JP2006183137A - 高強度ばね用鋼線 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】 質量%において、C:0.45〜0.7%、Si:1.0〜3.0%、Mn:0.1〜2.0%、P:0.015%以下、S:0.015%以下、N:0.0005〜0.007%、t−O:0.0002〜0.01%、残部が鉄および不可避的不純物を含み、引張強度2000MPa以上、かつ検鏡面に占めるセメンタイト系球状炭化物に関して、円相当径0.2μm以上の占有面積率が7%以下、円相当径0.2〜3μmの存在密度が1個/μm2以下、円相当径3μm超の存在密度が0.001個/μm2以下を満たし、かつ旧オーステナイト粒径番号が10番以上、残留オーステナイトが15質量%以下、円相当径が2μm以上のセメンタイト系炭化物の存在密度が小さい希薄域の面積率が3%以下であることを特徴とする。
【選択図】 なし
Description
C:0.45〜0.7%、
Si:1.0〜3.0%、
Mn:0.1〜2.0%、
P:0.015%以下、
S:0.015%以下、
N:0.0005〜0.007%、
t−O:0.0002〜0.01%
残部が鉄および不可避的不純物を含み、引張強度2000MPa以上、かつ
検鏡面に占めるセメンタイト系球状炭化物および合金系炭化物に関して、
円相当径0.2μm以上の占有面積率が7%以下、
円相当径0.2〜3μmの存在密度が1個/μm2以下、
円相当径3μm超の存在密度が0.001個/μm2以下
を満たし、かつ旧オーステナイト粒度番号が10番以上、残留オーステナイトが15mass%以下、
円相当径が2μm以上のセメンタイト系炭化物の存在密度が小さい希薄域の面積率が3%以下
であることを特徴とするばね用熱処理鋼線。
Cr:0.1〜2.5%、
W:0.05〜0.7%、
Mo:0.05〜0.7%
の1種または2種以上を含むことを特徴とする上記(1)に記載のばね用熱処理鋼線。
Ti:0.001〜0.1%、
V:0.05〜0.7%、
Nb:0.01〜0.05%
の1種または2種を含むことを特徴とする上記(1)または(2)に記載のばね用熱処理鋼線。
Ni:0.05〜3.0%、
Co:0.05〜3.0%、
B:0.0005〜0.006%
の1種または2種を含むことを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれかに記載のばね用熱処理鋼線。
Cu:0.05〜0.5%
を含むことを特徴とする上記(1)〜(4)のいずれかに記載のばね用熱処理鋼線。
Mg:0.0002〜0.01%、
Ca:0.0002〜0.01%、
Zr:0.0002〜0.01%、
Hf:0.0002〜0.01%
の1種または2種以上を含み、かつ
Al≦0.01%
に制限することを特徴とした上記(1)〜(5)のいずれかに記載のばね用熱処理鋼線。
Te:0.0002〜0.01%、
Sb:0.0002〜0.01%
の1種または2種を含むことを特徴とする上記(1)〜(6)のいずれかに記載のばね用熱処理鋼線。
Cは鋼材の基本強度に大きな影響を及ぼす元素であり、従来より十分な強度を得られるように0.45〜0.7%とした。0.45%未満では十分な強度を得られない。特にばね性能向上のための窒化を省略した場合でも十分なばね強度を確保するには0.45%以上のCが必要である。0.7%超では実質過共析となり、粗大セメンタイトを多量に析出するため、靱性を著しく低下させる。このことは同時にコイリング特性を低下させる。
Siはばねの強度、硬度と耐へたり性を確保するために必要な元素であり、少ない場合、必要な強度、耐へたり性が不足するため、1.0%を下限とした。またSiは粒界の炭化物系析出物を球状化、微細化する効果があり、積極的に添加することで粒界析出物の粒界占有面積率を小さくする効果がある。しかし多量に添加しすぎると、材料を硬化させるだけでなく、脆化する。そこで焼入れ焼き戻し後の脆化を防ぐために3.0%を上限とした。
Mnは脱酸や鋼中SをMnSとして固定するとともに、焼入れ性を高めて熱処理後の硬度を十分に得るため、多用される。この安定性を確保するために0.1%を下限とする。またMnによる脆化を防止するために上限を2.0%とした。さらに強度とコイリング性を両立させるには、好ましくは0.3〜1.5%が好ましい。またコイリングを優先させる場合には1.0%以下にすることが有効である。
Pは鋼を硬化させるが、さらに偏析を生じ、材料を脆化させる。特にオーステナイト粒界に偏析したPは衝撃値の低下や水素の侵入により遅れ破壊などを引き起こす。そのため少ない方がよい。そこで脆化傾向が顕著となるP:0.015%以下と制限した。さらに熱処理鋼線の引張強度が2150MPaを超えるような高強度の場合には0.01%未満にすることが好ましい。
SもPと同様に鋼中に存在すると鋼を脆化させる。Mnによって極力その影響を小さくするが、MnSも介在物の形態をとるため、破壊特性は低下する。特に高強度鋼のでは微量のMnSから破壊を生じることもあり、Sも極力少なくすることが望ましい。その悪影響が顕著となる0.015%を上限とした。
Nは鋼中マトリックスを硬化させるが、Ti、Vなどの合金元素が添加されている場合には窒化物を形成し、鋼線の性質に影響を与える。Ti、Nb、Vを添加した鋼では炭窒化物の生成が容易になり、オーステナイト粒微細化のピン止め粒子となる炭化物、窒化物および炭窒化物の析出サイトになりやすい。そのためばね製造までに施される様々な熱処理条件で安定的にピン止め粒子を生成することができ、鋼線のオーステナイト粒径を微細に制御することができる。このような目的から0.0005%以上のNを添加させる。一方、過剰なNは窒化物および窒化物を核として生成した炭窒化物および炭化物の粗大化を招く。Ti、V、Nbなどの窒化物/炭窒化物生成元素を添加する場合には粗大な窒化物/炭窒化物を析出したり、Bを添加するとBNを析出するなどによって、耐破壊特性を損なう。そこでそのような弊害の伴わない0.007%を上限とする。
鋼中には脱酸工程を経て生じた酸化物や固溶したOが存在している。しかし、この合計酸素量(t−O)が多い場合には酸化物系介在物が多いことを意味する。酸化物系介在物の大きさが小さければばね性能に影響しないが、大きい酸化物が大量に存在しているとばね性能に大きな影響を及ぼす。
引張強度が高ければばねの疲労特性が向上する傾向にある。また窒化などの表面硬化処理を施す場合でも、鋼線の基本強度が高ければさらに高い疲労特性やへたり特性を得ることができる。一方、強度が高いとコイリング性が低下し、ばね製造が困難になる。そのため単に強度を向上させるだけでなく、同時にコイリング可能な延性を付与することが重要である。
高強度を得るためにCおよびその他MnTi、V、Nbなどいわゆる合金元素を添加するが、それらのうち窒化物、炭化物、炭窒化物を形成する元素を多量に添加した場合、未溶解炭化物が残留しやすくなる。ここでいう未溶解炭化物とは上記の合金が窒化物、炭化物、炭窒化物を生成したいわゆる合金系炭化物だけではなく、Fe炭化物(セメンタイト)を主成分とするセメンタイト系炭化物を含む。また合金系炭化物も厳密には窒化物との複合炭化物(いわゆる炭窒化物)になるものも多いため、ここではこれら合金系の炭化物、窒化物およびその複合した合金系析出物を総称して合金系炭化物と記す。
円相当径0.2μm以上の占有面積率が7%以下、
円相当径0.2〜3μmの存在密度が1個/μm2以下、
円相当径3μm超の存在密度が0.001個/μm2以下
鋼を焼入れ焼戻ししてから冷間コイリングする場合、炭化物がそのコイリング特性、すなわち破断までの曲げ特性に影響する。これまで高強度を得るためにCだけでなく、Cr、V等の合金元素を多量に添加することが一般的であったが、強度が高すぎて、変形能が不足してがコイリング特性を劣化させる弊害があった。その原因に鋼中に析出している粗大な炭化物が考えられる。
焼戻しマルテンサイト組織を基本とする鋼線では旧オーステナイト粒径は炭化物と並んで鋼線の基本的性質に大きな影響をもつ。すなわち旧オーステナイト粒径が小さい方が疲労特性やコイリング性に優れる。しかし、いくらオーステナイト粒径が小さくとも上記炭化物が規定以上に多く含まれていると、その効果は少ない。一般にオーステナイト粒径を小さくするには加熱温度を低くすることが有効であるが、そのことは逆に上記炭化物を増加させることになる。従って炭化物量と旧オーステナイト粒径のバランスのとれた鋼線に仕上げることが重要である。ここで炭化物が上記規定を満たしている場合について旧オーステナイト粒径番号が10番未満であると十分な疲労特性やコイリング性を得られれないので旧オーステナイト粒径番号10番以上と規定した。
残留オーステナイトは偏析部や旧オーステナイト粒界やサブグレインに挟まれた領域付近に残留することが多い。残留オーステナイトは加工誘起変態によってマルテンサイトとなり、ばね成形時に誘起変態すると材料に局部的な高硬度部が生成され、むしろばねとしてのコイリング特性を低下させる。また最近のばねはショットピーニングやセッチングなど塑性変形による表面強化をおこうが、このように塑性変形を加える工程を複数含む製造工程を有する場合、早い段階で生じた加工誘起マルテンサイトが破壊ひずみを低下させ、加工性や使用中のばねの破壊特性を低下させる。また打ちきず等の工業的に不可避の変形が導入された場合にもコイリング中に容易に折損する。
鋼を様々な熱処理を行い引張強度を2100MPa以上に調整した場合、一般に焼戻しマルテンサイトと呼ばれる転位の多いフェライト素地にセメンタイトが分散した組織となる。しかしセメンタイトの分布は決して均一ではなく、その密度に不均質を生じることが多い。その原因は本発明で規定したC量の鋼を焼き入れた場合、ラスマルテンサイトだけでなく、レンズマルテンサイトが生じ、焼戻し過程における炭化物析出メカニズムが異なることもその一因である。さらに現実の鋼には偏析、バンド組織のような添加元素の不均質も存在していること、残留オーステナイトのように焼入れ過程ではオーステナイトであるが、焼戻し過程でフェライトとセメンタイトに分解する場合もある。したがってセメンタイト生成サイトも様々であるため、均一に分散させることが困難である。
ここで炭化物希薄域の定義についてさらに詳しく述べる。
熱処理後の鋼線を研磨して電解エッチングし、(1)微細な炭化物析出し、周囲に比べて炭化物個数密度が小さい場所と(2)エッチングによって腐食され凹部を形成している場所を現出させる。
通電量はサンプル素材の総表面積に依存し、「資料の総表面積」×0.133 [c/cm2]を通電量とする。埋め込んだ場合でも樹脂中に埋もれたサンプル面の面積も加えてサンプル総表面積を算出する。通電してから10sec保持した後、通電を停止し、洗浄することで容易に走査型電子顕微鏡でセメンタイトなど鋼中炭化物、ミクロ組織を観察することができる。
ちなみにさらに厳密に無視する炭化物希薄域の大きさを円相当径1μm未満とした場合でも希薄域面積率が5%を超えると曲げ加工性が低下する。
一般にばね鋼は連続鋳造後にビレット圧延、線材圧延を経て伸線され、冷間コイリングばねではオイルテンパー処理や高周波処理によって強度を付与する。その際、セメンタイト系炭化物希薄域を抑制するためには材料の局部的な不均質を避け、熱処理組織を均質にすることが重要で、均質かつ適正な焼戻しマルテンサイト組織にすることが重要である。その際、ラスマルテンサイトの焼戻し組織が好ましいことを見出した。
MoおよびWは鋼中で炭化物として析出する。従ってこれらの元素を1種または2種を添加すれば、これら析出物を生成し、焼き戻し軟化抵抗を得ることができ、高温での焼き戻しや工程で入れられるひずみ取り焼鈍や窒化などの熱処理を経ても軟化せず高強度を発揮させることができる。この事は窒化後のばね内部硬度の低下を抑制したり、ホットセッチングやひずみ取り焼鈍を容易にするため、最終的なばねの疲労特性を向上させることとなる。しかしMoおよびWは添加量が多すぎると、それらの析出物が大きくなりすぎ、鋼中炭素と結びついて粗大炭化物を生成する。このことは鋼線の高強度化に寄与すべきC量を減少させ、添加したC量相当の強度が得られなくなる。さらに粗大炭化物が応力集中源となるためコイリング中の変形で折損しやすくなる。また鋼線製造工程、たとえば圧延、パテンチングなどの工程において過冷組織を生じやすくなり、割れや破断の原因になる。
Moは0.05〜0.7%を添加することで焼入れ性を向上させるとともに、焼戻し軟化抵抗を与えることができる。すなわち強度を制御する際の焼戻し温度を高温化させることができる。この点は粒界炭化物の粒界占有面積率を低下させるのに有利である。すなわちフィルム状に析出する粒界炭化物を高温で焼き戻すことで球状化させ、粒界面積率を低減することに効果がある。またMoは鋼中ではセメンタイトとは別にMo系炭化物を生成する。特にV等に比べその析出温度が低いので炭化物の粗大化を抑制する効果がある。その添加量は0.05%未満では効果が認められない。ただしその添加量が多いと、圧延や伸線前の軟化熱処理などで過冷組織を生じ易く、割れや伸線時の断線の原因となりやすい。すなわち、伸線時にはあらかじめ鋼材をパテンチング処理によってフェライト−パーライト組織としてから伸線することが好ましい。しかし、Moが0.7%を超えると、パーライト変態終了までの時間が長くなり、通常のパテンチング設備ではパーライト変態を終了させることができず、鋼材中の不可避的なミクロ偏析部にマルテンサイトの生成を招く。このマルテンサイトは、伸線時に断線の原因になったり、断線せず、内部クラックとして存在した場合には、最終製品の特性を大きく劣化させる。そのためこのマルテンサイト組織の生成を抑制し、工業的に安定して圧延、伸線が可能な0.7%を上限とした。
Crは焼入れ性および焼戻し軟化抵抗を向上させるために有効な元素であるが、添加量が多いとコスト増を招くだけでなく、焼入れ焼戻し後に見られるセメンタイトを粗大化させる。結果として線材は脆化するためにコイリング時に折損を生じやすくする。そこで焼入れ性および焼戻し軟化抵抗の確保のために0.1%を下限とし、脆化が顕著となる2.5%を上限とした。
Vは窒化物、炭化物、炭窒化物を生成するので、それらを直径0.2μm以下の微細に多数析出させるとオーステナイト粒径の粗大化抑制のほかに焼戻し温度での鋼線の硬化や窒化時の表層の硬化に利用することもできる。その添加量は0.05%未満では添加した効果がほとんど認められない。また多量添加は粗大な未固溶介在物を生成し、靱性を低下させるとともに、Moと同様、過冷組織を生じ易く、割れや伸線時の断線の原因となりやすい。そのため工業的に安定した取り扱いが可能な0.7%を上限とした。
Tiは脱酸元素であるとともに窒化物、硫化物生成元素であるため、酸化物および窒化物、硫化物生成に影響する。多量の添加は硬質酸化物、窒化物を生成しやすいために不用意に添加すると硬質炭化物を生成し、疲労耐久性を低下させる。Alと同様に特に高強度ばねにおいてはばねの疲労限度そのものよりも疲労強度のばらつき安定性に関わり、Al量が多いと介在物起因の破断発生率が多くなるため、その量を制御することが需要家から要求される。また硫化物制御の観点から、Zrを添加することで硫化物を微細分散、球状化させるにはTi量が多すぎるとその効果を損なうため、その点からも多量に添加するのは好ましくない。そのため高強度弁ばねに用いる鋼材においては従来よりも抑制する必要があり、0.003%以下に抑制することが好ましい。
Nbは窒化物、炭化物、炭窒化物の生成によるオーステナイト粒径の粗大化抑制のほかに焼戻し温度での鋼線の硬化や窒化時の表層の硬化に利用することもできる。その添加量は0.01%未満では添加した効果がほとんど認められない。また多量添加は粗大な未固溶介在物を生成し、靱性を低下させるとともに、Moと同様、過冷組織を生じ易く、割れや伸線時の断線の原因となりやすい。そのため工業的に安定した取り扱いが容易な0.05%を上限とした。さらに好ましくは0.04%以下である。
Niは焼入れ性を向上させ、熱処理によって安定して高強度化することができる。またマトリックスの延性を向上させてコイリング性を向上させる。しかし焼入れ焼戻しでは残留オーステナイトを増加させるので、ばね成形後にへたりや材質の均一性の点で劣る。その添加量は0.05%未満では高強度化や延性向上に効果が認められない。一方、Niの多量添加は好ましくなく、3.0%超では残留オーステナイトが多くなる弊害が顕著になるとともに、焼入れ性や延性向上効果が飽和し、コスト等の点で不利になる。そこでこれを上限とした。その他コストや熱処理の容易性などを考慮すると0.1〜1.0%がこのましい。
Cuについては、Cuを添加することで脱炭を防止できる。脱炭層はばね加工後に疲労寿命を低下させるため、極力少なくする努力が成されている。また脱炭層が深くなった場合にはピーリングとよばれる皮むき加工によって表層を除去する。またNiと同様に耐食性を向上させる効果もある。脱炭層を抑制することでばねの疲労寿命向上やピーリング工程の省略することができる。Cuの脱炭抑制効果や耐食性向上効果は0.05%以上で発揮することができ、後述するようにNiを添加したとしても0.5%を超えると脆化により圧延きずの原因となりやすい。そこで下限を0.05%、上限を0.5%とした。Cu添加によって室温における機械的性質を損なうことはほとんどないが、Cuを0.3%を超えて添加する場合には熱間延性を劣化させるために圧延時にビレット表面に割れを生じる場合がある。そのため圧延時の割れを防止するNi添加量をCuの添加量に応じて[Cu%]<[Ni%]とすることが好ましい。Cu0.3%以下の範囲では圧延きずが生じないことから、圧延きず防止を目的としてNi添加量を規制する必要がない。
Coは焼入れ性を低下させる場合もあるが、高温強度を向上させることができる。また炭化物の生成を阻害するため、本発明で問題となる粗大な炭化物の生成を抑制する働きがある。したがってセメンタイトを含む炭化物の粗大化を抑制できる。従って、添加することが好ましい。添加する場合、0.05%未満ではその効果が小さい。しかし多量に添加するとフェライト相の硬度が増大し延性を低下させるので、その上限を3.0%とした。
Bは焼入れ性向上元素とオーステナイト粒界の清浄化に効果がある。粒界に偏析して靱性を低下させるP、S等の元素をBを添加することで無害化し、破壊特性を向上させる。その際、BがNと結合してBNを生成するとその効果は失われる。添加量はその効果が明確になる0.0005%を下限とし、効果が飽和する0.006%を上限とした。ただしわずかでもBNが生成すると脆化させるためBNを生成しないよう十分な配慮が必要である。したがって好ましくは0.003以下であり、さらに好ましくはTi、Nb、V等の窒化物生成元素によってフリーのNを固定しておくとともに、製造の容易性を考慮するとB:0.0010〜0.0020%にすることが望ましい。
MgはMnS生成温度よりも高い溶鋼中で酸化物を生成し、MnS生成時には既に溶鋼中に存在している。従ってMnSの析出核として用いることができ、これによりMnSの分布を制御できる。またその個数分布もMg系酸化物は従来鋼に多く見られるSi、Al系酸化物より微細に溶鋼中に分散するため、Mg系酸化物を核としたMnSは鋼中に微細に分散することとなる。従って同じS含有量であってもMgの有無によってMnS分布が異なり、それらを添加する方がMnS粒径はより微細になる。その効果は微量でも十分得られ、Mg0.0002%以上、好ましくは0.0005%以上であればMnSは微細化する。しかし0.01%以上は溶鋼中に残留しにくいため、工業的には0.01%が上限と考えられる。そこでMg添加量を0.0002〜0.01%とした。好ましくは0.0050%以下、さらにばね鋼の場合、他の構造用鋼よりもS添加量を抑制しているため、歩留まり等を考慮すると0.0020%以下が好ましい。また高強度弁ばねに用いる場合には介在物感受性が高いため、さらに少量の0.001%以下、さらには0.0005%以下に抑制することが望ましい。このMgはMnS分布等の効果により、耐食性、遅れ破壊の向上および圧延割れ防止などに効果があり、極力添加する方が望ましいので0.0002〜0.0005%の非常に狭い範囲での添加量制御が好ましい。
Caは酸化物および硫化物生成元素である。ばね鋼においてはMnSを球状化させることで、疲労等の破壊起点としてのMnSの長さを抑制し、無害化することができる。その効果は0.0002%未満では明確ではなく、また0.01%を超えて添加しても歩留まりが悪いばかりか、酸化物やCaSなどの硫化物を生成し、製造上のトラブルやばねの疲労耐久特性を低下させるので0.01%以下とした。この添加量は高強度弁ばねに用いる場合には介在物感受性が高いため、好ましくは0.001%以下であることが好ましい。
Zrは酸化物、硫化物および窒化物生成元素である。ばね鋼においては酸化物を微細に分散するため、Mgと同様、MnSの析出核となる。それにより疲労耐久性を向上させたり、延性を増すことでコイリング性を向上させる。その効果は0.0002%未満では明確ではなく、また0.01%を超えて添加しても歩留まりが悪いばかりか、酸化物やZrN、ZrSなどの窒化物、硫化物を生成し、製造上のトラブルやばねの疲労耐久特性を低下させるので0.01%以下とした。この添加量は好ましくは0.003%以下であることが好ましい。さらに高強度弁ばねに用いる場合には硫化物制御によりコイリング性を向上させる効果もあるため、添加することがこのましいが、介在物寸法への影響を最小限にするために0.0005%以下に抑制することが好ましい。
Hfは酸化物生成元素であり、MnSの析出核となる。そのため微細分散することでZrは酸化物および硫化物生成元素である。ばね鋼においては酸化物を微細に分散するため、Mgと同様、MnSの析出核となる。それにより疲労耐久性を向上させたり、延性を増すことでコイリング性を向上させる。その効果は0.0002%未満では明確ではなく、また0.01%を超えて添加しても歩留まりが悪いばかりか、酸化物やZrN、ZrSなどの窒化物、硫化物を生成し、製造上のトラブルやばねの疲労耐久特性を低下させるので0.01%以下とした。この添加量は好ましくは0.003%以下であることが好ましい。
Alは脱酸元素であり酸化物生成に影響する。硬質酸化物を生成しやすいために不用意に添加すると硬質炭化物を生成し、疲労耐久性を低下させる。特に高強度ばねにおいてはばねの疲労限度そのものよりも疲労強度のばらつき安定性を低下させ、Al量が多いと介在物起因の破断発生率が多くなるため、その量を制御することが需要家から要求される。そのため高強度ばね用鋼材においては従来よりも制限する必要があり、0.01%以下(0%を含む)とする。弁ばねのように高疲労強度を要求する場合には0.005%以下、さらには0.002%以下にすることが好ましい。
TeはMnSを球状化させる効果がある。0.0002%未満ではその効果が明確ではなく、0.01%を超えるとマトリックスの靭性を低下させ、熱間割れを生じた入り、疲労耐久性を低下させたりする弊害が顕著となるため、0.01%を上限とする。
SbはMnSを球状化する効果があり、0.0002%未満ではその効果が明確ではなく、0.01%を超えるとマトリックスの靭性を低下させ、熱間割れを生じた入り、疲労耐久性を低下させたりする弊害が顕著となるため、0.01%を上限とする。
本願発明の発明例1は250t転炉によって精錬したものを連続鋳造によってビレットを作成した。またその他の実施例は2t−真空溶解炉で溶製後、圧延によってビレットを作成した。その際、発明例では1200℃以上の高温に一定時間保定した。その後いずれの場合もビレットからφ8mmに圧延した。
圧延線材は伸線によってφ4mmとした。その際、伸線し易い組織とするために伸線前にパテンチングした。その際、十分に炭化物等が固溶するように900℃以上に加熱することが望ましく、発明例は930〜950℃で加熱し、パテンチングした。一方、比較例68、69は従来の890℃加熱でパテンチングされ伸線に供した。
焼入れ焼戻し処理(オイルテンパー処理)では伸線材を加熱炉を通過させるため、それをシミュレートして、鋼内部温度が十分に加熱されるよう、加熱炉通過時間を設定した。本実施例ではでは輻射炉を用いた焼き入れでは加熱温度950℃、加熱時間300sec、焼入れ温度50℃(オイル槽の実測温度)とした。その冷却時間も5min以上と長く保定した。さらに焼戻し温度400〜500℃、鉛槽を用いて焼戻し時間3minで焼戻し、強度を調整した。その結果得られた大気雰囲気での引張強度は表4〜6中に明記したとおりである。
炭化物の寸法および数の評価は熱処理ままの鋼線の長手方向断面に鏡面まで研磨し、さらにピクリン酸によってわずかにエッチングして炭化物を浮き出させた。光学顕微鏡レベルでは炭化物の寸法測定は困難なため、鋼線の1/2R部を走査型電子顕微鏡で倍率×5000倍にて無作為に10視野の写真を撮影した。走査型電子顕微鏡に取り付けたX線マイクロアナライザーにてその球状炭化物がセメンタイト系球状炭化物であることを確認しつつ、その写真から球状炭化物を画像処理装置を用いて2値化することで、その寸法、数、占有面積を測定した。全測定面積は3088.8μm2である。
引張特性はJIS Z 2201 9号試験片によりJIS Z 2241に準拠して行い、その破断荷重から引張強度を算出した。引張強度は熱処理鋼線の疲労耐久特性に直結することが知られており、コイリング等の加工性を阻害しない範囲で引張強度は高いほうが好ましい。
また合金元素を多量に添加した比較例52〜59では通常の加熱において固溶が不十分なため、未固溶炭化物が多く見られ、コイリング性を確保できなかった。
Claims (7)
- 質量%において、
C:0.45〜0.7%、
Si:1.0〜3.0%、
Mn:0.1〜2.0%、
P:0.015%以下、
S:0.015%以下、
N:0.0005〜0.007%、
t−O:0.0002〜0.01%
残部が鉄および不可避的不純物を含み、引張強度2000MPa以上、かつ
検鏡面に占めるセメンタイト系球状炭化物および合金系炭化物に関して、
円相当径0.2μm以上の占有面積率が7%以下、
円相当径0.2〜3μmの存在密度が1個/μm2以下、
円相当径3μm超の存在密度が0.001個/μm2以下
を満たし、かつ旧オーステナイト粒度番号が10番以上、残留オーステナイトが15mass%以下、
円相当径が2μm以上のセメンタイト系炭化物の存在密度が小さい希薄域の面積率が3%以下
であることを特徴とするばね用熱処理鋼線。 - さらに質量%で、
Cr:0.1〜2.5%、
W:0.05〜0.7%、
Mo:0.05〜0.7%
の1種または2種以上を含むことを特徴とする請求項1に記載のばね用熱処理鋼線。 - さらに質量%で、
Ti:0.001〜0.1%、
V:0.05〜0.7%、
Nb:0.01〜0.05%
の1種または2種を含むことを特徴とする請求項1または2に記載のばね用熱処理鋼線。 - さらに質量%で、
Ni:0.05〜3.0%、
Co:0.05〜3.0%、
B:0.0005〜0.006%
の1種または2種を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のばね用熱処理鋼線。 - さらに質量%で、
Cu:0.05〜0.5%
を含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のばね用熱処理鋼線。 - さらに質量%で、
Mg:0.0002〜0.01%、
Ca:0.0002〜0.01%、
Zr:0.0002〜0.01%、
Hf:0.0002〜0.01%
の1種または2種以上を含み、かつ
Al≦0.01%
に制限することを特徴とした請求項1〜5のいずれかに記載のばね用熱処理鋼線。 - さらに質量%で、
Te:0.0002〜0.01%、
Sb:0.0002〜0.01%
の1種または2種を含むことを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のばね用熱処理鋼線。
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