つぎに、この発明を具体例に基づいて説明する。図9には、この発明の一実施例である車両Veのパワートレーンおよび制御系統の一例が、模式的に示されている。まず、車両Veには駆動力源としてのエンジン1が設けられており、エンジン1と車輪2との間に形成された動力伝達経路に、この発明における伝達機構に相当する変速機3が設けられている。この変速機3は、第1発進クラッチ出力軸4および第2発進クラッチ出力軸5および第1変速機出力軸6および第2変速機出力軸7を有している。第2発進クラッチ出力軸5は円筒状に構成されており、第2発進クラッチ出力軸5の内部に第1発進クラッチ出力軸4が配置されている。また、第1発進クラッチ出力軸4と第2発進クラッチ出力軸5とが同軸上に配置され、第1発進クラッチ出力軸4と第2発進クラッチ出力軸5とが相対回転可能となるように構成されている。さらに、第1発進クラッチ出力軸4および第2発進クラッチ出力軸5に対して、第1変速機出力軸6が平行に配置されているとともに、第1変速機出力軸6と第2変速機出力軸7とが平行に配置されている。
一方、前記第1変速機出力軸6と一体回転するドライブギヤ45と、前記第2変速機出力軸7と一体回転するドリブンギヤ46とが噛合されている。さらに、変速機3は、エンジン1に接続される入力軸47を有している。また、第1発進クラッチ出力軸4と入力軸47との間における動力伝達状態を制御する発進クラッチC1と、第2発進クラッチ出力軸5と入力軸47との間における動力伝達状態を制御する発進クラッチC2とが設けられている。この発進クラッチC1および発進クラッチC2としては、例えば、摩擦式クラッチ、より具体的には湿式クラッチを用いていることが可能である。つまり、発進クラッチC1および発進クラッチC2を構成するプレートやディスクが、潤滑油により潤滑および冷却される。これらの発進クラッチC1,C2は、別々に係合圧指令値もしくはトルク容量を制御可能に構成された、いわゆるツインクラッチである。
また、変速機3は、前進段を設定するために、第1速用歯車対8ないし第6速用歯車対13を有している。まず、第1速用歯車対8は、第1速ドライブギヤ14と、第1速ドライブギヤ14に噛合された第1速ドリブンギヤ15とにより構成されている。第1速ドライブギヤ14は第1発進クラッチ出力軸4に設けられており、第1速ドライブギヤ14と第1発進クラッチ出力軸4とが一体回転するように構成されている。これに対して、第1速ドリブンギヤ15は第1変速機出力軸6に設けられており、第1速ドリブンギヤ15と第1変速機出力軸6とが相対回転可能となるように構成されている。
つぎに、第2速用歯車対9は、第2速ドライブギヤ16と、第2速ドライブギヤ16に噛合された第2速ドリブンギヤ17とにより構成されている。第2速ドライブギヤ16は第2発進クラッチ出力軸5に設けられており、第2速ドライブギヤ16と第2発進クラッチ出力軸5とが一体回転するように構成されている。これに対して、第2速ドリブンギヤ17は第1変速機出力軸6に設けられており、第2速ドリブンギヤ17と第1変速機出力軸6とが相対回転可能となるように構成されている。
さらに、第3速用歯車対10は、第3速ドライブギヤ18と、第3速ドライブギヤ18に噛合された第3速ドリブンギヤ19とにより構成されている。第3速ドライブギヤ18は第1発進クラッチ出力軸4に設けられており、第3速ドライブギヤ18と第1発進クラッチ出力軸4とが相対回転可能となるように構成されている。これに対して、第3速ドリブンギヤ19は第1変速機出力軸6に設けられており、第3速ドリブンギヤ19と第1変速機出力軸6とが一体回転するように構成されている。
さらに、第4速用歯車対11は、第4速ドライブギヤ20と、第4速ドライブギヤ20に噛合された第4速ドリブンギヤ21とにより構成されている。第4速ドライブギヤ20は第2発進クラッチ出力軸5に設けられており、第4速ドライブギヤ20と第2発進クラッチ出力軸5とが相対回転可能となるように構成されている。これに対して、第4速ドリブンギヤ21は第1変速機出力軸6に設けられており、第4速ドリブンギヤ21と第1変速機出力軸6とが一体回転するように構成されている。
さらに、第5速用歯車対12は、第5速ドライブギヤ22と、第5速ドライブギヤ22に噛合された第5速ドリブンギヤ23とにより構成されている。第5速ドライブギヤ22は第1発進クラッチ出力軸4に設けられており、第5速ドライブギヤ22と第1発進クラッチ出力軸4とが相対回転可能となるように構成されている。これに対して、第5速ドリブンギヤ23は第1変速機出力軸6に設けられており、第5速ドリブンギヤ23と第1変速機出力軸6とが一体回転するように構成されている。
さらに、第6速用歯車対13は、第6速ドライブギヤ24と、第6速ドライブギヤ24に噛合された第6速ドリブンギヤ25とにより構成されている。第6速ドライブギヤ24は第2発進クラッチ出力軸5に設けられており、第6速ドライブギヤ24と第2発進クラッチ出力軸5とが相対回転可能となるように構成されている。これに対して、第6速ドリブンギヤ25は第1変速機出力軸6に設けられており、第6速ドリブンギヤ25と第1変速機出力軸6とが一体回転するように構成されている。
さらに、変速機3は、後進段を設定するための後進用歯車対26を有している。後進用歯車対26は、後進ドライブギヤ27および後進ドリブンギヤ28と、後進ドライブギヤ27および後進ドリブンギヤ28に噛合された後進アイドラギヤ29とにより構成されている。後進ドライブギヤ27は第2発進クラッチ出力軸5に設けられており、後進ドライブギヤ27と第2発進クラッチ出力軸5とが一体回転するように構成されている。これに対して、後進ドリブンギヤ28は第1変速機出力軸6に設けられており、後進ドリブンギヤ28と第1変速機出力軸6とが相対回転可能となるように構成されている。
そして、各変速用歯車対に対応して複数の変速用クラッチが設けられている。この変速用クラッチは、変速用歯車対を構成する各ギヤと、各軸との間における動力伝達状態を制御する装置である。この実施例においては、変速用クラッチとして同期係合装置(シンクロメッシュ機構)を用いた場合を説明する。まず、第1速用歯車対8に対応する第1同期係合装置30は、第1変速機出力軸6に設けられている。第1同期係合装置30は、第1変速機出力軸6と一体回転し、かつ、第1変速機出力軸6の軸線方向に動作可能なスリーブ31と、第1速ドリブンギヤ15と一体回転するアウターギヤ32と、スリーブ31と一体回転し、かつ、スリーブ31とともに軸線方向に動作可能なシンクロナイザーリング(図示せず)およびシンクロナイザーキー(図示せず)とを有している。スリーブ31にはインナーギヤ(図示せず)が形成されており、スリーブ31が軸線方向に動作することにより、アウターギヤ32と、スリーブ31のインナーギヤとの係合・解放が行われるように構成されている。このアウターギヤ32と、スリーブ31のインナーギヤとが係合された場合は、第1発進クラッチ出力軸4と第1変速機出力軸6との間で、第1速用歯車対8を経由させて動力伝達を行うことが可能となる。これに対して、スリーブ31が軸線方向で中立位置に動作されて、スリーブ31のインナーギヤと、アウターギヤ32とが解放された場合は、第1発進クラッチ出力軸4と第1変速機出力軸6との間で、第1速用歯車対8を経由させて動力伝達を行うことが不可能となる。
前記第2速用歯車対9に対応する第2同期係合装置33は、第1変速機出力軸6に設けられている。第2同期係合装置33は、第1変速機出力軸6と一体回転し、かつ、第1変速機出力軸6の軸線方向に動作可能なスリーブ34と、第2速ドリブンギヤ17と一体回転するアウターギヤ35と、スリーブ34と一体回転し、かつ、スリーブ34とともに軸線方向に動作可能なシンクロナイザーリング(図示せず)およびシンクロナイザーキー(図示せず)とを有している。スリーブ34にはインナーギヤ(図示せず)が形成されており、スリーブ34が軸線方向に動作することにより、アウターギヤ35とインナーギヤとの係合・解放が行われるように構成されている。このアウターギヤ35と、スリーブ34のインナーギヤとが係合された場合は、第2発進クラッチ出力軸5と第1変速機出力軸6との間で、第2速用歯車対9を経由させて動力伝達を行うことが可能となる。これに対して、アウターギヤ35と、スリーブ34のインナーギヤとが解放された場合は、第2発進クラッチ出力軸5と第1変速機出力軸6との間で、第2速用歯車対9を経由させて動力伝達を行うことが不可能となる。
また、この第2同期係合装置33は後進用歯車対26に対応するクラッチとしての機能を兼備している。すなわち、後進ドリブンギヤ28と一体回転するアウターギヤ36が設けられており、アウターギヤ36に対応するシンクロナイザーリング(図示せず)が設けられている。そして、スリーブ34が軸線方向に動作することにより、アウターギヤ36とスリーブ34のインナーギヤとの係合・解放が行われるように構成されている。このアウターギヤ36とスリーブ34のインナーギヤとが係合された場合は、第2発進クラッチ出力軸5と第1変速機出力軸6との間で、後進用歯車対26を経由させて動力伝達を行うことが可能となる。これに対して、アウターギヤ36とスリーブ34のインナーギヤとが解放された場合は、第2発進クラッチ出力軸5と第1変速機出力軸6との間で、後進用歯車対26を経由させて動力伝達を行うことが不可能となる。なお、スリーブ34を軸線方向で中立位置に移動させると、スリーブ34のインナーギヤを、2つのアウターギヤ35,36から共に解放させることは可能であるが、スリーブ34のインナーギヤが軸線方向のいずれの位置にある場合でも、2つのアウターギヤ35,36のいずれか一方にのみ噛合する。
前記第3速用歯車対10に対応する第3同期係合装置37は、第1発進クラッチ出力軸4に設けられている。第3同期係合装置37は、第1発進クラッチ出力軸4と一体回転し、かつ、第1発進クラッチ出力軸4の軸線方向に動作可能なスリーブ38と、第3速ドライブギヤ18と一体回転するアウターギヤ39と、スリーブ38と一体回転し、かつ、スリーブ38とともに軸線方向に動作可能なシンクロナイザーリング(図示せず)およびシンクロナイザーキー(図示せず)とを有している。スリーブ38にはインナーギヤ(図示せず)が形成されており、スリーブ38が軸線方向に動作することにより、アウターギヤ39とスリーブ38のインナーギヤとの係合・解放が行われるように構成されている。このアウターギヤ39とスリーブ38のインナーギヤとが係合された場合は、第1発進クラッチ出力軸4と第1変速機出力軸6との間で、第3速用歯車対10を経由させて動力伝達を行うことが可能となる。これに対して、アウターギヤ39とスリーブ38のインナーギヤとが解放された場合は、第1発進クラッチ出力軸4と第1変速機出力軸6との間で、第3速用歯車対10を経由させて動力伝達を行うことが不可能となる。
また、この第3同期係合装置37は第5速用歯車対12に対応するクラッチとしての機能を兼備している。すなわち、第5速ドライブギヤ22と一体回転するアウターギヤ40が設けられており、アウターギヤ40に対応するシンクロナイザーリング(図示せず)が設けられている。そして、スリーブ38が軸線方向に動作することにより、アウターギヤ40とスリーブ38のインナーギヤとの係合・解放が行われるように構成されている。このアウターギヤ40とスリーブ38のインナーギヤとが係合された場合は、第1発進クラッチ出力軸4と第1変速機出力軸6との間で、第5速用歯車対12を経由させて動力伝達を行うことが可能となる。これに対して、アウターギヤ40とスリーブ38のインナーギヤとが解放された場合は、第1発進クラッチ出力軸4と第1変速機出力軸6との間で、第5速用歯車対12を経由させて動力伝達を行うことが不可能となる。なお、スリーブ38を軸線方向で中立位置に移動させると、スリーブ38のインナーギヤを、2つのアウターギヤ39,40から共に解放させることは可能であるが、スリーブ38のインナーギヤが軸線方向のいずれの位置にある場合でも、2つのアウターギヤ39,40のいずれか一方にのみ噛合する。
前記第4速用歯車対11に対応する第4同期係合装置41は、第2発進クラッチ出力軸5に設けられている。第4同期係合装置41は、第2発進クラッチ出力軸5と一体回転し、かつ、第2発進クラッチ出力軸5の軸線方向に動作可能なスリーブ42と、第4速ドライブギヤ20と一体回転するアウターギヤ43と、スリーブ42と一体回転し、かつ、スリーブ42とともに軸線方向に動作可能なシンクロナイザーリング(図示せず)およびシンクロナイザーキー(図示せず)とを有している。スリーブ42にはインナーギヤ(図示せず)が形成されており、スリーブ42が軸線方向に動作することにより、アウターギヤ43とスリーブ42のインナーギヤとの係合・解放が行われるように構成されている。このアウターギヤ43とスリーブのインナーギヤとが係合された場合は、第2発進クラッチ出力軸5と第1変速機出力軸6との間で、第4速用歯車対11を経由させて動力伝達を行うことが可能となる。これに対して、アウターギヤ43とスリーブ42のインナーギヤとが解放された場合は、第2発進クラッチ出力軸5と第1変速機出力軸6との間で、第4速用歯車対11を経由させて動力伝達を行うことが不可能となる。
また、この第4同期係合装置41は第6速用歯車対13に対応するクラッチとしての機能を兼備している。すなわち、第6速ドライブギヤ24と一体回転するアウターギヤ44が設けられており、アウターギヤ44に対応するシンクロナイザーリング(図示せず)が設けられている。そして、スリーブ42が軸線方向に動作することにより、アウターギヤ44とスリーブ42のインナーギヤとの係合・解放が行われるように構成されている。このアウターギヤ44とスリーブ42のインナーギヤとが係合された場合は、第2発進クラッチ出力軸5と第1変速機出力軸6との間で、第6速用歯車対13を経由させて動力伝達を行うことが可能となる。これに対して、アウターギヤ44とスリーブ42のインナーギヤとが解放された場合は、第2発進クラッチ出力軸5と第1変速機出力軸6との間で、第6速用歯車対13を経由させて動力伝達を行うことが不可能となる。なお、スリーブ42を軸線方向で中立位置に動作させると、スリーブ42のインナーギヤを、2つのアウターギヤ43,44から共に解放させることは可能であるが、スリーブ42のインナーギヤが軸線方向のいずれの位置にある場合でも、2つのアウターギヤ43,44のいずれか一方にのみ噛合する。
一方、前記エンジン1には内燃機関や外燃機関、モータなどの各種の動力装置が含まれるが、この実施例では、内燃機関を用いている場合について説明する。内燃機関としては、例えば、ガソリンエンジン、ディーゼルエンジン、LPGエンジン、メタノールエンジンなどを用いることが可能である。この実施例では、エンジン1としてガソリンエンジンが用いられている場合について説明する。このエンジン1は、電子スロットルバルブ、燃料噴射量制御装置、点火時期制御装置などを有する公知のものである。さらに、車両Veにはブレーキ装置(図示せず)が設けられている。このブレーキ装置は、乗員により操作されるブレーキペダル、および車輪2に設けられたホイールシリンダなどにより構成されている。そして、ブレーキペダルの操作に応じてホイールシリンダの油圧が制御されて、車輪2に対する制動力が調整される。
つぎに、車両Veの制御系統について説明すると、発進クラッチC1および発進クラッチC2および第1同期係合装置30ないし第4同期係合装置41を、それぞれ別々に制御することの可能なアクチュエータが設けられている。この実施例では、アクチュエータとして油圧アクチュエータ48が用いられている。つまり、発進クラッチC1および発進クラッチC2および第1同期係合装置30ないし第4同期係合装置41は、いずれも油圧制御式のクラッチであり、各クラッチに対応して油圧室(図示せず)が形成されているととともに、各油圧室の油圧が油圧アクチュエータ48により制御されるように構成されている。つまり、発進クラッチC1および発進クラッチC2の係合圧指令値は、油圧アクチュエータ48により制御される。この油圧アクチュエータ48は、油圧回路およびソレノイドバルブなどを有する公知の構造を有している。
また、車両Veの全体を制御する総合電子制御装置(ECU)49が設けられているとともに、エンジン1を制御するエンジン用電子制御装置(ECU)50が設けられている。さらに、変速機3を制御するために乗員が操作するシフト操作装置51が設けられているとともに、変速機3における変速状態を表示するシフト状態表示装置52が設けられている。シフト操作装置51は、乗員が手で操作する構造のものまたは足で操作する構造のもののいずれでもよい。シフト操作装置51の操作により、前進段(ドライブポジション)、後進段(リバースポジション)、ニュートラルポジション、パーキングポジションなどを選択的に切り換え可能である。さらに、シフト状態表示装置52は、ランプ点灯、音声表示、ディスプレイ表示などの少なくとも1つの表示システムにより、変速機3の変速状態を出力する構成となっている。また、潤滑油および油圧アクチュエータ48の作動油の温度を検出する油温センサ520および各クラッチの軸線方向におけるスリーブの位置を検知するスリーブ位置センサ53が設けられている。
前記エンジン用電子制御装置50には、各種のセンサやスイッチの信号が入力される。このエンジン用電子制御装置50には、例えば、エンジン1の回転速度、吸入空気量、吸入空気温度、アクセル開度、スロットル開度、冷却水温、などの信号が入力される。エンジン用電子制御装置50からは、エンジン1の電子スロットルバルブの開度、吸入空気量、点火時期、燃料噴射量などを制御する信号が出力される。
前記総合電子制御装置49には、各種のセンサやスイッチの信号が入力される。総合電子制御装置49には、例えば、第1発進クラッチ出力軸4の回転速度センサ55、第2発進クラッチ出力軸5の回転速度センサ56、第2変速機出力軸7の回転速度センサ57、潤滑油および作動油の温度、発進クラッチC1,C2の係合面の温度を検出するクラッチ温度センサ58、ブレーキペダルの操作状態、ナビゲーションシステムで得られる道路状況、シフト操作装置51の操作状態、道路勾配センサ、加速度センサなどの信号が入力される。総合電子制御装置49からは、油圧アクチュエータ48を制御する信号、シフト状態表示装置52を制御する信号などが出力される。なお、エンジン用電子制御装置50と総合電子制御装置49との間で相互に信号の授受が行われる。また、この実施例において、各種の回転部材の回転速度は、各種の回転部材の回転数と等価のパラメータである。
つぎに、変速機3の制御について説明する。変速機3で前進段の第1速を設定する場合は、第1同期係合装置30のスリーブの動作により、第1同期係合装置30のスリーブのインナーギヤとアウターギヤ32とが係合されるとともに、発進クラッチC1が係合されるとともに、第2同期係合装置33ないし第4同期係合装置41のスリーブが全て中立位置に制御され、かつ、発進クラッチC2が解放される。このような制御により、入力軸47と第2変速機出力軸7との間で、発進クラッチC1および第1速用歯車対8を経由して動力伝達を行うことが可能になるとともに、入力軸47と第2変速機出力軸7との間における変速比が、第1速用歯車対8を構成する第1速ドライブギヤ14と第1速ドリブンギヤ15との歯数比に応じた値となる。すなわち、変速機3の変速段として第1速が設定される。
また、変速機3で前進段の第2速を設定する場合は、第2同期係合装置33のスリーブ34の動作により、スリーブ34のインナーギヤとアウターギヤ35とが係合されるとともに、発進クラッチC2が係合され、また第1同期係合装置30および第3同期係合装置37および第4同期係合装置41のスリーブが全て中立位置に制御され、かつ、発進クラッチC1が解放される。このような制御により、入力軸47と第2変速機出力軸7との間で、発進クラッチC2および第2速用歯車対9を経由して動力伝達を行うことが可能になるとともに、入力軸47と第2変速機出力軸7との間における変速比が、第2速用歯車対9を構成する第2速ドライブギヤ16と第2速ドリブンギヤ17との歯数比に応じた値となる。すなわち、変速機3の変速段として第2速が設定される。
また、変速機3で前進段の第3速を設定する場合は、第3同期係合装置37のスリーブ38の動作により、スリーブ38のインナーギヤとアウターギヤ39とが係合されるとともに、発進クラッチC1が係合されるとともに、第1同期係合装置30および第2同期係合装置33および第4同期係合装置41のスリーブが全て中立位置に制御され、かつ、発進クラッチC2が解放される。このような制御により、入力軸47と第2変速機出力軸7との間で、発進クラッチC1および第3速用歯車対10を経由して動力伝達を行うことが可能になるとともに、入力軸47と第2変速機出力軸7との間における変速比が、第3速用歯車対10を構成する第3速ドライブギヤ18と第3速ドリブンギヤ19との歯数比に応じた値となる。すなわち、変速機3の変速段として第3速が設定される。
さらに、変速機3で前進段の第4速を設定する場合は、第4同期係合装置41のスリーブ42の動作により、スリーブ42のインナーギヤとアウターギヤ43とが係合されるとともに、発進クラッチC2が係合されるとともに、第1同期係合装置30および第2同期係合装置33および第3同期係合装置37のスリーブが全て中立位置に制御され、かつ、発進クラッチC1が解放される。このような制御により、入力軸47と第2変速機出力軸7との間で、発進クラッチC2および第4速用歯車対11を経由して動力伝達を行うことが可能になるとともに、入力軸47と第2変速機出力軸7との間における変速比が、第4速用歯車対11を構成する第4速ドライブギヤ20と第4速ドリブンギヤ21との歯数比に応じた値となる。すなわち、変速機3の変速段として第4速が設定される。
さらに、変速機3で前進段の第5速を設定する場合は、第3同期係合装置37のスリーブ38の動作により、スリーブ38のインナーギヤとアウターギヤ40とが係合されるとともに、発進クラッチC1が係合されるとともに、第1同期係合装置30および第2同期係合装置33および第4同期係合装置41のスリーブが全て中立位置に制御され、かつ、発進クラッチC2が解放される。このような制御により、入力軸47と第2変速機出力軸7との間で、発進クラッチC1および第5速用歯車対12を経由して動力伝達を行うことが可能になるとともに、入力軸47と第2変速機出力軸7との間における変速比が、第5速用歯車対12を構成する第5速ドライブギヤ22と第5速ドリブンギヤ23との歯数比に応じた値となる。すなわち、変速機3の変速段として第5速が設定される。
さらに、変速機3で前進段の第6速を設定する場合は、第4同期係合装置41のスリーブ42の動作により、スリーブ42のインナーギヤとアウターギヤ44とが係合されるとともに、発進クラッチC2が係合されるとともに、第1同期係合装置30および第2同期係合装置33および第3同期係合装置37のスリーブが全て中立位置に制御され、かつ、発進クラッチC1が解放される。このような制御により、入力軸47と第2変速機出力軸7との間で、発進クラッチC2および第6速用歯車対13を経由して動力伝達を行うことが可能になるとともに、入力軸47と第2変速機出力軸7との間における変速比が、第6速用歯車対13を構成する第6速ドライブギヤ24と第6速ドリブンギヤ25との歯数比に応じた値となる。すなわち、変速機3の変速段として第6速が設定される。このように、変速機3は、前進段において第1速ないし第6速を選択的に切り換えることが可能である。つまり、変速機3は、変速比を段階的に、または不連続に切り換えることの可能な有段変速機である。
一方、シフト操作装置51の操作により、後進段(リバースポジション)が選択された場合は、第2同期係合装置33のスリーブ34の動作により、スリーブ34のインナーギヤとアウターギヤ36とが係合されるとともに、発進クラッチC2が係合されるとともに、第1同期係合装置30および第3同期係合装置37および第4同期係合装置41のスリーブが全て中立位置に制御され、かつ、発進クラッチC1が解放される。このような制御により、入力軸47と第2変速機出力軸7との間で、発進クラッチC2および後進用歯車対26を経由して動力伝達を行うことが可能になるとともに、入力軸47と第2変速機出力軸7との間における変速比が、後進用歯車対26を構成する後進ドライブギヤ27と後進アイドラギヤ29と後進ドリブンギヤ28との歯数比に応じた値となる。すなわち、変速機3で後進段が設定される。なお、前進段が設定された場合と、後進段が設定された場合とでは、第2変速機出力軸7の回転方向が逆となる。
前進段または後進段が選択された場合は、上記のように入力軸47と第2変速機出力軸7とが動力伝達可能に接続されるため、エンジン1が運転され、かつ、アクセルペダルが踏み込まれた場合、つまり、パワーオンの状態では、エンジントルクが変速機3を経由して車輪2に伝達されて、駆動力が発生する。これに対して、車両Veの惰力走行時、つまり、アクセルペダルが踏まれていないパワーオフの状態では、車両Veの運動エネルギに対応するトルクが、車輪2から変速機3を経由してエンジン1に伝達され、エンジンブレーキ力が生じる。
さらに、シフト操作装置51により、パーキングポジションまたはニュートラルポジジョンが選択された場合は、発進クラッチC1および発進クラッチC2が共に解放される。このような制御により、入力軸47と第2変速機出力軸7との間で動力伝達を行うことが不可能となる。そして、現在設定されている変速段から他の変速段(目標変速段)に切り換える場合は、現在の変速段を設定しているクラッチのスリーブを動作させて、現在の変速段に対応するアウターギヤと、スリーブのインナーギヤとを解放するとともに、目標変速段に対応するクラッチのスリーブを動作させて、目標変速段を設定するアウターギヤと、スリーブのインナーギヤとを係合させる制御が実行される。また、現在の変速段から目標変速段に切り換える場合に、発進クラッチC1および発進クラッチC2の係合・解放状態を切り換える必要がある場合は、その切り換え制御が実行される。
この実施例において、前進段では、変速段を示す数字が小さいほど、変速機3における変速比が大きくなる。ここで、変速機3の変速比とは、入力軸47の回転速度を第2変速機出力軸7の回転速度で除した値である。この実施例において、現在の変速段における変速比よりも、目標変速段における変速比の方が大きくなる変速制御がダウンシフトである。また、現在の変速段における変速比よりも、目標変速段における変速比の方が小さくなる変速制御がアップシフトである。そして、変速機3は、変速比を切り換える場合に、発進クラッチC1のトルク容量、および発進クラッチC2のトルク容量が制御されるように構成された、いわゆるツイン・クラッチ式の変速機3である。つまり、変速機3の変速段を変更する場合は、発進クラッチC1および発進クラッチC2の係合・解放を並行して実行する、いわゆるクラッチ・ツウ・クラッチ変速となる。
なお、この実施例においては、変速機3の変速段を切り換えるにあたり、自動変速制御とマニュアル変速制御とを選択可能である。マニュアル変速制御とは、乗員がシフト操作装置51をマニュアル操作することにより、第1速ないし第6速の変速段を選択的に切り換える制御である。また、自動変速制御とは、シフト操作装置51で前進段が選択されている場合に、車両Veの走行状態、例えば、車速およびアクセル開度および総合電子制御装置49に記憶されている変速マップに基づいて、変速判断を行い、第1速ないし第6速の変速段を選択的に切り換える制御である。この場合、変速マップには、現在の変速段から他の変速段にアップシフトする場合の基準となるアップシフト線、および、現在の変速段から他の変速段にダウンシフトする場合の基準となるダウンシフト線が設けられている。
上記の変速機3は、発進クラッチC1,C2を介してエンジン1に連結され、また、エンジン1の出力トルクは必ずしも一定ではない上に、その慣性モーメントが大きく、さらに車輪2の路面から作用する負のトルクが常時変化する。このようなトルクがショックや騒音などの乗り心地の悪化要因となるのを避けるために、定常走行時(非変速時)にトルク伝達している発進クラッチをわずかに滑らせてトルクの変動を吸収している。この発明に係る上記の制御装置は、このような滑り制御を有効に利用して変速制御を行い、変速ショックを抑制し、変速応答性を損なわないようにしている。
図1はこの滑り制御、すなわちスリップ制御が行われるクラッチを切り換えるための制御例を示すフローチャートである。なお、ここでは、1速から2速へのアップシフトを想定しており、解放側クラッチが発進クラッチC1であり、係合側クラッチが発進クラッチC2である。
先ず、現在の状態がパワーオンアップシフト変速中か否かが判断される(ステップS11)。ここで、パワーオンアップシフト変速とは、アクセルペダルが踏み込まれており、スロットル開度が増大している動力増大要求がある状態でのアップシフト変速である。
また、このアップシフト変速は発進クラッチC1の解放制御と合わせて発進クラッチC2の係合制御を行う変速制御である。
そして、ステップS11で否定的に判断された場合には、このルーチンを抜けるが、肯定的に判断された場合には、発進クラッチC1の係合油圧指令値が“0”か否かが判断される(ステップS12)。ステップS12で否定的に判断された場合、すなわち、係合油圧指令値がで“0”でなければ、発進クラッチC1は未だ係合状態すなわち、所定の滑りを伴うトルクの伝達状態であると考えられるので、変速前のクラッチ、すなわち、発進クラッチC1の解放に向けたスリップ制御を継続または実施する(ステップS15)。
一方、発進クラッチC1の油圧指令値が“0”である場合、すなわち発進クラッチC1を完全解放状態に設定する指令値になっている場合には、係合側の発進クラッチC2が伝達するトルク容量を持ち始めていることにより、エンジン回転数が低下し始め、そのために発進クラッチC1におけるスリップ量が減少する。すなわち、定常走行時には発進クラッチC1がトルクの変動を吸収する緩衝機能を奏するように、所定の滑り回転数が生じるように制御されており、その入力側回転数(もしくはエンジン回転数)に対して出力側回転数が小さくなっている。そのため、アップシフトによる回転変化が生じ始めると、エンジン1に連結されている入力側の回転数が低下するので、滑り回転数が低下し始める。
したがって、発進クラッチC1のスリップ量が所定値NSLPSFTSよりも小さいか否かが判断される(ステップS13)。なお、この所定値NSLPSFTSは予め定めた判断基準値であり、スリップ量がこの値以下となった場合に、クラッチの切り換えの判定が行われるように設定した値である。なお、上記実施例においては、クラッチの切り換え判定をスリップ量と油圧指令値の両方で行ったが、この発明では少なくともいずれか一つが行われるようになっていればよい。
そして、ステップS13で肯定的に判断された場合には、変速後にトルクの伝達を行うクラッチ、すなわち発進クラッチC2のスリップ制御を開始する(ステップS14)。
一方、上記の変速制御中にエンジンのトルクを低下させる。図2は、この変速時におけるエンジントルクダウンの制御の一例を示したフローチャートである。まず、パワーオンアップシフト変速中か否かが判断される(ステップS21)。ステップS21で否定的に判断された場合、すなわち変速中でないと判断された場合にはフラグF1を“0”にしてこのルーチンを抜ける。そして、ステップS21で肯定的に判断された場合、フラグF1が“0”か否かが判断される。すなわち、変速が開始されていないか否かが判断される(ステップS22)。
ステップS22で肯定的に判断された場合、すなわち、変速中でない場合、発進クラッチC1の油圧指令値が“0”か否かが判断される(ステップS23)。ステップS23で肯定的に判断された場合、すなわち、発進クラッチC1に対する指令値がこれを完全解放状態にする値に達している場合、発進クラッチC2のスリップ量が所定値NSLPSFTS以下か否かが判断される(ステップS24)。そして、ステップS24で肯定的に判断された場合には、フラグF1を“1”にした後(ステップS25)、エンジントルクダウンを行う(ステップS26)。なお、このエンジントルクダウンは点火時期制御や燃料噴射量の減少、あるいはハイブリッド車でのモータジェネレータのトルク低減制御などで行うことができる。
一方、ステップS22で否定的に判断された場合、すなわち、フラグF1が“0”でない場合、エンジン回転数が発進クラッチC2の出力側の回転数に所定値αを加えた値よりも小さいか否かが判断される(ステップS27)。なお、この所定値αは、予め定めた判断基準値であって、エンジン1の回転数が、出力軸回転数に所定値αを加えた値以下の場合に、エンジンのトルクを復帰させるように制御する値である。
ステップS27で肯定的に判断されると、エンジンのトルクダウンが終了し、低下前のエンジントルクまでエンジントルクが復帰される(ステップS28)。
また、変速の進行に伴ってスリップ制御量が変更される。図3は変速の進行に伴うスリップ量の変更を行う制御の一例を示すフローチャートである。
まず、パワーオンアップシフト変速中か否かが判断され(ステップS31)、ステップS31で否定的に判断された場合にはこのルーチンを抜ける。また、ステップS31で肯定的に判断された場合には、エンジンのトルクダウン中か否かが判断される(ステップS32)。ステップS32で肯定的に判断された場合、すなわちエンジンのトルクダウン中である場合には、目標スリップ量TNSLIPiを現在の実スリップ量(エンジン回転数と発進クラッチC2の出力側回転数との差)とすることにより、フィードバック制御を実質的に禁止する(ステップS33)。
一方、ステップS32で否定的に判断された場合、すなわち、エンジンのトルクダウン中の場合、現在の目標スリップ量TNSLIPiを所定時間前の目標スリップ量TNSLIPi-1から目標スリップ量低下量DTNSLPだけ低下させた値とする(ステップS34)。したがって、この目標スリップ量低下量DTNSLPが目標スリップ量TNSLIPiの低下勾配となり、エンジントルクダウン終了から時間が経過するほど、ステップS34は何回も実行され、ステップS34が実行される都度、目標スリップ量TNSLIPiは低下していくことになる。そして、目標スリップ量TNSLIPiが定常時の目標スリップ量TNSLPCよりも小さくなったか否かが判断される(ステップS35)。そして、ステップS35で否定的に判断された場合には、このルーチンを抜ける。一方、ステップS35で肯定的に判断された場合、すなわち、目標スリップ量TNSLIPiが定常時目標スリップ量TNSLPCより小さくなった場合には、目標スリップ量TNSLIPiを定常時目標スリップ量TNSLPCとする。
また、エンジントルクダウン開始時の入力トルク推定値とエンジントルクをダウンしていない状態、すなわち定常状態の入力トルクとの比較に基づいて、発進クラッチC2の係合圧指令値のフィードフォワード値を補正する。図4はその制御の一例を示すフローチャートである。
先ず、現在の状態がパワーオンアップシフト変速中か否かが判断される(ステップS41)。ステップS41で肯定的に判断された場合は、発進クラッチC2の係合油圧のファーストアプライが終了したか否かが判断される(ステップS42)。なお、ファーストアプライとは、発進クラッチC2におけるパッククリアランスを詰めるように油圧を急速に供給する制御である。さらに、ステップS42で肯定的に判断された場合には、発進クラッチC2の低圧待機制御が終了したか否かが判断される(ステップS43)。ここで、低圧待機制御とは実質的に係合してトルク容量を持ち始める状態に維持する制御である。なお、ステップS41からステップS43で否定的に判断された場合にはフラグF1を“0”として(ステップS410)、このルーチンを抜ける。
一方、ステップS43で肯定的に判断された場合には、フラグF1が“0”か否かが判断される(ステップS44)。フラグF1が“0”の場合、すなわち、エンジントルクダウン開始条件が成立しているにもかかわらずエンジントルクダウンが行われていない場合には、発進クラッチC2に対するフィードフォワード制御量PC2FWDiを所定勾配DPUPAPLSWだけ増加させる(ステップS45)。なお、所定勾配DPUPAPLSWは以下の式で求められる。
DPUPAPLSW=(PUPAPLSWPE−PUPAPLBAS)/TUPAPLSW
ここで、PUPAPLSWPEはエンジン入力トルクと変速前後のエンジン回転数差のマップ値であり、PUPAPLBASはピストンストロークエンド圧近傍の油圧であり、TUPAPLSWはスリップ量の変更時間であって、入力トルクに基づいて決定される値である。すなわち、エンジン出力トルクと、エンジン回転数と、スリップ量の変更時間と、待機圧とによって求められる。
そして、エンジントルクダウンを開始する(ステップS46)。そして、フラグF1を“1”に設定した後(ステップS47)。フィードフォワード制御中のエンジントルク推定量TEFWDSをエンジントルクダウン時のエンジントルク推定量TESMとする(ステップS48)。
一方、ステップS44で否定的に判断された場合、発進クラッチC2に対するフィードフォワード制御量PC2FWDiをエンジントルク推定量TEFWDSとエンジントルクダウン時のエンジントルク推定量TESMとの差分に基づいて補正する(ステップS49)。
また、変速中は、発進クラッチC1,C2の両方でトルクの伝達が分担されるため、発進クラッチC1のクラッチ係合油圧のフィードフォワード制御量を発進クラッチC2の推定伝達トルク容量を考慮して決定する。図5はその制御の一例を示すフローチャートである。
先ず、パワーオンアップシフト変速中か否かが判断される(ステップS51)。ステップ51で否定的に判断された場合にはこのルーチンを抜けるが、肯定的に判断された場合、すなわち、変速中である場合には、発進クラッチC2の係合圧指令値がスイープアップを開始したか否かが判断される(ステップS52)。ステップS52で肯定的に判断された場合、すなわち発進クラッチC2に対してもトルクが分担され始めた場合、発進クラッチC1のフィードフォワード制御量PC1FWDiをエンジントルクと発進クラッチC2の伝達トルクとの差分に基づいて求める(ステップS53)。一方、発進クラッチC2の係合圧指令値がスイープアップを開始していない場合、発進クラッチC1のフィードフォワード制御量PC1FWDiをエンジントルクに基づいて求める(ステップS54)。
また、発進クラッチC1,C2の個体差により、変速時と変速終了時とのフィードフォワード制御量とにずれが生じる場合がある。図6はこのずれを補正するための制御の一例を示すフローチャートである。
先ず、パワーオンアップシフトが終了したか否かが判断される(ステップS61)。なお、この終了判定は、実スリップ量が定常時の目標スリップ量の所定値の範囲に連続して所定時間だけ入ったときに終了判定がなされる。そして、ステップS61で否定的に判断された場合、すなわち変速中の場合には、発進クラッチC2のフィードフォワード制御量PC2FWDを変速中の制御量とし(ステップS66)、フラグF1を“0”とする。一方、ステップS61で肯定的に判断された場合、すなわち、変速が終了した場合、フラグF1が“0”か否かが判断される(ステップS62)。ステップS62で否定的に判断された場合、このルーチンを抜けるが、肯定的に判断された場合、すなわち変速終了直後と判断された場合には、発進クラッチC2に対するフィードバック制御量PC2FBiを、変速中のフィードフォワード制御量PC2FWDと定常時のフィードフォワード制御量PC2FWDCとの差分で補正する(ステップS63)。そして、フラグF1を“1”とした(ステップS64)後、フィードフォワード制御量を定常時のフィードフォワード制御量PC2FWDCとする(ステップS65)。
また、変速中における、クラッチの応答性の向上を目的として、変速中のフィードバックゲインを増大させる。図7はこの制御の一例を示すフローチャートである。先ず、ステップS71で現在が変速中か否かが判断される(ステップS71)。そして、ステップS71で肯定的に判断された場合、すなわち、変速中である場合には現在のフィードバックゲインを、変速中のフィードバックゲインとして増大させる(ステップS72)。一方、変速中でないと判断された場合には、現在のフィードバックゲインを定常時のフィードバックゲインとして、フィードバックゲインの大きさを低下させる(ステップS73)。
図8は変速開始から終了までの各物理量の変化を示すタイムチャートである。まず変速指令が出力されると、発進クラッチC2に対してファーストフィルが行われる(A時点からB時点)。なお、この間、発進クラッチC1はこもり音の防止や、変速機入力側のショックに対応するために常にスリップ制御が行われている。そして、ファーストフィルが終了すると、発進クラッチC1の係合圧指令値を低下させるとともに、発進クラッチC2の係合圧指令値を上昇させる。
なお、発進クラッチC1の係合圧指令値の低下勾配はフィードフォワード制御量PC1FWDiに基づいており、このフィードフォワード制御量PC1FWDiは図5に示すステップS51からS54に基づいて決定される。また発進クラッチC2のスイープアップ勾配はフィードフォワード制御量PC2FWDCに基づいており、図4に示すステップS41からステップS410に基づいて決定される。ステップS53において、フィードフォワード制御量PC1FWDiはエンジンの入力トルクと発進クラッチC2の伝達トルク容量との差分に基づいており、発進クラッチC2の係合具合の増大に伴って、この差分値は減少する。そして、この差分値に応じて発進クラッチC1の伝達トルク容量は減少する。つまり、発進クラッチC1の伝達トルク容量の減少分が発進クラッチC2の伝達トルク容量の増大分となるために、出力側に伝達されるトルクは低下しない。そのため駆動力の低下を抑制することができる。
さらに、時間が経過し、発進クラッチC1の係合圧指令値指示値が下限に達し、発進クラッチC2の係合圧指令値指示値が上限に達すると、発進クラッチC1のスリップ量が減少し、エンジン回転数Neが低下を開始する(B時点直前)。そして、発進クラッチC1のスリップ量が所定値NSLPSFTSよりも低下すると(ステップS24で肯定的に判断された場合に相当。B時点)、エンジントルクを低下させる(ステップS26に相当。B時点からC時点)。
加えて、スリップ制御の対象となるクラッチを、発進クラッチC1から発進クラッチC2に切り換える(ステップS11からステップS15に相当。B時点)。そして、エンジン回転数が発進クラッチC2の出力回転数に所定値αを加えた値以下になると、エンジンのトルクダウンを終了する(ステップS27で肯定的に判断された場合に相当する。C時点)。
エンジンのトルクダウンを発進クラッチC1,C2の切り換え後に行うことにより、クラッチ切り換え終了後のエンジン回転数の低下、すなわち変速後の変速比における同期回転数に向けた回転数の変化が促進される。そして、変速終了後の発進クラッチC2の出力回転数に近い回転数までエンジン回転数を低下させることができる。すなわち、エンジン回転数を自らの出力の低下で進行させ、変速に関与する発進クラッチによってエンジン回転数を引き下げる度合いが少なくなるため、発進クラッチC1,C2の耐久性を向上させることができる。また、変速の進行に伴ってエンジン回転数が十分に低下した場合には、エンジントルクを増大させる。したがって、変速終了後の駆動力の落ち込みを抑制することができる。なお、そのエンジントルクの増大(復帰)のタイミングは、実際のエンジン回転数と変速後の変速比における同期回転数との比較によって決定することができる。
また、発進クラッチ切り換え判定が成立した場合、スリップ制御の対象となる発進クラッチも切り換えられる。そのため、スリップ制御を適切に行うことができ、エンジンの吹き上がりを防止し、変速ショックを抑制することができる。
一方、クラッチ切り換え判定成立時(B時点)には、スリップ制御のフィードバック制御量を実スリップ量に設定する(ステップS33に相当。B時点からD時点)。そのため、B時点からD時点においては、目標制御量が実スリップ量と一致しているので、制御量のフィードバック偏差は“0”となり、実質的にフィードバック制御が禁止される。フィードバック制御の感度、すなわち、係合圧指令値の変化に対応するスリップ量変化の割合はエンジントルクダウン中には増大している。したがって、フィードバック制御を実質的に禁止することで、フィードバック制御の遅れによるショックを抑制することができる。なお、上記実施例においては、フィードバック制御量を実スリップ量に設定することで実質的にフィードバック制御を禁止したが、これを強制的に禁止することとしてもよい。
さらに、時間が経過し、エンジンのトルクダウンの復帰が完了すると(D時点)、フィードバック制御が再開される。そして、目標スリップ量TNSLIPiが定常時目標スリップ量TNSLPCになるように設定される(ステップS36に相当)。
その後時間が経過し、変速終了の判定が成立すると(E時点)、発進クラッチC2のフィードフォワード値の補正が行われる(ステップS63に相当)。変速中においては、アップシフトに伴う回転数の低下に応じたイナーシャトルクが生じているので、その分、フィードフォワード値が高く設定されている。また、経時変化などにより、変速状態から定常状態への移行の際に、変速状態と定常状態とでフィードフォワード値に差異が生じる。このため、変速終了判定が成立した場合、フィードフォワード値の補正を行うことで、定常状態へ移行する時点におけるショックの抑制を行うことができる。
さらに、変速中のフィードバックゲインの値を、定常状態よりも高くすることにより、変速中における応答性を向上させ、変速中のショックを抑制することができる(ステップS71からステップS73に相当)。
なお、図9に示すパワートレーンにおいては、発進クラッチC1および発進クラッチC2が入力軸47に対して並列に配置され、第2変速機出力軸7が車輪2に連結される構成となっているが、エンジントルクが、各歯車対を経由して発進クラッチC1および発進クラッチC2に伝達され、ついで、そのトルクが第2変速機出力軸7に伝達されるように構成されているパワートレーンにおいても、請求項1の発明を適用可能である。
ここで、実施例で説明した構成と、この発明の構成との対応関係を説明すると、図8に示すA時点からB時点までの間において各発進クラッチC1,C2の指令値を制御する手段が、請求項1におけるアップシフト制御手段に相当し、図1のステップS13および図2のステップS24の機能的手段が、請求項1における回転数判断手段に相当し、さらに図1のステップS14および図3のステップS33の機能的手段が、請求項1の滑り制御手段に相当する。また、請求項2における「第1滑り判定手段」には、ステップS24の機能的手段が相当し、請求項2における「第1出力トルク低減手段」には、ステップS26の機能的手段が相当する。また、請求項3における「第2滑り判定手段」には、ステップS27の機能的手段が相当し、請求項3における「出力トルク増大手段」には、ステップS28の機能的手段に相当する。そして、請求項4における「フィードバック禁止手段」には、ステップS33の機能的手段が相当する。さらに、請求項5における「滑り制御対象切替手段」には、ステップS14,S15の機能的手段が相当する。また、請求項6における「目標滑り回転数設定手段」には、ステップS33の機能的手段が相当する。
そして、請求項7における「変速終了判定手段」には、ステップS61の機能的手段が相当し、請求項7における「学習手段」には、ステップS63の機能的手段が相当する。また、請求項8における「・・・加算することにより実行する手段」には、ステップS63の機能的手段が相当する。そして、請求項9における「増圧勾配設定手段」には、ステップS45の機能的手段が相当し、「油圧制御手段」には、ステップS53の機能的手段が相当する。また、請求項10における「ゲイン設定手段」には、ステップS72,S73の機能的手段が相当する。そして、請求項11における「第2出力トルク低減手段」には、ステップS26の機能的手段が相当する。
また、この発明は、各動力伝達部材および各回転部材の回転軸線が、車両Veの前後方向または車両Veの幅方向のいずれの向きで配置されている車両Veにおいても実行可能である。また、この発明は、第2変速機出力軸7のトルクが、前輪または後輪のいずれに伝達される構成の二輪駆動車にも適用可能である。また、この発明は、第2変速機出力軸7のトルクが、動力分配装置(トランスファ)により、前輪および後輪に分配される構成の四輪駆動車にも適用可能である。またこの発明は、車両Ve以外の駆動装置、例えば、建設機械、工作機械などにも適用可能である。また、請求項1ないし請求項11の発明においては、各種の係合装置として、摩擦式クラッチ、電磁式クラッチ、噛み合い式クラッチなどを用いることが可能である。
1…エンジン、 3…変速機、 4…第1発進クラッチ出力軸、 5…第2発進クラッチ出力軸、 6…第1変速機出力軸、 7…第2変速機出力軸、 8…第1速用歯車対、 9…第2速用歯車対、 10…第3速用歯車対、 11…第4速用歯車対、 12…第5速用歯車対、 13…第6速用歯車対、 14…第1速ドライブギヤ、 15…第1速ドリブンギヤ、 16…第2速ドライブギヤ、 17…第2速ドリブンギヤ、 18…第3速ドライブギヤ、 19…第3速ドリブンギヤ、 20…第4速ドライブギヤ、 21…第4速ドリブンギヤ、 22…第5速ドライブギヤ、 23…第5速ドリブンギヤ、 24…第6速ドライブギヤ、 25…第6速ドリブンギヤ、 30…第1同期係合装置、 33…第2同期係合装置、 37…第3同期係合装置、 41…第4同期係合装置、 47…入力軸、 48…油圧アクチュエータ、 C1,C2…発進クラッチ、 Ve…車両。