しかしながら、上記のような従来の技術においても、解決しきれていない問題点があった。すなわち、特許文献1は、定常的な塗布状態においては、ほぼ完成された技術であるが、塗布の開始時及び塗布の終了時においては、安定生産を行なうために解決すべき問題点がある。
幅広の帯状の支持体(いわゆる、ウェブ原反)の上に塗布を行う際には、ウェブ原反を巻回したロール(バルクロール)から繰り出されたウェブ原反に塗布を行ない、ウェブ原反を再度ロール状に巻き取ることが一般的に行なわれる。この際、1本のバルクロールの塗布が終了する毎にウェブ原反の走行を停止させた場合、生産性が低いので、塗布ラインを停止せずに、塗布終了後のバルクロールが新しいバルクロールに切替えられて生産が継続されるのが一般的である。
この際、塗布終了後のバルクロールのウェブ原反と新しいバルクロールのウェブ原反との間には接合部が存在することとなる。塗布、特にエクストルージョン方式の塗布を行なう場合、その接合部が塗布ヘッドを通過する際には、一旦塗布を停止して、塗布ヘッドをウェブ原反表面から離し、塗布スジ等の欠点の発生を防ぐ必要がある。
ところが、特許文献1のように、塗布装置を直列に2台設ける塗布方式の場合、塗布ヘッドのウェブ原反への着脱のタイミングによっては、部分的な厚塗りが生じることがあった。
すなわち、塗布ヘッドからの給液時間が長過ぎれば厚塗りになり、一方、給液時間が短か過ぎればカラこすりになり、ゴミを発生するため、スジ欠点の増加になりやすい。この場合、単独の塗布ヘッド構成の塗布装置であれば、給液のOn/Offタイミングによって操作は容易であるが、複数の塗布ヘッドの構成の塗布装置の場合に操作が非常に複雑になる。
たとえば、第1の塗布ヘッドからの給液を停止したとしても、停止直前までの塗布膜が第2の塗布ヘッドを全て通過するまでは、第2の塗布ヘッドはウェブ原反に接触して塗布を続けなくてはならない。この場合、第1の塗布ヘッドからの給液を停止して、その塗布膜の終端が第2の塗布ヘッドを通過するまでの間、第1の塗布ヘッドをそのままの位置に置いておいた場合、第1の塗布ヘッドが直にウェブ原反に接触し、カラ擦りとなり、ウェブ原反の削れ異物等により、新しいバルクロールのウェブ原反の塗布開始時に塗布スジを発生させやすい。
この問題に対処すべく、第1の塗布ヘッドからの給液を停止すると同時に第1の塗布ヘッドを移動させ、第1の塗布ヘッドとウェブ原反との接触を防止させた場合、その塗布膜の終端部分近傍は、第2の塗布ヘッドで掻き取られないため厚塗りとなり、工程内の下流ローラー等を汚染することとなる。
このように、第1の塗布ヘッドと第2の塗布ヘッドとを同じ架台に固定した装置では、塗布開始時の塗布スジや塗布終了時の厚塗り等の問題点に対処するのが非常に困難である。
このため、複数の塗布ヘッドを別個に移動できるような設備とする必要がある。具体的には、塗布ヘッド毎に別々の昇降台に載せて上下動させたり、塗布ヘッド前後のガイドローラをシリンダ等で上下可動な構造にしたりする構成である。しかし、このような構成は設備の複雑化を招くため、コスト上昇や保全の負担増となり好ましくない。
他の未解決の問題点として、ガイドローラの傾斜により厚塗りとなり、工程内の下流ローラー等を汚染するという不具合が指摘されている。一般的に、特許文献1に記載されたような構成の塗布装置においては、ウェブ原反を水平に維持した状態で塗布を行なうのが原則である。図15(A)は、この状態を概念的に示した概略図である。エクストルージョン方式の塗布装置を使用して余剰量の塗布液を塗布した後、ロッド方式の塗布装置を使用して余剰量の塗布液を掻き落とす塗布装置1において、図示しないロッド方式の塗布装置の上下流に配されウェブ原反Wを張架するガイドローラ2、3は、水平に、かつ相互に平行(Z軸方向に)な関係にある。
ところが、実際に連続生産を行っている場合、ウェブ原反Wの特性やその他の塗布条件に応じて、ガイドローラ3を傾斜させることにより、塗布膜の均一性を図ったり、塗布膜の性能を確保したりすることが多い。図15(B)は、この状態を概念的に示した概略図である。図15(A)と同様の塗布装置1において、図示しないロッド方式の塗布装置の上流に配されウェブ原反Wを張架するガイドローラ2は、水平に(Z軸方向に)配されているが、塗布装置の下流に配されるガイドローラ3は、一端(手前側)の高さはガイドローラ2と同一レベルであるが、他端(奥側)はこれより高くなるように傾斜して配されている。
このような場合、塗布膜の均一性や塗布膜の性能は確保できるものの、ウェブ原反Wの幅方向の片側が厚塗りとなり易く、工程内の下流ローラー等を汚染することとなる。
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、複数の塗布手段により、下地層、磁気記録層等となる薄膜を塗布する際に、塗布時の不安定現象を排除でき、膜厚分布が均一であり、良質な塗布層を形成でき、かつ、稼働率の向上、歩留りの向上が達成できる塗布方法を提供することを目的とする。
請求項1に係る本発明は、前記目的を達成するために、連続走行する帯状可撓性の支持体に塗布手段によって過剰の塗布液を塗布し、次いで計量手段によって過剰分の塗布液を掻き落して所望の厚さに計量した塗布層を形成する塗布方法であって、塗布開始の前には前記塗布手段及び前記計量手段を前記支持体より離れた待機位置に配しておき、塗布開始の際に前記塗布手段及び前記計量手段を前記支持体に接する塗布位置に移動させる方法において、前記塗布手段が前記待機位置から前記塗布位置に向けて移動を開始してから、前記塗布手段が前記支持体に接するのに要する時間tlと、前記計量手段が前記待機位置から前記塗布位置に向けて移動を開始してから、前記計量手段が前記支持体の幅方向の一部に接するのに要する時間t2と、前記支持体が前記塗布手段から前記計量手段に移動するのに要する時間t3と、前記計量手段が前記支持体の幅方向の一部に接した後、幅方向の略全部に接するのに要する時間t4と、の関係を、t2+t4≦tl+t3となるように制御することを特徴とする塗布方法を提供する。
請求項1に係る本発明によれば、上記式の関係より、塗布手段により支持体に塗布された塗布層の先端部分が計量手段に到達する前に、計量手段が過剰分の塗布液を掻き落せる状態の塗布位置(掻き落し位置)に移動している。したがって、塗布層の先端部分が厚塗り状態となる不具合を防ぐことができる。
特に、計量手段の箇所において支持体が水平状態より傾斜しており、所定の時間t4を生じていても、上記式の関係より不具合を防ぐことができる。
請求項2に係る本発明は、連続走行する帯状可撓性の支持体に塗布手段によって過剰の塗布液を塗布し、次いで計量手段によって過剰分の塗布液を掻き落して所望の厚さに計量した塗布層を形成する塗布方法であって、塗布終了の際に前記塗布手段及び前記計量手段を前記支持体に接する塗布位置から前記支持体より離れた待機位置に移動させる方法において、前記塗布手段が前記塗布位置から前記待機位置に向けて移動を開始してから、前記塗布手段が前記支持体より離れるのに要する時間Tlと、前記計量手段が前記塗布位置から前記待機位置に向けて移動を開始してから、前記計量手段が前記支持体の幅方向の略全部より離れるのに要する時間T2と、前記支持体が前記塗布手段から前記計量手段に移動するのに要する時間T3と、前記計量手段が前記支持体の幅方向の一部より離れた後、幅方向の略全部より離れるのに要する時間T4と、の関係を、T2−T4≧Tl+T3となるように制御することを特徴とする塗布方法を提供する。
請求項2に係る本発明によれば、上記式の関係より、塗布手段により支持体に塗布された塗布層の末端部分が計量手段を通過し、この部分の過剰分の塗布液が掻き落された後に、計量手段が待機位置に移動している。したがって、塗布層の末端部分が厚塗り状態となる不具合を防ぐことができる。
特に、計量手段の箇所において支持体が水平状態より傾斜しており、所定の時間T4を生じていても、上記式の関係より不具合を防ぐことができる。
請求項3に係る本発明は、連続走行する帯状可撓性の支持体に塗布手段によって過剰の塗布液を塗布し、次いで計量手段によって過剰分の塗布液を掻き落して所望の厚さに計量した塗布層を形成する塗布方法であって、塗布開始の前には前記塗布手段及び前記計量手段を前記支持体より離れた待機位置に配しておき、塗布開始の際に前記塗布手段及び前記計量手段を前記支持体に接する塗布位置に同一の移動手段によって同時に移動させる方法において、前記移動手段の移動速度vと、前記支持体の走行速度Vと、前記塗布手段が前
記待機位置から移動し前記支持体に接するまでの距離I1と、前記計量手段が前記待機位置から移動し前記支持体に接するまでの距離I2と、前記塗布手段から前記計量手段までの前記支持体の長さI3と、前記計量手段が前記支持体の幅方向の一部に接した後、幅方向の略全部に接するまでの距離I4と、の関係を、I2+I4≦I1+I3・v/Vとなるように制御することを特徴とする塗布方法を提供する。
請求項3に係る本発明によれば、上記式の関係より、塗布手段により支持体に塗布された塗布層の先端部分が計量手段に到達する前に、計量手段が過剰分の塗布液を掻き落せる状態の塗布位置(掻き落し位置)に移動している。したがって、塗布層の先端部分が厚塗り状態となる不具合を防ぐことができる。
特に、計量手段の箇所において支持体が水平状態より傾斜しており、所定の距離I4を生じていても、上記式の関係より不具合を防ぐことができる。
請求項4に係る本発明は、連続走行する帯状可撓性の支持体に塗布手段によって過剰の塗布液を塗布し、次いで計量手段によって過剰分の塗布液を掻き落して所望の厚さに計量した塗布層を形成する塗布方法であって、塗布終了の際に前記塗布手段及び前記計量手段を前記支持体に接する塗布位置から前記支持体より離れた待機位置に同一の移動手段によって同時に移動させる方法において、前記移動手段の移動速度vと、前記支持体の走行速度Vと、前記塗布手段が前記塗布位置から移動し前記支持体と離れるまでの距離L1と、前記計量手段が前記塗布位置から移動し前記支持体の幅方向の略全部より離れるまでの距離L2と、前記塗布手段から前記計量手段までの前記支持体の長さL3と、前記計量手段が前記支持体の幅方向の一部より離れた後、幅方向の略全部より離れるまでの距離L4と、の関係を、L2−L4≧Ll+L3・v/Vとなるように制御することを特徴とする塗布方法を提供する。
請求項4に係る本発明によれば、上記式の関係より、塗布手段により支持体に塗布された塗布層の末端部分が計量手段を通過し、この部分の過剰分の塗布液が掻き落された後に、計量手段が待機位置に移動している。したがって、塗布層の末端部分が厚塗り状態となる不具合を防ぐことができる。
特に、計量手段の箇所において支持体が水平状態より傾斜しており、所定の距離L4を生じていても、上記式の関係より不具合を防ぐことができる。
請求項5に係る本発明は、連続走行する帯状可撓性の支持体に塗布手段によって過剰の塗布液を塗布し、次いで計量手段によって過剰分の塗布液を掻き落して所望の厚さに計量した塗布層を形成する塗布方法であって、塗布開始の前には前記塗布手段及び前記計量手段を前記支持体より離れた待機位置に配しておき、塗布開始の際に前記塗布手段及び前記計量手段を前記支持体に接する塗布位置に個別の移動手段によってそれぞれ移動させる方法において、前記塗布手段の移動速度v1と、前記計量手段の移動速度v2と、前記支持体の走行速度V3と、前記塗布手段が前記待機位置から移動し前記支持体に接するまでの
距離I1と、前記計量手段が前記待機位置から移動し前記支持体の幅方向の一部に接するまでの距離I2と、前記塗布手段から前記計量手段までの前記支持体の長さI3と、前記計量手段が前記支持体の幅方向の一部に接した後、幅方向の略全部に接するまでの距離I4と、の関係を、(I2+I4)/v2≦Il/vl+I3/V3となるように制御することを特徴とする塗布方法を提供する。
請求項5に係る本発明によれば、上記式の関係より、塗布手段により支持体に塗布された塗布層の先端部分が計量手段に到達する前に、計量手段が過剰分の塗布液を掻き落せる状態の塗布位置(掻き落し位置)に移動している。したがって、塗布層の先端部分が厚塗り状態となる不具合を防ぐことができる。
特に、計量手段の箇所において支持体が水平状態より傾斜しており、所定の距離I4を生じていても、上記式の関係より不具合を防ぐことができる。
請求項6に係る本発明は、連続走行する帯状可撓性の支持体に塗布手段によって過剰の塗布液を塗布し、次いで計量手段によって過剰分の塗布液を掻き落して所望の厚さに計量した塗布層を形成する塗布方法であって、塗布終了の際に前記塗布手段及び前記計量手段を前記支持体に接する塗布位置から前記支持体より離れた待機位置に個別の移動手段によってそれぞれ移動させる方法において、前記塗布手段の移動速度v1と、前記計量手段の移動速度v2と、前記支持体の走行速度V3と、前記塗布手段が前記塗布位置から移動し前記支持体と離れるまでの距離L1と、前記計量手段が前記塗布位置から移動し前記支持体の幅方向の略全部より離れるまでの距離L2と、前記塗布手段から前記計量手段までの前記支持体の長さL3と、前記計量手段が前記支持体の幅方向の一部より離れた後、幅方向の略全部より離れるまでの距離L4と、の関係を、(L2−L4)/v2≧Ll/vl+L3/V3となるように制御することを特徴とする塗布方法を提供する。
請求項6に係る本発明によれば、上記式の関係より、塗布手段により支持体に塗布された塗布層の末端部分が計量手段を通過し、この部分の過剰分の塗布液が掻き落された後に、計量手段が待機位置に移動している。したがって、塗布層の末端部分が厚塗り状態となる不具合を防ぐことができる。
特に、計量手段の箇所において支持体が水平状態より傾斜しており、所定の距離L4を生じていても、上記式の関係より不具合を防ぐことができる。
以上説明したように、本発明によれば、塗布手段により支持体に塗布された塗布層の先端部分が計量手段に到達する前に、計量手段が過剰分の塗布液を掻き落せる状態の塗布位置(掻き落し位置)に移動している。したがって、塗布層の先端部分が厚塗り状態となる不具合を防ぐことができる。特に、計量手段の箇所において支持体が水平状態より傾斜していても、不具合を防ぐことができる。
また、本発明によれば、塗布手段により支持体に塗布された塗布層の末端部分が計量手段を通過し、この部分の過剰分の塗布液が掻き落された後に、計量手段が待機位置に移動している。したがって、塗布層の末端部分が厚塗り状態となる不具合を防ぐことができる。特に、計量手段の箇所において支持体が水平状態より傾斜していても、不具合を防ぐことができる。
以下、添付図面に基づいて、本発明の各実施態様について説明する。図1は、本発明の第1の実施態様であり、本発明に適用される塗布方法が適用される塗布ライン10の要部の構成を説明する斜視図である。
この塗布ライン10において、ウェブWが巻回されたロール等よりなる送り出し機(図示略)より送り出されるウェブWは、複数のガイドローラG、G…によってガイドされて、塗布手段であるエクストルージョン方式の塗布装置の塗布ヘッド12によって過剰の塗布液が塗布され、次いで計量手段(metering system )であるバー塗布装置の塗布ヘッド14によって過剰分の塗布液が掻き落され、所望の厚さの塗布層が形成され、その後、乾燥手段等の後工程を経て、巻き取りロール等よりなる巻取り機(図示略)により、塗布層が形成されたウェブWが巻き取られるようになっている。
図2は、塗布ヘッド12の一部を切断して示す斜視図であり、図3は、塗布ヘッド12の先端部分とウェブWとの位置関係を示す概略断面図である。
図2及び図3に示されるように、塗布ヘッド12には、塗布液を供給できるような下記の液供給系が設けられている。すなわち、塗布ヘッド12の本体16には、長手方向(ウェブWの幅方向)に延びた液溜め部18と、液溜め部18と連通するとともに、長手方向(ウェブWの幅方向)においてウェブWと対向し、開口部より塗布液を塗出するスリット20と、液溜め部18へ塗布液を供給する液供給口22と、液溜め部18から塗布液を引き抜く液排出口24と、を備えている。
液溜め部18は、「ポケット」又は「マニホールド」とも称され、その断面が略円形をなし、図2に示されるように、ウェブWの幅方向に略同一の断面形状をもって延長された液溜め機能を有する空洞部である。その有効長さは、通常、塗布幅と同等又は若干長く設定される。液溜め部18の貫通した両端開口部は、図2に示されるように、本体16の両端部に取付けられる閉鎖板26、28により閉止されている。なお、既述の液供給口22は閉鎖板26に、液排出口24は閉鎖板28にそれぞれ設けられている。
スリット20は、液溜め部18からウェブWに向け、通常、0. 01〜0. 5mmの開口幅をもって塗布ヘッド12の本体16内部を貫通し、かつ液溜め部18と同じようにウェブWの幅方向に延長された比較的狭隘な流路であり、ウェブWの幅方向の開口長さは塗布幅と略同等に設定される。なお、スリット20におけるウェブWに向けた流路の長さは、塗布液の液組成、物性、供給流量、供給液圧、等の諸条件を考慮して適宜設定し得る。すなわち、塗布液がウェブWの幅方向に均一な流量と液圧分布をもって層流状にスリット20から供給できればよい。
次に、塗布ヘッド12の先端部分について、図3を参照しながら説明する。スリット20は、塗布ヘッド12の本体16(図2参照)のフロントエッジ30とバックエッジ32とにより形成される。塗布ヘッド12の本体16の上面(ウェブWと対向する面)には、上流側より、フロントエッジ面30a、バックエッジ面32aがそれぞれ形成されている。
図3に示されるように、フロントエッジ面30aは断面が略直線状に、バックエッジ面32aは、断面が山型に形成されている。また、フロントエッジ面30aの後端エッジ部30bとバックエッジ面32aの先端エッジ部32bとには所定の段差が設けられ、塗布液Fの所定厚さの膜が形成できるようになっている。
なお、図2に示されるフロントエッジ面30a、バックエッジ面32aの断面形状は一例であり、他の断面形状、たとえば円弧状、放物線状等、各種の形状が採用できる。
スリット20の、液溜め部18との境界部から開口部までの距離(ウェブWに向けた流路の長さ)は、スリット20のウェブWの幅方向の開口長さ、塗布液の液組成、物性、供給流量、供給液圧、等の諸条件により異なるが、スリット20のウェブWの幅方向の開口長さが1000〜1200mm程度の場合には30〜80mmの範囲が好ましく採用できる。
図4に示されるように、バー塗布装置の塗布ヘッド14は、一対のガイドローラG3、G4でガイドされて走行するウェブWに対して、塗工用バー36を備えた塗布ヘッド14で塗布液を塗布する装置である。一対のガイドローラG3、G4は、ウェブWが塗工用バー36に近接走行するように配置されている。
塗布ヘッド14は主として、塗工用バー36、バックアップ部材38、コーターブロック40、42で構成され、塗工用バー36は、バックアップ部材38に回動自在に支持されている。バックアップ部材38と各コーターブロック40、42との間には、マニホールド44、46及びスロット48、50が形成され、各マニホールド44、46に塗布液Fが供給される。
各マニホールド44、46に供給された塗布液Fは、狭隘なスロット48、50を介してウェブ幅方向で均一に押し出される。これにより、塗工用バー36に対してウェブWの送り方向の上流側(以下、「1次側」という)に1次側塗布ビード52が形成され、下流側(以下「2次側」という)に2次側塗布ビード54が形成される。これらの塗布ビード52、54を介して、走行するウェブWに塗布液が塗布される。
ただし、本塗布装置においては、ウェブWに余剰の塗布液が塗布された状態で塗布ヘッド14に到達することとなる。したがって、塗工用バー36とウェブWとの間隔が適正に制御されることにより、過剰分の塗布液Fが掻き落され、ウェブWに所望の厚さの塗布層が形成されることとなる。
そして、マニホールド44、46から過剰に供給された塗布液Fは各コーターブロック40、42とウェブWとの間からオーバーフローし、図示しない側溝を介して回収される。同様に、塗布ヘッド12(図2、図3参照)によって過剰に塗布された塗布液Fも、この部分で回収される。なお、マニホールド44、46への塗布液Fの供給はマニホールド44、46の中央部から行なっても、又は端部から行なってもよい。
塗工用バー36は、図5に示されるように、丸棒状のロッド60にワイヤ62を螺旋状に密着巻回して形成されたワイヤ列64を備えており、このワイヤ列64に塗布液Fを保持させることにより、走行するウェブWに塗布液を転移塗布できるようになっている。
なお、塗布ヘッド14は、単独で使用する場合には、走行するウェブWに塗布液を転移塗布するために用いられるが、本実施形態においては、塗布ヘッド12(図2、図3参照)によって過剰に塗布された塗布液Fを塗工用バー36によって計量して所定膜厚の塗布層を形成するために用いられ、また、マニホールド44、46より供給される塗布液Fは、塗工用バー36の乾燥を防止する目的にも使用される。すなわち、塗工用バー36が乾燥すると、塗布スジ等の欠点を生じ易く、これを防止する必要がある。
塗工用バー36を構成するロッド60及びワイヤ62の材質としては、ステンレスをはじめとする各種金属が使用可能であり、塗布液を汚染させず、強度的に満足するものであればよい。また、ロッド60は、2〜15mmの径のものが好適に使用される。
一方、ワイヤ62は、真円度が2μm以下のものが使用される。具体的には、ワイヤ62の単位断面積(仮想真円)に対し、欠損や突起等の不整部分の面積の割合が小さいもの(たとえば0.5%以下のもの)を使用することが好ましい。上記のように構成された塗工用バー36は、図4に示されるように、ウェブWの搬送方向に対して順転又は逆転される。
なお、塗工用バー36として、図5に示されるようなワイヤ列64を備えていない、単に丸棒状のロッド60のみのもの(いわゆる、フラットロッド)、円柱の外周面に溝を刻設した溝付きロッド等も使用できる。
塗布ヘッド12及び塗布ヘッド14の昇降は、各種の1軸駆動手段により行える。このような1軸駆動手段としては、エアシリンダ、油圧シリンダ、リニアモータ、超音波モータ、ねじ部材とモータの組み合わせ(たとえば、ボールねじとステッピングモータとの組み合わせ)等、公知の各種手段が採用できる。
すなわち、1軸駆動手段としては、塗布ヘッド12及び塗布ヘッド14とを、待機位置と塗布位置に確実に移動させ得る手段であればよい。なお、図1に実線で示されている塗布ヘッド12及び塗布ヘッド14は待機位置にあり、破線で示されている塗布ヘッド12及び塗布ヘッド14は、待機位置より塗布位置に移動中の状態で、それぞれの先端がウェブWに接する前の状態を示している。
その後、図1の破線の状態から、更に塗布ヘッド12及び塗布ヘッド14が上昇し、塗布位置まで移動して停止する。
なお、1軸駆動手段に加えて、塗布ヘッド12及び塗布ヘッド14の停止位置を確実にするためのストッパや、塗布ヘッド12及び塗布ヘッド14の位置を検出する位置センサーを設けることもできる。
次に、本発明に使用される各種材料について説明する。ウェブWとしては、樹脂フィルム、紙(レジンコーティッド紙、合成紙、等)、金属箔(アルミニウムウェブ等)等を使用できる。樹脂フィルムの材質としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ酢酸ビニル、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリアミド、PET(ポリエチレンテレフタレート)、二軸延伸を行ったポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアミドイミド、ポリイミド、芳香族ポリアミド、セルローストリアセテート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースダイアセテート等の公知のものが使用できる。これらのうち、特にポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアミドが好ましく使用できる。
ウェブWの幅としては、0. 1〜3mが、ウェブWの長さとしては、1000〜100000mが、ウェブWの厚さとしては、0. 5〜100μmのものがそれぞれ一般的に採用される。ただし、これ以外のサイズの適用も妨げられるものではない。
これらのウェブWは、あらかじめコロナ放電、プラズマ処理、易接着処理、熱処理、除塵処理などを行っておいてもよい。ウェブWの表面粗さRaはカットオフ値0.25mmにおいて3〜10nmが好ましい。
また、ウェブWには、あらかじめ接着層等の下地層を設け乾燥硬化させたもの、裏面に他の機能層があらかじめ形成されたもの、等を用いてもよい。
塗布液の液組成としては、目的に応じて公知の各種の組成が選択できる。
磁性体を含む塗布液を使用し、磁性層を形成する場合には、磁性層に使用する強磁性粉末としては、特に制限されるべきものではないが、α−Feを主成分とする強磁性金属粉末、六方晶フェライト粉末が好ましい。
磁性体を含まない塗布液を使用し、非磁性層を形成する場合には、塗布液に含まれる非磁性の構成は制限されないが、通常、少なくとも樹脂からなり、好ましくは、粉体、たとえば、無機粉末又は有機粉末が樹脂中に分散されたものが挙げられる。
次に、図1に示される塗布ライン10を使用した塗布方法について説明する。先ず、塗布開始の前には塗布ヘッド12及び塗布ヘッド14をウェブWより離れた待機位置に配しておく(図1に実線で示される状態)。
塗布開始のタイミングは、塗布終了後のロールのウェブWと、新しいロールのウェブWとの接合部が塗布ヘッド12を通過した直後に、ウェブWと塗布ヘッド12の先端とが接するような状態が好ましく、このように、塗布ヘッド12を上昇させる。
そして、塗布ヘッド12が待機位置から塗布位置に向けて移動を開始してから、塗布ヘッド12がウェブWに接するのに要する時間tlと、塗布ヘッド14が待機位置から塗布位置に向けて移動を開始してから、塗布ヘッド14がウェブWの幅方向の一部に接するのに要する時間t2と、ウェブWが塗布ヘッド12から塗布ヘッド14に移動するのに要する時間t3と、塗布ヘッド14がウェブWの幅方向の一部に接した後、幅方向の略全部に接するのに要する時間t4と、の関係を、t2+t4≦tl+t3となるように調整する。
このように調整することにより、塗布ヘッド12によりウェブWに塗布された塗布層の先端部分が塗布ヘッド14に到達する前に、塗布ヘッド14が過剰分の塗布液を掻き落せる状態の塗布位置(掻き落し位置)に移動している。したがって、塗布層の先端部分が厚塗り状態となる不具合を防ぐことができる。
特に、塗布ヘッド14の箇所においてウェブWが水平状態より傾斜しており、所定の時間t4を生じていても、上記式の関係より不具合を防ぐことができる。
次に、本発明の第2の実施態様について説明する。図6は、本発明の第2の実施態様であり、本発明に適用される塗布方法が適用される塗布ライン10’の要部の構成を説明する斜視図である。なお、図1と同一、類似の部材については、同様の符号を附し、その説明を省略する。
本実施態様において、図1の第1実施態様と相違する点は、塗布ヘッド12と塗布ヘッド14とが同一の架台70に固定されており、同一の移動手段(1軸駆動手段)によって同時に移動される構成である。
次に、図6に示される塗布ライン10’を使用した塗布方法について説明する。ただし、塗布開始の前の状態、及び塗布開始のタイミングは、第1実施態様と同様である。
そして、架台70の移動速度v(塗布ヘッド12及び塗布ヘッド14の移動速度でもある)と、ウェブWの走行速度Vと、塗布ヘッド12が待機位置から移動しウェブWと接す
るまでの距離I1と、塗布ヘッド14が待機位置から移動しウェブWと接するまでの距離I2と、塗布ヘッド12から塗布ヘッド14までのウェブWの長さI3と、塗布ヘッド14に接するウェブWの幅方向両端部の高低差I4、すなわち、塗布ヘッド14がウェブWの幅方向の一部に接した後、幅方向の略全部に接するまでの距離I4と、の関係を、I2+I4≦I1+I3・v/Vとなるように調整する。
このように調整することにより、塗布ヘッド12によりウェブWに塗布された塗布層の先端部分が塗布ヘッド14に到達する前に、塗布ヘッド14が過剰分の塗布液を掻き落せる状態の塗布位置(掻き落し位置)に移動している。したがって、塗布層の先端部分が厚塗り状態となる不具合を防ぐことができる。
特に、塗布ヘッド14の箇所においてウェブWが水平状態より傾斜しており、所定の高低差I4を生じていても、上記式の関係より不具合を防ぐことができる。
次に、本発明の第3の実施態様について説明する。図7は、本発明の第3の実施態様であり、本発明に適用される塗布方法が適用される塗布ライン10の要部の構成を説明する斜視図である。なお、図1と同一の部材については、同じ符号を附し、その説明を省略する。
本実施態様において、図1の第1実施態様と構成は同一であり、第1実施態様と相違する点は、塗布ヘッド12と塗布ヘッド14との移動を表示する方法である。すなわち、第1実施態様では、塗布ヘッド12と塗布ヘッド14の移動に要する時間を表示しており、本実施態様では、塗布ヘッド12と塗布ヘッド14の移動に要する距離を表示している。
次に、図7に示される塗布ライン10を使用した塗布方法について説明する。ただし、塗布開始の前の状態、及び塗布開始のタイミングは、第1及び第2実施態様と同様である。
そして、塗布ヘッド12の移動速度v1と、塗布ヘッド14の移動速度v2と、ウェブWの走行速度V3と、塗布ヘッド12が待機位置から移動しウェブWと接するまでの距離
I1と、塗布ヘッド14が待機位置から移動しウェブWの幅方向の一部と接するまでの距離I2と、塗布ヘッド12から塗布ヘッド14までのウェブWの長さI3と、塗布ヘッド14がウェブWの幅方向の一部に接した後、幅方向の略全部に接するまでの距離I4と、の関係を、(I2+I4)/v2≦Il/vl+I3/V3となるように調整する。
このように調整することにより、塗布ヘッド12によりウェブWに塗布された塗布層の先端部分が塗布ヘッド14に到達する前に、塗布ヘッド14が過剰分の塗布液を掻き落せる状態の塗布位置(掻き落し位置)に移動している。したがって、塗布層の先端部分が厚塗り状態となる不具合を防ぐことができる。
特に、塗布ヘッド14の箇所においてウェブWが水平状態より傾斜しており、所定の距離I4を生じていても、上記式の関係より不具合を防ぐことができる。
次に、本発明の第4の実施態様について説明する。図8は、本発明の第4の実施態様であり、本発明に適用される塗布方法が適用される塗布ライン10の要部の構成を説明する斜視図である。なお、図1と同一の部材については、同じ符号を附し、その説明を省略する。
本実施態様において、図1の第1実施態様と構成は同一であり、第1実施態様と相違する点は、塗布ヘッド12と塗布ヘッド14との移動する態様である。すなわち、第1実施態様は、塗布開始の状態の実施態様であり、本実施態様は、塗布終了の状態の実施態様である。
図8において、実線で示されている塗布ヘッド12及び塗布ヘッド14は塗布位置にあり、破線で示されている塗布ヘッド12及び塗布ヘッド14は、塗布位置より待機位置に移動中の状態で、それぞれの先端がウェブWから離れた状態を示している。その後、更に塗布ヘッド12及び塗布ヘッド14が下降し、待機位置まで移動して停止する。
次に、図8に示される塗布ライン10を使用した塗布方法について説明する。塗布終了のタイミングは、塗布終了後のロールのウェブWと、新しいロールのウェブWとの接合部が塗布ヘッド12及び塗布ヘッド14を通過する前に、ウェブWと塗布ヘッド12及び塗布ヘッド14の先端とが離れているような状態が好ましく、このように、塗布ヘッド12及び塗布ヘッド14を下降させる。
そして、塗布ヘッド12が塗布位置から待機位置に向けて移動を開始してから、塗布ヘッド12がウェブWより離れるのに要する時間Tlと、塗布ヘッド14が塗布位置から待機位置に向けて移動を開始してから、塗布ヘッド14がウェブWの幅方向の略全部より離れるのに要する時間T2と、ウェブWが塗布ヘッド12から塗布ヘッド14に移動するのに要する時間T3と、塗布ヘッド14がウェブWの幅方向の一部より離れた後、幅方向の略全部より離れるのに要する時間T4と、の関係を、T2−T4≧Tl+T3となるように調整する。
このように調整することにより、塗布ヘッド12によりウェブWに塗布された塗布層の末端部分が塗布ヘッド14を通過し、この部分の過剰分の塗布液が掻き落された後に、塗布ヘッド14が待機位置に移動している。したがって、塗布層の末端部分が厚塗り状態となる不具合を防ぐことができる。
特に、塗布ヘッド14の箇所においてウェブWが水平状態より傾斜しており、所定の時間T4を生じていても、上記式の関係より不具合を防ぐことができる。
次に、本発明の第5の実施態様について説明する。図9は、本発明の第5の実施態様であり、本発明に適用される塗布方法が適用される塗布ライン10’の要部の構成を説明する斜視図である。なお、図2と同一の部材については、同一の符号を附し、その説明を省略する。
本実施態様において、図6の第2実施態様と構成は同一であり、第2実施態様と相違する点は、塗布ヘッド12と塗布ヘッド14との移動する態様である。すなわち、第2実施態様は、塗布開始の状態の実施態様であり、本実施態様は、塗布終了の状態の実施態様である。
図9において、実線で示されている塗布ヘッド12及び塗布ヘッド14は塗布位置にあり、破線で示されている塗布ヘッド12及び塗布ヘッド14は、塗布位置より待機位置に移動中の状態で、それぞれの先端がウェブWから離れた状態を示している。
次に、図9に示される塗布ライン10’を使用した塗布方法について説明する。ただし、塗布終了の前の状態、及び塗布終了のタイミングは、第4実施態様と同様である。
そして、架台70の移動速度v(塗布ヘッド12及び塗布ヘッド14の移動速度でもある)と、ウェブWの走行速度Vと、塗布ヘッド12が塗布位置から移動しウェブWと離れ
るまでの距離L1と、塗布ヘッド14が塗布位置から移動しウェブWの幅方向の略全部より離れるまでの距離L2と、塗布ヘッド12から塗布ヘッド14までのウェブWの長さL3と、塗布ヘッド14がウェブWの幅方向の一部より離れた後、幅方向の略全部より離れるまでの距離L4と、の関係を、L2−L4≧Ll+L3・v/Vとなるように調整する。
このように調整することにより、塗布ヘッド12によりウェブWに塗布された塗布層の末端部分が塗布ヘッド14を通過し、この部分の過剰分の塗布液が掻き落された後に、塗布ヘッド14が待機位置に移動している。したがって、塗布層の末端部分が厚塗り状態となる不具合を防ぐことができる。
特に、塗布ヘッド14の箇所においてウェブWが水平状態より傾斜しており、所定の距離L4を生じていても、上記式の関係より不具合を防ぐことができる。
次に、本発明の第6の実施態様について説明する。図10は、本発明の第6の実施態様であり、本発明に適用される塗布方法が適用される塗布ライン10の要部の構成を説明する斜視図である。なお、図8と同一の部材については、同じ符号を附し、その説明を省略する。
本実施態様において、図8の第4実施態様と構成は同一であり、第4実施態様と相違する点は、塗布ヘッド12と塗布ヘッド14との移動を表示する方法である。すなわち、第4実施態様では、塗布ヘッド12と塗布ヘッド14の移動に要する時間を表示しており、本実施態様では、塗布ヘッド12と塗布ヘッド14の移動に要する距離を表示している。
次に、図10に示される塗布ライン10を使用した塗布方法について説明する。ただし、塗布終了の前の状態、及び塗布終了のタイミングは、第4及び第5実施態様と同様である。
そして、塗布ヘッド12の移動速度v1と、塗布ヘッド14の移動速度v2と、ウェブWの走行速度V3と、塗布ヘッド12が塗布位置から移動しウェブWと離れるまでの距離
L1と、塗布ヘッド14が塗布位置から移動しウェブWの幅方向の略全部より離れるまでの距離L2と、塗布ヘッド12から塗布ヘッド14までのウェブWの長さL3と、塗布ヘッド14がウェブWの幅方向の一部より離れた後、幅方向の略全部より離れるまでの距離L4と、の関係を、(L2−L4)/v2≧Ll/vl+L3/V3となるように調整する。
このように調整することにより、塗布ヘッド12によりウェブWに塗布された塗布層の末端部分が塗布ヘッド14を通過し、この部分の過剰分の塗布液が掻き落された後に、塗布ヘッド14が待機位置に移動している。したがって、塗布層の末端部分が厚塗り状態となる不具合を防ぐことができる。
特に、塗布ヘッド14の箇所においてウェブWが水平状態より傾斜しており、所定の距離L4を生じていても、上記式の関係より不具合を防ぐことができる。
以上、本発明に係る塗布方法の実施形態の例について説明したが、本発明は上記実施形態の例に限定されるものではなく、各種の態様が採り得る。
たとえば、本実施形態の例では、図2及び図3に示されるエクストルージョン塗布方法を採用したが、このような塗布方法に限らず、各種の態様、たとえば、グラビアコート方法、ロールコート方法、ディップコート方法、スライドコート方法、バーコート方法、カーテンコート方法等も採用できる。
また、本実施形態では、塗布ヘッド12及び塗布ヘッド14が移動手段により上下に移動する態様が採用されているが、塗布ヘッド12及び塗布ヘッド14を固定し、ウェブWが巻き掛けられている一対のガイドローラGを上下に移動させる態様も採用できる。
磁性層用の塗布液を塗布した後に、この塗布膜を乾燥させたウェブWのロールを準備した。ウェブWのベースとして、幅800mm、厚さ9μmのPET(ポリエチレンテレフタレート)を使用した。ウェブWの走行速度を160m/分とした。ウェブWの塗布膜(磁性層)上に塗布ヘッド(塗布手段)12及び塗布ヘッド(計量手段)14により、下記のバックコート液を乾燥後の厚さが0.5μmになるように塗布した。
バックコート液の処方を以下に示す。なお、「部」の表示は「重量部」 を意味する。
(バックコート液の原液)
・カーボンブラック 100部
平均粒径17μm
BET法による比表面積 220m2 /g
・ニトロセルロース RSl/2 100部
・ポリエステルポリウレタン 30部
・メチルエチルケトン 500部
・トルエン 500部
上記のバックコート液の原液を混練/分散させた後、以下の処方でバックコート液を作成した。
・バックコート液の原液 100部
・カーボンブラック 100部
平均粒径250μm
BET法による比表面積12m2 /g
・α−Al2 O3 0.1部
平均粒径0.2μm
[実施例1]
本実施例は、塗布開始の状態の実施態様である。
図11は、実施例1の構成を説明する斜視図であり、図7と同様の構成のものである。この塗布ライン10’において、ガイドローラG4は、図7と同様に手前側(Aサイド)より奥側(Bサイド)が高くなるように傾斜して配されている。
この構成においては、ウェブWの塗布始端部において、塗布ヘッド12により過剰に塗布された塗布液が塗布ヘッド14によって掻き落され、所望の厚さの塗布層が形成されるためには、塗布ヘッド14が待機位置から移動してウェブWの全幅に接触するまでの距離(I2+I4)又は時間(t2+t4)を小さくする必要がある。具体的には、
1)塗布ヘッド14の上昇速度vを大きくする。
2)塗布ヘッド14の上下流に設けたガイドローラG3、G4の位置を下げる。
3)塗布ヘッド14の設置位置を高くする。
の手段が考えられる。本実施例1では、このうち簡便に実施が可能な1)を採用して、効果の確認を行った。
図11の構成において、塗布ヘッド12が待機位置から移動しウェブWと接するまでの距離I1を10.0mmに、塗布ヘッド14が待機位置から移動しウェブWの幅方向の一部と接するまでの距離I2を15.0mmに、塗布ヘッド12から塗布ヘッド14までのウェブWの長さI3を250mmに、塗布ヘッド14がウェブWの幅方向の一部に接した後、幅方向の略全部に接するまでの距離I4を5.0mmに、ウェブWの走行速度Vを1
60m/分にそれぞれ設定した。
そして、塗布ヘッド12及び塗布ヘッド14(架台70)の上昇速度vを10〜160mm/秒の範囲で変化させた。
速度vの各条件において、塗布ヘッド14が待機位置から移動しウェブWのAサイドと接するまでに要する時間(単位:秒)t2、塗布ヘッド14がウェブWのAサイドと接した後、ウェブWのBサイドと接するのに要する時間(単位:秒)t4、ウェブWが塗布ヘッド12を通過してから塗布ヘッド14に到達するまでに要する時間(単位:秒)t3、及び、塗布ヘッド12が待機位置から移動しウェブWと接するまでに要する時間(単位:秒)t1をそれぞれ実測した。
そして、t2+t4(単位:秒)である、塗布ヘッド14が待機位置から移動しウェブWのBサイドと接するまでに要する時間、及び、t1+t3(単位:秒)である、塗布ヘッド12が待機位置から移動を開始してから、塗布膜の先端が塗布ヘッド14に到達するまでに要する時間を算出し、更に、(t2+t4)−(t1+t3)を算出した。
同時に、ウェブWのAサイド及びBサイドのそれぞれにおいて、厚塗りの発生の有無を評価した。この評価は、ウェブWの長手方向(走行方向)の塗布膜の厚さ偏差を光学濃度(OD値)測定により行った。そして、定常状態での塗布膜の厚さとの変化の有無を評価した。この評価は、ウェブWの幅方向についても行った。評価結果の判定は、厚塗りの発生が認められた場合を×と、厚塗りの発生が認められなかった場合を○とした。また、塗布ヘッド14より下流のガイドローラGの汚染を目視により評価した。
以上の結果を図12の表に纏めた。この実施例1の結果より、t2+t4≦tl+t3となる条件であれば、ガイドローラGの汚染を防げることが確認された。また、この条件であれば、幅方向のいずれの部分においても、厚塗りを防止できることが確認された。
[実施例2]
本実施例は、塗布終了の状態の実施態様である。
図13は、実施例2の構成を説明する斜視図であり、図10と同様の構成のものである。この塗布ライン10において、ガイドローラG4は、図10と同様に手前側(Aサイド)より奥側(Bサイド)が高くなるように傾斜して配されている。
この構成においては、ウェブWの塗布終端部において、塗布ヘッド12により過剰に塗布された塗布液が塗布ヘッド14によって掻き落され、所望の厚さの塗布層が形成されるためには、塗布ヘッド14が塗布位置から移動してウェブWから離れ始めるまでの距離(L2−L4)又は時間(T2−T4)を大きくする必要がある。具体的には、
1)塗布ヘッド14の下降速度vを小さくする。
2)塗布ヘッド14の上下流に設けたガイドローラG3、G4の位置を下げる。
3)塗布ヘッド14の設置位置を高くする。
の手段が考えられる。本実施例2では、このうち簡便に実施が可能な1)を採用して、効果の確認を行った。
図13の構成において、塗布ヘッド12が定常の塗布位置から移動しウェブWと離れるまでの距離L1を10.0mmに、塗布ヘッド14が定常の塗布位置から移動しウェブWの幅方向の略全部より離れるまでの距離L2を20.0mmに、塗布ヘッド12から塗布ヘッド14までのウェブWの長さL3を250mmに、塗布ヘッド14がウェブWの幅方向の一部より離れた後、幅方向の略全部より離れるまでの距離L4を5.0mmに、ウェブWの走行速度V3を160m/分にそれぞれ設定した。
そして、塗布ヘッド12の下降速度v1及び塗布ヘッド14の下降速度v2を同一の速度vに設定し、この下降速度vを40〜170mm/秒の範囲で変化させた。
速度vの各条件において、塗布ヘッド14が定常塗布位置から移動しウェブWより完全に離れるまでに要する時間、すなわち、ウェブWのAサイドより離れるまでに要する時間(単位:秒)T2、塗布ヘッド14がウェブWのBサイドより離れた後、ウェブWのAサイドより離れるまでに要する時間(単位:秒)T4、ウェブWが塗布ヘッド12を通過してから塗布ヘッド14に到達するまでに要する時間(単位:秒)T3、及び、塗布ヘッド12が定常塗布位置から移動しウェブWより離れるまでに要する時間(単位:秒)T1をそれぞれ実測した。
そして、T2−T4(単位:秒)である、塗布ヘッド14が定常塗布から移動しウェブWのBサイドより離れるまでに要する時間、及び、T1+T3(単位:秒)である、塗布ヘッド12が定常塗布位置から移動を開始してから、塗布膜の終端が塗布ヘッド14に到達するまでに要する時間を算出し、更に、(T2−T4)−(T1+T3)を算出した。
同時に、ウェブWのAサイド及びBサイドのそれぞれにおいて、厚塗りの発生の有無を評価した。この評価は、ウェブWの長手方向(走行方向)の塗布膜の厚さ偏差を光学濃度(OD値)測定により行った。そして、定常状態での塗布膜の厚さとの変化の有無を評価した。この評価は、ウェブWの幅方向についても行った。評価結果の判定は、厚塗りの発生が認められた場合を×と、厚塗りの発生が認められなかった場合を○とした。また、塗布ヘッド14より下流のガイドローラGの汚染を目視により評価した。
以上の結果を図14の表に纏めた。この実施例2の結果より、T2−T4≧Tl+T3となる条件であれば、ガイドローラGの汚染を防げることが確認された。また、この条件であれば、幅方向のいずれの部分においても、厚塗りを防止できることが確認された。