げられ、Xとして、Cl、OCH3、又は、OCH2CH3などが挙げられる。Xは、加水分解によってシラノール基を形成する特性を有することが必要であるが、反応性を抑制するために、加水分解しないCH3を、3基のXのうちの1基又は2基として選択してもよい。撥水膜34は、上述のようなX、Yの組み合わせによる各種のSi化合物から適宜に選択されればよい。
なお、上述のフッ素系シランカップリング剤の中でも、Yが直鎖状であり、かつ、その直鎖が長い材料である場合に、特に良好な撥水性を示す傾向がある。このようなフッ素系シランカップリング剤は、基材32の表面に密に整列しやすく、その結果、臨界表面エネルギーの低いCF3基が表層に高密度に配列されるためであると考えられる。従って、Yとして、CF3(CF2)7(CH2)2、CF3(CF2)9(CH2)2などを選択することが望ましい。
但し、本発明ではノズルプレート30上へのインクの残量を抑えることを目的としているので、そのために必要な撥水性を有していれば、フッ素系シランカップリング剤の材料は特に限定されない。撥水性は、材料によって一義的に決定されるものではなく、製作条件に強く依存するので、製作の工程管理によってなるべく高い撥水性を確保するようにすればよい。
この発明では、純水を用いてノズルプレート30の表面の撥水性を特定しているので、撥水性を簡易に評価することができる。このため、ノズルプレート30の製造工程等において不所望にノズルプレート30の撥水性がばらついた場合でも、その中から所望の撥水性を有するノズルプレート30を選択することが容易である。
撥水膜34は、例えばディッピングによって形成される。なお、撥水膜34は、スピンコート又は蒸着法で形成されてもよい。撥水膜34の形成時に、高濃度にフッ素系シランカップリング剤が存在していると、フッ素系シランカップリング剤同士の結合が進行してしまい、密着層33の表面に密にフッ素系シランカップリング剤を整列させることが難しくなるので、フッ素系シランカップリング剤は適当量の有機溶媒で希釈されることが望ましい。
有機溶媒としては、クロロフルオロカーボン、パーフルオロヘキサンなどのフッ素系溶剤の他、メタノール、エタノール、酢酸エチル、ベンゼン、トルエン、クロロホルムなどが用いられ、フッ素系シランカップリング剤を20%以下程度まで希釈することが望ましい。特に、ディッピング、スピンコートなど撥水膜34を形成するための溶液を液体状態で密着層33の表面に接触させる場合には、フッ素系シランカップリング剤を1%以下に希釈することが望ましい。
上述のディッピングなどによって密着層33の表面にフッ素系シランカップリング剤をコートした後、それを上述の有機溶媒によって洗浄することが望ましい。
密着層33の表面に塗布されたフッ素系シランカップリング剤は、有機溶媒によって洗浄された後、常温大気雰囲気で1日程度以上放置される。これによって、一旦密着層33と結合したフッ素系シランカップリング剤同士がシロキサンネットワークを形成するので、安定な撥水膜34が形成される。
次に、上述のようにして作製されたノズルプレート30の材料に、図2(B)に示すように、エキシマレーザによってノズル孔31が形成される。ノズル孔31の孔径は、マスクサイズによって規定され、所望とするインク吐出量に応じて適宜設計される。例えば、ノズル孔31は、直径10μm〜100μmの円形に形成される。
上述のようにしてノズル孔31を形成されたノズルプレート30の材料は、エキシマレーザやナイフ切断などによって、ヘッド本体20と接合させるのに適当なサイズに切り出され、これによってノズルプレート30が作製される。ノズルプレート30は、ヘッド本体20のインク吐出方向における下流側の端面に接着剤で接着される。このようにして、インクジェットヘッド10が作製される。
図3は、インクジェットヘッド10がヘッド保持部材40に固定されて段差が生じた吐出部50の構成を示す斜視図である。
インクジェットヘッド10は、ヘッド保持部材40によって保持される。一般的に、インクジェットヘッド10は、ヘッド保持部材40の所定の位置に、接着剤によって固定される。インクジェットヘッド10は、ノズルプレート30の表面35がヘッド保持部材40の前面41と同一面になるように、又は、ヘッド保持部材40の前面41よりも突き出すように、ヘッド保持部材40に固定される。特に、インクジェットヘッド10をヘッド保持部材40に固定するための接着剤が、ノズルプレート30の表面35に回り込む問題を回避するためには、ノズルプレート30の表面35がヘッド保持部材40の前面41より1mm以下程度の若干寸法だけ突き出すようにすることが望ましい。このため、この実施形態では、ノズルプレート30の表面35及びヘッド保持部材40の前面41を含む吐出部50は、段差部を有する。
なお、図3では、ヘッド保持部材40の前面41に対して、突き出されたインクジェットヘッド10のヘッド本体20の側面は、90度の角度を有している例を示しているが、90度以下のテーパ形状に形成されていてもよい。また、インクジェットヘッド10とヘッド保持部材40とを接着する図示しない接着剤によって、段差部が曲面に形成されていてもよい。
図4は、ワイピング前にインクで濡らされた状態の吐出部50を示す側面図である。吐出部50のワイピングはワイパ70によって、ノズル孔31から染み出されたインク60によってノズルプレート30が濡らされた状態で行われる。特に、吐出部50、具体的にはヘッド保持部材40とインクジェットヘッド10との間に段差部がある場合は、インク11が段差部の近傍に溜まりやすい。吐出部50に段差部がある場合、ワイピングによってワイパ70の進行方向の後面にインクが回り込みやすくなる。
この実施形態ではインクとして、顔料(10%程度)と、合成樹脂(10%程度)と、有機溶媒とから構成された粒子分散系インクが用いられている。粒子分散系インクの常温での表面張力は約30mN/m、粘度は約10cPである。
次に、ワイピング試験について説明する。撥水性と、ワイピング時にインクジェットヘッド10のノズルプレート30の表面35に発生する付着物との関係を調べるため、ここではインクジェットヘッド10のダミーを作製して、ワイピング試験を行った。
まず、ノズルプレート30のダミーの作製手順を説明する。基材32として、宇部興産社製ユーピレックスS50を用い、密着層33の形成前に基材32を中性洗剤及び純水を用いて洗浄した。次に、基材32上に密着層33として10nmのSiO2膜をRFスパッタによって形成した。次に、フッ素系シランカップリング剤であるダイキン社製のオプツール(登録商標)DSXを用い、真空蒸着によって上述のSiO2膜上に撥水膜34を形成した。撥水膜34の成膜処理後は、大気雰囲気中で1日以上放置する時間を設けた。以上の手順で形成した撥水膜34付きの基材32をm5mm×20mmのサイズにカットして、ノズルプレート30のダミーとした。
次にヘッド本体20のダミーとして、厚さ5mmの金属板を準備し、縦横サイズ6mm×21mmで高さ1mmの台を金属加工によって形成した。そして、上述の金属製の台上にノズルプレート30のダミーを熱硬化性接着剤で貼り付けて、インクジェットヘッド10のダミーとした。
図5は、ワイピング試験の結果を示す説明図である。このワイピング試験では、サンプルA〜Hの8個のインクジェットヘッド10のダミーについて試験を行った。なお、サンプルIは、比較例として、熱酸化Si基板上に撥水膜34を形成したものである。具体的には、サンプルIは、500nmの熱酸化膜を有するSi基板上に、オプツール(登録商標)DSX(パーフルオロヘキサンで1%に希釈)をスピンコートして作製している。また、スピンコート後の後処理として、パーフロオロヘキサンによる1分間の浸漬を実施し、その後大気中で24時間以上放置する処理を行っている。
上述のようにして形成されたノズルプレート30のダミーの表面の純水(イオン交換水)に対する接触角は、サンプルA〜Hの全てについて112°以上を示しており、良好な撥水膜が形成できているといえる。但し、転落角は、ノズルプレート30のダミーを同じ条件で形成したにもかかわらず、大きく異なってしまった。また、ノズルプレート30のダミーの表面に4μLの純水を滴下した後に、ノズルプレート30のダミーを40度傾斜させて保持し、1分間に純水滴が移動する転落距離も大きく異なっている。
転落角がばらついた原因としては、蒸着ソースの秤量に誤差が大きいことから、接触角は高く維持できるものの転落角については敏感に蒸着量が影響を受けるものと考えられる。
ここで、接触角及び転落角は、市販の接触角計(協和界面科学社製、Drop Master700)を用いて測定した。接触角は、純水1.5μLを滴下し、θ/2法によって算出した。転落角は、純水1.5μLを滴下し、約40秒で0°から90°まで連続的に傾斜する条件で、滴下した純水をCCDによって観察することで測定した。また、転落距離は、ノズルプレート30のダミー上に4μLの純水を滴下した後に、ノズルプレート30のダミーが貼り付けられている金属板を40°傾斜させて1分間保持し、純水の移動量を測定することで算出した。
ワイピング試験において、ノズルプレート30のダミーはノズルプレート30のダミーの表面が下方に向くようにセットされ、スポイトを用いてノズルプレート30のダミーの表面に数滴のインクを垂らすことでノズルプレート30のダミーの表面を濡らし、その後、ワイピングを実施した。
ワイパ70として、硬度70度で厚さ1mmのブレード状のパーフロゴムを用い、ノズルプレート30のダミーが貼り付けられた金属板の側方から1mm/秒の一定速度で一方向に3回走査した。ワイパ70は、ノズルプレート30のダミーの表面から5mm下方の位置で支持されており、ワイパ70は、支持位置から上方に6mmの長さを有している。したがって、ワイピング時に1mmのオーバーラップ量をもってノズルプレート30のダミーはワイピングされる。
ワイピングの終了後に目視で確認したところ、全てのサンプルA〜Iにおいてインクはノズルプレート30のダミーの表面に残留していない。次に、ノズルプレート30のダミーの表面を光学顕微鏡によって観察し、微細な付着物を観察した。
図6は、従来のノズルプレートの表面を光学顕微鏡によって観察したときの観察結果を示す図である。ノズルプレートの表面に、1μm以下程度の微細な付着物が存在していることが分かる。これは、ワイピング時にワイパ70の進行方向の後面にインクが回り込み、インクが微量にノズルプレート表面に残留し、インクが乾燥・固化したものと考えられる。
上述の従来のノズルプレートを再度用いて、インクでノズルプレートの表面を濡らすことなくワイピングを行ったところ、付着物は除去されていた。従って、本条件では、乾燥・固化した付着物を物理的に除去できるものの、インクで濡らすことによって新たに付着物を生成していると考えられる。なお、インクでノズルプレートの表面を濡らすことなくワイピングを行えば、いわゆる乾拭き状態となって撥水膜が磨耗、損傷されることとなるため、ノズルプレートが長期使用に耐えないという問題が生じる。
ここで、撥水膜の評価として、100μm2内に光学顕微鏡で確認できる付着物数をカウントした。付着物数のカウントは、10μm×10μmのエリアを任意に10点設定し、カウントした付着物数の平均値を付着物数として図5に記載した。サンプルHでは、付着物同士が固まっており、個別に判定することが不可能であった。
このワイピング試験では、付着物数を10個以下にまで低減できるのは、サンプルA〜Hの中でサンプルA、Bのみであった。すなわち、転落角が40°以下であり、かつ、転落距離が2mm以上であるという条件を満たした場合であった。
上述のワイピング試験によって、付着物の発生を抑制するためには、転落角と転落距離との2つのパラメータを制御すべきであることが分かった。また、付着物数を10個以下に抑制できるのは、上述のように、1.5μLの純水滴に対する転落角が40度以下であるとともに、水平面から40度の傾斜をつけられた際に4μLの純水滴が1分間に移動する距離が2mm以上である撥水性が必要である、と言える。したがって、インクジェットヘッド10のノズルプレート30では、10μm×10μmのエリアについて付着物数が10個以下に抑制される。
つぎに、密着層33の層厚について説明する。ここでは、密着層33の層厚とノズル孔31の加工精度との関係についての試験を行った。上述のように、ノズル孔31は、エキシマレーザによって加工される。
この試験では、密着層33をSiO2の薄膜層で形成し、密着層33の層厚が3nm、5nm、30nm、100nmである4個のサンプルに対して試験を行った。また、撥水膜34を真空蒸着によって形成し、サンプルの作製工程におけるばらつきを避けるため、撥水膜34の形成は、同一バッチで処理を行った。サンプルのその他の作製手順は、上述のワイピング試験で用いたサンプルA〜Hと同様である。
ノズル孔31は、ノズルプレート30の撥水膜34が形成された面の裏面側から、波長248nm、照射パワー約0.6J/cm2でエキシマレーザによって、直径が約20μmの円形に加工した。
図7及び図8は、ノズルプレート30の撥水膜34が形成された面側の、ノズル孔31周辺の走査電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)による観察写真であり、図7(A)は密着層33の層厚が3nmであり、図7(B)は密着層33の層厚が5nmであり、図8(A)は密着層33の層厚が30nmであり、図8(B)は密着層33の層厚が100nmである場合の観察写真である。
図7(A)、図7(B)及び図8(A)に示すように、密着層33の層厚が3nm〜30nmである場合は、ノズル孔31の形状に加工ムラが見られないが、図8(B)に示すように、密着層33の層厚が100nmである場合は、ノズル孔31のエッジ部36にバリのような加工ムラが観察され、真円度が著しく低下したことが分かる。
SiO2からなる密着層33の層厚が大きい場合はエキシマレーザ(波長248nm)では加工が困難であることを考慮すれば、密着層33の層厚は極力薄くすべきであり、密着層33の層厚を30nm以下にすることで、ノズル孔31を高精度に形成することができると言える。
図9は、密着層33の層厚とノズルプレート30の表面35の付着物数との関係についての試験結果を示す説明図である。ここでは、密着層33の層厚が3nm、5nm、30nmである上述のサンプルについて、ワイピング試験を行った。5nm、30nmの層厚のサンプルについては100μm2当たりの付着物数が10個以下であるのに対して、3nmの層厚のサンプルについては100μm2当たりの付着物数が10個以上となり、密着層33の層厚が3nmである場合は、ノズルプレート30の表面35の撥水性が劣化する傾向にあることが分かる。
密着層33の層厚が3nmである場合にノズルプレート30の撥水性が他の場合より劣化した原因は、SiO2からなる密着層33がポリイミドフィルムからなる基材32を完全に被覆できないためと考えられる。このため、ノズルプレート30の表面35の撥水性を高くするためには、密着層33の層厚を5nm以上に形成するべきであることがわかる。
密着層33の層厚を5nm以上にすることで、基材32を密着層33によって満遍なく被覆できるので、ノズルプレート30の表面35に撥水膜34を満遍なく設けることができる。このため、ノズルプレート30の表面35に満遍なく高い撥水性を生じさせることができる。
上述の試験結果から、密着層33の層厚を、ノズルプレート30の撥水性と、ノズル孔31の加工精度との両方を高くするために、5nm以上30nm以下に設定することが望ましいと言える。
インクジェットヘッド10によれば、撥水膜34は、1.5μLの純水滴に対する転落角が40度以下であるという撥水性を有するので、撥水膜34上の純水滴は低負荷で移動を開始できる。また、撥水膜34は、水平面から40度の傾斜をつけられた際に4μLの純水滴が1分間に移動する距離が2mm以上であるという撥水性を有するので、撥水膜34上の純水滴は迅速に移動できる。このため、ノズルプレート30の表面にある目視不能なレベルの微量のインクは、低負荷で移動を開始できるとともに、移動を開始した後も引き続き迅速に移動できる。
このため、ノズルプレート30の表面35をワイピングするワイパ70の進行方向の前面にあるインク60を、ワイピングによってノズルプレート30の表面35から容易に排除することができる。また、ワイパ70の進行方向の後面に回り込んだインクを、ワイパ70にともなって容易に移動を開始させるとともにワイパ70に追随して移動させることで、ノズルプレート30の表面35から排除することができる。
これによって、目視不能なレベルの微量のインクがノズルプレート30の表面35に残留することを抑制できるので、ノズルプレート30の表面35における微小な付着物の発生を抑制できる。したがって、ノズル孔31から吐出されたインクの着弾精度の劣化を抑制することができる。
撥水膜34をフッ素系シランカップリング剤で形成することで、ノズルプレート30の表面35は、高い撥水性を有するとともに、優れた耐摩耗性を有する。したがって、ワイピングに対するノズルプレート30の耐摩耗性を向上させることができ、ノズルプレート30の耐久性を向上させることができる。
フッ素系シランカップリング剤が結合しやすい密着層33をあらかじめ基材32の表面に形成した後にフッ素系シランカップリング剤で撥水膜34を形成することで、撥水膜34が基材32に、より結合しやすくなる。フッ素系シランカップリング剤が結合しやすい密着層33を挟んで撥水膜34を基材32の表面に形成することで、ノズルプレート30の表面35の耐摩耗性をより向上させることができる。
基材32を高分子材料で形成し、密着層33を30nm以下という極薄にすることで、ノズルプレート30のノズル孔31を高精度に形成することができる。したがって、ノズル孔31から吐出されたインクの着弾精度を高くすることができる。
密着層33の層厚を5nm以上にすることで、基材32を密着層33によって満遍なく被覆できるので、ノズルプレート30の表面35に撥水膜35を満遍なく設けることができる。したがって、ノズルプレート30の表面35に満遍なく高い撥水性を生じさせることができる。
密着層33は酸化反応が進行して化学的に安定な無機酸化物からなるので、密着層33がインク又は空気によって化学的に侵されることを抑制することができる。このため、密着層33は耐薬品性に優れるので、多様なインクを使用することができる。また、密着層33の表面状態を一定に保つことができる。さらに、密着層33が有機汚染された場合でも、密着層33の表層状態を変化させることなく、簡易なアッシング処理によって有機分子を密着層33から除去することができる。したがって、ノズルプレート30の表面35に、密着層33を挟んで基材32に強固に固定された撥水膜34を形成することができる。
粒子分散系インクを吐出部50から吐出した場合、乾燥・固化した付着物を吐出部50から除去する必要性が高くなるが、上述のように優れた撥水性を有するノズルプレート30を備えたインクジェットヘッド10を用いることで、微量なインクをもノズルプレート30の表面35から除去することができる。したがって、インクの着弾精度の劣化を抑制することができる。
インクジェットヘッドをヘッド保持部材40に接着剤によって固定し、接着剤がノズルプレート30へ回り込んでノズル孔31が接着剤で塞がれるという問題を回避するために、ヘッド保持部材40からインクジェットヘッド10の前面を突き出すように構成したことで、吐出部50が段差部を有する場合、段差部にインクが溜まりやすいので、ワイピング時にワイパ70の進行方向の後面にインクが回り込みやすくなる。しかし、インクジェットヘッド10によれば、ワイピング時にワイパ70の進行方向の後面にインクが回り込んだ場合でも、ノズルプレート30の表面35への微量なインクの残留をも抑えることができる。したがって、ノズルプレート30の表面35における微小な付着物の発生を抑制し、インクの着弾精度の劣化を抑制することができる。
低負荷で移動を開始できるとともに、移動を開始した後も引き続き迅速に移動できるような撥水膜34をノズルプレート30の表面35に備えることで、1mm/秒以上という比較的高速のワイピング速度の場合であっても、ワイパ70の進行方向の後面に回り込んだインクをワイパ70に追随させることができる。このため、ワイパ70のワイピング速度を落とすことなく、ノズルプレート30へのインクの残留を抑制できる。したがって、ワイピングなどのメンテナンス作業を短時間で行うことができるので、インク吐出装置による生産効率(又は画像形成効率)を低下させずにノズルプレート30の表面35へのインクの残留を抑制することができる。
ノズル孔形成工程を密着層形成工程より後に行うことで、密着層33がノズル孔31の内壁に形成されない。密着層33は基材32と撥水膜34との化学結合を促進させるためのものであるので、ノズル孔31の内壁に密着層33が形成されなければ、撥水膜形成工程においてノズル孔31の内壁に撥水膜34が形成されない。このため、ノズル孔31の内壁の撥水性が不所望に高くなってしまうことがない。また、ノズル孔31の内壁のうち密着層33が形成される領域を制御することは難しいが、ノズル孔31の内壁に密着層33が形成されないので、ノズル孔31の内壁の撥水性がばらつくことによるノズル孔31の吐出性のばらつきを防止することができる。
また、ノズル孔形成工程を撥水膜形成工程より後に行うことで、ノズル孔31の内壁に撥水膜34が形成されない。このため、ノズル孔31の内壁の撥水性がばらつくことによるノズル孔31の吐出性のばらつきを防止することができる。
ノズル孔31をエキシマレーザ加工することによって、ノズル孔形成工程を密着層形成工程より後に行った場合でも、ノズル孔31を高精度に形成することができる。
なお、ノズルプレート30の1.5μLの純水滴に対する転落角は、小さいほど好ましく、水平面から40度の傾斜をつけられた際に4μLの純水滴が1分間に移動する距離は、長いほど好ましい。