JP2006253106A - カラー有機elディスプレイおよびその製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】 有機EL構造体とカラーフィルタとの間にガスバリア層を介在させてなるカラー有機ELディスプレイにおいて、ガスバリア性に優れた安価なガスバリア層を実現する。
【解決手段】 基板11上にカラーフィルタ層13、ガスバリア層20、および有機EL構造体30が順次積層されてなるカラー有機ELディスプレイ100において、ガスバリア層20の下地部分は、脱ガス処理を施されたものであり、ガスバリア層20は、カラーフィルタ層13の分解開始温度以下の温度にて原子層成長法を行うことにより形成されたものである。
【選択図】 図1

Description

本発明は、有機EL(エレクトロルミネッセンス)構造体とカラーフィルタとの間にガスバリア層を介在させてなるカラー有機ELディスプレイおよびその製造方法に関する。
この種のカラー有機ELディスプレイは、一般に、基板上にカラーフィルタ層、ガスバリア層、および有機EL構造体が順次積層されてなる構成を備えている。
より具体的には、白色発光する有機EL構造体とカラーフィルタとを組み合わせる場合、透明な基板上にカラーフィルタ層、オーバーコート層、ガスバリア層、そして白色発光を行う有機EL構造体素子を順次積層する構造が知られている。
ここで、ガスバリア層は、樹脂からなるカラーフィルタ層やオーバーコート層から揮発する水分等に起因する白色発光有機EL構造体のダークスポットや発光効率の低下等の不具合を防止するために設けられる。
そのため、ガスバリア層は、ピンホールレスであること、そのステップカバレージが良いことが要求される。さらに、これ以外にも、透明性や、表面の平坦性等の性能が要求される。
従来では、ガスバリア層の例としては、酸化ケイ素を含有し、スパッタ成膜法で形成することを特徴としたもの(たとえば、特許文献1参照)や、色変換素子(CCM)のガスバリア層として絶縁性無機酸化物層を配設したもの(たとえば、特許文献2参照)などがある。
しかし、これらはガスバリア性の点でピンホールが考慮されていないため、画素にダークスポットが発生しやすく、所望の有機EL素子の発光特性を維持できない画素が生じてしまう。
このようなガスバリア層におけるピンホールを対策したものとしては、ガスバリア層を複数層として各層の成膜工程の間に洗浄工程を行うようにしたもの(たとえば、特許文献3参照)や、ガスバリア層を複数層としつつ各層に樹脂層を分散させた構造(たとえば、特許文献4参照)が提案されている。
また、ピンホール対策としては、一般的なガスバリア層の成膜方法であるスパッタ法よりも緻密な膜形成が可能なプラズマCVD法(P−CVD)によりガスバリア層を形成したものが提案されている(たとえば、特許文献5参照)。
特開平11−260562号公報 特開平8−279394号公報 特開2003−229271号公報 特開2003−282239号公報 特開2004−39468号公報
しかしながら、上記した特許文献3や特許文献4に記載されているようなピンホール対策では、ガスバリア層の構造およびプロセスが複雑であり、生産性やコストの面で課題が残る。
また、上記特許文献5に記載されているようなP−CVDを用いたガスバリア層では、P−CVDにてガスバリア層を成膜するときに、下地のカラーフィルタ層やオーバーコート層の耐熱性を考慮して比較的低温で成膜を行うことになるが、その場合、膜の緻密性が劣るため、ガスバリア性が悪くなる。そのため、他の積層構造にするか、厚膜化が必要になり、やはり、生産性に課題が残り、コストアップにつながる。
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、有機EL構造体とカラーフィルタとの間にガスバリア層を介在させてなるカラー有機ELディスプレイにおいて、ガスバリア性に優れた安価なガスバリア層を実現することを目的とする。
上記目的を達成するため、鋭意検討を行った。
有機EL構造体とカラーフィルタとを組み合わせたカラー有機ELディスプレイにおけるダークスポットの発生や耐久試験中の劣化は、カラーフィルタおよびオーバーコート中に含まれる水分等のガスが、ガスバリア層を透過して有機EL構造体まで到達するためである。
このことから、第1に、カラーフィルタおよびオーバーコートなどのガスバリア層の下地部分の中に含まれるガス量を低減すること、第2に、下地から発生するガス成分を単純なプロセスで実現しピンホールの無いガスバリア層で遮断することが必要であると考えられる。
本発明は、このような考えに基づいて検討を行った結果、創出されたものである。
すなわち、請求項1に記載の発明では、基板(11)上にカラーフィルタ層(13)、ガスバリア層(20)、および有機EL構造体(30)が順次積層されてなるカラー有機ELディスプレイにおいて、ガスバリア層(20)の下地部分は、脱ガス処理を施されたものであり、ガスバリア層(20)は、カラーフィルタ層(13)の分解開始温度以下の温度にて原子層成長法を行うことにより形成されたものであることを特徴としている。
それによれば、ガスバリア層(20)の下地部分を、脱ガス処理を施されたものとしているため、基板(11)やカラーフィルタ層(13)などの下地部分から出てくるガス量を極力小さいものにできる。
また、本発明では、ガスバリア層(20)は、カラーフィルタ層(13)の分解開始温度以下の温度にて原子層成長法を行うことにより形成されたものとしているため、カラーフィルタ層(13)が劣化することなく、適切にガスバリア層(20)を形成することができる。
そして、ガスバリア層(20)の成膜は、真空蒸着、スパッタリング、プラズマCVD法と比較して被成膜部材の被覆性に優れ、かつピンホールが極力低減された膜を実現できる原子層成長法を用いているため、従来に比べてステップカバレージが良く、ピンホールの少ないガスバリア層(20)が実現できる。
また、ガスバリア層(20)は、原子層成長法の単一のプロセスにて成膜できるため、生産性が良く、コストアップを抑制することができる。
したがって、本発明によれば、有機EL構造体(30)とカラーフィルタ層(13)との間にガスバリア層(20)を介在させてなるカラー有機ELディスプレイにおいて、ガスバリア性に優れた安価なガスバリア層(20)を実現することができる。
ちなみに、本発明では、ガスバリア層(20)は原子層成長法から形成され、従来のスパッタやP−CVDによるガスバリア層に比べて緻密でピンホールが少ないことは、上述の通りである。
しかしながら、単にピンホールの少ないガスバリア層(20)を形成しただけでは、次のような問題が生じる。
従来では、原子層成長法によるガスバリア層(20)に比べて比較的緻密性に劣りピンホールの多いガスバリア層であったため、下地部分からガスが発生しても、そのガスは、ガスバリア層を透過していた。
しかしながら、原子層成長法によるガスバリア層(20)では、緻密でピンホールが少ないため、下地部分から発生するガスはガスバリア層(20)を透過しにくく、それゆえ、ガスによってガスバリア層(20)が膨らみ、その部分にて剥離などが生じる恐れがある。
その点に対して、本発明では、ガスバリア層(20)の下地部分を、脱ガス処理を施されたものとし、下地部分から出てくるガス量を極力抑制していることから、そのようなガスによるガスバリア層(20)の膨らみは防止できるため、問題はない。
つまり、本発明は、ガスバリア層(20)を単純に原子層成長法により形成したものとするのではなく、ガスバリア層(20)を緻密でピンホールの少ないものとしたがゆえに生じる上記の問題までも考慮した構成を実現したものである。
また、請求項2に記載の発明では、請求項1に記載のカラー有機ELディスプレイにおいて、カラーフィルタ層(13)とガスバリア層(20)との間には、有機材料からなるオーバーコート層(14)が介在しており、ガスバリア層(20)は、カラーフィルタ層(13)およびオーバーコート層(14)の分解開始温度以下の温度にて形成されたものであることを特徴としている。
このように、カラーフィルタ層(13)とガスバリア層(20)との間に、有機材料からなるオーバーコート層(14)が介在している場合、ガスバリア層(20)を、カラーフィルタ層(13)およびオーバーコート層(14)の分解開始温度以下の温度にて形成されたものとすれば、カラーフィルタ層(13)だけでなくオーバーコート層(14)も劣化することなく、適切にガスバリア層(20)を形成することができる。
前記脱ガス処理温度は、当該脱ガス処理工程以降の工程にて前記基板(11)にかかる温度以上の温度であって且つ前記カラーフィルタ層(13)の分解開始温度以下の温度であることを特徴とする。
前記脱ガス処理工程を乾燥雰囲気中で行うことを特徴とする。
また、請求項3に記載の発明では、請求項2に記載のカラー有機ELディスプレイにおいて、前記脱ガス処理は、ガスバリア層(20)の下地部分としてのカラーフィルタ層(13)およびオーバーコート層(14)を、乾燥雰囲気中で当該脱ガス処理工程以降の工程にて前記基板(11)にかかる温度以上の温度であって且つ前記カラーフィルタ層(13)の分解開始温度以下の温度で行うものであり、前記脱ガス処理されたカラーフィルタ層(13)およびオーバーコート層(14)中から真空中にて200℃で保持することにより放出される脱離水分子数が、2×1016個/mm3以下であることを特徴としている。
上述したように、ガスバリア層(20)の下地部分を脱ガス処理し、当該下地部分から出てくるガス量を極力抑制すれば、ガスによるガスバリア層(20)の膨らみを防止することができる。
本発明者らが検討したところ、具体的には、本発明のように、ガスバリア層(20)の下地部分としてのカラーフィルタ層(13)およびオーバーコート層(14)を、真空中にて200℃で保持した場合に放出される脱離水分子数を2×1016個/mm3以下となるように、脱ガス処理をすれば、ガスバリア層(20)の剥離を防止しやすくでき、好ましい。
ここで、請求項4に記載の発明のように、請求項1〜請求項3に記載のカラー有機ELディスプレイにおいては、ガスバリア層(20)は、Al23、TiO2、SiN、SiO2、SiON、ZrO2、MgO、CaO、GeO2、HfO2およびZnOから選ばれる1種以上からなるものにできる。
また、請求項5、請求項6に記載の発明のように、請求項1〜請求項4に記載のカラー有機ELディスプレイにおいては、ガスバリア層(20)の膜厚は、100nm以下であるものにでき、好ましくは、60nm以下であるものにできる。
このように、従来のP−CVDやスパッタによるガスバリア層(20)に比べて、本発明のガスバリア層(20)は薄いものとできる。
また、請求項7に記載の発明では、請求項1〜請求項3に記載のカラー有機ELディスプレイにおいて、ガスバリア層(20)は、Al23とTiO2との2層以上の積層膜にて構成されたものであることを特徴としている。
ここで、Al23とTiO2との2層以上の積層膜とは、各々が原子層成長法によって成膜されたAl23とTiO2との2層積層膜でもよいし、Al23とTiO2とが交互に繰り返し多数積層された交互積層膜でもよい。
そして、このように、ガスバリア層(20)をAl23とTiO2との2層以上の積層膜とした場合、ガスバリア層(20)のうちAl23の部分の総膜厚x(単位:m)、TiO2の部分の総膜厚y(単位:m)は、37≧3×108×x+1.4×109×y、の関係を満足することが好ましい(請求項8の発明)。
Al23とTiO2との積層膜におけるそれぞれの膜厚x、yについて、上記不等式の関係を満足するものとすることにより、当該積層膜にて構成されるガスバリア層(20)の全応力を、クラック限界応力よりも小さくすることができ、ガスバリア層(20)におけるクラックの発生を防止しやすくなり、好ましい。
また、請求項9に記載の発明では、請求項1〜請求項8に記載のカラー有機ELディスプレイにおいて、ガスバリア層(20)の下地部分の表面における接触角は、10°以下であることを特徴としている。
本発明のように、ガスバリア層(20)の下地部分の表面における接触角を10°以下とすることにより、その上に形成されるガスバリア層(20)の密着性を、実用レベルにて十分に確保しやすくなり、好ましい。
通常、カラー有機ELディスプレイにおいては、実装工程において異方導電性接着フィルム(ACF)を介した熱圧着による接続が行われる。たとえば、このようなACFをディスプレイに接続するときの熱や圧力あるいは熱膨張などにより、ガスバリア層(20)の剥離が懸念されるが、本発明のようにすれば、そのような問題を回避できる。
また、請求項10に記載の発明のように、請求項1〜請求項9に記載のカラー有機ELディスプレイにおいては、基板(11)は樹脂基板であるものにできる。樹脂基板はガラス基板に比べて成形性に優れ安価であるため、好ましい。
また、請求項11に記載の発明のように、請求項1〜請求項10に記載のカラー有機ELディスプレイにおいては、ガスバリア層(20)の上には、有機EL構造体(30)を構成する透明導電膜(31)が形成されており、ガスバリア層(20)と透明導電膜(31)との間には、これら両者の密着性を向上させるためのSiO2層(50)が介在していることが好ましい。
また、請求項21に記載の発明では、基板(11)上にカラーフィルタ層(13)、ガスバリア層(20)、および有機EL構造体(30)が順次積層されてなるカラー有機ELディスプレイの製造方法において、ガスバリア層(20)の下地部分に、脱ガス処理を施した後、カラーフィルタ層(13)の分解開始温度以下の温度にて減圧下で原料ガスを交互に供給して薄膜を形成する原子層成長法を行うことにより、ガスバリア層(20)を形成することを特徴としている。
それによれば、上記請求項1に記載のカラー有機ELディスプレイを適切に製造することができる。そして、本製造方法による作用効果は、上記請求項1に記載の発明と同様である。
また、請求項22に記載の発明では、請求項21に記載のカラー有機ELディスプレイの製造方法において、カラーフィルタ層(13)とガスバリア層(20)との間には、有機材料からなるオーバーコート層(14)が介在しており、カラーフィルタ層(13)およびオーバーコート層(14)の分解開始温度以下の温度にて、ガスバリア層(20)を形成することを特徴としている。
それによれば、上記請求項2に記載のカラー有機ELディスプレイを適切に製造することができる。そして、本製造方法による作用効果は、上記請求項2に記載の発明と同様である。
また、請求項23に記載の発明では、請求項21または請求項22に記載のカラー有機ELディスプレイの製造方法において、前記脱ガス処理温度は、当該脱ガス処理工程以降の工程にて基板(11)にかかる温度以上の温度であって且つカラーフィルタ層(13)の分解開始温度以下の温度であることを特徴としている。
もし、脱ガス処理温度が、当該脱ガス処理工程以降の工程にて基板(11)にかかる温度よりも低い場合、脱ガス処理工程以降の工程にて、さらにガスバリア層(20)の下地部分からガスが発生する可能性がある。
その点、本発明のようにすれば、そのような問題を回避することができ、脱ガス処理工程以降の工程にてガスの発生を低減でき、好ましい。さらに、本発明によれば、脱ガス処理工程にてカラーフィルタ層(13)の劣化を起こすこともない。
また、請求項24に記載の発明では、請求項21〜請求項23に記載のカラー有機ELディスプレイの製造方法において、前記脱ガス処理工程を乾燥雰囲気中で行うことを特徴としている。
それによれば、ガスバリア層(20)の下地部分の脱ガスの効率を向上させることができるため、好ましい。
また、請求項25に記載の発明では、請求項22に記載のカラー有機ELディスプレイの製造方法において、前記脱ガス処理は、ガスバリア層(20)の下地部分としてのカラーフィルタ層(13)およびオーバーコート層(14)を、真空中にて200℃で保持することにより行い、前記脱ガス処理されたカラーフィルタ層(13)およびオーバーコート層(14)中から真空中にて200℃で保持することにより放出される脱離水分子数を、2×1016個/mm3以下とすることを特徴としている。
それによれば、上記請求項3に記載のカラー有機ELディスプレイを適切に製造することができる。そして、本製造方法による作用効果は、上記請求項3に記載の発明と同様である。
また、請求項26に記載の発明によれば、請求項21〜請求項25に記載のカラー有機ELディスプレイの製造方法において、前記脱ガス処理工程の後、ガスバリア層(20)の形成工程までの間、基板(11)を一貫して乾燥雰囲気中にて保持することを特徴としている。
それによれば、ガスバリア層(20)の下地部分の脱ガス処理を行った後、ガスバリア層(20)の形成工程までに、当該下地部分に再びガス成分が付着することを防止できるから、好ましい。
また、請求項27に記載の発明では、請求項21〜請求項26に記載のカラー有機ELディスプレイの製造方法において、ガスバリア層(20)を形成する原子層成長法の成膜温度は、ガスバリア層(20)の形成工程以降の工程にて基板(11)にかかる温度以上であることを特徴としている。
それによれば、ガスバリア層(20)の形成工程以降の工程にて、ガスバリア層(20)のクラックや剥離の発生を抑えることができ有効である。
また、請求項28に記載の発明のように、請求項21〜請求項27に記載のカラー有機ELディスプレイの製造方法においては、ガスバリア層(20)として、Al23、TiO2、SiN、SiO2、SiON、ZrO2、MgO、CaO、GeO2、HfO2およびZnOから選ばれる1種以上からなるものを用いることができる。
また、請求項29に記載の発明では、請求項21〜請求項27に記載のカラー有機ELディスプレイの製造方法において、ガスバリア層(20)として、Al23とTiO2との2層以上の積層膜にて構成されたものを用いることを特徴としている。
それによれば、上記請求項7に記載のカラー有機ELディスプレイを適切に製造することができる。なお、本製造方法におけるAl23とTiO2との2層以上の積層膜とは、上記請求項7に記載のものと同様である。
さらに、請求項30に記載の発明では、請求項29に記載のカラー有機ELディスプレイの製造方法において、ガスバリア層(20)を構成するAl23とTiO2との前記積層膜において、Al23、TiO2のそれぞれの膜厚x(m)、y(m)を、37≧3×108×x+1.4×109×y、の関係を満足するようにガスバリア層(20)を形成することを特徴としている。
それによれば、上記請求項8に記載のカラー有機ELディスプレイを適切に製造することができる。そして、本製造方法による作用効果は、上記請求項8に記載の発明と同様である。
また、請求項31に記載の発明では、請求項21〜請求項30に記載のカラー有機ELディスプレイの製造方法において、ガスバリア層(20)の下地部分の表面における接触角を10°以下にした後、ガスバリア層(20)を形成することを特徴としている。
それによれば、上記請求項9に記載のカラー有機ELディスプレイを適切に製造することができる。そして、本製造方法による作用効果は、上記請求項9に記載の発明と同様である。
以上のように、上記した各手段によれば、ガスバリア性に優れた安価なガスバリア層を実現するという上記した本発明の目的を適切に実現することができる。
ここで、本発明者らは、さらに上記した各手段について検討を進め、さらに改良を加えた結果、請求項12〜請求項20および請求項32〜請求項35に記載の発明を創出するに至った。
上記した各手段では、ガスバリア層(20)の成膜は真空蒸着、スパッタリング、プラズマCVD法と比較して被成膜部材の被覆性に優れ、かつピンホールが極力低減された膜を実現できる低温原子層成長法を用いており、それによってその下地から発生するガスを遮断するというガスバリア機能を有効に発揮している。
しかしながら、検討の結果、ガスバリア層(20)の形成工程以降の工程、たとえば基板洗浄や、電極形成、絶縁層形成、有機EL膜形成などの工程では、各種の薬品が使用されるため、ガスバリア層(20)の材質によっては、当該薬品によってガスバリア層(20)がダメージを受けてしまう可能性があることがわかった。
たとえば、上記各手段のようにカラーフィルタ層(13)の分解開始温度以下の温度という低温で行う低温原子層成長法にてガスバリア層(20)を形成する場合、コストや成膜安定性などの観点から、ガスバリア層(20)としては、非晶質アルミナ(Al23)膜が一般的であり、この非晶質アルミナ膜は、下地からのガスを遮断するというガスバリア性の点では問題がない。
しかし、本発明者らの検討によれば、非晶質アルミナ膜は、カラーフィルタ層(13)、オーバコート層(14)が形成されたガラス基板(11)上に低温原子層成長法によって形成されるが、その後の基板洗浄や、電極形成、絶縁層形成、有機EL膜形成などの工程にて行われる薬品処理に対して、水酸基(−OH)と結合する結果、Al2(OH)3などの安定な水酸化物を作ってしまう場合がある。
そのような場合、ガスバリア層(20)としての非晶質アルミナ膜が変質したり、当該アルミナ膜が分解して膜厚が減少したりしてしまい、ガスバリア性が失われる問題が発生した。
これは、非晶質アルミナ膜は、アルカリや酸に対して極めて溶解しやすく、特に50℃以上の温水やアルカリ性洗剤やアルカリ処理液に対して、ダメージが生じやすいことがわかった。
ここで、温水においてダメージが生じやすいのは、水が室温ならば空気中の炭酸ガスが溶解して中性になるが、温水にすると炭酸ガスが溶解せずアルカリ性になりやすいためである。
また、本発明者らの検討によれば、カラー有機ELディスプレイにおいて、基板(11)としてソーダガラス基板を用い、このソーダガラス基板に低温原子層成長法でガスバリア層(20)を形成した場合、その後の基板洗浄や熱処理、電極形成を行うと、ガスバリア層(20)とガラス基板(11)の間で、下地からのガスの発泡による発泡剥離現象が発生することがわかった。
そこで、本発明者らは、このようなガスバリア層(20)の形成工程以降の工程に使用される薬品に対するガスバリア層(20)の薬品によるダメージや、ソーダガラス基板におけるガスバリア層(20)の剥離を防止するために、鋭意検討を行い、上記各手段に対して改良を加え、以下のような手段を創出した。
すなわち、請求項12に記載の発明では、請求項1〜請求項11に記載のカラー有機ELディスプレイにおいて、ガスバリア層(20)は、その下地から発生するガスを遮断する第1の膜(21)と、ガスバリア層(20)の形成工程以降の工程に使用される薬品に対する耐性を有する第2の膜(22)とが順次積層されてなるものであることを特徴としている。
それによれば、本発明のガスバリア層(20)は、第1の膜(21)によってガスバリア性を発揮するとともに、第2の膜(22)によってガスバリア層(20)の形成工程以降の工程に使用される薬品に対する耐性を有するため、ガスバリア層(20)の形成工程以降の工程に使用される薬品によるガスバリア層(20)のダメージを極力抑制することができる。
ここで、請求項13に記載の発明のように、請求項12に記載のカラー有機ELディスプレイにおいては、ガスバリア層(20)における第1の膜(21)は、Al23、TiO2、SiN、SiO2、SiON、ZrO2、MgO、CaO、GeO2、HfO2およびZnOから選ばれる1種以上からなるものにできる。
また、請求項14に記載の発明では、請求項12または請求項13に記載のカラー有機ELディスプレイにおいて、ガスバリア層(20)における第2の膜(22)は、水酸基と結合して安定な水酸化物を作りにくい材料からなることを特徴としている。
それによれば、ガスバリア層(20)における第2の膜(22)は、アルカリや酸に対して難溶なものとなり、耐薬品性が適切に発揮される。
ここで、請求項15に記載の発明のように、請求項14に記載のカラー有機ELディスプレイにおいては、ガスバリア層(20)における第2の膜(22)は、TiO2、SiN、SiO2、SiON、Ta25から選ばれる1種以上からなるものにできる。
また、請求項16に記載の発明のように、請求項12〜請求項15に記載のカラー有機ELディスプレイにおいては、ガスバリア層(20)における第2の膜(22)の膜厚は、5nm以上であれば、本発明者らの検討によれば、第2の膜(22)による耐薬品性を適切に発揮できることがわかった。
さらに、請求項17に記載の発明では、請求項12〜請求項16に記載のカラー有機ELディスプレイにおいて、ガスバリア層(20)において、第2の膜(22)が導電性を有するものであるとき、第2の膜(22)と有機EL構造体(30)との間には電気絶縁性を有する絶縁層(23)が介在されていることを特徴としている。
通常、ガスバリア層(20)の上に形成される有機EL構造体(30)においては、ガスバリア層(20)の直上に位置する膜は、導電性を有する電極膜(31)であるが、本発明のように、ガスバリア層(20)の直上層を電気絶縁性を有する絶縁層(23)とすれば、ガスバリア層(20)と有機EL構造体(30)との電気的な短絡を防止することができる。
ここで、請求項18に記載の発明のように、請求項17に記載のカラー有機ELディスプレイにおいては、絶縁層(23)は、SiN、SiO2、SiON、Ta25、AlN、MgO、CaO、GeO2から選ばれる1種以上からなるものにできる。
また、請求項19に記載の発明では、請求項1〜請求項18に記載のカラー有機ELディスプレイにおいて、基板(11)は、無アルカリガラスからなるものであることを特徴としている。
上述したように、基板(11)としてソーダガラス基板を用いた場合、ガスバリア層(20)とガラス基板(11)の間で発泡剥離現象が発生する。
この現象を分析した結果、基板の水洗浄、成膜時や基板処理時の熱により、ソーダガラスのアルカリ成分が析出し、そのアルカリ成分がガスバリア層(20)とガラス基板(11)の間の密着力を低下させていることがわかった。
そこで、本発明のように、基板(11)として、カリウムやナトリウムなどのアルカリ成分を含まない無アルカリガラスからなるものを用いれば、そのようなソーダガラス基板を用いた場合におけるガスバリア層(20)の剥離を防止することができる。
また、請求項20に記載の発明では、請求項1〜請求項18に記載のカラー有機ELディスプレイにおいて、基板(11)は、ガラス基板をアルカリ成分を含まない無機膜で被覆したものであることを特徴としている。
本発明によれば、基板の水洗浄、成膜時や基板処理時の熱により、ソーダガラスのアルカリ成分が析出しようとするのを無機膜によって防止できるため、上記した無アルカリガラスを基板(11)として用いた場合と同様に、ソーダガラス基板を用いた場合におけるガスバリア層(20)の剥離を防止することができる。
また、請求項32に記載の発明では、請求項21〜請求項31に記載のカラー有機ELディスプレイの製造方法において、ガスバリア層(20)として、その下地から発生するガスを遮断する第1の膜(21)と、ガスバリア層(20)の形成工程以降の工程に使用される薬品に対する耐性を有する第2の膜(22)とを順次積層して形成することを特徴としている。
それによれば、上記請求項12に記載のカラー有機ELディスプレイを適切に製造することができる。
つまり、本製造方法によれば、ガスバリア層(20)は、第1の膜(21)によってガスバリア性を発揮するとともに、第2の膜(22)によってガスバリア層(20)の形成工程以降の工程に使用される薬品に対する耐性を有するため、ガスバリア層(20)の形成工程以降の工程に使用される薬品によるガスバリア層(20)のダメージを極力抑制することができる。
ここで、請求項33に記載の発明のように、請求項32に記載のカラー有機ELディスプレイの製造方法においては、ガスバリア層(20)における第1の膜(21)として、Al23、TiO2、SiN、SiO2、SiON、ZrO2、MgO、CaO、GeO2、HfO2およびZnOから選ばれる1種以上からなるものを用いることができる。
また、請求項34に記載の発明のように、請求項32または請求項33に記載のカラー有機ELディスプレイの製造方法において、ガスバリア層(20)における第2の膜(22)として、TiO2、SiN、SiO2、SiON、Ta25から選ばれる1種以上からなるものを用いることができる。
さらに、請求項35に記載の発明では、請求項21〜請求項34に記載のカラー有機ELディスプレイの製造方法において、ガスバリア層(20)を形成する原子層成長法の成膜温度は、200℃以上であることを特徴としている。
本発明者らの検討によれば、ガスバリア層(20)を形成する原子層成長法の成膜温度は、200℃以上とすれば、ガスバリア層(20)の密着力が向上し、ソーダガラス基板を用いた場合でもガスバリア層(20)の剥離を防止できることがわかった。
なお、上記各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示す一例である。
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、説明の簡略化を図るべく、図中、同一符号を付してある。
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態に係るカラー有機ELディスプレイ100の概略断面構成を示す図である。また、図2は、図1中のA−A一点鎖線に沿った概略断面構成を示す図である。
[構成等]
基板11は、ガラス基板、樹脂製の基板(樹脂基板)等からなる。本例では、基板11はガラス基板からなる透明基板11である。
この基板11の一面上には、光の3原色である赤、青、緑のカラーフィルタ層13が設けられている。なお、ここでは、基板11の一面上には、カラーフィルタ層13を分離するためのシャドウマスク(ブラックマトリックス)12が形成され、これに、カラーフィルタ層13が設けられている。このシャドウマスク12は光を遮断するもので、樹脂や金属からなり、必要に応じて設けられるものである。
この上部に、必要に応じて平坦化層として、透明のオーバーコート層14が形成されている。なお、このオーバーコート層14は省略可能ならば無くてもよい。これらカラーフィルタ層13とオーバーコート層14は主にアクリル系の樹脂で形成されている。そして、オーバーコート層14の上には、このオーバーコート層14を被覆するようにガスバリア層20が形成されている。
ここで、ガスバリア層20の下地部分すなわち本例では基板10、カラーフィルタ層13およびオーバーコート層14は、脱ガス処理を施されたものである。具体的には、オーバーコート層14まで形成された基板11を、恒温槽または真空チャンバーに入れ、脱ガス、脱水処理をする。
この脱ガス処理温度は、当該脱ガス処理工程以降の工程にて基板11にかかる温度以上の温度であって且つカラーフィルタ層13の分解開始温度以下の温度であることが好ましく、たとえば本例では、200℃〜230℃の温度とすることができる。
ガスバリア層20は、カラーフィルタ層13およびオーバーコート層14の分解開始温度以下の温度にて原子層成長法を行うことにより形成されたものである。この原子層成長法は、アトミックレイヤーエピタキシー法(ALE法)またはアトミックレイヤーデポジション(ALD法)、と呼ばれる。
ここで、カラーフィルタ層13およびオーバーコート層14の分解開始温度は、230℃程度である。また、ガスバリア層20は、具体的に、Al23、TiO2、SiN、SiO2、SiON、ZrO2、MgO、CaO、GeO2、HfO2およびZnOから選ばれる1種以上からなる無機膜とすることができる。
また、ガスバリア層20の膜厚は、100nm以下好ましくは60nm以下とすることができる。本例では、ガスバリア層20は、約60nmの厚さで形成されたアルミナ(Al23)膜である。
ここで使用した原子層成長法においては、カラーフィルタ層13、オーバーコート層14にダメージを与えない比較的低温で形成できるように、つまり、カラーフィルタ層13およびオーバーコート層14の分解開始温度以下の温度にて形成できるように、原料を有機金属であるトリメチルアルミニウムを使用した。
ここにおいて、ガスバリア層20の成膜温度は100〜250℃程度にできる。この成膜温度は、カラーフィルタ層13およびオーバーコート層14の分解開始温度以下の温度とすること、および、ガスバリア層20の形成工程以降の工程にて基板11にかかる温度以上であること、を考慮したものであり、好ましくは、本例では200℃〜230℃であることが望ましい。
そして、基板11の一面上すなわちガスバリア層20の上には、有機電子デバイスとしての有機EL構造体30が形成されている。つまり、本実施形態においては、基板11における有機EL構造体30の形成される一面が、ガスバリア層20により被覆されており、この基板11とガスバリア層20の上に、有機EL構造体30が形成された形となっている。
この有機EL構造体30は、互いに対向する一対の電極31、33間に有機発光材料を含む有機層32を配置してなる構造体である。この有機EL構造体30は、通常の有機EL構造体に用いられる材料や膜構成を採用することができるが、具体的構成の一例について述べる。
ガスバリア層20の上に、まず、透明導電膜としての陽極(下部電極)31が形成されている。この陽極31はITO(インジウムチンオキサイド)膜等の透明導電膜からなるものでホール注入電極として機能する。
本例では、陽極31は、ガスバリア層20の上に200℃の成膜温度にてスパッタリング法により成膜されたITO膜(例えば厚さ150nm)をエッチング等にてパターニングすることにより、図1中の左右方向に延びるストライプ状に形成されたものである。
このストライプ形状の一例としては、500μm幅の帯状の陽極31が50μmの間隔でストライプ状に並んだものとできる。
さらに陽極31のエッジでのショートを防ぐため、絶縁材料からなる絶縁膜40がフォトリソグラフィ法により形成されている。同様に陰極(上部電極)33を分離するための隔壁41がフォトリソグラフィにより形成されている。
この陽極31の上には、有機層32として有機発光材料からなるホール注入層、ホール輸送層、発光層、電子輸送層が順次形成されている。
たとえば、正孔注入層として銅フタロシアニンを真空蒸着法により20nm形成する。その上に正孔輸送層としてトリフェニルアミン4量体(HOMO:5.4eV、LUMO:2.4eV、Eg:3.0eV)を真空蒸着法により、たとえば40nm形成する。
さらに赤色発光層として、DCJT(HOMO:5.3eV、LUMO:3.2eV、Eg:2.1eV)を1%添加したトリフェニルアミン4量体を真空蒸着法により、たとえば2nm形成する。
その上に、青色発光層として機能する蛍光色素としてのペリレン(HOMO:5.5eV、LUMO:2.6eV、Eg:2.9eV)1wt%を添加したBAlq(HOMO:5.8eV、LUMO:3.0eV、Eg:2.8eV)を真空蒸着法により、たとえば40nm形成する。さらに、電子輸送層としてアルミキレ−トを20nm真空蒸着法によって形成する。
これら有機層32の上には、図示しないが、電子注入層としてLiFがたとえば0.5nm、真空蒸着法により成膜されており、その上には、上部電極である陰極33としてAlがたとえば100nm、真空蒸着法により成膜されている。ここでは、陰極33は、陽極31と直交するストライプ状をなすものであり、図2中の左右方向に延びるストライプ状に形成されたものである。
そして、これらによって、白色発光を行う有機EL構造体30(31、32、33)が形成されている。なお、有機層32や陰極33の真空蒸着による成膜温度は、室温程度である。
このように、本例の有機EL構造体30は、互いに直交するストライプ状の陽極31と隔壁41によって分離された陰極33とが交差して重なり合っており、これら両電極31、33の重なりあう領域が、発光表示を行うべき部分である表示画素(つまり本来の発光領域)を構成している。そして、本例のカラー有機ELディスプレイ100はドットマトリクスディスプレイを構成している。
このような本カラー有機ELディスプレイ100においては、外部回路などによって陽極31と陰極33との間に所定のデューティ比を有する駆動用の直流電圧を印加することにより、所望の表示画素において、陽極31からホール(正孔)、陰極33から電子がそれぞれ有機層32中の発光層に移動してくる。
そして、これらホールおよび電子が当該発光層内で再結合し、その放出エネルギーで蛍光材料(本例ではDCJT、ペリレンおよびBAlq)が発光するようになっている。この発光はカラーフィルタ層13を通って基板11側から取り出される。
[製造方法等]
次に、本カラー有機ELディスプレイ100の製造方法について、多少、上記したことと重複するところもあるが、述べる。
まず、基板10の一面に、スピンコート法やホトリソグラフ法により、カラーフィルタ層13およびオーバーコート層14を順次形成する。ここまでの工程により、ガスバリア層20の下地部分ができあがる。また、本例では、カラーフィルタ層13およびオーバーコート層14の分解温度は230℃である。
次に、ガスバリア層20の下地部分に、脱ガス処理を施す。この脱ガス処理温度は、当該脱ガス処理工程以降の工程にて基板11にかかる温度以上の温度であって且つカラーフィルタ層13の分解開始温度以下の温度であることが好ましい。たとえば本例では、200℃〜230℃の温度とする。
また、脱ガス処理工程は乾燥雰囲気中で行うことが好ましい。具体的には、オーバーコート層14まで形成された基板11を、真空やドライ窒素ガス雰囲気中等の乾燥雰囲気中で焼成を行うために恒温槽または真空チャンバーに入れ、脱ガス、脱水処理をする。
次に、ガスバリア層20の形成を行うが、ここにおいて、脱ガス処理工程の後、ガスバリア層20の形成工程までの間、基板11を一貫して乾燥雰囲気中にて保持することが好ましい。
具体的には、ガスバリア層20の成膜を行う装置中で、基板11をセットした後、真空加熱を十分に行って水分等の脱水処理を行った後、ガスバリア層20を原子層成長法で形成する。
または、脱水工程用のチャンバーを設けたマルチチャンバー装置にて、真空または窒素雰囲気等のドライ雰囲気中で十分な基板加熱を行った後、原子層成長にてガスバリア層20を行うためのチャンバーへ基板11を移動し、そこでガスバリア層20を形成すれば良い。
そして、ガスバリア層20の形成工程では、カラーフィルタ層13の分解開始温度以下の温度にて減圧下で原料ガスを交互に供給して薄膜を形成する原子層成長法を行うことにより、ガスバリア層20を形成する。
ここで、本実施形態では、カラーフィルタ層13とガスバリア層20との間には、有機材料からなるオーバーコート層14が介在しており、カラーフィルタ層13およびオーバーコート層14の分解開始温度以下の温度にて、ガスバリア層20を形成する。
また、このガスバリア層20を形成する原子層成長法の成膜温度は、ガスバリア層20の形成工程以降の工程、すなわち有機EL構造体30の形成工程にて基板11にかかる温度以上であることが好ましい。
このようなガスバリア層20の成膜温度は100〜250℃程度にできる。本例では、当該成膜温度を、カラーフィルタ層13およびオーバーコート層14の分解開始温度以下の温度とすること、および、ガスバリア層20の形成工程以降の工程にて基板11にかかる温度以上とすること、を考慮して、好ましくは、200℃〜230℃程度の成膜温度とする。
本例では、ガスバリア層20は、原子層成長法によるアルミナからなるものであり、そのようなガスバリア層20の形成は、脱ガス、脱水処理した基板10を反応炉に入れ、その反応炉を真空雰囲気にし、気化したTMA(トリメチルアルミニウム)と気化したH2Oとを、N2ガス等のキャリアガスにより、反応炉へ交互に導入することで行われる。その詳細については、従来より行われている一般的な原子層成長法の成膜方法を採用することができるため省略する。
次に、基板11の一面上すなわちガスバリア層20の上に、有機EL構造体30を形成する。
本例では、まず、ガスバリア層20の上に200℃の成膜温度にてスパッタリング法により成膜されたITO膜(例えば厚さ150nm)をエッチング等にてパターニングすることにより、透明導電膜としての陽極(下部電極)31を形成する。
なお、本例では、脱ガス処理工程以降の工程にて基板11にかかる温度の最高温度は、この陽極31の成膜温度、200℃であり、上記脱ガス処理工程は、この200℃以上で行うことが好ましい。
次に、陽極31の間に絶縁膜40をフォトリソグラフィ法により形成し、続いてその上に、隔壁41をフォトリソグラフィにより形成する。次に、陽極31の上に、上記したようなホール注入層、ホール輸送層、発光層、電子輸送層が順次形成されてなる有機層32を真空蒸着法により形成する。
次に、有機層32の上に、上記電子注入層としてのLiF、および上部電極としての陰極33を、真空蒸着法により成膜する。これら有機層32や陰極33の真空蒸着による成膜温度は、室温程度である。こうして、上記図1、図2に示されるカラー有機ELディスプレイ100ができあがる。
なお、この後、有機EL構造体30の表面からの水分を遮断するため、乾燥剤をもったステンレスまたはガラスの封止缶によって、有機EL構造体30の外表面側を、酸素を微量含んだ不活性ガス(N2ガス等)または不活性ガスのみにより封止するようにしてもよい。
また、他の封止方法として、有機EL構造体30の外表面を、原子層成長法、スパッタ法、CVD法、蒸着法等により形成された保護膜により被覆してもよい。それにより、水分やガスによる有機EL構造体30の劣化をより高レベルにて防止することができる。さらに、この保護膜の上に樹脂等の接着剤を返して、ガラス、樹脂、金属などの保護板を接着すれば、傷の防止という面で効果がある。
[効果等]
ところで、本実施形態によれば、基板11上にカラーフィルタ層13、ガスバリア層20、および有機EL構造体30が順次積層されてなるカラー有機ELディスプレイにおいて、ガスバリア層20の下地部分は、脱ガス処理を施されたものであり、ガスバリア層20は、カラーフィルタ層13の分解開始温度以下の温度にて原子層成長法を行うことにより形成されたものであることを特徴とするカラー有機ELディスプレイ100が提供される。
それによれば、ガスバリア層20の下地部分を、脱ガス処理を施されたものとしているため、基板11やカラーフィルタ層13などの下地部分から出てくるガス量を極力小さいものにできる。
また、本実施形態では、ガスバリア層20は、カラーフィルタ層13の分解開始温度以下の温度にて原子層成長法を行うことにより形成されたものとしているため、カラーフィルタ層13が劣化することなく、適切にガスバリア層20を形成することができる。
そして、ガスバリア層20の成膜は、真空蒸着、スパッタリング、プラズマCVD法と比較して被成膜部材の被覆性に優れ、かつピンホールが極力低減された膜を実現できる原子層成長法を用いているため、従来に比べてステップカバレージが良く、ピンホールの少ないガスバリア層20が実現できる。
それによれば、ガスバリア層20は、被覆性に優れ且つピンホールがほとんど無いため、カラーフィルタ層13やオーバーコート層14に微量に含まれる水分などのガスをガスバリア層20にてブロックすることができ、有機EL構造体30側へガスが侵入することはない。そのため、当該ガスによる有機EL構造体30の劣化を適切に防止することができる。
本実施形態のガスバリア層20の具体的効果は以下の手法により確認した。ITOを膜厚150nm、100mm角四方の大きさで形成したガラス基板上に、ITO全面を覆うようにガスバリア層を形成し、この基板をITOのエッチング液として用いられる50℃の50%王水中に30分間浸漬した。この際、ガスバリア層のピンホール箇所はITOがエッチングされITO欠陥としてより顕著になり検出しやすくなる。
ITO欠陥の検出には欠陥検査装置(KLA ACROTEC 6020)を用いて、王水浸漬前後の表面状態を測定し、欠陥サイズが大きくなった箇所および新たに増加した欠陥箇所について顕微鏡観察してガスバリア層のピンホールに起因したITO欠陥であるか判断した。評価結果を表1に示す。
Figure 2006253106
ガスバリア層としてサンプル1から5はALE法によりAl23を30nm、サンプル6から10はALE法によりAl23を60nm成膜し、比較例としてサンプル11から15はスパッタ法によりSiO2を300nm成膜した。
脱ガス処理の効果は、昇温脱離ガス分析(TDS分析)を行って確認した。ガラス上にカラーフィルタおよびオーバーコート層を形成した基板を10mm角の大きさにカットし、1)ドライ窒素雰囲気中で200℃2時間脱ガス処理し、ドライ窒素雰囲気中で搬送したもの、2)同様の脱ガス処理をし、大気搬送したもの、3)脱ガス処理をしなかったものの3種類を比較した。
TDS分析は50℃から200℃まで基板温度を変化させ、分子量が1から199の放出ガス量について測定した。ここでは本分析で最も検出量が多かった分子量18(H2O)による圧力変化を図3に示す。
これより、脱水処理をしてドライ窒素雰囲気で搬送したものはほとんど圧力変化が無いのに対し、脱水処理が未実施、または大気搬送したサンプルからは明らかな水分の放出が確認された。
このように、本実施形態において、ガスバリア層20の下地部分を、脱ガス処理を施されたものとしていること、ガスバリア層20は、カラーフィルタ層13の分解開始温度以下の温度にて原子層成長法を行うことにより形成されたものとしていることによる具体的効果が確認された。
また、ガスバリア層20は、原子層成長法の単一のプロセスにて成膜できるため、生産性が良く、コストアップを抑制することができる。
したがって、本実施形態によれば、有機EL構造体30とカラーフィルタ層13との間にガスバリア層20を介在させてなるカラー有機ELディスプレイ100において、ガスバリア性に優れた安価なガスバリア層20を実現することができる。
ちなみに、本実施形態では、ガスバリア層20は原子層成長法から形成され、従来のスパッタやP−CVDによるガスバリア層に比べて緻密でピンホールが少ないことは、上述の通りである。
しかしながら、単にピンホールの少ないガスバリア層20を形成しただけでは、次のような問題が生じる。
従来では、原子層成長法によるガスバリア層20に比べて比較的緻密性に劣りピンホールの多いガスバリア層であったため、下地部分からガスが発生しても、そのガスは、ガスバリア層を透過していた。
しかし、原子層成長法によるガスバリア層20では、緻密でピンホールが少ないため、下地部分から発生するガスはガスバリア層20を透過しにくく、それゆえ、ガスによってガスバリア層20が膨らみ、その部分にて剥離などが生じる恐れがある。
その点に対して、本実施形態では、ガスバリア層20の下地部分を、脱ガス処理を施されたものとし、下地部分から出てくるガス量を極力抑制していることから、そのようなガスによるガスバリア層20の膨らみは防止できるため、問題はない。
つまり、本実施形態は、ガスバリア層20を単純に原子層成長法により形成したものとするのではなく、ガスバリア層20を緻密でピンホールの少ないものとしたがゆえに生じる上記の問題までも考慮した構成を実現したものである。
また、本実施形態のカラー有機ELディスプレイ100においては、カラーフィルタ層13とガスバリア層20との間には、有機材料からなるオーバーコート層14が介在しており、ガスバリア層20は、カラーフィルタ層13およびオーバーコート層14の分解開始温度以下の温度にて形成されたものとしている。
このように、カラーフィルタ層13とガスバリア層20との間に、有機材料からなるオーバーコート層14が介在している場合、ガスバリア層20を、カラーフィルタ層13およびオーバーコート層14の分解開始温度以下の温度にて形成されたものとすれば、カラーフィルタ層13だけでなくオーバーコート層14も劣化することなく、適切にガスバリア層20を形成することができる。
また、本実施形態のカラー有機ELディスプレイ100においては、基板11は、ガラス基板でもよいが、好ましくは樹脂基板にできる。樹脂基板はガラス基板に比べて成形性に優れ安価であるため、好ましい。
また、本実施形態によれば、基板11上にカラーフィルタ層13、ガスバリア層20、および有機EL構造体30が順次積層されてなるカラー有機ELディスプレイの製造方法において、ガスバリア層20の下地部分に、脱ガス処理を施した後、カラーフィルタ層13の分解開始温度以下の温度にて減圧下で原料ガスを交互に供給して薄膜を形成する原子層成長法を行うことにより、ガスバリア層20を形成することを特徴とする製造方法が提供される。
それによれば、上記した特徴点を有する本実施形態のカラー有機ELディスプレイ100を適切に製造することができる。そして、その作用効果は、上記カラー有機ELディスプレイ100について述べたものと同様である。
また、本実施形態によれば、上記カラー有機ELディスプレイの製造方法において、カラー有機ELディスプレイ100がカラーフィルタ層13とガスバリア層20との間には、有機材料からなるオーバーコート層14を介在させたものである場合に、カラーフィルタ層13およびオーバーコート層14の分解開始温度以下の温度にて、ガスバリア層20を形成することも特徴点である。
また、本実施形態のカラー有機ELディスプレイの製造方法においては、前記脱ガス処理温度としては、当該脱ガス処理工程以降の工程にて基板11にかかる温度以上の温度であって且つカラーフィルタ層13の分解開始温度以下の温度とすることが好ましいとしている。
もし、脱ガス処理温度が、当該脱ガス処理工程以降の工程にて基板11にかかる温度よりも低い場合、脱ガス処理工程以降の工程にて、さらにガスバリア層20の下地部分からガスが発生する可能性がある。
その点、この好ましい製造方法を採用すれば、そのような問題を回避することができ、脱ガス処理工程以降の工程にてガスの発生を低減でき、好ましい。さらに、本実施形態の製造方法によれば、脱ガス処理工程にてカラーフィルタ層13の劣化を起こすこともなくなる。
また、本実施形態のカラー有機ELディスプレイの製造方法においては、前記脱ガス処理工程を乾燥雰囲気中で行うことが好ましいとしている。
それによれば、ガスバリア層20の下地部分の脱ガスの効率を向上させることができるため、好ましい。
また、本実施形態のカラー有機ELディスプレイの製造方法においては、前記脱ガス処理工程の後、ガスバリア層20の形成工程までの間、基板11を一貫して乾燥雰囲気中にて保持することが好ましいとしている。
それによれば、ガスバリア層20の下地部分の脱ガス処理を行った後、ガスバリア層20の形成工程までに、当該下地部分に再びガス成分が付着することを防止できるから、好ましい。
また、本実施形態のカラー有機ELディスプレイの製造方法においては、ガスバリア層20を形成する原子層成長法の成膜温度は、ガスバリア層20の形成工程以降の工程にて基板11にかかる温度以上であることが好ましいとしている。
それによれば、ガスバリア層20の形成工程以降の工程にて、ガスバリア層20のクラックや剥離の発生を抑えることができ有効である。
次の各検討例を参照しながら、第1実施形態のカラー有機ELディスプレイ100におけるガスバリア層20について、剥離防止やクラック発生防止などの観点から、さらなる好ましい形態について説明する。
[脱ガス処理の検討]
まず、本実施形態のカラー有機ELディスプレイ100においては、脱ガス処理は、ガスバリア層20の下地部分としてのカラーフィルタ層13およびオーバーコート層14を、真空中にて200℃で保持することにより行うものであり、前記脱ガス処理されたカラーフィルタ層13およびオーバーコート層14中から真空中にて200℃で保持することにより放出される脱離水分子数が、2×1016個/mm3以下であることが好ましい。
上述したように、ALE法による緻密でピンホールの少ない本実施形態のガスバリア層20においては、当該ガスバリア層20の下地部分を脱ガス処理し、当該下地部分から出てくるガス量を極力抑制すれば、ガスによるガスバリア層20の膨らみを防止することができる。
そこで、具体的にどの程度、ガスバリア層20の下地部分の脱ガス処理を行えばよいかについて、検討を行った。
脱ガス処理の度合いの指標として、ガスバリア層20の下地であるカラーフィルタ層13およびオーバーコート層14からの脱離水分量に着目した。この脱離水分量は、昇温脱離ガス分析(TDS分析)を行って確認した。
ガラス上にカラーフィルタ層およびオーバーコート層を形成した基板を10mm角の大きさにカットし、真空雰囲気中で200℃の脱ガス処理を10分、20分、60分、120分行い、ドライ窒素雰囲気中で搬送したものと、脱ガス処理をしなかったもの(脱ガス処理0分、未処理)との5種類を比較した。
TDS分析により50℃から200℃まで基板温度を変化させ、分子量18(H2O)の脱ガス圧力の積算値から脱離水分量を計算し、求めた。その結果が図4に示される。
図4は、本検討例における脱ガス処理時間と脱離水分量との関係を示す図である。図4においては、脱ガス処理時間は「200℃ベーク時間(単位:分)」として横軸にとり、脱離水分量は「水分子数(単位:個/mm3)」すなわち脱離水分子数として縦軸にとってある。
図4に示されるように、脱ガス処理時間の増加とともに、脱離水分量が少なくなっていき、60分程度でその低下度合が飽和し、脱離水分子数が2×1016個/mm3程度になっている。つまり、真空中にて200℃で保持する脱ガス処理を60分間以上行えば、おおよそカラーフィルタ層およびオーバーコート層中に含まれる水分を、可能な限り除去することができる。
次に、この5種類の脱ガス処理を行った基板に対して、カラーフィルタ層およびオーバーコート層の上にALE法によりガスバリア層としてのAl23を30nm成膜し、上記脱ガス処理によるガスバリア層の剥離の有無について調査した。その結果が表2に示される。
Figure 2006253106
この表2から、ガスバリア層20の下地部分としてのカラーフィルタ層13およびオーバーコート層14に対して、真空中にて200℃で保持することで脱ガス処理を行い、脱ガス処理されたカラーフィルタ層13およびオーバーコート層14中からの脱離水分子数を2×1016個/mm3以下とすれば、ガスバリア層20の剥離を防止できることが確認された。
そして、このような脱離水分子数を規定したディスプレイ100を実現するために、本実施形態においては、脱ガス処理は、ガスバリア層20の下地部分としてのカラーフィルタ層13およびオーバーコート層14を、真空中にて200℃で保持することにより行い、前記脱ガス処理されたカラーフィルタ層13およびオーバーコート層14中からの脱離水分子数を、2×1016個/mm3以下とすることを特徴とするディスプレイ100の製造方法が提供される。
[ガスバリア層の応力の検討]
また、本実施形態のカラー有機ELディスプレイ100においては、ガスバリア層20におけるクラックの発生を防止するべく、ガスバリア層20を構成する材料の全応力をクラック限界応力未満とすることが好ましい。
この全応力は、材料の持つ膜応力と膜厚に依存することから、膜厚を薄くすることが有効である。膜厚は応力の観点から決定する。本発明者らの実験結果によると、Al23単膜、TiO2単膜は膜応力の膜厚依存性が無く、それぞれ300MN/m2、1400MN/m2であった。
図5は、ガスバリア層であるAl23薄膜(単膜)およびTiO2/Al23積層膜について、全応力と膜厚との関係を示す図である。
TiO2/Al23積層膜は、Al23とTiO2との2層以上の積層膜にて構成されたガスバリア層である。そして、図5において、たとえばAl23=30とは、Al23単膜の膜厚が30nmであることを意味し、TiO2/Al23=9/30とは、TiO2/Al23積層膜のうちAl23の部分の総膜厚xが30nmであり、TiO2の部分の総膜厚yが9nmであることを意味する。
ここで、Al23とTiO2との2層以上の積層膜とは、各々が原子層成長法によって成膜されたAl23とTiO2との2層積層膜でもよいし、Al23とTiO2とが交互に繰り返し多数積層された交互積層膜でもよい。
そして、このTiO2/Al23積層膜について、上述したAl23単膜、TiO2単膜の膜応力応力と膜厚構成比から推測される全応力の値は、図5に示される測定した全応力とおおむね一致することがわかった。
次に、この図5に示されるAl23薄膜(単膜)およびTiO2/Al23積層膜の各ガスバリア層について、成膜後におけるクラックの発生状況を調査した。その結果は、次の表3に示される。
Figure 2006253106
本発明者らの検討によれば、Al23を主原料としたガスバリア層は、膜厚120nm以上でクラックが発生する。この知見から、Al23単膜からなるガスバリア層は、その膜厚が100nm以下であることが望ましく、このときの全応力は約37N/mであり、これを満たせば、クラックが発生しないと考えられる。
また、TiO2/Al23積層膜においても、図5に示されるそれぞれの応力値から当該積層膜にかかる全応力を計算し、約37N/mを超えないように設計することにより、クラックの発生を抑制することができる。
すなわち、ガスバリア層20をAl23とTiO2との2層以上の積層膜とした場合、ガスバリア層20のうちAl23の部分の総膜厚x(単位:m)、TiO2の部分の総膜厚y(単位:m)とすると、不等式:37≧3×108×x+1.4×109×yを満足することが好ましい。
Al23とTiO2との積層膜におけるそれぞれの膜厚x、yについて、上記不等式の関係を満足するものとすることにより、当該積層膜にて構成されるガスバリア層20の全応力を、クラック限界応力よりも小さくすることができ、ガスバリア層20におけるクラックの発生を防止しやすくなる。
そして、このようなガスバリア層20として、Al23とTiO2との2層以上の積層膜にて構成されたものを用いる本実施形態のカラー有機ELディスプレイの製造方法において、上記不等式の関係を満足させるためには、Al23、TiO2のそれぞれの膜厚x(m)、y(m)を、37≧3×108×x+1.4×109×y、の関係を満足するようにガスバリア層20を形成することを特徴とするディスプレイ100の製造方法が提供される。
[ガスバリア層の密着性の検討]
また、本実施形態のカラー有機ELディスプレイ100においては、ガスバリア層20の下地部分の表面における接触角が10°以下であることが好ましい。
カラー有機ELディスプレイ100においては、実装工程において異方導電性接着フィルム(ACF)を介した熱圧着による接続が行われる。この実装時にガスバリア層20の剥離を防止するためには基板11の表面を清浄化し吸着サイト(‐OH)を安定化すればよい。そのためには基板表面のUV処理(紫外線照射処理)が有効である。
そこで、カラーフィルタ付ガラス基板11の接触角が洗浄条件によりどう変化するかについて、調査した。その結果が表4に示される。
Figure 2006253106
ここにおける接触角は、一般的なもので、基板11表面に水滴を落としたときの接触角であり、洗浄前(初期)と洗浄後における測定値を示した。また、平均変化量は、洗浄前後の接触角をn=2で測定し、これら測定値における洗浄前後の接触角変化量の平均値である。
また、この表4に示される洗浄条件において、「ウェット洗浄のみ」は、通常の水洗浄のみであり、「ウェット洗浄+UV処理」は、ウェット洗浄後に通常の乾燥処理を行い、さらに、UVオゾン洗浄を行ったものである。また、「ウェット洗浄+IR乾燥+UV処理」は、ウェット洗浄後に赤外線による加熱乾燥処理を行い、さらに、UVオゾン洗浄を行ったものである。
表4に示されるように、洗浄前(初期)の基板の接触角は約40°〜約60°とバラツキが大きいが、UV処理を加えた洗浄を行うと、その接触角は約10°以下にすることができる。
これら表4に示される各基板11に対して、さらに本実施形態の原子層成長法によってガスバリア層としてのAl23を30nm形成しACF接続試験を行った。
表5は、このACF接続試験における実装条件、ガスバリア層の剥離の発生の有無の結果を示すものである。
Figure 2006253106
この表5に示されるように、UV処理を行った基板11においては、ガスバリア層の剥離は発生しなかったが、UV処理を行わなかった基板11においては、ガスバリア層の剥離が見られた。
さらに検討を進めたところ、ウェット洗浄のみでガスバリア層の剥離の発生を抑えるには、ACFの圧着圧力を1MPa以下にする必要があり、そのような低い圧着圧力では、ACF接続の導通を確保できない配線が生じた。
このように、本実施形態においては、ガスバリア層20の下地部分の表面における接触角を10°以下とすることにより、その上に形成されるガスバリア層20の密着性を、実用レベルにて十分に確保しやすくなり、好ましい。具体的には、ACFをディスプレイに接続するときの熱や圧力あるいは熱膨張などによるガスバリア層20の剥離を、適切に防止することができる。
そして、このようなガスバリア層20の剥離を防止するディスプレイ100の製造方法として、ガスバリア層20の下地部分の表面における接触角を10°以下にした後、ガスバリア層20を形成することを特徴とする製造方法が提供される。
さらに具体的な製造方法として付け加えるならば、ガスバリア層20を形成する前に、ガスバリア層20の下地表面にUV処理を施した後、ガスバリア層20を形成することを特徴とするディスプレイ100の製造方法が提供される。
(第2実施形態)
図6は、本発明の第2実施形態に係るカラー有機ELディスプレイ200の概略断面構成を示す図である。
図6に示されるように、カラー有機ELディスプレイにおいて、ガスバリア層20の上に、有機EL構造体30を構成する透明導電膜としての陽極31が形成されている場合、ガスバリア層20と透明導電膜31との間には、これら両者20、31の密着性を向上させるためのSiO2層50が介在していることが好ましい。
このSiO2層50は、スパッタ法などにより形成できるものであり、その膜厚は、たとえば20nm程度とすることができる。これにより、ガスバリア層20と透明導電膜31との密着性が高まり、透明導電膜31をパターニングするときなどに有利である。
(第3実施形態)
図7は、本発明の第3実施形態に係る有機電子デバイス素子としてのカラー有機ELディスプレイ300の概略断面構成を示す図である。主として、上記第1実施形態との相違点を述べる。
本実施形態においても、基板11は、ガラス基板、樹脂製の基板(樹脂基板)等からなるが、本例では、基板11は、カリウムやナトリウムなどのアルカリ成分を含まない無アルカリガラスからなる透明基板11である。
この基板11の一面上には、上記実施形態と同様に、シャドウマスク(ブラックマトリックス)12、カラーフィルタ13が形成され、この上部に平坦化層として透明のオーバーコート層14が形成されている。
そして、オーバーコート層14の上には、カラーフィルタ層13およびオーバーコート層14の分解開始温度以下の温度にて原子層成長法を行うことにより、このオーバーコート層14を被覆するようにガスバリア層20が形成されている。
ここで、本実施形態においても、ガスバリア層20の下地部分すなわち本例では基板10、カラーフィルタ層13およびオーバーコート層14は、上記実施形態と同様に脱ガス処理を施されている。
そして、好ましい脱ガス処理温度は、当該脱ガス処理工程以降の工程にて基板11にかかる温度以上の温度であって且つカラーフィルタ層13の分解開始温度以下の温度であり、たとえば、200℃〜230℃の温度とできることは、上記した第1実施形態と同様である。
ここにおいて、本実施形態では、ガスバリア層20は、その下地から発生するガスを遮断するガス遮断層としての第1の膜21と、ガスバリア層20の形成工程以降の工程に使用される薬品に対する耐性を有する工程耐性層としての第2の膜22とが順次積層されてなるものである。
ここで、ガスバリア層20におけるガス遮断層としての第1の膜21は、具体的に、Al23、TiO2、SiN、SiO2、SiON、ZrO2、MgO、CaO、GeO2、HfO2およびZnOから選ばれる1種以上からなる無機膜とすることができる。
また、この第1の膜21の膜厚は、100nm以下好ましくは60nm以下とすることができる。本例では、第1の膜21は、約60nmの厚さで形成されたアルミナ(Al23)膜である。
ここで、この第1の膜21を形成する原子層成長法においては、カラーフィルタ層13、オーバーコート層14にダメージを与えない比較的低温で形成できるように、つまり、カラーフィルタ層13およびオーバーコート層14の分解開始温度以下の温度にて形成できるように、当該第1の膜21の原料として有機金属であるトリメチルアルミニウムを使用した。
ここにおいて、第1の膜21の成膜温度は100〜250℃程度にできる。この成膜温度は、カラーフィルタ層13およびオーバーコート層14の分解開始温度以下の温度とすること、および、ガスバリア層20の形成工程以降の工程にて基板11にかかる温度以上であること、を考慮したものであり、好ましくは、本例では200℃〜230℃であることが望ましい。
また、ガスバリア層20における工程耐性層としての第2の膜22は、水酸基(つまり、OH基)と結合して安定な水酸化物を作りにくい材料からなる。具体的に、第2の膜22は、TiO2、SiN、SiO2、SiON、Ta25から選ばれる1種以上からなる無機膜とすることができる。
また、このガスバリア層20における第2の膜22の膜厚は、5nm以上であることが好ましい。本例では、第2の膜22は、約5nmの厚さで形成されたチタニア(TiO2)である。
ここで、この工程耐性層としての第2の膜を形成する原子層成長法においては、カラーフィルタ層13、オーバーコート層14にダメージを与えない比較的低温で形成できるように、つまり、カラーフィルタ層13およびオーバーコート層14の分解開始温度以下の温度にて形成できるように、当該第2の膜22の原料として有機金属であるテトライソプロキシチタニュウムを使用した。
なお、第2の膜22の原料としてはテトライソプロキシチタニュウム以外にも、4塩化チタンでもよい。この第2の膜22の成膜温度は100〜250℃程度であることが望ましい。
また、図7に示されるように、本実施形態のカラー有機ELディスプレイ300においては、ガスバリア層20における第2の膜22と有機EL構造体30との間には、電気絶縁性を有する絶縁層23が介在されている。
この絶縁層23は、ガスバリア層20において第2の膜22が導電性を有するものであるときに、設けられるものである。本例では、第2の膜22は導電性のチタニア膜であるため、絶縁層23が設けられているが、第2の膜22が電気的な絶縁膜であるときは、絶縁層23は省略してもよい。
この絶縁層23は、SiN、SiO2、SiON、Ta25、AlN、MgO、CaO、GeO2から選ばれる1種以上からなるものである。本例では、この絶縁層23は、SiO2をスパッタリング法により20nm成膜したものである。
そして、本実施形態においても、基板11の一面上すなわちガスバリア層20の上には、有機電子デバイスとしての有機EL構造体30が形成されている。つまり、本実施形態においては、基板11における有機EL構造体30の形成される一面が、ガスバリア層20としての第1の膜21、第2の膜22、および絶縁層23により被覆されており、この絶縁層23の上に、有機EL構造体30が形成された形となっている。
本実施形態においても、この有機電子デバイスとしての有機EL構造体30は、互いに対向する一対の電極31、33間に有機発光材料を含む有機層32を配置してなる構造体である。
そして、本実施形態でも、この有機EL構造体30は、通常の有機EL素子に用いられる材料や膜構成を採用することができ、その具体的な構成についても、上記第1実施形態と同様のものにできる。
すなわち、本実施形態のカラー有機ELディスプレイ300では、絶縁層23の上に、ITO膜からなるストライプ状の陽極(下部電極)31が形成されており、また、フォトリソグラフィ法により絶縁膜40および隔壁41形成されている。
そして、陽極31の上に形成された有機層32としては、上記第1実施形態における具体例と同様のホール注入層、ホール輸送層、発光層、電子輸送層が順次形成されたものにできる。
そして、有機層32の上には、Alからなるストライプ状の陰極33が形成され、陽極31と陰極33とが重なり合う領域が表示画素として構成されたドットマトリクスディスプレイとしてのカラー有機ELディスプレイ300が構成されている。
このような本実施形態のカラー有機ELディスプレイ300は、基本的には上記第1実施形態のものと同様にして製造することができる。
ここで、本実施形態では、第1の膜21および第2の膜22からなるガスバリア層20、絶縁層23により、カラーフィルタ層13、オーバーコート層14の一面全域が被覆されている。そこで、上記実施形態と同様にしてガスバリア層20の下地部分に脱ガス処理を施した後、これら第1の膜21、第2の膜22、絶縁層23を形成する。
たとえば、アルミナからなる第1の膜21の原子層成長法による形成は、脱ガス、脱水処理した基板11を反応炉に入れ、その反応炉を真空雰囲気にし、気化したTMA(トリメチルアルミニウム)と気化したH2Oとを、N2ガス等のキャリアガスにより、反応炉へ交互に導入することで行われる。
また、チタニアからなる第2の膜22の原子層成長法による形成は、原料としてテトライソプロキシチタニュウムと純水を用いることのほかは、第1の膜21と同様の方法により行うことができる。
これら第1の膜21、第2の膜22の原子層成長法の成膜温度は、ガスバリア層20の形成工程以降の工程、すなわち有機EL構造体30の形成工程にて基板11にかかる温度以上であることが好ましく、上記第1実施形態におけるアルミナからなるガスバリア層20の成膜温度と同様に、100〜250℃程度、好ましくは、200℃〜230℃程度の成膜温度とすることができる。
また、これら第1の膜21、第2の膜22の原子層成長法による成膜の詳細については、従来より行われている一般的な原子層成長法を採用することができるため、ここでは省略する。
ところで、本実施形態によっても、上記実施形態と同様に、基板11上にカラーフィルタ層13、ガスバリア層20、および有機EL構造体30が順次積層されてなるカラー有機ELディスプレイにおいて、ガスバリア層20の下地部分は、脱ガス処理を施されたものであり、ガスバリア層20は、カラーフィルタ層13の分解開始温度以下の温度にて原子層成長法を行うことにより形成されたものであることを特徴とするカラー有機ELディスプレイ300が提供される。
それによれば、上記実施形態と同様に、脱ガス処理によりガスバリア層20の下地部分から出てくるガス量を極力小さいものとし、カラーフィルタ層13を劣化させることなくステップカバレージに優れ且つピンホールの少ないガスバリア層20を形成することができる。
そのため、本実施形態のカラー有機ELディスプレイ300においても、ガスバリア層20の下地部分から出てくるガスによる有機EL構造体30の劣化を適切に防止することができる。
さらに、本実施形態のカラー有機ELディスプレイ300では、ガスバリア層20が、その下地から発生するガスを遮断する第1の膜21と、ガスバリア層20の形成工程以降の工程に使用される薬品に対する耐性を有する第2の膜22とが順次積層されてなるものであることを特徴としている。
それによれば、ガスバリア層20は、第1の膜21によってガスバリア性を発揮するとともに、第2の膜22によってガスバリア層20の形成工程以降の工程に使用される薬品に対する耐性を有するため、ガスバリア層20の形成工程以降の工程に使用される薬品によるガスバリア層20のダメージを極力抑制することができる。
本実施形態のガスバリア層20における耐薬品性の具体的効果は以下の手法により確認した。
シリコン基板上に、第1の膜21としてのアルミナ膜を上記した本実施形態の低温原子層成長法により100nmの厚さで成膜したもの(これをサンプル1とする)と、このサンプル1に対してさらにアルミナ膜の上に、第2の膜22としてのチタニア膜を上記した本実施形態の低温原子層成長法により5nmの厚さで成膜したもの(これをサンプル2とする)とを作成した。
そして、これらサンプル1とサンプル2とを、70℃の温水に浸漬した後、その膜断面を電子顕微鏡で観察した。
その結果、アルミナ膜の上にチタニア膜を積層して成膜したサンプル2では、アルミナ膜およびチタニア膜の膜厚の変化はなかったが、アルミナ膜の単層構成であるサンプル1では、アルミナ膜の膜厚が減少し、膜表面も荒れているのが確認された。
つまり、本実施形態のように、ガスバリア層20を、ガス遮断層としての第1の膜21と、その上に形成された工程耐性層としての第2の膜22とからなるものとすれば、これら両膜21、22は、被覆性に優れ且つピンホールがほとんど無いため、カラーフィルタ層13やオーバーコート層14に微量に含まれる水分やガスをブロックするとともに、有機EL構造体30側へ侵入させることはなくなる。
また、本実施形態のカラー有機ELディスプレイ300においては、ガスバリア層20の下地部分を、脱ガス処理を施されたものとすることにより、下地部分から出てくるガス量を極力抑制し、そのようなガスによるガスバリア層20の膨らみを防止できることも、上記第1実施形態と同様である。
また、上述したが、ガスバリア層20において非晶質アルミナ膜に代表される第1の膜21は、アルカリや酸に対して極めて溶解しやすく、特に50℃以上の温水やアルカリ性洗剤やアルカリ処理液に対して、ダメージが生じやすい。
その点、本実施形態では、具体的に、ガスバリア層20における第2の膜22を、水酸基と結合して安定な水酸化物を作りにくい材料からなるもの、たとえばTiO2、SiN、SiO2、SiON、Ta25から選ばれる1種以上からなるものとすることで、アルカリや酸に対して難溶なものとし、耐薬品性を適切に発揮するようにしていることも特徴のひとつである。
また、本実施形態のカラー有機ELディスプレイ300においては、ガスバリア層20における第2の膜(22)の膜厚は、5nm以上であることが好ましいが、これは本発明者らの検討により実験的に確認されたもので、5nm以上であれば、第2の膜22による耐薬品性を適切に発揮できる。
また、本実施形態のカラー有機ELディスプレイ300においては、ガスバリア層20において、第2の膜22が導電性を有するものであるとき、第2の膜22と有機EL構造体30との間には電気絶縁性を有する絶縁層23が介在されていることも特徴のひとつである。
通常、ガスバリア層20の上に形成される有機EL構造体30においては、ガスバリア層20の直上の膜は、導電性を有する電極膜すなわち上記陽極31であり、このような場合、第2の膜22が導電性であると、第2の膜22と有機EL構造体30とが導通し短絡する。
その点、本実施形態のように、ガスバリア層20の直上層を電気絶縁性を有する絶縁層23、たとえば、SiN、SiO2、SiON、Ta25、AlN、MgO、CaO、GeO2から選ばれる1種以上からなる絶縁層23とすれば、ガスバリア層20と有機EL構造体30との電気的な短絡を防止できる。
また、上述したが、本発明者らの検討によれば、カラー有機ELディスプレイにおいて、基板11としてソーダガラス基板を用いた場合、ガスバリア層20形成工程の後の基板洗浄や熱処理、電極形成を行ったとき、ガスバリア層20とガラス基板11の間で発泡剥離現象が発生することがわかっている。
このような問題に対して、本実施形態のカラー有機ELディスプレイ300においては、基板11を無アルカリガラスからなるものしたことも特徴のひとつである。
本発明者らが、ガスバリア層20とガラス基板11の間の発泡剥離現象を分析した結果、基板の水洗浄、成膜時や基板処理時の熱により、ソーダガラスのアルカリ成分が析出し、そのアルカリ成分がガスバリア層20とガラス基板11の間の密着力を低下させていることがわかった。
そこで、基板11として、カリウムやナトリウムなどのアルカリ成分を含まない無アルカリガラスからなるものを用いれば、そのようなソーダガラス基板を用いた場合におけるガスバリア層20の剥離を防止することができる。
なお、この基板11とガスバリア層20との剥離の問題に対しては、基板11として、ガラス基板をアルカリ成分を含まない無機膜で被覆したものを採用することによっても対策が図られる。
それによれば、基板の水洗浄、成膜時や基板処理時の熱により、ソーダガラスのアルカリ成分が析出しようとするのを無機膜によって防止できるため、上記した無アルカリガラスを基板11として用いた場合と同様に、ソーダガラス基板を用いた場合におけるガスバリア層20の剥離を防止することができる。
また、本実施形態によれば、上記実施形態と同様に、基板11上にカラーフィルタ層13、ガスバリア層20、および有機EL構造体30が順次積層されてなるカラー有機ELディスプレイ300の製造方法において、ガスバリア層20の下地部分に、脱ガス処理を施した後、カラーフィルタ層13の分解開始温度以下の温度にて減圧下で原料ガスを交互に供給して薄膜を形成する原子層成長法を行うことにより、ガスバリア層20を形成することを特徴とする製造方法が提供される。
また、本実施形態の製造方法において、ガスバリア層20の形成温度が、好ましくはカラーフィルタ層13およびオーバーコート層14の分解開始温度以下の温度であり、より好ましくはさらにガスバリア層20形成工程以降の工程にて基板11にかかる温度以上であることも、上記実施形態と同様である。
また、本実施形態の製造方法において、好ましい脱ガス処理温度は、当該脱ガス処理工程以降の工程にて基板11にかかる温度以上の温度であって且つカラーフィルタ層13の分解開始温度以下の温度であることや、脱ガス処理工程の好ましい雰囲気は乾燥雰囲気であることや、脱ガス処理工程の後ガスバリア層20形成工程までの間、基板11を一貫して乾燥雰囲気中にて保持することが好ましいことも、上記実施形態の製造方法と同様である。
そして、本実施形態においては、上記図7に示されるカラー有機ELディスプレイ300を適切に製造する製造方法として、ガスバリア層20として、その下地から発生するガスを遮断する第1の膜21と、ガスバリア層20の形成工程以降の工程に使用される薬品に対する耐性を有する第2の膜22とを順次積層して形成することを特徴とする製造方法が提供される。
また、本実施形態のカラー有機ELディスプレイ300の製造方法においては、ガスバリア層20における第1の膜21として、Al23、TiO2、SiN、SiO2、SiON、ZrO2、MgO、CaO、GeO2、HfO2およびZnOから選ばれる1種以上からなるものを用いることも特徴のひとつである。
また、本実施形態のカラー有機ELディスプレイ300の製造方法においては、ガスバリア層20における第2の膜22として、TiO2、SiN、SiO2、SiON、Ta25から選ばれる1種以上からなるものを用いることも特徴のひとつである。
さらに、本実施形態のカラー有機ELディスプレイ300の製造方法においては、ガスバリア層20を形成する原子層成長法の成膜温度としては、200℃以上であることが好ましい。
本発明者らの検討によれば、ガスバリア層20を形成する原子層成長法の成膜温度は、200℃以上とすれば、ガスバリア層20の密着力が向上し、ソーダガラス基板を用いた場合でもガスバリア層20の剥離を防止できる。
(他の実施形態)
なお、上記第1実施形態にて説明した各々の好ましい形態、たとえば、脱ガス処理の脱離水分子数に関する規定、ガスバリア層の応力低減のための膜厚に関する規定、ガスバリア層の密着性のための接触角に関する規定などは、上記第1実施形態に限らず、それ以外の上記実施形態においても、適宜採用が可能であることはもちろんである。
また、本発明のカラー有機ELディスプレイは、基板上に、少なくとも、カラーフィルタ層、ガスバリア層、および有機EL構造体が順次積層されていればよく、これらのみの積層構造でもよく、上述のオーバーコート層やそれ以外の層が、さらに介在していていてもよい。
また、有機EL構造体の構成は、上述した具体例に限定されるものではなく、通常の有機EL構造体に用いられる材料や膜構成、あるいは、将来的にも有機EL構造体に用いられることの可能な材料や膜構成を採用することができる。
要するに、本発明は、基板上にカラーフィルタ層、ガスバリア層、および有機EL構造体が順次積層されてなるカラー有機ELディスプレイにおいて、ガスバリア層の下地部分に、脱ガス処理を施し、ガスバリア層を、カラーフィルタ層の分解開始温度以下の温度にて原子層成長法を行うことにより形成したことを要部とするものであり、その他の部分については、適宜設計変更が可能である。
本発明の第1実施形態に係るカラー有機ELディスプレイの概略断面構成を示す図である。 図1中のA−A一点鎖線に沿った概略断面構成を示す図である。 上記第1実施形態に係るTDS分析の結果を示す図である。 脱ガス処理時間と脱離水分量との関係を示す図である。 Al23薄膜およびTiO2/Al23積層膜について、全応力と膜厚との関係を示す図である。 本発明の第2実施形態に係るカラー有機ELディスプレイの概略断面構成を示す図である。 本発明の第3実施形態に係るカラー有機ELディスプレイの概略断面構成を示す図である。
符号の説明
11…基板、13…カラーフィルタ層、14…オーバーコート層、
20…ガスバリア層、21…ガスバリア層の第1の膜、
22…ガスバリア層の第2の膜、30…有機EL構造体、
31…透明導電膜としての陽極、
50…SiO2層。

Claims (35)

  1. 基板(11)上にカラーフィルタ層(13)、ガスバリア層(20)、および有機EL構造体(30)が順次積層されてなるカラー有機ELディスプレイにおいて、
    前記ガスバリア層(20)の下地部分は、脱ガス処理を施されたものであり、
    前記ガスバリア層(20)は、前記カラーフィルタ層(13)の分解開始温度以下の温度にて原子層成長法を行うことにより形成されたものであることを特徴とするカラー有機ELディスプレイ。
  2. 前記カラーフィルタ層(13)と前記ガスバリア層(20)との間には、有機材料からなるオーバーコート層(14)が介在しており、
    前記ガスバリア層(20)は、前記カラーフィルタ層(13)および前記オーバーコート層(14)の分解開始温度以下の温度にて形成されたものであることを特徴とする請求項1に記載のカラー有機ELディスプレイ。
  3. 前記カラーフィルタ層(13)および前記オーバーコート層(14)中から真空中にて200℃で保持することにより放出される脱離水分子数が、2×1016個/mm3以下であることを特徴とする請求項2に記載のカラー有機ELディスプレイ。
  4. 前記ガスバリア層(20)は、Al23、TiO2、SiN、SiO2、SiON、ZrO2、MgO、CaO、GeO2、HfO2およびZnOから選ばれる1種以上からなるものであることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1つに記載のカラー有機ELディスプレイ。
  5. 前記ガスバリア層(20)の膜厚は、100nm以下であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1つに記載のカラー有機ELディスプレイ。
  6. 前記ガスバリア層(20)の膜厚は、60nm以下であることを特徴とする請求項5に記載のカラー有機ELディスプレイ。
  7. 前記ガスバリア層(20)は、Al23とTiO2との2層以上の積層膜にて構成されたものであることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1つに記載のカラー有機ELディスプレイ。
  8. 前記ガスバリア層(20)を構成するAl23とTiO2との前記積層膜において、Al23、TiO2のそれぞれの膜厚x(m)、y(m)は、
    37≧3×108×x+1.4×109×y
    の関係を満足することを特徴とする請求項7に記載のカラー有機ELディスプレイ。
  9. 前記ガスバリア層(20)の下地部分の表面における接触角は、10°以下であることを特徴とする請求項1ないし8のいずれか1つに記載のカラー有機ELディスプレイ。
  10. 前記基板(11)は樹脂基板であることを特徴とする請求項1ないし9のいずれか1つに記載のカラー有機ELディスプレイ。
  11. 前記ガスバリア層(20)の上には、前記有機EL構造体(30)を構成する透明導電膜(31)が形成されており、
    前記ガスバリア層(20)と前記透明導電膜(31)との間には、これら両者の密着性を向上させるためのSiO2層(50)が介在していることを特徴とする請求項1ないし10のいずれか1つに記載のカラー有機ELディスプレイ。
  12. 前記ガスバリア層(20)は、その下地から発生するガスを遮断する第1の膜(21)と、前記ガスバリア層(20)の形成工程以降の工程に使用される薬品に対する耐性を有する第2の膜(22)とが順次積層されてなるものであることを特徴とする請求項1ないし11のいずれか1つに記載のカラー有機ELディスプレイ。
  13. 前記ガスバリア層(20)における前記第1の膜(21)は、Al23、TiO2、SiN、SiO2、SiON、ZrO2、MgO、CaO、GeO2、HfO2およびZnOから選ばれる1種以上からなるものであることを特徴とする請求項12に記載のカラー有機ELディスプレイ。
  14. 前記ガスバリア層(20)における前記第2の膜(22)は、水酸基と結合して安定な水酸化物を作りにくい材料からなることを特徴とする請求項12または13に記載のカラー有機ELディスプレイ。
  15. 前記ガスバリア層(20)における前記第2の膜(22)は、TiO2、SiN、SiO2、SiON、Ta25から選ばれる1種以上からなるものであることを特徴とする請求項14に記載のカラー有機ELディスプレイ。
  16. 前記ガスバリア層(20)における前記第2の膜(22)の膜厚が、5nm以上であることを特徴とする請求項12ないし15のいずれか1つに記載のカラー有機ELディスプレイ。
  17. 前記ガスバリア層(20)において、前記第2の膜(22)が導電性を有するものであるとき、
    前記ガスバリア層(20)における前記第2の膜(22)と前記有機EL構造体(30)との間には、電気絶縁性を有する絶縁層(23)が介在されていることを特徴とする請求項12ないし16のいずれか1つに記載のカラー有機ELディスプレイ。
  18. 前記絶縁層(23)は、SiN、SiO2、SiON、Ta25、AlN、MgO、CaO、GeO2から選ばれる1種以上からなるものであることを特徴とする請求項17に記載のカラー有機ELディスプレイ。
  19. 前記基板(11)は、無アルカリガラスからなるものであることを特徴とする請求項1ないし18のいずれか1つに記載のカラー有機ELディスプレイ。
  20. 前記基板(11)は、ガラス基板をアルカリ成分を含まない無機膜で被覆したものであることを特徴とする請求項1ないし18のいずれか1つに記載のカラー有機ELディスプレイ。
  21. 基板(11)上にカラーフィルタ層(13)、ガスバリア層(20)、および有機EL構造体(30)が順次積層されてなるカラー有機ELディスプレイの製造方法において、
    前記ガスバリア層(20)の下地部分に、脱ガス処理を施した後、
    前記カラーフィルタ層(13)の分解開始温度以下の温度にて減圧下で原料ガスを交互に供給して薄膜を形成する原子層成長法を行うことにより、前記ガスバリア層(20)を形成することを特徴とするカラー有機ELディスプレイの製造方法。
  22. 前記カラーフィルタ層(13)と前記ガスバリア層(20)との間には、有機材料からなるオーバーコート層(14)が介在しており、
    前記カラーフィルタ層(13)および前記オーバーコート層(14)の分解開始温度以下の温度にて、前記ガスバリア層(20)を形成することを特徴とする請求項21に記載のカラー有機ELディスプレイの製造方法。
  23. 前記脱ガス処理温度は、当該脱ガス処理工程以降の工程にて前記基板(11)にかかる温度以上の温度であって且つ前記カラーフィルタ層(13)の分解開始温度以下の温度であることを特徴とする請求項21または22に記載のカラー有機ELディスプレイの製造方法。
  24. 前記脱ガス処理工程を乾燥雰囲気中で行うことを特徴とする請求項21ないし23のいずれか1つに記載のカラー有機ELディスプレイの製造方法。
  25. 前記脱ガス処理は、前記ガスバリア層(20)の下地部分としての前記カラーフィルタ層(13)および前記オーバーコート層(14)を、真空中にて200℃で保持することにより行い、
    前記脱ガス処理された前記カラーフィルタ層(13)および前記オーバーコート層(14)中から真空中にて200℃で保持することにより放出される脱離水分子数を、2×1016個/mm3以下とすることを特徴とする請求項22に記載のカラー有機ELディスプレイの製造方法。
  26. 前記脱ガス処理工程の後、前記ガスバリア層(20)の形成工程までの間、前記基板(11)を一貫して乾燥雰囲気中にて保持することを特徴とする請求項21ないし25のいずれか1つに記載のカラー有機ELディスプレイの製造方法。
  27. 前記ガスバリア層(20)を形成する原子層成長法の成膜温度は、前記ガスバリア層(20)の形成工程以降の工程にて前記基板(11)にかかる温度以上であることを特徴とする請求項21ないし26のいずれか1つに記載のカラー有機ELディスプレイの製造方法。
  28. 前記ガスバリア層(20)として、Al23、TiO2、SiN、SiO2、SiON、ZrO2、MgO、CaO、GeO2、HfO2およびZnOから選ばれる1種以上からなるものを用いることを特徴とする請求項21ないし27のいずれか1つに記載のカラー有機ELディスプレイの製造方法。
  29. 前記ガスバリア層(20)として、Al23とTiO2との2層以上の積層膜にて構成されたものを用いることを特徴とする請求項21ないし27のいずれか1つに記載のカラー有機ELディスプレイの製造方法。
  30. 前記ガスバリア層(20)を構成するAl23とTiO2との前記積層膜において、Al23、TiO2のそれぞれの膜厚x(m)、y(m)を、
    37≧3×108×x+1.4×109×y
    の関係を満足するように前記ガスバリア層(20)を形成することを特徴とする請求項29に記載のカラー有機ELディスプレイの製造方法。
  31. 前記ガスバリア層(20)の下地部分の表面における接触角を10°以下にした後、前記ガスバリア層(20)を形成することを特徴とする請求項21ないし30のいずれか1つに記載のカラー有機ELディスプレイの製造方法。
  32. 前記ガスバリア層(20)として、その下地から発生するガスを遮断する第1の膜(21)と、前記ガスバリア層(20)の形成工程以降の工程に使用される薬品に対する耐性を有する第2の膜(22)とを順次、積層して形成することを特徴とする請求項21ないし31のいずれか1つに記載のカラー有機ELディスプレイの製造方法。
  33. 前記ガスバリア層(20)における前記第1の膜(21)として、Al23、TiO2、SiN、SiO2、SiON、ZrO2、MgO、CaO、GeO2、HfO2およびZnOから選ばれる1種以上からなるものを用いることを特徴とする請求項32に記載のカラー有機ELディスプレイの製造方法。
  34. 前記ガスバリア層(20)における前記第2の膜(22)として、TiO2、SiN、SiO2、SiON、Ta25から選ばれる1種以上からなるものを用いることを特徴とする請求項32または33に記載のカラー有機ELディスプレイの製造方法。
  35. 前記ガスバリア層(20)を形成する原子層成長法の成膜温度は、200℃以上であることを特徴とする請求項21ないし34のいずれか1つに記載のカラー有機ELディスプレイの製造方法。
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