本発明の実施態様である電子写真感光体の製造方法は、円筒状基体上に形成される電荷発生層の上に、電荷輸送物質を含む電荷輸送層と保護層との少なくとも2層が積層して形成される積層型の電子写真感光体を製造する方法である。本発明の製造方法によれば、電荷輸送層は、円筒状基体上に形成される電荷発生層の上に電荷輸送層用塗布液がロールコート方式で塗布されることによって形成され、保護層は、電荷輸送層の上に保護層用塗布液がインクジェット方式で塗布されることによって形成される。
電荷発生層は、その膜厚が通常1μm以下と薄く塗重ね回数が少なくて済むので、低固形分で数mPa・sの低粘度溶液でも良好な分散性を示し、インクジェット方式で形成することに適している。
電荷輸送層は、その膜厚が通常20μm以上の厚膜である。厚膜の電荷輸送層の形成にインクジェット方式を用いようとすると、吐出性確保のため低固形分、低粘度溶液を調製する必要があり、そのため、塗重ね回数が非常に多くなるので、塗工時間が非常に長くなる。また、低固形分の塗布液を重ね塗りすることから乾燥性を確保するために揮発性の高い溶剤を使用する必要があり、吐出ノズル付近での乾燥固化によるノズル詰まり、また導電性基体へ付着後のレベリング不良が懸念される。したがって、電荷輸送層は、上記の問題を生じることのないロールコート方式で形成されることが好ましい。
また保護層は、通常1μm〜10μm程度の膜厚であり、塗重ね回数が少なくて済むので、インクジェット方式で形成することに適している。ここで、保護層としては、耐磨耗性の点から熱硬化性樹脂を含有して形成されることが好ましい。熱硬化性樹脂は、樹脂と硬化剤との反応によって得られる樹脂であることが好ましい。また、保護層は、樹脂含有塗布液と硬化剤含有塗布液とをそれぞれ個別に電荷輸送層上に塗布し、電荷輸送層上で該塗布液同士を混合して形成されることが好ましい。保護層用塗布液として樹脂と硬化剤とが予め混合されるものを用いると、保管中または感光体の製造中に、樹脂と硬化剤との反応が進行して樹脂が硬化し、保護層形成用塗布液のゲル化が生じるからである。
電荷発生層と円筒状基体との間には、中間層が設けられることが好ましい。中間層は、膜厚が1μm程度の薄膜で、塗布液粘度も数mPa・sと低粘度のものが用いられるけれども、中間層用塗布液には酸化チタンのような比重が高く沈降性の高い顔料が含まれるので、インクジェット方式によると、ノズル部分で顔料が沈降、凝集を起こしやすく、吐出不良を引起こすおそれが高い。また、酸化チタンは非常に堅牢でノズルを磨耗させやすく、耐久性が低下するので、中間層は、浸漬塗布方式またはロールコート方式で形成されることが好ましい。
図1は積層型の電子写真感光体の製造に用いられる製造装置20の構成を簡略化して示す平面図であり、図2は図1に示す電子写真感光体の製造装置20に備わるインクジェット式塗布手段21の構成を示す図である。
電子写真感光体の製造装置20(以後、単に製造装置20と略称する)は、大略円筒状基体または円筒状基体上に形成される中間層の上に電荷発生層用塗布液を吐出することによって電荷発生層を形成するとともに、ロールコート式塗布手段22により形成される電荷輸送層の上に保護層用塗布液を吐出することによって保護層を形成するインクジェット式塗布手段21と、電荷発生層の上に電荷輸送層をロール塗布にて形成するロールコート式塗布手段22と、インクジェット式塗布手段21およびロールコート式塗布手段22の動作を制御する制御手段23とを含む構成である。
ロールコート式塗布手段22は、導電性の円筒状基体(以後、導電性基体とも称する)24に電荷輸送層用塗布液25を転写する塗布ロール26と、塗布ロール26に電荷輸送層用塗布液25を供給する塗布液供給手段27と、円筒状基体24を支持する基体支持手段28と、円筒状基体24を回転駆動させる第1駆動手段29と、塗布ロール26を回転駆動させる第2駆動手段30と、円筒状基体24が回転する周速を検出する第1周速検出手段31と、塗布ロール26が回転する周速を検出する第2周速検出手段32と、円筒状基体24の回転回数を検出する回転回数検出手段33と、円筒状基体24を塗布ロール26に対して近接離反するように移動させることのできる離間手段34と、回転回数検出手段33の検出出力に応答し、塗布ロール26に対して円筒状基体24が離反する方向に移動するように離間手段34の動作を制御するとともに、円筒状基体24が回転する周速と塗布ロール26が回転する周速とのうちいずれか一方の周速が他方の周速よりも速くなるように第1および第2駆動手段29,30の動作を制御する制御手段23と、さらに塗布ロール26を臨んで配置される円筒状部材35および円筒状部材35と塗布ロール26との間隙を調整する調整部材36とを有する膜厚調整手段37を含んで構成され、上記各部材は基台38上に配設される。
基台38上には、一対の第1チョック39a,39bが設けられ、この第1チョック39a,39bには不図示の軸受が備えられ、該軸受に一対の軸棒部材40a,40bが回転自在にそれぞれ支持される。円筒状基体24は、軸受を介して第1チョック39a,39bに支持される軸棒部材40a,40bに着脱自在に装着される。したがって、第1チョック39a,39bおよび軸棒部材40a,40bが、前述の基体支持手段28を構成する。第1チョック39a,39bは、基台38上の不図示の軌道に乗るように設けられ、軌道に案内されて円筒状基体24の軸線に対して直交する方向である矢符41方向に移動することができる。
一方の軸棒部材40aの円筒状基体24が装着される側と反対側の端部42は、第1駆動手段29である電動機の出力軸に連結される。したがって、一方の軸棒部材40aは、第1駆動手段29の駆動力によって回転駆動され、円筒状基体24が軸棒部材40a,40bに装着されているとき、円筒状基体24が第1駆動手段29によって回転駆動される。第1駆動手段29の出力軸の軸棒部材40aが連結される側と反対側には、回転回数検出手段33であるエンコーダが装着され、この回転回数検出手段33によって、第1駆動手段29の回転回数、ひいては円筒状基体24の回転回数を検出することができる。また一方の軸棒部材40aには、第1周速検出手段31である回転速度センサーが装着され、この第1周速検出手段31によって、第1駆動手段29の回転速度、ひいては円筒状基体24の周速を検出することができる。
塗布ロール26は、軸棒部材40a,40bに装着された円筒状基体24を臨み、円筒状基体24の軸線に対して軸線が平行になるように配置される。塗布ロール26は、基台38上に固設される一対の第2チョック43a,43bに備えられる不図示の軸受に、その軸棒44を介して回転自在に支持される。塗布ロール26の軸棒44の一端部は、第2駆動手段30である電動機の出力軸に連結される。したがって、塗布ロール26は、第2駆動手段30の駆動力によって、回転駆動される。また塗布ロール26の軸棒44には、第2周速検出手段32である回転速度センサーが装着され、この第2周速検出手段32によって、第2駆動手段30の回転速度、ひいては塗布ロール26の周速を検出することができる。
第2チョック43a,43bには、基台38表面に平行方向かつ外方に向って立上がるように支持部材45a,45bがそれぞれ設けられ、支持部材45a,45bには、第1チョック39a,39bが配置される方に向けてエアシリンダ46a,46bがそれぞれ装着される。エアシリンダ46a,46bのロッドの先端部は、基台38表面に平行方向かつ外方に向って立上がるようにして第1チョック39a,39bに形成される第1突起部47a,47bに取付けられる。エアシリンダ46a,46bは、不図示の配管によって空圧ユニット48に接続され、空圧ユニット48から供給されるエアによって、ロッドを矢符41方向に進退させることができる。このエアシリンダ46a,46bのロッドの進退によって、軌道に乗るように設けられる第1チョック39a,39bが、固設される第2チョック43a,43bに対して近接離反するように矢符41方向に移動、すなわち、第1チョック39a,39bに支持される円筒状基体24が、第2チョック43a,43bに支持される塗布ロール26に対して近接離反するように移動する。エアシリンダ46a,46b、配管および空圧ユニット48は、離間手段34を構成する。
本実施の形態では、塗布液供給手段27は、電荷輸送層用塗布液25をその内部空間に貯留するパンによって構成され、パンに貯留される電荷輸送層用塗布液25の液面が、塗布ロール26の外周面の少なくとも一部に接触することのできる配置になるように基台38上に設けられる。このことによって、回転する塗布ロール26が、パンに貯留される電荷輸送層用塗布液25を、その外周面に付着させて塗布に用いることができる。
本実施の形態の製造装置20は、前述のように塗布ロール26に供給された電荷輸送層用塗布液25の膜厚を調整する膜厚調整手段37をさらに含む。膜厚調整手段37に備えられる円筒状部材35には、本実施の形態ではメタリングロール35が用いられる。メタリングロール35は、その軸棒49を介して、不図示の軸受をそれぞれ備える一対の第3チョック50a,50bに回転自在に支持される。第3チョック50a,50bは、第1チョック39a,39bと同様に、基台38上の不図示の軌道に乗るように設けられ、軌道に案内されて矢符41方向に移動することができる。
調整部材36は、第1チョック39a,39bに形成された第1突起部47a,47bと同様にして、第2チョック43a,43bに形成される第2突起部51a,51bおよび第2突起部51a,51bに対向するように第3チョック50a,50bに形成される第3突起部52a,52bと、第2突起部51a,51bと第3突起部52a,52bとの間に設けられるおねじ部材53とを含んで構成される。おねじ部材53は、たとえば頭部が第2突起部51a,51bに回転自在に装着され、おねじの刻設された部分が第3突起部52a,52bに形成されるめねじ部に螺合される。おねじ部材53の頭部を回転させることによって、おねじ部材53の回転運動が、おねじ部材53に螺合する第3突起部52a,52bの形成された第3チョック50a,50bの直進運動に変換されて矢符41方向に移動する。このことによって、第3チョック50a,50bが、第2チョック43a,43bに対して近接離反するように移動、すなわち塗布ロール26に対してメタリングロール35が近接離反するように移動し、塗布ロール26とメタリングロール35とによって形成される間隙である電荷輸送層用塗布液25の膜厚を調整することができる。
なお、調整部材36は、おねじ部材53を用いる構成に限定されるものではなく、第2チョック43a,43bと第3チョック50a,50bとの間に、エアシリンダまたは油圧シリンダなどを設け、これを動作させることによって塗布ロール26とメタリングロール35との間隙を調整するように構成されても良い。
メタリングロール35の軸棒49の一端部は、第3駆動手段54である電動機の出力軸に連結される。メタリングロール35は、第3駆動手段54の駆動力によって、回転駆動することができる。またメタリングロール35の軸棒49には、第3周速検出手段55である回転速度センサーが装着され、この第3周速検出手段55によって、第3駆動手段54の回転速度、ひいてはメタリングロール35の周速を検出することができる。
塗布ロール26の外周面に付着した電荷輸送層用塗布液25はメタリングロール35との間の間隙を通過し、この間隙を通過する際に間隙の大きさに従って電荷輸送層用塗布液25の膜厚が調整される。膜厚の調整された電荷輸送層用塗布液25が、塗布ロール26から円筒状基体24に転写される。塗布ロール26とメタリングロール35とによる膜厚調整は、より詳細には、塗布ロール26とメタリングロール35とを、同一方向にそれぞれ回転させながら、2つのロール間隙を狭めたり、またはメタリングロール35の周速を上げることによっても、電荷輸送層用塗布液25の膜厚を調整(この場合は減少)させることができる。なお、メタリングロール35は、1本に限定されることなく2本以上配してもよく、また回転方向が隣接するロールに対して同方向に回転されてもよく逆方向に回転されてもよく、さらに回転させることなく固定した状態で膜厚調整に用いることもできる。
一般的に、図1に示すような製造装置20のロールコート式塗布手段22における乾燥塗膜の厚さLは、式(1)で与えられるので、式(1)に基づいて塗膜厚さを調整することができる。
L=Kαηg・√(Rm)・√(Rt 3)/Rγ …(1)
ここで、K;係数(ロール径に固有な係数)
α;塗工液の固形分濃度(vol%)
γ;塗工液の表面張力
η;塗工時のせん断速度における粘度
g;は塗布ロールとメタリングロールとの間隙寸法
Rm;メタリングロールの周速
Rt;塗布ロールの周速
R;円筒状基体の周速
製造装置20には、さらに電荷輸送層用塗布液25のクリーニング手段56が設けられる。クリーニング手段56は、メタリングロール35の表面に付着する電荷輸送層用塗布液25を掻取り、塗布液供給手段27であるパンに回収する。クリーニング手段56は、クリーニングブレード57と、クリーニングブレード57を支持する第4チョック58a,58bと、もう1つの調整部材59a,59bとを含んで構成される。
第4チョック58a,58bは、前述の第1チョック39a,39bと同様にして基台38上に設けられ、矢符41方向に移動することができる。クリーニングブレード57は、板状の部材であり、その長手方向が、メタリングロール35の軸線方向に延びるように配置され、その短手方向の端部によって、メタリングロール35表面に付着する電荷輸送層用塗布液25を掻取る。クリーニングブレード57は、第4チョック58a,58bの支持部で角変位可能に支持され、その短手方向がメタリングロール35に臨む角度を変化させることによってクリーニングブレード57とメタリングロール35との間隙の大きさを調整し、電荷輸送層用塗布液25の掻取量を調整することができる。またもう1つの調整部材59a,59bを調整することによって、第3チョック50a,50bと第4チョック58a,58bとの距離、すなわちメタリングロール35とクリーニングブレード57とで形成される間隙の大きさを調整し、電荷輸送層用塗布液25の掻取量を調整しても良く、さらに前述のクリーニングブレード57の角変位と併用しても良い。なおもう1つの調整部材59a,59bは、前述の調整部材36a,36bと同様に構成されるので、説明を省略する。
次にロールコート式塗布手段22とともに製造装置20の主要部を構成するインクジェット式塗布手段21について説明する。インクジェット式塗布手段21は、基体支持手段28に装着され、円筒状基体24の上方に位置するように設けられる。インクジェット式塗布手段21は、複数(本実施形態では3つ)の吐出ノズル60,61,62を備える塗工部63と、塗工部63が移動可能に装着されるガイドレール部64と、塗工部63に塗布液を供給する塗布液供給部65と、塗工部63と塗布液供給部65とに接続されて塗布液の搬送流路を形成する搬送チューブ66とを含んで構成される。
塗布液供給部65は、塗布液を貯留する貯留槽を備える。本実施の形態では、塗布液供給部65は、3種類の塗布液を貯留する3つの貯留槽、すなわち電荷発生層を形成するための電荷発生層用塗布液67を貯留する第1貯留槽68と、保護層を形成するための樹脂含有塗布液69および硬化剤含有塗布液70をそれぞれ貯留する第2貯留槽71および第3貯留槽72とを備える。塗布液供給部65に接続される搬送チューブ66の内部には図示しない3つの管路が形成され、これらの管路を介して、第1貯留槽68と第1吐出ノズル60とが接続され、第2貯留槽71と第2吐出ノズル61とが接続され、第3貯留槽72と第3吐出ノズル62とが接続される。搬送チューブ66には、管路を流過する塗布液中の異物を濾過するフィルタ73と、塗布液を塗工部63側に圧送するためのポンプ74とが備えられる。
本実施の形態では、第1吐出ノズル60は、図示しない圧電素子および電極を備え、圧電素子に電圧を印加したときの圧電素子の歪みによって電荷発生層用塗布液67の液滴を吐出させるピエゾ方式の吐出ノズルである。第2吐出ノズル61および第3吐出ノズル62も同様に、図示しない圧電素子および電極を備え、圧電素子の歪みによって樹脂含有塗布液滴69a、硬化剤含有塗布液滴70aを吐出させるピエゾ方式の吐出ノズルである。
インクジェット方式における液滴の吐出方法には、ピエゾ方式以外にサーマル方式があるけれども、これらの発熱体を用いて塗布液に対して局所的に熱を加えて気泡を発生させる方式では、塗布液中の着色成分の熱分解によって生じる物質、塗布液中に含まれる微量の無機不純物、凝集物などが熱源上に付着・堆積し、その結果熱源による塗布液の加熱が充分に実施できなくなり、塗布液の安定した吐出が持続できなくなるコゲーションを生じるおそれがある。ピエゾ方式では、コゲーションを生じることがなく、塗布液の安定した吐出を持続させることができるので、特に薄膜層を形成するのに適している。また、電子写真感光体の作製に用いられる溶剤は可燃性を有するものが多いので、熱を発生しにくいピエゾ方式が安全上好ましい。
また、本実施の形態では、第2吐出ノズル61および第3吐出ノズル62は、第2吐出ノズル61から吐出される樹脂含有塗布液滴69aおよび第3吐出ノズル62から吐出される硬化剤含有塗布液滴70aは、円筒状基体24の表面において略等しい位置に着弾するように設けられる。
ガイドレール部64は、たとえば金属製の棒状部材であり、その軸線が円筒状基体24の軸線と平行になるように図示しないレール支持手段に装着される。これによって、ガイドレール部64に装着される塗工部63は、円筒状基体24に対して一定の距離を保つようにして、ガイドレール部64に案内されて、円筒状基体24の軸線に平行な方向に移動することができる。塗工部63の移動は、たとえばガイドレール部64をラックに形成し、塗工部63に設けられる電動機の出力軸にピニオンを装着し、ラックとピニオンとを噛合させることによって実現できる。
インクジェット式塗布手段21による塗布動作の際、塗工部63は、ガイドレール部64に案内されて、円筒状基体24の軸線に平行な方向に往復して繰返し移動される。インクジェット式塗布手段21は、軸線まわりに回転駆動する円筒状基体24の軸線に平行な方向に塗工部63を往復して繰返し移動させながら塗布液を液滴状に吐出することによって、円筒状基体24に対して塗布液を塗布する。なお、インクジェット式塗布手段21は、電荷発生層の形成時においては、塗布液供給部65の第1貯留槽68から供給される電荷発生層用塗布液67を第1吐出ノズル60から円筒状基体24に向けて吐出する。また、保護層の形成時においては、第2貯留槽71から供給される樹脂含有塗布液69を樹脂含有塗布液滴69aとして第2吐出ノズル61から円筒状基体24に向けて吐出し、第3貯留槽72から供給される硬化剤含有塗布液70を硬化剤含有塗布液滴70aとして第3吐出ノズル62から円筒状基体24に向けて吐出する。
インクジェット式塗布手段21では、電荷発生層用塗布液67と、樹脂含有塗布液69および硬化剤含有塗布液70とを塗布する際、それぞれの円筒状基体24の回転速度、塗工部63がガイドレール部64に案内されて移動する移動速度、塗工部63の往復移動回数、吐出ノズル60,61,62からの液滴の吐出速度、吐出ノズル60,61,62からの液滴の吐出量すなわち吐出される液滴の体積などが後述の制御手段23で制御されることによって、形成される塗膜の膜厚が調整される。
このようなインクジェット式塗布手段21およびロールコート式塗布手段22の動作を制御する制御手段23は、中央処理装置(略称CPU)を備える処理回路である。また制御手段23には、不図示のメモリが備えられ、メモリには、製造装置20の全体動作を制御するプログラムならびに塗布によって製造する電子写真感光体および塗布液の種類と特性とに応じて予め定められる塗布条件、すなわちインクジェット式塗布手段21による塗布条件と、ロールコート式塗布手段22による塗布条件とが、テーブルデータとして記憶されている。
インクジェット式塗布手段21による塗布条件は、円筒状基体24に対して電荷発生層用塗布液67を塗布する際、または、樹脂含有塗布液69および硬化剤含有塗布液70を塗布する際のそれぞれにおける円筒状基体24の周速、塗工部63がガイドレール部64に案内されて移動する移動速度、塗工部63から吐出される液滴の吐出量(吐出速度)、円筒状基体24の回転回数などである。
ロールコート式塗布手段22による塗布条件は、円筒状基体24に対して塗布ロール26で塗布する際における第1駆動手段29による円筒状基体24の周速u1、第2駆動手段30による塗布ロール26の周速u2、第3駆動手段54によるメタリングロール35の周速u3、円筒状基体24と塗布ロール26との周速比r(=u1/u2)、塗布開始後円筒状基体24と塗布ロール26とを離間させるタイミングを決定するための円筒状基体24の回転回数、さらに円筒状基体24と塗布ロール26とを離間させるときにおける、円筒状基体24の周速V1、塗布ロール26の周速V2、円筒状基体24と塗布ロール26との周速比R(=V1/V2)および離間手段34による離間速度などである。
回転回数検出手段33、第1周速検出手段31、第2周速検出手段32および第3周速検出手段55が、制御手段23に接続され、それぞれの検出出力である円筒状基体24の塗布開始後の回転回数、円筒状基体24の周速、塗布ロール26の周速およびメタリングロール35の周速が入力される。また制御手段23には、離間手段34、第1駆動手段29、第2駆動手段30、第3駆動手段54、塗布液供給部65および塗工部63が接続される。制御手段23は、回転回数検出手段33、第1周速検出手段31、第2周速検出手段32および第3周速検出手段55からの検出出力に応じ、制御プログラムおよび予め定められる塗布条件に基づいて離間手段34、第1駆動手段29、第2駆動手段30、第3駆動手段54、塗布液供給部65および塗工部63の動作を制御する。
以下製造装置20による円筒状基体24に対する電荷発生層用塗布液67と、電荷輸送層用塗布液25と、保護層用塗布液である樹脂含有塗布液69および硬化剤含有塗布液70との塗布について説明する。本実施の形態では、電荷発生層が電荷輸送層の下層として形成され、電荷輸送層の上に保護層が形成される。すなわち、円筒状基体24には、電荷発生層用塗布液67、電荷輸送層塗布液25、樹脂含有塗布液69および硬化剤含有塗布液70の順に塗布液が塗布される。
円筒状基体24に対する電荷発生層用塗布液67の塗布は、軸線まわりに回転する円筒状基体24に対して、塗工部63が円筒状基体24の軸線方向に平行に移動しながら第1吐出ノズル60から電荷発生層用塗布液67を吐出することによって行われる。
円筒状基体24の回転速度を、製造する電子写真感光体の種類に応じて予め定められる周速に設定して動作を開始する。動作開始後、第1周速検出手段31が、円筒状基体24の周速を実測してその検出出力を制御手段23へ入力する。制御手段23は、第1周速検出手段31の検出出力に応じ、前述のテーブルデータから与えられる電荷発生層用塗布液67の吐出量および塗工部63の移動速度になるように、塗工部63の動作を制御する。回転回数検出手段33によって検出される回転回数が、テーブルデータに定められる所定回数に達したとき、すなわち電荷発生層の塗布厚さが所望の厚さに達したとき、制御手段23は、塗工部63の吐出動作および移動動作を停止するように動作制御する。このようにして、円筒状基体24に電荷発生層がインクジェット方式にて形成される。
インクジェット式塗布手段21の塗工部63は、軸線まわりに回転する円筒状基体24に対して、塗工部63が円筒状基体24の軸線方向に平行に移動しながら電荷発生層用塗布液67を塗布する。このように、円筒状基体24と第1吐出ノズル61とを相対的に移動させながら塗布液を吐出させることによって、円筒状基体24の塗布液を塗布するべき部分全体にわたって均一に塗布液を塗布することができるので、塗布むらの発生を防ぎ、円筒状基体24上に形成される電荷発生層のさらなる均一化を図ることができる。
電荷発生層が形成された円筒状基体24に対する電荷輸送層用塗布液25の塗布は、塗布ロール26の外周面が塗布液供給手段27であるパンに貯留される電荷輸送層用塗布液25中を通過することによって、塗布ロール26表面上に形成される電荷輸送層用塗布液25の膜厚を、膜厚調整手段37で調整した後、円筒状基体24を塗布ロール26に予め定める間隙を有するように近接させ、塗布ロール26上に形成された塗膜が、該塗膜に接触する円筒状基体24に転写されるようにして行われる。
塗布を開始後、円筒状基体24は、膜厚を均一にするために、回転回数が1回以上、20回以下の範囲になるように回転される。なお回転回数は、1.5〜10回が好ましく、より好ましくは2〜5回である。円筒状基体24の回転回数が、1回未満であると未塗布の外周面が残るので均一な塗膜が得られない。20回を超えると、作業時間が長くかかり、生産効率が低下する。したがって、回転回数を1〜20回とした。
なお、円筒状基体24に転写される電荷輸送層用塗布液25の膜厚は、前述の膜厚調整手段37によるメタリングロール35と塗布ロール26との間隙の大きさの他にも、塗布ロール26と円筒状基体24の周速、電荷輸送層用塗布液25の物性、円筒状基体24および塗布ロール26の表面の材質、円筒状基体24と塗布ロール26との間隙の大きさなどの調整によって制御することができる。
塗布ロール26で円筒状基体24に塗布する際、すなわち塗布ロール26から円筒状基体24へ塗膜を転写しているときの円筒状基体24の周速u1と塗布ロール26の周速u2との比r(=u1/u2)は、0.7〜1.4に設定されることが好ましい。
以下、比rの範囲限定理由を説明する。一般的に、円筒状基体24の周速u1と塗布ロール26の周速u2との比rに対する円筒状基体24表面における塗布液の流動状態は、比rによって異なり、比rが高くなると塗布液が連続的に凹凸となるリブが形成され、塗膜の厚さが不均一になる。このリブ発生の下限条件は、キャピラリー数Caと形態パラメータH0/D(H0:円筒状基体24と塗布ロール26との間隔の1/2、D:円筒状基体24の半径)との関係で整理され、結果的にキャピラリー数Caおよび形態パラメータH0/Dに対する影響因子であるロール径、間隙の大きさ、周速、塗布液の粘度、表面張力によって定まることが知られている。円筒状基体24に均一な膜厚の塗膜を形成するには、このようなリブの発生を防止することが重要であり、円筒状基体24と塗布ロール26との周速の比rを、0.7〜1.4の範囲内に設定して塗膜を形成することによって、ほとんどの条件下でリブを生じることなく均一な塗膜を形成できる。
電荷輸送層用塗布液25の塗布を開始した後、円筒状基体24の回転回数が予め定める回数に達したことを回転回数検出手段33によって検出すると同時に、その検出出力に応じて制御手段23が、離間手段34の動作を制御して円筒状基体24を塗布ロール26から離間させ、また第1および第2駆動手段29,30の動作を制御して円筒状基体24の周速V1が、塗布ロール26の周速V2よりも速くなるようにする。このとき、円筒状基体24の周速V1と塗布ロール26の周速V2との比R(=V1/V2)が、1.2〜15.0になるようにすることが好ましい。
塗布ロール26と円筒状基体24とを離間させると同時にいずれか一方の周速が他方の周速よりも速くなるように制御するけれども、ここでは、円筒状基体24の寸法が塗布ロール26の寸法よりも小さく、高速度化の対象とするには寸法の小さい円筒状基体24の方が有利であるので、円筒状基体24の周速V1が、塗布ロール26の周速V2よりも速くするように設定される。
塗布ロール26で円筒状基体24に電荷輸送層用塗布液25を塗布している状態における円筒状基体24の周速u1および塗布ロール26の周速u2と、離間と同時に設定される円筒状基体24の周速V1および塗布ロール26の周速V2とは、それぞれ同一であっても良く、また異なる値に定められても良い。たとえば、前述の比r(=u1/u2)が、1.4になるように設定されて塗布されている場合、塗布ロール26と円筒状基体24とを単に離間させるだけで、円筒状基体24の周速の方が、塗布ロール26の周速よりも速い状態を実現することができる。しかしながら、多くの場合、塗布状態では円筒状基体24の周速u1と塗布ロール26の周速u2とは同じ値、すなわち比rが1.0に設定されるので、塗布ロール26の周速を離間の前後で同一(u2=V2)になるようにし、円筒状基体24の周速を離間と同時に速くして周速V1が周速u1よりも速くなるように制御する方法がとられる。
本実施の形態では、周速比Rの制御は、回転回数検出手段33によって所定の回転回数に達したことが検出されると同時に、該出力に応答し、制御手段23が、不図示のメモリにストアされている塗布条件に該当するテーブルデータを読出し、テーブルデータに指定されている周速V1およびV2になるように、第1および第2駆動手段29,30に対して回転動作制御信号を出力して行われる。
周速比Rの制御方法は、上記に限定されるものではなく、たとえば、塗布時には円筒状基体の回転軸に負荷をかけて周速を遅くしておき、離間時にその負荷を取除くことによって、円筒状基体の周速を速くする方法、また反対に離間時に塗布ロールに負荷をかけることによって塗布ロールの周速を遅くして相対的に円筒状基体の周速を速くする方法、また回転軸に負荷をかける手段として、回転軸に摩擦体を設置しブレーキを配置する方法もしくは回転軸をクラッチで繋ぎそのクラッチの接続強度により負荷を変更する方法などを用いて円筒状基体もしくは塗布ロールの周速を変化させる方法であっても良い。
塗布ロール26と円筒状基体24とを離間させる際における円筒状基体24の周速V1と塗布ロール26の周速V2とが同じであると、両者を離間させているにも関わらず円筒状基体24上の塗膜と塗布ロール26上の塗膜とが表面張力の作用によって伸び、円筒状基体24と塗布ロール26との間に電荷輸送層用塗布液25の連接部を形成する。この電荷輸送層用塗布液25の連接部は、円筒状基体24と塗布ロール26との間に、あたかも橋をかけたように形成されるので、便宜上これを橋かけ構造と呼ぶ。
一般的に膜厚が薄いと、その部分の溶剤濃度が早く減少するので、膜厚の薄い部分は他の部分より表面張力が高くなる。前述の橋かけ構造部分は、その膜厚が薄いので、電荷輸送層用塗布液が、円筒状基体および塗布ロール表面上の塗膜から橋かけ構造部分に流れる。さらに、円筒状基体と塗布ロールとの離間が進み、橋かけ構造が切れると、橋かけ構造の切断部にエッジが形成され、前述と同様にエッジ部に電荷輸送層用塗布液が流れてエッジ部分の電荷輸送層用塗布液量が増加する。このようにして電荷輸送層用塗布液量が増加したエッジ部分は、円筒状基体を回転させてレベリングを行っても充分に均一化されず、膜厚の厚い継ぎ目を形成する。
一方、円筒状基体24と塗布ロール26との離間の際、円筒状基体24の周速V1を塗布ロール26の周速V2より速くすると、塗膜を形成する電荷輸送層用塗布液25には、離間方向に張力が加えられるだけでなく、回転方向にも急激にせん断力が加えられるので、橋かけ構造が形成されることなく電荷輸送層用塗布液25が切断される。その結果、前述のような塗膜の継ぎ目が形成されることがないので、円筒状基体24の表面に均一な厚みの塗膜が形成される。特に、離間する際の円筒状基体24と塗布ロール26との周速の比R(=V1/V2)を、1.2〜15.0の範囲に設定することによって、確実に継ぎ目の発生を防止することができるので好ましい。比Rの範囲は、より好ましくは1.3〜8.0である。周速の比Rが1.2未満であると、せん断力が不足するので、継ぎ目の発生を充分に防止することができず均一な厚みの塗膜が得られないおそれがある。周速の比Rが15.0を超えると、円筒状基体24の離間前後における速度上昇の程度が大きくなり過ぎるので、加速度に起因して塗膜が波うつようになり、均一な厚みの塗膜を得ることができなくなるおそれがある。
また塗布ロール26と円筒状基体24とを離間させることによって、せん断力と張力とを作用させて橋かけ構造を形成することなく両者の塗膜を切断後、円筒状基体24の回転を、予め定める時間継続し、円筒状基体24表面の塗膜をある程度乾燥させることが好ましい。たとえば円筒状基体24に塗布された電荷輸送層用塗布液25の溶媒が高沸点の場合、円筒状基体24への電荷輸送層用塗布液塗布後、塗布ロール26と円筒状基体24とを離間した後も、塗膜を構成する電荷輸送層用塗布液25が流動性を有しているので、重力の作用によって、塗膜が下方に垂れて均一な厚みの塗膜が形成できなくなることがある。なお、溶媒として比較的揮発性の高い溶剤を用いた場合、溶剤が揮発することによる乾燥を防止するために、塗布ロール26および円筒状基体24の部分または基台38上に製造装置20全体を覆うカバー部材を設けて略密閉状態とすることも、均一な厚みの塗膜を形成するために有効である。
電荷輸送層が形成された円筒状基体24に対する樹脂含有塗布液69および硬化剤含有塗布液70の塗布は、電荷発生層の形成と同様にして、軸線まわりに回転する円筒状基体24に対して、塗工部63が円筒状基体24の軸線方向に平行に移動しながら第2吐出ノズル61および第3吐出ノズル62から樹脂含有塗布液69および硬化剤含有塗布液70を吐出することによって行われる。
保護層形成時においても、電荷発生層形成時と同様に、円筒状基体24の回転速度が予め定められる周速に設定され、樹脂含有塗布液69および硬化剤含有塗布液70の吐出量および塗工部63の移動速度が制御される。樹脂含有塗布液69および硬化剤含有塗布液70が円筒状基体24に形成される電荷輸送層上に塗布されると、電荷輸送層上で塗布液同士が混合され、円筒状基体24上に保護層が形成される。
インクジェット式塗布手段21の塗工部63は、軸線まわりに回転する円筒状基体24に対して、塗工部63が円筒状基体24の軸線方向に平行に移動しながら樹脂含有塗布液69および硬化剤含有塗布液70を塗布する。このように、円筒状基体24と第1吐出ノズル61とを相対的に移動させながら塗布液を吐出させることによって、樹脂含有塗布液69と硬化剤含有塗布液70とを円筒状基体24上で均一に混合することができ、円筒状基体24の樹脂含有塗布液69および硬化剤含有塗布液70が塗布されるべき部分にわたって、両方の塗布液が均一に塗布されるので、円筒状基体24表面において均一な性質の保護層を形成することができる。
また、インクジェット方式で樹脂含有塗布液69および硬化剤含有塗布液70をそれぞれ個別に塗布することによって、樹脂と硬化剤とを、電荷輸送層上に塗布するまで触れさせることなく樹脂含有塗布液69および硬化剤含有塗布液70を保管することができ、保管中に樹脂と硬化剤との反応が生じないので、保護層形成用塗布液のゲル化、成分の沈降、凝集などの塗布液の劣化を確実に防止することができる。
以上のようにして製造装置20により形成される電荷発生層、電荷輸送層および保護層は、各層が順次塗布形成された後に、または各層用塗布液の塗布を終了する毎に、自然乾燥または熱風、遠赤外線などを熱源とする乾燥機を用いて乾燥される。乾燥温度および乾燥時間は、特に限定されないけれども、塗布液に使用される溶剤および各層の層厚などの各種条件に応じて適宜選択され、好ましくは、温度40〜130℃で10分間〜2時間程度である。
電子写真感光体の製造装置20によれば、1つのノズルヘッドから電荷発生層用塗布液67と保護層用塗布液である樹脂含有塗布液69および硬化剤含有塗布液70とを吐出するインクジェット式塗布手段21を備えるので、電荷発生層形成用の塗布手段と保護層形成用の塗布手段とを個別に設ける製造装置よりも、装置の小型化が図られる。
また、インクジェット方式およびロールコート方式により塗布液の塗布を行う製造装置20によれば、必要な量を大幅に超える多量の塗布液を貯留しておく必要がないので、塗布液の使用効率が高く、製造原価の低減を図ることができる。さらに、インクジェット式塗布手段21では、円筒状基体24の寸法、たとえば軸線方向の長さを変更する場合、塗工部63の円筒状基体24の軸線に平行な方向における移動範囲を変更するだけでよい。すなわち、インクジェット式塗布手段21では、生産する機種の切替を容易に行うことができるので、高い生産性を実現することができる。
なお、このような製造装置20は、上記の構成に限定されることなく、種々の変更が可能である。
たとえば、第2吐出ノズル61および第3吐出ノズル62は、第2吐出ノズル61から吐出される樹脂含有塗布液滴69aおよび第3吐出ノズル62から吐出される硬化剤含有塗布液滴70aが、円筒状基体24表面よりも塗工部63側に近い空間で交差するように設けられてもよい。このことによって、樹脂含有塗布液滴69aと硬化剤含有塗布液滴70aとを円筒状基体24に着弾する前に空中で衝突させて混合し、一体化された液滴として円筒状基体24に着弾させることができる。したがって、樹脂含有塗布液滴69aと硬化剤含有塗布液滴70aとをより均一に混合することができるので、形成される保護層の均一性を向上させることができる。
また、第2吐出ノズル61から吐出される樹脂含有塗布液滴69aおよび第3吐出ノズル62から吐出される硬化剤含有塗布液滴70aは、互いに交わらないように吐出されてもよい。この場合、インクジェット式塗布手段21は、第2吐出ノズル61および第3吐出ノズル62から順次樹脂含有塗布液滴69aおよび硬化剤含有塗布液滴70aを吐出させるとともに、塗工部63を、円筒状基体24の樹脂含有塗布液滴69aが着弾した位置に硬化剤含有塗布液滴70aが着弾するように、円筒状基体24の軸線に平行な方向に移動させる。これによって、円筒状基体24の表面において、樹脂含有塗布液滴69aと硬化剤含有塗布液滴70aとを混合することができる。
さらに、インクジェット式塗布手段21は、3つの貯留槽68,71,72と、3つの吐出ノズル60,61,62とを備えるけれども、これに限定されることなく、4つ以上の貯留槽および吐出ノズルを備えてもよい。また、電荷発生層をインクジェット方式で形成しない場合、樹脂含有塗布液および硬化剤含有塗布液の貯留槽と吐出ノズルのみが設けられる構成であってもよい。
図3は、本発明の実施の第2形態である製造装置に備わるロールコート式塗布手段80のロール構成部分の断面図である。本実施の形態の製造装置に備わるロールコート式塗布手段80は、実施の第1形態の製造装置20に備わるロールコート式塗布手段22に類似するので、構成を示す平面図を省略するとともに、対応する部分については同一の参照符号を付して説明を省略する。
本実施の形態のロールコート式塗布手段80においては、塗布ロール81は、少なくとも表層部が弾性を有する素材から成り、塗布ロール81から円筒状基体24に電荷輸送層用塗布液25を転写している状態では、第1駆動手段29による円筒状基体24の回転方向(矢符83)と、第2駆動手段30による塗布ロール81の回転方向(矢符84)とが逆な場合であり、円筒状基体24と塗布ロール81とが電荷輸送層用塗布液25を介して当接するように配置、すなわち特定のニップ圧を持って配置される場合である。本実施の形態のロールコート式塗布手段80は、塗布ロール81と円筒状基体24とが、逆方向に回転するナチュラルロールコーティングに構成される。
塗布ロール81の少なくとも表層部を構成する弾性素材としては、シリコーンゴム、有機ポリサルファイドゴム、ニトリル・ブタジエンゴム、ニトロスルホン化ポリエチレン、スチレン・ブタジエンゴムなどのゴム、またシリコーン樹脂、フッ素樹脂などの樹脂、また前述のゴムにフッ素樹脂などをコーティングしたものが挙げられる。
またロールコート式塗布手段80では、クリーニング手段が省かれ、もう1つのメタリングロール82が設けられ、メタリングロール35が、塗布ロール81の逆方向の矢符85方向に回転し、もう1つのメタリングロール82が、塗布ロール81と同一方向であってメタリングロール35と逆方向の矢符86方向に回転する。塗布ロール81とメタリングロール35との間隙、および2本のメタリングロール35,82の間隙は、調整部材36a,36bおよび調整部材59a,59bによって、所望の値になるように調整される。
塗布液供給手段27に貯留される電荷輸送層用塗布液25に、もう1つのメタリングロール82の一部が浸漬され、もう1つのメタリングロール82に付着した電荷輸送層用塗布液25が、メタリングロール35を介して塗布ロール81に供給され、該塗布ロール81から円筒状基体24に転写塗布される。塗膜厚さは、メタリングロール35,82間およびメタリングロール35と塗布ロール81との間に形成される間隙寸法を主とし、その他塗布液の物性、各ロールの周速、ニップ圧、塗布ロール81の材質などによって決定される。
ナチュラルロールコーティングの場合、第1および第2駆動手段29,30の動作制御によって、離間時における塗布ロール81と円筒状基体24との周速を、周速V1と周速V2とを設定する以外に以下のような周速比R制御をすることもできる。たとえば、離間前の円筒状基体24の周速u1が、塗布ロール81の周速u2よりも速い設定である場合、塗布ロール81の表層が弾性体で構成されるので、塗布ロール81と円筒状基体24とをニップ圧をかけて当接させることによって、塗布ロール81が円筒状基体24に対する摩擦体、すなわちブレーキの役目を果たす。この状態から円筒状基体24と塗布ロール81とを離間すると、同時に円筒状基体24に働いていた摩擦力であるブレーキ作用が無くなる。この摩擦力が無くなることによって、円筒状基体24は、塗布ロール81よりも速い周速で回転することができるようになり、円筒状基体24の周速を離間と同時に瞬時に変化させて、塗布ロール81の周速よりも速くすることができる。
図4は、電子写真感光体90の構成を簡略化して示す部分断面図である。電子写真感光体90は、実施の第1形態または第2形態の製造装置によって作製される。図4に例示する電子写真感光体90は、円筒状基体である導電性基体91の上に中間層92、中間層92の上に電荷発生物質を含む電荷発生層93、電荷発生層93の上に電荷輸送物質を含む電荷輸送層94、電荷輸送層94の上に保護層95を備える積層型感光体である。電荷発生層93と電荷輸送層94とは、光導電層96を形成し、中間層92と光導電層96と保護層95とは、感光層97を形成する。電子写真感光体90は、少なくとも電荷輸送層94がロールコート式塗布手段22によって形成され、保護層95がインクジェット式塗布手段21によって形成される。
中間層92は、導電性基体91から光導電層96への電荷の注入を防止し、電子写真感光体90の帯電性の低下を防止する。この中間層92の形成された電子写真感光体90によれば、露光によって消去されるべき部分以外の表面電荷の減少が抑制されるので、画像にかぶりなどの欠陥が発生することを防止できる。また導電性基体91の表面の欠陥を中間層92が被覆することによって、均一な表面が得られるので、光導電層96の成膜性を高めることができる。また光導電層96の導電性基体91からの剥離を抑え、導電性基体91に対する接着性を向上させることができる。
光導電層96を備える電子写真感光体90の表面をチャージャなどで負に帯電し、電荷発生層93に吸収波長を有する光を照射すると、電荷発生層93中に電子および正孔の電荷が発生する。正孔は、電荷輸送層94に含まれる電荷輸送物質によって電子写真感光体90の表面に移動され、表面の負荷電を中和し、電荷発生層93中の電子は、正電荷が誘起された導電性基体91の側に移動し、正電荷を中和することによって、積層型感光体90が機能する。
また、電子写真感光体90は、光導電層96の上に保護層95が設けられるように構成される。保護層95を設けることによって、光導電層96の耐刷性を向上させることができるとともに、電子写真感光体90の表面を帯電させる際のコロナ放電により発生するオゾン、窒素酸化物などの化学的悪影響を防止することができる。
なお、導電性基体91の導電性のむらを抑制するために、導電性基体91の上であって中間層92の下にカーボンペーストまたは銀ペーストなどの導電性を付与した塗膜を形成しても良い。
以下、電子写真感光体90の層構成と構成材料とについて説明する。なお、本発明に係る感光体材料は以下の記載内容に限定されるものではない。
導電性基体91を構成する導電性材料としては、たとえば、アルミニウム、アルミニウム合金、銅、亜鉛、ニッケル、クロム、モリブデン、バナジウム、インジウム、チタン、金、白金、真鍮、ステンレス鋼などの金属材料を用いることができる。またこれらの金属材料に限定されることなく、ポリエチレンテレフタレート、ポリエステル、ポリオキシメチレン、ポリスチレンなどの高分子材料、硬質紙またはガラスなどの表面に、金属箔をラミネートしたもの、金属材料を蒸着したもの、または導電性高分子、酸化スズ、酸化インジウム、炭素粒子、金属粒子などの導電性化合物の層を蒸着もしくは塗布したものなどを用いることもできる。これらの導電性材料は、円筒状に加工されて用いられる。
図4に示すように、導電性基体91と光導電層96との間には中間層92が設けられてもよい。導電性基体91と光導電層96との間に中間層92を設けることによって、導電性基体91から光導電層96への電荷の注入を防ぎ、繰返し使用による感光体90の帯電性の低下を防止することができる。また、低温低湿環境下における感光体90の帯電性を改善することができる。さらに、導電性基体91表面の傷、凹凸などを中間層92で被覆することができるので、光導電層96の成膜性を高めることができる。
中間層92は、たとえば、ポリアミド、共重合ナイロン、ポリビニルアルコール、ポリウレタン、ポリエステル、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、カゼイン、セルロース、ゼラチンなどの樹脂材料で形成される。これらの中でも、アルコール可溶性の共重合ナイロンが好適に用いられる。
中間層92には、体積抵抗率の調節、低温低湿環境下での繰返しエージング特性の改善などを目的として、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化スズ、酸化インジウム、シリカ、酸化アンチモンなどの無機顔料を添加してもよい。中間層92中の無機顔料の含有量は、30重量%以上95重量%以下であることが好ましい。
中間層92は、たとえば、前述の樹脂材料および必要に応じて前述の無機顔料などの添加剤を適当な溶剤中に加え、ボールミル、ダイノーミル、超音波発振機などの分散機を用いて分散させて中間層形成用塗布液を調製し、この塗布液を導電性基体91の表面に塗布することによって形成することができる。
中間層形成用塗布液の溶剤としては、水、各種有機溶剤などが用いられる。これらの溶剤は、1種が単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。単独溶剤としては、メタノール、エタノール、ブタノールなどのアルコール類、水などが好適に用いられる。混合溶剤としては、水とアルコール類との混合溶剤、2種以上のアルコール類の混合溶剤、アセトンなどのケトン類とアルコール類との混合溶剤、ジオキソランなどのエーテル類とアルコール類との混合溶剤、ジクロロエタン、クロロホルム、トリクロロエタンなどの塩素系溶剤とアルコール類との混合溶剤などが好適に用いられる。これらの中でも、地球環境への影響および作業者などの安全性を考慮すると、非ハロゲン系、特に非塩素系の有機溶剤を使用することが好ましい。
中間層形成用塗布液の形成方法としては、インクジェット法、浸漬塗布法などが好適に用いられる。ただし、中間層形成用塗布液が前述の酸化チタンなどの無機顔料を含む場合、これらの無機顔料は比重が高く、沈降しやすいので、図2に示すインクジェット式塗布手段21などを用いてインクジェット塗布法で塗布すると、ノズル部分で顔料が沈降、凝集を起こしやすく、吐出不良を引起すおそれがある。また、酸化チタンなどの無機顔料は、非常に堅牢でノズルを摩耗させやすいので、インクジェット塗布装置の耐久性が低下する。したがって、無機顔料を含む中間層形成用塗布液の塗布には、前述の図5に示す浸漬塗布装置などを使用する浸漬塗布法が好適に用いられる。
浸漬塗布法を用いる場合、塗布液を満たした塗工槽に導電性基体91を浸漬した後、一定速度または逐次変化する速度で引上げることによって、導電性基体91の表面に中間層92を形成することができる。浸漬塗布法によって形成される塗布膜の膜厚は、導電性基体91を引上げる際の速度(以後、引上げ速度と称する)、塗布液の粘度などによって制御することができる。たとえば、膜厚を薄くする場合には、導電性基体91の引上げ速度を大きくして塗布速度を小さくするか、または塗布液の粘度を小さくし、膜厚を厚くする場合には、導電性基体91の引上げ速度を小さくして塗布速度を大きくするか、または塗布液の粘度を大きくする。塗布液の粘度は、塗布液中の固形分の濃度によって調整することができる。
中間層92の層厚は、0.1μm以上5μm以下であることが好ましい。中間層92の層厚が0.1μmよりも薄いと、実質的に中間層92として機能しなくなり、導電性基体91からの光導電層96への電荷の注入を防止することができず、感光体90の帯電性が低下するおそれがある。また、導電性基体91の欠陥を被覆して均一な表面性を得ることが困難になるので、光導電層96の成膜性が低下する可能性がある。中間層92の層厚が5μmよりも厚いと、光導電層96から導電性基体91への電荷の流入が阻害され、感光体90の感度が低下するおそれがある。
中間層92の表面に形成される電荷発生層93は、光照射によって電荷を発生する電荷発生物質を主成分とし、必要に応じて結着樹脂、可塑剤、増感剤などの添加剤を含有する。電荷発生層93の電荷発生物質としては、フタロシアニン系化合物、アゾ系化合物、キナクリドン系化合物、多環キノン系化合物、ペリレン系化合物などが挙げられる。有機染料としては、チアピリリウム塩、スクアリリウム塩などが挙げられる。中でもフタロシアニン系化合物が好適であり、特にチタニルフタロシアニン化合物を用いることが最適である。これら列挙した顔料および染料の他に、電荷発生層93には、化学増感剤または光学増感剤を添加してもよい。化学増感剤として、電子受容性材料、たとえば、テトラシアノエチレン、7,7,8,8−テトラシアノキノジメタンなどのシアノ化合物、アントラキノン、p−ベンゾキノンなどのキノン類、2,4,7−トリニトロフルオレノン、2,4,5,7−テトラニトロフルオレノンなどのニトロ化合物が挙げられる。光学増感剤として、キサンテン系色素、チアジン色素、トリフェニルメタン系色素などの色素が挙げられる。これらの電荷発生物質の中でも、有機顔料または有機染料などの有機光導電性化合物が好適に用いられる。
電荷発生層93を形成するための電荷発生層用塗布液は、前述の電荷発生物質をバインダ樹脂とともに、適当な溶媒中に分散させることによって得られる。バインダ樹脂としては、たとえば、ポリアリレート、ポリビニルブチラール、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、フェノキシ樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン、ポリアクリレートなどが用いられる。
溶媒としては、イソプロピルアルコール、トルエン、キシレン、アセトン、メチルエチルケトン、エチルセロソルブ、酢酸エチル、酢酸メチル、ジクロロメタン、ジクロロエタン、モノクロルベンゼン、エチレングリコールジメチルエーテル、シクロヘキサノン、ピロリドン、n−メチルピロリドンなどを1種単独でまたは2種以上併用して用いることができる。
これらの溶媒の中でも120℃以上の沸点を有する高沸点溶媒であるシクロヘキサノン、ピロリドン、n−メチルピロリドンから選ばれる1種または2種以上が、電荷発生層用塗布液中に5〜40重量%の範囲に含有されることが好ましい。なお、電荷発生層用塗布液の溶媒としては、上記のもの以外に、アルコール系、ケトン系、アミド系、エステル系、エーテル系、炭化水素系、塩素化炭化水素系、芳香族系のいずれの溶媒系を混合して用いてもよい。いずれにしても、電荷発生物質、バインダ樹脂および溶媒の組成比を調整することによって、電荷発生層用塗布液の粘度が10mPa・s以下になるように設定されることが好ましい。このことによって、インクジェット方式で形成される場合にはノズル詰まりが防止されて安定した吐出性が維持されるとともに、塗布後のレベリング性を向上させることができる。
電荷発生層用塗布液は、電荷発生物質をボールミル、サンドグラインダ、ペイントシェーカ、超音波分散機などによって粉砕して溶剤に分散し、必要に応じてバインダ樹脂を加えて作製される。この電荷発生層用塗布液が、インクジェット式塗布手段21によって導電性基体91、もしくは導電性基体91表面に形成される中間層92の上に塗布され、必要に応じて乾燥硬化処理を行って電荷発生層93が形成される。このようにして形成される電荷発生層93の膜厚は、0.05〜5μmが好ましく、0.1〜1μmであることがより好ましい。
電荷輸送層94は、電荷発生物質で発生した電荷を受入れ輸送する能力を有する電荷輸送物質をバインダ樹脂中に含有させることによって得られる。電荷輸送物質としては、ホール輸送物質または電子輸送物質を用いることができる。
ホール輸送物質としては、カルバゾール誘導体、ピレン誘導体、オキサゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、チアゾール誘導体、チアジアゾール誘導体、トリアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、イミダゾロン誘導体、イミダゾリジン誘導体、ビスイミダゾリジン誘導体、スチリル化合物、ヒドラゾン化合物、多環芳香族化合物、インドール誘導体、ピラゾリン誘導体、オキサゾロン誘導体、ベンズイミダゾール誘導体、キナゾリン誘導体、ベンゾフラン誘導体、アクリジン誘導体、フェナジン誘導体、アミノスチルベン誘導体、トリアリールアミン誘導体、トリアリールメタン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、スチルベン誘導体、エナミン誘導体、ベンジジン誘導体などを挙げることができる。また、これらの化合物から生じる基を主鎖または側鎖に有するポリマー、たとえば、ポリ−N−ビニルカルバゾール、ポリ−1−ビニルピレン、エチルカルバゾール−ホルムアルデヒド樹脂、トリフェニルメタンポリマー、ポリ−9−ビニルアントラセン、ポリシランなどを用いることもできる。
電子輸送物質としては、たとえば、ベンゾキノン誘導体、テトラシアノエチレン誘導体、テトラシアノキノジメタン誘導体、フルオレノン誘導体、キサントン誘導体、フェナントラキノン誘導体、無水フタル酸誘導体、ジフェノキノン誘導体などの有機化合物、アモルファスシリコン、アモルファスセレン、テルル、セレン−テルル合金、硫化カドミウム、硫化アンチモン、酸化亜鉛、硫化亜鉛などの無機材料が挙げられる。電荷輸送物質は、上記のものに限定されることなく、またその使用に際しては1種を単独で、または2種以上を混合して用いることができる。
電荷輸送層94のバインダ樹脂としては、電荷輸送物質との相溶性に優れる樹脂が選ばれる。このような樹脂としては、たとえば、ポリメチルメタクリレート樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂などのビニル重合体樹脂およびそれらの共重合体樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエステルカーボネート樹脂、ポリスルホン樹脂、フェノキシ樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリアミド樹脂、メタクリル樹脂、アクリル樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアクリルアミド樹脂、フェノール樹脂、ポリフェニレンオキサイドなどを挙げることができる。また、これらの樹脂を部分的に架橋した熱硬化性樹脂を使用しても良い。これらの樹脂は、単独で使用されてもよく、また2種以上が併用されてもよい。前述した樹脂の中でも、ポリスチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリフェニレンオキサイドは、体積抵抗値が1013Ω以上であって電気絶縁性に優れ、成膜性、電位特性などにも優れているので、これらをバインダ樹脂に用いることが特に好ましい。
電荷輸送層94には、成膜性、可撓性および表面平滑性を向上させるために、必要に応じて、可塑剤、表面改質剤などの添加剤を添加しても良い。可塑剤としては、たとえばビフェニル、塩化ビフェニル、ベンゾフェノン、o−ターフェニル、二塩基酸エステル、脂肪酸エステル、リン酸エステル、フタル酸エステル、各種フルオロ炭化水素、塩素化パラフィン、エポキシ型可塑剤などが挙げられる。表面改質剤としては、シリコーンオイル、フッ素樹脂などが挙げられる。また電荷輸送層94には、機械的強度の増強および電気的特性の向上を図るために、無機化合物または有機化合物の微粒子を添加しても良く、さらに必要に応じて酸化防止剤、増感剤などの各種添加剤を添加しても良い。このことによって、電位特性が向上するとともに、電荷輸送層用塗布液としての安定性が向上し、感光体90を繰返し使用する際の疲労劣化を軽減し、耐久性を向上させることができる。
酸化防止剤には、ヒンダードフェノール誘導体またはヒンダードアミン誘導体が好適に用いられる。ヒンダードフェノール誘導体とヒンダードアミン誘導体とは、混合されて使用されてもよい。
電荷輸送層用塗布液は、適当な溶剤中に電荷輸送物質およびバインダ樹脂ならびに必要に応じて添加剤を溶解または分散することによって得られる。電荷輸送層用塗布液に用いられる溶剤には、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、テトラリン、ジフェニルメタン、ジメトキシベンゼン、ジクロルベンゼンなどの芳香族炭化水素、ジクロロメタン、ジクロロエタンなどのハロゲン化炭化水素、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジベンジルエーテル、ジメトキシメチルエーテルなどのエーテル類、シクロヘキサノン、アセトフェノン、イソホロンなどのケトン類、安息香酸メチル、酢酸エチルなどのエステル類、ジフェニルスルフィドなどの含硫黄溶剤、ヘキサフロオロイソプロパノールなどのフッ素系溶剤、N,N−ジメチルホルムアミドなどの非プロトン性極性溶剤などが挙げられる。これらは、1種を単独で使用してもよく、2種以上が併用されてもよい。また前述した溶剤に、必要に応じてアルコール類、アセトニトリル、メチルエチルケトンなどの溶剤をさらに加えて使用することもできる。
電荷輸送層94は、電荷輸送層用塗布液を、電荷発生層93上にロールコート式塗布手段22で塗布することによって形成される。電荷輸送層94の膜厚は、5μm以上50μm以下であることが好ましく、10μm以上40μm以下であることがより好ましい。電荷輸送層94の膜厚が5μm未満であると、電子写真感光体90表面の帯電保持能が低下する。電荷輸送層94の膜厚が50μmを超えると、電子写真感光体90の解像度が低下する。したがって、5μm以上50μm以下とした。
以上のようにして形成される光導電層96の表面には、保護層95が設けられる。保護層95を設けることによって、感光層97の耐刷性を向上させ、感光体90の耐久性を向上させることができる。また、感光体90の表面を帯電させる際のコロナ放電によって発生するオゾン、窒素酸化物などの活性ガスなどの光導電層96に対する化学的悪影響を防止することができる。
保護層95は、少なくとも樹脂を含有する層で形成される。保護層95を形成するための樹脂としては、熱硬化性樹脂、紫外線硬化性樹脂などの硬化性樹脂を用いることが好ましく、熱硬化性樹脂を用いることがさらに好ましい。熱硬化性樹脂としては、公知のものを使用でき、その中でも、樹脂と硬化剤とを混合して加熱し反応させることによって得られる熱硬化性樹脂が好適に用いられる。熱硬化性樹脂、特に樹脂と硬化剤との反応によって得られる熱硬化性樹脂は、耐摩耗性に優れるので、これらの熱硬化性樹脂を用いることによって、耐久性に優れる保護層95を形成し、感光体90の耐刷性を向上させることができる。
樹脂としては、たとえば、尿素樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエーテル樹脂、アクリル樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリビニルアセタール樹脂などの硬化剤と反応可能な樹脂が挙げられる。樹脂は、1種が単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
硬化剤としては、イソシアネート、有機過酸化物、アミン、酸無水物などが挙げられる。硬化剤は、樹脂の種類に応じて適宜選択して用いられる。硬化剤は、加熱前に樹脂との反応が起こらないように、ブロック剤によってブロック化された状態で用いられることが好ましい。ブロック化された硬化剤は、樹脂と混合して加熱することによってブロック剤を解離させ、樹脂と反応させることができる。
熱硬化性樹脂としては、ポリビニルアセタール樹脂を含む樹脂と硬化剤との反応によって得られるものが特に好適に用いられる。ポリビニルアセタール樹脂としては、ポリビニルブチラール樹脂などが挙げられる。ポリビニルアセタール樹脂の硬化剤としては、イソシアネートなどが挙げられる。
保護層95には、フィラーを含有することが好ましい。保護層95にフィラーを含有させることによって、保護層95の耐摩耗性を向上させ、感光層97の耐刷性をさらに向上させることができる。フィラーの平均粒径は、0.02μm以上1μm以下であることが好ましい。フィラーの平均粒径が0.02μm未満であると、耐摩耗性を向上させる効果が充分に得られない可能性がある。フィラーの平均粒径が1μmを超えると、露光時に感光体90に照射される光が保護層95中のフィラーによって散乱され、解像度が低下するおそれがある。
フィラーとしては、たとえば、シリカ、アルミナ、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化スズ、酸化インジウムなどの金属酸化物粒子が好適に用いられる。これらの中でも、酸化チタンが好ましい。フィラーは、1種が単独で用いられてもよく、2種以上が混合されて使用されてもよい。
これらのフィラーは、表面処理されていることが好ましい。表面処理を施すことによって、フィラーの分散性を向上させることができるとともに、保護層95の耐摩耗性を向上させることができる。フィラーの表面処理剤としては、シリカ、アルミナ、酸化ジルコニウムなどの無機物が好適に用いられる。特に、シリカ、アルミナ、酸化ジルコニウムで表面処理される酸化チタンは、分散性も良く、保護層95を形成したときの耐摩耗性を著しく向上させることができるので、特に好適に使用される。
保護層95におけるフィラーの使用量は、樹脂100重量部に対して、10重量部以上50重量部以下であることが好ましい。フィラーの使用量が、樹脂100重量部に対して、10重量部未満であると、充分な耐摩耗性が得られないことがある。また50重量部を超えると、保護層95の体積抵抗が低下して、保護層95表面の静電荷が保持できなくなり、画像流れ、画像ぼけなどの画像欠陥を発生することがある。ここで、画像流れとは、トナー像が、被転写材の画像形成面の本来形成されるべき位置から流れるようにずれて形成される現象のことである。
また、保護層95は、電荷輸送物質を含有することが好ましい。保護層95に電荷輸送物質を含有させることによって、繰返し使用時の残留電位の上昇およびそれに伴う画像欠陥の発生を抑えることができる。かかる電荷輸送性物質としては、先に挙げた電荷輸送層94に用いられる電荷輸送物質を用いることができる。電荷輸送物質を含有させる場合、前記樹脂は、保護層95に用いる電荷輸送物質との相溶性を考慮して選択されることが好ましい。前記樹脂の中でも、熱硬化性アクリル樹脂、メラミン樹脂およびポリビニルアセタール樹脂のうちの少なくとも1種を含む樹脂から形成される熱硬化性樹脂は、電荷輸送物質との相溶性が非常に良く、透明性の高い保護層95を形成することができるので好ましい。
保護層95において、樹脂の重量(B)に対する電荷輸送物質の重量(A)の比率(A/B)は、耐摩耗性および電気特性の観点から、3分の1(1/3)以上3(3/1)以下の範囲が好適である。前記比率A/Bが3(3/1)を超えると、樹脂の比率が低下し、保護層95の耐刷性が充分に確保できない可能性がある。前記比率A/Bが1/3未満であると、感光体90の感度が低下する可能性がある。
保護層95には、フィラー、電荷輸送物質以外に、接着性、平滑性、化学的安定性を向上させることを目的として、可塑剤、レベリング剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤などの公知の添加剤を添加してもよい。可塑剤としては、二塩基酸エステル、脂肪酸エステル、リン酸エステル、フタル酸エステル、塩素化パラフィン、エポキシ型可塑剤などが挙げられる。レベリング剤としては、ポリジメチルシロキサンなどのシリコーンオイルなどが挙げられる。酸化防止剤または紫外線吸収剤としては、フェノール系化合物、ヒンダードアミン系化合物、ハイドロキノン系化合物、トコフェロール系化合物、パラフェニレンジアミン、アリールアルカンおよびそれらの誘導体、アミン系化合物、有機硫黄化合物、有機燐化合物などが挙げられる。
保護層95は、後述のようにして調製される保護層形成用塗布液を、光導電層96上に塗布して加熱し、乾燥および硬化させることによって形成することができる。保護層形成用塗布液は、前述の樹脂と、必要に応じて金属酸化物粒子などのフィラー、電荷輸送物質、可塑剤などの各種添加剤とを含有する。
本実施態様においては、保護層形成用塗布液は、2種以上の塗布液、好ましくは、樹脂を含有する樹脂含有塗布液と硬化剤を含有する硬化剤含有塗布液とを含む2種以上の塗布液に分割して形成される。このようにして形成される2種以上の塗布液を、前述のインクジェット式塗布手段21を用いて、光導電層96が形成された導電性基体91に向けてそれぞれ吐出ノズルから液滴状に吐出させ、少なくとも導電性基体91上、具体的には導電性基体91に形成された光導電層96上で塗布液同士が混合された状態になるように塗布した後、乾燥させることによって保護層95を形成する。
このように、保護層形成用塗布液を少なくとも樹脂含有塗布液と硬化剤含有塗布液とに分けて塗布することによって、樹脂と硬化剤とを光導電層96上に塗布されるまで触れないようにすることができるので、塗布液中における樹脂と硬化剤との反応を抑制し、塗布液のゲル化、成分の沈降および凝集を防ぎ、保存安定性を向上させることができる。したがって、均質な保護層95を安定して形成することができる。また、塗布液の損失を抑え、製造原価を低減することができる。
本実施態様による感光体90は、以上のようにして形成される均質な保護層95を最外層として備えるので、良質な画質の画像を形成することができる。また、本実施態様では、樹脂として熱硬化性樹脂を用いる場合であっても、均質な保護層95を形成することができるので、良好な画質の画像を形成することができるとともに、耐刷性にも優れる感光体90を実現することができる。
なお、インクジェット式塗布手段21で塗布される塗布液は、沸点が120℃以上260℃以下である高沸点溶剤を含有することが好ましい。これによって、吐出ノズル部分における塗布液の乾燥を抑えることができるので、塗布液の吐出安定性を向上させ、吐出ノズルの目詰まりを防ぐことができる。また、保存中における溶剤の乾燥を抑え、溶剤量の減少による塗布液中の成分の沈降および凝集を抑制することができるので、塗布液の保存安定性を向上させることができる。また、塗布後のレベリング性を高めることができるので、均一な厚さを有する保護層95を形成することができる。
塗布液の溶剤として、沸点が120℃未満の溶剤のみを用いると、塗布液が乾燥しやすくなり、吐出ノズルの目詰まりが発生するおそれがある。また、溶剤が揮発して減少し、塗布液中の成分の沈降および凝集が起こるおそれがある。また、塗布後のレベリング性が不充分になり、保護層95の層厚が不均一になる可能性がある。一方、塗布液中に沸点が260℃を超える溶剤を含有させると、吐出安定性および保存安定性は良好であるけれども、塗布液が乾燥しにくく、塗布膜が重量方向に垂れ、形成された保護層95の表面が不均一になる可能性がある。このような表面が不均一な保護層95が最外層として形成された感光体を用いて画像を形成すると、にじみ、かすれなどの画像欠陥が生じ、画像の再現性が悪くなる。
塗布液中における高沸点溶剤の含有量は、塗布液全量の5重量%以上40重量%以下であることが好ましい。高沸点溶剤の含有量が5重量%未満であると、高沸点溶剤を含有させる効果が充分に発揮されないので、吐出安定性が充分に確保できず、吐出ノズルの目詰まりが発生するおそれがある。また、レベリング性が低下し、保護層95表面が不均一になる可能性がある。一方、高沸点溶剤の含有量が40重量%を超えると、吐出安定性および保存安定性は良好であるけれども、塗布膜が乾燥しにくくなって重力方向に垂れ、保護層95の表面が不均一になる可能性がある。
高沸点溶剤のうち、特に好ましいものとしては、沸点が130℃以上250℃以下のものが挙げられる。高沸点溶剤としては、公知のものが挙げられ、たとえば、シクロヘキサノン(沸点155℃)、2−ピロリドン(沸点245℃)、N−メチル−2−ピロリドン(沸点200℃)、p−キシレン(沸点138℃)が好ましい。高沸点溶剤は、1種が単独で使用されてもよく、また2種以上が併用されてもよい。なお、保護層形成用塗布液などのインクジェット法で塗布される塗布液は、本発明の好ましい効果を損なわない範囲内で、高沸点溶剤以外の溶剤を含んでもよい。
保護層95の層厚は、1μm以上10μm以下であることが好ましく、より好ましくは3μm以上5μm以下である。保護層95の層厚が1μm未満であると、摩耗によって保護層95の全てが、感光体90の寿命前すなわち感光体90が繰返し使用による感度低下などによって使用できなくなる前に消失する可能性がある。また、画像形成装置において帯電ローラなどの接触部材などによる外力を受けた際に、その外力によって保護層95が下層の光導電層96との界面から剥離するおそれがある。保護層95の層厚が10μmを超えると、感度の低下および繰返し使用による残留電位の上昇が起こる可能性がある。また、感光体90表面に向かって輸送される電荷が保護層95内を移動する過程において拡散され、解像度が低下するおそれがある。
このように、保護層95は、層厚が1μm以上10μm以下と小さいので、インクジェット塗布法を用いても、少ない重ね塗り回数で形成することができる。したがって、インクジェット塗布法による形成に適している。また、このように膜厚が1μm以上10μm以下と小さい場合、前述のように塗布液の溶剤に高沸点溶剤を用いても、比較的短時間に乾燥させることができるので、生産性を低下させることなく、高沸点溶剤を用いて塗布液の乾燥固化による吐出ノズルの目詰まりおよびレベリング不良の発生を防止することができる。