JP2006328184A - ポリマーフィルムのアルカリ鹸化方法、表面鹸化セルロースエステルフィルム及び光学フィルム - Google Patents

ポリマーフィルムのアルカリ鹸化方法、表面鹸化セルロースエステルフィルム及び光学フィルム Download PDF

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Abstract

【課題】 塗布式の片面アルカリ鹸化方法において、塗布速度アップによるアルカリ鹸化液の塗布量増加を抑制し、原料コストを削減すると共に、鹸化処理によって発生する廃水の処理負荷を軽減すること。
【解決手段】 質量比にしてアルカリ:高沸点溶媒:水=1:(2〜4):(2〜4)で‘アルカリ+高沸点溶媒+水’:低沸点溶媒=25:75〜2:98の範囲内であるアルカリ溶液を、温度が室温以上のポリマーフィルムに塗布する工程、及び、アルカリ溶液をポリマーフィルムから洗い落とす工程からなることを特徴とするポリマーフィルムのアルカリ鹸化方法。該アルカリ鹸化方法により作製されて得られる表面鹸化セルロースエステルフィルム、及び該表面鹸化セルロースエステルフィルムを用いた光学フィルム。

Description

本発明は、ポリマーフィルムのアルカリ鹸化方法に関する。特に本発明は、長尺光学補償シートの透明支持体として有利に用いられるセルロースエステルフィルムのアルカリ鹸化方法に関する。また、本発明は、該アルカリ鹸化方法により作製されて得られる表面鹸化セルロースエステルフィルム、及び該表面鹸化セルロースエステルフィルムを用いた光学フィルムに関する。
液晶表示装置は、液晶セル、偏光板、および光学補償シート(位相差板)からなる。透過型液晶表示装置では、2枚の偏光板を液晶セルの両側に取り付け、1枚または2枚の光学補償シートを液晶セルと偏光板との間に配置する。反射型液晶表示装置は、反射板、液晶セル、1枚の光学補償シート、そして1枚の偏光板からなる。液晶セルは、棒状液晶性分子、それを封入するための2枚の基板、および棒状液晶性分子に電圧を加えるための電極層からなり、液晶セルは、棒状液晶分子の配向状態の違いで、透過型については、TN(Twisted Nematic)、IPS(In−Plane Switching)、FLC(Ferro−electric Liquid Crystal)、OCB(Optically Compensatory Bend)、STN(Super Twisted Nematic)、VA(Vertically Aligned)、反射型については、HAN(Hybrid Aligned Nematic)のような様々な表示モードが提案されている。偏光板は、一般に、偏光板とその両側に設けられた2枚の透明保護膜とからなる。偏向膜は、一般に、ポリビニルアルコールにヨウ素または2色性染料の水溶液を含浸させ、さらにこのフィルムを一軸延伸することより得られる。
光学補償シートは画像着色を解消したり、視野角を拡大するために、様々な液晶表示装置に用いられている。光学補償シートとしては、延伸複屈折フィルムが、従来から使用されていた。延伸複屈折フィルムからなる光学補償シートに代えて、透明支持体上に液晶性分子(特にディスコティック液晶性分子)から形成された光学異方性層を有する光学補償シートを使用することが提案されている。光学異方性層は、液晶性分子を配向させ、その配向状態を固定化することにより形成する。一般に、重合性基を有する液晶性分子を用いて、重合反応により配向状態を固定する。液晶性分子は、大きな複屈折を有する。さらに、液晶性分子には、多様な配向形態がある。光学補償シートに液晶性分子を用いることで、従来の延伸複屈折フィルムでは得ることの出来なかった光学特性を実現することが可能となった。
光学補償シートの光学的性質は、液晶セルの光学的性質、具体的には上記のような液晶セルの表示モードの違いに応じて設計する。光学補償シートには液晶性分子、特にディスコティック液晶性分子を用いると、液晶セルの種々の表示モードに対応する様々な光学特性を有する光学補償シートを作りだすことができる。ディスコティック液晶性分子を用いた光学補償シートには、種々の表示モードに対応するものが提案されている。具体的には、TNモードの液晶セル用光学補償シート(例えば、特許文献1〜4参照)、IPSモードまたはFLCモードの液晶セル用光学補償シート(例えば、特許文献5参照)、OCBモードまたはHANモードの液晶セル用光学補償シート(例えば、特許文献6、7参照)、STNモードの液晶セル用光学補償シート(例えば、特許文献8参照)、およびVAモードの液晶セル用光学補償シート(例えば、特許文献9参照)が提案されている。
液晶性分子を用いた光学補償シートと偏光膜とを積層して楕円偏光板を形成すれば、光学補償シートを、偏光板の一方の透明保護膜としても機能させることができる。その様な楕円偏光板は、透明保護膜、偏光膜、透明支持体、そして液晶性分子から形成された光学異方性層が、この順で積層された層構成を有する。液晶表示装置には薄型で軽量である特性を求められるため、構成要素の1つを兼用(偏光板の透明保護膜と光学補償シート)することによって削減できれば、装置をさらに薄く軽量にすることが可能となる。また、液晶表示装置の構成要素を1つ削減することによって、構成要素の貼り付け工程も1つ削減され、装置を組み立てる際に故障等が生じる可能性も低くなり好ましい。液晶性分子を用いた光学補償シートの透明支持体と偏光板の一方の保護膜を共通化した一体型楕円偏光板は、既に具体的に提案されている(例えば、特許文献10〜12参照)。
上記光学補償シート、または一体型楕円偏光板を液晶表示装置に用いた場合、表示画面上に微細な表示ムラが発生することがあり、この原因の一つが、光学補償シートに使われる透明支持体の厚みムラにあることが判明した。
透明支持体上に配向膜および液晶性分子を固定化した光学異方性層を設けた光学補償シートを製造する場合、透明支持体(通常は、セルロースアセテートフィルムに代表されるセルロースエステルフィルム)と配向膜(通常はポリビニルアルコール)との間の良好な密着が必要となる。セルロースエステルフィルムとポリビニルアルコールとの親和性は弱く、この界面での剥がれや割れが発生してしまうため、セルロースエステルフィルム上にゼラチンの下引き層を設けていた。しかしながら、ゼラチン下引き層を塗設する際の塗布液溶媒として、この下引き層とセルロースエステルフィルムの密着を発現させるためにはセルロースエステルフィルムに浸透する溶媒(例えば、ケトン系溶剤など)を用いなければならないため、セルロースエステルフィルムが膨潤し、続く乾燥工程で収縮する過程でフィルムの微細な屈曲が発生する問題があった。この屈曲したフィルム上に配向膜、次いで液晶性分子層を塗設すると、屈曲形状に沿って配向膜と液晶性分子層の厚みムラや液晶性分子の配向ムラが発生し、液晶表示装置の描画品質を劣化させることがわかった。
また、ゼラチン下引き層を設けずにセルロースエステルフィルムと親水性材料(例えば配向膜)との密着性を改良する一般的な方法として、フィルムをアルカリ水溶液中に浸漬する、いわゆる鹸化浴処理を行う方法が知られている。この様な鹸化処理方法の詳細は、例えば特許文献13に記載されている。しかしながら、この浸漬による鹸化浴処理においては、セルロースエステルフィルムの両面が同時に親水化してしまうため、片面にポリビニルアルコールなどの親水性層を塗設した後にロール状に巻き取ると、表裏が接着してしまう問題が発生する。鹸化浴処理にて、片面のみを親水化する手段としては、目的としない面をラミネートなどの防水加工を施して鹸化処理する方法が挙げられるが、煩雑な工程が増えるばかりでなく、不要な廃棄物が発生するなど、生産性、環境保全の観点で好ましくなかった。
これについては、アルカリ鹸化液をロッドコーター、ダイコーター、ロールコーターなどでポリマーフィルムの片面のみに塗布し、温度を維持する工程でポリマーフィルムの片面のみを鹸化処理した後、アルカリ溶液をポリマーフィルムから洗い流すポリマーフィルムのアルカリ鹸化方法とすることで、それまで一般的だった鹸化浴処理方法での上記表裏接着問題を解決することができた。また、アルカリ溶液中に有機溶媒を含ませることによって、純粋な水溶媒よりも鹸化反応性を高めることが可能となり、塗布速度アップによる生産性向上を図ることができた。(特許文献14参照)
特開平6−214116号公報 米国特許第5583679号明細書 米国特許第5646703号明細書 西独国特許出願公開第3911620号明細書 特開平10−54982号公報 米国特許第5805253号明細書 国際公開第96/37804号パンフレット 特開平9−26572号公報 特許番号第2866372号公報 特開平7−191217号公報 特開平8−21996号公報 特開平8−94838号公報 特開平8−94838号公報 特開2003−313326号公報
しかし、塗布速度アップにおいては、その塗布性を維持するために単位面積塗布量を増量しなければならず、また、鹸化処理によって発生する廃水の処理負荷増大が新たな問題となった。
本発明の目的は、塗布式の片面アルカリ鹸化方法において、塗布速度アップによるアルカリ鹸化液の塗布量増加を抑制し、原料コストを削減すると共に、鹸化処理によって発生する廃水の処理負荷を軽減することである。
上記目的に鑑み鋭意研究した結果、本発明者は、アルカリ鹸化液について低沸点溶媒の量に対してアルカリと高沸点溶媒と水の添加量を減少させることで、上記目的を達成できることを発見し、本発明に想到した。すなわち、上記課題は、好ましくは下記の手段によって達成される。
[1] 質量比にしてアルカリ:高沸点溶媒:水=1:(2〜4):(2〜4)で‘アルカリ+高沸点溶媒+水’:低沸点溶媒=25:75〜2:98の範囲内であるアルカリ溶液を、温度が室温以上のポリマーフィルムに塗布する工程、及び、アルカリ溶液をポリマーフィルムから洗い落とす工程からなることを特徴とするポリマーフィルムのアルカリ鹸化方法。
[2] 質量比にしてアルカリ:高沸点溶媒:水=1:(2〜4):(2〜4)で‘アルカリ+高沸点溶媒+水’:低沸点溶媒=25:75〜2:98の範囲内であるアルカリ溶液を、温度が室温以上のポリマーフィルムに塗布する工程、ポリマーフィルムの温度を室温以上に維持する工程、及び、アルカリ溶液をポリマーフィルムから洗い落とす工程からなることを特徴とするポリマーフィルムのアルカリ鹸化方法。
[3] ポリマーフィルムを予め室温以上に加熱する工程、ポリマーフィルムに質量比にしてアルカリ:高沸点溶媒:水=1:(2〜4):(2〜4)で‘アルカリ+高沸点溶媒+水’:低沸点溶媒=25:75〜2:98の範囲内であるアルカリ溶液を塗布する工程、ポリマーフィルムの温度を室温以上に維持する工程、そして、アルカリ溶液をポリマーフィルムから洗い落とす工程からなることを特徴とするポリマーフィルムのアルカリ鹸化方法。
[4] ポリマーフィルムを搬送しながら各工程を実施することを特徴とする[1]〜[3]のいずれかに記載のアルカリ鹸化方法。
[5] ポリマーフィルムを連続的に搬送することを特徴とする[4]に記載のアルカリ鹸化方法。
[6] アルカリ溶液のアルカリ規定度が0.05〜1であり、塗布量が1〜50cc/m2であることを特徴とする[1]〜[5]のいずれかに記載のアルカリ鹸化方法。
[7] アルカリ溶液のアルカリ剤がアルカリ金属の水酸化物であり、アルカリ溶液の溶媒が、炭素原子数8以下のアルコール、炭素原子数が6以下のケトン、炭素原子数が6以下のエステル、炭素原子数が6以下の多価アルコールから選ばれる1種または2種以上の有機溶媒および水からなることを特徴とする[1]〜[6]のいずれかに記載のアルカリ鹸化方法。
[8] アルカリ溶液が、ノニオン界面活性剤、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤から選ばれる少なくとも1種の界面活性剤を含有することを特徴とする[1]〜[7]のいずれかに記載のアルカリ鹸化方法。
[9] 界面活性剤の濃度が0.05〜5質量%であることを特徴とする[8]に記載のアルカリ鹸化方法。
[10] 該界面活性剤が下記一般式(1)で表される界面活性剤であることを特徴とする[8]または[9]に記載のアルカリ鹸化方法:
一般式(1) R1−L1−Q1
[式中、R1は炭素数8以上のアルキル基を表し、L1はR1とQ1を連結する基を表し、直接結合または2価の連結基を表し、Q1はノニオン親水性基、またはアニオン親水性基を表す]。
[11] 該界面活性剤が下記一般式(2)で表されるノニオン界面活性剤であることを特徴とする[8]〜[10]のいずれかに記載のアルカリ鹸化方法:
一般式(2) R2−L2−Q2
[式中、R2及びL2は、一般式(1)中のR1、L1と同一内容を表す。Q2は、ポリオキシエチレンユニット(重合度5〜150)、ポリグリセリンユニット(重合度3〜30)、親水性糖鎖ユニットから選ばれるノニオン親水性基を表す]。
[12] 該界面活性剤が下記一般式(3)で表されるアニオン界面活性剤であることを特徴とする[8]〜[10]のいずれかに記載のアルカリ鹸化方法:
一般式(3) R3−L3−Q3
[式中、R3は一般式(1)中のR1と同一内容を表す。L3は、−O−、−CO−、−NR5−(R5は炭素数1〜5のアルキル基)、−OH、−CH=CH−および−SO2−からなる群より選ばれるユニットを組み合わせて得られる極性部分構造を有する2価の連結基を表す。Q3は、アニオン性基を表す。
[13] 該アルカリ鹸化溶液の表面張力が45mN/m以下であり、かつ粘度が0.8〜20mPa・sであることを特徴とする[1]〜[12]のいずれかに記載のアルカリ鹸化方法。
[14] 該アルカリ鹸化溶液の密度が0.65g/cm3〜1.05g/cm3であることを特徴とする[1]〜[13]のいずれかに記載のアルカリ鹸化方法。
[15] 該アルカリ鹸化溶液の電気伝導度が1mS/cm〜100mS/cmであることを特徴とする[1]〜[14]のいずれかに記載のアルカリ鹸化方法。
[16] ポリマーフィルムが、セルロースエステルフィルムであることを特徴とする[1]〜[15]のいずれかに記載のアルカリ鹸化方法。
[17] [16]に記載のアルカリ鹸化方法により作製されて得られることを特徴とする表面鹸化セルロースエステルフィルム。
[18] [17]に記載の表面鹸化セルロースエステルフィルムを用いたことを特徴とする光学フィルム。
本発明によるアルカリ鹸化液を使用して鹸化処理することにより、塗布液量を減少できると共に、必要最低量のアルカリ量・高沸点溶媒量・界面活性剤量で鹸化処理を行うため、原料コスト・廃水処理負荷を大幅に削減することができる。
また、必要最低量のアルカリ量・高沸点溶媒量・界面活性剤量で鹸化処理を行うことにより、鹸化液を洗い流す工程での水洗効率を向上させ、より高品質の鹸化表面処理を行うことができる。
また、従来タイプの鹸化液に対し、廃水中の高沸点溶媒量を大幅に削減することができる。
以下、本発明について、より詳細に説明する。
なお、本明細書において、「高沸点溶媒」とは、沸点が100℃以上の溶媒を、「低沸点溶媒」とは、沸点が100℃未満の溶媒を表す。
塗布速度アップによって増加してしまった単位面積塗布量を減少させるために、鹸化液物性として有効な手段としては、鹸化液の粘度を下げることが考えられる。
また、鹸化処理によって発生する廃水の処理負荷を軽減するためには、鹸化液中の高沸点有機溶媒(例えば、プロピレングリコール[188℃])を減少させることが考えられる。
鹸化液中の高沸点溶媒の粘度は、鹸化液中の低沸点溶媒(例えば、イソプロピルアルコール[82℃])や純水の粘度より高く、鹸化液の粘度を下げるには高沸点有機溶媒の組成比を減少させることが有効なので、従来タイプの鹸化液(例.アルカリ:5、高沸点溶媒:15、純水:15、低沸点溶媒:64)の高沸点溶媒の組成比を減少させた(高沸点溶媒:11.5)ところ、低沸点溶媒と水がアルカリ(例えば、水酸化カリウム)の偏在化により2相分離してしまった。
この2相分離を防止する方法を検討した結果、アルカリ濃度を減少(アルカリ:2.5)させると2相分離せずに高沸点溶媒も大幅に減少(高沸点溶媒:8)させることができた。
アルカリ濃度、高沸点溶媒を減少させた時の鹸化反応速度を接触角減少速度で評価した結果、アルカリ濃度のみを減少させると鹸化反応性は大幅に悪化したが、高沸点溶媒もともに減少させると鹸化反応性は回復した。
また、純水の相分離に対する影響を調べた結果、純水の添加量は少ない方が、少ない高沸点溶媒量でも相分離せずに安定であった。
さらに、アルカリと高沸点溶媒と純水の添加量を、色々と変化させたテストより、アルカリと高沸点溶媒と水の3成分をほぼ同率比(アルカリ:高沸点溶媒:水=1:(2〜4):(2〜4))で減少(‘アルカリ+高沸点溶媒+水’:低沸点溶媒=25:75〜2:98)させれば相分離せずに安定であり、鹸化反応性も大幅には悪化しないことが判った。
高沸点溶媒の比率が下がると相分離を起こし、高沸点比率が上がると鹸化反応速度が低下する。また、水の比率が下がるとKCO(アルカリと空気中の炭酸ガスが反応して生成)が析出し、水の比率が上がると鹸化反応速度が低下する。
塗布後に温度を維持する工程では、主に低沸点溶媒が蒸発するので、温度を維持する工程内で従来タイプの鹸化液組成近傍を経由した上で、鹸化液を洗い流す工程に到達することになる。
アルカリと高沸点溶媒と純水の添加量を減少させると鹸化液の粘度と密度が低下し、同一塗布条件下での塗布量を削減することができる。
また、その時の接触角は、添加量を減少させると共に上昇してくるが、3成分(アルカリ、高沸点溶媒、水)の添加量を1/6量まで減量しても、接触角は目標値(45度)以下にできることがわかった。
上記したように、本発明は、従来タイプの鹸化液(例.アルカリ:5、高沸点溶媒:15、水:15、低沸点溶媒:64)のアルカリと高沸点溶媒と水の3成分をほぼ同率比(アルカリ:高沸点溶媒:水=1:(2〜4):(2〜4))で低沸点溶媒に対して減少(‘アルカリ+高沸点溶媒+水’:低沸点溶媒=25:75〜2:98)させた鹸化液を用いる点に特徴がある。
以下、本発明に用いられる材料や方法等の各構成要素について、さらに詳細に説明する。
[ポリマーフィルム]
ポリマーフィルムは、光透過率が80%以上であるポリマーフィルムを用いる事が好ましい。ポリマーフィルムとしては、外力により複屈折が発現しにくいものが好ましい。ポリマーフィルムは、エステル結合あるいはアミド結合のような加水分解できる結合(鹸化処理の対象となる結合)を含む。エステル結合が好ましく、エステル結合がポリマーの側鎖に存在していることがさらに好ましい。エステル結合が側鎖に存在しているポリマーとしては、セルロースエステルが代表的である。セルロースの低級脂肪酸エステルがより好ましく、セルロースアセテートがさらに好ましく、酢化度が59.0〜61.5%であるセルロースアセテートが最も好ましい。酢化度とは、セルロース単位質量当たりの結合酢酸量を意味する。酢化度は、ASTM:D−817−91(セルロースアセテート等の試験法)におけるアセチル化度の測定および計算に従う。
セルロースエステルの粘度平均重合度(DP)は、250以上であることが好ましく、290以上であることがさらに好ましい。また、本発明に使用するセルロースエステルは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによるMw/Mn(Mwは質量平均分子量、Mnは数平均分子量)の分子量分布が狭いことが好ましい。具体的なMw/Mnの値としては、1.0〜1.7であることが好ましい。
ポリマーフィルムを光学補償シートに用いる場合、ポリマーフィルムは、高いレターデーション値を有することが好ましい。フィルムのReレターデーション値およびRthレターデーション値は、それぞれ、下記式(I)および(II)で定義される。
(I) Re=|nx−ny|×d
(II) Rth={(nx+ny)/2−nz}×d
式(I)および(II)において、nxは、フィルム面内の遅相軸方向(屈折率が最大となる方向)の屈折率、nyは、フィルム面内の進相軸方向(屈折率が最小となる方向)の屈折率、nzは、フィルムの厚み方向の屈折率、dは、単位をnmとするフィルムの厚みである。ポリマーフィルムのReレターデーション値は1〜200nmであり、そして、Rthレターデーション値は70〜400nmであることが好ましい。具体的な値は、測定光の入射方向をフィルム膜面の鉛直方向に対して傾斜させた測定結果より外挿して求める。測定は、エリプソメーター(例えば、M−150、日本分光(株)製)を用いて実施できる。測定波長としては、632.8nm(He−Neレーザー)を採用する。
ポリマーフィルムのレターデーションを調整するためには延伸のような外力を与える方法が一般的であるが、また光学異方性を調節するためのレターデーション上昇剤が、場合により添加される。セルロースアシレートフィルムのレターデーションを調整するには、芳香族環を少なくとも二つ有する芳香族化合物をレターデーション上昇剤として使用することが好ましい。芳香族化合物は、セルロースアシレート100質量部に対して、0.01〜20質量部の範囲で使用することが好ましい。また、二種類以上の芳香族化合物を併用してもよい。芳香族化合物の芳香族環には、芳香族炭化水素環に加えて、芳香族性ヘテロ環を含む。例えば、欧州特許第0911656号明細書、特開2000−111914号、同2000−275434号の各公報等記載の化合物が挙げられる。レターデーション上昇剤の分子量は、300〜800であることが好ましい。
ソルベントキャスト法によりポリマーフィルムを製造することが好ましい。ソルベントキャスト法では、ポリマー材料を有機溶媒に溶解した溶液(ドープ)を用いてフィルムを製造する。有機溶媒は、炭素原子数が3〜12のエーテル、炭素原子数が3〜12のケトン、炭素原子数が3〜12のエステルおよび炭素原子数が1〜6のハロゲン化炭化水素から選ばれる溶媒を含むことが好ましい。エーテル、ケトンおよびエステルは、環状構造を有していてもよい。エーテル、ケトンおよびエステルの官能基(すなわち、−O−、−CO−および−COO−)のいずれかを2つ以上有する化合物も、有機溶媒として用いることができる。有機溶媒は、アルコール性水酸基のような他の官能基を有していてもよい。2種類以上の官能基を有する有機溶媒の場合、その炭素原子数は、いずれかの官能基を有する化合物の規定範囲内であればよい。
炭素原子数が3〜12のエーテル類の例には、ジイソプロピルエーテル、ジメトキシメタン、ジメトキシエタン、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキソラン、テトラヒドロフラン、アニソールおよびフェネトールが含まれる。炭素原子数が3〜12のケトン類の例には、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノンおよびメチルシクロヘキサノンが含まれる。炭素原子数が3〜12のエステル類の例には、エチルホルメート、プロピルホルメート、ペンチルホルメート、メチルアセテート、エチルアセテートおよびペンチルアセテートが含まれる。2種類以上の官能基を有する有機溶媒の例には、2−エトキシエチルアセテート、2−メトキシエタノールおよび2−ブトキシエタノールが含まれる。ハロゲン化炭化水素の炭素原子数は、1または2であることが好ましく、1であることが最も好ましい。ハロゲン化炭化水素のハロゲンは、塩素であることが好ましい。ハロゲン化炭化水素の水素原子が、ハロゲンに置換されている割合は、25〜75モル%であることが好ましく、30〜70モル%であることがより好ましく、35〜65モル%であることがさらに好ましく、40〜60モル%であることが最も好ましい。メチレンクロリドが、代表的なハロゲン化炭化水素である。さらに2種類以上の有機溶媒を混合して用いてもよい。
一般的な方法でポリマー溶液を調製できる。一般的な方法とは、0℃以上の温度(常温または高温)で、処理することを意味する。溶液の調製は、通常のソルベントキャスト法におけるドープの調製方法および装置を用いて実施することができる。なお、一般的な方法の場合は、有機溶媒としてハロゲン化炭化水素(特にメチレンクロリド)を用いることが好ましい。ポリマーの量は、得られる溶液中に10〜40質量%含まれるように調整する。ポリマーの量は、10〜30質量%であることがさらに好ましい。有機溶媒(主溶媒)中には、後述する任意の添加剤を添加しておいてもよい。溶液は、常温(0〜40℃)でポリマーと有機溶媒とを攪拌することにより調製することができる。高濃度の溶液は、加圧および加熱条件下で攪拌してもよい。具体的には、ポリマーと有機溶媒とを加圧容器に入れて密閉し、加圧下で溶媒の常温における沸点以上、かつ溶媒が沸騰しない範囲の温度に加熱しながら攪拌する。加熱温度は、通常は40℃以上であり、好ましくは60〜200℃であり、さらに好ましくは80〜110℃である。
各成分は予め粗混合してから容器に入れてもよい。また、順次容器に投入してもよい。容器は攪拌できるように構成されている必要がある。窒素ガス等の不活性気体を注入して容器を加圧することができる。また、加熱による溶媒の蒸気圧の上昇を利用してもよい。あるいは、容器を密閉後、各成分を圧力下で添加してもよい。加熱する場合、容器の外部より加熱することが好ましい。例えば、ジャケット構造の加熱装置を用いることができる。また、容器の外部にプレートヒーターを設け、配管して液体を循環させることにより容器全体を加熱することもできる。容器内部に攪拌翼を設けて、これを用いて攪拌することが好ましい。攪拌翼は、容器の壁付近に達する長さのものが好ましい。攪拌翼の末端には、容器の壁の液膜を更新するため、掻取翼を設けることが好ましい。容器には、圧力計、温度計等の計器類を設置してもよい。容器内で各成分を溶剤中に溶解する。調製したドープは冷却後、容器から取り出すか、あるいは、取り出した後、熱交換器等を用いて冷却する。
冷却溶解法により、溶液を調製することもできる。冷却溶解法では、通常の溶解方法では溶解させることが困難な有機溶媒中にもポリマーを溶解させることができる。なお、通常の溶解方法でポリマーを溶解できる溶媒であっても、冷却溶解法によると迅速に均一な溶液が得られる効果がある。冷却溶解法では最初に、室温で有機溶媒中にポリマーを撹拌しながら徐々に添加する。ポリマーの量は、この混合物中に10〜40質量%含まれるように調整することが好ましい。ポリマーの量は、10〜30質量%であることがさらに好ましい。さらに、混合物中には後述する任意の添加剤を添加しておいてもよい。
次に、混合物を−100〜−10℃、好ましくは−80〜−10℃、さらに好ましくは−50〜−20℃、最も好ましくは−50〜−30℃に冷却する。冷却は、例えば、ドライアイス・メタノール浴(−75℃)や冷却したジエチレングリコール溶液(−30〜−20℃)中で実施できる。このように冷却すると、ポリマーと有機溶媒の混合物は固化する。冷却速度は、4℃/分以上であることが好ましく、8℃/分以上であることがさらに好ましく、12℃/分以上であることが最も好ましい。なお、冷却速度とは、冷却を開始する時の温度と最終的な冷却温度との差を冷却を開始してから最終的な冷却温度に達するまでの時間で割った値である。
さらに、これを0〜200℃、好ましくは0〜150℃、さらに好ましくは0〜120℃、最も好ましくは0〜50℃に加温すると、有機溶媒中にポリマーが溶解する。昇温は、室温中に放置するだけでもよいし、温浴中で加温してもよい。加温速度は、4℃/分以上であることが好ましく、8℃/分以上であることがさらに好ましく、12℃/分以上であることが最も好ましい。なお、加温速度とは、加温を開始する時の温度と最終的な加温温度との差を加温を開始してから最終的な加温温度に達するまでの時間で割った値である。以上のようにして、均一な溶液が得られる。なお、溶解が不充分である場合は冷却、加温の操作を繰り返してもよい。溶解が充分であるかどうかは、目視により溶液の外観を観察するだけで判断することができる。
冷却溶解法においては、冷却時の結露による水分混入を避けるため、密閉容器を用いることが望ましい。また、冷却加温操作において、冷却時に加圧し、加温時に減圧すると、溶解時間を短縮することができる。加圧および減圧を実施するためには、耐圧性容器を用いることが望ましい。なお、セルロースアセテート(酢化度:60.9%、粘度平均重合度:299)を冷却溶解法によりメチルアセテート中に溶解した20質量%の溶液は、示差走査熱量測定(DSC)によると、33℃近傍にゾル状態とゲル状態との疑似相転移点が存在し、この温度以下では均一なゲル状態となる。従って、この溶液は疑似相転移温度以上、好ましくはゲル相転移温度プラス10℃程度の温度で保温する必要がある。ただし、この疑似相転移温度は、セルロースアセテートの酢化度、粘度平均重合度、溶液濃度や使用する有機溶媒により異なる。
調製したポリマー溶液(ドープ)から、ソルベントキャスト法によりポリマーフィルムを製膜する。ドープは、ドラムまたはバンド上に流延し、溶媒を蒸発させてフィルムを形成する。流延前のドープは、固形分量が18〜35%となるように濃度を調整することが好ましい。ドラムまたはバンドの表面は、鏡面状態に加工しておくことが好ましい。ソルベントキャスト法における流延および乾燥方法については、米国特許2336310号、同2367603号、同2492078号、同2492977号、同2492978号、同2607704号、同2739069号、同2739070号、英国特許640731号、同736892号の各明細書、特公昭45−4554号、同49−5614号、特開昭60−176834号、同60−203430号、同62−115035号の各公報に記載がある。ドープは、表面温度が10℃以下のドラムまたはバンド上に流延することが好ましい。流延してから2秒以上風に当てて乾燥することが好ましい。得られたフィルムをドラムまたはバンドから剥ぎ取り、さらに100から160℃まで逐次温度を変えた高温風で乾燥して残留溶剤を蒸発させることもできる。以上の方法は、特公平5−17844号公報に記載がある。この方法によると、流延から剥ぎ取りまでの時間を短縮することが可能である。この方法を実施するためには、流延時のドラムまたはバンドの表面温度においてドープがゲル化することが必要である。
ポリマーフィルムには、機械的物性を改良するため、または乾燥速度を向上するために、可塑剤を添加することができる。可塑剤としては、リン酸エステルまたはカルボン酸エステルが用いられる。具体的には、発明協会公開技報公技番号2001−1745号(2001年3月15日発行、発明協会)の16頁に詳細の化合物等が挙げられる。可塑剤の添加量は、セルロースエステルの量の0.1〜25質量%であることが好ましく、1〜20質量%であることがさらに好ましく、3〜15質量%であることが最も好ましい。
さらに、本発明のポリマーフィルムには、用途に応じた種々の添加剤(例えば、紫外線防止剤、微粒子、剥離剤、帯電防止剤、劣化防止剤(例、酸化防止剤、過酸化物分解剤、ラジカル禁止剤、金属不活性化剤、酸捕獲剤、アミン)、赤外吸収剤を等)を加えることができ、それらは固体でもよく油状物でもよい。また、フィルムが多層から形成される場合、各層の添加物の種類や添加量が異なってもよい。これらの詳細は、上記の公技番号2001−1745号の17頁〜22頁に詳細に記載されている素材が好ましく用いられる。これらの添加剤の使用量は、各素材の添加量は機能が発現する限りにおいて特に限定されないが、ポリマーフィルム全組成物中、0.001〜20質量%の範囲で適宜用いられることが好ましい。
ポリマーフィルムは、さらに延伸処理によりレターデーションを調整することができる。延伸倍率は、3〜100%であることが好ましい。ポリマーフィルムの厚さは、30〜200μmであることが好ましく、40〜120μmであることがさらに好ましい。
[アルカリ鹸化処理]
本発明のポリマーフィルムは、予め室温以上に加熱する工程、ポリマーフィルムにアルカリ溶液を塗布する工程、ポリマーフィルムの温度を室温以上に維持する工程、そして、アルカリ溶液をポリマーから洗い落とす工程によりアルカリ鹸化処理を実施する。ポリマーフィルムを搬送しながら、これらの工程及びその前後の工程を実施することが好ましい。
[アルカリ溶液]
本発明の鹸化処理に供されるアルカリ溶液について説明する。本発明のアルカリ溶液は、有機溶剤と水との混合液にアルカリを溶解して調製できる。好ましい有機溶媒は、炭素原子数8以下のアルコール、炭素原子数が6以下のケトン、炭素原子数が6以下のエステル、炭素原子数が6以下の多価アルコールから選ばれる1種または2種以上の有機溶媒である。
[有機溶媒]
有機溶剤については、新版溶剤ポケットブック(オーム社、1994年刊)に記載があり、有機溶剤の具体例としては、一価アルコール(例、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、2−ブタノール、シクロヘキサノール、ベンジルアルコール、フッ素化アルコールなど)、ケトン(例、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなど)、エステル(例、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチルなど)、多価アルコール(例、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリンなど)、アミド(例、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルホルムアミド)、スルホキシド(例、ジメチルスルホキシド)およびエーテル(例、メチルセルソルブ、エチレングリコールジエチルエーテル)が挙げられる。特に好ましいものは、メタノール[65℃]、エタノール[78℃]、n−プロパノール[97℃]、イソプロパノール[82℃]、n−ブタノール[117℃]、イソブタノール[108℃]、2−ブタノール[99℃]、アセトン[56℃]、メチルエチルケトン[80℃]、メチルイソブチルケトン[117℃]、酢酸メチル[56℃]、酢酸エチル[77℃]、エチレングリコール[198℃]、ジエチレングリコール[245℃]、プロピレングリコール[188℃]、グリセリン[154℃]である。([]内は、沸点を表す。また、本明細書において、「高沸点溶媒」とは、沸点が100℃以上の溶媒を、「低沸点溶媒」とは、沸点が100℃未満の溶媒を表す。)
有機溶剤は、ポリマーフィルムを溶解したり膨潤したりしないことが必要である。また、アルカリ鹸化溶液の塗布が容易になるように、アルカリ溶液の液物性の項で記載されるように、表面張力が適度に低い有機溶剤を選択することも望ましい。また、有機溶媒の溶媒中の使用割合は、溶媒の種類、水との混和性(溶解性)、反応温度および反応時間に応じて決定する。短い時間で鹸化反応を完了するためには、高い濃度に溶液を調製することが好ましい。ただし、溶媒濃度が高すぎるとポリマーフィルム中の成分(可塑剤など)が抽出されたり、フィルムの過度の膨潤が起こる場合があり、適切に選択する。水と有機溶媒の混合比は、1/99〜50/50質量比が好ましい。より好ましくは2/98〜20/80質量比であり、さらに好ましくは3/97〜10/90質量比である。この範囲において、フィルムの光学特性を損なうことなく容易にフィルム全面が均一に鹸化処理される。
[アルカリ剤]
アルカリ溶液のアルカリ剤は、無機塩基および有機塩基のいずれも使用できる。低い濃度で鹸化反応をおこすためには強塩基が好ましい。アルカリ金属の水酸化物(例、NaOH、KOH、LiOH)、アミン(例、パーフルオロトリブチルアミン、トリエチルアミン、ジアザビシクロノネン、ジアザビシクロウンデセン等)、テトラアルキルアンモニウムヒドロキシド(アルキル基として、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等)、および錯塩の遊離塩基(例、[Pt(NH3)6](OH)4)が好ましく、アルカリ金属の水酸化物がさらに好ましく、NaOHおよびKOHが最も好ましい。
アルカリ溶液の濃度は、使用するアルカリの種類、反応温度および反応時間に応じて決定する。短い時間で鹸化反応を完了するためには、高い濃度に溶液を調製することが好ましい。ただし、アルカリ濃度が高すぎるとアルカリ溶液の安定性が損なわれ、長時間塗布において析出する場合もある。アルカリ溶液の濃度は、0.01〜5規定(N)であることが好ましく、0.02〜3Nであることがさらに好ましく、0.05〜1Nであることが最も好ましい。
高濃度のアルカリ溶液は環境雰囲気のCO2を吸収して溶液中で炭酸となりpHを下げるとともに、炭酸塩の沈殿物を発生させやすくなるため、環境雰囲気のCO2濃度は5000ppm以下が好ましい。環境雰囲気のCO2の吸収を抑制するために、アルカリ溶液の塗布コーターを半密閉構造としたり、乾燥空気、不活性ガスやアルカリ溶液の有機溶剤飽和蒸気で覆うようにすることがより好ましい。
[界面活性剤]
本発明のアルカリ溶液は、界面活性剤を含有することもできる。界面活性剤を添加することによって、たとえ有機溶媒がフィルム含有物質を抽出したとしてもアルカリ溶液中に安定に存在させ、後の水洗工程においても抽出物質が析出、固体化しない。界面活性剤の濃度は、ポリマーフィルムからアルカリ溶液中に抽出された疎水性添加物を安定に分散できる濃度を設定する。アルカリ溶液に使用する有機溶剤がポリマーフィルムを溶解したり膨潤したりしないとすると、フィルムより抽出される添加物はフィルム表面近傍からのみである。疎水性添加物の抽出量は、本発明で塗布する1〜50cc/m2のアルカリ溶液塗布量中に、最大でも1質量%と見積もれる。界面活性剤の濃度は、この抽出量の10倍である10質量%添加すれば、十分な分散特性が得られることが分かった。一方、界面活性剤の種類によっては、水洗工程で十分洗い落とされずに残留すると、後にポリマーフィルム上に配向膜を塗布する際に、フィルムと配向膜との結合(密着)に支障をきたす場合がある。また、液晶性分子を塗布する際にも液晶性分子の配向を妨げることがあるため、必要以上に添加することは好ましくない。界面活性剤の添加濃度は、0.01〜10質量%が好ましく、0.05〜5質量%がさらに好ましい。本発明のアルカリ鹸化方法に好ましく用いられる界面活性剤については、本発明のアルカリ鹸化液に溶解または分散可能なものであれば特に制限はない。ノニオン界面活性剤、イオン性界面活性剤(アニオン、カチオン、両性界面活性剤)等のいずれをも好適に用いることができる。界面活性剤の中でも、ノニオン界面活性剤とアニオン界面活性剤が溶解性と鹸化性能の観点から好ましく用いられる。
これらの界面活性剤は、1種類を単独で添加しても異なる陰イオン性界面活性剤やノニオン性界面活性剤を1種類以上、または陰イオン性とノニオン性を組み合わせて添加してもよい。
以下、本発明に使用しうる界面活性剤について順次説明する。
(ノニオン性界面活性剤)
ノニオン性界面活性剤の例としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル類、ポリオキシエチレンポリスチリルフェニルエーテル類、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル類、グリセリン脂肪酸部分エステル類、ソルビタン脂肪酸部分エステル類、ペンタエリスリトール脂肪酸部分エステル類、プロピレングリコールモノ脂肪酸エステル類、しょ糖脂肪酸部分エステル類、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸部分エステル類、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸部分エステル類、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル類、ポリグリセリン脂肪酸部分エステル類、ポリオキシエチレン化ひまし油類、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸部分エステル類、脂肪酸ジエタノールアミド類、N,N−ビス−2−ヒドロキシアルキルアミン類、ポリオキシエチレンアルキルアミン、トリエタノールアミン脂肪酸エステル、トリアルキルアミンオキシド等が挙げられる。
好ましいノニオン界面活性剤としては、下記一般式(1)で表される化合物を挙げることができる。

一般式(1) R1−L1−Q1

式中、R1は炭素数8以上の直鎖または分岐のアルキル基(置換基を有していても良い)を表し、単素数8〜22のアルキル基が好ましく、特に好ましいのは炭素数10〜18のアルキル基である。該アルキル基は、適当な置換基を有していても良い。該置換基としては、ハロゲン原子、アリール基、ヘテロ環基、アルコキシル基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アシル基、ヒドロキシル基、アシルオキシ基、アミノ基、アルコキシカルボニル基、アシルアミノ基、オキシカルボニル基、カルバモイル基、スルホニル基、スルファモイル基、スルホンアミド基、スルホリル基、カルボキシル基などが挙げられる。L1はR1とQ1を連結する基を表し、直接結合または2価の連結基を表し、好ましくは、単結合、−O−、−CO−、−NR11−、−S−、−SO2−、−PO(OR12)−、アルキレン基、アリーレン基またはこれらを組み合わせて形成される2価の連結基である。ここでR11は、水素原子、アルキル基、アリール基、またはアラルキル基を表す。R12はアルキル基、アリール基、またはアラルキル基を表す。L1としては、直接結合、−O−、−CO−、−NR11−、−S−、−SO2−、アルキレン基、アリーレン基を含むことが好ましく、−CO−、−O−、−NR11−、アルキレン基、またはアリーレン基を含んでいることが特に好ましい。L1が、アルキレン基を含む場合、アルキレン基の炭素数は、好ましくは1〜10、より好ましくは1〜8、特に好ましくは1〜6である。特に好ましいアルキレン基の具体例として、メチレン、エチレン、トリメチレン、テトラブチレン、ヘキサメチレン基等が挙げられる。L1が、アリーレン基を含む場合、アリーレン基の炭素数は、好ましくは6〜24、より好ましくは6〜18、特に好ましくは6〜12である。特に好ましいアリーレン基の具体例として、フェニレン、ナフタレン基等が挙げられる。L1が、アルキレン基とアリーレン基を組み合わせて得られる2価の連結基(即ちアラルキレン基)を含む場合、アラルキレン基の炭素数は、好ましくは7〜34、より好ましくは7〜26、特に好ましくは7〜16である。特に好ましいアラルキレン基の具体例として、フェニレンメチレン基、フェニレンエチレン基、メチレンフェニレン基等が挙げられる。L1として挙げられた基は、適当な置換基を有していても良い。このような置換基としては先にR11における置換基として挙げた置換基と同様なものを挙げることができる。Q1はノニオン親水性基を表す。
より好ましくは、一般式(2)で表される化合物が挙げられる。

一般式(2) R2−L2−Q2

式中R2、L2は、各々式(1)中のR1、L1と同一の内容を表す。Q2は、ポリオキシエチレンユニット(重合度5〜150)、ポリグリセリンユニット(重合度3〜30)、親水性糖鎖ユニットから選ばれるノニオン親水性基が好ましく用いられる。特に重合度10〜50のポリオキシエチレンユニット、重合度5〜15のポリグリセリンユニットに加え、グルコース、アラビノース、フルクトース、ソルビトール、マンノース等の親水性糖鎖ユニットが好ましい。
具体的には、ポリエチレングリコール、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンノニルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンベヘニルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンベヘニルエーテル、ポリオキシエチレンフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルアミン、ポリオキシエチレンオレイルアミン、ポリオキシエチレンステアリン酸アミド、ポリオキシエチレンオレイン酸アミド、ポリオキシエチレンひまし油、ポリオキシエチレンエチレンアビエチルエーテル、ポリオキシエチレンノニンエーテル、ポリオキシエチレンモノラウレート、ポリオキシエチレンモノステアレート、ポリオキシエチレングリセリルモノオレート、ポリオキシエチレングリセリルモノステアレート、ポリオキシエチレンプロピレングリコールモノステアレート、オキシエチレンオキシプロピレンブロックポリマー、ジスチレン化フェノールポリエチレンオキシド付加物、トリベンジルフェノールポリエチレンオキシド付加物、オクチルフェノールポリオキシエチレンポリオキシプロピレン付加物、グリセロールモノステアレート、ソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート等が挙げられる。これらのノニオン性界面活性剤の質量平均分子量は、300〜50000が好ましく、500〜5000が特に好ましい。
(アニオン界面活性剤)
アニオン界面活性剤としては、例えば、脂肪酸塩類、アビエチン酸塩類、ヒドロキシアルカンスルホン酸塩類、アルカンスルホン酸塩類、ジアルキルスルホ琥珀酸エステル塩類、αオレフィンスルホン酸塩類、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩類、分岐鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩類、アルキルナフタレンスルホン酸塩類、アルキルフェノキシポリオキシエチレンプロピルスルホン酸塩類、ポリオキシエチレンアルキルスルホフェニルエーテル塩類、N−メチル−N−オレイルタウリンナトリウム塩、N−アルキルスルホ琥珀酸モノアミド二ナトリウム塩、石油スルホン酸塩類、硫酸化牛脂油、脂肪酸アルキルエステルの硫酸エステル塩類、アルキル硫酸エステル塩類、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩類、脂肪酸モノグリセリド硫酸エステル塩類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸エステル塩類、ポリオキシエチレンスチリルフェニルエーテル硫酸エステル塩類、アルキルリン酸エステル塩類、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステル塩類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルリン酸エステル塩類、スチレン/無水マレイン酸共重合物の部分鹸化物類、オレフィン/無水マレイン酸共重合物の部分鹸化物類、ナフタレンスルホン酸塩ホルマリン縮合物類等が好適に挙げられる。
好ましいアニオン界面活性剤としては、前記一般式(1)においてQ1がアニオン性基を表す化合物が挙げられる。より好ましくは、下記一般式(3)で表される化合物を挙げることができる。

一般式(3) R3−L3−Q3

式中、R3は炭素数8以上の直鎖または分岐のアルキル基(置換基を有していても良い)を表し、単素数8〜22のアルキル基が好ましく、特に好ましいのは単素数10〜18のアルキル基である。該アルキル基は、適当な置換基を有していても良い。該置換基としては、ハロゲン原子、アリール基、ヘテロ環基、アルコキシル基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アシル基、ヒドロキシル基、アシルオキシ基、アミノ基、アルコキシカルボニル基、アシルアミノ基、オキシカルボニル基、カルバモイル基、スルホニル基、スルファモイル基、スルホンアミド基、スルホリル基、カルボキシル基などが挙げられる。L3は2価の連結基を表し、好ましくは、下記群から選ばれるユニットを組み合わせて得られる極性部分構造を有する2価の連結基である。
ユニット:−O−、−CO−、−NR5−(R5は炭素数1〜5のアルキル基)、−OH、−CH=CH−、−SO2
具体的には、上記一般式(3)中のL3において、必ず、上記ユニットの少なくとも1つを含む様に構造を選択すればよい。特に好ましいのは、極性部分構造としてエステル基(−COO−、−OCO−)、アミド基(−CONR5−、−NR5CO−)、水酸基(−OH)、−CH=CH−を有する場合である。Q3はアニオン親水性基を表し、好ましくは−COOM、−OSO3M、−P(=O)(OR21)OM、−SO3Mで表される基(ここでMはカチオンを、R21はMまたは単素数1〜3のアルキル基を表す)であり、特に好ましいのは−SO3Mである。Mはアニオン性基の対カチオンを表し、水素イオン、アルカリ金属イオン(リチウム、ナトリウム、カリウムなど)、アンモニウムイオンが好ましい。特に好ましいのは、ナトリウムイオン、カリウムイオン、アンモニウムイオンである。
(カチオン界面活性剤)
カチオン界面活性剤としては、例えば、アルキルアミン塩類、テトラブチルアンモニウムブロミド等の第四級アンモニウム塩類、ポリオキシエチレンアルキルアミン塩類、ポリエチレンポリアミン誘導体等が挙げられる。
(両性界面活性剤)
両性界面活性剤としては、例えば、カルボキシベタイン類、アルキルアミノカルボン酸類、スルホベタイン類、アミノ硫酸エステル類、イミダゾリン類等が挙げられる。
以上の界面活性剤のうち、「ポリオキシエチレン」とあるものは、ポリオキシメチレン、ポリオキシプロピレン、ポリオキシブチレン等のポリオキシアルキレンに読み替えることもでき、それらもまた前記界面活性剤に包含される。前記界面活性剤は、一種単独で使用してもよいし、併用により効果を損なわない限りにおいては、2種以上を併用してもよい。また、これらの界面活性剤とともに、分子内にパーフルオロアルキル基を含有するフッ素系界面活性剤を併用しても良い。例えば、パーフルオロアルキルカルボン酸塩、パーフルオロアルキルスルホン酸塩、パーフルオロアルキルリン酸エステル等のアニオン型、パーフルオロアルキルベタイン等の両性型、パーフルオロアルキルトリメチルアンモニウム塩等のカチオン型、パーフルオロアルキルアミンオキサイド、パーフルオロアルキルエチレンオキシド付加物、パーフルオロアルキル基及び親水性基含有オリゴマー、パーフルオロアルキル基及び親油性基含有オリゴマー、パーフルオロアルキル基、親水性基及び親油性基含有オリゴマー、パーフルオロアルキル基及び親油性基含有ウレタン等の非イオン型が挙げられる。
アルカリ水溶液には、ノニオン活性剤とアニオン活性剤またはノニオン活性剤とカチオン活性剤を共存させて用いることも本発明の効果が高められて好ましい。
これらの界面活性剤のアルカリ溶液に対する添加量は、好ましくは、0.001〜20質量%であり、より好ましくは、0.01〜10質量%であり、特に好ましくは、0.03〜3質量%である。添加量が、0.001質量%より少ない場合には、界面活性剤の添加効果が得難く、20質量%よりも多い場合には、鹸化性が低下する傾向がある。
[消泡剤]
さらに、本発明におけるアルカリ溶液には消泡剤を含有させることが好ましい。この添加剤は、アルカリ水溶液中に、好ましくは0.001〜5質量%、特に好ましくは0.005〜3質量%の濃度で含有させることができる。この範囲において、フィルム表面への微小な気泡の付着も無くなり、アルカリ処理による鹸化がムラ無く均一に進行する。特に、長尺フィルムを連続して迅速に処理するのに有効である。
消泡剤としては、ヒマシ油、亜麻仁油等の油脂系、ステアリン酸、オレイン酸等の脂肪酸系、天然ワックス等の脂肪酸エステル系、ポリオキシアルキレンモノハイドリックアルコール等のアルコール系、ジ−t−アミルフェノキシエタノール、ヘプチルセロソルブ、ノニルセロソルブ、3−ヘプチルカルビトール等のエーテル系、トリブチルフォスフェート、トリス(ブトキシエチル)フォスフェート等の燐酸エステル系、ジアミルアミン等のアミン系、ポリアルキレンアミド、アシレートポリアミド等のアミド系、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸カルシウム、オレイン酸カリウム、羊毛オレイン酸のカルシウム塩等の金属石鹸系、ラウリル硫酸エステルナトリウム等の硫酸エステル系、ジメチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、メチル水素ポリシロキサン、フロロポリシロキサン、ジメチルポリシロキサンとポリアルキレンオキサイドとの共重合体等のシリコーンオイル、及びその溶液型、エマルジョン型、ペースト型シリコーンオイル等のシリコーン系の消泡剤が挙げられる。
本発明に用いるアルカリ溶液には、アルカリ溶液への界面活性剤、消泡剤の溶解助剤として、上述した有機溶剤以外の有機溶媒を添加することができる。好ましくは水への溶解度を持つ溶媒であれば特に制限はない。例えば、N−フェニルエタノールアミンおよびN−フェニルジエタノールアミン、フッ化アルコール(例えば、Cn2n+1(CH2)kOH(nは3〜8の整数、kは1または2の整数)、1,2,2,3,3−ヘプタフロロプロパノール、ヘキサフロロブタンジオール、パーフロロシクロヘキサノール等)等を挙げることができる。これらの有機溶剤の含有量は使用液の総質量に対して0.1〜5%が好ましい。
[防黴剤/防菌剤]
本発明に用いるアルカリ溶液には、さらに、防黴剤及び/または防菌剤を含有させることが好ましい。本発明において使用される防黴剤及び防菌剤は、アルカリ鹸化に悪影響を及ぼさないものであれば何でもよい。具体的には、L.E.West,“Water Quality Criteria”Phot.Sci.and Eng.,Vol9,No.6(1965)記載の殺菌剤、特開昭57−8542号、同58−105145号、同59−126533号、同55−111942号、同57−157244号の各公報記載の各種防黴剤、堀口博著「防菌防黴の化学」三共出版(昭57)、日本防菌防黴学会「防菌防黴技術ハンドブック」技報堂(昭61)に記載されているような化学物などを用いることができる。これら防黴剤及び/または防菌剤の添加量は、アルカリ水溶液中に0.01〜50g/Lであることが好ましく、より好ましくは0.05〜20g/Lである。
[その他の添加剤]
なお、本発明に用いるアルカリ溶液には、他の添加剤を併用しても良い。例えば、アルカリ液安定化剤(酸化防止剤等)、水溶性化合物(ポリアルキレングリコール類、天然水溶性樹脂等)が挙げられる。なお、本発明においてアルカリ溶液の添加剤は、これらに限定されるものではない。
[水]
また、アルカリ溶液に用いる水としては、日本国水道法(昭和32年法律第177号)及びそれに基づく水質基準に関する省令(昭和53年8月31日厚生省令第56号)、同国温泉法(昭和23年7月10日法律第125号及びその別表)、及び、WHO規定水道水基準によって規定される水中の混入の状態に於ける各元素やミネラル等への影響、等に基づくものが好ましい。
本発明の効果の達成をより確実にするために、上述した水を用いることが好ましく、アルカリ溶液のカルシウム濃度は、0.001〜400mg/Lであるのが好ましく、0.001〜150mg/Lであるのがさらに好ましく、0.001〜10mg/Lであるのが特に好ましい。マグネシウム濃度は、0.001〜400mg/Lであるのが好ましく、0.001〜150mg/Lであるのがさらに好ましく、0.001〜10mg/Lであるのが特に好ましい。カルシウムやマグネシウム以外の他の多価の金属イオンも含まれないことが好ましい。多価金属イオンの濃度は0.002〜1000mg/Lであることが好ましい。一方、アルカリ溶液に塩化物イオンや炭酸イオンなどのアニオンも含まないことが好ましい。塩化物イオン濃度は0.001〜500mg/Lであることが好ましく、0.001〜300mg/Lであるのがさらに好ましく、0.001〜100mg/Lであるのが特に好ましい。また、炭酸イオンも含まれないことが好ましい。炭酸イオン濃度は0.001〜3500mg/Lであることが好ましく、0.001〜1000mg/Lであるのがさらに好ましく、0.001〜200mg/Lであるのが特に好ましい。これらの濃度範囲において、溶液中の不溶解物の生成が抑えられる。
[アルカリ溶液の液物性]
本発明に供されるアルカリ溶液は上記で説明の組成物から構成されるが、以下に記載の液体物性の範囲になるように調整されることが好ましい。アルカリ溶液は、その表面張力が45mN/m以下であリ、且つ粘度が0.8〜20mPa・sであることが好ましい。より好ましくは、表面張力が20〜40mN/mであり、且つ粘度が1〜15mPa・sである。この範囲で、アルカリ溶液の塗布が搬送速度に応じて安定な塗布操作が容易に行える様になり、且つフィルム表面への液の濡れ性、フィルム表面に塗布した溶液の保持性、鹸化処理後のフィルム表面からのアルカリ液の除去性が充分に行われる。また、アルカリ溶液の密度は、0.65〜1.05g/cm3であることが好ましい。より好ましくは、0.70〜1.00g/cm3であり、さらには0.75〜0.95g/cm3であることが特に好ましい。この粘度範囲において、搬送での風圧による風ムラ、自重により搬送方向に平行な塗布スジ等を生じることなく鹸化処理が均一に行われる。さらには、本発明のアルカリ溶液の電気伝導度は、1mS/cm〜100mS/cmであることが好ましく、2mS/cm〜50mS/cmであることがより好ましく、3mS/cm〜50mS/cmであることが特に好ましい。この電気伝導度の範囲において、鹸化反応が均一に進行し、且つ鹸化反応後の鹸化液のフィルム表面からの除去も容易となる。電気伝導度が1mS/cmよりも小さいと、鹸化処理後のフィルム表面に残存する不純物のために輝点故障が多く発生したり、光学補償層の密着不良が生じやすくなり好ましくない。また、アルカリ鹸化溶液の液特性として、測定波長400nmにおける液の吸光度は2.0未満であることが好ましい。
[アルカリ鹸化処理方法]
本発明の鹸化処理は、少なくとも、予め室温以上に加熱する工程、ポリマーフィルムにアルカリ溶液を塗布する工程、ポリマーフィルムの温度を室温以上に維持する工程、そして、アルカリ溶液をポリマーから洗い落とす工程によりアルカリ鹸化処理を実施することから成る。また、ポリマーフィルムを予め室温以上に加熱する工程、あるいは、ポリマーフィルムにアルカリ溶液を塗布する工程の前に、粉塵を除去するため、並びに膜表面の濡れ性をより均一にするために除電処理、除塵処理あるいは、ウエット処理を実施することもできるこれらの方法は一般に知られている方法を用いることができ、除電方法としては、特開昭62−131500号公報に記載の方法、や除塵方法としては特開平2−43157号公報に記載の方法を挙げることができる。ポリマーフィルムを予め室温以上に加熱する工程では、温・熱風の衝突、加熱ロールによる接触伝熱、マイクロ波による誘導加熱、あるいは赤外線ヒーターによる輻射熱加熱等が好ましく利用できる。特に加熱ロールによる接触伝熱は、熱伝達効率が高く小さな設置面積で行える点、搬送開始時のフィルム温度の立上りが速い点で好ましい。一般の2重ジャケットロールや電磁誘導ロール(トクデン社製)が利用できる。加熱後のフィルム表面温度は、15〜150℃であることが好ましく、25〜100℃がさらに好ましく、30〜80℃が最も好ましい。
ポリマーフィルムにアルカリ溶液を塗布する工程では、ダイコーター(エクストルージョンコーター、スライドコーター)、ロールコーター(順転ロールコーター、逆転ロールコーター、グラビアコーター)、ロッドコーター(細い金属線を巻いたロッド)が好ましく利用できる。塗布方式に関しては、各種文献(例えば、Edward Cohen and Edgar B. Gutoff, Edits.,“Modern Coating and Drying Technology”,VCH Publishers Inc, 1992)に記載されている。アルカリ溶液の塗布量は、その後、水洗除去するため廃液処理を考慮して、極力抑制することが望ましく、1〜100cc/m2が好ましく、1〜50cc/m2がより好ましい。少ない塗布量域でも安定に操作できるロッドコーター、グラビアコーター、ブレードコーター、ダイコーターが特に好ましい。また、アルカリ溶液を塗布し、ポリマーフィルムを鹸化処理したのち、アルカリ溶液をポリマーフィルムから容易に洗い落とすために、アルカリ溶液はポリマーフィルムの下面に塗布することが好ましい。塗布量の変動をポリマーフィルムの幅方向および塗布時間に対して30%未満に抑制することが好ましい。また、連続塗布方式を採用することもできる。本発明においては、ポリマーフィルムを、酸素濃度が0〜18%の範囲にある雰囲気下において鹸化処理することが好ましい。酸素濃度は、0〜15%がさらに好ましく、0〜10%が最も好ましい。低酸素濃度下で鹸化塗布液を(アルカリ溶液)を塗布することで、フィルムの表面特性を制御でき、密着性の高い表面を得ることができる。雰囲気中の酸素以外の気体成分は、不活性ガス(例、窒素、ヘリウム、アルゴン)であることが好ましく、窒素であることが特に好ましい。
鹸化反応に必要なアルカリ塗布量は、ポリマーフィルムの単位面積当りの鹸化反応サイト数に配向膜との密着を発現させるために必要な鹸化深さを乗じた総鹸化サイト数(=理論アルカリ塗布量)が目安となる。鹸化反応の進行にともなってアルカリが消費され反応速度が低下するため、実際には上述の理論アルカリ塗布量の数倍を塗布することが好ましい。具体的には、理論アルカリ塗布量の2〜20倍であることが好ましく、2〜5倍であることがさらに好ましい。
アルカリ溶液の温度は、反応温度(=ポリマーフィルムの温度)に等しいことが望ましい。使用する有機溶媒の種類によっては、反応温度がアルカリ溶液の沸点を越える場合もある。安定な塗布を行うためには、アルカリ溶液の沸点よりも低い温度であることが好ましく、沸点よりも5℃低い温度であることがさらに好ましく、沸点よりも10℃低い温度であることが最も好ましい。
本発明のアルカリ鹸化方法はアルカリ溶液を塗布した後、鹸化反応が終了するまで、ポリマーフィルムの温度を室温以上に保つ。本発明において、室温とは15℃である。加熱する手段は、ポリマーフィルムの片面がアルカリ溶液により濡れている状態であることを考慮して選択する。塗布の反対面への熱風の衝突、加熱ロールによる接触伝熱、マイクロ波による誘導加熱、赤外線ヒーターによる輻射熱加熱等が好ましく利用できる。赤外線ヒーターは、非接触、かつ空気の流れを伴わずに加熱できるため、アルカリ溶液塗布面への影響を最小にできるため好ましい。赤外線ヒーターは、電気式、ガス式、オイル式あるいはスチーム式の遠赤外セラミックヒーターが利用できる。市販の赤外線ヒーター(例えば(株)ノリタケカンパニーリミテド製)を用いてもよい。熱媒体が、オイルまたはスチームを用いるオイル式またはスチーム式の赤外ヒーターは、有機溶剤が共存する雰囲気における防爆の観点で好ましい。ポリマーフィルムの温度は、アルカリ溶液塗布前に加熱した温度と同じでも異なっていてもよい。また、鹸化反応中に温度を連続的、または段階的に変更してもよい。フィルム温度は、15℃〜150℃、好ましくは25℃〜100℃、さらに好ましくは30℃〜80℃である。フィルム温度の検出には、一般に市販されている非接触の赤外線温度計が利用でき、上記温度範囲に制御するために、加熱手段に対してフィードバック制御を行ってもよい。
アルカリ溶液を塗布して、洗い落とすまでに上記温度範囲に保持する時間は、後述する搬送速度にもよるが、1秒〜5分に保つことが好ましく、2〜100秒間保つことがより好ましく、3〜50秒間保つことが特に好ましい。
ポリマーフィルムを搬送しながら各工程処理を実施し、アルカリ鹸化処理を行うことが好ましい。ポリマーフィルムの搬送速度は、上記アルカリ溶液の組成と塗布方式の組み合わせによって決定する。一般に、10〜500m/分が好ましく、20〜300m/分がさらに好ましい。
また、アルカリ鹸化溶液の液特性として、測定波長400nmにおける液の吸光度は2.0未満であることが好ましい。塗布時にポリマーフィルム中の添加剤を抽出して液の吸光度が上がらないように送液系やコーターの大きさを決定する必要がある。吸光度の高い液を用いると液中に溶け出したポリマーフィルムの添加剤がポリマーフィルム上に付着して輝点故障の発生原因となる。アルカリ鹸化溶液の吸光度の制御には活性炭を用い、溶出成分を吸着、除去する方法が利用できる。活性炭は、鹸化溶液中の着色成分を除去する機能を有すれば良く、その形態、材質等に制限はない。活性炭を直接アルカリ溶液槽に入れる方法であったり、鹸化溶液槽と活性炭を充填した浄化装置間に鹸化溶液を循環させる方法であっても構わない。
アルカリ溶液とポリマーフィルムとの鹸化反応を停止するには、大きく3つの方法がある。一つは、塗布されたアルカリ溶液を希釈してアルカリ濃度を下げ、反応速度を低下させる方法であり、二つ目は、アルカリ溶液が塗布されたポリマーフィルムの温度を下げ、反応速度を低下させる方法であり、三つ目は、酸性の液によって中和する方法である。
塗布されたアルカリ溶液を希釈するためには、希釈溶媒を塗布する方法、希釈溶媒を吹き付ける方法、希釈溶媒の入った容器にポリマーフィルムごと浸漬する方法が採用できる。希釈溶媒を塗布する方法と吹き付ける方法がポリマーフィルムを連続搬送しながら実施する上で好ましい方法である。希釈溶媒を塗布する方法は、必要最小限の希釈溶媒量を用いて実施できるために最も好ましい。
希釈溶媒の塗布は、既にアルカリ溶液が塗布されたポリマーフィルム上に希釈溶媒を再度適用できる連続塗布可能な方式であることが望ましい。塗布は、前記アルカリ溶液の塗布工程で説明と同様のダイコーター(エクストルージョンコーター、スライドコーター)、ロールコーター(順転ロールコーター、逆転ロールコーター、グラビアコーター)、ロッドコータが好ましく利用できる。アルカリ溶液と希釈溶媒とを速やかに混合してアルカリ濃度を低下させるためには、希釈溶媒が塗布される微小領域(塗布ビードと呼ぶこともある)において、流れが層流であるダイコーターよりも、流れが一様とならないロールコーターやロッドコーターが好ましい。
希釈溶媒は、アルカリ濃度を低下させることが目的であるため、アルカリ溶液中のアルカリ剤を溶解する溶媒でなければならない。よって、水または有機溶剤と水との混合液を用いることが好ましく、二種類以上の有機溶媒を混合して用いてもよい。前述したアルカリ鹸化溶液に用いた有機溶剤が優位に用いることができる。好ましい溶剤は水である。
希釈溶媒の塗布量は、アルカリ溶液の濃度に応じて決定する。塗布ビードにおける流れが層流であるダイコーターの場合、塗布量は、元のアルカリ濃度を1.5〜10倍に希釈することが好ましく、2〜5倍に希釈することがさらに好ましい。ロールコーターやロッドコーターの場合は、塗布ビード内の流動が一様でないため、アルカリ溶液と希釈溶媒との混合が発生し、この混合した液が再塗布される。したがって、この場合は希釈溶媒の塗布量によって希釈率を特定することができないため、希釈溶媒塗布後のアルカリ濃度を測定する必要がある。ロールコーターやロッドコーターにおいても、塗布量は、元のアルカリ濃度を1.5〜10倍に希釈することが好ましく、2〜5倍に希釈することがさらに好ましい。
アルカリによる鹸化反応を迅速に停止するため、酸を用いることもできる。少ない量で中和するため、強酸を用いることが好ましい。さらに、水洗の容易さを考慮すると、アルカリと中和反応後に生成する塩が水に対する溶解度が高い酸を選定することが好ましい。塩酸、硝酸、硫酸、リン酸、クロム酸、メタンスルホン酸、クエン酸が特に好ましい。
塗布されたアルカリ溶液を酸で中和するためには、酸溶液を塗布する方法、酸溶液を吹き付ける方法、あるいは酸溶液の入った容器にポリマーフィルムごと浸漬する方法が採用できる。酸溶液を塗布する方法と吹き付ける方法がポリマーフィルムを連続搬送しながら実施する上で好ましい。酸溶液を塗布する方法は、必要最小限の酸溶液を用いて実施できるために最も好ましい。
酸溶液の塗布は、既にアルカリ溶液が塗布されたポリマーフィルム上に酸溶液を再度適用できる連続塗布可能な方式であることが望ましい。塗布は、前記塗布工程で説明と同様のダイコーター(エクストルージョンコーター、スライドコーター)、ロールコーター(順転ロールコーター、逆転ロールコーター、グラビアコーター)、ロッドコーター(細い金属線を巻いたロッド)が好ましく利用できる。アルカリ溶液と希釈溶媒とを速やかに混合してアルカリ濃度を低下させるためには、希釈溶媒が塗布される微小領域(塗布ビードと呼ぶこともある)において、流れが層流であるダイコーターよりも、流れが一様とならないロールコーターやロッドコーターが好ましい。
酸溶液の塗布量は、アルカリの種類とアルカリ溶液の濃度に応じて決定する。塗布ビードにおける流れが層流であるダイコーターの場合、酸の塗布量は、元のアルカリ塗布量の0.1〜5倍であることが好ましく、0.5〜2倍であることがさらに好ましい。ロールコーターやロッドコーターの場合は、塗布ビード内の流動が一様でないため、アルカリ溶液と酸性溶液との混合が発生し、混合した液が再塗布される。したがって、この場合は酸性溶液の塗布量によって中和率を特定することができないため、酸溶液塗布後のアルカリ濃度を測定する必要がある。ロールコーターやロッドコーターにおいては、酸溶液塗布後のpHが4〜9になる様に酸溶液の塗布量を決定することが好ましく、6〜8になるように決定することがさらに好ましい。
ポリマーフィルムの温度を降下させて、鹸化反応を停止することもできる。反応を促進させるために室温以上に保たれた状態から、充分に温度低下させることによって実質的に鹸化反応を停止させる。ポリマーフィルムの温度を低下させる手段は、ポリマーフィルムの片面が濡れていることを考慮して決定する。塗布の反対面への冷風の衝突、あるいは、冷却ロールによる接触伝熱等が好ましく採用できる。冷却後のフィルム温度は、5℃〜60℃であることが好ましく、10℃〜50℃であることがさらに好ましく、15℃〜30℃であることが最も好ましい。フィルム温度は、非接触式の赤外線温度計で測定することが好ましい。冷却手段に対してフィーッドバック制御を行い、冷却温度を調節することもできる。
洗浄工程は、アルカリ溶液を除去するために実施する。アルカリ溶液が残っていると、鹸化反応が進行するばかりでなく、後に塗布する配向膜ならびに液晶性分子層の塗膜形成や液晶分子の配向に影響を及ぼす。洗浄は、洗浄水を塗布する方法、洗浄水を吹き付ける方法、あるいは、洗浄水の入った容器にポリマーフィルムごと浸漬する方法で実施できる。洗浄水を塗布する方法と吹き付ける方法が、ポリマーフィルムを連続搬送しながら実施するために好ましい。洗浄水を吹き付ける方法では、噴流によってポリマーフィルム上の洗浄水とアルカリ性塗布液との乱流混合が得られるために、特に好ましい。
水の吹きつけ方法は、塗布ヘッド(例、ファウンテンコーター、フロッグマウスコーター)を用いる方法、あるいは、空気の加湿や塗装、タンクの自動洗浄に利用されるスプレーノズルを用いる方法で実施できる。塗布方式に関しては、「コーティングのすべて」荒木正義編集、(株)加工技術研究会(1999年)に記載がある。円錐状あるいは扇状のスプレーノズルをポリマーフィルムの幅方向に配列して、全幅に水流が衝突するように配置することができる。市販のスプレーノズル(例えば、(株)いけうち製、スプレーイングシステムズ社製)を用いてもよい。
水の吹き付け速度は、大きいほうが高い乱流混合が得られる。ただし、速度が大きいと、連続搬送するポリマーフィルムの搬送安定性を損なう場合もある。吹き付けの衝突速度は、50〜1000cm/秒が好ましく、100〜700cm/秒がさらに好ましく、100〜500cm/秒が最も好ましい。
水洗に使用する水の量は、下記に定義される理論希釈率を上回る量である。
理論希釈倍率=水洗水の使用量[cc/m2]÷アルカリ鹸化溶液の塗布量[cc/m2
すなわち、水洗に使用される水の全てがアルカリ性塗布液の希釈混合に寄与したという仮定の理論希釈率を定義する。実際には、完全混合は起こらないので、理論希釈率を上回る水洗水量を使用することとなる。用いたアルカリ性塗布液のアルカリ濃度や副次添加物、溶媒の種類にもよるが、少なくとも100〜1000倍、好ましくは500〜1万倍、さらに好ましくは1000〜十万倍の理論希釈が得られる水洗水を使用する。
水吹き付け量のバラツキは、走行するポリマーフィルムの幅方向および塗布時間に対して30%未満に制御することが好ましい。ただし、ポリマーフィルムの幅方向の両端では、アルカリ溶液の塗布量や中和に使用した酸溶液の塗布量が多いことがしばしば発生する。塗布量が多い部分の洗浄性を確保するために、幅方向両端の水吹き付け量を増やすこともできる。塗布ヘッドを用いる場合は、両端の流量が多くなるように水が吐出するスリットのクリアランスを広く設定する。また、局所的に両端に水膜を供給するために幅が狭いコーターを別途、設置してもよい。幅が狭いコーターは、複数設置することもできる。スプレーノズルを用いる場合も、両端に局所的に水吹き付けるためのノズルを設置する。
水洗で一定量の水を用いる場合、一度に全量適用するよりも数回に分割して適用する回分式洗浄方法が好ましい。すなわち、水の量を幾つかに分けて、ポリマーフィルムの搬送方向にタンデムに設置した複数の水洗手段に供給する。一つの水洗手段と次の水洗手段との間には適当な時間(距離)を設けて、拡散によるアルカリ性塗布液の希釈を進行させる。さらに好ましくは、搬送されるポリマーフィルムに傾斜を設けるなどして、フィルム上の水がフィルム面に沿って流れる様にすれば、拡散に加えて、流動による混合希釈が得られる。最も好ましい方法としては、水洗手段と水洗手段の間にポリマーフィルム上の水膜を除去する水切り手段を設けることで、さらに水洗希釈効率を高められる。具体的な水切り手段としては、ブレードコーターに用いられるブレード、エアナイフコーターに用いられるエアナイフ、ロッドコーターに用いられるロッド、ロールコーターに用いられるロールが挙げられる。タンデムに配置された水洗手段の数は、多いほうが有利である。ただし、設置スペースならびに設備コストの観点から、通常は2〜10段、好ましくは2〜5段が使用される。
水切り手段後の水膜厚みは、薄い方が好ましいが、用いる水切り手段の種類によって最低水膜厚みが制限される。ブレード、ロッド、ロールなど、物理的に固体をポリマーフィルムに接触させる方法においては、例え固体がゴムなどの硬度の低い弾性体であったとしても、フィルム表面にキズを付けたり、弾性体が磨り減ったりするので有限の水膜を潤滑流体として残す必要がある。通常は、数μm以上、好ましくは10μm以上の水膜を潤滑流体として残存させる。
極限まで水膜厚みを減少させられる水切り手段としては、エアナイフが好ましい。充分な風量と風圧を設定することにより、水膜厚みをゼロに近づけることが出来る。ただし、エアの吹出し量が大きすぎると、ばたつきや寄りなど、ポリマーフィルムの搬送安定性に影響を及ぼすことがあるので、好ましい範囲が存在する。ポリマーフィルム上の元の水膜厚み、フィルムの搬送速度にもよるが、通常は10〜500m/秒、好ましくは20〜300m/秒、より好ましくは30〜200m/秒の風速を使用する。また、均一に水膜除去を行うためには、ポリマーフィルムの幅方向の風速分布を、通常は10%以内、好ましくは5%以内になる様、エアナイフの吹出し口やエアナイフへの給気方法を調整する。搬送するポリマーフィルム表面とエアナイフ吹出し口の間隙は、狭い方が水切り能が増すが、ポリマーフィルムと接触して傷付ける可能性が高くなるため、適当な範囲がある。通常は、10μm〜10cm、好ましくは100μm〜5cm、さらに好ましくは500μm〜1cmの間隙をもって、エアナイフを設置する。さらに、エアナイフと対向する様に、ポリマーフィルムの水洗面と反対側にバックアップロールを設置することで、間隙の設定が安定するとともに、フィルムのバタツキやシワ、変形などの影響を緩和することができるために好ましい。
洗浄水には、純水を用いることが好ましい。本発明に用いられる純水とは、比電気抵抗が少なくとも0.1MΩ以上であり、特にナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウムなどの金属イオンは1ppm未満、クロル、硝酸などのアニオンは0.1ppm未満であることが好ましい。純水は、逆浸透膜、イオン交換樹脂、蒸留などの単体、あるいはそれらの組み合わせによって得ることができる。
洗浄水の温度は、高い方が洗浄能力が上がる。しかし、搬送されるポリマーフィルム上に水を吹き付ける方法においては、空気と接触する水の面積が大きく、高温ほど蒸発が著しくなるため、周囲の湿度が増し、結露する危険性が高くなる。このため、洗浄水の温度は、通常は5〜90℃、好ましくは25℃〜80℃、さらに好ましくは25℃〜60℃の範囲で設定する。
アルカリ鹸化溶液の成分、または鹸化反応の生成物が水に容易に溶けない場合、水洗工程の前または後に水に不溶な成分を除去するための溶剤洗浄工程を付加しても良い。溶剤洗浄工程は、上に述べた水洗方法、水切り手段を利用することができる。用いる有機溶剤については、前述のアルカリ鹸化溶液に使用できる溶剤のほか、新版溶剤ポケットブック(オーム社、1994年刊)に記載の溶剤を使用することができる。
洗浄工程の次に乾燥工程を実施することもできる。通常は、エアナイフなどの水切り手段で充分に水膜を除去できることが多く、乾燥工程は必要でないことあるが、ポリマーフィルムをロール状に巻き取る前に、好ましい含水率に調整するために加熱乾燥してもよい。逆に、設定された湿度を有する風で調湿することもできる。乾燥風の温度は30〜200℃が好ましく、40〜150℃がより好ましく、50〜120℃が特に好ましい。
本発明のアルカリ鹸化方法は上述した鹸化処理工程の後に連続して機能層の塗設を行うことができる。塗布により片面に鹸化処理を実施し、その上に機能層の塗設を行うことにより、機能層を設けた後にフィルムをロール状に巻き取っても、機能層面とフィルムの反対面との間で貼りついたりすることを防止することができる。
[セルロースエステルフィルムの表面特性]
塗布による鹸化を行うことで「輝点故障」や「表示ムラ」を改善できるが、「輝点故障」を確実に改善するには、鹸化後のフィルムの表面特性を調節することが必要であることがわかった。また逆に鹸化後のフィルムの表面特性を調節しないと塗布による鹸化処理を行っても輝点故障が発生し、さらには液晶表示装置を長期にわたり使用した後に「雲状故障」を生じる場合があることがわかった。
「輝点故障」とは、液晶表示装置の画面上に生ずる星状に輝く欠陥であり、画面が黒表示の場合に容易に観察することができる。このような輝点故障について調べた結果、輝点は配向膜あるいは光学異方性層などの屑が付着して生じていることがわかった。これらの屑は、液晶表示装置の寸法に合わせて光学補償シートを切断(あるいは打ち抜き)する際の衝撃により、フィルムから配向膜(と同時に光学異方性層)が僅かながら剥離することで生じることがわかった。「雲状故障」とは、液晶表示装置の画面上に、雲状にくすんだように見えるムラが生じる欠陥であり、画面が白表示の場合に観察し易い欠陥である。この雲状故障は、液晶表示装置を製造した直後には発生し難く、長期経時後に発生し易い。このような雲状ムラについて調べた結果、雲状ムラは、光学補償シートに用いられるセルロースエステルフィルム中の低分子量化合物(例えば可塑剤など)が、長期経時後に配向膜と光学異方性層の界面にまで析出することで発生することがわかった。さらに雲状故障は、従来のような浸漬による鹸化処理より、塗布による鹸化処理を施したほうが生じ易いこともわかった。
セルロースエステルフィルムの、塗布による鹸化処理が施された面の表面特性を、下記の(1)〜(6)の表面特性のうちの少なくとも一つ(好ましくは複数)を満足させることで、塗布による鹸化処理を用いる利点(フィルムの平滑な面状を保てることなど)に加えて、光学補償シートを液晶表示装置に用いた際の輝点故障を、雲状故障の発生もなく改善できることがわかった。セルロースエステルフィルムに塗布による鹸化処理を施した場合に、「輝点故障」および「雲状故障」の発生を抑えることのできるフィルムの表面特性を以下に記載する。
(1)フィルム表面の鹸化深さが、0.010〜0.8μmの範囲にあること。鹸化深さは、0.020〜0.6μmの範囲にあることが好ましく、0.040〜0.4μmの範囲にあることがより好ましい。
(2)表面における化学結合の存在量の比を示すC=O/C−O比が0〜0.6の範囲にあり、かつC−C/C−O比が0.45〜0.75の範囲にあること。C=O/C−O比は、0〜0.55の範囲にあることが好ましく、0〜0.5の範囲にあることがより好ましい。C−C/C−O比は、0.5以上0.7の範囲にあることが好ましく、0.5〜0.65の範囲にあることがより好ましい。
(3)セルロースエステルフィルムに可塑剤としてリン化合物添加されている場合、表面における元素の存在量の比を示すO/C比が0.62〜0.75の範囲にあり、かつP/C比が0.007〜0.015の範囲にあること。表面のO/C比は、0.63〜0.73の範囲にあることが好ましく、0.64〜0.71の範囲にあることがより好ましい。表面のP/C比は、0.008〜0.0145の範囲にあることが好ましく、0.009〜0.014の範囲にあることがより好ましい。
(4)セルロースエステルフィルムとしてセルロースアセテートフィルムを用いた場合、フィルム表面のアセチル置換度が、1.8〜2.7の範囲にあること。アセチル置換度は、1.85〜2.5の範囲にあることが好ましく、1.9〜2.4の範囲にあることがより好ましい。
(5)フィルム表面における水との接触角が、20〜55度の範囲にあること。水との接触角は、25〜50度の範囲にあることが好ましく、30〜45度の範囲にあることがより好ましい。
(6)フィルム表面における表面エネルギーは55〜75mN/mの範囲にあることが好ましい。
これらの表面特性を達成することにより輝点故障と雲状故障が抑えられる理由についてはわかっていないが、以下のように推測される。例えば、鹸化深さが深すぎる場合には、表面付近のセルロースエステルの主鎖などの切断が生じていると推測される。この主鎖の切断によりフィルム表面のセルロースエステルの分子量が低下して脆くなり、フィルムと配向膜の密着性が低下すると考えられる。そしてフィルム表面が過度に(表面から深くまで)鹸化処理されることにより低分子量化合物(可塑剤など)の発生が多くなり表面付近に多く付着すると考えられる。長期経時後に低分子量化合物が配向膜の表面へと析出することで雲状故障を生じると推測される。一方、鹸化深さが浅すぎる場合には、鹸化処理が不充分であるためにフィルムと配向膜の密着性が低下すると考えられる。そして鹸化深さが極端に浅いためにセルロースエステルフィルム表面の極近傍に微量に存在する低分子量化合物(可塑剤など)が長期経時後に配向膜の表面にまで析出しやすいと考えられる。
セルロースエステルフィルムの表面特性を上記の範囲に調節するには、塗布による鹸化処理の条件を調節することで達成できる。表面特性を調節するための最大のポイントは、18%以下の低酸素雰囲気下でアルカリ溶液をセルロースエステルフィルムに塗布すること、およびこの後アルカリ溶液を30℃〜80℃の洗浄液(温水が好ましい)で洗浄することである。
[表面特性の評価方法]
セルロースエステルフィルムの表面特性(1)〜(5)の評価方法については、国際公開第02/46809号パンフレットの27頁〜30頁に記載の方法で行うことが出来る。表面特性の表面エネルギー(評価項目(6))の評価方法は、「ぬれの基礎と応用」(リアライズ社、1989年刊行)に記載の接触角法、湿潤熱法、及び吸着法により求めることが出来る。本発明のセルロースエステルフィルムの場合、接触角法を用いることが好ましい。具体的には、表面エネルギーが既知の2種類の溶媒をセルロースエステルフィルムに滴下し、液滴表面とフィルム表面との交点において、液滴に引いた接線とフィルム表面のなす角で、液滴を含む方の角を接触角と定義し、計算によりフィルムの表面エネルギーを算出できる。
[光学補償シート]
鹸化処理したポリマーフィルムは、光学補償シートの透明支持体として好ましく用いられる。光学補償シートは、アルカリ溶液を塗布することにより鹸化したポリマーフィルム、配向膜形成用樹脂層、および液晶性分子の配向を固定化した光学異方性層が、この順に積層された層構成を有する。配向膜の形成においては、ポリマーフィルムを加熱する工程、ポリマーフィルムの配向膜側の表面にアルカリ溶液を塗布する工程、アルカリ溶液塗布面の温度を維持する工程、反応を停止する工程、アルカリ溶液を洗浄してフィルムの表面から除去する工程に次いで、配向膜を塗布して乾燥する工程を付加することもできる。さらに、配向膜を塗布、乾燥後に配向膜表面をラビング処理し、液晶性分子層を塗布、乾燥して、最終的な光学補償シートまで完成することもできる。ポリマーフィルムの鹸化処理のみならず、配向膜、液晶性分子層を一貫して形成することにより、高い生産性が得られる。さらに、鹸化処理〜配向膜塗布までの時間経過がない、活性化した鹸化面の劣化が少ない、鹸化処理の水洗工程が湿式の除塵と兼ねられる、複数回の送り出し、巻取りに伴うロール末端部のロスが発生しないことが、利点として挙げられる。
光学補償シートは、鹸化処理したポリマーフィルムからなる透明支持体、その上に設けられた配向膜および配向膜上に形成された円盤状構造単位を有する光学異方層からなる。配向膜は架橋されたポリマーからなるラビング処理された膜であることが好ましい。光学異方層に用いられる円盤状構造単位を有する化合物としては、低分子量の円盤状液晶性化合物(モノマー)または重合性円盤状液晶性化合物の重合により得られるポリマーを用いることができる。円盤状化合物(ディスコティック化合物)は、一般に、ディスコティック液晶相(即ち、ディスコティックネマチック相)を有する化合物とディスコティック液晶相を持たない化合物に大別することができる。円盤状化合物は、一般に負の複屈折を有する。光学異方層は、ディスコティック化合物の負の複屈折性を利用したものである。
[配向膜]
光学異方層の配向膜は、架橋されたポリマーからなる膜をラビング処理して形成することが好ましい。配向膜は、架橋された2種のポリマーからなることがさらに好ましい。2種のポリマーの一方は、それ自体架橋可能なポリマーまたは架橋剤により架橋されるポリマーである。配向膜は、官能基を有するポリマーあるいはポリマーに官能基を導入したものを、光、熱あるいはpH変化により、ポリマー間で反応させて形成するか、あるいは、反応活性の高い化合物である架橋剤を用いてポリマー間に架橋剤に由来する結合基を導入して、ポリマー間を架橋することにより形成することができる。
ポリマーの架橋は、ポリマーまたはポリマーと架橋剤の混合物を含む塗布液を透明支持体上に塗布した後、加熱することにより実施できる。配向膜を透明支持体上に塗設した後から、光学補償シートを得るまでのいずれかの段階で架橋させる処理を行なってもよい。配向膜上に形成される円盤状構造を有する化合物(光学異方層)の配向を考慮すると、円盤状構造を有する化合物を配向させた後に最終の架橋を行なうことも好ましい。すなわち、透明支持体上にポリマーおよびポリマーを架橋することができる架橋剤を含む塗布液を塗布した場合、加熱乾燥した後、ラビング処理を行なって配向膜を形成し、次いでこの配向膜上に円盤状構造単位を有する化合物を含む塗布液を塗布し、ディスコティックネマチック相形成温度以上に加熱した後、冷却して光学異方層を形成する。
配向膜に使用されるポリマーは、それ自体架橋可能なポリマーあるいは架橋剤により架橋されるポリマーのいずれも使用することができし、これらの組み合わせを複数使用することができる。ポリマーの例には、ポリメチルメタクリレート、アクリル酸/メタクリル酸共重合体、スチレン/マレインイミド共重合体、ポリビニルアルコールおよび変性ポリビニルアルコール、ポリ(N−メチロールアクリルアミド)、スチレン/ビニルトルエン共重合体、クロロスルホン化ポリエチレン、ニトロセルロース、ポリ塩化ビニル、塩素化ポリオレフィン、ポリエステル、ポリイミド、酢酸ビニル/塩化ビニル共重合体、エチレン/酢酸ビニル共重合体、カルボキシメチルセルロース、ポリエチレン、ポリプロピレンおよびポリカーボネートが含まれる。シランカップリング剤をポリマーとして用いることができる。水溶性ポリマー(例、ポリ(N−メチロールアクリルアミド)、カルボキシメチルセルロース、ゼラチン、ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール)が好ましく、ゼラチン、ポリビニルアルコールおよび変性ポリビニルアルコールがさらに好ましく、ポリビニルアルコールおよび変性ポリビニルアルコールが最も好ましい。重合度が異なるポリビニルアルコールまたは変性ポリビニルアルコールを2種類併用することが特に好ましい。
ポリビニルアルコールの鹸化度は、70〜100%が好ましく、80〜100%がさらに好ましく、85〜95%が最も好ましい。ポリビニルアルコールの重合度は、100〜3000であることが好ましい。変性ポリビニルアルコールの変性基は、共重合変性、連鎖移動変性またはブロック重合変性により導入できる。変性基の例には、親水性基(カルボン酸基、スルホン酸基、ホスホン酸基、アミノ基、アンモニウム基、アミド基、チオール基等)、炭素数10〜100個の炭化水素基、フッ素原子置換の炭化水素基、チオエーテル基、重合性基(不飽和重合性基、エポキシ基、アジリニジル基等)、アルコキシシリル基(トリアルコキシ、ジアルコキシ、モノアルコキシ)等が挙げられる。これらの変性ポリビニルアルコール化合物の具体例として、例えば特開2000−155216号公報の段落番号[0022]〜[0145]、同2002−62426号公報の段落番号[0018]〜[022]に記載のもの等が挙げられる。
ポリマー(好ましくは水溶性ポリマー、さらに好ましくはポリビニルアルコールまたは変性ポリビニルアルコールの架橋剤の例には、アルデヒド、N−メチロール化合物、ジオキサン誘導体、カルボキシル基を活性化することにより作用する化合物、活性ビニル化合物、活性ハロゲン化合物、イソオキサゾールおよびジアルデヒド澱粉が含まれる。二種類以上の架橋剤を併用してもよい。具体的には、例えば特開2002−62426号公報の段落番号[0023]〜[024]記載の化合物等が挙げられる。反応活性の高いアルデヒド、特にグルタルアルデヒドが好ましい。
架橋剤の添加量は、ポリマーに対して0.1〜20質量%が好ましく、0.5〜15質量%がさらに好ましい。配向膜に残存する未反応の架橋剤の量は、1.0質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以下であることがさらに好ましい。配向膜中に1.0質量%を超える量で架橋剤が残存していると、充分な耐久性が得られない。そのような配向膜を液晶表示装置に使用すると、長期使用、あるいは高温高湿の雰囲気下に長期間放置した場合にレチキュレーションが発生することがある。
配向膜は、基本的に、配向膜形成材料である上記ポリマー、架橋剤を含む透明支持体上に塗布した後、加熱乾燥(架橋させ)し、ラビング処理することにより形成することができる。架橋反応は、前記のように、透明支持体上に塗布した後、任意の時期に行なって良い。ポリビニルアルコールのような水溶性ポリマーを配向膜形成材料として用いる場合には、塗布液は消泡作用のある有機溶媒(例、メタノール)と水の混合溶媒とすることが好ましい。その比率は質量比で水:メタノールが0:100〜99:1が好ましく、0:100〜91:9であることがさらに好ましい。これにより、泡の発生が抑えられ、配向膜、さらには光学異方層の層表面の欠陥が著しく減少する。配向膜の塗布方法は、スピンコーティング法、ディップコーティング法、カーテンコーティング法、エクストルージョンコーティング法、ロッドコーティング法またはロールコーティング法が好ましい。特にロッドコーティング法が好ましい。また、乾燥後の膜厚は0.1〜10μmが好ましい。加熱乾燥は、15℃〜110℃で行なうことができる。充分な架橋を形成するためには60℃〜100℃が好ましく、特に80℃〜100℃が好ましい。乾燥時間は1分〜36時間で行なうことができるが、好ましくは1分〜30分である。pHも、使用する架橋剤に最適な値に設定することが好ましく、グルタルアルデヒドを使用した場合は、pH4.5〜5.5で、特に5が好ましい。
配向膜は、透明支持体上または上記下塗層上に設けられる。配向膜は、上記のようにポリマー層を架橋したのち、表面をラビング処理することにより得ることができる。配向膜は、その上に設けられる液晶性ディスコティック化合物の配向方向を規定するために設けられる。
前記ラビング処理は、LCDの液晶配向処理工程として広く採用されている処理方法を適用することができる。即ち、配向膜の表面を、紙やガーゼ、フェルト、ゴムあるいはナイロン、ポリエステル繊維などを用いて一定方向に擦ることにより、配向を得る方法を用いることができる。一般的には、長さおよび太さが均一な繊維を平均的に植毛した布などを用いて数回程度ラビングを行うことにより実施される。
[光学異方層]
光学補償シートの光学異方層は、配向膜上に形成される。光学異方層は、円盤状構造単位を有する化合物からなる負の複屈折を有する層であることが好ましい。光学異方層は、低分子量の液晶性円盤状化合物(モノマー)の層または重合性の液晶性円盤状化合物の重合(硬化)により得られるポリマーの層である。円盤状(ディスコティック)化合物には、C.Destradeらの研究報告、Mol.Cryst.71巻、111頁(1981年)に記載されているベンゼン誘導体、C.Destradeらの研究報告、Mol.Cryst.122巻、141頁(1985年)、Physics lett,A,78巻、82頁(1990)に記載されているトルキセン誘導体、B.Kohneらの研究報告、Angew.Chem.96巻、70頁(1984年)に記載されたシクロヘキサン誘導体およびJ.M.Lehnらの研究報告、J.Chem.Commun.,1794頁(1985年)、J.Zhangらの研究報告、J.Am.Chem.Soc.116巻、2655頁(1994年)に記載されているアザクラウン系やフェニルアセチレン系マクロサイクルが含まれる。ディスコティック(円盤状)化合物は、一般的にこれらを分子中心の母核とし、直鎖のアルキル基やアルコキシ基、置換ベンゾイルオキシ基がその直鎖として放射線状に置換された構造である。円盤状化合物には、液晶性を示すディスコティック液晶が含まれる。円盤状化合物から形成した光学異方層には、熱や光で反応する基を有する低分子ディスコティツク液晶を反応させて重合または架橋することにより、高分子量化して液晶性を失ったものも含まれる。円盤状化合物については、特開平8−50206号公報に記載がある。
光学異方層は、ディスコティック構造単位を有する化合物からなる負の複屈折を有する層であって、そしてディスコティック構造単位の面が、透明支持体面に対して傾き、且つ該ディスコティック構造単位の面と透明支持体面とのなす角度が、光学異方層の深さ方向に変化していることが好ましい。
ディスコティック構造単位の面の角度(傾斜角)は、一般に、光学異方層の深さ方向でかつ光学異方層の配向膜底面からの距離の増加と共に増加または減少している。上記傾斜角は、距離の増加と共に増加することが好ましい。さらに、傾斜角の変化としては、連続的増加、連続的減少、間欠的増加、間欠的減少、連続的増加と連続的減少を含む変化、および増加および減少を含む間欠的変化等を挙げることができる。間欠的変化は、厚さ方向の途中で傾斜角が変化しない領域を含んでいる。傾斜角は、変化しない領域を含んでいても、全体として増加または減少していることが好ましい。さらに、傾斜角は全体として増加していることが好ましく、特に連続的に変化することが好ましい。
上記光学異方層は、一般にディスコティック化合物および他の化合物を溶剤に溶解した溶液を配向膜上に塗布し、乾燥し、次いでディスコティックネマチック相形成温度まで加熱し、その後配向状態(ディスコティックネマチック相)を維持して冷却することにより得られる。あるいは、上記光学異方層は、ディスコティック化合物および他の化合物(さらに、例えば重合性モノマー、光重合開始剤)を溶剤に溶解した溶液を配向膜上に塗布し、乾燥し、次いでディスコティックネマチック相形成温度まで加熱したのち重合させ(UV光の照射等により)、さらに冷却することにより得られる。本発明に用いるディスコティック液晶性化合物のディスコティックネマティック液晶相−固相転移温度としては、70〜300℃が好ましく、特に70〜170℃が好ましい。
支持体側のディスコティック単位の傾斜角は、一般にディスコティック化合物あるいは配向膜の材料を選択することにより、またはラビング処理方法を選択することにより、調整することができる。また、表面側(空気側)のディスコティック単位の傾斜角は、一般にディスコティック化合物あるいはディスコティック化合物と共に使用する他の化合物(例、可塑剤、界面活性剤、重合性モノマーおよびポリマー)を選択することにより調整することができる。さらに、傾斜角の変化の程度も上記選択により調整することができる。
可塑剤、界面活性剤および重合性モノマーとしては、ディスコティック化合物と適度の相溶性を有し、液晶性ディスコティック化合物の傾斜角の変化を与えられるか、あるいは配向を阻害しない限り、どのような化合物も使用することができる。これらの中で、重合性モノマー(例、ビニル基、ビニルオキシ基、アクリロイル基およびメタクリロイル基を有する化合物)が好ましい。上記化合物は、ディスコティック化合物に対して一般に1〜50質量%、好ましくは5〜30質量%の量にて使用される。
ポリマーとしては、ディスコティック化合物と相溶性を有し、液晶性ディスコティック化合物に傾斜角の変化を与えられる限り、どのようなポリマーも使用することができる。ポリマーの例としては、セルロースエステルを挙げることができる。セルロースエステルの好ましい例としては、セルロースアセテート、セルロースアセテートプロピオネート、ヒドロキシプロピルセルロースおよびセルロースアセテートブチレートを挙げることができる。上記ポリマーは、液晶性ディスコティック化合物の配向を阻害しないように、ディスコティック化合物に対して一般に0.1〜10質量%、好ましくは0.1〜8質量%、特に好ましくは0.1〜5質量%の量にて使用される。
[偏光板]
偏光板は、ポリマーフィルム上に配向膜および液晶性分子の配向を固定化した光学異方性層を設けた光学補償シート、偏光膜、透明保護膜がこの順に積層された層構成を有する。透明保護膜には、通常のセルロースアセテートフィルムを用いてもよい。偏光膜には、ヨウ素系偏光膜、2色性染料を用いる染料系偏光膜やポリエン系偏光膜がある。ヨウ素系偏光膜および染料系偏光膜は、一般にポリビニルアルコール系フィルムを用いて製造する。ポリマーフィルムの遅相軸と偏光膜の透過軸の関係は、適用される液晶表示装置の種類により異なる。TN、MVAまたはOCBの場合は、実質的に平行になるように配置する。反射型液晶表示装置の場合は、実質的に45度となるように配置することが好ましい。
[液晶表示装置]
光学補償シートまたは偏光板は、液晶表示装置に有利に用いられる。TN、MVA、およびOCBモードの液晶表示装置は、液晶セルおよびその両側に配置された2枚の偏光板からなる。液晶セルは、2枚の電極基板の間に液晶を担持している。光学補償シートは、液晶セルと一方の偏光板との間に、1枚配置するか、あるいは液晶セルと双方の偏光板との間に2枚配置する。OCBモードの液晶表示装置の場合、光学補償シートは、ポリマーフィルム上に円盤状化合物、もしくは棒状液晶化合物を含む光学異方性層を有していても良い。光学異方性層は、円盤状化合物(もしくは棒状液晶化合物)を配向させ、その配向状態を固定することにより形成する。円盤状化合物は、一般に大きな複屈折率を有する。また、円盤状化合物には、多様な配向形態がある。従って、円盤状化合物を用いることで、従来の延伸複屈折フィルムでは得ることができない光学的性質を有する光学補償シートを製造することができる。円盤状化合物を用いた光学補償シートについては、特開平6−214116号公報、米国特許第5583679号、同5646703号、独国特許出願公開第3911620号の各明細書に記載がある。
偏光板では、液晶セルと偏光膜との間に配置される透明保護膜として、前記のポリマーフィルムを用いることができる。一方の偏光板の(液晶セルと偏光膜との間の)透明保護膜のみ上記のポリマーフィルムを用いるか、あるいは双方の偏光板の(液晶セルと偏光膜との間の)2枚の透明保護膜に、上記のポリマーフィルムを用いる。液晶セルはOCBモード、またはTNモードであることが好ましい。OCBモードの液晶セルは、棒状液晶性分子を液晶セルの上部と下部とで実質的に逆の方向に(対称的に)配向させるベンド配向モードの液晶セルを用いた液晶表示装置であり、米国特許第4583825号、同5410422号の各明細書に開示されている。棒状液晶性分子が液晶セルの上部と下部とで対称的に配向しているため、ベンド配向モードの液晶セルは、自己光学補償機能を有する。そのため、この液晶モードは、OCB(Optically Compensatory Bend)液晶モードとも呼ばれる。ベンド配向モードの液晶表示装置は、応答速度が速い利点がある。TNモードの液晶セルでは、電圧無印加時に棒状液晶性分子が実質的に水平配向し、さらに60〜120゜にねじれ配向している。TNモードの液晶セルは、カラーTFT液晶表示装置として最も多く利用されており、多数の文献に記載がある。
[実施例1]
(セルロースエステルフィルムCFの作製)
下記の組成物をミキシングタンクに投入し、加熱攪拌して各成分を溶解し、セルロースアセテート溶液Aを調製した。
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セルロースアセテート溶液A組成
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酢化度60.9%のセルロースアセテート 100.0質量部
トリフェニルホスフェート(可塑剤) 7.0質量部
ビフェニルジフェニルホスフェート(可塑剤) 4.0質量部
メチレンクロライド(第1溶媒) 402.0質量部
メタノール(第2溶媒) 60.0質量部
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下記の組成物を分散機に投入し、攪拌して各成分を分散、混合し、マット剤溶液を調製した。
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マット剤溶液組成
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平均粒径16nmのシリカ粒子(AEROSIL R972、
日本アエロジル(株)製) 2.0質量部
メチレンクロライド(第1溶媒) 76.3質量部
メタノール(第2溶媒) 11.4質量部
セルロースアセテート溶液A 10.3質量部
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下記の組成物をミキシングタンクに投入し、加熱しながら攪拌して、各成分を溶解し、レターデーション上昇剤溶液を調製した。
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レターデーション上昇剤溶液組成
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下記のレターデーション上昇剤 19.8質量部
下記のUV吸収剤(A) 0.07質量部
下記のUV吸収剤(B) 0.13質量部
メチレンクロライド(第1溶媒) 58.4質量部
メタノール(第2溶媒) 8.7質量部
セルロースアセテート溶液A 12.8質量部
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Figure 2006328184
Figure 2006328184
上記セルロースアセテート溶液Aを94.6質量部、マット剤溶液を1.3質量部、レターデーション上昇剤溶液4.1質量部それぞれを濾過後に混合し、バンド流延機を用いて流延した。レターデーション上昇剤のセルロースアセテートに対する質量比は4.6%であった。残留溶剤量30%でフィルムをバンドから剥離し、130℃の条件で、残留溶剤量が13質量%のフィルムをテンターを用いて28%の延伸倍率で横延伸し、延伸後の幅のまま140℃で30秒間保持した。その後、クリップを外して140℃で40分間乾燥させセルロースアセテートフィルムCFを作製した。出来あがったセルロースアセテートフィルムの残留溶剤量は0.2%であり、膜厚は72μmであった。
(アルカリ鹸化液S−1〜S−5の調製)
鹸化液100g中の組成を、アルカリ(=水酸化カリウム)5g、高沸点溶媒(=プロピレングリコール[188℃])15g、純水(電気抵抗1MΩ以上の水)15g、低沸点溶媒(=イソプロピルアルコール[82℃])64g、ノニオン系界面活性剤(=ポリオキシエチレンセチルエーテル)1gとして、アルカリ鹸化液S−1(従来タイプ)を調製した。
また、アルカリと高沸点溶媒と純水の3成分の添加量を、アルカリ鹸化液S−1のそれぞれ1/2、1/3、1/4、1/6と減少させたアルカリ鹸化液S−2〜S−5を調製した。〔下記表1参照〕
Figure 2006328184
(鹸化処理:フィルムKF−1〜KF−5の作製)
作製したセルロースアセテートフィルムCFを以下のようにアルカリ鹸化液S−1〜S−5により鹸化処理した。
セルロースアセテートフィルムCFを60℃に加熱した誘電式加熱ロールを通過させ、40℃まで昇温した後に、40℃に保温したアルカリ鹸化液S−1をロッドコーターを用いて19g/m2(=塗布可能下限液量+1g/m2)塗布した。110℃に加熱した(株)ノリタケカンパニーリミテド製のスチーム式遠赤外ヒーターの下に7秒滞留させた後に、同じくロッドコーターを用いて純水を3cc/m2塗布し、アルカリを洗い落とした。この時、フィルム温度は40〜45℃に維持した。次いで、ファウンテンコーターによる水洗とエアナイフによる水切りを3回繰り返し、アルカリを洗い落とした後に70℃の乾燥ゾーンに5秒間滞留させて乾燥し、鹸化処理フィルムKF−1を作製した。アルカリ鹸化液S−1の液の粘度、液の密度は表2に示すとおりであった。
アルカリ鹸化液S−1をS−2〜S−5に替え、表2に示す塗布量(=塗布可能下限液量+1g/m2)とした以外は、同様にして、セルロースアセテートフィルムCFを搬送しながら各工程を実施し、鹸化処理を行って、鹸化処理フィルムKF−2〜KF−5を作製した。また、アルカリ鹸化液S−2〜S−5の液の粘度、液の密度は表2に示すとおりであった。
(ポリマーフィルムの評価方法)
得られた鹸化処理フィルムKF−1〜KF−5の接触角の測定を、以下のように行った。接触角の測定結果及び面状の評価結果を表2に示す。
「接触角の測定」
サンプル表面に水滴を垂らし、サンプル表面に対する水滴のエッジ部の角度を測定する。(サンプルの拡大写真と画像処理によって測定する)
また、得られた鹸化処理フィルムKF−1〜KF−5について、日本電色(株)社製NDH−300A型光学試験機を用いてヘイズの測定を行った。
Figure 2006328184
アルカリと高沸点溶媒と純水の3成分の添加量を、アルカリ鹸化液S−1の1/2、1/3、1/4、1/6と減少させるに従って、粘度と密度が低下し塗布可能下限液量を低下させることができた。
塗布可能下限液量+1g/m2で塗布し鹸化処理した時の接触角は、アルカリと高沸点溶媒と純水の3成分の添加量を、アルカリ鹸化液S−1の1/2、1/3、1/4、1/6と減少させるに従って上昇したが、1/6においても目標の45度以下まで鹸化することができ、また、鹸化後の面状も全ての水準(従来タイプの鹸化液S−1の場合を除く)において問題なかった。また、各鹸化処理フィルムKF−1〜KF−5のヘイズは低く、良好なものであった。
なお、アルカリ鹸化液S−1を用いたときの廃水中の高沸点溶媒量が300g/min超であったものが、3成分(アルカリ、高沸点溶媒、純水)の添加量をアルカリ鹸化液S−1の1/2、1/3、1/4、1/6と減少させた際の、廃水中の高沸点溶媒量(g/min)は、150g/min未満、100g/min未満、90g/min未満、80g/min未満へと変化した。すなわち、アルカリ鹸化液S−1に対し、3成分を1/2量にした鹸化液では、廃水中の高沸点溶媒量を1/2以下に削減することができる。また、3成分を1/6量にした鹸化液では、廃水中の高沸点溶媒量を1/4以下に削減することができる。
(配向膜の形成)
得られたセルロースアセテートフィルムCFと鹸化処理フィルムKF−1〜KF−5の鹸化処理面に下記変性ポリビニルアルコール20質量部、水360質量部、メタノール120質量部、ならびにグルタルアルデヒド0.5質量部からなる配向膜塗布液をロッドコーターで30cc/m2塗布し、60℃の温風で60秒、さらに90℃の熱風で150秒間、乾燥した後に搬送方向に鉛直に配置したベルベット布ラビングロールを用いて、ラビング処理を行って配向膜を形成した。
Figure 2006328184
(光学異方性層の形成)
上記、CFとKF−1〜KF−5に形成した配向膜の上に、下記のディスコティック化合物41.01質量部、エチレンオキサイド変成トリメチロールプロパントリアクリレート(V#360、大阪有機化学(株)製)1.22質量部、多官能アクリレートモノマー(NKエステル A−TMMT 新中村化学工業製)2.84質量部、セルロースアセテートブチレート(CAB551−0.2、イーストマンケミカル社製)0.90質量部、セルロースアセテートブチレート(CAB531−1、イーストマンケミカル社製)0.23質量部、光重合開始剤(イルガキュアー907、チバガイギー社製)1.35質量部、増感剤(カヤキュアーDETX、日本化薬(株)製)0.45質量部を、102質量部のメチルエチルケトンに溶解した後に#4のワイヤーバーで塗布した。続き、連結する130℃の熱風ゾーンで2分間加熱し、円盤状化合物を配向させた。最後に80℃の雰囲気下のもと、膜面温度が約100℃の状態で120W/cm高圧水銀灯を用いて、0.4秒間UV照射しディスコティック化合物を重合させ、光学異方性層を形成し、光学補償シートCHFとKHF−1〜KHF−5を作製した。波長633nmで測定した光学異方性層のReレターデーション値は45nmであった。また、円盤面と第1透明支持体面との間の角度(傾斜角)は平均で39°であった。
Figure 2006328184
(光学補償シートの評価方法)
得られた、光学補償シートCHFとKHF−1〜KHF−5を、クロスニコルス配置した2枚の偏光板の間に挟み、透過光のムラを目視で観察した。光学異方性層の塗布ムラ、あるいはディスコティック化合物の配向ムラを特定し、4段階の官能評価を行った。
A:全く発生しない(100人が評価し、1人も認識できないレベル)
B:僅かに発生する(100人が評価し、1〜3人が認識するレベル)
C:弱く発生する (100人が評価し、4〜20人が認識するレベル)
D:強く発生する (100人が評価し、20人以上が認識するレベル)
また、各光学補償シートを30cm×25cmに裁断し、25℃相対湿度60%の条件下で1日放置した後、光学異方性層側に幅1.2cm、長さ10cmのセロテープ(ニチバン社製No.405)を100枚貼り付け、1枚ずつ1秒間ではがし取り、フィルムと配向膜の間で剥離する状態を検査した。100枚のセロテープの内、何枚に塗布層間の破壊が発生するかによって、相対的な密着性の優劣を評価した。
表3にこれらの評価結果を示す。
Figure 2006328184
第1表に示されるように、本発明の鹸化処理を実施したKHF−2〜KHF−5は、従来のアルカリ鹸化液S−1による鹸化処理を実施したKHF−1と同様に透過光のムラや剥離試験についても極めて良い結果であることが分かる。一方、表面処理のないCHFは光学補償シートとして使用できないものであった。
[実施例2]
(鹸化処理フィルムKF−6〜KF−11の作製)
実施例1の、アルカリと高沸点溶媒と純水の3成分量が従来のアルカリ鹸化液S−1の1/4である、アルカリ鹸化液S−4に添加する界面活性剤の添加量を、下記表4に記載のように変化させてアルカリ鹸化液S−6〜S−11を調製して用いた他は、実施例1のKF−4と同様にして鹸化処理フィルムKF−6〜KF−11を作製した。
Figure 2006328184
Figure 2006328184
界面活性剤の添加量を増量するに従って、粘度と密度は微増したが、下限塗布量は12〜13g/m2だったので、すべて13g/m2で塗布し鹸化処理した。
その結果、界面活性剤0.0質量%の水準は、接触角が他の水準より高く全面白化した。これは、ポリマーフィルムより抽出された可塑剤やレタデーション上昇剤がベース表面に残存したためである。
その他の水準の面状は全て問題無かったが、接触角は、界面活性剤0.2質量%の水準において最低値となった。これは、界面活性剤を必要以上に添加すると、界面活性剤がポリマーフィルムより抽出された可塑剤やレタデーション上昇剤を伴って、ベース表面に残存するためと考えられる。
その裏付けデータとして、ポリマーフィルムからアルカリ溶液を洗い流す工程の第1水洗部廃液中に含まれる可塑剤とレタデーション上昇剤濃度を測定した結果、界面活性剤0.2質量%の廃液中の可塑剤とレタデーション上昇剤濃度が最も高かった。
実施例1と実施例2の結果より、アルカリKOHと高沸点溶媒PGと界面活性剤の添加量は、必要最低量で鹸化液を調製するのが、原料コスト、廃水処理負荷、および面状の観点より好ましいと言える。

Claims (18)

  1. 質量比にしてアルカリ:高沸点溶媒:水=1:(2〜4):(2〜4)で‘アルカリ+高沸点溶媒+水’:低沸点溶媒=25:75〜2:98の範囲内であるアルカリ溶液を、温度が室温以上のポリマーフィルムに塗布する工程、及び、アルカリ溶液をポリマーフィルムから洗い落とす工程からなることを特徴とするポリマーフィルムのアルカリ鹸化方法。
  2. 質量比にしてアルカリ:高沸点溶媒:水=1:(2〜4):(2〜4)で‘アルカリ+高沸点溶媒+水’:低沸点溶媒=25:75〜2:98の範囲内であるアルカリ溶液を、温度が室温以上のポリマーフィルムに塗布する工程、ポリマーフィルムの温度を室温以上に維持する工程、及び、アルカリ溶液をポリマーフィルムから洗い落とす工程からなることを特徴とするポリマーフィルムのアルカリ鹸化方法。
  3. ポリマーフィルムを予め室温以上に加熱する工程、ポリマーフィルムに質量比にしてアルカリ:高沸点溶媒:水=1:(2〜4):(2〜4)で‘アルカリ+高沸点溶媒+水’:低沸点溶媒25:75〜2:98の範囲内であるアルカリ溶液を塗布する工程、ポリマーフィルムの温度を室温以上に維持する工程、そして、アルカリ溶液をポリマーフィルムから洗い落とす工程からなることを特徴とするポリマーフィルムのアルカリ鹸化方法。
  4. ポリマーフィルムを搬送しながら各工程を実施することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のアルカリ鹸化方法。
  5. ポリマーフィルムを連続的に搬送することを特徴とする請求項4に記載のアルカリ鹸化方法。
  6. アルカリ溶液のアルカリ規定度が0.05〜1であり、塗布量が1〜50cc/m2であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のアルカリ鹸化方法。
  7. アルカリ溶液のアルカリ剤がアルカリ金属の水酸化物であり、アルカリ溶液の溶媒が、炭素原子数8以下のアルコール、炭素原子数が6以下のケトン、炭素原子数が6以下のエステル、炭素原子数が6以下の多価アルコールから選ばれる1種または2種以上の有機溶媒および水からなることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のアルカリ鹸化方法。
  8. アルカリ溶液が、ノニオン界面活性剤、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤から選ばれる少なくとも1種の界面活性剤を含有することを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載のアルカリ鹸化方法。
  9. 界面活性剤の濃度が0.05〜5質量%であることを特徴とする請求項8に記載のアルカリ鹸化方法。
  10. 該界面活性剤が下記一般式(1)で表される界面活性剤であることを特徴とする請求項8または9に記載のアルカリ鹸化方法:
    一般式(1) R1−L1−Q1
    [式中、R1は炭素数8以上のアルキル基を表し、L1はR1とQ1を連結する基を表し、直接結合または2価の連結基を表し、Q1はノニオン親水性基、またはアニオン親水性基を表す]。
  11. 該界面活性剤が下記一般式(2)で表されるノニオン界面活性剤であることを特徴とする請求項8〜10のいずれかに記載のアルカリ鹸化方法:
    一般式(2) R2−L2−Q2
    [式中、R2及びL2は、一般式(1)中のR1、L1と同一内容を表す。Q2は、ポリオキシエチレンユニット(重合度5〜150)、ポリグリセリンユニット(重合度3〜30)、親水性糖鎖ユニットから選ばれるノニオン親水性基を表す]。
  12. 該界面活性剤が下記一般式(3)で表されるアニオン界面活性剤であることを特徴とする請求項8〜10のいずれかに記載のアルカリ鹸化方法:
    一般式(3) R3−L3−Q3
    [式中、R3は一般式(1)中のR1と同一内容を表す。L3は、−O−、−CO−、−NR5−(R5は炭素数1〜5のアルキル基)、−OH、−CH=CH−および−SO2−からなる群より選ばれるユニットを組み合わせて得られる極性部分構造を有する2価の連結基を表す。Q3は、アニオン性基を表す。
  13. 該アルカリ鹸化溶液の表面張力が45mN/m以下であり、かつ粘度が0.8〜20mPa・sであることを特徴とする請求項1〜12のいずれかに記載のアルカリ鹸化方法。
  14. 該アルカリ鹸化溶液の密度が0.65g/cm3〜1.05g/cm3であることを特徴とする請求項1〜13のいずれかに記載のアルカリ鹸化方法。
  15. 該アルカリ鹸化溶液の電気伝導度が1mS/cm〜100mS/cmであることを特徴とする請求項1〜14のいずれかに記載のアルカリ鹸化方法。
  16. ポリマーフィルムが、セルロースエステルフィルムであることを特徴とする請求項1〜15のいずれかに記載のアルカリ鹸化方法。
  17. 請求項16に記載のアルカリ鹸化方法により作製されて得られることを特徴とする表面鹸化セルロースエステルフィルム。
  18. 請求項17に記載の表面鹸化セルロースエステルフィルムを用いたことを特徴とする光学フィルム。
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