しかしながら、プリンタの場合には、印字密度(解像度)で300dpiないし720dpi程度、粒径で数十ミクロンに留まっており、銀塩写真の表現力(フィルム上では解像度で数千dpiと言われる)との間の隔たりは未だ大きい。特に、画像濃度の低い領域、即ち印刷されるドット密度の低い領域では、ドットがまばらに形成され(いわゆる粒状化)、これが目に付いてしまう。また、液状のインクを用紙に吐出するタイプの印刷装置では、単位面積当たりに吐出されるインクの総量は、用紙上で可能なインク吸収量(いわゆるインクデューティ)により制限される。カラー印刷のために複数種類のインクを用いる印刷装置では、インクデューティの低い用紙では、この制限をクリアすることも課題であった。このインクデューティの問題は、特に、各色インクについて濃淡2種類のインクを用意し、階調の低い領域では濃度の低いインクを用いて印刷を行ない、粒状化を目立たないようにしようとした場合、顕在化する。淡インクを用いて所定の階調を表現しようとすると、吐出するインクの総量が増加してしまうからである。
本発明は、混在することにより所定範囲の色相を表現可能な3種類以上のインクを吐出可能なヘッドを備えた印刷装置において、特定のインクの濃度を調整し、記録される画像の品位を低下することなく、インクデューティなどの制限を緩和することを目的とする。
かかる目的を達成するため、本願発明は、以下の構成を採用した。まず、本発明の第1の印刷装置は、
混在することにより所定範囲の色相を表現可能な3種類以上のインクを被印刷物に記録可能なヘッドを備えた印刷装置において、
前記各色インクのうち、同じ記録率当たりの明度が最も高いインクと他のインクとの濃度比を、これらのインクの単位面積当たりの記録率を等しくしたときの色バランスが該明度が最も高いインクの側に偏るよう該各色インクを備え、
該偏りを是正する比率まで、該明度が最も高いインクの記録量を補正する補正手段を有すること
を要旨としている。
また、本発明の第1の印刷方法は、
混在することにより所定範囲の色相を表現可能な3種類以上のインクを被印刷物に記録可能なヘッドを備え、印刷しようとする画像の階調信号に基づいて該3種類以上のインクのドットの分布を制御して多階調の画像を印刷する方法であって、
前記各色インクのうち、同じ記録率当たりの明度が最も高いインクと他のインクとの濃度比を、これらのインクの単位面積当たりの記録率を等しくしたときの色バランスが該明度が最も高いインクの側に偏るよう設定し、
該偏りを是正する比率まで、該明度が最も高いインクの記録量を補正すること
を要旨としている。
この印刷装置および印刷方法は、混在することにより所定範囲の色相を表現可能な3種類以上のインクを記録可能なヘッドを備えており、これらのインクによるドットを所定の割合で形成することにより、様々な色相、明度(濃度)の画像を形成する。その際、本発明の印刷装置では、各色インクの単位面積当たりの記録率を等しくしたときの色バランスをわざと崩し、同じ記録率当たりの明度が最も高いインクの側に色バランスが偏るようにしている。従って、単位面積当たりの記録率を同じにすると、色バランスは、明度が最も高いインクの側に偏るから、補正手段により、この偏りを是正する比率まで、明度が最も高いインクの記録量を補正する。この結果、色バランスは正常になり、かつ明度が最も高く、低濃度での粒状化の影響の少ないインクの記録量が低減されるので、形成される画像の品質を損なうことなく、記録される全インクの総量を低減することができる。
また、本発明の第2の印刷装置は、
混在することにより所定範囲の色相を表現可能な3種類以上のインクを被印刷物に記録可能なヘッドを備えた印刷装置において、
前記各色インクのうち、同じ記録率とした場合の粒状化の視認性が最も低いインクと他のインクとの濃度比を、これらのインクの単位面積当たりの記録率を等しくしたときの色バランスが該粒状化の視認性が最も低いインクの側に偏るよう該各色インクを備え、
該偏りを是正する比率まで、該粒状化の視認性が最も低いインクの記録量を補正する補正手段を有する
ことを要旨としている。
また、本発明の第2の印刷方法は、
混在することにより所定範囲の色相を表現可能な3種類以上のインクを被印刷物に記録可能なヘッドを備え、印刷しようとする画像の階調信号に基づいて該3種類以上のインクのドットの分布を制御して多階調の画像を印刷する方法であって、
前記各色インクのうち、同じ記録率とした場合の粒状化の視認性が最も低いインクと他のインクとの濃度比を、これらのインクの単位面積当たりの記録率を等しくしたときの色バランスが該粒状化の視認性が最も低いインクの側に偏るよう設定し、
該偏りを是正する比率まで、該粒状化の視認性が最も低いインクの記録量を補正すること
を要旨としている。
この印刷装置および印刷方法では、第1の印刷装置および第1の印刷方法同様、混在することにより所定範囲の色相を表現可能な3種類以上のインクを記録可能なヘッドを備えており、これらのインクによるドットを所定の割合で形成することにより、様々な色相、明度(濃度)の画像を形成する。その際、第2発明の印刷装置では、各色インクの単位面積当たりの記録率を等しくしたときの色バランスをわざと崩し、同じ記録率とした場合の粒状化の視認性が最も低いインクの側に色バランスが偏るようにしている。従って、単位面積当たりの記録率を同じにすると、色バランスは、粒状化の視認性が最も低いインクの側に偏るから、補正手段により、この偏りを是正する比率まで、粒状化の視認性が最も低いインクの記録量を補正する。この結果、色バランスは正常になり、かつ粒状化の視認性が低いインクの記録量が低減されるので、形成される画像の品質を損なうことなく、記録される全インクの総量を低減することができる。
こうした印刷装置における3種類以上のインクとしては、いわゆる三原色としてのイエロ,マゼンタ,シアンのインクを採用することが実用的であり、このうち明度が最も高いインクまたは粒状化の視認性が最も低いインクとしてはイエロを選択することが実用的である。もとより、他の色の組み合わせの場合には、それらの色の中で、最も明度の高いインクまたは最も粒状化の視認性の低いインクを選択すればよい。
各色インクの組み合わせの色バランスを偏らせる手法は、様々なアプローチが考えられるが、その一つとしては、明度が最も高いインクまたは粒状化の視認性が最も低いインクの染料濃度を、3種類以上のインクの単位面積当たりの記録率が等しい場合にバランスする濃度より1.1ないし4倍の範囲で高くすることである。濃度が1.1倍未満では、濃度を高めたことによる効果が期待できず、4倍より高くすると、粒状性が感じられてしまう。染料濃度の調整は容易なので、簡単に色バランスを所望の偏りにすることができる。
この場合には、明度が最も高いインクまたは粒状化の視認性が最も低いインクの記録量の補正は、該インクによるドットの形成の割合を低減することにより達成することができる。他の補正の手法としては、このインクによるドットの径を低減することが考えられる。
なお、予め各色インクの組み合わせの色バランスを偏らせる手法の一つとして、明度が最も高いインクまたは粒状化の視認性が最も低いインクのドット径を、他のインクのドット径よりあらかじめ大きくしておくことも考えられる。この場合の補正手段は、ドット形成の割合を低減することにより補正を行なうことができる。
3種類以上のインクを被印刷物に記録する方式としては、従来から知られた各方式が適用可能であり、例えば、3種類以上の各インクを、染料または顔料を溶剤に溶融または分散した溶液として提供するものとし、ヘッドを、この染料または顔料を含有する溶液を、該被印刷物に吐出するヘッドとし、補正手段を、インクの吐出量の補正を行なう手段とすることができる。溶液状のインクを吐出する手法は、微細なドットを比較的高速に形成することができ、好適である。
こうした溶液状のインクを用いる印刷装置において、3種類以上のインクのうち、吐出量の補正がなされるインク以外のインクについては、濃淡2種類以上の濃度のインクを備えるものとし、前記ヘッドを、該濃淡2種類以上の濃度のインクと共に、前記前記明度が最も高いインクまたは粒状化の視認性が最も低いインクを吐出可能とすることもできる。すなわち、粒状化の視認性がある程度高いインクについては、濃度の低い淡インクを用意し、濃度の低い領域の粒状化を防止するのである。
かかる濃淡インクとしては、色の組み合わせが、イエロ,マゼンタおよびシアンである場合、マゼンタ,シアンについて濃淡2種類以上のインクを備え、各色の低濃度インクの染料濃度を、高濃度インクの染料濃度の略1/4とすることも、濃淡インクの混在箇所の濃度変化の自然さなどの点から好適である。
各色のドットの形成の手法は、様々な手法が許容されるが、たとえばディザ法により前記各色インクによるドットの有無を決定するものとすることができる。こうしたディザ法を採用する場合には、ドットのオン・オフを定める閾値マトリックスは分散型の閾値マトリックスとすることができる。分散型の閾値マトリックスを使用すると、ドット分布が分散され、粒状化を感じさせ難いドット形成という点から有利である。
こうした印刷装置におけるドット形成のメカニズムは、様々なものが知られているが、例えば、インク通路に設けられた電歪素子への電圧の印加によりインクに付与される圧力によってインク粒子を吐出する機構をヘッドに備えるものとすることができる。あるいは、インク通路に設けられた発熱体への通電により発生する気泡により該インク通路のインクに付与される圧力によってインク粒子を吐出する機構を備えた構成をとることもできる。
また、本発明のインクカートリッジは、上述した印刷装置に装着して用いられるもの、または上述した印刷方法に用いられるものであって、
混在することにより所定範囲の色相を表現可能な3種類以上のインクを収納し、
該3種類以上のインクのうち、前記明度が最も高いインクまたは粒状化の視認性が最も低いインクについては、その染料濃度を、他のインクと比べて、単位面積当たりの記録率が等しい場合にバランスする濃度より高く設定すると共に、その収容量を、他のインクの収容量と同等または少ない容量としたこと
を要旨としている。
上述した印刷装置および印刷方法では、同じ記録率当たりの明度が最も高いインクまたは粒状化の視認性が最も低いインクの濃度が高められており、その体積的な使用量は低減される。したがって、同じ記録率当たりの明度が最も高いインクまたは粒状化の視認性が最も低いインクの収容量を、他のインクと同等または少ない容量とすることにより、各色インクを使い切るまでの期間を同程度にすることができる。
また、明度が最も高いインクまたは粒状化の視認性が最も低いインク以外のインクを、濃淡2種類以上用意する場合には、濃淡各インク自体の使用量は少なくなるので、明度が最も高いインクまたは粒状化の視認性が最も低いインクの容量を、これらの濃淡各色のインク容量より多くしたインクカートリッジも有用である。
この発明は、以下のような他の態様も含んでいる。第1の態様は、印刷装置のいくつかの手段を、印刷装置の筐体内部ではなく、印刷しようとする画像を出力する装置の側に置く構成である。補正手段等は、ディスクリートな回路によっても実現可能であるが、CPUを中心とした算術論理演算回路におけるソフトウェアによっても実現可能である。後者の場合には、印刷しようとする画像を出力する側、例えばコンピュータ側にドットの生成に関する処理まで行なわせ、印刷装置の筐体内には、生成されたドットを、ヘッドからのインクの吐出を制御して、用紙上などに形成する機構のみを収納する形態も考えることができる。
本発明の第2の態様は、コンピュータシステムにロードされて実行されるソフトウェアを記録した携帯型記憶媒体としての形態であり、上記の補正手段など処理を行なう手段の少なくとも一部を、CPUを中心とした算術論理演算回路(ハードウェア)とその上で実行されるソフトウェアプログラムとにより実現するものとし、そのソフトウェアプログラムの少なくとも一部を、この携帯型記憶媒体に格納したものである。
第3の形態は、上記のソフトウェアプログラムを通信回線を介して供給する供給装置としての形態である。
更に、第4の形態として、上述した印刷装置に用いられるインクカートリッジの発明がある。例えば、本発明の印刷装置が、複数の色インクを用いてカラー印刷を行なう場合、3種類以上のカラーインクを、黒色インクとは別体の容器に収納してなるインクカートリッジを考えることができる。このインクカートリッジは、黒色のインクとは別の容器に収納されていることから、その交換の時期が、通常の文字を中心とした印刷に用いられる黒色インク堪能の消尽とその交換時期に影響されることがない。
次に、本発明の実施の形態を実施例に基づき説明する。図1は、この発明の一実施例であるプリンタ20の概略構成図である。図示するように、このプリンタ20は、紙送りモータ22によって用紙Pを搬送する機構と、キャリッジモータ24によってキャリッジ30をプラテン26の軸方向に往復動させる機構と、キャリッジ30に搭載された印字ヘッド28を駆動してインクの吐出およびドット形成を制御する機構と、これらの紙送りモータ22,キャリッジモータ24,印字ヘッド28および操作パネル32との信号のやり取りを司る制御回路40とから構成されている。
用紙Pを搬送する機構は、紙送りモータ22の回転をプラテン26のみならず、図示しない用紙搬送ローラに伝達するギヤトレインを備える(図示省略)。また、キャリッジ30を往復動させる機構は、プラテン26の軸と並行に架設されキャリッジ30を摺動可能に保持する摺動軸34と、キャリッジモータ24との間に無端の駆動ベルト36を張設するプーリ38と、キャリッジ30の原点位置を検出する位置検出センサ39等から構成されている。
制御回路40を中心にこのプリンタ20の構成を示したのが、図2である。図示するように、この制御回路40は、周知のCPU41,プログラムなどを記憶したP−ROM43,RAM44,文字のドットマトリクスを記憶したキャラクタジェネレータ(CG)45などを中心とする算術論理演算回路として構成されており、この他、外部のモータ等とのインタフェースを専用に行なうI/F専用回路50、このI/F専用回路50に接続されヘッド28を駆動するヘッド駆動回路52、同じく紙送りモータ22およびキャリッジモータ24を駆動するモータ駆動回路54を備える。また、I/F専用回路50は、パラレルインタフェース回路を内蔵しており、コネクタ56を介してコンピュータに接続されて、コンピュータが出力する印刷用の信号を受け取ることができる。コンピュータからの画像信号の出力については後述する。
次にキャリッジ30の具体的な構成と、キャリッジ30に搭載された印字ヘッド28によるインクの吐出原理について説明する。図3は、キャリッジ30の形状を示す斜視図である。また、図4は、キャリッジ30の下部に配列された印字ヘッド28における各色インクを吐出するノズル部分を示す平面図である。図3に示すように、キャリッジ30は、略L字形状をしており、図示しない黒インク用カートリッジとカラーインク用カートリッジ70(図5参照)とを搭載可能であって、両カートリッジを装着可能に仕切る仕切板31を備える。キャリッジ30の下部の印字ヘッド28には計6個のインク吐出用ヘッド61ないし66が形成されており、キャリッジ30の底部には、この各色用ヘッドにインクタンクからのインクを導く導入管71ないし76が立設されている。キャリッジ30に黒インク用のカートリッジおよびカラーインク用カートリッジ70を上方から装着すると、各カートリッジに設けられた接続孔に導入管71ないし76が挿入される。
インクが吐出される機構を簡単に説明する。図6に示すように、インク用カートリッジ70がキャリッジ30に装着されると、毛細管現象を利用してインク用カートリッジ内のインクが導入管71ないし76を介して吸い出され、キャリッジ30下部に設けられた印字ヘッド28の各色ヘッド61ないし66に導かれる。なお、初めてインクカートリッジが装着されたときには、専用のポンプによりインクを各色ヘッド61ないし66に吸引する動作が行なわれるが、本実施例では吸引のためのポンプ、吸引時に印字ヘッド28を覆うキャップ等の構成については図示および説明を省略する。
各色ヘッド61ないし66には、図4および図6に示したように、各色毎に32個のノズルnが設けられており、各ノズル毎に電歪素子の一つであって応答性に優れたピエゾ素子PEが配置されている。ピエゾ素子PEとノズルnとの構造を詳細に示したのが、図7である。図示するように、ピエゾ素子PEは、ノズルnまでインクを導くインク通路80に接する位置に設置されている。ピエゾ素子PEは、周知のように、電圧の印加により結晶構造が歪み、極めて高速に電気−機械エネルギの変換を行なう素子である。本実施例では、ピエゾ素子PEの両端に設けられた電極間に所定時間幅の電圧を印加することにより、図7下段に示すように、ピエゾ素子PEが電圧の印加時間だけ伸張し、インク通路80の一側壁を変形させる。この結果、インク通路80の体積は、ピエゾ素子PEの伸張に応じて収縮し、この収縮分に相当するインクが、粒子Ipとなって、ノズルnの先端から高速に吐出される。このインク粒子Ipがプラテン26に装着された用紙Pに染み込むことにより、印刷が行なわれることになる。
印字ヘッド28における各色ヘッド61ないし66の配列は、上述したピエゾ素子PEを配置する関係上、図4に示したように、2つのヘッドを一組として、3組に分けて配設されている。黒インク用カートリッジに近接した側の端に黒インク用のヘッド61が配設されており、その隣がシアン用のインクヘッド62である。また、この組に隣接するのが、シアン用インクヘッド62に供給されるシアンインクより濃度の低いインク(以下、ライトシアンインクと呼ぶ)用のヘッド63とマゼンタ用のインクヘッド64である。更にその隣の組には、通常のマゼンタインクより濃度の低いインク(以下、ライトマゼンタインクと呼ぶ)用のヘッド65と、イエロ用のヘッド66とが配置されている。各インクの組成および濃度については後述する。
以上説明したハードウェア構成を有する本実施例のプリンタ20は、紙送りモータ22によりプラテン26その他のローラを回転して用紙Pを搬送しつつ、キャリッジ30をキャリッジモータ24により往復動させ、同時に印字ヘッド28の各色ヘッド61ないし66のピエゾ素子PEを駆動して、各色インクの吐出を行ない、用紙P上に多色の画像を形成する。なお、プリンタ20は、図8に示すように、コンピュータ90などの画像形成装置からコネクタ56を介して受け取った信号に基づいて、多色の画像を形成する。この例では、コンピュータ90内部で動作しているアプリケーションプログラムは、画像の処理を行ないつつビデオドライバ91を介してCRTディスプレイ93に画像を表示している。このアプリケーションプログラム95が、印刷命令を発行すると、コンピュータ90のプリンタドライバ96が、画像情報をアプリケーションプログラムから受け取り、これをプリンタ20が印字可能な信号に変換している。図8に示した例では、プリンタドライバ96の内部には、アプリケーションプログラム95が扱っている画像情報をドット単位の色情報に変換するラスタライザ97、ドット単位の色情報に変換された画像情報(階調データ)に対して画像出力装置(ここではプリンタ20)の発色の特性に応じた色補正を行なう色補正モジュール98、色補正された後の画像情報からドット単位でのインクの有無によりある面積での濃度を表現するいわゆるハーフトーンの画像情報を生成するハーフトーンモジュール99が備えられている。これらの各モジュールの動作は、周知のものなので、説明は原則として省略し、ハーフトーンモジュール99の内容については、後述する。
以上説明したように、本実施例のプリンタ20は、その印字ヘッド28に、各色インクを吐出可能なヘッドを備える。このヘッドにより吐出されるイエロインクYとブラックインクKは、図9にその成分を示したように、染料としてダイレクトイエロ86とフードブラック2とを用い、染料の割合を、それぞれ2.7重量パーセント、4.8重量パーセントとしたものである。また、印字ヘッド28には、このイエロおよびブラックを含むいわゆるCMYKの4色のインク以外に、ライトシアンインクとライトマゼンタインク用のヘッド63,65が設けられている。これらのライトシアンインクおよびライトマゼンタインクは、図9に示したように、通常のシアンインクおよびマゼンタインクの染料濃度を低くしたものである。
図示するように、通常濃度のシアンインク(図9中C1で示す)は、染料であるダイレクトブルー99を3.6重量パーセント、ジエチレングリコール30重量パーセント、サーフィノール465を1重量パーセント、水65.4重量パーセントとしたものであるのに対して、ライトシアンインク(図9中C2で示す)、染料であるダイレクトブルー99を、シアンインクC1の1/4である0.9重量パーセントとし、粘度調整のためにジエチレングリコールを35重量パーセント、水を63.1重量パーセントに変更したものである。また、通常濃度のマゼンタインク(図9中M1で示す)は、染料であるアシッドレッド289を2.8重量パーセント、ジエチレングリコール20重量パーセント、サーフィノール465を1重量パーセント、水79重量パーセントとしたものであるのに対して、ライトマゼンタインク(図9中M2で示す)は、染料であるアシッドレッドを、マゼンタインクM1の1/4である0.7重量パーセント、ジエチレングリコール25重量パーセント、水74重量パーセントに変更したものである。いずれのインクも、粘度がおよそ3[mPa・s]程度に調整されている。本実施例では、各色インクの粘度の他、表面張力も同一に調整しているので、各色ヘッド毎のピエゾ素子PEの制御を、ドットを形成するインクに拠らず同一にすることができる。
これらのインクのうち、ブラックを除くカラーインクC1,C2,M1,M2,Yは、図5に示したインクカートリッジ70内に収納されており、その容量は、本実施例では、イエロインクが他のインク(C1,C2,M1,M2)より多いものとしてある。シアンとマゼンタについては、濃淡2種類のインクが収容されているので、濃淡の両者を加えた量よりはイエロインクの容量は、相対的には少ない容量とされている。なお、イエロの容量は、他の色のインクの総量と等しい容量としても良いし、また濃淡の各インクと等しい容量としても良い。
これらの各色インクの明度を測定したものを図10に示した。図10の横軸はプリンタの記録解像度に対する記録率であり、ノズルnから吐出したインク粒子Ipにより白色の用紙Pにドットを記録した割合を示している。即ち、記録率100とは、用紙Pの全面がインク粒子Ipにより覆われた状態を示している。本実施例では、従来のイエロインクY1に対して、染料濃度が高いイエロインクY2を採用しているので、まずこの点について説明する。図10に示したように、イエロインクYは、三原色CMYの中では、最も明度が高く、記録率を100パーセントにしても、明度L*は、80パーセントを超えている。なお、ここで言う明度L*とは、CIE1976L*a*b*色空間(CIELAB空間)における明度である。
図10において、「●」で示したのが、通常の濃度のイエロインク(○)に対して、染料濃度を1.5倍としたイエロインクY2の記録率と明度との関係である。図示するように、染料濃度を1.5倍にしたことにより、明度もこれに比例して低下しており、通常濃度のイエロインクY1の記録率100パーセントの明度と等しくなるのが、記録率約67パーセントの点である。
以上、本実施例で採用した各色インクについて、その記録率と明度L*との関係について説明したが、次に記録率と色相および彩度との関係について説明する。図11は、紙に、本実施例のイエロ,マゼンタ,シアンの三色のインクで印刷を行なった場合であって、各色の記録率を可変した場合の色相と彩度を、CIE1976L*a*b*色空間(CIELAB空間)のうちa*b*について表わしたものである。CIELAB空間では、一般に、(0,0)を原点として、横軸からの角度が色相を、原点からの距離が彩度を表わしているとみなすことができる。図11では、通常濃度のCMY(各々「◇」「□」「○」により表わす)インクひとつひとつについて、その記録率を10パーセントずつ高くしてゆく場合の色相と彩度の変化を読みとることができる。
これに対して、染料の濃度を従来のインクより1.5倍に調整された本実施例のイエロインク(図11では「●」で示す)は、濃度を10パーセントずつ高めると、彩度(鮮やかさ)の変化が従来の濃度のインクより大きく、記録率66パーセントで従来のインクの記録率100パーセントと一致してしまうことが分かる。当然ドット数の制御範囲は、狭くなる。仮に10×10のマトリックスを考えるとすると、従来の濃度のインクでは0から100個までのドットを制御できるのに対して、濃度1.5倍のイエロインクでは、0から66個までのドットを制御することになる。
通常の濃度の三色インクを各々等しい記録率で記録した場合には、グレーに感じられることになるが、本実施例のイエロインクY2を用いた場合には、その記録率をシアンやマゼンタインクの記録率と等しくすると、色相はグレーからイエロの側に偏っていることになる。
なお、本実施例では、シアンインクCとマゼンタインクMについては、濃淡2種類のインクを採用しているが、これらのインクの明度は次の関係にある。シアンインクC1に対してライトシアンインクC2は、染料の濃度が重量パーセントで約1/4としており、このときの両インクの明度は、ライトシアンインクC2の記録率が100パーセントの場合の明度が、シアンインクC1の記録率が約35パーセントの場合の明度と等しくなっている。この関係は、マゼンタインクM1,ライトマゼンタインクM2においても同様である。濃度の異なるインクが同一明度となる記録率の割合は、両インクを混在して印刷した場合の混色の美しさの点から定めたものであるが、実用上は、20ないし50パーセントの範囲に調整することが望ましい。この関係を、両インクにおける染料の重量パーセントの割合で表現すると、濃度の高いインク(シアンインクC1およびマゼンタインクM1)における染料の重量パーセントに対して、濃度の低いインク(ライトシアンインクC2およびライトマゼンタインクM2)における染料の重量パーセントの関係を、後者が前者の約1/5ないし1/3程度に調整することとほぼ等価である。
次に、プリンタドライバ96のハーフトーンモジュール99内の処理に沿って、本実施例のプリンタ20における各色インクのドット形成の様子を説明する。本実施例のプリンタ20では、濃淡インクを用いて印刷を行なっており、シアンとマゼンタインクについては、濃度の高いインクによるドット(濃ドット)形成と濃度の低いインクによるドット(淡ドット)形成の処理が必要になるが、まず以下では、濃度の高いイエロインク、通常濃度のシアンインクおよびマゼンタインクの各色によるドット形成について説明し、付加的に濃淡インクによるドット形成について説明する。図12は、CMYの各色についてのハーフトーンモジュール99の処理の概要を示すフローチャートである。図示するように、このハーフトーン処理では、基本的に、同じ処理がCMYの各色について繰り返される。
まず、図8に示した色補正モジュール98によりCYMの各色の階調データに変換されたデータのうち、シアンインクCについての階調データを入力する処理を行なう(ステップS100)。階調データは、8ビットにより表現されているので、0ないし255の値を取る。次に、この階調データに基づいて、記録率を決定するテーブルTCを参照し、シアンインクのドットについてのオンオフを決定する処理を行なう(ステップS110)。各色インクについてのテーブルの一例を、図13に示す。ある色のインクについてのドットのオン・オフの決定は、様々な手法、例えば誤差拡散の手法や組織的ディザ法を採用することができる。本実施例では、誤差拡散の考え方を採用した。したがって、着目している画素のシアン濃度に基づいてドットのオン・オフを決定した後、誤差計算と誤差拡散の処理を行なう(ステップS120)。すなわち、その画素についての本当の濃度とドットをオンまたはオフにしたことにより表現された濃度との誤差を計算し、これを着目している画素の周辺の画素に、所定の重みを付けて分配する処理を行なう。誤差拡散で印刷を行なう場合、処理済みの画素について生じた濃淡の誤差を予めその画素の周りの画素に所定の重みを付けて予め配分しておくので、該当する誤差分を読み出し、これを今から印刷しようとする画素に反映させるのである。着目している画素PPに対して、周辺のどの画素にどの程度の重み付けで、この誤差を配分するかを、図14に例示した。着目している画素PPに対して、キャリッジ30の走査方向で数画素、および用紙Pの搬送方向後ろ側の隣接する数画素に対して、濃度誤差が所定の重み(1/4,1/8、1/16)を付けて配分される。
なお、シアンインクCとマゼンタインクについては、本実施例では、濃淡2種類のインクを用意しており、濃淡のドットを形成しているが、イエロインクYの濃度を高くした点に特徴を有する本発明の理解の便を図って、図12に基づく以下の説明では、シアンおよびマゼンタについては、通常の濃度のインク(濃インクC1,M1に相当)だけでドット形成を行なうものとした。
シアンインクについての以上の処理の後、次に同様の処理をマゼンタインクおよびイエロインクについて繰り返す。即ち、マゼンタについての階調データを入力し(ステップS130)、テーブルTMを参照してマゼンタのドットのオン・オフを決定し(ステップS140)、マゼンタについての誤差計算および誤差拡散の処理を行なう(ステップS150)。また、イエロについての階調データを入力し(ステップS160)、テーブルTYを参照してイエロのドットのオン・オフを決定し(ステップS170)、イエロについての誤差計算および誤差拡散の処理を行なう(ステップS180)。この際、シアン,マゼンタについての記録率と比べ、イエロインクによるドット形成の記録率は、図13に示したテーブルの相違により、約2/3に低減される。
イエロについてのドットの記録率が、マゼンタなどのインクのドットの記録率に対して2/3程度に押さえられている結果、イエロのドットは、階調データが最大の場合でも印刷領域を完全に埋め尽くしてしまうことがない。図15は、マゼンタとイエロの階調が最大(階調データで255)の場合のドット形成の様子を示す説明図である。この例では、分散型ディザ法により3×3のマトリックスを単位として、ドットのオン・オフを決定している。図15(a)は、通常濃度のイエロインクY1を用いた場合、階調データが最大の場合には、記録率が100[%]になっていることを示す。これに対して、本実施例で用いた高濃度のイエロインクY2によりドットを形成する場合には、図15(b)に示すように、階調データが最大(255)の場合でも、イエロインクY2のドットは、6個しか形成されない。これに対してマゼンタインクMのドットは、図15(c)に示したように、3×3の9個形成されることになる。この結果、両方のインクのドットが形成されると、図15(d)に示すように、3個のドットについては、マゼンタインクMのみが用紙に吐出されることになる。
上述した結果は、イエロインクの染料濃度を通常のイエロインクに対して1.5倍としたことにより生じたものである。イエロインクにより形成されたドットは、表現可能な階調数は通常の2/3となっているが、元々イエロインクは明度が高いため、原画像の低濃度の領域に対応してまばらにドットが形成されても粒状化はほとんど感じられない。この結果、粒状化による画質の低下という問題を引き起こすことなく、単位面積当たりに形成されるドットの総数、即ち単位面積当たりに吐出されるインク量を低減することができるという利点が得られる。単位面積当たりに吐出可能なインクの総量には、用紙毎に上限(デューティ制限)が存在するため、イエロインクの濃度を高くすることにより、必要なインク量が低減できるメリットは大きい。例えば、コンポジットブラックを、シアンインク100[%]+マゼンタインク100[%]+イエロインク60[%]で実現できるのであれば、通常の濃度のイエロインク(最大記録率100[%])を用いた場合のデューティ(300[%])と比べて、用紙のデューティ制限に対して約40[%]の余裕が生まれることになる。また、デューティ制限が190[%]の用紙上にダークレッドを出力する例では、従来はシアン10[%]、マゼンタ100[%]、イエロ100[%]で印刷すると、その合計は210[%]となってデューティ制限を越えてしまうため、10パーセント分をブラックインクに置き換え、マゼンタ90[%]、イエロ90[%]、ブラック10[%]で印刷する必要があった。しかし、このようなブラックインクに置き換えて印刷すると、レッド中に最も高濃度で目立ちやすいブラックのドットがまばらに形成され、粒状性が悪化し、画質が低下していた。本実施例では、ブラックインクを用いなくても、シアン10[%]、マゼンタ100[%]、イエロ67[%]でデューティ制限内に納め、粒状性が良く、高画質な出力を得ることができる。即ち、本実施例のようにイエロ濃度を上げれば、それによって得られるデューティ制限の余裕を利用して、各色インク量を最適化し、更なる高画質化を図ることが可能となる。
さらに、本実施例では、イエロインクの染料濃度を高め、必要なドット数を低減していることから、各色インクの重ね打ちに対して、低減されたドット数だけ余裕が生じるという利点も得られる。インクの重なりについては、様々な工夫がなされているが、イエロインクについてドット形成されない箇所が1/3程度存在することは、こうした複数色の重ね打ちにおけるドット配置の自由度を高めることができるというメリットとなる。また、イエロインクによるドットの形成数が少ないと言うことは、所定の面積を印字する際のイエロインクの平均的な消費量も少ないと言うことである。この結果、インクカートリッジ70に搭載すべきイエロインクの量も低減することができる。インク量を低減すれば、カートリッジ70の重みが低減でき、カートリッジ70を搬送する機構も簡略化することができる。また、イエロインクの容量を低減した分、他のインク量を増やすこともできる。本実施例のように、濃淡2種類のインクを用いる場合には、濃淡インクの量を増やすことができるので、そのメリットは大きい。
以上、本発明の実施例について説明したが、このプリンタ20では、濃淡2種類のインクを用いているので、マゼンタとシアンについての濃淡2種類のインクの使い分けについて簡単に説明する。テーブルTCを参照してシアンCインクのドットのオンオフについて決定する処理(ステップS110)および同様にマゼンタについて決定する処理(ステップS140)は、詳しくは濃淡2種類のインクについてドットを形成するか否かの判断を行なっている。
両ステップでは、まず入力した階調データDSに基づき、濃ドットのオン・オフを決定する処理を行なう。この濃ドットのオン・オフを決定する処理の詳細を、図17の濃ドット形成判断処理ルーチンに示した。この処理ルーチンでは、まず、階調データDSに基づいて図18のテーブルを参照して、濃レベルデータDthを生成する処理を行なう(ステップS222)。図18は、元の画像の階調データに対して、淡インクと濃インクの記録率をどの程度にするかを設定するテーブルを示す。階調データは、各色について0〜255までの値をとるものしているから(各色8ビット)、以下階調データの大きさを16/256等のように表現する。図18のテーブルは、最終的に得られる印刷物における濃インクと淡インクの割合を示すものであり、ある階調データが与えられたとき、一意に濃インクの記録率と淡インクの記録率を与えて、着目している画素の濃インクまたは淡インクによるドットのオン・オフを定めるものではない。この関係を簡単に説明すると、本実施例では、まずこのテーブルを利用して濃ドットのオン・オフを判定し、その結果を参照して淡ドットのオン・オフを判定する。従って、淡ドットの記録率が図18に示したテーブルに一致するのは、次の理由による。
単位面積当たりの画像の濃度は、そこに形成される濃ドットと淡ドットの数により表すことができる。図18に従って、単位面積当たりに形成された濃ドットの数を、濃度が最大の場合を値255としてこれに対する割合として考え、これをKsとする。同様に淡ドットの数をUsとする。このとき、形成される画像の濃度を入力した画像の階調データDSに等しくしようとすれば、
DS=Ks×(濃ドットの評価値)/255
+Us×(淡ドットの評価値)/255
となる。濃ドットの評価値(形成されたドットの濃さ)は255と見なすことができるので、濃ドットのテーブルと淡ドットの評価値をいくつにとるかにより、図18に示した淡ドットのテーブルが決まることになる。図18に示した例では、たとえば淡ドットの記録率が最大となる点(階調データが95、濃ドットデータが18、淡ドットデータが122)のデータを上式に入力すると、淡ドット評価値をZとして
95=18×255/255+122×Z/255
となり、淡ドット評価値は、160となる。なお、この濃ドット評価値、淡ドット評価値は、後述する濃ドット、淡ドットのオン・オフの決定手法のフローチャートで結果値RVとして扱われているものと同じものである。
入力した階調データDSに基づいて、図18のテーブルを参照することにより、予め定めた濃インクの記録率に対応した濃レベルデータDthを得る(図18右側縦軸)。例えば、入力したシアンの階調データが50/256のベタの領域を印刷する場合には、濃インクであるシアンインクC1の記録率は0パーセントであり、濃レベルデータも値0となる。階調データが95/256のベタの領域を印刷する場合には、濃インクであるシアンインクC1の記録率は7パーセントであり、濃レベルデータDthは値18となる。更に、階調データが191/256のベタ領域を印刷する場合にはシアンインクC1の記録率は75パーセントであって、濃レベルデータは値191となる。これらの場合に、後述する手法で淡ドットのオン・オフを判断すると、それぞれ、淡インクであるライトシアンインクC2の記録率は36パーセント、58パーセント、0パーセントとなる。
次に、こうして得られた濃レベルデータDthが閾値Dref1より大きいか否かの判断を行なう(ステップS224)。この閾値Dref1は、着目した画素に濃インクによるドットを形成するか否かの判定値であって、単純に濃レベルデータDthの最大値の1/2程度に固定することもできる。本実施例では、この閾値の設定に分散型ディザの閾値マトリックスを採用し、特に64×64程度の大域的マトリックス(ブルーノイズマトリックス)を利用し、組織的ディザ法を適用し、閾値として分散型のマトリックスを採用した。従って、濃ドットのオンオフを定める閾値Dref1は、着目する画素毎に異なった値となる。分散型の閾値マトリックスとは、その閾値マトリックスにより決定されるドットの空間周波数が高いものであり、ドットが領域内でバラバラに発生するタイプを言う。具体的には、Beyer型の閾値マトリックスなどが知られている。分散型のディザを採用すると、濃ドットの発生がバラバラに行なわれるので、濃淡ドットの分布が偏らず、画質が向上する。
濃ドットデータDthが閾値Dref1より大きい場合には、その画素の濃ドットをオンにするものと判断し、更に結果値RVを演算する処理を行なう(ステップS226)。結果値RVは、その画素の濃度に相当する値(濃ドット評価値)であり、濃ドットがオン、即ちその画素に濃度の高いインクによるドットを形成すると判断した場合には、その画素の濃度の対応した値(例えば値255)が設定される。この結果値RVは、固定値でも良いが、濃レベルデータDthの関数として設定しても良い。
他方、濃レベルデータDthが閾値Dref1以下の場合には、濃ドットをオフ、即ち形成しないと判断し、更に結果値RVに値0を代入する処理を行なう(ステップS228)。濃度の高いインクによるドットが形成されない箇所は、用紙の白地が残ることから、結果値RVを値0とするのである。
こうして濃ドットのオン・オフを決定し、結果値RVを演算する処理を行なった後、次に図17に示すように、まず、着目している画素の階調データDSに近傍の処理済みの画素からの拡散誤差ΔDuを加えた補正データDCを求める処理を行なう(ステップS240)。これは、誤差拡散の処理を行なうためである。その後、濃ドットをオン(シアンインクC1によるドット形成)としたか否かを判断し(ステップS242)、濃ドットを形成していない場合には、濃度の低いドット、即ちライトシアンインクC2によるドット(以下、淡ドットと呼ぶ)のオン・オフを決定する処理を行なう(ステップS244以下の処理)。
ライトシアンインクC2によるドットの形成は、実施例では、この誤差拡散法を適用し、誤差拡散の考え方で補正した階調データDCが淡ドット用の閾値Dref2より大きいか否かの判断を行なう(ステップS244)。この閾値Dref2は、着目した画素に濃度の低い淡インクによるドットを形成するか否かの判定値であって、本実施例では、補正済みのデータDCに応じて可変される値として設定した。
補正データDCが閾値Dref2より大きければ淡ドットをオンすると判断し、結果値RV(淡ドット評価値)を演算する(ステップS246)。結果値RVは、本実施例では、値122を基準値とし、補正データDCにより補正される値とした。他方、補正データDCが閾値Dref2以下と判断された場合には、淡ドットをオフにすると判断し、結果値RVに値0を算入する処理を行なう(ステップS248)。
こうして淡ドットと濃ドットによる記録が行なわれることになるが、この様子をシアンインクC1とライトシアンインクC2とについて模式的に示したのが、図19である。入力された階調データが低い領域(実施例では、階調データが0/256〜63/256の領域)では、図19(a),(b)に示すように、ライトシアンインクC2によるドットだけが形成され、かつ階調データが高くなるにつれて、所定の領域内に存在する淡ドットの割合は増加し(図19(c)ないし(e))、階調データが更に高くなると、淡ドットの形成は行なわれなくなり濃ドットだけが形成される(図19(f),(g))。階調データが最大となれば、図19(h)に示すように、濃ドットによる記録率が100パーセントとなる。
以上説明した本実施例のプリンタ20では、通常より染料濃度の高いイエロインクを採用する一方で、濃淡2種類のシアンインクおよびマゼンタインクを有するインクカートリッジ70をキャリッジ30に搭載し、入力画像の階調が低い領域では、染料濃度の低いライトシアンインクおよびライトマゼンタインクを用いて印字を行なうので、階調が低い領域での粒状感が目立たず、印字品質が極めて高いという利点が得られる。イエロインクの濃度は、イエロインクのドットについての粒状感が目立たない範囲で高くすることができるから、染料濃度で4倍程度までは可能である。このとき、イエロインクの平均的な吐出量を、大幅に低減することができる。
上記実施例では、イエロインクの濃度を高くしたが、イエロインクに限定されるものではなく、印刷に利用されるインクの色の組み合わせの中で、最も明度の高いインクあるいは最も粒状化の視認性が低いインクの濃度を高めればよい。また、本実施例では、イエロインクの染料濃度を高めたことによる色バランスの偏りの是正は、イエロインクのドット形成の割合を低くすることにより行なったが、イエロインクにより形成されるドットの径を低減することによっても、この偏りを是正することができる。用紙P上に形成されるドットの大きさは、インク吐出用のノズルの直径やピエゾ素子PEに印可する電圧パルスの強さ(電圧及び継続時間)等を調整することにより制御することができる。例えば、上記実施例のイエロインク用のノズル66を小径ドット用のノズルとして形成し、シアンインクC用のノズル62,63とマゼンタインクM用のノズル64,ロゴを大径ドット用のノズルとして形成すればよい。
上記本実施例では、各色ドットの形成を制御するプログラムは、プリンタ20側ではなくコンピュータ90のプリンタドライバ96側に用意したが、プリンタ20内に用意することも可能である。例えば、コンピュータ90からは、ポストスクリプトなどの言語により印刷する画像情報が送られてくる場合には、プリンタ20側にハーフトーンモジュール99などを持つことになる。また、これらの機能を実現するソフトウェアプログラムは、本実施例では、コンピュータ90内のハードディスク等に記憶されており、コンピュータ90が起動する際にプリンタドライバの形態でオペレーティングシステムに組み込まれるが、フロッピディスクやCD−ROM等の携帯型記憶媒体(可搬型記憶媒体)に格納され、携帯型記憶媒体からコンピュータシステムのメインメモリまたは外部記憶装置に転送されるものとすることも可能である。また、コンピュータ90からプリンタ20の内部に転送して利用する形態とすることも可能である。なお、通信回線を介して、これのソフトウェアプログラムを提供する装置を設け、上記ハーフトーンモジュールの処理内容を、通信回線を介して、このコンピュータやプリンタ20に転送して利用する形態とすることもできる。
また、上述した実施例では、濃淡いずれのインクの吐出も、ピエゾ素子PEを用い、ピエゾ素子PEに所定時間幅の電圧を印可することにより行なっているが、この他のインク吐出方式を採用することも容易である。実用化されているインク吐出方式としては、大まかに分けると、連続したインク噴流からインク粒子を分離して吐出する方式と、上述した実施例でも採用された方式であるオンデマンド方式に大別される。前者には、荷電変調によりインクの噴流から液滴を分裂させる荷電変調方式、インクの噴流から大径粒子が分裂する際に生じる微少なサテライト粒子を印字に利用するマイクロドット方式などが知られている。これらの方式も、複数種類の濃度のインクを利用した本発明の印刷装置に適用可能である。
また、オンデマンド方式は、ドット単位でインク粒子が必要となったとき、インク粒子を生成するものであり、上述した実施例で採用したピエゾ素子を用いた方式の他、図20(A)〜(E)に示すように、インクのノズルNZ近傍に発熱体HTを設け、インクを加熱することでバブルBUを発生させ、その圧力によりインク粒子IQを吐出する方式などが知られている。これらのオンデマンド方式のインク吐出方式も、複数種類の濃度のインクあるいは径の異なる複数のドットを利用する本発明の印刷装置に適用可能である。なお、明度の最も高いインクまたは粒状化の視認性が最も低いインクの濃度を高くすると言う考え方は、このほか、熱転写方式のカラープリンタやレーザなどの電子写真方式のカラープリンタにも適用することができる。