JP4139698B2 - セルロースアシレートフィルムのアルカリ鹸化方法、表面鹸化セルロースアシレートフィルム、及びそれを用いた光学フイルム - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、セルロースアシレートフイルムのアルカリ鹸化方法、鹸化セルロースアシレートフィルム及びそれを用いた光学フイルムに関する。特に、画像表示装置用の偏光、光拡散、光学補償等に有用な光学フィルムに関する。
【0002】
【従来の技術】
ワープロ、パソコン、テレビ、各種計器類等に装着されている各種ディスプレイは、その表面のガラスやプラスチック板等の透明保護基板を通して文字や図形等の視覚情報が観察されるようになっている。又、最近では機器類のディスプレイの多くは液晶表示装置になってきている。液晶表示装置は、通常液晶セル、偏光板、および光学補償シート(位相差板)からなる。透明型液晶表示装置では、2枚の偏光板を液晶セルの両側に取り付け、1枚または2枚の光学補償シートを液晶セルと偏光板との間に配置する。反射型液晶表示装置は、反射板、液晶セル、1枚の光学補償シート、そして1枚の偏光板からなる。
【0003】
液晶表示装置には、液晶画像を信号通りに表示するために1枚又は2枚の偏光板が用いられている。偏光板は、通常ヨウ素及び/又は二色性染料を吸着させ染着させたポリビニルアルコール(以下、PVAと略す)系フィルムを一定方向に延伸配向させた偏光素子フィルムと該偏光素子フィルムを保護する偏光板用透明保護フィルム等からなっている。
又、保護膜にセルロースアシレートフィルムを用いた偏光板は、優れた光学特性を有し、広い波長範囲で高い偏光率を示すと共に、明るさ、コントラストにも優れていることから各種画像表示用の偏光板としても多用されている。
【0004】
光学補償シートは、画像着色を解消したり視野角を拡大するための延伸複屈折フイルムが従来より使用されていた。
又、延伸複屈折フイルムからなる光学補償シートに代えて、透明支持体上に液晶性分子(特にディスコティック液晶性分子)から形成された光学異方性層を有する光学補償シートを使用することが提案されている。光学異方性層は、液晶性分子を配向させ、その配向状態を固定化することにより形成する。
一般に、光学補償シートに液晶性分子を用いることで、従来の延伸複屈折フイルムでは得ることの出来なかった光学特性を実現することが可能となった。光学補償シートの光学的特性は、液晶セルの光学的性質、液晶セルの表示モードの違いに応じた設計によって具備させる。光学補償シートには液晶性分子、特にディスコティック液晶性分子を用いると、液晶セルの種々の表示モードに対応する様々な光学特性を有する光学補償シートを作りだすことができる。
【0005】
液晶性分子を用いた光学補償シートと偏光膜とを積層して楕円偏光板を形成すれば、光学補償シートを偏光板の一方の透明保護膜としても機能させることができる。その様な楕円偏光板は、透明保護膜、偏光膜、透明支持体及び液晶性分子から形成された光学異方性層が、この順で積層された層構成を有する。液晶表示装置には薄型で軽量である特性を求められるため、構成要素の1つを兼用(例えば偏光板の透明保護膜と光学補償シートの支持体又は延伸復屈折フィルムとの兼用)することによって削減できれば、装置をさらに薄く軽量にすることが可能となる。液晶性分子を用いた光学補償シートの透明支持体と偏光板の一方の保護膜を共通化した一体型楕円偏光板については、例えば、特許文献1〜3に記載がある。
【0006】
前記のような偏光板、光学補償シート等の光学的機能性を有するシート状材料は光学フィルムと呼ばれているが、光学フィルムの透明支持体として、優れた光透過性、優れた物理的、機械的性質を有し、且つ温度湿度変化に対する寸法変化が少ない等の特性を有するセルロースアセテートフイルムに代表されるセルロースエステルフイルムが用いられる。
【0007】
透明支持体のセルロースエステルフイルムに偏光素子や光学補償層が偏光膜や配向膜(通常はポリビニールアルコール)を介して設けられるが、これら偏光膜や配向膜との密着性を持たせるための方法の1つとして、セルロースエステルフイルムをアルカリ溶液に浸漬処理してその表面を鹸化し親水化する方法(例えば、特許文献4〜7)が知られている。
【0008】
しかしながら、これらの処理液はアルカリ剤のみの水溶液で処理するとフィルムの鹸化処理に時間がかかること、疎水的な表面のフィルム表面を均一に鹸化することが困難なことなどの問題があった。又、浸漬による鹸化浴処理においては、セルロースエステルフイルムの両面が同時に親水化してしまうため、片面にポリビニールアルコールなどの親水性層を塗設した後にロール状に巻き取ると、表裏が接着してしまう問題が発生する。鹸化浴処理にて、片面のみを親水化する手段としては、目的としない面をラミネートなどの防水加工を施して鹸化処理する方法が挙げられるが、煩雑な工程が増えるばかりでなく、不要な廃棄物が発生するなど、生産性、環境保全の観点で好ましくなかった。
【0009】
このような不都合を回避する方法として、アルカリ溶液に、ポリマーフィルムを溶解したり膨潤させたりしない有機溶媒を含有させたアルカリ溶液を用いてその液に浸漬処理する方法(特許文献8)、或いはアルカリ溶液をフィルム面上に塗布して少なくとも片面を鹸化処理する方法(特許文献9)が提案されている。アルカリ溶液中に有機溶媒を含むことによって純粋な水溶媒よりも鹸化反応活性を高められるが、有機溶媒の種類或いは含有量によっては処理するフィルム中に含有される添加物質が溶出されて、ヘイズ発生等の光学フィルムとしての品質を劣化させる場合がある。
又、最近の画像表示装置の大画面化、モバイル化等の急速な進展で、長尺なフィルムを連続してより迅速かつ安定に生産できることが望まれているが、アルカリ溶液をフィルムの片面に連続的に長尺塗布する場合には塗布液の組成変化などによってフィルムの全長に亘って全面均一でかつ安定した鹸化度を得にくいという問題も生じがちである。
【0010】
【特許文献1】
特開平7−191217号公報
【特許文献2】
特開平8−21996号公報
【特許文献3】
特開平8−94838号公報
【特許文献4】
特開平7−151914公報の段落番号[0008]
【特許文献5】
特開平8−94838号公報の段落番号[0033]
【特許文献6】
特開2001−166146号公報の段落番号[0083]
【特許文献7】
特開2001−188130号公報の段落番号[0042]
【特許文献8】
特開2002−82226公報の段落番号[0034])
【特許文献9】
WO02/46809号公報
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
上記のように、従来のセルロースエステルフイルムのアルカリ鹸化処理方法が、未だ十分に要望に応えた鹸化処理方法がなく、長尺フィルムを安定に生産性良く作製する方法が望まれている。本発明の目的は、セルロースエステルフイルムを迅速なアルカリ鹸化処理で、安定に且つ全面均一に鹸化するアルカリ鹸化処理方法を提供することである。
又、本発明の他の目的は、画像表示装置において表示欠陥のない大きい面積の光学シートを容易に製造するための、表面鹸化セルロースエステルフイルムを提供することである。
又、本発明の他の目的は、セルロースエステルフイルムを支持体とする光学シートを付設した鮮明な画像表示を可能とする液晶表示装置を提供することである。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明の上記課題は、下記(1)〜(8)のアルカリ鹸化方法、表面鹸化フィルム及び該フィルムを用いた光学フィルムによって達成される。
(1)アルカリ剤及び界面活性剤を少なくとも含有するアルカリ溶液を用いて、セルロースアシレートフィルムをアルカリ鹸化する方法において、前記界面活性剤が両性界面活性剤であることを特徴とするセルロースアシレートフィルムのアルカリ鹸化方法。
(2)前記両性界面活性剤が下記一般式(I)で示される両性界面活性剤であることを特徴とする上記(1)に記載のセルロースアシレートフィルムのアルカリ鹸化方法。
【0013】
【化2】
【0014】
一般式(I)において、Aはアルキレン基を表わす。L0は窒素原子とX-とを連結する基を表わす。X-は−COO-、−SO3 -又は−PO3H-を表わす。R0は炭化水素基を表わす。R1は水素原子又は炭化水素基を表わす。nは1〜50の整数を表わす。p及びqは各々、1又は2の整数を表わし、p+q=3である。
(3)上記アルカリ溶液がアルカリ剤の0.5〜5モル/Kgを水又は水及び親水性有機溶媒の混合溶媒に溶解して成ることを特徴とする上記(1)又は(2)に記載のセルロースアシレートフィルムのアルカリ鹸化方法。
(4)上記アルカリ溶液が、沸点150℃以上であり、且つ水の溶解度が50g/(親水性化合物100g)以上の溶解性を有する親水性化合物から選ばれる少なくとも一種を含有することを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれかに記載のセルロースアシレートフィルムのアルカリ鹸化方法。
【0015】
(5)室温以上で上記アルカリ溶液をセルロースアシレートフィルムに塗布する工程と、該アルカリ溶液を該セルロースアシレートフィルムから洗い落とす工程とを含むことを特徴とする上記(1)〜(4)のいずれかに記載のセルロースアシレートフィルムのアルカリ鹸化方法。
(6)セルロースアシレートフイルムを搬送させて、搬送される該フィルムの一方の面にアルカリ鹸化の上記各工程を順次施すことを特徴とする上記(1)〜(5)のいずれかに記載のアルカリ鹸化方法。
【0016】
(7)上記(1)〜(6)のいずれかに記載のアルカリ鹸化方法によって得られたことを特徴とする表面鹸化セルロースアシレートフィルム。
【0017】
(8)上記(7)に記載の表面鹸化セルロースアシレートフィルムを用いた光学フィルム。
【0018】
上記(1)〜(6)のいずれかの方法でアルカリ鹸化した表面鹸化セルロースアシレートフィルムは、その上に配向膜を形成し、次いで配向膜の上に液晶性分子を塗布し、液晶性分子の配向を固定化して光学異方性層を形成することにより光学補償シートを製造できる。
また、偏光膜およびその両側に配置された2枚の透明保護膜からなる偏光板であって、透明保護膜の一方が、セルロースアシレートフイルム上に、配向膜、および液晶性分子の配向を固定した光学異方性層がこの順に設けられている光学補償シートからなる場合、セルロースアシレートフイルムとして、その配向膜を塗布する側の表面を上記(1)〜(6)のいずれかの方法でアルカリ鹸化したセルロースアシレートフイルムを有利に用いることができる。よってそのセルロースアシレートフイルムを用いて層間密着性や表示面均一性に優れた光学フィルムを作製することができる。
本発明のアルカリ鹸化方法は、鹸化処理用のアルカリ溶液が、アルカリ剤、界面活性剤及び消泡剤を少なくとも含有する溶液であることを特徴としており、この組成とすることによってアルカリ溶液の安定性が良好で、前記した鹸化処理及び水洗処理の迅速化及び鹸化度の不均一、ヘイズの発生、厚みの局部変化などの欠陥を伴わない一様なアルカリ鹸化が可能となる。
【0019】
【発明の実施の形態】
[ポリマーフイルム]
ポリマーフイルムは、光透過率が80%以上であることが好ましい。ポリマーフイルムは、外力により複屈折が発現しにくいことが好ましい。
ポリマーは、エステル結合あるいはアミド結合のような加水分解できる結合(鹸化処理の対象となる結合)を含む。とりわけエステル結合を含むのが好ましく、エステル結合がポリマーの側鎖に存在していることがさらに好ましい。エステル結合が側鎖に存在しているポリマーとしては、セルロースエステル(以下、セルロースアシレートとも呼ぶ)が最も好ましく、これが本発明の対象としている支持体である。
【0020】
以下セルロースアシレートについて詳しく説明する。
原料のセルロースとしては、綿花リンターや木材パルプなどがあるが、何れの原料セルロースから得られるセルロースアシレートでも使用できるし、混合して使用してもよい。これらのセルロースから得られる本発明に用いるセルロースアシレートは、セルロースの低級脂肪酸エステルが好ましく、セルロースアセテートがさらに好ましく、酢化度が59.0〜61.5%であるセルロースアセテートが最も好ましい。酢化度とは、セルロース単位重量当たりの結合酢酸量を意味する。酢化度は、ASTM:D−817−91(セルロースアセテート等の試験方法)におけるアセチル化度の測定および計算に従う。
【0021】
本発明に用いられるセルロースアシレートの炭素数3〜22のアシル基としては、脂肪族基でもアリール基でもよく特に限定されない。セルロースアシレートは、例えばセルロースのアルキルカルボニルエステル、アルケニルカルボニルエステルあるいは芳香族カルボニルエステル、芳香族アルキルカルボニルエステルなどであり、それぞれさらに置換された基を有していてもよい。具体的には、発明協会公開技報(公開番号2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)の8〜9頁に記載のアシル基等が挙げられる。
本発明に使用するセルロースアシレートの重合度(粘度平均)は200〜700が好ましく、特に250〜550のものが好ましい。
【0022】
本発明に使用するセルロースアシレートフィルムなどのポリマーフィルムは、使用する目的や用途によって、上記のセルロースアシレートとともに、他の化合物を含有しても良い。
【0023】
ポリマーフィルムには、機械的物性を改良するため、または乾燥速度を向するために、可塑剤を添加することができる。可塑剤としては、リン酸エステルまたはカルボン酸エステルが用いられる。具体的には、前記の公技番号2001−1745の16頁に詳細の化合物等が挙げられる。可塑剤の添加量は、セルロースエステルの量の0.1〜25重量%であることが好ましく、1〜20重量%であることがさらに好ましく、3〜15重量%であることが最も好ましい。
【0024】
ポリマーフイルムを光学補償シートに用いる場合、ポリマーフィルムは、高いレターデーション値を有することが好ましい。フイルムの面内のレターデーション(Reレターデーション)値および厚み方向のレターデーション(Rthレターデーション)値は、それぞれ、下記式(I)および(II)で定義される。
(I) Re=|nx−ny|×d
(II) Rth=((nx+ny)/2−nz)×d
式(I)および(II)において、nxは、フイルム面内の遅相軸方向(屈折率が最大となる方向)の屈折率、nyは、フイルム面内の進相軸方向(屈折率が最小となる方向)の屈折率、nzは、フイルムの厚み方向の屈折率、dは、単位をnmとするフイルムの厚みである。
ポリマーフイルムのReレターデーション値は1乃至200nmであり、Rthレターデーション値は70〜400nmであることが好ましい。具体的な値は、測定光の入射方向をフイルム膜面の鉛直方向に対して傾斜させた測定結果より外挿して求める。測定は、エリプソメーター(例えば、M−150、日本分光(株)製)を用いて実施できる。測定波長としては、632.8nm(He−Neレーザー)を採用する。
【0025】
ポリマーフイルムのレターデーションを調整するためには延伸のような外力を与える方法が一般的であるが、また光学異方性を調節するためのレターデーション上昇剤が、場合により添加される。セルロースアシレートフイルムのレターデーションを調整するには、芳香族環を少なくとも二つ有する芳香族化合物をレターデーション上昇剤として使用することが好ましい。芳香族化合物は、セルロースアシレート100質量部に対して、0.01〜20質量部の範囲で使用することが好ましい。また、二種類以上の芳香族化合物を併用してもよい。芳香族化合物の芳香族環には、芳香族炭化水素環に加えて、芳香族性ヘテロ環を含む。例えば、欧州特許0911656A2号明細書、特開2000−111914号、同2000−275434号公報等記載の化合物が挙げられる。
【0026】
更に、本発明に用いるポリマーフィルムには、用途に応じた種々の添加剤(例えば、可塑剤、紫外線防止剤、劣化防止剤(例:酸化防止剤、過酸化物分解剤、ラジカル禁止剤、金属不活性化剤、酸捕獲剤、アミン)、微粒子、剥離剤、赤外吸収剤、帯電防止剤等)を加えることができ、それらは固体でもよく油状物でもよい。また、ポリマーフィルムが多層から形成される場合、各層の添加物の種類や添加量が異なってもよい。これらの詳細は、発明協会公開技報(公技番号 2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)の17頁〜22頁に詳細に記載されている素材が好ましく用いられる。これらの添加剤の使用量は、各素材の添加量は機能が発現する限りにおいて特に限定されないが、セルロールアシレート全組成物中、0.001〜20質量%の範囲で適宜用いられることが好ましい。
【0027】
本発明に係るセルロースアシレートフィルムは、ソルベントキャスト法で製膜することが好ましい。ソルベントキャスト法では、ポリマー材料を有機溶媒に溶解した溶液(ドープ)を用いてフィルムを製造する。
この方法では、ドラムに蒔きつけられた平滑なバンド上にドープを流延し、溶媒を蒸発させてフィルムを形成させる。流延工程では1種類のセルロースアシレート溶液を単層流延してもよいし、2種類以上のセルロースアシレート溶液を同時及び又は逐次共流延してもよい。具体的には、前記の公技番号 2001−1745の22頁〜30頁に詳細に記載された内容が挙げられる。
セルロースアシレートフイルムは、さらに延伸処理によりレターデーションを調整することができる。延伸倍率は、3〜100%であることが好ましい。
セルロースアシレートフイルムの厚さは、15〜500μmであることが好ましく、20〜200μmであることがさらに好ましい。
【0028】
[アルカリ溶液]
本発明の表面鹸化セルロースアシレートフィルムは、アルカリ剤、界面活性剤及び消泡剤を少なくとも含有するのアルカリ溶液を用いて鹸化処理されることを特徴とする。
(アルカリ剤)
そのアルカリ剤の例として、水酸化ナトリウム、同カリウム、同リチウム、同アンモニウムなどの無機アルカリ剤が挙げられる。又、モノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、モノイソプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、トリイソプロピルアミン、n−ブチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノイソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、エチレンイミン、エチレンジアミン、ピリジン、DBU(1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセン)、DBN(1,5−ジアザビシクロ[4,3,0]−5−ノネン)、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルブチルアンモニウムヒドロキシドなどの有機アルカリ剤も用いられる。これらのアルカリ剤は単独もしくは二種以上を組み合わせて併用することもでき、一部を例えばハロゲン化したような塩の形で添加してもよい。
これらのアルカリ剤の中でも、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムが好ましい。その理由は、これらの量を調整することにより広いpH領域でのpH調整が可能となるためである。
【0029】
アルカリ溶液の濃度は、使用するアルカリ剤の種類、反応温度および反応時間に応じて決定する。短い時間で鹸化反応を完了するためには、高い濃度に溶液を調製することが好ましい。ただし、アルカリ濃度が高すぎるとアルカリ溶液の安定性が損なわれ、長時間塗布において析出する場合もある。アルカリ剤の含有量は、アルカリ溶液中の0.1〜5moL/Kgが好ましく、0.5〜3moL/Kgがより好ましい。
【0030】
[界面活性剤]
本発明に用いるアルカリ溶液は、一般式(I)で示される両性界面活性剤を含有する。両性界面活性剤を添加することによって表面張力を下げて塗布を容易にしたり、塗膜の均一性を上げてハジキ故障を防止する。更に、有機溶媒が存在すると起こり易いポリマーフィルム中の添加剤の溶かし出しを抑制する効果が顕著で、ヘイズを防止すると共に、鹸化反応が均一に進行する。その効果は、後述する相溶化剤の共存によって特に顕著となる。又、本発明の特定の界面活性剤はアルカリ溶液中での安定性及び溶解性が良好で、アルカリ溶液からの溶解成分の分離を抑制する。
【0031】
【化3】
【0032】
一般式(I)において、Aはアルキレン基を表わす。L0は窒素原子とX-とを連結する基を表わす。X-は−COO-、−SO3 -又は−PO3H-を表わす。R0は炭化水素基を表わす。R1は水素原子又は炭化水素基を表わす。nは1〜50の整数を表わす。p及びqは各々、1又は2の整数を表わし、p+q=3である。
一般式(I)において、Aは好ましくは炭素数2〜4のアルキレン基を表わし、−(CH2)l−(但しlは2〜4の整数)、−CH2−C(CH3)−、−C(CH3)−CH2−等が挙げられる。R1は、好ましくは水素原子又は炭素数1〜22の脂肪族基を表わし、より好ましくは水素原子又は炭素数1〜12の脂肪族基が挙げられる。脂肪族基としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドテシル基、ベンジル基、シクロヘキシルメチル基等が挙げられる。
R0は好ましくは、炭素数1〜22の脂肪族基を表わす。具体的には上記R1の脂肪族基と同一の内容のものが挙げられる。
更に、R0の脂肪族基として−[L1−NHCO−R2]から成る置換脂肪族基が好ましい。
ここでL1は置換されてもよい全炭素数1〜5のアルキレン基、R2は炭素数1〜20のアルキル基を表わす。
【0033】
一般式(I)において窒素原子に結合する[R1-(O−A)n]−基は、ポリオキシアルキレン鎖から形成されるものであり、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイドから選ばれる少なくとも1種のエポキシ化合物の付加反応によって形成される。
オキシアルキレン鎖の繰り返し単位数を表わすnは、好ましくは2〜20の整数であり、より好ましくは5〜15の整数のものが挙げられる。
又、[−(O−A)n−]鎖は、上記アルキレンオキサイドの単独付加の置換基でもよいし、異なるアルキレンオキサイドの付加から成る置換基でもよい。2種以上の付加で形成されるオキシアルキレン鎖は、ランダム結合、ブロック結合のいずれでもよいが、好ましくはブロック結合である。
この両性型界面活性剤のアルカリ溶液に対する添加量は、好ましくは、0.001〜20質量%であり、より好ましくは0.01〜10質量%であり、特に好ましくは0.03〜3質量%である。添加量が0.01質量%より少ない場合には、界面活性剤の添加効果が得難く、20質量%よりも多い場合には、鹸化度が低下する傾向がある。
【0034】
(他の界面活性剤)
本発明に用いるアルカリ溶液は、上記の特定の両性型界面活性剤と共に、他の界面活性剤を併用しても良い。ノニオン界面活性剤、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、フッ素系界面活性剤等のいずれかであってもよい。
【0035】
<アニオン界面活性剤>
アニオン界面活性剤としては、例えば、脂肪酸塩類、アビエチン酸塩類、ヒドロキシアルカンスルホン酸塩類、アルカンスルホン酸塩類、ジアルキルスルホ琥珀酸エステル塩類、αオレフィンスルホン酸塩類、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩類、分岐鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩類、アルキルナフタレンスルホン酸塩類、アルキルフェノキシポリオキシエチレンプロピルスルホン酸塩類、ポリオキシエチレンアルキルスルホフェニルエーテル塩類、N−メチル−N−オレイルタウリンナトリウム塩、N−アルキルスルホ琥珀酸モノアミド二ナトリウム塩、石油スルホン酸塩類、硫酸化牛脂油、脂肪酸アルキルエステルの硫酸エステル塩類、アルキル硫酸エステル塩類、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩類、脂肪酸モノグリセリド硫酸エステル塩類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸エステル塩類、ポリオキシエチレンスチリルフェニルエーテル硫酸エステル塩類、アルキルリン酸エステル塩類、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステル塩類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルリン酸エステル塩類、スチレン/無水マレイン酸共重合物の部分鹸化物類、オレフィン/無水マレイン酸共重合物の部分鹸化物類、ナフタレンスルホン酸塩ホルマリン縮合物類等が好適に挙げられる。
【0036】
<カチオン界面活性剤>
カチオン界面活性剤としては、例えば、アルキルアミン塩類、テトラブチルアンモニウムブロミド等の第四級アンモニウム塩類、ポリオキシエチレンアルキルアミン塩類、ポリエチレンポリアミン誘導体等が挙げられる。
【0037】
<ノニオン性界面活性剤>
ノニオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル類、ポリオキシエチレンポリスチリルフェニルエーテル類、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル類、グリセリン脂肪酸部分エステル類、ソルビタン脂肪酸部分エステル類、ペンタエリスリトール脂肪酸部分エステル類、プロピレングリコールモノ脂肪酸エステル類、しょ糖脂肪酸部分エステル類、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸部分エステル類、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸部分エステル類、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル類、ポリグリセリン脂肪酸部分エステル類、ポリオキシエチレン化ひまし油類、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸部分エステル類、脂肪酸ジエタノールアミド類、N,N−ビス−2−ヒドロキシアルキルアミン類、ポリオキシエチレンアルキルアミン、トリエタノールアミン脂肪酸エステル、トリアルキルアミンオキシド等が挙げられる。
これらのノニオン性界面活性剤の重量平均分子量は、300〜50,000が好ましく、500〜5,000が特に好ましい。
更に、フッ素系界面活性剤を併用してもよい。フッ素系界面活性剤は、分子内にパーフルオロアルキル基を含有する従来公知の界面活性剤が挙げられる。
【0038】
以上の界面活性剤のうち、「ポリオキシエチレン」とあるものは、ポリオキシメチレン、ポリオキシプロピレン、ポリオキシブチレン等のポリオキシアルキレンに読み替えることもでき、それらもまた前記界面活性剤に包含される。
これらの界面活性剤のアルカリ溶液に対する添加量は、上記の両性界面活性剤全量の50質量%を超えない範囲で用いられる。好ましくは、5〜40質量%である。これらの界面活性剤は、一種単独で使用してもよいし、併用により効果を損なわない限りにおいては、2種以上を併用してもよい。
【0039】
[消泡剤]
本発明に用いるアルカリ溶液は、消泡剤を含有する。消泡剤は、アルカリ溶液中に、好ましくは0.001〜5質量%、特に好ましくは0.005〜3重量%の濃度で含有させることができる。
この範囲において、フィルム表面への微小な気泡の付着も無くなり、アルカリ処理による鹸化がムラ無く均一に進行する。
【0040】
消泡剤としては、例えば、佐々木恒孝監修「消泡剤の応用」(シーエムシー(株)、2000年刊行)等に記載の化合物が挙げられる。具体的には、ヒマシ油、亜麻仁油等の油脂系、ステアリン酸、オレイン酸等の脂肪酸系、天然ワックス等の脂肪酸エステル系、ポリオキシアルキレンモノハイドリックアルコール等のアルコール系、ジ−t−アミルフェノキシエタノール、ヘプチルセロソルブ、ノニルセロソルブ、3−ヘプチルカルビトール等のエーテル系、トリブチルフォスフェート、トリス(ブトキシエチル)フォスフェート等の燐酸エステル系、ジアミルアミン等のアミン系、ポリアルキレンアミド、アシレートポリアミド等のアミド系、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸カルシウム、オレイン酸カリウム、羊毛オレイン酸のカルシウム塩等の金属石鹸系、ラウリル硫酸エステルナトリウム等の硫酸エステル系、ジメチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、メチル水素ポリシロキサン、フロロポリシロキサン、ジメチルポリシロキサンとポリアルキレンオキサイドとの共重合体等のシリコーンオイル、及びその溶液型、エマルジョン型、ペースト型シリコーンオイル等のシリコーン系の消泡剤が挙げられる。
【0041】
[特定の親水性化合物]
本発明に用いるアルカリ溶液は、下記に述べる特定の親水性化合物を含有することが好ましい。本発明において、特定の親水性化合物とは、温度25℃において、特定の親水性化合物100gに対して水の溶解度が30g以上となる親水性化合物である。好ましくは、水の溶解度が50g/100g以上であり、より好ましくは100g/100g以上である。また、本発明における相溶化剤が液状化合物の場合は、沸点が100℃以上であることが好ましく、より好ましくは120℃以上である。
特定の親水性化合物は、本発明に用いるアルカリ溶液の溶解安定性を保持すると共に、本発明に係るアルカリ処理浴の装置において、壁面に付着したアルカリ液の乾燥を防止し固着を抑制し溶液を安定に保持することが出来る。又、フィルム表面にアルカリ液を塗布して一定時間保持したのち鹸化停止処置をするまでの間に塗布された薄膜が乾燥し固形物の析出が生じ、水洗工程での固形物の洗い出しが困難になることを抑止する。更には、溶媒となる水と有機溶媒の相分離を防止する。
【0042】
本発明に用いる特定の親水性化合物は、上記の条件を満たす材料であれば、いずれの材料であっても相溶化剤として用いることができる。好ましい特定の親水性化合物としては、ポリオール化合物、糖類を始めとするヒドロキシ基及び/又はアミド基を有する繰り返し単位を含む水溶性重合体が挙げられる。
ポリオール化合物としては、低分子化合物、オリゴマー化合物、高分子化合物の何れでもよい。例えば、脂肪族ポリオール類としては、炭素数2〜8のアルカンジオール(例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、グリセリンモノメチルエーテル、グリセリンモノエチルエーテル、シクロヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール等)、ヒドロキシ基を3個以上含有する炭素数3〜18のアルカン類(例えば、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン、ヘキサントリオール、ペンタエリスリトール、ジグリセリン、ジペンタエリスリトール、イノシットール等)、ポリアルキレンオキシポリオール類としては、上記のような同じアルキレンジオール同士が結合していても異なるアルキレンジオールが互いに結合していてもよいが、同じアルキレンジオール同士が結合したポリアルキレンポリオールがより好ましい。いずれの場合もの結合数は3〜100が好ましい。より好ましくは3〜50である。具体的にはポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリ(オキシエチレンーオキシプロピレン)等が挙げられる。
【0043】
糖類としては、例えば、高分子学会高分子実験学編集委員会編「天然高分子」第二章(共立出版(株)、1984年刊)、小田良平等編「近代工業化学22、天然物工業化学II」((株)朝倉書店、1967年刊)等に記載の水溶性化合物が挙げられる。遊離のアルデヒド基やケトン基を持たない還元性を示さない糖類が好ましい。グルコース、スクロース、還元基同士の結合したトレハロース型少糖類、糖類の還元基と非糖類が結合した配糖体および糖類に水素添加して還元した糖アルコールに分類され、何れも本発明に好適に用いられる。トレハロース型少糖類には、サッカロースやトレハロースがあり、配糖体としては、アルキル配糖体、フェノール配糖体、カラシ油配糖体などが挙げられる。また糖アルコールとしてはD,L−アラビット、リビット、キシリット、D,L−ソルビット、D,L−マンニット、D,L−イジット、D,L−タリット、ズリシットおよびアロズルシットなどが挙げられる。更に二糖類の水素添加で得られるマルチビットおよびオリゴ糖の水素添加で得られる還元体(還元水あめ)も好適に用いられる。これらの中で本発明に好ましい非還元糖は糖アルコールとサッカロースであり、特にD−ソルビット、サッカロース、還元水あめが適度なpH領域に緩衝作用があることと、低価格であることで好ましい。これらの非還元糖は、単独もしくは二種以上を組み合わせて使用出来る。
【0044】
ヒドロキシ基及び/又はアミド基含有の繰り返し単位を含有する水溶性重合体としては、天然ガム類(例えば、アラビアガム、グアーガム、トラガンドガム等)、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ジヒドキシプロピルアクリレート重合体、セルロース類やキトサン類のエチレンオキサイド或いはプロピレンオキサイドとのエポキシ化合物との付加反応体、アルキレンポリオール、ポリアルキレンオキシポリオール、糖アルコール等が挙げられる。
中でも好ましくは、アルキレンポリオール、ポリアルキレンオキシポリオール及び糖アルコールが挙げられる。具体的には、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ジエチレングリコール、ジ(n−プロピレングリコール)、ジ(i−プロピレングリコール)、ポリエチレングリコール(結合数3〜20)、ポリプロピレングリコール(結合数3〜10)、さらには、グリセリン、ジグリセリンが挙げられる。
【0045】
これらの特定の親水性化合物の含有量は、アルカリ溶液中の0.5〜35質量%が好ましく、1〜25質量%がより好ましい。
【0046】
[他の添加剤]
本発明に用いるアルカリ溶液には、更に、防黴剤及び/又は防菌剤を含有させることが好ましい。本発明において使用される防黴剤及び防菌剤は、アルカリ鹸化に悪影響を及ぼさないものであれば何でもよいが、具体的にはチアゾリルベンズイミダゾール系化合物、イソチアゾロン系化合物、クロロフェノール系化合物、ブロモフェノール系化合物、チオシアン酸やイソチアン酸系化合物、酸アジド系化合物、ダイアジンやトリアジン系化合物、チオ尿素系化合物、アルキルグアニジン化合物、4級アンモニウム塩、有機スズや有機亜鉛化合物、シクロヘキシルフェノール系化合物、イミダゾール及びベンズイミダゾール系化合物、スルファミド系化合物、塩素化イソシアヌル酸ナトリウムなどの活性ハロゲン系化合物、キレート剤、亜硫酸化合物、ペニシリンに代表される抗生物質など種々の防バクテリア剤や防黴剤などがある。その他L.E.West,"Water Quality Criteria"Phot.Sci.and Eng.,Vol9 No.6(1965)記載の殺菌剤、特開昭57−8542号、同58−105145号、同59−126533号、同55−111942号、同57−157244号公報記載の各種防黴剤、「防菌防黴の化学」堀口博著・三共出版(昭57)、「防菌防黴技術ハンドブック」日本防菌防黴学会・技報堂(昭61)に記載されているような化合物などを用いることができる。
上記した防黴剤及び/又は防菌剤の添加量は、アルカリ溶液中に0.01〜50g/Lであることが好ましく、より好ましくは0.05〜20g/Lである。
【0047】
[溶媒]
本発明に用いるアルカリ溶液の溶媒は、水もしくは水及び有機溶媒の混合溶液からなる。
アルカリ溶液に用いる水としては、日本国水道法(昭和32年法律第177号)及びそれに基づく水質基準に関する省令(昭和53年8月31日厚生省令第56号)、同国温泉法(昭和23年7月10日法律第125号及びその別表)、及び、WHO規定水道水基準によって規定される水中の混入の状態に於ける各元素やミネラル等への影響、等に基づくものが好ましい。更に、本発明の効果の達成をより確実にするために、カルシウム濃度が、炭酸カルシウムとしての濃度として、0.001〜200mg/Lであるのが好ましく、0.01〜150mg/Lであるのが更に好ましく、0.05〜10mg/Lであるのが特に好ましい。この範囲で、溶液中の不溶解物の生成が抑えられる。
【0048】
一方、水と水溶性有機溶媒の混合溶媒からなるアルカリ溶液系も好ましい。水溶性有機溶媒としては、沸点が50℃以上の親水性有機溶媒であればいずれでも用いることができる。好ましくは、沸点が55℃以上であり、且つ水と任意に混和する水溶性有機溶媒である。
また、親水性有機溶媒を主とした溶媒を上記の界面活性剤及び特定の親水性化合物と組み合わせて用いると高い鹸化速度が維持されて、かつ全面に亘る鹸化度の均一性が向上する。
【0049】
好ましい特性値を有する有機溶媒は、例えば、有機合成化学協会編、「新版溶剤ポケットブック」((株)オーム社、1994年刊)等に記載のものが挙げられている。
【0050】
具体的には、一価脂肪族アルコール類(例、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール等)、脂環式アルカノール(例、シクロヘキサノール、メチルシクロヘキサノール、メトキシシクロヘキサノール、シクロヘキシルメタノール、シクロヘキシルエタノール、シクロヘキシルプロパノール等)、フェニルアルカノール(例、べンジルアルコール、フェニルエタノール、フェニルプロパノール、フェノキシエタノール、メトキシベンジルアルコール、ベンジルオキシエタノール等)、複素環式アルカノール類(フルフリルアルコール、テトラヒドロフルフリルアルコール等)、グリコール化合物のモノエーテル類(メチルセルソルブ、エチルセルソルブ、プロピルセルソルブ、メトキシメトキシエタノール、ブチルセルソルブ、ヘキシルセルソルブ、メチルカルビトール、エチルカルビトール、プロピルカルビトール、ブチルカルビトール、メトキシトリグリコール、エトキシトリグリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル等)ケトン類(例、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等)、、アミド類(例、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルホルムアミド、N―メチルー2−ピロリドン、1,3ジメチルイミダゾリジノン等)、スルホキシド類(例、ジメチルスルホキシド)およびエーテル類(例、テトラヒドロフラン、ピラン、ジオキサン、トリオキサン、ジメチルセルソルブ、ジエチルセルソルブ、ジプロピルセルソルブ、メチルエチルセルソルブ、ジメチルカルビトール、ジメチルカルビトール、メチルエチルカルビトール等)等が挙げられる。用いる有機溶媒は、単独若しくは2種以上を混合して用いてもよい。
【0051】
有機溶媒を単独或いは2種以上を混合する場合の少なくとも一種の有機溶媒は、水への溶解性が大きなものが好ましい。その親水性有機溶媒の水の溶解度は、50質量%以上が好ましく、水と自由に混合するものがより好ましい。アルカリ剤、鹸化処理で副生する脂肪酸の塩、空気中の二酸化炭素を吸収して生じた炭酸の塩等への溶解性が充分なアルカリ溶液を調製できる。
親水性有機溶媒の混合溶媒中の使用割合は、溶媒の種類、水との混和性(溶解性)、反応温度および反応時間に応じて決定する。短い時間で鹸化反応を完了するためには、高い濃度に溶液を調製することが好ましい。ただし、溶媒濃度が高すぎるとアシレートフィルム中の成分(可塑剤など)が抽出されたり、フィルムの過度の膨潤が起こる場合があり、適切に選択する必要がある。
水と有機溶媒の混合比は、3/97〜85/15質量比が好ましい。より好ましくは5/95〜60/40質量比であり、更に好ましくは15/85〜40/60質量比である。この範囲において、アシレートフィルムの光学特性を損なうことなく容易にフィルム全面が均一に鹸化処理され、且つ連続して鹸化処理してもアルカリ溶液は沈殿物を生じ難い。
【0052】
本発明に用いるアルカリ溶液が含有する有機溶媒には、アルカリ溶液への界面活性剤及び相溶化剤や消泡剤の溶解助剤の作用を有する有機溶媒も含まれる。特に水溶媒のアルカリ水溶液系でこれらを添加することが好ましい。この作用を有する有機溶媒は、上記した好ましい親水性有機溶媒とは異なる有機溶媒であってもよい。溶解助剤作用を有する好ましい有機溶媒は、例えば、N−フェニルエタノールアミンおよびN−フェニルジエタノールアミン、フッ化アルコール(例えば、CnF2n+1(CH2)kOH(nは3〜8の整数、kは1又は2の整数)、1,2,2,3,3−ヘプタフロロプロパノール、ヘキサフロロブタンジオール、パーフロロシクロヘキサノール等)等を挙げることができる。溶解助剤の目的で用いられる有機溶媒の含有量は使用液の総重量に対して0.1〜5%が好ましい。
【0053】
[アルカリ鹸化方法]
上記のアルカリ溶液を用いたセルロースアシレートフィルムの表面処理方法は従来公知のいずれの方法でもよく、浸漬方法、吹き付け方法、塗布方法等が挙げられる。
特に、フィルムの片面のみをムラ無く均一に鹸化処理する場合は、塗布方式が好ましい。塗布の方法としては、後に述べるように従来公知の塗布方法を用いることができる。
鹸化処理は、処理するフィルムの変形、処理液の変質等が生じない温度120℃を越えない範囲の処理温度で行うことが好ましい。更に温度10℃以上であり100℃以下の範囲が好ましい。特に、温度20〜80度が好ましい。
【0054】
更に、塗布方式で処理する場合には、セルロースアシレートフイルムをその表面が少なくとも10℃以上の温度でアルカリ溶液で鹸化処理する工程、セルロースアシレートフイルムの温度を少なくとも10℃以上に維持する工程、そして、アルカリ溶液をセルロースアシレートフイルムから洗い落とす工程によりアルカリ鹸化処理を実施することが好ましい。
セルロースアシレートフイルムをその表面が所定の温度でアルカリ溶液で鹸化処理には、塗布する前に予め所定の温度に調整する工程、アルカリ液を予め所定の温度に調整しておく工程、或いはこれらを組み合わせた工程等が挙げられる。塗布する前に予め所定の温度に調整する工程と組み合わせることが好ましい。
【0055】
好ましくは、セルロースアシレートフイルムを予め20度以上に温度調整する工程では、所定温度風の衝突、伝熱ロールによる接触伝熱、マイクロ波による誘導加熱、あるいは赤外線ヒーターによる輻射熱加熱が好ましく利用できる。特に伝熱ロールによる接触伝熱は、熱伝達効率が高く小さな設置面積で行える点、搬送開始時のフイルム温度の立上りが速い点で好ましい。一般の2重ジャケットロールや電磁誘導ロール(トクデン社製)が利用できる。
【0056】
セルロースアシレートフイルムをアルカリ溶液で鹸化処理する工程は、塗布量の変動をフイルムの幅方向および長さ方向に対して30%未満に抑制することが好ましい。
塗布方式としては、例えば、ダイコーター(エクストルージョンコーター、スライドコーター)、ロールコーター(順転ロールコーター、逆転ロールコーター、グラビアコーター)、ロッド(細い金属線を巻いたロッド)コーター、ブレードコーターなどが好ましく利用できる。塗布方式に関しては、各種文献(例えば、Modern Coating and Drying Technology, Edward Cohen and Edgar B. Gutoff, Edits., VCH Publishers, Inc, 1992 )に記載されている。アルカリ溶液の塗布量は、その後、水洗除去するため廃液処理を考慮して、極力抑制することが望ましい。少ない塗布量でも安定に操作できるロッドコーター、ダイコーター、グラビアコーターおよびブレードコーターが特に好ましい。
また、連続塗布方式を採用することも好ましい。
【0057】
鹸化反応に必要なアルカリ塗布量は、セルロースアシレートフイルムの単位面積当りの鹸化反応サイト数に配向膜との密着を発現させるために必要な鹸化深さを乗じた総鹸化サイト数(=理論アルカリ塗布量)が目安となる。鹸化反応の進行にともなってアルカリ剤が消費され反応速度が低下するため、実際には上述の理論アルカリ塗布量の数倍を塗布することが好ましい。具体的には、理論アルカリ塗布量の2〜20倍であることが好ましく、2〜5倍であることがさらに好ましい。
アルカリ溶液の温度は、反応温度(=フイルムの温度)に等しいことが望ましい。
【0058】
アルカリ溶液を塗布した後、鹸化反応が終了するまで、セルロースアシレートフイルムの温度を少なくとも10℃以上に保つ。好ましくは15℃以上に保つのがよい。さらには、25℃以上がとくに好ましい。
加熱手段は、セルロースアシレートフイルムの片面がアルカリ溶液により濡れている状態であることを考慮して選択する。例えば塗布面の反対側の面への熱風の吹き付け、加熱ロールによる接触伝熱、マイクロ波による誘導加熱、あるいは、赤外線ヒーターによる輻射熱加熱が好ましく利用できる。赤外線ヒーターは、非接触、かつ空気の流れを伴わずに加熱できるため、アルカリ溶液塗布面への影響を最小にできるため好ましい。赤外線ヒーターは、電気式、ガス式、オイル式あるいはスチーム式の遠赤外セラミックヒーターが利用できる。熱媒体が、オイルまたはスチームを用いるオイル式またはスチーム式の赤外線ヒーターは、有機溶剤が共存する雰囲気における防爆の観点で好ましい。セルロースアシレートフイルムの温度は、アルカリ溶液処理前に加熱した温度と同じでも異なっていてもよい。また、鹸化反応中に温度を連続的、または段階的に変更してもよい。フイルム温度の検出には、一般に市販されている非接触の赤外線温度計が利用でき、上記温度範囲に制御するために、加熱手段に対してフィードバック制御を行ってもよい。
【0059】
本発明においては、とくにセルロースアシレートフイルムを搬送しながら鹸化処理を実施することが好ましい。フイルムの搬送速度は、上記アルカリ溶液の組成と塗布方式の組み合わせによって決定する。一般に、10〜500m/分が好ましく、20〜300m/分がさらに好ましい。搬送速度に応じて、安定な塗布操作が行えるように、アルカリ溶液の物性(比重、粘度、表面張力)、塗布方式および塗布操作条件を決定する。
【0060】
アルカリ溶液とセルロースアシレートフイルムとの鹸化反応を停止するには、3つの方法がある。一つは、塗布されたアルカリ溶液を希釈してアルカリ濃度を下げ、反応速度を低下させる方法であり、二つ目は、アルカリ溶液が塗布されたセルロースアシレートフイルムの温度を下げ、反応速度を低下させる方法であり、三つ目は、酸性の液によって中和する方法である。
【0061】
塗布されたアルカリ溶液を希釈するためには、希釈液を塗布する方法、希釈液を吹き付ける方法、あるいは、希釈液の入った容器にセルロースアシレートフイルムごと浸漬する方法が採用できる。中でも希釈液を塗布する方法と吹き付ける方法がセルロースアシレートフイルムを連続搬送しながら実施する上で好ましい方法である。希釈液を塗布する方法は、必要最小限の希釈液量を用いて実施できるために最も好ましい。
【0062】
希釈液の塗布は、既にアルカリ溶液が塗布されたセルロースアシレートフイルム上に希釈液を再度適用できる連続塗布可能な方式であることが望ましい。塗布方法は、前記した鹸化処理工程で記載した内容と同様のものが挙げられる。
【0063】
希釈液は、セルロースアシレートフイルムを溶解したり膨潤したりすることなく、アルカリ濃度を低下させることが目的であるため、アルカリ溶液中のアルカリ剤を溶解する液でなければならない。したがって、その溶媒としては水または有機溶剤と水との混合液を用いる。有機溶剤は単独でも2種以上を併用してもよく、希釈液としてセルロースアシレートフィルムを溶解若しくは膨潤しない割合で任意に用いることができる。
【0064】
希釈液の塗布量は、アルカリ溶液の濃度に応じて決定する。塗布ビードにおける流れが層流であるダイコーターの場合、塗布量は、元のアルカリ濃度を1.5〜10倍に希釈することが好ましく、2乃至5倍に希釈することがさらに好ましい。
【0065】
アルカリによる鹸化反応を迅速に停止するため、酸を用いることもできる。少ない量で中和するため、強酸を用いることが好ましい。さらに、水洗の容易さを考慮すると、アルカリと中和反応後に生成する塩が水に対する溶解度が高い酸を選択することが好ましい。塩酸、硝酸、リン酸、硫酸、クロム酸及びメタンスルホン酸が特に好ましい。
【0066】
塗布されたアルカリ溶液を酸で中和するためには、酸溶液を塗布する方法、酸溶液を吹き付ける方法、あるいは酸溶液の入った容器にフイルムごと浸漬する方法が採用できる。酸溶液を塗布する方法と吹き付ける方法がフイルムを連続搬送しながら実施する上で好ましい。酸溶液を塗布する方法は、必要最小限の酸溶液を用いて実施できるために最も好ましい。
【0067】
酸溶液の塗布は、既にアルカリ溶液が塗布されたセルロースアシレートフイルム上に酸溶液を再度適用できる連続塗布可能な方式であることが望ましい。塗布方式に関しては前記した鹸化処理で記載の内容と同様である。
【0068】
酸溶液の塗布量は、アルカリの種類とアルカリ溶液の濃度に応じて決定されるが、酸溶液塗布後のpHが4〜9になるように酸溶液の塗布量を決定することが好ましく、pH6〜8になるように決定することがさらに好ましい。
【0069】
セルロースアシレートフイルムの温度を降下させて、鹸化反応を停止することもできる。フイルムの温度を低下させる手段は、セルロースアシレートフイルムの片面が濡れていることを考慮して決定する。塗布の反対面への冷風の吹き付け、あるいは、冷却ロールによる接触伝熱が好ましく採用できる。冷却後のフイルム温度は、0〜60℃であることが好ましく、5〜50℃であることがさらに好ましく、10〜30℃であることが最も好ましい。フイルム温度は、非接触式の赤外線温度計で測定することが好ましい。測定した温度から、冷却手段に対してフィーッドバック制御を行い、冷却温度を調節することもできる。温度低下手段は,上記の希釈液で希釈する方法、或いは中和する方法と併用してもよい。
【0070】
水洗工程は、アルカリ溶液を完全に除去するために実施する。又、中和の手段を用いた場合は、中和により生じた塩類等の組成物を完全に除去するために実施する。アルカリ溶液の組成物或いは中和による生成塩類等が残っていると、鹸化反応が進行するばかりでなく、後に塗布する配向膜ならびに液晶性分子層の塗膜形成や液晶分子の配向に影響を及ぼす。
水洗は、水を塗布する方法、水を吹き付ける方法、あるいは、水の入った容器にポリマーフイルムごと浸漬する方法で実施できる。
【0071】
水吹きつけ方法は、塗布ヘッド(例、ファウンテンコーター、フロッグマウスコーター)を用いる方法、あるいは、空気の加湿や塗装、タンクの自動洗浄に利用されるスプレーノズルを用いる方法で実施できる。塗布方式に関しては、「コーティングのすべて」荒木正義編集、(株)加工技術研究会(1999年)に記載がある。円錐状あるいは扇状のスプレーノズルをフイルムの幅方向に配列して、全幅に水流が衝突するように配置することができる。市販のスプレーノズル(例えば、(株)いけうち製、スプレーイングシステムズ社製)を用いてもよい。
【0072】
水の吹き付け速度は、大きい方が高い乱流混合が得られる。ただし、速度が大きいと、連続搬送するセルロースアシレートフイルムの搬送安定性を損なう場合もある。吹き付けの衝突速度は、50〜1000cm/秒が好ましく、100〜700cm/秒がさらに好ましい。
用いたアルカリ性塗布液のアルカリ濃度や副次添加物、溶媒の種類にもよるが、少なくとも100〜1000倍、好ましくは500〜1万倍、さらに好ましくは1000〜十万倍の希釈が得られる水洗水を使用する。
【0073】
水洗で一定量の水を用いる場合、一度に全量適用するよりも数回に分割して適用する回分式洗浄方法が好ましい。すなわち、水の量を幾つかに分けて、フイルムの搬送方向にタンデムに設置した複数の水洗手段に供給する。一つの水洗手段と次の水洗手段との間には適当な時間(距離)を設けて、拡散によるアルカリ性塗布液の希釈を進行させる。さらに好ましくは、搬送されるポリマーフイルムに傾斜を設けるなどして、フイルム上の水がフイルム面に沿って流れる様にすれば、拡散に加えて、流動による混合希釈が得られる。最も好ましい方法としては、水洗手段と水洗手段の間にフイルム上の水膜を除去する水切り手段を設けることで、更に水洗希釈効率を高められる。具体的な水切り手段としては、ブレードコーターに用いられるブレード、エアナイフコーターに用いられるエアナイフ、ロッドコーターに用いられるロッド、ロールコーターに用いられるロールが挙げられる。
タンデムに配置された水洗手段の数は、多い方が有利である。ただし、設置スペースならびに設備コストの観点から、通常は2〜10段、好ましくは2〜5段が使用される。
【0074】
水切り手段後の水膜厚みは、薄い方が好ましいが、用いる水切り手段の種類によって最低水膜厚みが制限される。ブレード、ロッド、ロールなど、物理的に固体をフイルムに接触させる方法においては、例え固体がゴムなどの硬度の低い弾性体であったとしても、フイルム表面にキズを付けたり、弾性体が磨り減ったりするので有限の水膜を潤滑流体として残す必要がある。通常は、数μm以上、好ましくは10μm以上の水膜を潤滑流体として残存させる。
【0075】
極限まで水膜厚みを減少させられる水切り手段としては、エアナイフが好ましい。好ましい風量の範囲は、通常は10〜500m/秒、好ましくは20〜300m/秒、より好ましくは30〜200m/秒の風速を使用する。さらに、エアナイフと対向する様に、フイルムの水洗面と反対側にバックアップロールを設置することで、間隙の設定が安定するとともに、フイルムのバタツキやシワ、変形などの影響を緩和することができるために好ましい。
【0076】
水洗水には、純水を用いることが好ましい。本発明に用いられる純水とは、比電気抵抗が少なくとも1MΩ以上であり、特にナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウムなどの金属イオンは1mg/L未満、塩素、硝酸などのアニオンは0.1mg/L未満を指す。純水は、逆浸透膜、イオン交換樹脂、蒸留などの単体、あるいは組み合わせによって、容易に得ることができる。
【0077】
洗浄水の温度は、高い方が洗浄能力が上がる。しかし、搬送されるセルロースアシレートフイルム上に水を吹き付ける方法においては、空気と接触する水の面積が大きく、高温ほど蒸発が著しくなるため、周囲の湿度が増し、結露する危険性が高くなる。このため、洗浄水の温度は、通常は5〜90℃、好ましくは25℃〜80℃、さらに好ましくは25℃〜60℃の範囲で設定する。
【0078】
アルカリ性塗布液の成分、または鹸化反応の生成物が水に容易に溶けない場合、水洗工程の前または後に水に不溶な成分を除去するための溶剤洗浄工程を付加しても良い。溶剤洗浄工程は上に述べた水洗方法、水切り手段,又用いる溶剤は上記希釈液に記載と同様のものを利用することができる。
【0079】
水洗工程の次に乾燥工程を実施することもできる。通常は、エアナイフなどの水切り手段で十分に水膜を除去できるため、乾燥工程は必要ないが、セルロースアシレートフイルムをロール状に巻き取る前に、好ましい含水率に調整するために加熱乾燥してもよい。逆に、設定された湿度を有する風で調湿することもできる。
【0080】
[鹸化セルロースアシレートの用途]
本発明の方法で作製されたアルカリ鹸化セルロースアシレートの用途について簡単に述べる。
本発明の光学フィルムは、特に偏光板保護フィルム用として有用である。偏光板保護フィルムとして用いる場合、偏光板の作製方法は特に限定されず、一般的な方法で作製することができる。セルロースアシレートフィルムをアルカリ処理し、ポリビニルアルコールフィルムを沃素溶液中に浸漬延伸して作製した偏光子の両面に完全ケン化ポリビニルアルコール水溶液を用いて貼り合わせる方法が挙げられる。
【0081】
保護フィルム処理面と偏光子を貼り合わせるのに使用される接着剤としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール等のポリビニルアルコール系接着剤や、ブチルアクリレート等のビニル系ラテックス等が挙げられる。偏光板は偏光子及びその両面を保護する保護フィルムで構成されており、更に該偏光板の一方の面にプロテクトフィルムを、反対面にセパレートフィルムを貼合して構成される。プロテクトフィルム及びセパレートフィルムは偏光板出荷時、製品検査時等において偏光板を保護する目的で用いられる。この場合、プロテクトフィルムは、偏光板の表面を保護する目的で貼合され、偏光板を液晶板へ貼合する面の反対面側に用いられる。又、セパレートフィルムは液晶板へ貼合する接着層をカバーする目的で用いられ、偏光板を液晶板へ貼合する面側に用いられる。
【0082】
液晶表示装置には通常2枚の偏光板の間に液晶を含む基板が配置されているが、本発明の光学フィルムを適用した偏光板保護フィルムはどの部位に配置しても優れた表示性が得られる。特に液晶表示装置の表示側最表面の偏光板保護フィルムには透明ハードコート層、防眩層、反射防止層等が設けられるため、該偏光板保護フィルムをこの部分に用いることが特に好ましい。
【0083】
本発明のセルロースアシレートフィルムは、様々な用途で用いることができ、液晶表示装置の光学補償シートとして用いると特に効果がある。本発明のセルロースアシレートフィルムは、様々な表示モードの液晶セルに用いることができる。TN(Twisted Nematic)、IPS(In−Plane Switching)、FLC(Ferroelectric Liquid Crystal)、AFLC(Anti−ferroelectric Liquid Crystal)、OCB(Optically Compensatory Bend)、STN(Supper Twisted Nematic)、VA(Vertically Aligned)及びHAN(Hybrid Aligned Nematic)のような様々な表示モードが提案されている。また、上記表示モードを配向分割した表示モードも提案されている。セルロースアシレートフィルムは、いずれの表示モードの液晶表示装置においても有効である。また、透過型、反射型、半透過型のいずれの液晶表示装置においても有効である。本発明のセルロースアシレートフィルムを、TNモードの液晶セルを有するTN型液晶表示装置の光学補償シートの支持体として用いてもよい。
【0084】
本発明のセルロースアシレートフィルムを、STNモードの液晶セルを有するSTN型液晶表示装置の光学補償シートの支持体として用いてもよい。一般的にSTN型液晶表示装置では、液晶セル中の棒状液晶性分子が90〜360度の範囲にねじられており、棒状液晶性分子の屈折率異方性(△n)とセルギャップ(d)との積(△nd)が300〜1500nmの範囲にある。STN型液晶表示装置に用いる光学補償シートについては、特開2000−105316号公報に記載がある。本発明のセルロースアシレートフィルムは、VAモードの液晶セルを有するVA型液晶表示装置の光学補償シートの支持体として特に有利に用いられる。本発明のセルロースアシレートフィルムは、OCBモードの液晶セルを有するOCB型液晶表示装置又はHANモードの液晶セルを有するHAN型液晶表示装置の光学補償シートの支持体としても有利に用いられる。
【0085】
本発明のセルロースアシレートフィルムは、TN型、STN型、HAN型、GH(Guest−Host)型の反射型液晶表示装置の光学補償シートとしても有利に用いられる。これらの表示モードは古くから良く知られている。TN型反射型液晶表示装置については、特開平10−123478号、WO9848320号、特許第3022477号の各公報に記載がある。
【0086】
反射型液晶表示装置に用いる光学補償シートについては、WO00−65384号に記載がある。本発明のセルロースアシレートフィルムは、ASM(Axially Symmetric Aligned Microcell )モードの液晶セルを有するASM型液晶表示装置の光学補償シートの支持体としても有利に用いられる。ASMモードの液晶セルは、セルの厚さが位置調整可能な樹脂スペーサーにより維持されているとの特徴がある。その他の性質は、TNモードの液晶セルと同様である。ASMモードの液晶セルとASM型液晶表示装置については、クメ(Kume)他の論文(Kume et al.,SID 98Digest 1089 (1998))に記載がある。以上述べてきたこれらの詳細なセルロースアシレートフィルムの用途は前記の公技番号 2001−1745中の45頁〜59頁に詳細に記載されている。
【0087】
【実施例】
[実施例1]及び比較例
ロール幅1000mmのセルロースアセテートフイルム(フジタックTD80UF(富士写真フイルム(株)製)の表面に剥離フィルム(リンテック社製)を貼り合わせた。このフィルムを浸漬装置として電子製版システム用のマスターエッチングプロセッサーE−380IIを用いて、この装置に、下記に示す組成のアルカリ溶液(S−1)を入れて40℃に設定した。フィルムの浸漬時間が45秒になるように浸漬した後、水に親戚して充分に洗い流した。次いで、0.5%希硫酸水溶液に10秒間浸漬した後、水に浸漬して充分に洗浄した。さらにこのフイルムを100℃で乾燥させた後、剥離フィルムを剥がして鹸化セルロースアシレートフィルム(SF−1)を作製した。
【0088】
<アルカリ処理液(S−1)組成>
水酸化ナトリウム 6.0質量%
水 87.5質量%
プロピレングリコール 5.0質量%
界面活性剤(K−1、下記構造) 1.5質量%
消泡剤サーフィノールDF110D(日信化学工業(株)製) 0.010質量%
【0089】
【化4】
界面活性剤(K―1
【0090】
このアルカリ溶液(S−1)30Lを使用して上記セルロースアセテートフィルム1000m2を鹸化処理した。
【0091】
(比較用鹸化処理フイルムSFR−1の作製)
上記アルカリ溶液(S-1)の組成から界面活性剤(K−1)1.0質量%を除いた以外は、アルカリ溶液(S-1)と同じ組成の比較用処理液(SR-1)を調製し、この処理液を用いて上記鹸化処理フイルムSF−1と同じ方法で比較用鹸化フィルムSFR−1を作製した。
【0092】
(比較用鹸化処理フイルムSFR−2の作製)
アルカリ溶液(S-1)の代わりに水酸化ナトリウム6.0質量%の水溶液を比較用処理液(SR-2)として調製し、この処理液を用いて上記鹸化処理フイルムSF−1の作製と同じ方法で比較用鹸化フィルムSFR−2を作製した。
【0093】
使用した上記アルカリ溶液(S−1,SR−1及びSR−2)の性状と、作製した鹸化処理フィルム(SF−1,SFR−1及びSFR−2)の性能を下記の方法で評価して表1に示す。表1中のA及びBは、鹸化処理のスタート直後の試料をA,1000m2処理後の試料をBと表したもので、それぞれについて観察と評価を行なって表に示したものである。
【0094】
(鹸化フィルムの評価)
鹸化処理用アルカリ溶液及び鹸化処理フィルムの評価は、以下の各評価項目について行なった。
1)アルカリ溶液の性状
アルカリ溶液の透明性を目視で以下の基準を用いて評価した。
〇:濁りや沈殿が認められず、全く透明
×:濁りが発生
××:沈殿物が発生
【0095】
2)水との接触角
接触角計(協和界面科学(株)製、CA−X型接触角計)を用いて、乾燥状態(20℃/65%RH)で液体に純水を使用して直径1.0mmの液滴を針先に作り、これをフィルムの表面に接触させて液滴を作った。固体液体が接する点における液体表面に対する接線と固体表面がなす角で、液体を含む方の角度を接触角とした。
各フィルムについて、1平方メートルの面内において両端及び中央の9箇所の接触角を測定し、上限値と下限値を記載した。ただし、±1度の範囲は測定におけるばらつきの範囲であり、その中央値で示した。
【0096】
3)異物、濁り
鹸化処理フイルムから全幅で長手方向に1mの長さに切りだし、この試料にシャウカステン上で光を透過させながら目視及びルーペで異物及び濁りの有無を観察し、以下の基準を用いて評価した。
〇:異物、濁りの発生が全く認められない(10人で評価し、一人も認識できないレベル)
△:異物、濁りが弱く発生する(10人で評価し、2〜5人が認識するレベル)×:異物、濁りが強く発生する(10人で評価し、6人以上が認識するレベル)
【0097】
【表1】
【0098】
(結果)
表1に示すように、本発明の実施態様では1000m2のフィルムを処理した後でもアルカリ溶液は黄変色のない透明であり、処理済み液を回収した後の処理浴槽内は、沈澱物・付着物は見とめられなかった。鹸化処理後のフィルム(SF−1)について、スタート時及び1000m2処理した時の鹸化フィルムの表面は、水との接触角が38度となった。また、鹸化処理フィルムに異物や濁りの発生も全く認められず、透明性は良好であった。
一方、比較溶アルカリ溶液(SR-1)及び(SR-2)は、1000m2処理した後では黄色に着色したり、濁りあるいは沈殿が発生した。
また、比較溶アルカリ鹸化処理フィルムSFR-1は、鹸化処理のスタート直後(SFR-1A及びSFR-2A)では、本発明のフィルムSF-1とほぼ同等の性能が得られたが、1000m2処理した時点の試料(SFR-1B及びSFR-2B)では,いずれも水との接触角の面内でのばらつきが大きくなり、ヘイズ値も増大し、フィルム表面に濁り及び異物の発生が見られ、実用に供されるレベルではなかった。比較溶アルカリ鹸化処理フィルムSFR-2は、実施例1の条件(温度及び時間)では鹸化が不充分で水との接触角が大きく、しかも面内のバラツキも極めて大きかった。
【0099】
(偏光板)
次ぎに、鹸化処理においてA部及びB部の両試料ともに良好な性能が得られた本発明のフィルムSF-1を用いて、以下に述べるように光学フィルムを作製し、性能評価を行った。
膜厚25μmのポリビニルアルコール系偏光フィルム(平均重合度3500、平均鹸化度99.5モル%、5倍延伸)の両側にポリビニルアルコール系接着剤(3%水溶液、乾燥塗布厚み0.01μm)を用いて上記鹸化処理したフィルム(SF−1)貼着後、100℃で1分間乾燥させて偏光板を得た。
【0100】
(偏光板の評価)
次いで、偏光板のトリアセチルセルロースフィルムと偏光フィルムとの密着性を調べるために、下記の試験を行った。
<打抜き試験>
偏光板を65℃、95%RHの条件下に、500時間放置した後、直径35mmの円形刃を用いて、裁断機((株)トーコー製、TCM−500A)にて抜打ちを行ない、下記の基準で密着性を評価した。
○…フィルム(SF−1)と偏光フィルムとの間に剥離が観察されない
×…フィルム(SF−1)と偏光フィルムとの間に剥離は観察される
その結果、密着性が極めて良好で、○であった。
<剥離がれ試験>
上記の方法で偏光板100枚を作製し、それぞれアクリル系接着剤を用いてガラス板に貼り合わせ、それらを恒温恒湿槽に入れ、恒温恒湿槽内を70℃、93%RHの雰囲気と25℃、93%RHの雰囲気とに12時間ずつ交互に設定変更しながら、のべ1000時間の耐久性試験を行った。恒温恒湿槽から取り出した100枚の試料について剥がれと泡の発生状況を調べたところ、100枚全てにおいて剥がれ及び泡の発生が認められなかった。
又、市販の薄膜トランジスタ(TFT:thin-film-transitor)型の液晶モニターの両面の偏光板を剥がし、上記の偏光板を両面に貼り合わせ、黒表示と白表示のムラの有無を目視判定した。全画面にムラ等の視覚上の欠陥は全く見られなかった。
【0101】
実施例2
特開2002−182033号公報の実施例1の記載に従って、反射防止膜を設けたセルロースアシレートフィルムを作製した。このセルロースアシレートフィルムの反射防止層の反対側を処置面にして、温度60℃の誘電式加熱ロールを通過させ、フィルム表面温度30℃に昇温した後、下記内容のアルカリ溶液(S−2)をロッドコーターを用いて塗布量10cc/m2で塗布し、110℃に加熱した(株)ノリタケカンパニーリミテド製のスチーム式遠赤外ヒーターの下に20秒滞留するように搬送させた後に、同じくロッドコーターを用いて純水を3cc/m2塗布した。この時のフィルム温度は40℃であった。次いで、ファウンテンコーターによる水洗とエアナイフによる水切りを3回繰り返した後に70℃の乾燥ゾーンに5秒間滞留させて乾燥し、鹸化処理フィルムSF−2を作製した。
【0102】
<アルカリ処理液(S−2)組成>
水酸化カリウム 5.7質量%
水 33.3質量%
n−プロピルアルコール 49.8質量%
エチレングリコール 10.0質量%
界面活性剤(K−2、下記構造) 1.2質量%
消泡剤プルロニックTR70(旭電化工業(株)製) 0.01質量%
【0103】
【化5】
界面活性剤(K−2)
【0104】
得られたフィルムの鹸化処理スタート時及び2000m2処理した時の各フィルム試料(SF−2A及びSF−2B)表面の水との接触角は、いずれも33度となった。また、鹸化処理フィルムに異物や濁りの発生は全く認められず、透明性良好であった。
次に、鹸化処理においてA部及びB部の両試料ともに良好な性能が得られた本発明のフィルムSF−2を用いて、以下に述べるように光学フィルムを作製し、性能評価を行った。
【0105】
(配向膜の形成)
上記フイルムSF―2の鹸化処理スタート直後の試料(SF-2A)及び2000m2処理した時点の試料(SF-2B)の鹸化処理面に下記構造の変性ポリビニルアルコール20質量部、水360質量部、メタノール120質量部、ならびにグルタルアルデヒド0.5質量部からなる配向膜塗布液をロッドコーターで30cc/m2塗布し、60℃の温風で60秒、さらに90℃の熱風で150秒間、乾燥した後にベルベット布ラビングロールを用いて、ラビング処理を行って配向膜を形成した。
【0106】
【化6】
【0107】
(光学異方性層の形成)
試料SF−2A及びSF−2Bに形成した配向膜の上に、下記のディスコティック化合物41.01質量部、エチレンオキサイド変成トリメチロールプロパントリアクリレート(V#360、大阪有機化学(株)製)1.22質量部、多官能アクリレートモノマー(NKエステル A−TMMT 新中村化学工業製)2.84質量部、セルロースアセテートブチレート(CAB551−0.2、イーストマンケミカル社製)0.90質量部、セルロースアセテートブチレート(CAB531−1、イーストマンケミカル社製)0.23質量部、光重合開始剤(イルガキュアー907、チバガイギー社製)1.35質量部、増感剤(カヤキュアーDETX、日本化薬(株)製)0.45質量部を、102質量部のメチルエチルケトンに溶解した後に#4のワイヤーバーで塗布した。続き、連結する130℃の熱風ゾーンで2分間加熱し、円盤状化合物を配向させた。最後に80℃の雰囲気下のもと、膜面温度が約100℃の状態で120W/cm高圧水銀灯を用いて、0.4秒間UV照射しディスコティック化合物を重合させ、光学異方性層を形成させて光学補償シートを作製した。波長633nmで測定した光学異方性層のReレターデーション値は45nmであった。また、円盤面と第1透明支持体面との間の角度(傾斜角)は平均で39度であった。
【0108】
【化7】
【0109】
(光学補償シートの評価方法)
ヘイズ
SF−2A及びSF−2Bから各々作成された各光学補償シートについて、日本電色(株)社製NHD.101DP型光学試験機を用いてヘイズの測定を行った。
透過光ムラ
各光学補償シートを、クロスニコルス配置した2枚の偏光板の間に挟み、透過光のムラを目視で観察し官能評価を行った。
○:全く発生しない(10人が評価し、1人も認識できないレベル)
△:弱く発生する(10人が評価し、1〜5人が認識するレベル)
×:強く発生する(10人が評価し、6人以上が認識するレベル)
密着性
各光学補償シートを30cm×25cmに裁断し、25℃相対湿度60%の条件下で1日放置した後、光学異方性層側に幅1.2cm、長さ10cmのセロテープ(ニチバン社製No.405)を5枚貼り付け、1枚ずつ1秒間ではがし取り、フィルムと配向膜の間で剥離する状態を検査した。10枚のセロテープの内、何枚に塗布層間の破壊が発生するかによって、相対的な密着性の優劣を評価した。
【0110】
本発明に従う鹸化処理を実施したSF−2A及びSF−2Bともにヘイズが低く且つ透過光のムラは見られなく良好であった。又密着性も充分で良好であった。
以上のように、本発明の方法で作製した鹸化セルロースアシレート及びそれを用いた光学フィルムは、均一性に優れ、かつ密着性も良好な性能を示している。
【0111】
[実施例3]
(鹸化セルローストリアセテートフィルム)
セルローストリアセテートフイルム:フジタックTD80UF(富士写真フイルム(株)製)に100℃の熱風を衝突(噴射加熱)させ、45℃まで加熱した後に、25℃に保温した下記内容のアルカリ溶液(S−3)をロッドコーターを用いて14cc/m2 塗布し、13秒間経過後、再びロッドコーターを用いて純水を5cc/m2 塗布した。この時のフィルム温度は45℃であった。次いで、エクストルージョン型コーターを用いて1000cc/m2 の純水を塗布し、水洗を行い、5秒間経過後に100m/秒の風をエアナイフより水塗布面に衝突(吹付け)させた。このエクストルージョンコーターによる水洗とエアナイフによる水切りを2回繰り返した後に80℃の乾燥ゾーンに10秒間滞留させて乾燥し、鹸化処理フイルムSF−3を作製した。2000m2のフィルムを鹸化処理した。
【0112】
<アルカリ溶液(S−3)組成>
水酸化カリウム 6.5質量%
水 32.0質量%
イソプロパノール 48.3質量%
ジエチレングリコール 12.0質量%
界面活性剤(K−3、下記構造) 1.2質量%
消泡剤サーフィノール104(日信化学工業(株)製) 0.01質量%
【0113】
【化8】
界面活性剤(K−3)
【0114】
得られたフィルムの鹸化処理スタート時及び2000m2処理した時の各フィルム試料(それぞれSF−3A及びSF−3Bと呼ぶ)表面は、水との接触角が30度となり、各フィルム全面の接触角のばらつきは測定誤差内であり、均一に鹸化されていた。
また、各フィルム試料(SF−3A及びSF−3B)表面の表面エネルギーを下記の方法で求めた結果、60mN/mであった。
表面エネルギーは「ぬれの基礎と応用」(リアライズ社 1989.12.10発行)に記載の接触角法により求めた。表面エネルギーが既知の水及びヨウ化メチレンの2種類の溶液をセルロースアセテートフィルムに滴下し、液滴の表面とフィルム表面との交点において、液滴に引いた接線とフィルム表面のなす角で、液滴を含む方の角を接触角と定義し、計算によりフィルムの表面エネルギーを算出した。
各鹸化処理フィルムに異物や濁りの発生は認められず、透明性も良好であった。
【0115】
(偏光板)
延伸したポリビニルアルコールフィルムにヨウ素を吸着させて偏光膜を作製し、ポリビニルアルコール系接着剤を用いて、実施例2で作成した光学補償シートを偏光膜の片側に、もう一方には上記鹸化処理フィルムSF−3Aをポリビニルアルコール系接着剤を用いて貼り付けた後、80℃で10分間乾燥させた。偏光膜の透過軸と実施例2で作製した光学補償シートの遅相軸とが平行になるように配置した。偏光膜の透過軸とセルローストリアセテートフイルムの遅相軸とは、直交するように配置した。このようにして偏光板を作製した。
又、鹸化処理フィルムSF−3Aの代わりに、SF−3Bを用いて、上記と同様にして偏光板を作製した。
【0116】
(液晶表示装置)
TN型液晶セルを使用した液晶表示装置(6E−A3、シャープ(株)製)に設けられている一対の偏光板を剥がし、代わりに上記に作製した各偏光板を、実施例2で作製した光学補償シートが液晶セル側となるように粘着剤を介して、観察者側およびバックライト側に一枚ずつ貼り付けた。観察者側の偏光板の透過軸と、バックライト側の偏光板の透過軸とは、Oモードとなるように配置した。
【0117】
このようにして作製した液晶表示装置について、測定機(EZ-Contrast 160D、ELDIM社製)を用いて、黒表示(L1)時の描画ムラを目視で観察した。
その結果、上記の本発明の方法による鹸化処理フィルムSF−3A又はSF−3Bが保護フィルムとなるように設置したものは、両者とも画面全面が曇りの無い鮮明で高い輝度の画像が得られた。
以上の目視観察結果より、本発明の方法で長尺フィルムを鹸化処理したセルロースアシレートフィルムを用いたものは、良好な光学特性を有することが示された。
【0118】
実施例4〜7
(鹸化セルローストリアセテートフイルム)
実施例2記載の反射防止膜をセルロースアシレートフィルムの片面に付設し、反射防止膜が塗布されていない側の面上に、80℃の熱風を衝突(噴射加熱)させ、45℃まで加熱した後に、35℃に保温した表2記載の組成の各アルカリ溶液(S4〜7)をロッドコーターを用いて塗布量7cc/m2で 塗布し、20秒間経過後、再びロッドコーターを用いて純水を5cc/m2 塗布した。この時のフイルム温度は45℃であった。次いで、エクストルージョン型コーターを用いて1000cc/m2 の純水を塗布することによって水洗を行い、5秒間経過後に100m/秒の風をエアナイフより吹き付けた。このエクストルージョンコーターによる水洗とエアナイフによる水切りを2回繰り返した後に80℃の乾燥ゾーンに10秒間滞留させて乾燥し、鹸化処理フイルムSF−4〜SF−7を作製した。
【0119】
【表2】
【0120】
各フィルム(SF−4〜7)の水との接触角は、30〜35度の範囲であった。
次に、実施例3に用いた鹸化フィルムの代わりに、鹸化フィルムSF−4〜SF−7を用いて偏光板を作製した。実施例3と同様にして偏光板の性能を評価した結果、実施例3の試料と同等の性能を示した。
【0121】
実施例8及び比較例3
実施例1においてアルカリ処理液(S−1)の代わりに実施例3で用いたアルカリ処理液(S−3)を用いた他には、実施例1と同様にしてフィルムをケン化処理した。(ケン化処理フィルムSF−8)
(比較用ケン化処理フィルムSFR−3の作製)
アルカリ処理液(S−3)の代わりに下記内容のアルカリ処理液(SR−3)を用いて、実施例8と同様にして比較用ケン化フィルム(SFR−3)を作製した。
【0122】
<比較用アルカリ処理液(SR−3)>
水酸化カリウム 6.5質量%
水 32.0質量%
イソプロピルアルコール 48.3質量%
ジエチレングリコール 12.0質量%
界面活性剤(下記構造) 1.2質量%
消泡剤サーフィノール104(日信化学工業(株)製) 0.01質量%
【0123】
実施例1と同様にしてアルカリ処理液(S−3、SR−3)の性状と作製したケン化処置フィルム(SF−8、SFR−3)の性能を調べた。
質量%ケン化処理のスタートから1500m2を処理したところで、本発明のものはスタート直後と変わらなかったが、比較用アルカリ処理液(SR−3)は濁りと沈澱が発生した。
またケン化処理フィルム(SFR−3)は1500m2を処理した試料では、水との接触角面内でのバラツキが大きくなり、ヘイズ値も増大した。
以上のように本発明は、処理量が増加してもアルカリ処理液の安定性が良好でケン化処理フィルムの性能も良好であった。
【0124】
【発明の効果】
アルカリ剤、特定構造のアンモニウム系両性界面活性剤及び消泡剤を含有するアルカリ水溶液を用いる本発明のセルロースアシレートフィルムのアルカリ鹸化方法によれば、フイルム表面を均一かつ精度よく、しかも片面を選択的にアルカリ鹸化することができる。このアルカリ鹸化フィルムは、表示欠陥のない大きい面積の液晶表示装置用光学補償シートに容易に組み込むことができる。また、光学補償シートの透明支持体と配向膜との密着性に優れた透明支持体用セルロースエステルフイルムが得られる。
Claims (6)
- 上記アルカリ溶液がアルカリ剤の0.5〜5モル/Kgを水又は水及び親水性有機溶媒の混合溶媒に溶解して成ることを特徴とする請求項1に記載のセルロースアシレートフィルムのアルカリ鹸化方法。
- 上記アルカリ溶液が、沸点120℃以上であり、且つ親水性化合物100gに対して水を50g以上溶解する親水性化合物から選ばれる少なくとも一種を含有することを特徴とする請求項1または2に記載のセルロースアシレートフィルムのアルカリ鹸化方法。
- 室温以上で上記アルカリ溶液をセルロースアシレートフィルムに塗布する工程と、該アルカリ溶液を該セルロースアシレートフィルムから洗い落とす工程とを含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のセルロースアシレートフィルムのアルカリ鹸化方法。
- 請求項1〜4のいずれかに記載のアルカリ鹸化方法によって得られたことを特徴とする表面鹸化セルロースアシレートフィルム。
- 請求項5に記載の表面鹸化セルロースアシレートフィルムを用いたことを特徴とする光学フィルム。
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