JP2007100844A - 車輪用軸受装置 - Google Patents

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孝幸 乗松
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Abstract

【課題】
シールの回転トルクの増大を抑制し高い密封性を確保すると共に、軸受の耐久性向上を図った車輪用軸受装置を提供する。
【解決手段】
シール9が、断面が略L字状に形成され互いに対向配置されたスリンガ11とシール板12からなり、スリンガ11が、内輪3に圧入される円筒部11aと、これから外径側に延びる立板部11bと、この先端に30〜45°の範囲に縁曲げされた傾斜部11cを備え、シール板12が、外方部材10に内嵌される芯金13と、これに加硫接着されたシール部材14からなり、このシール部材14が外径側に傾斜して形成されスリンガ11に摺接する第1および第2のサイドリップ14a、14bと、傾斜部11cの外側面に摺接するラジアルリップ14dと、芯金13の内縁に固着された円筒状の内端部14cを備え、これを円筒部11aに対峙させラビリンスシール15が構成されている。
【選択図】図2

Description

本発明は、自動車等の車輪を懸架装置に対して回転自在に支承する車輪用軸受装置に関し、詳しくは、軸受部に装着されたシールの密封性を確保すると共に、軸受の低トルク化を図った車輪用軸受装置に関するものである。
従来から自動車等の車輪を支持する車輪用軸受装置は、車輪を取り付けるためのハブ輪を複列の転がり軸受を介して回転自在に支承するもので、駆動輪用と従動輪用とがある。構造上の理由から、駆動輪用では内輪回転方式が、従動輪用では内輪回転と外輪回転の両方式が一般的に採用されている。また、車輪用軸受装置には、懸架装置を構成するナックルとハブ輪との間に複列アンギュラ玉軸受等からなる車輪用軸受を嵌合させた第1世代と称される構造から、外方部材の外周に直接車体取付フランジまたは車輪取付フランジが形成された第2世代構造、また、ハブ輪の外周に一方の内側転走面が直接形成された第3世代構造、あるいは、ハブ輪と等速自在継手の外側継手部材の外周にそれぞれ内側転走面が直接形成された第4世代構造とに大別されている。
これらの軸受部には、軸受内部に封入されたグリースの漏れを防止すると共に、外部から雨水やダスト等の侵入を防止するためにシールが装着されている。近年、自動車のメンテナンスフリー化が進み、車輪用軸受装置においてもさらなる長寿命化が要求されるようになっているが、市場回収品の軸受損傷状況を検証すると、剥離等の本来の軸受寿命よりも、シール不具合による損傷が多くを占めている。したがって、シールの密封性と耐久性を高めることにより、軸受寿命の向上を図ることができる。
従来から、密封性を高めたシールに関しては種々提案されているが、こうしたシールの代表的な一例を図4に示す。このシールは、図4に示すように、相対回転する軸受内輪等からなる内周側部材51と軸受外輪等からなる外周側部材52との間を密封し、内周側部材51および外周側部材52に各々取り付けられて互いに対向する断面L字状で環状のシール板53および密封要素54からなる。
シール板53は、内周側部材51の外径面に圧入された円筒部53aと、この円筒部53aから立ち上がった立板部53bと、この立板部53bの先端に内側に傾斜して形成された傾斜板部53cとを有している。このシール板53はスリンガとなるもので、鋼板からプレス加工によって形成されている。
密封要素54は、断面L字状の鋼板製の基板55にゴムまたは合成樹脂等の弾性体56を設けたものであって、基板55の円筒部55aを外周側部材52の内径面に圧入することによって取り付けられている。基板55の立板部55bは、先端に内側に傾斜する傾斜片部55cを有している。弾性体56は、基板55の内側を覆って設けられ、第1、第2のサイドリップ56a、56bと、1枚のラジアルリップ56cとを有している。
第1のサイドリップ56aは、基板55の立板部55bから斜め外径側に延びて先端がシール板53の傾斜板部53cに摺接し、第2のサイドリップ56bは、立板部55bの先端付近から斜め外径側に延びて先端がシール板53の立板部53bに摺接している。一方、ラジアルリップ56cは、立板部55bの先端からシール板53の立板部53bと反対側の斜め内径側に延び、先端がシール板53の円筒部53aに摺接している。
このシールに飛散した泥水等は、シール板53の内面に摺接する第1のサイドリップ56aの外面に付着するが、シール板53の立板部53bの外径部に傾斜板部53cが設けられているため、泥水等の溜まる空間Sは、極力小さく抑えられる。そのため、泥水等に含まれる泥や砂等の異物で第1のサイドリップ56aのシール機能が低下するのが緩和される。
内周側部材51が回転側となる場合は、シールの空間S内にある泥水の水分あるいは異物を遠心力により振り切り、密封力を下げることなく迅速に排除する作用が得られる。これによって、その内方に泥水が浸入した場合、第1のサイドリップ56aよりも内径側でシール板53に摺接する第2のサイドリップ56bにより高い密封性が得られる。また、これよりもさらに内側にラジアルリップ56cがあるため、外部からの泥水等の浸入防止を3重に行うと共に、内部の潤滑剤に対する密封作用が得られる。
特開平9−292032号公報
こうした従来のシールでは、シールの空間S内にある泥水の水分等を遠心力により振り切ると共に、内方に泥水が浸入したとしても、第1および第2のサイドリップ56a、56b、さらにその内側のラジアルリップ56cにより、外部からの泥水等の浸入防止を3重に行い、高い密封作用が得られる。然しながら、これら3重のシール接触抵抗、特に、内側に設けられたラジアルリップ56cの接触抵抗により回転トルクが増大し、車両の低燃費化が阻害されると共に、リップ接触部の発熱によってシールの耐久性が低下し、軸受寿命にも悪影響を及ぼす恐れがあった。
本発明は、このような従来の問題に鑑みてなされたもので、シールの回転トルクの増大を抑制しつつ高い密封性を確保すると共に、シールおよび軸受の耐久性向上を図った車輪用軸受装置を提供することを目的とする。
係る目的を達成すべく、本発明のうち請求項1に記載の発明は、内周に複列の外側転走面が形成された外方部材と、一端部に車輪を取り付けるための車輪取付フランジを一体に有し、外周にこの車輪取付フランジから軸方向に延びる小径段部が形成されたハブ輪、およびこのハブ輪の小径段部に圧入された少なくとも一つの内輪からなり、外周に前記複列の外側転走面に対向する複列の内側転走面が形成された内方部材と、この内方部材と前記外方部材の両転走面間に保持器を介して転動自在に収容された複列の転動体と、前記外方部材と内方部材との間に形成される環状空間の開口部に装着されたシールとを備えた車輪用軸受装置において、前記シールのうち少なくともインナー側のシールが、断面が略L字状に形成されて互いに対向配置されたスリンガと環状のシール板とからなり、前記スリンガが、前記内方部材に外嵌された円筒部と、この円筒部から径方向外方に延びる立板部と、この立板部の先端に内側に所定の角度縁曲げされた傾斜部とを備えると共に、前記シール板が、前記外方部材に内嵌された芯金と、この芯金に一体に加硫接着されたシール部材とからなり、このシール部材が外径側に傾斜して形成され、先端が前記スリンガに所定のシメシロをもって摺接する第1および第2のサイドリップと、前記傾斜部の外側面に摺接するラジアルリップと、前記芯金の内縁にまで回り込んで固着された円筒状の内端部とを備え、この内端部を前記スリンガの円筒部に僅かな径方向すきまを介して対峙させ、ラビリンスシールが構成されている。
このように、外方部材と内方部材との間に形成される環状空間の開口部に装着されたシールを備えた車輪用軸受装置において、シールのうち少なくともインナー側のシールが、断面が略L字状に形成されて互いに対向配置されたスリンガと環状のシール板とからなり、スリンガが、内方部材に外嵌された円筒部と、この円筒部から径方向外方に延びる立板部と、この立板部の先端に内側に所定の角度縁曲げされた傾斜部とを備えると共に、シール板が、外方部材に内嵌された芯金と、この芯金に一体に加硫接着されたシール部材とからなり、このシール部材が外径側に傾斜して形成され、先端がスリンガに所定のシメシロをもって摺接する第1および第2のサイドリップと、傾斜部の外側面に摺接するラジアルリップと、芯金の内縁にまで回り込んで固着された円筒状の内端部とを備え、この内端部をスリンガの円筒部に僅かな径方向すきまを介して対峙させ、ラビリンスシールが構成されているので、シールの回転トルクの増大を抑制しつつ高い密封性を確保すると共に、シールおよび軸受の耐久性向上を図った車輪用軸受装置を提供することができる。
好ましくは、請求項2に記載の発明のように、前記スリンガの傾斜部が、前記立板部に対して30〜45°の範囲に傾斜して形成されていれば、ラジアルリップとの位置決め精度を厳しく規制しなくとも、適切な接触力を得ることができると共に、接触抵抗が大きくなるのを抑制して低トルク化を図ることができる。
また、請求項3に記載の発明のように、前記第1のサイドリップのシメシロが内径側の前記第2のサイドリップのシメシロよりも大きく設定されていれば、第2のサイドリップの摩耗を抑制すると共に、第1のサイドリップが摩耗してシメシロが減少しても第2のサイドリップとで長期間に亘って高い密封性を維持することができる。
また、請求項4に記載の発明のように、前記シール部材が、前記外方部材に内嵌される芯金の外表面に回り込んで固着されていれば、嵌合部における気密性の向上を図ることができる。
また、請求項5に記載の発明のように、前記スリンガの円筒部の端部に径方向外方側に屈曲して係止部が形成され、この係止部が、前記シール部材の内端部に所定の軸方向すきまを介して径方向に重なり合っていれば、軸受への組立工程や運搬中において、スリンガとシール板とが分離するのを防止することができると共に、両部材をユニット化して軸受に組み立てることができ、組立性の簡便化と組立精度の向上を図ることができる
本発明に係る車輪用軸受装置は、内周に複列の外側転走面が形成された外方部材と、一端部に車輪を取り付けるための車輪取付フランジを一体に有し、外周にこの車輪取付フランジから軸方向に延びる小径段部が形成されたハブ輪、およびこのハブ輪の小径段部に圧入された少なくとも一つの内輪からなり、外周に前記複列の外側転走面に対向する複列の内側転走面が形成された内方部材と、この内方部材と前記外方部材の両転走面間に保持器を介して転動自在に収容された複列の転動体と、前記外方部材と内方部材との間に形成される環状空間の開口部に装着されたシールとを備えた車輪用軸受装置において、前記シールのうち少なくともインナー側のシールが、断面が略L字状に形成されて互いに対向配置されたスリンガと環状のシール板とからなり、前記スリンガが、前記内方部材に外嵌された円筒部と、この円筒部から径方向外方に延びる立板部と、この立板部の先端に内側に所定の角度縁曲げされた傾斜部とを備えると共に、前記シール板が、前記外方部材に内嵌された芯金と、この芯金に一体に加硫接着されたシール部材とからなり、このシール部材が外径側に傾斜して形成され、先端が前記スリンガに所定のシメシロをもって摺接する第1および第2のサイドリップと、前記傾斜部の外側面に摺接するラジアルリップと、前記芯金の内縁にまで回り込んで固着された円筒状の内端部とを備え、この内端部を前記スリンガの円筒部に僅かな径方向すきまを介して対峙させ、ラビリンスシールが構成されているので、シールの回転トルクの増大を抑制しつつ高い密封性を確保すると共に、シールおよび軸受の耐久性向上を図った車輪用軸受装置を提供することができる。
内周に複列の外側転走面が形成された外方部材と、一端部に車輪を取り付けるための車輪取付フランジを一体に有し、外周に前記複列の外側転走面に対向する一方の内側転走面と、この内側転走面から軸方向に延びる小径段部が形成されたハブ輪、およびこのハブ輪の小径段部に圧入され、外周に前記複列の外側転走面に対向する他方の内側転走面が形成された内輪からなる内方部材と、この内方部材と前記外方部材の両転走面間に保持器を介して転動自在に収容された複列の転動体と、前記外方部材と内方部材との間に形成される環状空間の開口部に装着されたシールとを備えた車輪用軸受装置において、前記シールのうち少なくともインナー側のシールが、断面が略L字状に形成されて互いに対向配置されたスリンガと環状のシール板とからなり、前記スリンガが、前記内方部材に外嵌された円筒部と、この円筒部から径方向外方に延びる立板部と、この立板部の先端に内側に30〜45°の範囲に縁曲げされた傾斜部とを備えると共に、前記シール板が、前記外方部材に内嵌された芯金と、この芯金に一体に加硫接着されたシール部材とからなり、このシール部材が外径側に傾斜して形成され、先端が前記スリンガに所定のシメシロをもって摺接する第1および第2のサイドリップと、前記傾斜部の外側面に摺接するラジアルリップと、前記芯金の内縁にまで回り込んで固着された円筒状の内端部とを備え、この内端部を前記スリンガの円筒部に僅かな径方向すきまを介して対峙させ、ラビリンスシールが構成されている。
以下、本発明の実施の形態を図面に基いて詳細に説明する。
図1は、本発明に係る車輪用軸受装置の一実施形態を示す縦断面図、図2は、図1のシールを示す要部拡大図、図3は、図2のシールの変形例を示す要部拡大図である。なお、以下の説明では、車両に組み付けた状態で車両の外側寄りとなる側をアウター側(図面左側)、中央寄り側をインナー側(図面右側)という。
この車輪用軸受装置は従動輪用で、内方部材1と外方部材10、および両部材1、10間に転動自在に収容された複列の転動体(ボール)7、7とを備え、第3世代と称される構成をなしている。内方部材1は、ハブ輪2と、このハブ輪2に所定のシメシロを介して圧入された内輪3とからなる。
ハブ輪2は、一端部に車輪を取り付けるための車輪取付フランジ4を一体に有し、外周に一方(アウター側)の内側転走面2aと、この内側転走面2aから軸方向に延びる小径段部2bが形成されている。また、車輪取付フランジ4の周方向等配位置にはハブボルト4aが植設されている。内輪3は、外周に他方(インナー側)の内側転走面3aが形成され、ハブ輪2の小径段部2bに所定のシメシロを介して圧入されている。そして、小径段部2bの端部を径方向外方に塑性変形させて形成した加締部5によって予圧が付与された状態で、ハブ輪2に対して軸方向に固定されている。
外方部材10は、外周に懸架装置を構成するナックル(図示せず)に取り付けられるための車体取付フランジ10bを一体に有し、内周に内方部材1の内側転走面2a、3aに対向する複列の外側転走面10a、10aが形成されている。これら両転走面10a、2aおよび10a、3a間には保持器6を介して複列の転動体7、7が転造自在に収容されている。この外方部材10はS53C等の炭素0.40〜0.80wt%を含む中炭素鋼で形成され、少なくとも複列の外側転走面10a、10aが、高周波焼入れによって58〜64HRCの範囲に表面が硬化処理されている。
外方部材10の両端部にはシール8、9が装着され、外方部材10と内方部材1との間に形成される環状空間の開口部を密封している。このシール8、9により、軸受内部に封入された潤滑グリースの外部への漏洩と、外部から雨水やダスト等が軸受内部に侵入するのを防止している。
ハブ輪2はS53C等の炭素0.40〜0.80wt%を含む中炭素鋼で形成され、アウター側のシール8のシールランド部となる車輪取付フランジ4の基部から小径段部2bに亙って高周波焼入れによって58〜64HRCの範囲に表面が硬化処理されている。なお、加締部5は鍛造後の生のままとされている。一方、内輪3は、SUJ2等の高炭素クロム鋼で形成され、ズブ焼入れによって芯部まで58〜64HRCの範囲に硬化処理されている。
ここで、シール8、9のうちインナー側のシール9は、図2に拡大して示すように、互いに対向配置されたスリンガ11と環状のシール板12とからなる。スリンガ11は、オーステナイト系ステンレス鋼鈑(JIS規格のSUS304系等)、あるいは、防錆処理された冷間圧延鋼鈑(JIS規格のSPCC系等)からプレス加工にて断面が略L字状に形成され、内輪3に圧入される円筒部11aと、この円筒部11aから径方向外方に延びる立板部11bと、この立板部11bの先端に内側に所定の角度縁曲げされた傾斜部11cとからなる。
一方、シール板12は外方部材10装着され、芯金13と、この芯金13に加硫接着されたシール部材14とからなり、断面略L字状に全体として円環状に形成されている。芯金13は、オーステナイト系ステンレス鋼鈑(JIS規格のSUS304系等)、あるいは、防錆処理された冷間圧延鋼鈑(JIS規格のSPCC系等)からプレス加工にて形成され、外方部材10の端部に内嵌された円筒部13aと、この円筒部13aから径方向内方に延びる立板部13bとからなる。
シール部材14はニトリルゴム等の弾性部材からなり、スリンガ11の立板部11bに摺接する第1および第2のサイドリップ14a、14bを有している。これら第1および第2のサイドリップ14a、14bは、芯金13の立板部13bから外径側に傾斜して形成され、それらの先端がスリンガ11の立板部11bに所定のシメシロをもって摺接している。また、シール部材14は、芯金13の円筒部13aの外表面に回り込んで固着され、傾斜部11cの外側面に摺接するラジアルリップ14dが形成されている。これにより、軸受への組立工程や運搬中において、スリンガ11とシール板12とが分離するのを防止することができる。
シール9の軸受への組立は、スリンガ11とシール板12とを予め組み立ててユニット化した状態で行われるが、この時、ラジアルリップ14aを弾性変形させてスリンガ11の傾斜部11cを通過させなければならないため、傾斜部11cの傾斜角は、立板部11bに対して45°以下、好ましくは、30〜45°の範囲に設定されている。この傾斜角が30°未満になれば、ラジアルリップ14dとの位置決め精度を厳しく規制しなければ適切な接触力(緊迫力)を得ることが難しくなる。一方、傾斜角が45°を超えた場合、ラジアルリップ14dの接触抵抗、すなわち、リップ接触部において、反力の径方向分力が大きくなり、その結果、回転トルクの増大やシール発熱の問題が招来して好ましくない。
このように、本実施形態では、スリンガ11の立板部11bに所定のシメシロをもって摺接する第1および第2のサイドリップ14a、14bを有し、スリンガ11における傾斜部11cに摺接するラジアルリップ14dに加え、シール部材14の内端部14cとスリンガ11の円筒部11aとの間にラビリンスシール15が構成されているので、直接外部から泥水等が第1のサイドリップ14aに降りかかるのを防止して高い密封性を確保すると共に、軸受の低トルク化を図った車輪用軸受装置を提供することができる。
さらに、これら第1および第2のサイドリップ14a、14bにおいて、第1のサイドリップ14aのシメシロが内径側の第2のサイドリップ14bのシメシロよりも大きく設定されている。これにより、第2のサイドリップ14bの摩耗を抑制すると共に、第1のサイドリップ14aが摩耗してシメシロが減少しても第2のサイドリップ14bとの2つのサイドリップで長期間に亘って高い密封性を維持することができる。
なお、ここでは、転動体7にボールを使用した複列アンギュラ玉軸受を例示したが、本発明はこれに限らず、転動体7に円錐ころを使用した複列円錐ころ軸受であっても良い。また、本発明に係る車輪用軸受装置は、内輪回転方式であれば、例示した第3世代構造以外にも、例えば、第1世代や第2世代あるいは第4世代構造にも適用することができる。また、第1および第2世代においては、本発明に係るシールは、インナー側およびアウター側のシールに適用することができる。
図3は図2に示したシールの変形例を示す要部拡大図である。なお、この実施形態は、前述した実施形態とスリンガの構成が異なるだけで、その他同一部品同一部位あるいは同一機能を有する部位には同じ符号を付して詳細な説明を省略する。
このシール9’は、互いに対向配置されたスリンガ11’と環状のシール板12とからなる。スリンガ11’は、オーステナイト系ステンレス鋼鈑(JIS規格のSUS304系等)、あるいは、防錆処理された冷間圧延鋼鈑(JIS規格のSPCC系等)からプレス加工にて断面が略L字状に形成され、内輪3に圧入される円筒部11aと、この円筒部11aから径方向外方に延びる立板部11bと、この立板部11bの先端に内側に所定の角度縁曲げされた傾斜部11cと、さらに円筒部11aの端部に径方向外方側に屈曲して形成された係止部11dとからなる。
係止部11dは、スリンガ11’とシール板12とを仮組みした後、円筒部11aの端部を塑性変形することによって形成されている。この係止部11dは、シール部材14の内端部14cに所定の軸方向すきまを介して径方向に重なり合うように配置されている。これにより、ラジアルリップ14dだけでなく、この係止部11dによってスリンガ11’とシール板12とが分離するのを確実に防止することができると共に、両部材11’、12をユニット化して軸受に組み立てることができ、組立性の簡便化と組立精度の向上を図ることができる。さらに、シール部材14の内端部14cとスリンガ11の円筒部11aとの間に形成される径方向すきまだけでなく、この係止部11dと内端部14cとの間に形成される僅かな軸方向すきまによって強固なラビリンスシール15’が構成されるため、一層シール9’の密封性が向上する。
以上、本発明の実施の形態について説明を行ったが、本発明はこうした実施の形態に何等限定されるものではなく、あくまで例示であって、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、さらに種々なる形態で実施し得ることは勿論のことであり、本発明の範囲は、特許請求の範囲の記載によって示され、さらに特許請求の範囲に記載の均等の意味、および範囲内のすべての変更を含む。
本発明に係る車輪用軸受装置は、内輪回転方式の第1乃至第4世代の車輪用軸受装置に適用できる。
本発明に係る車輪用軸受装置の一実施形態を示す縦断面図である。 図1のインナー側のシールを示す要部拡大図である。 図2のシールの変形例を示す要部拡大図である。 従来のシールの取付状態を示す縦断面図である。
符号の説明
1・・・・・・・・・・・・内方部材
2・・・・・・・・・・・・ハブ輪
2a、3a・・・・・・・・内側転走面
2b・・・・・・・・・・・小径段部
3・・・・・・・・・・・・内輪
4・・・・・・・・・・・・車輪取付フランジ
4a・・・・・・・・・・・ハブボルト
5・・・・・・・・・・・・加締部
6・・・・・・・・・・・・保持器
7・・・・・・・・・・・・転動体
8・・・・・・・・・・・・アウター側のシール
9、9’・・・・・・・・・インナー側のシール
10・・・・・・・・・・・外方部材
10a・・・・・・・・・・外側転走面
10b・・・・・・・・・・車体取付フランジ
11、11’・・・・・・・スリンガ
11a、13a・・・・・・円筒部
11b、13b・・・・・・立板部
11c・・・・・・・・・・傾斜部
11d・・・・・・・・・・係止部
12・・・・・・・・・・・シール板
13・・・・・・・・・・・芯金
14・・・・・・・・・・・シール部材
14a・・・・・・・・・・第1のサイドリップ
14b・・・・・・・・・・第2のサイドリップ
14c・・・・・・・・・・内端部
14d・・・・・・・・・・ラジアルリップ
15、15’・・・・・・・ラビリンスシール
51・・・・・・・・・・・内周側部材
52・・・・・・・・・・・外周側部材
53・・・・・・・・・・・シール板
53a、55a・・・・・・円筒部
53b、55b・・・・・・立板部
53c・・・・・・・・・・傾斜板部
54・・・・・・・・・・・密封要素
55・・・・・・・・・・・基板
55c・・・・・・・・・・傾斜片部
56・・・・・・・・・・・弾性体
56a・・・・・・・・・・第1のサイドリップ
56b・・・・・・・・・・第2のサイドリップ
56c・・・・・・・・・・ラジアルリップ
S・・・・・・・・・・・・空間

Claims (5)

  1. 内周に複列の外側転走面が形成された外方部材と、
    一端部に車輪を取り付けるための車輪取付フランジを一体に有し、外周にこの車輪取付フランジから軸方向に延びる小径段部が形成されたハブ輪、およびこのハブ輪の小径段部に圧入された少なくとも一つの内輪からなり、外周に前記複列の外側転走面に対向する複列の内側転走面が形成された内方部材と、
    この内方部材と前記外方部材の両転走面間に保持器を介して転動自在に収容された複列の転動体と、
    前記外方部材と内方部材との間に形成される環状空間の開口部に装着されたシールとを備えた車輪用軸受装置において、
    前記シールのうち少なくともインナー側のシールが、断面が略L字状に形成されて互いに対向配置されたスリンガと環状のシール板とからなり、前記スリンガが、前記内方部材に外嵌された円筒部と、この円筒部から径方向外方に延びる立板部と、この立板部の先端に内側に所定の角度縁曲げされた傾斜部とを備えると共に、
    前記シール板が、前記外方部材に内嵌された芯金と、この芯金に一体に加硫接着されたシール部材とからなり、このシール部材が外径側に傾斜して形成され、先端が前記スリンガに所定のシメシロをもって摺接する第1および第2のサイドリップと、前記傾斜部の外側面に摺接するラジアルリップと、前記芯金の内縁にまで回り込んで固着された円筒状の内端部とを備え、この内端部を前記スリンガの円筒部に僅かな径方向すきまを介して対峙させ、ラビリンスシールが構成されていることを特徴とする車輪用軸受装置。
  2. 前記スリンガの傾斜部が、前記立板部に対して30〜45°の範囲に傾斜して形成されている請求項1に記載の車輪用軸受装置。
  3. 前記第1のサイドリップのシメシロが内径側の前記第2のサイドリップのシメシロよりも大きく設定されている請求項1または2に記載の車輪用軸受装置。
  4. 前記シール部材が、前記外方部材に内嵌される芯金の外表面に回り込んで固着されている請求項1乃至3いずれかに記載の車輪用軸受装置。
  5. 前記スリンガの円筒部の端部に径方向外方側に屈曲して係止部が形成され、この係止部が、前記シール部材の内端部に所定の軸方向すきまを介して径方向に重なり合っている請求項1乃至4いずれかに記載の車輪用軸受装置。
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