電子写真技術を用いて画像を形成する電子写真方式の画像形成装置(以下、電子写真装置と称する)は、複写機、プリンタ、ファクシミリ装置などとして多用されている。電子写真装置では、以下のような電子写真プロセスを経て画像を形成する。まず、装置に備わる電子写真感光体(以下、単に感光体とも称する)の感光層を、帯電手段によって所定の電位に一様に帯電させ、露光手段によって画像情報に応じた露光を施し、静電潜像を形成する。形成された静電潜像を現像剤で現像し、トナー像を形成する。形成されたトナー像を、転写手段によって感光体の表面から転写紙に転写し、定着手段によって定着させる。これによって転写紙に画像が形成される。一方、トナー像の転写後の感光体は、クリーニングブレードなどを備えるクリーニング手段によってクリーニングが施され、転写動作時に転写材上に転写されずに感光体表面に残留するトナーなどが除去される。その後、除電器などによって感光層表面が除電され、静電潜像が消失する。
電子写真装置に用いられる電子写真感光体は、円筒状または円柱状の導電性基体の外周面に光導電性材料を含有する感光層が積層された構成を有する。近年、電子写真感光体に用いられる光導電性材料の開発が進み、従来から用いられてきた酸化亜鉛、硫化カドミウム、アモルファスセレン、アモルファスシリコンなどの無機系の光導電性材料に代えて、有機系の光導電性材料すなわち有機光導電体(Organic Photoconductor;略称OPC)が多用されるようになっている。有機系の光導電性材料を用いた電子写真感光体は、感度、耐久性および環境に対する安定性などに若干の問題を有するけれども、毒性、製造原価および材料設計の自由度などの点において、無機系の光導電性材料を用いた感光体に比べ、多くの利点を有する。
特に、電荷を発生する物質(以後、電荷発生物質と称する)を含む電荷発生層と、電荷を輸送する物質(以後、電荷輸送物質と称する)を主体とする電荷輸送層とが積層されて成る光導電層を感光層として備える積層型の機能分離型感光体は、感度、帯電性、繰返し安定性などの電子写真特性に優れており、現在実用化されている電子写真感光体の大部分を占めている。
近年、複写機、プリンタなどの画像形成装置には、高画質化、高耐久化、低コスト化、フルカラー化などが要求されており、これらを実現するために、電子写真感光体の更なる高機能化が望まれている。たとえば、画像形成装置の高耐久化を実現するためには、電子写真感光体の高耐久化が求められる。感光体の表面層である感光層は、電子写真プロセスの中で種々の負荷(ストレス)に晒されている。たとえば、帯電工程においては、コロナ放電によるオゾン、窒素酸化物などの吸着または接触帯電手段による摺擦などの負荷を受ける。また、現像工程および転写工程では、現像剤または転写紙との摺擦などを受け、クリーニング工程では、クリーニングブレードまたはブラシとの摺擦などを受ける。これらの負荷によって感光層は摩耗し、膜厚が減少する。
感光層の摩耗に伴う膜厚変化は、感光体の帯電性および光感度の低下、それに伴う画像濃度の低下、地かぶりなどの画像品質の劣化を引起す。このため、感光体の高耐久化を実現するために、感光層の耐摩耗性を改良するための種々の方法が検討されている。
感光層の耐摩耗性を改良する方法としては、光導電層の表面に保護層を設けることが提案されている(たとえば、特許文献1および2参照)。保護層の結着樹脂としては、摩耗強度に優れることから、架橋性樹脂などを主樹脂と硬化剤との反応によって得られる熱硬化性樹脂などの硬化性樹脂が用いられる。たとえば、特許文献1には、熱硬化性シリコーン樹脂を含有する保護層を設けた感光体が開示されている。また、特許文献2には、保護層の結着樹脂として、硬化性樹脂とアクリル樹脂との混合物を用いた感光体が開示されている。
保護層は、保護層形成用塗布液を光導電層の表面に塗布することによって形成される。前述のように保護層の結着樹脂として硬化性樹脂を用いると、保護層形成用塗布液の保存安定性に問題が生じる。すなわち、硬化性樹脂を用いた保護層を形成するための保護層形成用塗布液は、主樹脂と硬化剤とを混合して調製されるので、保管中または感光体の製造中に、主樹脂と硬化剤との反応が進行して主樹脂が硬化し、保護層形成用塗布液のゲル化が引起される。このため、良質な感光体を安定して生産することのできる塗布液状態に維持することは困難であり、均質な保護層を安定して形成することができないという問題が生じる。均質な保護層を形成するためにはゲル化した塗布液を廃棄する必要があり、塗布液の損失による製造原価上昇の問題も生じる。
また、塗布液の塗布に際しても種々の問題がある。塗布液の塗布方法としては、浸漬塗布法、ロールコート法、バーコート法、ブレード塗布法、リング塗布法、スプレー塗布法などが知られている。たとえば、浸漬塗布法では、塗布槽に貯留される塗布液に基体を浸漬した後、一定速度または逐次変化する速度で塗布液から引上げることによって基体の表面に塗布液を塗布する。
図5は、浸漬塗布法に用いられる浸漬塗布装置の構成の一例を示す系統図である。浸漬塗布装置1において、塗布槽4には、感光体材料を含む塗布液5が収容される。この塗布槽4内の塗布液5中に、チャッキング装置8によって保持された導電性基体(以後、単に基体とも称する)11が浸漬される。浸漬にあたってチャッキング装置8は、モータ3を備える昇降機2によって下降される。これによって基体11が塗布液5に浸漬される。充分に浸漬を行なった後、チャッキング装置8は昇降機2によって上昇される。昇降機2のモータ3の回転量を調整することによって、塗布槽4の所望の深さまで基体11を浸漬することができる。基体11を浸漬する際に塗布槽4から溢流(オーバフロー)した塗布液5は、矢符13方向へ流れて補助タンク7に回収される。補助タンク7では、回収された塗布液5を撹拌装置12によって撹拌しながら、所定の粘度になるように粘度測定装置16および溶剤追加装置10によって調整する。その後、塗布液5は、フィルタ9を介して液中の異物を濾過されながらポンプ6によって塗布槽4に戻される。このようにして再び塗布液5で満たされた塗布槽4では、次の浸漬塗布が行われる。
このように、浸漬塗布法は、比較的簡単であり、生産性に優れるので、電子写真感光体の製造に多用されている。しかしながら、浸漬塗布法では、基体全体が浸漬されるように、塗膜として消費される分を超える量の塗布液を塗布槽に収容しておく必要があるので、塗布液の使用効率が悪いという問題がある。塗布液は時間の経過に伴って粘度などが変化して使用できなくなるので、準備された塗布液の大部分が消費されずに寿命後に廃棄されることになり、製造原価の上昇および環境負荷の増大を招く。特に、保護層形成用塗布液は、前述のように主樹脂と硬化剤とを含み、塗布槽中に保管されている間にも反応が進行するので、短期間で交換する必要があり、使用効率の向上が求められる。また、前述のように塗布槽に大量の塗布液を収容するためには、消防法に係る指定数量の制約を満足するために防爆対策などを採る必要があり、設備投資コストが増加するという問題も生じる。
また、浸漬塗布法では、基体の寸法たとえば円筒状基体の外径、長手方向の長さなどに応じて、使用する塗布槽を入れ替え、塗布槽の洗浄などを行なう必要がある。たとえば、感光体の寸法は搭載される電子写真装置の機種毎に異なるので、生産する機種を切り替えるいわゆる機種切替の際には、その都度、塗布液の出し入れおよび塗布槽の洗浄を行なう必要があり、作業工程数が増加し、製造原価の上昇を招く。また、浸漬塗布法では、円筒状基体をその長手方向に移動させて塗布液に浸漬するので、基体の長手方向各所において、塗布液中の溶剤蒸気の影響および塗布液への浸漬時間が異なるので、塗布むらが発生しやすい。また、塗布液中に長時間浸漬されることになる基体の下端側の端部では、先に形成された下層が塗布液中に溶出するという問題も生じる。
これに対し、ロールコート法、バーコート法、ブレード塗布法、リング塗布法、スプレー塗布法では、浸漬塗布法で問題となる塗布液の使用効率の悪さ、下層の溶出などの問題は生じない。たとえば、ロールコート法、バーコート法、ブレード塗布法、リング塗布法では、ロールなどの塗布部材を介して基体に塗布液を塗布するので、浸漬塗布法に比べ、生産に必要なベース塗布液が少量であり、塗布液の使用効率が良好である。しかしながら、基体から塗布部材を引離す際に、塗布液の表面張力によって余分な塗布液が基体に付着する現象、基体に塗布された塗膜の一部が盛上がる現象などが生じ、膜厚が不均一になるという問題がある。
また、スプレー塗布法は、塗膜の形成に必要な量の塗布液のみを噴霧する方法であり、必要な量を超える多量の塗布液を必要としないので、ロールコート法などよりもさらに高い塗布液使用効率を実現することができる。図6は、スプレー塗布法に用いられるスプレー塗布装置の構成の一例を示す系統図である。スプレー塗布装置20において、貯留タンク22には感光体材料を含む塗布液5が収容される。スプレーノズル21には、コンプレッサ23およびエアフィルタ24を介して清浄な噴霧用ガスが送給される。塗布液5は、フィルタ9を介して液中の異物を濾過されながらポンプ6によってスプレーノズル21に送給され、噴霧用ガスによって導電性基体11に噴霧される。噴霧に際し、導電性基体11は、軸線まわりに矢符25方向に回転駆動され、スプレーノズル21は、導電性基体11の軸線方向に平行な方向すなわち図6の紙面に向かって上下方向である矢符26方向に往復移動される。これによって円筒状の導電性基体11の外周面全体に塗布液5が塗布される。スプレー塗布装置20では、基体11の回転速度、スプレーノズル21の移動速度、スプレーノズル21の往復移動回数などを調整することによって、形成される塗布膜の膜厚を制御することができる。
このようなスプレー塗布装置において、生産する機種を切り替える際には、貯留タンクの交換およびスプレーノズルの清掃を行なうだけでよいので、浸漬塗布法に比べて作業工程数が少なく、コストも比較的安価である。また、基体の長手方向全体にわたって同様に塗布を行なうことができるので、基体の長手方向における塗布むらも低減することができる。
しかしながら、スプレーノズルから噴霧される塗布液は、スプレーノズルの開口部の口径よりも広範囲に広がって飛散されるので、塗布すべき部分の周囲にまで塗布される。塗布液の使用効率をさらに向上させるためには、このような不要な部分に塗布液が塗布されないような塗布方法が求められる。また、スプレーノズルから噴霧される塗布液の液滴は、直径が比較的大きく不均一であるので、保護層のように厚さが10μm以下の薄い層を形成する場合にスプレー塗布法を用いると膜質が粗くなる。このような保護層が感光層の表面層として形成されると、画質が低下するという問題が生じる。
上記以外の方法として、いわゆるインクジェット方式の塗布方法(以後、インクジェット法とも称する)がある(たとえば、特許文献3参照)。インクジェット法では、被塗布物と吐出ノズルとを相対的に移動させながら、塗布液を吐出ノズルから液滴として吐出させて被塗布物に付着させる。
吐出ノズルから塗布液を吐出させる方式には、圧電素子(以後、ピエゾ素子とも称する)の振動圧によって塗布液を押出すピエゾ方式、ヒータに通電して塗布液を加熱し、それによって塗布液中に気泡を発生させ、発生した気泡の膨張圧によって塗布液を押出すバブルジェット(登録商標)方式、ヒータに通電して塗布液中に気泡を発生させ、その気泡を破裂させることによって塗布液を押出すサーマル方式などがある。たとえば、前述の特許文献3に開示の技術では、塗布液に圧力をかけて複数の微小ノズルから筋状に連続して飛翔させ、被塗布物に塗布する。
図7は、インクジェット法に使用されるインクジェット塗布装置の構成の一例を示す系統図である。インクジェット塗布装置30では、図6に示すスプレー塗布装置20に備わるスプレーノズル21に代えて、圧電素子またはヒータなどを内蔵するインクジェット方式のノズルヘッド31が設けられる。貯留タンク22に貯留される塗布液5は、フィルタ9を介してポンプ6によってノズルヘッド31に送給され、ノズルヘッド31内の図示しない吐出ノズルから基体11に向かって液滴として吐出される。
インクジェット法では、吐出される液滴を直線的に非常に精度良く飛翔させることができ、かつ、ノズルヘッド31内に設けられる複数の吐出ノズルの動作を個々に制御することができるので、射出される塗布液の広がりを抑えることができる。このため、塗布液の使用効率が良く、またマスキングが不要であり、塗着効率が非常に高いという利点を有する。また、ノズルヘッド31自体に塗布液を吐出させる機構が内蔵されているので、スプレー塗布装置20のコンプレッサ23およびエアフィルタ24などの噴霧用ガスを供給するための装置を設ける必要がないという利点もある。また、塗布液を貯留するための貯留タンクを取り替えるだけで容易に塗布液を交換することができるとともに、塗布液の使い切りが可能であるので、生産効率が非常に高いという利点も有する。また、インクジェット法で吐出される液滴は、直径が数十μmと微小であり、かつ均一であるので、厚さ10μm以下の薄い層であっても平滑に形成することができるという利点もある。
しかしながら、インクジェット法には、吐出ノズルの目詰まりが発生しやすく、塗布液を長期間安定して吐出させることが困難であるという問題がある。特に、前述の特許文献3に開示の技術のように、塗布液の溶剤としてテトラヒドロフランなどの沸点の低い溶剤を用いると、溶剤の揮発が早いので、塗布液が吐出ノズル部分で乾燥しやすく、吐出ノズルの目詰まりが発生しやすくなる。また、このような低沸点溶剤のみを溶剤として用いた塗布液は、塗着後の乾燥も早いので、レベリング性が充分でなく、均一な厚みの層を形成することが困難であるという問題もある。
特開平3−155558号公報
特開昭60−3639号公報
特開平11−19554号公報
本発明の実施の一態様である電子写真感光体の製造方法は、導電性基体に一層または複数の層で構成される感光層が積層されてなる電子写真感光体を製造する方法である。本実施態様の電子写真感光体の製造方法では、感光層を構成する層のうち少なくとも1つの層は、インクジェット法を用い、2種以上の塗布液を、導電性基体に向けてそれぞれ吐出ノズルから液滴状に吐出させることによって、少なくとも導電性基体上で塗布液同士が混合された状態になるように塗布する塗布工程と、該2種以上の塗布液が塗布された導電性基体を乾燥させる乾燥工程とを経て形成される。
このように、感光層を構成する層を形成するための塗布液を2種以上の塗布液に分けて塗布することによって、層を形成するための成分を別々の塗布液に含有させて塗布することができる。これによって、各成分を導電性基体上で混合されるまで触れないようにすることができるので、塗布液のゲル化、塗布液に含まれる成分の沈降、凝集、変質などを防ぎ、均質な層を安定して形成することができる。また、塗布液の損失を抑え、製造原価を低減することができる。
図1は、本実施態様の電子写真感光体の製造方法に好適に用いられるインクジェット塗布装置40の構成を簡略化して示す系統図である。図1に示すインクジェット塗布装置40は、前述の塗布工程において2種類の塗布液を用いる場合に好適に使用される。インクジェット塗布装置40は、ノズルヘッド41と、ノズルヘッド41が移動可能に装着されるガイドレール部42と、ノズルヘッド41に塗布液を供給する塗布液供給部43と、フィルタ44およびポンプ45を介してノズルヘッド41と塗布液供給部43とを接続する搬送チューブ46と、導電性基体61を支持する基体支持手段47と、基体支持手段47を介して導電性基体61を軸線まわりに矢符48方向に回転駆動する図示しない回転駆動手段とを含んで構成される。導電性基体61としては、円筒状または円柱状の物を用いることができる。搬送チューブ46の内部には図示しない管路が形成され、塗布液の搬送流路として機能する。本実施の形態では、ノズルヘッド41は、第1吐出ノズル49と第2吐出ノズル50とを含む。
塗布液供給部43は、塗布液を貯留する貯留槽を備える。本実施の形態では、塗布液供給部43は、2種類の塗布液すなわち第1塗布液51および第2塗布液52をそれぞれ貯留する第1貯留槽53および第2貯留槽54を備える。塗布液供給部43に接続される搬送チューブ46の内部には図示しない2つの管路が形成され、これらの管路を介して、第1貯留槽53と第1吐出ノズル49とが接続され、第2貯留槽54と第2吐出ノズル50とが接続される。ノズルヘッド41は、塗布液供給部43の第1貯留槽53から供給される第1塗布液51を第1液滴51aとして第1吐出ノズル49から導電性基体61に向けて吐出し、第2貯留槽54から供給される第2塗布液52を第2液滴52aとして第2吐出ノズル50から導電性基体61に向けて吐出する。
本実施の形態では、第1吐出ノズル49および第2吐出ノズル50は、各開口部の中心線が導電性基体61の表面において互いに交わるように、それぞれ導電性基体61の軸線に直交する方向に対して傾斜して形成される。これによって、第1液滴51aおよび第2液滴52aを導電性基体61表面の略等しい位置に着弾させることができるので、第1塗布液51である第1液滴51aと第2塗布液52である第2液滴52aとを導電性基体61上で均一に混合することができる。したがって、導電性基体61の第1塗布液51および第2塗布液52が塗布されるべき部分にわたって、均一な性質の層を形成することができる。
このように、インクジェット塗布装置40では、第1液滴51aおよび第2液滴52aの飛翔経路を容易に制御することができ、第1液滴51aおよび第2液滴52aを均一に混合して均質な層を形成することができるので、本実施態様による電子写真感光体の製造方法に好適である。また、インクジェット塗布装置40では、前述の図5に示す浸漬塗布装置1のように必要な量を大幅に超える多量の塗布液を貯留しておく必要がないので、塗布液の使用効率が高く、浸漬塗布装置1を用いる場合に比べ、製造原価を低減することができる。さらに、インクジェット塗布装置40では、導電性基体61の寸法、たとえば軸線方向の長さを変更する場合には、インクヘッド41の導電性基体61の軸線に平行な方向における移動範囲を変更するだけでよい。すなわち、インクジェット塗布装置40では、生産する機種の切替を容易に行なうことができるので、高い生産性を実現することができる。本実施態様では、このような利点を有する図1に示すインクジェット塗布装置40などを使用してインクジェット塗布法で塗布を行なうので、均一な品質および厚みの層を有する高品質の電子写真感光体を安定して、効率良くかつ安価に製造することができる。
本実施の形態では、第1吐出ノズル49は、図示しない圧電素子および電極を備え、圧電素子に電圧を印加したときの歪みによる圧電素子の振動によって第1塗布液51aを吐出させるピエゾ方式の吐出ノズルである。第2吐出ノズル50も同様に、図示しない圧電素子および電極を備え、圧電素子の振動によって第2液滴52aを吐出させるピエゾ方式の吐出ノズルである。
インクジェット方式における液滴の吐出方法には、ピエゾ方式以外に、バブルジェット(登録商標)方式、サーマル方式などがある。これらの方式では、ヒータなどの発熱体を用いて塗布液に対して局所的に熱を加えて気泡を発生させるので、コゲーションによる吐出不良が発生する恐れがある。これに対し、ピエゾ方式では、コゲーションを生じることがなく、塗布液を安定して吐出させることができるので好ましい。
ガイドレール部42は、たとえば金属製の棒状部材であり、その軸線が導電性基体61の軸線と平行になるように図示しないレール支持手段に装着される。これによって、ガイドレール部42に装着されるノズルヘッド41は、導電性基体61に対して一定の距離を保つようにして、ガイドレール部42に案内されて、導電性基体61の軸線に平行な方向に移動することができる。ノズルヘッド41の移動は、たとえばガイドレール部42をラックとして形成し、ノズルヘッド41に電動機を設け、電動機の出力軸にピニオンを設けることによって実現することができる。
インクジェット塗布装置40は、導電性基体61を軸線まわりに回転駆動するとともに、ノズルヘッド41を導電性基体61の軸線に平行な方向に移動させながら塗布液を液滴状に吐出させることによって、導電性基体61に対して塗布液を塗布する。ノズルヘッド41に備わる第1吐出ノズル49および第2吐出ノズル50は、ノズルヘッド41の移動に伴って導電性基体61の軸線に平行な方向に移動する。このように、導電性基体61と吐出ノズル49,50とを相対的に移動させながら塗布液を吐出させることによって、導電性基体61の塗布液を塗布するべき部分全体にわたって均一に塗布液を塗布することができるので、塗布むらの発生を防ぎ、保護層などの層を一層均一に形成することができる。
インクジェット塗布装置40による塗布動作の際、ノズルヘッド41は、ガイドレール部42に案内されて、導電性基体61の軸線に平行な方向に往復して繰返し移動される。インクジェット塗布装置40では、塗布液51,52を塗布する際の導電性基体61の回転速度、ノズルヘッド41がガイドレール部42に案内されて移動する移動速度、ノズルヘッド41の往復移動回数、吐出ノズル49,50からの液滴51a,52aの吐出速度、吐出ノズル49,50からの液滴51a,52aの吐出量すなわち吐出される液滴51a,52aの体積などを調整することによって、形成される塗膜の膜厚、ひいては塗膜を乾燥して得られる保護層などの層の厚さを制御することができる。
なお、図1に示すインクジェット塗布装置40を用いて、導電性基体61表面に形成された層の表面に対して塗布液51,52を塗布する場合には、層が形成された導電性基体61を基体支持手段で保持して塗布液51,52の塗布を行なう。
図1に示すインクジェット塗布装置40では、第1吐出ノズル49および第2吐出ノズル50は、開口部の中心線が導電性基体61の表面で交差するように傾斜して形成されるけれども、これに限定されず、開口部の中心線が導電性基体61の表面よりも開口部寄りの空間で交差するように傾斜して形成されてもよい。これによって、第1液滴51aと第2液滴52aとを導電性基体61に着弾する前に空中で衝突させて混合し、一体として導電性基体61に着弾させることができる。したがって、第1塗布液51と第2塗布液52とをより均一に混合することができるので、形成される層の均一性を向上させることができる。
また、第1吐出ノズル49および第2吐出ノズル50は、開口部の中心線が導電性基体61の軸線に対して直交し、互いに交わらないように形成されてもよい。この場合、インクジェット塗布装置40は、第1吐出ノズル49および第2吐出ノズル50から順次第1液滴51aおよび第2液滴52aを吐出させるとともに、ノズルヘッド41を、導電性基体61の第1液滴51aが着弾した位置に第2液滴52aが着弾するように、導電性基体61の軸線に平行な方向に移動させる。これによって、導電性基体61の表面において、第1液滴51aと第2液滴52aとを混合することができる。
また、図1に示すインクジェット塗布装置40は、2つの貯留槽53,54と、2つの吐出ノズル49,50とを備えるけれども、貯留槽および吐出ノズルをそれぞれ3つ以上備えてもよい。このようなインクジェット塗布装置を用いることによって、感光層を構成する層を形成するための塗布液を3つ以上に分けて塗布することができる。
図2は、本実施態様の電子写真感光体の製造方法によって作製される電子写真感光体の一例である電子写真感光体60の構成を簡略化して示す部分断面図である。図2に示す電子写真感光体60は、積層型感光体であり、円筒状の導電性基体61と、導電性基体61に順次積層される下引き層62、電荷発生層63、電荷輸送層64および保護層65とを備える。電荷発生層63および電荷輸送層64は光導電層66を構成し、下引き層62、光導電層66および保護層65は感光層67を構成する。感光層67を構成する層のうち、少なくとも保護層65は、前述の塗布工程と乾燥工程とを経て形成される。
以下、電子写真感光体60の層構成と構成材料とについて説明する。なお、本発明に係る感光体材料は以下の記載内容に限定されるものではない。
導電性基体61を構成する導電性材料としては、アルミニウム、銅、亜鉛、ニッケル、クロム、モリブデン、バナジウム、インジウム、チタン、金、白金などの単体金属、真鍮、ステンレス鋼などの合金などの金属材料を用いることができる。またこれらの金属材料に限定されることなく、ポリエステルなどのプラスチックフィルムまたは紙などの表面に、アルミニウム、アルミニウム合金、金などの金属材料または酸化錫、酸化インジウムなどの導電性化合物などを蒸着または塗布したもの、導電性粒子を含有するプラスチックまたは紙、導電性ポリマーを含有するプラスチックなどを用いることもできる。これらの導電性材料は、円筒状、円柱状または薄膜シート状などの所定の形状に加工されて用いられる。本実施態様では、感光層67を構成する層のうち少なくとも保護層65の形成は、前述の図1に示すインクジェット装置40を用いて行なわれるので、導電性基体61は円筒状または円柱状であることが好ましい。
図2に示すように、導電性基体61と光導電層66との間には下引き層62が設けられる。導電性基体61と光導電層66との間に下引き層62を設けることによって、導電性基体61から光導電層66への電荷の注入を防ぎ、繰返し使用による感光体60の帯電性の低下を防止することができる。また、低温低湿環境下における感光体60の帯電性を改善することができる。さらに、導電性基体61表面の傷、凹凸などを下引き層62で被覆することができるので、光導電層66の成膜性を高めることができる。
下引き層62は、たとえば、ポリアミド、共重合ナイロン、ポリビニルアルコール、ポリウレタン、ポリエステル、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、カゼイン、セルロース、ゼラチンなどの樹脂材料で形成される。これらの中でも、アルコール可溶性の共重合ナイロンが好適に用いられる。
下引き層62には、体積抵抗率の調節、低温低湿環境下での繰返しエージング特性の改善などを目的として、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化錫、酸化インジウム、シリカ、酸化アンチモンなどの無機顔料を添加してもよい。下引き層62中の無機顔料の含有量は、30重量%以上95重量%以下であることが好ましい。
下引き層62は、たとえば、前述の樹脂材料および必要に応じて前述の無機顔料などの添加剤を適当な溶剤中に加え、ボールミル、ダイノーミルまたは超音波発振機などの分散機を用いて分散させて下引き層形成用塗布液を調製し、この塗布液を導電性基体61の表面に塗布することによって形成することができる。
下引き層形成用塗布液の溶剤としては、水、各種有機溶剤などが用いられる。これらの溶剤は、1種が単独で用いられてもよく、2種以上が混合されて混合溶剤として用いられてもよい。単独溶剤としては、水、メタノール、エタノール、ブタノールなどのアルコール類が好適に用いられる。混合溶剤としては、水とアルコール類との混合溶剤、2種以上のアルコール類の混合溶剤、アセトンなどのケトン類とアルコール類との混合溶剤、ジオキソランなどのエーテル類とアルコール類との混合溶剤、ジクロロエタン、クロロホルム、トリクロロエタンなどの塩素系溶剤とアルコール類との混合溶剤などが好適に用いられる。これらの中でも、地球環境への影響および作業者などの安全性を考慮すると、非ハロゲン系、特に非塩素系の有機溶剤を使用することが好ましい。
下引き層形成用塗布液の形成方法としては、インクジェット法、浸漬塗布法などが好適に用いられる。ただし、下引き層形成用塗布液が前述の酸化チタンなどの無機顔料を含む場合、これらの無機顔料は比重が高く、沈降しやすいので、図1に示すインクジェット塗布装置40などを用いてインクジェット塗布法で塗布すると、ノズル部分で顔料が沈降、凝集を起こしやすく、吐出不良を引起す恐れがある。また、酸化チタンなどの無機顔料は、非常に堅牢でノズルを摩耗させやすいので、インクジェット塗布装置の耐久性が低下する。したがって、無機顔料を含む下引き層形成用塗布液の塗布には、前述の図5に示す浸漬塗布装置などを使用する浸漬塗布法が好適に用いられる。
浸漬塗布法を用いる場合、塗布液を満たした塗工槽に導電性基体61を浸漬した後、一定速度または逐次変化する速度で引上げることによって、導電性基体61の表面に下引き層62を形成することができる。浸漬塗布法によって形成される塗布膜の膜厚は、導電性基体61を引上げる際の速度(以後、引上げ速度と称する)、塗布液の粘度などによって制御することができる。たとえば、膜厚を薄くする場合には、導電性基体61の引上げ速度を大きくして塗布速度を小さくするか、または塗布液の粘度を小さくし、膜厚を厚くする場合には、導電性基体61の引上げ速度を小さくして塗布速度を大きくするか、または塗布液の粘度を大きくする。塗布液の粘度は、塗布液中の固形分の濃度によって調整することができる。
下引き層62の層厚は、0.1μm以上5μm以下であることが好ましい。下引き層62の層厚が0.1μmよりも薄いと、実質的に下引き層62として機能しなくなり、導電性基体61からの光導電層66への電荷の注入を防止することができず、感光体60の帯電性が低下する恐れがある。また、導電性基体61の欠陥を被覆して均一な表面性を得ることが困難になるので、光導電層66の成膜性が低下する可能性がある。下引き層62の層厚が5μmよりも厚いと、光導電層66から導電性基体61への電荷の流入が阻害され、感光体60の感度が低下する恐れがある。
下引き層62の表面に形成される電荷発生層63は、光照射によって電荷を発生する電荷発生物質を主成分とし、必要に応じて結着樹脂、可塑剤、増感剤などの添加剤を含有する。電荷発生物質としては、ペリレンイミド、ペリレン酸無水物などのペリレン系顔料、キナクリドン、アントラキノンなどなどの多環キノン系顔料、金属または無金属フタロシアニン、ハロゲン化金属または無金属フタロシアニンなどのフタロシアニン系顔料、スクエアリウム色素、アズレニウム色素、チアピリリウム色素、およびカルバゾール骨格、スチリルスチルベン骨格、トリフェニルアミン骨格、ジベンゾチオフェン骨格、オキサジアゾール骨格、フルオレノン骨格、ビススチルベン骨格、ジスチリルオキサジアゾール骨格またはジスチリルカルバゾール骨格を有するアゾ顔料などが挙げられる。これらの電荷発生物質のうち、特に高い電荷発生能を有するものとしては、無金属フタロシアニン顔料、オキソチタニウムフタロシアニン顔料、ガリウムフタロシアニン顔料、クロロガリウムフタロシアニン顔料、金属フタロシアニンと無金属フタロシアニンとの混晶、フローレン環および/またはフルオレノン環を有するビスアゾ顔料、芳香族アミンからなるビスアゾ顔料、トリスアゾ顔料が挙げられ、これらを用いることによって、高い感度を有する感光体を実現することができる。
電荷発生層63中の電荷発生物質の含有量は、30重量%以上90重量%以下であることが好ましい。電荷発生物質の含有量が30重量%未満であると、感光体60の感度が充分に得られない可能性がある。電荷発生物質の含有量が90重量%を超えると、電荷発生層63の膜強度が低下する可能性がある。また、電荷発生層63中における電荷発生物質の分散性が低下して粗大粒子が増大し、消去されるべき部分以外の表面電荷が露光によって減少し、黒ぽちなどの画像のかぶりが発生する恐れがある。ここで、黒ぽちとは、白地となるべき部分にトナーが付着して微小な黒点が形成される現象のことである。
電荷発生層63の結着樹脂としては、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル−無水マレイン酸共重合樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル−ポリビニルアルコール共重合樹脂、ポリカーボネート樹脂、フェノキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂などが挙げられる。
電荷発生層63の形成方法としては、前述の電荷発生物質を下引き層62の表面に真空蒸着で直接成膜する真空蒸着法、後述するようにして電荷発生層形成用塗布液を調製し、これを下引き層62の表面に塗布する塗布法などが挙げられる。これらの中でも後者の塗布法が好適に用いられる。
電荷発生層形成用塗布液の溶剤としては、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル類、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジオキソラン、ジメトキシエタンなどのエーテル類、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドなどの非プロトン性極性溶媒などを用いることができる。電荷発生層形成用塗布液の溶剤は、これらに限定されるものではないけれども、地球環境への影響および作業者などの安全性を考慮すると、非ハロゲン系、特に非塩素系の有機溶剤を使用することが好ましい。
電荷発生層形成用塗布液は、前述の電荷発生物質および必要に応じて前述の結着樹脂を適当な溶剤中に加え、前述の下引き層形成用塗布液に無機顔料を分散させる際と同様の方法で分散させることによって調製することができる。電荷発生層形成用塗布液の塗布方法としては、浸漬塗布法、ロールコート法、インクジェット塗布法などが挙げられる。
電荷発生層63の層厚は、0.05μm以上5μm以下であることが好ましく、より好ましくは0.1μm以上2.5μm以下である。電荷発生層63の層厚が0.05μm未満であると、光吸収の効率が低下し、感光体60の感度が低下するおそれがある。電荷発生層63の層厚が5μmを超えると、電荷発生層63内部での電荷移動が感光層67表面の電荷を消去する過程の律速段階となり、感光体60の感度が低下するおそれがある。
電荷発生層63の表面上に設けられる電荷輸送層64は、電荷発生物質が発生した電荷を受入れ、これを輸送する能力を有する電荷輸送物質と、電荷輸送物質を結着させる結着樹脂と、必要に応じて公知の可塑剤、増感剤などの添加剤とを含有する。電荷輸送物質としては、ホール輸送物質または電子輸送物質が用いられる。
ホール輸送物質としては、ポリ−N−ビニルカルバゾールおよびその誘導体、ポリ−γ−カルバゾリルエチルグルタメートおよびその誘導体、ピレンとホルムアルデヒドとの縮合物およびその誘導体、ポリビニルピレン、ポリビニルフェナントレン、オキサゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、9−(p−ジエチルアミノスチリル)アントラセン、1,1−ビス(4−ジベンジルアミノフェニル)プロパン、スチリルアントラセン、スチリルピラゾリン、ピラゾリン誘導体、フェニルヒドラゾン類、ヒドラゾン誘導体、トリフェニルアミン系化合物、トリフェニルメタン系化合物、スチルベン系化合物、3−メチル−2−ベンゾチアゾリン環を有するアジン化合物などの電子供与性物質などが挙げられる。電子輸送物質としては、フルオレノン誘導体、ジベンゾチオフェン誘導体、インデノチオフェン誘導体、フェナンスレンキノン誘導体、インデノピリジン誘導体、チオキサントン誘導体、ベンゾ[c]シンノリン誘導体、フェナジンオキサイド誘導体、テトラシアノエチレン、テトラシアノキノジメタン、プロマニル、クロラニル、ベンゾキノンなどの電子受容性物質などが挙げられる。これらの電荷輸送物質は、1種が単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
電荷輸送層64を構成する結着樹脂としては、電荷輸送物質と相溶性を有するものであればよく、たとえば、ポリカーボネートおよび共重合ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリビニルブチラール、ポリアミド、ポリエステル、エポキシ樹脂、ポリウレタン、ポリケトン、ポリビニルケトン、ポリスチレン、ポリアクリルアミド、フェノール樹脂、フェノキシ樹脂、ポリスルホン樹脂など、ならびにこれらの共重合樹脂などが挙げられる。これらの中でも、ポリスチレン、ポリカーボネート、共重合ポリカーボネート、ポリアリレートおよびポリエステルは、体積抵抗率が1013Ω以上であって絶縁性に優れ、また成膜性および電位特性にも優れているので好適に用いられる。結着樹脂は、1種が単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
電荷輸送層64において、電荷輸送物質の含有量は、30重量%以上80重量%以下であることが好ましい。電荷輸送物質の含有量が30重量%未満であると、電荷輸送層64の電荷輸送能力が不足し、感光体60の感度が低下する恐れがある。電荷輸送物質の含有量が80重量%を超えると、結着樹脂の比率が低くなり、電荷輸送層64の成膜性が低下する可能性がある。
電荷輸送層64は、前述の電荷輸送物質および結着樹脂、ならびに必要に応じて公知の可塑剤、増感剤などの添加剤を適当な溶剤に溶解または分散させて電荷輸送層形成用塗布液を調製し、これを電荷発生層63上に塗布することによって形成することができる。電荷輸送層形成用塗布液の溶剤としては、メタノール、エタノールなどのアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類、エチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジオキソランなどのエーテル類、クロロホルム、ジクロロメタン、ジクロロエタンなどのハロゲン化脂肪族炭化水素類、ベンゼン、クロロベンゼン、トルエンなどの芳香族炭化水素類などを用いることができる。これらの中でも、地球環境への影響および作業者などの安全性を考慮すると、非ハロゲン系、特に非塩素系の有機溶剤を使用することが好ましい。
電荷輸送層形成用塗布液の塗布方法としては、浸漬塗布法、ロールコート法、インクジェット法などを用いることができる。ただし、層厚が10μmを超える電荷輸送層64を形成する場合にインクジェット塗布法を用いると、塗布液の重ね塗り回数が非常に多くなり、塗工時間が非常に長くなる。また、乾燥性を確保するために揮発性の高い溶剤を用いる必要があり、吐出ノズル付近での乾燥固化によるノズルの目詰まり、塗布後のレベリング不良などが懸念される。したがって、層厚が10μmを超える電荷輸送層64を形成する場合には、浸漬塗布法、ロールコート法などを用いることが好ましい。
電荷輸送層64の層厚は、10μm以上50μm以下であることが好ましく、より好ましくは15μm以上40μm以下である。電荷輸送層64の層厚が10μm未満であると、感光体60表面の帯電保持能が低下する可能性がある。電荷輸送層64の層厚が50μmを超えると、感光体60の解像度が低下する可能性がある。
以上のようにして、電荷発生層63および電荷輸送層64からなる光導電層66が形成される。図2に示す感光体60では、電荷発生層63および電荷輸送層64は、この順に下引き層62に積層されるけれども、これに限定されず、電荷輸送層64および電荷発生層63の順に下引き層62に積層されてもよい。
光導電層66の各層、すなわち電荷発生層63および電荷輸送層64には、感度の向上を図り、繰返し使用時の残留電位の上昇および疲労劣化などを抑えるために、化学増感剤、光学増感剤などの増感剤を1種または2種以上添加してもよい。化学増感剤としては、たとえば、無水コハク酸、無水マレイン酸、無水フタル酸、4−クロルナフタル酸無水物などの酸無水物、テトラシアノエチレン、テレフタルマロンジニトリルなどのシアノ化合物、4−ニトロベンズアルデヒドなどのアルデヒド類、アントラキノン、1−ニトロアントラキノンなどのアントラキノン類、2,4,7−トリニトロフルオレノン、2,4,5,7−テトラニトロフルオレノンなどの多環または複素環ニトロ化合物などの電子受容物質を用いることができる。光学増感剤としては、たとえば、キサンテン系色素、チアジン色素、トリフェニルメタン色素、キノリン系顔料、銅フタロシアニンなどの有機光導電性化合物などの色素を用いることができる。
また、光導電層66の各層には、成形性、可撓性、機械的強度などを向上させるために、可塑剤を添加してもよい。可塑剤としては、二塩基酸エステル、脂肪酸エステル、リン酸エステル、フタル酸エステル、塩素化パラフィン、エポキシ型可塑剤などが挙げられる。また、ゆず肌を防止するために、ポリシロキサンなどのレベリング剤を添加してもよく、耐久性を向上させるために、フェノール系化合物、ヒンダードアミン系化合物、ハイドロキノン系化合物、トコフェロール系化合物、パラフェニレンジアミン、アリールアルカンおよびそれらの誘導体、アミン系化合物、有機硫黄化合物、有機燐化合物などの酸化防止剤または紫外線吸収剤を添加してもよい。ここで、ゆず肌とは、各層の表面に、ゆずの皮の表面のように、小さく、緩やかな凹凸が生じる現象のことである。
以上のようにして形成される光導電層66の表面には保護層65が設けられる。保護層65を設けることによって、感光層67の耐刷性を向上させ、感光体60の耐久性を向上させることができる。また、感光体60の表面を帯電させる際のコロナ放電によって発生するオゾン、窒素酸化物などの活性ガスなどの光導電層66に対する化学的悪影響を防止することができる。
保護層65は、少なくとも結着樹脂を含有する層で形成される。保護層65を形成するための結着樹脂としては、熱硬化性樹脂、紫外線硬化性樹脂などの硬化性樹脂を用いることが好ましく、熱硬化性樹脂を用いることがさらに好ましい。熱硬化性樹脂としては、公知のものを使用でき、その中でも、主樹脂と硬化剤とを混合して加熱し反応させることによって得られる熱硬化性樹脂が好適に用いられる。熱硬化性樹脂、特に主樹脂と硬化剤との反応によって得られる熱硬化性樹脂は、耐摩耗性に優れるので、これらの熱硬化性樹脂を用いることによって、耐久性に優れる保護層65を形成し、感光体60の耐刷性を向上させることができる。
主樹脂としては、尿素樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエーテル樹脂、アクリル樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリビニルアセタール樹脂などの硬化剤と反応可能な樹脂が挙げられる。主樹脂は、1種が単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。硬化剤としては、イソシアネート、有機過酸化物、アミン、酸無水物などが挙げられる。硬化剤は、主樹脂の種類に応じて適宜選択して用いられる。硬化剤は、加熱前に主樹脂との反応が起こらないように、ブロック剤によってブロック化された状態で用いられることが好ましい。ブロック化された硬化剤は、主樹脂と混合して加熱することによってブロック剤を解離させ、主樹脂と反応させることができる。
熱硬化性樹脂としては、少なくともポリビニルアセタール樹脂を含む主樹脂と硬化剤との反応によって得られるものが特に好適に用いられる。ポリビニルアセタール樹脂としては、ポリビニルブチラール樹脂などが挙げられる。ポリビニルアセタール樹脂の硬化剤としては、イソシアネートなどが挙げられる。
保護層65には、フィラーを含有することが好ましい。保護層65にフィラーを含有させることによって、保護層65の耐摩耗性を向上させ、感光層67の耐刷性をさらに向上させることができる。フィラーの平均粒径は、0.02μm以上1μm以下であることが好ましい。フィラーの平均粒径が0.02μm未満であると、耐摩耗性を向上させる効果が充分に得られない可能性がある。フィラーの平均粒径が1μmを超えると、露光時に感光体60に照射される光が保護層65中のフィラーによって散乱され、解像度が低下する恐れがある。
フィラーとしては、たとえば、シリカ、アルミナ、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化スズ、酸化インジウムなどの金属酸化物粒子が好適に用いられる。これらの中でも、酸化チタンが好ましい。フィラーは、1種が単独で用いられてもよく、2種以上が混合されて使用されてもよい。
これらのフィラーは、表面処理されていることが好ましい。表面処理を施すことによって、フィラーの分散性を向上させることができるとともに、保護層65の耐摩耗性を向上させることができる。フィラーの表面処理剤としては、シリカ、アルミナ、酸化ジルコニウムなどの無機物が好適に用いられる。特に、シリカ、アルミナまたは酸化ジルコニウムで表面処理された酸化チタンは、分散性も良く、保護層65を形成したときの耐摩耗性を著しく向上させることができるので、特に好適に使用される。
保護層65におけるフィラーの使用量は、結着樹脂100重量部に対して、10重量部以上50重量部以下であることが好ましい。フィラーの使用量が、結着樹脂100重量部に対して、10重量部未満であると、充分な耐摩耗性が得られないことがある。また50重量部を超えると、保護層65の体積抵抗が低下して、保護層65表面の静電荷が保持できなくなり、画像流れ、画像ぼけなどの画像欠陥が発生することがある。ここで、画像流れとは、トナー像が、被転写材の画像形成面の本来形成されるべき位置から流れるようにずれて形成される現象のことである。
また、保護層65は、電荷輸送物質を含有することが好ましい。保護層65に電荷輸送物質を含有させることによって、繰返し使用時の残留電位の上昇およびそれに伴う画像欠陥の発生を抑えることができる。かかる電荷輸送性物質としては、先に挙げた電荷輸送層64に用いられる電荷輸送物質を用いることができる。電荷輸送物質を含有させる場合、結着樹脂は、保護層65に用いる電荷輸送物質との相溶性を考慮して選択されることが好ましい。前述の熱硬化性樹脂の中でも、熱硬化性アクリル樹脂、メラミン樹脂およびポリビニルアセタール樹脂のうちの少なくとも1種を含む主樹脂から形成される熱硬化性樹脂は、電荷輸送物質との相溶性が非常に良く、透明性の高い保護層65を形成することができるので好ましい。
保護層65において、結着樹脂の重量(B)に対する電荷輸送物質の重量(A)の比率(A/B)は、耐摩耗性および電気特性の観点から、3分の1(1/3)以上3(3/1)以下の範囲が好適である。前記比率A/Bが3(3/1)を超えると、結着樹脂の比率が低下し、保護層65の耐刷性が充分に確保できない可能性がある。前記比率A/Bが1/3未満であると、感光体60の感度が低下する可能性がある。
保護層65には、フィラー、電荷輸送物質以外に、接着性、平滑性、化学的安定性を向上させることを目的として、可塑剤、レベリング剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤などの公知の添加剤を添加してもよい。可塑剤としては、二塩基酸エステル、脂肪酸エステル、リン酸エステル、フタル酸エステル、塩素化パラフィン、エポキシ型可塑剤などが挙げられる。レベリング剤としては、ポリジメチルシロキサンなどのシリコーンオイルなどが挙げられる。酸化防止剤または紫外線吸収剤としては、フェノール系化合物、ヒンダードアミン系化合物、ハイドロキノン系化合物、トコフェロール系化合物、パラフェニレンジアミン、アリールアルカンおよびそれらの誘導体、アミン系化合物、有機硫黄化合物、有機燐化合物などが挙げられる。
保護層65は、後述するようにして調製される保護層形成用塗布液を、光導電層66上に塗布して加熱し、乾燥および硬化させることによって形成することができる。保護層形成用塗布液は、前述の結着樹脂と、必要に応じて金属酸化物粒子などのフィラー、電荷輸送物質、可塑剤などの各種添加剤とを含有する。
本実施態様においては、保護層形成用塗布液は、2種以上の塗布液、好ましくは、主樹脂を含有する主樹脂含有塗布液と硬化剤を含有する硬化剤含有塗布液とを含む2種以上の塗布液に分割して形成される。このようにして形成される2種以上の塗布液を、たとえば前述の図1に示すインクジェット塗布装置40を用いて、光導電層66が形成された導電性基体61に向けてそれぞれ吐出ノズルから液滴状に吐出させ、少なくとも導電性基体61上、具体的には導電性基体61に形成された光導電層66上で塗布液同士が混合された状態になるように塗布した後、乾燥させることによって保護層65を形成する。
このように、保護層形成用塗布液を少なくとも主樹脂含有塗布液と硬化剤含有塗布液とに分けて塗布することによって、主樹脂と硬化剤とを光導電層66上に塗布されるまで触れないようにすることができるので、塗布液中における主樹脂と硬化剤との反応を抑制し、塗布液のゲル化、成分の沈降および凝集を防ぎ、保存安定性を向上させることができる。したがって、均質な保護層65を安定して形成することができる。また、塗布液の損失を抑え、製造原価を低減することができる。
本実施態様による感光体60は、以上のようにして形成される均質な保護層65を最外層として備えるので、良質な画質の画像を形成することができる。また、本実施態様では、結着樹脂として熱硬化性樹脂を用いる場合であっても、均質な保護層65を形成することができるので、良好な画質の画像を形成することができるとともに、耐刷性にも優れる感光体60を実現することができる。
本実施態様による保護層形成用塗布液のようにインクジェット塗布法で塗布される塗布液は、沸点が120℃以上260℃以下である高沸点溶剤を含有することが好ましい。これによって、吐出ノズル部分における塗布液の乾燥を抑えることができるので、塗布液の吐出安定性を向上させ、吐出ノズルの目詰まりを防ぐことができる。また、保存中における溶剤の乾燥を抑え、溶剤量の減少による塗布液中の成分の沈降および凝集を抑制することができるので、塗布液の保存安定性を向上させることができる。また、塗布後のレベリング性を高めることができるので、均一な厚さを有する保護層65を形成することができる。
塗布液の溶剤として、沸点が120℃未満の溶剤のみを用いると、塗布液が乾燥しやすくなり、吐出ノズルの目詰まりが発生する恐れがある。また、溶剤が揮発して減少し、塗布液中の成分の沈降および凝集が起こる恐れがある。また、塗布後のレベリング性が不充分になり、保護層65の層厚が不均一になる可能性がある。一方、塗布液中に沸点が260℃を超える溶剤を含有させると、吐出安定性および保存安定性は良好であるけれども、塗布液が乾燥しにくく、塗布膜が重量方向に垂れ、形成された保護層65の表面が不均一になる可能性がある。このような表面が不均一な保護層65が最外層として形成された感光体を用いて画像を形成すると、にじみ、かすれなどの画像欠陥が生じ、画像の再現性が悪くなる。
塗布液中における高沸点溶剤の含有量は、塗布液全量の5重量%以上40重量%以下であることが好ましい。高沸点溶剤の含有量が5重量%未満であると、高沸点溶剤を含有させる効果が充分に発揮されないので、吐出安定性が充分に確保できず、吐出ノズルの目詰まりが発生する恐れがある。また、レベリング性が低下し、保護層65表面が不均一になる可能性がある。一方、高沸点溶剤の含有量が40重量%を超えると、吐出安定性および保存安定性は良好であるけれども、塗布膜が乾燥しにくくなって重力方向に垂れ、保護層65の表面が不均一になる可能性がある。
高沸点溶剤のうち、特に好ましいものとしては、沸点が130℃以上250℃以下のものが挙げられる。高沸点溶剤の具体例としては、公知のものが挙げられ、その中でも、シクロヘキサノン(沸点155℃)、2−ピロリドン(沸点245℃)、N−メチル−2−ピロリドン(沸点200℃)、p−キシレン(沸点138℃)が好ましい。高沸点溶剤は、1種が単独で使用されてもよく、また2種以上が併用されてもよい。なお、保護層形成用塗布液などのインクジェット法で塗布される塗布液は、本発明の好ましい効果を損なわない範囲内で、高沸点溶剤以外の溶剤を含んでもよい。
保護層65の層厚は、1μm以上10μm以下であることが好ましく、より好ましくは3μm以上5μm以下である。保護層65の層厚が1μm未満であると、摩耗によって保護層65の全てが、感光体60の寿命前すなわち感光体60が繰返し使用による感度低下などによって使用できなくなる前に消失する可能性がある。また、画像形成装置において帯電ローラなどの接触部材などによる外力を受けた際に、その外力によって保護層65が下層の光導電層66との界面から剥離する恐れがある。保護層65の層厚が10μmを超えると、感度の低下および繰返し使用による残留電位の上昇が起こる可能性がある。また、感光体60表面に向かって輸送される電荷が保護層65内を移動する過程において拡散され、解像度が低下する恐れがある。
このように、保護層65は、層厚が1μm以上10μm以下と小さいので、インクジェット塗布法を用いても、少ない重ね塗り回数で形成することができる。したがって、インクジェット塗布法による形成に適している。また、このように膜厚が1μm以上10μm以下と小さい場合、前述のように塗布液の溶剤に高沸点溶剤を用いても、比較的短時間に乾燥させることができるので、生産性を低下させることなく、高沸点溶剤を用いて塗布液の乾燥固化による吐出ノズルの目詰まりおよびレベリング不良の発生を防止することができる。
感光層67を構成する各層、すなわち下引き層62、電荷発生層63、電荷輸送層64および保護層65は、前述の方法にて順次塗布形成された後にまたは各層を塗布形成する毎に、自然乾燥または熱風、遠赤外線などを熱源とする乾燥機を用いて乾燥される。乾燥温度および乾燥時間は、特に制限されず、塗布液に使用される溶剤および各層の層厚などの各種条件に応じて適宜選択できるけれども、好ましくは、温度40〜130℃で10分間〜2時間程度である。
図3は、本実施態様の電子写真感光体の製造方法によって作製される電子写真感光体の他の例である電子写真感光体70の構成を簡略化して示す部分断面図である。図3に示す感光体70は、図2に示す感光体60に類似し、対応する部分については同一の参照符号を付して説明を省略する。電子写真感光体70において注目すべきは、光導電層71が、単一の層から成る単層構造を有することである。すなわち、感光体70は、単層型感光体である。
図3に示す単層型感光体70は、オゾン発生の少ない正帯電型画像形成装置用の感光体として好適であり、また塗布されるべき光導電層71が一層のみであるので、製造原価および歩留が図2に示す積層型感光体60に比べて優れている。図3に示す単層型感光体70では、感光層72は、下引き層62と、単層型の光導電層71と、保護層65とを含んで構成される。
単層型の光導電層72としては、結着樹脂中に電荷発生物質を分散させたものが用いられる。電荷発生物質としては、前述の図2に示す電荷発生層63に用いられる電荷発生物質と同様のものを用いることができる。これらの電荷発生物質は粒子形状で用いられることが好ましい。結着樹脂としては、前述の図2に示す電荷発生層63に用いられる結着樹脂を用いることができる。
光導電層72中の電荷発生物質の含有量は、0.5重量%以上50重量%以下であることが好ましく、より好ましくは1重量%以上20重量%以下である。電荷発生物質の含有量が0.5重量%未満であると、感光体70の感度が充分に得られない可能性がある。電荷発生物質の含有量が50重量%を超えると、光導電層71中における電荷発生物質の分散性が低下して粗大粒子が増大し、消去されるべき部分以外の表面電荷が露光によって減少し、黒ぽちなどの画像のかぶりが発生する恐れがある。
光導電層72は、電荷発生物質とともに、電荷輸送物質を含有することが好ましい。電荷輸送物質を含有させることによって、感光体70の応答性を向上させ、繰返し使用時の残留電位の上昇およびそれに伴う画像欠陥の発生などを防ぐことができる。
また、光導電層72には、成膜性、可撓性、機械的強度などを改善するための可塑剤、残留電位の上昇を抑制するための酸化防止剤または紫外線吸収剤、分散安定性向上のための分散補助剤、塗布性を改善するためのレベリング剤、界面活性剤などの公知の添加剤を添加してもよい。
単層型の光導電層72は、前述の電荷発生物質および結着樹脂の適量、ならびに必要に応じて電荷輸送物質および各種添加剤の適量を、前述の電荷発生層形成用塗布液と同様の適当な溶剤に溶解または分散させて光導電層形成用塗布液を調製し、この光導電層形成用塗布液を下引き層62の表面に塗布することによって形成することができる。
光導電層形成用塗布液の塗布方法としては、浸漬塗布法、ロールコート法、インクジェット塗布法などを用いることができる。ただし、層厚が10μmを超える光導電層72を形成する場合、インクジェット法を用いると、重ね塗り回数が非常に多くなり、生産性が悪くなるので、浸漬塗布法、ロールコート法などを用いることが好ましい。
光導電層72の層厚は、5μm以上50μm以下であることが好ましく、より好ましくは10μm以上40μm以下である。光導電層72の層厚が5μm未満であると、感光体70表面の帯電保持能が低下する恐れがある。光導電層72の層厚が50μmを超えると、感光体70の解像度が低下する可能性がある。
図4は、本発明の実施の他の形態である画像形成装置80の構成を簡略化して示す側面図である。画像形成装置80は、本発明の電子写真感光体の製造方法によって製造される電子写真感光体81を備える。電子写真感光体81は、たとえば前述の図2に示す積層型感光体60または図3に示す単層型感光体70と同様にして製造される。本実施の形態として例示する画像形成装置80は、露光手段の光源として半導体レーザ素子を備えるレーザプリンタ80である。
レーザプリンタ80は、前述の感光体81、帯電器82、露光手段82、現像器84、転写紙カセット90、給紙ローラ91、レジストローラ92、転写帯電器93、分離帯電器94、搬送ベルト95、定着器96、排紙トレイ97およびクリーナ98を含んで構成される。露光手段83は、半導体レーザ素子84、回転多面鏡85、結像レンズ86およびミラー87を含む。クリーナ98は、図示しない除電ランプとともに設けられる。
感光体81は、たとえば円筒状であり、図示しない駆動手段によって軸線まわりに矢符99方向に回転可能なように、レーザプリンタ80に搭載される。なお感光体81は、円柱状であってもよい。半導体レーザ素子84は、図示しない制御手段の指示に応じて、回転多面鏡86に向かってレーザビーム85を出射する。半導体レーザ素子84から出射されるレーザビーム85は、回転多面鏡86によって、感光体81の表面に対して、主走査方向である感光体81の長手方向に繰返し走査される。結像レンズ87はf−θ特性を有し、レーザビーム85をミラー88で反射させて感光体81の表面に結像させて感光体81表面を露光する。感光体81を回転させるとともに、レーザビーム85を上述のように走査して結像させることによって、感光体81の表面に画像情報に応じた露光が施される。
帯電器82は、レーザビーム85の結像点よりも感光体81の回転方向上流側に設けられ、感光体81の表面を均一に帯電させる。帯電された感光体81の表面に対して前述のようにして露光手段83によって露光を施すことによって、感光体81表面に画像情報に応じた静電潜像が形成される。帯電器82としては、たとえばコロナ帯電器が用いられる。帯電器82は、これに限定されず、コロトロン帯電器、スコロトロン帯電器、鋸歯帯電器またはローラ帯電器などであってもよい。現像器89は、レーザビーム85の結像点よりも感光体81の回転方向下流側に設けられ、静電潜像が形成された感光体81表面にトナーを供給することによって、静電潜像をトナー像として現像する。現像器89としては、たとえば接触式の現像手段が用いられる。現像器89は、これに限定されず、非接触式の現像手段であってもよく、また接触式の現像手段と非接触式の現像手段とを組合せたものであってもよい。
転写紙カセット90に収容された転写紙は、給紙ローラ91によって1枚ずつ取り出され、レジストローラ92によって感光体81への露光と同期して、現像器89よりもさらに感光体81の回転方向下流側に設けられる転写帯電器93に与えられる。転写帯電器93は、転写紙に対して、トナー像と逆極性の電荷を付与することによってトナー像を転写させる。転写帯電器93は、本実施形態では非接触式の転写手段であり、たとえばコロナ帯電器で実現される。転写帯電器93は、これに限定されず、接触式の転写手段であってもよい。接触式の転写手段としては、たとえば、転写ローラを備え、転写紙を介して転写ローラを感光体81に押圧した状態で転写ローラに電圧を印加することによってトナー像を転写紙に転写させるものなどを用いることができる。分離帯電器94は、転写帯電器95よりもさらに感光体81の回転方向下流側に、転写帯電器95に近接して設けられ、トナー像が転写された転写紙を除電して感光体81から分離する。
感光体81から分離された転写紙は、搬送ベルト95に送給され、搬送ベルト95によって定着器44に搬送される。定着器44は、トナー像が転写された転写紙を加熱または加熱および加圧することによって、トナー像を転写紙に定着させる。クリーナ98は、分離帯電器94よりもさらに感光体81の回転方向下流側であって帯電器82よりも感光体81の回転方向上流側に設けられ、転写後に感光体81表面に残留するトナーを清掃する。クリーナ98は、たとえば、感光体表面81に当接されて感光体表面81を清掃する清掃部材としてブレードを備えるブレードクリーナで実現される。クリーナ98は、これに限定されず、清掃部材としてブラシを備えるブラシクリーナなどであってもよい。クリーナ98と共に設けられる図示しない除電ランプは、清掃後の感光体81表面を除電し、静電潜像を消失させる。
図4に示すレーザプリンタ80では、以下のようにして画像が形成される。まず、図示しない制御部からの指示に応じて、感光体81が駆動手段によって矢符99方向に回転駆動され、感光体81表面が帯電器82によって帯電される。次いで、制御部からの指示に応じて、感光体81が露光手段83によって露光され、感光体81表面に静電潜像が形成される。また、感光体81への露光と同期して、転写紙がレジストローラ92によって転写転写器93と感光体81との間の転写位置に供給される。
次いで、現像器89によって静電潜像が現像され、感光体81表面にトナー像が形成される。形成されたトナー像は、転写帯電器93によって転写紙に転写される。トナー像の転写された転写紙は、搬送ベルト95によって定着器96に搬送され、加熱および加圧される。これによって、トナー像が転写紙に定着されて画像が形成される。このようにして画像が形成された転写紙は排紙トレイ97に排出される。一方、トナー像が転写紙に転写された後にさらに矢符99方向に回転する感光体81は、その表面がクリーナ98によって清掃され、さらに除電ランプによって除荷される。これによって感光体81表面の静電潜像が消失する。その後、感光体81はさらに回転駆動され、再度感光体81の帯電から始まる一連の動作が繰返される。以上のようにして、連続的に画像が形成される。
本実施の形態の画像形成装置であるレーザプリンタ80に備わる感光体81は、前述のように、本発明の電子写真感光体の製造方法によって作製されるので、感光層を構成する層のうち少なくとも1つの層、具体的には最外層である保護層が、均一な性質および厚みを有する。したがって、レーザプリンタ80によれば、にじみおよびかぶりなどのない優れた画質の画像を安定して形成することができる。
本発明による画像形成装置は、以上に述べた図4に示すレーザプリンタ80の構成に限定されるものではなく、本発明に係る感光体を使用することができるものであれば、他の異なる構成であってもよい。
たとえば、感光体81として外径が40mm以下の小径のものを用いる場合には、分離帯電器94を設けなくてもよい。また、感光体81に対して現像バイアス電圧などの高電圧を印加するタイミングなどを工夫することによって、除電ランプを設けない構成とすることもできる。特に、感光体81として外径が40mm以下の小径のものを用いた画像形成装置、低速のローエンドプリンターなどでは、装置の大型化、製造原価の上昇などを抑えるために、前述のようにして除電ランプを設けない構成とすることが好ましい。
また、感光体81を、帯電器82、現像器89およびクリーナ98のうちの少なくともいずれか1つと一体的に構成して、レーザプリンタ80に着脱可能なプロセスカートリッジとしてもよい。たとえば、感光体81、帯電器82、現像器89およびクリーナ98の全てを組込んだプロセスカートリッジ、感光体81、帯電器82および現像器89を組込んだプロセスカートリッジ、感光体81とクリーナ98とを組込んだプロセスカートリッジ、感光体81と現像器89とを組込んだプロセスカートリッジなどが構成可能である。このように一体的に構成されたプロセスカートリッジを用いると、感光体81などの各部材をレーザプリンタ80に対して個別に装着または取外しする必要がないので、レーザプリンタ80などの画像形成装置における感光体81などの部材の交換が容易になる。
以下、製造例、実施例および比較例を挙げ、本発明をさらに詳細に説明するけれども、本発明は以下の記載内容に限定されるものではない。
(実施例1)
酸化チタン(TiO2、商品名:STR−60N、堺化学株式会社製)4重量部および結着樹脂として共重合ナイロン樹脂(商品名:CM8000、東レ株式会社製)6重量部を、メタノール35重量部と1,2−ジクロロエタン65重量部との混合溶媒に加えた後、得られた混合液をペイントシェーカによって8時間分散して下引き層用塗布液を調製した。この塗布液を浸漬塗布法によって導電性基体の表面に塗布して自然乾燥させ、厚さが約1.0μmの下引き層を形成した。なお、導電性基体には、直径30mm、長手方向の長さ360mmのExpand Draw(略称ED)法によって形成したアルミニウム製無切削円筒管を用いた。
次いで、チタニルフタロシアニン顔料1重量部およびポリビニルブチラール樹脂(商品名:#6000−C、電気化学工業株式会社製)1重量部を、テトラヒドロフラン83重量部とシクロヘキサノン15重量部との混合溶媒に加えた後、得られた混合液をペイントシェーカによって12時間分散して電荷発生層用塗布液を調製した。この塗布液を、先に形成した下引き層の表面に浸漬塗布法によって塗布して自然乾燥させ、厚さが約0.2μmの電荷発生層を形成した。
次いで、電荷輸送物質としてヒドラゾン系の電荷輸送物質である4−ジベンジルアミノ−2−メチルベンズアルデヒド−1,1−ジフェニルヒドラゾン10重量部、ビスフェノールZタイプのポリカーボネート樹脂(商品名:Z−400、三菱ガス化学株式会社製)14重量部およびシリコーン系のレベリング剤(商品名:KF−96、信越化学工業株式会社製)0.02重量部を、テトラヒドロフラン76重量部に加えて混合することによって、電荷輸送層用塗布液を調製した。得られた塗布液を、先に形成した電荷発生層の表面に浸漬塗布法によって塗布して自然乾燥させた後、さらに温度120℃で1時間加熱して乾燥させ、厚さが約25μmの電荷輸送層を形成した。以上のようにして、電荷発生層と電荷輸送層とが積層されて成る光導電層を形成した。
次いで、以下のようにして、本実施例に係る保護層形成用塗布液として、保護層形成用塗布液A1およびB1を調製した。
〔保護層形成用塗布液A1〕
硬化剤(ブロック化イソシアネート、商品名:スミジュール3175、住友バイエルンウレタン社製)10質量部、ポリジメチルシロキサン−シリコーンオイル(商品名:KF−96、信越化学工業株式会社製)0.06重量部、テトラヒドロフラン(沸点:66℃)80重量部およびシクロヘキサノン(沸点:155℃)10重量部を混合して溶解させ、保護層形成用塗布液A1を調製した。
〔保護層形成用塗布液B1〕
ポリビニルブチラール樹脂(商品名:BM−1、積水化学工業株式会社製)10質量部、ポリジメチルシロキサン−シリコーンオイル(商品名:KF−96、信越化学工業株式会社製)0.06重量部、テトラヒドロフラン(沸点:66℃)80重量部およびシクロヘキサノン(沸点:155℃)10重量部を混合して溶解させ、保護層形成用塗布液B1を調製した。
次いで、調製した保護層形成用塗布液A1およびB1を、市販のインクジェットプリント装置(製品名:AR−2000、シャープ株式会社製)の改造機の塗布液貯留槽にそれぞれ充填した。なお、インクジェットプリント装置AR−2000に備わる吐出ノズルの吐出方式はピエゾ式である。前述のようにして電荷輸送層が形成された導電性基体を毎分60回転(60rpm)の回転速度で回転させながら、電荷輸送層の表面に対して、改造機の各吐出ノズルから保護層形成用塗布液A1およびB1を1滴(ドット)の体積が30pLになるようにそれぞれ液滴状に吐出させて塗布した。その後、温度130℃で1時間加熱して乾燥させ、厚さが約3μmの保護層を形成した。以上のようにして、電子写真感光体を作製した。
(実施例2)
保護層形成用塗布液A1およびB1の調製に際し、それぞれ、シクロヘキサノンに代えて2−ピロリドン(沸点:245℃)を用いて保護層形成用塗布液A2およびB2を調製し、これらを用いて保護層を形成する以外は実施例1と同様にして、電子写真感光体を作製した。
(実施例3)
保護層形成用塗布液A1およびB1の調製に際し、それぞれ、シクロヘキサノンに代えてN−メチル−2−ピロリドン(沸点:200℃)を用いて保護層形成用塗布液A3およびB3を調製し、これらを用いて保護層を形成する以外は実施例1と同様にして、電子写真感光体を作製した。
(実施例4)
保護層形成用塗布液A1およびB1の調製に際し、それぞれ、シクロヘキサノンに代えてp−キシレン(沸点:138.4℃)を用いて保護層形成用塗布液A4およびB4を調製し、これらを用いて保護層を形成する以外は実施例1と同様にして、電子写真感光体を作製した。
(実施例5)
保護層形成用塗布液A1およびB1の調製に際し、それぞれ、テトラヒドロフランの使用量を70重量部に変更し、シクロヘキサノンの使用量を20重量部に変更して、保護層形成用塗布液A5およびB5を調製し、これらを用いて保護層を形成する以外は実施例1と同様にして、電子写真感光体を作製した。
(実施例6)
保護層形成用塗布液A1およびB1の調製に際し、それぞれ、テトラヒドロフランの使用量を60重量部に変更し、シクロヘキサノンの使用量を30重量部に変更して、保護層形成用塗布液A6およびB6を調製し、これらを用いて保護層を形成する以外は実施例1と同様にして、電子写真感光体を作製した。
(実施例7)
保護層形成用塗布液A1およびB1の調製に際し、それぞれ、テトラヒドロフランの使用量を50重量部に変更し、シクロヘキサノンの使用量を40重量部に変更して、保護層形成用塗布液A7およびB7を調製し、これらを用いて保護層を形成する以外は実施例1と同様にして、電子写真感光体を作製した。
(実施例8)
保護層の形成に際し、保護層形成用塗布液A1およびB1に代えて、以下のようにして調製した保護層形成用塗布液CおよびDを用いる以外は、実施例1と同様にして、電子写真感光体を作製した。
〔保護層形成用塗布液C〕
4−ジベンジルアミノ−2−メチルベンズアルデヒド−1,1−ジフェニルヒドラゾン1重量部、硬化剤(ブロック化イソシアネート、商品名:スミジュール3175、住友バイエルンウレタン社製)9質量部、ポリジメチルシロキサン−シリコーンオイル(商品名:KF−96、信越化学工業株式会社製)0.06重量部、テトラヒドロフラン80重量部およびシクロヘキサノン10重量部を混合して溶解させ、保護層形成用塗布液Cを調製した。
〔保護層形成用塗布液D〕
4−ジベンジルアミノ−2−メチルベンズアルデヒド−1,1−ジフェニルヒドラゾン1重量部、ポリビニルブチラール樹脂(商品名:BM−1、積水化学工業株式会社製)9質量部、ポリジメチルシロキサン−シリコーンオイル(商品名:KF−96、信越化学工業株式会社製)0.06重量部、テトラヒドロフラン80重量部およびシクロヘキサノン10重量部を混合して溶解させ、保護層形成用塗布液Dを調製した。
(比較例1)
保護層の形成に際し、保護層形成用塗布液A1およびB1に代えて、以下のようにして調製した保護層形成用塗布液Eのみを用いる以外は、実施例1と同様にして、電子写真感光体を作製した。
〔保護層用塗布液E〕
硬化剤(ブロック化イソシアネート、商品名:スミジュール3175、住友バイエルンウレタン社製)5質量部、ポリビニルブチラール樹脂(商品名:BM−1、積水化学工業株式会社製)5質量部、ポリジメチルシロキサン−シリコーンオイル(商品名:KF−96、信越化学工業株式会社製)0.06重量部、テトラヒドロフラン80重量部およびシクロヘキサノン10重量部を混合して溶解させ、保護層用塗布液Eを調製した。
(比較例2)
保護層形成用塗布液A1およびB1の調製に際し、それぞれ、シクロヘキサノンを用いずにテトラヒドロフランの使用量を90重量部に変更して、保護層形成用塗布液A8およびB8を調製し、これらを用いて保護層を形成すること以外は実施例1と同様にして、電子写真感光体を作製した。
(比較例3)
保護層形成用塗布液A1およびB1の調製に際し、それぞれ、シクロヘキサノンに代えてトリプロピレングリコール(沸点:271℃)を用いて保護層形成用塗布液A9およびB9を調製し、これらを用いて保護層を形成する以外は実施例1と同様にして、電子写真感光体を作製した。
(比較例4)
保護層形成用塗布液A1およびB1の調製に際し、それぞれ、テトラヒドロフランの使用量を95重量部に変更し、シクロヘキサノンの使用量を5重量部に変更して、保護層形成用塗布液A10およびB10を調製し、これらを用いて保護層を形成する以外は実施例1と同様にして、電子写真感光体を作製した。
(比較例5)
保護層形成用塗布液A1およびB1の調製に際し、それぞれ、テトラヒドロフランの使用量を45重量部に変更し、シクロヘキサノンの使用量を45重量部に変更して、保護層形成用塗布液A11およびB11を調製し、これらを用いて保護層を形成する以外は実施例1と同様にして、電子写真感光体を作製した。
(比較例6)
実施例1と同様にして、下引き層、電荷発生層および電荷輸送層を形成し、さらに保護層形成用塗布液A1およびB1を調製した。
次いで、前述のインクジェットプリント装置AR−2000の改造機を用い、毎分60回転(60rpm)で回転している導電性基体の電荷輸送層の表面に対して、1ドット当たりの吐出量が30pLになるように保護層形成用塗布液A1を吐出させて塗布し、室温で30分間自然乾燥させた。その後、保護層形成用塗布液A1が塗布されて乾燥された電荷輸送層の表面に、保護層用塗布液A1と同様にして保護層形成用塗布液B1を吐出させて塗布し、温度130℃で1時間加熱して乾燥させ、厚さが約3μmの保護層を形成した。以上のようにして、電子写真感光体を作製した。
以上の実施例1〜8および比較例1〜6について、以下のようにして(a)保護層形成用塗布液の吐出安定性、(b)保護層形成用塗布液の保存安定性、(c)保護層の外観および(d)電子写真感光体の耐久性を評価した。
(a)保護層形成用塗布液の吐出安定性
実施例1〜8および比較例1〜6において、電子写真感光体の作製後に、保護層形成用塗布液の塗布に使用したインクジェットプリント装置の吐出ノズルを目視観察し、吐出ノズルに目詰まりが発生しているか否かを判断し、以下の基準に基づいて吐出安定性を評価した。
○:良好。吐出ノズルに目詰まりが発生していない。
×:実用困難。吐出ノズルに目詰まりが発生している。
(b)保護層形成用塗布液の保存安定性
実施例1〜8および比較例1〜6において使用した保護層形成用塗布液をそれぞれサンプル瓶に詰め、サンプル瓶中で50℃の温度下に1週間静置した後、目視観察し、沈降、凝集またはゲル化が発生しているか否かを判断した。なお、沈降が発生していたものについては、各塗布液を振盪し、容易に再分散できるか否かを判断した。これらの結果から、以下の基準に基づいて保存安定性を評価した。
○:良好。沈降、凝集およびゲル化のいずれもなし。
△:実用可能。沈降が発生しているけれども容易に再分散可能、かつ凝集およびゲル化なし。
×:実用困難。沈降、凝集またはゲル化が発生、かつ振盪しても再分散されない。
ただし、2種類の保護層形成用塗布液を用いた実施例1〜7および比較例1〜6については、評価が悪い方の保護層形成用塗布液の評価結果を、その実施例または比較例における保護層形成用塗布液の保存安定性の評価結果とした。
(c)保護層の外観
実施例1〜8および比較例1〜6において、作製された各電子写真感光体の保護層を目視観察し、以下の基準に基づいて外観を評価した。
○:良好。保護層の表面が均一。
×:実用困難。保護層の表面が不均一。
(d)画像再現性
作製された電子写真感光体を市販のフルカラー複写機(製品名:AR−C260、シャープ株式会社製)にそれぞれ搭載し、温度25℃、相対湿度50%の常温常湿環境下において、所定のテスト画像を記録用紙1万枚に連続して形成させる連続複写試験を実施した。連続複写試験において形成された画像をそれぞれ目視観察し、にじみ、かすれなどの画像欠陥が発生しているか否かを判断し、以下の基準に基づいて電子写真感光体の画像再現性を評価した。
○:良好。1万枚の連続複写試験を通して、にじみ、かすれなどの画像欠陥のない明瞭な画像が得られる。
×:実用困難。複写枚数が1万枚に達する前に、形成された画像に、にじみ、かすれなどの画像欠陥が発生する。
以上の評価結果を表1に示す。なお、表1に示す含有量は、各保護層形成用塗布液中における沸点が120℃以上の溶剤の含有量である。また、表1に示す沸点は、各保護層形成用塗布液に含まれる溶剤のうち、沸点が高い方の溶剤の沸点である。また、評価を行なわなかった項目については、「−」と記載する。
表1から、保護層形成用塗布液を、2種類の塗布液、具体的には硬化剤を含有する硬化剤含有塗布液と主樹脂を含有する主樹脂含有塗布液とに分けて塗布した実施例1〜8では、保護層形成用塗布液の吐出安定性および保存安定性が良好であり、均一な表面を有する保護層を安定して形成できることが判る。また、実施例1〜8で形成された電子写真感光体は、画像再現性に優れ、画像欠陥のない画像を長期間にわたって安定して形成することができることが判る。
これに対し、保護層形成用塗布液として、主樹脂と硬化剤とを含む保護層形成用塗布液Eを用いた比較例1では、保護層形成用塗布液Eの保存安定性が悪く、感光体の作製開始当初は均一な膜質の保護層を形成することができていたけれども、長期間にわたって多数の感光体を生産するうちに、徐々に保護層形成用塗布液Eのゲル化が進み、不均一な膜質の保護層しか形成できなくなった。このため、感光体の生産のために準備した保護層形成用塗布液Eの全量を使い切ることができず、コストアップを招いた。なお、画像再現性の評価は、均一な膜質の保護層が形成された電子写真感光体についてのみ行ない、不均一な膜質の保護層が形成された電子写真感光体については行なわなかった。
また、保護層形成用塗布液として、高沸点溶剤を含まない保護層形成用塗布液A8およびB8を用いた比較例2では、保護層形成用塗布液の保存安定性は良好であったけれども、保護層形成用塗布液の吐出安定性が悪く、吐出ノズルに目詰まりが発生した。また、保護層を形成する際に塗布不良が生じ、1本目の電子写真感光体においても均一な膜質の保護層を形成することはできなかった。これは、保護層形成用塗布液A8およびB8が、溶剤として沸点が120℃未満である低沸点溶剤のみを含み、高沸点溶剤を含まないためであると考えられる。なお、比較例2では、均質な保護層を形成することができなかったので、画像再現性の評価は行なわなかった。
また、沸点が260℃よりも高い溶剤を含む保護層形成用用塗布液A9およびB9を用いた比較例3では、保護層形成用塗布液の保存安定性は良好であったけれども、保護層形成用塗布液を塗布する際に、保護層が充分に自然乾燥せず、下層の電荷輸送層表面の一部が溶出して重力方向へ垂れる、いわゆる垂れなどの塗布不良が生じ、所望の電子写真感光体を製造することができなかった。このため、画像再現性の評価は行なわなかった。
また、高沸点溶剤の含有量が5重量%未満である保護層形成医用塗布液A10およびB10を用いた比較例4では、保護層形成用塗布液の保存安定性は良好であり、また高沸点溶剤を含まない保護層形成用塗布液A8およびB8を用いた比較例2に比べて保護層形成用塗布液の吐出安定性が向上したけれども、まだ不充分であり、電子写真感光体の作製を繰返すうちに保護層の表面が不均一な膜質となった。これは、高沸点溶剤の含有量が5重量%未満と少ないので、塗布膜が乾燥しやすすぎるためであると考えられる。また、比較例4で作製された電子写真感光体は、画像再現性が低く、形成された画像は、画像欠陥の生じたものとなった。
逆に、高沸点溶剤の含有量が40重量%を超える保護層形成用塗布液A11およびB11を用いた比較例5では、吐出安定性および保存安定性は良好であったけれども、保護層の表面は不均一になった。これは、保護層形成用塗布液A11およびB11が40重量%を超える多量の高沸点溶剤を含むので、揮発しにくく、電荷輸送層表面に塗布された塗布膜が乾燥しにくく、垂れてしまうためであると推察される。また、比較例5で作製された電子写真感光体は、画像再現性が低く、形成された画像は、画像欠陥の生じたものとなった。
比較例6で作製した電子写真感光体では、連続複写試験において目標の複写枚数に到達する前に画質劣化を生じた。これは、比較例6では、保護層形成用塗布液A1を塗布して乾燥させた後に保護層形成用塗布液B1を塗布して乾燥させることによって保護層を形成したので、保護層形成用塗布液A1中の硬化剤と保護層形成用塗布液B1中の主樹脂とが充分に混合されず、硬化反応が不充分になり、保護層の耐刷性が不充分であったためであると考えられる。