JP2006249137A - バインダー繊維用ポリエステル - Google Patents

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Abstract

【課題】 操業性に優れ、かつ寸法安定性、および色調の良好なバインダー繊維の製造に好適なポリエステルを提供する。
【解決手段】 ポリエステルの全酸成分に対して、テレフタル酸が70〜85mol%、コハク酸が5〜20mol%、イソフタル酸が2〜15mol%であり、全ジオール成分に対して、エチレングリコールが20〜80mol%、1,4−ブタンジオールが80〜20mol%である構成からなり、融点が120〜170℃、ガラス転移温度が25〜80℃以上、昇温結晶化時の発熱量が5〜50J/gであることを特徴とするバインダー繊維用共重合ポリエステル。
【選択図】 なし

Description

本発明は、バインダー繊維用ポリエステルに関するものである。
近年、ルーフィング資材、自動車内装材、カーペットの基布等に用いる不織布、枕やマットレス等の寝装用品の詰物、キルティング用の中入れ綿等の繊維構造物において、構成繊維(主体繊維という)相互間を接着する目的でホットメルト型バインダー繊維が広く使用されている。
そして、主体繊維としては、比較的安価で優れた諸物性を有するポリエステル繊維が広く使用されており、これを接着するバインダー繊維もポリエステル系のものが好ましく、種々のポリエステル系バインダー繊維及びそれを用いて接着したポリエステル繊維構造物が提案されている。(例えば、特許文献1参照)
ところで、ポリエステル系バインダー繊維は、一般に共重合ポリエステルが用いられているため、明確な結晶融点を示さないものが多く、通常90〜200℃で軟化する。この場合、その軟化点以上であり、かつ主体繊維の融点未満である温度領域で熱処理し主体繊維相互間を熱接着させる。中でも、接着温度としては、100〜170℃のバインダー繊維が一般に広く用いられており、これらバインダー繊維用に好適なポリマーとして、ポリマー組成がいくつか提案されている。(例えば、特許文献2参照)
しかし、明確な結晶融点を示さないポリマーを用いて、上記接着温度範囲のバインダー繊維を製造した場合、通常100℃以上で実施される緊張熱処理工程が繊維の融解・膠着により実施できないため、長期保管時や熱接着時に繊維の収縮が大きくなり、これを高混合比率で使用した製品は、寸法安定性が悪くなるという問題があった。
そこで上記問題を回避する手段として、明確な結晶融点を示す共重合ポリエステルからなるバインダー繊維も提案されている。(例えば、特許文献3参照)
明確な結晶融点を示すポリマーを用いた場合、一般的には緊張熱処理を施すことで寸法安定性の良好なバインダー繊維を得ることができる。
しかしながら構成成分によっては、例えば比較的安価であり広く用いられる脂肪族酸であるアジピン酸を共重合した場合、ポリエステルの結晶性は良好であるが、ポリエステルのガラス転移温度や溶融粘度の低下が著しいため、重合したポリエステルをストランド状に払い出してチップ化する際、カッターブレードへのポリエステルの固着や、ストランド間の融着等が発生したり、あるいは紡糸の際に単糸間が融着し、糸切れが発生するなど、操業性に問題が生じる場合があった。
これに対し、溶融粘度の低下を回避するため、比較的低温で重合可能なチタン系の重合触媒を用いた場合では、アジピン酸共重合ポリエステルは顕著に着色するため、これよりなるバインダー繊維を用いて形成した繊維構造体は、用途が限定されるという問題もあった。
また、ジオール成分として、1,4−ブタンジオールを含むことを特徴とするバインダー繊維も提案されている。(例えば、特許文献4参照)しかしこの場合、ジオール成分が1,4−ブタンジオールのみからなるため、重縮合反応時に反応温度を280℃程度の高温にすると熱分解反応が進み重合度が上昇せず、一方、反応温度を260℃程度とすると高重合度のポリマーを得るには長時間を要するという問題があった。また、バインダー繊維とする時、ジオール成分が1,4−ブタンジオールのみであるため、熱安定性が悪く、紡糸時に糸切れが多発して操業性が悪く、最終的にポリマーコストが上昇するという弊害もあった。
米国特許第4129675号 特開平7−34327号公報 特開平10−298271号公報 特開昭53−82840号公報
本発明は、寸法安定性および色調が良好で、広範な用途に使用可能な接着温度を有するバインダー繊維を、操業性よく製造できるための好適なポリエステルを提供しようとするものである。
本発明者は、上記の課題を解決するために鋭意検討した結果、本発明に到達した。
すなわち、本発明は、以下の構成を要旨とするものである。
(a)ポリエステルの全酸成分に対して、テレフタル酸が70〜85mol%、コハク酸が5〜20mol%、イソフタル酸が2〜15mol%であり、全ジオール成分に対して、エチレングリコールが20〜80mol%、1,4−ブタンジオールが80〜20mol%である構成からなり、融点が120〜170℃、ガラス転移温度が25〜80℃以上、昇温結晶化時の発熱量が5〜50J/gであることを特徴とするバインダー繊維用共重合ポリエステル。
本発明のバインダー繊維用ポリエステルを用いることにより、寸法安定性および色調に優れたバインダー繊維を操業性良く得ることができる。
以下、本発明について詳細に説明する。本発明のバインダー繊維用ポリエステル(以下、本発明のポリエステルと略記することがある)としては、主たる酸成分として、テレフタル酸(以下、TPAと略す)、コハク酸(以下、SUと略す)、およびイソフタル酸(以下、IPAと略す)を、また主たるジオール成分として、エチレングリコール(以下、EGと略す)および1,4−ブタンジオール(以下、BDと略す)を共重合させてなるポリエステルである。
本発明においてTPAの共重合量としては、全酸成分に対し70〜85mol%である。共重合量が70mol%未満の場合、ポリエステルの融点が低くなると共に、ポリエステルの結晶性が損なわれることとなり本発明の効果が失われる。また、共重合量が85mol%を超える場合、ポリマーの変性の度合いが不足してポリエステルの融点が高くなりすぎ、汎用の加熱設備では加熱接着が困難となるため本発明の効果が失われる。
また、本発明におけるSUの共重合量としては、全酸成分に対し5〜20mol%であり、10〜15mol%の範囲内にあることが好ましい。共重合量が5mol%未満の場合、ポリマーの変性の度合いが不足してポリエステルの融点が高くなりすぎ、汎用の加工設備では加熱接着が困難となるか、あるいは、該融点を下げるために他の共重合成分比率を増やすことをした場合、ポリエステルの結晶性が損なわれることとなり、本発明の効果が失われる。一方、共重合量が20mol%を超えると、ポリエステルのガラス転移温度や溶融粘度が低くなりすぎるため、融着や膠着等が発生してポリエステルや繊維製造時の操業性が悪化する。あるいは該ガラス転移温度を維持するためにジオール成分中のBD比を下げたり、剛直な構造を有する他のグリコール成分を共重合したりした場合、ポリエステルの結晶性が不足して緊張熱処理を実施できなくなるため、寸法安定性の良好な不織布が得られなくなり、本発明の効果が損なわれる。
さらに、本発明におけるIPAの共重合量としては、全酸成分に対し2〜15mol%であり、5〜10mol%であることが好ましい。2mol%未満の場合、ポリマーの変成の度合いが不足してポリエステルの融点が高くなりすぎ、汎用の加工設備では加熱接着が困難となるか、あるいはこれを回避するべく他の共重合成分のモル%を上げた場合、ガラス転移温度や溶融粘度が低下し、操業性の悪化を招くため、本発明の効果が損なわれる。また、共重合量が15mol%を超えると、ポリエステルの結晶性が乏しくなり、緊張熱処理が困難になるため、本発明の目的が損なわれる。
一方ジオール成分については、EG、BDとも共重合量としては、全ジオール成分に対し、20〜80mol%の範囲内である。該ジオール成分の少なくともいずれかがこの範囲をはずれると、ポリエステルの融点が高くなるため、接着時の加工温度が高くなり汎用の設備では加工が困難となったり、特にBDが過剰となった場合には、ガラス転移温度が低下して、ポリエステル製造時や紡糸時の操業性が悪化したりする場合があるため好ましくない。
なお、本発明の目的を損なわない程度であれば、他の成分を共重合してもよい。例えば、酸成分として、フタル酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、4,4‘−ビフェニルジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸等を共重合してもよいし、またジオール成分として、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、1,5−ペンタメチレンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ネオペンチルグリコール、ビスフェノールAまたはビスフェノールSのエチレンオキシド付加体等を共重合してもよい。あるいは、乳酸、4−ヒドロキシ安息香酸等のヒドロキシカルボン酸類を併用してもよい。
本発明のポリエステルの融点としては、120〜170℃であり、好ましくは130〜160℃、より好ましくは135〜150℃の範囲である。ポリエステルの融点が120℃未満の場合、ポリエステルの耐熱性が悪いため、溶融紡糸の際において極限粘度の低下が大きく、十分な強度を有するバインダー繊維が得られなくなるため好ましくない。一方、本発明のポリエステルの融点が170℃を超える場合、汎用の加工設備では加熱接着が困難となるため操業性が問題となり、本発明の目的が損なわれるため好ましくない。
本発明のポリエステルのガラス転移温度としては、25〜80℃である。該ガラス転移温度が25℃未満の場合、ポリエステルのチップ化や貯蔵・運搬の際に、チップ化装置へのポリエステルの融着やブロッキングの発生頻度が高くなり、さらに、紡糸時には単糸間の融着が生じ易くなるため、操業性が悪化し本発明の効果が失われる。また、上限としての80℃を超える場合、ポリマーの溶融粘度が高くなり、高重合度化や払い出しが困難となるため好ましくない。
本発明のポリエステルの結晶化発熱量としては、示差走査型熱量計で測定した昇温時において、5〜50J/gであり、10〜45J/gであることが好ましく、15〜40J/gであることがより好ましい。発熱量が5J/g未満の場合、結晶性が不十分であり、緊張熱処理時に繊維の膠着や装置への融着が発生して実施が困難となったり、熱固定の効果が不十分となるため、このポリエステルからなるバインダー繊維、およびバインダー繊維を用いてなる繊維構造体は寸法安定性が損なわれ、本発明の効果が失われるばかりか、ポリエステルのチップ化や貯蔵・運搬、および乾燥工程においてもブロッキングが生じやすくなるといった問題が生じる。一方、結晶化発熱量が50J/gを超える場合、製糸工程等における操業性が悪化するおそれがあるため好ましくない。
本発明のポリエステルの極限粘度としては、0.5以上であることが好ましい。極限粘度が0.5未満のものでは、各種の物理的、機械的、化学的特性が劣るとともに、紡糸性が損なわれるため好ましくない。一方、極限粘度が高すぎても、溶融粘度が高くなるため押出が困難になったり、また溶融粘度を下げるべく紡糸温度を上げると、ポリエステルの熱分解が顕著になったりするなど紡糸が困難になることから、実用上、1.5以下であることが好ましい。
本発明のポリエステルとしては、本発明の効果を損なわない範囲内で、タルク、シリカ、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのような無機または有機系結晶核剤、ヒンダードフェノール化合物のような安定剤、コバルト化合物、蛍光増白剤、染料のような色調改良剤、二酸化チタンのような艶消し剤、顔料、制電剤、難燃剤、易染化剤などの各種添加剤が1種類または2種類以上添加されていてもよい。
本発明のポリエステルは通常の方法により製造することができる。すなわち、ジカルボン酸成分とジオール成分とをエステル化反応またはエステル交換反応させた後、重縮合反応を行って所定のポリエステルを製造することができる。具体的には、重縮合反応は通常0.01〜10hPa程度の減圧下、220〜280℃の温度域で、所定の極限粘度のものが得られるまで行われる。また、当該重縮合反応は触媒存在下で行われ、触媒としては従来一般に用いられているアンチモン、ゲルマニウム、スズ、チタン、亜鉛、アルミニウム、マグネシウム、カリウム、カルシウム、ナトリウム、マンガンおよびコバルト等の金属化合物のほか、スルホサリチル酸、o-スルホ安息香酸無水物等の有機スルホン酸化合物が用いられる。触媒の添加量としては、ポリエステルの繰り返し単位1molに対し、通常0.1×10−4〜100×10−4mol、好ましくは0.5×10−4〜50×10−4mol、より好ましくには1×10−4〜10×10−4molである。また各種添加剤についても本発明を損なわない範囲で使用することができ、粉体またはジオールスラリー等の形態で、ポリエステルを製造する際の任意の段階で添加すればよい。例えば、エステル化またはエステル交換反応時に添加してもよいし、重縮合反応の段階で添加してもよい。本発明における重縮合反応では、ポリエステルが所定の極限粘度に到達したのを確認したことをもって終了させ、その後ストランド状に払い出して、冷却カットすることによりチップ化する。
上記のようにして得られた本発明のポリエステルは、常法に従って、乾燥、溶融紡糸・延伸を行いバインダー繊維とすることができる。さらに、必要に応じて捲縮を与えた後、所定の長さに切断することにより短繊維状のバインダー繊維とすることができる。また、本発明におけるバインダー繊維としては、本発明のポリエステルのみからなる単一構成としてもよいし、本発明のポリエステルが繊維表面の一部または全部を形成してなる芯鞘型、サイドバイサイド型、海島型等の複合繊維としてもよい。
短繊維状で得られたバインダー繊維は、捲縮加工を施したポリエステルテレフタレート(以下、PETと略す)短繊維と適当な質量比で混綿し、カードを通過させてウエブを形成した後、熱接着処理を施すことで不織布に成形することができる。
以上のように本発明の要所とするところは、汎用的なポリエステルの構成成分であるTPA、EGに、比較的短鎖の脂肪族成分であるSUおよびBD成分と、芳香族成分であるIPAを共重合させた多成分構成でありながら、従来の技術ではなし得なかった、バインダー繊維に要求される融点、高結晶性と、ポリマーおよび繊維の製造工程における操業性の面で要求される適度なガラス転移温度とを両立させるための好適な共重合比を見出したことにある。
すなわち、本発明では、本発明で規定された共重合組成を有することで初めて、従来のTPA/AD/BD系等の3成分系や、TPA/AD/EG/BD系やTPA/IPA/AD/EG系等の4成分系では到底到達できない、また5成分系においても、最適な比率を見出すことが困難なためこれまで容易に達成し得ていない、低融点、高結晶性、好適なガラス転移温度、さらには良好な色調の全てを、バランスよく満足しうるバインダー繊維用ポリエステルを、従来のポリエステル製造方法と同等の条件下で、比較的安価に得られることとなった。
次に、実施例をあげて本発明を具体的に説明するが、これに限定されるものではない。
なお、特性値等の測定、評価方法については、以下の通りである。
(a)極限粘度[η]
フェノールと四塩化エタンとの等質量混合物を溶媒として、試料濃度0.5質量%、温度20℃の条件下で常法に基づき測定した。
(b)融点(Tm)、ガラス転移温度(Tg)、および、結晶化時の発熱量(ΔH)
パーキンエルマー社製示差走査型熱量計DSC−7型を用いて、窒素気流中、昇温速度20℃/minで測定した。
(c)酸・グリコールの共重合量
ポリエステルを重水素化ヘキサフルオロイソプロパノールと重水素化クロロホルムとの容量比 1/20の混合溶媒に溶解させ、日本電子社製LA−400型NMR装置にてH-NMRを測定し、得られたチャートにおいて、プロトンのピークの積分強度から、各成分の共重合量を求めた。
(d)色調
チップの色調は、日本電色工業社製の色差計ND-Σ80型を用いて測定した。
色調の判定は、ハンターのLab表色計で行った。L値は明度(値が大きい程明るい)、a値は赤−緑系の色相(+は赤味、−は緑味)、b値は黄−青系(+は黄味、−は青味)を表す。a値0未満、b値10未満を合格(○)とし、a値またはb値が前記範囲を超えるポリエステルについては不合格(×)とした。
(e)操業性
(e)−1 チップ化
重合したポリエステルをAUTOMATIK社製USG−600型カッターでチップ化する際、フィードローラーまたはカッターブレードへのポリエステルの巻き付きや、ストランド間の密着による連チップの発生等により、カッターの運転を中断した場合を×、融着等の問題は生じながらも、カッターの運転を中断することなくチップ化できた場合を○、融着による問題が生じることなくチップ化できた場合を◎とし、○および◎を合格とした
(e)−2 チップのブロッキング
チップの貯蔵・運搬、および乾燥工程で、手で触れても崩れないブロック状物や壁面への融着物が生じた場合を×、ブロック状の塊や壁面への付着物があるものの、手で触れたり、ハンマー等により壁面へ衝撃を加えることによりそれらが解消される程度である場合を○、塊状物や壁面への融着物が全く発生しなかった場合を◎とし、○および◎を合格とした
(e)−3 紡糸性
紡糸時に単糸どうしが融着して糸切れが発生したり、ボビンに巻き取った糸状物が膠着して解舒できない場合を不合格(×)、それら問題が生じることなく、延伸工程に進むことができた場合を合格(○)とした
(e)−4 緊張熱処理
ヒートドラムへの糸状の融着により、熱固定が実施できなかった場合を不合格(×)、融着が生じることなく熱固定できた場合を合格(○)とした。
(f)不織布の寸法安定性(面積収縮率)
面積A0(20cm×20cm=400cm)の不織布を、100℃に維持した熱風乾燥機中に20分間放置し、この熱処理後の不織布の面積A1 と面積A0から下記式により面積収縮率を求め、寸法安定性として評価した。なお、面積収縮率が2〜5%であるものを○、2%未満を◎、5%を越える場合を×とし、○および◎を合格とした。
面積収縮率(%)=〔(A0−A1)/A0〕×100
(実施例1)
PETオリゴマーの存在するエステル化反応缶に、TPAとEG(モル比1/1.6)のスラリーを連続的に供給し、温度250℃、圧力0.02MPaの条件で反応させ、滞留時間を8時間として、エステル化反応率95%のPETオリゴマーを連続的に得た。このPETオリゴマー40kgを重縮合反応缶に移送し、IPAを2kg、SUを4.5kg、BDを20kg、それぞれ記載した順序で重縮合反応缶に投入し、温度240℃、常圧下で1時間撹拌した。次いで、艶消し剤として二酸化チタンの34質量%EGスラリーを0.6kg、重縮合触媒としてテトラブチルチタネートの4質量%EG液を1.5kg、重縮合缶に投入した後、反応器内の圧力を徐々に減じ、70分後に1.2hPa以下にした。この条件下で撹拌しながら重縮合反応を3時間行い、極限粘度が0.5以上の所望の値に相当する撹拌動力値に到達したことを確認し、反応を終了させた後、常法によりストランド状に払出し、チップ化した。得られたポリエステルの組成、特性値、チップ化および貯蔵・乾燥時の操業性を表1に示した。
次いで、このポリエステルを常法により乾燥させた後、通常の溶融紡糸装置を用いて紡糸温度230℃、吐出量227g/分で溶融紡糸し、冷却後、700m/分の速度で捲取り、未延伸糸を得た。この未延伸糸を11万dtexのトウに集束し、延伸温度62℃、延伸倍率3.2で延伸し、110℃で緊張熱処理し、押し込み式クリンパーで捲縮を与えた後、長さ51mmに切断して、単糸繊度4.4dtexのバインダー繊維(短繊維)を得た。紡糸工程および延伸時の緊張熱処理工程での操業性を表1に示した。
このバインダー繊維(短繊維)と中空断面のPET短繊維(繊度6.6dtex、カット長51mm、中空率27%)を30/70の質量比で混綿し、カード機に通し、クロスラッパーで積層して、800g/m目付のウエブとした。さらにこのウエブを1cmの厚さのスペーサーを挟んだ金網どうしの間に入れ、厚さを規制しつつ、熱風循環ドライヤーで風量57m/分、ポリエステル融点+10℃の温度(本実施例では155℃)で5分間熱処理し、ドライヤーから取り出した後、コールドプレス機を用いて2分で常温に戻して不織布を得た。作成した不織布の寸法安定性を表1に示した。
(実施例2〜5、比較例1〜4)
各共重合成分の投入量を変更しポリエステル組成を表1に示すように変更したこと、および必要に応じて所定量の結晶核剤を重縮合触媒投入と同時期に投入したこと以外は、実施例1と同様にして実施した。得られたポリエステルの組成、特性値、チップ化および製糸工程における操業性、および不織布寸法安定性を表1に示す。
表1の結果から明らかなように、実施例1〜5により得られたポリエステルについては、各組成は本発明で規定する範囲内にあると同時に、ポリエステルの熱特性も本発明で規定する範囲内となった結果、チップ化および製糸工程での操業性は良好であり、またそのポリエステルより得られた繊維を接着成分とした不織布の寸法安定性も良好であった。さらには、ポリエステルの色調も赤味が無く黄味の薄い良好なものとなった。
一方、比較例1では、SUの共重合量が5mol%を下回っているため、ポリエステルの結晶性を保つためには、本例のように結晶性を補う目的で結晶核剤を添加することに加え、BD量は80mol%を超える比率とする必要があった。その結果、ポリエステルの融点は170℃を超え、汎用の加工設備では加熱接着が困難となるばかりか、Tgも25℃を下回るため、操業性が悪化した。
比較例2では、SUの共重合量が20mol%を超えており、またIPAが共重合されていないため、ポリエステルのガラス転移温度や融点が請求項の範囲内に入るよう、ジオール成分比を調整したが、結晶核剤を十分量添加しても、ポリエステルの結晶性は不足し、そのため操業性が悪化したばかりか、緊張熱処理が実施できず、このポリエステルをバインダー繊維として用い製作した不織布は、寸法安定性の悪いものとなった。
また、比較例3では、IPAの共重合量が15mol%を超えているため、結晶核剤の添加や、ジオール成分比の調節を行ったが、得られたポリエステルの結晶性は不十分であり、比較例2同様、寸法安定性の悪い不織布となった。
比較例4および5では、SUの代わりにアジピン酸を使用した結果、必要な熱特性を全て満たすポリエステルは得られず、操業性の悪化を招いたり、緊張熱処理が実施できないなどの問題が発生した。また、得られたポリエステルの色調は通常のポリエステル樹脂と比較して著しくb値が高く(赤味が強く)、表地等への使用が制限される可能性のあるものとなった。

Claims (1)

  1. ポリエステルの全酸成分に対して、テレフタル酸が70〜85mol%、コハク酸が5〜20mol%、イソフタル酸が2〜15mol%であり、全ジオール成分に対して、エチレングリコールが20〜80mol%、1,4−ブタンジオールが80〜20mol%である構成からなり、融点が120〜170℃、ガラス転移温度が25〜80℃以上、昇温結晶化時の発熱量が5〜50J/gであることを特徴とするバインダー繊維用ポリエステル。

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